(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】強化シアノアクリレート組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 75/04 20060101AFI20230825BHJP
C08K 5/315 20060101ALI20230825BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
C08L75/04
C08K5/315
C08G18/32 015
(21)【出願番号】P 2020519301
(86)(22)【出願日】2018-10-02
(86)【国際出願番号】 EP2018076749
(87)【国際公開番号】W WO2019068690
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-10-01
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D-40589 Duesseldorf,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】バーンズ、 ロリー
(72)【発明者】
【氏名】タリー、 レイモンド ピー.
(72)【発明者】
【氏名】バーンズ、 バリー エヌ.
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-231210(JP,A)
【文献】特公昭43-029477(JP,B1)
【文献】特開平06-057214(JP,A)
【文献】特開昭63-066276(JP,A)
【文献】特開昭62-199668(JP,A)
【文献】特開2008-144173(JP,A)
【文献】米国特許第04793886(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 75/00- 75/16
C08K 5/315
C08G 18/00- 18/87
CAplus/Registry(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)シアノアクリレート;および
(ii)構造単位から形成された鎖を有する熱可塑性ポリウレタン(TPU)
を含む硬化性シアノアクリレート組成物であって;
ここで、熱可塑性ポリウレタン(ii)の鎖の構造単位の少なくとも1つは、鎖延長剤に基づくものであって、式:
-O-R
1-O-Ar-O-R
2-O-
(式中、Arは、フェニレン、メチルフェニレン、ジメチルフェニレン、エチルフェニレン、トリメチルフェニレン、テトラメチルフェニレン、ジエチルフェニレン、トリエチルフェニレン、ナフチレン、メチルナフチレン、ジメチルナフチレン、トリメチルナフチレン、テトラエチルフェニレン、テトラメチルナフチレン、ペンタメチルナフチレン、ヘキサメチルナフチレン、エチルナフチレン、ジエチルナフチレン、またはトリエチルナフチレンから選択される芳香族基であり、
R
1はC
2~C
10アルキレン基であり、および
R
2はC
2~C
10アルキレン基である)
を有し、
熱可塑性ポリウレタン(TPU)は、
ポリエステル-ポリオール、コ-ポリエステル-ポリオール、ポリエーテル-ポリオール、コ-ポリエーテル-ポリオール、ポリカプロラクトン-ポリオール、およびコ-ポリカプロラクトン-ポリオールを含む群から選択されるポリオール;および
1,4-ジイソシアナトベンゼン(PPDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI)、ポリメチレンポリ(フェニルイソシアネート)(PMDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ビトリレンジイソシアネート(TODI)、1,3-キシレンジイソシアネート(XDI)、p-1,1,4,4-テトラメチルキシレンジイソシアネート(p-TMXI)、m-1,1,3,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(m-TMXDI)、1,6-ジイソシアナト-2,4,4-トリメチルヘキサン、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)、1,4-シクロヘキサンビス(メチレンイソシアネート)(BDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、トリフェニルメタン-4,4’,4’’-トリイソシアネートを含む群から選択されるイソシアネート化合物;および
式:H-O-R
1-O-Ar-O-R
2-O-H
(式中、Ar、R
1およびR
2は、式-O-R
1-O-Ar-O-R
2-O-について定義された意味を表す。)
の鎖延長剤
から調製されたものであり、
ここで、シアノアクリレート(i)は、硬化性シアノアクリレート組成物中に、組成物の総重量に基づいて、50重量%~99重量%の量で存在し、熱可塑性ポリウレタン(TPU)(ii)は、硬化性シアノアクリレート組成物中に、組成物の総重量に基づいて、1重量%~40重量%で存在する、
硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項2】
式-O-R
1-O-Ar-O-R
2-O-の構造単位中のアルキレン基R
1およびR
2の少なくとも1つがC
2アルキレン基である、請求項1に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項3】
式-O-R
1-O-Ar-O-R
2-O-の構造単位中のアルキレン基R
1およびR
2の両方がC
2アルキレン基である、請求項1または2に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項4】
式-O-R
1-O-Ar-O-R
2-O-を有する構造単位が、ヒドロキノンビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル(HQEE)から形成される、請求項1に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項5】
式-O-R
1-O-Ar-O-R
2-O-の構造単位が、熱可塑性ポリウレタン(TPU)(ii)中に、熱可塑性ポリウレタン(ii)の総重量に基づいて、0.5wt%~50wt%の量で存在する、請求項1~4のいずれか1項に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリウレタン(TPU)(ii)の調製に使用されるポリオールが、ポリエステル-ポリオールまたはコ-ポリエステル-ポリオールである、請求項1に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性ポリウレタン(TPU)(ii)の調製に使用されるポリオールが、ジカルボン酸と1,6-ヘキサンジオールから形成されるコポリエステルである、請求項6に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性ポリウレタン(TPU)(ii)の調製に使用されるポリオールが、ジカルボン酸および1,6-ヘキサンジオールから形成される線状ポリエステル-ポリオールであって、前記線状ポリエステル-ポリオールが、ASTME222に従って測定した場合、1~60mgKOH/gのヒドロキシル価を有する、請求項7に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項9】
前記シアノアクリレート(i)が、エチル2-シアノアクリレートおよびβ-メトキシシアノアクリレートを含む群から選択される、請求項1に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項10】
前記シアノアクリレート
(i)が、前記
硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、60重量%~90重量%の量で存在する、請求項1に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項11】
前記熱可塑性ポリウレタン(TPU)(ii)が、
前記硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて5重量%~20重量%の量で存在
し、前記シアノアクリレート(i)が、前記硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、50重量%~95重量%の量で存在する、請求項1に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項12】
前記
硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、0.0005重量%~5重量%の量の安定剤をさらに含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項13】
前記安定剤が、BF
3、SO
2、またはHFから選ばれる請求項12に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項14】
前記
硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、0.05重量%~5重量%の量の超高分子量ポリエチレンをさらに含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項15】
25℃で保存した場合に、未硬化組成物の粘度が25℃で30日にわたって初期粘度から5%を超えて減少しない、請求項1~14のいずれか1項に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項16】
酸化防止剤を、組成物の総重量に基づいて、0.01重量%~1重量%の量でさらに含む請求項1~15のいずれか1項に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項17】
前記酸化防止剤がペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)である、請求項16に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項18】
25℃で保存した場合に少なくとも30日間の保管後に測定された粘度(25℃の温度で測定)が、組成物の配合直後に測定された初期粘度に対して低下しないか、または5%以下の減少である、安定した粘度(25℃で測定)を保持する硬化性シアノアクリレート組成物を調製する方法であって、
この方法は、60重量%~90重量%のシアノアクリレートと1重量%~40重量%のTPUを含む組成物を調製することを含み、ここでパーセンテージは組成物の総重量に基づく重量であり、
前記TPUが、
ポリエステル-ポリオール、コ-ポリエステル-ポリオール、ポリエーテル-ポリオール、コ-ポリエーテル-ポリオール、ポリカプロラクトン-ポリオール、およびコ-ポリカプロラクトン-ポリオールを含む群から選択されるポリオール;および
1,4-ジイソシアナトベンゼン(PPDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI)、ポリメチレンポリ(フェニルイソシアネート)(PMDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ビトリレンジイソシアネート(TODI)、1,3-キシレンジイソシアネート(XDI)、p-1,1,4,4-テトラメチルキシレンジイソシアネート(p-TMXI)、m-1,1,3,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(m-TMXDI)、1,6-ジイソシアナト-2,4,4-トリメチルヘキサン、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)、1,4-シクロヘキサンビス(メチレンイソシアネート)(BDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、トリフェニルメタン-4,4’,4’’-トリイソシアネートを含む群から選択されるイソシアネート化合物;および
式:H-O-R
1-O-Ar-O-R
2-O-H
(式中、Ar、R
1およびR
2は、請求項1において式-O-R
1-O-Ar-O-R
2-O-について定義された意味を表す。)
の鎖延長剤
から調製されたTPUである調製方法。
【請求項19】
25℃で保存した場合に少なくとも30日間の保管後に測定された粘度(25℃の温度で測定)が、組成物の配合直後に測定された初期粘度に対して低下しないか、または5%以下の減少である、安定した粘度(25℃で測定)を保持する硬化性シアノアクリレート組成物を調製する方法であって、
前記TPUが、
ポリエステル-ポリオール、コ-ポリエステル-ポリオール、ポリエーテル-ポリオール、コ-ポリエーテル-ポリオール、ポリカプロラクトン-ポリオール、およびコ-ポリカプロラクトン-ポリオールを含む群から選択されるポリオール;および
