(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】排ガス分析装置、排ガス分析方法、排ガス分析用プログラム及び機械学習装置
(51)【国際特許分類】
G01M 15/10 20060101AFI20230823BHJP
【FI】
G01M15/10
(21)【出願番号】P 2019107381
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】森 雄一
(72)【発明者】
【氏名】薮下 広高
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-311154(JP,A)
【文献】特開平08-062099(JP,A)
【文献】特開2017-142105(JP,A)
【文献】特開昭63-227948(JP,A)
【文献】特開昭63-289266(JP,A)
【文献】特開2012-241569(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102435440(CN,A)
【文献】特開2008-208723(JP,A)
【文献】米国特許第04823760(US,A)
【文献】特開2009-250935(JP,A)
【文献】特開2018-021525(JP,A)
【文献】特開平10-141147(JP,A)
【文献】特許第5196072(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出される排ガスを分析する排ガス分析装置であって、
前記排ガスに赤外光を照射する赤外光源と、
前記排ガスを透過した赤外光を検出する光検出器と、
前記光検出器により得られた検出信号に基づいて前記排ガス中のCO
2濃度を算出するCO
2濃度算出部と、
以下の(i)~(iii)のいずれかにより求まるEGR補正係数と、前記CO
2
濃度算出部で算出したCO
2
濃度とから、前記排ガス中のO
2濃度を算出するO
2濃度算出部とを備える、排ガス分析装置。
(i)予め取得した排気再循環システムのEGR率から求まるEGR補正係数。
(ii)排気再循環システムにおける吸気側のCO
2
濃度及び排気側のCO
2
濃度に基づき算出したEGR率から求まるEGR補正係数。
(iii)学習段階において、予め取得又は算出したEGR率と排ガス中のCO
2
濃度とに基づいてCO
2
濃度とEGR率との関係を示す関係式を学習し、
当該学習した関係式と、前記CO
2
濃度算出部で算出したCO
2
濃度と、を用いてEGR率を算出し、
当該算出により得られたEGR率から求まるEGR補正係数。
【請求項2】
前記O
2濃度算出部は、
燃料の燃焼反応式におけるO
2の係数とCO
2の係数との比から求まる変換係数と、前
記EGR補正係数と、前記CO
2濃度算出部で算出したCO
2濃度変化量とを用いて、前記排ガス中のO
2濃度を算出する、請求項1記載の排ガス分析装置。
【請求項3】
前記O
2濃度算出部は、下記式に基づいてO
2濃度を算出する、請求項2記載の排ガス分析装置。
[O
2濃度]=[元のO
2濃度]-[変換係数]×[EGR補正係数]×[CO
2濃度変化量]
【請求項4】
前記O
2濃度算出部は、EGR
率とCO
2濃度との関係を示す
前記関係式を予め記憶しており、当該関係式を用いて、前記CO
2濃度から前記EGR補正係数を算出する、請求項1乃至3の何れか一項に記載の排ガス分析装置。
【請求項5】
前記関係式の各パラメータは、予め取得されたEGR
率と、前記CO
2
濃度算出部又は他の分析装置により得られたCO
2濃度とを含む教師データを用いて機械学習により生成されるものである、請求項4記載の排ガス分析装置。
【請求項6】
前記内燃機関に接続された排気管に触媒が設けられており、前記触媒を通過した排ガスを分析するものであり、
前記O
2濃度算出部は、前記
EGR補正係数に加えて、前記触媒の酸素の放出量又は吸収量を示す値を用いて、前記排ガス中のO
2濃度を算出する請求項1乃至5の何れか一項に記載の排ガス分析装置。
【請求項7】
前記O
2濃度算出部は、
燃料の燃焼反応式におけるO
2の係数とCO
2の係数との比から求まる変換係数と、前
記EGR補正係数と、前記触媒の酸素の放出量又は吸収量を示す値から求まる触媒補正係数と、前記CO
2濃度算出部で算出したCO
2濃度変化量とを用いて、前記排ガス中のO
2濃度を算出する、請求項6記載の排ガス分析装置。
