(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】切断用ブレード
(51)【国際特許分類】
B24D 5/12 20060101AFI20230825BHJP
B24D 3/18 20060101ALI20230825BHJP
B24D 3/34 20060101ALI20230825BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20230825BHJP
B28D 1/24 20060101ALN20230825BHJP
【FI】
B24D5/12 Z
B24D3/18
B24D3/34 A
B24D3/00 310D
B28D1/24
(21)【出願番号】P 2019065837
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-02-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】星野 由紀子
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-154425(JP,A)
【文献】特開昭49-133992(JP,A)
【文献】特開昭52-048890(JP,A)
【文献】特開2012-086304(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0154658(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D3/00-99/00
B28D1/00-7/04
H01L21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状をなし、切れ刃により被切断材を切断する切断用ブレードであって、
砥粒と、分散された砥粒を結合する結合材と、を有し、前記結合材が前記砥粒を三次元架橋構造により結合して形成された多孔質性を有するビトリファイドボンド相において前記砥粒と前記結合材とを被覆する金属被覆膜を備え、
前記ビトリファイドボンド相は、前記多孔質性を維持するように前記砥粒及び前記結合材が金属被覆膜で被覆された金属被覆ビトリファイドボンド相を有し、
前記金属被覆ビトリファイドボンド相は、前記切断用ブレードの中心軸方向の前記ビトリファイドボンド相の
両側面に形成さ
れており、前記ビトリファイドボンド相における前記金属被覆膜で被覆されていない部分が、前記切断用ブレードの中心軸方向において前記金属被覆ビトリファイドボンド相の間に配されている、ことを特徴とする切断用ブレード。
【請求項2】
前記砥粒及び前記結合材は、非導電性であることを特徴とする、請求項1に記載の切断用ブレード。
【請求項3】
前記金属被覆ビトリファイドボンド相は、前記中心軸方向における側面からの厚さが20μm以上100μm以下に形成されていることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の切断用ブレード。
【請求項4】
前記金属被覆ビトリファイドボンド相は、前記
両側面における気孔率Poが0≦Po≦20%である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の切断用ブレード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビトリファイドボンド相を有する切断用ブレードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビトリファイドボンド相を有する切断用ブレードが知られている。ビトリファイドボンド相を備えた切断用ブ(ビトリファイドブレード)は、例えばメタルボンド相を備えた切断用ブレード(メタルブレード)やレジンボンド相を備えた切断用ブレード(レジンブレード)に比べて硬度が高く、摩耗が進行しにくい。また、ビトリファイドボンド相は多孔質体であり、ボンド相に形成された多数の気孔によって、切屑排出性が良好に維持され、冷却効果が高められ、自生発刃作用が促されることから、高精度で安定した切断加工を行うことが可能である。
【0003】
ところで、一般に切断用ブレードには、切断加工時の切れ刃位置を正確に管理する目的で、通電機能(導電性)が要求される場合がある。つまり、切断用ブレードに通電機能を付与し、該切断用ブレードを介して、切断加工装置(ダイサー)の主軸と、切断用ブレードにより切断加工される被切断物(又は被切断物と同じ厚さの導電体)との間の通電を検出することにより、切断用ブレードの切れ刃位置(Z方向位置)を測定し管理することが行われている。
