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特許7335002スルホキシド化合物のエナンチオマー調製方法及びエナンチオマー調製システム
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  • 特許-スルホキシド化合物のエナンチオマー調製方法及びエナンチオマー調製システム 図1
  • 特許-スルホキシド化合物のエナンチオマー調製方法及びエナンチオマー調製システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】スルホキシド化合物のエナンチオマー調製方法及びエナンチオマー調製システム
(51)【国際特許分類】
   C07D 279/36 20060101AFI20230822BHJP
   C07D 401/12 20060101ALI20230822BHJP
   B01D 15/38 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALN20230822BHJP
   A61P 1/04 20060101ALN20230822BHJP
【FI】
C07D279/36
C07D401/12
B01D15/38
A61K31/4439
A61P1/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021542941
(86)(22)【出願日】2020-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2020032053
(87)【国際公開番号】W WO2021039800
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019156444
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀依
(72)【発明者】
【氏名】牧野 宏章
(72)【発明者】
【氏名】顧 嘉悦
(72)【発明者】
【氏名】田中 優希
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-517656(JP,A)
【文献】Journal of Chromatography A,2008年,1177,105-113
【文献】Journal of Separation Science,2013年,36,3004-3010
【文献】Biomedical Chromatography,2014年,28,112-119
【文献】Latin American Journal of Pharmacy,2011年,30,1445-1448
【文献】有機合成化学協会誌,2015年,73,532-536
【文献】Chromatography Research International,2013年,2013,509812
【文献】Journal of Chromatographic Science,1970年,8,560-566
【文献】日本薬学会第138年会予稿集,2018年,27PA-am001S
【文献】Journal of the American Chemical Society,1965年,87,4958-4959
【文献】Therapeutic Drug Monitoring,1991年,13,356-362
【文献】Organic Letters,2007年,9,1939-1942
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
B01D 15/38
A61K 31/
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キラルカラムを備えたリサイクルHPLCを利用して、スルホキシド基の硫黄原子を不斉中心としたスルホキシド化合物の一方のエナンチオマーを選択的に調製するエナンチオマー調製方法であって、
工程A:スルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を前記キラルカラムに導入し、該エナンチオマー混合物を一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーとに光学分割し、該一方のエナンチオマーを分取する工程、
工程B:工程A又は工程Cにおける分取後の残余である他方のエナンチオマーを前記キラルカラムの出口から入口へと戻す過程で、該他方のエナンチオマーに光を照射してラセミ化する工程、及び
工程C:工程Bにてラセミ化して得られたスルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を前記キラルカラムに導入し、該エナンチオマー混合物を一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーとに光学分割し、該一方のエナンチオマーを分取する工程
を含み、工程B及び工程Cを連続して繰り返し行う、エナンチオマー調製方法。
【請求項2】
前記スルホキシド化合物が下記式(1)で表される化合物である請求項1に記載のエナンチオマー調製方法。
【化1】
(式中、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、アシルオキシ基、又はヘテロアリール基を示す。R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアミノ基を示す。Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、アシル基、又はアシルオキシ基を示す。X、Y、Zはそれぞれ独立に、窒素原子又はCHを示す。*は不斉中心を示す。)
【請求項3】
工程Bでは、光増感剤の存在下で前記他方のエナンチオマーに光を照射し、該エナンチオマーをラセミ化する請求項1又は2に記載のエナンチオマー調製方法。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載のエナンチオマー調製方法に用いられる、キラルカラムを備えたリサイクルHPLCを利用したエナンチオマー調製システムであって、
前記キラルカラムを有し、スルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーとに光学分割し、該一方のエナンチオマーを分取する光学分割部と、
前記光学分割部における分取後の残余である他方のエナンチオマーを前記キラルカラムの出口から入口へと戻す過程で、該他方のエナンチオマーに光を照射してラセミ化する光照射部と、
