(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】無機コーティング層を含む電気化学素子用の分離膜及びこの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/446 20210101AFI20230825BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230825BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20230825BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230825BHJP
C08J 9/42 20060101ALI20230825BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20230825BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20230825BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20230825BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20230825BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20230825BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20230825BHJP
【FI】
H01M50/446
H01M10/0566
H01M10/0569
H01M10/052
C08J9/42 CES
C08L27/16
C08K3/00
H01M50/426
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/449
(21)【出願番号】P 2020555182
(86)(22)【出願日】2019-06-12
(86)【国際出願番号】 KR2019007107
(87)【国際公開番号】W WO2019240501
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】10-2018-0067486
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジュ-ソン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ア-ヨン・イ
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-033913(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0123106(US,A1)
【文献】特開2017-135111(JP,A)
【文献】特開2016-184467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性基材及び前記多孔性基材の少なくとも一面に形成された無機コーティング層を含み、
前記無機コーティング層は、バインダー樹脂及び無機物粒子を含み、
前記バインダー樹脂は、トリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレンからなる群より選択された少なくとも一種以上の重合単位が含まれたポリフッ化ビニリデン系樹脂であり、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、前記重合単位による置換率が5mol%~30mol%であり、
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、溶融点が145℃以下であり、結晶化温度が120℃以下であり、結晶化度が30%~45%であり、
前記無機コーティング層は、
溶媒、無機物粒子及びバインダー樹脂を含む無機コーティング層形成用のスラリーを前記多孔性基材の上に塗布し、相対湿度40%~80%の条件で乾燥し、前記乾燥によって前記バインダー樹脂が相分離することで形成されたものであり、前記溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドより選択されたいずれかである、電気化学素子用の分離膜。
【請求項2】
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、下記の数式1による電解液吸収率が30%以下である、請求項1に記載の電気化学素子用の分離膜。
[数1]
電解液吸収率(%)=[(浸漬後の高分子樹脂の重さ-最初の高分子樹脂の重さ)/(最初の高分子樹脂の重さ)]×100
【請求項3】
前記電解液は、有機溶媒及びリチウム塩を含み、前記有機溶媒は、有機溶媒100重量%に対してエステル系化合物を30重量%以上含む、請求項2に記載の電気化学素子用の分離膜。
【請求項4】
前記無機コーティング層中のバインダー樹脂と無機物粒子とは、重量比で15:85~50:50の割合で含まれる、請求項1から3のいずれか一項に記載の電気化学素子用の分離膜。
【請求項5】
前記無機コーティング層の平均気孔サイズが、20nm~800nmである、請求項1から4のいずれか一項に記載の電気化学素子用の分離膜。
【請求項6】
電極組立体及び電解液を含み、
前記電極組立体は、正極、負極及び前記正極及と負極との間に挟まれた分離膜を含み、前記分離膜は、請求項1から5のいずれか一項に記載のものである、電気化学素子。
【請求項7】
前記電解液は、有機溶媒及びリチウム塩を含み、前記有機溶媒は、有機溶媒100重量%に対してエステル系化合物を30重量%以上含む、請求項6に記載の電気化学素子。
【請求項8】
多孔性基材及び前記多孔性基材の少なくとも一面に形成された無機コーティング層を含む分離膜の製造方法であって、
前記方法は、
(S1)溶媒、無機物粒子及びバインダー樹脂を含む無機コーティング層形成用のスラリーを準備する段階と、
(S2)前記スラリーを多孔性基材の上に塗布し、相対湿度40%~80%の条件で乾燥する段階と、を含み、
前記無機コーティング層は、バインダー樹脂及び無機物粒子を含み、
前記バインダー樹脂は、トリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレンより選択された一種以上の重合単位を含むポリフッ化ビニリデン系樹脂であり、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、前記重合単位による置換率が15mol%~30mol%であり、
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、溶融点が145℃以下であり、結晶化温度が120℃以下であり、結晶化度が30%~45%であり、
前記溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドより選択されたいずれかである、電気化学素子用の分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用の分離膜に関し、前記電気化学素子は一次電池または二次電池であり得、前記二次電池は、リチウムイオン二次電池を含む。
【0002】
