(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】ブロックイソシアネート組成物及びその製造方法、塗料用硬化剤、塗料組成物、並びに、塗膜
(51)【国際特許分類】
C08G 18/80 20060101AFI20230822BHJP
C08G 18/73 20060101ALI20230822BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230822BHJP
C09D 175/00 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C08G18/80 077
C08G18/73
C09D7/63
C09D175/00
(21)【出願番号】P 2023037806
(22)【出願日】2023-03-10
【審査請求日】2023-04-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】中島 雄次
(72)【発明者】
【氏名】野口 周人
(72)【発明者】
【氏名】池本 満成
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-336372(JP,A)
【文献】特開2004-323803(JP,A)
【文献】特開2007-224202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
C09D 7/63
C09D 175/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックイソシアネート組成物の製造方法であって、
ポリイソシアネートとオキシム系ブロック剤とを混合して反応させる工程を含み、
前記ポリイソシアネートの混合量に対する前記オキシム系ブロック剤の混合量の比が、当量比で、0.91~0.99であ
り、
前記ポリイソシアネートが、炭素数4~6の脂肪族ポリイソシアネート又はその誘導体を含む、ブロックイソシアネート組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ポリイソシアネートの混合量に対する前記オキシム系ブロック剤の混合量の比が、当量比で、0.95~0.99である、請求項1に記載のブロックイソシアネート組成物の製造方法。
【請求項3】
ポリイソシアネートとブロック剤との反応生成物又はその誘導体であるブロックイソシアネートを含み、
前記ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基の総量に対する、前記ブロックイソシアネートに含まれるオキシム系ブロック剤で封鎖されたイソシアネート基の総量の比が、モル比で、0.91~0.99であ
り、
前記ポリイソシアネートが、炭素数4~6の脂肪族ポリイソシアネート又はその誘導体を含む、ブロックイソシアネート組成物。
【請求項4】
前記ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基の総量に対する、前記ブロックイソシアネートに含まれるオキシム系ブロック剤で封鎖されたイソシアネート基の総量の比が、モル比で、0.95~0.99である、請求項
3に記載のブロックイソシアネート組成物。
【請求項5】
前記ブロックイソシアネートが、遊離イソシアネート基を有する、請求項
3に記載のブロックイソシアネート組成物。
【請求項6】
請求項
3~
5のいずれか一項に記載のブロックイソシアネート組成物からなる、塗料用硬化剤。
【請求項7】
主剤成分と、硬化剤成分とを含む塗料組成物であって、
前記硬化剤成分が、請求項
3~
5のいずれか一項に記載のブロックイソシアネート組成物を含む、塗料組成物。
【請求項8】
請求項
7に記載の塗料組成物から形成される、塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロックイソシアネート組成物及びその製造方法、塗料用硬化剤、塗料組成物、並びに、塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料等に使用される組成物の成分として、ポリイソシアネートが知られている。例えば、ポリオールとポリイソシアネートとを組み合わせたポリウレタン樹脂塗料は、非常に優れた耐摩耗性、耐薬品性、耐汚染性を有することが知られている。
【0003】
