(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】マルチコアファイバ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/02 20060101AFI20230823BHJP
G02B 6/032 20060101ALI20230823BHJP
C03B 37/012 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
G02B6/02 461
G02B6/032 Z
G02B6/02 466
C03B37/012 A
(21)【出願番号】P 2019567184
(86)(22)【出願日】2019-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2019002446
(87)【国際公開番号】W WO2019146750
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2018010235
(32)【優先日】2018-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武笠 和則
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-195800(JP,A)
【文献】特表2017-513798(JP,A)
【文献】特開2012-230156(JP,A)
【文献】特開2013-167861(JP,A)
【文献】特開2014-098832(JP,A)
【文献】特開2015-121642(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159385(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/118132(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0043878(US,A1)
【文献】特開2012-203035(JP,A)
【文献】特開2015-045705(JP,A)
【文献】特開2012-222613(JP,A)
【文献】特開2011-180243(JP,A)
【文献】国際公開第2012/172997(WO,A1)
【文献】特開2013-020074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02
G02B 6/032
C03B 37/012
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコア部と、
前記複数のコア部の外周に形成されたクラッド部と、を備え、
前記クラッド部は、前記複数のコア部のうち隣接する2つのコア部の間にそれぞれ配置された1つの空孔を有し、前記2つのコア部のそれぞれから前記空孔までの距離が異なり、
前記複数のコア部は整列配置されており、各コア部の近傍側に前記空孔が複数配置されている
ことを特徴とするマルチコアファイバ。
【請求項2】
Nを3以上6以下の整数として、前記複数のコア部はN個のコア部と隣接するように配置されており、各コア部の近傍側に配置された前記空孔がN以下配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載のマルチコアファイバ。
【請求項3】
前記空孔が3つの場合、前記コア部の周りで隣接する2つの空孔の成す角が60度又は120度である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のマルチコアファイバ。
【請求項4】
前記複数のコア部のケーブルカットオフ波長が1530nm以下である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のマルチコアファイバ。
【請求項5】
Nを3以上の整数として、コア部と該コア部の外周に形成されたクラッド部とを備える複数のコアロッドを、N個のコアロッドと隣接するように配置して初期母材を形成する初期母材形成工程と、
前記初期母材から光ファイバを作製する光ファイバ作製工程と、
を含み、前記複数のコアロッドは、それぞれN以下の空孔を有しており、前記初期母材形成工程において、前記複数のコアロッドを、2つの隣接するコア部の間に1つの空孔が位置するように配置し、
前記Nが6であり、前記複数のコアロッドは、3つの空孔を有している
ことを特徴とするマルチコアファイバの製造方法。
【請求項6】
前記空孔
が3つの場合、前記コア部の周りで隣接する2つの空孔の成す角が60度又は120度である
ことを特徴とする請求項5に記載のマルチコアファイバの製造方法。
【請求項7】
前記初期母材形成工程は、スタック法によって前記複数のコアロッドを配置する工程を含む