本出願は、2018年6月12日出願の韓国特許出願第10-2018-0067486号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン二次電池として代表される非水系二次電池は、ノートブックPC、携帯電話、デジタルカメラ、カムコーダーなどの携帯電子機器の電源として広く使用されている。また、最近、これら電池は、高いエネルギー密度を有するという特徴から、自動車などへの適用も検討されている。
【0004】
携帯用電子機器の小型化・軽量化に伴い、非水系二次電池の外装が簡素化しつつある。当初には、外装としてステンレス材の電池缶が使用されていたが、アルミニウム缶製の外装が開発され、現在に至ってはアルミニウムラミネートパック製のソフトパック外装も開発されている。アルミニウムラミネート製のソフトパック外装の場合、外装が柔軟であることから、充放電に伴って電極と分離膜との間に隙間が形成される場合があり、サイクル寿命が劣るという技術的課題がある。この課題を解決するという観点で、電極と分離膜とを接着する技術が重要となり、多くの技術的提案が行われている。
【0005】
その一つの提案として、従来の分離膜であるポリオレフィン微多孔膜にポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる多孔質層(以下、接着性多孔質層ともいう。)を成形した分離膜を使用する技術が知られている。接着性多孔質層は、電解液を含んだ状態で電極に重ねて熱プレスすれば、電極と分離膜とを良好に接合させることができ、接着剤として機能できる。そのため、ソフトパック電池のサイクル寿命を改善することができる。
【0006】
また、従来の金属缶外装を用いて電池を製作する場合、電極と分離膜とを重ね合わせた状態で巻回して電池素子を製作し、この素子を電解液と共に金属缶外装内に封入することで電池を製作する。一方、従来の分離膜を用いてソフトパック電池を製作する場合には、前記金属缶外装の電池のようにして電池素子を製作し、これを電解液と共にソフトパック外装内に封入し、最後に熱プレス工程を加えて、電池を製作する。したがって、前記のような接着性多孔質層を有する分離膜を用いる場合、前記金属缶外装の電池のようにして電池素子を製作することができるため、従来の金属缶外装電池の製造工程を大幅に変更しなくてもよいという長所がある。
【0007】
上述の背景から、ポリオレフィン微多孔膜に接着性多孔質層を積層した分離膜は、過去から多様な技術が提案されてきた。例えば、十分な接着性の確保とイオン透過性との両立という観点で、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層の多孔構造と厚さに着眼し、新しい技術が提案されつつある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、接着性を確保すると共に、低い抵抗特性及び低い電解液吸収率を有する分離膜及びこれを含む電池を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記特性を有する分離膜の製造方法及び前記電池の製造方法を提供することを他の目的とする。
【0010】
なお、本発明の目的及び長所は、特許請求の範囲に示される手段及びその組合せによって実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を達成するために、電気化学素子用の分離膜を提供する。
【0012】
本発明の第1面は、このような分離膜に関し、前記分離膜は、多孔性基材及び前記多孔性基材の少なくとも一面に形成された無機コーティング層を含み、
前記無機コーティング層はバインダー樹脂及び無機物粒子を含み、前記バインダー樹脂は、トリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレンからなる群より選択された少なくとも一種以上の重合単位が含まれたポリフッ化ビニリデン系高分子樹脂である。
【0013】
本発明の第2面は、前記第1面において、前記ポリフッ化ビニリデン系高分子樹脂は、前記重合単位による置換率が、5mol%~30mol%であることである。
【0014】
本発明の第3面は、前述の面のいずれか一面において、前記ポリフッ化ビニリデン系高分子樹脂は、前記重合単位による置換率が、5mol%~15mol%であることである。
【0015】
本発明の第4面は、前述の面のいずれか一面において、前記ポリフッ化ビニリデン系高分子樹脂は、溶融点(Melting point,Tm)が145℃以下である。
【0016】
本発明の第5面は、前述の面のいずれか一面において、前記ポリフッ化ビニリデン系高分子樹脂は、下記の数式1による電解液吸収率が30%以下である。
【0017】
[数1]
電解液吸収率(%)=[(浸漬後の高分子樹脂の重さ-最初の高分子樹脂の重さ)/最初の高分子樹脂の重さ]×100
【0018】
本発明の第6面は、前述の面のいずれか一面において、前記電解液有機溶媒及びリチウム塩を含み、前記有機溶媒は、有機溶媒100重量%に対してエステル系化合物を30重量%以上含む。
【0019】
本発明の前記第7面は、前述の面のいずれか一面において、前記無機コーティング層中のバインダー樹脂と無機物粒子とは、重量比で15:85~50:50の割合で含まれる。
【0020】
本発明の第8面は、前述の面のいずれか一面において、前記無機コーティング層の平均気孔サイズが20nm~800nmである。
【0021】
本発明の第9面は、電気化学素子に関し、前記電気化学素子は、電極組立体及び電解液を含み、前記電極組立体は、正極、負極及び前記正極及と負極との間に挟まれた分離膜を含み、前記分離膜は、前述の面のいずれか一面に記載されたものである。
【0022】
本発明の第10面は、前述の面のいずれか一面において、前記電解液は、有機溶媒及びリチウム塩を含み、前記有機溶媒は、有機溶媒100重量%に対してエステル系化合物を30重量%以上含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明による分離膜及びこれを含む電気化学素子は、分離膜と電極との接着力が優秀であり、低い抵抗特性を有し、バインダー樹脂が低い電解液吸収率を示す。
【0024】
本明細書に添付される次の図面は、本発明の望ましい実施例を例示するものであり、発明の詳細な説明とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。なお、本明細書に添付の図面における要素の形状、大きさ、縮尺または比率などは、より明確な説明を強調するために誇張され得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例1で製造された分離膜の無機コーティング層の表面のSEMイメージである。
【
図2】比較例1で製造された分離膜の無機コーティング層の表面のSEMイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付された図面を参照して本発明の望ましい実施例を詳しく説明する。これに先立ち、本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。したがって、本明細書に基材された実施例及び図面に示された構成は、本発明のもっとも望ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを代弁するものではないため、本出願の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0027】