ポリイソシアネートを硬化剤とする塗料は、一般的には二液型の組成物であり、主剤成分(例えばポリオール)とポリイソシアネートとを別々に貯蔵し塗装時に混合して使用される。しかしながら、一旦混合した塗料は短時間で硬化してしまうため、可使時間が短く、塗装時の作業性の点に課題があった。また、ポリイソシアネートと水とが容易に反応するため、上記塗料を電着塗料のような水性塗料に使用することは不可能であった。
【0004】
これら課題への対処法として、ポリイソシアネートをブロック剤と反応させて不活性化する方法が知られている。この方法で得られるブロックイソシアネートは、常温では主剤成分(ポリオール等)と反応しないが、加熱されることでブロック剤が解離してイソシアネート基を再生し、主剤成分と反応して架橋を形成するものである。このため、上記方法によれば、可使時間が制限されることがなく、予め主剤成分と硬化剤成分とを混合して塗料化しておくことが可能となり、ポリイソシアネートの水性塗料への適用も可能となる。
【0005】
ポリイソシアネートのブロック剤としては、例えば、ラクタム系ブロック剤、オキシム系ブロック剤、フェノール系ブロック剤等が知られている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
塗膜の用途によっては塗料組成物及びその材料であるブロックイソシアネート組成物に高い透明性及び粘度安定性を求められることがあるが、本発明者らの検討の結果、ブロック剤としてオキシム系ブロック剤を使用する場合にブロックイソシアネート組成物が経時的に着色や粘度変化を起こすことが判明した。
【0008】
本発明の一側面は、経時的な着色及び粘度変化を起こし難いブロックイソシアネート組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来、ブロックイソシアネートを合成する際には、ブロックイソシアネート中に遊離イソシアネート基が存在するとブロック化の効果が低減することから、遊離イソシアネート基が残らないようにポリイソシアネートと同当量又は過剰当量のブロック剤を使用していた。驚くべきことに、本発明者らは、上記従来の技術常識に反して、ポリイソシアネートに対するブロック剤の使用量を同当量よりもさらに少なくすることで、ブロック化の効果を十分に担保しつつ、上記経時的な着色の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、少なくとも下記[1]~[10]を提供する。
【0011】
[1]
ブロックイソシアネート組成物の製造方法であって、
ポリイソシアネートとオキシム系ブロック剤とを混合して反応させる工程を含み、
前記ポリイソシアネートの混合量に対する前記オキシム系ブロック剤の混合量の比が、当量比で、0.91~0.99である、ブロックイソシアネート組成物の製造方法。
【0012】
[2]
前記ポリイソシアネートの混合量に対する前記オキシム系ブロック剤の混合量の比が、当量比で、0.95~0.99である、上記[1]に記載のブロックイソシアネート組成物の製造方法。
【0013】
[3]
前記ポリイソシアネートが、炭素数4~6の脂肪族ポリイソシアネート又はその誘導体を含む、上記[1]又は[2]に記載のブロックイソシアネート組成物の製造方法。
【0014】
[4]
ポリイソシアネートとブロック剤との反応生成物又はその誘導体であるブロックイソシアネートを含み、
前記ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基の総量に対する、前記ブロックイソシアネートに含まれるオキシム系ブロック剤で封鎖されたイソシアネート基の総量の比が、モル比で、0.91~0.99である、ブロックイソシアネート組成物。
【0015】
[5]
前記ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基の総量に対する、前記ブロックイソシアネートに含まれるオキシム系ブロック剤で封鎖されたイソシアネート基の総量の比が、モル比で、0.95~0.99である、上記[4]に記載のブロックイソシアネート組成物。
【0016】
[6]
前記ポリイソシアネートが、炭素数4~6の脂肪族ポリイソシアネート又はその誘導体を含む、上記[4]又は[5]に記載のブロックイソシアネート組成物。
【0017】
[7]
前記ブロックイソシアネートが、遊離イソシアネート基を有する、上記[4]~[6]のいずれかに記載のブロックイソシアネート組成物。
