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  • 特許-積層体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20230824BHJP
   C23C 18/20 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
B32B15/08 N
B32B15/08 J
C23C18/20 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023520154
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2022047121
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2021211072
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】平原 英俊
(72)【発明者】
【氏名】桑 静
(72)【発明者】
【氏名】會澤 純雄
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/046651(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/186941(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B05D1/00-7/26
C23C18/00-20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材と、
前記樹脂基材上に設けられる金属層と、
を備える積層体の製造方法であって、
前記樹脂基材の前記金属層が形成される面に、直接または他の層を介して下記(1)式で表される下地用トリアジン系シランカップリング剤にて、下地層を形成する下地層形成工程と、
前記下地層の表面に下記(2)式で表される触媒用トリアジン系シランカップリング剤にて分子接合層を形成する分子接合層形成工程と、
を備え
前記樹脂基材の算術平均粗さRaが0.01μm~0.2μmである、積層体の製造方法。
【化1】
【化2】
[(1)式中において、XおよびXは、2-アミノエチルアミノ基、アミノ基、およびアジド基のいずれか1種であり、XおよびXは同一であっても異なっていてもよく、R、RおよびRは、水素原子、またはアルコキシ基を表し、R、RおよびRは同一であっても異なっていてもよく、Rはアルキレン基を表し、Rは、水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、(2)式中において、XおよびXはチオール基またはチオール金属塩であり、XおよびXは同一であっても異なっていてもよく、R、RおよびRは、水素原子、またはアルコキシ基を表し、R、RおよびRは同一であっても異なっていてもよく、Rはアルキレン基を表し、R10は、水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表す。]
【請求項2】
前記分子接合層形成工程において、前記分子接合層の厚さを、前記分子接合層を構成する触媒用トリアジン系シランカップリング剤の単分子の厚さ以上、400nm以下とする、請求項1に記載の積層体の製造方法
【請求項3】
前記樹脂基材の前記面に含酸素官能基または含窒素官能基を導入する表面処理工程と、を備える、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記表面処理工程が、前記樹脂基材の前記面に含酸素官能基として水酸基を導入する水酸基修飾工程を備える請求項に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記水酸基修飾工程がコロナ処理または酸素ガス導入プラズマである、請求項に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記表面処理工程が、前記樹脂基材の前記面に含窒素官能基としてアミノ基を導入するアミノ基修飾工程を備える請求項に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記アミノ基修飾工程がプラズマ処理である、請求項に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂基材を構成する樹脂が、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニルスルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、シリコンゴム、シクロオレフィンポリマー、ポリスチレンおよび液晶ポリマーからなる群から選択される1種である、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
前記分子接合層の表面に、触媒を担持させる触媒担持工程をさらに備える、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記触媒を担持した前記分子接合層の表面に、無電解めっきで金属層を形成する、無電解めっき工程をさらに備える、請求項に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記無電解めっき工程で形成された前記金属層に対し、電気めっきを行うことで前記金属層を厚くする電気めっき工程をさらに備える、請求項10に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層体の製造方法に関する。