なお、明細書の全体にかけて、ある部分が、ある構成要素を「含む」とするとき、これは特に反する記載がない限り、他の構成要素を除くことではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0028】
本明細書の全体にかけて使われる用語、「約」、「実質的に」などは、言及された意味に、固有の製造及び物質許容誤差が提示されるとき、その数値またはその数値に近接した意味として使われ、本願の理解を助けるために正確または絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に用いることを防止するために使われる。
【0029】
本明細書の全体において、「A及び/またはB」の記載は、「AまたはB、もしくはこれら全部」を意味する。
【0030】
以下の詳細な説明において用いられた特定の用語は、便宜のためのものであって制限的なものではない。「右」、「左」、「上面」及び「下面」の単語は、参照される図面における方向を示す。「内側へ」及び「外側へ」の単語は各々、指定された装置、システム及びその部材の幾何学的中心に向けるか、それから離れる方向を示す。「前方」、「後方」、「上方」、「下方」及びその関連単語及び語句は、参照される図面における位置及び方位を示し、制限的なものではない。このような用語は、上記例示の単語、その派生語及び類似な意味の単語を含む。
【0031】
本発明は、電気化学素子用の分離膜及びこれを含む電気化学素子に関する。本発明において、前記電気化学素子は、電気化学的反応によって化学的エネルギーを電気的エネルギーに変換する装置であって、一次電池及び二次電池(Secondary Battery)を含む概念であり、前記二次電池は、充放電可能であり、リチウムイオン電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素電池などを包括する概念である。
【0032】
1.分離膜
(分離膜の構造)本発明による分離膜は複数の気孔を含む多孔性基材及び前記多孔性基材の少なくとも一表面上に形成された無機コーティング層を含む。
【0033】
本発明の一実施様態において、前記分離膜は、厚さが5μm~20μmであり得、前記範囲内で適切に調節可能である。例えば、18μm以下または15μm以下であり得る。また、前記分離膜は、通気度が約38%~60%の範囲のものである。
【0034】
本明細書で使用される用語「通気度(permeability)」とは、分離膜及び多孔性基材などの通気度測定対象物に対し、100ccの空気が透過する時間を意味し、その単位として秒(second)/100ccを用いることができ、透過度と相互交換して使用可能であり、通常ガーレー(Gurley)値などで表される。本発明の具体的な一実施様態において、前記通気度は、JIS P8117に準じて測定され得る。また、厚さT1を有する対象物から測定された空気透過度P1は、数式:P2=(P1×20)/T1によって、対象物の厚さを20μmにした場合における透過度P2に換算できる。
【0035】
一方、本発明において、前記分離膜は、電解液吸収率が0%超過30%以下である。電解液吸収率が高ければ、無機コーティング層に含まれたバインダー樹脂の膨張によって気孔が閉塞し、分離膜のイオン伝導度が減少し得る。そこで、分離膜内のバインダー樹脂の電解液吸収率の上限を30%に制御する必要がある。前記範囲内で電解液吸収率は、10%以上、15%以上または20%以上であり得、または、前記範囲内で27%以下、25%以下であり得る。
【0036】
本発明において、前記電解液吸収率(%)は、分離膜を電解液に72時間浸漬した後の重さ変化率(数式1)を意味する。
[数1]
電解液吸収率(%)=[(浸漬後の高分子樹脂の重さ-最初の高分子樹脂の重さ)/最初の高分子樹脂の重さ]×100
【0037】
本発明の一実施様態において、前記電解液吸収率の測定時、前記電解液は有機溶媒を含み、前記有機溶媒は、有機溶媒100重量%に対してエステル系化合物を30重量%以上含む。例えば、前記電解液としてエチレンカーボネート(ethylene carbonate,EC)とプロピルプロピオネート(propyl propionate,PP)とが、EC:PP=30:70(体積比)で混合されたものを用い得る。前記電解液吸収率の測定時、使用される電解液は、リチウム塩が含まれないか、または選択的にリチウム塩を含み得る。本発明の一実施様態において、前記電解液としてEC:PP=30:70(体積比)で混合された有機溶媒に、LiPF6のようなリチウム塩が1mol濃度で含まれ得る。
【0038】
1)多孔性基材
前記多孔性基材は、負極と正極との電気的接触を遮断しながらイオンを通過させるイオン伝導性バリアー(porous ion-conducting barrier)であって、内部に複数の気孔が形成された基材を意味する。前記気孔は、相互連結された構造となっており、基材の一面から他面へ気体または液体が通過可能なものである。
【0039】
このような多孔性基材を構成する材料は、電気絶縁性を有する有機材料または無機材料のいずれも使用可能である。特に、基材にシャットダウン機能を付与する観点では、基材の構成材料として熱可塑性樹脂を用いることが望ましい。ここで、シャットダウン機能とは、電池温度が高くなった場合に、熱可塑性樹脂が溶解されて多孔性基材の穴を閉塞することでイオンの移動を遮断し、電池の熱暴走を防止する機能をいう。熱可塑性樹脂としては、融点200℃未満の熱可塑性樹脂が適切であり、特に、ポリオレフィンが望ましい。
【0040】
また、それに加え、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルファイド、ポリエチレンナフタレートのような高分子樹脂のうち少なくともいずれか一種をさらに含み得る。前記多孔性基材は、不織布または多孔性高分子フィルムまたはこれらの二つ以上の積層物などがあるが、特にこれに限定されない。
【0041】
具体的には、前記多孔性高分子基材は、下記a)~e)のいずれか一つである。
a)高分子樹脂を溶融/押出して成膜した多孔性フィルム
b)前記a)の多孔性フィルムが二層以上積層された多層膜
c)高分子樹脂を溶融/紡糸して得たフィラメントを集積して製造された不織布ウェブ
d)前記b)の不織布ウェブが二層以上積層された多層膜
e)前記a)~d)のうち二つ以上を含む多層構造の多孔性複合膜
【0042】
本発明において、前記多孔性基材は、厚さが3μm~12μmまたは5μm~12μmであることが望ましい。この厚さが前記数値に及ばない場合には、伝導性バリアーの機能が十分ではない一方、前記範囲を超過しすぎる場合(即ち、厚すぎる場合)、分離膜の抵抗が過度に増加し得る。
【0043】
本発明の一実施様態において、前記ポリオレフィンの重量平均分子量は、10万~500万であることが望ましい。重量平均分子量が、10万より小さければ、十分な力学物性を確保しにくい場合がある。また、500万より大きければ、シャットダウン特性が劣る場合や、成形が困難となる場合がある。また、前記多孔性基材の突刺し強度は、製造の歩留まりを向上させるという観点で、300gf以上であり得る。多孔性基材の突刺し強度は、Kato tech KES-G5ハンディー圧縮試験機を用いて針先端の曲率半径0.5mm、突刺し速度2mm/secの条件で突刺しテストを行って測定する最大突刺し荷重(gf)を示す。
【0044】
