(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】スカイビング加工装置およびスカイビング加工方法
(51)【国際特許分類】
B23B 1/00 20060101AFI20230828BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20230828BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20230828BHJP
B23K 26/361 20140101ALI20230828BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
B23B1/00 Z
B23B27/14 A
B23B27/20
B23K26/361
C23C16/27
(21)【出願番号】P 2021545183
(86)(22)【出願日】2020-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2020031049
(87)【国際公開番号】W WO2021049257
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019167321
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
(72)【発明者】
【氏名】糸魚川 文広
(72)【発明者】
【氏名】森 龍三
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-135596(JP,A)
【文献】特開2019-042755(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152396(WO,A1)
【文献】特開2016-203286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00,27/14,27/20;
B23K 26/361;
C23C 16/27,16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被削材
が取り付けられた主軸を回転させる回転機構と、
被削材の回転軸線に対して斜めに配置した切削工具の直線切れ刃を被削材に切り込ませた状態で、当該回転軸線に直交する切削方向成分を含む方向に送る送り機構と、
ダイヤモンドコーティング層からなる直線切れ刃にレーザ光の筒状照射領域を走査するレーザ光照射部と、を備え、切削工具の直線切れ刃における被削材との接点が当該直線切れ刃の一端側から他端側に向かう方向に移動して被削材表面を加工するスカイビング加工装置であって、
被削材の表面には、侵入型固溶原子が存在する固溶体層が形成されており、
前記送り機構は、加工時には切削工具を被削材に対して移動し、レーザ研削時には切削工具をレーザ光に対して移動する、
ことを特徴とするスカイビング加工装置。
【請求項2】
固溶体層の深さは100ミクロン以下である、
ことを特徴とする請求項
1に記載のスカイビング加工装置。
【請求項3】
被削材の回転軸線に対して斜めに配置した切削工具の直線切れ刃を被削材に切り込ませた状態で、当該回転軸線に直交する切削方向成分を含む方向に送ることで、切削工具の直線切れ刃における被削材との接点が当該直線切れ刃の一端側から他端側に向かう方向に移動して被削材表面を加工するスカイビング加工方法であって、被削材の表面には、侵入型固溶原子が存在する固溶体層が形成されており、
固溶体層の深さは100ミクロン以下であり、切削工具の直線切れ刃は、ダイヤモンドコーティング層にレーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査することで形成されている、
ことを特徴とするスカイビング加工方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年9月13日に出願された日本国特許出願2019-167321号に基づくものであって、その優先権の利益を主張するものであり、その特許出願の全ての内容が、参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は、スカイビング加工装置およびスカイビング加工方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ハードスカイビングと呼ばれる加工法が知られている。