(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】性能が向上されたマルチ電子ビーム撮像装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/28 20060101AFI20230825BHJP
H01J 37/09 20060101ALI20230825BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20230825BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
H01J37/28 B
H01J37/09 A
H01J37/28 C
H01J37/305 B
H01L21/30 541W
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019165101
(22)【出願日】2019-09-11
【審査請求日】2022-07-06
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】アリ モハマディ-ゲイダーリ
(72)【発明者】
【氏名】ペーター クリスティアン ティーメイヤー
(72)【発明者】
【氏名】エリック レーン キエフ
(72)【発明者】
【氏名】ゲラルド ニコラース アン ファン フェーン
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-219292(JP,A)
【文献】特開2013-140997(JP,A)
【文献】国際公開第2018/099854(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0241606(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビーム撮像装置であって、
試料を保持するための、試料ホルダと、
前駆電子ビームを生成するための、電子源と、
前記前駆電子ビームから電子ビームのアレイを生成するための、開口のアレイを含む開口プレートと、
前記電子ビームのアレイを前記試料に向けるための、電子ビームカラムと、を備え、
前記電子ビームカラムが、
前記電子ビームの各々が前記電子源の中間画像を形成する、単一の個別ビーム交差平面と、
前記アレイ内の前記電子ビームが互いに交差する、単一の共通ビーム交差平面と、を備えることにより、300mm未満の長さLを有するように構成され
、
前記電子ビームは、前記単一の共通ビーム交差平面内で互いに交差する間、集束されないように構成されていることを特徴とする、電子ビーム撮像装置。
【請求項2】
L<200mmである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記電子ビームカラムが、
前記開口プレートの下流に位置する、補正レンズと、
前記補正レンズと前記試料との間の、対物レンズと、を備える、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記個別ビーム交差平面が、実質的に前記補正レンズ内にあり、かつ/または、
前記共通ビーム交差平面が、実質的に前記対物レンズ内にある、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
電子ビーム撮像装置を使用する方法であって、
試料を保持するための、試料ホルダと、
前駆電子ビームを生成するための、電子源と、
前記前駆電子ビームから電子ビームのアレイを生成するための、開口のアレイを含む開口プレートと、
前記電子ビームのアレイを前記試料に向けるための、電子ビームカラムと、を備え、
前記電子ビームカラムを、
前記電子ビームの各々が、前記電子源の中間画像を形成する、単一の個別ビーム交差平面と、
前記アレイ内の前記電子ビームが互いに交差する、単一の共通ビーム交差平面と、を提供することにより、300mm未満の長さLを有するように構成
し、
前記電子ビームは、前記単一の共通ビーム交差平面内で互いに交差する間、集束されないように構成することを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