本発明の具体的な一実施様態において、前記多孔性高分子基材は、電気化学素子に使われる平面上の多孔性高分子基材であれば、いずれも使用可能であり、例えば、高いイオン透過度と機械的強度を有し、気孔直径は、通常10nm~100nmであり、厚さは、通常5μm~12μmである絶縁性薄膜を使用し得る。
【0045】
2)無機コーティング層
A.無機コーティング層の構造
本発明において、前記分離膜は、前記多孔性基材の一表面に形成された無機コーティング層を含んで構成されたものである。前記無機コーティング層は、バインダー樹脂及び無機物粒子を含む混合物を含み、前記バインダー樹脂は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVdF系高分子樹脂)を含む。前記無機コーティング層は、層の内部に無機物粒子が密集した状態で充填されており、無機物粒子同士の間に形成されたインタースティシャルボリュームから起因した複数の微細気孔を有する。これらの微細気孔が相互連結された構造になっており、一面から他面へ気体または液体が通過可能な多孔性構造を示す。本発明の一実施様態において、前記無機物粒子は、バインダー樹脂によって表面の全部または少なくとも一部がコーティングされており、前記バインダー樹脂を介して面結着及び/または点結着している。本発明の一実施様態において、前記無機コーティング層中のバインダー樹脂と無機物粒子とは、重量比で15:85~50:50の割合で含まれる。言い換えれば、前記無機コーティング層において、バインダー樹脂と無機物粒子との和100重量%に対し、バインダー樹脂は15重量%~50重量%の範囲で含まれ得、前記範囲内で20重量%以上、30重量%以上または40重量%以上であり得、また、前記範囲内で40重量%以下、30重量%以下または20重量%以下であり得る。例えば、前記バインダー樹脂は、バインダー樹脂と無機物粒子との和100重量%に対し、15重量%~25重量%であり得る。
【0046】
本発明の一実施様態において、前記無機コーティング層の平均気孔サイズは、20nm~1,000nmである。前記範囲内で、前記無機コーティング層の平均気孔サイズは、800nm以下または500nm以下であり得、これとは独立的にまたはこれと共に20nm以上、50nm以上または100nm以上であり得る。例えば、前記無機コーティング層の平均気孔サイズは、20nm~800nmである。前記気孔サイズは、SEMイメージによる形状分析から算出可能である。気孔サイズが前記範囲よりも小さい場合、コーティング層内のバインダー樹脂の膨張によって気孔が閉塞しやすく、気孔サイズが前記範囲を外れる場合には絶縁膜として機能しにくく、二次電池の製造後に自己放電特性が悪化するという問題がある。
【0047】
本発明の一実施様態において、前記無機コーティング層の気孔度は、30%~80%であることが望ましい。気孔度が30%以上であれば、リチウムイオンの透過性の面で有利であり、気孔度が80%以下であれば、表面開口率が高くなくて、分離膜と電極との接着力を確保するのに望ましい。
【0048】
一方、本発明において、気孔度及び気孔サイズは、窒素などの吸着気体を用いてBEL JAPAN社のBELSORP(BET装備)を用いて測定するか、または水銀圧入法(Mercury intrusion porosimetry)、キャピラリーフローポロシメトリー法(capillary flow porosimetry)のような方法で測定することができる。または、本発明の一実施様態において、得られたコーティング層の厚さと重さを測定し、これをコーティング層の理論密度から気孔度を計算することができる。
【0049】
前記無機コーティング層の厚さは、多孔性基材の片面で1.5μm~5.0μmであることが望ましい。前記厚さは、望ましくは1.5μm以上であり得、前記数値範囲内で電極との接着力が優秀となり、その結果、電池のセル強度が増加する。一方、前記厚さが5.0μm以下であれば、電池のサイクル特性及び抵抗特性の面で有利となる。
【0050】
B.無機コーティング層の素材
B1.バインダー樹脂
本発明の一実施様態において、前記バインダー樹脂は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVdF系高分子樹脂)を含み、望ましくは、前記バインダー樹脂100重量%に対して前記PVdF系高分子樹脂が80重量%以上または90重量%以上である。前記PVdF系高分子樹脂は、重量平均分子量が60万以下、望ましくは40万以下である。重量平均分子量が60万以下である場合には、柔軟性が増加して接着力の改善に有利である。ここで、PVdF系高分子樹脂の重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC法)によって求めることができる。前記分子量の単位はg/molで表す。
【0051】
本発明の一実施様態において、前記PVdF系高分子樹脂は、フッ化ビニリデンの単独重合体(即ち、ポリフッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとの共重合体及びこれらの混合物のいずれか一つ以上を含み得る。本発明の一実施様態において、前記モノマーとしては、例えば、フッ素化した単量体及び/または塩素系単量体などを使うことができる。前記フッ素化した単量体の非制限的な例には、フッ化ビニル;トリフルオロエチレン(TrFE);クロロフルオロエチレン(CTFE);1,2-ジフルオロエチレン;テトラフルオロエチレン(TFE);ヘキサフルオロプロピレン(HFP);パーフルオロ(メチルビニル)エーテル(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニル)エーテル(PEVE)及びパーフルオロ(プロピルビニル)エーテル(PPVE)などのパーフルオロ(アルキルビニル)エーテル;パーフルオロ(1,3-ジオキソール);及びパーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)(PDD)などが挙げられ、これらのいずれか一つ以上が含まれ得る。
【0052】
前記PVdF系高分子樹脂は、145℃以下、望ましくは140℃以下の溶融温度(melting point,Tm)、30%~45%の結晶化度、120℃以下の結晶化温度の少なくともいずれか一つを満たすものである。
【0053】
本発明の一実施様態において、前記PVDF系高分子樹脂は、加熱接着時、接着力の面でTmが145℃以下、望ましくは140℃以下であり得る。また、抵抗特性を改善するという面では、結晶化度が30%以上であることが有利であるが、結晶化度が高すぎる場合には接着力が低下する。したがって、結晶化度は45%以下に制御することが望ましい。また、結晶化温度(Crystallization temperature,Tc)が高い場合には、結晶化度が上昇してα結晶化する傾向があるので、結晶化温度は120℃以下であることが望ましい。
【0054】
本発明において、前記結晶化温度は、示差走査熱量計(differential scanning calorimetry,DSC)によって測定することができ、結晶化時において最も高いエンタルピーを示す時点での温度(ピーク温度)を基準にする。また、前記結晶化度はDSCで実測された溶融エンタルピー(ΔH)値を理論上の完全結晶(結晶化度100%)の溶融エンタルピー(ΔH)値で割って%で表す。ここで、理論的な完全結晶の溶融エンタルピー値は、知られている高分子においてはポリマーハンドブック(polymer handbook)から探して使うことができ、知られていない物質や新たに合成された物質は2点以上の結晶化度を延長して求める外挿法によって計算することができる。
