(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】溶接方法および溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20230823BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20230823BHJP
B23K 26/067 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
B23K26/21 E
B23K26/064 A
B23K26/064 K
B23K26/067
(21)【出願番号】P 2021081019
(22)【出願日】2021-05-12
(62)【分割の表示】P 2019503169の分割
【原出願日】2018-03-05
【審査請求日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2017040065
(32)【優先日】2017-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017069704
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安岡 知道
(72)【発明者】
【氏名】茅原 崇
(72)【発明者】
【氏名】酒井 俊明
(72)【発明者】
【氏名】西井 諒介
(72)【発明者】
【氏名】繁松 孝
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-246502(JP,A)
【文献】特開2002-160083(JP,A)
【文献】特開2012-110905(JP,A)
【文献】特開2015-205327(JP,A)
【文献】特開2016-173472(JP,A)
【文献】特開平05-104276(JP,A)
【文献】特開2002-301583(JP,A)
【文献】米国特許第05272309(US,A)
【文献】特開昭63-295093(JP,A)
【文献】特開2004-358521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ装置からのレーザ光を加工対象に向かって照射し、前記加工対象を溶融して溶接を行う、
工程を含み、
前記レーザ光は主ビームと、掃引方向前方に少なくともその一部がある副ビームによって構成され、前記主ビームのパワー密度は、少なくともキーホールを発生させ得る強度であり、前記副ビームのパワー密度は、少なくとも前記加工対象を溶融し得る強度であり、
前記レーザ光は、前記副ビームが照射される領域に、前記主ビームが照射される領域に形成される溶融池より浅い溶融池である浅瀬領域を形成し、
前記主ビームを形成するレーザ光の波長および前記副ビームを形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域における反射率よりも低い反射率を持つ青色領域の波長である、
加工対象をレーザによって溶接する方法。
【請求項2】
前記副ビームを形成するレーザ光の波長は、前記主ビームを形成するレーザ光の波長における前記加工対象の反射率よりも低い反射率を持つ波長である、
請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記レーザ光は、前記主ビームの掃引方向後方に、前記主ビームよりもパワー密度が低い副ビームをさらに有する、請求項1
または2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記レーザ光は、前記主ビームの掃引方向横方向に、前記主ビームよりもパワー密度が低い副ビームをさらに有する、請求項1
または2に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記レーザ光は、前記主ビームの周囲に、前記主ビームよりもパワー密度が低い副ビームをさらに分散して有する、請求項1
または2に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記副ビームは、前記主ビームの周囲を囲むリング形状または前記主ビームの周囲を囲むリング形状の一部である円弧形状を持つ、請求項1
または2に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記レーザ光の前記主ビームと前記副ビームは、前記主ビームで形成された溶融池と、前記副ビームで形成された溶融池の少なくとも一部が重なる様に構成される、請求項1から請求項
6の何れか1項に記載の溶接方法。
【請求項8】
前記主ビームと前記副ビームとの間の距離は、前記副ビームのビーム径の2倍未満である、請求項
7に記載の溶接方法。
【請求項9】
前記主ビームおよび前記副ビームは、前記発振器と前記加工対象との間に配置されたビームシェイパによって形成される、請求項1から請求項
8の何れか1項に記載の溶接方法。
【請求項10】
前記ビームシェイパは回折光学素子である、ことを特徴とする請求項
9に記載の溶接方法。
【請求項11】
前記加工対象は溶接されるべき少なくとも2つの部材であり、前記加工対象をレーザ光の照射される領域に配置する前記工程は、前記少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させる、または隣接させるように配置する工程である、請求項1から請求項
10の何れか1項に記載の溶接方法。
【請求項12】
前記副ビームのビーム径は、前記主ビームのビーム径と略等しい又は大きい、請求項1から請求項
11の何れか1項に記載の溶接方法。
【請求項13】
レーザ装置からのレーザ光を加工対象に向かって照射し、前記加工対象を溶融して溶接を行う、
工程を含み、
前記レーザ光は主ビームと、掃引方向前方に少なくともその一部がある副ビームによって構成され、前記主ビームは、少なくともキーホールを発生させ得る強度であり、前記副ビームは、少なくとも前記加工対象を溶融し得る強度であり、
前記レーザ光は、前記副ビームが照射される領域に、前記主ビームが照射される領域に形成される溶融池より浅い溶融池である浅瀬領域を形成し、
前記主ビームを形成するレーザ光の波長および前記副ビームを形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域における反射率よりも低い反射率を持つ青色領域の波長である、
加工対象をレーザによって溶接する方法。
【請求項14】
レーザ発振器と、
レーザ発振器から発振された光を受け取ってレーザ光を生成し、前記生成されたレーザ光を加工対象に向かって照射して照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、
によって構成され、
前記光学ヘッドは前記レーザ光と前記加工対象とが相対的に移動可能な様に構成され、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、前記溶融を行なって溶接を行い、
前記レーザ光は主ビームと、掃引方向前方に少なくともその一部がある副ビームによって構成され、前記主ビームのパワー密度は、少なくともキーホールを発生させ得る強度であり、前記副ビームのパワー密度は、少なくとも前記加工対象を溶融し得る強度であり、
前記レーザ光は、前記副ビームが照射される領域に、前記主ビームが照射される領域に形成される溶融池より浅い溶融池である浅瀬領域を形成し、
前記主ビームを形成するレーザ光の波長および前記副ビームを形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域における反射率よりも低い反射率を持つ青色領域の波長である、
加工対象をレーザによって溶接するレーザ溶接装置。
【請求項15】
前記副ビームを形成するレーザ光の波長は、前記主ビームを形成するレーザ光の波長における前記加工対象の反射率よりも低い反射率を持つ波長である、
請求項
14に記載のレーザ溶接装置。
【請求項16】
前記レーザ光は、前記主ビームの掃引方向後方に、前記主ビームよりもパワー密度が低い副ビームをさらに有する、請求項
14または15に記載のレーザ溶接装置。
【請求項17】
前記レーザ光は、前記主ビームの掃引方向横方向に、前記主ビームよりもパワー密度が低い副ビームをさらに有する、請求項
14または15に記載のレーザ溶接装置。
【請求項18】
前記レーザ光は、前記主ビームの周囲に、前記主ビームよりもパワー密度が低い副ビームをさらに分散して有する、請求項
14または15に記載のレーザ溶接装置。
【請求項19】
前記副ビームは前記主ビームの周囲を囲むリング形状または前記主ビームの周囲を囲むリング形状の一部である円弧形状を持つ、請求項
14または15に記載のレーザ溶接装置。
【請求項20】
前記レーザ光の前記主ビームと前記副ビームは、前記主ビームで形成された溶融池と、前記副ビームで形成された溶融池の少なくとも一部が重なる様に構成される、請求項
14から請求項
19の何れか1項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項21】
前記光学ヘッドは前記レーザ発振器と前記加工対象との間に配置されたビームシェイパを含み、前記回折光学素子は前記単一のレーザ発振器から発振された光から前記主ビームおよび前記副ビームを形成する、請求項
14から請求項
20の何れか1項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項22】
前記ビームシェイパは回折光学素子である、ことを特徴とする請求項
21に記載のレーザ溶接装置。
【請求項23】
前記レーザ発振器は異なる2つのレーザ発振器から構成され、前記主ビームおよび前記副ビームは、それぞれ前記異なる2つの発振器から出射されたレーザ光である、請求項
14から請求項
20の何れか1項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項24】
前記加工対象は溶接されるべき少なくとも2つの部材である、請求項
14から請求項
23の何れか1項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項25】
前記副ビームのビーム径は、前記主ビームのビーム径と略等しい又は大きい、請求項
14から請求項