を備え
前記光学分割部は、前記光照射部にて得られたスルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーとに光学分割し、該一方のエナンチオマーを分取する、エナンチオマー調製システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホキシド基の硫黄原子を不斉中心としたスルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を光学分割し、一方のエナンチオマーを選択的に調製するエナンチオマー調製方法、及びそのエナンチオマー調製方法に用いられるエナンチオマー調製システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロトンポンプ阻害薬として、オメプラゾール、ランソプラゾール等のスルホキシド化合物が知られている。これらのスルホキシド化合物は、スルホキシド基の硫黄原子に不斉中心を有し、この不斉中心の立体配置に基づき、S体及びR体のエナンチオマーが存在する。
【0003】
上述したスルホキシド化合物は、エナンチオマー間で薬物動態等が異なることが知られている。例えば、オメプラゾールのS体であるエソメプラゾールは、ラセミ体であるオメプラゾールに比べて、薬物動態及び薬理作用の個体間変動が小さいことが知られている。また、ランソプラゾールのR体であるデクスランソプラゾールは、ラセミ体であるランソプラゾールに比べて、薬物代謝酵素に対する安定性や薬物動態に優れていることが知られている。
【0004】
このような背景から、ラセミ体であるスルホキシド化合物から所望のエナンチオマーを効率的に得る方法が種々提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0005】
しかし、ラセミ体であるスルホキシド化合物は、S体及びR体の等量混合物であるため、特許文献1~3に記載されている方法では、最大でも収率50%でしか所望のエナンチオマーを得ることができず、残りのエナンチオマーが無駄になっていた。
【0006】
一方、光学活性なスルホキシド化合物は、光照射によってラセミ化(光ラセミ化)することが報告されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2009-502906号公報
【文献】特表2009-542624号公報
【文献】特表平7-509499号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】K. Mislow et al.,J. Am. Chem. Soc.,1965,87(21),pp.4958-4959
【文献】木村翼 他、「医薬品に含まれるスルホキシドの光によるラセミ化現象の検討」、日本薬学会第138年会講演要旨集、2018年3月、27PA-am001S
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、スルホキシド化合物のエナンチオマー混合物から所望のエナンチオマーを高収率に得ることが可能なエナンチオマー調製方法、及びそのエナンチオマー調製方法に用いられるエナンチオマー調製システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> キラルカラムを備えたリサイクルHPLCを利用して、スルホキシド基の硫黄原子を不斉中心としたスルホキシド化合物の一方のエナンチオマーを選択的に調製するエナンチオマー調製方法であって、
工程A:スルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を前記キラルカラムに導入し、該エナンチオマー混合物を一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーとに光学分割し、該一方のエナンチオマーを分取する工程、
工程B:工程A又は工程Cにおける分取後の残余である他方のエナンチオマーを前記キラルカラムの出口から入口へと戻す過程で、該他方のエナンチオマーに光を照射してラセミ化する工程、及び
工程C:工程Bにてラセミ化して得られたスルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を前記キラルカラムに導入し、該エナンチオマー混合物を一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーとに光学分割し、該一方のエナンチオマーを分取する工程
を含み、工程B及び工程Cを連続して繰り返し行う、エナンチオマー調製方法。
【0013】
> 前記スルホキシド化合物が下記式(1)で表される化合物である<1>に記載のエナンチオマー調製方法。
【化1】
(式中、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、アシルオキシ基、又はヘテロアリール基を示す。R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアミノ基を示す。Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、アシル基、又はアシルオキシ基を示す。X、Y、Zはそれぞれ独立に、窒素原子又はCHを示す。*は不斉中心を示す。)
【0014】
> 工程Bでは、光増感剤の存在下で前記他方のエナンチオマーに光を照射し、該エナンチオマーをラセミ化する<1>又は<2>に記載のエナンチオマー調製方法。
【0015】
> <1>~<>のいずれか1項に記載のエナンチオマー調製方法に用いられる、キラルカラムを備えたリサイクルHPLCを利用したエナンチオマー調製システムであって、
前記キラルカラムを有し、スルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーとに光学分割し、該一方のエナンチオマーを分取する光学分割部と、
前記光学分割部における分取後の残余である他方のエナンチオマーを前記キラルカラムの出口から入口へと戻す過程で、該他方のエナンチオマーに光を照射してラセミ化する光照射部と、
を備え
前記光学分割部は、前記光照射部にて得られたスルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーとに光学分割し、該一方のエナンチオマーを分取する、エナンチオマー調製システム。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スルホキシド化合物のエナンチオマー混合物から所望のエナンチオマーを高収率に得ることが可能なエナンチオマー調製方法、及びそのエナンチオマー調製方法に用いられるエナンチオマー調製システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係るエナンチオマー調製システムの概略構成の一例を示す図である。