【0055】
本発明の一実施様態において、前記PVDF系高分子樹脂は、溶融温度が145℃以下、結晶化度が30%~45%であり、結晶化温度が120℃以下である。前記範囲を満す場合には、抵抗特性を低下させないように十分な結晶化度を示しながらも弱い結晶化形態(主にβ結晶を含む)を示すので、無機コーティング層の柔軟性が改善され、その結果、電極と分離膜との接着力と共に低い抵抗特性を確保することができる。
【0056】
本発明の一実施様態において、前記PVdF系高分子樹脂は、フッ化ビニリデン単位と他の共重合可能なモノマーとの共重合体を含むことが望ましく、前記PVdF系高分子樹脂100重量%中、このような共重合体が80重量%以上、90重量%以上または99重量%以上含まれることが望ましい。本発明の一実施様態において、前記共重合体は、共重合単位としてフッ化ビニリデンを70mol%以上含み、前記モノマーによる置換率が5mol%~30mol%である。一実施様態において、前記置換率の範囲は、8mol%以上、10mol%以上、15mol%以上または18mol%以上であり得、25mol%以下、20mol%以下、または17mol%以下、または15mol%以下であり得る。例えば、前記置換率は10mol%~25mol%である。
【0057】
このように比較的分子量が低い前記PVdF系高分子樹脂は、望ましくは乳化重合あるいは懸濁重合、特に望ましくは、懸濁重合によって得ることができる。
【0058】
本発明の一実施様態において、前記PVdF系高分子樹脂は、フッ化ビニリデン単位と他の共重合可能なモノマーとの共重合体を80重量%以上、または90重量%以上、または99重量%以上含み、前記モノマーは、トリフルオロエチレン(TrFE)とテトラフルオロエチレン(TFE)とを共に含み、前記モノマーによる置換率は、5mol%以上30mol%以下である。一実施様態において、前記置換率の範囲は、8mol%以上、10mol%以上、15mol%以上または18mol%以上であり得、25mol%以下、20mol%以下、または17mol%以下、または15mol%以下であり得る。例えば、前記置換率は、10mol%~25mol%である。
【0059】
即ち、本発明の一実施様態において、前記PVDF系高分子樹脂は、PVDF-TrFE、PVDF-TFEまたはこれらを共に含み得、TrFE及び/またはTFEによる置換率の範囲は、前述の内容を参考し得る。
【0060】
特に、このようなトリフルオロエチレン(TrFE)及びテトラフルオロエチレン(TFE)は、クロロフルオロエチレン(CTFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)に比べて、低い立体障害(steric hindrance)によって、PVdFに置き換えられるとしてもPVdF鎖が効果的に密接でき、高分子鎖の間の空間(free volume)を許容しないことから、電解液吸収率を低めて前述の範囲に制御することができる。言い換えれば、高分子鎖の間に空間が発生しにくいことから電解液吸収率を低めることができるため、即ち、高分子樹脂が過度に膨張しないので、多孔性コーティング層の気孔が高分子樹脂の膨張によって閉塞することが防止される。したがって、分離膜内の気孔度が適切な水準に維持される効果を奏する。このように分離膜の表面に多孔性コーティング層が形成されても、この気孔度が適切な水準に維持されるので、分離膜の低抵抗特性を改善することができる。
【0061】
本発明において、前記モノマーに置き換えられたPVdF系バインダー樹脂は、Tmが145℃以下に制御できるため、接着力改善に有利である。また、このようなPVDF系バインダー樹脂は、結晶化温度が低く、β結晶構造を含んでいるので、所望の接着力発現に有利であり、分離膜の低抵抗特性の具現に有利な結晶化度を示す。また、トリフルオロエチレン(TrFE)及び/またはテトラフルオロエチレン(TFE)置換のPVdF系バインダー樹脂を使う場合には、電解液吸収率(%)を30%以下に制御することができ、分離膜内の気孔度を適切に維持することができるので、望ましい。
【0062】
また、本発明の具体的な一実施様態によれば、前記無機コーティング層は、バインダー樹脂として(メタ)アクリル系高分子樹脂をさらに含み得る。前記(メタ)アクリル系重合体は、単量体として(メタ)アクリル酸エステルを含むものであり、この非制限的な例としては、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、n-オキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレートをモノマーとして含む(メタ)アクリル系重合体が挙げられる。前記(メタ)アクリル系重合体は、バインダー樹脂総100重量%に対し、20重量%以下の範囲で含まれ得る。
【0063】
また、本発明の一実施様態において、前記無機コーティング層は、無機コーティング層100重量%に対して1重量~3重量%の範囲で分散剤及び/または増粘剤のような添加剤をさらに含み得る。本発明の一実施様態において、前記添加剤は、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrolidone,PVP)、ポリビニルアルコール(Polybinylalcohol,PVA)、ヒドロキシエチルセルロース(Hydroxy ethyl cellulose,HEC)、ヒドロシプロピルセルロース(hydroxy propyl cellulose,HPC)、エチルヒドロキシエチルセルロース(ethylhydroxy ethyl cellulose,EHEC)、メチルセルロース(methyl cellulose,MC)、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose,CMC)、ヒドロキシアルキルメチルセルロース(hydroxyalkyl methyl cellulose)、シアノエチレンポリビニルアルコールのうち適切なものを一つ以上選択して使い得る。
【0064】
B2.無機物粒子
本発明の具体的な一実施様態において、前記無機物粒子は、電気化学的に安定すれば特に制限されない。即ち、本発明において使用可能な無機物粒子は、適用される電気化学素子の作動電圧範囲(例えば、Li/Li+基準で0~5V)で酸化及び/または還元反応が起こらないものであれば、特に制限されない。特に、無機物粒子として誘電率が高い無機物粒子を使う場合、液体電解質内の電解質塩、例えば、リチウム塩の解離度の増加に寄与して電解液のイオン電導度を向上させることができる。
【0065】
前述の理由から、前記無機物粒子は、誘電率定数が5以上、望ましくは10以上である高誘電率無機物粒子を含むことが望ましい。誘電率定数が5以上である無機物粒子の比制限的な例には、BaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3(PZT)、Pb1-xLaxZr1-yTiyO3(PLZT,0<x<1,0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3(PMN-PT)、ハフニア(HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZrO2、SiO2、Y2O3、Al2O3、SiC及びTiO2またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0066】
