(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】電池用端子および電池用端子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/562 20210101AFI20230823BHJP
H01M 50/553 20210101ALI20230823BHJP
H01M 50/564 20210101ALI20230823BHJP
H01M 50/567 20210101ALI20230823BHJP
B21K 1/58 20060101ALN20230823BHJP
F16B 19/08 20060101ALN20230823BHJP
【FI】
H01M50/562
H01M50/553
H01M50/564
H01M50/567
B21K1/58
F16B19/08 A
(21)【出願番号】P 2022511526
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2020047232
(87)【国際公開番号】W WO2021199518
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2020063253
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(73)【特許権者】
【識別番号】502246322
【氏名又は名称】株式会社青山製作所茨城工場
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】北川 尭生
(72)【発明者】
【氏名】横田 将幸
(72)【発明者】
【氏名】石井 尚憲
(72)【発明者】
【氏名】中野 裕文
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第6014808(JP,B1)
【文献】特表2005-519770(JP,A)
【文献】特開2007-254775(JP,A)
【文献】特開2002-093489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/50
B21K 1/58
B21D 53/00
F16B 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純AlまたはAl基合金から構成されるAl層(31)と、
純CuまたはCu基合金から構成されるCu層(32)とが、この順に積層された状態で接合されたクラッド材から構成され、
前記Al層側から前記Cu層側に延びる軸部(21)と、前記軸部の側方から放射方向に広がる鍔部(22)と、前記軸部の前記Cu層側の先端からさらに延びる壁部に囲まれる凹部(23)と、を備え、
前記軸部の軸方向の切断面において、前記壁部の前記Cu層からなるCu部分を構成するCu結晶粒の断面積は、10μm
2以上100μm
2以下である、電池用端子。
【請求項2】
前記Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積は、65μm
2以下である、請求項1に記載の電池用端子。
【請求項3】
前記Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積は、40μm
2以下である、請求項2に記載の電池用端子。
【請求項4】
前記Cu部分のビッカース硬さは、110HV以上125HV以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電池用端子。
【請求項5】
純AlまたはAl基合金からなるAl板材(131)と、純CuまたはCu基合金からなるCu板材(132)とを、この順に積層した状態で接合することによって、Al材(310)およびCu材(320)により構成されたクラッド材(300)を形成する工程と、
前記クラッド材をプレス加工することによって、クラッド材のAl材からなるAl層(31)と、クラッド材のCu材からなるCu層(32)とが、この順に積層された状態で接合され、前記Al層側から前記Cu層側に延びる軸部(21)と、前記軸部の側方から放射方向に広がる鍔部(22)と、前記軸部の前記Cu層側の先端からさらに延びる壁部に囲まれる凹部(23)とを含む、電池用端子を形成する工程と、を備え、
前記電池用端子を形成する工程は、前記軸部の軸方向の切断面において、前記壁部の前記Cu層からなるCu部分を構成するCu結晶粒の断面積が10μm
2以上100μm
2以下になるように、前記クラッド材をプレス加工する工程を含む、電池用端子の製造方法。
【請求項6】
前記電池用端子を形成する工程は、前記Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積が65μm
2以下になるように、前記クラッド材をプレス加工する工程を含む、請求項5に記載の電池用端子の製造方法。
【請求項7】
前記電池用端子を形成する工程は、前記Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積が40μm
2以下になるように、前記クラッド材をプレス加工する工程を含む、請求項6に記載の電池用端子の製造方法。
【請求項8】
前記電池用端子を形成する工程は、前記クラッド材の厚み方向の切断面において、前記Cu材を構成するCu結晶粒の断面積をS1とし、前記軸部の軸方向の切断面において、前記Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積をS2とするとき、(S1-S2)/S1×100で求まるプレス加工前後のCu結晶粒の変形率が45%以上100%未満になるように、前記凹部を形成する工程を含む、請求項5~7のいずれか1項に記載の電池用端子の製造方法。
【請求項9】
前記電池用端子を形成する工程は、前記変形率が60%以上になるように、前記凹部を形成する工程を含む、請求項8に記載の電池用端子の製造方法。
【請求項10】
前記クラッド材を形成する工程は、前記クラッド材の厚み方向の切断面において、前記Cu材のビッカース硬さが70HV以下になるように、前記クラッド材を形成する工程を含む、請求項5~9のいずれか1項に記載の電池用端子の製造方法。
【請求項11】
前記電池用端子を形成する工程は、前記Cu部分のビッカース硬さが110HV以上125HV以下になるように、前記クラッド材をプレス加工する工程を含む、請求項5~10のいずれか1項に記載の電池用端子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえばリチウムイオン電池に適する電池用端子および電池用端子の製造方法に関し、特に、純AlまたはAl基合金からなるAl層と、純CuまたはCu基合金からなるCu層とを備える電池用端子および電池用端子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Al基合金から構成される第1金属層と、Cu基合金から構成される第2金属層とを備える電池用端子が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特許第6014808号に開示されている電池用端子は、軸部と、軸部から放射方向に放射状の広がりを持つ鍔部とを有している。また、特許第6014808号では、電池用端子は、軸部の先端のCu層から構成されたCu部分を折り曲げるとともに、かしめることにより、他の部材に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許第6014808号には記載されてないが、電池用端子の軸部の先端のCu部分を折り曲げてかしめることによって他の部材に固定するためには、折り曲げられるCu部分に、折り曲げおよびかしめに耐える機械的特性が求められる。また、電池用端子と他の部材との間の堅固な固定状態(かしめ状態)を維持するためには、かしめられたCu部分に、その固定状態に経時的に耐える機械的特性が求められる。そこで、本願発明者が鋭意検討したところ、そのCu部分の加工性が過度に悪いと、そのCu部分を折り曲げてかしめたときに、そのCu部分に割れが発生するという問題点を発見した。また、そのCu部分の加工性が過度に良いと、電池用端子の軸部の先端のCu部分を折り曲げてかしめることによって他の部材に固定した後に、Cu部分に振動などの外力が加わったときに割れが発生するという問題点を発見した。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の1つの目的は、軸部の先端のCu部分を折り曲げてかしめることにより他の部材に固定するのに適切な機械的特性を有するとともに、その固定状態(かしめ状態)を維持するために適切な機械的特性を有することが可能な電池用端子およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、上記のような課題を解決するために鋭意検討した結果、電池用端子の軸部の先端のCu部分が適切な断面積の結晶粒で構成されていることにより、Cu部分が好適な機械的特性を有することができることを見出した。そして、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の第1の局面による電池用端子は、純AlまたはAl基合金から構成されるAl層と、純CuまたはCu基合金から構成されるCu層とが、この順に積層された状態で接合され、Al層側からCu層側に延びる軸部と、軸部の側方から放射方向に広がる鍔部と、軸部のCu層側の先端からさらに延びる壁部に囲まれる凹部と、を備え、軸部の軸方向の切断面において、壁部のCu層からなるCu部分を構成するCu結晶粒の断面積は、10μm2以上100μm2以下である。
【0009】
この発明の第1の局面による電池用端子は、Al層側からCu層側に延びる軸部と、軸部の側方から放射方向に広がる鍔部と、軸部の先端のCu層側に延びる壁部に囲まれる凹部とを備え、軸部の軸方向の切断面において、壁部のCu層からなるCu部分を構成するCu結晶粒の断面積は、10μm2以上100μm2以下である。このように構成すれば、軸部の軸方向の切断面において、壁部のCu層からなるCu部分を構成するCu結晶粒の断面積が10μm2以上100μm2以下であることにより、軸部の先端のCu部分が適度なビッカース硬さを有するため、十分な加工性を有することができる。そのため、軸部の先端のCu部分を折り曲げてかしめることにより他の部材に固定するのに好適な機械的特性を有することができるとともに、その固定状態(かしめ状態)を維持するために適切な機械的特性を有することができる。具体的には、電池用端子の軸部の先端のCu部分を折り曲げてかしめることによって他の部材に固定するために、折り曲げられるCu部分に折り曲げおよびかしめに耐える機械的特性が求められる。Cu結晶粒の断面積が10μm2以上100μm2以下であるCu部分は、折り曲げてかしめたときに割れが発生しにくいという、折り曲げおよびかしめに耐える機械的特性を有することができる。また、電池用端子と他の部材との間の堅固な固定状態(かしめ状態)を維持するためには、かしめられたCu部分に固定状態を維持する機械的特性が求められる。Cu結晶粒の断面積が10μm2以上100μm2以下であるCu部分は、折り曲げてかしめることによって他の部材に固定した後に振動などの外力が加わったときに割れが発生しにくいという、その固定状態に経時的に耐える機械的特性を有することができる。
【0010】
この発明の第1の局面による電池用端子において、好ましくは、Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積は、65μm2以下である。このように構成すれば、Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積が(10μm2以上)65μm2以下であることにより、軸部の先端のCu部分の加工性を向上させることができるため、軸部の先端のCu部分を折り曲げてかしめることにより他の部材に固定するのにより適切な機械的特性を有することができるとともに、その固定状態(かしめ状態)を維持するためにより好適な機械的特性を有することができる。この結果、Cu部分を折り曲げてかしめたときに割れが発生することを十分に抑制することができるとともに、かしめられたCu部分に振動などの外力が加わったときに割れが発生することを十分に抑制することができる。
【0011】
この発明の第1の局面による電池用端子において、より好ましくは、Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積は、40μm2以下である。このように構成すれば、Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積が10μm2以上40μm2以下であることにより、軸部の先端のCu部分の加工性をより向上させることができるため、電池用端子の形状に拠らず、軸部の先端のCu部分を折り曲げてかしめることにより他の部材に固定するのに十分かつ適切な機械的特性を有することができるとともに、その固定状態(かしめ状態)を維持するためにより適切な機械的特性を有することができる。この結果、Cu部分を折り曲げてかしめたときに割れが発生することを十分に抑制することができるとともに、かしめられたCu部分に振動などの外力が加わったときに割れが発生することを十分に抑制することができる。
