(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】窒素元素を含む炭素質材料、その製造方法、電極および電池
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20230825BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230825BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
C01B32/05
H01M4/587
H01M4/62 B
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2020009391
(22)【出願日】2020-01-23
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】長谷中 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 秀治
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/009333(WO,A1)
【文献】特開2016-152225(JP,A)
【文献】特開2006-188366(JP,A)
【文献】特開2015-067514(JP,A)
【文献】YANG, Zhewei et al.,Cooperation of nitrogen-doping and catalysis to improve the Li-ion storage performance of lignin-based hard carbon,Journal of Energy Chemistry,2018年02月03日,Vol.27,PP.1390-1396,ISSN:2095-4956, DOI:10.1016/j.jechem.2018.01.013
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素元素含有量は0.8質量%以上1.5質量%以下であり、窒素元素と酸素元素の質量比O/Nは0.2以上1.0以下であり、酸素不存在下40℃から2400℃に昇温したときに検出される全一酸化炭素量に対する500~1000℃で検出される一酸化炭素量は22モル%以上であり、BET法により求めた比表面積は1m
2/g以上80m
2/g以下である炭素質材料。
【請求項2】
前記炭素質材料の体積平均粒径は0.05μm以上200μm以下である、請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項3】
CuKα線を用いて測定される前記炭素質材料の(002)面の面間隔d
002は3.4Å以上3.95Å以下である、請求項1または2に記載の炭素質材料。
【請求項4】
非水電解質電池負極活物質である、請求項1~3のいずれかに記載の炭素質材料。
【請求項5】
非水電解質電池または水系電解質電池の導電材である、請求項1~3のいずれかに記載の炭素質材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の炭素質材料を含む、電極。
【請求項7】
請求項6に記載の電極を含む、電池。
【請求項8】
リグニン、アミン、水、およびアルデヒドを混合して水溶液を得る工程、
前記水溶液から溶媒を除去して固化する工程、および
得られた固化物を不活性ガス雰囲気下500℃以上1500℃以下の温度で炭化して炭素質材料を得る工程
を含む、請求項1~5のいずれかに記載の炭素質材料の製造方法。
【請求項9】
前記炭化工程が、500℃以上900℃以下で炭化する第一の炭化工程および900℃以上1500℃以下で炭化する第二の炭化工程の二工程を含む、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素元素を含む炭素質材料、その製造方法、電極および電池に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素質材料は、鉛炭素電池のような水系電解質電池、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池のような非水電解質電池、全固体電池、燃料電池等の様々な電極に用いられており、用途に応じた特性を有する炭素質材料が求められている。例えば、携帯電話やノートパソコンといった小型携帯機器用途では、体積当たりの電池容量が重要となるため、密度の大きい黒鉛質材料が主に負極活物質として利用されている。また、車載用リチウムイオン二次電池は大型で且つ高価であることから使用途中での交換が困難であるため、少なくとも自動車と同じ耐久性が必要であり、10年以上の寿命性能の実現(高耐久性)が求められている。これに対し、黒鉛質材料または黒鉛構造の発達した炭素質材料では、リチウムのドープ、脱ドープの繰り返しによる結晶の膨張収縮により電極の破壊が起きやすく、充放電を繰り返した際の性能維持特性が劣るため、高いサイクル耐久性が求められる車載用リチウムイオン二次電池用負極材料としては適していない。一方、難黒鉛化性炭素はリチウムのドープ、脱ドープ反応による粒子の膨張収縮が小さいため、高いサイクル耐久性を有するという観点からは自動車用途での使用に適している。
【0003】
このような難黒鉛化性炭素の炭素源としては、これまで石油ピッチまたは石炭ピッチ等が用いられていたが、近年、地球環境への影響や埋蔵量の減少を懸念して、これらに代わる炭素源を利用した炭素質材料が求められている。製紙業のパルプの製造工程で、副生成物として大量に排出されるリグニンを炭素源として用いた炭素質材料はその一例である。非特許文献1には、水酸化カリウム溶液に溶解したリグニンを炭化して得られた炭素質材料が記載されている。
【0004】
非特許文献2には、リグニンとエポキシ樹脂をアルコール溶液に溶解し、硬化後炭化して得られた炭素質材料が記載されている。
【0005】
非特許文献3には、窒素を導入するポリマーとしてメラミンとリグニンとをホルムアルデヒドに溶解して作製した、リグニン-メラミン樹脂を炭化および焼結して得られた炭素質材料が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Electrochimica Acta、2015年9月10日、第176巻、p.1136-1142