-試料を保持するための、試料ホルダと、
-前駆電子ビームを生成するための、電子源と、
-当該前駆電子ビームから電子ビームのアレイを生成するための、開口のアレイを含む開口プレートと、
-当該電子ビームのアレイを当該試料に向けるための、電子ビームカラムと、を備える、電子ビーム撮像装置に関する。
【0002】
本発明はまた、そのような撮像装置を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電子ビーム撮像装置の実施例には、電子顕微鏡(EM)および電子ビームリソグラフィ撮像システム(とりわけ、フォトレジストコーティングされた半導体基板に集積回路パターンを書き込むために使用される)が含まれる。電子顕微鏡は、微小物体を撮像するための、ますます重要になっている周知の技術である。これまで、基本的な種類の電子顕微鏡は、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)、および走査透過電子顕微鏡(STEM)のような、いくつかの周知の装置類へと進化をたどり、また、例えばイオンビームミリングまたはイオンビーム誘導蒸着(IBID)のような支援作用を可能にする「機械加工」集束イオンビーム(FIB)をさらに採用した、いわゆる「デュアルビーム」装置(例えば、FIB-SEM)のような様々な補助装置類へと進化してきている。より具体的には、
-SEMにおいて、走査電子ビームによる試料の照射は、例えば、二次電子、後方散乱電子、X線およびカソードルミネセンス(赤外線、可視および/または紫外線光子)の形態で試料からの「補助」放射線の放出を引き起こし、次に、この放出される放射線の1つ以上の成分は、検出されて、画像蓄積の目的で使用される。
-TEMにおいては、試料を照射するために使用される電子ビームは、(この目的のために、概して、SEM試料の場合よりも薄くなる)試料を貫通するために十分に高いエネルギーを有するものとして選択され、次に、試料から放出される透過電子を使用して、画像を作り出すことができる。このようなTEMが走査モードで動作される(したがってSTEMになる)と、照射される電子ビームの走査運動中に当該画像が蓄積される。
-SEMはまた、例えば、比較的薄い試料および比較的高い入射ビームエネルギーを使用する場合に、「透過モード」で使用することもできる。そのようなツールは、しばしば「TSEM」(透過型SEM)と呼ばれ、それは、通常、試料と試料後検出器との間に配置された比較的初歩的な撮像システム(例えば、単一レンズおよび偏向器)を有する。
【0004】
撮像、(局所化)表面改質(例えば、ミリング、エッチング、蒸着等)の実行、および分光の実施に加えて、電子顕微鏡はまた、ディフラクトグラムの試験、イオンチャネリング/イオン後方散乱(ラザフォード後方散乱分光)の調査等のような、他の機能を有し得ることも留意すべきである。電子顕微鏡では、試料に衝突するビームは、しばしば「プローブ」と呼ばれることに留意されたい。
【0005】
リソグラフィ撮像システム(例えば、ウェハステッパ/ウェハスキャナ)において、放射線の化学線ビームは、基板(例えば、半導体ウェハ)の表面上に提供された(例えば、スピンコートされた)材料(フォトレジスト)のエネルギー感応性層をパターン化するために使用される。従来、化学線は、マスク/レチクルおよびそのパターンを通過してエネルギー感応性層上に達する(例えば、水銀灯またはレーザからの)広い光子ビームを含んでいた。しかしながら、他の種類のリソグラフィ撮像システムは、所望のパターンにしたがってエネルギー感応性層上にわたって1つ以上の電子ビームをトレースする、いわゆる「直接書き込み」電子ビームツールなどの荷電粒子を利用している。
【0006】
すべての場合において、電子ビーム撮像装置は、少なくとも以下の構成要素を備える。
-例えば、電界放出銃(FEG;ショットキーまたはコールドFEG)またはLaB6熱源を備える、電子源。
-電子源からの「未処理の」放射線ビームを操作し、集束、収差の軽減、(絞りを使用した)クロッピング、フィルタリングなどのような特定の操作を実行するのに役立つ、照明器(電子ビームカラム、電子光学カラム)。照明器は、一般的に、1つ以上の(荷電粒子)レンズを備えることになり、他のタイプの(粒子)光学部品も備え得る。所望される場合、照明器には、偏向器システムを設けることができ、偏向器システムは、調査中の試料にわたってその出射ビームに走査運動を実行させるために援用することができる。
