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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】水処理システム及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/52 20230101AFI20230825BHJP
   B01D 21/30 20060101ALI20230825BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20230825BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20230825BHJP
【FI】
C02F1/52 Z
B01D21/30 A
C02F1/44 A
C02F1/44 D
C02F1/52 K
G06T7/00 350C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020172681
(22)【出願日】2020-10-13
(65)【公開番号】P2022064136
(43)【公開日】2022-04-25
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(73)【特許権者】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100187908
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 康平
(72)【発明者】
【氏名】丁 青
(72)【発明者】
【氏名】山村 寛
(72)【発明者】
【氏名】薮野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】西川 健幸
(72)【発明者】
【氏名】小松 賢作
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-221194(JP,A)
【文献】特開平08-197100(JP,A)
【文献】特開2020-078797(JP,A)
【文献】特開平10-202270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/52- 1/56
B01D 21/00-21/34
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を含む被処理水に凝集剤を添加する凝集剤添加部と、
前記不純物の凝集により形成される凝集フロックのフラクタル次元を測定するフラクタル次元測定部と、
前記凝集フロックのフラクタル次元の測定値に基づいて、前記凝集フロックのフラクタル次元の測定値が、フラクタル次元と可逆性ファウリングポテンシャルとの線形関係が維持される線形領域に収まるように前記凝集剤添加部を制御して前記被処理水への前記凝集剤の添加量を調整する添加量制御部と、
前記凝集フロックを含む前記被処理水を膜濾過する膜濾過部と、を備えた、水処理システム。
【請求項2】
前記凝集フロックのフラクタル次元と前記膜濾過部の可逆性ファウリングポテンシャルとの相関データが格納された記憶部をさらに備える、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記添加量制御部は、前記凝集フロックのフラクタル次元の測定値が、前記線形関係を有しないフラクタル次元の最小値以下の領域に収まるように、前記凝集剤添加部を制御する、請求項2に記載の水処理システム。
【請求項4】
前記フラクタル次元測定部は、前記凝集フロックの画像データを取得する画像取得部を含み、前記画像データに基づいて前記凝集フロックのフラクタル次元の測定値を得る、請求項2又は3に記載の水処理システム。
【請求項5】
前記フラクタル次元測定部は、前記画像データとフラクタル次元とを教師データとして機械学習された予測モデルを用いて、前記画像データからフラクタル次元の測定値を出力する出力部をさらに含み、
前記添加量制御部は、出力されたフラクタル次元の測定値が前記線形領域に収まるように、前記凝集剤添加部を制御する、請求項4に記載の水処理システム。
【請求項6】
不純物を含む被処理水に凝集剤を添加する凝集剤添加部と、
前記不純物の凝集により形成される凝集フロックの画像データを取得する画像取得部と、
前記凝集フロックのフラクタル次元が目標範囲に収まっているか否かを前記画像データから判定する判定部と、
前記判定部による判定結果に基づいて、前記凝集フロックのフラクタル次元の測定値が、フラクタル次元と可逆性ファウリングポテンシャルとの線形関係が維持される線形領域に収まるように前記凝集剤添加部を制御して前記被処理水への前記凝集剤の添加量を調整する添加量制御部と、