【0004】
しかしながら、ビトリファイドボンド相は不導体であり通電機能を有していない。従って、上述のように電気的に接点をとって(つまり電気式手法で)切れ刃位置を管理することができない。切断加工装置には、電気式手法を用いる代わりに、光学式手法を用いて切断用ブレードの切れ刃位置を管理する機能を有するものもある。しかしながら、光学式手法に比べて電気式手法の方が、切れ刃位置の測定精度に優れている。
【0005】
そこで、例えば、ビトリファイドボンド相を有する切断用ブレードに、無電解めっきによりボンド相を金属被覆して通電機能を付与したものが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。これにより、ビトリファイドボンド相を有する切断用ブレードであっても、電気式手法によって切れ刃位置を管理することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の切断用ブレードは、ビトリファイドボンド相に無電解めっきを施す際に、ボンド相内にめっき液が含浸されていき、めっきによって気孔が埋められて、内方に金属被覆があると見かけ上の気孔率が下がるため、セラミックスで形成された被切断材や被切断材のセラミックスで形成された部分等、硬度が高い部分を切断するのに適さない場合がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、セラミックスで形成された被切断材や被切断材のセラミックスで形成された部分等、硬度が高い部分を切断する際に、多孔質体であるビトリファイドボンド相の機能を良好に維持しつつ導電性を安定して付与することができる切断用ブレードを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る切断用ブレードは、円板状をなし中心軸廻りに回転されて切れ刃により被切断材を切断する切断用ブレードであって、砥粒と、分散された砥粒を結合する多孔質体の結合材と、を有するビトリファイドボンド相と、前記ビトリファイドボンド相を構成する砥粒及び結合材の表面が金属によって被覆された金属被覆ビトリファイドボンド相と、を備え、前記金属被覆ビトリファイドボンド相は、少なくとも中心軸方向における側面に形成されていることを特徴とする。
【0010】
(1)本発明の切断用ブレードは、円板状をなし中心軸廻りに回転されて切れ刃により被切断材を切断する切断用ブレードであって、砥粒と、分散された砥粒を結合する結合材と、前記結合材が前記砥粒を三次元架橋構造により結合して形成された多孔質体からなるビトリファイドボンド相において前記砥粒と前記結合材とを被覆する金属被覆膜と、を備え、前記ビトリファイドボンド相において砥粒及び結合材が金属被覆膜で被覆された金属被覆ビトリファイドボンド相が少なくとも中心軸方向における側面に形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の切断用ブレードは、円板状をなし中心軸廻りに回転されて切れ刃により被切断材を切断する切断用ブレードであって、砥粒と、分散された砥粒を結合する結合材と、結合材が砥粒を三次元架橋構造により結合して形成された多孔質体からなるビトリファイドボンド相において砥粒と結合材とを被覆する金属被覆膜と、を備え、ビトリファイドボンド相において砥粒及び結合材が金属被覆膜で被覆された金属被覆ビトリファイドボンド相が少なくとも中心軸方向における側面に形成されている。
【0012】
その結果、金属被覆によって切断用ブレードに確実に導電性を付与することができ、該切断用ブレードを切断加工装置に装着して被切断材を切断加工する際に、電気的な接点をとって(つまり電気式手法で)切れ刃位置を正確に管理することができる。
【0013】
また、切断加工時において、ビトリファイドボンド相の外周縁部に形成された切れ刃による切断能力が、安定して高められる。具体的には、ボンド相に形成された多数の気孔によって、切屑を一時的に保持して排出させることで切屑排出性を良好に維持する機能や、冷却水を取り込んで冷却効果を高める機能や、適度に自生発刃作用を促す機能等が充分に発揮されて、高精度で安定した切断加工を行うことができる。
【0014】
また、内方に形成された金属被覆されていないビトリファイドボンド相の(気孔率が相対的に高い)外周面が切断に大きく寄与するので、セラミックスで形成された被切断材や被切断材のセラミックスで形成された部分等を、高精度かつ安定的に切断加工することができる。
また、金属被覆ビトリファイドボンド相を形成するための金属の使用量を削減可能とするとともに金属皮膜を形成する時間を短縮することができる。