図2】光増感剤であるTPTを担体に共有結合させた固相光増感剤2の存在下で、光学活性なスルホキシド化合物の光ラセミ化反応を進行させた場合の、エナンチオマー過剰率の時間変化を示す図である。
図3】光増感剤であるTPTを担体に共有結合させた固相光増感剤3の存在下で、光学活性なスルホキシド化合物の光ラセミ化反応を進行させた場合の、エナンチオマー過剰率の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<エナンチオマー調製方法>
本実施形態に係るエナンチオマー調製方法は、スルホキシド基の硫黄原子を不斉中心としたスルホキシド化合物の一方のエナンチオマーを選択的に調製するエナンチオマー調製方法であって、下記の工程A~工程Cを含む。
工程A:スルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーとに光学分割する工程。
工程B:工程A又は工程Cにて得られた他方のエナンチオマーに光を照射し、該エナンチオマーをラセミ化する工程。
工程C:工程Bにて得られたスルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーとに光学分割する工程。
【0020】
(スルホキシド化合物)
スルホキシド化合物としては、スルホキシド基の硫黄原子に不斉中心を有し、この不斉中心の立体配置に基づき、S体及びR体のエナンチオマーが存在する化合物であれば特に制限されない。所望のエナンチオマーのみを効率的に調製する観点から、スルホキシド化合物は、不斉中心が1個のみである化合物が好ましい。
【0021】
好適なスルホキシド化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。下記式(1)で表される化合物は、優れた胃酸分泌抑制作用、抗潰瘍作用、粘膜保護作用、抗ヘリコバクター・ピロリ作用等を有し、プロトンポンプ阻害薬として有用な化合物である。
【0022】
【化2】
(式中、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、アシルオキシ基、又はヘテロアリール基を示す。R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアミノ基を示す。Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、アシル基、又はアシルオキシ基を示す。X、Y、Zはそれぞれ独立に、窒素原子又はCHを示す。*は不斉中心を示す。)
【0023】
、R、Rで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0024】
、R、Rで示される「置換基を有していてもよいアルキル基」の「アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基等の直鎖状又は分岐鎖状のC1-7アルキル基が挙げられる。「置換基を有していてもよいアルキル基」の「置換基」としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基等)、C1-6アルコキシ-カルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等)、カルバモイル基等が挙げられる。置換基の数は特に制限されず、例えば1個~3個であってもよい。置換基の数が2個以上の場合、各置換基は同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
、R、Rで示される「置換基を有していてもよいアルコキシ基」の「アルコキシ基」としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペントキシ基、n-ヘキシロキシ基等の直鎖状又は分岐鎖状のC1-6アルコキシ基が挙げられる。「置換基を有していてもよいアルコキシ基」の「置換基」としては、上述した「置換基を有していてもよいアルキル基」の「置換基」と同様のものが挙げられる。置換基の数は特に制限されず、例えば1個~3個であってもよい。置換基の数が2個以上の場合、各置換基は同一であっても異なっていてもよい。
【0026】
、R、Rで示される「アルコキシカルボニル基」としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、n-ペントキシカルボニル基、n-ヘキシロキシカルボニル基等の、アルコキシ部分が直鎖状又は分岐鎖状のC1-6アルコキシ基である基が挙げられる。
【0027】
、R、Rで示される「アリール基」としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、ビフェニリル基、2-アンスリル基等のC6-14アリール基が挙げられる。
【0028】
、R、Rで示される「アリールオキシ基」としては、例えば、フェニルオキシ基、1-ナフチルオキシ基、2-ナフチルオキシ基、ビフェニリルオキシ基、2-アンスリルオキシ基等のC6-14アリールオキシ基が挙げられる。
【0029】
、R、Rで示される「アシル基」としては、ホルミル基;アセチル基、プロピオニル基等のC1-6アルキル-カルボニル基;ベンゾイル基、ナフタレンカルボニル基等のC6-14アリール-カルボニル基;などが挙げられる。
【0030】
、R、Rで示される「アシルオキシ基」としては、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基等のC1-6アルキル-カルボニルオキシ基;ベンゾイルオキシ基、ナフタレンカルボニルオキシ基等のC6-14アリール-カルボニルオキシ基;などが挙げられる。
【0031】
、R、Rで示される「ヘテロアリール基」としては、例えば、窒素原子、硫黄原子、及び酸素原子から選ばれるヘテロ原子を1個~3個含む5員環~10員環の基が挙げられる。具体例としては、1-,2-又は3-チエニル基、1-,2-,3-又は4-ピリジル基、2-又は3-フリル基、1-,2-又は3-ピロリル基、2-,3-,4-,5-又は8-キノリル基、1-,3-,4-又は5-イソキノリル基、1-,2-又は3-インドリル基等が挙げられる。
【0032】