【文献】Chemical Engineering Journal、2018年6月1日、第341巻、p.280-288
【文献】Journal of Energy Chemistry、2018年、第27巻、第5号、p.1390-1396
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記非特許文献1に記載された方法では、反応に使用したアルカリ金属の除去等工程数が多い。また、非特許文献2に記載された方法は、他の物質との複合化が必須であり、工程が複雑である。非特許文献3では、電気化学特性を改善する目的で炭素質材料に窒素原子を導入しているが、添加したNi触媒の除去が必要であり、工程が複雑である。さらに、いずれの方法で得られた炭素質材料も、放電容量が小さく、不可逆容量が大きいものである。さらにサイクル耐久性が悪いことから電池材料としての性能が十分なものではない。
【0008】
したがって本発明の課題は、不可逆容量が小さく、かつ放電容量およびサイクル耐久性に優れた電池が得られる炭素質材料およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために詳細に検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
〔1〕酸素元素含有量は0.8質量%以上1.5質量%以下であり、窒素元素と酸素元素の質量比O/Nは0.2以上1.0以下であり、酸素不存在下40℃から2400℃に昇温したときに検出される全一酸化炭素量に対する500~1000℃で検出される一酸化炭素量は22モル%以上であり、BET法により求めた比表面積は1m2/g以上80m2/g以下である炭素質材料。
〔2〕前記炭素質材料の体積平均粒径は0.05μm以上200μm以下である、〔1〕に記載の炭素質材料。
〔3〕CuKα線を用いて測定される前記炭素質材料の(002)面の面間隔d002は3.4Å以上3.95Å以下である、〔1〕または〔2〕に記載の炭素質材料。
〔4〕非水電解質電池負極活物質である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の炭素質材料。
〔5〕非水電解質電池または水系電解質電池の導電材である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の炭素質材料。
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の炭素質材料を含む、電極。
〔7〕〔6〕に記載の電極を含む、電池。
〔8〕リグニン、アミン、水、およびアルデヒドを混合して水溶液を得る工程、
前記水溶液から溶媒を除去して固化する工程、および
得られた固化物を不活性ガス雰囲気下500℃以上1500℃以下の温度で炭化して炭素質材料を得る工程を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の炭素質材料の製造方法。
〔9〕前記炭化工程が、500℃以上900℃以下で炭化する第一の炭化工程および900℃以上1500℃以下で炭化する第二の炭化工程の二工程を含む、〔8〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、不可逆容量が小さく、かつ放電容量およびサイクル耐久性に優れた電池が得られる炭素質材料およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、以下は本発明の実施形態を例示する説明であって、本発明を以下の実施形態に限定することは意図されていない。
【0013】
<炭素質材料>
本発明の炭素質材料は、酸素元素含有量が0.8質量%以上1.5質量%以下であり、窒素元素と酸素元素の質量比O/Nが0.2以上1.0以下であり、酸素不存在下40℃から2400℃に昇温したときに検出される全一酸化炭素量に対する500~1000℃で検出される一酸化炭素量が22モル%以上であり、BET法により求めた比表面積が1m2/g以上80m2/g以下である。
【0014】
[酸素元素含有量]
本発明の炭素質材料は、酸素元素含有量が0.8質量%以上1.5質量%以下である。酸素元素含有量が0.8質量%未満であると、電解液親和性が低下し、所望の特性を有する非水電解質二次電池が得られない可能性があり、酸素元素含有量が1.5質量%を超えると、イオン吸着による不可逆反応が促進され、不可逆容量が増加しやすくなる。また、分解ガス発生が増加しやすくなることから、サイクル耐久性も低下しやすくなる。酸素元素含有量は、好ましくは0.9質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上であり、好ましくは1.4質量%以下、より好ましくは1.3質量%以下である。酸素元素含有量が前記下限値以上であると、所望の特性を有する非水電解質二次電池が得やすく、酸素元素含有量が前記上限値以下であると、より小さい不可逆容量および高いサイクル耐久性を得やすい。本発明の炭素質材料の酸素元素含有量は、後述の本発明の炭素質材料の製造方法における、炭化工程の処理温度または処理時間、もしくは不活性ガス雰囲気中の酸素濃度を適宜調整することによって前記下限値以上および前記上限値以下に調整することができる。また、酸素元素含有量は例えば、後述の実施例に記載の方法によって求めることができる。
【0015】
[窒素元素と酸素元素の質量比O/N]
本発明の炭素質材料は、窒素元素と酸素元素の質量比O/Nが0.2以上1.0以下である。前記窒素元素と酸素元素の質量比O/Nが0.2未満であると、窒素導入による炭素構造の乱れが発生しにくく、所望のサイクル耐久性および入出力特性が得られない可能性がある。また、導電助剤として使用する際にも、高い導電性を維持できず、電池活物質の入出力特性を低下し得る。また、窒素元素と酸素元素の質量比O/Nが1.0を超えると、酸素官能基へのイオン吸着による不可逆反応が促進され、不可逆容量が増加し、その結果放電容量が低下しやすくなる。窒素元素と酸素元素の質量比O/Nは、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上であり、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.9以下である。窒素元素と酸素元素の質量比O/Nが前記下限値以上であると、所望のサイクル耐久性および入出力特性が得られやすく、前記窒素元素と酸素元素の質量比O/Nが前記上限値以下であると、不可逆容量が低減しやすく、放電容量が増加しやすくなる。本発明の炭素質材料の窒素元素と酸素元素の質量比O/Nは、リグニンとアミンの混合比、後述の本発明の炭素質材料の製造方法における炭化工程の処理温度や処理時間、不活性ガス雰囲気中の酸素濃度を適宜調整することによって前記下限値以上および前記上限値以下に調整することができる。本発明の炭素質材料の窒素元素と酸素元素の質量比O/Nは、例えば、後述の実施例に記載の方法によって求めることができる。