【請求項8】
前記O
2濃度算出部は、下記式に基づいてO
2濃度を算出する、請求項7記載の排ガス分析装置。
[O
2濃度]=[元のO
2濃度]-[変換係数]×[EGR補正係数]×[触媒補正係数]×[CO
2濃度変化量]
【請求項9】
前記O
2濃度算出部は、前記触媒の酸素の放出量又は吸収量を示す値とCO
2濃度との関係を示す関係式を予め記憶しており、当該関係式を用いて、前記CO
2濃度から触媒の酸素の放出量又は吸収量を示す値を算出する、請求項6乃至8の何れか一項に記載の排ガス分析装置。
【請求項10】
フーリエ変換型赤外分光法を用いたものである、請求項1乃至9の何れか一項に記載の排ガス分析装置。
【請求項11】
前記排ガス中のCO
2
濃度とO
2
濃度とを含む教師データを取得する教師データ取得部と、
取得した前記教師データを用いて機械学習を行い、学習済データを生成する機械学習部とをさらに備える請求項1乃至10のいずれか一項に記載の排ガス分析装置。
【請求項12】
前記O
2
濃度算出部が、前記排ガス中のCO
2
濃度とO
2
濃度とを含む教師データから機械学習により生成された学習済データ及びCO
2
濃度算出部により算出されたCO
2
濃度から前記排ガス中のO
2
濃度を算出する請求項1乃至11のいずれか一項に記載の排ガス分析装置。
【請求項13】
内燃機関から排出される排ガスを分析する排ガス分析方法であって、
前記排ガスに赤外光を照射して前記排ガス中のCO
2濃度を算出し、
以下の(i)~(iii)のいずれかにより求まるEGR補正係数と、算出したCO
2
濃度とから、前記排ガス中のO
2濃度を算出する、排ガス分析方法。
(i)予め取得した排気再循環システムのEGR率から求まるEGR補正係数。
(ii)排気再循環システムにおける吸気側のCO
2
濃度及び排気側のCO
2
濃度に基づき算出したEGR率から求まるEGR補正係数。
(iii)学習段階において、予め取得又は算出したEGR率と排ガス中のCO
2
濃度とに基づいてCO
2
濃度とEGR率との関係を示す関係式を学習し、
当該学習した関係式と、算出したCO
2
濃度と、を用いてEGR率を算出し、
当該算出により得られたEGR率から求まるEGR補正係数。
【請求項14】
内燃機関から排出される排ガスに赤外光を照射する赤外光源及び前記排ガスを透過した赤外光を検出する光検出器を有する排ガス分析装置に用いられるプログラムであって、
前記光検出器により得られた検出信号に基づいて前記排ガス中のCO
2濃度を算出するCO
2濃度算出部と、
以下の(i)~(iii)のいずれかにより求まるEGR補正係数と、前記CO
2
濃度算出部で算出したCO
2
濃度とから、前記排ガス中のO
2濃度を算出するO
2濃度算出部としての機能をコンピュータに備えさせることを特徴とするプログラム。
(i)予め取得した排気再循環システムのEGR率から求まるEGR補正係数。
(ii)排気再循環システムにおける吸気側のCO
2
濃度及び排気側のCO
2
濃度に基づき算出したEGR率から求まるEGR補正係数。
(iii)学習段階において、予め取得又は算出したEGR率と排ガス中のCO
2
濃度とに基づいてCO
2
濃度とEGR率との関係を示す関係式を学習し、
当該学習した関係式と、前記CO
2
濃度算出部で算出したCO
2
濃度と、を用いてEGR率を算出し、
当該算出により得られたEGR率から求まるEGR補正係数。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外光を用いて排ガス分析を行う排ガス分析装置、排ガス分析方法、排ガス分析用プログラム及び機械学習装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、排ガス中に含まれる成分を分析するものとしては、特許文献1に示すように、フーリエ変換型赤外分光法(FTIR)を用いたFTIR分析計が用いられている。このFTIR分析計により、排ガス中のCO、CO2、NO、H2O、NO2、C2H5OH、HCHO、CH4等の多成分を同時に分析することができる。
【0003】