本願は、2021年12月24日に、日本に出願された特願2021-211072号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの電子製品には、フレキシブル配線基板が用いられる。このフレキシブル配線基板は電子製品の小型化、高性能化、高速通信化に伴って、高周波数領域での伝送損失の低減が求められ、伝送損失の要因の一つである導体損失を低減するための平滑面への配線や高精細回路化が進められている。
【0003】
フレキシブル配線基板としては、屈曲性・耐熱性に優れたポリイミド樹脂と伝導率の高い銅箔や銅めっきとの積層体が多く用いられている。ポリイミド樹脂と銅箔との積層体としては、銅箔とポリイミド樹脂とを熱可塑性ポリイミド樹脂を介して熱圧着するラミネート材、銅箔上にポリイミド樹脂前駆体のワニスを塗布および熱硬化させるキャスト材がある。銅めっきで作成する積層体は、ポリイミド樹脂表面に無電解めっきを行い、その後電解めっきを行っている。
【0004】
しかし、ラミネート材およびキャスト材は、低コストであるが、銅と樹脂基板との密着性を確保するために、銅箔を粗化している。そのため、ラミネート材およびキャスト材を高周波回路に用いることは困難である。また、銅めっきを行う場合はポリイミド樹脂の銅めっき側の表面をエッチング等で粗化している。この場合も高周波回路に用いることは困難である。
【0005】
銅箔の表面を粗化していないフレキシブル配線基板として、特許文献1には、触媒を樹脂基板表面上にある分子接合剤に担持させた後に、無電解銅めっきおよび電気銅めっきを行うことで製造されたフレキシブル配線基板が開示されている。
【0006】
特許文献2には、銅箔の表面を粗化していないフレキシブル配線基板として、ポリイミド樹脂を含む樹脂フィルムの片面もしくは両面における表面上に、クロムを含む密着力向上層と、ニッケルまたはモリブデンを含む銅拡散バリア層と、銅または銅合金からなる導電層を形成したフレキシブル配線基板が開示されている。
【0007】
特許文献3には樹脂層に水酸基を発生させることなく、固体材料の表面に、アミノ基含有アルコキシシラン化合物を付着させ加熱し、次いで、トリアジンチオール誘導体を付着させ加熱することで無電解めっきが可能である事が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特開2007-17921号公報
【文献】日本国特開2020-88123号公報
【文献】日本国特開2010-280813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に開示のフレキシブル配線基板に対しては、高温高湿環境下における金属層と樹脂との密着性の向上が求められている。また、特許文献2に開示のフレキシブル基板の場合、密着力向上層および銅拡散バリア層を形成するコストが高いという問題がある。特許文献3には樹脂層に水酸基を発生させることなく、固体材料の表面に、アミノ基含有アルコキシシラン化合物を付着させ加熱し、次いで、トリアジンチオール誘導体を付着させ加熱することで無電解めっきが可能である事が示されている。しかし、現在、特許文献3の方法よりも高温高湿環境下での樹脂と金属のより高い密着性が求められている。
【0010】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされた発明であり、樹脂と接触する側の金属層の表面が平滑であり、高温高湿環境下における金属層と樹脂との密着性に優れ、かつ、低コストである積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
<1> 本発明の一態様に係る積層体の製造方法は、
樹脂基材と、
前記樹脂基材上に設けられる金属層と、
を備える積層体の製造方法であって、
前記樹脂基材の前記金属層が形成される面に、直接または他の層を介して下記(1)式で表される下地用トリアジン系シランカップリング剤にて、下地層を形成する下地層形成工程と、
前記下地層の表面に下記(2)式で表される触媒用トリアジン系シランカップリング剤にて分子接合層を形成する分子接合層形成工程と、
を備え、前記樹脂基材の算術平均粗さRaが0.01μm~0.2μmである。
【化1】
【化2】
[(1)式中において、XおよびXは、2-アミノエチルアミノ基、アミノ基、およびアジド基のいずれか1種であり、XおよびXは同一であっても異なっていてもよく、R、RおよびRは、水素原子、またはアルコキシ基を表し、R、RおよびRは同一であっても異なっていてもよく、Rはアルキレン基を表し、Rは、水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、(2)式中において、XおよびXはチオール基またはチオール金属塩であり、XおよびXは同一であっても異なっていてもよく、R、RおよびRは、水素原子、またはアルコキシ基を表し、R、RおよびRは同一であっても異なっていてもよく、Rはアルキレン基を表し、R10は、水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表す。]
【0012】
<2> 上記<1>に記載の積層体の製造方法は、前記分子接合層形成工程において、前記分子接合層の厚さを、前記分子接合層を構成する触媒用トリアジン系シランカップリング剤の単分子の厚さ以上、400nm以下とてもよい。
> 上記<1>に記載の積層体の製造方法は、前記樹脂基材の前記面に含酸素官能基または含窒素官能基を導入する表面処理工程と、を備えてもよい。
【0013】
> 上記<>に記載の積層体の製造方法は、前記表面処理工程が、前記樹脂基材の前記面に含酸素官能基として水酸基を導入する水酸基修飾工程を備えてもよい。
