(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】真空装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/677 20060101AFI20230825BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20230825BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20230825BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
H01L21/68 A
H01L21/30 541L
G03F7/20 521
G03F7/20 504
G03F7/20 506
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2019150237
(22)【出願日】2019-08-20
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健祐
(72)【発明者】
【氏名】川口 通広
(72)【発明者】
【氏名】山口 圭介
(72)【発明者】
【氏名】金澤 駿
【審査官】中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-019377(JP,A)
【文献】特開2001-035902(JP,A)
【文献】特開2010-157630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/677
H01L 21/027
G03F 7/20
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中で処理対象が搬送されるチャンバと、
前記処理対象を保持する保持部を有し、前記チャンバ内で前記処理対象を搬送する搬送ロボットと、
前記搬送ロボットの位置を制御することにより前記チャンバ内で弾性変形することで
、前記保持部と面接触する接触部を有
する弾性部材から構成され、前記保持部の温度を所定温度に調節する恒温部とを備え
、
前記弾性部材の前記接触部は、前記保持部の方向に対し、突出するように湾曲することを特徴とする真空装置。
【請求項2】
前記弾性部材は、曲面を有する板状である請求項1に記載の真空装置。
【請求項3】
前記
弾性部材の上面の面積は、該
弾性部材の上面と対向する前記処理対象の面積よりも大きい、請求項1または請求項2に記載の真空装置。
【請求項4】
前記所定温度は、前記処理対象の処理時の温度以下である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の真空装置。
【請求項5】
前記搬送ロボットにより、搬送された前記処理対象を載置するステージをさらに備え、 前記
恒温部は、前記保持部の温度を前記チャンバまたは前記ステージの温度に略等し
く調整する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の真空装置。
【請求項6】
前記恒温部は、
前記チャンバに固定された板材と、
前記弾性部材を前記板材に固定する固定部とを備える、請求項1に記載の真空装置。
【請求項7】
前記接触部と固定部との間に弾性的に屈曲するように設けられた屈曲部をさらに備える、請求項6に記載の真空装置。
【請求項8】
前記屈曲部は、前記接触部の両側において、互いに向き合うようにV字に屈曲し、パンタグラフ状の構造である、請求項7に記載の真空装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明による実施形態は、真空装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビーム描画装置では、真空チャンバ内において搬送ロボットによりマスクが描画ステージに搬送され、マスクの描画が行われる。例えば、搬送ロボットとの接触により搬送ロボットからの熱がマスクに伝わると、マスクに温度ムラが生じる場合がある。この場合、マスクの熱膨張が不均一になり、描画精度が悪化してしまう。そこで、描画ステージに載置されたマスクの温度が略均一に描画ステージの温度とほぼ同じ温度になるまで待ってから、マスクの描画が行われる。
