(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】粒子のファブリックの解析方法、解析装置、及び解析プログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/62 20170101AFI20230824BHJP
G01N 23/046 20180101ALI20230824BHJP
G06T 7/60 20170101ALI20230824BHJP
【FI】
G06T7/62
G01N23/046
G06T7/60 150S
(21)【出願番号】P 2019211917
(22)【出願日】2019-11-25
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】野原 慎太郎
【審査官】淀川 滉也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-115188(JP,A)
【文献】特開2013-225502(JP,A)
【文献】M BLOOM et al.,Imaging Systems and Algorithms for the Numerical Characterization of Three-Dimensional Shapes of Granular Particles,IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement,Vol. 59,No. 9,2010年09月,p.2365-2375,DOI: 10.1109/TIM.2009.2034579
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/62
G01N 23/046
G06T 7/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子の集合体を非破壊で撮影することにより複数の断面画像を取得し、取得した複数の断面画像に基づいて粒子を楕円体に近似させた近似楕円体モデルを算出し、算出した近似楕円体モデルに基づいて粒子の大きさ、形状、配向であるファブリックを解析することを特徴とする粒子のファブリックの解析方法。
【請求項2】
算出した近似楕円体モデルの精度を検証し、所定の精度を満たさない近似楕円体モデルの粒子についてはファブリックの解析対象から除外することを特徴とする請求項1に記載の粒子のファブリックの解析方法。
【請求項3】
前記近似楕円体モデルの精度は、撮影により取得した断面画像での断面積と、前記断面画像に相当する前記近似楕円体モデルの断面積との誤差に基づいて検証することを特徴とする請求項1又は2に記載の粒子のファブリックの解析方法。
【請求項4】
前記近似楕円体モデルの精度は、
Ei=|1.0-S
SV/S
ep|
i
但し、S
SV:撮影により取得した断面画像での断面積
S
ep:断面画像に相当する近似楕円体モデルの断面積
Ei:断面積S
SVと断面積S
epとの誤差に関する値
i:断面数
とした場合に、
Eiの中央値Emed及び標準偏差Estdの少なくとも一方が0.1以上である近似楕円体モデルの粒子についてはファブリックの解析対象から除外することを特徴とする請求項3に記載の粒子のファブリックの解析方法。
【請求項5】
前記近似楕円体モデルは、楕円体の方程式で表され、
前記複数の断面画像は、少なくとも7枚であることを特徴とする請求項1から4のうちのいずれか一つに記載の粒子のファブリックの解析方法。
【請求項6】
前記近似楕円体モデルは、非線形最小二乗法を利用して算出することを特徴とする請求項1から5のうちのいずれか一つに記載の粒子のファブリックの解析方法。
【請求項7】
前記近似楕円体モデルは、中心位置が前記複数の断面画像の重心位置に基づいて設定されることを特徴とする請求項1から6のうちのいずれか一つに記載の粒子のファブリックの解析方法。
【請求項8】
前記複数の断面画像は、CT画像であることを特徴とする請求項1から6のうちのいずれか一つに記載の粒子のファブリックの解析方法。
【請求項9】
粒子の集合体を非破壊で撮影することにより複数の断面画像を取得する手段と、取得した複数の断面画像に基づいて粒子を楕円体に近似させた近似楕円体モデルを算出する手段と、算出した近似楕円体モデルに基づいて粒子の大きさ、形状、配向であるファブリックを解析する手段とを有することを特徴とする粒子のファブリックの解析装置。
【請求項10】
算出した近似楕円体モデルの精度を検証し、所定の精度を満たさない近似楕円体モデルの粒子についてはファブリックの解析対象から除外する手段を有することを特徴とする請求項9に記載の粒子のファブリックの解析装置。
【請求項11】
前記近似楕円体モデルの精度は、撮影により取得した断面画像での断面積と、前記断面画像に相当する前記近似楕円体モデルの断面積との誤差に基づいて検証することを特徴とする請求項9又は10に記載の粒子のファブリックの解析装置。
【請求項12】
前記近似楕円体モデルの精度は、
Ei=|1.0-S
SV/S
ep|
i
但し、S
SV:撮影により取得した断面画像での断面積
S
ep:断面画像に相当する近似楕円体モデルの断面積
Ei:断面積S
SVと断面積S
epとの誤差に関する値
i:断面数
とした場合に、
Eiの中央値Emed及び標準偏差Estdの少なくとも一方が0.1以上である近似楕円体モデルの粒子についてはファブリックの解析対象から除外することを特徴とする請求項11に記載の粒子のファブリックの解析装置。
【請求項13】
前記近似楕円体モデルは、楕円体の方程式で表され、
前記複数の断面画像は、少なくとも7枚であることを特徴とする請求項9から12のうちのいずれか一つに記載の粒子のファブリックの解析装置。
【請求項14】
前記近似楕円体モデルは、非線形最小二乗法を利用して算出することを特徴とする請求項9から13のうちのいずれか一つに記載の粒子のファブリックの解析装置。
【請求項15】
前記近似楕円体モデルは、中心位置が前記複数の断面画像の重心位置に基づいて設定されることを特徴とする請求項9から14のうちのいずれか一つに記載の粒子のファブリックの解析装置。
【請求項16】
前記複数の断面画像は、CT画像であることを特徴とする請求項9から15のうちのいずれか一つに記載の粒子のファブリックの解析装置。
【請求項17】
粒子の集合体を非破壊で撮影することにより複数の断面画像を取得する処理と、取得した複数の断面画像に基づいて粒子を楕円体に近似させた近似楕円体モデルを算出する処理と、算出した近似楕円体モデルに基づいて粒子の大きさ、形状、配向であるファブリックを解析する処理とをコンピュータに行わせることを特徴とする粒子のファブリックの解析プログラム。
【請求項18】
算出した近似楕円体モデルの精度を検証し、所定の精度を満たさない近似楕円体モデルの粒子についてはファブリックの解析対象から除外する処理をコンピュータに行わせることを特徴とする請求項17に記載の粒子のファブリックの解析プログラム。
【請求項19】
前記近似楕円体モデルの精度は、撮影により取得した断面画像での断面積と、前記断面画像に相当する前記近似楕円体モデルの断面積との誤差に基づいて検証することを特徴とする請求項17又は18に記載の粒子のファブリックの解析プログラム。
【請求項20】
前記近似楕円体モデルの精度は、
Ei=|1.0-S
SV/S
ep|
i
但し、S
SV:撮影により取得した断面画像での断面積
S
ep:断面画像に相当する近似楕円体モデルの断面積
Ei:断面積S
SVと断面積S
epとの誤差に関する値
i:断面数
とした場合に、
Eiの中央値Emed及び標準偏差Estdの少なくとも一方が0.1以上である近似楕円体モデルの粒子についてはファブリックの解析対象から除外することを特徴とする請求項19に記載の粒子のファブリックの解析プログラム。
【請求項21】
前記近似楕円体モデルは、楕円体の方程式で表され、
前記複数の断面画像は、少なくとも7枚であることを特徴とする請求項17から20のうちのいずれか一つに記載の粒子のファブリックの解析プログラム。
【請求項22】
前記近似楕円体モデルは、非線形最小二乗法を利用して算出することを特徴とする請求項17から21のうちのいずれか一つに記載の粒子のファブリックの解析プログラム。
【請求項23】
前記近似楕円体モデルは、中心位置が前記複数の断面画像の重心位置に基づいて設定されることを特徴とする請求項17から22のうちのいずれか一つに記載の粒子のファブリックの解析プログラム。
【請求項24】
前記複数の断面画像は、CT画像であることを特徴とする請求項17から23のうちのいずれか一つに記載の粒子のファブリックの解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂や岩石などの集合体を構成する粒子や,砂や岩石の空隙もしくは鋳物等の金属材料に混入した気泡のファブリックの解析方法、解析装置、及び解析プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、例えば集合体を非破壊で撮影した断面の画像に基づいて、抽出した粒子のファブリックを解析する技術に関する。