また、無機物粒子としては、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子、即ち、リチウム元素を含むものの、リチウムを貯蔵せず、リチウムイオンを移動させる機能を有する無機物粒子を使うことができる。リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子の比制限的な例には、リチウムホスフェート(Li3PO4)、リチウムチタンホスフェート(LixTiy(PO4)3、0<x<2、0<y<3)、リチウムアルミニウムチタンホスフェート(LixAlyTiz(PO4)3,0<x<2、0<y<1、0<z<3)、14Li2O-9Al2O3-38TiO2-39P2O5などのような(LiAlTiP)xOy系ガラス(0<x<4、0<y<13)、リチウムランタンチタネート(LixLayTiO3、0<x<2、0<y<3)、Li3.25Ge0.25P0.75S4などのようなリチウムゲルマニウムチオホスフェート(LixGeyPzSw、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、Li3Nなどのようなリチウムニトライド(LixNy、0<x<4、0<y<2)、Li3PO4-Li2S-SiS2などのようなSiS2系ガラス(LixSiySz、0<x<3、0<y<2、0<z<4)、LiI-Li2S-P2S5などのようなP2S5系ガラス(LixPySz、0<x<3、0<y<3、0<z<7)またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0067】
また、無機物粒子の平均粒径は特に制限されないが、均一な厚さのコーティング層の形成及び適切な孔隙率のために、0.1μm~1.5μmの範囲であることが望ましい。0.1μm未満である場合、分散性が低下し得、1.5μmを超過する場合、形成されるコーティング層の厚さが増加することがある。
【0068】
2.分離膜の製造方法
本発明によるバインダー樹脂及び無機物粒子を含む無機コーティング層形成用スラリーを多孔性基材の上に塗布し、前記バインダー樹脂を固化させることで、無機コーティング層を多孔性基材の上に一体に形成する方法によって製造することができる。
【0069】
具体的には、まず、バインダー樹脂を溶媒に溶解し、高分子溶液を準備した後、前記高分子溶液に無機物粒子を投入し混合して無機コーティング層形成用のスラリーを準備する。次に、これを多孔性基材の上に塗布し、相対湿度約40%~80%の条件下で所定時間放置し、バインダー樹脂を固化(乾燥)させる。この際、バインダー樹脂の相分離が誘導される。相分離過程で溶媒が無機コーティング層の表面部へ移動して溶媒の移動に従ってバインダー樹脂が無機コーティング層の表面部に移動しながら無機コーティング層の表面部にバインダー樹脂の含有量が高くなる。無機コーティング層の表面部の下部は、無機物粒子の間のインタースティシャルボリュームに起因した気孔が形成されながら無機コーティング層が多孔性特性を有するようになる。本発明の一実施様態において、バインダー樹脂として重合単位でTrFE及び/またはTFEが所定の割合で含まれたPVdF系共重合体が使われる場合、このようなバインダー樹脂は、PVdF単独重合体や、重合単位としてHFP、CTFEを含むPVdF系共重合体に比べて相分離速度が遅い。したがって、乾燥工程中にバインダー樹脂が過度に無機コーティング層の表面部へ移動した結果、無機物粒子が集積した部分とバインダー樹脂とが分離し、無機コーティング層の最上部に所定の厚さを有するバインダー樹脂層がさらに形成されるような過度な相分離が防止される。本発明の一実施様態において、前記無機コーティング層は、表面部へ進むほどバインダー樹脂の含量が増加し得るが、無機コーティング層の厚さ方向に対して全体的に無機物粒子とバインダー樹脂とが混合した形態を示し、無機コーティング層の下部及び上部に至るまで無機物が粒子間のインタースティシャルボリュームから起因した気孔構造が維持される。これによって、無機コーティング層の抵抗が低い水準に維持される。また、前記無機コーティング層の製造方法は、前述のバインダー樹脂の遅い相分離速度によって工程の制御が容易である。
【0070】
本発明の発明者は、PVdF共重合体が、PVdF単独重合体に比べて置換基の割合が高いほど加湿乾燥時における相分離挙動が遅いことを見出し、このような特徴を用いる場合、無機コーティング層の厚さ方向へバインダー分布を制御することができるという点に着眼した。共重合体の場合にも、特に、ヘキサフルオロエチレンに比べて置換え後にも密集度を維持できるトリフルオロエチレン(TrFE)及びテトラフルオロテチレン(TFE)のような重合単位を用い、これらの置換率を特定範囲に制御することで、乾燥時における相分離速度をさらに容易に制御することができる。即ち、相分離速度が低下するため、無機コーティング層に使われたバインダー樹脂が、加湿乾燥時、無機コーティング層の表面へ移動して表面に集中的に分布して界面抵抗が増加することを防止し、バインダー樹脂が無機コーティング層内に均一な分布で維持されるようにすることで、バインダー含量が少ないとしても多孔性基材と無機コーティング層との接着力を強化することができる。
【0071】
その後、得られた分離膜を乾燥することで無機コーティング層を多孔性基材の上に一体に形成することができる。
【0072】
前記スラリーは、溶媒としてPVdF系樹脂を溶解できる成分を使い得る。このような溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどの極性アミド溶媒を適切に選択して使うことができる。
【0073】
前記スラリー塗布は、メイヤーバーコーター、ダイコーター、リバースロールコーター、グラビアコーターなどの従来の塗工方式を適用することができる。前記無機コーティング層を多孔性基材の両面に形成する場合、塗工液を片面ずつ塗工してから加湿相分離及び乾燥することも可能であるが、塗工液を両面同時に多孔性基材の上に塗工してから、加湿相分離及び乾燥する方が、生産性の観点で望ましい。
【0074】
また、本発明の分離膜は、無機コーティング層と多孔性基材とを別に製作し、これらシートを重ね合わせて、熱圧着や接着剤によって複合化する方法などによっても製造することができる。無機コーティング層を独立したシートとして得る方法としては、前記スラリーを剥離シートの上に塗布し、上述の方法によって無機コーティング層を形成して無機コーティング層のみを剥離する方法などが挙げられる。
【0075】
3.前記分離膜を含む電極組立体
一方、本発明は、前記分離膜を含む二次電池を提供する。前記電池は、負極、正極及び前記負極と正極との間に介在された分離膜を含み、前記分離膜は、前述の特徴を備えた低抵抗分離膜である。
【0076】