【0003】
しかし、真空中では、マスクの温度が略均一に描画ステージの温度とほぼ同じ温度になるまでに、例えば、数十分から数時間などの長い時間がかかってしまう。この長い待ち時間により、スループットが悪化してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
処理対象の恒温化を短時間で行うことによりスループットの向上が可能な真空装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態による真空装置は真空中で処理対象が搬送されるチャンバと、処理対象を保持する保持部を有し、チャンバ内で処理対象を搬送する搬送ロボットと、搬送ロボットの位置を制御することによりチャンバ内で弾性変形することで保持部と面接触する接触部を有し、保持部の温度を所定温度に調節する恒温部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態による真空装置である荷電粒子ビーム描画装置の構成の一例を示す模式図。
【
図2】第1実施形態による真空装置である荷電粒子ビーム描画装置の構成の一例を示す平面図。
【
図3】第1実施形態による恒温化機構の構成の一例を示す模式図。
【
図4】第1実施形態によるマスクおよび恒温化機構の位置関係の一例を示す模式図。
【
図5】第2実施形態による恒温化機構の構成の一例を示す模式図。
【
図6】変形例によるエンドエフェクタおよび恒温化機構の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0009】
図面は模式的または概念的なものであり、各部分の比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。明細書と図面において、既出の図面に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態による真空装置である荷電粒子ビーム描画装置10の構成の一例を示す模式図である。
図1に示す荷電粒子ビーム描画装置は、例えば、処理対象(マスクW)に電子ビームを照射して所定のパターンを描画する。尚、本実施形態は、描画装置の他、露光装置、電子顕微鏡、光学顕微鏡等の電子ビーム(荷電粒子ビーム)や光を処理対象に照射する装置であってもよい。従って、処理対象は、マスクの他、半導体基板等であってもよい。
【0011】
荷電粒子ビーム描画装置は、真空引きされた描画チャンバ(ライティングチャンバ)1と、描画チャンバ1の天井部に設けられたビーム照射部である電子鏡筒2と、描画チャンバ1に隣接するように配置された真空引きされたロボットチャンバ3と、ロボットチャンバ3に収納された搬送ロボット4と、描画チャンバ1と反対側でロボットチャンバ3と隣接するように配置されたロードロックチャンバ5とを備えている。ロードロックチャンバ5は、外部からマスクWを搬入する際には、大気開放されるが、マスクWをロボットチャンバ3へ搬送する際には、ロボットチャンバ3と同様に真空引きされる。従って、ロードロックチャンバ5およびロボットチャンバ3の内部を真空に保ったままで、ロードロックチャンバ5とロボットチャンバ3との間でマスクWの交換が可能である。また、アライメントチャンバ8およびソーキングチャンバ9内も、ロボットチャンバ3と同様に真空引きされている。描画チャンバ1とロボットチャンバ3との間、および、ロボットチャンバ3とロードロックチャンバ5との間には、それぞれゲートバルブ6,7が設けられている。
【0012】
図2は、第1実施形態による荷電粒子ビーム描画装置10の構成の一例を示す平面図である。
【0013】
ロボットチャンバ3の周囲には、マスクWを位置決めするアライメントチャンバ8およびソーキング処理を行うソーキングチャンバ9が設けられている。ソーキング処理とは、マスクWの温度を描画チャンバ1内の温度に近づける処理である。ソーキングチャンバ9は、流水で冷やされた銅板からの輻射により、マスクWを非接触で温調する。マスクWの温調により、マスクWの温度は、描画ステージ1aの温度に近づき、かつ、マスクW面内において略均一化される。これにより、描画チャンバ1内にマスクWを搬送したときに、マスクWの温度が描画ステージ1aの温度に近付いており、描画チャンバ1内におけるソーキングの時間が短縮される。また、マスクWの温度がマスクW面内において略均一化されることによって、温度によるマスクWの寸法変化を抑制し、描画パターンの精度の劣化を抑制することができる。