【0015】
また、切断加工時において、ビトリファイドボンド相の外周縁部に形成された切れ刃による切断能力が、安定して高められる。具体的には、ボンド相に形成された多数の気孔によって、切屑を一時的に保持して排出させることで切屑排出性を良好に維持する機能や、冷却水を取り込んで冷却効果を高める機能や、適度に自生発刃作用を促す機能等が充分に発揮されて、高精度で安定した切断加工を行うことができる。
【0016】
また、ビトリファイドボンド相の中心軸方向の側面に金属被覆ビトリファイドボンド相を有することにより、切断用ブレード全体としての靱性を向上させることができ、ブレード強度が高められる。従って、工具寿命を延ばすことができ、切断効率が向上する。
また、上記金属被覆ビトリファイドボンド相によって、切れ刃の刃痩せを抑制することができる。
つまり、切れ刃の刃先が、その断面視で径方向外側へ向けた凸V字状となるように摩耗進行する不具合を抑制できる。従って、切断の加工品位を良好に維持することができる。
【0017】
ここで、ビトリファイドボンド相とは、分散配置される複数の砥粒を非金属無機材料(例えば、セラミックス(結晶質(ただし、結晶質でない部分を含んでいてもよい)、非晶質(例えば、ガラス)を含む))からなる結合材で、三次元架橋構造によって結合して構成された多孔質体をいう。
また、非導電性(絶縁体)のビトリファイドボンド相とは、砥粒、結合材が導電性であったとしても、上記三次元架橋構造として非導電性である場合が含まれるものとする。したがって、結合材が導電性物質からなるフィラー等を含んでいてもよい。
【0018】
(2)また、上記切断用ブレードにおいて、前記砥粒及び前記結合材は、非導電性であることが好ましい。
【0019】
ここで、ビトリファイドボンド相の結合材に導電性を有する物質を含有させた場合、結合材(すなわち、ビトリファイドボンド相)の強度が損なわれ、切断加工時において、ビトリファイドボンド相の摩耗量が増加することが考えられる。
そこで、ビトリファイドボンド相の結合材を非導電性として、結合材(すなわち、ビトリファイドボンド相)の強度を確保して、切断加工時において、ビトリファイドボンド相の摩耗量を減少させることができる。
【0020】
(3)また、上記切断用ブレードにおいて、前記金属被覆ビトリファイドボンド相は、前記中心軸方向における側面からの厚さが20μm以上100μm以下に形成されていることが好ましい。
【0021】
金属被覆ビトリファイドボンド相の側面の表面からの厚さを20~100μmに設定することにより、切断加工時において、側面と被切断材(ワーク)との摩擦を小さく抑えることができる。従って、工具寿命を延ばすことができ、切断効率が向上する。
また、金属被覆ビトリファイドボンド相の側面からの厚さを20μm以上100μm以下に設定することにより、切断用ブレードの厚さを薄肉化した場合であっても、ブレード強度が十分に確保される。
従って、切断加工時(ダイシング時)のカーフ幅(切断加工により被切断材に形成される切断ラインの幅)を小さく抑えることができ、その分被切断材の材料歩留まりを向上でき、かつ、例えば化合物半導体素子や電子部品基板等のさらなる小型化への要求に容易に対応可能である。
【0022】
(4)また、上記切断用ブレードにおいて、前記金属被覆ビトリファイドボンド相は、前記側面における気孔率Poが0≦Po≦20%であることが好ましい。
【0023】
金属被覆ビトリファイドボンド相において多孔質体の気孔率Poを0<Po≦20%と設定することにより、例えばセラミックする等の電子材料の切断加工時において、被切断材の細かい切屑を金属被覆ビトリファイドボンド相の気孔から排出させることができる。
これにより、被切断材の切屑が表層部の気孔に詰まって、切屑により表層部が目詰まりを起こすことを防ぐことができる。
すなわち、切断用ブレードは、被切断材として、セラミックス等の硬度が高い所謂難削材からなる電子材料等の精密切断加工に特に適している。