この加工法では、被削材の回転軸線に対して斜めに配置した切れ刃を被削材に切り込ませた状態で、当該回転軸線に直交する切削方向成分を含む方向に送り、被削材表面を加工する(たとえば特許文献1)。スカイビング加工によれば、斜めに傾けた直線切れ刃で円筒面の長手旋削を行うことで、工具送り方向の幾何学的粗さ(理論粗さ)を小さくでき、良好な仕上げ面が得られる。また切削工具を切削方向にも移動させることで、切れ刃における被削材表面との接触位置が、切れ刃一端側から他端側に向けて移動する。これにより摩耗を切れ刃全体に分散させることができ、工具寿命を延長できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハードスカイビング加工は、高精度な円筒面が要求される焼入れ鋼製シャフトの仕上げに利用することが提案されている。この仕上げ加工では、切削工具として、焼入れ鋼の切削加工に適しているとされるCBN(Cubic Boron Nitride/立方晶窒化硼素)工具が用いられる。しかしながらCBN工具は比較的高価である上に、単結晶ダイヤモンド工具に比べると切れ刃の鋭利さは劣り、鏡面切削と呼べるほど十分に良好な仕上げ面粗さは得られない。
【0006】
一方で、単結晶ダイヤモンド工具は、鏡面切削を行える鋭利な切れ刃をもつが、CBN工具よりもさらに高価であり、また切れ刃のサイズを大きくできないため、加工能率は低い。ハードスカイビング加工の特徴の一つは、傾けた直線切れ刃で円筒面を高能率に旋削できることにあるが、単結晶ダイヤモンドでは切れ刃を長く形成できないため、ハードスカイビング加工の利点を活かしきれない。
【0007】
本開示はこうした状況に鑑みてなされており、高能率なスカイビング加工を実現するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示のある態様のスカイビング加工装置は、被削材を取り付けられた主軸を回転させる回転機構と、被削材の回転軸線に対して斜めに配置した切れ刃を被削材に切り込ませた状態で、当該回転軸線に直交する切削方向成分を含む方向に送る送り機構とを備える。切削工具の切れ刃は、ダイヤモンドコーティング層にレーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査することで形成されている。
【0009】
本開示の別の態様は、被削材の回転軸線に対して斜めに配置した切れ刃を被削材に切り込ませた状態で、当該回転軸線に直交する切削方向成分を含む方向に送ることで被削材表面を加工するスカイビング加工方法であって、切削工具の切れ刃は、ダイヤモンドコーティング層にレーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査することで形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態のスカイビング加工装置の概略構成を示す図である。
【
図2】パルスレーザ研削を説明するための図である。
【
図3】ダイヤモンドコーティングしたチップ母材をパルスレーザ研削する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、実施形態のスカイビング加工装置1の概略構成を示す。
図1に示すスカイビング加工装置1は、円筒形状や円錐形状などの被削材6に対して切削工具4の切れ刃4aを切り込ませてハードスカイビング加工する切削装置である。
図1に示すスカイビング加工装置1は、円筒形状の被削材6である焼入れ鋼製シャフトの仕上げ加工に利用されてよい。
【0012】
スカイビング加工装置1はベッド5上に、被削材6を回転可能に支持する主軸台2および心押し台3と、切削工具4を支持して被削材6に対して相対移動させる送り機構8とを備える。主軸台2の内部には、被削材6を取り付けられた主軸2aを回転させる回転機構9が設けられる。送り機構8は切削工具4を、X軸、Y軸、Z軸方向に移動させる。
図1においてX軸方向は、水平方向であって且つ被削材6の回転軸線に直交する切込み方向、Y軸方向は、鉛直方向であって且つ被削材6の回転軸線に直交する切削方向、Z軸方向は、被削材6の回転軸線に平行な方向である。
【0013】
制御部10は、回転機構9を制御して主軸2aを回転させるとともに、主軸2aの回転中に送り機構8を制御して、切削工具4の切れ刃4aを被削材6に切り込ませる。回転機構9および送り機構8は、それぞれモータなどの駆動部を有して構成され、制御部10は、それぞれ駆動部への供給電力を調整して、回転機構9および送り機構8のそれぞれの動きを制御する。スカイビング加工時、送り機構8は、被削材6の回転軸線に対して斜めに配置した切れ刃4aを被削材6に切り込ませた状態で、当該回転軸線に直交する切削方向成分を含む方向に送る。