【0014】
図2に示すように、荷電粒子ビーム描画装置10は、搬送ロボット4と、恒温部(恒温化機構)11と、温調部12と、温度計13と、制御部14とを備える。
【0015】
搬送ロボット4は、真空チャンバとしてのロボットチャンバ3内に収容され、マスクWを保持する保持部(エンドエフェクタ44)を有し、マスクWを搬送する。例えば、搬送ロボット4は、鉛直軸線回りに旋回自在なロボット本体41と、ロボット本体41に昇降自在に支持される昇降ロッド42と、昇降ロッド42の上端に取り付けた屈伸自在なロボットアーム43と、ロボットアーム43の先端に取り付けられ、マスクWを保持(載置)するエンドエフェクタ44とを有している。ロボット本体41には、ロボット本体41の旋回用と昇降ロッド42の昇降用とロボットアーム43の屈伸用の駆動源が内蔵されている。
【0016】
搬送ロボット4の駆動源の発熱(例えば、通電によるジュール熱)により、駆動源からの熱がロボットアーム43を介してエンドエフェクタ44に伝わり、エンドエフェクタ44の温度が上昇する場合がある。例えば、エンドエフェクタ44にマスクWを載置して描画ステージ1aに搬送する際に、マスクWの温度がエンドエフェクタ44からの熱伝導で0.04~0.05℃程度上昇してしまうことがある。LSI等の微細なパターンを描画する場合には、この程度の温度上昇でも描画精度に悪影響が及ぶ可能性がある。また、マスクWに温度ムラが生じ、マスクWの熱膨張が不均一になり、描画精度が悪化する可能性がある。
【0017】
通常、マスクWの描画は、描画ステージ1aに載置されたマスクWが描画ステージ1aの温度とほぼ等しい温度になるまで待ってから行われる。しかし、描画チャンバ1の真空中では、媒体の対流による熱伝達がほとんどなく、マスクWの熱が排熱され難い。従って、マスクWが描画ステージ1aの温度になるまでの待ち時間(ソーキング時間)は、かなり長い時間となる。また、
図2に示すように、ソーキングチャンバ9が設けられていれば、マスクWのソーキング時間は或る程度短縮される。しかし、ソーキングチャンバ9においても、非接触によるソーキング処理が行われるため、ソーキング時間は、やはり、比較的長い時間となってしまう。従って、エンドエフェクタ44からの熱伝導によってマスクWの温度が上昇すると、その後のソーキング時間が長期化してしまう。
【0018】
そこで、本実施形態において、マスクWを搬送する際に、搬送ロボット4は、エンドエフェクタ44を恒温化機構11に接触させて、エンドエフェクタ44の温度を所定温度に維持する。恒温化機構11は、描画チャンバ1、ロボットチャンバ3、アライメントチャンバ8、ソーキングチャンバ9のいずれかの真空チャンバの内壁に設けられており、該内壁に接触している。例えば、
図2に示すように、恒温化機構11は、搬送ロボット4が設けられるロボットチャンバ3内に設けられていることが好ましい。ロボットチャンバ3は、描画チャンバ1に繋がっており、それとほぼ同じ温度に設定されている。恒温化機構11は、ロボットチャンバ3とほぼ同じ温度に設定される。また、描画ステージ1aは、描画チャンバ1内に設けられており、描画チャンバ1とほぼ同じ温度になっている。これにより、恒温化機構11は、エンドエフェクタ44と接触することによりエンドエフェクタ44と熱交換し、エンドエフェクタ44の温度を描画チャンバ1および描画ステージ1aの温度に接近させることができる。また、恒温化機構11をロボットチャンバ3内に設けることによって、搬送ロボット4は、エンドエフェクタ44を恒温化機構11に頻繁に接触させることができる。これにより、搬送ロボット4の駆動源からの熱を頻繁に排熱して、エンドエフェクタ44の温度を所定温度に維持することができる。この結果、搬送ロボット4は、マスクWの温度を描画ステージ1aの温度からさほど変化させずに、マスクWを描画チャンバ1内の描画ステージ1aへ搬送することができる。これは、ソーキング時間を短縮し、スループットを向上させることにつながる。尚、恒温化機構11は、描画チャンバ1内やソーキングチャンバ9内に設けられてもよい。また、恒温化機構11の温度の詳細については、制御部14とともに、後で説明する。