前記凝集フロックを含む前記被処理水を膜濾過する膜濾過部と、を備えた、水処理システム。
【請求項7】
不純物を含む被処理水に凝集剤を添加する工程と、
前記凝集剤の添加により形成される凝集フロックのフラクタル次元を測定する工程と、
前記凝集フロックを含む前記被処理水を膜濾過する工程と、を備え、
予め得られた前記凝集フロックのフラクタル次元と膜濾過における可逆性ファウリングポテンシャルとの相関関係に基づいて、前記凝集フロックのフラクタル次元の測定値が、フラクタル次元と可逆性ファウリングポテンシャルとの線形関係が維持される線形領域に収まるように、前記凝集剤の添加量を調整する、水処理方法。
【請求項8】
前記被処理水に前記凝集剤を添加した後、前記凝集フロックの沈殿操作を行わずに前記被処理水を直接膜濾過する、請求項7に記載の水処理方法。
【請求項9】
前記被処理水を膜濾過する工程では、片端フリータイプの中空糸膜モジュールを用いる、請求項7又は8に記載の水処理方法。
【請求項10】
前記中空糸膜モジュールを二次側からのエア加圧により逆洗する工程をさらに備えた、請求項9に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理システム及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜濾過による水処理技術は、安全性が高く且つ高品質であり、さらにコンパクトで低コストなプロセスにより水中の不純物を分離可能である等の理由から、様々な分野で利用されている。現状、膜濾過の技術課題としては、以下の点が挙げられる。
【0003】
第一に、水質変動に対応可能であることが必要である。例えば、河川水の濾過において、気候変動を背景に集中豪雨等により河川の水質が急激に変動する場合がある。このような場合にも、河川水を安定に膜濾過するための技術が求められる。
【0004】
第二に、高難度水にも対応可能であることが求められる。膜濾過は、高品質な処理水を提供可能な濾過精度を有する一方、多量の有機物や微細粒子を含む水を濾過する際に膜の目詰まりが発生する場合がある。したがって、このような高難度水の処理に膜濾過を適用するのが困難という問題がある。
【0005】
第三に、流束(フラックス)が高い場合の濾過にも対応可能であることが求められる。フラックス(単位面積、単位時間当たりの透水量、L/m/hr)を高めることにより、装置をよりコンパクトにして低コスト化することができる。
【0006】
これらの課題を解決する方法として、凝集剤の添加と膜濾過を組み合わせた凝集膜濾過法が考えられる。この方法によれば、上記課題に対して以下の解決策を提供することができる。
【0007】
第一の課題に対し、水質変動に応じて被処理水への凝集剤の添加量を調整することにより、水質変動に依らず安定した膜濾過が可能になる可能性がある。第二の課題に対し、被処理水が多量の有機物や微細粒子を含む場合でも、凝集剤の添加によってこれらをフロック化した状態で濾過することにより、膜の目詰まりが抑制される。第三の課題に対し、凝集フロックの特性を適宜制御することにより、高フラックスの濾過条件を達成可能となる可能性がある。
【0008】
従来の凝集膜濾過法では、凝集剤の添加によってフロックを形成した後、当該フロックを沈殿槽で沈殿させ、その後上澄み水を濾過するのが主流であった。この場合、沈殿槽にて十分な水面積負荷(滞留時間)を確保するために比較的大きな水槽が必要になり、設置スペースの問題が生じる。また凝集剤の添加量が多くなり易く、コスト高になりがちという問題もある。
【0009】
従来の凝集膜濾過法では、凝集フロックの沈降性に着目してその特性が制御される。例えば、特許文献1には、沈降性の良いフロックを形成可能な凝集沈殿制御装置や制御方法が記載されている。また特許文献2には、懸濁物質を含む原液への凝集剤の注入率を決定することが可能な凝集方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2019-55406号公報
【文献】特開2017-121601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
