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  • 特許-単結晶インゴットの評価方法 図1A
  • 特許-単結晶インゴットの評価方法 図1B
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  • 特許-単結晶インゴットの評価方法 図3
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  • 特許-単結晶インゴットの評価方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】単結晶インゴットの評価方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/30 20060101AFI20230825BHJP
【FI】
C30B29/30 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020021156
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2021127259
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】村上 慎一
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-303513(JP,A)
【文献】特開2017-62157(JP,A)
【文献】特開平1-263541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
G01B 11/00-11/30
G01N 21/84-21/958
H01L 21/64-21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲した結晶面を有しており、前記結晶面上に中心から放射状に延在するとともに前記結晶面から隆起する筋状の隆起部が形成される単結晶インゴットを準備する工程と、
複数の光源を前記隆起部の湾曲した形状に沿って配置して、複数の異なる照射角度から前記結晶面の前記隆起部を含む領域に対して光を照射する工程と、
光の照射された領域を撮像する工程と、
撮像により得られた画像に基づいて前記隆起部の形状を評価する工程と、を有する、
単結晶インゴットの評価方法。
【請求項2】
前記光源は、平板状であって、一方の面側から光を照射する平面光源である、
請求項1に記載の単結晶インゴットの評価方法。
【請求項3】
前記光を照射する工程では、前記複数の光源を照射領域が重なるように配置する、
請求項1又は2に記載の単結晶インゴットの評価方法。
【請求項4】
前記光を照射する工程では、前記隆起部の湾曲した形状に沿う方向に前記光源を少なくとも4つ配置する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の単結晶インゴットの評価方法。
【請求項5】
前記光を照射する工程では、前記複数の光源を、前記隆起部の湾曲した形状に沿う方向に前記隆起部を挟んで2列配置する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の単結晶インゴットの評価方法。
【請求項6】
前記隆起部の形状を評価する工程では、前記隆起部の幅を測定する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の単結晶インゴットの評価方法。
【請求項7】
前記単結晶インゴットがタンタル酸リチウムを含む、
請求項1~6のいずれか1項に記載の単結晶インゴットの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶インゴットの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶インゴット、例えばタンタル酸リチウムを含む単結晶インゴットにおいては、その結晶面における結晶構造の境界部分に筋状の隆起部が形成されることがある。この隆起部の形状(例えば幅や高さ)は結晶の成長条件によって変動する。そのため、高品質な単結晶インゴットを作製できるような結晶の成長条件を特定するうえで、隆起部の形状を評価することが重要となる。
【0003】
隆起部の評価としては、例えば隆起部を目視により観察し、その幅を細い、普通、太いといったように3段階で分類して行う方法がある。ただし、この評価では、評価基準があいまいで評価結果にばらつきが生じることがある。
【0004】