【0014】
スカイビング加工で使用する切れ刃4aは直線切れ刃であって、被削材6の接平面(YZ平面)において被削材6の回転軸線(Z軸方向)に対して斜めに配置される。送り機構8は、切れ刃4aを被削材6に切り込ませた状態で、接平面において当該回転軸線に直交する切削方向成分(Y軸方向成分)を含む送り方向に送ることで、被削材6の表面を加工する。このとき送り機構8は切れ刃4aを、切れ刃4aの直線刃先に平行な方向に対して交差する方向、つまり切れ刃4aの直線刃先に平行な方向に対して直交する成分を含む送り方向に送る。送り機構8は切れ刃4aの送り工程において、回転軸線に対する直線刃先の角度を一定に維持してよい。回転軸線に対して斜めに配置した切れ刃4aが切削方向に送られることで、直線切れ刃4aの被削材6に対する接点(切削点)が移動し、被削材6の直線切れ刃4aにより切削される部分(点)も回転軸線に沿って移動する。
【0015】
実施形態の切削工具4の切れ刃4aは、ダイヤモンドコーティングしたチップ母材を、パルスレーザ研削することで形成される。
図2は、パルスレーザ研削を説明するための図である。パルスレーザ研削は、レーザ光20の光軸方向に延び且つ加工可能なエネルギをもつ円筒状の照射領域を被加工部材21の表面に重ねて、その光軸と交差する方向へ走査することで、円筒状の照射領域が通過した被加工部材21の表面領域を除去する加工法である。パルスレーザ研削は、被加工部材21の表面に、光軸方向および走査方向に平行な面を成形する。たとえば特開2016-159318号公報は、パルスレーザ研削を実施するレーザ加工装置を開示する。
【0016】
図3は、ダイヤモンドコーティングしたチップ母材4bをパルスレーザ研削する工程を示す。レーザ光照射部22は、レーザ光を発生するレーザ発振器、レーザ光の出力を調整する減衰器、レーザ光の径を調整するためのビームエキスパンダなどを備え、これらを経たレーザ光が光学レンズ経由で出力されるように構成される。たとえばレーザ発振器は、Nd:YAGパルスレーザ光を発生してよい。
【0017】
略矩形のチップ母材4bの一辺側には、ダイヤモンドがコーティングされている。ダイヤモンドコーティング層は、たとえばプラズマ化学気相蒸着法(CVD)により、チップ母材4bの一辺体にわたって形成される。このダイヤモンドコーティング層に、レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査することで、長く鋭利な切れ刃4aが形成される。この工程ではレーザ光照射部22が固定され、チップ母材4bのダイヤモンドコーティング層にレーザ光20の集束箇所を含む筒状照射領域を当てながら、チップ母材4bを一定方向に動かすことで、チップ母材4bの一辺に鋭利な直線切れ刃4aを形成する。
【0018】
ダイヤモンドコーティング層は、単結晶ダイヤモンドやCBN等に比べて、レーザ光の高いエネルギー吸収率を有するため、パルスレーザ研削により高能率に切れ刃を形成できる。また欠陥が少なく高硬度であるため、鋭利な切れ刃先端を低コストで形成しやすい利点もある。実施形態のスカイビング加工装置1は、パルスレーザにより鋭利に加工されたダイヤモンドの切れ刃4aをもつ切削工具4を利用する。
【0019】
図4は、被削材6の断面を示す。被削材6は、窒素原子が侵入型固溶原子として存在する固溶体層6aを表面に有する。被削材6は鉄系材料であり、実施形態では鋼材とするが、他の種類の金属であってもよい。実施形態のスカイビング加工装置1は、被削材6の表面の固溶体層6aを、ダイヤモンドコーティング層をパルスレーザ研削して形成した直線切れ刃4aを用いて加工する。
【0020】
固溶体層6aは、被削材6の表面に、窒素原子を拡散固溶させることで形成される。固溶体層6aは、たとえば窒素原子を含む希薄気体内に被削材6を配置し、その希薄気体に電子ビームを照射して励起することで形成されてよい。なお固溶体層6aの深さは100ミクロン以下に制限される。
【0021】
固溶体層6aは、鉄の窒化物を実質的に含まないことが好ましい。固溶体層6aが鉄の窒化物を含むと、切削時にダイヤモンドの切れ刃4aが欠損する可能性がある。そこで鉄の窒化物を含まないように固溶体層6aを形成することで、切削工具4の寿命を長くできるとともに、切削後における表面粗さを小さくできる。
【0022】