しかしながら、FTIR分析計では、赤外線を吸収する成分を分析することはできるものの、赤外線を吸収しない成分を分析することができない。そのため、赤外線を吸収しないO2の濃度を測定する場合には、FTIR分析計とは別に、磁気圧法(PMD)又はジルコニア法を用いたO2計を設ける必要がある。その結果、FTIR分析計及びO2計の両方の設置スペースが必要となってしまい、排ガス分析装置が大型化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は上記の問題点を解決すべくなされたものであり、赤外光を用いた排ガス分析において、赤外光を吸収しないO2濃度を測定できるようにすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る排ガス分析装置は、内燃機関から排出される排ガスを分析する排ガス分析装置であって、前記排ガスに赤外光を照射する赤外光源と、前記排ガスを透過した赤外光を検出する光検出器と、前記光検出器により得られた検出信号に基づいて前記排ガス中のCO2濃度を算出するCO2濃度算出部と、燃料の燃焼反応式及び排気再循環システムのEGR率又はEGR率に関連する値を用いて、前記CO2濃度から前記排ガス中のO2濃度を算出するO2濃度算出部とを備えることを特徴とする。
【0007】
この排ガス分析装置であれば、O2濃度算出部が燃料の燃焼反応式及び排気再循環システムのEGR率又はEGR率に関連する値を用いて、排ガス中のO2濃度を算出するので、O2計を別途設けることなく、赤外光を吸収しないO2の濃度を測定することができる。その結果、排ガス分析装置を小型化して、低コスト化や可搬性の向上などを実現することができる。また、燃料の燃焼反応式だけでなく内燃機関の排気再循環システムの率又はEGR率に関連する値を用いているので、O2濃度を精度良く算出することができる。
【0008】
本発明の排ガス分析装置は、排気再循環システムを有さない内燃機関から排出される排ガスを分析することもできる。この場合、O2濃度算出部は、燃料の燃焼反応式を用いて、前記CO2濃度から前記排ガス中のO2濃度を算出することになる。
【0009】
具体的なO2濃度算出部の実施の態様としては、前記O2濃度算出部は、前記燃焼反応式におけるO2の係数とCO2の係数との比から求まる変換係数と、前記EGR率又はEGR率に関連する値から求まるEGR補正係数と、前記CO2濃度算出部で算出したCO2濃度変化量とを用いて、前記排ガス中のO2濃度を算出することが考えられる。
【0010】
前記EGR率に関連する値としては、排気再循環システムで戻されるガス濃度、つまり、直前のCO2濃度、直前のO2濃度、或いは、直前のH2O濃度を挙げることができる。ここで、直前の濃度は、所定時間前に測定された濃度である。
【0011】
前記O2濃度算出部は、前記燃焼反応式から決まる変換係数と、前記EGR率又はEGR率に関連する値から求まるEGR補正係数と、CO2濃度変化量とを用いて、前記CO2濃度から前記排ガス中のO2濃度を算出することが望ましい。
【0012】
具体的にO2濃度算出部は、下記式に基づいてO2濃度を算出する。
[O2濃度]=[元のO2濃度]-[変換係数]×[EGR補正係数]×[CO2濃度変化量]
【0013】
ここで、O2濃度算出部はEGR補正係数を求めるのに用いる前記EGR率又はEGR率に関連する値を次のように算出することが考えられる。つまり、前記O2濃度算出部は、EGR率とCO2濃度との関係を示す関係式、EGR率とEGR率に関連する値とCO2濃度との関係を示す関係式、又はEGR率に関連する値とCO2濃度との関係を示す関係式を用いて、前記CO2濃度から前記EGR率又はEGR率に関連する値を算出することが考えられる。
【0014】
前記関係式の各パラメータは、予め取得されたEGR率又はEGR率に関連する値と前記CO2濃度算出部又は他の分析装置により得られたCO2濃度とを含む教師データを用いて機械学習により生成されるものであることが考えられる。例えば、EGR率とCO2濃度との関係を示す関係式の各パラメータは、外部から取得したEGR率と前記CO2算出部又は他の分析装置により得られたCO2濃度とを含む教師データを用いて機械学習により生成することが考えられる。
【0015】
本発明の排ガス分析装置は、前記内燃機関に接続された排気管に触媒が設けられており、前記触媒を通過した排ガスを分析するものであっても良い。
この場合、前記O2濃度算出部は、前記燃焼反応式及び前記EGR率又はEGR率に関連する値に加えて、前記触媒の酸素の放出量又は吸収量を示す値を用いて、前記排ガス中のO2濃度を算出することが望ましい。
この構成であれば、触媒によるO2濃度の増減を考慮することができるので、O2濃度を精度良く算出することができる。
【0016】