【0018】
[8]
上記[4]~[7]のいずれかに記載のブロックイソシアネート組成物からなる、塗料用硬化剤。
【0019】
[9]
主剤成分と、硬化剤成分とを含む塗料組成物であって、
前記硬化剤成分が、上記[4]~[7]のいずれかに記載のブロックイソシアネート組成物を含む、塗料組成物。
【0020】
[10]
上記[9]に記載の塗料組成物から形成される、塗膜。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、経時的な着色及び粘度変化を起こし難いブロックイソシアネート組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の例示的な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。なお、本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、具体的に明示する場合を除き、「~」の前後に記載される数値の単位は同じである。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0023】
<ブロックイソシアネート組成物の製造方法>
本発明の一実施形態は、ポリイソシアネートとオキシム系ブロック剤とを混合して反応させる工程(以下、「ブロック化工程」ともいう。)を含み、ポリイソシアネートの混合量に対するオキシム系ブロック剤の混合量の比が、当量比で、0.91~0.99である、ブロックイソシアネート組成物の製造方法である。なお、上記当量比の算出にあたり、小数点以下第3位の数値は四捨五入するものとする。
【0024】
上記製造方法では、オキシム系ブロック剤がポリイソシアネートと反応することで、ポリイソシアネート中のイソシアネート基がオキシム系ブロック剤により封鎖(ブロック)される。上記製造方法により得られるブロックイソシアネート組成物は、このようにして生成するブロックイソシアネート又はその誘導体を含むものである。
【0025】
上記製造方法により得られるブロックイソシアネート組成物は、経時的な着色及び粘度変化を起こし難い(すなわち、着色耐性及び粘度保持性に優れる)組成物である。この理由は、明らかではないが、本発明者らは次のように推察している。すなわち、ポリイソシアネートと同当量又は過剰当量のブロック剤を使用する従来の方法では、未反応のオキシム系ブロック剤がブロックイソシアネート組成物中に残留し、残留した該ブロック剤が経時的に分解等することにより着色や粘度変化を引き起こすと考えられる。一方、上記実施形態の方法では、ポリイソシアネートの混合量に対するオキシム系ブロック剤の混合量の比が、当量比で、0.99以下であることで、オキシム系ブロック剤が残留しないか又は極めて微量となるため、上記経時的な着色や粘度変化の発生が抑制されると推察される。また、オキシム系ブロック剤とイソシアネート基との反応ではウレタン結合が形成されるため、オキシム系ブロック剤で封鎖されたイソシアネート基は、他のブロック剤(例えば、活性メチレン系ブロック剤、アミン系ブロック剤等)で封鎖されたイソシアネート基よりも、保管温度領域(例えば5~35℃)における安定性が高く、経時によるブロック剤の解離を生じ難いと推察される。そのため、上記製造方法では、ポリイソシアネートの混合量に対するオキシム系ブロック剤の混合量の比を、当量比が、0.91以上であることで、保管温度領域において、ポリイソシアネート中のイソシアネート基の大部分がブロック剤(オキシム系ブロック剤)で封鎖された状態で維持され、結果として経時的な粘度変化が抑制されると推察される。
【0026】
ポリイソシアネートは、イソシアネート基を複数(二つ以上)有する化合物である。なお、上記ブロック化工程で用いられるポリイソシアネートは、ブロック剤により封鎖されたイソシアネート基を有しないポリイソシアネートである。
【0027】
ポリイソシアネートとしては、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート及びそれらのポリイソシアネート誘導体が挙げられる。誘導体としては、例えば、イソシアヌレート体、アロファネート体、ビウレット体等が挙げられる。誘導体は、ポリオール等を変性剤として用いて変性(プレポリマー化)したものであってもよい。また、誘導体は、3級アミノアルコール、ポリ(オキシアルキレン)グリコールモノアルキルエーテル等を変性剤として用いて変性したものであってもよい。ポリイソシアネートとしては、一種のポリイソシアネートを単独で用いてよく、二種以上のポリイソシアネートを用いてもよい。