24の何れか1項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項26】
前記ビームシェイパは、回転可能に設けられている、請求項
21に記載のレーザ溶接装置。
【請求項27】
前記レーザ発振器は複数あり、
前記光学ヘッドは前記複数の発振器から出射された光を内部で合波して前記レーザ光を生成する、請求項
14から請求項
26の何れか1項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項28】
前記レーザ発振器は複数あり、
前記複数のレーザ発振器から出射された光を内部で合波して前記光学ヘッドへ導くマルチコアファイバを、さらに備える、請求項
14から請求項
26の何れか1項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項29】
前記光学ヘッドは前記レーザ光を、固定されている前記加工対象に対して掃引可能に構成される、請求項
14から請求項
28の何れか1項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項30】
前記光学ヘッドからのレーザ光の照射位置は固定され、前記加工対象が前記固定されたレーザ光に対して移動可能に保持される、請求項
14から請求項
28の何れか1項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項31】
レーザ発振器と、
レーザ発振器から発振された光を受け取ってレーザ光を生成し、前記生成されたレーザ光を加工対象に向かって照射して照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、
によって構成され、
前記レーザ光は主ビームと、掃引方向前方に少なくともその一部がある副ビームによって構成され、前記主ビームは、少なくともキーホールを発生させ得る強度であり、前記副ビームは、少なくとも前記加工対象を溶融し得る強度であり、
前記レーザ光は、前記副ビームが照射される領域に、前記主ビームが照射される領域に形成される溶融池より浅い溶融池である浅瀬領域を形成し、
前記主ビームを形成するレーザ光の波長および前記副ビームを形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域における反射率よりも低い反射率を持つ青色領域の波長である、
加工対象をレーザによって溶接するレーザ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法および溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄や銅などの金属材料を溶接する手法の一つとして、レーザ溶接が知られている。レーザ溶接とは、レーザ光を加工対象の溶接部分に照射し、レーザ光のエネルギーで溶接部分を溶融させる溶接方法である。レーザ光が照射された溶接部分には、溶融池と呼ばれる溶融した金属材料の液溜りが形成され、その後、溶融池の金属材料が固まることによって溶接が行われる。
【0003】
また、レーザ光を加工対象に照射する際には、その目的に応じ、レーザ光のプロファイルが成型されることもある。例えば、レーザ光を加工対象の切断に用いる場合に、レーザ光のプロファイルを成型する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
従前は、レーザ光発生装置の出力が低かったので、反射率の低い(吸収率の高い)金属材料に対してのレーザ溶接が実用されてきたが、近時ではレーザ光発生装置の集光性も向上している傾向にあるので、銅やアルミ等の反射率の高い金属材料に対するレーザ溶接も実用化されつつある(例えば特許文献2~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2010-508149号公報
【文献】特開平7-214369号公報
【文献】特開2004-192948号公報
【文献】国際公開第2010/131298号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、溶接時には、この溶融池からはスパッタと呼ばれる飛散物が発生することが知られている。このスパッタは、溶融金属が飛散したものであり、その発生を減らすことは加工欠陥を防ぐ上で重要である。発生したスパッタは、溶接個所の周辺に付着することになるが、これがのちに剥離し、電気回路等に付着すると、電気回路に異常をきたしてしまう。したがって、電気回路用の部品に対して溶接を行うことは困難である。また、スパッタは溶融金属が飛散したものであることから、スパッタが発生すると溶接個所における金属材料が減少してしまっていることにもなる。つまり、スパッタの発生が多くなると、溶接個所の金属材料が不足してしまい、強度不良等を引き起こすことにもなる。
【0007】
また、レーザ光発生装置の出力が向上しても金属材料の反射率が変わる訳でもなく、高い反射率を補う程度の強度のレーザ光を照射する必要がある。特に、加工対象が溶融し始める際には高い反射率を補うために高い強度のレーザ光を照射する必要があるが、一旦溶融が開始すると高い反射率も低くなり、レーザ光の強度が過剰になってしまう。この過剰なレーザ光のエネルギーは、蒸発金属の増大や溶融金属の不要な乱れを引き起こし、スパッタやボイドなどの溶接欠陥が発生する可能性を増大させてしまう。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、スパッタの発生を抑制する溶接方法および溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る溶接方法は、加工対象を、レーザ装置からのレーザ光の照射される領域に配置し、前記レーザ装置からの前記レーザ光を前記加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う、工程を含み、前記レーザ光は主ビームと、掃引方向前方に少なくともその一部がある副ビームによって構成され、主ビームのパワー密度は副ビームのパワー密度以上である。
【0010】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記主ビームのパワー密度は、少なくともキーホールを発生させうる強度である。
【0011】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記レーザ光は、前記主ビームの掃引方向後方に、前記主ビームよりもパワー密度が低い副ビームをさらに有する。
【0012】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記レーザ光は、前記主ビームの掃引方向横方向に、前記主ビームよりもパワー密度が低い副ビームをさらに有する。
【0013】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記レーザ光は、前記主ビームの周囲に、前記主ビームよりもパワー密度が低い副ビームをさらに分散して有する。
【0014】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記副ビームは、前記主ビームの周囲を囲むリング形状または前記主ビームの周囲を囲むリング形状の一部である円弧形状を持つ。
【0015】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記レーザ光の前記主ビームと前記副ビームは、前記主ビームで形成された溶融池と、前記副ビームで形成された溶融池の少なくとも一部が重なる様に構成される。
【0016】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記主ビームおよび前記副ビームのうち少なくとも前記副ビームを形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長である。
【0017】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記主ビームを形成するレーザ光の波長は、前記副ビームを形成するレーザ光の波長と同一である。
【0018】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記主ビームおよび前記副ビームは、同一の発振器から出射されたレーザ光である。
【0019】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記主ビームおよび前記副ビームは、異なる発振器から出射されたレーザ光である。
【0020】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記主ビームおよび前記副ビームは、前記発振器と前記加工対象との間に配置されたビーシェイパによって形成される。
【0021】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記ビームシェイパは回折光学素子である。
【0022】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記加工対象は溶接されるべき少なくとも2つの部材であり、前記加工対象をレーザ光の照射される領域に配置する前記工程は、前記少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させる、または隣接させるように配置する工程である。
【0023】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記副ビームのビーム径は、前記主ビームのビーム径と略等しい又は大きい。
【0024】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、レーザ発振器と、レーザ発振器から発振された光を受け取ってレーザ光を生成し、前記生成されたレーザ光を加工対象に向かって照射して照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、によって構成され、前記光学ヘッドは前記レーザ光と前記加工対象とが相対的に移動可能な様に構成され、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、前記溶融を行なって溶接を行い、前記レーザ光は主ビームと、掃引方向前方に少なくともその一部がある副ビームによって構成され、主ビームのパワー密度は副ビームのパワー密度以上である。