【0002】
本発明において、粒子のファブリックとは、砂や岩石などの集合体を構成する粒子や,砂や岩石の空隙もしくは鋳物等の金属材料に混入した気泡の大きさ、形状、配向を意味するものとする。
【背景技術】
【0003】
X線CTは、X線源からX線を照射し、サンプル透過後のX線を検出器により測定する。この時、測定されるのは線吸収係数の2次元投影画像であるが、この2次元投影画像を様々な角度で取得し、コンピュータにおいて再構成計算を行うことにより3次元画像が得られ、物体内部の構造を理解することができる。X線CTの最大の特徴は、サンプルを物理的に壊すことなく内部構造を可視化できる点にある。人体以外を撮影対象とする場合は、高出力のX線を照射できる産業用X線CTや、焦点寸法が数μmオーダーの高解像度のマイクロフォーカスX線CTを活用し、工業製品の品質検査、文化財の内部解析等、その適用先は多岐に渡っている。
【0004】
地質学、地盤工学、岩盤工学、資源工学などの地盤や岩石を研究対象とする分野においてもX線CTは活用されており、地質構造解析に関する研究、地盤や岩石の力学特性や水理特性解析に関する研究、石油生産技術の開発、CCS事業におけるCO2の長期安定性に関する研究等に活用が図られている。地質試料の観察や分析の多くは、試料を物理的に加工することが必要であるのに対し、X線CTは非破壊で物体内部の3次元構造を可視化できる。つまり、ボーリング調査で得たサンプルのように、替えが効かない試料であっても、サンプルを壊すことなく、様々な角度の断面をコンピュータのディスプレイ上に表示できる。従って、従来行われている地質試料の観察や分析と組み合わせることにより、地質構造の解析を更に効率化、高精度化できる可能性があることから、CT画像の解析手法について更なる発展が期待される。
【0005】
ここで、地質試料内に含まれる粒子に着目し、CT画像内の粒子について、その大きさ、形状、配向に関するファブリックを3次元的に解析する手法について検討する。地質試料内の粒子に着目した研究として、地盤や岩盤の力学特性と粒子形状に着目した研究、地質構造と粒子の配向に着目した研究等が行われている。土質力学においては、土粒子の形状が地盤の力学特性に及ぼす影響が大きいことが知られており、土粒子形状と力学特性の関係について主に実験的な研究が行われている。堆積学においては、堆積運搬時の環境を推定するうえで堆積物粒子の配向は貴重な情報であり、堆積物粒子の配向解析が行われている。また、堆積岩の異方性を解析する上でも、粒子の配向は重要な意味を成す。また、断層や地すべりの解析を行う上でも、粒子の形状や配向は重要であると考えられる。断層岩における断層面付近や地すべりのすべり面付近には、運動時に破砕された岩片粒子が多く存在することが知られており、その粒子について形状や配向を解析することによって多くの情報を引き出すことができれば、断層や地すべりの解析を行う上でも役立つ可能性がある。
【0006】
このように、地質試料内に含まれる粒子をキーマーカとして抽出し、そのファブリックを解析することは非常に重要である。粒子のファブリックを直接的に解析するには、地質サンプルを解析したい断面で物理的に切断し、写真や顕微鏡を使って得た断面の画像を得た後、粒子の輪郭をなぞって抽出する方法が最も単純である。しかし、数多くの粒子を抽出するには多大な時間や労力が必要である。画像解析ソフトウェアを使うことで効率化も図れるが、3次元での解析を行うことは困難である。従って、3次元の内部構造を可視化できるCT画像やMRI画像を解析する方法が最も効率的である。
【0007】
3次元で粒子のファブリックを解析する試みとしては、CT画像を対象とし、画像の解析手法に関する研究がいくつか行われている。例えば、Star analysesと呼ばれる手法を使って、粒子のファブリックを解析する手法が提案されている(非特許文献1)。Star analysesとは、ノギスを使って粒子を測定するように、解析対象とする粒子内の任意の点から各方向に線を引き、粒子境界までの線分の長さを直接測定し、粒子の短軸や長軸の向きを算定する方法である。また、他の方法として、SPring-8のX線CTを使って土粒子をCT撮影し、個々の土粒子を抽出してメッシュモデルに変換した後、所定の解析方法に基づき作成された解析プログラムを用いて、土粒子の形状解析を行なう方法が開発されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】Ketcham, R.A. Three-dimensional grain fabric measurements using high-resolution X-ray computed tomography (2005) Journal of Structural Geology,
【文献】片桐 淳など、SPring-8のX線マイクロCTを用いた3次元土粒子形状の定量的評価、土木学会論文集C(地圏工学)2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した非特許文献1に記載の方法では、個々の粒子についてファブリックを解析することができるが、ノギスを使って粒子の長さを直接測定するような方法であることから、粒子表面の凹凸の影響を受けやすく、精度が不十分であった。また、球や楕円体から大きく外れた粒子の解析は、精度を確保するために慎重に行わなければならず、処理が煩雑で長時間を要した。また、上述した非特許文献2に記載の方法では、CT画像をSTL形式のファイルに変換する必要があることから、変換に使用するアルゴリズム等の検討が別途必要であり、処理が煩雑で長時間を要した。
【0010】
上述した非特許文献2では,本来二つもしくはそれ以上の粒子であるにも関わらず一つの粒子として誤認識された粒子や,あるいは本来一つの粒子であるにも関わらず二つ以上の粒子として誤認識された粒子が混在しており,それらの粒子を目視で一つ一つ確認することにより,評価精度の向上を図っているが,その過程で多くの時間を要していた。
【0011】
そこで、本発明は、岩石や金属などの集合体を構成する粒子のファブリックを、非破壊で撮影した断面画像を利用して簡易、かつ、高精度に解析することができるファブリックの解析方法、解析装置、及び解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するため、本発明の粒子のファブリックの解析方法は、粒子の集合体を非破壊で撮影することにより複数の断面画像を取得し、取得した複数の断面画像に基づいて粒子を楕円体に近似させた近似楕円体モデルを算出し、算出した近似楕円体モデルに基づいて粒子の大きさ、形状、配向であるファブリックを解析するようにしている。
【0013】
また、本発明の粒子のファブリックの解析装置は、粒子の集合体を非破壊で撮影することにより複数の断面画像を取得する手段と、取得した複数の断面画像に基づいて粒子を楕円体に近似させた近似楕円体モデルを算出する手段と、算出した近似楕円体モデルに基づいて粒子の大きさ、形状、配向であるファブリックを解析する手段とを有するようにしている。
【0014】
また、本発明の粒子のファブリックの解析プログラムは、粒子の集合体を非破壊で撮影することにより複数の断面画像を取得する処理と、取得した複数の断面画像に基づいて粒子を楕円体に近似させた近似楕円体モデルを算出する処理と、算出した近似楕円体モデルに基づいて粒子の大きさ、形状、配向であるファブリックを解析する処理とをコンピュータに行わせるようにしている。
【0015】
したがって、これらの粒子のファブリックの解析方法,粒子のファブリックの解析装置,粒子のファブリックの解析プログラムによると、砂や岩石などの集合体を構成する粒子や,砂や岩石の空隙もしくは鋳物等の金属材料に混入した気泡のファブリックを、非破壊で撮影した断面画像を利用して簡易、かつ、高精度に解析することができる。
【0016】
本発明の粒子のファブリックの解析方法は、算出した近似楕円体モデルの精度を検証し、所定の精度を満たさない近似楕円体モデルの粒子についてはファブリックの解析対象から除外するようにしても良い。
【0017】
また、本発明の粒子のファブリックの解析装置は、算出した近似楕円体モデルの精度を検証し、所定の精度を満たさない近似楕円体モデルの粒子についてはファブリックの解析対象から除外する手段を有するようにしても良い。
【0018】
また、本発明の粒子のファブリックの解析プログラムは、算出した近似楕円体モデルの精度を検証し、所定の精度を満たさない近似楕円体モデルの粒子についてはファブリックの解析対象から除外する処理をコンピュータに行わせるようにしても良い。
【0019】
これらの粒子のファブリックの解析方法,粒子のファブリックの解析装置,粒子のファブリックの解析プログラムの場合には、所定の精度を満たさない近似楕円体モデルの粒子についてはファブリックの解析対象から除外するので、解析をより高精度に実現することができる。
