(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】溶接方法および溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/323 20140101AFI20230823BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20230823BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20230823BHJP
【FI】
B23K26/323
B23K26/00 N
B23K26/21 G
(21)【出願番号】P 2022535411
(86)(22)【出願日】2021-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2021026146
(87)【国際公開番号】W WO2022009996
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2020119365
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020119366
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 暢康
(72)【発明者】
【氏名】松永 啓伍
(72)【発明者】
【氏名】安岡 知道
(72)【発明者】
【氏名】金子 昌充
(72)【発明者】
【氏名】西野 史香
(72)【発明者】
【氏名】寺田 淳
(72)【発明者】
【氏名】梅野 和行
(72)【発明者】
【氏名】尹 大烈
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-211981(JP,A)
【文献】特開2020-040106(JP,A)
【文献】特開2002-301583(JP,A)
【文献】特開2006-297464(JP,A)
【文献】特開2005-347415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/323
B23K 26/00
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一部材と、当該第一部材に対して第一方向に重なるとともに当該第一部材とは異なる材質の第二部材と、を含む加工対象の、前記第一方向とは反対方向の端部に位置した表面上にレーザ光を照射することにより、前記第一部材と前記第二部材とを溶接する溶接方法であって、
前記加工対象には、前記表面から前記第一部材を前記第一方向に貫通して前記第二部材に至る溶接金属を含む溶接部が形成され、
前記溶接金属は、前記第一部材において形成される第一部位と、前記第二部材において形成される第二部位と、を含み、
前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、
以下の式(1)および式(2)
E
1
=R
1
×P
1
/(D
1
×V) ・・・ (1)
E
2
=R
2
×P
2
/(D
2
×V) ・・・ (2)
ここに、E
1
は、第一レーザ光のエネルギ密度[J/mm
2
]、R
1
は、第一レーザ光の第一部材の材料における吸収率、P
1
は、第一レーザ光のパワー[W]、D
1
は、表面における第一レーザ光のスポット径[mm]、E
2
は、第二レーザ光のエネルギ密度[J/mm
2
]、R
2
は、第二レーザ光の第一部材の材料における吸収率、P
2
は、第二レーザ光のパワー[W]、D
2
は、表面における第二レーザ光のスポット径[mm]、およびVは、掃引速度[mm/s]、
で表せるエネルギ密度E
1
,E
2
を定義した場合、
前記第一部材が、アルミニウム系材料であり、前記第二部材が、銅系材料である場合にあっては、第一レーザ光のエネルギ密度E
1
の、第二レーザ光のエネルギ密度E
2
に対する比(E
1
/E
2
)を、1以上かつ20以下にするとともに、前記第二部位の前記第一方向の溶け込み深さWd2に対する前記第一方向と交差した第二方向の幅Ww2の比Ew2=Ww2/Wd2を、1.9以上とし、
前記第一部材が、銅系材料であり、前記第二部材が、アルミニウム系材料である場合にあっては、第一レーザ光のエネルギ密度E
1
の、第二レーザ光のエネルギ密度E
2
に対する比(E
1
/E
2
)を、0以上かつ6以下にするとともに、前記第二部位の前記第一方向の溶け込み深さWd2に対する前記第一方向と交差した第二方向の幅Ww2の比Ew2=Ww2/Wd2を、1以上とする、溶接方法。
【請求項2】
前記溶接金属の前記第一方向の溶け込み深さWdは、前記第一部材の前記第一方向の厚さをT1とした場合に、T1<Wd≦T1+0.5[mm]である、請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記第二レーザ光の波長は、400[nm]以上かつ500[nm]以下である、請求項
1または2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記第一部材の前記第一方向の厚さは、0.1[mm]以上2[mm]以下であり、前記第二部材の前記第一方向の厚さは、0.1[mm]以上2[mm]以下である、請求項1~3のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項5】
レーザ発振器と、
第一部材と、当該第一部材に対して第一方向に重なるとともに当該第一部材とは異なる材質の第二部材と、を含む加工対象の、前記第一方向とは反対方向の端部に位置した表面上にレーザ光を照射する光学ヘッドと、
を備え、前記第一部材と前記第二部材とを溶接する、溶接装置であって、
前記加工対象に、前記表面から前記第一部材を前記第一方向に貫通して前記第二部材に至る溶接金属を含む溶接部を形成し、
前記溶接金属は、前記第一部材において形成される第一部位と、前記第二部材において形成される第二部位と、を含み、
前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、
以下の式(1)および式(2)
E
1
=R
1
×P
1
/(D
1
×V) ・・・ (1)
E
2
=R
2
×P
2
/(D
2
×V) ・・・ (2)
ここに、E
1
は、第一レーザ光のエネルギ密度[J/mm
2
]、R
1
は、第一レーザ光の第一部材の材料における吸収率、P
1
は、第一レーザ光のパワー[W]、D
1
は、表面における第一レーザ光のスポット径[mm]、E
2
は、第二レーザ光のエネルギ密度[J/mm
2
]、R
2
は、第二レーザ光の第一部材の材料における吸収率、P
2
は、第二レーザ光のパワー[W]、D
2
は、表面における第二レーザ光のスポット径[mm]、およびVは、掃引速度[mm/s]、
で表せるエネルギ密度E
1
,E
2
を定義した場合、
前記第一部材が、アルミニウム系材料であり、前記第二部材が、銅系材料である場合にあっては、第一レーザ光のエネルギ密度E
1
の、第二レーザ光のエネルギ密度E