前記O2濃度算出部は、前記燃焼反応式におけるO2の係数とCO2の係数との比から求まる変換係数と、前記EGR率又はEGR率に関連する値から求まるEGR補正係数と、前記触媒の酸素の放出量又は吸収量を示す値から求まる触媒補正係数と、前記CO2濃度算出部で算出したCO2濃度変化量とを用いて、前記排ガス中のO2濃度を算出することが望ましい。
【0017】
具体的に前記O2濃度算出部は、下記式に基づいてO2濃度を算出する。
[O2濃度]=[元のO2濃度]-[変換係数]×[EGR補正係数]×[触媒補正係数]×[CO2濃度変化量]
【0018】
ここで、O2濃度算出部は触媒補正係数を求めるのに用いる前記触媒の酸素の放出量又は吸収量を示す値を次のように算出することが考えられる。つまり、前記O2濃度算出部は、前記触媒の酸素の放出量又は吸収量を示す値とCO2濃度との関係を示す関係式を用いて、CO2濃度から触媒の酸素の放出量又は吸収量を示す値を算出することが考えられる。
【0019】
高分解能の赤外吸収スペクトルを得て、CO2濃度を精度良く求めるためには、フーリエ変換型赤外分光法を用いたものであることが望ましい。
【0020】
また、本発明に係る排ガス分析方法は、内燃機関から排出される排ガスを分析する排ガス分析方法であって、前記排ガスに赤外光を照射して前記排ガス中のCO2濃度を算出し、燃料の燃焼反応式及び排気再循環システムのEGR率又はEGR率に関連する値を用いて、前記CO2濃度から前記排ガス中のO2濃度を算出することを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明の排ガス分析装置に好適に用いることができる機械学習装置は、内燃機関から排出される排ガスに赤外光を照射して前記排ガスを透過した赤外光を検出し、その検出信号に基づいて前記排ガスを分析するために用いられる機械学習装置であって、前記排ガス中のCO2濃度とO2濃度とを含む教師データを取得する教師データ取得部と、取得した前記教師データを用いて機械学習を行い、学習済データを生成する機械学習部とを備えることを特徴とする。
【0022】
その上、本発明に係る排ガス分析装置は、内燃機関から排出される排ガスを分析する排ガス分析装置であって、前記排ガスに赤外光を照射する赤外光源と、前記排ガスを透過した赤外光を検出する光検出器と、前記光検出器により得られた検出信号に基づいて前記排ガス中のCO2濃度を算出するCO2濃度算出部と、前記排ガス中のCO2濃度とO2濃度とを含む教師データから機械学習により生成された学習済データ及びCO2濃度算出部により算出されたCO2濃度から前記排ガス中のO2濃度を算出するO2濃度算出部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上に述べた本発明によれば、赤外光を用いた排ガス分析において、赤外光を吸収しないO2濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る排ガス測定システムの全体模式図である。
【
図2】同実施形態の排ガス分析装置の構成を示す模式図である。
【
図3】同実施形態の演算処理装置の機能ブロック図である。
【
図4】変形実施形態の演算処理装置の機能ブロック図である。
【
図5】変形実施形態の演算処理装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係る排ガス分析装置について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
本実施形態の排ガス分析装置100は、例えば排ガス測定システム200の一部を構成するものである。この排ガス測定システム200は、
図1に示すように、シャシダイナモ300と、シャシダイナモ300上を走行する供試体である試験車両VHの排ガスを希釈することなくダイレクトにサンプリングする排ガス採取装置400と、サンプリングされた排ガス中の測定対象成分を分析する排ガス分析装置100とを備えている。なお、供試体の試験車両Vは、排気再循環(EGR)システムを有する内燃機関Eを有している。
【0027】
具体的に排ガス分析装置100は、
図2に示すように、赤外光源1、干渉計(分光部)2、測定セル3、光検出器4、演算処理装置5等を具備した、フーリエ変換型赤外分光法(FTIR)を用いた分析装置である。
【0028】
赤外光源1は、ブロードなスペクトルを有する赤外光(多数の波数の光を含む連続光)を射出するものであり、例えばタングステン・ヨウ素ランプや、高輝度セラミック光源が用いられる。