-調査中の試料をその上に保持して位置決め(例えば、傾斜、回転)することができる試料ホルダ。所望される場合、ビームに関して試料の走査運動をもたらすようにこのホルダを移動することができる。一般に、このような試料ホルダは、位置決めシステムに接続される。極低温試料を保持するように設計される場合、試料ホルダは、例えば適切に接続される極低温槽を使用して、当該試料を極低温に維持するための手段を備えることができる。
【0007】
例えば、(S)TEMまたはTSEMのような透過型装置は、以下をさらに備える。
-試料(平面)[またはリソグラフィにおけるマスク平面]を透過した電子を本質的に捉え、検出/撮像デバイス、分光装置、レジストコーティングされた基板[リソグラフィにおける]などのターゲット上に向ける(集束させる)、撮像システム。上述した照明器の場合と同様に、撮像システムはまた、収差の軽減、クロッピング、フィルタリングなどの他の機能を実行することもでき、それは、一般的に、1つ以上の荷電粒子レンズおよび/または他の種類の電子光学部品を備える。
【0008】
従来の電子ビーム撮像装置は、単一の撮像ビームを利用してきた。しかしながら、近年、マルチビーム装置の設計が現れ始めており、電子源からの前駆ビームは、当該前駆ビームのフットプリント内に多孔プレートを配置することによりサブビームのアレイに変換され、その開口が(相補電極と組み合わせて使用される場合)レンズ効果を持つので、そのような開口プレートは開口レンズアレイ(ALA)とも呼ぶことができる。マルチビーム電子顕微鏡は、例えば、本発明者のうちの1人の博士論文:Ali Mohammadi-Gheidariによる「196 Beams in a Scanning Electron Microscope」,TU Delft、オランダ、2013年11月(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
https://repository.tudelft.nl/islandora/object/uuid:98869173-12db-49cf-9466-0341cf6ad845?collection=research
さらに、マルチ電子ビームリソグラフィ撮像システムは、例えば、オランダのデルフトにあるMapper Lithography B.V.社によって開発されて販売されている。単一のビームとは対照的に、複数の一次ビームを同時に使用することの背後にある基本的な考え方は、ビームのアレイの使用が「パラレル撮像」を可能にするため、スループットの大幅な向上を約束することである。しかしながら、複数の撮像ビーム(ビームレット;サブビーム;成分ビーム)の同時使用もまた、満足に対処される必要がある様々な技術的問題および課題を提示する。このような問題が発生する1つの領域は、特に比較的高い画像輝度が必要な場合の撮像/パターニングの品質である。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、改良されたマルチ電子ビーム撮像装置を提供することである。より具体的には、本発明の目的は、特に比較的高いビーム電流において、そのような撮像装置が既存のマルチ電子ビーム設計よりも満足のいく撮像性能を可能にすることである。
【0010】
これらおよび他の目的は、当該電子ビームカラムが、請求項1で定義される特徴を備えることにより、300mm未満の長さLを有するように構成されていることを特徴とする、先の冒頭段落に記載の撮像装置で達成される。ここで、カラム長Lは、電子源と試料との間の距離として定義される。
【0011】
本発明につながる/根底にある様々な洞察は、次のように解明することができる。