【0025】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記副ビームのパワー密度は、少なくとも前記加工対象を溶融し得る強度である。
【0026】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記レーザ光は、前記主ビームの掃引方向後方に、前記主ビームよりもパワー密度が低い副ビームをさらに有する。
【0027】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記レーザ光は、前記主ビームの掃引方向横方向に、前記主ビームよりもパワー密度が低い副ビームをさらに有する。
【0028】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記レーザ光は、前記主ビームの周囲に、前記主ビームよりもパワー密度が低い副ビームをさらに分散して有する。
【0029】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記副ビームは前記主ビームの周囲を囲むリング形状または前記主ビームの周囲を囲むリング形状の一部である円弧形状を持つ。
【0030】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記レーザ光の前記主ビームと前記副ビームは、前記主ビームで形成された溶融池と、前記副ビームで形成された溶融池の少なくとも一部が重なる様に構成される。
【0031】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記主ビームおよび前記副ビームのうち少なくとも前記副ビームを形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長である。
【0032】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記主ビームを形成するレーザ光の波長は、前記副ビームを形成するレーザ光の波長と同一である。
【0033】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記光学ヘッドは単一のレーザ発振器から発振された光から前記主ビームおよび前記副ビームからなる前記レーザ光を生成する。
【0034】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記光学ヘッドは前記レーザ発振器と前記加工対象との間に配置されたビームシェイパを含み、前記回折光学素子は前記単一のレーザ発振器から発振された光から前記主ビームおよび前記副ビームを形成する。
【0035】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記ビームシェイパは回折光学素子である。
【0036】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記レーザ発振器は異なる2つのレーザ発信器から構成され、前記主ビームおよび前記副ビームは、それぞれ前記異なる2つの発振器から出射されたレーザ光である。
【0037】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記加工対象は溶接されるべき少なくとも2つの部材である。
【0038】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記副ビームのビーム径は、前記主ビームのビーム径と略等しい又は大きい。
【0039】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記ビームシェイパは、回転可能に設けられている。
【0040】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記レーザ発振器は複数あり、前記光学ヘッドは前記複数の発振器から出射された光を内部で合波して前記レーザ光を生成する。
【0041】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記レーザ発振器は複数あり、前記複数のレーザ発振器から出射された光を内部で合波して前記光学ヘッドへ導くマルチコアファイバを、さらに備える。
【0042】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記光学ヘッドは前記レーザ光を、固定されている前記加工対象に対して掃引可能に構成される。
【0043】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、前記光学ヘッドからのレーザ光の照射位置は固定され、前記加工対象が前記固定されたレーザ光に対して移動可能に保持される。
【発明の効果】
【0044】
本発明に係る溶接方法および溶接装置は、スパッタの発生を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、レーザ光が加工対象を溶融する状況の比較を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、レーザ光が加工対象を溶融する状況の比較を示す図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
【
図5】
図5は、第3実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
【
図6】
図6は、第4実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
【
図7】
図7は、第5実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
【
図8】
図8は、第6実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
【
図10】
図10は、実験に用いたレーザ光の断面形状を示す図である。
【
図13】
図13は、代表的金属材料の反射率を光の波長に関して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る溶接方法および溶接装置を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0047】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
図1に示すように、第1実施形態に係る溶接装置100は、加工対象Wにレーザ光Lを照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。
図1に示すように、溶接装置100は、レーザ光を発振する発振器110と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド120と、発振器110で発振されたレーザ光を光学ヘッド120へ導く光ファイバ130とを備えている。加工対象Wは、溶接されるべき少なくとも2つの部材である。
【0048】
発振器110は、例えば数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成されている。例えば、発振器110は、内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成することとしてもよいし、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザを用いてもよい。
【0049】
光学ヘッド120は、発振器110から導かれたレーザ光Lを、加工対象Wを溶融し得る強度のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド120は、内部にコリメートレンズ121と集光レンズ122とを備えている。コリメートレンズ121は、光ファイバ130によって導かれたレーザ光を一旦平行光化するための光学系であり、集光レンズ122は、平行光化されたレーザ光を加工対象Wに集光させるための光学系である。
【0050】
光学ヘッド120は、加工対象Wにおけるレーザ光Lの照射位置を移動(掃引)させるために、加工対象Wとの相対位置を変更可能に設けられている。加工対象Wとの相対位置を変更する方法としては、光学ヘッド120自身を移動することや、加工対象Wを移動することなどが含まれる。すなわち、光学ヘッド120はレーザ光Lを、固定されている加工対象Wに対して掃引可能に構成されてもよい、または、光学ヘッド120からのレーザ光Lの照射位置は固定され、加工対象Wが、固定されたレーザ光Lに対して移動可能に保持されてもよい。加工対象Wをレーザ光Lの照射される領域に配置する工程では、溶接されるべき少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させるまたは、隣接させるように配置する。
【0051】
第1実施形態に係る光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と集光レンズ122との間にビームシェイパとしての回折光学素子123を備えている。ここでいう回折光学素子とは、
図15に示す概念の様に周期の異なる複数の回折格子1501を1体にした光学素子1502を指している。これを通過したレーザ光は各回折格子の影響を受けた方向に曲げられ、重なり合い、任意の形にレーザ光を形成することができる。本実施形態において、回折光学素子123は、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有するように、レーザ光Lを成型するためのものである。なお、回折光学素子123は、回転可能に設ける構成とすることができる。また、交換可能に設ける構成とすることもできる。
【0052】
ここで、主ビームまたは副ビームのパワー密度は、ピークを含み、ピーク強度の1/e2の以上の強度の領域でのパワー密度である。また、主ビームまたは副ビームのビーム径は、ピークを含み、ピーク強度の1/e2の以上の強度の領域の径である。円形でないビームの場合は、本明細書に於いては移動方向に対し垂直方向の、ピーク強度の1/e2以上の強度となる領域の長さをビーム径と定義する。副ビームのビーム径は、主ビームのビーム径と略等しい又は大きくてもよい。