【0020】
本発明の粒子のファブリックの解析方法は、前記近似楕円体モデルの精度は、撮影により取得した断面画像での断面積と、前記断面画像に相当する前記近似楕円体モデルの断面積との誤差に基づいて検証するようにしても良い。
【0021】
また、本発明の粒子のファブリックの解析装置は、前記近似楕円体モデルの精度は、撮影により取得した断面画像での断面積と、前記断面画像に相当する前記近似楕円体モデルの断面積との誤差に基づいて検証するようにしても良い。
【0022】
また、本発明の粒子のファブリックの解析プログラムは、前記近似楕円体モデルの精度は、撮影により取得した断面画像での断面積と、前記断面画像に相当する前記近似楕円体モデルの断面積との誤差に基づいて検証するようにしても良い。
【0023】
これらの粒子のファブリックの解析方法,粒子のファブリックの解析装置,粒子のファブリックの解析プログラムの場合には、断面画像と近似楕円体モデルとの比較により検証するので、解析をより高精度に実現することができる。
【0024】
本発明の粒子のファブリックの解析方法は、前記近似楕円体モデルの精度は、
Ei=|1.0-SSV/Sep|i
但し、SSV:撮影により取得した断面画像での断面積
Sep:断面画像に相当する近似楕円体モデルの断面積
Ei:断面積SSVと断面積Sepとの誤差に関する値
i:断面数
とした場合に、中央値Emed及びEiの中央値Emedの少なくとも一方が0.1以上である近似楕円体モデルの粒子についてはファブリックの解析対象から除外するようにしても良い。
【0025】
また、本発明の粒子のファブリックの解析装置は、前記近似楕円体モデルの精度は、
Ei=|1.0-SSV/Sep|i
但し、SSV:撮影により取得した断面画像での断面積
Sep:断面画像に相当する近似楕円体モデルの断面積
Ei:断面積SSVと断面積Sepとの誤差に関する値
i:断面数
とした場合に、
中央値Emed及びEiの中央値Emedの少なくとも一方が0.1以上である近似楕円体モデルの粒子についてはファブリックの解析対象から除外するようにしても良い。
【0026】
また、本発明の粒子のファブリックの解析プログラムは、前記近似楕円体モデルの精度は、
Ei=|1.0-SSV/Sep|i
但し、SSV:撮影により取得した断面画像での断面積
Sep:断面画像に相当する近似楕円体モデルの断面積
Ei:断面積SSVと断面積Sepとの誤差に関する値
i:断面数
とした場合に、中央値Emed及びEiの中央値Emedの少なくとも一方が0.1以上である近似楕円体モデルの粒子についてはファブリックの解析対象から除外するようにしても良い。
【0027】
これらの粒子のファブリックの解析方法,粒子のファブリックの解析装置,粒子のファブリックの解析プログラムの場合には、誤差に関する値の標準偏差を利用しているので、解析をより高精度に実現することができる。
【0028】
本発明の粒子のファブリックの解析方法は、前記近似楕円体モデルは、楕円体の方程式で表され、前記複数の断面画像は、少なくとも7枚であるようにしても良い。
【0029】
また、本発明の粒子のファブリックの解析装置は、前記近似楕円体モデルは、楕円体の方程式で表され、前記複数の断面画像は、少なくとも7枚であるようにしても良い。
【0030】
また、本発明の粒子のファブリックの解析プログラムは、前記近似楕円体モデルは、楕円体の方程式で表され、前記複数の断面画像は、少なくとも7枚であるようにしても良い。
【0031】
これらの粒子のファブリックの解析方法,粒子のファブリックの解析装置,粒子のファブリックの解析プログラムの場合には、楕円体の方程式では未知数が7つであることから、7枚の断面画像によって全ての係数を算出することができる。
【0032】
本発明の粒子のファブリックの解析方法は、前記近似楕円体モデルは、非線形最小二乗法を利用して算出するようにしても良い。
【0033】
また、本発明の粒子のファブリックの解析装置は、前記近似楕円体モデルは、非線形最小二乗法を利用して算出するようにしても良い。
【0034】
また、本発明の粒子のファブリックの解析プログラムは、前記近似楕円体モデルは、非線形最小二乗法を利用して算出するようにしても良い。
【0035】
これらの粒子のファブリックの解析方法,粒子のファブリックの解析装置,粒子のファブリックの解析プログラムの場合には、非線形最小二乗法を利用しているので、より高精度に解析を行うことができる。
【0036】
本発明の粒子のファブリックの解析方法は、前記近似楕円体モデルは、中心位置が前記複数の断面画像の重心位置に基づいて設定されるようにしても良い。
【0037】
また、本発明の粒子のファブリックの解析装置は、前記近似楕円体モデルは、中心位置が前記複数の断面画像の重心位置に基づいて設定されるようにしても良い。
【0038】
また、本発明の粒子のファブリックの解析プログラムは、前記近似楕円体モデルは、中心位置が前記複数の断面画像の重心位置に基づいて設定されるようにしても良い。
【0039】
これらの粒子のファブリックの解析方法,粒子のファブリックの解析装置,粒子のファブリックの解析プログラムの場合には、近似楕円体モデルの重心位置を高精度に設定することができる。
【0040】
本発明の粒子のファブリックの解析方法は、前記複数の断面画像は、CT画像であるようにしても良い。
【0041】
また、本発明の粒子のファブリックの解析装置は、前記複数の断面画像は、CT画像であるようにしても良い。
【0042】
また、本発明の粒子のファブリックの解析プログラムは、前記複数の断面画像は、CT画像であるようにしても良い。
【0043】
これらの粒子のファブリックの解析方法,粒子のファブリックの解析装置,粒子のファブリックの解析プログラムの場合には、CT画像を用いて、解析により適した断面画像を得ることができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明の粒子のファブリックの解析方法,粒子のファブリックの解析装置,粒子のファブリックの解析プログラムによれば、岩石や金属などの集合体を構成する粒子のファブリックを、非破壊で撮影した断面画像を利用して簡易、かつ、高精度に解析することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】本発明の粒子のファブリックの解析方法の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
【
図2】実施形態の粒子のファブリックの解析方法を粒子のファブリックの解析プログラムを用いて実施する場合の当該プログラムによって実現される粒子のファブリックの解析装置の機能ブロック図である。
【
図3】ブロックサンプルの撮影の態様の例を示す模式図である。
【
図5】実施形態の粒子の識別方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図6】ブロックサンプルの断面の一例を撮影したCT画像である。
【
図7】(a)はブロックサンプルの断面のサブボリューム画像であり、(b)はそれを二値化処理した画像である。
【
図8】複数の断面を抽出する状態を示す模式図である。
【
図9】実施形態の評価解析手順の前半を説明するフローチャートである。
【
図10】実施形態の評価解析手順の後半を説明するフローチャートである。
【
図11】実施例の第1グループ~第4グループの数値的に作成した粒子を示すCT画像である。
【
図12】実施例の第5グループ及び第6グループの数値的に作成した粒子を示すCT画像である。
【
図13】実施例の第7グループの数値的に作成した粒子を示すCT画像である。
【
図14】実施例1の粒子の切断面ごとのEiの分布を示すグラフである。
【
図15】実施例2の粒子の切断面ごとのEiの分布を示すグラフである。
【
図16】比較例1の粒子の切断面ごとのEiの分布を示すグラフである。
【
図17】比較例2の粒子の切断面ごとのEiの分布を示すグラフである。
【
図18】近似楕円体の長軸と単位球の交点を計算し、長軸の走向角と傾斜角をシュミットネット下半球に投影した図であり、(a)は実施例4及び実施例5、(b)は実施例6及び実施例7、(c)は比較例3及び比較例4である。
【
図19】実施例8の粒子と近似楕円体モデルを3次元表示した図である。
【
図20】実施例8の粒子の切断面ごとのEiの分布を示すグラフである。
【
図21】比較例5の粒子と近似楕円体モデルを3次元表示した図である。
【
図22】比較例5の粒子の切断面ごとのEiの分布を示すグラフである。
【
図23】比較例5の粒子と近似楕円体モデルの中央部の切断面を示す図である。
【
図24】砂粒子の粒径加積曲線を示すグラフである。
【
図25】砂粒子を容れた容器を撮影したCT画像であり、(a)は水平断面、(b)は鉛直断面、(c)は水平断面の粒子識別結果、(d)は鉛直断面の粒子識別結果である。
【
