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  • 特許-電気二重層トランジスタ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】電気二重層トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/786 20060101AFI20230825BHJP
【FI】
H01L29/78 618B
H01L29/78 617T
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020115402
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022013089
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】池田 愛
(72)【発明者】
【氏名】谷保 芳孝
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】野島 勉
【審査官】高橋 優斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-191394(JP,A)
【文献】特開2018-113330(JP,A)
【文献】特開2011-243632(JP,A)
【文献】特開2012-114373(JP,A)
【文献】国際公開第2011/148699(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/087793(WO,A1)
【文献】特開2017-199825(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0024092(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0068925(US,A1)
【文献】国際公開第2006/098416(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/336
H01L29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ACuO2(A=Ba、Sr、Ca)、または、Aの一部を希土類元素で置換したA1-xxCuO2(Rは希土類元素)を有する化合物から構成された薄膜と、
前記薄膜の表面に互いに離間して形成されたソース電極およびドレイン電極と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記薄膜に形成され、キャリアが導入されたキャリア導入層と、
前記キャリア導入層の上に形成された絶縁体からなる保護層と、
前記保護層の表面に接する状態で配置されたイオン液体と、
前記ソース電極、前記ドレイン電極、および前記薄膜とは離間して、前記イオン液体に接触するゲート電極と
を備える電気二重層トランジスタ。
【請求項2】
請求項1記載の電気二重層トランジスタにおいて、
前記保護層は、EuFeO3もしくはCa2Fe25の結晶から構成されていることを特徴とする電気二重層トランジスタ。
【請求項3】
請求項2記載の電気二重層トランジスタにおいて、
前記保護層は、1~2単位胞厚さとされていることを特徴とする電気二重層トランジスタ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の電気二重層トランジスタにおいて、
前記イオン液体は、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドから構成されていることを特徴とする電気二重層トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ土類金属(A=Ca,Sr,Ba)-銅(Cu)-酸素(O)からなり、ACuO2の組成式を持つ化合物は、銅酸化物高温超伝導体の母物質の1つとして知られている。この物質は、図3に示すよう、アルカリ土類金属による層を挟むCuO2の原子層が無限に積み重なる結晶構造を持つことから、無限層銅酸化物と呼ばれる。
【0003】
銅酸化物は共通りしてCuO2面に電子もしくはホールをドープすることによって金属化することが知られている。このため、無限層銅酸化物は、上述した物性を利用したトランジスタへの応用が期待される。
【0004】
この種のトランジスタとしては、例えば、図4に示すような、電気二重層トランジスタがある(非特許文献1,非特許文献2)。このトランジスタは、無限層銅酸化物から構成された薄膜301と、薄膜301の表面に互いに離間して形成されたソース電極302およびドレイン電極303と、ソース電極302とドレイン電極303との間の薄膜301に形成され、キャリアが導入されたキャリア導入層304と、キャリア導入層304の上に接する状態で配置されたイオン液体305と、イオン液体305に接触するゲート電極306とを備える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】K. Ueno et al., "Field-Induced Superconductivity in Electric Double Layer Transistors", Journal of the Physical Society of Japan, vol. 83, 032001, 2014.
【文献】岩佐 義宏、下谷 秀和、「融合学理イオントロニクス」、応用物理、第84巻、第4号、306-318頁、2015年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した電気二重層トランジスタでは、キャリア導入層304の上に、イオン液体305が接しており、この状態で、ゲート電極306にゲート電圧が印加される。このため、ある閾値以上の電圧印加では、無限層銅酸化物の薄膜301とイオン液体305との固液界面において、エッチング反応や還元反応などの様々な電気化学反応が起こる。
【0007】
例えば、無限層銅酸化物CaCuO2と、イオン液体としてDEME-TFSIとを用いる場合、+2.5V以上で脱酸素(還元)反応、-4.5V以下でエッチング反応が起きる。このような反応が起きると、キャリア導入層304の特性が大きく変化し、電気二重層トランジスタを設計通りの性能で動作させることができなくなる。