-(例えば、光子撮像とは対照的に)電子ビーム撮像装置の基本的な問題は、ビーム電子がクーロン相互作用を介して互いに影響を与える可能性があることである。このような相互作用により、電子の軌跡がわずかに変化し、光軸に対するその位置が元の値/公称値から逸脱する可能性がある。このような多くの相互作用の累積効果は、(統計的な)「ビーム広がり」現象であり、これにより、例えば、所定の平面(例えば、試料平面または検出器平面)上でビームの名目上の丸いフットプリントが膨張し、逸脱した電子の周辺の「ハロー」を獲得する。これにより画像のぼやけが発生するが、(同じ数の電子がより大きなフットプリントに広がるため)画像の強度も低下する。所定の必要な解像度に対して、このクーロンビーム拡散は、ビームで許容できる最大ビーム電流に基本的な制限を設定し、それに応じて単一ビーム撮像装置で達成できるスループットに基本的な制限を設定する。
-マルチビーム電子撮像装置は、スループットを向上させることを目的としている。マルチビーム装置の使用の根底にある共通仮定は、所与のサブビーム内の電子は、それ自体のサブビーム内の他の電子とのクーロン相互作用のみを(または主に)経験し、これらのサブビームが互いに交差しない限り、他のサブビーム内の電子とのクーロン相互作用は経験しない(またはほとんど経験しない)。この仮定に基づいて、これらのサブビームに交差がない(またはほとんどない)場合(つまり、ビームが互いに交差する場所)、サブビームの数を適切に増加することにより、カラムの総電流を本質的に任意に増加することが期待できる。
-本発明者らは、このようなクーロン相互作用を広範囲に調査した。電子ビームカラムの設計におけるビーム交差は、このようなクーロン相互作用の「繁殖地」であるという仮定に基づいて、そのような交差の数が低下するか、大幅に排除されるカラム設計のテストを開始し、驚くべきことに、本発明者らは、上述のぼやけ/ビーム拡散問題の大きさはそのような設計では減少したが、それでもかなりの程度まで存在することを発見した。さらに広範な分析により、異なるサブビームの電子間の相互作用が以前に想定されていたよりも大きいことが予想外に明らかになった。これは、次の(非相対論的)実施例を使用して明確にすることができる。V=10kVのビーム電位で、I=1nAのビーム電流を運ぶサブビームを考える。このサブビームの電子間の平均長手方向(Z)距離は、vz=√(2eV/m)=6×107m/sを使用して、dz=evz/I=10mmである(ここで、eは素電荷、vzは電子速度、mは電子質量である)。これは、サブビーム間の典型的な横方向の間隔よりもはるかに大きく、約10~500μmの範囲にあることを示している。したがって、与えられた電子の最近傍が同じサブビームとは反対の異なるサブビームにある可能性がはるかに高くなる。したがって、すべてのサブビーム内のすべての電子間でクーロン相互作用が発生し、個別サブビームが互いに交差するか、カラムを別々に移動するかには比較的にそれほど依存しない。
-本発明にとって重要なことには、本発明者らは、達成可能な画像解像度に影響を与える重要な要因が電子ビームカラムの長さLであることを発見し、実際、本発明者らは次のことを発見した。
・電子-電子相互作用の効果は、約L2に応じて、近似値に比例された。これは、次のことに基づいて大まかに説明できる。
□カラムが長いほど、相互作用が発生する時間が直線的に長くなり、
□カラムが長いほど、このような相互作用の効果を活用するために「アーム」が直線的に長くなる。
【0012】
これらの2つの線形効果が組み合わされて、Lに対する当該2次依存性が生じる。
・Lの値を短くすると、倍率値が小さくなり、これにより、開口プレート/ALAは、より小さなピッチでより大きな開口を持つことができ、透過率が向上し、このような開口プレート/ALAは、開口が小さいものに比べて製造が比較的容易である。関連して、Lの値を短くすると、開口プレート/ALAでのビーム開口角が小さくなり、余分な(介在する)ビームを画定する開口のないカラム設計では、これにより同時に試料レベルでのビーム開口角が小さくなり、さらに、一般に収差が低下する。別の説明をすると、
□電子源から試料までの(空間)倍率は、おおよそLに比例する。
□電子源から試料までの角倍率は、(空間)倍率に反比例し、したがって、光源の開口角が固定されている場合、Lを大きくすると、試料に衝突する「プローブ」の開口角が大きくなり、それに対応してプローブ形成光学系の収差が大きくなる。
□これらの収差は、ビーム径を制限することで(例えば、開口プレート/ALA内により小さな開口を使用することで)低下できるが、これによりプローブ電流が関連して低下するため、これは望ましくなく、また、開口プレート/ALAの製造可能性も低下する。