【0019】
恒温化機構11の材料は、金属などの高熱伝導材料であることが好ましい。恒温化機構11は、例えば、金めっきした銅である。金めっきにより、表面の熱伝導を向上させることができ、また、銅の表面が錆びることによる熱伝導の減少を抑制することができる。
【0020】
また、エンドエフェクタ44との接触面における恒温化機構11の材料は、低発塵性の材料であることが好ましい。エンドエフェクタ44との接触により恒温化機構11の表面が摩耗すると、パーティクルが発生する可能性がある。そこで、恒温化機構11の材料は、例えば、PEEK(Poly Ether Ether Ketone)樹脂や、ベアリーなどのフッ素樹脂や、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)などの摩耗しづらい材料であることが好ましい。また、上記の樹脂は、例えば、フィラーにより導電性が付与されてもよい。これにより、樹脂の熱伝導が向上し、効率よく排熱することができる。また、樹脂は、真空中におけるガス放出が少ないものが好ましい。
【0021】
また、恒温化機構11の表面を耐摩耗処理してもよい。恒温化機構11は、例えば、硬質アルマイトとフッ素樹脂を組み合わせた複合被膜で被覆されたアルミニウムまたはアルミニウム合金である。表面処理によって恒温化機構11の熱伝導は減少する。しかし、恒温化機構11の内部は高い熱伝導を保ち、かつ、恒温化機構11の発塵を抑制することができる。恒温化機構11のより詳細な構成は、
図3を参照して後で説明する。
【0022】
図2に示す温調部12は、恒温化機構11の温度を調節する。温調部12は、例えば、恒温化機構11の内部に設けられる。温調部12は、例えば、ペルチェ素子であり、恒温化機構11を冷却する。恒温化機構11の冷却により、搬送ロボット4の駆動源からの熱を効率よく排熱させることができる。尚、温調部12は、恒温化機構11の内部に一定温度の流体(流水)を流すことにより恒温化機構11を冷却してもよい。
【0023】
尚、ロボットチャンバ3の壁には、ロボットチャンバ3の温度を或る温度(例えば、23℃)に維持するチャンバ温調部(図示せず)が設けられている。チャンバ温調部は、例えば、チャンバ壁の内部に一定温度の流体(流水)を流す。アライメントチャンバ8の温度もロボットチャンバ3とほぼ同じ温度に維持される。温調部12が流水である場合、温調部12は、チャンバ温調部とは異なる温度に制御される。
【0024】
温度計13は、恒温化機構11の温度を測定する。温度計13は、例えば、恒温化機構11に接触するように設けられる。温度計13は、エンドエフェクタ44との接触面に近い位置に設けられることが好ましい。温度計13は、測定した恒温化機構11の温度を制御部14へ送る。温度計は、例えば、熱電対や白金抵抗体である。
【0025】
制御部14は、測定された恒温化機構11の温度に基づいて、温調部12を制御する。制御部14は、真空チャンバの外部に設けられ、温調部12および温度計13と接続している。例えば、制御部14は、恒温化機構11の測定温度に基づいて、フィードバック制御により温調部12を制御する。これにより、制御部14は、恒温化機構11の温度を制御し、エンドエフェクタ44の温度を任意の温度(所定温度)に維持することができる。また、制御部14は、ユーザが恒温化機構11の測定温度を確認できるように、測定温度を表示部(図示せず)に表示してもよい。
【0026】
恒温化機構11の温度(所定温度)は、例えば、マスクWの処理時の温度以下であることが好ましい。マスクWの処理時の温度は、例えば、描画ステージ1aの温度である。この場合、エンドエフェクタ44は、恒温化機構11により描画ステージ1aの温度に維持される。これにより、エンドエフェクタ44は、マスクWの温度を描画ステージ1aの温度からさほど変化させることなくマスクWを描画チャンバ1内の描画ステージ1aに搬送することができる。その結果、ソーキング時間を短縮し、スループットを向上させることができる。また、描画ステージ1aは、水平面で直交する2方向および鉛直方向に移動自在にする駆動源を有し、搬送ロボット4と同様に、マスクWの温度を上昇させる可能性がある。そこで、搬送ロボット4や描画ステージ1aが有する駆動源で発生する熱を考慮して、恒温化機構11の温度は、マスクWの処理時の温度よりも低い温度に設定されていてもよい。尚、高温でマスクWが処理される場合、温調部12は、ヒータを有していてもよい。
