(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】レーダ装置およびレーダ装置の動作方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/03 20060101AFI20230823BHJP
G01S 7/40 20060101ALI20230823BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20230823BHJP
H01Q 1/42 20060101ALN20230823BHJP
【FI】
G01S7/03 220
G01S7/40 143
G01S13/931
H01Q1/42
(21)【出願番号】P 2020032777
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】堤 寛
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-037139(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107340500(CN,A)
【文献】実開昭60-173084(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2019/0377064(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
H01Q 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、前記車両の周囲の物標を検出するレーダ装置であって、
前記レーダ装置は、制御部、演算処理部、温度制御部およびクロック生成部を備え、
前記クロック生成部は、前記制御部および前記演算処理部が動作する動作周波数を決定し、
前記温度制御部は、温度情報を受信し、受信した前記温度情報と所定温度とを比較し、
前記温度情報が前記所定温度以下の場合、前記クロック生成部は、動作周波数を基本周波数から上昇させる、
レーダ装置。
【請求項2】
前記クロック生成部は、前記制御部および前記演算処理部の動作周波数を個別に決定する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記レーダ装置は、前記レーダ装置の表面または前記レーダ装置が配置されたバンパーの表面にブロッケージが存在するか、および、前記ブロッケージが、減衰型のブロッケージであるか、または、反射型のブロッケージであるかを判定するブロッケージ判定部をさらに備える、
請求項1または2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
車両に搭載され、前記車両の周囲の物標を検出するレーダ装置を動作する方法であって、
前記レーダ装置の制御部および演算処理部が動作する動作周波数を決定するステップと、
温度情報を受信するステップと、
受信した温度情報と所定温度とを比較するステップと、
受信した温度情報が前記所定温度以下の場合、動作周波数を基本周波数から上昇させるステップと、
を含む、
方法。
【請求項5】
前記制御部および前記演算処理部の動作周波数は、個別に決定される、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記レーダ装置の表面または前記レーダ装置が配置されたバンパーの表面にブロッケージが存在するか否かを判定するステップと、
前記ブロッケージが存在する場合、前記ブロッケージが減衰型のブロッケージであるか、または、反射型のブロッケージであるかを判定するステップと、
をさらに含み、
前記ブロッケージが減衰型のブロッケージである場合、前記受信するステップ、前記比較するステップおよび前記上昇させるステップを行い、
前記ブロッケージが存在しない場合、および、前記ブロッケージが反射型のブロッケージである場合、動作周波数を前記基本周波数に戻すステップを行う、
請求項4または5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され、車両の周囲の物標を検出するレーダ装置およびレーダ装置の動作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の後部のバンパー内の左右にはレーダ装置が配置され、ブラインドスポット検出(BSD)、車線変更支援(LCA)、後退時車両検知警報(RCTA)という機能を果たしている。
しかしながら、バンパーの表面に着氷または着雪が生じると、その氷または雪によってレーダ波が減衰するため、レーダ装置は、車両の周囲の物標(他の車両、自転車、人等)を正しく検出できないおそれがある。
【0003】
このような問題を解決するために、特許文献1には、誘電体を材料としたレンズと、レンズの表面に形成した金属線と、を有する誘電体レンズアンテナが開示されている。この誘電体レンズアンテナでは、降雪時や着雪時に金属線に電流を流し、金属線で発生する熱によって、誘電体レンズアンテナのレンズの表面に付着した雪を溶かすことができる。