図27】評価解析が収束した粒子のEmedに関するヒストグラムである。
【
図28】粒子のCT画像と近似楕円体モデルの画像であり、(a)はP5688、(b)はP2863、(c)はP7811、(d)は2321、(e)は5430である。
【
図29】粒子のCT画像と近似楕円体モデルの画像であり、(a)はP9028、(b)はP5915、(c)はP7304、(d)は5976である。
【
図30】砂粒子の形状評価結果であり、(a)は楕円体の軸半径、(b)はアスペクト比、細長比、扁平度を示すグラフである。
【
図31】砂粒子の形状評価結果であり、(a)はKrumbeinの球形度、(b)は傾斜角を示すグラフである。
【
図32】砂粒子の形状評価結果であり、Zingg Diagramのヒストグラムコンター図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0047】
図1~
図10に、本発明に係る粒子のファブリックの解析方法、解析装置、及び解析プログラムの実施形態の一例を示す。
【0048】
本実施形態では、集合体の一例として、アクリル容器に充填した砂のCT撮影を行い、砂粒子のファブリックを解析した場合を例に挙げて説明する。ここでは、粒径が300~600μmを主体とする砂を、内径10mmの円筒形状のアクリル容器に自然落下法により充填した。
【0049】
本実施形態の粒子のファブリックの解析方法は、
図1に示すように、粒子の集合体から非破壊で複数の断面画像を取得し(S1)、取得した複数の断面画像に基づいて粒子を楕円体に近似させた近似楕円体モデルを算出し(S2)、算出した近似楕円体モデルに基づいて粒子のファブリックを解析する(S4)ようにしている。また、算出した近似楕円体モデルの精度を検証し、所定の精度を満たさない近似楕円体モデルについては粒子のファブリックの解析対象から除外する(S3)ようにしている。
【0050】
上記の粒子のファブリックの解析方法は、本実施形態に係る粒子のファブリックの解析装置によって実施され得る。本実施形態の粒子のファブリックの解析装置は、例えば
図2に示すよう、粒子の集合体から非破壊で複数の断面画像を取得する手段(11a)と、取得した複数の断面画像に基づいて粒子を楕円体に近似させた近似楕円体モデルを算出する手段(11b)と、算出した近似楕円体モデルに基づいて粒子のファブリックを解析する手段(11d)とを有するようにしている。また、算出した近似楕円体モデルの精度を検証し、所定の精度を満たさない近似楕円体モデルについては粒子のファブリックの解析対象から除外する手段(11c)を有するようにしている。
【0051】
上記の粒子のファブリックの解析方法や粒子のファブリックの解析装置は、粒子のファブリックの解析プログラムがコンピュータ上で実行されることによっても実施されたり実現されたりし得る。本実施形態に係る説明では、粒子のファブリックの解析プログラムがコンピュータ上で実行されることによって粒子のファブリックの解析方法が実施されると共に粒子のファブリックの解析装置が実現される場合を取り上げて説明する。
【0052】
本実施形態の粒子のファブリックの解析プログラム17を実行するためのコンピュータ10(本実施形態では、粒子のファブリックの解析装置10でもある)の全体構成を
図2に示す。
【0053】
このコンピュータ10(以下、「粒子のファブリックの解析装置10」と表記する)は制御部11,記憶部12,入力部13,表示部14,及びメモリ15を備え、これらが相互にバス等の信号回線によって接続されている。
【0054】
制御部11は、記憶部12に記憶されている粒子のファブリックの解析プログラム17に従って粒子のファブリックの解析装置10全体の制御並びにファブリックの解析に係る演算を行うものであり、例えばCPU(即ち、中央演算処理装置)である。
【0055】
記憶部12は、少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクやソリッドステートドライブ(SSD;Solid State Drive)である。
【0056】
入力部13は、少なくとも作業者の命令や種々の情報を制御部11に与えるためのインターフェイス(即ち、情報入力の仕組み)であり、例えばキーボードやマウスである。なお、例えばキーボードとマウスとの両方のように複数種類のインターフェイスを入力部13として有するようにしても良い。
【0057】
表示部14は、制御部11の制御によって文字や図形或いは画像等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0058】
メモリ15は、制御部11が種々の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
【0059】
また、粒子のファブリックの解析装置10に、必要に応じ、当該解析装置10との間でデータや制御指令等の信号の送受信(即ち、出入力)が可能であるように、バスや広域ネットワーク回線等の信号回線により、データサーバ20が接続されるようにしても良い。また、コンピュータ10は、必要に応じ、インターネットなどのネットワークを介してクラウドサーバ(図示していない)にアクセス可能であるようにしても良い。
【0060】
なお、粒子のファブリックの解析装置10とCT装置(
図2には図示していない)とが接続され、CT装置からの出力が粒子のファブリックの解析装置10に直接入力されるようにしても良い。本実施形態では、粒子のファブリックの解析装置10と産業用のCT装置30とが接続されている(
図3参照)。
【0061】
そして、粒子のファブリックの解析装置10の制御部11には、粒子のファブリックの解析プログラム17が実行されることにより、粒子の集合体から非破壊で複数の断面画像を取得する取得部11aと、取得した複数の断面画像に基づいて粒子を楕円体に近似させた近似楕円体モデルを算出する算出部11bと、算出した近似楕円体モデルの精度を検証し、所定の精度を満たさない近似楕円体モデルについては粒子のファブリックの解析対象から除外する検証部11cと、算出した近似楕円体モデルに基づいて粒子のファブリックを解析する解析部11dと、が構成される。
【0062】
〈集合体の撮影〉
粒子のファブリックの解析方法の実施に係る手順として、まず、CT装置30によりブロックサンプル31の撮影が行われる(S1)。この処理では、ブロックサンプル31の全体のCT画像が取得される。
【0063】
〈近似楕円体モデルの算出〉
次に、S1の処理によって撮影されて取得された画像データが用いられて、粒子の近似楕円体モデルの算出が行われる(S2)。ここでの近似楕円体モデルの算出の手順としては、まず、算出対象となる粒子を識別し、次にその粒子について近似楕円体モデルとなる楕円体の方程式を算出する。
【0064】
ここで、近似楕円体モデルについて説明する。原点を中心とする楕円体の一般式は、数式1で表される。ここに、A、B、C、D、F、G、Hは係数である。つまり、3次元空間上で楕円体を定義するには、7つのパラメータを評価することが必要である。
(数1)
Ax2+By2+Cz2+2Fyz+2Gzx+2Hxy+D=0
【0065】
一方、
図4に示す座標系で、θとφを法線ベクトル41nの角度とした場合に、原点を通り法線ベクトル41nがn
px、n
py、n
pzである平面の方程式は、数式2で表される。
(数2)
n
pxx+n
pyy+n
pzz=0
但し、n
px=sinθ・cosφ
n
py=sinθ・sinφ
n
pz=cosθ
【0066】
図4に示すように、数式1で表される楕円体40を、数式2の切断面41で切断した時、切断面41の断面積Sは数式3で算出される。
【数3】
但し、e
1=(BC-F
2)n
px
2
e
2=(AC-G
2)n
py
2
e
3=(AB-H
2)n
pz
2
e
4=2(FG-CH)n
pxn
py
e
5=-2(BG-FH)n
pxn
pz
e
6=-2(AF-GH)n
pyn
pz
【0067】
本実施形態では、CT画像から抽出した粒子の断面積を複数計算し、数式3で示される近似楕円体の断面積と比較することで、数式1中の7つの係数を算出する。これにより、粒子の近似楕円体モデルの算出が行われる。
【0068】
次に、算出対象となる粒子を識別する方法としては、2通りの方法が考えられる。1つは、領域成長、収縮/膨張フィルタ処理、オープニング/クロージングフィルタ処理のような画像解析ツールを使い、粒子1つ1つを手動で識別する方法である。この方法は、粒子の識別状況をPC画面上で随時確認しながら行うため、解析対象とする粒子を高精度に識別することができる。一方で、粒子の識別には多くの労力・時間が必要であるため、抽出できる粒子の個数には限界がある。また、識別する粒子の形状や場所の選定には、少なからず主観が入ってしまう。
【0069】