【0028】
ポリイソシアネートは、ブロックイソシアネート組成物の着色耐性をさらに向上させる観点から、芳香環を有しないことが好ましい。芳香環を有しないポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、2-メチル-ペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチル-ペンタン-1,5-ジイソシアネート、リジントリイソシアネート、トリオキシエチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネート、及び、これらの誘導体などが挙げられる。NCO含有量を高めることができ、塗料中のブロックイソシアネート使用量を削減できる観点では、炭素数4~6の脂肪族ポリイソシアネート又はその誘導体を用いることが好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネート又はその誘導体を用いることがより好ましい。ヘキサメチレンジイソシアネートの誘導体としては、イソシアヌレート体、アロファネート体及びビウレット体が好ましく用いられる。
【0029】
オキシム系ブロック剤としては、ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等が挙げられる。なかでも、メチルエチルケトオキシムは、適正な蒸気圧を有しており、取扱い性に優れる。オキシム系ブロック剤は、一種を単独で用いてよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記当量比(ポリイソシアネートの混合量に対するオキシム系ブロック剤の混合量の比)は、ブロックイソシアネート組成物の粘度保持性をさらに向上させる観点から、0.93以上、0.95以上又は0.97以上であってもよい。上記当量比は、ブロックイソシアネート組成物の着色耐性をさらに向上させる観点から、0.98以下、0.96以下又は0.94以下であってもよい。これらの観点から、上記当量比は、例えば、0.93~0.99、0.95~0.99又は0.97~0.99であってもよく、0.91~0.98、0.91~0.96又は0.91~0.94であってもよい。なお、上当量比は、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基の総量(単位:mol)に対する、オキシム系ブロック剤の総量(単位:mol)の比と言い換えることができる。
【0031】
ブロック化工程では、ポリイソシアネート及びオキシム系ブロック剤に加えて、有機溶剤を用いてもよい。すなわち、ポリイソシアネートとオキシム系ブロック剤との反応を有機溶剤の存在下で行ってもよい。有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。これらの有機溶剤は、一種を単独で用いてよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
ポリイソシアネートとオキシム系ブロック剤との混合及び反応は、通常のブロック化反応の反応条件に従って行うことができる。ポリイソシアネートとオキシム系ブロック剤との混合は、必要に応じて、ポリイソシアネート(又はポリイソシアネートと上記有機溶剤とを含む溶液)に対して、オキシム系ブロック剤を複数回に分けて添加してよい。ポリイソシアネートとオキシム系ブロック剤との反応は、室温(例えば5~35℃)で行ってよく、ポリイソシアネートとオキシム系ブロック剤とを含む混合液を加熱しながら行ってもよい。加熱の有無によらず、反応中の混合液の温度は、例えば、20~200℃であってよい。
【0033】
ポリイソシアネートとオキシム系ブロック剤との反応の終了は、NCO含有量(質量濃度)の測定や、赤外分光スペクトルの測定により確認することができる。
【0034】
ブロック化工程では、ポリイソシアネート及びオキシム系ブロック剤に加えて、オキシム系ブロック剤以外のブロック剤(以下、「他のブロック剤」という。)を混合してもよい。すなわち、ブロックイソシアネート組成物の製造方法は、ポリイソシアネートとオキシム系ブロック剤と他のブロック剤とを混合して反応させる工程を含む方法であってもよい。
【0035】