、R、Rで示される「置換基を有していてもよいアルキル基」、「置換基を有していてもよいアルコキシ基」としては、R、R、Rで示される「置換基を有していてもよいアルキル基」、「置換基を有していてもよいアルコキシ基」と同様のものが挙げられる。
【0033】
、R、Rで示される「置換基を有していてもよいアミノ基」としては、アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基等のモノ-C1-6アルキルアミノ基;フェニルアミノ基、1-ナフチルアミノ基、2-ナフチルアミノ基等のモノ-C6-14アリールアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、メチルイソブチルアミノ基等のジ-C1-6アルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジ-C6-14アリールアミノ基;などが挙げられる。
【0034】
で示される「置換基を有していてもよい炭化水素基」の「炭化水素基」としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基等のC1-19炭化水素基が挙げられる。
【0035】
におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基等の直鎖状又は分岐鎖状のC1-6アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状のC3-14アルキル基;などが挙げられる。
【0036】
におけるアルケニル基としては、アリル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、2-ペンテニル基、2-ヘキセニル基等の直鎖状又は分岐鎖状のC2-6アルケニル基;2-シクロヘキセニル基等の環状のC3-14アルケニル基;などが挙げられる。
【0037】
におけるアルキニル基としては、例えば、プロパルギル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、3-ペンチニル基、3-ヘキシニル基等の直鎖状又は分岐鎖状のC2-6アルキニル基が挙げられる。
【0038】
におけるアリール基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、ビフェニリル基、2-アンスリル基等のC6-14アリール基が挙げられる。
【0039】
におけるアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等のフェニル-C1-4アルキル基;ベンズヒドリル基;トリチル基;などのC7-19アラルキル基が挙げられる。
【0040】
で示される炭化水素基がアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基である場合、該炭化水素基は、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、イソプロピルチオ基等のC1-4アルキルチオ基など)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基等のC1-6アルコキシ基など)、アシルオキシ基(アセチルオキシ基、n-プロピオニルオキシ基等のC1-6アルキル-カルボニルオキシ基;ベンゾイルオキシ基、ナフタレンカルボニルオキシ基等のC6-14アリール-カルボニルオキシ基;など)、ニトロ基、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等のC1-6アルコキシ-カルボニル基など)、アルキルアミノ基(メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、メチルイソブチルアミノ基等のモノ-又はジ-C1-6アルキルアミノ基など)、アルコキシイミノ基(メトキシイミノ基、エトキシイミノ基、n-プロポキシイミノ基、イソプロポキシイミノ基等のC1-6アルコキシ-イミノ基など)、ヒドロキシイミノ基等で置換されていてもよい。置換基の数は特に制限されず、例えば1個~3個であってもよい。置換基の数が2個以上の場合、各置換基は同一であっても異なっていてもよい。
【0041】
また、上記炭化水素基がアリール基又はアラルキル基である場合、該炭化水素基は、アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等の直鎖状又は分岐鎖状のC1-6アルキル基;シクロヘキシル基等の環状のC3-6アルキル基;など)、アルケニル基(アリル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、1-メチルアリル基、2-ペンテニル基、2-ヘキセニル基等のC2-6アルケニル基など)、アルキニル基(プロパルギル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、3-ペンチニル基、3-ヘキシニル基等のC2-6アルキニル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基等のC1-6アルコキシ基など)、アシル基(ホルミル基;アセチル基、プロピオニル基等のC1-6アルキル-カルボニル基;ベンゾイル基、ナフタレンカルボニル基等のC6-14アリール-カルボニル基;など)、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、スルファモイル基、メルカプト基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、イソプロピルチオ基等のC1-4アルキルチオ基など)等で置換されていてもよい。置換基の数は特に制限されず、例えば1個~5個であってもよい。置換基の数が2個以上の場合、各置換基は同一であっても異なっていてもよい。
【0042】
で示される「アシル基」、「アシルオキシ基」としては、R、R、Rで示される「アシル基」、「アシルオキシ基」と同様のものが挙げられる。
【0043】
上記式(1)で表される化合物の中でも、Rが水素原子であり、Rが水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-4アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-4アルコキシ基、又はヘテロアリール基(好ましくは1-,2-又は3-ピロリル基)であり、Rが水素原子又はC1-4アルコキシ-カルボニル基であり、Rが水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-4アルキル基、又はハロゲン原子若しくはC1-4アルコキシ基で置換されていてもよいC1-4アルコキシ基であり、Rが水素原子、又はハロゲン原子若しくはC1-4アルコキシ基で置換されていてもよいC1-4アルコキシ基であり、Rが水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-4アルキル基、ハロゲン原子若しくはC1-4アルコキシ基で置換されていてもよいC1-4アルコキシ基、又はジ-C1-4アルキルアミノ基であり、Rが水素原子である化合物が好ましい。