もう1つの方法は、グレイバリューの範囲を指定して等値面を定義して関心領域を作成し、粒子を識別する方法である。この方法は、非常に簡単であり、短時間で多くの粒子を識別することができる。また、客観的に粒子を識別できることも特徴である。但し、粒子の識別精度は前者の方法に比べて悪く、本来2つもしくはそれ以上の粒子であるにも関わらず1つの粒子として識別してしまう場合や、本来1つの粒子であるにも関わらず2つ以上の粒子として識別してしまう可能性がある。目視によってそれら識別精度が悪い粒子を見分けることも可能であるが、粒子数が多いと確認作業に時間がかかってしまうことから、何らかの方法で識別精度が悪い粒子を見分けることが望まれる。そこで、本実施形態では、グレイバリューの範囲を指定して等値面を作成し、短時間でなるべく多くの粒子を識別すると共に、検証によって識別精度の悪い粒子を排除するようにする。
【0070】
算出対象となる粒子の識別の具体的な手順について、以下に説明する。まず、
図5に示すように、CT画像を撮影し画像を取得する(S10)。取得した画像の一例を
図6に示す。そして、特定の粒子に着目し(
図6中の円で囲んだ部分)、着目した粒子を包含するような代表体積要素をサブボリューム画像として抽出する(S11)。サブボリューム画像の一例を
図7(a)に示す。更に、サブボリューム画像に対して二値化処理を行って、粒子のみを抽出する(S12)。二値化処理を行った粒子の画像の一例を
図7(b)に示す。
【0071】
続けて、識別した粒子の断面積の計算を行う(S13)。本実施形態では、θ、φともに0~180度の範囲の中で、15度毎に断面を抽出した(
図8参照)。また、θ=0度の場合は、φ=0~180度のいずれの場合も同じ面になるので、同じ面が12枚含まれてしまう。そこで、そのうちの11枚を含めないようにするために、12枚×12-11枚=133枚として、粒子1個あたり計133組の断面積を計算する。
【0072】
次に、識別した粒子について計算された断面積データに基づいて、近似楕円体モデルとなる楕円体の方程式を算出する手順について、以下に説明する。
図9及び
図10に示すように、本実施形態では、ガウスニュートン法に基づく最適化計算を実施し、数式1の係数を解析する。即ち、近似楕円体モデルは、ガウスニュートン法に基づく非線形最小二乗法を利用して算出する。評価解析は、最小反復計算回数を15回、最大反復計算回数を100回とする。評価解析では、まず初めに、第1段階の初期値として、軸半径は粒子を球近似した場合の球半径を、回転軸n
ex、n
ey、n
ezについてはZ軸を、回転角度θeについては0度を与える(S20)。
【0073】
ここでの解析における目的関数は、数式4の通りである。但し、f
objは目的関数、S
SVはCT画像から抽出した粒子の断面積、S
epは近似楕円体の断面積をそれぞれ示す。
【数4】
【0074】
そして、ガウスニュートン法に基づき、残差行列の計算及びヤコビアン行列の計算を実行する(S21)。このとき、反復計算回数のカウンタitrを1アップする。反復計算を進めるごとに、パラメータを算出して更新していく(S22)。反復計算の過程で、数式3の右辺分母の平方根内が負になると計算が進行しなくなってしまう。このため、その時点でのパラメータを利用して、数式3の右辺分母の平方根内のeが正の数であるか否かを判断する(S23)。eが正の数であると判断された場合は(S23のYES)、反復計算が15回以上行われたか否かを判断する(S24)。反復計算が15回以上行われていないと判断した場合は(S24のNO)、最小反復計算回数に満たないので、再び残差行列の計算及びヤコビアン行列の反復計算を実行する(S21)。
【0075】
反復計算が15回以上行われていると判断した場合は(S24のYES)、数式5で表されるEiを計算する(S25)。Eiは、法線ベクトルがnpx,i、npy,i、npz,iである断面で計算された断面積と近似楕円体との誤差に関する指標である。
(数5)
Ei=|1.0-SSV/Sep|i
但し、i=1~133
【0076】
ここで、Eiについては、反復計算回数が15回を超えた場合に、5回前までのEiの平均値Eit=k~k-5と、現在の計算過程において計算されたEiの平均値Eit=kとの差分ΔEiを算出する。そして、その差分ΔEiが1.0×10-5以下であるか否かを判断し(S26)、パラメータの収束の判定を行う。即ち、それ以上、反復計算をすることでパラメータが殆ど変わらない程度に収束しているか否かを判断する。その差分ΔEiが1.0×10-5以下でないと判断した場合は(S26のNO)、パラメータは収束していないと判断して、再び残差行列の計算及びヤコビアン行列の反復計算を実行する(S21)。その差分ΔEiが1.0×10-5以下であると判断した場合は(S26のYES)、パラメータは収束しており反復計算を続けても殆ど変わらないと判断する。
【0077】
そして、反復計算が100回以下であるか否かを判断する(S27)。反復回数が100回以下であると判断された場合は(S27のYES)、評価解析は最大反復計算回数100回以下という条件を満たしているので、そのときのパラメータに決定し(S28)、処理を終了する。尚、近似楕円体モデルは、中心位置が複数の断面画像の重心位置に基づいて設定される。
【0078】
一方、S23でeが正の数でないと判断した場合(S23のNO)、あるいは、S27で反復回数が100回以下でないと判断した場合は(S27のYES)、第1段階の初期値では最大反復計算回数100回以下の条件でパラメータが収束しなかったということで、第1段階の初期値を第2段階の初期値に変更して、近似楕円体モデルとなる楕円体の方程式を再び算出する(S2)。第2段階の初期値として、軸半径はX、Y、Z軸方向に粒子を投影した場合の辺長さを、回転軸と回転角度は第1段階と同じ値を与える(S30)。
【0079】
そして、第1段階と同様に、ガウスニュートン法に基づき、残差行列の計算及びヤコビアン行列の計算を実行する(S31)。このとき、反復計算回数のカウンタitrを1アップする。反復計算を進めるごとに、パラメータを算出して更新していく(S32)。その時点でのパラメータを利用して、数式3の右辺分母の平方根内のeが正の数であるか否かを判断する(S33)。eが正の数であると判断された場合は(S33のYES)、反復計算が15回以上行われたか否かを判断する(S34)。反復計算が15回以上行われていないと判断した場合は(S34のNO)、最小反復計算回数に満たないので、再び残差行列の計算及びヤコビアン行列の反復計算を実行する(S31)。
【0080】
反復計算が15回以上行われていると判断した場合は(S34のYES)、数式5で表されるEiを計算する(S35)。Eiについては、第1段階と同様に、差分ΔEiを算出し、その差分ΔEiが1.0×10-5以下であるか否かを判断し(S36)、パラメータの収束の判定を行う。その差分ΔEiが1.0×10-5以下でないと判断した場合は(S36のNO)、パラメータは収束していないと判断して、再び残差行列の計算及びヤコビアン行列の反復計算を実行する(S31)。その差分ΔEiが1.0×10-5以下であると判断した場合は(S36のYES)、パラメータは収束しており反復計算を続けても殆ど変わらないと判断する。
【0081】
そして、反復計算が100回以下であるか否かを判断する(S37)。反復回数が100回以下であると判断された場合は(S37のYES)、評価解析は最大反復計算回数100回以下という条件を満たしているので、そのときのパラメータに決定し(S38)、処理を終了する。この場合も、近似楕円体モデルは、中心位置が複数の断面画像の重心位置に基づいて設定される。
【0082】
一方、S33でeが正の数でないと判断した場合は(S33のNO)、計算が進行しなくなるので、処理を終了する。また、S37で反復回数が100回以下でないと判断した場合は(S37のYES)、第2段階の初期値であっても最大反復計算回数100回以下の条件でパラメータが収束しなかったということで、処理を終了する。即ち、本実施形態では、近似楕円体モデルの精度は、撮影により取得した断面画像での断面積SSVと、断面画像に相当する近似楕円体モデルの断面積Sepとの誤差(数式5参照)に基づいて検証する。
【0083】
上述したように、本実施形態では、
図9及び
図10に示すように、S1の処理によって撮影されて取得された画像データが用いられて、第1段階の初期値を利用して粒子の近似楕円体モデルの算出が行われ(S2、S20~S24)、第1段階で除外された粒子の中から、第2段階の初期値を利用して粒子の近似楕円体モデルの算出が行われる(S2、S30~S34)。即ち、粒子の条件によっては、2段階に処理が行われる場合があるが、これには限られない。例えば、1段階のみとしたり、更に条件を変えて3段階以上の処理を実行するようにしてもよい。
【0084】
〈精度の検証〉
次に、算出した近似楕円体モデルの精度を検証し、所定の精度を満たさない近似楕円体モデルについては粒子のファブリックの解析対象から除外する(S3)。所定の精度については、本実施形態では、粒子の半径の大きさ、Eiの中央値Emed,Eiの標準偏差Estdを採用している。
【0085】