【0016】
[一酸化炭素量]
本発明の炭素質材料を、酸素不存在下40℃から2400℃に昇温したときに検出される全一酸化炭素量に対する、500~1000℃で検出される一酸化炭素量(以下、単に「500~1000℃で検出される一酸化炭素量」と称することがある)は22モル%以上である。500~1000℃の温度領域で検出される一酸化炭素はフェノール類およびキノン類の分解で生じた一酸化炭素に対応しており、1000℃を超える温度領域で検出される一酸化炭素はエーテル状酸素が分解脱離して生じた一酸化炭素に対応する。500~1000℃で検出される一酸化炭素量が22モル%未満であると、炭素質材料を電極材料に用いた場合にフェノール類およびキノン類に対する電解液親和効果が得られず、所望の特性を有する非水電解質二次電池が得られない可能性がある。500~1000℃で検出される一酸化炭素量は好ましくは23モル%以上、より好ましくは24モル%以上、さらに好ましくは25モル%以上である。500~1000℃で検出される一酸化炭素量が前記下限値以上であると、所望の特性を有する非水電解質二次電池が得られやすい。本発明の炭素質材料の500~1000℃で検出される一酸化炭素量は、原料に含まれる官能基の種類に影響を受け得る。そのような官能基を有する原料としてリグニンを使用することで、500~1000℃で検出される一酸化炭素量を前記下限値以上に調整することができる。リグニンの使用は環境負荷低減という観点からも好ましい。500~1000℃で検出される一酸化炭素量の上限値は特に制限されないが、通常70モル%以下である。前記の各温度領域での一酸化炭素量は、例えば後述の実施例に記載の方法によって求められる。
【0017】
[BET法により求めた比表面積]
本発明の炭素質材料のBET法により求めた比表面積は、1m2/g以上80m2/g以下である。比表面積が1m2/g未満であると、非水電解質二次電池の負極として用いた場合に、電解液との反応面積が少ないため入出力特性が低くなりやすく、80m2/gを超えると、非水電解質二次電池の負極として用いた場合に、電解液との分解反応が増加するため不可逆容量増加に繋がり、高い電池性能を得ることができない可能性がある。本発明の炭素質材料の比表面積は、好ましくは1.5m2/g以上、より好ましくは2m2/g以上、さらに好ましくは3m2/g以上であり、好ましくは60m2/g以下、より好ましくは40m2/g以下、さらに好ましくは35m2/g以下、特に好ましくは30m2/g以下である。比表面積が前記下限値以上であると、高い入出特性が得られやすく、前記上限値以下であると不可逆容量が低減し、高い電池性能を得やすい。本発明の炭素質材料のBET法により求めた比表面積は、後述の本発明の炭素質材料の製造方法における炭化工程の温度または処理時間を適宜調整することによって、前記下限値以上および上限値以下に調整できる。本発明の炭素質材料のBET法により求めた比表面積は、例えば実施例に記載の通り、窒素吸着等温線を測定する方法によって求められる。
【0018】
[体積平均粒径]
本発明の炭素質材料の体積基準の累計粒度分布における平均粒径(以下「D50」または「平均粒径」と記載)は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下である。本発明の炭素質材料の平均粒径が前記下限値以上および前記上限値以下であると、微粉が発生しにくいため操作性が良く、また炭素質材料内での金属イオンまたは水素イオンの拡散自由行程が小さいため、高い容量が得られやすい。また、電子を伝導する導電材として使用する際、炭素質材料間の接触率が高くなりやすいため好ましい。本発明の電池用炭素質材料は、鉛電池等にも適用することができる。鉛電池として適用する場合は特に、平均粒径が20μm以上であることが好ましく、40μm以上であることが好ましい。この下限以上であると、鉛電池の電解液による酸化分解が抑制され、電池寿命に優れる。本発明の体積平均粒径は、例えば、粉砕工程およびそれに続く分級工程によって前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。本発明の炭素質材料の体積平均粒径は、例えば動的光散乱法、レーザー回折法またはコールター法等によって求めることができる。
【0019】
[(002)面の面間隔d002]
CuKα線を用いて測定される本発明の炭素質材料の(002)面の面間隔d002は、好ましくは3.4Å以上、より好ましくは3.6Å以上、さらに好ましくは3.8Å以上、特に好ましくは3.82Å以上であり、好ましくは3.95Å以下、より好ましくは3.92Å以下、さらに好ましくは3.90Å以下である。(002)面の面間隔d002が前記下限値以上および上限値以下であると、低温での容量維持率に優れる傾向にある。また、イオンが侵入しやすくなるため、リチウムイオン二次電池のみならず、ナトリウムイオン二次電池、鉛電池にも好適な炭素質材料になりやすい。本発明の炭素質材料の(002)面の面間隔d002は、例えば、後述の製造方法における炭化温度または炭化時間を適宜調整することにより、前記下限値以上および前記上限値以下に調整することができる。本発明の炭素質材料の(002)面の面間隔d002は例えば、実施例に記載の通り、X線回折にて測定できる。
【0020】
<炭素質材料の製造方法>
本発明の炭素質材料は、例えば、
リグニン、アミン、水およびアルデヒドを混合して水溶液を得る工程、
前記水溶液から溶媒を除去して固化する工程、および
得られた固化物を不活性ガス雰囲気下500℃以上1500℃以下の温度で炭化して炭素質材料を得る工程
を含む方法によって製造することができる。
【0021】