被切断材の具体的な例としては、パワーデバイスに用いられる炭化ケイ素(SiC)や車載用LEDのベース材となる高純度アルミナ(Al2O3)や窒化アルミ(AlN)、LEDチップのベース材となるサファイア等が挙げられる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の切断用ブレードによれば、多孔質体であるビトリファイドボンド相の機能を良好に維持しつつ導電性を安定して付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る切断用ブレードの概略構成を説明する斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る切断用ブレードの概略構成を説明する中心軸方向に沿って見た平面図及び中心軸を含む断面図を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るビトリファイドボンド相の概略構成を説明する概念図であり、(A)は金属被覆ビトリファイドボンド相を、(B)は金属被覆されていないビトリファイドボンド相を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る切断用ブレードの概略構成を説明する切断用ブレードの厚さ方向の断面を示す概念図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る切断用ブレードの製造方法の概略を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係る切断用ブレード100について、図面を参照して説明する。なお、本発明の実施形態の説明に用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、要部となる部分を拡大、強調、抜粋して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際のものと同じであるとは限らない。
【0027】
本実施形態の切断用ブレード100は、例えば、化合物半導体素子や電子部品基板等の被切断材の精密切断加工に用いられる。
具体的に、この切断用ブレード100は、被切断材として、例えば、パワーデバイスに用いられる炭化ケイ素(SiC)や車載用LEDのベース材となる高純度アルミナ(Al2O3)や窒化アルミ(AlN)、LEDチップのベース材となるサファイア等、非常に硬度が高く、所謂難削材と称される材料の精密切断加工に特に適している。
【0028】
切断用ブレード100は、
図1~
図4に示されるように、円板状をなし、外周縁部に切れ刃11Aが形成されていて、超砥粒20と、分散された砥粒を結合する多孔質体の結合材30と、結合材30が超砥粒20を三次元架橋構造により結合して形成された多孔質体からなるビトリファイドボンド相10において超砥粒20と結合材30とを被覆する金属被覆膜40と、を備え、ビトリファイドボンド相10において超砥粒20及び結合材30が金属被覆膜40で被覆された金属被覆ビトリファイドボンド相10Aが少なくとも中心軸O方向における側面に形成されている。
すなわち、切断用ブレード100は、ビトリファイドボンド相10と、金属被覆ビトリファイドボンド相10Aと、を備えている。
【0029】
また、金属被覆ビトリファイドボンド相10Aは、
図2、
図4に示すように、中心軸O方向(厚さ方向)における側面12A、12B(12)から設定された厚さの範囲に形成されている。
金属被覆されていないビトリファイドボンド相10B(10)は、
図3(B)に示すように、超砥粒20と、結合材30とを有し、超砥粒20が結合材30の架橋により分散され、多数(複数)の気孔50が形成された多孔質の三次元架橋構造に形成されている。
【0030】
金属被覆ビトリファイドボンド相10Aは、
図3(A)に示すように、超砥粒20と、結合材30と、金属被覆膜40とを有し、超砥粒20が結合材30の架橋により分散され、多数(複数)の気孔50が形成された多孔質の三次元架橋構造からなるビトリファイドボンド相10(
図3(B)参照)において、超砥粒20、及び結合材30の表面に金属被覆膜40が形成されている。
【0031】
金属被覆膜40は、
図4に示すように、ビトリファイドボンド相10のうち、少なくとも側面12A、12B(12)から中心軸O方向に設定した厚さLの範囲において、超砥粒20及び結合材30を被覆して、多孔質の金属被覆ビトリファイドボンド相10Aを形成する。
【0032】
この切断用ブレード100は、中心軸O方向を向く側面12A、12Bに、ビトリファイドボンド相10を構成する超砥粒20と結合材30の表面に金属被覆膜40を形成した多孔質の金属被覆ビトリファイドボンド相10Aを形成することにより、通電機能(導電性)を有している。また、
【0033】
本実施形態の切断用ブレード100は、例えば、図示しない切断加工装置(ダイサー)の主軸にフランジを用いて取り付けられる、ワッシャタイプ(平円板形)の薄刃ブレードである。
切断用ブレード100は、切断加工装置の主軸によって中心軸O回りに回転させられつつ、被切断材に対して中心軸Oに垂直な方向(具体的には、高さ方向であるZ方向)に移動させられる。これにより、切断用ブレード100のうちフランジよりも径方向外側に突出させられた外周縁部(切れ刃11A)で、被切断材を切断加工する。