まず、粒子の半径については、半径が5voxel以上である粒子を解析対象とするようにし、半径が5voxel未満の粒子については除外する。これは、評価対象とする粒子を球近似した場合の半径が5voxelより小さい場合、部分体積効果の影響によって評価精度が低下する可能性があるためである。但し、撮影条件などが異なれば、必ずしも5voxel以上であることには限られない。
【0086】
また、Eiの中央値Emed及び標準偏差Estdについては、中央値Emed及びEstdの少なくとも一方が0.1以上である近似楕円体モデルの粒子についてはファブリックの解析対象から除外する。これは、中央値Emed及び標準偏差Estdの少なくとも一方が0.1以上の場合は、複数の粒子を単一の粒子として識別してしまった場合、あるいは単一の粒子を複数の粒子として識別してしまった場合、評価解析の計算過程で解が得られない場合などが含まれる可能性が高いためである。但し、他の条件などが異なれば、解析対象から除外するのは中央値Emed及び標準偏差Estdの少なくとも一方が0.1以上である場合には限られない。
【0087】
〈ファブリックの解析〉
その後は、算出した近似楕円体モデルに基づいて粒子のファブリックを解析する(S4)。ここでの解析手法は、適宜な手法を適用することができる。
【0088】
従来から知られる粒子のファブリックの解析方法では、粒子の大きさを直接測定して粒子の形状や配向を評価する方法であるため、粒子表面の微小な凹凸が評価結果に及ぼす影響が大きかった。一方で、本実施形態で示した手法は、粒子の断面積に基づき楕円体として近似することから、粒子表面の形状の影響が緩和されると考えられる。また、あらゆる方向の断面積のデータ群から粒子を楕円体近似するため、複雑な形状の粒子であっても、平均的な楕円体として近似できる可能性がある。
【0089】
上述したように、粒子の識別方法としては主に2通りの方法が考えられるが、本実施形態では、グレイバリューの範囲を指定して等値面を作成し、短時間でなるべく多くの粒子を識別する。但し、識別された粒子のデータの中には、識別精度の悪い粒子が混在する。そこで、以下の方法で粒子を分類することができると考えた。第1に、複数の粒子を単一の粒子として識別してしまった場合、あるいは単一の粒子を複数の粒子として識別してしまった場合、その粒子は近似対象となる楕円体から大きく逸脱した形状となると考えられる。そのような粒子は、計算の過程で数式3の右辺分母の平方根内が負となり、計算が収束しない場合がある。従って、そのような粒子については、識別精度が悪い粒子と判断し、評価から除外する。第2に、計算が収束した場合であっても、数式5により計算されるEiを検証することにより、識別精度が悪い粒子を区別できる。つまり、Eiは、CT画像から抽出した粒子と近似楕円体の比を表しており、抽出された粒子の断面積と近似楕円体の断面積の差が小さいほどEiは0に近づき、その差が大きいほどEiは大きくなる。従って、評価解析を行った後、Eiの検証を行うことで、識別精度が悪い粒子を区別できる。
【0090】
以上のように構成された粒子のファブリックの解析方法,粒子のファブリックの解析装置,粒子のファブリックの解析プログラムによれば、複数のCT画像に基づいて粒子を楕円体に近似させた近似楕円体モデルを算出し、算出した近似楕円体モデルに基づいてファブリックを解析するので、岩石や金属などの集合体を構成する粒子のファブリックを、非破壊で撮影した断面画像を利用して簡易、かつ、高精度に解析することができる。特に、本実施形態の観察方法,粒子のファブリックの解析装置,粒子のファブリックの解析プログラムでは、算出した近似楕円体モデルの精度を検証し、所定の精度を満たさない近似楕円体モデルについては粒子のファブリックの解析対象から除外するので、粒子のファブリックをより高精度に解析することができる。
【0091】
なお、上述の実施形態は本発明を実施する際の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の形態が上述のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において本発明は種々変形実施可能である。
【0092】
例えば、上述の実施形態では、算出した近似楕円体モデルの精度を検証し、所定の精度を満たさない近似楕円体モデルについては粒子のファブリックの解析対象から除外する場合について説明したが、これには限られず、算出した近似楕円体モデルの精度は必ずしも検証しなくてもよい。
【0093】
また、上述の実施形態では、近似楕円体モデルは、非線形最小二乗法を利用して算出する場合について説明したが、これには限られず、他の手法を利用して算出するようにしてもよい。
【0094】
また、上述の実施形態では、複数の断面画像としてCT画像を適用した場合について説明したが、これには限られず、MRI画像など、非破壊で透過画像を得られる撮影方法であれば他の撮影方法であってもよい。
【0095】
また、上述の実施形態では粒子のファブリックの解析プログラム17がコンピュータ10に予めインストールされているようにしているが、粒子のファブリックの解析プログラム17がコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納されて提供されるようにしても良い。
【実施例】
【0096】
〈精度検証〉
本発明に係る粒子のファブリックの解析方法の精度を検証するため、粒子を模擬したCT画像を数値的に作成し、作成されたCT画像を対象に評価解析を行った。以下、
図11~
図32を用いて説明する。
【0097】
本実施例では、数値的に作成するCT画像は、画素数を50×50×50voxel、画素サイズを1mm/pixelとし、画像中心に粒子を配置した。粒子に該当する部分の画素値は2000、それ以外の画素値は0とした。第1グループ~第4グループは形状が楕円体である粒子、第5グループ及び第6グループは形状が矩形である粒子、第7グループは2つの楕円体粒子が結合した粒子を表す。CT画像の作成条件を表1に示す。なお、楕円体の長軸の軸半径をr1、中間軸の軸半径をr2、短軸の軸半径をr3とした。また、軸の方向は、走向角(trend、方位角)と傾斜角(plunge、傾き)とで示した。走向角は傾いた直線を水平面に投影したときの方向(方位角)であり、傾斜角は水平面からの傾きである。そして、楕円体の長軸の走向角をtr1、中間軸の走向角をtr2、短軸の走向角をtr3、楕円体の長軸の傾斜角をpl1、中間軸の傾斜角をpl2、短軸の傾斜角をpl3とした。
【表1】
【0098】
第1グループ~第4グループは、
図11に示すように、楕円体の粒子である。第1グループは、楕円体の軸半径について検証するために実施し、中間軸と短軸を各6通りずつ、計36通りについて評価を行った。第2グループ~第4グループは、楕円体の長軸の走向角と傾斜角について検証するために実施した。それぞれ短軸の軸半径r3が異なっており、走向角が12通り、傾斜角が5通りの計60通り実施した。第5グループ~第6グループは、第1グループ~第4グループとは粒子の形状が異なっており、
図12に示すように、1辺の長さがそれぞれ30、20、10voxelである矩形形状の粒子であり、各軸の長さは各辺の半分の長さとなる。第6グループは、第5グループの矩形粒子についてZ軸を中心に反時計回りに45度回転させた粒子である。第7グループは、
図13に示すように、2つの楕円体が結合して単一の粒子を構成する粒子であり、楕円体の形状はそれぞれ同じであるが、中間軸方向に楕円体が結合する粒子である。
【0099】
以下、各グループごとに、条件を異ならせて実施例と比較例とを設定し、解析結果を比較した。方法としては、抽出粒子と近似楕円体モデルとのEiを算出し、その中央値Emedと標準偏差Estdとを算出することで、適合性を評価した。
【0100】
〈第1グループ〉
第1グループの解析結果(全36組)のうち、軸半径の評価誤差が最も大きい粒子(実施例1)と、数式5により計算されるEiの中央値Emedと標準偏差Estdが最も大きい粒子(実施例2)の評価結果を表2に示す。実施例1のEiの計算結果を
図14に示し、実施例2のEiの計算結果を
図15に示す。
図14及び
図15は、横軸が断面積を計算した切断面の番号(133組)であり、縦軸がEiを示す。
【表2】
【0101】
表2に示した通り、実施例1では、軸半径の最大誤差は短軸の軸半径r3の0.5voxelであり、精度良く評価することができた。また、実施例1では、Emedは0.011程度、Estdは0.016程度であり、こちらについても十分に小さい結果となった。一方、実施例2では、Emedは最大で0.021、Estdは最大で0.027であり、こちらについても十分に小さい結果が得られた。
【0102】
次に、長軸の軸半径r1を15voxel、中間軸r2の軸半径を11voxelとし、短軸の軸半径r3を5(実施例3)、3(比較例1)、1(比較例2)voxelとした場合の評価結果を、表3に示す。比較例1のEiの計算結果を
図16に示し、比較例2のEiの計算結果を