本発明において、正極は、正極集電体及び前記集電体の少なくとも一表面に、正極活物質、導電材及びバインダー樹脂を含む正極活物質層を備える。前記正極活物質は、リチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4,LiMnO2など)、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)などの層状化合物や一つまたはそれ以上の遷移金属に置き換えられた化合物;化学式Li1+xMn2-xO4(ここで、x=0~0.33である。)、LiMnO3、LiMn2O3、LiMnO2などのリチウムマンガン酸化物;リチウム銅酸化物(Li2CuO2);LiV3O8、LiFe3O4、V2O5、Cu2V2O7などのバナジウム酸化物;化学式LiNi1-xMxO2(ここで、M=Co,Mn,Al,Cu,Fe,Mg,BまたはGaであり、x=0.01~0.3である。)で表されるNiサイト型リチウムニッケル酸化物;化学式LiMn2-xMxO2(ここで、Mは、Co、Ni、Fe、Cr、ZnまたはTaであり、x=0.01~0.1である。)またはLi2Mn3MO8(ここで、Mは、Fe、Co、Ni、CuまたはZnである。)で表されるリチウムマンガン複合酸化物;化学式のLiの一部がアルカリ土類金属イオンに置き換えられたLiMn2O4;ジスルフィド化合物;Fe2(MoO4)3のうち一種または二種以上の混合物を含み得る。
【0077】
本発明において、前記負極は、負極集電体及び前記集電体の少なくとも一表面に、負極活物質、導電材及びバインダー樹脂を含む負極活物質層を備える。前記負極は、負極活物質として、リチウム金属酸化物、難黒鉛化炭素、黒鉛系炭素などの炭素;LixFe2O3(0≦x≦1)、LixWO2(0≦x≦1)、SnxMe1-xMe’yOz(Me:Mn,Fe,Pb,Ge;Me’:Al,B,P,Si,周期表の1族,2族,3族元素,ハロゲン;0<x≦1;1≦y≦3;1≦z≦8)などの金属複合酸化物;リチウム金属;リチウム合金;ケイ素系合金;すず系合金;SnO,SnO2,PbO,PbO2,Pb2O3,Pb3O4,Sb2O3,Sb2O4,Sb2O5,GeO,GeO2,Bi2O3,Bi2O4及びBi2O5などの金属酸化物;ポリアセチレンなどの導電性高分子;Li-Co-Ni系材料;チタン酸化物より選択された一種または二種以上の混合物を含み得る。
【0078】
本発明の具体的な一実施様態において、前記導電材は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維または金属繊維、金属粉末、導電性ウイスカー、導電金属酸化物、活性カーボン(activated carbon)及びポリフェニレン誘導体からなる群より選択されたいずれか一種またはこれらの二種以上の混合物であり得る。より具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛、スーパーp(super-p)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、デンカ(denka)ブラック、アルミニウム粉末、ニッケル粉末、酸化亜鉛、チタン酸カリウム及び酸化チタンからなる群より選択された一種またはこれらの二種以上の混合物であり得る。
【0079】
前記集電体は、当該電池に化学的変化を誘発せず、かつ高い導電性を有するものであれば、特に制限されない。例えば、ステンレススチール、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレススチールの表面に、カーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどを用いることができる。
【0080】
前記バインダー樹脂としては、当業界で電極に通常使用する高分子を使うことができる。このようなバインダー樹脂の非制限的な例には、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP,polyvinylidene fluoride-co-hexafluoropropylene)、ビニリデンフルオライド-トリクロロエチレン共重合体(polyvinylidene fluoride-co-trichloroethylene)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチルヘキシルアクリレート(polyetylhexyl acrylate)、ポリブチルアクリレート(polybutylacrylate)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、ポリビニルアセテート(polyvinylacetate)、エチレン酢酸ビニル共重合体(polyethylene-co-vinyl acetate)、ポリエチレンオキサイド(polyethylene oxide)、ポリアリレート(polyarylate)、セルロースアセテート(cellulose acetate)、セルロースアセテートブチレート(cellulose acetate butyrate)、セルロースアセテートプロピオネート(celluloseacetate propionate)、シアノエチルプルラン(cyanoethylpullulan)、シアノエチルポリビニルアルコール(cyanoethylpolyvinylalcohol)、シアノエチルセルロース(cyanoethylcellulose)、シアノエチルスクロース(cyanoethylsucrose)、プルラン(pullulan)、カルボキシルメチルセルロース(carboxyl methyl cellulose)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
前記のように設けた電極組立体は、適切なケースに装入し、電解液を注入して電池を製造することができる。
【0082】
本発明において、前記電解液は、A+B-のような構造の塩であって、A+は、Li+、Na+、K+のようなアルカリ金属陽イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含み、B-は、PF6
-、BF4
-、Cl-、Br-、I-、ClO4
-、AsF6
-、CH3CO2
-、CF3SO3
-、N(CF3SO2)2
-、C(CF2SO2)3
-のような陰イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含む塩が、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ-ブチロラクトン、エステル系化合物及びこれらより選択された一種以上の混合物を含む有機溶媒に溶解または解離したものがあるが、これに限定されることではない。
【0083】
一方、本発明の具体的な一実施様態において、有機溶媒はエステル系化合物を含み、望ましくは、有機溶媒100重量%に対してエステル系化合物が30重量%以上、50重量%以上、60重量%以上または65重量%以上である。
【0084】
本発明の具体的な一実施様態において、前記エステル系化合物は、イソブチルプロピオネート、イソアミルプロピオネート、イソブチルブチレート、イソプロピルプロピオネート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、メチルブチレート、エチルブチレート、プロピルブチレート及びブチルブチレートからなる群より選択される一種以上を含む。
【0085】
このようにエステル系化合物を使う場合には、高いイオン伝導度を発揮し、高出力自動車用の二次電池に使う観点で非常に有利である。但し、このようなエステル系化合物の場合には、PVdF-HFPのようなPVdF系共重合体バインダー樹脂に対する電解液吸収率が高くて無機コーティング層の気孔度を低下させることがある。しかし、前述のように、本発明の分離膜は、無機コーティング層のバインダー樹脂としてPVdF-TrFE及び/またはPVdF-TFEを含み、PVdF-TrFE及びPVdF-TFEは、エステル系化合物に対する吸収率を30%以下に維持することができる。これによって、無機コーティング層のバインダー樹脂としてPVdF-TrFE及び/またはPVdF-TFEを使い、電解液にエステル系化合物を使う場合、イオン伝導度特性を極大化することができ、電気自動車などの高出力装置用電池を製造するのに非常に有利である。