他のブロック剤としては、例えば、フェノール系、アルコール系、活性メチレン系、メルカプタン系、酸アミド系、酸イミド系、イミダゾール系、尿素系、アミン系、イミド系化合物、ピラゾール系、トリアゾール系等の各種ブロック剤を使用できる。これらのブロック剤の具体例としては、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、ブチルフェノール、2-ヒドロキシピリジン、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、n-ブタノール、イソブタノール、2-エチルヘキサノール、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、アセトアニリド、酢酸アミド、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、コハク酸イミド、マレイン酸イミド、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、ジフェニルアニリン、アニリン、カルバゾール、エチレンイミン、ポリエチレンイミン、3,5-ジメチルピラゾール、1,2,4-トリアゾ-ル等が挙げられる。
【0036】
他のブロック剤は、ポリイソシアネートとオキシム系ブロック剤とを混合して反応させた後に混合されてもよい。すなわち、ブロックイソシアネート組成物の製造方法は、ポリイソシアネートとオキシム系ブロック剤とを混合して反応させる第一のブロック化工程と、第一のブロック化工程で得られた反応生成物と他のブロック剤とを混合して反応させる第二のブロック化工程と、を含む方法であってもよい。
【0037】
上記製造方法で得られるブロックイソシアネート組成物中には、未反応のイソシアネート基(遊離イソシアネート基)を有するポリイソシアネート又はブロックイソシアネートが存在し得るが、上記製造方法は、未反応のイソシアネート基(遊離イソシアネート基)を活性水素基含有化合物等の変性剤(ただし、ブロック剤は除く)と反応させて変性する工程をさらに含んでいてもよい。
【0038】
<ブロックイソシアネート組成物>
本発明の他の一実施形態は、ポリイソシアネートとブロック剤との反応生成物又はその誘導体であるブロックイソシアネートを含み、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基の総量に対する、ブロックイソシアネートに含まれるオキシム系ブロック剤で封鎖されたイソシアネート基の総量の比が、モル比で、0.91~0.99である、ブロックイソシアネート組成物である。
【0039】
上記ブロックイソシアネート組成物は、例えば、上記実施形態の製造方法により得られるブロックイソシアネート組成物であり、上記モル比が0.91~0.99であることから、経時的な着色及び粘度変化を起こし難い組成物である。
【0040】
ポリイソシアネートとブロック剤との反応生成物であるブロックイソシアネートは、例えば、ポリイソシアネートとオキシム系ブロック剤との反応生成物であってよい。該反応生成物は、ポリイソシアネートに由来する構造と、オキシム系ブロック剤で封鎖されたイソシアネート基とを有する。
【0041】
ポリイソシアネートとブロック剤との反応生成物であるブロックイソシアネートは、ポリイソシアネートと、オキシム系ブロック剤と、上述した他のブロック剤(オキシム系ブロック剤以外のブロック剤)との反応生成物であってもよい。該反応生成物は、ポリイソシアネートに由来する構造と、オキシム系ブロック剤で封鎖されたイソシアネート基と、他のブロック剤で封鎖されたイソシアネート基と、を有する。
【0042】
ポリイソシアネート及びブロック剤としては、上記製造方法に使用されるポリイソシアネート及びブロック剤として例示したものを挙げることができ、好ましい例も同じである。例えば、ポリイソシアネートは、炭素数4~6の脂肪族ポリイソシアネート又はその誘導体を含むことが好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネート又はその誘導体を含むことがより好ましい。すなわち、ブロックポリイソシアネートは、炭素数4~6の脂肪族ポリイソシアネート又はその誘導体に由来する構造を含むことが好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネート又はその誘導体に由来する構造を含むことがより好ましい。また、例えば、ブロック剤は、メチルエチルケトオキシムを含むことが好ましい。すなわち、ブロックポリイソシアネートは、メチルエチルケトオキシムで封鎖されたイソシアネート基を有することが好ましい。
