(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】カリウムイオン二次電池用の正極材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20230828BHJP
C01C 3/12 20060101ALI20230828BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230828BHJP
H01M 4/1397 20100101ALI20230828BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20230828BHJP
H01M 10/054 20100101ALN20230828BHJP
【FI】
H01M4/58
C01C3/12
H01M4/62 Z
H01M4/1397
H01M4/136
H01M10/054
(21)【出願番号】P 2019212968
(22)【出願日】2019-11-26
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2018220738
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 「カリウムイオン電池およびカリウムイオンキャパシタの基本技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法 第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐司
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 耐
(72)【発明者】
【氏名】武内 正隆
(72)【発明者】
【氏名】深堀 大河
(72)【発明者】
【氏名】保坂 知宙
(72)【発明者】
【氏名】久保田 圭
(72)【発明者】
【氏名】駒場 慎一
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-106911(JP,A)
【文献】特表2015-515081(JP,A)
【文献】特開2012-046399(JP,A)
【文献】特開2015-079685(JP,A)
【文献】A novel K-ion battery: hexacyanoferrate(II) / graphite cell,Journal of Materials Chemistry A,2017年,vol.5,PP4325-4330
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 -4/62
C01C 3/12
H01M 10/054
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表わされ、
粉末X線回折によって測定される(211)面のピーク強度I
211に対する(200)面のピーク強度I
200の比I
200/I
211が0.85以上であり、且つ
単斜晶構造である、プルシアンブルー類似体の粉末
を含む、カリウムイオン二次電池用の正極材料。
(A
1
zA
2
wK
1-(z+2w))
xMn[Fe(CN)
6]
y・nH
2O (1)
(式(1)中、A
1はNH
4、LiおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、A
2はMg、CaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、xは1~2であり、yは0.8~1であり、nは0~3であり、zは0~0.2であり、wは0~0.1であり、且つz+2wは0.2以下である。)
【請求項2】
z+2wが0より大きい、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
wが0である、請求項1または2に記載の正極材料。
【請求項4】
プルシアンブルー類似体の粉末は、体積基準累積粒度分布における50%粒子径が2~50μmである、請求項1~3のいずれかひとつに記載の正極材料。
【請求項5】
導電助剤をさらに含む、請求項1~4のいずれかひとつに記載の正極材料。
【請求項6】
バインダをさらに含む、請求項1~5のいずれかひとつに記載の正極材料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかひとつに記載の正極材料を含む、カリウムイオン二次電池の製造用のペースト。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかひとつに記載の正極材料を含む電極層を有する、カリウムイオン二次電池用の正極シート。
【請求項9】
請求項8に記載のカリウムイオン二次電池用正極シートを有する、カリウムイオン二次電池。
【請求項10】
液媒体中で、式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体とKイオン供給源とを接触させて、式(1)で表されるプルシアンブルー類似体を得ることを含む、カリウムイオン二次電池用の正極材料の製造方法。
A
1
αA
2
βMn[Fe(CN)
6]
γ・mH
2O (2)
(式(2)中、A
1はNH
4、LiおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、A
2はMg、CaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、α+2βは1~2であり、αは0~2であり、βは0~1であり、γは0.8~1であり、且つmは0~3である。)
(A
1
zA
2
wK
1-(z+2w))
xMn[Fe(CN)
6]
y・nH
2O (1)
(式(1)中、A
1はNH
4、LiおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、A
2はMg、CaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、xは1~2であり、yは0.8~1であり、nは0~3であり、zは0~0.2であり、wは0~0.1であり、且つz+2wは0.2以下である。)
【請求項11】
Kイオン供給源がカリウムのハロゲン化物である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
液媒体中で、Mnイオン供給源と式(3)で表される構造を有する錯体とを接触させて、式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体を得ることをさらに有する。請求項10または11に記載の製造方法。
A
1
aA
2
b[Fe(CN)
6] (3)
(式(3)中、A
1はNH
4、LiおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、A
2はMg、CaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、aは0~4であり、bは0~2であり、且つa+2bは4である。)
【請求項13】
Mnイオン供給源と式(3)で表される構造を有する錯体との接触をキレート剤の存在下に行う、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、グリシン、及びそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一つを含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