【0086】
また、本発明は、前記電極組立体を含む電池を単位電池として含む電池モジュール、前記電池モジュールを含む電池パック、及び前記電池パックを電源として含むデバイスを提供する。前記デバイスの具体的な例には、電気モーターによって動力を受けて動くパワーツール(power tool);電気自動車(Electric Vehicle,EV)、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle,HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle,PHEV)などを含む電気車;電気自転車(E-bike)、電気スクーター(E-scooter)を含む電気二輪車;電気ゴルフカート(electric golf cart);電力貯蔵用システムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が後述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0088】
実施例1
アセトン400gにPVdF-TFE(Daikin社、VT-475、Tm:138℃、吸収率:24%、TFE 14mol%)18g及び分散剤としてシアノエチレンポリビニルアルコール(cyanoethylene polyvinylalcohol)2gを溶解して高分子溶液を製造した。前記PVdF-TFEの結晶化温度は117℃であり、結晶化度は37.7%であった。ここにAl
2O
3(日本軽金属、LS235)80gを投入し、ボールミル(ball mill)方式で分散させて無機コーティング層用スラリーを準備した。多孔性基材(Toray社、B12PA1)の上にディップコーティング(dip coating)方法で前記スラリーをコーティングして、相対湿度(RH)60%水準で加湿相分離を誘導した。無機コーティング層は、前記基材の両面に総8μmの厚さに形成された。
図1は、実施例1で得られた分離膜の無機コーティング層の表面の電子顕微鏡写真である。実施例1の分離膜は、
図1のように適切な水準の相分離が誘導されたものであって、バインダー樹脂が無機コーティング層内に分布しており、無機コーティング層の表面部へ過度に移動しないことを確認することができた。また、電子顕微鏡イメージの分析によれば、無機コーティング層の平均気孔サイズは20nm~800nmの範囲に当たることが確認された。
【0089】
本実施例で得られた分離膜の電気抵抗は、約0.9Ωに測定された。また、剥離力は65gf/25mmで良好であった。
【0090】
実施例2
PVdF-TrFE(Sigma-Aldrich社、Solvene 200、Tm:131℃、電解液吸収率:27%、TrFE 20mol%)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で分離膜を製造した。前記PVdF-TrFEの結晶化温度は119℃であり、結晶化度は32.4%であった。得られた分離膜の抵抗は0.92Ωであり、剥離力は60gf/25mmであった。
【0091】
実施例3
実施例1で使われたPVdF-TFE(Daikin社、VT-475)9gと実施例2で使われたPVdF-TrFE(Sigma-Aldrich社、Solvene 200)9gとを混合したことを除いては、実施例1と同様の方法で分離膜を製造した。得られた分離膜の抵抗は0.91Ωであり、剥離力は63gf/25mmであった。
【0092】
比較例1
バインダーをPVdF-HFP(Solvay Solef 21510、Tm:132℃、電解液吸収率:110%、HFP 13mol)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で分離膜を製造した。前記PVdF-HFPの結晶化温度は134℃であり、結晶化度は25.4%であった。
図2は、比較例1で得られた分離膜の無機コーティング層の表面の電子顕微鏡写真である。比較例1の分離膜は、バインダー樹脂成分が多量で無機コーティング層の表面部へ過度に移動し、表面にバインダー樹脂の濃度の高い層が形成されたことを確認することができた。
【0093】
得られた分離膜に対して電気抵抗を測定した結果、約1.1Ωであった。剥離力は71gf/25mmであった。
【0094】
比較例2
バインダーをPVdF-HFP(Arkema、Kynar 2500、Tm:125、電解液吸収率:145%、HFP 16mol%)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で分離膜を製造した。前記PVdF-HFPの結晶化温度は132℃であり、結晶化度は23.7%であった。得られた分離膜に対して電気抵抗を測定した結果、約1.2Ωに測定された。剥離力は76gf/25mmで良好であった。
【0095】
比較例3
バインダーをPVdF-HFP(Kureha、8200、Tm:155℃、電解液吸収率:29%、HFP 2mol%)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で分離膜を製造した。前記PVdF-HFPの結晶化温度は139℃であり、結晶化度は28.1%であった。得られた分離膜の電気抵抗を測定した結果、約0.94Ωであり、剥離力は45gf/25mmであった。
【0096】
電解液吸収率
電解液吸収率(%)は、各分離膜を電解液に72時間浸漬した後、数式1による重さ変化率を測定して確認した。
[数1]
電解液吸収率(%)=[(浸漬後の高分子樹脂の重さ-最初の高分子樹脂の重さ)/最初の高分子樹脂の重さ]×100
【0097】
電解液吸収率の測定時、前記電解液は、エチレンカーボネート(EC)とプロピルプロピオネート(PP)とを30:70の割合(体積比)で混合した有機溶媒を使用した。
【0098】
抵抗の測定方法
各実施例及び比較例の分離膜に対し、次のような方法で抵抗を測定した。エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びプロピルプロピオネートを25:10:65の割合(体積比)で混合した溶媒に、LiPF6を1モーラー(M)で溶解して電解液を準備した。各分離膜を前記電解液に含浸した後、マルチプローブ(Multi probe)分析装置(Hioki社)を使って電気抵抗を測定した。
【0099】
剥離力(接着強度)の評価方法
各実施例または比較例(例えば、実施例1)で得た分離膜サンプルを100mm(長さ)×25mm(幅)の大きさで切断し、各々二つの試験片を準備した。二つの試験片を各々積層した後、100℃で10秒間加熱プレスして得た積層物を接着強度測定機(LLOYD Instrument、LF plus)に固定し、上部の分離膜試験片を25℃で25mm/minの速度で180゜の角度に剥離し、この時の強度を測定した。
【0100】
【0101】
実施例及び比較例で得られた分離膜に対する電気抵抗及び剥離力テスト結果を前記表1に示した。これによれば、本発明の実施例による分離膜は、電気抵抗が低いと共に、適切な剥離力を示した。一方、比較例1及び2による分離膜は、良好な剥離力を示すが、電気抵抗が高く示され、比較例3の分離膜は、電気抵抗は本発明の実施例による分離膜と類似の数値を示したが、剥離力特性が低下した。