1,4-ジイソシアナトベンゼン(PPDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI)、ポリメチレンポリ(フェニルイソシアネート)(PMDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ビトリレンジイソシアネート(TODI)、1,3-キシレンジイソシアネート(XDI)、p-1,1,4,4-テトラメチルキシレンジイソシアネート(p-TMXI)、m-1,1,3,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(m-TMXDI)、1,6-ジイソシアナト-2,4,4-トリメチルヘキサン、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)、1,4-シクロヘキサンビス(メチレンイソシアネート)(BDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、トリフェニルメタン-4,4’,4’’-トリイソシアネートを含む群から選択されるイソシアネート化合物;および
式:HO-R
1-O-Ar-O-R
2-OH
の鎖延長剤であって、ヒドロキノンビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル(HQEE)
から調製されたTPUである、請求項18に記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化されたシアノアクリレート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の簡単な説明
シアノアクリレート接着剤組成物はよく知られており、多種多様な用途のクイックセッティング、瞬間接着剤として広く使用されている。H.V.Coover、D.W.DreifusおよびJ.T.O’Connor「シアノアクリレート接着剤」、Handbook of Adhesives、27、463-77、I.Skeist編、Van Nostrand Reinhold、ニューヨーク、3版(1990)を参照のこと。G.H.Millet「シアノアクリレート接着剤」構造用接着剤:Chemistry and Technology、S.R.Hartshorn編、Plenum Press、ニューヨーク、p.249-307(1986)も参照のこと。
【0003】
シアノアクリレート組成物の接着特性を改善するために、例えば、結合強度、固定速度、結合の強さ、組成物の厚さ、組成物の色などを改善するために、様々な技術が使用されてきた。一般に、これらの改善された特性をエンドユーザー製品に付与するために、添加剤の組み込みが使用されてきた。
【0004】
液体シアノアクリレート組成物の主な欠点の1つは、硬化後のもろさであった。
【0005】
O’Connorらの米国特許第4,440,910号には、ゴムで強化されたシアノアクリレート組成物が開示されており、本質的にエラストマー(ゴム)である特定の有機ポリマーが強化特性を付与することが見出された。すなわち、’910特許は、実質的に溶剤を含まない(a)シアノアクリル酸エステル、および(b)約0.5重量%~約20重量%のエラストマーポリマーの混合物含み、ここで、エラストマーポリマーが、低級アルケンモノマーおよび(i)アクリル酸エステル、(ii)メタクリル酸エステルまたは(iii)酢酸ビニルのエラストマーコポリマーから選択される硬化性接着剤を対象とし、特許請求している。より具体的には、’910特許は、アクリルゴム、ポリエステルウレタン、エチレン-酢酸ビニル、フッ素化ゴム、イソプレン-アクリロニトリルポリマー、クロロスルホン化ポリエチレン、およびポリ酢酸ビニルのホモポリマーが、シアノアクリレートの強化添加剤として特に有用であることがわかったと述べている。
【0006】
O’Connorらによって記載されたシアノアクリレート組成物は、対照サンプルと比較して実質的に増加した靭性を示すことが見出され、それにより形成された接着結合は、熱劣化に対する優れた耐性を有することも見出された。
【0007】
シアノアクリレート接着剤組成物に好ましい強化特性を付与する、O’Connorらによって開示されたアクリルゴムは、アクリル酸のアルキルエステルのホモポリマー;低級アルケンなどの別の重合性モノマーとアクリル酸のアルキルまたはアルコキシエステルとのコポリマー;およびアクリル酸のアルキルまたはアルコキシエステルのコポリマーを含む。アクリル酸のアルキルおよびアルコキシエステルと共重合することができる他の不飽和モノマーとしては、ジエン、反応性ハロゲン含有不飽和化合物およびアクリルアミドなどの他のアクリルモノマーが挙げられる。
【0008】
米国特許第5,340,873号は、改善された耐衝撃性および強化された靭性および柔軟性を提供する高分子量ポリエステルポリマーを含むシアノアクリレート組成物を記載している。
【0009】
米国特許第6,833,196号は、酸の発生が低減され、靭性が強化され、固定速度がより速いアクリルモノマー強化剤を含むシアノアクリレート接着剤組成物を開示している。
【0010】
US7,687,561(Misiak)は、組成物を強化するために、定義された構造式のポリケトン材料を利用することに基づく強化シアノアクリレート組成物を記載している。ポリケトン材料と組み合わせて使用される多数の補助強化剤も挙げられ、その中でポリエステルウレタンが可能な補助強化剤として挙げられている。
【0011】
日本特許公開JP2011-57733は、高い剪断接着強度、高い剥離強度および高い衝撃強度を有するシアノアクリレート組成物に関する。この組成物は、シアノアクリレート成分、熱可塑性ウレタンエラストマー成分およびヒュームドシリカ成分を含む。JP2011-57733は、様々なタイプのTPUエラストマー、ヒュームドシリカ、ラジカル重合禁止剤、および/または可塑剤を含むシアノアクリレート組成物を含む接着剤組成物を提供する。
【0012】
日本特許公開JP2003-199191は、2-シアノエチルアクリレート、ポリウレタンゴム、ピロガロール、ポリエチレングリコール(またはその誘導体)およびトリクレジルホスフェートを含む速硬化性接着剤組成物を開示している。JP2003-199191の接着剤は、電気音響変換装置の磁気回路部品の組み立てに使用するためのものであり、ウレタンゴムは熱可塑性ウレタンゴムであってもよい。
【0013】
日本特許公開S62-081468は、α-シアノアクリレート、ピロガロール、およびウレタンゴム(1~50重量%)を含む組成物に関する。JPS62081468の実施例では、好ましいウレタンゴムとしてアイアンラバー(鉄ゴム)(日本のNOK社製ウレタン未加硫ゴムの商品名)が開示されている。
【0014】
JP62-199668は、α-シアノアクリレート、ピロガロール、ウレタンゴムおよびホウ酸トリメチルを含む接着剤組成物を開示しており、ここで、ウレタンゴムは、熱可塑性ウレタンゴムであってよい。この組成物は、引張剪断強度、剥離強度、および衝撃強度を含む優れた結合強度を示すと記載されているが、加えて、前記組成物は改善された貯蔵性能を有する。シアノアクリレート、ピロガロールおよびウレタンゴムを含む従来技術の組成物は貯蔵安定性が低いことが知られており、これは前記組成物中のウレタンゴムの分解/加水分解の結果であると報告されている。保存安定性の改善は、そこに開示されている組成物中のホウ酸トリメチルの存在に起因する。
【0015】
シアノアクリレート組成物における強化剤としての有用性を示したエラストマーポリマーの1つのグループは、VAMAC(商標)N123やVAMAC(商標)B-124など、VAMAC(商標)の商品名でDuPont(登録商標)によって製造されたメチルアクリレートとエチレンのコポリマーのグループである。
【0016】
ヘンケルコーポレーション(ロックタイトコーポレーションの後継)は、’910特許を出願して以来長年にわたって、ゴム強化成分としてVAMAC(商標)B-124およびN123と呼ばれるDuPont(登録商標)材料を含むゴム強化シアノアクリレート接着剤製品をBLACKMAX(登録商標)という商品名で販売してきた。さらに、ヘンケルは以前、透明で実質的に無色のゴム強化シアノアクリレート接着剤製品、つまり、LOCTITE(登録商標)4203、4204、4205、および435を販売しており、これらは、ゴム強化成分としてDuPont(登録商標)材料、VAMAC(商標)GおよびVAMAC(商標)MRを採用している。
【0017】
VAMAC(商標)VCSゴムはベースゴムのようで、そこからVAMAC(商標)製品ラインの残りのメンバーが配合される。VAMAC(商標)VCSは、エチレン、アクリル酸メチル、およびカルボン酸硬化部位を有するモノマーの組み合わせの反応生成物であり、一度形成されると、離型剤オクタデシルアミン、複雑な有機リン酸エステルおよび/またはステアリン酸、および酸化防止剤、例えば置換ジフェニルアミンなどの加工助剤が実質的に不要となる。
【0018】
欧州特許公開第EP2121777号は、グラファイト小板材料およびゴム強化剤を含むシアノアクリレート組成物の靭性を改善する方法を開示している。グラファイト成分を組み込むことにより、シアノアクリレート接着剤組成物に、剪断強度、剥離強度、破壊靭性、耐環境性などの物理的特性が向上する。
【0019】
シアノアクリレート接着剤材料は、迅速な硬化、複数の基板への接着能力、非常に優れた引張強度など、他の接着剤材料よりも多くの利点を提供する。しかしながら、上記のように、シアノアクリレート接着剤材料は、硬化したものの脆弱性に悩まされることが多い。他の接着剤と比較して、衝撃、温度上昇、湿気に対する耐性が劣ることがある。
【0020】
硬化したシアノアクリレート接着剤は、耐破砕性が低いことが知られている。さらに、それらの引張強度は高温で劇的に低下する可能性がある。
【0021】
上記のように、シアノアクリレート接着剤を強化することが知られている。硬化したシアノアクリレート接着剤組成物に靭性を付与するのに有用であることが知られている物質はほんのわずかであり、それがないと組成物は硬化すると脆くなる。適切な強化剤がない理由はいくつかある。シアノアクリレートは本質的に化学的に反応性が高く、多くの物質がシアノアクリレートを不安定にし、不適切な重合を引き起こしたり、硬化性製品の保存安定性を大幅に低下させたり、組成物を例えば効果的な接着剤材料として使用する能力を低下させる反応生成物の形成をもたらしたりする。同様に、例えば、ECA(エチルシアノアクリレート)またはMeOCA(メトキシシアノアクリレート)に溶解しない、または溶解性が低い材料は、これらのシアノアクリレートの強化剤としての使用にはあまり適していない。シアノアクリレートに可溶で、シアノアクリレートを不安定化しない物質を特定することは困難な場合がある。特定のエラストマー材料は、シアノアクリレートに溶解するが、時間の経過とともに相分離するか、不安定になるか、または組成物に靭性を与えない。シアノアクリレート組成物に靭性を与えるいくつかの材料は、不安定化効果を有している。
【0022】
シアノアクリレート組成物に強化剤を使用すると、室温(25℃)で保管した場合、シアノアクリレート組成物の粘度が徐々にではあるが非常に大幅に低下する可能性がある。このような不安定な粘度は望ましくない。
【0023】
ポリウレタン組成物における鎖延長剤としてのHQEEの使用が、例えば「鎖延長剤としてのヒドロキノン-ビス(β-ヒドロキシエチル)エーテルに基づくセグメント化ポリウレタンの水素結合および形態学的構造」(1999)、Journal of Applied Polymer Science、72巻、14号に開示されている。この刊行物の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0024】
同様に、ヒドロキノンエーテル誘導体(これらの誘導体は鎖延長剤として使用される)から得られる一連のポリウレタン材料は、例えば、「鎖延長剤としてのヒドロキノンエーテル誘導体を有するセグメント化ポリウレタンの合成および特性」(2015)、Journal of Polymer Research、第22巻、第149号に開示されている。この刊行物の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
さらに、例えば、室温で液体である硬化性シアノアクリレート成分などのシアノアクリレートは、通常、多くの材料にとって貧溶媒であることはよく知られている。その結果、溶解性の問題により、そうでなければ強化剤として有用である可能性のある多くの成分が除外される。
【0026】
上記にかかわらず、靱性が強化されていても貯蔵安定性があり、良好な接着強度を示すシアノアクリレート組成物を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0027】
一態様において、本発明は、
(i)シアノアクリレート;および
(ii)構造単位から形成された鎖を有する熱可塑性ポリウレタン(TPU)
を含む硬化性シアノアクリレート組成物であって;
ここで、熱可塑性ポリウレタン(ii)の鎖の構造単位の少なくとも1つは、式:
-O-R1-O-Ar-O-R2-O-
(式中、Arは、少なくとも1つの芳香環を有するC6~C20芳香族基であり、
R1はC2~C10アルキル基であり、および
R2はC2~C10アルキル基である)
を有し、
ここで、熱可塑性ポリウレタン(TPU)(ii)は、硬化性シアノアクリレート組成物中に、組成物の総重量に基づいて、約1重量%~約40重量%、例えば約2重量%~約30重量%、例えば約3重量%~約20重量%、適切には約5重量%~約10重量%で存在する