凝集膜濾過法において、凝集フロックを沈殿させず、凝集フロックを含む被処理水を直接膜濾過することが可能であれば、沈殿槽の設置スペースの問題が解消されるだけでなく、凝集剤の添加量の削減も期待できる。しかし、特許文献1は、沈降性の良い凝集フロックを形成するための技術を提案するものであり、安定な膜濾過運転という目的で適切な凝集フロックを形成するという視点はない。このため、凝集フロックを含む被処理水を直接膜濾過すると、凝集フロックが膜表面に付着することにより当該膜表面にケーク層が形成され、濾過運転の継続が困難になる場合がある(可逆性ファウリング)。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、可逆性ファウリングを抑制しつつ被処理水を膜濾過することが可能な水処理システム及び水処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一局面に係る水処理システムは、不純物を含む被処理水に凝集剤を添加する凝集剤添加部と、前記不純物の凝集により形成される凝集フロックのフラクタル次元を測定するフラクタル次元測定部と、前記凝集フロックのフラクタル次元の測定値に基づいて、前記凝集フロックのフラクタル次元の測定値が、フラクタル次元と可逆性ファウリングポテンシャルとの線形関係が維持される線形領域に収まるように前記凝集剤添加部を制御して前記被処理水への前記凝集剤の添加量を調整する添加量制御部と、前記凝集フロックを含む前記被処理水を膜濾過する膜濾過部と、を備える。
【0014】
本発明者等は、凝集フロックを含む被処理水を直接膜濾過する際に、可逆性ファウリングを抑制する上で凝集フロックのどのような特性が重要であるのかについて鋭意研究を行った。その結果、本発明者等は、以下の知見を得て本発明に想到した。
【0015】
被処理水に含まれる有機物や微細粒子等は、膜の不可逆性ファウリング(膜の目詰まり)の原因になるが、これらは凝集剤の添加によってフロック化する。このため、凝集剤が添加された被処理水を直接膜濾過する場合でも、不可逆性ファウリングの発生は抑制可能である。しかし一方で、凝集フロックの形成により水中のSS(Suspended Solid)の濃度が高くなり、これが可逆性ファウラントとして膜表面に蓄積することによりケーク層が形成される。そして、ケーク層の通水抵抗(ケーク抵抗)が急上昇し、膜濾過の運転継続が困難になる場合がある。
【0016】
本発明者等は、上記の問題点に着目し、膜濾過における可逆性ファウリングが凝集フロックのどのような特性により支配されているのかについて鋭意研究を行った。その結果、本発明者等は、凝集フロックのフラクタル次元という特性が膜濾過における可逆性ファウリングのポテンシャル(ケーク抵抗)との間に高い相関性を有することを見出し、本発明に想到した。
【0017】
本発明は、上記の観点に基づいてなされたものである。本発明の水処理システムでは、凝集剤の添加により被処理水中に凝集フロックが形成され、この凝集フロックのフラクタル次元の測定値に基づいて、凝集フロックのフラクタル次元の測定値が、フラクタル次元と可逆性ファウリングポテンシャルとの線形関係が維持される線形領域に収まるように被処理水への凝集剤の添加量が調整される。このように、膜濾過の可逆性ファウリングポテンシャルとの相関性が高いフラクタル次元を指標として凝集剤の添加量を調整することにより、凝集フロックを含む被処理水を直接膜濾過する場合でも可逆性ファウリングを抑制可能となる。
【0018】
上記水処理システムは、前記凝集フロックのフラクタル次元と前記膜濾過部の可逆性ファウリングポテンシャルとの相関データが格納された記憶部をさらに備えていてもよい
【0019】
本発明者等の研究結果によれば、可逆性ファウリングポテンシャルは、フラクタル次元が小さい領域ではフラクタル次元の増加に対して線形的に増加する一方、フラクタル次元がある閾値を超えると、線形関係から外れて急上昇する傾向がある。これは、フラクタル次元の増加により凝集フロックの密度が上がり、密度が一定以上になるとケーク抵抗に大きく影響し始めるためである。この知見に基づき、フラクタル次元が上記線形領域に収まるように凝集剤の添加量を調整することにより、膜濾過部の可逆性ファウリングをより効果的に抑制することができる。
【0020】
一方、フラクタル次元が上記線形領域内であっても小さ過ぎる場合には、凝集不良が起こり、微細なフロックや凝集していない有機物等が不可逆性ファウラントとなって膜濾過運転が阻害される場合がある。このため、凝集フロックのフラクタル次元が好ましくは0.8以上、更に好ましくは1.0以上、最も好ましくは1.2以上になるように凝集剤の添加量を調整することが好ましい。
【0021】
ここで、「線形関係が維持される領域」とは、フラクタル次元を増加させたときに、フラクタル次元と可逆性ファウリングポテンシャルの線形近似式のR値が、好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.8以上、最も好ましくは0.85以上に維持される領域を意味する。
【0022】
上記水処理システムにおいて、前記添加量制御部は、前記凝集フロックのフラクタル次元の測定値が、前記線形関係を有しないフラクタル次元の最小値以下の領域に収まるように、前記凝集剤添加部を制御してもよい。