【0014】
> 上記<>に記載の積層体の製造方法は、前記水酸基修飾工程がコロナ処理または酸素ガス導入プラズマであってもよい。
【0015】
> 上記<>に記載の積層体の製造方法は、前記表面処理工程が、前記樹脂基材の前記面に含窒素官能基としてアミノ基を導入するアミノ基修飾工程を備えてもよい。
【0016】
> 上記<>に記載の積層体の製造方法は、前記アミノ基修飾工程がプラズマ処理であってもよい。
【0017】
> 上記<1>~<>のいずれか1つに記載の積層体の製造方法は、前記樹脂基材を構成する樹脂が、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニルスルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、シリコンゴム、シクロオレフィンポリマー、ポリスチレンおよび液晶ポリマーからなる群から選択される1種であってもよい。
【0018】
> 上記<1>~<>のいずれか1つに記載の積層体の製造方法は、前記分子接合層の表面に、触媒を担持させる触媒担持工程をさらに備えてもよい。
【0019】
10> 上記<>に記載の積層体の製造方法は、前記触媒を担持した前記分子接合層の表面に、無電解めっきで金属層を形成する、無電解めっき工程をさらに備えてもよい。
【0020】
11> 上記<10>に記載の積層体の製造方法は、前記無電解めっき工程で形成された前記金属層に対し、電気めっきを行うことで前記金属層を厚くする電気めっき工程をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の上記態様によれば、樹脂と接触する側の金属層の表面が平滑であり、高温高湿環境下における金属層と樹脂との密着性に優れ、かつ、低コストである積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る積層体の断面模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<積層体>
高温高湿環境下における金属層と樹脂基材との密着性が低下する原因としては、金属層を形成する金属元素、例えば銅が樹脂基材の中に拡散して樹脂を分解すること、および、金属層と樹脂基材との界面に金属層の酸化物が形成され、金属層と金属層の酸化物との間で剥離(フクレ)が発生することなどが挙げられる。また、高温高湿環境下における金属層と樹脂基材との密着性が低下する他の原因としては、アルキル系のアミノシランカップリング剤で構成されるバリア層が加水分解によって破壊されることで、バリア性能が低下するということが挙げられる。
【0024】
そこで、本発明者らは、高温高湿環境下において金属層中の金属元素の樹脂基材への拡散と、金属層と樹脂基材との界面に形成される金属酸化物の生成とを低コストで抑制できる方法について鋭意検討した。その結果、金属層と樹脂基材との間に、トリアジン系シランカップリング剤からなる中間層(下地層)を形成し、その後、触媒を担持可能なトリアジン系シランカップリング剤で分子接合層を形成することで、低コストで高温高湿環境下における金属層と樹脂との密着性を向上できることを知見した。本発明は、上記の知見を基に、積層体の各構成要件を決定した。
【0025】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態に係る積層体を説明する。図1に示すように、本発明の実施形態に係る積層体100は、樹脂基材1、下地層2、分子接合層3および金属層4を備える。以下、各部について説明する。
【0026】
(樹脂基材)
樹脂基材1の樹脂として特に限定されない。樹脂基材1に用いられる樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂(PI)、ポリフェニルスルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、シリコンゴム、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリスチレン(PS)および液晶ポリマー(LCP)などからなる群から選択される1種以上である。これらの樹脂は単一のままでも、共重合体や混合体、積層体であってもよい。
【0027】
積層体100をプリント配線基材として用いる場合、配線のハンダ付けなどにおいて積層体100には熱負荷が加わる。また、積層体100を電子製品の可動部分に用いる場合には、十分な機械的強度が必要である。そのため、耐熱性、機械的強度および寸法安定性の点で優れた性質を持つポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、液晶ポリマーなどが好ましい。
【0028】
樹脂基材1の樹脂には機械的強度の改善などの目的に応じ、タルクなどの無機粒子、滑剤、帯電防止剤などが含有されていてもよい。
【0029】
樹脂基材1の厚さは、特に限定されないが、例えば、樹脂基材1をフレキシブル配線基板に用いる場合は、樹脂基材1の厚さは1μm以上、200μm以下であることが好ましい。樹脂基材1の厚さが1μm未満の場合は、樹脂基材1の機械的強度の不足する可能性があるので好ましくない。樹脂基材1の厚さは、より好ましくは3μm以上である。またフィルムの厚さが200μmを超えると、折り曲げ性が低下する場合があるので、好ましくない。樹脂基材1の厚さは、より好ましくは150μm以下である。
【0030】
樹脂基材1の算術平均粗さRaは、例えば、0.01~1μmである。算術平均粗さRaが0.01μm~1μmの間であれば、回路の微細化にも対応できる。また、算術平均粗さRaが0.2μm以下であれば、高周波域での伝送損失を低減できる。算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2013に従って、測定することができる。