硬化性シアノアクリレート組成物を提供する。
【0028】
有利には、そのような組成物は、室温(25℃)で保存した場合、長期の粘度安定性(すなわち、少なくとも30日間)を示す一方で、T剥離試験により測定される良好な結合強度を保持する。本明細書で使用する場合、「粘度安定性」(または「安定粘度」)を示す組成物は、30日の保管後に測定された粘度(25℃の温度で測定)が、「T=0」で測定された初期粘度に対して低下しないか、または5%以下の減少である組成物を意味する。T=0は、組成物の配合直後の時間を意味する。
【0029】
有利には、そのような組成物はまた、粘度が温度の関数として可逆的変化を示し、それは、そのような組成物に熱サイクルに対する耐性を与える。
【0030】
式-O-R1-O-Ar-O-R2-O-の構造単位中の芳香族基Arは、ベンゼン、メチルベンゼン、ジメチルベンゼン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、トリメチルナフタレン、テトラエチルベンゼン、テトラメチルナフタレン、ペンタメチルナフタレン、ヘキサメチルナフタレン、エチルナフタレン、ジエチルナフタレン、またはトリエチルナフタレンから選択できる。
【0031】
式-O-R1-O-Ar-O-R2-O-の構造単位中の芳香族基Arは、ベンゼン基またはナフタレン基であってよい。式-O-R1-O-Ar-O-R2-O-の構造単位中のアルキル基R1およびR2の少なくとも1つはC2アルキル基であってよい。適切には、式-O-R1-O-Ar-O-R2-O-の構造単位中のアルキル基R1およびR2はどちらもC2アルキル基である。
【0032】
式:-O-R1-O-Ar-O-R2-O-の構造単位中、例えばArは、ベンゼン基などのC6芳香族基であってよく、アルキル基R1およびR2は、両方ともC2アルキル基であってよい。
【0033】
前記式を有する構造単位は、ヒドロキノンビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル(HQEE)から形成され得る。
【0034】
本発明の硬化性シアノアクリレート組成物において、式:-O-R1-O-Ar-O-R2-O-の構造単位は、熱可塑性ポリウレタン(TPU)(ii)中に、熱可塑性ポリウレタン(ii)の総重量に基づいて、約0.5wt%~約50wt%、例えば約1重量%~約20重量%、例えば約5重量%~約10重量%の量で存在してよい。
【0035】
熱可塑性ポリウレタン(TPU)強化剤は、ポリエステル-ポリオール、コ-ポリエステル-ポリオール、ポリエーテル-ポリオール、コ-ポリエーテル-ポリオール、ポリカプロラクトン-ポリオール、および/またはコポリカプロラクトン-ポリオールから選択されるポリオールを使用して調製することができる。適切には、熱可塑性ポリウレタン(TPU)(ii)の調製に使用されるポリオールは、ポリエステル-ポリオールまたはコ-ポリエステル-ポリオールである。熱可塑性ポリウレタン(TPU)(ii)の調製に使用されるポリオールは、ジカルボン酸と1,6-ヘキサンジオールから形成されるコポリエステルであってよい。例えば、熱可塑性ポリウレタン(TPU)(ii)の調製に使用されるポリオールは、ジカルボン酸および1,6-ヘキサンジオールから形成される線状ポリエステル-ポリオールであり得、ここで、線状ポリエステル-ポリオールは、ASTME222に従って測定した場合、約1~約60mgKOH/g、例えば、約16~約54mgKOH/g、例えば、約27~34mgKOH/gのヒドロキシル価を有する。
【0036】
前記硬化性シアノアクリレート組成物のシアノアクリレート成分(i)は、例えば、エチル2-シアノアクリレートおよびβ-メトキシシアノアクリレートを含む群から選択されてもよい。
【0037】
シアノアクリレート成分は、シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、約50重量%~約99重量%の量で存在し得る。適切には、シアノアクリレート成分は、シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて約60重量%~約90重量%の量で存在する。
【0038】
適切には、熱可塑性ポリウレタンは、シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて約1重量%~約40重量%、例えばシアノアクリレート組成物の総重量に基づいて約5重量%~約20重量%の量で存在する。
【0039】
本発明による硬化性シアノアクリレート組成物は、例えば「ルイス酸安定剤」または「ブレンステッド酸安定剤」などの安定剤を、シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて約0.0005wt%~約5wt%の量でさらに含むことができる。例えば、安定剤は、三フッ化ホウ素(BF3)、二酸化硫黄(SO2)、またはフッ化水素(HF)であり得る。「安定剤」という用語は、例えば、シアノアクリレート組成物の時期尚早の重合を阻害することにより、シアノアクリレート成分を安定化させる物質を指す。
【0040】
場合により、本発明の硬化性シアノアクリレート組成物は、シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて約0.05重量%~約5重量%の量の超高分子量ポリエチレンをさらに含み得る。本明細書で使用される「超高分子量ポリエチレン」は、分子量が3,000,000~5,000,000g/molのポリエチレンを指す。このような任意の超高分子量ポリエチレン成分は、微粒子、または表面修飾微粒子の形態であり得る。非限定的な例として、そのような任意の成分の1つは、平均サイズが53μmの超高分子量ポリエチレンの表面修飾微粒子を含むINHANCE(登録商標)UH-1250(「UH-1250」)である。非限定的な例として、そのような任意の成分の1つは、平均サイズが125μmの超高分子量ポリエチレンの表面修飾微粒子を含むINHANCE(登録商標)UH-1080(「UH-1080」)である。
【0041】
本発明は、25℃で保存した場合に、未硬化組成物の粘度が25℃で30日にわたって初期粘度から5%を超えて減少しない硬化性シアノアクリレート組成物を提供する。
【0042】
必要に応じて、本発明の硬化性シアノアクリレート組成物は、酸化防止剤を、組成物の総重量に基づいて、約0.01重量%~約1重量%、例えば、約0.1重量%~約0.8重量%、例えば、約0.2重量%~0.5重量%の量でさらに含み得る。非限定的な例として、そのような酸化防止剤は、Irganox1010であり得る。Irganoxは登録商標である。Irganox1010は、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)である。
【0043】
本発明は、25℃で少なくとも30日間安定した粘度を保持する硬化性シアノアクリレート組成物を調製する方法を提供し、この方法は、約60重量%~約90重量%のシアノアクリレート、約1重量%~約40重量%のTPUを含む配合物を調製することを含む。ここでパーセンテージは組成物の総重量に基づく重量によるものであり、TPUは以下から調製されている:
ポリエステル-ポリオール、コ-ポリエステル-ポリオール、ポリエーテル-ポリオール、コ-ポリエーテル-ポリオール、ポリカプロラクトン-ポリオール、およびコ-ポリカプロラクトン-ポリオールを含む群から選択されるポリオール;および
1,4-ジイソシアナトベンゼン(PPDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI)、ポリメチレンポリ(フェニルイソシアネート)(PMDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ビトリレンジイソシアネート(TODI)、1,3-キシレンジイソシアネート(XDI)、p-1,1,4,4-テトラメチルキシレンジイソシアネート(p-TMXI)、m-1,1,3,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(m-TMXDI)、1,6-ジイソシアナト-2,4,4-トリメチルヘキサン、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)、1,4-シクロヘキサンビス(メチレンイソシアネート)(BDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、トリフェニルメタン-4,4’,4’’-トリイソシアネートを含む群から選択されるイソシアネート化合物;および
式:H-O-R1-O-Ar-O-R2-O-H
(式中、Arは、少なくとも1つの芳香環を有するC6~C20芳香族基であり、
R1はC2~C10アルキル基、およびR2はC2~C10アルキル基である)
の鎖延長剤。
【0044】
上記の方法では、式:
HO-R1-O-Ar-O-R2-OH、
の鎖延長剤は、ヒドロキノンビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル(HQEE)であってもよい。
【0045】
詳細な説明
本発明は、シアノアクリレート接着剤組成物の強化剤としてのTPU材料の使用に関し、鎖延長剤がTPUの合成に使用される。ここで、鎖延長剤は、望ましくは式HO-R1-O-Ar-O-R2-OHを有し、式中、Arは、少なくとも1つの芳香環を有するC6~C20芳香族基であり、R1はC2~C10アルキル基であり、R2はC2~C10アルキル基である。R1およびR2は同じであっても異なっていてもよいことが理解されよう。例として、そのような適切な鎖延長剤の1つは、ヒドロキノンビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルである(下記の「構造1」を参照)。[「HQEE」は、ヒドロキノンビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルの略語である。] HQEEの国際純正および応用化学連合(IUPAC)の名前は、2,2’-[1,4-フェニレンビス(オキシ)]ジエタノールである。構造単位-O-R1-O-Ar-O-R2-O-は、鎖延長剤と考えることができる。
【0046】
ヒドロキノンビス(2-エチル)エーテル(HQEE)は、TPUタイプの材料(構造1)の製造と生産で一般的に使用される鎖延長剤である。定理に拘束されるつもりはないが、1,4-ブタンジオール(BDO;構造2)が鎖延長剤として使用される対応するTPUと比較して、HQEEは、より高い剛性とTPUのアモルファス領域中での不溶性に基づいて、組み込まれるTPU内のH結合サイトの相互作用を増加させる効果があり、これが、HQEEに基づくTPU内のHQEEハードセグメント(構造1)の相分離の向上につながると考えられている。
【0047】
TPUに構造的に組み込まれると、上記のような鎖延長剤は、化学式-O-R1-O-Ar-O-R2-O-を有する構造単位を形成する。
【0048】
【0049】
【0050】
例えばHQEE(上記の構造1)などの鎖延長剤、または化学式H-O-R1-O-Ar-O-R2-O-Hによって記述される他の鎖延長剤に基づくシアノアクリレート組成物の強化剤としてのTPUの使用は、硬化性シアノアクリレート組成物に長期の粘度安定性(25℃で少なくとも30日間)を与え、例えばその後硬化される組成物の引張強度などの種々の項目で改善された長期性能(30日以上)を示す。本発明において、HQEEは、TPUの合成のための鎖延長剤として使用され得る。このようなTPUをシアノアクリレート組成物の強化剤として使用すると、得られる組成物に室温(25℃)で長期(30日以上)の粘度安定性が付与される。
【0051】
シアノアクリレート組成物で強化剤としてTPU材料を使用すると、シアノアクリレート組成物を室温(25℃)で保管した場合、シアノアクリレート組成物の粘度が段階的ではあるが非常に大幅に低下する可能性がある(
図1および4を参照)。この粘度の低下は、熱加速老化が組成物に適用されると、より迅速に検出される。驚くべきことに、本発明によるTPU材料で強化された硬化性シアノアクリレート組成物は、室温(25℃)で30日間保管された場合、そのような粘度の低下を示さない。
【0052】
本発明による硬化性シアノアクリレート組成物の強化剤として使用されるTPU材料は、シアノアクリレート接着剤材料に靭性を付与する、すなわち硬化した組成物の脆性を低減する代替手段を提供する一群の材料である。TPUは、DuPont(登録商標)のVamac(商標)などのPE/PMAコポリマーベースの強化剤に代わるものを提供する。
【0053】
本発明で使用されるTPUは、シアノアクリレートに非常に可溶性であり、一般にシアノアクリレートベースの組成物中で化学的に安定である。
【0054】
本発明で使用されるTPUは、当技術分野でよく知られている技術によって、高純度で調製することができる。本明細書で使用される場合、「実施例TPU」という用語は、実施例組成物の1つに存在するTPUを指す。本明細書で使用する場合、「比較例TPU」という用語は、比較例組成物の1つに存在するTPUを指す。
【0055】