【0013】
したがって、短縮されたカラムを開発するための措置が講じられ、Lの値が約300mm未満の場合、前述のぼやけ/ビーム拡散の問題は許容範囲内に収まる。この発明の解決策は、クーロン相互作用問題を制御するために、ビーム電流の低下(それと比例してスループットを低下させる)をそれ自体が必要としないという点でとりわけ有利である。
【0014】
この方法でカラムの長さLを縮小することは、多少直感に反することに留意すべきである。これは、典型的なカラムには、厳しい公差内で配置および整列する必要がある比較的かさばる粒子光学部品が多数含まれるためであり、これは伝統的に比較的長い/広々としたカラムの設計をもたらしてきた。したがって、非常にタイトな/よりコンパクトな構成を優先してそのような広々とした設計を放棄することは、概して望ましくないと見なされる。参考までに、上述の博士論文で説明されているマルチビームSEMのカラム長は約500mmであり、本発明が提示する上限よりも66%大きいことに留意すべきである。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、カラム長LはL<200mmを満たす。本発明者らは、試料レベルでの「クーロンぼかし」BC(逆解像度)が、式に従って比例することを見出した。
BC~I L2/V4/3
ここで、Iは(累積)ビーム電流、Vはビーム電位(加速電圧)、Lはカラム長である。したがって、Lが低下すると、Iを増加させることができ(同等の解像度の場合)、または、さらに解像度を強化できる(所与のIの値の場合)。通常、200~300mmの範囲のL値で良好な結果が得られたが、200mm未満のL値の方がより満足な結果が得られることがわかった。
【0016】
本明細書で定義されるように、電子ビームカラムは、
-当該電子ビームの各々が前記電子源の中間画像を形成する、単一の個別ビーム交差平面と、
-アレイ内の電子ビームが互いに交差する(または、別の言い方をすれば、電子ビームカラムの光軸と交差する)、単一の共通ビーム交差平面と、を備えることにより、300mm未満の長さLを有するように構成されている。
【0017】
従来の電子ビームカラムは、単一ビーム装置と例えば上述の博士論文に記載されているマルチビームSEMの両方において、それらの設計にいくつかのビーム交差を有する傾向にある。対物レンズに加えて、そのような構成は、例えば、集光レンズ、カラムの中心にある可変視野絞り(これにより、ビーム電流、およびしたがって画像輝度を便利に調整できる)、追加の拡大レンズなどのような、対物の上流の様々な他の光学要素を利用したい場合がある。このような光学要素を組み込むと、必然的に関連するビーム交差(個別および/または共通)が発生する。すでに上で述べたように、そのような交差はクーロン相互作用を悪化させる傾向があるため、本発明者らは交差の数/タイプを実用的な最小値に制限する「スパルタン」カラム設計を開発した。さらに、このスパルタン設計により、比較的短いカラムを簡単に実現できた。単一の個別ビーム交差平面と単一の共通ビーム交差平面は平行な平面であり、これらの平面が一致しないことを意味することに留意されたい。言い換えれば、単一の共通ビーム交差平面は、単一の個別ビーム交差平面に平行である。
【0018】
一実施形態では、個別電子ビームは、単一の共通ビーム交差平面内で互いに交差する間、集束されていない。これにより、様々なサブビーム内の電子間のクーロン相互作用が低下する。
【0019】
本発明の特定の実施形態では、電子ビームカラムは、
-開口プレートの下流に配置された補正レンズ、
-当該補正レンズと試料との間の対物レンズ、を備える。
【0020】
本明細書に記載される複合(複合/混合)補正レンズは、例えば以下を含むことができる。
・開口プレート/ALAが動作する比較的低い電位(通常約1~2kV)からメインカラムが動作する比較的高い電位(通常約10~20kV)に電子を加速するための、加速ステージ。開口プレート/ALAに比較的低い電位が好ましいのは、その構築が容易になるためであり、一方、メイン/下部カラムに比較的高い電位が好ましいのは、より高い電位ではクーロン相互作用の影響が少ないため、また、より高い電位では電子の短波長化および色彩のぼやけの低下により「プローブ」の分解能が向上するためである。加速器ステージは、例えば、電子が段階的に加速されるカスケード静電界構成を提供する加速器電極のペアの一連の「トレイン」を含むことができる。