【0031】
(下地層2)
下地層2は、樹脂基材1上に設けられ、下地用トリアジン系シランカップリング剤の反応物を含有する。ここで、「樹脂基材1上に設けられ」には、樹脂基材1の表面に接するように下地層2を設けることだけでなく、樹脂基材1と下地層2との間に中間層を設けることも含まれる。下地用トリアジン系シランカップリング剤の反応物は、下地用トリアジン系シランカップリング剤の反応によって形成された化合物である。下地層2には、下地用トリアジン系シランカップリング剤の反応物以外の不純物などが含まれていてもよい。
【0032】
下地層2は、金属層4の金属元素の拡散および金属酸化物の形成を抑制する機能を有する。下地層2は、例えば、樹脂基材1に設けた下地用トリアジン系シランカップリング剤の脱水縮合などによって、2次元の緻密な膜を形成することで、形成することができる。下地用トリアジン系シランカップリング剤としては、下記(1)式で表される。下記(1)式中において、XおよびXは、2-アミノエチルアミノ基、アミノ基、およびアジド基のいずれか1種であり、XおよびXは同一であっても異なっていてもよく、R、RおよびRは、水素原子、またはアルコキシ基を表し、R、RおよびRは同一であっても異なっていてもよく、Rはアルキレン基を表し、Rは、水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表す。
下記(1)式で表される下地用トリアジン系シランカップリング剤を用いることで、下地層2の上に設けられる分子接合層3の膜の緻密性が向上する。また、下記(1)式で表される下地用トリアジン系シランカップリング剤を用いることで緻密な構造を形成することができる。この緻密構造によって、高温高湿環境下でも金属層4の金属元素および酸素の透過を防止することができる。その結果、高温高湿環境下での樹脂基材1と金属層4との密着性の低下を抑制することができる。下地層2は、樹脂基材1との間に化学結合を介して接合していることが好ましい。化学結合を介して接合することで樹脂基材1が平滑であっても高い密着性を得ることができる。
【0033】
【化3】
【0034】
上記(1)式中のR、RおよびRのアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基等があげられる。R、RおよびRのアルコキシ基としては、好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。
【0035】
上記(1)式中のRのアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、およびへプチレン基などが挙げられる。上記(1)式中のRのアルキレン基は、プロピレン基が好ましい。
【0036】
上記(1)式中のRのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、およびブチル基などが挙げられる。
【0037】
上記(1)式中のRのアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、およびイソブトキシ基等があげられる。
【0038】
下地層2の厚さは、樹脂基材1の全面を覆っていれば、特に限定されない。下地層2の厚さは、例えば、下地層2を構成する下地用トリアジン系シランカップリング剤の単分子の厚さ以上(単分子層以上)であればよい。下地層2の厚さが400nm超の場合、屈曲の際に割れが発生して、金属層4の金属元素および酸素に対する透過防止性能が低下する場合がある。そのため、下地層2の厚さは400nm以下が好ましい。より好ましい下地層2の厚さは200nm以下である。
【0039】
(分子接合層)
分子接合層3は、下地層2上に設けられる。ここで、「下地層2上に設けられる」には、下地層2の表面に接するように分子接合層3を設けることだけでなく、下地層2と分子接合層3との間に中間層を設けることも含まれる。分子接合層3を備えることで、無電解めっきの核となる触媒を担持しやすくなる。分子接合層3は、トリアジン環を備える有機ケイ素化合物からなり、トリアジン環には触媒を担持する機能を有する官能基を備える。触媒を担持する機能を有する官能基としては、チオール基、チオール金属塩などが挙げられる。触媒を担持する機能を有することで、分子接合層3と金属層4との密着性を向上することができる。分子接合層3には、トリアジン系シランカップリング剤の反応物以外の不純物などが含まれていてもよい。
【0040】
分子接合層3は、下記(2)式で表される触媒用トリアジン系シランカップリング剤の反応物を含有する。(2)式中において、XおよびXはチオール基またはチオール金属塩であり、XおよびXは同一であっても異なっていてもよく、R、RおよびRは、水素原子、またはアルコキシ基を表し、R、RおよびRは同一であっても異なっていてもよく、Rはアルキレン基を表し、R10は、水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表す。下記(2)式で表される触媒用トリアジン系シランカップリング剤を用いることで、分子接合層3の緻密性が向上し、かつ、金属層4の形成のための触媒を担持しやすくなる。また、下記(2)式で表される触媒用トリアジン系シランカップリング剤を用いることで、下地層2との密着性も改善される。
【0041】
【化4】
【0042】
上記(2)式中のR、RおよびRのアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基等が挙げられる。R、RおよびRのアルコキシ基としては、好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。