【0053】
加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有することの作用は、以下の通りである。
図2A、2Bは、レーザ光が加工対象を溶融する状況の比較を示す図である。
【0054】
図2Aに示すように、従来のレーザ溶接では、レーザ光が1つのビームBを有しているので、レーザ光が照射された位置から移動方向(矢印v)の反対方向に、加工対象Wが溶融した溶融池WPが溶融領域として形成される。一方、
図2Bに示すように、第1実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、加工対象W上におけるレーザ光のパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、主ビームB1と副ビームB2とを有している。主ビームB1のパワー密度は、例えば、少なくともキーホールを発生させうる強度である。なお、キーホールについては後に詳述する。そして、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向(矢印v)の前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する。また、副ビームB2のパワー密度は、主ビームB1の存在下または単独にて、加工対象Wを溶融し得る強度である。したがって、主ビームB1が照射される位置よりも前方に、主ビームB1が溶融する深さよりも浅い領域がある溶融池WP1が溶融領域として形成されることになる。これを便宜上、浅瀬領域Rと呼ぶことにする。
【0055】
図2Bに示すように、主ビームB1と副ビームB2のレーザ光のビームの溶融強度領域は、重なってもよいが、必ずしも重なる必要はなく、溶融池が重なればよい。副ビームB2で形成された溶融池が固化する前に、その溶融池に主ビームB1が形成する溶融強度領域が到達できればよい。上記のように、主ビームB1および副ビームB2のパワー密度は加工対象Wを溶融し得る強度であり、溶融強度領域とは、主ビームB1または副ビームB2の周囲における加工対象Wを溶融し得るパワー密度のレーザ光のビームの範囲のことをいう。
【0056】
第1実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームB1が照射される位置よりも前方に浅瀬領域Rが存在することで、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WP1が安定化する。先述したように、スパッタは、溶融金属が飛散したものであるので、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WP1が安定化することは、スパッタの発生を抑制することにつながる。実際、後述する実験でも、このスパッタの発生を抑制する効果が確かめられた。
【0057】
第1実施形態に係る溶接方法は、加工対象Wを、レーザ装置である発振器110からのレーザ光Lの照射される領域に配置し、発振器110からのレーザ光Lを加工対象Wに向かって照射しながらレーザ光Lと加工対象Wとを相対的に移動させ、レーザ光Lを加工対象W上で掃引しつつ、照射された部分の加工対象Wを溶融して溶接を行う、工程を含む。このとき、レーザ光Lは、主ビームB1と、掃引方向前方に少なくともその一部がある副ビームB2によって構成され、主ビームB1のパワー密度は副ビームB2のパワー密度以上である。加工対象Wは溶接されるべき少なくとも2つの部材である。加工対象Wをレーザ光Lの照射される領域に配置する工程は、少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させる、または隣接させるように配置する工程である。
【0058】
なお、副ビームB2のパワー密度は、浅瀬領域Rが、許容されるポロシティ(空隙状、内部から表面まで穴の開いたピット形状、ブローホール等の溶接欠陥)の直径よりも深くなるようなパワー密度とすることが好ましい。これにより、ポロシティの原因の一つである、加工対象Wの表面に付着した不純物が、浅瀬領域Rを流れて主ビームB1が形成する溶融池WP1に流れ込むので、ポロシティが発生しにくくなる。なお、許容されるポロシティの直径は、例えば加工対象Wの使用用途に応じて定まる。一般的には200μm以下が許容され、100μmが好ましく、50μm以下がさらに好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下がより一層好ましく、10μm以下がさらに一層好ましく、全く存在しない事が最も好ましい。
【0059】
次に、
図3A~3Fを参照しながら、加工対象上におけるレーザ光のパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有するための、レーザ光の断面形状の例を説明する。
図3A~3Fに示すレーザ光の断面形状の例は、必須の構成ではないが、
図3A~3Fに例示されるレーザ光の断面形状が加工対象Wの表面に実現されるように、回折光学素子123を設計することで、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルが実現される。なお、
図3A~3Fに例示されるレーザ光の断面形状は、全て紙面上方(図中矢印v)を移動方向としている。
【0060】
図3Aは、ピークP1を有しパワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向前方に、ピークP2を有し、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を1つ有する例である。
図3Aに示すように、副ビームB2の周辺における加工対象を溶融し得るパワー密度の領域は、主ビームB1の周辺における加工対象を溶融し得るパワー密度の領域よりも、移動方向の直交方向に関して幅が広いことが好ましい。したがって、
図3Aに示すように、副ビームB2は点形状とせずに連続した領域に拡張されていてもよい。
【0061】
図3Bは、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有するのみならず、主ビームB1の移動方向後方にも、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する例である。溶接加工は必ずしも前進のみではなく、後進も行うこともある。したがって、
図3Bに示される例のように、主ビームB1の移動方向後方にも、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を設ければ、光学ヘッドの向きを変えずとも本発明の効果を得ることができる。
【0062】
図3Cは、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有するのみならず、主ビームB1の移動方向横方向にも、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する例である。溶接加工は必ずしも直線に沿って行われるとは限らない。したがって、
図3Cに示される例のように、主ビームB1の移動方向横方向にも、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を設ければ、角部分の溶接時等にも本発明の効果を得ることができる。
【0063】
図3Dは、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有するのみならず、主ビームB1の移動方向の後方および横方向にも、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する例である。つまり、
図3Dに示される例は、
図3Bおよび3Cに示される例の両方のメリットを併せ持つことになる。
【0064】
図3Eは、主ビームB1の周囲に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を分散して有する例である。
図3A~3Dに示される例は、副ビームB2が線状に構成されていたが、ある程度近い間隔で副ビームB2を配置すれば、必ずしも副ビームB2が連続している必要はない。ある程度近い間隔で副ビームB2を配置すれば、浅瀬領域Rが繋がるので、実効的な効果が得られるからである。
図3Fは、主ビームB1の周囲に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2をリング状に有する例である。
図3Eとは逆に、副ビームB2を連続的に一周する形で設けることも可能である。
【0065】
なお、主ビームB1と副ビームB2との間の距離d(たとえば
図3Aに示す)は、主ビームB1のビーム径の外縁と、副ビームB2のビーム径の外縁との最短距離である。距離dは、副ビームB2で形成された溶融池が固化する前に、その溶融池に主ビームB1が形成する溶融領域が到達できればよいが、副ビームB2のビーム径の2倍未満が好ましく、1倍未満がより好ましく、0.5倍未満がさらに好ましい。
【0066】
また、主ビームB1と副ビームB2とのパワー密度が等しくてもよい。
【0067】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
図4に示すように、第2実施形態に係る溶接装置200は、加工対象Wにレーザ光Lを照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。第2実施形態に係る溶接装置200は、第1実施形態に係る溶接装置と同様の作用原理によって溶接方法を実現するものである。したがって、以下では、溶接装置200の装置構成の説明のみを行う。
【0068】
図4に示すように、溶接装置200は、レーザ光を発振する発振器210と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド220と、発振器210で発振されたレーザ光を光学ヘッド220へ導く光ファイバ230とを備えている。
【0069】
発振器210は、例えば数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成されている。例えば、発振器210は、内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成することとしてもよいし、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザを用いてもよい。