本発明の炭素質材料は好ましくはリグニンに由来する。より好ましくは、0.1質量%以上の硫黄を含むリグニンを使用する。一般に、このようなリグニンは、クラフトリグニンと呼ばれ、製紙業にあって、セルロース抽出後の廃棄物として得られる。具体的には、例えばパルプの製造過程で生成した黒液を鉱酸で酸性化し、析出した沈殿を洗浄して得ることができる。クラフト法による蒸留中に、木材細胞壁中のリグニンは、その主要な結合であるエーテル結合が切断されて著しく低分子化され、その分子量は通常約3500~4500となる。リグニンに含まれる硫黄元素の含有量は、より好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4.5質量%以下である。硫黄元素含有量が前記下限値以上であると、リグニンの分子量の低下を抑制しやすく、十分な炭素縮合の進行が達成されやすい。また、硫黄元素含有量が前記上限値以下であると、使用する機器を腐食する可能性のある二酸化硫黄等の排出が抑制されやすい。硫黄元素含有量は、例えば硫黄元素を含有するリグニンを苛性ソーダ水溶液と一緒に加熱する等の方法により加水分解すること、またはリグニンを硫酸等の硫黄元素を含む物質で変性させ、その変性量を調節することによって、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。硫黄元素含有量は、元素分析または蛍光X線分析によって測定できる。また、クラフトリグニンは他の方法で単離されたリグニンに比べ、多量のフェノール性水酸基を有しており、化学的活性に富んでいることも、高い密度の炭素形成に好ましい。リグニンは1種のみを使用してもよいし、硫黄元素含有量、融点、分子量および揮発性成分含量の1つ以上が異なる2種以上のリグニンを組み合わせて使用してもよい。2種以上のリグニンを組み合わせて使用する場合、そのうちの少なくとも1種のリグニンは、好ましくは、上述した好ましい硫黄元素含有量および/または分子量を有する。
【0022】
[水溶化工程]
本発明の炭素質材料の製造方法では、窒素を含む炭素質材料を得るために、リグニン、アミン、水およびアルデヒドを混合して水溶液を得る。この工程において、リグニンとアミンを反応させ、リグニンのアンモニウム塩が形成されることで、リグニンを水溶性にすることができる。さらに、溶解したリグニンをアルデヒドと反応させることで、リグニンのフェノール基およびアルデヒド基間に架橋を形成させることができる。ここで、アミンはリグニンを架橋する際の触媒として働き得る。また、アミンの一部はアルデヒドと反応することもあり、イミン構造を形成することによって、アルデヒドによる架橋速度を増大させやすい。リグニンを架橋させることにより、炭化時の融解による形状の損失、もしくは装置の汚染または腐食を防ぐことができる。架橋は室温においても進行し得るが、加温により促進させることができる。また、より均一に架橋反応を進行させるために、アルデヒド添加前に、アミンによるリグニンの水溶化を実施することが好ましい。
【0023】
本発明の炭素質材料の製造工程で使用できるアミンとしては、特に制限されるものではなく、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミンおよびアニリン等の1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミンおよびジブチルアミン等の2級アミン、エチレンジアミンおよびポリエチレンイミン等のポリアミン、またはアンモニアを使用することができる。これらは単独で使用しても、複数を組み合わせて使用しても構わない。入手性、経済性および炭化効率を考慮して、アンモニアの使用が好ましい。
【0024】
本発明の炭素質材料の製造工程におけるアミンの使用量は、使用するリグニンおよびアルデヒドによって左右されるため、制限されるものではないが、架橋効率および水溶性を考慮して、通常、使用するリグニンの質量に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.02~9質量部、さらに好ましくは0.05~8質量部である。
【0025】
本発明の炭素質材料の製造工程で使用できるアルデヒドとしては、特に制限されるものではなく、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ヘキサナールおよびベンズアルデヒド等のモノアルデヒド、またはグリオキサール、1,4-ブタンジアール、1,6-ヘキサンジアール、1,9-ノナンジアール、オルトフタルアルデヒド、メタフタルアルデヒドおよびテレフタルアルデヒド等のジアルデヒド等を使用することができる。これらは、単独で使用しても、複数を組み合わせて使用しても構わない。入手性、経済性および炭化効率を考慮して、好ましくはホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、グリオキサールおよびテレフタルアルデヒドであり、より好ましくはホルムアルデヒドである。水に難溶なアルデヒドを使用する場合には、有機溶媒を使用してもよい。使用する有機溶媒としては、特に制限されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、およびアセトン等のケトン類を用いることができる。本明細書では、水溶液調製工程において有機溶媒を用いた場合でも、便宜上「水溶液」と称する。使用する有機溶媒の量は、アルデヒドの種類により適宜調整して良いが、通常、アルデヒドの質量に対し2~100倍の質量を用いることが好ましい。
【0026】
本発明の炭素質材料の製造工程で使用するアルデヒドの使用量は、使用するリグニンの性状によって異なるため、特に制限されるものではないが、アルデヒドの反応性および架橋効率を考慮して、通常、リグニン質量に対して、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.05~18質量%、さらに好ましくは0.1~15質量%である。
【0027】
本発明の炭素質材料の製造工程において、リグニン水溶液中のリグニンの濃度は特に制限されるものではないが、次工程で水を留去する効率を考えて、リグニン水溶液全体の質量に対して、好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは0.2~30質量%、さらに好ましくは0.5~20質量%である。
【0028】