【0043】
上記(2)式中のRのアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、およびへプチレン基などが挙げられる。上記(1)式中のRのアルキレン基は、プロピレン基が好ましい。
【0044】
上記(1)式中のR10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、およびブチル基などが挙げられる。
【0045】
上記(1)式中のR10のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、およびイソブトキシ基等が挙げられる。
【0046】
分子接合層3の厚さは、無電解めっきによって、金属層4を形成できる程度に触媒を担持できるのであれば、特に限定されない。分子接合層3の厚さは、例えば、分子接合層3を構成する触媒用トリアジン系シランカップリング剤の単分子の厚さ以上(単分子層以上)であればよい。分子接合層3の厚さが400nm超の場合、屈曲の際に割れが発生して、金属層4の金属元素および酸素に対する透過防止性能が低下する場合がある。そのため、分子接合層3の厚さは400nm以下が好ましい。より好ましい分子接合層3の厚さは200nm以下である。
【0047】
(金属層)
金属層4は、分子接合層3上に設けられる。ここで、「分子接合層3上に設けられる」には、分子接合層3の表面に接するように金属層4を設けることだけでなく、分子接合層3と金属層4との間に中間層を設けることも含まれる。金属層4の材質としては、ニッケル、金、銀、スズ、銅、銅合金などが挙げられる。金属層4を構成する金属としては、電力損失、伝送損失の観点から導電率の高い銅または銅合金が好ましい。
【0048】
金属層4の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1μm~50μmである。より好ましくは、金属層4の厚さは2μm~10μmである。金属層4の厚さが0.1μm~50μmであれば、十分な伝導性および機械的強度が得られる。
【0049】
(剥離強度)
積層体100をHAST試験(温度130℃、湿度85%RH、100時間)を行った後に引張速度50mm/min、引張角度90°で樹脂基材1と金属層4との剥離強度を測定した際の、樹脂基材1と金属層4との剥離強度は、0.32kN/m以上である。樹脂基材1と金属層4との剥離強度が0.32kN/m以上であれば、下地層2および分子接合層3が水蒸気の透過を防止する機能を有しているので、好ましい。また、積層体100を260℃で5分加熱を行った後に同様に剥離強度を測定した際の、樹脂基材1と金属層4との剥離強度が0.50kN/m以上であれば、下地層2および分子接合層3が金属層4の金属元素および酸素の透過を防止する機能を有しているので、好ましい。
【0050】
以上、本実施形態に係る積層体100を説明した。本実施形態に係る積層体100には、樹脂基材1と下地層2との間に中間層を備えていなかったが、樹脂基材1と下地層2との間に中間層を備えていてもよい。本実施形態に係る積層体100には、下地層2と分子接合層3との間に中間層を備えていなかったが、下地層21と分子接合層3との間に第2中間層を備えていてもよい。
【0051】
<積層体の製造方法>
次に、本実施形態に係る積層体の製造方法について説明する。図2に示すように、本実施形態に係る積層体の製造方法S100は、樹脂基材1と、樹脂基材1上に設けられる金属層4と、を備える積層体100の製造方法であって、含酸素官能基または含窒素官能基を樹脂基材1に導入する表面処理工程S10と、樹脂基材1の金属層4が形成される面に、直接または他の層を介して下地用トリアジン系シランカップリング剤にて、下地層を形成する下地層形成工程S11と、下地層2の表面に、触媒用トリアジン系シランカップリング剤にて分子接合層3を形成する分子接合層形成工程S12と、分子接合層3の表面に、触媒を担持させる触媒担持工程S13と、触媒を担持した分子接合層3の表面に、無電解めっきで金属層4を形成する無電解めっき工程S14と、無電解めっき工程S14で形成された金属層4に対し、電気めっきを行うことで金属層4を厚くする電気めっき工程S15と、を備える。なお、ここで、「樹脂基材1上に設けられる金属層4」は、本実施形態の製造方法では、樹脂基材1上に直接設けられた金属層を意味せず、樹脂基材1よりも上に設けられた金属層4を意味する。即ち、樹脂基材1と金属層4との間に下地層2と分子接合層3とを備えた積層体の製造方法を意味する。
【0052】
(表面処理工程)
表面処理工程S10において、樹脂基材1の表面(金属層4が形成される面)に含酸素官能基または含窒素官能基を導入する。これによって、下地用トリアジン系シランカップリング剤にて下地層を形成しやすくすることができる。表面処理工程S10は、含酸素官能基または含窒素官能基を樹脂基材1の表面に導入できれば、その方法は特に限定されない。例えば、含酸素官能基としては、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基などが挙げられる。例えば含窒素官能基としてはアミノ基などが挙げられる。水酸基またはアミノ基は、下地用トリアジン系シランカップリング剤と化学結合を形成し、樹脂基材1と金属層4との間に高い密着性が得られるので好ましい。表面処理工程S10が、含酸素官能基として水酸基を導入する水酸基修飾工程または含窒素官能基としてアミノ基を導入するアミノ基修飾工程を備えることが好ましい。ここでは、樹脂基材1の表面に水酸基を導入する水酸基修飾工程を例に挙げて説明する。
【0053】