2
に対する比(E
1
/E
2
)を、1以上かつ20以下にするとともに、前記第二部位の前記第一方向の溶け込み深さWd2に対する前記第一方向と交差した第二方向の幅Ww2の比Ew2=Ww2/Wd2を、1.9以上とし、
前記第一部材が、銅系材料であり、前記第二部材が、アルミニウム系材料である場合にあっては、第一レーザ光のエネルギ密度E
1
の、第二レーザ光のエネルギ密度E
2
に対する比(E
1
/E
2
)を、0以上かつ6以下にするとともに、前記第二部位の前記第一方向の溶け込み深さWd2に対する前記第一方向と交差した第二方向の幅Ww2の比Ew2=Ww2/Wd2を、1以上とする、溶接装置。
【請求項6】
前記レーザ発振器からの第一レーザ光および第二レーザ光の出力を変更可能なコントローラを備えた、請求項
5に記載の溶接装置。
【請求項7】
前記レーザ光の前記表面上での掃引速度を変更可能なコントローラを備えた、請求項
5または6に記載の溶接装置。
【請求項8】
前記光学ヘッドと前記加工対象との間の距離を変更可能なコントローラを備えた、請求項
5~7のうちいずれか一つに記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法および溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異種金属のレーザ溶接については、金属間化合物が生成されることによる脆化が問題となっている。その対策として、レーザ光を照射しながら走査する工程を複数回行い、各走査の位置、タイミング、およびレーザ光の出力を調整することにより金属間化合物の生成を抑制する溶接方法が、知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の溶接方法にあっては、例えば、複数回の走査を要する分、溶接が完了するまでの所要時間が長くなったり、各走査における走査位置や、タイミング、出力等の調整が面倒であったり、といった課題が生じる虞があった。
【0005】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、改善された新たな溶接方法、溶接装置、および金属部材の溶接構造を得ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の溶接方法は、例えば、第一部材と、当該第一部材に対して第一方向に重なるとともに当該第一部材とは異なる材質の第二部材と、を含む加工対象の、前記第一方向とは反対方向の端部に位置した表面上にレーザ光を照射することにより、前記第一部材と前記第二部材とを溶接する溶接方法であって、前記加工対象には、前記表面から前記第一部材を前記第一方向に貫通して前記第二部材に至る溶接金属を含む溶接部が形成され、前記溶接金属の前記第一方向の溶け込み深さWdは、前記第一部材の前記第一方向の厚さをT1とした場合に、T1<Wd≦T1+0.5[mm]である。
【0007】
前記溶接方法では、前記溶接金属は、前記第一部材において形成される第一部位と、前記第二部材において形成される第二部位と、を含み、前記第二部位の前記第一方向の溶け込み深さWd2に対する前記第一方向と交差した第二方向の幅Ww2の比Ew2=Ww2/Wd2が、1以上であってもよい。
【0008】
また、本発明の溶接方法は、例えば、第一部材と、当該第一部材に対して第一方向に重なるとともに当該第一部材とは異なる材質の第二部材と、を含む加工対象の、前記第一方向とは反対方向の端部に位置した表面上にレーザ光を照射することにより、前記第一部材と前記第二部材とを溶接する溶接方法であって、前記加工対象には、前記表面から前記第一部材を前記第一方向に貫通して前記第二部材に至る溶接金属を含む溶接部が形成され、前記溶接金属は、前記第一部材において形成される第一部位と、前記第二部材において形成される第二部位と、を含み、前記第二部位の前記第一方向の溶け込み深さWd2に対する前記第一方向と交差した第二方向の幅Ww2の比Ew2=Ww2/Wd2が、1以上である。
【0009】
前記溶接方法では、前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含んでもよい。
【0010】
前記溶接方法では、前記第二レーザ光の波長は、400[nm]以上かつ500[nm]以下であってもよい。
【0011】
前記溶接方法では、前記第二部材の融点は、前記第一部材の融点よりも低くてもよい。
【0012】
前記第一部材は、銅系材料であり、前記第二部材は、アルミニウム系材料であってもよい。
【0013】
前記溶接方法では、以下の式(1)および式(2)
E1=R1×P1/(D1×V) ・・・ (1)
E2=R2×P2/(D2×V) ・・・ (2)
ここに、E1は、第一レーザ光のエネルギ密度[J/mm2]、R1は、第一レーザ光の第一部材の材料における吸収率、P1は、第一レーザ光のパワー[W]、D1は、表面における第一レーザ光のスポット径[mm]、E2は、第二レーザ光のエネルギ密度[J/mm2]、R2は、第二レーザ光の第一部材の材料における吸収率、P2は、第二レーザ光のパワー[W]、D2は、表面における第二レーザ光のスポット径[mm]、およびVは、掃引速度[mm/s]、で表せるエネルギ密度E1,E2を定義した場合、第一レーザ光のエネルギ密度E1の、第二レーザ光のエネルギ密度E2に対する比(E1/E2)が、0以上かつ6以下であってもよい。
【0014】
前記溶接方法では、前記第一部材の融点は、前記第二部材の融点よりも低くてもよい。
【0015】
前記溶接方法では、前記第二部材は、銅系材料であり、前記第一部材は、アルミニウム系材料であってもよい。
【0016】
前記溶接方法では、以下の式(1)および式(2)
E1=R1×P1/(D1×V) ・・・ (1)
E2=R2×P2/(D2×V) ・・・ (2)
ここに、E1は、第一レーザ光のエネルギ密度[J/mm2]、R1は、第一レーザ光の第一部材の材料における吸収率、P1は、第一レーザ光のパワー[W]、D1は、表面における第一レーザ光のスポット径[mm]、E2は、第二レーザ光のエネルギ密度[J/mm2]、R2は、第二レーザ光の第一部材の材料における吸収率、P2は、第二レーザ光のパワー[W]、D2は、表面における第二レーザ光のスポット径[mm]、およびVは、掃引速度[mm/s]、で表せるエネルギ密度E1,E2を定義した場合、第一レーザ光のエネルギ密度E1の、第二レーザ光のエネルギ密度E2に対する比(E1/E2)が、1以上であってもよい。
【0017】
前記溶接方法では、前記第一部材の前記第一方向の厚さは、0.1[mm]以上2[mm]以下であり、前記第二部材の前記第一方向の厚さは、0.1[mm]以上2[mm]以下であってもよい。
【0018】
本発明の溶接装置は、例えば、レーザ発振器と、第一部材と、当該第一部材に対して第一方向に重なるとともに当該第一部材とは異なる材質の第二部材と、を含む加工対象の、前記第一方向とは反対方向の端部に位置した表面上にレーザ光を照射する光学ヘッドと、を備え、前記第一部材と前記第二部材とを溶接する、溶接装置であって、前記レーザ光は、第一レーザ光と当該第一レーザ光とは異なる第二レーザ光とを含む。