固溶体層6aは、特開2018-135596号公報に開示されるアトム窒化法によって形成されてよい。アトム窒化法は、窒素原子を含むプラズマを用いて、窒素原子を被削材6の表面から侵入、拡散させる方法である。アトム窒化法により形成される固溶体層6aは、鉄の窒化物を含まないため、好適な形成方法である。
【0023】
実施例のハードスカイビング加工によると、安価なダイヤモンドコーティング工具である切削工具4を利用するとともに、被削材6の表面に固溶体層6aを形成することで、切れ刃4aの炭素原子が被削材6に侵入することによる工具摩耗を回避できる。これにより鋭利な長い切れ刃4aを、長い切削距離にわたって維持でき、焼入れ綱を含む鉄系材料の鏡面加工を、安価且つ高能率に実現できる。なお
図4には、被削材6の表面に窒化処理により形成した固溶体層6aを示したが、固溶体層6aは、NiPめっきによりリン原子を拡散固溶させることで形成されてもよい。
【0024】
図1に戻り、スカイビング加工装置1は、レーザ光照射部7を備えてよい。レーザ光照射部7は、切れ刃形成に用いるレーザ光照射部22(
図3参照)と同じ構成を有してよい。スカイビング加工装置1がレーザ光照射部7を備えることで、切削工具4の切れ刃4aが摩耗したときに、切削工具4を取り外すことなく、スカイビング加工装置1上でレーザ光照射部7によるパルスレーザ研削を行うことで、切れ刃4aを研ぎ直すことができる。
【0025】
スカイビング加工装置1がレーザ光照射部7を搭載すると、ハードスカイビング加工時に切削工具4を被削材6に対して移動する送り機構8を、レーザ光照射部7によるパルスレーザ研削時にも利用して、切削工具4をレーザ光20に対して移動でき、設備のトータルコストを低減できる。また制御部10は、スカイビング加工装置1上で形成された切れ刃4aの位置を正確に把握できるため、工具切れ刃位置の不正確さに起因する固溶体層6aの取り代の増減をなくすことができる。固溶体層6aの深さは100ミクロン以下であって取り代を大きくできないため、切れ刃4aの研ぎ直しをスカイビング加工装置1上でできることは、浅い固溶体層6aの鏡面切削に有利である。なお切れ刃4aをスカイビング加工装置1上で研ぎ直せることで、一度切削工具4を取り外して研ぎ直す場合と比較すると、取り付け誤差に起因する加工誤差を低減できる。
【0026】
以上、本開示を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0027】
本開示の態様の概要は、次の通りである。本開示のある態様のスカイビング加工装置は、被削材を取り付けられた主軸を回転させる回転機構と、被削材の回転軸線に対して斜めに配置した切れ刃を被削材に切り込ませた状態で、当該回転軸線に直交する切削方向成分を含む方向に送る送り機構とを備える。切削工具の切れ刃は、ダイヤモンドコーティング層にレーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査することで形成されている。
【0028】
この態様によると、ダイヤモンドコーティング層をパルスレーザ研削することで形成した切れ刃を利用することで、高能率なスカイビング加工を実現できる。
【0029】
被削材の表面には、侵入型固溶原子が存在する固溶体層が形成されることが好ましい。被削材の表面に固溶体層を形成することで、切れ刃の寿命を長くできる。
【0030】
スカイビング加工装置は、切削工具の切れ刃にレーザ光の筒状照射領域を走査するレーザ光照射部をさらに備えてよい。スカイビング加工装置がレーザ光照射部を備えることで、切削工具をスカイビング加工装置から取り外すことなく、切れ刃の研ぎ直しを行うことができる。
【0031】
本開示の別の態様は、被削材の回転軸線に対して斜めに配置した切れ刃を被削材に切り込ませた状態で、当該回転軸線に直交する切削方向成分を含む方向に送ることで被削材表面を加工するスカイビング加工方法であって、切削工具の切れ刃は、ダイヤモンドコーティング層にレーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査することで形成されている。
【0032】
この態様によると、ダイヤモンドコーティング層をパルスレーザ研削することで形成した切れ刃を利用することで、高能率なスカイビング加工を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本開示は、スカイビング加工に利用できる。
【符号の説明】
【0034】
1・・・スカイビング加工装置、4・・・切削工具、4a・・・切れ刃、6・・・被削材、6a・・・固溶体層、7・・・レーザ光照射部、8・・・送り機構、9・・・回転機構、10・・・制御部。