【0008】
このように、従来の技術では、電気二重層トランジスタを、所望とする条件により設計通りの性能で動作させることができないという問題があった。
【0009】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、電気二重層トランジスタを、所望とする条件により設計通りの性能で動作させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電気二重層トランジスタは、ACuO2(A=Ba、Sr、Ca)、または、Aの一部を希土類元素で置換したA1-xxCuO2(Rは希土類元素)を有する化合物から構成された薄膜と、薄膜の表面に互いに離間して形成されたソース電極およびドレイン電極と、ソース電極とドレイン電極との間の薄膜に形成され、キャリアが導入されたキャリア導入層と、キャリア導入層の上に形成された絶縁体からなる保護層と、保護層の表面に接する状態で配置されたイオン液体と、ソース電極、ドレイン電極、および薄膜とは離間して、イオン液体に接触するゲート電極とを備える。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、キャリア導入層の上に絶縁体からなる保護層を備えるので、電気二重層トランジスタを、所望とする条件により設計通りの性能で動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る電気二重層トランジスタの構成を示す断面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係る電気二重層トランジスタにおける、ゲート電流-ゲート電圧特性を示す特性図である。
図3図3は、CaCuO2の結晶構造を示す斜視図である。
図4図4は、電気二重層トランジスタの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る電気二重層トランジスタについて図1を参照して説明する。
【0014】
この電気二重層トランジスタは、薄膜101と、薄膜101の表面に互いに離間して形成されたソース電極102およびドレイン電極103と、ソース電極102とドレイン電極103との間の薄膜101に形成され、キャリアが導入されたキャリア導入層104とを備える。薄膜101は、ACuO2(A=Ba、Sr、Ca)、または、Aの一部を希土類元素で置換したA1-xxCuO2(Rは希土類元素)を有する化合物から構成されている。
【0015】
また、この電気二重層トランジスタは、イオン液体105と、ゲート電極106と、保護層107とを備える。保護層107は、絶縁体から構成され、キャリア導入層104の上に形成されている。保護層107は、例えば、EuFeO3もしくはCa2Fe25の結晶から構成することができる。これら材料から構成した保護層107は、1~2単位胞厚さとすることができる。
【0016】
イオン液体105は、保護層107の表面に接する状態で配置される。イオン液体105は、例えば、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[N,N-Diethyl-N-methyl-N-(2-methoxyethyl)ammonium bis(trifluoro methanesulfonyl)imide:DEME-TFSI]から構成することができる。なお、この例では、イオン液体105は、ソース電極102およびドレイン電極103にも接触している。
【0017】
ゲート電極106は、ソース電極102、ドレイン電極103、および薄膜101とは離間して、イオン液体105に接触する。
【0018】
以下、電気二重層トランジスタの製造方法を説明し、キャリア導入層104について説明する。
【0019】
まず、製造方法について説明する。まず、薄膜101を形成する。薄膜101は、例えば、(LaAlO30.3-(SrAl0.5Ta0.530.7の単結晶からなる基板(不図示)の上に、よく知られた分子線エピタキシー(MBE)法により形成することができる。薄膜101は、例えば、CaCuO2から構成し、厚さ70nmに形成することができる。
【0020】
次に、薄膜101の上に、保護層107となる絶縁膜を形成する。絶縁膜は、例えば、薄膜101の形成と同じMBE装置を用い、薄膜101の形成に引き続き、処理室の内部を大気解放することなく、MBE法によりEuFeO3もしくはCa2Fe25を結晶成長することで形成する。絶縁膜は、厚さ1nm程度に形成することができる。この後、絶縁膜を公知のリソグラフィー技術およびエッチング技術などによりパターニングすることで、保護層107を形成する。
【0021】
次に、保護層107を挾んで、薄膜101の表面に互いに離間してソース電極102およびドレイン電極103を設ける。例えば、よく知られた金属堆積技術により堆積した電極となる金属の膜を、公知のリソグラフィー技術およびエッチング技術によりパターニングすることで、ソース電極102およびドレイン電極103が形成できる。
【0022】
次に、保護層107の表面に接する状態でイオン液体105を配置する。次に、ソース電極102、ドレイン電極103、および薄膜101とは離間して、イオン液体105に接触するゲート電極106を設ける。
【0023】
次に、ゲート電極106にゲート電圧を印加する。このゲート電圧の印加により、ソース電極102とドレイン電極103との間の、保護層107の下の薄膜101に、キャリアが導入されたキャリア導入層104を形成する。この工程では、ソース電極102とドレイン電極103との間の抵抗値を測定しながら、ゲート電圧を印加する。また、この工程では、ソース電極102とドレイン電極103との間の抵抗値に対応させ、ゲート電圧の印加を制御することで、キャリア導入層104におけるキャリア濃度を制御する。
【0024】
ここで、実施の形態では、保護層107が形成されている状態で、キャリア導入層104を形成するので、キャリア導入層104におけるキャリア濃度の制御範囲を、保護層107がない場合に比較して、より大きくすることができる。
【0025】