【0023】
この構成によれば、膜濾過部の可逆性ファウリングをより効果的に抑制することができる。
【0024】
上記水処理システムにおいて、前記フラクタル次元測定部は、前記凝集フロックの画像データを取得する画像取得部を含んでいてもよく、前記画像データに基づいて前記凝集フロックのフラクタル次元の測定値を得るものであってもよい。
【0025】
この構成によれば、レーザ回折散乱法を用いてフラクタル次元を測定する場合に比べて、装置コストを下げると共に装置メンテナンスの負担を軽減することもできる。
【0026】
上記水処理システムにおいて、前記フラクタル次元測定部は、前記画像データとフラクタル次元とを教師データとして機械学習された予測モデルを用いて、前記画像データからフラクタル次元の測定値を出力する出力部をさらに含んでいてもよい。前記添加量制御部は、出力されたフラクタル次元の測定値が前記線形領域に収まるように、前記凝集剤添加部を制御してもよい。
【0027】
この構成によれば、機械学習の学習済みモデルを導入することにより、凝集フロックの画像データからフラクタル次元の測定値が瞬時に得られる。このため、膜濾過運転の現場において、フラクタル次元を連続的に測定しつつ、その測定結果に応じて凝集剤の添加量を適宜調整することができる。
【0028】
本発明の他の局面に係る水処理システムは、不純物を含む被処理水に凝集剤を添加する凝集剤添加部と、前記不純物の凝集により形成される凝集フロックの画像データを取得する画像取得部と、前記凝集フロックのフラクタル次元が目標範囲に収まっているか否かを前記画像データから判定する判定部と、前記判定部による判定結果に基づいて、前記凝集フロックのフラクタル次元の測定値が、フラクタル次元と可逆性ファウリングポテンシャルとの線形関係が維持される線形領域に収まるように前記凝集剤添加部を制御して前記被処理水への前記凝集剤の添加量を調整する添加量制御部と、前記凝集フロックを含む前記被処理水を膜濾過する膜濾過部と、を備える。
【0029】
この構成によれば、フラクタル次元が目標範囲内であるか否かを画像データから直接判定した上で凝集剤の添加量が適切に調整されるため、凝集フロックを含む被処理水を直接膜濾過する場合でも可逆性ファウリングを抑制することができる。
【0030】
本発明のさらに他の局面に係る水処理方法は、不純物を含む被処理水に凝集剤を添加する工程と、前記凝集剤の添加により形成される凝集フロックのフラクタル次元を測定する工程と、前記凝集フロックを含む前記被処理水を膜濾過する工程と、を備える。この水処理方法では、予め得られた前記凝集フロックのフラクタル次元と膜濾過における可逆性ファウリングポテンシャルとの相関関係に基づいて、前記凝集フロックのフラクタル次元の測定値が、フラクタル次元と可逆性ファウリングポテンシャルとの線形関係が維持される線形領域に収まるように、前記凝集剤の添加量を調整する。
【0031】
このようにすれば、可逆性ファウリングポテンシャルが急上昇しない領域にフラクタル次元を制御することにより、膜濾過中の可逆性ファウリングを効果的に抑制することができる。
【0032】
上記水処理方法において、前記被処理水に前記凝集剤を添加した後、前記凝集フロックの沈殿操作を行わずに前記被処理水を直接膜濾過してもよい。
【0033】
このようにすれば、沈殿槽の設置スペースの問題が生じず、また凝集フロックを沈殿させる場合に比べて凝集剤の添加量を少量に抑えることができる。
【0034】
上記水処理方法において、前記被処理水を膜濾過する工程では、片端フリータイプの中空糸膜モジュールを用いてもよい。
【0035】
上記水処理方法は、前記中空糸膜モジュールを二次側からのエア加圧により逆洗する工程をさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0036】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、可逆性ファウリングを抑制しつつ被処理水を膜濾過することが可能な水処理システム及び水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の実施形態1に係る水処理システムの構成を模式的に示す図である。
図2】上記水処理システムに用いられる中空糸膜モジュールの構成を模式的に示す図である。
図3】フラクタル次元と可逆性ファウリングポテンシャルとの関係を示すグラフである。
図4】本発明の実施形態1に係る水処理方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係る水処理システム及び水処理方法を詳細に説明する。
【0039】
(実施形態1)