【0034】
また切断加工装置は、電気式手法により、切断用ブレード100の切れ刃11AのZ方向位置を検出する。つまり、切断用ブレード100を介して、切断加工装置の主軸と、被切断物(又は被切断物と同じ厚さの導電体)との間の通電を検出することで、切断用ブレード100の切れ刃位置(Z方向位置)を測定し、ゼロ点(切断基準位置)を補正することが可能である。
【0035】
本実施形態においては、切断用ブレード100(のビトリファイドボンド相10)の中心軸Oが延在する方向(中心軸Oに沿う方向)を、中心軸O方向という。中心軸O方向は、切断用ブレード100の厚さ方向に相当する。また、中心軸O方向に沿ってブレード外部から内部へ向かう方向を中心軸O方向内方(厚さ方向の内側)という。
また、中心軸Oに直交する方向を径方向という。径方向のうち、中心軸Oに接近する向きを径方向内方(径方向の内側)といい、中心軸Oから離間する向きを径方向の外側という。
また、中心軸O回りに周回する方向を周方向という。
【0036】
切断用ブレード100の外径は、例えば54mm程度であり、内径(後述する円形孔10Hの内径)は、例えば40mm程度である。切断用ブレード100の中心軸O方向に沿う厚さは、例えば200μm以下であり、好ましくは150μm以下である。
【0037】
切れ刃11Aは、切断用ブレード100の中心軸O方向を向く一対の面(一対の端面(外面)であり、表面及び裏面であり、切断加工装置に取り付けられた状態では一対の側面12A、12Bである)における各外周縁部と、切断用ブレード100の外周面11と、前記各外周縁部と前記外周面11との交差稜線をなす一対のエッジと、によって形成されている。切れ刃11Aの刃幅は、切断用ブレード100の厚さに対応している。
【0038】
図2及び
図3(B)に示されるように、ビトリファイドボンド相10B(10)は、切断用ブレード100の基材であり、ブレード本体と言い換えることができる。ビトリファイドボンド相(例えば、非導電性ビトリファイドボンド相)10は、例えば、Al
2O
3やSiO
2を主成分とした材質により形成されている。ビトリファイドボンド相10は、多孔質状をなすガラス状結合相であり、ビトリファイドボンド相10には多数(複数)の気孔50が形成されている。
【0039】
つまり、ビトリファイドボンド相10は、硬質材料である超砥粒20同士をガラス結合橋(以下、結合材30と称す)により結合し、超砥粒20間に気孔50を有する三次元架橋構造である。
【0040】
ビトリファイドボンド相10に占める気孔50の体積率(気孔率)は、例えば、20%以上、40%以下である。ビトリファイドボンド相10の内部において、複数の気孔50同士は互いに連通した連続気孔とされている。
【0041】
結合材30は、例えば、Al2O3やSiO2を含有する非導電性(絶縁性)のボンド材であり、複数の超砥粒20を、間隔をおいて結合する。結合材30を非導電性(絶縁性)のボンド材とすることにより、結合材30(すなわち、ビトリファイドボンド相10)の強度を確保するようにした。これにより、切断用ブレード100による被切断材の切断加工時において、ビトリファイドボンド相10の摩耗量を減少させることができる。
【0042】
ビトリファイドボンド相10の径方向の中央部には、該ビトリファイドボンド相10を中心軸O方向に貫通する円孔状の円形孔10Hが形成されている。このためビトリファイドボンド相10は、具体的には円形リング板状をなしている。そして、円形孔10H内に切断加工装置の主軸が挿通可能とされている。
【0043】
ビトリファイドボンド相10に分散される超砥粒20は、例えば、絶縁性のダイヤモンド砥粒である。超砥粒20の平均粒径は、切断対象である被切断材の材質や切断用ブレード10の中心軸O方向の厚さに応じて適宜設定することが好適である。
【0044】
具体的に、本実施形態の一例としては、切断用ブレード100の厚さに対し、1/4~1/5程度の平均粒径を有する超砥粒20を使用するのが砥粒限界粒径(上限)であり、所期する加工品位に応じて、これより細かな(小さな)平均粒径を有する超砥粒20を使用する。つまり、ブレード厚さが200μmの場合、超砥粒20の平均粒径は40~50μmが最大であり、加工品位により、平均粒径10μmを使用する等のように任意となる。
【0045】
上記「平均粒径」とは、多数の超砥粒20の粒径の平均値を表しており、例えば、ある粒径範囲をもった超砥粒20をマイクロトラック(登録商標)等により測定し、平均粒径を算出する等の方法が取られる。
【0046】