【0012】
上記第1の局面による電池用端子において、好ましくは、Cu部分のビッカース硬さは、110HV以上125HV以下である。ここで、軸部の先端のCu部分のビッカース硬さが125HVを超えると加工性が悪くなり過ぎるとともに、軸部の先端のCu部分のビッカース硬さが110HV未満になると加工性が良くなり過ぎる。そのため、このように構成すれば、軸部の先端のCu部分が適切なビッカース硬さを有するため、軸部の先端のCu部分を折り曲げてかしめるのに好適な機械的特性を有することができるとともに、かしめられたCu部分に振動などの外力が加わったときに割れが発生しにくい適切な機械的特性を有することができる。
【0013】
この発明の第2の局面による電池用端子の製造方法は、純AlまたはAl基合金からなるAl板材と、純CuまたはCu基合金からなるCu板材とを、この順に積層した状態で接合することによって、Al材およびCu材により構成されたクラッド材を形成する工程と、クラッド材をプレス加工することによって、クラッド材のAl材からなるAl層と、クラッド材のCu材からなるCu層とが、この順に積層された状態で接合され、Al層側からCu層側に延びる軸部と、軸部の側方から放射方向に広がる鍔部と、軸部の先端のCu層側に延びる壁部に囲まれる凹部とを含む電池用端子を形成する工程と、を備え、電池用端子を形成する工程は、軸部の軸方向の切断面において、壁部のCu層からなるCu部分を構成するCu結晶粒の断面積が10μm2以上100μm2以下になるように、クラッド材をプレス加工する工程を含む。
【0014】
この発明の第2の局面による電池用端子の製造方法は、軸部の軸方向の切断面において、壁部のCu層からなるCu部分を構成するCu結晶粒の断面積が10μm2以上100μm2以下になるように、クラッド材をプレス加工する工程を含む。この構成により、壁部のCu層からなるCu部分を十分な硬さを有するようにプレス加工することができるため、Cu部分が十分な加工性を有し、折り曲げてかしめることにより他の部材に固定するのに好適な機械的特性を有するCu部分を軸部の先端に形成することができるとともに、その固定状態(かしめ状態)を維持するために好適な機械的特性を有するCu部分を形成することができる。具体的には、電池用端子の軸部の先端のCu部分を折り曲げてかしめることによって他の部材に固定するためには、折り曲げられるCu部分(特に壁部の基部領域のCu部分)に、折り曲げおよびかしめに耐える機械的特性が求められる。Cu結晶粒の断面積が10μm2以上100μm2以下となるようにプレス加工されたCu部分は、折り曲げてかしめたときに割れが発生しにくいという、折り曲げおよびかしめに耐える機械的特性を有することができる。また、電池用端子と他の部材との間の健全な固定状態(かしめ状態)を維持するためには、かしめられたCu部分に固定状態を維持する機械的特性が求められる。Cu結晶粒の断面積が10μm2以上100μm2以下となるようにプレス加工されたCu部分(特に壁部の基部領域のCu部分)は、折り曲げてかしめることによって他の部材に固定した後に振動などの外力が加わったときに割れが発生しにくいという、その固定状態に経時的に耐える機械的特性を有することができる。
【0015】
この発明の第2の局面による電池用端子の製造方法において、好ましくは、電池用端子を形成する工程は、Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積が65μm2以下になるようにクラッド材をプレス加工する工程を含む。このように構成すれば、Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積が(10μm2以上)65μm2以下になるようにクラッド材をプレス加工することにより、軸部の先端のCu部分の加工性が向上するようにクラッド材をプレス加工することができるため、軸部の先端のCu部分を折り曲げてかしめることにより他の部材に固定するのにより適切な機械的特性を有するCu部分を形成することができる。この結果、Cu部分は、折り曲げてかしめたときに割れが発生することをより抑制することができるとともに、かしめられたCu部分に振動などの外力が加わったときに割れが発生することを十分に抑制することができる。
【0016】
この発明の第2の局面による電池用端子の製造方法において、より好ましくは、電池用端子を形成する工程は、Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積が40μm2以下になるようにクラッド材をプレス加工する工程を含む。このように構成すれば、Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積が10μm2以上40μm2以下になるようにクラッド材をプレス加工することにより、軸部の先端のCu部分の加工性がより向上するようにクラッド材をプレス加工することができるため、電池用端子の形状に拠らず、軸部の先端のCu部分を折り曲げてかしめることにより他の部材に固定するのに十分に適切な機械的特性を有するCu部分を形成することができる。この結果、Cu部分は、折り曲げてかしめたときに割れが発生することを十分に抑制することができるとともに、かしめられたCu部分に振動などの外力が加わったときに割れが発生することを十分に抑制することができる。
【0017】
上記第2の局面による電池用端子の製造方法において、好ましくは、電池用端子を形成する工程は、クラッド材の厚み方向の切断面において、Cu材を構成するCu結晶粒の断面積をS1とし、軸部の軸方向の切断面において、Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積をS2とするとき、(S1-S2)/S1×100で求まるプレス加工前後のCu結晶粒の変形率が45%以上100%未満になるように、凹部を形成する工程を含む。このように構成すれば、変形率が45%以上100%未満になるように凹部を形成することにより、プレス加工前のクラッド材のCu材よりもCu結晶粒の断面積が小さいCu部分を形成することができる。この結果、Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積が小さく形成されているため伸びなどの機械的特性が向上し、Cu部分を折り曲げてかしめたときに割れが発生することを抑制することができるとともに、かしめられたCu部分に振動などの外力が加わったときに割れが発生することを抑制することができる。
【0018】
上記第2の局面による電池用端子の製造方法において、好ましくは、電池用端子を形成する工程は、変形率が60%以上になるように、凹部を形成する工程を含む。このように構成すれば、変形率が60%以上(100%未満)になるように形成された凹部において、プレス加工前のクラッド材のCu材よりもCu結晶粒の断面積がより小さいCu部分を形成することができる。この結果、Cu部分を構成するCu結晶粒の断面積がより小さく形成されているため伸びなどの機械的特性がより向上し、Cu部分を折り曲げてかしめたときに割れが発生することを十分に抑制することができるとともに、かしめられたCu部分に振動などの外力が加わったときに割れが発生することを十分に抑制することができる。
【0019】
上記第2の局面に電池用端子の製造方法において、好ましくは、クラッド材を形成する工程は、クラッド材の厚み方向の切断面において、Cu材のビッカース硬さが70HV以下になるように、クラッド材を形成する工程を含む。このように構成すれば、クラッド材のCu材のビッカース硬さが70HV以下であるためプレス加工時の加工性が適度に向上し、プレス加工後のCu部分を構成するCu結晶粒の断面積を好適な大きさに形成することができるとともに、プレス加工後のCu部分を適切なビッカース硬さに形成することができる。
【0020】
上記第2の局面に電池用端子の製造方法において、好ましくは、電池用端子を形成する工程は、Cu部分のビッカース硬さが110HV以上125HV以下になるように、クラッド材をプレス加工する工程を含む。このように構成すれば、プレス加工後のCu部のビッカース硬さを110HV以上125HV以下にすることにより、折り曲げてかしめるのに好適な機械的特性を有するとともに、かしめた後に振動などの外力が加わったときに割れが発生しにくい適切な機械的特性を有する、Cu部分を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、上記のように、軸部の先端のCu部分を折り曲げてかしめることにより他の部材に固定するのに適切な機械的特性を有するとともに、その固定状態(かしめ状態)を維持するために適切な機械的特性を有することが可能である、電池用端子およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態による組電池を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態によるリチウムイオン電池の全体構成を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態によるリチウムイオン電池の全体構成を示す分解斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態によるリチウムイオン電池の正極端子を示す断面図である。
【
図5】本発明の実施形態によるリチウムイオン電池の正極端子を蓋材にかしめた様子を示す断面図である。
【
図6】本発明の実施形態による負極端子を示す断面図である。
【
図7】本発明の実施形態による負極端子の他の例を示す断面図である。
【
図8】本発明の実施形態による負極端子のCu部分の電子顕微鏡像の一部を示す図(写真)である。
【
図9】本発明の実施形態による負極端子を蓋部材にかしめた様子を示す断面図である。
【
図10】本発明の実施形態によるクラッド材を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態によるクラッド材のCu材の電子顕微鏡像の一部を示す図(写真)である。
【
図12】本発明の実施形態によるクラッド材の製造方法を説明するために示す模式図である。
【
図13】本発明の実施形態によるプレス加工をする前の状態を示す図である。
【
図14】本発明の実施形態によるプレス加工をした後の状態を示す図である。
【
図15】本発明の実施形態による負極端子を蓋部材にかしめる前の状態を示す断面図である。
【
図16】本発明の実施形態による負極端子を蓋部材にかしめる途中の状態を示す断面図である。
【
図17】本発明の実施形態による負極端子を蓋部材にかしめた後の状態を示す断面図である。
【
図18】本発明の実施形態による負極端子のレーザ溶接時の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
(電池用端子の構成)
まず、
図1~
図11を参照して、本発明の一実施形態による電池用端子を負極端子20として用いた組電池100の概略的な構成について説明する。
【0025】
組電池100は、電気自動車(EV、electric vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV、hybrid electric vehicle)、および住宅蓄電システムなどに用いられる大型の電池システムである。この組電池100は、
図1に示すように、複数のリチウムイオン電池1が、複数の平板状のバスバー101(点線で図示)によって電気的に接続されることによって構成されている。
【0026】
また、組電池100では、平面的に見てリチウムイオン電池1の短手方向(X方向)に沿って並ぶように、複数のリチウムイオン電池1が配置されている。また、組電池100では、平面的に見て短手方向と直交する長手方向(Y方向)の一方側(Y1側)に正極端子10が位置するとともに、Y方向の他方側(Y2側)に負極端子20が位置するリチウムイオン電池1(1a)と、Y2側に正極端子10が位置するとともに、Y1側に負極端子20が位置するリチウムイオン電池1(1b)とが、X方向に沿って交互に配置されている。
【0027】
また、所定のリチウムイオン電池1の負極端子20と、所定のリチウムイオン電池1に隣接するリチウムイオン電池1の正極端子10とが、X方向に延在する純Alから構成されるバスバー101のX方向の一方端に抵抗溶接により接合されている。これにより、リチウムイオン電池1の負極端子20は、バスバー101を介して、隣接するリチウムイオン電池1の正極端子10と接続されている。このようにして、複数のリチウムイオン電池1が直列に接続された組電池100が構成されている。
【0028】