【0029】
干渉計2は、同図に示すように、1枚のハーフミラー(ビームスプリッタ)21、固定鏡22及び移動鏡23を具備した、いわゆるマイケルソン干渉計を利用したものである。この干渉計2に入射した赤外光源1からの赤外光は、ハーフミラー21によって反射光と透過光に分割される。一方の光は固定鏡22で反射され、もう一方は移動鏡23で反射されて、再びハーフミラー21に戻り、合成されて、この干渉計2から射出される。
【0030】
測定セル3は、サンプリングされた排ガスが導入される透明セルであり、干渉計2から出た光が、測定セル3内の排ガスを透過して光検出器4に導かれるようにしてある。
【0031】
光検出器4は、排ガスを透過した赤外光を検出して、その検出信号(光強度信号)を演算処理装置5に出力するものである。本実施形態の光検出器4は、MCT(HgCdTe)検出器であるが、その他の赤外線検出素子を有する光検出器であっても良い。
【0032】
演算処理装置5は、バッファ、増幅器などを有したアナログ電気回路と、CPU、メモリ、DSPなどを有したデジタル電気回路と、それらの間に介在するA/Dコンバータ等を有したものである。
【0033】
この演算処理装置5は、メモリに格納した所定プログラムにしたがってCPUやその周辺機器が協動することにより、
図3に示すように、試料を透過した光のスペクトルを示す透過光スペクトルデータを光検出器4の検出信号から算出し、透過光スペクトルデータから赤外吸収スペクトルデータを算出して、排ガス中の種々の成分を特定し、かつそれぞれの成分濃度を算出する主分析部51としての機能を発揮する。
【0034】
この主分析部51は、スペクトルデータ生成部511と、CO2濃度算出部として機能する個別成分分析部512とを具備している。
【0035】
移動鏡23を進退させ、排ガスを透過した光強度を移動鏡23の位置を横軸にとって観測すると、単波数の光の場合、干渉によって光強度はサインカーブを描く。一方、排ガスを透過した実際の光は連続光であり、前記サインカーブは波数毎に異なるから、実際の光強度は、各波数の描くサインカーブの重ね合わせとなり、干渉パターン(インターフェログラム)は波束の形となる。
【0036】
スペクトルデータ生成部511は、移動鏡23の位置を例えば図示しないHeNeレーザなどの測距計(図示しない)によって求めるとともに、移動鏡23の各位置における光強度を光検出器4によって求め、これらから得られる干渉パターンを高速フーリエ変換(FFT)することによって、各波数成分を横軸とした透過光スペクトルデータに変換する。そして、例えば測定セルが空の状態で予め測定しておいた透過光スペクトルデータに基づいて、排ガスの透過光スペクトルデータを赤外吸収スペクトルデータにさらに変換する。
【0037】
個別成分分析部512は、例えば赤外吸収スペクトルデータの各ピーク位置(波数)及びその高さから測定試料に含まれる種々の成分(例えばCO、CO2、NO、H2O、NO2等)を特定し、かつそれぞれの成分の濃度を算出する。
【0038】
しかして、本実施形態では、赤外線を吸収しない排ガス成分であるO2の濃度を算出できるように、演算処理装置5がO2濃度算出部52等として機能を有する。
【0039】
O2濃度算出部52は、燃料の燃焼反応式を用いて、CO2濃度算出部である個別成分分析部512により得られたCO2濃度から、排ガス中のO2濃度を算出する。なお、燃料の燃焼反応式は、燃料を燃焼させた際に発生するCO2とH2Oとの関係を示すものである。
【0040】
このO2濃度算出部52は、以下の条件を前提として、排ガス中のO2濃度を算出する。
(1)燃料である炭化水素(CxHy)は完全燃焼している(不完全燃焼を無視し、CO生成反応で生じるO2は無視できるほど少ない。)。
(2)NOx、SOxの生成量は少ない(それらを還元する反応で生じされるO2は無視できるほど少ない。)。
(3)燃料に含まれるアルコール等のO成分は無視できるほど少ない。
(4)燃料である炭化水素(CxHy)のx、yは一定(実際には、各炭化水素量による重み付け平均値が一定)である。
【0041】
そして、O2濃度算出部52は、以下の燃焼反応式を用いて、CO2濃度からO2濃度を算出することができる。
【0042】
【0043】
具体的にO2濃度算出部52は、以下の換算式を用いて、CO2濃度からO2濃度を算出する。
【0044】
[O2濃度]=[元のO2濃度]-[変換係数]×[CO2濃度変化量]
【0045】