【0070】
光学ヘッド220は、発振器210から導かれたレーザ光Lを、加工対象Wを溶融し得る強度のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド220は、内部にコリメートレンズ221と集光レンズ222とを備えている。コリメートレンズ221は、光ファイバ230によって導かれたレーザ光を一旦平行光化するための光学系であり、集光レンズ222は、平行光化されたレーザ光を加工対象Wに集光させるための光学系である。
【0071】
光学ヘッド220は、集光レンズ222と加工対象Wとの間に、ガルバノスキャナを有している。ガルバノスキャナとは、2枚のミラー224a,224bの角度を制御することで、光学ヘッド220を移動させることなく、レーザ光Lの照射位置を移動させることができる装置である。
図4に示される例では、集光レンズ222から出射したレーザ光Lをガルバノスキャナへ導くためにミラー226を備えている。また、ガルバノスキャナのミラー224a,224bは、それぞれモータ225a,225bによって角度が変更される。
【0072】
第2実施形態に係る光学ヘッド220は、コリメートレンズ221と集光レンズ222との間に回折光学素子223を備えている。回折光学素子223は、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有するように、レーザ光Lを成型するためのものであり、その作用は第1実施形態と同様である。つまり、回折光学素子223は、
図3A~Fに例示されるレーザ光の断面形状のような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように設計される。
【0073】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
図5に示すように、第3実施形態に係る溶接装置300は、加工対象Wにレーザ光Lを照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。第3実施形態に係る溶接装置300は、第1実施形態に係る溶接装置と同様の作用原理によって溶接方法を実現するものであり、光学ヘッド320以外の構成(発振器310および光ファイバ330)は、第2実施形態と同様である。したがって、以下では、光学ヘッド320の装置構成の説明のみを行う。
【0074】
光学ヘッド320は、発振器310から導かれたレーザ光Lを、加工対象Wを溶融し得る強度のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド320は、内部にコリメートレンズ321と集光レンズ322とを備えている。コリメートレンズ321は、光ファイバ330によって導かれたレーザ光を一旦平行光化するための光学系であり、集光レンズ322は、平行光化されたレーザ光を加工対象Wに集光させるための光学系である。
【0075】
光学ヘッド320は、コリメートレンズ321と集光レンズ322との間に、ガルバノスキャナを有している。ガルバノスキャナのミラー324a,324bは、それぞれモータ325a,325bによって角度が変更される。光学ヘッド320では、第2実施形態と異なる位置にガルバノスキャナを設けているが、同様に、2枚のミラー324a,324bの角度を制御することで、光学ヘッド320を移動させることなく、レーザ光Lの照射位置を移動させることができる。
【0076】
第3実施形態に係る光学ヘッド320は、コリメートレンズ321と集光レンズ322との間に回折光学素子323を備えている。回折光学素子323は、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有するように、レーザ光Lを成型するためのものであり、その作用は第1実施形態と同様である。つまり、回折光学素子323は、
図3に例示されるレーザ光の断面形状のような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように設計される。
【0077】
(第4実施形態)
図6は、第4実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
図6に示すように、第4実施形態に係る溶接装置400は、加工対象Wにレーザ光L1,L2を照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。第4実施形態に係る溶接装置400は、第1実施形態に係る溶接装置と同様の作用原理によって溶接方法を実現するものである。したがって、以下では、溶接装置400の装置構成の説明のみを行う。
【0078】
図6に示すように、溶接装置400は、レーザ光を発振する複数の発振器411,412と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド420と、発振器411,412で発振されたレーザ光を光学ヘッド420へ導く光ファイバ431,432とを備えている。
【0079】
発振器411,412は、例えば数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成されている。例えば、発振器411,412は、それぞれの内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成することとしてもよいし、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザを用いてもよい。
【0080】
光学ヘッド420は、発振器411,412から導かれたそれぞれのレーザ光L1,L2を、加工対象Wを溶融し得る強度のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド420は、レーザ光L1のためのコリメートレンズ421aと集光レンズ422aと、レーザ光L2のためのコリメートレンズ421bと集光レンズ422bとを備えている。コリメートレンズ421a,421bは、それぞれ、光ファイバ431,432によって導かれたレーザ光を一旦平行光化するための光学系であり、集光レンズ422a,422bは、平行光化されたレーザ光を加工対象Wに集光させるための光学系である。
【0081】
第4実施形態に係る光学ヘッド420も、加工対象W上におけるレーザ光L1,L2のパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有するように構成されている。すなわち、光学ヘッド420が加工対象Wに照射するレーザ光L1,L2のうち、レーザ光L1を主ビーム形成のために用い、レーザ光L2を副ビーム形成のために用いればよい。なお、図に示される例は、レーザ光L1,L2のみを用いているが、その数を適宜増やすことにより、
図3に例示されるレーザ光の断面形状のような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように構成され得る。
【0082】
(第5実施形態)
図7は、第5実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
図7に示すように、第5実施形態に係る溶接装置500は、加工対象Wにレーザ光L1,L2を照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。第5実施形態に係る溶接装置500は、第1実施形態に係る溶接装置と同様の作用原理によって溶接方法を実現するものである。したがって、以下では、溶接装置500の装置構成の説明のみを行う。
【0083】
図7に示すように、溶接装置500は、レーザ光を発振する発振器510と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド520と、発振器510で発振されたレーザ光を光学ヘッド520へ導く光ファイバ531,533,534とを備えている。
【0084】
第5実施形態では、発振器510は、例えばファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等であり、加工対象Wに照射するレーザ光L1,L2の両方を発振するために用いられる。そのために、発振器510で発振されたレーザ光を光学ヘッド520へ導く光ファイバ531,533,534の間には分岐ユニット532が設けられ、発振器510で発振されたレーザ光を分岐してから光学ヘッド520へ導くように構成されている。
【0085】
光学ヘッド520は、分岐ユニット532で分岐されたレーザ光L1,L2を、加工対象Wを溶融し得る強度のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド520は、レーザ光L1のためのコリメートレンズ521aと集光レンズ522aと、レーザ光L2のためのコリメートレンズ521bと集光レンズ522bとを備えている。コリメートレンズ521a,521bは、それぞれ、光ファイバ533,534によって導かれたレーザ光を一旦平行光化するための光学系であり、集光レンズ522a,522bは、平行光化されたレーザ光を加工対象Wに集光させるための光学系である。
【0086】
第5実施形態に係る光学ヘッド520も、加工対象W上におけるレーザ光L1,L2のパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有するように構成されている。すなわち、光学ヘッド520が加工対象Wに照射するレーザ光L1,L2のうち、レーザ光L1を主ビーム形成のために用い、レーザ光L2を副ビーム形成のために用いればよい。なお、図に示される例は、レーザ光L1,L2のみを用いているが、その数を適宜増やすことにより、
図3に例示されるレーザ光の断面形状のような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように構成され得る。
【0087】
(第6実施形態)
図8は、第6実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