【0044】
上記式(1)で表される化合物の具体例を下記に示す。ただし、本実施形態におけるスルホニル化合物は、これらの例に限定されない。
【0045】
【化3】
【0046】
上記式(1)で表される化合物は、塩や水和物の形態であってもよい。塩としては、薬学的に許容される塩が好ましく、例えば、無機塩基との塩、有機塩基との塩、塩基性アミノ酸との塩等が挙げられる。無機塩基との塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;などが挙げられる。有機塩基との塩としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン等との塩が挙げられる。塩基性アミノ酸との塩としては、アルギニン、リジン、オルニチン等との塩が挙げられる。
【0047】
(工程A)
工程Aでは、スルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーとに光学分割する。
【0048】
エナンチオマー混合物は、R体及びS体が含まれていれば特に制限されず、ラセミ体でなくてもよい。エナンチオマー混合物のエナンチオマー過剰率は、0%ee~25%eeであってもよく、0%ee~10%eeであってもよく、0%ee~5%eeであってもよい。
【0049】
光学分割方法は特に制限されず、任意の方法を採用することができる。光学分割方法の例としては、キラルカラムを用いたクロマトグラフィー法;光学活性なホスト分子(1,1’-ビ-2-ナフトール等)を用いた包接錯体法(例えば、特許文献1、2参照);光学分割剤を用いて2種類のジアステレオマーへと誘導した後、ジアステレオマーを分離するジアステレオマー法(例えば、特許文献3参照);等が挙げられる。これらの中でも、簡便性の点から、工程A及び後述する工程Cの少なくとも一方でキラルカラムを用いたクロマトグラフィー法を採用することが好ましく、工程A及び工程Cの両方でキラルカラムを用いたクロマトグラフィー法を採用することがより好ましい。
【0050】
(工程B)
工程Bでは、工程A又は後述する工程Cにて得られた他方のエナンチオマーに光を照射し、該エナンチオマーをラセミ化(光ラセミ化)する。
【0051】
光学活性なスルホキシド化合物は、光照射によってラセミ化することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。このため、工程A又は工程Cにて得られた他方のエナンチオマーに光を照射することにより、該エナンチオマーをラセミ化することができる。
【0052】
光の照射対象となる他方のエナンチオマーは、固体の状態であっても溶媒に溶解した状態であってもよいが、ラセミ化の効率から後者が好ましい。工程Aにおいてクロマトグラフィー法を採用している場合、他方のエナンチオマーを含む溶出液に対して光を照射することができる。
【0053】
なお、後述するとおり、工程Bでは必要に応じて光増感剤を用いてもよい。
【0054】
照射する光の波長は、スルホキシド化合物の種類や増感剤の有無等によって適宜調整することが好ましく、例えば200nm~450nmであってもよく、200nm~400nmであってもよく、254nm~365nmであってもよい。光の照射時間は、スルホキシド化合物の種類、照射する光の波長、増感剤の有無等によって異なるが、一般的には5分間~2時間の光照射で十分にラセミ化を達成することができる。
【0055】
(工程C)
工程Cでは、工程Bにて得られたスルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーとに光学分割する。工程Bにて得られたエナンチオマー混合物のエナンチオマー過剰率は、0%ee~25%eeであってもよく、0%ee~10%eeであってもよく、0%ee~5%eeであってもよい。
【0056】
工程Cにおける光学分割方法は、工程Aと同じ方法であっても異なる方法であってもよいが、同じ方法であることが好ましい。特に、工程A及び工程Cの両方でキラルカラムを用いたクロマトグラフィー法を採用することがより好ましい。
【0057】
以上の工程B及び工程Cを経ることで、工程Aのみを実施する場合に比べて、所望のエナンチオマーの収率を大幅に向上させることができる。必要に応じて上記の工程B及び工程Cを繰り返すことにより、所望のエナンチオマーの収率をより向上させることも可能である。
【0058】
(光増感剤)
上記の工程Bでは、光増感剤の存在下で、光学活性なスルホキシド化合物に対して光を照射するようにしてもよい。光増感剤の存在下で光を照射することにより、ラセミ化の効率をより高めることが可能となる。
【0059】
光増感剤としては、特に制限されず、従来公知の光増感剤を使用することができる。光増感剤の中でも、365nm~450nmの波長域に極大吸収波長を有する光増感剤が好ましい。光増感剤の具体例としては、例えば、1,2,4,5-テトラシアノベンゼン、6,6’-ジシアノ-2,2’-ビピリジル、1,2-ジシアノナフタレン、9,10-ジシアノアントラセン等のシアノアレーン系化合物;2,4,6-トリフェニルピリリウム塩、2,4,6-トリフェニルチオピリリウム塩等のピリリウム系化合物;10-メチル-9-(2,4,6-トリメチルフェニル)アクリジニウム塩、3,6-ジアミノ-10-メチルアクリジニウム塩等のアクリジニウム系化合物;2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン、アントラキノン等のキノン系化合物;1-メチルキノリニウム塩、1-メチル-6-メトキシキノリニウム塩等のキノリニウム系化合物;フルオレセイン、ローダミンB等のキサンテン系化合物;10-フェニルフェノチアジン、メチルチオニニウム塩等のチアジン系化合物;ベンゾフェノン、チオキサントン等のベンゾフェノン系化合物;などが挙げられる。これらの中でも、シアノアレーン系化合物、ピリリウム系化合物、アクリジニウム系化合物、キノン系化合物、及びキノリニウム系化合物が好ましい。
【0060】