そこで、隆起部の形状を定量的に評価すべく、単結晶インゴットの結晶面を撮像し、その画像に基づいて形状を定量的に測定し評価することが検討されている。なお、例えば六方晶単結晶インゴットの検査方法については特許文献1が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-147928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、タンタル酸リチウムを含む単結晶インゴットでは評価対象である結晶面が湾曲しているため、結晶面に光を照射して撮像するときに、隆起部の形状を正確に把握できるような画像を取得できず、その形状を定量的に評価できないことがあった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、単結晶インゴットを定量的に評価する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、
湾曲した結晶面を有しており、前記結晶面上に中心から放射状に延在するとともに前記結晶面から隆起する筋状の隆起部が形成される単結晶インゴットを準備する工程と、
複数の光源を前記隆起部の湾曲した形状に沿って配置して、複数の異なる照射角度から前記結晶面の前記隆起部を含む領域に対して光を照射する工程と、
光の照射された領域を撮像する工程と、
撮像により得られた画像に基づいて前記隆起部の形状を評価する工程と、を有する、
単結晶インゴットの評価方法である。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
前記光源は、平板状であって、一方の面側から光を照射する平面光源である。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、
前記光を照射する工程では、前記複数の光源を照射領域が重なるように配置する。
【0011】
本発明の第4の態様は、第1~第3の態様のいずれかにおいて、
前記光を照射する工程では、前記隆起部の湾曲した形状に沿う方向に前記光源を少なくとも4つ配置する。
【0012】
本発明の第5の態様は、第1~第4の態様のいずれかにおいて、
前記光を照射する工程では、前記複数の光源を、前記隆起部の湾曲した形状に沿う方向に前記隆起部を挟んで2列配置する。
【0013】
本発明の第6の態様は、第1~第5の態様のいずれかにおいて、
前記隆起部の形状を評価する工程では、前記隆起部の幅を測定する。
【0014】
本発明の第7の態様は、第1~第6の態様のいずれかにおいて、
前記単結晶インゴットがタンタル酸リチウムを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、単結晶インゴットを定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A図1Aは、単結晶インゴットを側面から見たときの側面図である。
図1B図1Bは、単結晶インゴットを結晶面の上方から観察したときの平面図である。
図2図2は、単結晶インゴットに光を照射するための光源の配置について説明するための図である。
図3図3は、本発明の一実施形態において、単結晶インゴットの結晶面を撮像して得られた画像を示す図である。
図4図4(a)~(d)は、本発明の比較形態において、単結晶インゴットの結晶面を、1つの光源を用いて照明角度を変えながら撮像して得られた4つの画像を示す。
図5図5は、本発明の比較形態において、単結晶インゴットの結晶面の合成画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態にかかる単結晶インゴットの評価方法について説明する。
【0018】
まず、評価対象となる単結晶インゴットを準備する。
【0019】
ここで、単結晶インゴットについて図を用いて説明する。図1Aは、単結晶インゴットを側面から見たときの側面図である。図1Bは、単結晶インゴットの上方から結晶面を観察したときの平面図である。
【0020】
単結晶インゴット10は、種結晶11(シード11)を用いて結晶成長させることにより得られ、例えば図1Aおよび図1Bに示すような円柱形状を有している。その結晶面12は略円形状であって上に凸状に湾曲している。結晶面12においては、その中心にシード11が存在し、結晶面12から隆起する筋状の隆起部13(以下、リッジ13ともいう)が形成されている。リッジ13は、結晶構造の境界部分で生じる物であり、中心にあるシード11から外側に向かって放射状に延在している。単結晶インゴット10がタンタル酸リチウムを含む場合には4つのリッジ13が形成される。単結晶インゴット10においては、結晶の成長条件によってリッジ13の結晶面12からの高さや幅が変動し、インゴット径によって結晶面12の傾斜が変動することになる。また、結晶面12の湾曲形状は一様ではなく、傾斜が急に変化する領域(図1A中の肩角度変化部14a、14b)がある。なお、単結晶インゴット10は、例えば4インチや6インチの大きさを有する。