水酸基修飾工程は、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理である。樹脂基材1に対し、コロナ処理、プラズマ処理を行うことで樹脂基材1の表面に水酸基を導入することができる。樹脂基材1の表面に修飾される水酸基の量は、処理時間や電圧などで調整することができる。また、プラズマ処理に用いるガスは特に限定されず、例えば、Oなどが挙げられる。酸素ガス導入プラズマは、Oガスを用いたプラズマである。なお、プラズマ処理においてNHを用いる場合はアミノ基が導入される(アンモニアガス導入プラズマ)。この場合は、アミノ基修飾工程となる。
【0054】
(下地層形成工程)
下地層形成工程S11では、表面処理工程S10で処理した後の樹脂基材1の金属層4が形成される面に、直接または他の層を介して下地用トリアジン系シランカップリング剤にて、下地層2を形成する。下地層2を形成させるシランカップリング剤は、上記(1)式で表される下地用トリアジン系シランカップリング剤である。
【0055】
上記(1)式の下地用トリアジン系シランカップリング剤の具体例としては、例えば、(3)式で表されるN,N’-ビス(2-アミノエチル)-6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン(以下、aTESと称する場合がある)、式(4)式で表される6-(3-トリエトキシシリルプロピルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアジド(以下、pTESと称する場合がある)などが挙げられる。
【0056】
【化5】
【0057】
【化6】
【0058】
含酸素官能基で修飾した後の樹脂基材1の表面に下地用トリアジン系シランカップリング剤にて層を形成させる方法は、特に限定されない。例えば、下地用トリアジン系シランカップリング剤を溶解した溶液(下地用トリアジン系シランカップリング剤溶液)を樹脂基材1に塗布してもよいし、下地用トリアジン系シランカップリング剤溶液に樹脂基材1を浸漬してもよい。下地層2の単分子層レベルで形成する場合は、樹脂基材1を下地用トリアジン系シランカップリング剤溶液に浸漬することによって、下地層2を形成することが好ましい。
【0059】
下地用トリアジン系シランカップリング剤溶液に浸漬する場合、下地用トリアジン系シランカップリング剤の濃度は特に限定されないが、例えば、0.001wt%~10wt%である。浸漬時間は例えば、1秒~60分、浸漬温度は例えば、室温から60℃の範囲である。
【0060】
下地用トリアジン系シランカップリング剤溶液に用いられる溶媒は、下地用トリアジン系シランカップリング剤が溶媒中に均一に溶解するのであれば特に限定されない。下地用トリアジン系シランカップリング剤溶液の溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、ヘキサノン、ヘキサン、アセトンなどが挙げられる。
【0061】
(分子接合層形成工程)
分子接合層形成工程S12では、下地層2の表面に、触媒用トリアジン系シランカップリング剤にて分子接合層3を形成する。分子接合層3を形成することで、樹脂基材1の触媒担持能が向上する。シランカップリング剤は、上記(2)式で表される触媒用トリアジン系シランカップリング剤である。
【0062】
上記(2)式の触媒用トリアジン系シランカップリング剤の具体例としては、下記(5)式で表される(6-(3-トリエトキシシリルプロピルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールモノナトリウム塩(以下、nTESと称する場合がある)などが挙げられる。
【0063】
触媒用トリアジン系シランカップリング剤にて分子接合層3を形成させる方法は、特に限定されない。例えば、触媒用トリアジン系シランカップリング剤を溶解した溶液(以下、触媒用トリアジン系シランカップリング剤溶液と称する場合がある)を下地層2を形成した樹脂基材1に塗布してもよいし、触媒用トリアジン系シランカップリング剤溶液に下地層2を形成した樹脂基材1を浸漬してもよい。分子接合層3を単分子層レベルで形成する場合は、下地層2を形成した樹脂基材1を触媒用トリアジン系シランカップリング剤溶液に浸漬することによって、分子接合層3を形成することが好ましい。
【0064】
【化7】
【0065】
触媒用トリアジン系シランカップリング剤溶液に浸漬する場合、触媒用トリアジン系シランカップリング剤の濃度は特に限定されないが、例えば、0.001wt%~2wt%である。浸漬時間は例えば、1秒~60分、浸漬温度は例えば、室温から60℃の範囲である。
【0066】
触媒用トリアジン系シランカップリング剤溶液に用いられる溶媒は、触媒用トリアジン系シランカップリング剤が溶媒中に均一に溶解するのであれば特に限定されない。触媒用トリアジン系シランカップリング剤溶液の溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール等が挙げられる。
【0067】
(触媒担持工程)
触媒担持工程13では、分子接合層3の表面に、触媒を担持させる。触媒の担持方法は、特に限定されない。触媒の担持方法としては、例えば、パラジウム塩、塩化スズなどからなる水溶液に分子接合層3を形成した樹脂基材1を浸漬する方法がある。分子接合層3を形成した樹脂基材1を浸漬することで、触媒用トリアジン系シランカップリング剤に含まれていたチオール基等に、触媒が担持される。
【0068】
通常、Pd-Sn系の触媒が活性化工程で使用されるが、この活性化浴は例えば、水にPdClとSnC1・7HOを溶解させて調整する。PdClとSnC1・7HOはそれぞれ0.001~1mol/Lの濃度範囲で調製され、0~70℃の温度範囲で1秒~60分の浸漬時間で用いられる。