熱可塑性ポリウレタン(TPU)は、通常、ハードセグメントとソフトセグメントを有するマルチブロックコポリマーで、イソシアネートと線状ポリマーポリオールおよび鎖延長剤としての低分子量ジオールとのポリ付加反応によって生成できる。ソフトセグメントはエラストマーマトリックスを形成し、それによりポリマーの弾性特性を提供する。ハードセグメントは通常、物理的な架橋と補強フィラーの両方として機能する多機能のタイポイントとして機能する。本明細書で使用する「鎖延長剤」という用語は、TPUの合成で使用される成分として理解されるべきであり、TPUに構造的に組み込まれるようになり、ポリオール成分とは異なり、またイソシアネート成分と異なる。特定の鎖延長剤(「HQEEベースのTPU」、または「BDOベースのTPU」など)に「基づく」TPUは、当該鎖延長剤がTPUの合成に使用されたものであるか、または当該鎖延長剤が前記TPUにおいて構造ユニットを形成するものである。
【0056】
シアノアクリレート組成物における強化剤としてのあるTPU材料(例えばブタンジオール鎖延長剤(構造2)に基づくものなど)の使用は、一般に、室温(25℃)で保存したときにシアノアクリレート組成物の粘度の段階的ではあるが非常に大きな低下につながる。そして、この粘度の低下は、熱加速老化が組成物に適用されるとより急速になる。そのような粘度の低下は、それ自体望ましくないものであり、引張強度(例えば、標準手順ASTM-710/ISO11339の下でT剥離試験を使用して測定される)などの他の特性の低下した性能とさらに関連している可能性がある。シアノアクリレート組成物の強化剤としてTPUをテストしたときに遭遇する、室温(25℃)でのこの望ましくない粘度の低下は、この分野でのこの技術のさらなる開発と商品化をこれまで妨げてきた。
【0057】
本発明は、シアノアクリレート接着剤組成物の強化剤としての特定のTPU材料の使用に関し、鎖延長剤がTPUの合成に使用され、式:-O-R1-O-Ar-O-R2-O-(式中、Arは、少なくとも1つの芳香環を有するC6~C20芳香族基であり、
R1はC2~C10アルキル基であり、R2はC2~C10アルキル基である)を有する構造単位を有するTPUを与える。例として、そのような適切な鎖延長剤の1つは、ヒドロキノンビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルである。「HQEE」は、ヒドロキノンビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルの略語である。国際純正応用化学連合(IUPAC)の命名法を使用すると、HQEEの名前は:2,2’-[1,4-フェニレンビス(オキシ)]ジエタノールである。
【0058】
本発明での使用に適したTPU材料は、少なくとも3つの構造単位から構成される。前記構造単位は、3つの成分:(1)ポリオール、(2)2つ以上のイソシアネート基を有する化合物、例えばメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、および(3)低分子量鎖延長剤、例えばジオール、に由来してよい。
【0059】
この文脈において、ポリウレタンは、イソシアネート基と他の成分のアルコール基との反応によって形成される。鎖延長剤としては、例えば、短鎖ジオール、またはより少ない頻度であるがオリゴマージオールが挙げられる。TPUで典型的に使用され、当技術分野で知られている鎖延長剤としては、例えば、1,4-ブタンジオール、またはTPUネットワークの架橋を促進するトリオールが含まれる。TPU材料は、シアノアクリレート接着剤組成物の強化剤として調製され、その能力と性能についてテストされてきた。TPUは、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,12-ドデカンジオールなどのいくつかの鎖延長剤を使用して調製され、これらのTPUはすべてシアノアクリレート組成物の強化剤としてテストされてきた。しかし、上記の鎖延長剤を使用して調製されたTPUのいずれも、25℃でシアノアクリレート組成物に必要な靭性とともに長期(30日以上)の粘度安定性を与えることができなかった。
【0060】
本発明の組成物は、室温(25℃)で長期間(例えば、少なくとも1ヶ月間)の粘度安定性を示す。本発明による組成物はまた、室温で硬化させた場合および90℃で硬化させた場合の両方において、一連の材料に対して良好な引張強度および良好なT剥離強度を示す。したがって、本発明は、室温(25℃)において粘度の長期安定性を有するシアノアクリレート組成物を提供する。
【0061】
本発明の組成物はまた、粘度が温度の関数として可逆的変化を示し、これは、有利には組成物に熱サイクルに対する耐性を与える。
【0062】
適切なポリオールとしては、それらの構造中に少なくとも2つのヒドロキシル(OH)基を有するものが挙げられる。ポリオールはさらに、エステル、エーテル、カーボネート、カルボン酸、アミド、シアノ、ヘミアセタールまたはハロゲンなどの他の基を有していてもよい。適切なポリオールは、ポリエステルポリオールであり得る。ポリエーテルポリオールも適切なポリオールである。ポリカーボネートポリオールも適している。
適切なポリオールの例には、高度にまたは部分的に結晶性のポリエステルまたはコポリエステルが含まれる。たとえば、Dynacoll 7360である。Dynacoll 7360は、アジピン酸(ヘキサン-1,6-二酸)と1,6-ヘキサンジオールをベースとした部分結晶性コポリエステルであって、27~34mgKOH/g(標準手順DIN53240で測定)の水酸基価、<2mgKOH/gの酸価(標準手順DIN53402で測定)、60℃の融点(示差走査熱量測定で測定)、65℃の軟化点(標準手順ISO4625に従うリングおよびボール測定器で測定)、80℃で約2,000mPa・sの粘度(ブルックフィールドLVT4粘度計を使用して測定)、分子量(水酸基価から)は約3,500を有する。
【0063】
例えば、別の適切なポリエステルポリオールは、ドデカン二酸と1,6-ヘキサンジオールのポリエステルであって約27~約34のOH価を有するDynacoll7380である。適切なポリエステルポリオールは、例えば、ジカルボン酸と1,6-ヘキサンジオールとのポリエステルを含むことができる。
他の適切なポリオールのさらなる例としては、例えば、固体の部分的/高度の結晶性のコポリエステルDynacoll 7361、7363、および7390が挙げられる。Dynacoll7000シリーズのポリオールはEvonikから市販されている。適切なポリオールのさらなる例には、一級ヒドロキシル基末端の線状ポリエーテルグリコール、例えばヒドロキシル末端ポリカプロラクトン、例えばTerathane 2000 PTMEGなどのヒドロキシル末端のポリカプロラクトン-ブロック-ポリテトラヒドロフラン-ブロック-ポリカプロラクトンが挙げられる。適切なポリオールのさらなる例には、Perstorpから市販されているCapa2201などの第一級ヒドロキシル基で終結したカプロラクトンモノマーから誘導される線状ポリエステルジオールなどの固体または半固体の高結晶性コポリエステルが含まれる。Dynacoll、CapaおよびTerathaneは登録商標である。
【0064】
ポリマーポリオールの形成に適したポリエステルは、例えば、主に末端OH基を含有する線状ポリマー(ポリエステルポリオール)、例えば2つまたは3つ、特に2つの末端OH基を含有するものである。そのようなポリエステルポリオールの酸価は、一般に約10未満、例えば約3未満である。分子量約1,000~約50,000、たとえば約2,000~約15,000または約2,500~約5,000のポリエステルが、本発明によるポリマーポリオールとしての使用に適している。例えば、低分子量アルコール、より具体的には線状または分岐、飽和または不飽和、脂肪族または芳香族グリコールの反応によって得られるポリエステルを使用することができる。そのようなアルコールの例は、ジエチレングリコール、エタン-1,2-ジオール、プロパン-1,3-ジオール、2-メチルプロパン-1,3-ジオール、ブタン-1,4-ジオール、ペンタン-1,5-ジオール、ヘキサン-1,6-ジオール、ヘプタン-1,7-ジオール、オクタン-1,8-ジオール、ノナン-1,9-ジオール、デカン-1,10-ジオールおよび言及した化合物の炭素鎖のステップバイステップ伸長で得られた対応するより高い類似化合物(higher homologs)、および、例えば、2,2,4-トリメチルペンタン-1,5-ジオール、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール、1,4-ジメチロールシクロヘキサン、1,4-ジエタノールシクロヘキサン、2-メチル-2-ブチルプロパン-1,3-ジオール、2,2-ジメチルブタン-1,4-ジオール、1,4-ジメチロールシクロヘキサン、ヒドロキシピバル酸ネオペンチルグリコールエステル、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、メチルジエタノールアミンまたは8~約30個の炭素原子を有する芳香族脂肪族または芳香族脂環式ジオール、複素環式環系またはナフタレンなどの同素環系(isocyclic ring systems)、特にビスフェノールAなどのベンゼン誘導体、芳香族構造として使用可能なものとして、2x対称エトキシル化ビスフェノールA、2x対称プロポキシル化ビスフェノールA、より高度にエトキシル化またはプロポキシル化されたビスフェノールA誘導体またはビスフェノールF誘導体、前述のビスフェノールAおよびビスフェノールF誘導体の水素化物、または前述の化合物または前述の化合物の2つ以上の混合物と2から約8個の炭素原子を有するアルキレンオキシドまたはそのようなアルキレンオキシドの2種以上の混合物との反応物である。
【0065】
適切なポリエステルポリオールは、例えば、重縮合によって得ることができる。したがって、二価または三価アルコールまたはそれらの2つ以上の混合物は、ジカルボン酸またはトリカルボン酸またはそれらの2つ以上の混合物またはそれらの反応性誘導体と縮合して、ポリエステルポリオールを形成し得る。適切なジカルボン酸は、例えば、44個までの炭素原子を含むコハク酸およびそのより高い類似化合物(higher homologs)、マレイン酸またはフマル酸などの不飽和ジカルボン酸、および芳香族ジカルボン酸、特にフタル酸、イソフタル酸またはテレフタル酸などの異性体フタル酸である。適切なトリカルボン酸は、例えば、クエン酸またはトリメリット酸である。上記のジカルボン酸の少なくとも1つと、残留OH基含有量を有するグリセロールとのポリエステルポリオールは、本発明の目的に特に適している。特に適切なアルコールは、ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールまたはネオペンチルグリコールまたはそれらの2つ以上の混合物である。特に適切な酸は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸またはアジピン酸およびそれらの混合物である。
【0066】
ポリエステルの製造のためのポリオール成分として適切な他のポリオールは、例えば、分子量(Mn)が約100~約22,000、例えば約200~約15,000または約300~約10,000、例えば約500~約2,000を有する、ジエチレングリコールまたはより高級のポリエチレングリコールである。
【0067】
本発明の目的でポリマーポリオールとして適切なポリエステルは、特に、二価アルコールなどの多価アルコール(任意に少量の三価アルコールと一緒に)と、二塩基カルボン酸などの多塩基性カルボン酸との反応生成物が挙げられる。遊離ポリカルボン酸の代わりに、対応するポリカルボン酸無水物または例えば1~8個の炭素原子含有するアルコールとの対応するポリカルボン酸エステルも使用できる(それらが存在する場合)。ポリカルボン酸は、脂肪族、脂環式、芳香族および/または複素環式であってよい。
それらは、例えば、アルキル基、アルケニル基、エーテル基またはハロゲンにより任意に置換されてもよい。適切なポリカルボン酸は、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水テトラクロロフタル酸、無水テトラブロモフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、グルタル酸無水物、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、二量体脂肪酸または三量体脂肪酸またはそれらの2つ以上の混合物である。少量の一官能性脂肪酸を、反応混合物中に任意に存在させてもよい。
【0068】
対応するポリエステルは、例えば、末端カルボキシル基を含んでもよい。ラクトン、例えばε-カプロラクトン、またはヒドロキシカルボン酸、例えばω-ヒドロキシカプロン酸から得られるポリエステルもまた、少なくとも部分的に使用され得る。
【0069】
ポリエステルポリオールを製造するために、ジカルボン酸自体の代わりに、それらが利用可能な場合、カルボン酸無水物またはカルボン酸塩化物などの対応する酸誘導体を使用することが有利であることがある。
【0070】