【0043】
ポリイソシアネートとブロック剤との反応生成物の誘導体は、例えば、ポリイソシアネートとブロック剤との反応生成物中の遊離イソシアネート基を、活性水素基含有化合物等の変性剤(ただし、ブロック剤は除く)と反応させることにより得られた変性体であってよい。
【0044】
ブロックイソシアネートは、遊離イソシアネート基を有していてよい。ブロックイソシアネートが遊離イソシアネート基を有する場合、塗料の硬化性が向上する傾向がある。
【0045】
上記モル比(ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基の総量に対する、ブロックイソシアネートに含まれるオキシム系ブロック剤で封鎖されたイソシアネート基の総量の比)は、ブロックイソシアネート組成物の粘度保持性をさらに向上させる観点から、0.93以上、0.95以上又は0.97以上であってもよい。上記モル比は、ブロックイソシアネート組成物の着色耐性をさらに向上させる観点から、0.98以下、0.96以下又は0.94以下であってもよい。これらの観点から、上記モル比は、例えば、0.93~0.99、0.95~0.99又は0.97~0.99であってもよく、0.91~0.98、0.91~0.96又は0.91~0.94であってもよい。
【0046】
ブロックイソシアネート組成物中の上記ブロックイソシアネート及びその誘導体の含有量は、例えば、組成物の全質量を基準として、20~99質量%、40~90質量%、50~80質量%又は70~80質量%であってよい。
【0047】
ブロックイソシアネート組成物は、上記ブロックイソシアネート及びその誘導体以外に、未反応物であるポリイソシアネートをさらに含んでいてよい。ただし、ブロックイソシアネート組成物は、未反応のブロック剤を含まないことが好ましく、特に、未反応のオキシム系ブロック剤を含まないことがより好ましい。ここで、ブロックイソシアネート組成物がブロック剤を含まないとは、ブロック剤の含有量が、組成物の全質量を基準として、0.001質量%未満であることを意味する。
【0048】
ブロックイソシアネート組成物は、例えば、解離触媒、顔料、染料、分散安定剤、粘度調節剤、レベリング剤、ゲル化防止剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐熱性向上剤、無機及び有機充填剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、補強材等の添加剤をさらに含有していてもよい。
【0049】
ブロックイソシアネート組成物中の有効イソシアネート基の含有率(以下、「有効NCO含有率」という。)は、塗料中のブロックイソシアネート使用量を削減でき、かつ粘度変化を起こしにくい観点から、6~28質量%であってよく、8~22質量%又は10~16質量%であってもよい。ここで、有効イソシアネート基とは、遊離イソシアネート基とブロック剤で封鎖(ブロック)されたイソシアネート基との両方を意味する。有効NCO含有率は、ブロックイソシアネート組成物中に存在する架橋反応に関与しうるイソシアネート基の量を質量%(ブロックイソシアネート組成物の全質量基準)で表したものであり、ブロックイソシアネートからブロック剤を解離することで得られるイソシアネート組成物中の遊離イソシアネート基の量を測定することにより求めることができる。この量は、測定試料(ブロックイソシアネートからブロック剤を解離することで得られるイソシアネート組成物)中のイソシアネート基を過剰の2級アミンと反応させた後、未反応の2級アミンを塩酸で逆滴定することで求めることができる。
【0050】
ブロックイソシアネート組成物中の遊離イソシアネート基の含有率(以下、「遊離NCO含有率」という。)は、塗料の硬化性をより高める観点から、0.1~1.5質量%であってよく、0.1~1.0質量%又は0.1~0.5質量%であってもよい。遊離NCO含有率は、ブロックイソシアネート組成物中に存在する遊離イソシアネート基の量を質量%(ブロックイソシアネート組成物の全質量基準)で表したものである。遊離NCO含有率を求めるための遊離イソシアネート基の量の測定方法は、上述した方法と同じである。
【0051】
ブロックイソシアネート組成物の25℃での粘度は、取扱い性の観点から例えば、500~5000mPa・sであってよく、100~10000mPa・s又は10~100000mPa・sであってもよい。上記粘度はB型粘度計を用いて測定される値である。