図8に示すように、第6実施形態に係る溶接装置600は、加工対象Wにレーザ光Lを照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。第6実施形態に係る溶接装置600は、第1実施形態に係る溶接装置と同様の作用原理によって溶接方法を実現するものである。したがって、以下では、溶接装置600の装置構成の説明のみを行う。
【0088】
図8に示すように、溶接装置600は、例えばファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等であるレーザ光を発振する複数の発振器611,612と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド620と、発振器611,612で発振されたレーザ光を光学ヘッド620へ導く光ファイバ631,632,635とを備えている。
【0089】
第6実施形態では、発振器611,612で発振されたレーザ光は、光学ヘッド620へ導かれる前に結合される。そのために、発振器611,612で発振されたレーザ光を光学ヘッド620へ導く光ファイバ631,632,635の間には結合部634が設けられ、発振器611,612で発振されたレーザ光は、光ファイバ635中を並列して導波されることになる。
【0090】
ここで、
図9A、9Bを参照しながら、光ファイバ631(および632)および光ファイバ635の構成例を説明する。
図9Aに示すように、光ファイバ631(および632)は、通常の光ファイバである。すなわち、光ファイバ631(および632)は、1つのコアCoの周囲にコアCoよりも屈折率が低いクラッドClが形成された光ファイバである。一方、
図9Bに示すように、光ファイバ635は、いわゆるマルチコアの光ファイバである。すなわち、光ファイバ635は、2つのコアCo1,Co2を有し、この2つのコアCo1,Co2の周囲にコアCo1,Co2よりも屈折率が低いクラッドClが形成されている。そして、結合部634では、光ファイバ631のコアCoと光ファイバ635のコアCo1とが結合され、また、光ファイバ632のコアCoと光ファイバ635のコアCo2とが結合されることになる。
【0091】
図8の参照に戻る。光学ヘッド620は、結合部634によって結合されたレーザ光Lを、加工対象Wを溶融し得る強度のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド620は、内部にコリメートレンズ621と集光レンズ622とを備えている。
【0092】
本実施形態では、光学ヘッド620が回折光学素子を備えてなく、また、複数のレーザ光のための独立した光学系も有していないが、発振器611,612で発振されたレーザ光は、光学ヘッド620へ導かれる前に結合されているので、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ピークよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有するように構成されている。
【0093】
なお、本明細書のすべての実施形態に関して、主ビームの溶接形態は、キーホール型溶接であってもよいし、熱伝導型溶接であってもよい。ここでいうキーホール溶接とは、高いパワー密度を用い、加工対象Wが溶融した際に発生する金属蒸気の圧力により発生するくぼみや穴(キーホール)を利用した溶接方法である。一方、熱伝導型溶接とは、母材の表面でレーザ光が吸収されて発生した熱を利用して加工対象Wを溶融させる溶接方法である。
【0094】
(検証実験1)
ここで、本発明の効果の検証実験1の結果について説明する。本検証実験1で用いられる装置構成は、第1実施形態に係る溶接装置100の構成であり、従来例の装置構成として、溶接装置100から回折光学素子123を除いた構成を用いた。なお、共通の実験条件として、発振器110の出力を3kWとし、光学ヘッド120と加工対象Wとの相対的移動速度を毎分5mとし、シールドガスとして窒素ガスを用いている。
【0095】
回折光学素子123は、
図10に示されるような、ピークP1を有する主ビームB1とピークP2を有する副ビームB2とで形成され、副ビームB2が、主ビームB1の周囲を囲むリング形状の一部である円弧状のレーザ光の断面形状が加工対象Wに照射されるように設計されている。この回折光学素子123によって成型されたレーザ光を図中矢印Aの方向および図中矢印Bの方向の2通りの移動方向において、スパッタの発生を観察した。なお、従来例の装置構成では、
図10に示されるレーザ光の断面形状のうち、円弧部分が削除されたレーザ光が加工対象Wに照射されることになる。
【0096】
すなわち、本検証実験1は、図中矢印Aの方向に移動した場合が、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する状況に対応し、図中矢印Bの方向に移動した場合が、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向後方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する状況に対応し、従来例の構成の場合が、主ビームB1のみが照射される状況に対応することになる。
【0097】
主ビームB1のみが照射される状況、および、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向後方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する状況では、スパッタが多く発生しているのに対し、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する状況では、スパッタの発生が顕著に少なくなり、20%程度かそれ以下になる。
【0098】
この検証実験1からも、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ピークよりも移動方向前方に、主ピークよりもパワー密度が低い副ピークを有する溶接装置およびこれを用いた溶接方法が、スパッタの発生を抑制する効果を奏することが示された。
【0099】
また、窒素ガスを用いない条件においても表1のように、効果があることを確認した。表1は、4つの実験を示している。加工対象の材料は、SUS304で厚さが10mmのものである。DOEは回折光学素子である。焦点位置は主ビームおよび副ビームの焦点位置であり、表面にジャストフォーカスとしている。設定出力は発振器から出力されるレーザ光のパワーである。速度は掃引速度である。外観として、実験No.3、4が好ましい結果であった。
【表1】
【0100】
図11、12は、レーザ光の断面形状の例を示す図であって、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低いV字状の副ビームB2を有する例である。
図11は主ビームB1と副ビームB2とが重なっている例であり、
図12は主ビームB1と副ビームB2とが重なっていない例である。
【0101】
(金属材料の反射率)
ここで、金属材料の反射率について説明する。
図13に示すグラフは、代表的金属材料の反射率を光の波長に関して示したものである。
図13に示すグラフは、横軸を波長とし、縦軸を反射率とするものであり、金属材料の例として、アルミニウム、銅、金、ニッケル、白金、銀、ステンレス鋼、チタン、およびスズを記載している。なお、
図13に示すグラフは、NASA TECHNICAL NOTE (D-5353)に記載のデータをグラフ化したものである。
【0102】
図13に示すグラフから読みとれるように、ステンレス鋼などと比べると、銅およびアルミニウムなどは反射率が高い。特に、レーザ溶接において一般的に用いられる赤外レーザ光の波長領域ではその差は顕著である。例えば、1070nm付近では銅やアルミニウムの反射率が95%程度であることから、照射したレーザ光のエネルギーの5%程度しか加工対象に吸収されないことになる。これは、ステンレス鋼と比較すると、照射するエネルギーの効率が6分の1程度になってしまっていることを意味する。
【0103】
一方、銅やアルミニウムなどの反射率が高いといっても、全ての波長の光に対して反射率が高いわけではない。特に、銅における反射率の変化は顕著である。上述のように、1070nm付近での銅の反射率は95%程度であったものが、黄色の波長(例えば600nm)では、銅の反射率は75%程度となり、そこから急峻に減少し、紫外光の波長(例えば300nm)では、銅の反射率は20%程度となる。したがって、一般的な赤外レーザ光を用いるよりも、青や緑のレーザ光を用いたレーザ溶接の方がエネルギーの効率が高い。具体的には、300nmから600nmの間の波長のレーザ光を用いることが好ましい。
【0104】
なお、上記波長の範囲は一例であり、対象材料の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長のレーザ光を用いてレーザ溶接を行えば、反射率の観点で、エネルギーの効率が高い溶接が行える。この場合の赤外領域とは、一般的なレーザ溶接に用いられる赤外レーザ光の波長である1070nmとすることが好ましい。
【0105】
以下で説明する本発明の実施形態に係る溶接方法および溶接装置は、上記特性を活用したものである。
【0106】
(第7実施形態)
第7実施形態に係る溶接装置は、
図1に示す第1実施形態に係る溶接装置100によって実現できる。
【0107】
レーザ発振器110は、例えば数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成されている。例えば、レーザ発振器110は、内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成することとしてもよい。第7実施形態では、レーザ発振器110は、上記観点から、300nmから600nmの間の波長のレーザ光を発振するように構成されていることが好ましい。さらに、加工対象Wに応じて、当該加工対象Wの反射率が低くなる波長を発振するレーザ発振器110を選択することがより好ましい。
【0108】