ここで、[元のO2濃度]は、エンジンに吸気される空気中のO2濃度(反応前の初期濃度、例えば20.7%)である。
[CO2濃度変化量]は、[燃焼反応によって生じるCO2濃度]-[反応前の空気中のCO2濃度]である。
本実施形態では、[反応前の空気中のCO2濃度]が390ppm程度であり、[燃焼反応によって生じるCO2濃度]に比べて非常に小さいため、[CO2濃度変化量]を[燃焼反応によって生じるCO2濃度]、つまり、CO2濃度算出部である個別成分分析部512により得られたCO2濃度としている。
[変換係数]は、完全燃焼反応において消費されるO2と生成されるCO2の比を表しており、上記の燃焼反応式におけるO2の係数(x+y/4)とCO2の係数xとから求まる。この[変換係数]は、例えばガソリンでは1.5程度である。つまり、上記の換算式において、[変換係数]×[CO2濃度変化量]は、完全燃焼反応において生じるO2濃度の変化を示している。
【0046】
なお、O2濃度算出部52は、H2O濃度を加味した以下の換算式を用いてO2濃度を算出するものであっても良い。これにより、燃焼反応式における全モル数変化を考慮することになり、O2濃度の精度を向上することができる。
【0047】
[O2濃度]=[元のO2濃度]-[変換係数1]×[CO2濃度変化量]-[変換係数2]×[H2O濃度変化量]
【0048】
[変換係数1]は、上述した[変換係数]と同様であり、完全燃焼反応において生じされるO2と生成されるCO2の比を表しており、上記の燃焼反応式におけるO2の係数(x+y/4)とCO2の係数xとから求まる。
[変換係数2]は、完全燃焼反応において消費されるO2と生成されるH2O濃の比を表しており、上記の燃焼反応式におけるO2の係数(x+y/4)とH2O濃の係数y/2とから求まる。
【0049】
上記の換算式は、燃焼反応式のみに着目したものであるが、実際の内燃機関Eには、排気再循環(EGR)システムが設けられている場合があり、また、内燃機関Eに接続された排気管EPには、三元触媒等の触媒(CAT)が設けられている。
【0050】
このため、O2濃度算出部52は、排気再循環(EGR)システムの動作状態を示すEGRモデルを加味したO2濃度を算出する機能と、触媒(CAT)の触媒反応を触媒モデルを加味したO2濃度を算出する機能とを有している。
【0051】
O2濃度算出部52は、EGRモデルを加味したO2濃度を算出する場合には、以下の換算式を用いて、CO2濃度からO2濃度を算出する。
【0052】
[O2濃度]=[元のO2濃度]-[変換係数]×[EGR補正係数]×[CO2濃度変化量]
【0053】
ここで、[EGR補正係数]は、EGRモデルにより決まる係数であり、EGR率をパラメータとする。
本実施形態の[EGR補正係数]は、EGR率とCO2濃度との関係を示す関係式から求めたEGR率から求まる。
【0054】
なお、EGR率に関する関係式は、吸気側のCO2濃度と排気側のCO2濃度とから求めたEGR率と、CO2算出部(個別成分分析部512)のCO2濃度との関係を最小二乗法等で近似することにより求めることができる。また、関係式は、例えばシグモイド関数等を用いて設定しても良い。さらに、関係式は、外部から取得したEGR率とCO2算出部(個別成分分析部512)のCO2濃度とを含む教師データを用いて関係式の各係数を機械学習により求めることもできる。
【0055】
なお、O2濃度算出部52は、[EGR補正係数]に加えて、直前のO2濃度、直前のCO2濃度等をパラメータとする関数fを加えて、O2濃度をより精度よく推定するものであっても良い。
【0056】
[O2濃度]=[元のO2濃度]-[変換係数]×[EGR補正係数]×[CO2濃度変化量]+f(直前のCO2濃度,直前のO2濃度,直前のH2O濃度,EGR率r)
【0057】
ここで関数fは、単純には例えば、r×[EGR補正係数2]×[直前のO2濃度]+r×[EGR補正係数3]×[直前のCO2濃度]+r×[EGR補正係数4]×[直前のH2O濃度]で表すことができる。なお、直前とは、例えば1秒未満である。
【0058】
O2濃度算出部52は、触媒モデルを加味したO2濃度を算出する場合には、以下の換算式を用いて、CO2濃度からO2濃度を算出する。
【0059】
[O2濃度]=[元のO2濃度]-[変換係数]×[触媒補正係数]×[CO2濃度変化量]
【0060】
ここで、[触媒補正係数]は、触媒モデルにより決まる係数であり、触媒の酸素の放出量及び吸収量の両方をまとめて補正する補正係数であってもよいし、触媒の酸素の放出量及び吸収量それぞれを個別に補正する個別の補正係数であっても良い。