リグニンをアミンと反応させ、リグニンのアンモニウム塩を形成する工程で、リグニンが溶解しにくい場合は、必要に応じて水溶液を90℃程度まで加温してよい。リグニンの溶解が不十分で、リグニン水溶液中に未溶解のリグニンに由来する固体が残存している場合、局所的に架橋が進行することにより、得られる炭素質材料の構造が不均一になる可能性がある。そのため、リグニンは完全に溶解させることが好ましいが、固体が残存した状態での架橋を排除するものではない。加温する方法は特に限定はないが、オイルバスまたはウォーターバスを使用して加温してよい。
【0029】
本発明の炭素質材料の製造工程において、リグニンをアミン、水およびアルデヒドと混合する温度は、特に限定されるものではないが、溶媒である水が沸騰により失われることを防ぐため、通常5~90℃の範囲であり、反応性および揮発性を考慮して、好ましくは10~70℃の範囲、より好ましくは20~60℃の範囲である。混合する時間も制限されるものではないが、通常0.1~10時間であり、好ましくは0.2~9時間の範囲であり、より好ましくは0.3~8時間の範囲である。
【0030】
本発明の炭素質材料の製造工程において、アルデヒドによる架橋反応を円滑に進行させるために、触媒として酸を添加してもよい。酸を使用する場合、酸の使用量は特に限定されるものではなく、使用するリグニンの種類およびアミンの種類によって適宜変更してよい。一般に、アミンの質量に対して、0.1~50質量%、好ましくは0.5~30質量%の範囲で添加する。使用できる酸は、特に限定されるわけではなく、塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸等の鉱酸類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸および酒石酸等の有機酸等を使用することができる。これらは単独で使用しても複数を併用しても構わない。経済性および反応性を考慮して、塩酸または酢酸の使用が好ましい。
【0031】
[固化工程]
本発明の炭素質材料の製造工程では、前記水溶液から溶媒を除去して固化することで固化物を得ることができる。溶媒を除去して固化する方法は特に限定されるものではなく、常圧下または減圧下で溶媒を除去して、固化させることができる。本工程を迅速に行うために、加熱により溶媒を除去することが好ましい。加熱により溶媒を除去して固化する場合、水溶液を加熱する温度は特に限定されるものではないが、好ましくは水溶液を調製する温度以上であり、より好ましくは90~300℃、さらに好ましくは100~250℃である。加熱の方法も特に限定するものではないが、熱風、電気ヒーターおよびエバポレーター等が挙げられる。本固化工程は、具体的には蒸発乾固が好ましい。
【0032】
前記加熱は、常圧下および減圧下のいずれで行ってもよいが、常圧下で行う場合には、不活性ガス下、例えば窒素下に行うことが、安全の観点から好ましい。
【0033】
[炭化工程]
本発明の炭素質材料の製造工程では、前記で得られた固化物を不活性ガス雰囲気下500℃以上1500℃以下の温度で炭化する工程を経ることで、本発明の炭素質材料を得ることができる。該炭化工程は一段または多段の炭化工程を経て行ってよい。多段の炭化工程を行う場合には、連続的に行っても、一旦冷却して行っても構わない。
【0034】
炭化工程は、不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、特に制限されるものではないが、例えば、ヘリウム、窒素またはアルゴン等を使用することができる。これらを単独または混合して用いることができる。更には塩素等のハロゲンガスを前記不活性ガスと混合したガス雰囲気中で炭化を行うことも可能である。使用するガス中の酸化性ガスの濃度は低ければ低いほど好ましい。酸化性ガス、特に酸素の混入量は、通常1%以下、好ましくは1000体積ppm以下である。酸素濃度が前記上限値以下であると、炭化物生成過程で、酸化が進行しにくく、所望の構造構築が進みやすい、また、生成した構造の酸化分解が起きにくい。
【0035】
ガスの供給量(流通量)も、限定されるものではないが、固化工程で得られた固化物1g当たり、1mL/分以上、好ましくは5mL/分以上、更に好ましくは10mL/分以上である。また、本炭化工程は、減圧下で行うこともでき、例えば、10kPa以下で行うこともできる。
【0036】
一段の炭化工程を行う場合、加熱速度は特に限定されるものではなく、加熱の方法により異なるが、好ましくは1~20℃/分、より好ましくは2~18℃/分である。昇温速度が前記下限値以上および前記上限値以下であれば、良好な生産性が得られ経済性の点から好ましい。また、発生する乾留ガスによる賦活の進行が抑制され、良好な炭素密度が得やすい。
【0037】
一段の炭化工程を行う場合の炭化温度は、好ましくは500℃以上、より好ましくは550℃以上、さらに好ましくは600℃以上であり、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1400℃以下、さらに好ましくは1300℃以下である。炭化温度が前記下限値以上および前記上限値以下であると、目的の構造構築が進行しやすく、所望の特性を有する炭素質材料を得やすい。
【0038】
温度の保持時間は特に限定されるものではなく、好ましくは0.1~20時間の範囲、より好ましくは0.5~15時間の範囲である。保持時間が前記下限値以上および前記上限値以下であれば、炭化が十分に進行するため発火が生じにくくなるため好ましい。また、経済性の観点から、適度な時間であるため好ましい。
【0039】
多段の炭化工程を行う場合、各段階の加熱速度としては、特に限定されるものではなく、加熱の方法により異なるが、好ましくは1~20℃/分、より好ましくは2~18℃/分である。昇温速度が前記下限値以上および前記上限値以下であれば、良好な生産性が得られやすく経済性の点から好ましい。また、発生する乾留ガスによる賦活の進行が抑制され、良好な炭素密度が得られやすい。
【0040】
多段の炭化工程を行う場合、第一の炭化温度は、架橋リグニンの乾固温度以上、すなわち、好ましくは500℃以上、より好ましくは600℃以上であり、好ましくは900℃以下、より好ましくは800℃以下で実施する。500℃未満では、炭化が進まず構造構築が目的の構造になりにくく、900℃を超えると、構造構築が進みすぎ、第二の炭化での構造修正効果が機能しにくいため好ましくない。
【0041】
多段の炭化工程を行う場合、各段階の炭化工程の時間も特に限定されるものではないが、通常0.05~10時間で行うことができ、好ましくは0.05~3時間、より好ましくは0.05~1時間である。