図17に示す。実施例3では、短軸の軸半径r3が5voxelであり、評価された軸半径も設定値と概ね等しく、Emed、Estdも十分に小さい結果が得られた。一方、比較例1,2のように、短軸の軸半径r3が小さくなるに従い、軸半径r3の評価誤差は大きくなり、Emed、Estdも大きくなる傾向にある。これは、部分体積効果の影響と考えられる。つまり、CT画像では、対象物を画素の集合体として表現するため、軸半径が3voxel以下の場合は、楕円体を表現する画素数が不足する。このことにより、断面積を精度良く計算するのが困難になり、評価誤差が大きくなったと考えられる。以上のことから、本実施例で示した評価手法では、軸半径が5voxel以上の粒子を評価対象とすることが望ましい。
【表3】
【0103】
〈第2グループ~第4グループ〉
第2グループ~第4グループの評価結果のうち、Emed、Estdが最も大きい結果を、それぞれ表4に示す。また、近似楕円体モデルの長軸と単位球の交点を計算し、長軸の走向角と傾斜角をシュミットネット下半球に投影した結果を、第2グループの実施例4及び実施例5は
図18(a)、第3グループの実施例6及び実施例7は
図18(b)、第4グループの比較例3及び比較例4は
図18(c)にそれぞれ示す。
【表4】
【0104】
短軸の軸半径r3が7voxelである第2グループにおいては、走向角の最大誤差が2.7度、傾斜角の最大誤差が2.3度となり、短軸の軸半径r3が5voxelである第3グループにおいては、走向角の最大誤差が3.1度、傾斜角の最大誤差が3.8度となり、短軸の軸半径r3が3voxelである第3グループにおいては、走向角の最大誤差が3.5度、傾斜角の最大誤差が4.6度となり、短軸が小さくなるほど評価誤差が大きくなる傾向にある。また、Emed、Estdについても同様に、軸半径が小さくなるほど大きくなっている。このことから、第1グループと同様に、本実施例で示した評価手法は、軸半径が5voxel以上の粒子を評価対象とすることが望ましい。
【0105】
〈第5グループ、第6グループ〉
第5グループ及び第6グループは、粒子の形状が楕円体ではなく矩形の粒子である。第5グループの実施例8と第6グループの実施例9の評価結果を表5に示す。また、実施例8と近似楕円体モデルを3次元表示した結果を
図19に、Eiの計算結果を
図20に示す。
【表5】
【0106】
実施例8は、矩形粒子の辺長さが、5、10、15voxelであったのに対し、解析の結果、軸半径は6.5、12.8、19.1voxelといずれも大きく評価された。また、Emedは0.08程度、Estdは0.05程度と算定され、第1グループ~第4グループに比べるとやや大きい結果となった。但し、粒子の形状指標として代表的なアスペクト比(r3/r1)、細長比(r2/r1)、扁平度(r3/r2)を比較すると、矩形粒子のアスペクト比は0.33、細長比は0.67、扁平度は0.50であったのに対し、近似楕円体モデルのアスペクト比は0.34、細長比は0.67、扁平度は0.51となり、ほぼ等しい値となった。
【0107】
また、走向角と傾斜角については、矩形粒子の各辺にほぼ平行な方向に楕円体の長軸、中間軸、短軸が近似されており、楕円体の姿勢が良好に評価されている。粒子の大きさを直接測定する方法の場合、実施例8のような矩形形状の粒子については、対角線の方向が最も長くなるため、長軸の向きも対角線の方向に評価される可能性がある。このことから、本実施例で示す評価手法では、粒子の形状が楕円体とは異なる場合であっても、走向角と傾斜角を適切に評価できることが確認された。また、実施例8の矩形粒子をZ軸を中心に45度回転した実施例9についても、走向角と傾斜角を適切に評価できたことが確認された。
【0108】
〈第7グループ〉
第7グループの比較例5は、長軸、中間軸、短軸がそれぞれ15、11、5voxelの楕円体2つが結合することによって、1つの粒子を構成しているCT画像である。比較例5の評価結果を表6に示し、比較例5と近似楕円体モデルを3次元表示した結果を
図21に、Eiの計算結果を
図22に示す。2つの楕円体粒子を1つの楕円体粒子として評価しており、中間軸として設定した軸が長軸として、長軸として設定した軸が中間軸として評価された。
【表6】
【0109】
Emedは0.055と算定され、短軸の軸半径r3が5voxel以上の第1グループ~第4グループと比較するとやや大きいが、粒子形状が矩形である第5グループや第6グループと比べると小さい値となった。但し、Estdは0.107と第1グループ~第6グループと比較しても大きい値となった。これは、
図23に示すように、複数の粒子が結合して1つの粒子として識別された場合、例えば、粒子の中央のくびれの部分では粒子の断面積と近似楕円体モデルの断面積の差が大きくなる断面が生じることにより、Emedはそれほど大きくならないが、Estdが大きくなったと考えられる。つまり、複数の粒子を1つの粒子として、あるいは1つの粒子を複数の粒子として誤って識別した粒子については、Emedだけでなく、Estdを指標とすることにより、区別できると考えられる。一例としては、Estdが0.1を超えた場合に、その粒子は不自然に抽出されたものとして識別し、排除するようにできる。
【0110】
〈砂粒子の形状評価〉
次に、砂粒子の形状評価を行った。粒径が300~600μmを主体とする砂をアクリル容器に充填した試料のCT画像を対象に、上述した評価方法を用い、砂粒子の形状解析を実施した。砂は、内径10mmの円筒形状のアクリル容器に自然落下法により充填した。
図24に、使用した砂の粒径分布を示す。CT撮影には、本願出願人((一財)電力中央研究所)所有のマイクロフォーカスX線CT TXS-CT 450/160を用いた。TXS-CT 450/160には特性の異なる2つのX線源が搭載されているが、今回は、最大管電圧が160kVの線源(最小焦点寸法4μm)を使用した。CT撮影では、管電圧を75kV、管電流を150μAとし、露光時間は500msec、プロジェクションは3600とし、SIDは1000mm、SODは75mmとして行った。この時、画素サイズは15μm/pixelとした。また、再構成範囲は1500×1500×800voxelである。
図25(a)及び(b)に、水平断面及び鉛直断面のCT画像の模式図を示す。
【0111】
〈粒子の識別〉
評価解析を行う前に、画像解析ソフトウェアを使って粒子の識別を行った。画像解析ソフトウェアは、VGStudioMax3.2を用い、オプションモジュールとして欠陥介在物解析モジュールを使用した。粒子の識別は、以下の手順で行った。
(1)画像のノイズ低減のため、CT画像に対しフィルタ処理を実施する。
(2)領域成長ツールを使って、個々の粒子について関心領域を10個程度作成する。
(3)(2)で作成された関心領域について、グレイバリュー解析を行う。
(4)(3)の結果を基に、グレイバリューの範囲を設定し、画像全体で等値面を定義し、関心領域を作成する。
尚、今回は、最小グレイバリューを10800、最大グレイバリューを12680とした。
【0112】
手順(1)~(4)を実施した結果、画像全体で計10035個の粒子が識別された。尚、全ての粒子を識別するのに要した時間は10分程度であった。
図25(a)及び(b)と同じ断面について、識別された粒子に相当する画素を白色で塗りつぶした結果の模式図を
図25(c)及び(d)に示し、画像全体のグレイバリューを解析した結果を
図26に示す。
図25(c)及び(d)から分かるように、手順(4)で指定した範囲を外れるグレイバリューを有する画素は識別されていない。また、目視でも複数の粒子が結合している様子が散見される。これらについては、関心領域を新たに作成し、既に作成された関心領域と結合することや、収縮処理を行って結合を切り離すことも可能であるが、ここでは敢えて、それらの処理を行わないで評価解析を実施した。
【0113】
〈評価解析〉
グレイバリューの範囲を指定することによって識別された10035個の粒子のうち、Z方向の層厚が650voxel(0.015mm/pixel×650voxel=9.75mm)に位置する粒子を解析対象とした。尚、前章での検討において、軸半径が5voxelより小さい粒子については楕円体の近似精度が低下したことから、ここでは、球近似をした場合の直径が10voxel(0.015mm/pixel×10voxel=0.15mm)以上である粒子、計4400個について評価解析を実施することとした。
【0114】
評価解析の結果、4400個の粒子のうち、3個の粒子については、数式3の右辺分母の平方根内が負となることにより計算が進行せず、解を得ることができなかった。評価解析が収束し、解を得られた粒子4397個について、Emedのヒストグラムを作成した結果を