【0061】
個別の補正係数の場合には、例えば次のように求めることができる。
触媒の酸素の放出量を補正する補正係数は、触媒の酸素の放出量を示す値とCO2濃度との関係を示す関係式から求めた触媒の酸素の放出量を示す値から求める。触媒の酸素の放出量を示す値は、例えば、触媒における気相中のO2との反応割合である。
【0062】
なお、放出量に関する関係式は、触媒における気相中のO2との反応割合とCO2算出部(個別成分分析部512)のCO2濃度との関係を実験的に求め、その関係を最小二乗法等で近似することにより求めることができる。また、関係式は、例えばシグモイド関数等を用いて設定しても良い。さらに、関係式は、外部から取得した反応割合とCO2算出部(個別成分分析部512)のCO2濃度とを含む教師データを用いて関係式の各係数を機械学習により求めることもできる。その他、関係式は、O2濃度をパラメータとする関数としても良いが、この場合は、変換式全体を[O2濃度]について解いて、右辺から[O2濃度]を除去することが考えられる。
【0063】
また、触媒の酸素の吸収量を加味した補正係数は、触媒の酸素の吸収量を示す値とCO2濃度との関係を示す関係式から求めた触媒の酸素の吸収量を示す値から求める。触媒の酸素の吸収量を示す値は、例えば、酸素取り込み可能な触媒上の欠損サイト割合である。
【0064】
なお、吸収量に関する関係式は、酸素取り込み可能な触媒上の欠損サイト割合とCO2算出部(個別成分分析部512)のCO2濃度との関係を実験的に求め、その関係を最小二乗法等で近似することにより求めることができる。また、関係式は、例えばシグモイド関数等を用いて設定しても良い。さらに、関係式は、外部から取得した触媒上の欠損サイト割合とCO2算出部(個別成分分析部512)のCO2濃度とを含む教師データを用いて関係式の各係数を機械学習により求めることもできる。その他、関係式は、O2濃度をパラメータとする関数としても良いが、この場合は、変換式全体を[O2濃度]について解いて、右辺から[O2濃度]を除去することが考えられる。
【0065】
また、O2濃度算出部52は、上記のように、EGRモデルを加味したO2濃度と、触媒モデルを加味したO2濃度とを別々に算出する構成について説明したが、EGRモデル及び触媒モデルの両方を加味したO2濃度を算出するようにしても良い。
【0066】
O2濃度算出部52は、EGRモデル及び触媒モデルの両方を加味したO2濃度を算出する場合には、以下の換算式を用いて、CO2濃度からO2濃度を算出する。
【0067】
[O2濃度]=[元のO2濃度]-[変換係数]×[EGR補正係数]×[触媒補正係数]×[CO2濃度変化量]
【0068】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態の排ガス分析装置100によれば、O2濃度算出部52が燃料の燃焼反応式及び排気再循環(EGR)システムの動作状態を示すEGRモデルを用いて、排ガス中のO2濃度を算出するので、O2計を別途設けることなく、赤外光を吸収しないO2の濃度を測定することができる。その結果、排ガス分析装置100を小型化して、低コスト化や可搬性の向上などを実現することができる。また、内燃機関Eの排気再循環(EGR)システムの動作状態を示すEGRモデルを用いているので、O2濃度を精度良く算出することができる。
【0069】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0070】
例えば、前記実施形態では、[変換係数]とは別に[EGR補正係数]と「触媒補正係数」とを求める形態であったが、[変換係数]と[EGR補正係数]とを合わせて1つの係数として求めてもよいし、[変換係数]と[触媒補正係数]とを合わせて1つの係数として求めても良い。また、[変換係数]と[EGR補正係数]と「触媒補正係数」とを合わせて1つの係数として求めても良い。
【0071】
前記実施形態のO2濃度算出部52が、燃焼反応式のみを加味したO2濃度の算出機能と、EGRモデルを加味したO2濃度の算出機能と、触媒モデルを加味したO2濃度の算出機能と、EGRモデル及び触媒モデルを加味したO2濃度の算出機能とで切り替えるように構成しても良い。この場合、切り替える態様は、ユーザが切替信号を入力することにより切り替えるようにしても良いし、個別成分分析部512によりにより得られたCO2濃度等の成分濃度に基づいて、上記の各算出機能を切り替えるようにしても良い。