【0042】
多段の炭化工程を行う場合、第二の炭化工程以降の炭化工程は、第一の炭化で得られた炭化物を、必要に応じて粉砕および/または分級した後に、不活性ガス雰囲気下で炭化する工程である。第二の炭化工程以降の炭化工程は、900℃以上1500℃以下で炭化する工程を含む。第二の炭化工程以降の炭化工程が、900℃以上1500℃以下で炭化する工程を含むと、炭素質材料に官能基が残存しにくく、H/Cの値が低くなり、リチウムとの反応により増加する不可逆容量が抑制しやすく、また炭素六角平面の選択的配向性が低くなり、放電容量が増加しやすい。
【0043】
さらに追加の炭化工程を行う場合、そのような追加の炭化工程の炭化温度に特に制限はないが、好ましくは200℃以上、より好ましくは400℃以上、さらに好ましくは600℃以上であり、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1400℃以下、さらに好ましくは1350℃以下である。
【0044】
[粉砕]
本発明の炭素質材料の製造方法は、必要に応じて固化物および/または炭化物を粉砕する工程を含んでいてもよい。更に、粉砕工程は、分級を含むことが好ましい。分級によって、平均粒径をより正確に調整することができ、粒径1μm以下の粒子を除くことも可能である。
粉砕工程を行う場合、最後の炭化工程より前、すなわち固化工程後の固化物、または例えば二段の炭化工程を行う場合の第二の炭化工程の前の炭化物に行うことが好ましい。この理由は、粉砕により表面積を大きくすることで、一段の炭化工程または第二の炭化工程で発生する酸化性ガスによる構造変化の影響を最小限にできるからである。また、別の理由は最後の炭化工程後に粉砕を実施した場合には、粉砕により新たに生成した結晶面により電池内で電解液等と反応し、電池機能が損なわれる可能性があるからである。しかしながら、最後の炭化工程の後に粉砕することは排除されない。
【0045】
粉砕に用いる粉砕機としては、特に限定されるものではなく、例えばジェットミル、ボールミル、ハンマーミル、またはロッドミル等を単独または組み合わせて使用することができる。微粉の発生が少ないという点で分級機能を備えたジェットミルが好ましい。一方、ボールミル、ハンマーミル、またはロッドミル等を用いる場合は、粉砕後に分級を行うことで微粉を除くことができる。
【0046】
[分級]
分級を行う場合、その例として篩による分級、湿式分級、または乾式分級を挙げることができる。湿式分級機としては、例えば重力分級、慣性分級、水力分級、または遠心分級等の原理を利用した分級機を挙げることができる。また、乾式分級機としては、沈降分級、機械的分級、または遠心分級の原理を利用した分級機を挙げることができる。
粉砕工程において、粉砕と分級は1つの装置を用いて行うこともできる。例えば、乾式の分級機能を備えたジェットミルを用いて、粉砕と分級を行うことができる。更に、粉砕機と分級機とが独立した装置を用いることもできる。この場合、粉砕と分級とを連続して行うこともできるが、粉砕と分級とを不連続に行うこともできる。
【0047】
本発明の炭素質材料は、リチウムイオン二次電池のような非水電解質電池の負極活物質として使用できる。
【0048】
さらに、本発明の炭素質材料は、リチウムイオン二次電池のような非水電解質電池または鉛電池のような水系電解質電池の活物質と混合して、導電性を向上させる導電材としても使用できる。
【0049】
<電極>
本発明の炭素質材料を電極(負極電極)に使用することができる。具体的には、例えば、炭素質材料、結合剤(バインダー)および溶媒を混練することにより、電極合剤を調製し、金属板等からなる集電板に塗布し、乾燥した後、加圧成形することにより電極を製造することができる。
結合剤は、電解液と反応しないものであれば特に限定されない。結合剤の例としては、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ポリテトラフルオロエチレン、およびSBR(スチレン・ブタジエン・ラバー)とCMC(カルボキシメチルセルロース)との混合物等が挙げられる。中でもPVDFは、活物質表面に付着したPVDFがリチウムイオン移動を阻害することが少なく、良好な入出力特性を得るために好ましい。PVDFを溶解しスラリーを形成するために、N-メチルピロリドン(NMP)等の極性溶媒が好ましく用いられるが、SBR等の水性エマルジョンまたはCMCの水溶液を用いることもできる。結合剤の添加量が多すぎると、得られる電極の抵抗が大きくなるため、電池の内部抵抗が大きくなり電池特性を低下させるので好ましくない。また、結合剤の添加量が少なすぎると、負極材料粒子相互および集電材との結合が不十分となり好ましくない。結合剤の好ましい添加量は、使用する結合剤の種類によっても異なるが、PVDF系の結合剤では好ましくは電極合剤の総質量に対して3~13質量%であり、より好ましくは3~10質量%である。一方、溶媒に水を使用する結合剤では、SBRとCMCとの混合物等、複数の結合剤を混合して使用することが多く、使用する全結合剤の総量として、電極合剤の総質量に対して好ましくは0.5~5質量%であり、より好ましくは1~4質量%である。
本発明の炭素質材料を用いることにより、特に導電助剤を添加しなくとも高い導電性を有する電極を製造することができるが、更に高い導電性を賦与することを目的に必要に応じて電極合剤を調製する際に、導電助剤を添加してよい。導電助剤としては、導電性のカーボンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、ナノチューブ等を用いることができる。添加量は、使用する導電助剤の種類によっても異なるが、添加する量が少なすぎると期待する導電性を得にくいので好ましくなく、多すぎると電極合剤中での分散が悪くなるので好ましくない。このような観点から、導電助剤を添加する場合の導電助剤の割合は、好ましくは0.5~10質量%(ここで、活物質(炭素質材料)量+結合剤量+導電助剤量=100質量%とする)であり、より好ましくは0.5~7質量%、さらに好ましくは0.5~5質量%である。
電極活物質層は、通常は集電板の両面に形成するが、必要に応じて片面に形成してもよい。電極活物質層が厚いほど、集電板およびセパレータ等が少なくて済むため高容量化には好ましいが、活物質層が厚すぎると、電極内のイオン拡散抵抗が増大し、入出力特性が低下するため好ましくない。好ましい活物質層(片面当たり)の厚みは、10~80μmであり、より好ましくは20~75μm、さらに好ましくは20~60μmである。