ことを特徴とする請求項5または6に記載のマルチコアファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチコアファイバ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のコア部を有する光ファイバであるマルチコアファイバが知られている。マルチコアファイバにおいて、ゲルマニウム(Ge)やフッ素(F)等のドーパントを添加して屈折率を制御したコア部の周囲の適切な位置に空孔を設けることで、コア部間の光のクロストーク(XT)特性を改善する技術が開示されている(非特許文献1)。また、空孔構造をコア部の間に選択的に設けることで効率的にXTを抑制する技術が開示されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】K.Saitoh et al, “Multi-core hole-assisted fibers for high core density space division multiplexing”, OECC 2010, 7C2-1 (2010)
【文献】B.Yao et al., “Reduction of Crosstalk by Hole-Walled Multi-Core Fiber” OFC 2012, paper OM2D.5. (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1の技術では、コア部とクラッド部とを有するコアロッドのクラッド部に、コア部を中心として正六角形状に配置された空孔を形成したものを複数準備し、これらのコアロッドを正六角形状及び正六角形状の中心位置に配置し、公知のスタックアンドドロー法によってマルチコアファイバを製造する。しかしながら、この製造方法では、1つのコアロッドにおいて1つのコア部に対して6個の空孔を形成する。そのため、コア部の数の6倍という多数の空孔に対して、ドロー工程において空孔が塞がれないようにガスを流す等して空孔径を制御しなければならないため、緻密な制御を行うためには工程が複雑になる。そのように制御が複雑なため、製造されたマルチコアファイバにおいて所望のクロストークが得られない場合もある。
【0005】
一方、非特許文献2の技術では、隣接するコア部の中間に空孔構造が配置されるので、マルチコアファイバの製造の際にスタックアンドドロー法を適用することが困難である。すなわち、スタックアンドドロー法を適用する場合には、コアロッドの間に空孔形成用の中空のキャピラリを配置する等の煩雑な技術を用いる必要がある。その結果、空孔の位置精度が低下し、製造されたマルチコアファイバにおいて所望のクロストークが得られない場合がある。一方、非特許文献2の技術において、公知の穿孔法を用いて空孔構造を形成することも考えられる。しかし、この場合、中実なマルチコア母材を形成してから空孔構造を形成する必要があり、工程が複雑化する場合がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡易な構造でコア部間のクロストークが抑制されたマルチコアファイバ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、複数のコア部と、前記複数のコア部の外周に形成されたクラッド部と、を備え、前記クラッド部は、前記複数のコア部のうち隣接する2つのコア部の間にそれぞれ配置された1つの空孔を有し、前記2つのコア部のそれぞれから前記空孔までの距離が異なることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、前記複数のコア部は整列配置されており、各コア部の近傍側に前記空孔が複数配置されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、Nを3以上の整数として、前記複数のコア部はN個のコア部と隣接するように配置されており、各コア部の近傍側に配置された前記空孔がN以下配置されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、前記Nが6であり、1、2又は3つの前記空孔が配置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、前記空孔が2又は3つの場合、前記コア部の周りで隣接する2つの空孔の成す角が60度又は120度であることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、前記複数のコア部のケーブルカットオフ波長が1530nm以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係るマルチコアファイバの製造方法は、コア部と該コア部の外周に形成されたクラッド部とを備える複数のコアロッドを、整列配置して初期母材を形成する初期母材形成工程と、前記初期母材から光ファイバを作製する光ファイバ作製工程と、を含み、前記複数のコアロッドは、複数の空孔を有しており、前記初期母材形成工程において、前記複数のコアロッドを、2つのコア部の間に1つの空孔が位置するように配置することを