上述した、電界効果により表面の電子もしくはホール密度変調させる電界キャリアドープでは、キャリアをドープする領域の上にイオン液体105を配置し、これをゲート絶縁体として電界(ゲート電圧)を印加し、キャリア導入層104を形成している。
【0026】
この電界キャリアドープにおいて、保護層107を形成しない場合、キャリアを導入する領域の無限層銅酸化物の層に、イオンを含む液体が接するものとなる。この状態では、ある閾値以上の電圧印加で、無限層銅酸化物の層と液体との固液界面において、エッチング反応や還元反応などの様々な電気化学反応が起こる。
【0027】
上述したイオン液体105や電解質といったイオンを含む液体を用いた電界キャリアドープでは、結晶性を保ったまま電子からホールへ(あるいはホールから電子へ)キャリア符号を変化させるようなキャリアドープが可能である。このため、ドーパントの選定に大きな制限がある元素置換による不純物ドーピングに比べ、キャリア制御の精度および自由度が高い。
【0028】
しかしながら、ある閾値を超えたゲート電圧において、イオンとドープされる物質の間に起こる電気化学反応が起こる。このため、キャリア導入層104を形成する薄膜101の組成、厚さを変えずにキャリアドープを実現するには、上限となる閾値内の電圧(電位窓)で、ドープせざるを得ず、これがドープ量の限界となっていた。
【0029】
例えば、無限層銅酸化物CaCuO2と、イオン液体105としてDEME-TFSIとを用いる場合、+2.5V以上で脱酸素(還元)反応、-4.5V以下でエッチング反応が起きる。このため、上述した材料の組み合わせで電界キャリアドープの効果が期待できるゲート電圧VGの範囲は、-4.5V<VG<+2.5Vの範囲に限られる。
【0030】
このように、保護層107を形成しない場合、1ユニットセル当たり0.1電子以上もしくは0.1ホール以上という広範囲の物性制御ができないなど、電界キャリアドープによるドープ量に制限がある。
【0031】
これに対し、実施の形態によれば、保護層107を設けているので、上述した無限層銅酸化物とイオン液体105との接触がなくなり、キャリア導入層104の形成における印加電圧の制限がなくなる。この結果、実施の形態によれば、絶対値がより高いゲート電圧を印加することが可能となり、様々な値でキャリアをドープすることが可能となる。
【0032】
なお、保護層107は、ゲート電圧印加による電界キャリアドープで、キャリア導入層104が形成可能な範囲の厚さとすることが重要である。また、保護層107は、上述した脱酸素(還元)反応、およびエッチング反応が防止できる厚さとすることが重要である。これらの観点より、保護層107は、例えば、EuFeO3もしくはCa2Fe25の結晶から構成する場合、1~2単位胞厚さとすることができる。また、保護層107は、イオン液体105に接して配置されるため、ゲート電圧印加による電界キャリアドープが起きない材料から構成することも重要である。
【0033】
また、当然ながら、保護層107が形成されているので、キャリア導入層104とイオン液体105とが接触することがなく、電気二重層トランジスタを、所望とする条件により設計通りの性能で動作させることができる。
【0034】
また、前述したように、薄膜101の形成に連続して、薄膜101の上に保護層107となる絶縁膜を形成することで、薄膜101の表面の、自然酸化膜の形成などによる汚染が防げるようになる。このような汚染は、キャリア導入層104におけるキャリアがトラップされるなどの原因となり、電気二重層トランジスタの特性劣化を招く。保護層107を設けることで、このような電気二重層トランジスタの特性劣化も防げるようになる。
【0035】
次に、薄膜101をCaCuO2から構成し、イオン液体105をDEME-TFSIとした実施の形態に係る電気二重層トランジスタにおける、ゲート電流-ゲート電圧特性について、図2に示す。図2に示すように、保護層107がない場合、負の大きなゲート電圧(-4.5V以下)において、エッチング反応(負)によるゲート電流の絶対値に急激な増大が起きている。また、保護層107がない場合、正の大きなゲート電圧(+2.5V以上)では、脱酸素反応(正)によるゲート電流の絶対値に急激な増大が起きている。
【0036】
これに対し、保護層107がある場合は、負の大きなゲート電圧(-4.5V以下)において、ゲート電流の絶対値に急激な増大はなく、ゲート電流の絶対値の上昇は5nA以下に抑えられ、エッチング反応(負)が大幅に抑制されていることがわかる。また、保護層107がある場合、正の大きなゲート電圧(+2.5V以上)において、ゲート電流が測定され、ゲート電流の絶対値の上昇は5nA以下に抑えられ、脱酸素反応(正)が大幅に抑制されていることがわかる。
【0037】
以上に説明したように、本発明によれば、キャリア導入層の上に絶縁体からなる保護層を備えるので、電気二重層トランジスタを、所望とする条件により設計通りの性能で動作させることができるようになる。
【0038】
本発明によれば、従来の電気二重層トランジスタのキャリア制御範囲を超えるホールおよび電子のドーピング量を、単一素子のみで連続的かつ広範囲に可変できるので、材料合成、材料評価に要する時間が大幅に削減し、材料開発の効率化向上が図れる。
【0039】
無限層構造を持つCaCuO2および(Ca1-xNdx)CuO2薄膜では、元素置換、電界ドープ、それらの組み合わせたデバイスでも、キャリアドープ量に限界があった。本発明により、単一の薄膜作製だけで、簡便かつ素子の品質を保ったまま、従来にない広範囲のキャリアドープによる物性評価が可能となる。
【0040】
また、本発明によれば、電気二重層トランジスタ性能の向上が可能となる。従来の電気二重層トランジスタでは、イオン液体と無限層銅酸化物との間で起こる電気化学反応が不可避であり、これが電界キャリアドープによるドープ量の上限を決めていた。本発明によれば、この上限以上にキャリアをドープすることが可能となり、電気二重層トランジスタ性能の向上を可能としている。また、本発明によれば、無限層銅酸化物に限らず、電界キャリアドープの適用可能な物質の範囲の拡大が可能となる。
【0041】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0042】
101…薄膜、102…ソース電極、103…ドレイン電極、104…キャリア導入層、105…イオン液体、106…ゲート電極、107…保護層。
図1
図2
図3
図4