<水処理システム>
まず、本発明の実施形態1に係る水処理システム1の構成を、図1及び図2に基づいて説明する。水処理システム1は、膜濾過により被処理水から不純物を除去して処理水を得るものであり、膜濾過の前段で凝集剤を被処理水に添加する。図1に示すように、水処理システム1は、凝集槽20と、凝集剤添加部10と、フラクタル次元測定部40と、添加量制御部31と、判定部32と、記憶部33と、膜濾過部50とを主に備える。
【0040】
凝集槽20は、被処理水に含まれる有機物や微細粒子等の不純物の凝集操作を行うための槽であり、膜濾過部50の前段に設置されている。被処理水としては、例えば河川水、湖沼水、地下水及び工業廃水等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0041】
凝集剤添加部10は、凝集槽20内の被処理水に凝集剤を添加するものである。凝集剤添加部10は、凝集剤源11と、凝集剤源11から凝集槽20に凝集剤を添加するための添加ライン12と、添加ライン12に設置されると共に凝集槽20への凝集剤の添加量を調整する添加量調整部13とを含む。添加量調整部13は、例えばポンプであり、回転数により凝集剤の添加量を調整する。
【0042】
凝集剤の種類は特に限定されないが、例えばポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、塩化第二鉄、硫酸第二鉄又はポリシリカ鉄等を用いることができる。図1に示すように、凝集槽20には撹拌機構21が設けられており、凝集剤添加後の被処理水が撹拌機構21によって撹拌されることにより、凝集フロックが被処理水中に形成される。また、凝集槽20内に所定のpH調整剤を添加するpH調整剤添加部がさらに設けられていてもよい。
【0043】
フラクタル次元測定部40は、凝集フロックのフラクタル次元を測定する。本実施形態におけるフラクタル次元測定部40は、凝集槽20から流出した被処理水(凝集フロック含有水)を一時的に貯める貯留槽42と、貯留槽42内の被処理水に含まれる凝集フロックの画像データを取得するカメラである画像取得部41と、当該画像データから凝集フロックのフラクタル次元の測定値を出力する出力部43とを含む。
【0044】
貯留槽42は、凝集槽20の後段で且つ膜濾過部50の前段に設置されている。画像取得部41は、凝集フロックの画像データを出力部43に送信する。出力部43は、凝集フロックの画像データとフラクタル次元とを教師データとして機械学習された予測モデルを用いて、画像取得部41から送信された画像データを入力としてフラクタル次元の測定値を出力する。
【0045】
この機械学習の学習済みモデルは、特に限定されないが、例えば以下の方法により作製されるものであり、コントローラ30(コンピュータ)に搭載されている。まず、凝集剤の添加量やpH等の凝集条件を変更し、種々のフラクタル次元の水を準備する。そして、凝集フロックの画像データとフラクタル次元の値とを紐付けたデータを十分な量準備し(例えば数千パターン)、これを機械学習の教師付データ(トレーニングデータ)として使用する。画像から確認される凝集フロックの密度が高い場合にはフラクタル次元の値が大きくなり、凝集フロックの密度が低い場合にはフラクタル次元の値が小さくなる、という相関関係がある。具体的なディープラーニングの手法としては、CNN(Convolutional Neural Network)としてAlexNetやResNetを用いることができる。また上記データの一部をテストデータとしてモデル精度を検証することができる。モデル精度は、80%以上であることが好ましく、93%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
【0046】
膜濾過部50は、凝集フロックを含む被処理水を膜濾過するものであり、例えば外圧式の中空糸膜モジュールである。図1に示すように、貯留槽42の出口と膜濾過部50の入口とを接続する入口ラインL1には、膜濾過部50の一次側圧力を検知する一次側圧力センサP1が設けられている。また膜濾過部50の出口に接続された出口ラインL2には、膜濾過部50の二次側圧力を検知する二次側圧力センサP2が設けられている。一次側圧力センサP1の検出値から二次側圧力センサP2の検出値を引いた値が、中空糸膜モジュールの膜間差圧(TMP)である。なお、膜濾過部は中空糸膜モジュールに限定されない。
【0047】
図2は、膜濾過部50の内部構成を模式的に示している。図2に示すように、膜濾過部50は、束状の複数の中空糸膜52を有する中空糸膜束53と、中空糸膜束53を収容するハウジング51とを備える。ハウジング51の内部には、濾過前の被処理水が流入する一次側空間S1と、一次側空間S1に対して液密に仕切られると共に処理水が流入する二次側空間S2とが設けられている。