光増感剤は、シリカゲル等の担体に固定化された固相光増感剤であってもよい。固相光増感剤を用いることにより、工程Bにて得られたスルホキシド化合物のエナンチオマー混合物と光増感剤とを分離することが容易になる。担体への固定化方法は特に制限されず、共有結合であってもイオン結合であってもよい。
【0061】
<エナンチオマー調製システム>
本実施形態に係るエナンチオマー調製システムは、上述したエナンチオマー調製方法に用いられるエナンチオマー調製システムであって、スルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーとに光学分割する光学分割部と、光学分割部にて得られた他方のエナンチオマーに光を照射し、該エナンチオマーをラセミ化する光照射部と、を備える。
【0062】
本実施形態に係るエナンチオマー調製システムの概略構成の一例を図1に示す。図1に示すとおり、エナンチオマー調製システム1は、光学分割部10と、光照射部20と、を備える。
【0063】
光学分割部10は、例えば、スルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を一方のエナンチオマー(例えば、S体)と他方のエナンチオマー(例えば、R体)とに光学分割し、一方のエナンチオマーを分取するとともに、他方のエナンチオマーを光照射部20に送る。光学分割部10は、スルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を光学分割することができるものであれば特に制限されない。光学分割法として例えばクロマトグラフィー法を採用する場合、光学分割部10にはキラルカラムが設けられる。
【0064】
光照射部20は、光学分割部10にて得られた他方のエナンチオマー(例えば、R体)に光を照射し、該エナンチオマーをラセミ化(光ラセミ化)する。光照射部20の光源は、他方のエナンチオマーにラセミ化に必要な波長の光(例えば、波長200nm~450nmの光、好ましくは波長254nm~365nmの光)が照射される限り、特に制限されない。光源の具体例としては、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ、LEDランプ等が挙げられる。なお、光源と他方のエナンチオマーとの間に光源からの光を吸収する材料、又は光源からの光の波長を変化させる材料が介在している場合には、光の吸収又は光の波長の変化を考慮した上で、光を照射することが好ましい。光照射部20は、ラセミ化により得られたスルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を再び光学分割部10に送る。
【0065】
このように、エナンチオマー調製システム1によれば、光学分割部10及び光照射部20において光学分割及び光ラセミ化を繰り返すことで、所望のエナンチオマーの収率を大幅に向上させることができる。
【0066】
なお、上述した実施形態では、光照射部20にて得られたスルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を再び光学分割部10に送る循環式のシステムについて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、光照射部20にて得られたスルホキシド化合物のエナンチオマー混合物を光学分割部10とは異なる他の光学分割部に送り、そこで一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーとに光学分割するようにしてもよい。ただし、溶媒の再利用が可能であり、かつ、光学分割及び光ラセミ化を繰り返し易い点から、循環式のシステムが好ましい。
【実施例
【0067】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0068】
<実施例1:ラセミ体のスルホキシド化合物の光学分割>
実施例1では、図1に示す構成のエナンチオマー調製システムを用いて、下記式で表されるラセミ体の化合物を光学分割し、S体の化合物を選択的に調製した。
【0069】
【化4】
【0070】
具体的には、キラルカラムを用いたリサイクルHPLCにより、ラセミ体の化合物を光学分割してS体の化合物を分取するとともに、R体の化合物をカラム出口からカラム入口へと戻した。また、R体の化合物をカラム入口へと戻す過程で、内径0.5mmの流路の長さ200cmの領域に光を照射し、R体の化合物を光ラセミ化した。リサイクルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0071】
-リサイクルHPLC条件-
カラム:CHIRALPAK IC(10mm×250mm、粒子径5μm)+CHIRALPAK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/エタノール=1/1
流速:2.0mL/分
光照射部:LEDランプ(波長365nm)
【0072】
光学分割及び光ラセミ化を繰り返し、S体の化合物を4回分取したところ、ラセミ体の化合物5.0mg(0.01900mmol)からS体の化合物4.3mg(0.01634mmol)が得られた(収率:86%)。また、得られたS体の化合物のエナンチオマー過剰率は96.4%eeであった。
【0073】
<実施例2:ラセミ体のスルホキシド化合物の光学分割>
実施例2では、ラセミ体の(±)-オメプラゾールを光学分割し、(S)-オメプラゾールを選択的に調製した。
【0074】
具体的には、キラルHPLCにより、(±)-オメプラゾールのアセトニトリル溶液1.0mL(3.5mg,0.01mmol,0.01M)を(S)-オメプラゾール及び(R)-オメプラゾールとしてそれぞれ分取した。キラルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0075】
-キラルHPLC条件-
カラム:CHIRALPAK IA (10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/エタノール=1/1
流速:2.4mL/分
【0076】
(R)-オメプラゾールの溶媒を留去し、アセトニトリルを加えて0.01Mのアセトニトリル溶液を調製した。このアセトニトリル溶液を石英セルに入れ、UVランプを用いて波長254nmの光を10分間照射し、(R)-オメプラゾールを光ラセミ化した。光照射後、溶媒を留去し、再びキラルHPLCにより(S)-オメプラゾール及び(R)-オメプラゾールとしてそれぞれ分取した。(R)-オメプラゾールについて光ラセミ化及び光学分割を繰り返し、(S)-オメプラゾール及び(R)-オメプラゾールとしてそれぞれ分取した。得られた(S)-オメプラゾールを全て合わせ、溶媒を留去したところ、(S)-オメプラゾール2.0mg(0.00580mmol)が得られた(収率58%)。得られた(S)-オメプラゾールのエナンチオマー過剰率は97.1%eeであった。