なお、純Alからなるバスバー101を用いることによって、純Cuからなるバスバーを用いる場合と比べて、バスバー101を軽量化することができる。そのため、純Alからなるバスバー101を用いることによって、複数のバスバー101を用いる組電池100全体を軽量化することが可能である。ここで、純Alとは、たとえば、JIS規格に規定されたA1000番台のアルミニウムを意味している。また、純Cuとは、たとえば、無酸素銅、タフピッチ銅、または、りん脱酸銅などのJIS規格に規定されたC1000番台の銅を意味している。
【0029】
<リチウム電池の構造>
リチウムイオン電池1は、
図2に示すように、略直方体形状の外観を有している。また、リチウムイオン電池1は、X方向およびY方向と直交する上下方向(Z方向)の一方側(Z1側)に配置される蓋部材2と、他方側(Z2側)に配置される電池ケース本体3とを備えている。この蓋部材2および電池ケース本体3は、共にNiめっき鋼板からなる。
【0030】
図3に示すように、蓋部材2は、平板状に形成されている。また、蓋部材2には、Z方向に貫通するように、一対の挿入孔2aおよび挿入孔2bが設けられている。この一対の挿入孔2aおよび挿入孔2bは、蓋部材2のY方向に所定の間隔を隔てて形成されているとともに、蓋部材2のX方向の略中央に形成されている。また、一対の挿入孔2aおよび挿入孔2bには、それぞれ、正極端子10および負極端子20が挿入されるように構成されている。
【0031】
リチウムイオン電池1は、正極4aと負極4bとセパレータ4cとがロール状に積層された発電素子4と、図示しない電解液とを備えている。正極4aは、正極活物質が塗布されたAl箔から構成されている。負極4bは、負極活物質が塗布されたCu箔から構成されている。セパレータ4cは、正極4aと負極4bとを絶縁する機能を有している。
【0032】
また、リチウムイオン電池1は、正極端子10と発電素子4の正極4aとを電気的に接続する正極集電体5と、負極端子20と発電素子4の負極4bとを電気的に接続する負極集電体6とを備えている。
【0033】
正極集電体5は、正極端子10に対応するようにY1側に配置されている。また、正極集電体5は、正極端子10が挿入される孔部5dが形成された接続部5aと、Z2側に延びる脚部5bと、脚部5bと複数の正極4aとを接続する接続板5cとを含んでいる。また、正極集電体5は、正極4aと同様に純Alから構成されている。
【0034】
負極集電体6は、負極端子20に対応するようにY2側に配置されている。また、負極集電体6は、負極端子20が挿入される孔部6dが形成された接続部6aと、Z2側に延びる脚部6bと、脚部6bと複数の負極4bとを接続する接続板6cとを含んでいる。また、負極集電体6は、負極4bと同様に純Cuから構成されている。
【0035】
また、蓋部材2の挿入孔2aおよび挿入孔2bには、それぞれ、絶縁性を有するシール部材7およびシール部材8が嵌め込まれている。シール部材7には、正極端子10が挿入される孔部7aが形成されている。このシール部材7は、蓋部材2のZ1側の上面および挿入孔2aの内側面と、正極端子10とが接触することを抑制するとともに、蓋部材2のZ2側の下面と正極集電体5とが接触することを抑制するように配置されている。また、シール部材8には、負極端子20が挿入される孔部8aが形成されている。シール部材8は、蓋部材2のZ1側の上面および挿入孔2bの内側面と、負極端子20とが接触することを抑制するとともに、蓋部材2のZ2側の下面と負極集電体6とが接触することを抑制するように配置されている。
【0036】
(正極端子の構造)
図3に示すように、正極端子10は、Z方向に延びる円柱状の軸部11と、軸部11のZ1側の端部において、軸部11からX方向およびY方向(X-Y平面方向)に放射状の広がりを持つように形成された円環状の鍔部12とを有している。軸部11は、正極端子10のX方向およびY方向の略中央に位置するように構成されている。
【0037】
図4および
図5に示すように、正極端子10は、正極集電体5およびバスバー101と同様に、純Alから構成されている。また、正極端子10は、軸部11のZ2側の端部に凹部13が形成されている。また、正極端子10は、軸部11が蓋部材2の挿入孔2a(シール部材7の孔部7a)および正極集電体5の孔部5dに挿入された状態で、凹部13を形成する壁部を用いて正極集電体5(
図3参照)に対してかしめられるとともに、かしめられた状態で、レーザ溶接により正極集電体5に接合されて固定されている。なお、軸部11、鍔部12および凹部13を有する正極端子10は、図示しないAl板材をプレス加工することにより形成されている。
【0038】
(負極端子の構造)
図6および
図7に示すように、負極端子20は、Z方向に延びる円柱状の軸部21と、軸部21のZ1側の端部において、軸部21からX方向およびY方向(X-Y平面方向)に放射状の広がりを持つように形成された、Z方向から見て円環状の鍔部22とを有している。軸部21は、負極端子20のX方向およびY方向の略中央に位置するように構成されている。なお、負極端子20は、請求の範囲の「電池用端子」の一例である。X-Y平面方向は、請求の範囲の「放射方向」の一例である。
【0039】
図6に示すように、負極端子20は、軸部21がAl層31側からCu層32側に突出して延びるT字形状を有するか、または、
図7に示すように、十字形状を有する。負極端子20が十字形状を有する場合は、負極端子20は、軸部21がAl層31側からCu層32側に突出して延びる第1軸部21aと、Cu層32側への突出して延びる長さt1よりも小さい突出長さt2でAl層31側に突出する第2軸部21bとを有する。十字形状を有する負極端子20は、第2軸部21bにバスバー101が接続されてもよい。
【0040】
図6に示すように、Cu層32から構成される軸部21は、Al層31と隣り合う中実の領域25と、凹部23と凹部23を囲む壁部24とを含む中空の領域26とを備えている。壁部24は、軸部21の中実の領域25のZ2側(Cu層側)の先端から延びるように形成されている。壁部24のうち、中実の領域25と接触する基部(根元)から、壁部24のZ2方向の中心までの領域を特に基部領域27とする。
【0041】
凹部23は、Z2側から見て、丸パイプ断面のような円環状に形成されている。その結果、凹部23が形成された軸部21のZ2側は、円筒状になるように形成されている。つまり、凹部23は、外側が円筒状の壁部24に囲まれた領域に形成されている。
【0042】
図6に示す負極端子20は、壁部24におけるCu部分33(特に基部領域27のCu部分33a)のビッカース硬さが、好ましくは110HV以上125HV以下である。また、Cu部分33(特にCu部分33a)のビッカース硬さは、かしめられたCu部分33に振動などの外力が加わったときに割れを発生しにくくする観点で、より好ましくは114HV以上125HV以下、より一層好ましくは118HV以上125HV以下である。なお、ビッカース硬さは、ダイヤモンドでできた剛体(圧子)を被試験物に対して押込み、そのときにできるくぼみ(圧痕)の面積の大小で硬さが判断される。
【0043】
Cu部分33のビッカース硬さが110HV以上125HV以下である負極端子20は、Cu部分33を折り曲げてかしめるのに適切な機械的特性を有することができるとともに、かしめられたCu部分33に振動などの外力が加わったときに割れが発生しにくい適切な機械的特性を有する。具体的には、ビッカース硬さが125HVを超えるCu部分33を折り曲げてかしめると、そのCu部分に割れが発生しやすい。また、ビッカース硬さが110HV未満のCu部分を折り曲げてかしめると、そのCu部分に振動などの外力が加わったときに割れが発生しやすい。したがって、負極端子20のCu部分33が110HV以上125HV以下の適切なビッカース硬さを有することにより、組電池100(リチウムイオン電池1)の使用中に振動などの外力が加わることに起因する負極端子20のCu部分33に割れが発生しにくくなる。
【0044】
ビッカース硬さは、壁部24のCu部分33(好ましくは基部領域27のCu部分33a)において測定される。壁部24の基部領域27は、壁部24のCu部分33を折り曲げてかしめたときに最も割れが生じやすい部分となる。この壁部24の基部領域27に割れが生じると、負極端子20と他の部材(負極集電体6)との良好な接続をすることができないため、壁部24の基部領域27のCu部分33aは特に重要な部分である。そのため、壁部24の基部領域27のCu部分33aのビッカース硬さを測定することが好ましい。なお、壁部24の基部領域27のCu部分33aと、壁部24の基部領域27以外のCu部分33bとは、共に、Cu層32と同じ材質であり、鍔部22が延びる方向(X-Y平面方向)における厚みが同じである。そのため、壁部24の基部領域27のCu部分33aのビッカース硬さと、壁部24の基部領域27以外のCu部分33bのビッカース硬さとは、実質的に同じになると考えられる。したがって、壁部24の基部領域27のCu部分33aのビッカース硬さを測定することにより、壁部24のCu部分33のビッカース硬さを取得することができる。
【0045】
図6および
図8に示すように、壁部24のCu層32からなるCu部分33(特に基部領域27のCu部分33a)のCu結晶粒(たとえばCu結晶粒34)の断面積は、10μm
2以上100μm
2以下である。壁部24のCu部分33aのCu結晶粒の断面積が10μm
2以上100μm
2以下であると、壁部24を折り曲げてかしめることにより他の部材(負極集電体6)に固定するのに好適な機械的特性を有することができるとともに、その固定状態(かしめ状態)を維持するために適切な機械的特性を有することができる。つまり、壁部24のCu部分33(特に基部領域27のCu部分33a)のCu結晶粒の断面積が10μm
2以上100μm
2以下であると、壁部24を折り曲げてかしめたときに割れが発生しにくいとともに、壁部24を折り曲げてかしめることによって他の部材(負極集電体6)に固定した後に振動などの外力が加わったときに割れが発生しにくい。
【0046】
また、壁部24を折り曲げてかしめるための好適な機械的特性を得るとともに、その固定状態(かしめ状態)を維持するための好適な機械的特性を得る観点で、壁部24のCu部分33(特に基部領域27のCu部分33a)のCu結晶粒(たとえばCu結晶粒34)の断面積は、好ましくは、10μm2以上65μm2以下、より好ましくは10μm2以上40μm2以下である。なお、Cu部分33aを構成するCu結晶粒の面積が小さくなると、Cu部分33aのビッカース硬さは大きくなる傾向がある。壁部24のCu部分33(特に基部領域27のCu部分33a)のCu結晶粒の断面積が過度に小さくなって10μm2未満になると、そのCu部分33のビッカース硬さが過度に大きくなって、上記したビッカース硬さの上限(125HV)を超える。そのため、そのCu部分33の加工性が悪くなり過ぎてしまい、壁部24を折り曲げてかしめたときに割れが発生しやすくなる。また、壁部24のCu部分33(特に基部領域27のCu部分33a)のCu結晶粒の断面積が過度に大きくなって100μm2を超えると、そのCu部分33のビッカース硬さが過度に小さくなって、上記したビッカース硬さの下限(110HV)未満となる。そのため、そのCu部分33の耐久性が悪くなり過ぎてしまい、壁部24を折り曲げてかしめた後のCu部分33に振動などの外力が加わったときに割れが発生しやすくなる。ここで、Cu部分33のCu結晶粒(たとえばCu結晶粒34)の断面積は、壁部24を軸部21の延びる方向(Z方向)に切断した断面において、電子顕微鏡を用いて測定する。Cu部分33のCu結晶粒(たとえばCu結晶粒34)の断面積は、壁部24の基部領域27において測定するのが好ましい。
【0047】
Cu部分33のCu結晶粒の断面積は、一般的な電子顕微鏡およびそれに付属する一般的な画像解析システムを用いて、測定対象となるCu部分33の電子顕微鏡像から求まる値であってよい。具体的には、たとえば、電子顕微鏡下で、Cu部分33を構成するCu結晶粒(たとえばCu結晶粒34)の輪郭(粒界)強調処理(たとえばCu結晶粒34の輪郭線を引く処理)をし、その輪郭(粒界)内の面積をそのCu結晶粒(たとえばCu結晶粒34)の断面積とする。こうしたCu結晶粒の断面積を求める処理を、壁部24のCu部分33(好ましくは基部領域27のCu部分33a)の電子顕微鏡像の任意かつ複数のCu結晶粒で実施し、求めた複数のCu結晶粒の断面積の合計値をCu結晶粒の個数で除した平均値を求め、その電子顕微鏡像におけるCu部分33のCu結晶粒の断面積(平均断面積)とする。
【0048】
図6および
図8に示すように、壁部24の基部領域27のCu層32からなるCu部分33のCu結晶粒(たとえばCu結晶粒34)は、プレス加工によりアスペクト比が極めて大きい略針状の形態になることを発見した。そこで、本実施形態では、Cu部分33(Cu部分33a)のCu結晶粒を示す指標として、一般的な粒径(円相当径)に替えて、上記した断面積(平均断面積)を採用する。具体的には、壁部24のCu部分33(好ましくは基部領域27のCu部分33a)において、たとえば、Cu結晶粒34を含む領域の電子顕微鏡像を取得し、この領域内のCu結晶粒の断面積(平均断面積)S2を求め、プレス加工前のクラッド材のCu材320(