【0048】
中空糸膜束53は、片端フリータイプのものである。すなわち、中空糸膜52は、上端52Bと下端52Aとを含み、上端52Bが開口した状態で固定部材54により固定されると共に、下端52Aが固定されずに一本ずつ封止されている。この封止樹脂としては、例えばエポキシ樹脂やウレタン樹脂を用いることができる。片端フリータイプの中空糸膜束53は、各中空糸膜52が独立して揺動可能であるため、濁質成分が蓄積しにくい。一次側空間S1と二次側空間S2とは、固定部材54により互いに隔離されている。なお、中空糸膜束は片端フリータイプに限定されず、両端が固定されたものでもよい。
【0049】
中空糸膜52の上端52Bは、固定部材54を厚さ方向に貫通し、二次側空間S2に開口している。これにより、一次側空間S1内の被処理水が中空糸膜52の外面から内面に向かって透過することにより得られた処理水が、上端52B側の開口から二次側空間S2に流出する。
【0050】
ハウジング51は、上下方向に長い中空円筒形状の容器であり、上面51Aと、下面51Cと、これらを接続する側面51Bとを含む。図2に示すように、ハウジング51内の一次側空間S1に中空糸膜束53が収容されている。
【0051】
ハウジング51の下面51Cには、入口ラインL1(図1)の下流端が接続された水入口46が設けられている。またハウジング51の側面51Bのうち下面51Cの直ぐ上の部位には、排水用のドレン抜き口47と、一次側空間S1へのエア導入用の一次側エア入口45とが設けられている。
【0052】
ハウジング51の上面51Aには、出口ラインL2の上流端が接続された水出口55が設けられている。出口ラインL2には、二次側エア入口48が設けられている。モジュールの逆洗時には、図略のエアーコンプレッサから二次側エア入口48を通じて二次側空間S2にエアが導入される。
【0053】
水処理システム1は、コントローラ30を備えており、このコントローラ30は、添加量制御部31と、判定部32と、記憶部33と、出力部43とを含む。添加量制御部31、判定部32及び出力部43は、CPU(Central Processing Unit)により実行されるコンピュータの各機能である。記憶部33は、メモリ等の記憶装置により構成されている。
【0054】
記憶部33には、凝集フロックのフラクタル次元と膜濾過部50の可逆性ファウリングポテンシャルとの相関データが格納されている。この相関データの一例を図3のグラフに示す。図3中、横軸がフラクタル次元を示し、縦軸が可逆性ファウリングポテンシャルを示す。図3に示すように、フラクタル次元が小さい領域(図3の例ではフラクタル次元が2.03以下である領域)ではフラクタル次元と可逆性ファウリングポテンシャルとの線形関係が維持される一方、フラクタル次元が所定の閾値(図3の例では2.03)を超えると可逆性ファウリングが急上昇する。この相関データは、予め実験により取得されており、記憶部33に格納されている。
【0055】
「フラクタル次元」は、凝集フロックの全体の密度を表す概念である。Water Research,114,(2017),88-103では、カオリンとポリ塩化アルミニウムを用いた場合のフロックの実行密度とフロックのサイズとの関係が検討されている。凝集フロックのサイズが大きくなるに従って実行密度は小さくなり、凝集フロックのサイズが小さくなるに従って実行密度は大きくなる。
【0056】
フラクタル次元は、凝集フロックのサイズと実行密度との関係の傾きを表現する概念である。フラクタル次元が大きい場合、どの粒子サイズでも実行密度が高いフロックが形成され易い。一方、フラクタル次元が小さい場合、どの粒子サイズでも実行密度が低いフロックが形成され易い。またこの文献によると、フラクタル次元を決定するパラメータとしてはALT比が最も支配的であり、pH、撹拌強度及びアルカリ度の影響は比較的小さい。
【0057】
「可逆性ファウリングポテンシャル」は、濾過運転の開始点と終了点との間での膜間差圧の差であり、以下のように測定される。まず、被処理水に凝集剤を添加し、これを膜濾過部50により濾過する。そして、所定の濾過時間の経過後に逆洗及びバブリング洗浄を順に実施し、洗浄後に濾過運転を再開する。このサイクルを所定の期間繰り返し、この間膜濾過部50の膜間差圧を継続的に測定する。この測定データを基に、任意のサイクルの濾過終了点での膜間差圧から次サイクルの濾過開始点での膜間差圧を引いた値の平均が、可逆性ファウリングポテンシャルとして定義される。
【0058】
判定部32は、出力部43から送信されるフラクタル次元の測定値が、上記線形領域に収まると共に所定の下限値以上であるか否か(図3の例では1.85以上2.03以下であるか否か)を判定する。この判定結果の情報は、判定部32から添加量制御部31に出力される。