【0077】
<参考例1:光増感剤の検討>
【化5】
【0078】
上記スキームに示すように、各種光増感剤の存在下で光学活性なスルホキシド化合物に光を照射し、光ラセミ化反応における光増感剤の影響について検討した。使用した光増感剤は下記の8種である。
【0079】
【化6】
【0080】
光学活性なスルホキシド化合物((+)-1)(3.08mg,0.02mmol)を含有するアセトニトリル溶液(2.0mL,0.01M)に光増感剤(0.02μmol~2μmol,0.1mol%~10mol%)を加え、18WのLEDライト(波長365nm~425nm)又は分光蛍光光度計(波長290nm~330nm、(株)島津製作所製、RF-5300PC)を用いて光を照射した。また、比較のため、光増感剤を添加せずに同様の実験を行った。光照射中、経時的にサンプリング(20μL)を行い、キラルHPLCによりエナンチオマー過剰率を算出した。キラルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0081】
-キラルHPLC条件-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=60/40
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示すとおり、光増感剤の存在下で光を照射したエントリー1~8では、効率的に光ラセミ化反応を進行させることができた。一方、光増感剤を用いなかったエントリー9では、波長425nmの光を60分間照射しても光ラセミ化反応はあまり進行しなかった。
【0084】
<参考例2:光増感剤として9,10-DCAを用いた光ラセミ化反応における溶媒の検討>
【化7】
【0085】
光学活性なスルホキシド化合物((+)-1)(3.08mg,0.02mmol)を各種溶媒(2.0mL)に溶解した溶液に9,10-ジシアノアントラセン(9,10-DCA)(0.45mg,2μmol,10mol%)を加え、18WのLEDライト(波長425nm)を用いて光を照射した。光照射中、経時的にサンプリング(20μL)を行い、キラルHPLCによりエナンチオマー過剰率を算出した。キラルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0086】
-キラルHPLC条件-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=60/40
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0087】
【表2】
【0088】
表2に示すとおり、いずれの溶媒を用いた場合にも光ラセミ化が可能であり、特にアセトニトリルを用いた場合の光ラセミ化反応が速かった。
【0089】
<参考例3:光増感剤としてTPTを用いた光ラセミ化反応における溶媒の検討>
【化8】
【0090】
光学活性なスルホキシド化合物((+)-1)(3.08mg,0.02mmol)を各種溶媒(2.0mL)に溶解した溶液に2,4,6-トリフェニルピリリウムテトラフルオロボラート(TPT)(80μg,0.2μmol,1mol%)を加え、18WのLEDライト(波長425nm)を用いて光を照射した。光照射中、経時的にサンプリング(20μL)を行い、キラルHPLCによりエナンチオマー過剰率を算出した。キラルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0091】
-キラルHPLC条件-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=60/40
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0092】
【表3】
【0093】
表3に示すとおり、いずれの溶媒を用いた場合にも光ラセミ化が可能であり、特にアセトニトリルを用いた場合の光ラセミ化反応が速かった。
【0094】
<参考例4:光増感剤としてMes-Acr-Meを用いた光ラセミ化反応における溶媒の検討>
【化9】
【0095】
光学活性なスルホキシド化合物((+)-1)(3.08mg,0.02mmol)を各種溶媒(2.0mL)に溶解した溶液に10-メチル-9-(2,4,6-トリメチルフェニル)アクリジニウム過塩素酸塩(Mes-Acr-Me)(82.3μg,0.2μmol,1mol%)を加え、18WのLEDライト(波長425nm)を用いて光を照射した。光照射中、経時的にサンプリング(20μL)を行い、キラルHPLCによりエナンチオマー過剰率を算出した。キラルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0096】
-キラルHPLC条件-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=60/40
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0097】
【表4】
【0098】
表4に示すとおり、いずれの溶媒を用いた場合にも光ラセミ化が可能であり、特にアセトニトリルを用いた場合の光ラセミ化反応が速かった。
【0099】
<参考例5:TPTを担体に共有結合させた固相光増感剤の調製>
【化10】
【0100】
2,4,6-トリフェニルピリリウムテトラフルオロボラート(TPT)(0.40g,1.0mmol,1.0当量)を含有するエタノール溶液(10mL)に、酢酸ナトリウム(0.32g,4.0mmol,4.0当量)及びR-Cat-Sil TA(1.0g,1.0mmol,1.0当量;関東化学(株)製)を加え、80℃で終夜撹拌した。0℃に冷却した後、濾過し、残留物をメタノール及びジクロロメタンで洗浄した後、乾燥することにより、固相光増感剤2(1.12g)を得た。
【0101】
【化11】
【0102】
固相光増感剤2(0.50g)を含有するジクロロメタン溶液(10mL)に、無水酢酸(0.90mL,10.0mmol,20当量)及びピリジン(0.8mL,10.0mmol,20当量)を加え、室温で5時間撹拌した。濾過後、残留物をジクロロメタンで洗浄して乾燥することにより、固相光増感剤3(478mg)を得た。
【0103】
<参考例6:固相光増感剤2又は固相光増感剤3を用いた光ラセミ化の検討>
【化12】
【0104】