ポリエステルポリオールの製造には、適切には、エタン-1,2-ジオール、プロパン-1,3-ジオール、2-メチルプロパン-1,3-ジオール、ブタン-1,4-ジオール、ヘキサン-1,6-ジオール、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール、1,4-ジメチロールシクロヘキサン、1,4-ジエタノールシクロヘキサン、および2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニレン)-プロパン(ビスフェノールA)のエトキシル化またはプロポキシル化物を使用できる。対応するポリマーポリオールと共に提供されるポリイソシアネートプレポリマーの必要な特性に応じて、言及されたポリエステルポリオールは、単独で、または言及された2つ以上のポリエステルポリオールの混合物の形態で、ポリイソシアネートプレポリマーの製造のために使用できる。ポリエステルポリオールの製造に適したラクトンは、例えば、ジメチルプロピオラクトン、γ-ブチロラクトンまたはε-カプロラクトンである。
【0071】
ポリエーテルポリオールは、TPUの製造におけるポリマーポリオールとしての使用にも適している。ポリエーテルポリオールは、前述のテキストで定義されている末端OH基を含むエーテル結合を有する実質的に線状の化合物であると理解されている。適切なポリエーテルポリオールは、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドまたはテトラヒドロフランなどの環状エーテルの重合によって、またはアルキレン基に2~12個の炭素原子を含む2つ以上のアルキレンオキシドの混合物と、2つの活性水素原子を含むスターター分子との反応によって生成され得る。適切なアルキレンオキシドは、特に、エチレンオキシド、1,2-プロピレンオキシド、エピクロロヒドリン、1,2-ブチレンオキシドまたは2,3-ブチレンオキシドまたはそれらの2つ以上の混合物である。
【0072】
ポリエーテルポリオールの重合は、一般に、触媒としての塩基の存在下で行われる。適切なポリエーテルポリオールは、例えば、任意選択でC4~C12アルキレンオキシドと混合した、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合によって得られるポリアルキレングリコールを含むことができる。適切なポリエーテルポリオールは、例えば、C3またはC4ユニットまたはその両方を含むポリエチレングリコール類を含むことができ、それはエチレンオキシドとプロピレンオキシドまたはブチレンオキシドまたはそれらの混合物との共重合によって得ることができる。Co-Znシアン化物錯体触媒によって得られるポリエーテルも適している。
【0073】
適切には、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドまたはそれらの混合物を、スターター分子として第一級、第二級または第三級OH基を含むジオールまたはトリオールまたはそのようなジオールまたはトリオールの2種以上の混合物に添加することにより得られるポリアルキレングリコールをポリエーテルポリオールとして使用することができる。基本的に、適切なスターター分子は水または単官能または多官能の低分子量アルコールまたはそれらの混合物であるが、スターター分子として、ポリオールとして、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオールおよびそのより高い類似化合物(higher homologs)、ネオペンチルグリコール、グリセロール、トリメチロールプロパン、トリエチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グルコース、ソルビトール、マンニトールまたはそれらの2つ以上の混合物などの二価または三価アルコールを使用して製造されるポリアルキレングリコールも適している。
【0074】
ポリアルキレングリコールは、それぞれ、水または他のスターター分子へのアルキレンオキシドの塩基触媒付加で典型的に形成される分子量分布を有する重付加生成物として使用することができる。しかしながら、異なる分子量分布を有する異なるポリアルキレングリコールの混合物もまた、ポリイソシアネートプレポリマーの製造のために使用され得る。スターター分子上に1つのアルキレンオキシド化合物のみを付加することにより形成されたポリアルキレングリコールも使用され得る。しかしながら、様々なアルキレンオキシドの添加により得られるポリアルキレングリコールも適している。それらは、ブロックコポリマーおよび統計的コポリマーのどちらであってもよい。
【0075】
ポリカルボン酸とポリエーテルとの重縮合により得られるエーテルおよびエステル基を含むポリマーポリオールも、本発明の目的のためのポリマーポリオールとして適している。基本的に、上記のポリカルボン酸およびポリエーテルが、この目的に適している。
【0076】
エポキシ化油、例えばエポキシ化大豆油、をモノアルコールまたはポリアルコールで開環することにより得られるエステル基およびエーテル基を含有するポリマーポリオールも、ポリマーポリオールとして適している。
【0077】
本発明では、硬化性シアノアクリレート組成物用のTPU強化剤の調製において、ポリマーポリオールとしてポリエステルポリオールを使用することができる。適切なポリエステルポリオールは、少なくとも約500、少なくとも1,000など、例えば約1,500~約10,000または約2,000~約9,000の分子量を有する。エボニックが販売している上記のDynacollシリーズのポリエステルポリオール、例えばDynacoll 7360/7361/7362/7380は、本発明の目的に適している。ポリエーテルポリオール(例えば、ポリカプロラクトンまたはC3-C5アルキレンオキシド)、およびポリカーボネートポリオールも適している。BASFから市販されているLupranolシリーズのポリエーテルポリオール、例えばルプラノール1000またはダウケミカルのVoranol P 2000は、本発明の目的に適している。
【0078】
例えば、ポリカーボネートもまた、本発明によるポリマーポリオールとして使用され得る。使用できる適切なポリカーボネートは、例えば、少なくとも2つのOH基、例えば末端OH基を含む実質的に線状の分子を含む。対応するポリカーボネートポリオールは、例えば、上記の二価アルコールの1種と、または二価アルコールの2種以上の混合物とホスゲンとの反応により製造される。
【0079】
たとえば3つ以上の官能基と3~約15の炭素原子、例えば3~約10個の炭素原子を含む脂肪族アルコールを、ポリマーポリオールの製造において、ポリイソシアネートプレポリマー中に存在するポリマーポリオールの総重量に基づいて約10重量%までまたは約5重量%までの量で使用することができる。適切なそのような化合物は、例えば、トリメチロールプロパン、トリエチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、および1分子あたり最大約10までのOH基を含有する他の糖アルコールである。言及された化合物の対応する誘導体は、2~4個の炭素原子を含むアルキレンオキシドと、または2つ以上のそのようなアルキレンオキシドの混合物との反応により得ることができるが、これらもまた、ポリマーポリオールの製造に使用することができる。言及された化合物は、個別に、または言及された化合物の2つ以上の混合物の形態で使用され得る。
【0080】
ポリマーポリオールとしての使用に適した上記のクラスの化合物は、ポリマーポリオールとしての使用に適した分子量範囲に存在している場合がある。しかしながら、ポリマーポリオールとしての使用に適した分子量未満または本発明の目的に必要な分子量未満の分子量を有する上記のクラスの化合物でも、ポリマーポリオールの製造に等しく十分に使用され得る。この場合、本発明によれば、必要なまたは所望の分子量を獲得するまで、対応する二官能性化合物との反応により、上記のクラスからの化合物を拡張することが可能である。例えば、ジカルボン酸、二官能性エポキシ化合物またはジイソシアネートがこの目的に適している。本発明では、例えば、ジイソシアネートを使用することができる。
【0081】
例として、本発明の硬化性シアノアクリレート組成物における強化剤として使用するためのTPUの合成に適したポリオールとしては、結晶性または部分的結晶性ポリオールを含むことができ、例えば、(コ)-ポリエステルポリオールまたは(コ)-ポリエーテルポリオールであり、適切には(コ)-ポリエステルポリオールである。
【0082】
市販のポリオールとしては次のものが挙げられる。
(i)Polyol CAPA 2201 ex Perstorp-固体の高結晶性コポリエステル
(ii)Polyol Terathane 2000-ポリエーテルグリコール
(iii)Polyol Dynacoll 7390-固体の高結晶性コポリエステル
(iv)Polyol Dynacoll 7361-固体の部分結晶性飽和コポリエステル
(v)Polyol Dynacoll 7360-固体の部分結晶性飽和コポリエステル
(vi)Polyol Dynacoll 7363-固体部分結晶性飽和コポリエステル
(vii)Polyol Dynacoll 7380-OH価約27~約34のポリエステルポリオール、ドデカン二酸と1,6-ヘキサンジオールのポリエステル。
【0083】
例として、本発明の実施において有用な、少なくとも2つのイソシアネート基を有する化合物、例えば、本発明の硬化性シアノアクリレート組成物における強化剤として使用するためのTPUの合成に適したポリイソシアネート化合物としては、以下のもの:1,4-ジイソシアナトベンゼン(PPDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI)、ポリメチレンポリ(フェニルイソシアネート)(PMDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ビトリレンジイソシアネート(TODI)、1,3-キシレンジイソシアネート(XDI)、p-1,1,4,4-テトラメチルキシレンジイソシアネート(p-TMXI)、m-1,1,3、3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(m-TMXDI)、1,6-ジイソシアナト-2,4,4-トリメチルヘキサン、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)、1,4-シクロヘキサンビス(メチレンイソシアネート)(BDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、トリフェニルメタン-4,4’,4’’-トリイソシアネートなどが挙げられる。
ポリイソシアネートの混合物、例えば、2,4’-MDIおよび4,4’-MDIを使用することができる。例えば、適切なポリイソシアネートは、実質的に純粋な4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)である。ジフェニルメタンジイソシアネートは、4,4’-メチレンジフェニルジイソシアネート、またはメチレンビスフェニルジイソシアネートとしても知られている。IUPACの命名法を使用すると、1,1’-メチレンビス(4-イソシアナトベンゼン)として知られている。
【0084】
硬化性シアノアクリレート組成物のシアノアクリレート成分は、組成物の総重量に基づいて約10重量%~約95重量%、例えば、組成物の総重量に基づいて約40重量%~約90重量%の量で存在し得る。
【0085】
硬化性シアノアクリレート組成物のTPU成分は、組成物の総重量に基づいて約5重量%~約90重量%、例えば、組成物の総重量に基づいて約10重量%~約60重量%の量で存在し得る。
【0086】
本発明の硬化性シアノアクリレート組成物のシアノアクリレート成分は、一般式(A)で表すことができる。
【化3】
(ここで:
R
1は、1~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖アルキル基、2~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖アルケニル基、2~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖アルキニル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基であり;ここで、R
1は、少なくとも1つのハロゲンおよび/または少なくとも1つのC
1~C
12アルコキシ基で任意に置換されていてもよく;およびR
2は、水素、炭素原子数1~12の直鎖または分枝鎖アルキル基、炭素原子数2~12の直鎖または分枝鎖アルケニル基、炭素原子数2~12の直鎖または分枝鎖アルキニル基、炭素数1~12の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基の群から選択され;ここで、R
2は、少なくとも1つのハロゲンおよび/または少なくとも1つのC
1-C
12アルコキシ基で任意に置換されていてもよい。)
シアノアクリレート成分は、例えば、エチル2-シアノアクリレートおよびβ-メトキシシアノアクリレートを含む群から選択され得る。
【0087】
任意に、本発明の硬化性シアノアクリレート組成物は、約0.05wt%~約20wt%、例えば約0.5wt%~約5wt%、例えば1wt%の量で、成分として超高分子量ポリエチレンの表面修飾微粒子をさらに含むことができる。特に明記しない限り、すべての重量%(wt%)は、本発明のシアノアクリレート組成物の総重量に基づく。
【0088】