図10参照)を構成するCu結晶粒の断面積(平均断面積)S1を用いて、Cu部分33(Cu部分33a)のプレス加工前後のCu結晶粒の変形率Dを、下記の式1により求める。
【数1】
【0049】
式1から、変形率Dは、Cu部分33のプレス加工前後のCu結晶粒の断面積が同じ場合、0%となる。また、変形率Dは、プレス加工後のCu部分33のCu結晶粒の断面積S2がプレス加工前のCu材320(
図10参照)のCu結晶粒の断面積S1よりも小さい(S2<S1)場合、0%<D<100%を満たす。したがって、Cu部分33のプレス加工後のCu結晶粒は、変形率Dが大きくなるほどプレス加工前のCu材320のCu結晶粒よりもより小さく変形されていることを意味する。そのため、変形率Dが0%<D<100%を満足する場合、プレス加工により生じる加工硬化に起因して、プレス加工後のCu部分33の硬さをプレス加工前のCu材320の硬さよりも大きくすることができる。なお、壁部24の基部領域27のCu部分33aのCu結晶粒の断面積を小さくすることにより、壁部24の基部領域27以外のCu部分33bのCu結晶粒も同様に断面積が小さくなると考えられる。また、Cu部分33(特に基部領域27のCu部分33a)のビッカース硬さがプレス加工前のCu材320のビッカース硬さ(たとえば70HV以下)よりも適度に大きく、たとえば110HV以上125HV以下である場合、壁部24を折り曲げてかしめたときに割れが発生しにくくなる。この観点で、Cu部分33(特に基部領域27のCu部分33a)のプレス加工前後のCu結晶粒の変形率Dは、45%以上であるのが好ましく、60%以上であるのがより好ましい。
【0050】
図9に示すように、負極端子20は、軸部21が蓋部材2の挿入孔2b(シール部材8の孔部8a)および負極集電体6の孔部6dに挿入された状態で、凹部23を形成する壁部24が折り曲げられて負極集電体6に対してかしめられ、さらにレーザ溶接により負極集電体6に接合されて固定されている。なお、Z2方向側から見た、凹部23の形状は特に限定されないが、たとえば、円形、楕円形、長方形の4つの角が丸くなった形状である角丸長方形などであってもよい。
【0051】
図10に示すように、負極端子20(
図3参照)は、クラッド材300をプレス加工することにより作製される。クラッド材300は、純AlまたはAl基合金からなるAl板材131(
図12参照)と、純CuまたはCu基合金からなるCu板材132(
図12参照)とが、Z方向に積層された状態で圧延されて接合されることによって、Al材310およびCu材320により構成された2層構造のクラッド材300を用いて形成される。そして、圧延(クラッド圧延)されて接合されたAl板材131とCu板材132とは、さらに適切な熱処理が行われて原子的(化学的)に接合される。この結果、Al板材131により構成されたAl材310とCu板材132により構成されたCu材320との2層構造のクラッド材300は、負極端子20を作製するために行われる大変形を伴うプレス加工に耐える十分な接合強度を有することができる。
【0052】
クラッド材300のAl材310は負極端子20のAl層31に対応する。クラッド材300のAl材310すなわち負極端子20のAl層31を構成する純Alとしては、A1050(JIS規格)、A1100(JIS規格)、A1200(JIS規格)などの約99質量%以上のAlを含む純Alなどを用いることが可能である。また、Al基合金としては、A5052などのA5000番台(JIS規格)を用いてもよく、A3000番台(JIS規格)なども用いることが可能である。
【0053】
クラッド材300のCu材320は負極端子20のCu層32およびCu部分33に対応する。クラッド材300のCu材320すなわち負極端子20のCu層32およびCu部分33を構成する純Cuとしては、C1000番台(JIS規格)の、いわゆる、無酸素銅、りん脱酸銅、タフピッチ銅などを用いてよく、結晶の粗大化を抑制するために微量のZrが添加されたC1510(JIS規格)なども用いることが可能である。また、Cu基合金としては、C2600などのC2000番台(JIS規格)などを用いることが可能である。
【0054】
クラッド材130を構成するCu材320のCu結晶粒(たとえば
図11に示すCu結晶粒340参照)は、負極端子20を作製するために行われるプレス加工によって加工硬化する。そのため、クラッド材130を構成するCu材320のビッカース硬さは、好ましくは70HV以下である。クラッド材300の厚み方向の切断面において、クラッド材300のCu材320のビッカース硬さが70HV以下であるとプレス加工時の加工性が適度に向上するため、プレス加工後のCu層32からなるCu部分33を構成するCu結晶粒(たとえばCu結晶粒34)の断面積を適切な大きさに形成することができるとともに、Cu部分33を適切な硬さ、たとえば110HV以上125HV以下のビッカース硬さに形成することができる。
【0055】
図11に示すように、クラッド材300の厚み方向(Z方向)に沿った切断面において、Cu材320を構成するCu結晶粒(たとえばCu結晶粒340)の断面積は、好ましくは40μm
2以上750μm
2以下であり、より好ましくは40μm
2以上500μm
2以下である。Cu材320を構成するCu結晶粒の断面積が、好ましくは40μm
2以上750μm
2以下、より好ましくは40μm
2以上500μm
2以下であるクラッド材300を用いて、変形率Dが45%以上100%未満、好ましくは60%以上となるようにプレス加工することによって、
図6および
図7に示すようなプレス加工後の負極端子20の壁部24のCu部分33のCu結晶粒が10μm
2以上100μm
2以下の適切な断面積(好ましくは10μm
2以上65μm
2以下、より好ましくは10μm
2以上40μm
2以下)に形成されやすくなる。なお、プレス加工前のCu材320のCu結晶粒の断面積が40μm
2未満の場合は、Cu材320はプレス加工しにくくなる。また、プレス加工前のCu材320のCu結晶粒の断面積が750μm
2を超える場合は、Cu材320はプレス加工後の壁部24のCu部分33のCu結晶粒の断面積を100μm
2以下にしにくくなるし、Cu部分33の硬さを大きくしにくくなる。ここで、Cu材320を構成するCu結晶粒(たとえばCu結晶粒340)の断面積は、負極端子20の壁部24のCu部分33のCu結晶粒(たとえばCu結晶粒34)の断面積と同様に、上記したCu結晶粒の平均断面積を求める方法により求めることができる。
【0056】
(負極端子の製造方法)
次に、
図12~
図14を参照して、本実施形態における負極端子20の製造方法について説明する。
【0057】
まず、
図12に示すように、純AlまたはAl合金により構成されるAl板材131と、純CuまたはCu合金により構成されるCu板材132とを準備する。Al板材131の厚みとCu板材132の厚みとの比率は、負極端子20(
図6参照)の鍔部22を構成するAl層31とCu層32とのZ方向の厚みの比率と略同じになる。ここで、Al板材131の厚みは、Cu板材132の厚みと同じであってもよい。また、プレス加工後の負極端子20の軸部21の大きさ(Z2側への突出量、軸径)などに応じて、Al板材131よりもCu板材132の厚みを大きくしてもよい。また、クラッド圧延時のCu板材132の加工性をAl板材131の加工性に近づけるために、クラッド圧延前のCu板材132に、調質圧延および軟化焼鈍などの調質処理を行ってもよい。
【0058】
帯状のAl板材131および帯状のCu板材132を厚み方向に積層させた状態で、ローラRを用いて所定の圧下率で連続的に圧延を行う。これにより、Al板材131とCu板材132とが厚み方向に積層された状態で接合された2層構造の帯状のクラッド材130を作製する。この際、帯状のAl板材131および帯状のCu板材132の長手方向が、圧延方向になる。これにより、Al板材131と、Cu板材132とが厚み方向に積層された状態で互いに接合(圧延接合)された帯状のクラッド材130が作製される。なお、クラッド圧延のパス数は、適宜選択可能である。
【0059】
その後、必要に応じて中間圧延等を行った後に、焼鈍炉50を用いてクラッド材130を所定の雰囲気およびAl板材131が溶融しない保持温度の環境下で所定の時間保持することによって、拡散焼鈍を行う。保持温度としては、たとえば、Al板材131の融点未満の温度である。これにより、Al板材131とCu板材132とが接合された界面において適度な金属拡散を生じさせ、Al板材131とCu板材132との接合強度を高くする。つまり、クラッド材130は、CuめっきAl板材またはAlめっきCu板材と異なり、Al板材131とCu板材132との接合強度がめっき膜の接合強度よりも十分に高い。さらに、必要に応じて、仕上げ圧延、形状矯正、Al板材131が溶融しない保持温度での軟化焼鈍などを行ってもよい。そして、帯状のクラッド材130を用いて、
図6および
図7に示すような負極端子20を形成するためのプレス加工に適する
図10に示すような2層構造の個片状のクラッド材300、すなわち、Al材310とCu材320とが厚み方向に積層された状態で接合された個片状のクラッド材300を作製する。個片状のクラッド材300は、たとえば、クラッド材130をスリット加工した後に製造される。
【0060】
クラッド材130を作製する工程は、帯状のクラッド材130を用いて個片状のクラッド材300を形成した際に、個片状のクラッド材300の厚み方向(Z方向)の切断面において、好ましくはCu材320のビッカース硬さが70HV以下になるように、そして、好ましくはCu材320を構成するCu結晶粒の断面積が、好ましくは40μm2以上750μm2以下、より好ましくは40μm2以上500μm2以下になるように、圧延および拡散焼鈍を行うとともに、必要に応じた、仕上げ圧延、形状矯正、軟化焼鈍などを行うとよい。
【0061】
次に、Al材310とCu材320とが厚み方向に積層された状態で接合された個片状のクラッド材300を用いて、たとえば
図6に示す負極端子20を形成する。負極端子20を形成する工程は、
図13に示すように、個片状のクラッド材300に対してプレス加工を行う。具体的には、まず、プレス加工機41の金型41aのキャビティ41b内に、個片状のクラッド材300を配置する。この金型41aのキャビティ41bは、たとえば
図6に示す負極端子20の軸部21、鍔部22および凹部23に対応するキャビティ形状を有している。そして、
図14に示すように、Z1側から圧力を加えることによって、クラッド材300に対してプレス加工を行う。このプレス加工により、クラッド材300のCu材320が軸部21に対応するZ2側のキャビティ41b内に移動される。
【0062】
プレス加工する工程は、プレス加工後の負極端子20における壁部24のCu部分33(特に基部領域27のCu部分33a)を構成するCu結晶粒の断面積が、10μm2以上100μm2以下、好ましくは10μm2以上65μm2以下、より好ましくは10μm2以上40μm2以下となるように、クラッド材300をプレス加工する。
【0063】
また、好ましくは、プレス加工する工程は、クラッド材300の厚み方向の切断面において、Cu材320を構成するCu結晶粒の断面積をS1とし、軸部21の軸方向(Z方向)の切断面において、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積をS2とするとき、(S1-S2)/S1×100で求まるプレス加工前後のCu結晶粒の変形率Dが45%以上、より好ましくは60%以上となるように、クラッド材300をプレス加工する。
【0064】
また、好ましくは、プレス加工する工程は、軸部21の軸方向(Z方向)の切断面において、Cu部分33のビッカース硬さが110HV以上125HV以下の好ましいビッカース硬さとなるように、あるいは114HV以上125HV以下のより好ましいビッカース硬さとなるように、さらには118HV以上125HV以下のより一層好ましいビッカース硬さとなるように、クラッド材300をプレス加工する。
【0065】
(負極端子の溶接工程)
次に、
図9および
図15~
図18を参照して、本実施形態における負極端子20の負極集電体6への溶接工程について説明する。
【0066】
まず、
図15に示すように、シール部材8が挿入孔2bに嵌め込まれた蓋部材2を準備する。そして、負極集電体6の接続部6aをシール部材8のZ2側の面に当接させる。その状態で、負極集電体6のZ2側の面に、かしめ治具103の固定部材103aを当接させて固定する。その状態で、かしめ治具103の棒状部材103bをZ2側から挿入孔2b(シール部材8の孔部8a)に挿入する。そして、挿入された棒状部材103bのZ1側の端部を、負極端子20の凹部23内に嵌め込む。
【0067】
そして、かしめ治具103の押圧部材103cにより、負極端子20をZ1側からZ2側に向かって押圧する。これにより、