【0050】
<電池>
本発明の電池は、本発明の電極を含むものである。本発明の電池は、より好ましくは非水電解質二次電池または水系電解質電池である。本発明の炭素質材料を使用した非水電解質二次電池用負極電極を用いた非水電解質二次電池は、不可逆容量が小さく、かつ優れた放電容量および優れたサイクル耐久性を示す。
【0051】
本発明の炭素質材料を用いて、非水電解質二次電池の負極電極を形成した場合、正極材料、セパレータ、および電解液等、電池を構成する他の材料は特に限定されることなく、非水溶媒二次電池として従来使用され、あるいは提案されている種々の材料を使用することが可能である。
例えば、正極材料としては、層状酸化物系(LiMO2(ここで、Mは金属を表す)で表されるもの:例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、またはLiNixCoyMozO2(ここで、x、y、zは組成比を表わす))、オリビン系(LiMPO4(ここで、Mは金属を表す)と表されるもの:例えばLiFePO4等)、スピネル系(LiM2O4(ここで、Mは金属を表す)で表されるもの:例えばLiMn2O4等)の複合金属カルコゲン化合物が好ましく、これらのカルコゲン化合物を必要に応じて混合してもよい。例えば、これらの正極材料を適当なバインダーと電極に導電性を付与するための炭素質材料とともに成形して、導電性の集電材上に層形成することにより、正極を製造できる。
【0052】
これら正極と負極との組み合わせで用いられる非水溶媒型電解液は、一般に非水溶媒に電解質を溶解することにより形成される。非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、γ-ブチルラクトン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、または1,3-ジオキソラン等の有機溶媒の一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。また、電解質としては、例えばLiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiAsF6、LiCl、LiBr、LiB(C6H5)4、またはLiN(SO3CF3)2等を用いることができる。二次電池は、一般に前記のようにして形成した正極活物質層と負極活物質層とを必要に応じて不織布、その他の多孔質材料等からなる透過性セパレータを介して対向させ電解液中に浸漬させることにより形成される。セパレータとしては、二次電池に通常用いられる不織布、その他の多孔質材料からなる透過性セパレータを用いることができる。あるいはセパレータの代わりに、もしくはセパレータと一緒に、電解液を含浸させたポリマーゲルからなる固体電解質を用いることもできる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
なお、以下に本発明の炭素質材料の物性値(「元素含有量」、「酸素不存在下で昇温したときに検出される一酸化炭素量」、「比表面積」、「体積平均粒径」、および「(002)面の面間隔d002」)の測定法を記載するが、実施例を含めて、本明細書中に記載する物性値は、以下の方法により求めた値に基づくものである。
【0054】
<元素含有量>
株式会社堀場製作所製「酸素・窒素・水素分析装置EMGA-930」を用いて酸素および窒素元素含有量の測定を行った。
この装置の検出方法は、酸素:不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法(NDIR)、窒素:不活性ガス融解-熱伝導度法(TCD)であり、校正は、(酸素・窒素)Snカプセル、TiH2(H標準試料)、およびSS-3(N、O標準試料)により行った。前処理として250℃で約10分間脱水処理を施した試料20mgを、Snカプセルに量り取り、元素分析装置内で30秒間脱ガスした後、測定を行った。3検体を分析し、その平均値を分析値とした。
【0055】
<酸素不存在下で昇温したときに検出される一酸化炭素量>
前記元素分析において、Snカプセルを投入した後、10℃/秒の速度で昇温し、酸素化合物分解ガスである一酸化炭素の検出強度を温度に対してプロットし、各温度領域での累計CO量および割合を算出した。
【0056】
<比表面積>
以下にBETの式から誘導された近似式を記す。
【数1】
前記の近似式を用いて、液体窒素温度における、窒素吸着による3点法によりv
mを求め、次式により試料の比表面積を計算した。
【数2】
このとき、v
mは試料表面に単分子層を形成するのに必要な吸着量(cm
3/g)、vは実測される吸着量(cm
3/g)、p
0は飽和蒸気圧、pは絶対圧、cは定数(吸着熱を反映)、Nはアボガドロ数6.022×10
23、a(nm
2)は吸着質分子が試料表面で占める面積(分子占有断面積)である。
【0057】
具体的には、日本BELL社製「BELL Sorb Mini」を用いて、以下のようにして液体窒素温度における炭素質材料への窒素の吸着量を測定した。炭素質材料を試料管に充填し、試料管を-196℃に冷却した状態で、一旦減圧し、その後所望の相対圧にて炭素質材料に窒素(純度99.999%)を吸着させた。各所望の相対圧にて平衡圧に達した時の試料に吸着した窒素量を吸着ガス量vとした。
【0058】
<体積平均粒径>
平均粒径(粒度分布)は、以下の方法により測定した。試料を界面活性剤(和光純薬工業(株)製「TritonX100」)を0.3質量%含む水溶液に試料を投入し、超音波洗浄器で10分以上処理し、試料を水溶液中に分散させた。この分散液を用いて粒度分布を測定した。粒度分布測定は、粒子径・粒度分布測定器(日機装(株)製「マイクロトラックM T3000」)を用いて行った。D50は、累積体積が50%となる粒子径であり、この値を平均粒径として用いた。
【0059】
<(002)面の面間隔d
002>
株式会社リガク製「MiniFlexII」を用い、炭素質材料を試料ホルダーに充填し、Niフィルターにより単色化したCuKα線を線源とし、X線回折図形を得た。回折図形のピーク位置は重心法(回折線の重心位置を求め、これに対応する2θ値でピーク位置を求める方法)により求め、標準物質用高純度シリコン粉末の(111)面の回折ピークを用いて補正した。CuKα線の波長を0.15418nmとし、以下に記すBraggの公式によりd