【0004】
しかしながら、金属線は、レーダ波の送受信に影響を及ぼすため、レーダ装置の電波特性が悪化する。また、金属線という部品を追加するため、コストアップおよびサイズアップにつながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、電波特性を悪化させることなく、かつ、部品を追加することなく、着氷または着雪を除去することができるレーダ装置およびレーダ装置の動作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車両に搭載され、前記車両の周囲の物標を検出するレーダ装置であって、
前記レーダ装置は、制御部、演算処理部、温度制御部およびクロック生成部を備え、
前記クロック生成部は、前記制御部および前記演算処理部が動作する動作周波数を決定し、
前記温度制御部は、温度情報を受信し、受信した前記温度情報と所定温度とを比較し、
前記温度情報が前記所定温度以下の場合、前記クロック生成部は、動作周波数を基本周波数から上昇させる。
【0008】
本発明では、前記クロック生成部は、前記制御部および前記演算処理部の動作周波数を個別に決定することが好ましい。
【0009】
本発明では、前記レーダ装置は、前記レーダ装置の表面または前記レーダ装置が配置されたバンパーの表面にブロッケージが存在するか、および、前記ブロッケージが、減衰型のブロッケージであるか、または、反射型のブロッケージであるかを判定するブロッケージ判定部をさらに備えることが好ましい。
【0010】
本発明は、車両に搭載され、前記車両の周囲の物標を検出するレーダ装置を動作する方法であって、
前記レーダ装置の制御部および演算処理部が動作する動作周波数を決定するステップと、
温度情報を受信するステップと、
受信した温度情報と所定温度とを比較するステップと、
受信した温度情報が前記所定温度以下の場合、動作周波数を基本周波数から上昇させるステップと、
を含む。
【0011】
本発明では、前記制御部および前記演算処理部の動作周波数は、個別に決定されることが好ましい。
【0012】
本発明は、前記レーダ装置の表面または前記レーダ装置が配置されたバンパーの表面にブロッケージが存在するか否かを判定するステップと、
前記ブロッケージが存在する場合、前記ブロッケージが減衰型のブロッケージであるか、または、反射型のブロッケージであるかを判定するステップと、
をさらに含み、
前記ブロッケージが減衰型のブロッケージである場合、前記受信するステップ、前記比較するステップおよび前記上昇させるステップを行い、
前記ブロッケージが存在しない場合、および、前記ブロッケージが反射型のブロッケージである場合、動作周波数を前記基本周波数に戻すステップを行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、電波特性を悪化させることなく、かつ、部品を追加することなく、着氷または着雪を除去することができるレーダ装置およびレーダ装置の動作方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のレーダ装置が搭載された車両を示す図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係るレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の第2実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係るレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の第3実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【
図7】本発明の第4実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明のレーダ装置をバンパーの内側に取り付けた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明のレーダ装置が搭載された車両を示す図である。
レーダ装置1は、例えば、車両Cの後部のバンパーB内の左右に配置されている。これらのレーダ装置1は、車両Cの周囲の物標(例えば、車両Cの斜め後方の他の車両、自転車、人等)を検出し、車両Cが車線変更する際、または、車両Cがバックで進行する際に、この物標が車両Cに衝突するおそれがあると、ドライバに警告する。
図1の拡大図に示すように、バンパーBの表面には、着氷または着雪Sが生じている。この状態では、レーダ装置1は、車両Cの周囲の物標を正しく検出することができない。そこで、本発明では、レーダ装置1により、着氷または着雪を除去することを検討する。
【0016】
図2は、本発明の第1実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