【0069】
(無電解めっき工程)
無電解めっき工程S14では、触媒を担持した分子接合層3の表面に、無電解めっきで金属層4を形成する。具体的には、触媒が担持された樹脂基材1を無電解めっき浴に浸漬することで、金属層4を分子接合層3上に形成する。ここで、無電解めっき浴は、金属塩と還元剤が主成分であり、これにpH調整剤、緩衝剤、錯化剤、促進剤、安定剤および改良剤などの補助成分が添加されている。担持された触媒とトリアジン系シランカップリング剤は、イオン結合で結合しているので、接着強度が向上する。
【0070】
金属塩は、銅の場合は、例えば、CuSO・5HOである。金属塩濃度は、0.001mol/L~1mol/Lである。Niの場合は、金属塩は例えば、NiSO・6HO(硫酸ニッケル)、NiCl(塩化ニッケル)である。Agの場合は、金属塩は、例えば、AgCN(シアン化銀)である。Snの場合は、金属塩は例えば、SnSO(硫酸第一スズ)である。金の場合は、金属塩は例えば、K[Au(CN)](シアン化第一金カリウムである。
【0071】
還元剤とは上記の金属塩を還元して金属を生成する作用を持つものであり、KBH、NaBH、NaHPO、(CHNH・BH、CHO,NHNH、ヒドロキシルアミン塩、N,N-エチルグリシンなどである。還元剤の濃度としては、0.001~1mol/Lである。
【0072】
無電解めっき浴の還元効率を高めることを目的として、例えば、塩基性化合物、無機塩、有機酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、水酸化アンモニア、EDTA、ジアミノエチレン、酒石酸ナトリウム、エチレングリコール、チオ尿素、トリアジンチオール、トリエタノールアミンなどを無電解めっき浴に添加してもよい。
【0073】
無電解めっき浴の温度は、例えば、0℃~98℃の温度範囲および、浸漬時間は、例えば、1分から300分の浸漬時間である。
【0074】
(電気めっき工程)
電気めっき工程S15は、無電解めっき工程S14で形成された金属層4に対し、電気めっきを行うことで金属層4を厚くする。電気めっきは、公知の方法で行うことができる。
【0075】
以上、本実施形態に係る積層体の製造方法S100について説明した。本実施形態に係る積層体の製造方法S100では、表面処理工程S10を備えていたが、樹脂基材1の表面(金属層4が形成される面)が下地用トリアジン系シランカップリング剤にて下地層2を形成しやすい場合は表面処理工程S10は無くてもよい。また、下地用トリアジン系シランカップリング剤として、6-(3-トリエトキシシリルプロピルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアジドなどの光反応性官能基を有する下地用トリアジン系シランカップリング剤を用いる場合は、更に下地層形成工程後に、光照射工程があってもよい。アジド基を備える下地用トリアジン系シランカップリング剤に光(例えば、紫外光)を照射し、アジド基からナイトレンを生成し、生成したナイトレンと樹脂基材1の表面とが反応することで、高い密着性を得ることができる。また、本実施形態の積層体の製造方法において、触媒担持工程、無電解めっき工程、および電気めっき工程の代わりに、金属層を真空蒸着などで形成する金属蒸着工程を行ってもよい。
【実施例
【0076】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0077】
(溶液)
実施例および比較例の作成に用いる各溶液を以下の方法で作製した。
【0078】
「3wt%APTES溶液」
蒸留水97mLに10分間の超音波攪拌を行いながら、東京化成工業製3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を3g加え、3wt%APTES溶液を作製した。
【0079】
「0.5wt% aTES溶液」
蒸留水99.5mLに10分間の超音波攪拌を行いながら、いおう化学研究所製N,N’-ビス(2-アミノエチル)-6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン(aTES)を0.5g加え、0.5wt%aTES溶液を作製した。
【0080】
「0.1wt% nTES溶液」
蒸留水99.9mLに10分間の超音波攪拌を行いながら、いおう化学研究所製6-(3-トリエトキシシリルプロピルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールモノナトリウム塩(nTES)を0.1g加え、0.1wt%nTES溶液を作製した。
【0081】
「プレディップ溶液」
蒸留水50mLに10分間の超音波攪拌を行いながら、ローム・アンド・ハース電子材料製キャタプレップ404を12.5g加え、プレディップ溶液を作製した。
【0082】
「キャタリスト溶液」
蒸留水50mLに10分間の超音波攪拌を行いながら、ローム・アンド・ハース電子材料製キャタプレップ404を12.5g加えた。キャタプレップ404が完全に溶解した後、ローム・アンド・ハース電子材料製キャタポジット44を1.5ml加え、キャタリスト溶液を作製した。
【0083】
「アクセラレータ溶液」
蒸留水47.5mLに10分間の超音波攪拌を行いながら、ローム・アンド・ハース電子材料製アクセラレータ―19Eを2.5g加え、アクセラレータ溶液を作製した。
【0084】
「無電解めっき溶液」
蒸留水42.6mLに10分間の超音波攪拌を行いながら、奥野製薬工業製アドカッパーIW-A 2.5mL、奥野製薬工業製アドカッパーC 0.75mL、奥野製薬工業製アドカッパー 4mL、および奥野製薬工業製無電解銅R-Nを0.15mL加え、無電解めっき溶液を作製した。