【0019】
前記溶接装置では、前記第一レーザ光の波長は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下であり、前記第二レーザ光の波長は、550[nm]以下であってもよい。
【0020】
前記溶接装置は、前記レーザ発振器からの第一レーザ光および第二レーザ光の出力を変更可能なコントローラを備えてもよい。
【0021】
前記溶接装置は、前記レーザ光の前記表面上での掃引速度を変更可能なコントローラを備えてもよい。
【0022】
前記溶接装置は、前記光学ヘッドと前記加工対象との間の距離を変更可能なコントローラを備えてもよい。
【0023】
前記溶接装置では、以下の式(1)および式(2)
E1=R1×P1/(D1×V) ・・・ (1)
E2=R2×P2/(D2×V) ・・・ (2)
ここに、E1は、第一レーザ光のエネルギ密度[J/mm2]、R1は、第一レーザ光の第一部材の材料における吸収率、P1は、第一レーザ光のパワー[W]、D1は、表面における第一レーザ光のスポット径[mm]、E2は、第二レーザ光のエネルギ密度[J/mm2]、R2は、第二レーザ光の第一部材の材料における吸収率、P2は、第二レーザ光のパワー[W]、D2は、表面における第二レーザ光のスポット径[mm]、およびVは、掃引速度[mm/s]、で表せるエネルギ密度E1,E2を定義した場合、前記コントローラは、第一レーザ光のエネルギ密度E1の、第二レーザ光のエネルギ密度E2に対する比(E1/E2)を変更可能であってもよい。
【0024】
本発明の金属部材の溶接構造は、例えば、第一部材と、前記第一部材に対して第一方向に重なった第二部材と、前記第一部材内で前記第一方向に延びるとともに部分的に前記第二部材に食い込む溶接金属を含み、前記第一部材と前記第二部材とを溶接する溶接部と、を備えた、金属部材の溶接構造であって、前記溶接金属は、前記第一部材と同じ成分を含み前記第一方向と交差する第二方向に前記第一部材と並ぶ第一部位と、前記第二部材と同じ成分を含む第二部位と、を有する。
【0025】
前記金属部材の溶接構造では、前記第二部材の融点は、前記第一部材の融点よりも低くてもよい。
【0026】
前記金属部材の溶接構造では、前記第一部材は、銅系材料であり、前記第二部材は、アルミニウム系材料であってもよい。
【0027】
前記金属部材の溶接構造では、前記第一部位の前記第一方向の第一端部と、前記第二部位の前記第一方向の反対方向の第二端部とは、互いに接していてもよい。
【0028】
前記金属部材の溶接構造では、前記第一部材の前記第一方向の厚さは、0.1[mm]以上2[mm]以下であり、前記第二部材の前記第一方向の厚さは、0.1[mm]以上2[mm]以下であってもよい。
【0029】
前記金属部材の溶接構造では、前記第一部位および前記第二部位の、前記第一方向および前記第二方向に沿う断面における結晶粒のサイズの平均値は、互いに異なってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、第1実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
【
図2】
図2は、実施形態のレーザ溶接装置によって形成された溶接構造の一例の模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態のレーザ溶接装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のビーム(スポット)を示す例示的な模式図である。
【
図4】
図4は、照射するレーザ光の波長に対する各金属材料の光の吸収率を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施形態のレーザ溶接装置によって形成された溶接構造の一例の模式的な断面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態の第1変形例のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態の第1変形例のレーザ溶接装置に含まれる回折光学素子の原理の概念を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0032】
以下に示される複数の実施形態は、同様の構成を備えている。よって、各実施形態の構成によれば、当該同様の構成に基づく同様の作用および効果が得られる。また、以下では、それら同様の構成には同様の符号が付与されるとともに、重複する説明が省略される場合がある。
【0033】
また、各図において、X方向を矢印Xで表し、Y方向を矢印Yで表し、Z方向を矢印Zで表している。X方向、Y方向、およびZ方向は、互いに交差するとともに直交している。Z方向は、加工対象Wの表面Wa(加工面、溶接面)の法線方向である。また、各図では、便宜上、レーザ光Lの表面Waにおける掃引方向SDがX方向に沿っている例が図示されているが、掃引方向SDは、表面Waに沿うとともにZ方向と交差していればよく、X方向のみに沿うものではない。
【0034】
また、本明細書において、序数は、部品や、部材、部位、レーザ光、方向等を区別するために便宜上付与されており、優先度や順番を示すものではない。
【0035】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態のレーザ溶接装置100の概略構成図である。
図1に示されるように、レーザ溶接装置100は、レーザ装置111と、レーザ装置112と、光学ヘッド120と、光ファイバ130と、を備えている。レーザ溶接装置100は、溶接装置の一例である。
【0036】
レーザ装置111,112は、それぞれ、レーザ発振器を有しており、例えば、数kWのパワーのレーザ光を出力できるよう構成されている。レーザ装置111,112は、380[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長のレーザ光を照射する。レーザ装置111,112は、内部に、例えば、ファイバレーザや、半導体レーザ(素子)、YAGレーザ、ディスクレーザのような、レーザ光源を有している。レーザ装置111,112は、複数の光源の出力の合計として、数kWのパワーのマルチモードのレーザ光を出力できるよう構成されてもよい。
【0037】
レーザ装置111は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光を出力する。レーザ装置111は、第一レーザ装置の一例である。一例として、レーザ装置111は、レーザ光源として、ファイバレーザかあるいは半導体レーザ(素子)を有する。レーザ装置111が有するレーザ発振器は、第一レーザ発振器の一例である。
【0038】
他方、レーザ装置112は、550[nm]以下の波長の第二レーザ光を出力する。レーザ装置112は、第二レーザ装置の一例である。一例として、レーザ装置112は、レーザ光源として、半導体レーザ(素子)を有する。レーザ装置112は、400[nm]以上かつ500[nm]以下の波長の第二レーザ光を出力するのが好適である。レーザ装置112が有するレーザ発振器は、第二レーザ発振器の一例である。