【0027】
図3は、第1実施形態による恒温化機構11の構成の一例を示す模式図である。
【0028】
恒温化機構11は、弾性部材111と、板材112とを有する。
【0029】
弾性部材111は、曲面を有する板状であり、例えば、板バネである。弾性部材111は、
図3の紙面垂直方向を長手方向とした半円筒状である。弾性部材111は、例えば、1枚の板を曲げて作製される。弾性部材111が切れ目のない1枚の板であるため、接合部による熱抵抗がなく、効率よく排熱し、または、エンドエフェクタ44の温度を所定温度に維持することができる。また、弾性部材111および板材112は、例えば、金めっきされた銅である。
【0030】
弾性部材111は、接触部(湾曲部)111aと、板材112に固定される固定部111bとを含む。
【0031】
湾曲部111aは、変形することでエンドエフェクタ44と弾性的に面接触する。例えば、湾曲部111aは、エンドエフェクタ44の方向に突出するように湾曲している。エンドエフェクタ44が下降すると、湾曲部111aは、弾性変形してエンドエフェクタ44の下面との接触面積が増える。また、エンドエフェクタ44の下面と湾曲部111aとは、弾性力により密着し、面接触する。これにより、効率よく排熱し、または、エンドエフェクタ44の温度を恒温化機構11の温度に維持することができる。
【0032】
もし、恒温化機構11が湾曲部111aを有しない場合、エンドエフェクタ44を恒温化機構11に接触させる際に、エンドエフェクタ44に強い負荷がかかる可能性がある。これは、例えば、接触面積を大きくするために、搬送ロボット4がエンドエフェクタ44を恒温化機構11に押しつけるためである。この負荷により、ロボットアーム43やエンドエフェクタ44が曲がったり、エンドエフェクタ44に傷がついてしまう可能性がある。
【0033】
これに対して、第1実施形態による恒温化機構11は、湾曲部111aが変形することでエンドエフェクタ44と接触するため、エンドエフェクタ44に負荷がかかることを抑制することができる。即ち、湾曲部111aは、緩衝材として機能する。また、恒温化機構11がエンドエフェクタ44に対してわずかに傾いている場合でも、接触させることができる。また、湾曲部111aの湾曲が緩やかであれば、恒温化機構11とエンドエフェクタ44とを弱い力で面接触させることができる。これにより、恒温化機構11の発塵を低減することができる。
【0034】
固定部111bは、板材112と固定される。固定部111bが強く板材112と固定されることにより、効率よく排熱し、または、エンドエフェクタ44の温度を所定温度に維持することができる。
【0035】
板材112は、チャンバ底面35と固定される。板材112の材料は、金属などの高熱伝導材料であることが好ましい。
【0036】
温調部12および温度計13は、弾性部材111に接触するように設けられている。しかし、温調部12および温度計13は、板材112の内部または板材112に接触するように設けられていてもよい。
【0037】
第1実施形態による荷電粒子ビーム描画装置10において、半円筒状の弾性部材111の長手方向は、エンドエフェクタ44の延伸方向と略直交してもよいが、エンドエフェクタ44の延伸方向と略平行方向であってもよい。弾性部材111の長手方向をエンドエフェクタ44の延伸方向と略平行方向にすることによって、弾性部材111とエンドエフェクタ44との接触面積を大きくすることができる。
【0038】
また、弾性部材111は、ドーム状であってもよい。すなわち、
図3の紙面垂直方向にも弾性部材111が延びて板材112と固定されてもよい。これにより、熱の伝導経路が増え、効率よく排熱し、または、エンドエフェクタ44の温度を恒温化機構11の温度に維持することができる。
【0039】
次に、荷電粒子ビーム描画装置の動作について説明する。
【0040】