レーダ装置1aは、マイコン(MPU:Micro Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、発振部、温度センサ、ADC(Analog to Digital Converter)、MMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)、アンテナ送信部TXおよびアンテナ受信部RXを基板上に有する。
発振部は所定のクロック信号をマイコンに入力する。通常時(着氷または着雪が生じていないとき)、レーダ装置1aは、このクロック信号を基本動作周波数として用いる。基本周波数は、レーダ装置1が使用される最高雰囲気温度(一般的には85℃)で電子機器(マイコン等)が動作保証温度を超えないように設定される周波数である。なお、発振部は、発振子および発振器を含むものである。
温度センサは、サーミスタ等であり、高周波部品の温度補正のために用いられる。
アンテナ送信部TXからレーダ波を送信し、物標で反射したレーダ波をアンテナ受信部RXで受信し、MMIC、ADCおよびFPGAにて処理した後、マイコンに入力される。
これらの動作は周知であるので詳細な説明を省略する。
【0017】
マイコンは、温度制御部、クロック生成部、クロック入力部、タイマー生成部および制御部を有する。
【0018】
温度制御部は、温度センサから温度情報を受信し、受信した温度情報と所定温度とを比較する。
受信した温度情報が所定温度以下の場合、温度制御部は、以下に説明するように、クロック生成部に対して動作周波数を基本周波数から上昇させるように指示する。
【0019】
クロック入力部は、発振部から所定のクロック信号を受信し、クロック生成部およびタイマー生成部に送信する。
クロック生成部は、クロック信号の周波数を上昇させ、内部クロック信号を生成し、この内部クロック信号を制御部およびFPGAの演算処理部に送信する。すると、FPGAの演算処理部およびマイコンの制御部は、内部クロック信号を動作周波数として用いて動作する。このように、FPGAの演算処理部およびマイコンの制御部は、基本周波数より高い動作周波数で動作するため、消費電力が増加し、発熱量も増加する。この増加した発熱量により、バンパーBの表面の着氷または着雪を溶かすことができる。
なお、上述したように、一般的な車載用のレーダ装置は、雰囲気温度が85℃まで動作可能である。バンパーの表面に着氷または着雪が生じるということは、雰囲気温度が0℃程度と考えられるため、温度を85℃程度上昇させることができる。また、雰囲気温度の上限が85℃ということは、基板温度(温度センサからの測定値)の上限は、例えば100℃とすることができる。
【0020】
このように、本発明では、金属線を追加することがないため、レーダ装置の電波特性を悪化させることなく、かつ、コストアップおよびサイズアップを引き起こすことなく、着氷または着雪を除去することができる。
【0021】
タイマー生成部は、クロック信号に基づいて、所定のタイマー(例えば、1ms、10ms、50ms、・・・)を生成する。上述したように、FPGAの演算処理部およびマイコンの制御部は、基本周波数より高い動作周波数で動作するが、動作周波数を上昇させるだけでは、すべての制御が高速化してしまうため、動作周波数を上昇させるのと同時に、タイマーを変更する。これにより、タイマーは同じ時間を刻むことができる。
【0022】
図3は、本発明の第1実施形態に係るレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
ステップS0において、マイコンのクロック生成部は、マイコンの制御部およびFPGAの演算処理部が動作する動作周波数を決定する。例えば、クロック生成部は、動作周波数を基本周波数に設定する。
ステップS1において、マイコンの温度制御部は、温度センサから温度情報を受信する。
ステップS2において、温度制御部は、受信した温度情報と所定温度(例えば、100℃)とを比較する。
受信した温度情報が所定温度以下の場合(ステップS2でNO)、ステップS3において、クロック生成部は、動作周波数を基本周波数から上昇させる。すると、FPGAおよびマイコンの発熱量が増加し、バンパーBの表面の着氷または着雪を溶かすことができる。
これらのステップS1~S3を、受信した温度情報が所定温度を超えるまで繰り返す。
受信した温度情報が所定温度を超えた場合(ステップS2でYES)、ステップS4において、クロック生成部は、動作周波数を基本周波数に戻す。
このように、温度情報を監視することにより、基板上の電子部品が損傷するのを防ぐことができる。
【0023】
ステップS3において、動作周波数を基本周波数から所定の周波数まで一気に上昇させてもよいし、動作周波数を所定の周波数まで徐々に(数段階で)上昇させてもよい。
また、雰囲気温度が異なると、上昇可能な周波数が異なるため、温度センサからの温度情報に基づいて、動作周波数を可変に制御することもできる。
【0024】
図4は、本発明の第2実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