【0072】
また、演算処理装置5は、
図4に示すように、燃料の種類毎の[変換係数]、[EGR補正係数]又は[触媒補正係数]を記憶する記憶部53を有しており、O
2濃度算出部52が燃料の種類に応じて[変換係数]、[EGR補正係数]又は[触媒補正係数]を選択して、その選択した[変換係数]、[EGR補正係数]又は[触媒補正係数]を用いてO
2濃度を算出するようにしても良い。
【0073】
EGRモデルを加味したO2濃度の算出機能において、[O2濃度]=[元のO2濃度]-[変換係数]×[CO2濃度変化量]の換算式を用いて反応式換算後のO2濃度を算出し、その反応式換算後のO2濃度を、EGRモデルを用いて補正するようにしても良い。同様に、EGRモデルを加味したO2濃度の算出機能において、[O2濃度]=[元のO2濃度]-[変換係数]×[CO2濃度変化量]の換算式を用いて反応式換算後のO2濃度を算出し、その反応式換算後のO2濃度を、触媒モデルを用いて補正するようにしても良い。
【0074】
前記実施形態のO2算出部52は、CO2濃度からO2濃度を算出するものであったが、個別成分分析部512により得られたH2O濃度と燃焼反応式とを用いてO2濃度を算出するようにしても良い。この場合、CO2濃度から求めたO2濃度とH2O濃度から求めたO2濃度とから、それらを重み付け平均するなどにより平均O2濃度を算出するようにしても良い。
【0075】
その上、例えばFTIR計によって測定されたCO2濃度とFID計によって測定されたO2濃度と含む教師データを用いて機械学習を行う機械学習装置を用いてO2濃度を算出するようにしても良い。
【0076】
具体的に機械学習装置は、燃料の燃焼反応式及びEGRにおける各原子の保存則の関係と、FTIR計によって測定されたCO2濃度とFID計によって測定されたO2濃度を含む教師データを用いて機械学習を行う。
【0077】
また、教師データには、FTIR計によって測定されるH2O、CO、NO、NO2、N2Oなどの濃度、EGR計によって得られるEGR率、測定条件等の周辺状況を含めてもよい。ここで、周辺状況として、例えば、測定試料の温度及び圧力等の物理的属性に係る値、エンジンの燃焼情報(過給、EGR、リッチ/ストイキ/リーン、層流、均一流、直噴、ポート噴射などに係る情報)、エンジンのヘッド形状、点火時期、触媒の構成、燃料の酸素量、無機ガス成分、Soot濃度、SOF濃度、エンジン型式、エンジン回転数、負荷情報、ホットスタート、コールドスタート、触媒温度、ギア比等を挙げることができる。機械学習モデルにより表される相関は、これらの周辺状況の一部又は全部をパラメータとしていてもよい。また、O2計で取得されるO2濃度に影響を強く及ぼす(つまり関連の高い)周辺状況のみをパラメータとしていてもよい。
【0078】
そして、排ガス分析装置100の演算処理装置5は、
図5に示すように、前記機械学習装置により得られた学習済データを記憶する記憶部53を有しており、O
2濃度算出部52が、学習済データとCO
2濃度算出部(個別成分分析部512)のCO
2濃度等とを用いて、O
2濃度を算出する。
【0079】
また、排ガス分析装置100のO2濃度算出部52は、EGR率又はEGR率に関連する値を用いることなく、燃焼反応式及び触媒の酸素の放出量又は吸収量を示す値を用いて、排ガス中のO2濃度を算出するものであっても良い。
【0080】
前記実施形態のO2濃度算出部52は、燃料が完全燃焼していることを前提として排ガス中のO2濃度を算出するものであったが、燃料が不完全燃焼であることを前提として排ガス中のO2濃度を算出するものであっても良い。
【0081】
さらに、前記実施形態の排ガス測定システム200は、シャシダイナモを用いて完成車両Vを試験するものであったが、例えばエンジンダイナモメータを用いてエンジンの性能を試験するものであっても良いし、ダイナモメータを用いてパワートレインの性能を試験するものであっても良い。
【0082】
前記実施形態の排ガス分析装置は、FTIR法を用いたものであったが、赤外光を用いる他の分析方法、例えば、非分散型赤外吸収(NDIR)法を用いたものであってもよい。
【0083】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0084】
100・・・排ガス分析装置
1 ・・・赤外光源
4 ・・・光検出器
512・・・個別成分分析部(CO2濃度算出部)
52 ・・・O2濃度算出部