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係るマルチコアファイバの製造方法は、Nを3以上の整数として、コア部と該コア部の外周に形成されたクラッド部とを備える複数のコアロッドを、N個のコアロッドと隣接するように配置して初期母材を形成する初期母材形成工程と、前記初期母材から光ファイバを作製する光ファイバ作製工程と、を含み、前記複数のコアロッドは、それぞれN以下の空孔を有しており、前記初期母材形成工程において、前記複数のコアロッドを、2つのコア部の間に1つの空孔が位置するように配置することを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係るマルチコアファイバの製造方法は、前記Nが6であり、前記複数のコアロッドは、1、2又は3つの空孔を有していることを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係るマルチコアファイバの製造方法は、前記空孔が2又は3つの場合、前記コア部の周りで隣接する2つの空孔の成す角が60度又は120度であることを特徴とする。
【0017】
本発明の一態様に係るマルチコアファイバの製造方法は、前記初期母材形成工程は、スタック法によって前記複数のコアロッドを配置する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれは、簡易な構造でコア部間のクロストークが抑制されるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施形態1に係るマルチコアファイバの模式的断面図である。
【
図2】
図2は、コア部と空孔との位置関係を説明する図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すマルチコアファイバの製造方法を説明する図である。
【
図4】
図4は、
図1に示すマルチコアファイバの製造方法を説明する図である。
【
図5】
図5は、
図1に示すマルチコアファイバの製造方法を説明する図である。
【
図8】
図8は、マルチコアファイバの製造方法の変形例1を説明する図である。
【
図9】
図9は、マルチコアファイバの製造方法の変形例2を説明する図である。
【
図10】
図10は、マルチコアファイバの製造方法の変形例2を説明する図である。
【
図11】
図11は、マルチコアファイバの製造方法の変形例3を説明する図である。
【
図12】
図12は、マルチコアファイバの製造方法の変形例4を説明する図である。
【
図13】
図13は、マルチコアファイバの製造方法の変形例5を説明する図である。
【
図14】
図14は、実施形態2に係るマルチコアファイバの模式的断面図である。
【
図15】
図15は、従来のトレンチ型マルチコアファイバの計算データ群、及び実施形態2におけるクロストークシミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図16】
図16は、実施形態2に係るマルチコアファイバの製造方法によって得られた光ファイバの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一又は対応する構成要素には適宜同一の符号を付している。また、本明細書においては、カットオフ波長とは、ITU-T(国際電気通信連合)G.650.1で定義するケーブルカットオフ波長をいう。また、その他、本明細書で特に定義しない用語についてはITU-T G.650.1における定義、測定方法に従うものとする。
【0021】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るマルチコアファイバの模式的断面図である。マルチコアファイバ10は、複数のコア部11と、コア部11の外周に形成されたクラッド部12とを備えている。本実施形態1ではコア部11の数は139である。コア部11は、三角格子状に配置されている。すなわち、正三角形状に3つのコア部11が配置されている。この配置は、正六角形状に配置された6つのコア部11の中心に1つのコア部11が配置された形状(すなわち、六方最密状)とも言える。
【0022】
コア部11とクラッド部12とは、いずれも石英系ガラスからなる。クラッド部12は、コア部11の屈折率よりも低い屈折率を有する。例えば、コア部11は、屈折率を高めるドーパントであるGeが添加された石英ガラスからなる。一方、クラッド部12は、屈折率調整用のドーパントを含まない純石英ガラスからなる。コア部11の屈折率分布は例えばステップインデックス型であるが、W型、W-seg型、トレンチ型などとすることも可能であり、特に限定はされない。なお、本実施形態では、各コア部11の屈折率分布が同一であるとする。
【0023】
クラッド部12は、複数の空孔13を有している。空孔13は、或るコア部11の周りで隣接する2つの空孔13の成す角が60度となるように、クラッド部12に形成されている。