まず、マスクWは、図外のロボットによりロードロックチャンバ5に搬入される。このとき、ロードロックチャンバ5は、大気開放されている。荷電粒子ビーム描画装置は、ロードロックチャンバ5を真空にした後、ゲートバルブ7を開き、搬送ロボット4はマスクWをロードロックチャンバ5からソーキングチャンバ9に搬送する。ソーキングチャンバ9でソーキング処理が行われる。このソーキング処理中に、搬送ロボット4は、エンドエフェクタ44を恒温化機構11と接触させて待機してもよい。これにより、エンドエフェクタ44の温度を恒温化機構11の温度に維持することができる。
【0041】
次に、ソーキング処理後、搬送ロボット4は、マスクWをソーキングチャンバ9からアライメントチャンバ8に搬送する。アライメントチャンバ8でマスクWの位置決めが行われる。この位置決め処理中に、搬送ロボット4は、エンドエフェクタ44を恒温化機構11と接触させて待機してもよい。これにより、エンドエフェクタ44の温度を恒温化機構11の温度に維持することができる。
【0042】
次に、位置決め処理後、搬送ロボット4は、マスクWをアライメントチャンバ8から搬出する。荷電粒子ビーム描画装置はゲートバルブ6を開き、搬送ロボット4は描画チャンバ1に収納された描画ステージ1aにマスクWを搬送する。このとき、エンドエフェクタ44は、恒温化機構11の温度(即ち、描画ステージ1aの温度に近い温度)に維持されている。従って、エンドエフェクタ44は、マスクWの温度を描画ステージ1aの温度に近い温度で搬送する。その後、荷電粒子ビーム描画装置は、マスクWと描画ステージ1aとがほぼ等しい温度になるまで待つ。このとき、マスクWの温度は、描画ステージ1aの温度と大差ないため、短時間で描画ステージ1aの温度とほぼ等しい温度になる。ソーキング時間の経過後、荷電粒子ビーム描画装置は、描画ステージ1aに載置したマスクWに電子鏡筒2から電子ビームを照射しながら描画ステージ1aを移動させ、マスクWに電子ビームを走査して所定のパターンを描画する。
【0043】
以上のように、第1実施形態によれば、恒温化機構11がロボットチャンバ3に設けられており、描画ステージ1aの温度に近い温度に維持されている。搬送ロボット4が真空チャンバ内においてエンドエフェクタ44を恒温化機構11に直に接触させることによって、エンドエフェクタ44の温度を恒温化機構11の温度に維持する。即ち、恒温化機構11は、エンドエフェクタ44と直に接触して、真空中でも熱伝導により効率よく排熱することができる。これにより、搬送ロボット4で発生する熱によるエンドエフェクタ44の温度上昇を抑制することができる。従って、マスクWの搬送によるマスクWの温度変化を抑制することができる。この結果、ソーキング時間を短縮し、スループットを向上させることができる。
【0044】
また、第1実施形態によれば、制御部14は、測定された恒温化機構11の温度に基づいて、温調部12を制御する。これにより、エンドエフェクタ44の温度を任意の温度に維持することができる。
【0045】
尚、搬送ロボット4は、マスクWの搬送中に、マスクWをエンドエフェクタ44に載置したまま、エンドエフェクタ44を恒温化機構11と接触させてもよい。これにより、マスクWの搬送中におけるマスクWの温度変化を抑制することができる。
【0046】
図4は、第1実施形態によるマスクWおよび恒温化機構11の位置関係の一例を示す模式図である。
図4は、エンドエフェクタ44および恒温化機構11の接触時に、マスクWおよび恒温化機構11を上方から見た図である。
図4の破線は、エンドエフェクタ44に載置されたマスクWの位置を示す。また、マスクWは、3つの接点441と接触して、エンドエフェクタ44によって支持される。
【0047】
鉛直上方から見たときに、恒温化機構11は、エンドエフェクタ44に載置されたマスクWの面積よりも広い範囲にわたって設けられる。例えば、
図4において、恒温化機構11の上方とロボットチャンバ3のチャンバ底面35の上方とでは、放射される輻射熱が異なる。これは、恒温化機構11とチャンバ底面35との間に温度差や放射率の差がある場合があるためである。この場合、マスクWが恒温化機構11およびチャンバ底面35の両方に対向していると、マスクWは、恒温化機構11だけでなく、チャンバ底面35からも輻射熱を受ける。これは、マスクWの面内における温度のばらつき(温度ムラ)の原因となる。一方、恒温化機構11がマスクWの範囲よりも広い範囲にわたって設けられると、エンドエフェクタ44に載置されたマスクWは、恒温化機構11と対向するが、チャンバ底面35とは対向しない。この場合、輻射による熱伝達は、マスクWと恒温化機構11との間において専ら行われる。これにより、マスクWの温度ムラを抑制し、マスクWの温度をより均一にすることができる。即ち、恒温化機構11の上面の面積をエンドエフェクタ44に載置されたマスクWの面積よりも広くすることによって、マスクWの温度ムラを抑制することができる。