気孔50は、ビトリファイドボンド相10内において、分散された超砥粒20の間に形成されている。ビトリファイドボンド相10に分散される超砥粒20の含有率(ボンド相10に占める超砥粒20の体積率)は、例えば、12.5~25%である。ビトリファイドボンド相10には、超砥粒20以外に、超砥粒20よりも平均粒径の小さいフィラーが分散されていてもよい。フィラーの材質は、例えばSiCである。
【0047】
金属被覆ビトリファイドボンド相10Aは、例えば、ビトリファイドボンド相10のうち、側面12A、12B、円形孔表面13、及び外周面11に形成されている。
側面12A、12Bは、中心軸O方向に間隔をおいて配置され、中心軸O方向を向く平坦な円形リング状の面をなしている。
外周面11は、側面12A、12Bの外周縁に沿って、中心軸O回りに周回する周方向に円形の面をなしている。円形孔表面13は、側面12A、12Bの内周縁に沿って、中心軸O回りに周回する周方向に円形の面をなし、切断用ブレード100の円形孔10Hを形成している。
【0048】
金属被覆膜40は、例えば、Niめっきにより形成される導電性を有する金属被覆である。金属被覆膜40は、ビトリファイドボンド相10を構成する超砥粒20及び結合材30の表面にめっきをして被覆することにより形成されている。めっきを形成する材料としては、ニッケル(Ni)に限定されることなく、例えばAu、Ag、Cu、Co、Alでもよく、酸化防止の観点からはAu又はAgが好適である。なお、めっきに限定されることなく、蒸着等によって形成してもよい。
金属被覆ビトリファイドボンド相10Aは、切断用ブレード100の側面12A、12B、外周面11、及び円形孔表面13から設定した厚さに形成されている。
【0049】
具体的には、金属被覆ビトリファイドボンド相10Aは、例えば、切断用ブレード100の側面12A、12Bの表面から中心軸O方向に沿って厚さ方向内方に厚さ20以上100μm以下に形成されることが好適である。
また、金属被覆ビトリファイドボンド相10Aは、例えば、切断用ブレード100の外周面11から径方向の内側に厚さ20~100μmで形成され、超砥粒20及び結合材30の表面を被覆する。さらに、金属被覆ビトリファイドボンド相10Aは、例えば、切断用ブレード100の円形孔表面13から径方向外方に厚さ20~100μmで形成され、超砥粒20及び結合材30の表面を被覆する。
【0050】
その結果、切断用ブレード100の側面12A、12B、外周面11、及び円形孔表面13から厚さ20~100μmで多孔質の金属被覆ビトリファイドボンド相10Aが形成される。金属被覆ビトリファイドボンド相10Aは、絶縁性の超砥粒20及び非導電性の結合材30の表面に金属被覆膜40が形成されることにより導電性を有している。すなわち、切断用ブレード100は、通電機能(導電性)を有している。
【0051】
従って、切断加工装置は、切断用ブレード100による被切断材の切断加工時において、電気式手法により、切断用ブレード100の切れ刃11AのZ方向位置を検出することが可能になる。つまり、切断用ブレード100を介して、切断加工装置の主軸と、被切断物(又は被切断物と同じ厚さの導電体)との間の通電を検出することで、切断用ブレード100の切れ刃位置(Z方向位置)を測定し、ゼロ点(切断基準位置)を補正することが可能である。
【0052】
金属被覆ビトリファイドボンド相10Aの厚さを側面12A、12Bから20~100μmに設定することにより、ビトリファイドボンド相10の側面12A、12Bからの厚さが20μm以上100μm以下に形成されている。よって、切断用ブレード100による被切断材の切断加工時において、側面12A、12Bと被切断材とに発生する摩擦を小さく抑えることができる。従って、工具寿命を延ばすことができ、切断効率が向上する。
金属被覆膜40には、例えばダイヤモンド砥粒やCBN(立方晶窒化ホウ素)砥粒等の砥粒が分散されていてもよい。
【0053】
また、金属被覆ビトリファイドボンド相10Aの側面12A、12Bから厚さが20μm以上100μm以下に設定されているので、切断用ブレード100の厚さを薄肉化した場合であっても、ブレード強度が十分に確保される。
【0054】
従って、切断加工時(ダイシング時)のカーフ幅(切断加工により被切断材に形成される切断ラインの幅)を小さく抑えることができる。これにより、分被切断材の材料歩留まりを向上でき、かつ、例えば化合物半導体素子や電子部品基板等のさらなる小型化への要求に容易に対応可能である。
本実施形態においては、金属被覆ビトリファイドボンド相10Aの側面12A、12B(12)からの厚さを20μm以上100μm以下に設定する例について説明するが、例えば、ブレード使用後、再びカッターセットをするときの通電性の観点から金属被覆ビトリファイドボンド相10Aの側面12A、12B(12)からの厚さを30μm以上100μm以下に設定することが好適である。