そのような成分は種々の形態をとってよい。たとえば、Inhance/Fluoro-Seal、Ltd.の表面改質技術は、反応性ガス雰囲気が粒子の最も外側の分子層を改質する制御された酸化プロセスである。処理により、分子主鎖および/または側鎖が反応し、ヒドロキシルやカルボキシレートなどの極性官能基が表面に形成される。Inhanceのウェブサイトによると、これらの酸素含有化学官能基により、処理された粒子の表面エネルギーが高くなる。これは、処理された粒子が、ポリオールなどの極性ポリマーに容易に濡れて分散することを意味する。表面改質はまた、組成物中の粒子と残りの成分との間のより強い結合をもたらす。強化された接着力は、表面機能と水素との化学結合の結果である。参照:www.inhanceproducts.com/technology.html、Jun. 20,2017。
【0089】
Inhance(商標)の市販の表面改質ポリオレフィンとしては、INHANCE(登録商標)UH-1000およびHD-1000シリーズ粒子として説明されているファミリーのものが挙げられる。そのファミリーの特定の代表としては、UH-1045(平均サイズが300μm)、UH-1080(平均サイズが125μm)、UH-1200(平均サイズが63μm)、UH-1250(平均サイズが53μm)、UH-1500(平均サイズが45μm)、UH-1700(平均サイズが38μm)、HD-1800(平均サイズが18μm)と命名されたものが挙げられる。INHANCE(登録商標)UH-1000シリーズの粒子は、自由流動性の白い粒子または粉末であり、非修飾の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)樹脂に由来するものであり、次の一般的な特性を持っている。
表面エネルギー:55+dynes/cm(水濡れ性)
比重:0.93-0.94g/cc
かさ密度:20-31 lb./ft3(0.32-0.50g/cc)
分子量:3,000,000-5,000,000g/mol
INHANCE(登録商標)UH-1000シリーズ粒子は、優れた耐摩耗性、低減された摩擦係数、強化された破壊作用性、および改善された水分バリア性を備えた複合材料を提供すると報告されている。
【0090】
非限定的な例として、そのような任意の成分の1つは、平均サイズが125μmの超高分子量ポリエチレンの表面修飾微粒子を含むINHANCE(登録商標)UH-1080(「UH-1080」)である。別の非限定的な例として、そのような任意の成分の1つは、平均サイズが53μmの超高分子量ポリエチレンの表面修飾微粒子を含むINHANCE(登録商標)UH-1250(「UH-1250」)である。前記任意の成分は、硬化性シアノアクリレート組成物の総重量を基準にして、任意選択で、約0.05重量%~約20重量%、例えば約0.5重量%~約5重量%、例えば1重量%の量で存在することができる。
【0091】
本明細書で使用される場合、「ルイス酸安定剤」または「ブレンステッド酸安定剤」などの「安定剤」という用語は、例えば、シアノアクリレート組成物の早期重合を阻害することによってシアノアクリレート成分を安定化させる物質を指す。本明細書で使用される場合、「鎖延長剤」という用語によって示される成分は、「ポリオール」という用語によって示される成分とは異なるものとして理解されるべきである。
【0092】
本発明の硬化性シアノアクリレート組成物は、二酸化硫黄(SO2)またはルイス酸安定剤三フッ化ホウ素(BF3)などの安定剤を、シアノアクリレート組成物の総重量基準で約0.0005wt%~約5wt%の量で含むことができる。例えば、BF3は、例えば20ppmまたは例えば50ppmで存在し得る。本発明の硬化性シアノアクリレート組成物は、シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて約0.0005wt%~約5wt%の量でフッ化水素(HF)などのブレンステッド酸安定剤を、任意選択で含んでもよい。
【0093】
本明細書で使用される「安定剤溶液」は、特に、三フッ化ホウ素(BF3)を1000ppm(ppm)で含む硬化性エチルシアノアクリレート(ECA)の新しく調製された原液を指す。前記安定剤溶液を使用して、硬化性シアノアクリレート組成物中のBF3ルイス酸安定剤の所望の最終濃度(例えば、50ppmのBF3の最終濃度、または例えば20ppmのBF3の最終濃度)に調整することができる。
当業者は、他の適切な安定剤、例えば別の適切なルイス酸、または例えば安定剤SO2を使用して硬化性シアノアクリレート成分を安定化できることを容易に理解するであろう。β-メトキシシアノアクリレート、またはブチルシアノアクリレート、またはその他の適切なシアノアクリレートを安定剤の担体として使用して同様の安定剤溶液を調製できることが開示されており、前記安定剤溶液は、ECA以外のシアノアクリレートに基づく硬化性組成物中の所定の安定剤の量を調整するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【
図1】
図1は、BDOベースのTPU(TPU-B1)を含むエチルシアノアクリレート組成物(比較例1;CEx1)について、経時的な粘度に対する保管温度(25℃および4℃)の影響を、7日間隔で42日間測定した結果を示す棒グラフである。組成物粘度は、ブルックフィールドLVT4粘度計を使用して25℃で測定した。粘度の結果はミリパスカル秒(mPa・s)の単位で報告されている。
【0095】
【
図2】
図2は、BDOベースのTPU(TPU-B1)を含むエチルシアノアクリレート組成物(比較例1;CEx1)について、T剥離性能に対する保管温度(25℃および4℃)の影響を、7日間隔で42日間測定した結果を示す棒グラフである。T剥離測定値は、ニュートン/ミリメートル(N/mm)で報告されている。
【0096】
【
図3】
図3は、硬化性シアノアクリレート組成物の粘度安定性に対するHQEE鎖延長剤またはBDO鎖延長剤に基づくTPUの効果を示す棒グラフである。実施例組成物2(Ex2)および実施例組成物3(Ex3)、ならびに比較例組成物2(CEx2)および比較例組成物3(CEx3)についての結果が示されている。室温(25℃)の粘度測定を、配合直後(T=0)に試験した新鮮な組成物と、試験前に25℃で30日間保管(T=30DAYS)した組成物を使用して、
図3に報告した。各組成物に存在するTPUを
図3に示し、TPUがBDOベースかHQEEベースかを特定している。
【0097】
【
図4】
図4は、上記試験された組成物について、25℃で30日保存した後に試験した組成物の粘度(分子:配合の瞬間から計算された時間)と初期粘度(T=0、組成物を新たに調製した直後;分母)の比を示す棒グラフである。前記比率は、以下「一か月比」と呼ばれる。
図4で報告されているすべての粘度は、25℃で測定されたものである。「T=0」および「T=30日」で粘度測定値が変化しない場合、一か月比は1(1.0)になる。参照しやすいように、一か月比が1に等しいことを示すために、棒グラフに黒い実線が描かれている。最大値が黒い実線をはるかに下回るバーは、室温で30日間保管すると粘度の低下を示す組成物を示し、最大値が黒い実線に非常に近いバーは、30日まで「粘度安定性」を示す組成物を示す。実施例組成物1(Ex1)、実施例組成物2(Ex2)、および実施例組成物3(Ex3)、および比較例組成物4~10の結果が示されている。各組成物に存在するTPUを
図4に示し、TPUがBDOベースかHQEEベースかを指定している。
【0098】
【
図5】
図5は、90℃で24時間硬化した後の実施例の組成物(Ex1-3)と比較例の組成物(CEx4-10)のT剥離性能を示す棒グラフである。各組成物に存在するTPUを
図5に示し、TPUがBDOベースかHQEEベースかを指定している。
【0099】
【
図6】
図6は、シアノアクリレート組成物のT剥離性能に対するHQEE鎖延長剤またはBDO鎖延長剤に基づくTPUの影響を、硬化時間の関数として示す棒グラフである。実施例組成物2(Ex2)、実施例組成物3(Ex3)、比較例組成物2(CEx2)、および比較例組成物3(CEx3)の結果が示されている。2つの硬化条件の結果を示している。テストした第1の硬化条件は、25℃で7日間の硬化である。テストされた第2の硬化条件は、25℃での3日間の硬化後、90℃での1日間の硬化である(「加速硬化」と呼ばれる)。各組成物に存在するTPUを
図6に示し、TPUがBDOベースかHQEEベースかを指定している。
【発明を実施するための形態】
【0100】
詳細な説明
本発明は、TPUの合成における鎖延長剤の使用を対象とし、その結果、TPUは、式:
-O-R1-O-Ar-O-R2-O-
(式中、Arは、少なくとも1つの芳香環を有するC6~C20芳香族基であり、R1はC2~C10アルキル基であり、およびR2はC2~C10アルキル基である)
の構造単位を有し、前記構造単位を有するTPUはその後シアノアクリレート接着剤組成物における強化剤として使用される。驚くべきことに、前記TPU強化剤の使用が、得られる硬化性シアノアクリレート組成物に、室温(25℃)での長期的な、つまり少なくとも1か月間の粘度安定性を付与することが見出された。粘度安定性とは、室温で1ヶ月後の粘度が初期粘度から下がらないことを意味する。
【0101】
TPUは、ポリオール、イソシアネート化合物、および鎖延長剤化合物から合成される。したがって、鎖延長剤は、TPUの合成に使用される成分であり、鎖延長剤は、TPUの構造単位として組み込まれることになることを理解されたい。誤解を避けるために、本発明の最終強化シアノアクリレート組成物中に存在する遊離の未反応の鎖延長剤はなく、むしろ、すべての鎖延長剤は、前記TPUの合成中にTPU強化剤に構造的に組み込まれることになる。
【0102】
重合プロセスの確率的性質のため、TPUのバッチごとに非常にわずかな変動が発生する可能性がある。これは、同じ成分を同じ方法で同じ比率で混合した場合でも同じである。したがって、同じ重量パーセントで同じ成分を使用して調製されたTPUの異なるバッチは、わずかに異なる分子量(Mw)/Mw分布を有することができる。
【0103】
<TPUの例>
さまざまなTPU材料を合成し、硬化性シアノアクリレート組成物に配合して、強化剤としての適性をテストした。以下の実施例のTPU「調製」サブセクションに記載されているすべてのTPUは、ポリオール、イソシアネート化合物、およびHQEE(構造1)鎖延長剤から調製された。配合表(表1)で特定されているように、以下のサブセクションのTPU例で配合された硬化性シアノアクリレートの実施例1(Ex1)、実施例2(Ex2)、および実施例3(Ex3)は、本発明による硬化性シアノアクリレート組成物の例である。
【0104】
実施例TPUの調製:TPU-A1、TPU-A2、およびTPU-A3
実施例TPUの3つのバッチ、TPU-A1(バッチ1)、TPU-A2(バッチ2)、およびTPU-A3(バッチ3)を、同じ重量パーセントで同じ成分を使用して調製した。得られたTPU(TPU-A1、TPU-A2、およびTPU-A3)のMw/Mw分布におけるわずかなバッチ間の変動が、たとえば
図3-6に示すように、それらが存在する実施例組成物(Ex1、Ex2、およびEx3)の性能に影響を与えている。前記バッチはそれぞれ以下のように調製した:三口樹脂ケトル中で、固体の部分結晶性の飽和コポリエステルポリオール、Dynacoll 7360(359.71g)を、ChibaからのIrganox1010酸化防止剤(2.17g)とともに110~120℃で溶融した。1~3mbarの真空をかけた。真空下で溶融すると、脱気および水分除去手順の効率が向上し、容器の側壁への堆積によるポリオールの消耗の可能性が減少する。溶融してから(約30~40分)、ポリオールを100rpmで30分間真空下で攪拌した。これにより、不要な水分をさらに除去できる。わずかなN
2フローを導入して真空を解除した。メチレンビス-フェニルジイソシアネート(MDI)フレーク(45.58g)を広口漏斗を通して加えた。容器に栓をして、N
2吹き込みを取り除いた。反応を115℃に維持し、真空なしで、撹拌機の速度を250rpmに上げ、15分間攪拌した。この後、反応を再び真空下(1~3mbar)に15分間置いた。真空を解除し、この時点で1gサンプルを3つ採取した。これらのサンプルは、この時点での未反応NCOの量を正確に測定するために取得されたものである。これは、得られたTPUのMw分布に関連する品質管理手順である。反応容器に栓をし、連続的に攪拌しながら再び真空下に置いた。わずかなN
2フローを導入して真空を解除した。N
2下で完全に供給されるようにしながら、HQEE(22.56g)鎖延長剤を滴下漏斗を通して追加した。再び容器に栓をして、混合速度を250rpmに維持した。115℃の温度で反応を進行させて、発熱反応が125℃を超えないようにした。鎖延長剤を添加した後、反応を真空なしで15分間、真空ありで15分間進行させた。
【0105】
TPU-A1、TPU-A2、およびTPU-A3の各TPUバッチの調製で使用される成分
【0106】
【0107】
比較例
さまざまなTPU材料を合成し、硬化性シアノアクリレート組成物に配合して、強化剤としての適性をテストした。以下の比較例のTPU「調製」サブセクションに記載されているすべてのTPUは、ポリオール、イソシアネート化合物、およびBDO鎖延長剤(1,4-ブタンジオール;構造2)から調製された。CEx1、CEx2、CEx3、CEx4、CEx5、CEx6、CEx7、CEx8、CEx9、およびCEx10は、配合表(表1)で特定されているように、以下のサブセクションの比較例TPUで配合され、シアノアクリレート組成物の比較例のである。したがって、前記比較例のシアノアクリレート組成物は、本発明によらない組成物である。BDOベースのTPUを含むこの組成物は、室温(25℃)で保存したときに長期(30日以上)の粘度安定性を示さないTPU強化シアノアクリレート組成物であると特徴付けられ、その証拠を提供するものであり、それらは、以下の本発明(