図16に示すように、負極端子20は、棒状部材103bとともに、Z2側に移動される。そして、押圧部材103cの押圧力により、負極端子20は、壁部24のZ2側の端部が挿入孔2bよりもZ2側に位置するまで移動される。続いて、負極端子20は、円筒状の壁部24のCu部分33が棒状部材103bの外周面に沿って変形されながらZ2側に移動される。続いて、負極端子20は、円筒状の壁部24のCu部分33がかしめ治具103の固定部材103aのZ1側の凹状表面に沿ってさらに変形されながらZ2側に移動される。その後、負極端子20の壁部24のCu部分33が、
図17に示すような形態に曲げ変形されると、棒状部材103bの移動が停止する。その結果、負極端子20の壁部24が、
図17に示すような半円状の断面になるように折り曲げられる。これにより、負極端子20は、X-Y平面方向において放射状に折り曲げられた壁部24のCu部分33によって、負極集電体6にかしめられる。
【0068】
その後、
図18に示すように、かしめられた状態の負極端子20と負極集電体6とをレーザ溶接により溶接する。具体的には、負極端子20のX-Y平面方向において放射状に折り曲げられた壁部24の先端側の部分を、負極集電体6の接続部6aに対して環状に溶接して接合することによって、
図9に示すように、リチウムイオン電池1の負極集電体6と接合する側である負極端子20のZ2側の壁部24の先端が、負極集電体6に接合される。
【0069】
<本実施形態の効果>
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0070】
本実施形態では、負極端子20は、Al層31側からCu層32側に延びる軸部21と、軸部21の側方から放射方向に広がる鍔部22と、軸部21のCu層32側の先端からさらに延びる壁部24に囲まれる凹部23と、を備え、軸部21の軸方向の切断面において、壁部24のCu層32からなるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、10μm2以上100μm2以下である。これにより、軸部21の軸方向の切断面において、壁部24のCu層32からなるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が10μm2以上100μm2以下であることにより、軸部21の先端のCu部分33が適度なビッカース硬さを有するため、十分な加工性を有することができる。そのため、軸部21の先端のCu部分33(Cu部分33b)を折り曲げてかしめることにより他の部材に固定するのに適切な機械的特性を有することができるとともに、その固定状態(かしめ状態)を維持するために好適な機械的特性を有することができる。具体的には、負極端子20の軸部の先端のCu部分33(Cu部分33b)を折り曲げてかしめることによって他の部材に固定するために、折り曲げられるCu部分33(Cu部分33b)に折り曲げおよびかしめに耐える機械的特性が求められる。Cu結晶粒の断面積が10μm2以上100μm2以下であるCu部分33は、折り曲げてかしめたときに割れが発生しにくいという、折り曲げおよびかしめに耐える機械的特性を有することができる。また、負極端子20と他の部材との間の堅固な固定状態(かしめ状態)を維持するためには、かしめられたCu部分33(Cu部分33b)に固定状態を維持する機械的特性が求められる。Cu結晶粒の断面積が10μm2以上100μm2以下であるCu部分33(Cu部分33b)は、折り曲げてかしめることによって他の部材に固定した後に振動などの外力が加わったときに割れが発生しにくいという、その固定状態に経時的に耐える機械的特性を有することができる。
【0071】
本実施形態では、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、65μm2以下である。これにより、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が(10μm2以上)65μm2以下であることにより、軸部21の先端のCu部分33(Cu部分33b)の加工性を向上させることができるため、軸部21の先端のCu部分33を折り曲げてかしめることにより他の部材に固定するのにより適切な機械的特性を有することができるとともに、その固定状態(かしめ状態)を維持するために十分かつ適切な機械的特性を有することができる。この結果、Cu部分33(Cu部分33b)を折り曲げてかしめたときに割れが発生することを十分に抑制することができるとともに、かしめられたCu部分33(Cu部分33b)に振動などの外力が加わったときに割れが発生することを十分に抑制することができる。
【0072】
本実施形態では、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、40μm2以下(10μm2以上)である。これにより、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が40μm2以下であることにより、軸部21の先端のCu部分33(Cu部分33b)の加工性をより向上させることができるため、負極端子20の形状に拠らず、軸部21の先端のCu部分33(Cu部分33b)を折り曲げてかしめることにより他の部材に固定するのにより好適な機械的特性を有することができるとともに、その固定状態(かしめ状態)を維持するためにより好適な機械的特性を有することができる。この結果、Cu部分33を折り曲げてかしめたときに割れが発生することを十分に抑制することができるとともに、かしめられたCu部分33(Cu部分33b)に振動などの外力が加わったときに割れが発生することを十分に抑制することができる。
【0073】
本実施形態では、Cu部分33のビッカース硬さは、110HV以上125HV以下である。これにより、軸部21の先端のCu部分33が適切なビッカース硬さを有するため、軸部21の先端のCu部分33を折り曲げてかしめるのに好適な機械的特性を有することができるとともに、かしめられたCu部分33に振動などの外力が加わったときに割れが発生しにくい適切な機械的特性を有することができる。
【0074】
本実施形態による負極端子20の製造方法は、軸部21の軸方向の切断面において、壁部24のCu層32からなるCu部分33(特に基部領域27のCu部分33a)を構成するCu結晶粒の断面積が10μm2以上100μm2以下になるように、クラッド材300をプレス加工する工程を含む。これにより、壁部24のCu層32からなるCu部分33を十分な硬さを有するようにプレス加工できるため、Cu部分33が十分な加工性を有し、折り曲げてかしめることにより他の部材に固定するのに好適な機械的特性を有するCu部分33を軸部21の先端に形成することができるとともに、その固定状態(かしめ状態)を維持するために好適な機械的特性を有するCu部分33を形成することができる。具体的には、負極端子20の軸部21の先端のCu部分33を折り曲げてかしめることによって他の部材に固定するためには、折り曲げられるCu部分33(特に基部領域27のCu部分33a)に、折り曲げおよびかしめに耐える機械的特性が求められる。Cu結晶粒の断面積が10μm2以上100μm2以下となるようにプレス加工されたCu部分33は、折り曲げてかしめたときに割れが発生しにくいという、折り曲げおよびかしめに耐える機械的特性を有することができる。また、負極端子20と他の部材との間の健全な固定状態(かしめ状態)を維持するためには、かしめられたCu部分33に固定状態を維持する機械的特性が求められる。Cu結晶粒の断面積が10μm2以上100μm2以下となるようにプレス加工されたCu部分33(特に壁部24の基部領域27のCu部分33a)は、折り曲げてかしめることによって他の部材に固定した後に振動などの外力が加わったときに割れが発生しにくいという、その固定状態に経時的に耐える機械的特性を有することができる。
【0075】
本実施形態では、負極端子20を形成する工程は、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が40μm2以下になるようにクラッド材300をプレス加工する工程を含む。これにより、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が(10μm2以上)65μm2以下になるようにクラッド材300をプレス加工することにより、軸部21の先端のCu部分33の加工性が向上するようにクラッド材300をプレス加工することができるため、軸部21の先端のCu部分33を折り曲げてかしめることにより他の部材に固定するのにより好適な機械的特性を有するCu部分33を形成することができる。この結果、Cu部分33は、折り曲げてかしめたときに割れが発生することをより抑制することができるとともに、かしめられたCu部分33に振動などの外力が加わったときに割れが発生することを十分に抑制することができる。
【0076】
本実施形態では、負極端子20を形成する工程は、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が40μm2以下になるようにクラッド材300をプレス加工する工程を含む。これにより、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が(10μm2以上)40μm2以下になるようにクラッド材300をプレス加工することにより、軸部21の先端のCu部分33の加工性がより向上するようにクラッド材300をプレス加工することができるため、軸部21の先端のCu部分33を折り曲げてかしめることにより他の部材に固定するのにより好適な機械的特性を有するCu部分33を形成することができる。この結果、Cu部分33は、折り曲げてかしめたときに割れが発生することを十分に抑制することができるとともに、かしめられたCu部分33に振動などの外力が加わったときに割れが発生することを十分に抑制することができる。
【0077】
本実施形態では、負極端子20を形成する工程は、クラッド材300の厚み方向の切断面において、Cu材320を構成するCu結晶粒の断面積をS1とし、軸部21の軸方向の切断面において、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積をS2とするとき、(S1-S2)/S1×100で求まるプレス加工前後のCu結晶粒の変形率が45%以上100%未満になるように、凹部23を形成する工程を含む。これにより、変形率が45%以上100%未満になるように凹部23を形成することにより、プレス加工前のクラッド材300のCu材320よりもCu結晶粒の断面積が小さいCu部分33を形成することができる。この結果、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が小さく形成されているため伸びなどの機械的特性が向上し、Cu部分33を折り曲げてかしめたときに割れが発生することを抑制することができるとともに、かしめられたCu部分33に振動などの外力が加わったときに割れが発生することを抑制することができる。
【0078】
本実施形態では、負極端子20を形成する工程は、変形率が60%以上(100%未満)になるように、凹部23を形成する工程を含む。これにより、変形率が60%以上(100%未満)になるように形成された凹部23において、プレス加工前のクラッド材300のCu材320よりもCu結晶粒の断面積がより小さくCu部分33を形成することができる。この結果、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積がより小さく形成されているため伸びなどの機械的特性がより向上し、Cu部分33を折り曲げてかしめたときに割れが発生することを十分に抑制することができるとともに、かしめられたCu部分33に振動などの外力が加わったときに割れが発生することを十分に抑制することができる。
【0079】
本実施形態では、クラッド材300を形成する工程は、クラッド材300の厚み方向(Z方向)の切断面において、Cu材320のビッカース硬さが70HV以下になるように、クラッド材300を形成する工程を含む。これにより、クラッド材300のCu材320のビッカース硬さが70HV以下であるためプレス加工時の加工性が適度に向上し、プレス加工後のCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積を好適な大きさに形成することができるとともに、プレス加工後のCu部分33を適切なビッカース硬さに形成することができる。
【0080】
本実施形態では、負極端子20を形成する工程は、Cu部分33のビッカース硬さが110HV以上125HV以下になるように、クラッド材300をプレス加工する工程を含む。これにより、折り曲げてかしめるのに好適な機械的特性を有するとともに、かしめた後に振動などの外力が加わったときに割れが発生しにくい適切な機械的特性を有する、Cu部分33を得ることができる。
【0081】
[実施例1]
上記実施形態の製造方法と同様に、実施例(No.1~No.20)のクラッド材300を作製した。その際、
図12に示すようにクラッド圧延および拡散焼鈍を行うことによってクラッド材130を作製し、そのクラッド材130から