【0039】
光ファイバ130は、それぞれ、レーザ装置111,112から出力されたレーザ光を光学ヘッド120に導く。
【0040】
光学ヘッド120は、レーザ装置111,112から入力されたレーザ光を、加工対象Wに向かって照射するための光学装置である。光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と、集光レンズ122と、ミラー123と、フィルタ124と、を備えている。コリメートレンズ121、集光レンズ122、ミラー123、およびフィルタ124は、光学部品とも称されうる。
【0041】
光学ヘッド120は、加工対象Wの表面Wa上でレーザ光Lの照射を行いながらレーザ光Lを掃引するために、加工対象Wとの相対位置を変更可能に構成されている。光学ヘッド120と加工対象Wとの相対移動は、光学ヘッド120の移動、加工対象Wの移動、または光学ヘッド120および加工対象Wの双方の移動により、実現されうる。
【0042】
なお、光学ヘッド120は、図示しないガルバノスキャナ等を有することにより、表面Wa上でレーザ光Lを掃引可能に構成されてもよい。
【0043】
コリメートレンズ121(121-1,121-2)は、それぞれ、光ファイバ130を介して入力されたレーザ光をコリメートする。コリメートされたレーザ光は、平行光になる。
【0044】
ミラー123は、コリメートレンズ121-1で平行光となった第一レーザ光を反射する。ミラー123で反射した第一レーザ光は、Z方向の反対方向に進み、フィルタ124へ向かう。なお、第一レーザ光が光学ヘッド120においてZ方向の反対方向へ進むように入力される構成にあっては、ミラー123は不要である。
【0045】
フィルタ124は、第一レーザ光を透過し、かつ第二レーザ光を透過せずに反射するハイパスフィルタである。第一レーザ光は、フィルタ124を透過してZ方向の反対方向へ進み、集光レンズ122へ向かう。他方、フィルタ124は、コリメートレンズ121-2で平行光となった第二レーザ光を反射する。フィルタ124で反射した第二レーザ光は、Z方向の反対方向に進み、集光レンズ122へ向かう。
【0046】
集光レンズ122は、平行光としての第一レーザ光および第二レーザ光を集光し、レーザ光L(出力光)として、加工対象Wへ照射する。
【0047】
また、レーザ溶接装置100は、コントローラ141と、コントローラ141によって作動を制御される被制御機構と、を備えている。本実施形態では、レーザ溶接装置100は、被制御機構として、例えば、レーザ装置111,112および駆動機構150を備えている。
【0048】
コントローラ141は、レーザ装置111,112の作動を制御することができる。具体的に、コントローラ141は、例えば、レーザ装置111,112の作動および作動停止を切り替えたり、レーザ装置111,112が出射するレーザ光のパワーを変更したりすることができる。
【0049】
駆動機構150は、加工対象Wに対する光学ヘッド120の相対的な位置を変更する。駆動機構150は、例えば、モータのような回転機構や、当該回転機構の回転出力を減速する減速機構、減速機構によって減速された回転を直動に変換する運動変換機構等を、有する。コントローラ141は、加工対象Wに対する光学ヘッド120のX方向、Y方向、およびZ方向における相対位置が変化するよう、駆動機構150を制御することができる。また、コントローラ141は、レーザ光Lのスポットの表面Wa上での掃引速度が変化するよう、駆動機構150を制御することができる。
【0050】
また、レーザ溶接装置100は、カメラ170と、カメラ170へ光を導く光学部品としてのフィルタ127およびミラー128と、を有している。フィルタ127は、ミラー123とフィルタ124との間に設けられている。フィルタ127は、ミラー123からの第一レーザ光をフィルタ124へ向けて透過するとともに、表面Waからの光(例えば、可視光)をミラー128に向けて反射する。ミラー128で反射した光は、カメラ170に入力される。このような構成により、カメラ170は、表面Wa上の画像を撮影することができる。カメラ170による撮影画像には、例えば、表面Waの画像と、レーザ光Lによるビーム(スポット)の画像とが、含まれうる。よって、カメラ170による撮影画像は、表面Wa上に形成されるスポットの所定位置に対するずれの検出結果と言うことができ、カメラ170は、当該ずれを検出するセンサの一例であると言うことができる。なお、撮影画像の画角におけるスポットの位置が固定している場合にあっては、撮影画像には、レーザ光Lの照射目標が含まれていればよく、スポットの画像は含まれている必要は無い。カメラ170およびコントローラ141は、検出機構の一例である。なお、コントローラ141は、カメラ170の作動を制御してもよい。
【0051】
また、コントローラ141は、カメラ170による撮影画像から、スポットの所定位置に対するずれを検出し、当該ずれを補正するよう、駆動機構150を制御することができる。また、コントローラ141は、当該ずれが所定の閾値以内となるようフィードバック制御を実行してもよい。コントローラ141および駆動機構150は、補正機構の一例である。このような構成により、レーザ光の照射位置の精度を高めることができる。
【0052】
本実施形態では、加工対象Wは、Z方向に積層された複数の金属部材11,12を有した溶接構造10である。
【0053】
[溶接構造の例(1)]
図2は、レーザ溶接装置100の加工対象Wの一例である溶接構造10-1(10)の断面図である。
図2の断面は、X方向と交差するとともに直交し、Y方向およびZ方向に沿っている。
【0054】
溶接構造10-1は、複数の金属部材11,12と、溶接部14と、を有している。複数の金属部材11,12は、例えば、バスバーや、電極端子、電極箔等であり、導電経路の少なくとも一部を構成している。すなわち、複数の金属部材11,12は、いずれも導電性を有した金属材料で作られている。ただし、本実施形態では、金属部材11と金属部材12とは、相異なる材料で作られている。溶接部14は、複数の金属部材11,12を、機械的かつ電気的に接続している。
【0055】
また、本実施形態では、金属部材12の融点は、金属部材11の融点よりも低い。金属部材11は、例えば、銅や、銅合金のような、銅系材料である。また、金属部材12は、例えば、アルミニウムや、アルミニウム合金のような、アルミニウム系材料である。なお、少なくともいずれか一方の金属部材11,12の表面には、めっき層が形成されていてもよい。
【0056】
金属部材11,12は、Z方向に重なっている。
図2の例において、金属部材11,12は、板状あるいは箔状の形状を有し、Z方向と交差して広がりX方向およびY方向に延びている。Z方向は、金属部材11,12の厚さ方向とも称されうる。また、溶接構造10は、積層体とも称されうる。
【0057】
図2の例では、金属部材11は、金属部材12に対して、Z方向に重なっている。言い換えると、金属部材12は、金属部材11に対して、Z方向の反対方向に重なっている。金属部材11は、金属部材12と溶接される部位においては、当該金属部材12に対してZ方向に隣接し、当該金属部材12とZ方向に略密着した状態で重なっている。