図2は、コア部11と空孔13との位置関係を説明する図である。複数のコア部11のうちの隣接する2つのコア部をコア部11a,11bとすると、クラッド部12は、隣接する2つのコア部11a,11bの間に配置された1つの空孔13を有している。なお、特定のコア部11に隣接するコア部11とは、当該特定のコア部11との距離が最も小さいコア部のことであり、マルチコアファイバ10ではその数は最大6である。
【0024】
2つのコア部11a,11bのそれぞれから空孔13までの距離La,Lbは互いに異なる。このように、距離La,Lbが互いに異なるので、空孔13が2つのコア部11a,11bのそれぞれの屈折率分布による光閉じ込めに与える影響も互いに異なる。その結果、2つのコア部11a,11bは、屈折率分布が同一であっても、空孔13の影響によって、実効屈折率が互いに異なるものとなる。従って、2つのコア部11a,11bは屈折率分布が互いに異なるコア部(異種コア部)と見なせる。これにより、2つのコア部11a,11bの間の光のクロストークは、空孔13が存在しない場合、あるいは空孔13がクラッド部12の材質で充填されている場合のクロストークよりも小さくなる。また、2つのコア部11a,11bの間の光のクロストークは、距離La,Lbが等しい場合のクロストークよりも小さくなる。
【0025】
すなわち、マルチコアファイバ10では、2つのコア部11a,11bで1つの空孔13を共有することとなり、簡易な構造でクロストークが抑制される。
【0026】
なお、このようにコア部11の数が多いマルチコアファイバ10では、空孔13は、或るコア部11とそれ以外のコア部11との間で発生するクロストークが望ましい値に抑制されるように、適切に配置されていることが望ましい。その場合に注意すべきことは、空孔13の数が増えると、コア部11におけるケーブルカットオフ波長(λcc)が長くなるので、λccが使用波長よりも短くなるように空孔径や空孔配置を設計することである。例えば、マルチコアファイバ10の中心軸に最も近くに配置されたコア部11は、クロストークの影響を受ける他のコア部11の数が多く、λccに影響する空孔13の数も多い。従って、そのような中心軸近のコア部11でも、使用波長よりもλccが短く、シングルモード伝搬が実現できるように、空孔径や空孔配置を設計することが好ましい。λccは、例えば1530nm以下であれば、1.55μm波長帯を使用波長とする場合にシングルモード伝搬が実現されるので好ましく、1500nm以下であればより好ましい。
【0027】
(製造方法)
次に、マルチコアファイバ10の製造方法について、公知のスタック法を用いる場合を例として説明する。
【0028】
はじめに、公知のVAD(Vapor-phase Axial Deposition)法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法(プラズマCVDやModified CVD)を用いてコアロッドを作製し、コアロッドに3つの空孔を穿孔法にて形成し、火炎延伸や線引きなどで、空孔構造を維持したまま延伸する。
【0029】
つづいて、コアロッドをスタックする。例えば、
図3及び
図4には、コア部1とコア部の外周に形成されたクラッド部2とを備え、クラッド部2が3つの空孔3を有するコアロッド4を示している。ここで、3つの空孔3は、コア部1の周りで隣接する2つの空孔3の成す角が60度となるように、クラッド部2に形成されている。コア部1、クラッド部2は、それぞれマルチコアファイバ10のコア部11、クラッド部12と同じ材質からなる。
【0030】
(初期母材形成工程)
図3及び
図4に示すように、複数のコアロッド4を準備し、コアロッド4を横に並べて整列配置させ、さらにスタックする。このとき、各コアロッド4の軸周りの回転位置を調整して、隣接する2つのコア部1の間に1つの空孔3が配置されるようにする。このように各コアロッド4を配置する工程を有することで、2つのコア部1,1で1つの空孔13を共有することとなる。従って、非特許文献1のように1つのコアロッドに正六角形状の配置で空孔を形成するよりも、形成すべき空孔の数が少なくてよく、具体的には半分でよい。その結果、製造の煩雑さが抑制される。
【0031】
コアロッド4のスタックは、
図5に示すような、クラッド部2と同じ材質からなるガラスチューブ5内に、コアロッド4を順次挿入して行ってもよいし、コアロッド4をスタックして束ねてガラスチューブ5内に挿入してもよい。これにより、
図5に示すような、コアロッド4が六方最密状を成すように配置された初期母材を形成する。
【0032】
(光ファイバ作製工程)
この初期母材を、内部のスタック構造が維持され、かつ相似形に変形するような条件で線引きすることによって、マルチコアファイバ10を作製することができる。なお、本製造方法では、準備すべきコアロッド4は全て同じものにできるので、製造はより容易である。
【0033】
つぎに、実施形態1のマルチコアファイバ10の構造パラメータについて説明する。構造パラメータに関しては、シミュレーションや実験等によって適切に定めることができる。以下に最適化設計の例を示すが、構造パラメータはコア部の数やマルチコアファイバの用途などに応じて適宜設計できるものであり、以下の例には限定されない。