図27に示す。解が得られた粒子4397個のうち、Emedが0.08以下の粒子は4041個(91%)、Emedが0.08より大きく、0.10以下の粒子は177個(4%)、Emedが0.10以上となった粒子は179個(4%)であった。また、Emedが0.08以下の粒子4041個のうちEstdが0.10以下となる粒子は4016個であり、Emedが0.08より大きく0.10以下となる粒子177個のうちEstdが0.10以下となる粒子は141個、Emedが0.10より大きい粒子179個のうちEstdが0.10以下となる粒子は33個となった。
【0115】
〈考察〉
解析対象とした4400個の粒子のうち、9個の粒子についてEmed及びEstdの計算結果を表7に示す。また、
図28(a)~(e)及び
図29(a)~(d)には、評価対象とした粒子のCT画像と、評価解析で得た近似楕円体モデルのCT画像を示す。
【表7】
【0116】
P5688は、評価解析において数式3の右辺分母の平方根内が負になることにより、解を得ることができなかった粒子である。P5688は、
図28(a)に示すように、2つの粒子が結合し1つの粒子として識別されている粒子である。つまり、楕円体から大きく逸脱した形状であることにより、反復計算の過程で解が収束しなかったと考えられる。尚、ここでの評価解析では、P5688以外にも、2個の粒子が数式3の右辺分母の平方根内が負となることにより解を得ることができなかったが、いずれも複数の粒子が結合した粒子であった。
【0117】
P2863は、解が得られた粒子4397個のうち、Emedが最も小さい粒子である。P2863は、
図28(b)に示すように、単一の粒子が抽出されている。また、Emed及びEstdが十分に小さく、楕円体への近似も良好にされている。一方で、P7811はEmed及びEstdが0.203、0.243と大きい値となった。P7811は、
図28(c)に示すように、複数の粒子が結合することで1つの粒子として識別された粒子であるが、この傾向はEmed及びEstdにも現れている。
【0118】
P2321、P9028、P7304は、Emedがそれぞれ0.059、0.085、0.103であり、Estdはいずれも0.1以下となった粒子である。CT画像を確認した結果、いずれも単一の粒子が抽出されており、楕円体への近似も良好にされている。一方、P5430、P5915、P5976は、EmedがそれぞれP2321、 P9028、P7304とほぼ等しい粒子であるが、Estdはいずれも0.1以上となった粒子である。CT画像を確認した結果、いずれも複数の粒子が結合することで1つの粒子として識別されていた。
【0119】
このことから、Emedが一定程度小さい粒子であっても、Estdを指標とすることにより、識別精度が悪い粒子を区別することができると考えられる。上述したように、Emedが0.10以下で計算が収束した粒子は4218個あったが、Estdが0.1を上回る粒子は61個存在しており、Estdを指標としてこれらを取り除くことで、評価精度を向上することができた。
【0120】
評価解析によって解が得られた粒子のうち、Emed及びEstdがいずれも0.10より小さい粒子(4157個)を対象に、粒子の形状や配向を評価した結果を表8に示す。形状指標としては、近似楕円体モデルの長軸の軸半径r1、中間軸の軸半径r2、短軸の軸半径r3、アスペクト比r3/r1、細長比r2/r1、扁平度r3/r2、Krumbein球形度S
k、長軸の傾斜角pl1、短軸の傾斜角pl3を個々の粒子について整理し、その統計解析結果(最小値、最大値、中央値、標準偏差)を示した。
【表8】
【0121】
また、
図30(a)及び(b)、
図31(a)及び(b)には、それぞれの形状指標についてヒストグラムを示すと共に、
図32には、扁平度と細長比の関係を整理したZingg Diagramのヒストグラムコンター図を示す。尚、
図31(a)のKrumbein球形度S
kは、数式6により算出した。
【数6】
【0122】
図30(a)に示すように、近似楕円体軸半径の中央値は、長軸が0.30mm、中間軸が0.20mm、短軸が0.13mmとなった。
図24に示したように、ふるい分けによって得られた砂の粒径加積曲線では、粒径が300~600μmを主体としていたが、今回のCT画像を使った評価においても、概ね同じ結果が得られた。
図30(b)に示すように、アスペクト比r3/r1、細長比r2/r1、扁平度r3/r2の中央値は、それぞれ0.44、0.69、0.67となった。非特許文献2における豊浦砂の形状解析結果では、アスペクト比、細長比、扁平度がそれぞれ0.52,0.73,0.73と評価されており、細長比及び扁平度についてはほぼ同じ値となったが、本実施例で得られたアスペクト比についてはやや小さい結果となった。また、Krumbein球形度についても、アスペクト比と同様に、非特許文献2における豊浦砂の形状解析結果よりもやや小さい結果が得られた。
【0123】
扁平度r3/r2と細長比r2/r1の関係は、Zingg Diagramと呼ばれる。これは、扁平度、細長比のいずれも0.66を基準としてゾーニングを行い、粒子を球状(Sphere)、板状(Disks)、棒状(Rods)、小判状(Blades)に分類する方法である。今回の結果から扁平度、細長比をプロットし、
図32に示すように、ヒストグラムコンター図を作成すると、今回評価を行った粒子は、板状もしくは球状に分類される粒子が多かった。
【0124】
図31(b)に示すように、長軸、短軸の傾斜角の中央値は、それぞれ23.0度、40.2度となった。また、同図より、長軸の傾斜角は水平に近い角度にピークが集中しているのに対し、短軸の傾斜角は明瞭なピークが確認されなかった。今回撮影したサンプルは、砂を自然落下法によって充填していることから、長軸の傾斜角は、安定勾配である水平に近い角度で充填されたためと考えられる。
【0125】
上述したように、本実施例では、CT画像内の粒子に着目し、粒子の形状や配向を評価する方法について検討を行った。まず初めに、粒子の形状や配向を評価する方法として、抽出した粒子の断面積を複数組計算することで楕円体一般式の係数を求め、粒子を楕円体として近似する方法を構築した。次に、数値的に作成したCT画像を用いてパラメータスタディーを実施し、評価を行う上での留意点について整理した。最後に、粒径分布が300~600μmの砂を対象に撮影されたCT画像について、砂粒子の形状や配向を評価した。その結果、以下のことが明らかになった。
【0126】
(1)評価対象とする粒子を球近似した場合の半径が5voxelより小さい場合、部分体積効果の影響によって評価精度が低下する可能性があることが明らかになった。このことから、本実施例で提案する手法を用いて粒子の形状や配向を評価する場合、球半径が5voxel以上である粒子を解析対象とすることが好ましい。但し、条件が異なれば、必ずしも5voxel以上であることには限られない。
【0127】
(2)評価対象とする粒子の形状が矩形である場合、近似楕円体モデルの軸半径は大きめに評価される。但し、アスペクト比、細長比、扁平率は評価対象とする粒子とほぼ等しい結果となる。また、長軸、中間軸、短軸の走向角や傾斜角は、矩形要素の各辺の方向にほぼ等しい結果が得られることが明らかになった。
【0128】
(3)複数の粒子を単一の粒子として識別してしまった場合、あるいは単一の粒子を複数の粒子として識別してしまった場合、評価解析の計算過程で解が得られない場合があることが明らかになった。また、解が得られた場合であっても、抽出した粒子の断面積と近似楕円体モデルの断面積の比Ei(数式5参照)を計算した時、識別精度が悪い粒子では両者の差が大きくなる断面が存在する。このことにより、Eiの統計解析を行い、Eiの中央値EmedやEiの標準偏差Estdを計算することにより、識別精度が悪い粒子を区別できることが明らかになった。
【0129】
(4)複雑な形状である砂粒子であっても、本実施例で構築した方法によって、良好に楕円体として近似できることを確認した。また、楕円体への近似結果から、アスペクト比、細長比、扁平率、球形度、傾斜角を求め、本実施例で提案する方法によって得られた結果が、別手法で得られる結果と大差ない結果が得られることを確認した。
【0130】
以上の結果から、本発明によれば、岩石や金属などの集合体を構成する粒子のファブリックを、非破壊で撮影した断面画像を利用して簡易、かつ、高精度に解析できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明に係る粒子のファブリックの解析方法,粒子のファブリックの解析装置,及び粒子のファブリックの解析プログラムは、岩石や金属などの集合体を構成する粒子のファブリックを、非破壊で撮影した断面画像を利用して簡易、かつ、高精度に解析することができるので、あくまで一例として挙げると、地盤や岩盤の力学特性と粒子形状に着目した研究、地質構造と粒子の配向に着目した研究、土質力学、堆積学などの分野で利用価値が高い。
【符号の説明】
【0132】
10 コンピュータ/粒子のファブリックの解析装置
11 制御部
11a 取得部
11b 算出部
11c 検証部
11d 解析部
12 記憶部
13 入力部
14 表示部
15 メモリ
17 粒子のファブリックの解析プログラム
20 データサーバ