図2の例において、金属部材11は、第一部材の一例であり、金属部材12は、第二部材の一例であり、Z方向の反対方向は、第一方向の一例である。
【0058】
加工対象Wは、レーザ溶接装置100によって溶接されるに際し、不図示の固定具によって
図2の積層状態で一体的に仮止めされ、例えば、表面Waの法線方向がZ方向と略平行となる姿勢で、セットされる。表面Waは、加工対象WのZ方向の端面であり、溶接部14が設けられる部位においては、Z方向と交差するとともに直交して広がっている。
【0059】
光学ヘッド120は、レーザ光Lを、表面Waに向けて、Z方向の反対方向に照射する。表面Waは、レーザ光Lの照射面であり、光学ヘッド120と面した対向面とも称されうる。Z方向の反対方向は、レーザ光Lの照射方向と称されうる。
【0060】
このようなレーザ光Lの照射により、溶接部14は、表面Waから、Z方向の反対方向に向けて延びることになる。Z方向の反対方向は、溶接部14の深さ方向とも称されうる。溶接部14の深さ方向は、レーザ光Lの照射方向でもある。
【0061】
また、レーザ光Lが照射されている状態で、駆動機構150の作動によって光学ヘッド120が加工対象Wに対して掃引方向SDに相対的に移動することにより、表面Wa上でレーザ光Lが当該掃引方向SDに掃引される。これにより、溶接部14は、
図2と略同様の断面形状で、表面Waに沿って、掃引方向SD(
図2ではX方向)に延びることになる。掃引方向SDは、溶接部14の長手方向や延び方向とも称されうる。また、Z方向および掃引方向SDと交差する方向(
図2ではY方向)は、溶接部14の幅方向とも称されうる。Y方向は、第二方向の一例である。
【0062】
溶接部14は、表面WaからZ方向の反対方向に延びた溶接金属14aと、当該溶接金属14aの周囲に位置された熱影響部14bと、を有している。溶接金属14aは、レーザ光Lの照射によって溶融し、その後凝固した部位である。溶接金属14aは、溶融凝固部とも称されうる。熱影響部14bは、加工対象Wの母材が熱影響を受けた部位であって、溶融はしていない部位である。
【0063】
熱影響部14bは、金属部材11内に形成される第一ゾーン14b1と、金属部材12内に形成される第二ゾーン14b2と、を有している。
【0064】
溶接金属14aは、表面Waから金属部材11をZ方向の反対方向に延びている。溶接金属14aのZ方向の反対方向の端部は、部分的に、金属部材12に食い込んでいる。熱影響部14bは、溶接金属14aの周囲に位置している。Y方向において、熱影響部14bは、溶接金属14aの両側に隣接している。言い換えると、Y方向において、熱影響部14bは、溶接金属14aの外側に位置している。また、熱影響部14bは、部分的に、溶接金属14aに対して、Z方向の反対方向に隣接している。
【0065】
溶接金属14aは、金属部材11において形成される第一部位14a1と、金属部材12において形成される第二部位14a2と、を有している。第一部位14a1は、金属部材11と同じ成分を含み、第二部位14a2は、金属部材12と同じ成分を含む。
【0066】
第一部位14a1は、第一レーザ光および第二レーザ光の照射により溶融しかつ凝固した部位である。また、第二部位14a2は、主として第一部位14a1からの熱伝導により溶融しかつ凝固した部位である。
【0067】
第一部位14a1および第二部位14a2については、それぞれ、
図2のような、掃引方向SDと交差する断面、すなわちレーザ光Lの照射方向(溶接部14の深さ方向)および溶接部14の幅方向に沿う断面における結晶粒のサイズの平均値、および主たる元素が異なっている。第一部位14a1および第二部位14a2は、溶接構造10の
図2の断面に対する、EBSD法(electron back scattered diffraction pattern、電子線後方散乱回折)による解析、およびEDS(energy dispersive X-ray spectrometry、エネルギ分散X線分光法)による元素分析により、判別可能である。
【0068】
また、
図2の例では、第一部位14a1は、金属部材11をZ方向に貫通している。よって、第一部位14a1は、金属部材11(の母材)とY方向に並んでいる。
【0069】
図2の例では、第二部位14a2は、第一部位14a1に対してZ方向の反対方向に隣接している。よって、
図2の例では、第二部位14a2のZ方向の端部14c2は、第一部位14a1のZ方向の反対方向の端部14c1と接している。端部14c1は、第一端部の一例であり、端部14c2は、第二端部の一例である。
【0070】
発明者らの研究により、
図2に示されるような第一部位14a1および第二部位14a2を有した溶接金属14aにあっては、第一部位14a1の成分の第二部位14a2への流出が抑制されていること、すなわち金属間化合物の生成が抑制されていることが、確認できた。これは、上述したように、第二部位14a2が第一部位14a1および第一ゾーン14b1からの熱が伝導されることによる溶融、すなわち熱伝導型の溶融によって得られることによるものであると推定できる。この際、第二部位14a2は、金属部材12の融点よりも高い温度まで加熱されたものと推定できる。
【0071】
第一部位14a1の成分の第二部位14a2への流出の抑制の程度は、例えば、Z方向における第二部位14a2内での金属部材11の成分の存在量の分布で表すことができる。たとえば、流出が多い場合は、第二部位14a2内で、第一部位14a1(または第一ゾーン14b1)との境界面近傍の位置での存在量(質量)に対する、Z方向における境界面から第二部位14a2の長さ(深さ)の1/2の位置での存在量(質量)の比率が100%となる場合がある。これに対して、流出が抑制されている場合は、当該比率が減少し、例えば50%となる。当該比率は、流出の抑制すなわち金属間化合物の生成の抑制の観点からは、低い方が好ましく、例えば40%、30%、20%、10%と低くなるほど好ましい。
【0072】
[ビーム形状]
図3は、平面である表面Wa上に照射されたレーザ光Lのビーム(スポット)を示す模式図である。ビームB1およびビームB2のそれぞれは、そのビームの光軸方向と直交する断面の径方向において、たとえばガウシアン形状のパワー分布を有する。ただし、ビームB1およびビームB2のパワー分布はガウシアン形状に限定されない。また、
図3のように各ビームB1,B2を円で表している各図において、当該ビームB1,B2を表す円の直径が、各ビームB1,B2のビーム径である。各ビームB1,B2のビーム径は、そのビームのピークを含み、ピーク強度の1/e
2以上の強度の領域の径として定義する。なお、図示されないが、円形でないビームの場合は、掃引方向SDと垂直方向(図では、Y方向)における、ピーク強度の1/e
2以上の強度となる領域の長さをビーム径と定義できる。また、表面Waにおけるビーム径は、スポット径と称する。
【0073】