【0021】
次に、単結晶インゴット10の結晶面12のうち、評価対象であるリッジ13を1つ含む領域に対して、図2に示すように配置した複数の光源20により光を照射する。図2は、単結晶インゴットに光を照射するための光源の配置について説明するための図である。
【0022】
本実施形態では、図2に示すように、複数の光源20をリッジ13の湾曲した形状に沿って配置して、複数の異なる照射角度で光を照射する。1つの光源20を用いて1つの照射角度から光を照射する場合、照射対象が湾曲する結晶面12や凸状のリッジ13であるため、これらに対して均一に光を照射することができず、撮像により得られる画像において陰影が生じ、リッジ形状を正確に把握できないことがある。この点、複数の光源20を結晶面12の湾曲した形状に沿うように配置して光を照射することで、結晶面12やリッジ13に対して均一に光を照射し、リッジ形状を正確に把握できるような画像を撮像することができる。
【0023】
光源20としては、平板状であって、一方の面側から光を照射する平面光源が好ましい。平面光源によれば、例えば点光源などと比べて光を均一に照射できるので、湾曲する結晶面12に光を照射したときでも光のムラを抑制することができる。
【0024】
また、複数の光源20は光の照射領域が重なるように配置することが好ましい。例えば、隣り合う光源20の照射領域が一部重なるように、複数の光源20を配置するとよい。結晶面12が湾曲しているため、1つの光源20の照射領域では光のムラが生じることがあるが、複数の光源20の照射領域が重なるようにすることで、個々の光源20によるムラを低減して、照射領域全域での陰影をより確実に抑制することができる。
【0025】
また、配置する光源20の数は、特に限定されないが、結晶面12に光をより均一に照射する観点からは、図2に示すように、結晶面12の湾曲した形状に沿う方向に少なくとも4つとすることが好ましい。結晶面12には傾斜が急に変化する領域(図1A中の肩角度変化部14a、14b)があり、そのような形状変化に対応して照射を均一にするには、4つ以上とするとよい。光源の数の上限は特に限定されず、光源を配置するスペースに応じて適宜するとよい。
【0026】
また、複数の光源20は、筋状に延在するリッジ13に沿って1列に配置してもよいが、光ムラを抑制する観点からは、リッジ13を挟んで2列配置することが好ましい。1列に配置する場合、照射方向によってはリッジ13の頂上部分で陰影ができてしまい、リッジ形状を正確に把握できないことがある。この点、リッジ13を挟んで2列配置し、これらの光源20からリッジ13の両側の斜面に対して光を照射することができ、陰影を抑制することができる。
【0027】
なお、光源20と単結晶インゴット10との距離(照射距離)は特に限定されず、例えば150mm以上250mm以下の範囲で適宜変更するとよい。
【0028】
次に、結晶面12に光を照射した領域を撮像する。撮像するためのカメラの位置は、特に限定されず、例えば画像においてリッジ13が中心に位置するように調整するとよい。
【0029】
撮像により得られる画像においては、光源20からの光が垂直に照射された箇所ほど白く表示され、垂直から離れた箇所ほど黒く表示される。具体的には、結晶面12やリッジ13の頂上部分は光が垂直に照射されやすいので白く表示され、リッジ13の頂上部分から結晶面12に至る斜面部分は光が垂直に照射されにくいので黒く表示される。
【0030】
なお、画像の取得に際しては、複数の光源20の照射角度を種々変更して撮像することを繰り返して、リッジ形状が明確に表示されているものを選択するとよい。
【0031】
次に、画像に基づいてリッジ形状を評価する。具体的には、リッジ13の幅を測定して評価する。ここでリッジ13の幅とは、画像において黒く表示されるリッジ13の傾斜部分の幅を示す。この幅は、リッジ13の斜面部分の角度が垂直に近づくほど狭くなり、逆に傾斜部分がなだらかになるほど広くなる。つまり、リッジ13の幅はリッジの傾斜角度や高さなどのリッジ形状の情報を含む。よって、リッジ13の幅によれば、リッジ13の形状を定量的に評価することができるので、より精度よく分析することができる。
【0032】
以上により、単結晶インゴット10におけるリッジ13の形状を精度よく分析することができる。
【0033】