第7実施形態に係る光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と集光レンズ122との間にビームシェイパとしての回折光学素子123を備えている。回折光学素子123は、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の掃引方向に関するプロファイルが、主ビームよりも掃引方向前方に位置する副ビームを有するように、レーザ光Lを成型するためのものである。したがって、第7実施形態に係る溶接装置100は、同一のレーザ発振器110から出射されたレーザ光を、回折光学素子123によって分離する構成であり、結果として、主ビームおよび副ビームの両方のビームを形成するレーザ光の波長が同一である。なお、回折光学素子123は、回転可能に設ける構成とすることができる。また、交換可能に設ける構成とすることもできる。
【0109】
加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の掃引方向に関するプロファイルが、主ビームと、主ビームよりも掃引方向前方に位置する副ビームを有することの作用は、以下の通りである。
図14A、14Bは、レーザ光が加工対象を溶融する状況の比較を示す図である。
【0110】
図14Aに示すように、従来のレーザ溶接では、レーザ光が1つのビームBを有しているので、レーザ光が照射される位置から掃引方向(矢印v)前方の溶融前金属W1が、レーザ光のエネルギーによって溶融し、レーザ光が照射された位置から掃引方向(矢印v)の反対方向に、加工対象Wが溶融した溶融池WPが形成される。その後、溶融池WPが再凝固して再凝固金属W2となり、加工対象Wが溶接されることになる。
【0111】
一方、
図14Bに示すように、第11実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、加工対象W上におけるレーザ光のパワー密度の掃引方向に関するプロファイルが、主ビームB1と副ビームB2とを有している。そして、パワー密度が高い主ビームB1よりも掃引方向(矢印v)の前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する。また、副ビームB2のパワー密度は、主ビームB1の存在下または単独にて、加工対象Wを溶融し得る強度である。したがって、主ビームB1が照射される位置よりも前方に、主ビームB1が溶融する深さよりも浅い溶融池が形成されることになる。これを便宜上、前方溶融池WPfと呼ぶことにする。
【0112】
図14Bに示すように、主ビームB1と副ビームB2のレーザ光のビームの溶融強度領域は、必ずしも重なる必要はなく、溶融池が重なればよい。つまり、副ビームB2で形成された溶融池が固化する前に、前方溶融池WPfに主ビームB1が形成する溶融強度領域が到達できればよい。上記のように、主ビームB1および副ビームB2のパワー密度は加工対象Wを溶融し得る強度であり、溶融強度領域とは、主ビームB1または副ビームB2の周囲における加工対象Wを溶融し得るパワー密度のレーザ光のビームの範囲のことをいう。
【0113】
第11実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームB1が照射される位置よりも前方に前方溶融池WPfが存在することで、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WPの状態が安定化する。先述したように、スパッタは、溶融金属が飛散したものであるので、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WPの状態が安定化することは、スパッタの発生を抑制することにつながる。
【0114】
しかも、第7実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームB1および副ビームB2のうち少なくとも副ビームB2(本例では両方)を形成するレーザ光の波長は、加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長であるので、銅やアルミニウムなどの赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、前方溶融池WPfを効率良く形成することができる。
【0115】
第7実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームB1におけるパワー密度よりも、副ビームB2におけるパワー密度が低いことが好ましい。より具体的には、副ビームB2におけるパワー密度は、1×107W/cm2以下であることが好ましい。副ビームB2の目的は、主ビームB1が照射される位置よりも前方に前方溶融池WPfを形成することであり、前方溶融池WPfの作用は、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WPの状態が安定化することにある。前方溶融池WPfの深さは、溶融池WPを安定させる程度の浅いもので十分であり、しかも、先述のように、副ビームB2を形成するレーザ光を加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長とすることで加工対象に対する反射率が低減されるので、パワー密度が過度に高いことが要求されない。副ビームのパワー密度が過度に高いと、副ビーム自体がスパッタ発生の一因となってしまう。一方、主ビームの目的は加工対象Wを十分に溶融し、加工対象を確実に溶接することが求められている。これらを考慮すると、主ビームB1におけるパワー密度よりも、副ビームB2におけるパワー密度が低いことが好ましいことになる。
【0116】
加工対象上におけるレーザ光のパワー密度の掃引方向に関するプロファイルが、主ビームよりも掃引方向前方に位置する副ビームを有するための、レーザ光の断面形状の例は、
図3A~3F、11、12に示すとおりである。
【0117】
副ビームB2に配されるレーザ光は、溶接を目的とする主ビームB1に比べパワー密度が低いため、たとえ副ビームB2が目的の前方向以外に配されていても本来の溶接作業を阻害することはない。例えば、主ビームB1を形成するレーザ光の強度を1kWとし、副ビームB2を形成するレーザ光の強度を300Wとする。
【0118】
なお、上記説明した例からも明らかであるが、副ビームP2は必ずしも尖頭値が一点になるプロファイルでなくてもよい。ある程度の領域(線状を含む)において尖頭値を有するプロファイルや、尖頭値を有する点がある程度近い間隔で配置されているプロファイルであっても、形成される溶融池に実質的な影響を与えないからである。したがって、これらを区別することなく副ビームP2と呼ぶことにする。
【0119】
(第8実施形態)
第8実施形態に係る溶接装置は、
図4に示す第2実施形態に係る溶接装置200によって実現できる。
【0120】
レーザ発振器210は、例えば数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成されている。例えば、レーザ発振器210は、内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成する。レーザ発振器210は、第8実施形態と同様に、300nmから600nmの間の波長のレーザ光を発振するように構成されていることが好ましい。さらに、加工対象Wに応じて、当該加工対象Wの反射率が低くなる波長を発振するレーザ発振器210を選択することがより好ましい。
【0121】
第8実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームおよび副ビームのうち少なくとも副ビーム(本例では両方)を形成するレーザ光の波長は、加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長であるので、銅やアルミニウムなどの赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、前方溶融池を効率良く形成することができる。
【0122】
(第9実施形態)
第9実施形態に係る溶接装置は、
図5に示す第3実施形態に係る溶接装置300によって実現できる。
【0123】
光学ヘッド320は、コリメートレンズ321と集光レンズ322との間にビームシェイパとしての回折光学素子323を備えている。回折光学素子323は、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の掃引方向に関するプロファイルが、主ビームよりも掃引方向前方に位置する副ビームを有するように、レーザ光Lを成型するためのものである。つまり、回折光学素子323は、
図3A~3F、11、12に例示されるレーザ光の断面形状のような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように設計される。
【0124】
第9実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームおよび副ビームのうち少なくとも副ビーム(本例では両方)を形成するレーザ光の波長は、加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長であるので、銅やアルミニウムなどの赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、前方溶融池を効率良く形成することができる。
【0125】
(第10実施形態)
第10実施形態に係る溶接装置は、
図6に示す第4実施形態に係る溶接装置400によって実現できる。
【0126】
第10実施形態では、レーザ発振器411とレーザ発振器412とは、異なるレーザ発振器であり、同一の波長のレーザ光を発振してもよいが、異なるレーザ光を発振するように構成してもよい。その場合、主ビームおよび副ビームのうち副ビームを形成するレーザ光L2の波長が300nmから600nmの間の波長となるように、レーザ発振器412を構成する。
【0127】
光学ヘッド420は、加工対象W上におけるレーザ光L1,L2のパワー密度の掃引方向に関するプロファイルが、主ビームよりも掃引方向前方に位置する副ビームを有するように構成されている。すなわち、光学ヘッド420が加工対象Wに照射するレーザ光L1,L2のうち、レーザ光L1を主ビーム形成のために用い、レーザ光L2を副ビーム形成のために用いればよい。なお、図に示される例は、レーザ光L1,L2のみを用いているが、その数を適宜増やすことにより、
図3A~3F、11、12に例示されるレーザ光の断面形状のような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように構成され得る。