図10に示すような2層構造のクラッド材300をプレス加工後の負極端子20に適する所定の形状を有するように作製した。
【0082】
作製したクラッド材300は、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製のVHX-5000)に付属する面積計測機能を用いて、クラッド材300の厚み方向(Z方向)の切断面において、Cu材320を構成するCu結晶粒の断面積を測定した。測定結果を表1に示す。
【0083】
そして、作製したクラッド材300から任意に選択した複数のクラッド材300の厚み方向(Z方向)の切断面において、Cu材320のビッカース硬さを測定したところ、たとえば、58HV、60HV、67HVなどとなり、その範囲は58HV以上67HV以下であり、その平均値は61.7HVであった。ビッカース硬さの測定方法は、JIS Z2244:2009(荷重0.49N)にしたがった。
【0084】
次に、作製したクラッド材300を用いて、本実施形態と同様に
図13および
図14に示すようなプレス加工を行って、実施例(No.1~No.20)の負極端子20を作製した。なお、クラッド材300のプレス加工は、負極端子20の壁部24のCu層32からなるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が10μm
2以上100μm
2以下、好ましくは10μm
2以上65μm
2以下、より好ましくは10μm
2以上40μm
2以下の範囲に収まるように調整した。
【0085】
作製した負極端子20は、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製のVHX-5000)に付属する面積計測機能を用いて、負極端子20の軸部21の軸方向(Z方向)の切断面において、Cu部分33(Cu部分33a)を構成するCu結晶粒の断面積を測定した。測定結果を表1に示す。
【0086】
そして、実施例(No.1~No.20)の負極端子20から任意に選択してNo21~No.30とし、そのNo.21~No.30の負極端子20の軸部21の軸方向(Z方向)の切断面において、Cu材320のビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さの測定方法は、JIS Z2244:2009(荷重0.49N)にしたがった。測定結果を表2に示す。
【0087】
【0088】
【0089】
表1に示すように、No.1の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約194μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約20μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約90%となった。
【0090】
No.2の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320を構成するCu結晶粒の断面積は、約117μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約62μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約47%となった。
【0091】
No.3の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約495μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33のCu結晶粒の断面積は、約16μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約97%となった。
【0092】
No.4の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約331μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約36μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約89%となった。
【0093】
No.5の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320を構成するCu結晶粒の断面積は、約172μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約18μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約89%となった。
【0094】
No.6の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320を構成するCu結晶粒の断面積は、約186μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約25μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約86%となった。
【0095】
No.7の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320を構成するCu結晶粒の断面積は、約244μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約13μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約95%となった。
【0096】
No.8の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320を構成するCu結晶粒の断面積は、約323μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約45μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約86%となった。
【0097】
No.9の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320を構成するCu結晶粒の断面積は、約65μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約20μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約69%となった。
【0098】
No.10の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320を構成するCu結晶粒の断面積は、約59μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約23μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約61%となった。
【0099】
No.11の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320を構成するCu結晶粒の断面積は、約286μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約37μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約87%となった。
【0100】
No.12の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320を構成するCu結晶粒の断面積は、約729μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約31μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約96%となった。
【0101】
No.13の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320を構成するCu結晶粒の断面積は、約218μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約25μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約88%となった。
【0102】
No.14の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約697μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約26μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約96%となった。
【0103】
No.15の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約132μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約22μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約83%となった。
【0104】
No.16の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320を構成するCu結晶粒の断面積は、約162μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約53μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約67%となった。
【0105】
No.17の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320を構成するCu結晶粒の断面積は、約414μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、最も小さい約11μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約97%となった。
【0106】
No.18の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320を構成するCu結晶粒の断面積は、約173μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約34μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約80%となった。
【0107】
No.19の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320を構成するCu結晶粒の断面積は、約183μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約25μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約86%となった。
【0108】
No.20の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320を構成するCu結晶粒の断面積は、約173μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約59μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約66%となった。
【0109】
また、表2に示すように、No.21およびNo.22の場合、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33のビッカース硬さは、いずれも、約123HVとなった。
【0110】
No.23およびNo.24の場合、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33のビッカース硬さは、いずれも、約122HVとなった。
【0111】
No.25、No.26、No.27、No.28、No.29およびNo.30の場合、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33のビッカース硬さは、それぞれ順に、約118HV、約119HV、約121HV、約120HV、約125HVおよび約118HVとなった。
【0112】
[実施例2]
上記実施例1の場合と同様に、実施例2(No.31~No.60)のクラッド材300を作製した。そして、作製したクラッド材300を用いて、上記実施例1の場合と同様に、実施例2(No.31~No.60)の負極端子20を作製した。なお、クラッド材300のプレス加工は、上記実施例1の場合と同様に、負極端子20の壁部24のCu層32からなるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が10μm