・サブビームをコリメート/集束するためのコリメータレンズ。このコリメータレンズは、電子源の(中間)画像の平面がこのレンズの中心にある/近くになるように理想的に配置され、(例えば、軸外色収差による)これらの中間画像のピンぼけ/ぼやけを回避する。さらに、このレンズは概して、開口アレイ/ALAを出るサブビームの発散アレイがコリメータレンズにおいて、球面収差効果がサブビームのパターンを大幅に歪ませるのに十分に大きくなることを防ぐために、開口アレイ/ALAに比較的近い位置(例えば約30mm以内)に配置される。
【0021】
前述の博士論文は、次のように構成された4つの電極を含む特定の補正レンズについて説明していることに留意されたい。
-最初の3つの電極は、主にコリメートする(加速もする)。
-第4の電極は主に加速する(コリメートもする)。
【0022】
指定された対物レンズは、電子源の(中間)画像のアレイを有する平面を(試料上で)撮像および縮小するのに役立つ。収差を最小限に抑えるために、上述のコリメータレンズは、すべてのサブビームが対物レンズのいわゆる「コマフリー」ポイントを通過するように理想的に調整される。レンズのコマフリーポイントは通常、レンズの中心に近く、当業者に知られているように、傾斜ビームがこのコマフリーポイントを通過するとき、レンズは、傾斜ビーム(当該サブビームなど)をコマ収差で悩まさない。
【0023】
前の段落の説明を参照すると、例えば、
-当該個別ビームの交差平面は、当該補正レンズ内/その近くに位置し、
-当該共通ビームの交差平面は、当該対物レンズ内/その近くに位置する、カラム設計を使用することができる。
例えば、
図3を参照されたい。
【0024】
本発明は、走査アセンブリを使用して行われる、ビームアレイと試料の相対的(横方向)走査運動中に画像が蓄積される走査型撮像装置での使用に適している。このような相対的な走査運動は、様々な方法で実現できる。例えば、以下のとおりである:
(i)1つの可能な(「機械的走査」)設定では、使用される走査アセンブリは、試料ホルダの走査運動を生成するためのアクチュエータシステムを備えている。
(ii)代替の(「ビーム走査」)設定では、使用される走査アセンブリは、試料に対してビームアレイを偏向させるビーム偏向器システムを備えている。例えば、マルチビームSTEMの場合:
-試料の上流にある第1のビーム偏向器システムを呼び出して、試料に対するビームアレイの走査運動を生成できる。
-試料の下流および撮像検出器の上流にある第2のビーム偏向器システムを使用して、当該第1のビーム偏向器システムによって生成される走査運動を無効にすることができる(いわゆる「走査解除(de-scan)」)。
【0025】
アプローチ(i)は、アプローチ(ii)よりも複雑性/複合性が少ない傾向にあるという点で有利であり、走査経路を正確に移動できる試料ホルダステージを使用する必要はあるものの、例えばリソグラフィで洗練された走査ステージが既に使用されており、多くの異なる実装で利用可能であるため、これは技術的なハードルを提示する必要はない。ビーム走査は、単一ビームEM(SEMおよびSTEMなど)で使用されるより伝統的なアプローチであるが、本発明では複数ビームへの変更が必要になる。言うまでもなく、必要に応じて、両方のタイプの走査を使用するアプローチ(i)と(ii)のハイブリッドを選択することもできる。
【0026】
本発明で使用されるビームアレイ(における成分ビームの数)の基数に関して、これは任意であることが強調されるべきである。一方では、ビーム数が多いほど、達成できるスループットの向上が大きくなる。他方、ビームの数が増加すると、システム全体の複雑さが増し、さらに、上で説明したように、異なるビームの電子は互いに相互作用するため、ビームの数が増加するとクーロンぼやけも増加させる傾向にある。当業者は、これらの競合する効果間の妥協点を見出し、所与のシナリオ/使用事例に適切な数を選択することができるであろう。例えば、14×14アレイの196本のビームを使用してシステムを構築することができるが、ただし、多くの他のビームの複数性/構成も可能である。
【0027】