第2実施形態に係るレーダ装置1bでは、マイコンがブロッケージ判定部をさらに有する点以外、第1実施形態に係るレーダ装置1aと同一である。
ブロッケージ判定部は、定期的に(例えば50ms周期で)ブロッケージ判定を行い、バンパーBの表面にレーダ波の送受信を妨害するブロッケージが存在するかを判定する。ブロッケージには、着氷または着雪のような減衰型のブロッケージおよびステッカーのような反射型のブロッケージが含まれる。
【0025】
図5は、本発明の第2実施形態に係るレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
ステップS10において、
図3のステップS0と同様に、マイコンのクロック生成部は、マイコンの制御部およびFPGAの演算処理部が動作する動作周波数を決定する。
ステップS11において、マイコンのブロッケージ判定部は、バンパーBの表面にブロッケージが存在するか否かを判定する。
ブロッケージが存在する場合(ステップS11でYES)、ステップS12において、ブロッケージ判定部は、ブロッケージが着氷または着雪のようなレーダ波が減衰される減衰型のブロッケージであるか、または、ステッカーのようなレーダ波が反射される反射型のブロッケージであるかを判定する。
ブロッケージが減衰型のブロッケージである場合、ステップS13に進む。
ステップS13~S16は、
図3のステップS1~S4と同一である。
ステップS11において、ブロッケージ判定部が、バンパーBの表面にブロッケージが存在しないと判定した場合(ステップS11でNO)、ステップS16に進む。
ステップS12において、ブロッケージ判定部が、ブロッケージが反射型のブロッケージであると判定した場合にもまた、ステップS16に進む。ブロッケージが例えばステッカーである場合、動作周波数を上昇させても、ステッカーを除去することはできないからである。
第2実施形態では、ブロッケージの有無およびブロッケージの種類を判定することにより、不必要に動作周波数を上昇させることがなく、それゆえ、不必要に消費電力を増加させることがなくなる。
【0026】
図6は、本発明の第3実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
第3実施形態に係るレーダ装置1cでは、FPGAに発振部が外付けされている。また、FPGAは、マイコンと同様に、クロック入力部およびクロック生成部を有する。
レーダ装置1cでは、FPGAは、マイコンから周波数を上昇させるべきという指示を受信すると、FPGAのクロック生成部が、クロック信号の周波数を上昇させる。すなわち、FPGAは、マイコンから内部クロックを受信するのではなく、マイコンからの指示に基づいて、外付けの発振部からのクロック信号の周波数を上昇させる。
【0027】
図7は、本発明の第4実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
第4実施形態に係るレーダ装置1dでは、マイコンが、高速演算機能を実施する演算処理部を有するため、FPGAが設けられていない。レーダ装置1dでも上述した実施形態と同様に、クロック生成部が上昇させた内部クロック信号を、制御部および演算処理部が動作周波数として用いて動作する。
なお、この実施形態では、FPGAが含まれたマイコンを例に説明したが、マイコンが含まれたFPGAを用いることもできる。
【0028】
図8は、本発明のレーダ装置をバンパーの内側に取り付けた状態を示す図である。
レーダ装置1は、バンパーB側からレドームと、マイコンおよびFPGA等の電子部品が配置された基板と、放熱板と、ブラケットと、を備える。ブラケットはナットを介してバンパーBに接続されている。
電子部品からの熱は、レドーム側からバンパーBに伝わるとともに、ブラケット側からナットを介してバンパーBに伝わる。ブラケットおよびナットは金属製であることが多いため、ブラケットおよびナットを介してバンパーBに伝わる熱も大きい。
【0029】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さまざまな変形が可能である。
例えば、レーダ装置は、車両の後部のバンパー内だけではなく、車両の前部のバンパー内等、車両の任意の位置に配置することができる。
また、現在のレーダ装置は、24GHz帯を使用しているが、79GHz帯を使用する場合、79GHz帯のレーダ波がバンパーを透過できないため、レーダ装置を露出して配置することがある。この場合、電子部品による発熱により、レーダ装置の表面に生じた着氷または着雪をより効率よく溶かすことができる。
また、上述した実施形態では、制御部および演算処理部の両方が、基本周波数より高い動作周波数で動作するものとして記載したが、クロック生成部は、制御部および演算処理部の動作周波数を個別に決定することができる。すなわち、制御部および演算処理部の一方が基本周波数で動作し、他方が基本周波数より高い動作周波数で動作してもよい。これにより、着氷または着雪の状態や雰囲気温度に応じて、最適な動作条件の設定が容易となる。
【符号の説明】
【0030】
1、1a、1b、1c、1d レーダ装置