2以上100μm
2以下、好ましくは10μm
2以上65μm
2以下、より好ましくは10μm
2以上40μm
2以下の範囲に収まるように、調整した。その結果、表3に示すように、負極端子20の壁部24のCu部分33のCu結晶粒の断面積は、10μm
2以上100μm
2以下の適切な範囲に収まった。なお、実施例2は、実施例1と異なるクラッド材300を用いて、実施例1と異なる負極端子20を作製した。実施例2のクラッド材300は、実施例1に対して、全体の体積比が約2.5倍で、Cu材320の体積比が約2.5倍である。また、実施例2の負極端子20は、実施例1に対して、軸部21の鍔部22よりもZ2側の部分(
図7にt1で示す部分)の体積比が約4.5倍で、それ以外の部分の体積比が約3倍で、壁部24の体積比が約6倍で、壁部24の厚さ(肉厚)が約3倍である。
【0113】
作製したクラッド材300は、上記実施例1の場合と同様に、クラッド材300の厚み方向(Z方向)の切断面において、Cu材320を構成するCu結晶粒の断面積を測定した。測定結果を表3に示す。
【0114】
そして、作製したクラッド材300から任意に選択した複数のクラッド材300の厚み方向(Z方向)の切断面において、上記実施例1の場合と同様に、Cu材320のビッカース硬さを測定したところ、たとえば、63HV、64HV、68HVなどとなり、その範囲は63HV以上68HV以下であり、その平均値は65.0HVであった。
【0115】
作製した負極端子20は、上記実施例1の場合と同様に、負極端子20の軸部21の軸方向(Z方向)の切断面において、Cu部分33(Cu部分33a)を構成するCu結晶粒の断面積を測定した。測定結果を表3に示す。
【0116】
そして、No.31~No.60の負極端子20から任意に選択してNo61~No.70とし、そのNo.61~No.70の負極端子20の軸部21の軸方向(Z方向)の切断面において、Cu材320のビッカース硬さを測定した。測定結果を表4に示す。
【0117】
【0118】
【0119】
表3に示すように、No.31の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約322μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約52μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約84%となった。
【0120】
No.32の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約175μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約47μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約73%となった。
【0121】
No.33の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約230μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約42μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約82%となった。
【0122】
No.34の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約249μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約57μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約77%となった。
【0123】
No.35の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約263μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約61μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約77%となった。
【0124】
No.36の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約181μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約56μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約69%となった。
【0125】
No.37の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約101μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約29μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約71%となった。
【0126】
No.38の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約150μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約40μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約73%となった。
【0127】
No.39の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約194μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約46μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約76%となった。
【0128】
No.40の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約402μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約92μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約77%となった。
【0129】
No.41の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約280μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約63μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約78%となった。
【0130】
No.42の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約321μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約52μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約84%となった。
【0131】
No.43の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約183μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約31μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約83%となった。
【0132】
No.44の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約221μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約50μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約77%となった。
【0133】
No.45の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約287μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約94μm2と一番大きくなった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約67%となった。
【0134】
No.46の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約151μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約38μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約75%となった。
【0135】
No.47の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約438μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約47μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約89%となった。
【0136】
No.48の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約201μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約66μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約67%となった。
【0137】
No.49の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約105μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約24μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約77%となった。
【0138】
No.50の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約444μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約72μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約84%となった。
【0139】
No.51の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約47μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約14μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約71%となった。
【0140】
No.52の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約456μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約68μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約85%となった。
【0141】
No.53の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約331μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約39μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約88%となった。
【0142】
No.54の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約101μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約21μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約79%となった。
【0143】
No.55の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約342μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約49μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約86%となった。
【0144】