本発明は、ここで、例示的な実施形態および添付の概略図に基づいてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明が実装される荷電粒子撮像装置(この場合、電子顕微鏡)の実施形態の縦断面正面図を描写している。
【
図2】単一の前駆ビームから電子ビームアレイを生成する方法を示す。
【
図3】本発明の一実施形態による特定の電子ビームカラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図面において、適切な場合、対応する部分は、対応する参照符号を使用して示される。
【0030】
実施形態1
図1(縮尺どおりではない)は、本発明が利用される電子ビーム撮像装置の実施形態の非常に概略的な図であり、より具体的には、SEMの一実施形態を示しているが、本発明の文脈では、例えば、STEMまたはリソグラフィ撮像システムとすることもできる。撮像装置(顕微鏡)1は、(とりわけ)以下を含む。
-粒子光軸B’に沿って伝搬する電子ビームBを生成する電子源3(例えば、ショットキーエミッタ、コールドFEG、またはLaB
6フィラメントなど)。
-電子ビームBを誘導/集束するための様々なレンズ11、13、およびビームBのビーム偏向/走査を実行する偏向ユニット15を備える電子ビームカラム5。カラム5は収差補正器、視野絞りなども備え得る。
-試料Sを保持/位置決めするための試料ホルダ17および関連するステージ/アクチュエータ19を備える、真空チャンバ7。真空チャンバ7(およびカラム5/電子源3も)は、真空ポンプ(図示せず)を使用して排気される。電圧源21を用いて、試料ホルダ17、または少なくとも試料Sは、必要に応じて、グラウンドに対して所定電位にバイアス(浮遊)され得る。
【0031】
試料S上で電子ビームBを走査することによって、例えば、X線、赤外/可視/紫外光、二次電子および/または後方散乱電子を含む出射放射線が試料Sから発せられる。検出器23、27は、そのような出射放射線の異なる種類/様式を検査するために使用することができる様々な可能な検出器の種類から選択することができる。ここに描かれた装置では、以下の検出器の選択がなされた:
-検出器23は、(光軸B’を包含する)中央開口部25の周りに配置された複数の独立した検出セグメント(例えば、四分円)を含む、セグメント化電子検出器である。そのような検出器は、例えば、試料Sから発せられる(二次/後方散乱)電子の角度依存性を調査するために使用することができる。
-検出器27は、例えば、試料Sから発せられるX線を記録し、したがって、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を実行するために使用することができるX線検出器である。それは、代替的に例えば陰極線ルミネセンス検出器とすることができる。
【0032】
代替的に/補足的に、例えば同時係属の欧州特許出願第EP18176596.7号に記載されているような後方散乱電子検出器を使用することができる。検出された出射放射線は、(当該走査運動のために)位置依存的であるため、検出器23、27から得られた情報もまた、位置依存的であり、したがって、試料S上の走査経路位置の関数としての基本的に検出器出力のマップである画像を組み立てるために使用することができる。検出器23、27からの信号は、制御線(バス)29’を通り、制御装置29によって処理され、表示ユニット31に表示される。そのような処理は、結合、積分、減算、偽色付け、エッジ強調、および当業者に知られている他の処理などの操作を含み得る。さらに、(例えば、粒子分析に使用されるような)自動認識プロセスが、そのような処理に含まれてもよい。
【0033】
そのような「基本的な」設定の様々な改良および代替は、当業者に知られており、以下を含むが、それらに限定されるものではない:
-デュアル一次ビーム種の使用、例えば試料Sの撮像のための電子ビームおよび機械加工(または、場合によっては撮像)のためのイオンビーム。
-例えば、数ミリバールの圧力を維持すること(いわゆる環境SEMにおいて使用されるように)、またはエッチングもしくは前駆ガスなどのガスを入れることによる、試料Sにおける制御された環境の使用。
【0034】