002を算出した。
【数3】
【0060】
<実施例1>
1Lセパラブルフラスコにリグニン60gを秤量し、イオン交換水570mLを添加し、メカニカルスターラーで撹拌しながら、アンモニア水(28質量%)を200mL添加した。そこに、ホルムアルデヒド水溶液(36質量%)を20.4mL、アンモニア水(28質量%)5mLおよび酢酸0.5gの混合溶液を添加し、室温で20分撹拌した。さらに、オイルバスで加熱を開始し、内温80℃で1.5時間撹拌した。その後、撹拌しながら室温に冷却し、リグニン水溶液を得た。
得られた水溶液を、エバポレーターを用いてバス温度80℃、3kPaの減圧下で、水400gを留去した。得られた濃縮液を1Lビーカーに移し、防爆熱風乾燥機にて80℃で12時間乾燥して、固化した。得られた固化物は45g(収率75%)であった。
得られた固化物10.0gを舟形坩堝に入れ、第一の炭化工程として、この舟形坩堝を株式会社モトヤマ製管状炉(管径200mmφ×1800mm)に導入した。第一の炭化工程として、10L/分の流量で窒素を1時間導入して炉内を窒素置換し、室温から600℃(昇温速度2.5℃/分)まで昇温し、600℃を1時間保持した後、12時間かけて600℃から室温に自然放冷して取り出した。炭化物5.8g(収率58%)を得た。
得られた炭化物を、ミキサーミルで体積平均粒径5.4μmに粉砕し、粉砕物5.0gを舟形坩堝に入れ、第二の炭化工程として、この舟形坩堝を株式会社モトヤマ製管状炉に導入した。5L/分の流量で窒素を1時間導入して炉内を窒素置換し、室温から1200℃(昇温速度10度/分)まで昇温し、1200℃を30分保持した後、12時間かけて1200℃から室温まで冷却して取り出した。炭素質材料4.52g(収率90.4%)を得た。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0061】
<実施例2>
ホルムアルデヒド水溶液の代わりにテレフタルアルデヒド(6.0g)のエタノール(50mL)溶液を使用し、体積平均粒径が7.0μmになるよう粉砕した以外は、実施例1と同様の方法で炭素質材料を得た。固化物収率は80%(リグニン質量換算)、第一の炭化工程の収率は65%、第二の炭化工程の収率は90%であった。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0062】
<比較例1>
リグニンに対し水溶化工程および固化工程を行わず、第一の炭化工程後、体積平均粒径が8.0μmになるよう粉砕した以外は、実施例1と同様の炭化条件で600℃および1200℃にて二段の炭化処理を行った。第一の炭化工程の収率は31%、第二の炭化工程の収率は89%であった。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0063】
<電極および電池の作製>
実施例および比較例で得た炭素質材料を用いて、以下の手順に従って負極を作製した。
【0064】
[負極の作製]
炭素質材料95質量部、導電性カーボンブラック(TIMCAL製「Super-P(登録商標)」)2質量部、PVDF(クレハ製)3部およびNMP90質量部を混合し、スラリーを得た。得られたスラリーを厚さ18μmの銅箔に塗布し、乾燥後プレスして、厚さ45μmの電極を得た。
【0065】
[非水電解質二次電池の作製]
前記で作製した電極を作用極とし、金属リチウムを対極および参照極として使用した。溶媒として、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを、体積比で1:1:1となるように混合して用いた。この溶媒に、LiPF6を1mol/L溶解し、得られた溶液を電解質として用いた。セパレータにはポリプロピレン膜を使用した。アルゴン雰囲気下のグローブボックス内でコインセルを作製した。
【0066】
<不可逆容量、0.2C放電容量および30サイクル後放電容量維持率>
前記構成のリチウム二次電池について、充放電試験装置((株)東洋システム製「TOSCAT」)を用いて25℃にて充放電試験を行った。炭素極へのリチウムのドープ反応を定電流定電圧法により行い、脱ドープ反応を定電流法で行った。ここで、正極にリチウムカルコゲン化合物を使用した電池では、炭素極へのリチウムのドープ反応が「充電」であり、本発明の試験電池のように対極にリチウム金属を使用した電池では、炭素極へのドープ反応が「放電」と呼ぶことになり、用いる対極により同じ炭素極へのリチウムのドープ反応の呼び方が異なる。そこで、ここでは、便宜上炭素極へのリチウムのドープ反応を「充電」と記述することにする。逆に「放電」とは試験電池では充電反応であるが、炭素質材料からのリチウムの脱ドープ反応であるため便宜上「放電」と記述することにする。ここで採用した充電方法は定電流定電圧法であり、具体的には端子電圧が0mVになるまで0.5mA/cm2で定電流充電を行い、端子電圧が0mVに達した後、端子電圧0mVで定電圧充電を行い電流値が20μAに達するまで充電を継続した。このときの充電全容量を電極の炭素質材料の質量で除した値を炭素質材料の単位質量当たりの初期充電容量(mAh/g)と定義する。充電終了後、30分間電池回路を開放し、その後放電を行った。放電は0.5mA/cm2で定電流放電を行い、終止電圧を1.5Vとした。このとき放電した電気量を電極の炭素質材料の質量で除した値を炭素質材料の単位質量当たりの初期放電容量(mAh/g)と定義する。初期充電容量と初期放電容量の差を、不可逆容量(mAh/g)と定義する。
各炭素質材料について、初期放電容量を5時間で充放電可能な電流密度を計算し、これを0.2C電流密度(mA/cm2)と定義する。各電池に対し0.2C電流密度にて前記同様に充電および放電を行った際の放電容量を0.2C放電容量(mAh/g)と定義し、前記充放電を30回繰り返した後の放電容量を0.2C放電容量で除した値を30サイクル後放電容量維持率(%)と定義する。結果を表2に示す。
【0067】
【0068】
【0069】
実施例1および2で得られた炭素質材料を含む負極を備える非水電解質二次電池は、不可逆容量が低く、放電容量が高いことが分かる。また、30サイクル後の放電容量維持率も高い。一方、比較例1で得られた炭素質材料を含む負極を備える非水電解質二次電池は不可逆容量が高く、放電容量が低い。また、サイクル耐久性も低いことが分かる。