図3に示されるように、本実施形態では、一例として、レーザ光Lのビームは、表面Wa上において、第一レーザ光のビームB1と第二レーザ光のビームB2とが重なり、ビームB2がビームB1よりも大きく(広く)、かつ、ビームB2の外縁B2aがビームB1の外縁B1aを取り囲むよう、形成されている。この場合、ビームB2のスポット径D2は、ビームB1のスポット径D1よりも大きい。表面Wa上において、ビームB1は、第一スポットの一例であり、ビームB2は、第二スポットの一例である。
【0074】
また、本実施形態では、
図3に示されるように、表面Wa上において、レーザ光Lのビーム(スポット)は、中心点Cに対する点対称形状を有しているため、任意の掃引方向SDについて、スポットの形状は同じになる。よって、レーザ光Lの表面Wa上での掃引のために光学ヘッド120と加工対象Wとを相対的に動かす移動機構を備える場合、当該移動機構は、少なくとも相対的に並進可能な機構を有すればよく、相対的に回転可能な機構は省略できる場合がある。
【0075】
[波長と光の吸収率]
ここで、金属材料の光の吸収率について説明する。
図4は、照射するレーザ光Lの波長に対する各金属材料の光の吸収率を示すグラフである。
図4のグラフの横軸は波長であり、縦軸は吸収率である。
図4には、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、金(Au)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、およびチタン(Ti)について、波長と吸収率との関係が示されている。
【0076】
材料によって特性が異なるものの、
図4に示されている各金属に関しては、一般的な赤外線(IR)のレーザ光(第一レーザ光)を用いるよりも、青や緑のレーザ光(第二レーザ光)を用いた方が、エネルギの吸収率がより高いことが理解できよう。この特徴は、銅(Cu)や、金(Au)等においては顕著となる。
【0077】
使用波長に対して吸収率が比較的低い加工対象Wにレーザ光が照射された場合、大部分の光エネルギは反射され、加工対象Wに熱としての影響を及ぼさない。そのため、十分な深さの溶融領域を得るには比較的高いパワーを与える必要がある。その場合、ビーム中心部は急激にエネルギが投入されることで、昇華が生じ、キーホールが形成される。
【0078】
他方、使用波長に対して吸収率が比較的高い加工対象Wにレーザ光が照射された場合、投入されるエネルギの多くが加工対象Wに吸収され、熱エネルギへと変換される。すなわち、過度なパワーを与える必要はないため、キーホールの形成を伴わず、熱伝導型の溶融となる。
【0079】
本実施形態では、加工対象Wの第二レーザ光に対する吸収率が、第一レーザ光に対する吸収率よりも高くなるよう、第一レーザ光の波長、第二レーザ光の波長、および加工対象Wの材質が、選択される。この場合、掃引方向が
図3に示される掃引方向SDである場合、レーザ光Lのスポットの掃引により、加工対象Wの溶接される部位(以下、被溶接部位と称する)には、まずは、第二レーザ光のビームB2の、
図3におけるSDの前方に位置する領域B2fによって、第二レーザ光が照射される。その後、被溶接部位には、第一レーザ光のビームB1が照射され、その後、第二レーザ光のビームB2の、掃引方向SDの後方に位置する領域B2bによって、再度第二レーザ光が照射される。
【0080】
したがって、被溶接部位には、まずは、領域B2fにおける吸収率が高い第二レーザ光の照射により、熱伝導型の溶融領域が生じる。その後、被溶接部位には、第一レーザ光の照射によって、より深いキーホール型の溶融領域が生じる。この場合、被溶接部位には、予め熱伝導型の溶融領域が形成されているため、当該熱伝導型の溶融領域が形成されない場合に比べて、より低いパワーの第一レーザ光によって所要の深さの溶融領域を形成することができる。さらにその後、被溶接部位には、領域B2bにおける吸収率が高い第二レーザ光の照射により、溶融状態が変化する。このような観点から、第二レーザ光の波長は550[nm]以下が好ましく、500[nm]以下がより好ましい。
【0081】
また、発明者らの実験的な研究により、
図3のようなビームのレーザ光Lの照射による溶接にあっては、スパッタやブローホールのような溶接欠陥を低減できることが確認されている。これは、ビームB1が到来する前にビームB2の領域B2fによって加工対象Wを予め加熱しておくことにより、ビームB2およびビームB1によって形成される加工対象Wの溶融池がより安定化するためであると推定できる。
【0082】
[溶接方法]
レーザ溶接装置100を用いた溶接にあっては、まず、不図示の保持具によって金属部材11と金属部材12とが一体的に仮止めされた溶接構造10が、レーザ光Lが表面Waに照射されるようにセットされる。そして、ビームB1およびビームB2を含むレーザ光Lが表面Waに照射されている状態で、レーザ光Lと溶接構造10とが相対的に動かされる。これにより、レーザ光Lが表面Wa上に照射されながら当該表面Wa上を掃引方向SDに移動する(掃引する)。レーザ光Lが照射された部分は、溶融し、その後、温度の低下に伴って凝固することにより、溶接部14を介して金属部材11と金属部材12とが接合され、溶接構造10が一体化される。
【0083】
[エネルギ密度]
また、発明者らは、実験的な解析において、材料の吸収率を考慮したエネルギ密度という指標を導入し、当該エネルギ密度について、好適な溶接状態が得られる条件を見いだした。当該エネルギ密度は、以下の式(1)で表すことができる。
En=Rn×Pn/(Dn×V) ・・・ (1)
ここに、Enは、エネルギ密度[J/mm2]、Rnは、レーザ光が照射される部材(第一部材)の材料におけるレーザ光の吸収率、Pnは、レーザ装置によるレーザ光のパワー[W]、Dnは、表面Waにおけるスポット径[mm]、Vは、掃引速度[mm/s]である。ここでは、下付のnにより、各パラメータを区別しており、n=1は、第一レーザ光のパラメータ、n=2は、第二レーザ光のパラメータを示す。式(1)から明らかとなるように、エネルギ密度Enによれば、レーザ光Lが照射される加工対象Wの材料の吸収率Rnを考慮した分析が可能となる。なお、エネルギ密度は、実効エネルギ密度とも称されうる。
【0084】
発明者らは、
図2の溶接構造10-1に対する実験的解析により、第一レーザ光のエネルギ密度E
1の、第二レーザ光のエネルギ密度E
2の比Re1(=E
1/E
2、以下、エネルギ密度比と称する)によって、溶接状態が変化することを見いだした。
【0085】
【表1】
表1において、「◎」は、溶接品質が非常に高いことを示し、「○」は、溶接品質が高いことを示し、「△」は、溶接品質がやや高いことを示し、「×」は、溶接品質が低いことを示している。表1に示されるように、エネルギ密度比Re1が、0以上かつ6以下である場合が好ましく、0以上かつ4以下である場合がより好ましく、0以上2以下である場合がより一層好ましいことが判明した。
【0086】
また、表1は、金属部材11の厚さT1(
図1参照)が0.1[mm]以上2[mm]以下であり、かつ金属部材12の厚さT2(
図1参照)が0.1[mm]以上2[mm]以下である場合の実験結果を示している。
【0087】