図1、
図3、および
図4)に従う組成物とは対照的であり、硬化性シアノアクリレート組成物において特許請求の範囲に記載されるようなTPUを使用することの技術的効果を強調している。シアノアクリレート組成物の比較例をテストしたところ、テスト前に4℃で保存した場合、良好から優れたT剥離性能を示すことがわかった。しかし、これらのすべての組成物は、25℃で保存すると30日間で粘度の低下を示し(しばしば、初期の粘度と比較して50%を超える劇的な粘度の低下)、この粘度の低下は対応するT剥離性能(たとえば、
図1および2のCEx1性能)と一致した。硬化性シアノアクリレート組成物の比較例に関連して言及される粘度の低下は、TPU成分のBDO鎖延長剤を式H-O-R
1-O-Ar-O-R
2-O-Hを有する鎖延長剤に、または前記TPU成分に構造的に組み込まれたときに式-O-R
1-O-Ar-O-R
2-O-を有する鎖延長剤に、置き換えることにより回避することができる。ここでArは、少なくとも1つの芳香環を有するC
6~C
20芳香族基であり、R
1はC
2~C
10アルキル基であり、およびR
2はC
2~C
10アルキル基である。この式に含まれる鎖延長剤は、例えばHQEEである。HQEEでは、Arは芳香環を有するC
6芳香族基であり、R
1とR
2はどちらもC
2アルキル基である。HQEEは、実施例の組成物中に存在するTPUのための鎖延長剤として使用される。シアノアクリレート組成物の強化のための、例えばHQEE鎖延長剤に基づくTPUの使用が、組成物を室温(25℃)で30日間保存した後に試験したとき、(BDOベースのTPUを含むものと比較して、すなわち比較例と比較して)大幅に改善された粘度安定性を付与することがここに示され、そしてT剥離性能保持に関連している。
【0108】
比較例TPUの調製:TPU-B1およびTPU-B2
比較例TPUの2つのバッチ、TPU-B1(バッチ1)およびTPU-B2(バッチ2)を、同じ重量パーセントで同じ成分を使用して調製した。得られたTPU(TPU-B1およびTPU-B2)のMw/Mw分布におけるバッチ間のわずかな変動が、それらが存在する比較例の組成物(それぞれCEx1およびCEx9)の性能に影響を与えている。前記バッチはそれぞれ以下のように調製した:三口樹脂ケトル中で、固体の部分結晶性飽和コポリエステルポリオール、Dynacoll 7361(344.64g)を、ChibaからのIrganox1010酸化防止剤(2.0g)とともに110~120℃で溶融した。次に、1~3mbarの真空をかけた。真空下で溶融すると、脱気および水分除去手順の効率が向上し、容器の側壁への堆積によるポリオールの消耗の可能性が減少する。溶融してから(約30~40分)、ポリオールを100rpmで30分間、真空下で攪拌した。これにより、不要な水分をさらに除去できる。わずかなN2フローを導入して真空を解除した。メチレンビス-フェニルジイソシアネート(MDI)フレーク(45.2g)を、広口漏斗を通して加えた。容器に栓をして、N2吹き込みを取り除いた。反応を115℃に維持し、真空なしで撹拌機の速度を250rpmに上げ、15分間攪拌した。この時間の後、反応を再び真空下(1~3mbar)に15分間置いた。真空を解除し、この時点で1gサンプルを3つ採取した。これらのサンプルは、この時点で未反応のNCOの量を正確に測定するために取得されたものである。反応容器に栓をし、連続的に攪拌しながら再び真空下に置いた。わずかなN2フローを導入して真空を解除した。N2下で完全に供給されるようにしながら、ブタンジオール(5.37g)鎖延長剤を滴下漏斗を通して追加した。容器に再び栓をして、混合速度を250rpmに維持した。115℃の温度で反応を進行させて、発熱反応が125℃を超えないようにした。鎖延長剤を添加した後、反応は真空なしで15分間、真空ありで15分間進行させた。
【0109】
TPU-B1およびTPU-B2の各TPUバッチの調製で使用される成分
【0110】
【0111】
比較例TPUの調製:TPU-C1およびTPU-C2
比較例TPUの2つのバッチ、TPU-C1(バッチ1)およびTPU-C2(バッチ2)を、同じ重量パーセントで同じ成分を使用して調製した。得られたTPU(TPU-C1およびTPU-C2)のMw/Mw分布におけるバッチ間のわずかな変動が、たとえば、
図3および6に示されているように、それらが存在する比較例の組成(それぞれCEx2およびCEx3)の性能に影響を与えている。前記バッチはそれぞれ以下のように調製した:三口樹脂ケトル中で、固体の部分結晶性飽和コポリエステルポリオール、Dynacoll 7360(370.36g)を、ChibaからのIrganox1010酸化防止剤(2.15g)とともに110~120℃で溶融した。次に、1~3mbarの真空をかけた。真空下で溶融すると、脱気および水分除去手順の効率が向上し、容器の側壁への堆積によるポリオールの消耗の可能性が減少する。溶融してから(約30~40分)、ポリオールを100rpmで30分間、真空下で攪拌した。これにより、不要な水分をさらに除去できる。わずかなN
2フローを導入して真空を解除した。メチレンビス-フェニルジイソシアネート(MDI)フレーク(46.93g)を広口漏斗を通して加えた。容器に栓をして、N
2吹き込みを取り除いた。反応を115℃に維持し、真空なしで撹拌機の速度を250rpmに上げ、15分間攪拌した。この時間の後、反応を再び真空下に(1~3ミリバール)15分間置いた。真空を解除し、この時点で1gサンプルを3つ採取した。これらのサンプルは、この時点で未反応のNCOの量を正確に測定するために取得されたものである。反応容器に栓をし、連続的に攪拌しながら再び真空下に置いた。わずかなN
2フローを導入して真空を解除した。N
2下で完全に供給されるようにしながら、ブタンジオール鎖延長剤(BDO;構造2)(10.56g)を滴下漏斗を通して追加した。容器に再び栓をして、混合速度を250rpmに維持した。115℃の温度で反応を進行させて、発熱反応が125℃を超えないようにした。鎖延長剤を添加した後、反応を真空なしで15分間、真空ありで15分間進行させた。
【0112】
TPU-C1およびTPU-C2の各TPUバッチの調製で使用される成分
【0113】
【0114】
比較例TPUの調製:TPU-D
三口樹脂ケトル中で、Perstorpからの固体高結晶性飽和コポリエステルポリオール、CAPA2201(303.88g)を、CibaからのIrganox1010酸化防止剤(2.0g)とともに110~120℃で溶融した。1~3mbarの真空をかけた。ポリオールは、70℃の融点(m.p.)を有すると記載されている。真空下で溶融すると、脱気および水分除去手順の効率が向上し、容器の側壁への堆積によるポリオールの消耗の可能性が減少する。溶融してから(約30~40分)、ポリオールを100rpmで30分間、真空下で攪拌した。これにより、不要な水分をさらに除去できる。わずかなN2フローを導入して真空を解除した。メチレンビス-フェニルジイソシアネート(MDI)フレーク(77.16g)を広口漏斗を通して加えた。容器に栓をして、N2吹き込みを取り除いた。反応を115℃に維持し、真空なしで撹拌機の速度を250rpmに上げ、15分間攪拌した。この時間の後、反応を再び真空下(1~3mbar)に15分間置いた。真空を解除し、この時点で1gサンプルを3つ採取した。これらのサンプルは、この時点での未反応のNCO(イソシアネート基)の量を正確に測定するために取得されたものである。反応容器に栓をし、連続的に攪拌しながら再び真空下に置いた。わずかなN2フローを導入して真空を解除した。N2下で完全に供給されるようにしながら、ブタンジオール(16.64g)鎖延長剤を滴下漏斗を通して追加した。容器に再び栓をして、混合速度を250rpmに維持した。115℃の温度で反応を進行させて、発熱反応が125℃を超えないようにした。鎖延長剤を添加した後、反応を真空なしで15分間、真空ありで15分間進させた。
【0115】
TPU-Dの調製で使用される成分
【0116】
【0117】
比較例TPUの調製:TPU-E
三口樹脂ケトル中で、ポリエーテルグリコールポリオールであるTerathane 2000(305.2g)を、CibaからのIrganox1010酸化防止剤(2.0g)とともに110~120℃で溶融した。1~3mbarの真空をかけた。真空下で溶融すると、脱気および水分除去手順の効率が向上し、容器の側壁への堆積によるポリオールの消耗の可能性が減少する。溶融してから(約30~40分)、ポリオールを100rpmで30分間真空下で攪拌した。これにより、不要な水分をさらに除去できる。わずかなN2フローを導入して真空を解除した。メチレンビス-フェニルジイソシアネート(MDI)フレーク(76.4g)を、広口漏斗を通して加えた。容器に栓をして、N2吹き込みを取り除いた。反応を115℃に維持し、真空なしで撹拌機の速度を250rpmに上げ、15分間攪拌した。この時間の後、反応を再び真空下(1~3mbar)に15分間置いた。真空を解除し、この時点で3つの1gサンプルを採取した。これらのサンプルは、この時点で未反応のNCOの量を正確に測定するために取得されたものである。反応容器に栓をし、連続的に攪拌しながら再び真空下に置いた。わずかなN2フローを導入して真空を解除した。N2下で完全に供給されるようにしながら、ブタンジオール(16.48g)鎖延長剤を滴下漏斗を通して追加した。容器に再び栓をして、混合速度を250rpmに維持した。115℃の温度で反応を進行させて、発熱反応が125℃を超えないようにした。鎖延長剤を添加した後、反応は真空なしで15分間、真空ありで15分間進行させた。
【0118】
TPU-Eの調製で使用される成分
【0119】
【0120】
比較例TPUの準備:TPU-F
三口樹脂ケトル中で、固体高結晶性飽和ポリエステルポリオール、Dynacoll7390(342.04g)を、CibaからのIrganox1010酸化防止剤(2.0g)とともに110~120℃の温度で溶融した。1~3mbarの真空をかけた。真空下で溶融すると、脱気および水分除去手順の効率が向上し、容器の側壁への堆積によるポリオールの消耗の可能性が減少する。溶融してから(約30~40分)、ポリオールを100rpmで30分間真空下で攪拌した。これにより、不要な水分をさらに除去できる。わずかなN2フローを導入して真空を解除した。メチレンビス-フェニルジイソシアネート(MDI)フレーク(47.2g)を、広口漏斗を通して加えた。容器に栓をして、N2吹き込みを取り除いた。反応を115℃に維持し、真空なしで撹拌機の速度を250rpmに上げ、15分間攪拌した。この時間の後、反応を再び真空下(1~3mbar)に15分間置いた。真空を解除し、この時点で1gサンプルを3つ採取した。これらのサンプルは、この時点で未反応のNCOの量を正確に測定するために取得されたものである。反応容器に栓をし、連続的に攪拌しながら再び真空下に置いた。わずかなN2フローを導入して真空を解除した。N2下で完全に供給されるようにしながら、ブタンジオール(10.16g)鎖延長剤を滴下漏斗を通して追加した。容器に再び栓をして、混合速度を250rpmに維持した。115℃の温度で反応を進行させて、発熱反応が125℃を超えないようにした。鎖延長剤を添加した後、反応を真空なしで15分間、真空ありで15分間進行させた。
【0121】
TPU-Fの調製に使用される成分
【0122】
【0123】
比較例TPUの調製:TPU-G
三口樹脂ケトル中で、固体の部分結晶化飽和コポリエステルポリオール、Dynacoll 7363(353.12g)を、CibaからのIrganox1010酸化防止剤(2.0g)とともに、110~120℃の温度で溶融した。1~3mbarの真空をかけた。真空下で溶融すると、脱気および水分除去手順の効率が向上し、容器の側壁への堆積によるポリオールの消耗の可能性が減少する。溶融してから(約30~40分)、ポリオールを100rpmで30分間真空下で攪拌した。これにより、不要な水分をさらに除去できる。わずかなN2フローを導入して真空を解除した。メチレンビス-フェニルジイソシアネート(MDI)フレーク(35.6g)を、広口漏斗を通して加えた。容器に栓をして、N2吹き込みを取り除いた。反応を115℃に維持し、真空なしで撹拌機の速度を250rpmに上げ、15分間攪拌した。この時間の後、反応を再び真空下(1~3mbar)に15分間置いた。真空を解除し、この時点で1gサンプルを3つ採取した。これらのサンプルは、この時点で未反応のNCOの量を正確に測定するために取得されたものである。反応容器に栓をし、連続的に攪拌しながら再び真空下に置いた。わずかなN2フローを導入して真空を解除した。N2下で完全に供給されるようにしながら、ブタンジオール(7.68g)鎖延長剤を滴下漏斗を通して追加した。容器に再び栓をして、混合速度を250rpmに維持した。115℃の温度で反応を進行させて、発熱反応が125℃を超えないようにした。鎖延長剤を添加した後、反応を真空なしで15分間、真空ありで15分間進行させた。
【0124】
TPU-Gの調製で使用される成分
【0125】
【0126】
比較例TPUの調製:TPU-H