【0055】
ここで、切断用ブレード100は、被切断材として、例えば、パワーデバイスに用いられる炭化ケイ素(SiC)や車載用LEDのベース材となる高純度アルミナ(Al2O3)や窒化アルミ(AlN)、LEDチップのベース材となるサファイア等、非常に硬度が高く、所謂難削材と称される電子材料の精密切断加工に特に適している。
【0056】
この電子材料を切断用ブレード100で切断加工する際に、例えば金属材料等と比べて細かい切屑が発生する。そこで、金属被覆ビトリファイドボンド相10Aの気孔率Poを0<Po≦20%に設定した。よって、切断用ブレード100による上記電子材料の切断加工時において、上記電子材料の細かい切屑を金属被覆ビトリファイドボンド相10Aの気孔50から排出させることができる。これにより、上記電子材料の細かい切屑が金属被覆ビトリファイドボンド相10Aの気孔50に詰まって、切屑により金属被覆ビトリファイドボンド相10Aが目詰まりを起こすことを防ぐことができる。
本実施形態においては、金属被覆ビトリファイドボンド相10Aの気孔率Poを0<Po≦20%に設定した例について説明するが、例えば、表面の滑らかさの観点から金属被覆ビトリファイドボンド相10Aの気孔率Poを0≦Po≦15%に設定することがより好適である。
【0057】
本実施形態においては、ビトリファイドボンド相10の側面12A、12B、外周面11、及び円形孔表面13に多孔質の金属被覆ビトリファイドボンド相10Aを形成した例について説明したが、これに限らない。その他の例として、ビトリファイドボンド相10の側面12A、12Bのみに多孔質の金属被覆ビトリファイドボンド相10Aを形成してもよい。
【0058】
次に、
図3(A)、
図3(B)、
図4及び
図5を参照して、切断用ブレード100の製造方法について説明する。
本実施形態の切断用ブレード100の製造方法は、
図5に示されるように、ビトリファイドボンド相形成工程(S1)と、金属被覆形成工程(S2)と、を備えている。
【0059】
〔ビトリファイドボンド相形成工程〕
ビトリファイドボンド相形成工程(S1)では、ビトリファイドボンド相10の材料であるビトリファイド粉末及び超砥粒20を混合したものを金型にセットする。
そして、圧力を加えて円板状に成型し、この円板成形体を焼結する。これにより、
図3(B)に示すような金属被覆膜40が形成されていない多数(複数)の気孔50を有し3次元架橋構造とされた多孔質体のビトリファイドボンド相10を形成する。
なお、ビトリファイドボンド相10に超砥粒20及びフィラーを分散させる場合には、上述の混合時において、ビトリファイド粉末、超砥粒20及びフィラーを混合する。
【0060】
上記円板成形体の外形寸法は、焼結後の収縮量及び研削・ラップ処理代等を考慮して設定する。具体的に、上記円板成形体の外径は、製造する切断用ブレード100の外径よりも大きく設定する。また、上記円板成形体の内径は、製造する切断用ブレード100の内径よりも小さく設定する。また、上記円板成形体の厚さは、製造する切断用ブレード100(の少なくともビトリファイドボンド相10)の厚さよりも大きく設定する。
焼結は、上記円板成形体を焼結炉に入れて加熱することにより行う。
【0061】
〔金属被覆形成工程〕
次に、金属被覆形成工程(S2)において、円板成形体の側面、外周面、及び円形孔表面から設定した厚さの範囲に、超砥粒20及び結合材30の表面に金属被覆膜40を形成して、
図3(A)に示すような金属被覆ビトリファイドボンド相10Aを形成する。このとき、多孔質体の気孔50が可能な限り維持されていることが好適である。
具体的には、例えば、無電解めっき洋のプライマーとしてパラジウム(Pd)化合物(例えば、レッドシューマー(登録商標)日本カニゼン株式会社製)の3%水溶液に、ビトリファイドボンド相10の金属被膜形成予定部を浸漬して、ビトリファイドボンド相10の外表面から設定した領域(厚さ)にパラジウム化合物を付着させる。
その後、例えば、20%のNiめっき溶液(例えば、SE-680 日本カニゼン株式会社製)に、70℃~90℃で30秒~5分間浸漬して、超砥粒20及び結合材30の表面にNiめっき(金属被覆)を形成する。このとき、Niめっきは、パラジウム化合物が付着した領域に形成される。
その結果、
図4に示すように、中心軸O方向内方に金属被覆されていないビトリファイドボンド相10B(10)が維持されたまま、側面12A、12B(12)から厚さLの設定した範囲に金属被覆ビトリファイドボンド相10Aが形成される。