【0059】
添加量制御部31は、凝集フロックのフラクタル次元の測定値に基づいて、凝集剤添加部10を制御して被処理水への凝集剤の添加量を調整する。具体的には、添加量制御部31は、凝集フロックのフラクタル次元の測定値が、上記線形領域に収まると共に所定の下限値以上になるように(例えば1.85以上2.03以下となるように)、添加量調整部13のポンプ回転数を制御する。したがって、添加量制御部31は、フラクタル次元の測定値が上記線形領域の外である場合(例えばフラクタル次元が2.03を超える場合)、凝集槽20への凝集剤の添加量を減少させるためにポンプ回転数を下げる。より好ましくは、添加量制御部31は、凝集フロックのフラクタル次元の測定値が、上記線形関係を有しないフラクタル次元の最小値(図3の例では1.98)以下の領域に収まるように、凝集剤添加部10を制御する。
【0060】
<水処理方法>
次に、本発明の実施形態1に係る水処理方法を、図4のフローチャートに従って説明する。
【0061】
まず、不純物を含む被処理水に凝集剤を添加する(工程S10)。具体的には、添加量調整部13のポンプを所定の回転数で作動させることにより、凝集槽20内の被処理水に凝集剤が添加される。そして、被処理水を撹拌機構21によって撹拌することにより不純物が凝集し、水中に凝集フロックが形成される。
【0062】
次に、凝集フロックを含む被処理水を膜濾過すると共に(工程S20)、凝集フロックのフラクタル次元を測定する(工程S31,S32)。工程S20では、凝集槽20から流出した被処理水が膜濾過部50により濾過され、出口ラインL2から処理水が取り出される。本方法では、被処理水に凝集剤を添加した後、凝集フロックの沈殿操作を行わずに被処理水を直接膜濾過する。つまり、凝集槽20と膜濾過部50との間に凝集フロックを沈殿させるための沈殿槽は設置されていない。
【0063】
工程S31では、凝集槽20から流出した被処理水が貯留槽42に貯められ、凝集フロックの画像データが画像取得部41により取得される。そして、この画像データが画像取得部41から出力部43に送信され、当該画像データを入力としてフラクタル次元の測定値が出力される(工程S32)。このデータ処理には、上記の機械学習の学習済みモデルが用いられる。
【0064】
工程S33~S36では、予め得られた凝集フロックのフラクタル次元と膜濾過における可逆性ファウリングポテンシャルとの相関関係(例えば図3のグラフ)に基づいて、凝集フロックのフラクタル次元の測定値が、フラクタル次元と可逆性ファウリングポテンシャルとの線形関係が維持される線形領域に収まると共に所定の下限値以上になるように、凝集剤の添加量を調整する。以下、各工程を詳細に説明する。
【0065】
工程S33では、フラクタル次元の測定値のデータが出力部43から判定部32に送信され、この測定値が上記線形領域の外であるか否かを判定部32が判定する。具体的には、フラクタル次元の測定値と図3の相関データとに基づき、当該測定値が線形領域の上限値(図3の例では2.03)を超えるか否かを判定部32が判定する。
【0066】
フラクタル次元の測定値が線形領域の外である場合(工程S33のYES)、凝集槽20への凝集剤の添加量を減少させる(工程S34)。具体的には、添加量制御部31が添加量調整部13のポンプ回転数を下げる。一方、フラクタル次元の測定値が線形領域内である場合には(工程S33のNO)、ポンプ回転数を下げずに工程S35に進む。
【0067】
工程S35では、フラクタル次元の測定値が所定の下限値(例えば1.85)未満であるか否かを判定部32が判定する。当該測定値が下限値未満である場合(工程S35のYES)、凝集槽20への凝集剤の添加量を増加させる(工程S36)。具体的には、添加量制御部31が添加量調整部13のポンプ回転数を上げる。一方、フラクタル次元の測定値が下限値以上である場合には(工程S35のNO)、添加量調整部13のポンプ回転数を変更しない。
【0068】
工程S20及び工程S31~S36を並行して実施することにより、凝集剤の添加量が適宜調整されつつ被処理水の膜濾過が継続される。そして、所定の濾過時間が経過すると(工程S40のYES)、濾過運転を一時停止し、膜濾過部50の逆洗を行う(工程S41)。この工程S41では、中空糸膜モジュールを二次側からのエア加圧により逆洗する。具体的には、二次側エア入口48(図2)からハウジング51内にエアを導入し、二次側空間S2の処理水をエア加圧によって一次側空間S1に押し出す。このように、逆洗においてエアを用いることにより、水の回収率が高まってランニングコストが抑えられるだけでなく、洗浄効果(膜表面からのSSの剥離効果)を高めることもできる。その後、さらに一次側空間S1でバブリング洗浄等を行った後、濾過運転を再開する。