光学活性なスルホキシド化合物((+)-1)(1.54mg,0.01mmol)を含有するアセトニトリル溶液(1.0mL,0.01M)に固相光増感剤2(5mg)又は固相光増感剤3(5mg)を加え、分光蛍光光度計(波長310nm、(株)島津製作所製、RF-5300PC)を用いて光を照射した。光照射中、経時的にサンプリング(20μL)を行い、キラルHPLCによりエナンチオマー過剰率を算出した。キラルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0105】
-キラルHPLC条件-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=60/40
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0106】
固相光増感剤2及び固相光増感剤3を用いた場合のエナンチオマー過剰率の時間変化をそれぞれ図2及び図3に示す。図2及び図3に示すとおり、光増感剤を担体に固定化した場合であっても、効率的に光ラセミ化反応を進行させることができた。
【0107】
<参考例7:9,10-DCAを担体に共有結合させた固相光増感剤の調製>
【化13】
【0108】
アルゴン気流下、2-メチルアントラキノン(1.50g,6.75mmol)及びシアン化カリウム(22.0mg,0.38mmol,0.05当量)を含有するN,N-ジメチルホルムアミド溶液(6.7mL)に、トリメチルシリルシアニド(1.71mL,13.9mmol,2.05当量)を加え、室温で終夜撹拌した。反応終了後、アセトニトリル(30mL)を加え、続いて三臭化リン(1.54mL,16.2mmol,1.2当量)を加え、室温で終夜撹拌した。ジクロロメタンを加えて反応を停止した後、濾過し、濾液を濃縮して得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=1/1)で精製することにより、化合物6(200mg,0.826mmol,収率:12%)を得た。
【0109】
【化14】
【0110】
アルゴン気流下、化合物6(207mg,0.86mmol)を含有する四塩化炭素溶液(10mL)に、N-ブロモスクシンイミド(290mg,1.90mmol,2.0当量)及び過酸化ベンゾイル(10.0mg,0.04mmol,0.05当量)を加え、加熱還流下、7時間撹拌した。反応終了後、濃縮して得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=20/1)により精製し、化合物7を得た。得られた化合物7をジクロロメタン(9.3mL)に溶解し、アルゴン気流下、R-Cat-Sil TA(1.0g,1.0mmol,1.1当量;関東化学(株)製)及びトリエチルアミン(0.42mL,3.00mmol,3当量)を加え、室温で終夜撹拌した。濾過後、残留物を水、メタノール、ジクロロメタン、及び酢酸エチルで洗浄し、乾燥することにより、固相光増感剤8(1.23g)を得た。
【0111】
<参考例8:TPTを担体にイオン結合させた固相光増感剤の調製>
【化15】
【0112】
2,4,6-トリフェニルピリリウムテトラフルオロボラート(TPT)(0.20g,0.50mol)を含有する水溶液(60mL)にDOWEX 50Wx8(2.0g;富士フイルム和光純薬(株)製)を加え、室温で17時間撹拌した。濾過後、残留物を水、メタノール、ジクロロメタン、及びアセトニトリルで洗浄し、乾燥することにより、固相光増感剤9(1.70g)を得た。
【0113】
<参考例9:固相光増感剤9を用いた光ラセミ化の検討>
【化16】
【0114】
光学活性なスルホキシド化合物((+)-1)(1.54mg,0.01mmol)を含有するアセトニトリル溶液(1.0mL,0.01M)に固相光増感剤9(5mg)を加え、18WのLEDライト(波長425nm)を用いて光を照射した。光照射中、経時的にサンプリング(20μL)を行い、キラルHPLCによりエナンチオマー過剰率を算出した。キラルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0115】
-キラルHPLC条件-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=60/40
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0116】
固相光増感剤9の存在下で波長425nmの光を10分間照射することにより、エナンチオマー過剰率が99.2%eeから2.7%eeまで減少しており、光ラセミ化反応が効率的に進行していることが確認された。
【0117】
<参考例10:基質一般性の検討>
【化17】
【0118】
光学活性なスルホキシド化合物((+)-10a)(4.30mg,0.03mmol)を含有するアセトニトリル溶液(3.0mL,0.01M)に9,10-ジシアノアントラセン(9,10-DCA)(0.70mg,0.003mmol,10mol%)を加え、18WのLEDライト(波長425nm)を用いて光を照射した。光照射中、経時的にサンプリング(20μL)を行い、キラルHPLCによりエナンチオマー過剰率を算出した。また、(+)-10aの代わりに(+)-10b~10iを用いるほかは上記と同様の操作を行った。キラルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0119】
-キラルHPLC条件(10a~10d、10f~10h)-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=60/40
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0120】
-キラルHPLC条件(10e)-
カラム:CHIRALPACK IA(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/エタノール=50/50
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0121】
-キラルHPLC条件(10i)-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=80/20
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0122】
【表5】
【0123】
表5に示すとおり、いずれのスルホキシド化合物を用いた場合にも光ラセミ化が可能であった。
【符号の説明】
【0124】
1 エナンチオマー調製システム、10 光学分割部、20 光照射部
図1
図2
図3