【0085】
(樹脂基材)
ポリイミド基材は、金陽社研究所製ポリイミド基材、50mm×30mm×厚さ130μmを用いた。LCPフィルムは、クラレ社製LCPフィルム(30mm×60mm×厚さ50μm)を用いた。
【0086】
(プラズマ処理)
樹脂基材をエタノールに浸漬し、10分間超音波を照射し、樹脂基材を洗浄し、乾燥した。乾燥後の樹脂基材の表面にプラズマ処理装置(魁半導体製プラズマエッチャー、印加電力:100W)を用いて、プラズマ処理を行った。表1の前処理の欄に記載の時間は、プラズマ処理の処理時間を意味する。また、前処理の欄に記載のOは、プラズマ処理に使ったガスを意味する。
【0087】
(浸漬条件)
表1に記載の条件で樹脂基材に対し、前処理を行った後、樹脂基材を表1に記載の濃度のaTES溶液またはAPTES溶液に1分浸漬させ、乾燥することで下地層を形成した。なお、前処理の欄になしとある場合は、前処理をしないで樹脂基材をaTES溶液またはAPTES溶液に浸漬した。その後、下地層を形成した樹脂基材を水で洗浄し乾燥した。表1のnTESの欄に濃度の記載がある場合は、下地層を形成した樹脂基材を0.1wt%nTES溶液に5分間浸漬させた後、蒸留水で洗浄した。なお、aTESの欄およびnTESの欄の※は、aTESおよびnTESの混合液であることを示す。実験No.5では、0.5wt%のaTES溶液と0.1wt%のnTES溶液を混合し、5分間混合液に樹脂基材を浸漬した。実験No.5の混合液は、コロイド状になり懸濁した。
【0088】
(金属層形成条件)
洗浄後、実験No.1~5の樹脂基材をプレディップ溶液に1分間浸漬し、浸漬後洗浄せずに、50℃のキャタリスト溶液に1分間浸漬し、その後蒸留水で洗浄した。その後、樹脂基材を乾燥せずに、アクセラレータ溶液に3分間浸漬し、蒸留水で洗浄した。洗浄後、濡れたままの状態で樹脂基材を32℃の無電解銅めっき液に5分間浸漬し、蒸留水およびエタノールで洗浄し乾燥を行った。乾燥後、銅層を形成した樹脂基材(積層体)を80℃で10分間アニーリングを行った。アニーリング後室温まで冷却した。冷却後、硫酸銅系電気銅めっき液にアニーリング後の積層体を浸漬し、電圧15V、電流密度0.02A/cmで90分間銅めっきを行い、蒸留水で洗浄乾燥し、80℃で10分間アニーリングを行い、実験No.1~5の積層体を得た。なお、実験No.2および4においては、下地処理工程、分子接合層形成処理工程を行った。
【0089】
(めっき初期剥離強度測定)
実験No.1~5の積層体の銅層部分に1cm幅の切れ込みを入れて密着試験機(イマダ製IMADA FORCE MEASUREMENT model mX2)を用いて、引張速度50mm/min、引張角度90°の条件で銅層と樹脂基材との剥離強度(めっき初期剥離強度)を測定した。初期剥離強度が0.40kN/m以上であれば実用上問題ないため、初期剥離強度0.40kN/m以上を合格とした。得られた結果を表1に示す。
【0090】
(HAST後剥離強度測定)
実験No.1~5の積層体を130℃、湿度85%の恒温恒湿槽に入れ、100時間保持することで高速加速寿命処理試験(HAST)を行った。高速加速寿命試験後の、積層体の銅層部分に1cm幅の切れ込みを入れて密着試験機(イマダ製IMADA FORCE MEASUREMENT model mX2)を用いて、引張速度50mm/min、引張角度90°の条件で銅層と樹脂基材との剥離強度(HAST後剥離強度)を測定した。得られた結果を表1に示す。HAST試験後の剥離強度が0.32kN/m以上出れば実用上問題ないため、HAST試験後の剥離強度0.32kN/m以上を合格とした。得られた結果を表1に示す。なお、実験No.5については、aTESとnTESの混合液がコロイド状になり懸濁し、粗大な沈殿物ができたと判断されたため、HAST評価試験は行わなかった。
【0091】
(耐熱後剥離強度測定)
実験No.1~5の積層体に対し、260℃5分で加熱処理を行った。加熱処理後の積層体の銅層部分に1cm幅の切れ込みを入れて密着試験機(イマダ製IMADA FORCE MEASUREMENT model mX2)を用いて、引張速度50mm/min、引張角度90°の条件で銅層と樹脂基材との剥離強度(耐熱後剥離強度)を測定した。剥離強度が0.40kN/m以上を合格とした。得られた結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
実験No2およびNo.4の積層体は、下地層および分子接合層が形成されていたので、初期剥離強度が0.40kN/m以上で、HAST試験後の剥離強度が0.32kN/m以上、かつ、260℃5分で加熱処理を行った後の剥離強度が0.40kN/m以上であった。そのため、実験No2およびNo.4の積層体は、耐熱性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、樹脂と接触する側の金属層の表面が平滑であり、高温高湿環境下における金属層と樹脂との密着性に優れ、かつ、低コストであるので、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0095】
1 樹脂基材
2 下地層
3 分子接合層
4 金属層
100 積層体
【要約】
この積層体の製造方法は、樹脂基材と、前記樹脂基材上に設けられる金属層と、を備える積層体の製造方法であって、前記樹脂基材の前記金属層が形成される面に、直接または他の層を介して下記(1)式で表される下地用トリアジン系シランカップリング剤にて、下地層を形成する下地層形成工程と、前記下地層の表面に下記(2)式で表される触媒用トリアジン系シランカップリング剤にて分子接合層を形成する分子接合層形成工程と、を備える。
図1
図2