【0034】
図6はマルチコアファイバ10の計算モデルを説明する図である。コア部11のうちの隣接するコア部であるコア部11a,11bの屈折率分布はステップインデックス型である。空孔13のうちの空孔13a,13b,13cは、クラッド部12において、コア部11aの周りで隣接する2つの空孔の成す角が60度となるように配置されている。
【0035】
ここで、マルチコアファイバ10のようにコア部の数が多い場合は、外径(クラッド径)が太くなってしまうが、クラッド径は500μm以下であることが取り扱い上好ましい。一方、クラッド径を小さくするために、隣接するコア部との距離(ピッチ)を小さくすると、空孔を配置してもクロストーク特性が劣化する。そこで、幾つかの設計例について計算を行い、その結果に基づいて検討し、ピッチを32μmに設定した。ピッチはLa+Lbである。また、空孔の位置がクラッド部の外周に近すぎるとマルチコアファイバを構成するガラスにクラックが発生するおそれがある。一方、空孔がコア部に近すぎるとモードフィールド径(MFD)等の光学特性が大きく劣化する。そのため、クラックの発生と光学特性の劣化とのバランスを考慮し、空孔13bの位置を、コア部11aから12μm(=La)、コア部11bから20μm(=Lb)の位置とした。また、コア部11a,11bのクラッド部12に対する比屈折率差を、光通信における標準シングルモードファイバ(SMF)と同等の0.37%に設定し、コア径を、標準SMFよりもやや大きめの10μmに設定した。
【0036】
構造パラメータを上記の数値に設定し、空孔13の空孔径を変えながらマルチコアファイバ10の光学特性を計算した。
図7は、光学特性の例を示すグラフである。ここで、横軸は空孔径である。左縦軸はλccであり、マルチコアファイバ10の中心軸に最も近くに配置されたコア部11の値である。右縦軸はクロストーク(XT)であり、隣接する1つのコア部からの影響を考慮した値である。なお、XTは、波長を1550nmとして、長さ100km当たりの値として計算した。
図7の結果から、空孔径が4μmの場合に、λccが1500nm以下であり、XTが最も低い値であり、適切であることが確認された。
【0037】
表1は、空孔径が4μmの場合のマルチコアファイバ10の光学特性を示す。なお、Aeffは有効コア断面積であり、曲げ損失は曲げ直径が20mmの場合の値である。Aeff、MFD、曲げ損失はいずれも波長が1550nmの場合の値である。また、XTは
図7のXTの値である。
【0038】
【0039】
表1に示すように、XTは-15dB以下であった。また、λccも1500nm以下であり、MFDも標準SMFと同程度の約10μmであった。なお、XTをより改善するために、空孔径をもう少し拡大しても問題ない。ただし、空孔径が5μmより大きくなるとλccが1530nmより大きくなってしまうので、空孔径は5μm以下が望ましい。
【0040】
なお、クラッド部12の外周に最も近いコア部11に対しては、リーケージ損失を抑制するために、クラッド厚を所定の厚さ以上に設定する必要がある。ここで、クラッド厚とは、クラッド部12の外周に最も近いコア部11(最外コア部)とクラッド部12の外周との最短距離である。このクラッド厚は、例えばガラスチューブ5の設計にも影響を与える。そこで、最外コア部において、波長1550nmでのリーケージ損失を0.001dB/km以下に抑制するために必要なクラッド厚を計算したところ、37.7μm以上であることが確認された。従って、例えばマルチコアファイバ10において、クラッド厚を42μmに設定すると、クラッド径は468μmとなり、500μm以下に抑制できることが確認された。
【0041】
(変形例1)
図8は、マルチコアファイバの製造方法の変形例1を説明する図である。この変形例1では、
図3に示すコアロッド4の他に、コアロッド4Aを用いる。コアロッド4Aは、コア部1とコア部の外周に形成されたクラッド部2とを備え、クラッド部2が2つの空孔3を有するものである。コアロッド4Aにおいてコア部1の周りで2つの空孔3が成す角は60度である。このようなコアロッド4と4Aとを組み合わせてスタックしても、複数のコアロッド4,4Aを、六方最密状に、かつ2つのコア部1の間に1つの空孔13が位置するようにガラスチューブ内に配置し、初期母材を形成することができる。そして、この初期母材を線引きすることにより、隣接する2つのコア部の間のそれぞれに配置された1つの空孔を有し、2つのコア部のそれぞれから空孔までの距離が互いに異なるマルチコアファイバを製造することができる。変形例1の場合、形成すべき空孔3の数をさらに抑制することができる。
【0042】
(変形例2)