【0128】
第10実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームおよび副ビームのうち少なくとも副ビームを形成するレーザ光の波長は、加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長であるので、銅やアルミニウムなどの赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、前方溶融池を効率良く形成することができる。一方、主ビームを形成するレーザ光L1の波長は、必ずしも加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長とする必要がないので、レーザ発振器411は、従来品と同様に、赤外波長の高出力レーザ発振器を用いることができる。つまり、本実施形態では、副ビームを形成するレーザ光の波長は、主ビームを形成するレーザ光の波長における加工対象の反射率よりも低い反射率を持つ波長となる。赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、溶融状態では反射率が低くなるので、レーザ発振器411は、例えばファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等の赤外波長の高出力レーザ発振器を用いても十分に加工対象を溶融することができる。
【0129】
(第11実施形態)
第11実施形態に係る溶接装置は、
図7に示す第5実施形態に係る溶接装置500によって実現できる。
【0130】
光学ヘッド520は、加工対象W上におけるレーザ光L1,L2のパワー密度の掃引方向に関するプロファイルが、主ビームよりも掃引方向前方に位置する副ビームを有するように構成されている。すなわち、光学ヘッド520が加工対象Wに照射するレーザ光L1,L2のうち、レーザ光L1を主ビーム形成のために用い、レーザ光L2を副ビーム形成のために用いればよい。なお、図に示される例は、レーザ光L1,L2のみを用いているが、その数を適宜増やすことにより、
図3A~3F、11、12に例示されるレーザ光の断面形状のような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように構成され得る。
【0131】
第11実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームおよび副ビームのうち少なくとも副ビーム(本例では両方)を形成するレーザ光の波長は、加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長であるので、銅やアルミニウムなどの赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、前方溶融池を効率良く形成することができる。
【0132】
(第12実施形態)
第12実施形態に係る溶接装置は、
図8に示す第6実施形態に係る溶接装置600によって実現できる。
【0133】
第12実施形態では、レーザ発振器611とレーザ発振器612とは、異なるレーザ発振器であり、同一の波長のレーザ光を発振してもよいが、異なるレーザ光を発振するように構成してもよい。その場合、主ビームおよび副ビームのうち副ビームを形成するレーザ光の波長が300nmから600nmの間の波長となるように、レーザ発振器612を構成する。
【0134】
第12実施形態では、レーザ発振器611,612で発振されたレーザ光は、光学ヘッド620へ導かれる前に結合される。そのために、レーザ発振器611,612で発振されたレーザ光を光学ヘッド620へ導く光ファイバ631,632,635の間には結合部634が設けられ、レーザ発振器611,612で発振されたレーザ光は、光ファイバ635中を並列して導波されることになる。
【0135】
光学ヘッド620は、結合部634によって結合されたレーザ光Lを、加工対象Wを溶融し得る強度のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド620は、内部にコリメートレンズ621と集光レンズ622とを備えている。
【0136】
本実施形態では、光学ヘッド620がビームシェイパを備えてなく、また、複数のレーザ光のための独立した光学系も有していないが、レーザ発振器611,612で発振されたレーザ光は、光学ヘッド620へ導かれる前に結合されているので、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の掃引方向に関するプロファイルが、主ビームよりも掃引方向前方に位置する副ビームを有するように構成されている。
【0137】
第12実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームおよび副ビームのうち少なくとも副ビームを形成するレーザ光の波長は、加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長であるので、銅やアルミニウムなどの赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、前方溶融池を効率良く形成することができる。一方、主ビームを形成するレーザ光L1の波長は、必ずしも加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長とする必要がないので、レーザ発振器611は、従来品と同様に、赤外波長の高出力レーザ発振器を用いることができる。つまり、本実施形態では、副ビームを形成するレーザ光の波長は、主ビームを形成するレーザ光の波長における加工対象の反射率よりも低い反射率を持つ波長となる。赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、溶融状態では反射率が低くなるので、レーザ発振器611は、例えばファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等の赤外波長の高出力レーザ発振器を用いても十分に加工対象を溶融することができる。
【0138】
先に挙げたすべての実施形態に関して、主ビームの溶接形態は熱伝導型溶接だけでなく、キーホール型溶接であってもよい。
【0139】
(検証実験2)
ここで、本発明の効果の検証実験2の結果について説明する。本検証実験2で用いられる装置構成は、第7実施形態に係る溶接装置の構成であり、溶接装置100と同じ構成である。比較例としての第1の実験条件は、溶接装置100から回折光学素子123を除いた構成を用いたものであり、本発明に対応する第2の実験条件は、照射面形状が
図10に示されるプロファイルで加工対象Wにレーザ光が照射されるように設計された回折光学素子123を備えるが、用いるレーザ光の波長が青色領域のものである。なお、共通の実験条件として、光学ヘッド120と加工対象Wとの掃引速度を毎分5mとし、シールドガスとして窒素ガスを用いている。なお、加工対象Wは厚み2mmのタフピッチ銅を採用している。
【0140】
より詳しくは、第1の実験条件では、レーザ発振器110として、発振波長1070nmのマルチモードファイバレーザ装置を用い、これを3kWの出力で使用する。そして、回折光学素子123を介さずに加工対象に単スポットして照射することにより、集光点のスポット径は100μmであり、その平均パワー密度は3.8×107W/cm2とする。
【0141】
第2の実験条件では、レーザ発振器110として、発振波長450nmの半導体レーザ装置を用い、これを1kWの出力で使用する。使用する回折光学素子123は、
図10に示されるような照射面形状のレーザ光が加工対象Wに照射されるように設計されたものである。出力の分配は、1kWの出力のうち300Wを半円状の副ビームにほぼ均等に分配している。このとき、主ビームの平均パワー密度は2.2×10
6W/cm
2であり、副ビームの平均パワー密度は8.0×10
4W/cm
2である。
【0142】
上記実験条件の下、検証実験を行ったところ、以下のような結果が得られた。
【0143】
第1の実験条件では、集光点のパワー密度が純銅の溶融閾値を超えキーホールを形成し溶接ができたが、同時にスパッタや溶接欠陥が頻発した。
【0144】
一方、第2の実験条件では、レーザ発振器の出力が1kWであったにも拘わらず、銅材は波長450nmにおける吸収率が高いので、所望の深さまで溶接をすることができ、しかも、掃引方向前方に配した300Wの半円状の副ビームクによって前方溶融池を形成することも可能であった。結果、副ビームによって形成された前方溶融池の効果により、スパッタおよび溶接欠陥が顕著に少なくなり、20%程度またはそれ以下になることが高速度カメラ観察から確認された。
【0145】
この検証実験からも、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、主ビームよりも移動方向前方に位置する副ビームを有し、その主ビームおよび副ビームのうち少なくとも副ビームを形成するレーザ光の波長が加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長である溶接装置およびこれを用いた溶接方法が、スパッタの発生を抑制する効果を奏することが示された。
【0146】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各実施形態の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明の範疇に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0147】
100,200,300,400,500,600 溶接装置
110,210,310,411,412,510,611,612 発振器
120,220,320,420,520,620 光学ヘッド
121,221,321,421a,421b,521a,521b,621 コリメートレンズ
122,222,322,422a,422b,522a,522b,622 集光レンズ
123,223,323 回折光学素子
224a,224b,226,324a,324b ミラー
225a,225b,325a,325b モータ
130,230,330,431,432,531,533,534,631,632,635 光ファイバ
532 分岐ユニット
634 結合部