No.56の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約280μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約28μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約90%となった。
【0145】
No.57の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約245μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約54μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約78%となった。
【0146】
No.58の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約161μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約22μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約86%となった。
【0147】
No.59の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約287μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約36μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約87%となった。
【0148】
No.60の場合、プレス加工前のクラッド材300におけるCu材320のCu結晶粒の断面積は、約207μm2であった。また、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積は、約34μm2となった。そして、プレス加工前後のCu結晶粒の断面積の変形率Dは、約83%となった。
【0149】
また、表4に示すように、No.61およびNo.67の場合、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33のビッカース硬さは、いずれも、約124HVとなった。
【0150】
No.62、No.66およびNo.68の場合、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33のビッカース硬さは、いずれも、約121HVとなった。
【0151】
No.63、No.64、No.65、No.69およびNo.70の場合、プレス加工後の負極端子20におけるCu部分33のビッカース硬さは、それぞれ順に、約119HV、約123HV、約122HV、約118HVおよび約120HVとなった。
【0152】
上記実施例1および上記実施例2のクラッド材300(No.1~20およびNo.31~60)をプレス加工して負極端子20を作製した際に、負極端子20の壁部24のCu層32からなるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積を確認した。そして、実施例1の負極端子20(No.1~20)の壁部24のCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が、10μm2以上65μm2以下のより適切な範囲になっていることを確認することができた。また、実施例2の負極端子20(No.31~No.60)の壁部24のCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が、10μm2以上100μm2以下の適切な範囲になっていることを確認することができた。さらに、実施例1および実施例2の負極端子20(No.1~No.20およびNo.31~No.60)の特に壁部24において、割れが生じていないことを確認することができた。特に、No.40のクラッド材は、Cu結晶粒の断面積が94μm2であり、実施例の中で最も結晶粒が最大となるとともに、ビッカース硬さが118HVと十分な加工性を有する硬さとなり、十分な機械的強度を有していた。また、No.41のクラッド材は、Cu結晶粒の断面積が63μm2であり、ビッカース硬さが122HVであるため、さらに加工性が向上し、十分な機械的強度を有していた。また、No.29クラッド材は、Cu結晶粒の断面積が11μm2と実施例の中で一番断面積が小さいが、ビッカース硬さが125HVと最も大きく、十分な加工性を有するとともに最適な機械的強度を有していた。
【0153】
実施例1および実施例2の結果から、本願発明者は、負極端子20の壁部24のCu層32からなるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が10μm
2以上100μm
2以下に収まるように、クラッド材300をプレス加工することにより、
図10に示すようなクラッド材300から
図6に示すような負極端子20を割れなく作製することができることを見出した。
【0154】
また、本願発明者は、実施例1および実施例2の結果から得られた結果と、製造時に生じうるビッカース硬さの誤差(ばらつき)とを考慮した結果とから、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が10μm2以上100μm2以下に収まるようにクラッド材300をプレス加工することにより、ビッカース硬さを110HV以上125HV以下にすることが可能であることを見出した。また、本願発明者は、実施例1および実施例2の結果から得られた結果と、製造時に生じうるビッカース硬さの誤差(ばらつき)とを考慮した結果から、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が10μm2以上65μm2以下に収まるように、クラッド材300をプレス加工することにより、ビッカース硬さを115HV以上125HV以下にすることが可能であることを見出した。そして、本願発明者は、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積を10μm2以上40μm2以下に調整することにより、ビッカース硬さが118HV以上125HV以下にすることが可能であることを見出した。
【0155】
また、本願発明者は、No.67の結果とNo.69の結果とから、Cu部分33を構成するCu結晶粒の断面積の差が約60μm
2の場合でも、ビッカース硬さの差を6HVの範囲に収まることを知得した。また、この結果から、本願発明者は、Cu結晶粒の断面積をNo.69の94μm
2から100μm
2に大きくした場合に、ビッカース硬さが110HV未満にならないことを見出した。そして、
図10に示すようなクラッド材300を用いて、壁部24のCu層32からなるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が10μm
2以上100μm
2以下となるようにプレス加工して作製された負極端子20は、ビッカース硬さが110HV以上125HV以下である適度な硬さのCu部分33を有することができることを見出した。
【0156】
また、本願発明者は、壁部24のCu層32からなるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が10μm
2以上100μm
2以下となる負極端子20は、
図10に示すようなクラッド材300を用いて、クラッド材300のCu材320を構成するCu結晶粒(断面積S1)をCu結晶粒の断面積の変形率Dが45%以上100%未満となるようにプレス加工することにより作製することができることを見出した。
【0157】
また、本願発明者は、壁部24のCu層32からなるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が10μm
2以上100μm
2以下となる負極端子20は、Cu材320のビッカース硬さが70HV以下である
図10に示すようなクラッド材300を用いて、45%以上100%未満の変形率Dで、壁部24のCu層32からなるCu部分33のビッカース硬さが110HV以上125HV以下となるようにプレス加工することにより作製することができることを見出した。
【0158】
次に、実施例1および実施例2の作製した負極端子20(No.1~No.20およびNo.31~No.60)を用いて、本実施形態と同様に
図15から
図18に示すような壁部24の折り曲げ、かしめ、レーザ溶接を行って固定状態(かしめ状態)とした。その際に、負極端子20(特に壁部24の基部領域27)に割れが生じていないことを確認することができた。この結果から、本願発明者は、
図10に示すようなクラッド材300を用いて、壁部24のCu層32からなるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が10μm
2以上100μm
2以下となるようにプレス加工して作製された負極端子20は、軸部21の先端のCu部分33が適切な断面積を有するCu結晶粒により構成されているため、軸部21の先端のCu部分33を折り曲げてかしめることにより他の部材に固定するのに好適な機械的特性を有することができることを見出した。
【0159】
次に、実施例1および実施例2の負極端子20(No.1~No.20およびNo.31~No.60)を上記固定状態(かしめ状態)とした後に、車載用途を想定して適度な振動を与え続けた。その際に、負極端子20(特に壁部24の基部領域27)に割れが生じていないことを確認することができた。この結果から、本願発明者は、
図10に示すようなクラッド材300を用いて、壁部24のCu層32からなるCu部分33を構成するCu結晶粒の断面積が10μm
2以上100μm
2以下となるようにプレス加工して作製された負極端子20は、軸部21の先端のCu部分33が適切な断面積を有するCu結晶粒により構成されているため、軸部21の先端のCu部分33を折り曲げてかしめた固定状態(かしめ状態)に経時的に耐えて維持するために適切な機械的特性を有することができることを見出した。
【0160】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0161】
たとえば、本実施形態では、Al層とCu層とが積層されて接合された2層構造のクラッド材の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、Al層とCu層とNi層とがこの順で積層されて接合された3層構造のクラッド材であってもよい。
【0162】
また、本実施形態では、Al層とCu層とが積層されて接合された2層構造のクラッド材の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、3層構造以上であってもよい。その場合、たとえば、4層構造のクラッド材であってもよく、Al層とNi層とCu層とNi層とがこの順で積層されて接合された4層構造のクラッド材であってもよい。また、3層構造以上の場合、Cu層からなるCu部分の結晶粒の断面積が、10μm2以上100μm2以下であれば、クラッド材は、十分な機械的強度を有する。
【0163】
また、本実施形態では、電池用端子である負極端子20の壁部24のCu部分33が折り曲げられる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、
図19に示すように壁部のCu部分がフレア加工される電池用端子であってもよい。
【0164】
また、本実施形態では、ビッカース硬さなどを壁部24の基部領域27のCu部分33(Cu部分33a)において測定する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、ビッカース硬さなどを壁部24のCu部分33のZ2側の先端部において測定してもよい。
【0165】
また、本実施形態では、凹部23は、Z2側から見て、丸パイプ断面のような円環状に形成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、凹部は、Z2方向から見て円環状でなくてもよく、たとえば、矩形状であってもよい。
【0166】
また、本実施形態では、鍔部12が、Z方向から見て円環状である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、鍔部は、Z方向から見て円環状でなくてもよく、たとえば、矩形状であってもよい。
【0167】
また、本実施形態では、電池用端子を組電池100の負極端子20として用いた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、電池用端子を単電池の負極端子として用いてもよい。
【符号の説明】
【0168】
20 負極端子(電池用端子)
21 軸部
22 鍔部
23 凹部
24 壁部
27 基部領域
31 Al層
32 Cu層
33 Cu部分
130 クラッド材(帯状のクラッド材)
131 Al板材
132 Cu板材
300 クラッド材(個片状のクラッド材)
310 Al材
320 Cu材