なお、撮像により得られた画像はそのままリッジ形状の評価に用いてもよいが、例えば二値化処理を行った後に処理画像に基づいてリッジ形状の評価を行ってもよい。二値化処理によれば、リッジ13をより明確に表示できるので、その形状を精度よく分析することが可能となる。
【0034】
<本実施形態に係る効果>
上述したように、図1Aに示すようなタンタル酸リチウムを含む単結晶インゴット10の結晶面12に形成される筋状の隆起部13(リッジ13)を含む領域を撮像する場合、結晶面12やリッジ13が湾曲した形状であるため、1つの光源を用いて撮像すると、結晶面12のうち光源で照射された一部のみしか撮像できず、リッジ13の全体を撮像できない。そのため、リッジ13の全体像を取得するには、例えば光源を移動させて、照明角度を変えて撮像を繰り返し、得られた複数の画像を合成する必要がある。
【0035】
この点、本発明者は、比較形態として、1つの光源を結晶面の湾曲した形状に沿うように移動させることで、照明角度を変えて撮像を繰り返し、得られる4つの画像を画像処理により合成して、合成画像に基づいてリッジ形状の評価を行った。
【0036】
その結果、図4および図5に示すように、複数の画像を合成することで、リッジ形状を正確に評価可能な画像を得ることできた。図4(a)~(d)は、本発明の比較形態において、単結晶インゴットの結晶面を、1つの光源を用いて照明角度を変えながら撮像して得られた4つの画像を示す。図5は、本発明の比較形態において、単結晶インゴットの結晶面の合成画像を示す図であり、図4の4つの画像を合成した合成画像である。図5によれば、結晶面やリッジの頂上部分などは白く表示され、リッジの斜面部分が黒く表示されている。しかし、この図5を得るためには、1つの光源を用いて照明位置を変えながら複数回撮像し、更に複数画像を合成する必要があり、照明位置を変える機構、及び、画像合成の機構とそれに必要な時間がかかる。
【0037】
これに対して、本実施形態では、単結晶インゴット10の湾曲した結晶面12における筋状の隆起部13(リッジ13)を含む領域を撮像するときに、複数の光源20を結晶面12またはリッジ13の湾曲した形状に沿って配置して複数の異なる照射角度から光を照射している。このように結晶面12やリッジ13の形状に追従するように複数の光源20を配置することで、リッジ13に対して均一に光を照射することができる。そのため、得られる画像においては、1回の撮像において、必要な領域のリッジ形状を評価するための画像が得られる。
【0038】
具体的には、図3に示すような画像が得られる。図3は、結晶面における1つのリッジを含む領域に対して複数の光源により光を照射して撮像した画像である。この撮像においては、光源を、図2に示すように結晶面の湾曲した方向に沿って4つ、かつリッジを挟むように2列配置し、8つの光源を用いた。また各光源は隣り合う光源の照射領域が一部重なるように配置した。
【0039】
図3によれば、結晶面やリッジの頂上部分が白く、リッジの斜面部分が黒く表示され、かつ、そのコントラストが大きいので、リッジ形状を正確に把握することができる。そのため、リッジの幅をより正確に測定することができる。
【0040】
また、光源として平面光源を用いることが好ましい。平面光源によれば、点光源と比較して光のムラを抑制できるので、リッジ形状をより正確に分析することが可能となる。
【0041】
また、複数の光源を照射領域が重なるように配置して光を照射することが好ましい。これにより、個々の光源による光のムラを低減し、照射領域全域での陰影をより確実に抑制することができる。
【0042】
また、リッジの湾曲した形状に沿う方向に光源を少なくとも4つ配置することが好ましい。また、複数の光源を、リッジの湾曲した形状に沿った方向に、リッジを挟んで2列配置することが好ましい。このように、筋状に延在する1つのリッジに対して、その延在方向に少なくとも4つ、かつ、リッジの斜面部分の両側に光を照射するためにリッジを挟んで2列となるよう、複数の光源を配置することにより、湾曲した結晶面上に隆起するリッジに光を照射した場合であっても陰影を低減することができる。これにより、撮像により得られる画像においてリッジ形状をより明確に表示させることができる。
【0043】
また、撮像により得られる画像に基づいて、リッジの幅、つまり斜面部分の幅を測定することにより、リッジ形状、例えばリッジの傾斜角度や高さなどを定量的に把握することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【符号の説明】
【0045】
10 単結晶インゴット
11 種結晶(シード)
12 結晶面
13 隆起部(リッジ)
14a、14b 肩角度変化部
20 光源
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5