図9、10は、マルチコアファイバの製造方法の変形例2を説明する図である。この変形例2では、コアロッド4Bを用いる。コアロッド4Bは、コア部1とコア部の外周に形成されたクラッド部2とを備え、クラッド部2が3つの空孔3を有するものである。コアロッド4Bにおいてコア部1の周りで空孔3が成す角は120度である。このようなコアロッド4Bをスタックしても、複数のコアロッド4Bを、六方最密状に、かつ2つのコア部1の間に1つの空孔13が位置するようにガラスチューブ内に配置し、初期母材を形成することができる。そして、この初期母材を線引きすることにより、隣接する2つのコア部の間のそれぞれに配置された1つの空孔を有し、2つのコア部のそれぞれから空孔までの距離が互いに異なるマルチコアファイバを製造することができる。変形例2の場合、準備すべきコアロッド4Bは全て同じものにできるので、製造はより容易である。
【0043】
(変形例3)
図11は、マルチコアファイバの製造方法の変形例3を説明する図である。この変形例3では、
図10に示すコアロッド4Bの他に、コアロッド4C、4Dを用いる。コアロッド4Cは、コア部1とコア部の外周に形成されたクラッド部2とを備え、クラッド部2が2つの空孔3を有するものである。コアロッド4Bにおいてコア部1の周りで2つの空孔3が成す角は60度又は120度である。コアロッド4Dは、コア部1とコア部の外周に形成されたクラッド部2とを備え、クラッド部2が1つの空孔3を有するものである。このようなコアロッド4B,4C,4Dを組み合わせてスタックしても、複数のコアロッド4B,4C,4Dを、六方最密状に、かつ2つのコア部1の間に1つの空孔13が位置するようにガラスチューブ内に配置し、初期母材を形成することができる。そして、この初期母材を線引きすることにより、隣接する2つのコア部の間のそれぞれに配置された1つの空孔を有し、2つのコア部のそれぞれから空孔までの距離が互いに異なるマルチコアファイバを製造することができる。変形例3の場合、形成すべき空孔3の数をさらに抑制することができる。
【0044】
(変形例4)
図12は、マルチコアファイバの製造方法の変形例4を説明する図である。この変形例4では、コアロッド4Eを用いる。コアロッド4Eは、コア部1とコア部の外周に形成されたクラッド部2とを備え、クラッド部2が2つの空孔3を有するものである。コアロッド4Eにおいてコア部1の周りで空孔3が成す角は90度である。このようなコアロッド4Dをスタックして、複数のコアロッド4Eを、正方格子状に、かつ2つのコア部1の間に1つの空孔13が位置するようにガラスチューブ内に配置し、初期母材を形成することができる。そして、この初期母材を線引きすることにより、正4角形に配置された複数のコア部を備え、隣接する2つのコア部の間のそれぞれに配置された1つの空孔を有し、2つのコア部のそれぞれから空孔までの距離が互いに異なるマルチコアファイバを製造することができる。
【0045】
(変形例5)
図13は、マルチコアファイバの製造方法の変形例5を説明する図である。この変形例5では、コアロッド4Eを用いるが、スタック法ではなく穿孔法を用いる。すなわち、ガラスロッド6に、軸方向に延伸する穴6aを、ドリル等を用いて穿孔し、各穴6aにそれぞれコアロッド4Eを挿入する。これにより、複数のコアロッド4Eが、正方格子状、かつ2つのコア部1の間に1つの空孔13が位置するように配置された初期母材を形成することができる。そして、この初期母材を線引きすることにより、正方格子状に配置された複数のコア部を備え、隣接する2つのコア部の間のそれぞれに配置された1つの空孔を有し、2つのコア部のそれぞれから空孔までの距離が互いに異なるマルチコアファイバを製造することができる。
【0046】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2について説明する。上述した実施形態1においては、大容量通信の用途を考慮して、カットオフ波長を1500nm付近までシフトさせている。これに対し、データセンタの用途への適用を考慮すると、1310nm帯が使用できることが望ましい。そのため、カットオフ波長が1310nm以下になるように、
図14に示すような91コア構造において最適化検討を行った。データセンタへの用途の場合、大容量通信への用途に比して伝送すべき距離が短くなる。そこで、幾つかの設計例について計算を行い、その結果に基づいて検討し、ピッチを25μmに設定した。すなわち、
図2に示すピッチのLa+Lbを25μmに設定した。また、空孔の位置がクラッド部の外周に近すぎるとマルチコアファイバを構成するガラスにクラックが発生するおそれがある。一方、空孔がコア部に近すぎるとMFD等の光学特性が大きく劣化する。そのため、クラックの発生と光学特性の劣化とのバランスを考慮し、空孔13の位置を、コア部11aから10μm(=La)、コア部11bから15μm(=Lb)の位置とした。センタコアは、従来のSMFと同様の比屈折率差を0.37%に設定し、空孔径が4μmの場合であってもカットオフ波長が1310nm以下になるように、コア径を8.7μmに設定した。その上で、
図2に示す空孔配置において、空孔径を0~4μmの間で変えながらシミュレーションを行った。
【0047】
図15は、従来のトレンチ型マルチコアファイバの計算データ群、及び実施形態2におけるXTシミュレーションの結果を示す。1kmで計算したXTとしては、最隣接のコアからのXTに関して計算を行った。シミュレーションの結果から、空孔構造を用いることによって、トレンチ型マルチコアファイバに比して、カットオフ波長とXT特性とのトレードオフの関係に関して、大幅に改善できることが確認された。