コントローラ141は、比Re1が変化するよう、例えばレーザ装置111,112や駆動機構150のような被制御機構を制御することができる。
【0088】
[溶接構造の例(2)]
図5は、レーザ溶接装置100の加工対象Wの一例である溶接構造10-2(10)の断面図である。
図5の断面は、X方向と交差するとともに直交し、Y方向およびZ方向に沿っている。
【0089】
図5に例示される溶接構造10-2は、
図2に例示される溶接構造10-1と同じ材料の金属部材11,12を有している。ただし、溶接構造10-2は、Z方向における金属部材11,12の配置(積層順)が、溶接構造10-1とは逆である。
【0090】
すなわち、
図5の例では、金属部材12は、金属部材11に対して、Z方向に重なっている。言い換えると、金属部材11は、金属部材12に対して、Z方向の反対方向に重なっている。金属部材12は、金属部材11と溶接される部位においては、当該金属部材11に対してZ方向に隣接し、当該金属部材11とZ方向に略密着した状態で重なっている。
図5の例においては、金属部材12は、第一部材の一例であり、金属部材11は、第二部材の一例である。
【0091】
図5の例では、溶接金属14aは、金属部材12内に形成され熱伝導型の溶融によって得られた第二部位14a2と、金属部材11内に形成され熱伝導型の溶融によって得られた第一部位14a1と、を有している。第二部位14a2は、金属部材12を貫通している。第一部位14a1は、第二部位14a2に対してZ方向の反対方向に隣接している。第二部位14a2のZ方向の反対方向の端部14c2と、第一部位14a1のZ方向の端部14c1とは、互いに接している。
【0092】
発明者らは、
図5の溶接構造10-2に対する実験的解析により、この場合も、第一レーザ光のエネルギ密度E
1の、第二レーザ光のエネルギ密度E
2の比Re2(=E
1/E
2、エネルギ密度比)によって、溶接状態が変化することを見いだした。
【0093】
【表2】
表2中のマークの意味は、表1と同じである。表2に示されるように、エネルギ密度比Re
2が、1以上である場合が好ましく、1以上かつ20以下である場合がより好ましく、3以上10以下である場合がより一層好ましいことが判明した。
【0094】
また、表2は、金属部材11の厚さT1が0.1[mm]以上2[mm]以下であり、かつ金属部材12の厚さT2が0.1[mm]以上2[mm]以下である場合の実験結果を示している。
【0095】
また、コントローラ141は、比Re2が変化するよう、例えばレーザ装置111,112や駆動機構150のような被制御機構を制御することができる。
【0096】
レーザ溶接装置100は、コントローラ141によって、それぞれの場合に適した条件でレーザ装置111,112や、駆動機構150の作動を制御することにより、
図2の溶接構造10-1、
図5の溶接構造10-2、および図示されないその他の溶接構造について、より接続強度が高くかつより高品質な溶接を行うことができる。
【0097】
[溶け込み深さおよびアスペクト比]
下記の表3は、金属部材11の厚さT1が0.5[mm]以下であり、かつ金属部材12の厚さT2が1.0[mm]である場合に、エネルギ密度[J/mm
2]を異ならせた複数のサンプル(サンプルNo.1~3)についての実験結果を示している。
【表3】
【0098】
表3中、Wd2(
図2参照)は、溶接金属14aの第二部位14a2の溶け込み深さであって、第二部位14a2のZ方向の端部14c2(Z方向において金属部材12のZ方向の端面と同じ位置)から第二部位14a2のZ方向の反対方向の先端までの深さである。なお、溶接金属14aの全体の溶け込み深さWd(
図2参照)は、金属部材11の厚さT1と、第二部位14a2の溶け込み深さWd2との和であり、Wd=T1+Wd2の式で表される。ここに、溶け込み深さWd,Wd2は、JISハンドブック 40-1 溶接I(基本)、4.1.6 溶接設計、11619「溶込み」に準拠している。
【0099】
表3中、Ew2は、第二部位14a2の溶け込み深さWd2に対する、第二部位14a2の端部14c2におけるY方向での幅Ww2(
図2参照)の比であり、Ew2=Ww2/Wd2の式で表される。この比Ew2は、第二部位14a2のアスペクト比とも称されうる。ここに、幅Ww2は、JISハンドブック 40-1 溶接I(基本)、4.1.6 溶接設計、11605「溶接幅」に準拠している。
【0100】
また、表3中、「評価」において、×は、所要の接合強度が得られなかった場合、○は、所要の接合強度が得られた場合、◎は、十分な接合強度が得られた場合、を示す。なお、接合強度として、JIS Z 3136に準拠して各サンプルの剪断力を測定し、単位面積あたりの剪断力、すなわち剪断応力の最大値を算出した。一般に、純アルミニウムの剪断応力の最大値が50[MPa]、純銅の剪断応力の最大値が200[MPa]程度であり、銅およびアルミニウムの異材溶接の場合、剪断応力の最大値が例えば100[MPa]以上であれば、十分に接合強度が得られているといえる。
【0101】
(知見1)溶接金属14aの溶け込み深さWdについては、表3のサンプルを含む複数サンプルの実験結果の解析等から、当該溶け込み深さWdが金属部材11の厚さT1に対して深すぎると、すなわち、第二部位14a2の溶け込み深さWd2が深すぎると、溶接金属14a内、特に第二部位14a2内で金属間化合物が増加し、所要の接合強度が得られ難くなることが判明した。具体的に、溶接金属14aの溶け込み深さWdについては、Wd≦T1+0.5[mm]であるのが好ましいことが判明した。表3のサンプル1,2では、いずれも、第二部位14a2の溶け込みWd2は500[μm]以下、すなわち、Wd≦T1+0.5[mm]であるとともに、剪断応力の最大値が100[Mpa]以上となっており、所要の接合強度が得られている。
【0102】
逆に、溶接金属14aの溶け込み深さWdが、金属部材11の厚さT1に対して浅すぎる場合、言い換えると、溶接金属14aが金属部材11を貫通せず、金属部材12に至らないような場合にも、所要の接合強度が得られ難くなることが判明した。
【0103】
このように、溶接金属14aは、少なくとも金属部材11を貫通する必要はあるものの、第二部位14a2の溶け込み深さWd2は、それほど深くないのが好ましいことが判明した。言い換えると、溶接金属14aは少なくとも金属部材11を貫通するとともに、当該溶接金属14aの全体の溶け込み深さWdとしては、金属部材11の厚さT1と略同じか僅かに深い(厚い、長い)状態であるのが好ましい、具体的には、T1<Wd≦T1+0.5[mm]であるのが好ましいことが、判明した。
【0104】
(知見2)比Ew2(アスペクト比)については、Ew2=Ww2/Wd2が、1以上であれば、溶接金属14aの溶け込み深さWdおよび第二部位14a2の溶け込み深さWd2が深くなりすぎず、好ましいことが判明した。表3のサンプル1,2では、いずれも、比Ew2は、1以上となっており、これらの場合において、剪断応力の最大値が100[Mpa]以上となって、所要の接合強度が得られている。
【0105】
また、発明者らは、知見1および知見2については、金属部材11と金属部材12との位置が入れ替わった溶接構造10-2においても同様であることを確認した。