【0069】
なお、本実施形態では、工程S33,S35での判定結果に基づいて凝集剤の添加量のみ増減させる場合を説明したが、これに限定されない。例えば、上記工程での判定結果に基づいて、被処理水のpHやアルカリ度又は撹拌強度のフィードバック制御をさらに行ってもよい。
【0070】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係る水処理方法及び水処理システムを説明する。実施形態2は基本的に実施形態1と同様であるが、凝集フロックの画像データからフラクタル次元の測定値を出力せず、当該画像データから凝集フロックのフラクタル次元が目標範囲に収まっているか否かを直接判定する点で異なる。以下、実施形態1と異なる点についてのみ説明する。
【0071】
判定部32は、上記の機械学習の学習済みモデルを用いて、凝集フロックのフラクタル次元が目標範囲に収まっているか否かを、画像取得部41から送信される画像データから直接判定する。より具体的には、凝集フロックのフラクタル次元が上記線形領域に収まると共に所定の下限値以上であるか否か(例えば1.85以上2.03以下であるか否か)を、フラクタル次元の測定値を用いずに画像情報を用いて直接判定する。添加量制御部31は、判定部32による判定結果に基づいて、凝集剤添加部10を制御して被処理水への凝集剤の添加量を調整する。
【0072】
本実施形態に係る水処理方法では、図4のフローチャートにおいて、工程S32でのフラクタル次元の測定値の出力が省略される。そして、工程S33,S35では、フラクタル次元の測定値ではなく凝集フロックの画像データに基づいて、実施形態1と同様の判定が行われる。
【0073】
(実施形態3)
次に、本発明の実施形態3に係る水処理システム及び水処理方法を説明する。実施形態3は基本的に実施形態1と同様であるが、機械学習の学習済みモデルを用いずに画像データに基づいてフラクタル次元を算出する点で異なる。以下、実施形態1と異なる点についてのみ説明する。
【0074】
実施形態3におけるフラクタル次元測定部40は、出力部43に代えて、凝集フロックの画像解析を行う画像解析部を含む。この画像解析部は、画像取得部41から送信される凝集フロックの画像データに基づいて、ボックスカウンティング法又はピクセルカウンティング法により凝集フロックのフラクタル次元を算出する。この画像解析部は、CPUによって実行されるコントローラ30の一機能である。
【0075】
ボックスカウンティング法では、まず、対象画像を2値化し、凝集フロックの部分とそれ以外の部分とを解析する。次に、対象画像を所定の大きさのセルにより分割し、凝集フロックの部分を含むセル数をカウントする。そして、セルの大きさと凝集フロックの部分を含むセル総数とを両対数グラフにプロットし、その時得られる直線の傾きからフラクタル次元を得ることができる。またピクセルカウンティング法では、対象画像に対して閾値を変化させて2値画像を作成し、各画像の閾値以上の画素数をカウントすることによりフラクタル次元の値が得られる。
【0076】
本実施形態に係る水処理方法では、図4のフローチャートにおいて、工程S32に代えて上記の方法によりフラクタル次元が算出される。その他の点は実施形態1と同様である。
【0077】
(実施形態4)
次に、本発明の実施形態4に係る水処理システム及び水処理方法を説明する。実施形態4は基本的に実施形態1と同様であるが、レーザ回折散乱法を用いて凝集フロックのフラクタル次元を測定する点で異なる。以下、実施形態1と異なる点についてのみ説明する。
【0078】
実施形態4におけるフラクタル次元測定部40は、画像取得部41に代えて粒子径分布測定装置を含む。この装置により、貯留槽42内の被処理水に対して波長650nm又は405nmのレーザ光を入射し、その時の散乱強度I及び前方小角散乱の散乱ベクトルqを測定する。前方小角散乱の散乱ベクトルqは、q=(2π/λ)sin(θ/2)の式により表される(λは入射光の波長、θは散乱角度)。
【0079】
ここで、散乱強度Iと前方小角散乱の散乱ベクトルqは、I(q)∝q-Dの式により表される関係を有する。このため、散乱強度Iと散乱ベクトルqを両対数グラフにプロットし、線形近似した際に得られる傾き(D)をフラクタル次元として算出することができる。
【0080】
本実施形態に係る水処理方法では、図4のフローチャートにおいて、工程S31,S32に代えて上記方法によりフラクタル次元の測定が行われる。その他の点は実施形態1と同様である。
【符号の説明】
【0081】
1 水処理システム
10 凝集剤添加部
31 添加量制御部
32 判定部
33 記憶部
40 フラクタル次元測定部
41 画像取得部
43 出力部
50 膜濾過部
図1
図2
図3
図4