【0048】
表2は、空孔径を4μmに設定した場合に得られる光学特性を示す。なお、表2において、「隣接コア間XT」は、隣接する1つのコア部からの影響を考慮した値、「周辺コアからのトータルXT」は、隣接する6つのコア部からの影響を考慮した値である。表2から、隣接コア間XTが1km当たり-25dB(-25dB@1km)以下に抑制されていることが分かる。さらに、λccが1310nm以下に抑制され、1310nm帯の使用が可能になることが分かる。MFDに関しても従来のSMFと同等の1550nmにおいて9μm(9μm@1550nm)以上を実現できることが分かる。
【0049】
なお、クラッド部12の外周に最も近いコア部11に対しては、リーケージ損失を抑制するために、クラッド厚を所定の厚さ以上に設定する必要がある。ここで、クラッド厚とは、クラッド部12の外周に最も近いコア部11(最外コア部)とクラッド部12の外周との最短距離である。このクラッド厚は、例えばガラスチューブ5の設計にも影響を与える。そこで、最外コア部において、波長1550nmでのリーケージ損失を0.001dB/km以下に抑制するために必要なクラッド厚を計算したところ、37.7μm以上であることが確認された。従って、例えば91コアのマルチコアファイバ10において、クラッド厚を40μmに設定すると、クラッド径は330μm及び350μm以下に抑制できることが確認された。
【0050】
【0051】
本発明者は、以上のシミュレーション結果に基づいて試作検証を行った。なお、実施形態2による試作検証においては、実施形態1と同様にしてスタック法をベースに試作を行った。
図14に示すように、理想的な構造の場合には、ガラスチューブ5との間に隙間が存在していることから、隙間にもコア母材を挿入した結果、光ファイバは100コア構造になった。なお、
図14に示す隙間の部分にマーカーとなるガラスロッドを挿入した。
図16は、実施形態2による製造方法によって得られた光ファイバの断面構造の例を示す。
図16に示すマルチコアファイバ10のクラッド径は、322μmである。
図16に示すマルチコアファイバ10のクラッド径は、目標とした330μmに比して若干小径ではあるが、空孔型の100コアファイバが実現された。
図16に示すマルチコアファイバ10においては、隣接するコア部11のピッチの平均は24.1μmであって、目標とした25μmに比して若干小さいことが確認された。また、コア径は、7~10μm程度のばらつきはあるものの、平均としては目標とした8.7μmに近い値が得られたことが確認された。さらに、空孔径に関しては、中心値が4~5μmであって、目標とした4μmに近いことが確認された。
【0052】
そこで、本発明者は、構造が比較的に目標に近かったコアによって、光学特性の評価を行った。光学特性の評価結果を表3に示す。表3から、若干のばらつきはあるものの、光学特性としては、シミュレーションに近い特性が得られていることが分かる。
【0053】
【0054】
本発明者はさらに、中心付近でカットオフ波長が1300nmであるコア(80)に関するXT測定を行った。なお、例えばコア(80)は、
図16に示すマルチコアファイバ10における80番目のコア部を示す。なお、XTは、長さ1km当たりの値とした。XT測定の結果を表4に示す。表4において、例えば「80-61」は、隣接するコア部11としてコア(80)とコア(61)との組み合わせを示す。表4から、コア(80-93)のXT@1kmにおいては、空孔の向きの関係から値が大きくなっているが、その他の値に関しては、略シミュレーション通りの結果が得られていることが分かる。
【0055】
【0056】
実施形態2による設計及び製造方法によれば、非常に多くのコア部11を有するマルチコアファイバ10を容易に実現できることが分かる。
【0057】
なお、上記実施形態では、マルチコアファイバ又は初期母材において、複数のコア部は六方最密状又は正方格子状に配置されており、各コア部と該各コア部と隣接するコア部との間には1~3の空孔が配置されている。しかし、本発明はこれに限定されず、Nを3以上の整数として、複数のコア部がN角形を成すように配置されており、各コア部と該各コア部と隣接するコア部との間にはN個以下の空孔が配置されていてもよい。これにより、空孔の数はN以下になるので、簡易な構造となる。
【0058】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のように、本発明に係るマルチコアファイバ及びその製造方法は、複数のコア部を有する光ファイバ及びその製造に有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 コア部
2 クラッド部
3 空孔
4,4A,4B,4C,4D,4E コアロッド
5 ガラスチューブ
6 ガラスロッド
6a 穴
10 マルチコアファイバ
11,11a,11b コア部
12 クラッド部
13,13a,13b,13c 空孔