【0106】
以上、説明したように、本実施形態では、例えば、溶接金属14aは、第一部位14a1および第二部位14a2を有し、第一部位14a1は、金属部材11(第一部材)内でZ方向の反対方向(第一方向)に延び、第二部位14a2は、金属部材12(第二部材)内に位置するとともに第一部位14a1に対してZ方向の反対方向に隣接するかあるいは離間している。
【0107】
このような構成の溶接金属14aを含む溶接部14を有した溶接構造10-1は、第一レーザ光および第二レーザ光を含むレーザ光Lの照射による溶接によって得られる。当該溶接構造10-1によれば、例えば、第一部位14a1の成分の第二部位14a2への流出、すなわち金属間化合物の生成を、抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、例えば、より容易にあるいはより迅速に、所要の接合強度を有した溶接構造10-1を得ることができる。
【0108】
また、本実施形態のレーザ溶接装置100(溶接装置)によれば、コントローラ141が、レーザ装置111,112や駆動機構150のような被制御機構の作動を切り替えて制御することにより、溶接構造10-1,10-2を含め、金属部材の材質や、配置、厚さのようなスペックの異なる種々の加工対象Wに適合した溶接部14を形成することができる。このような構成によれば、例えば、加工対象W毎に別のレーザ溶接装置を用いて溶接を行う必要がなくなる分、溶接をより迅速に行うことができたり、溶接の手間やコストを減らすことができたり、といった利点が得られる。
【0109】
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態のレーザ溶接装置100Aの概略構成図である。
図6に示されるように、本実施形態では、光学ヘッド120は、フィルタ124と集光レンズ122との間に、ガルバノスキャナ126を有している。この点を除き、レーザ溶接装置100Aは、第1実施形態のレーザ溶接装置100と同様の構成を備えている。
【0110】
ガルバノスキャナ126は、2枚のミラー126a,126bを有しており、当該2枚のミラー126a,126bの角度を制御することで、光学ヘッド120を移動させることなく、レーザ光Lの照射位置を移動させ、レーザ光Lを掃引することができる装置である。ミラー126a,126bの角度は、それぞれ、例えばコントローラ141によって制御された不図示のモータによって変更される。また、コントローラ141は、レーザ光Lのスポットの表面Wa上での掃引速度が変化するよう、モータ等を制御することができる。このような構成によれば、光学ヘッド120と加工対象Wとを相対的に移動する機構が不要になり、例えば、装置構成を小型化できるという利点が得られる。
【0111】
また、本実施形態でも、コントローラ141は、カメラ170による撮影画像から、スポットの所定位置に対するずれを検出し、当該ずれを補正するよう、ガルバノスキャナ126を制御することができる。また、コントローラ141は、当該ずれが所定の閾値以内となるようフィードバック制御を実行してもよい。コントローラ141およびガルバノスキャナ126は、補正機構の一例である。このような構成により、レーザ光の照射位置の精度を高めることができる。
【0112】
本実施形態によれば、加工対象Wに対する第一レーザ光および第二レーザ光を含むレーザ光Lの照射により、第1実施形態と同様の構成の溶接金属14aを含む溶接部14を有した溶接構造10を得ることができる。したがって、本実施形態によれば、例えば、より容易にあるいはより迅速に、所要の接合強度を有した溶接構造10を得ることができる。
【0113】
[第1変形例]
図7は、第2実施形態の第1変形例のレーザ溶接装置100Bの概略構成図である。
図7に示されるように、本実施形態では、光学ヘッド120は、コリメートレンズ121-2とフィルタ124との間に、DOE125(diffractive optical element、回折光学素子)を有している。この点を除き、レーザ溶接装置100Bは、第2実施形態のレーザ溶接装置100Aと同様の構成を備えている。
【0114】
DOE125は、コリメートレンズ121-2と集光レンズ122との間に配置され、レーザ光のビームの形状(以下、ビーム形状と称する)を成形する。
図8に概念的に例示されるよう、DOE125は、例えば、周期の異なる複数の回折格子125aが重ね合わせられた構成を備えている。DOE125は、平行光を、各回折格子125aの影響を受けた方向に曲げたり、重ね合わせたりすることにより、より好適なビーム形状を成形することができる。DOE125は、ビームシェイパとも称されうる。なお、DOE125は、コリメートレンズ121-1と集光レンズ122との間に配置されてもよい。また、レーザ装置111,112のうち一方のみから出力されたレーザ光のビームをDOE125によって成形した上で、加工対象Wに照射してもよい。
【0115】
以上、本発明の実施形態および変形例が例示されたが、上記実施形態および変形例は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0116】
例えば、金属部材の数は、3以上であってもよい。また、加工対象に対してレーザ光を掃引する際に、公知のウォブリングやウィービングや出力変調等により掃引を行い、溶融池の表面積を調節するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、溶接方法、溶接装置、および金属部材の溶接構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0118】
10,10-1~10-2…溶接構造
11…金属部材(第一部材、第二部材)
12…金属部材(第二部材、第一部材)
14…溶接部
14a…溶接金属
14a1…第一部位
14a2…第二部位
14b…熱影響部
14b1…第一ゾーン
14b2…第二ゾーン
14c1…端部(第一端部)
14c2…端部(第二端部)
100,100A,100B…レーザ溶接装置(溶接装置)
111…レーザ装置(レーザ発振器)
112…レーザ装置(レーザ発振器)
120…光学ヘッド
121,121-1,121-2…コリメートレンズ
122…集光レンズ
123…ミラー
124…フィルタ
125…DOE
125a…回折格子
126…ガルバノスキャナ
126a,126b…ミラー
127…フィルタ
128…ミラー
130…光ファイバ
141…コントローラ(検出機構、補正機構)
150…駆動機構(補正機構)
170…カメラ(検出機構)
B1…ビーム(第一スポット)
B1a…外縁
B2…ビーム(第二スポット)
B2a…外縁
B2b…領域
B2f…領域
C…中心点
D1…スポット径(外径)
D2…スポット径(外径)
Dn…スポット径
En,E1,E2…エネルギ密度
L…レーザ光
Pn…パワー
Rn…吸収率
Re1,Re2…エネルギ密度比
SD…掃引方向
T1,T2…厚さ
V…掃引速度
W…加工対象
Wa…表面
Wd…溶け込み深さ
Wd2…溶け込み深さ
Ww2…幅
X…方向
Y…方向(第二方向)
Z…方向(第一方向)