金属被覆形成工程において、金属被覆膜40を形成することにより、切断用ブレード100が完成する。
【0062】
以上説明した本実施形態の切断用ブレード100によれば、多孔質体の気孔50を維持した状態で、全領域に金属被覆膜40が形成れているので、切断加工時において、外周縁部に形成された切れ刃11Aによる切断能力が、安定して高められる。具体的には、ビトリファイドボンド相10に形成された多数の気孔50によって、切屑を一時的に保持して排出させることで切屑排出性を良好に維持する機能や、冷却水を取り込んで冷却効果を高める機能や、適度に自生発刃作用を促す機能等が充分に発揮されて、高精度で安定した切断加工を行うことができる。
【0063】
また、側面12A、12Bに金属被覆ビトリファイドボンド相10Aを形成することにより、切断用ブレード100に導電性を付与することができ、切断用ブレード100を切断加工装置に装着して被切断材を切断加工する際に、電気的な接点をとって(つまり電気式手法で)切れ刃位置を正確に管理することができる。
【0064】
また、切断用ブレード100において側面12A、12Bに金属被覆ビトリファイドボンド相10Aを有することにより、切断用ブレード100全体としての靱性を向上させることができ、ブレード強度が高められる。従って、工具寿命を延ばすことができ、切断効率が向上する。
また、金属被覆ビトリファイドボンド相10Aによって、切れ刃11Aの刃痩せを抑制することができる。
つまり、切れ刃11Aの刃先が、その断面視で径方向外側へ向けた凸V字状となるように摩耗進行する不具合を抑制できる。従って、切断の加工品位を良好に維持することができる。
【0065】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態においては、結合材がともに非導電性である場合について説明したが、いずれか一方又は双方が導電性材料で形成されていてもよい。
なお、ビトリファイドボンド相10として、非導電性とされた非導電性ビトリファイドボンド相で大きな効果が得られる。
【0066】
また、上記実施形態においては、金属被覆ビトリファイドボンド相10Aの側面12からの厚さが20μm以上100μm以下に形成されている場合について説明したが、金属被覆ビトリファイドボンド相10Aの側面12からの厚さについては任意に設定することが可能であり、例えば、側面12からの厚さを1μm以上20μm未満に設定してもよいし、側面12からの厚さを100μm超に設定してもよい。
また、外周面11、ない周面13からの厚さについても任意に設定することが可能である。
【0067】
また、上記実施形態においては、金属被覆ビトリファイドボンド相10Aの側面12における気孔率Poが0≦Po≦20%である場合について説明したが、気孔率Poについては任意に設定することが可能であり、側面12における気孔率Poを0≦Po≦15%に設定することがより好適である。
【0068】
また、上記実施形態においては、砥粒としてダイヤモンド超砥粒20を、結合材30としてAl2O3やSiO2を例示したが、砥粒、結合材は任意に設定することができる。
【0069】
また、上記実施形態においては、金属被覆膜40がNiめっきにより形成されている場合について説明したが、金属被覆膜の材質については任意に設定することができる。また、めっきに限定されず蒸着等、他の被覆方法によって金属被覆膜を形成してもよい。
【0070】
また、上記実施形態においては、砥粒がダイヤモンド超砥粒20である場合について説明したが、砥粒については任意に設定することが可能であり、ダイヤモンド超砥粒20に代えて、例えば、CBN(立方晶窒化ホウ素)を用いてもよい。
【0071】
また、上記実施形態においては、結合材30としてAl2O3やSiO2である場合を例示したが、結合材については任意に設定することが可能であり、例えば、TiC、WCを用いてもよいし、これらに導電性を有する材料(例えば、TiC、WC)が混合された結合材を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の切断用ブレードによれば、多孔質体であるビトリファイドボンド相の機能を良好に維持しつつ導電性を安定して付与することができる。従って、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0073】
10 ビトリファイドボンド相(ボンド相)
10A 金属被覆ビトリファイドボンド相
10B 金属被覆されていないビトリファイドボンド相
11 外周面
11A 切れ刃
12、12A、12B 側面
20 超砥粒(砥粒)
30 結合材
40 金属被覆膜
50 気孔
100 切断用ブレード
O 中心軸