【0052】
上記ブロックイソシアネート組成物は、塗料組成物の硬化剤成分として使用することができる。したがって、ブロックイソシアネート組成物は、塗料用硬化剤ということもできる。
【0053】
<塗料組成物>
本発明の他の一実施形態は、主剤成分と、硬化剤成分とを含む塗料組成物であって、硬化剤が、上記実施形態のブロックイソシアネート組成物を硬化剤成分として含む塗料組成物である。
【0054】
上記塗料組成物は、構成成分の全てが一液中に含まれる一液型の組成物であってよく、構成成分が複数の液中に分かれて存在する多液型の組成物であってもよい。多液型の塗料組成物は、主剤成分を含む第一液と、硬化剤成分を含む第二液と、を備えてよい。この場合、上記実施形態のブロックイソシアネート組成物が第二液である。
【0055】
上記塗料組成物は、上記実施形態のブロックイソシアネート組成物を硬化剤成分として含むことから、一液とした場合でも経時による粘度変化を起こし難い。そのため、塗料としての性能の低下の原因となる、主剤成分と硬化剤成分の不均一化といった問題が生じ難い。また、同様の理由から、上記塗料組成物によれば、透明性に優れる塗膜を形成することができる。
【0056】
主剤は、例えば、活性水素基含有化合物を含む。活性水素基としては、ヒドロキシ基、アミノ基等が挙げられる。活性水素基含有化合物の平均官能基数(活性水素基の平均数)は、2以上であり、好ましくは2~50である。このような平均官能基数を有する活性水素含有化合物としては、例えば、ポリオール、ポリアミン、アミノアルコール等が挙げられる。
【0057】
活性水素基含有化合物の数平均分子量は、例えば500~20000であり、500~10000であることが好ましい。このような数平均分子量を有する活性水素基含有化合物としては、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、飽和又は不飽和ポリエステル樹脂、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸で変性したアルキド樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂等が挙げられる(ただし、いずれも活性水素基を有する樹脂である。)。さらには、光沢、肉持感、硬度、耐久性、柔軟性、乾燥性等の塗膜性能やコストを考慮すると、飽和又は不飽和ポリエステル樹脂、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸で変性したアルキド樹脂、アクリル樹脂が好ましい。
【0058】
塗料組成物における主剤成分と硬化剤成分との配合比率は、主剤成分中の活性水素基の総量に対する、硬化剤成分中の有効イソシアネート基の総量の比を基準として調整されてよい。主剤成分中の活性水素基の総量に対する、硬化剤成分中の有効イソシアネート基の総量の比は、モル比で、1/9~9/1であることが好ましく、2/8~8/2であることがより好ましい。上記モル比が上記範囲内であると、良好な硬化性が得られる。
【0059】
塗料組成物は、自動車の上中塗り塗料、耐チッピング塗料、電着塗料、自動車部品用塗料、自動車補修用塗料、家電・事務機器等の金属製品等のプレコートメタル・防錆鋼板、建築資材用塗料、プラスチック用塗料、接着剤、接着性付与剤、シーリング剤等として使用することができる。
【0060】
<塗膜>
本発明の他の一実施形態は、上記実施形態の塗料組成物から形成される塗膜である。
【0061】
上記塗膜は、上記実施形態の塗料組成物の硬化物を含む。上記塗膜は、公知の手法により上記塗料組成物を基材上に塗布し、塗料組成物からなる塗膜(未硬化の塗膜)を硬化させることにより形成することができる。公知の手法としては、例えば、ロール塗装、カーテンフロー塗装、スプレー塗装、静電塗装、ベル塗装、電着塗装等が挙げられる。塗料組成物の塗布量、塗膜の厚み等は、被塗装面の材質等に応じて適宜なものとすればよい。塗料組成物からなる塗膜の硬化条件(例えば焼き付け条件)は、ブロック剤、主剤の種類等にもよるが、メチルエチルケトオキシムを用いたブロックポリイソシアネートであれば150~160℃で30分加熱することにより十分硬化する。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
<実施例1>