【0048】
また、温調部12、温度計13および制御部14は省略してもよい。この場合、恒温化機構11は、真空チャンバの内面に接触するように設けられているので、上述の通り、ロボットチャンバ3の内面とほぼ同じ温度になる。この場合であっても、搬送によるマスクWの温度変化を抑制することができる。また、荷電粒子ビーム描画装置10の構成が簡易になる。尚、恒温化機構11は、エンドエフェクタ44の下面に限られず、エンドエフェクタ44の側面と接触してもよい。
【0049】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態による恒温化機構11の構成の一例を示す模式図である。第2実施形態によれば、弾性部材111の構造が異なる点で、第1実施形態と異なる。
【0050】
弾性部材111は、屈曲部111cをさらに含む。屈曲部111cは、湾曲部111aと固定部111bとの間に弾性的に屈曲するように設けられている。屈曲部111cは、バネ状である。従って、エンドエフェクタ44が下降して屈曲部111cに押しつけられると、屈曲部111cは、弾性力により湾曲部111aをエンドエフェクタ44に押しつける。これにより、エンドエフェクタ44および恒温化機構11を損傷することなく、エンドエフェクタ44と弾性部材111とを広い接触面積で接触させることができる。
【0051】
湾曲部111aの両側にある2つの対向する屈曲部111cは、例えば、互いに向き合うようにV字に屈曲し、パンタグラフ状の構造を有する。これにより、弾性部材111の安定性を向上させることができる。
【0052】
図5では、板材112は設けられず、弾性部材111はチャンバ底面35と直接固定されているが、第1実施形態と同様に、
図3の板材112が設けられていてもよい。
【0053】
第2実施形態による荷電粒子ビーム描画装置10のその他の構成は、第1実施形態による荷電粒子ビーム描画装置10の対応する構成と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0054】
第2実施形態による荷電粒子ビーム描画装置10は、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、第2実施形態による荷電粒子ビーム描画装置10に下記変形例を組み合わせてもよい。
(変形例)
第1又は第2実施形態の変形例は、エンドエフェクタ44と恒温化機構11との接触面が下に凸である点で、第1又は第2実施形態と異なる。
【0055】
図6は、変形例によるエンドエフェクタ44および恒温化機構11の一例を示す図である。
【0056】
本変形例によれば、エンドエフェクタ44と恒温化機構11との接触面が、湾曲している。例えば、
図6に示すように、エンドエフェクタ44の下面は恒温化機構11に向かって突出するように湾曲しており、恒温化機構11の上面に接触することにより、上面が窪むように弾性変形する。これにより、接触面積が大きくなり、効率よく排熱し、または、エンドエフェクタ44の温度を所定温度に維持することができる。
【0057】
また、本変形例による荷電粒子ビーム描画装置10は、第1または第2実施形態と同様の効果を得ることができる
【0058】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、真空装置として実施形態において荷電粒子ビーム描画装置について説明したが、これに限定されるものではなく、搬送によりウェハやマスクなどの温度変化が生じる検査装置等についても適用することができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0059】
W マスク、3 ロボットチャンバ、4 搬送ロボット、10 荷電粒子ビーム描画装置、11 恒温化機構、12 温調部、13 温度計、14 制御部、44 エンドエフェクタ、111 弾性部材、111a 湾曲部、111c 屈曲部