本発明にとって重要なことは、従来のSEMにおいて使用されるような単一の一次電子ビームがここではマルチビームアレイによって置き換えられているという事実である。
図2は、
図1に対する比較的小さな修正を用いて、そのようなマルチビームアレイをどのように生成することができるかを示している。前駆(同期前駆、初期)電子ビームB
oは、電子源3を出て、一連の電極3’を横断し、複数の開口9’を含む開口プレート/ALA9に衝突し、このような構造9は、例えば、薄膜(MEMS)技術を使用してシリコンシートに小孔のアレイをエッチングすることによって製造することができる(例えば、前述した博士論文を参照)。開口プレート/ALA9は、電子ビームカラム5内に配置され、典型的には、例えば、その下流で約5~10mm程度の間隔で、電子源3の比較的近くに配置される。ALA9に衝突する結果として、前駆ビームB
oは、それらを生成するために使用された複数の開口9’’と同じ幾何学的構成で、複数/アレイBのサブビーム/ビームレット/成分ビームB’’に変換される。次に、このビームアレイBは、それを試料S上に向けるカラム5を通って軸B’に沿ってその進路をたどる(
図1を参照)。さらにより詳細には:
-開口プレート/ALAは、それぞれ直径が約10μmで、ピッチ/間隔が約20μmの14×14個の開口9’のアレイを備える。
-電極3’は、各開口9’に電位変動を生じさせ、各開口9’が静電ミニレンズとして機能するようにする。このようにして、様々なサブビームB’’は、開口プレート/ALA9の下流の電子源3の(中間)画像のアレイに集束される。
-原則として、このレンズ効果を生成するために、開口プレート/ALA9と連携して動作するために必要なのは1つの電極3’のみであるが、ただし、複数の電極3’を使用すると、「微調整」に関してより多くの可能性が得られる。
-電子源3と開口プレート/ALA9の様々な開口9’(静電ミニレンズ)との間の距離は、光学/カラム軸B’からの距離が増加するとわずかに増加する。すべての開口/ミニレンズ9’の焦点強度が同じ場合、これにより電子源3の(中間)画像の画像距離に変動が生じ、これらの画像が光学/カラム軸B’に垂直な1つの共通平面内に存在しなくなり、代わりに曲面(本質的に球体の一部)上に存在することになる。(中間)電子源画像を有するこの平面のこのような湾曲を防ぐために、その電界が主に外側ミニレンズの焦点強度に影響を与えるような寸法の補正電極を使用することができる。この補正電極の電位を適切に調整することにより、前述の湾曲を緩和/除去することができる。このような補正電極は、例えば、Y.ZhangおよびP.Kruitによるジャーナル記事「Design of a high brightness multi-electron-beam source」,Proc.Seventh Int.Conf.on Charged Particle Optics,Physics Procedia 1(2008),pp.553-563,ELSEVIER pub.(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、図示された電極群3’に含むことができる。あるいは、このタイプの補正電極は、例えば米国特許第US8598545号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、ALA9の下流に配置することができる。
【0035】
本発明の特定の文脈において、電子源3の電子放出構造(先端)と試料Sの(上部)表面との間のカラム5の長さLは、従来技術のマルチビーム撮像システムに比べて短縮され、値L<300mm、好ましくはL<200mmを有する。
【0036】
実施形態2
図3は、本発明の一実施形態による特定の電子ビームカラムを示している。ここで:
-レンズ11は上述の(複合)補正レンズである。レンズ(の平面)内の個別ビーム交差(中間電子源画像)に留意されたい。
-レンズ13は上述の対物レンズである。レンズ(の平面)内の共通ビーム交差に留意されたい。ここでは、個別ビームは互いに交差しながら集束されていない。
【0037】
個別ビーム交差(中間電子源画像)も試料Sの表面上に存在するが、他の交差は存在しない(特にレンズ11と13との間)。図面を不必要に混雑させないために、走査コイル15はこの図から省略されている。