撹拌機、温度計、冷却管及び窒素シール管を備えた容量1リットルの四つ口フラスに、ポリイソシアネートとしてコロネートHXR(東ソー社製、ヘキサメチレンジイソシアネート三量体、NCO含有率21.8質量%)を520g、酢酸ブチルを250g仕込んで30分間撹拌した後、オキシム系ブロック剤として、メチルエチルケトオキシム(宇部興産社製)を230g(ポリイソシアネート(コロネートHXR)の混合量に対する当量比(表1中の比R)は0.98)、温度が80℃を超えないよう3回に分割して仕込んだ。その後、70℃に保持して2時間撹拌し、実施例1のブロックイソシアネート組成物を得た。
【0064】
以下の方法により求めたブロックイソシアネート組成物の有効NCO含有率及び遊離NCO含有率は、それぞれ11.3質量%、0.2質量%であった。
【0065】
(有効NCO含有率の算出)
ブロックイソシアネート組成物に、イソシアネート基に対して過剰の2級アミンを加え、オキシム系ブロック剤の解離温度以上(例えば160℃)で、ブロック剤が十分に解離する時間(例えば1時間)加熱し、遊離イソシアネート基と2級アミンを反応させた後、未反応の2級アミンを塩酸で逆滴定することで、有効NCO含有率を求めた。
【0066】
(遊離NCO含有率の算出)
ブロックイソシアネート組成物中のイソシアネート基を過剰の2級アミンと反応させた後、未反応の2級アミンを塩酸で逆滴定することで、遊離NCO含有率を求めた。
【0067】
<実施例2~3及び比較例1~2>
ポリイソシアネート(コロネートHXR)の混合量に対する、オキシム系ブロック剤(メチルエチルケトオキシム)の混合量の比が、当量比で、表1に示す値(比R)となるように調整したことを除き、実施例1と同様にして、実施例2~3及び比較例1~2のブロックイソシアネート組成物をそれぞれ得た。また、実施例2~3及び比較例1~2で得られたブロックイソシアネート組成物の有効NCO含有率及び遊離NCO含有率を実施例1と同様にして算出した。実施例2で得られたブロックイソシアネート組成物の有効NCO含有率及び遊離NCO含有率は、それぞれ11.4質量%、0.6質量%であった。実施例3で得られたブロックイソシアネート組成物の有効NCO含有率及び遊離NCO含有率は、それぞれ11.6質量%、1.0質量%であった。比較例1で得られたブロックイソシアネート組成物の有効NCO含有率及び遊離NCO含有率は、それぞれ11.3質量%、0質量%であった。比較例2で得られたブロックイソシアネート組成物の有効NCO含有率及び遊離NCO含有率は、それぞれ11.6質量%、1.2質量%であった。
【0068】
<評価>
(着色耐性評価)
実施例1~3及び比較例1~2で得られたブロックイソシアネート組成物の経時的な着色に対する耐性は、ブロックイソシアネート組成物を45℃で2週間保管し、該ブロックイソシアネート組成物のCIE Lab基準におけるb*値を、保管前後で測定し、下記式により保管前後のb*値(初期b*値及び保管後b*値)の変化率を求め、該変化率を基準として評価した。なお、上記b*値は、日本電色工業社製の分光色彩計COH7700を用いて測定した。
b*値の変化率(単位:%)=100×(保管後b*値-初期b*値)/初期b*値
評価基準を以下に示す。
A:b*値の変化率が-50%以上50%未満
B:b*値の変化率が50%以上100%未満
C:b*値の変化率が100%以上
【0069】
(粘度保持性評価)
実施例1~3及び比較例1~2で得られたブロックイソシアネート組成物の粘度保持性は、ブロックイソシアネート組成物を45℃で2週間保管し、該ブロックイソシアネート組成物の粘度を保管前後で測定し、下記式により保管前後の粘度(初期粘度及び保管後粘度)の変化率を求め、該変化率を基準として評価した。なお、上記粘度はB型粘度計を用いて25℃で測定した。
粘度変化率(単位:%)=|100×(保管後粘度-初期粘度)/初期粘度|
評価基準を以下に示す。
A:粘度の変化率が20%未満
B:粘度の変化率が20%以上30%未満
C:粘度の変化率が30%以上
【0070】
【要約】
【課題】経時的な粘度変化及び着色を起こし難いブロックイソシアネート組成物を提供すること。
【解決手段】ブロックイソシアネート組成物の製造方法であって、ポリイソシアネートとオキシム系ブロック剤とを混合して反応させる工程を含み、ポリイソシアネートの混合量に対するオキシム系ブロック剤の混合量の比が、当量比で、0.91~0.99である、ブロックイソシアネート組成物の製造方法。
【選択図】なし