三口樹脂ケトル中で、固体の部分結晶化飽和コポリエステルポリオール、Dynacoll 7363(344.88g)を、CirbaからのIrganox1010酸化防止剤(2.0g)とともに110~120℃の温度で溶融した。1~3mbarの真空をかけた。真空下で溶融すると、脱気および水分除去手順の効率が向上し、容器の側壁への堆積によるポリオールの消耗の可能性が減少する。溶融してから(約30~40分)、ポリオールを100rpmで30分間真空下で攪拌した。これにより、不要な水分をさらに除去できる。わずかなN2フローを導入して真空を解除した。メチレンビス-フェニルジイソシアネート(MDI)フレーク(46.0g)を、広口漏斗を通して追加した。容器に栓をして、N2吹き込みを取り除いた。反応を115℃に維持し、真空なしで撹拌機の速度を250rpmに上げ、15分間攪拌した。この時間の後、反応を再び真空下(1~3mbar)に15分間置いた。真空を解除し、この時点で1gサンプルを3つ採取した。これらのサンプルは、この時点で未反応のNCOの量を正確に測定するために取得されたものである。反応容器に栓をし、連続的に攪拌しながら再び真空下に置いた。わずかなN2フローを導入して真空を解除した。N2下で完全に供給されるようにしながら、ブタンジオール(9.64g)鎖延長剤を滴下漏斗を通して追加した。容器に再び栓をして、混合速度を250rpmに維持した。115℃の温度で反応を進行させて、発熱反応が125℃を超えないようにした。鎖延長剤を添加した後、反応は真空なしで15分間、真空ありで15分間進行させた。
【0127】
TPU-Hの調製で使用される成分
【0128】
【0129】
比較例TPUの調製:TPU-J
三口樹脂ケトル中で、固体の部分結晶化飽和コポリエステルポリオール、Dynacoll 7360(344.88g)を、CibaからのIrganox1010酸化防止剤(2.0g)とともに、110~120℃の温度で溶融した。1~3mbarの真空をかけた。真空下で溶融すると、脱気および水分除去手順の効率が向上し、容器の側壁への堆積によるポリオールの消耗の可能性が減少する。溶融してから(約30~40分)、ポリオールを100rpmで30分間真空下で攪拌した。これにより、不要な水分をさらに除去できる。わずかなN2フローを導入して真空を解除しました。メチレンビスフェニルジイソシアネート(MDI)フレーク(44。Og)は広口漏斗から追加されました。容器に栓をして、N2吹き込みを取り除いた。反応を115℃に維持し、真空なしで撹拌機の速度を250rpmに上げ、15分間攪拌した。この時間の後、反応を再び真空下(1~3mbar)に15分間置いた。真空を解除し、この時点で1gサンプルを3つ採取した。これらのサンプルは、この時点で未反応のNCOの量を正確に測定するために取得されたものである。反応容器に栓をし、連続的に攪拌しながら再び真空下に置いた。わずかなN2フローを導入して真空を解除しました。N2下で完全に供給されるようにしながら、ブタンジオール(8.2g)鎖延長剤を滴下漏斗を通して追加した。容器に再び栓をして、混合速度を250rpmに維持した。115℃の温度で反応を進行させて、発熱反応が125℃を超えないようにした。鎖延長剤を添加した後、反応を真空なしで15分間、真空ありで15分間進行させた。
【0130】
TPU-Jの調製で使用される成分
【0131】
【0132】
【0133】
<組成物の配合>
表1に報告されている実施例の組成物および比較例の組成物に関する配合の詳細は、このサブセクションに記載されている。
【0134】
表1に報告されているすべての組成物を、合計89.495wt%の硬化性エチルシアノアクリレート、0.005wt%の安定剤BF
3(つまり、50重量ppm)、次に10wt%の特定のTPUと0.5wt%の超高分子量ポリエチレンの表面修飾マイクロ粒子(この場合はUH-1250 INHANCE(登録商標)マイクロ粒子)を含むように配合した。ここで重量パーセント(wt%)は、組成物の総重量に基づいている。実施例/比較例の組成物の配合中、前記微粒子は特定のTPU成分と同時に添加された。しかしながら、超高分子量ポリエチレンの表面改質微粒子は、本発明による組成物のための任意の成分であることを理解されたい。安定剤溶液(ECA中、1000ppmBF
3)を使用して、硬化性エチルシアノアクリレート成分のBF
3安定剤の量を50ppmの望ましい濃度に調整した(安定化ECA成分を形成)。次に、特定のTPUを細かくスライスし、65℃の温度でTPU成分を安定化ECA成分に十分に溶解する時間、安定化ECA成分とすばやく混合した。超高分子量ポリエチレンの表面修飾微粒子(たとえば、UH-1250 INHANCE(登録商標)マイクロ粒子)を、細かくスライスしたTPUと同時に添加し、65℃の温度で、微粒子が十分に溶解するまですばやく混合した。室温(25℃)に冷却して、所定の組成物の配合を完了した。配合の完了を、T=0’であるとみなす。したがって、サンプルをこの時点でテストのために取得した(
図1-4に示す結果)。次に、所定の各組成のサンプルを室温(25℃)または4℃のいずれかで保管し、「組成に関するテストの結果」セクションに記載されているさまざまなテストを実施した。
【0135】
所定のTPUを追加する前に、硬化性シアノアクリレート成分(BF3など)の安定剤において、組成物の純粋なECA成分に混合するため(これにより「安定化ECA成分」が形成される)、新たに調製した原料安定剤溶液を使用した。これにより安定剤の望ましい最終濃度が便利に達成できることが保証される(例えば、50ppmBF3、または例えば20ppmBF3)。安定剤溶液は、硬化性エチルシアノアクリレート(ECA)を含む。したがって、表1に記載されている組成物について報告されている硬化性エチルシアノアクリレート(ECA)の総量には、純粋なECA溶液と安定剤溶液の両方からの寄与が含まれている。例として、実施例1(Ex1)の組成物は、50重量ppmの最終濃度で安定剤、BF3を含み、前記BF3含有量は、安定剤溶液の添加により調整/決定される。したがって、例の組成物1(Ex1)は合計89.495wt%ECA(最初は純粋なECA溶液からのECA、さらに1000ppmBF3を含む原料安定剤溶液からのECA)を含み、ここでwt%は総重量に基づいている。
【0136】
<組成物のテスト結果>
BDO鎖延長剤に基づくTPUに焦点を当てたシアノアクリレート組成物の強化剤を特定するための初期テストについて、配合表(表1)で特定されている比較例1、2、3、CEx1~3を参照されたい。ただし、
図1および
図3からわかるように、試験により、BDOベースのTPU(TPU-B1)を含む組成物が室温(25℃)で保管されている場合--エンドユース適用では最も便利な保管温度であるが--、このようなシアノアクリレート組成物の粘度は、42日にわたって7日間隔で測定すると、「0日目」(T=0)の初期粘度から低下する。実際、
図1に示すように、TPU-B1を含む組成物比較例1(CEx1)の場合、粘度は28日以内に開始時の粘度の50%を超えて著しく低下することが発見され、42日までに粘度のさらなる低下が記録された。いかなる理論にも縛られることを望まないが、室温(25℃)での保存後のシアノアクリレート組成物に見られるこの挙動は、時間の経過に伴うBDOベースのTPU成分内の水素結合の継続的な破壊に起因する可能性があると推測される。粘度は、ブルックフィールドLVT4粘度計を使用して測定した。
図1に示すBDOベースのTPU(TPU-B1)を含む組成物(CEx1)の経時的な粘度の著しい低下は、T剥離性能の同時低下とさらに関連していることが実証された(
図2)。
【0137】
図2からわかるように、T剥離性能の低下は、比較例の組成物(CEx1)のサンプルで42日間(7か月以上)にわたって7日ごとにテストしたときに測定され、その間、硬化性シアノアクリレート組成物BDOベースのTPU(TPU-B1)を含むTPUを25℃で保存しました。
図2に報告されている結果は、90℃で24時間硬化した後に得られたものである。T剥離試験は、ASTM-710/ISO11339に従って実施されました。テスト前の4℃での保存では、T剥離性能の長期的な低下は見られなかった(
図2)。
【0138】
しかし、驚くべきことに、シアノアクリレート組成物を強化するために使用されるTPUの鎖延長剤成分として、BDO(構造2)をHQEE(構造1)で置き換えると、室温(25℃)で30日間の保存後にシアノアクリレート組成物が「粘度安定性」を示すことがわかった。粘度安定性は、測定期間の開始時と終了時に実質的に変化しない粘度を指す。
図3は、両方ともHQEEベースのTPU(それぞれTPU-A2とTPU-A3)を含む実施例組成物2(Ex2)と実施例組成物3(Ex3)、およびどちらの比較例もBDOベースのTPU(それぞれTPU-C1とTPU-C2)を含む比較例組成物2(CEx2)と比較例組成物3(CEx3)について、室温(25℃)で30日間保管した後、25℃で記録された粘度測定の結果を示している。
図3から明らかなように、BDOベースのTPU(CEx2、CEx3)を含む組成物は、T=0で最初に記録された粘度と比較して、30日の試験期間にわたって粘度の低下を示すが、HQEEベースのTPUを含む組成物(Ex2、Ex3)のどちらも、粘度安定性を示している。
図3で報告されたテスト結果に続いて、BDOベースのTPUを含むさまざまなシアノアクリレート組成物(CEx4~CEx10;表1を参照)を調製し、HQEEベースのTPUを含む実施例組成物(Ex1からEx3。表1を参照)と対比して、各構成の「1ヶ月比」値を記録する(
図4)することで、粘度安定性をテストして比較した。「1ヶ月比」とは、配合後室温で30日間保管(25℃保管、T=30日)後に測定された粘度と初期粘度(T=0;25℃で新たに配合された組成物を使用して測定)に対する比率を指す。結果を表2にまとめる。
【0139】
【0140】
驚くべきことに、HQEEベースのTPU(Ex1、Ex2、Ex3)を含む組成物のみが長期の粘度安定性を示す。つまり、「1ヶ月比」が1から5%以内である。これらの結果は、
図4にグラフ的に要約されている。
【0141】
BDOに加えて、1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、1,12-ドデカンジオールなどの鎖延長剤がTPUの合成における置換鎖延長剤として試験され、その後TPUはシアノアクリレート組成物の強化剤として試験された。しかしながら、前記鎖延長剤を用いて合成されたTPUのいずれも、シアノアクリレートと配合された場合、室温での長期間(30日以上)の粘度安定性を特徴とする強化シアノアクリレート組成物をもたらさなかった。むしろ、そのような各場合において、粘度は時間とともに着実に低下し、対応して、T=0での初期T剥離強度と比較して、T剥離強度(N/mm)が減少した。したがって、長期的な粘度性能が低いというこれらの発見、およびBDOベースのTPUを含む比較例の組成物に関する結果(
図3および4に示されるように)は、HQEEを、その後シアノアクリレート組成物に配合されるTPUの鎖延長剤として使用することによって達成される顕著な技術的効果(粘度の安定化)を強調している。表1に報告されたものと同等の実施例組成物が、INHANCE(登録商標)マイクロ微粒子無しで調製された(微粒子の質量は0.50重量%のエチルシアノアクリレートで置き換えられている)。この任意成分の除去は、同等の実施例組成物の「1ヶ月比」の値に悪影響を及ぼさないことがわかった。同様に、任意成分のUH-1250 INHANCE(登録商標)微粒子成分を、0.50wt%のUH-1080 INHANCE(登録商標)微粒子で置き換えても、同等の組成物の「1ヶ月比」の値に悪影響がなかった。
【0142】
図5に示すように、実施例組成物は、90℃で24時間硬化した後、6N/mmから10N/mmのオーダーで強いT剥離性能を示す。これは、比較例の組成物について見られる最小値と最大値のマージンの範囲内である。したがって、HQEEベースのTPUを有するシアノアクリレート組成物の配合は、組成物のT剥離性能に悪影響を及ぼさない。実施例組成物Ex2およびEx3ならびに比較例組成物CEx2およびCEx3のさらなる特性解析により、前記組成物が「加速硬化」にかけられると、室温(25℃)7日間の硬化と比較して著しく向上したT剥離性能を有することが明らかになった。前記「加速硬化」は、25℃で3日間硬化した後、90℃で1日間硬化することからなる(
図6)。T剥離試験は、ASTM-710/ISO 11339に従って実施された。
図6に見られるT剥離性能の向上は示唆に富み、初期の強力な接着力に加えて、接着力が時間とともに増加する可能性が高いことを示している。これは、たとえば接着剤の用途において、望ましい特性である。したがって、実施例の組成物、および本発明による組成物は、室温で長期間の粘度安定性を示し、硬化したときに強いT剥離性能を示すシアノアクリレート組成物である。
【0143】
本明細書で本発明に関して使用される場合、「含む/含んでいる」という用語および「有する/含んでいる」という用語は、述べられた特徴、整数、ステップまたは成分の存在を指定するために使用されるが、その他の特徴、整数、ステップ、成分、またはそれらの群の1つまたは複数の存在または追加を排除するものではない。
【0144】
明確のため別の実施形態の文脈で説明されている本発明の特定の特徴(複数)を、単一の実施形態に組み合わせて提供することもできることが理解されるであろう。逆に、簡潔にするために単一の実施形態の文脈で説明されている本発明の様々な特徴を、別個に提供し、または任意の適切なサブコンビネーションで提供することもできる。