Mnイオン供給源がマンガンのハロゲン化物である、請求項12~14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カリウムイオン二次電池用の正極材料及びその製造方法に関する。より詳細に、本発明は、プルシアンブルー類似体の粉末を含むカリウムイオン二次電池用の正極材料及びその製造方法、ならびに該正極材料を含有する電極層を有する正極シート、ならびに該正極シートを具備するカリウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
カリウムイオン二次電池は、資源的に豊富で低コストが期待されるカリウムを用いるという利点から、リチウムイオン二次電池に続く次世代蓄電池技術として研究開発されている。カリウムイオン二次電池用の正極材料として、ヘキサシアノ金属酸塩が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1は、式(I)で表されるヘキサシアノ金属酸塩の粒子を電池の正極に用いることを開示している。
A’n’AmM1xM2y(CN)6 (I)
式(I)中、Aは、アルカリカチオン及びアルカリ土類のカチオンからなる群から選択され、A’は、アルカリカチオン及びアルカリ土類のカチオンからなる群から選択され、M1は、2価の状態の金属及び3価の状態の金属からなる群から選択される金属であり、M2は、2価の状態の金属及び3価の状態の金属からなる群から選択される金属であり、mは、0.5~2の範囲の値であり、xは、0.5~1.5の範囲の値であり、yは、0.5~1.5の範囲の値であり、n’は、0~2の範囲の値である。
【0004】
特許文献2は、式(II)で表され、菱面体晶構造のヘキサシアノ鉄酸の遷移金属塩からなる電池用正極材を開示している。
AxMn[Fe(CN)6]y・zH2O (II)
式(II)中、Aはアルカリカチオン及びアルカリ土類のカチオンからなる群から選択され、xは1~2であり、yは0.5~1であり、zは0~3.5であり、Mn及びFeは、2価と3価において同じ酸化/還元のポテンシャルを有する。
【0005】
特許文献3は、式(III)で表される化合物を含むカリウムイオン電池用正極活物質を開示している。
KmFexMny(CN)6・zH2O (III)
式(III)中、mは0.5以上2以下の数を表し、xは0.5以上1.5以下の数を表し 、yは0.5以上1.5以下の数を表し、zは0または正数を表す。特許文献3は、式(III)で表される化合物の具体例として、K2FeMn(CN)6・zH2O、K2Fe0.5Mn1.5(CN)6・zH2O、K2Fe1.5Mn0.5(CN)6・zH2O、K0.5FeMn(CN)6・zH2O、K1.0FeMn(CN)6・zH2O、K1.5FeMn(CN)6・zH2O、K1.88Fe1.00Mn1.08(CN)6・0.62H2Oなどを挙げている。
【0006】
特許文献4は、K2(MnFe)(CN)6・2.6H2O、K0.3(MnFe)(CN)6・2.6H2O、及びK0.14Mn1.43[Fe(CN)6]・6H2Oで表されるプルシアンブルー類似体からなる電極材料をリチウムイオン二次電池に用いることを開示している。
【0007】
特許文献5は、式(IV)で表わされる、プルシアンブルー類似体からなるリチウムイオン二次電池用の正極活物質を開示している。
K1-x(MnyCu1-y)1+0.5x[Fe(CN)6]・nH2O (IV)
式(IV)中、xは0~1であり、yは0超過1未満であり、nは5~6である。
【0008】
非特許文献1は、K1.75Mn[FeII(CN)6]0.93・0.16H2Oからなる正極材料を用いて得られるカリウムイオン二次電池を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2015-515081号公報
【文献】国際公開第2014/118854号
【文献】特開2018-106911号公報
【文献】特開2012-46399号公報
【文献】特開2011-246303号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Bie et al. "A novel K-ion battery: hexacyanoferrate(II)/graphite cell", Journal of Materials Chemistry A 2017, 5, 4325-4330.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、初期放電容量及び初期効率に優れたカリウムイオン二次電池を得ることができる正極材料及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の態様を包含する。
〔1〕式(1)で表わされ、粉末X線回折によって測定される(211)面のピーク強度I211に対する(200)面のピーク強度I200の比I200/I211が0.85以上であり、且つ単斜晶構造である、プルシアンブルー類似体の粉末を含む、カリウムイオン二次電池用の正極材料。
(A1
zA2
wK1-(z+2w))xMn[Fe(CN)6]y・nH2O (1)
(式(1)中、A1はNH4、LiおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、A2はMg、CaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、xは1~2であり、yは0.8~1であり、nは0~3であり、zは0~0.2であり、wは0~0.1であり、且つz+2wは0.2以下である。)
【0013】
〔2〕z+2wが0より大きい、〔1〕に記載の正極材料。
〔3〕wが0である、〔1〕または〔2〕に記載の正極材料。
〔4〕プルシアンブルー類似体の粉末は、体積基準累積粒度分布における50%粒子径が2~50μmである、〔1〕~〔3〕のいずれかひとつに記載の正極材料。
〔5〕導電助剤をさらに含む、〔1〕~〔4〕のいずれかひとつに記載の正極材料。
〔6〕バインダをさらに含む、〔1〕~〔5〕のいずれかひとつに記載の正極材料。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかひとつに記載の正極材料を含む、カリウムイオン二次電池の製造用のペースト。
【0014】
〔8〕〔1〕~〔6〕のいずれかひとつに記載の正極材料を含む電極層を有する、カリウムイオン二次電池用の正極シート。
〔9〕〔8〕に記載のカリウムイオン二次電池用正極シートを有する、カリウムイオン二次電池。
【0015】
〔10〕液媒体中で、式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体とKイオン供給源とを接触させて、式(1)で表されるプルシアンブルー類似体を得ることを含む、カリウムイオン二次電池用の正極材料の製造方法。
A1
αA2
βMn[Fe(CN)6]γ・mH2O (2)
(式(2)中、A1はNH4、LiおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、A2はMg、CaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、α+2βは1~2であり、αは0~2であり、βは0~1であり、γは0.8~1であり、且つmは0~3である。)
(A1
zA2
wK1-(z+2w))xMn[Fe(CN)6]y・nH2O (1)
(式(1)中、A1はNH4、LiおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、A2はMg、CaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、xは1~2であり、yは0.8~1であり、nは0~3であり、zは0~0.2であり、wは0~0.1であり、且つz+2wは0.2以下である。)
【0016】
〔11〕Kイオン供給源がカリウムのハロゲン化物である、〔10〕に記載の製造方法。
〔12〕液媒体中で、Mnイオン供給源と式(3)で表される構造を有する錯体とを接触させて、式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体を得ることをさらに含む、〔10〕または〔11〕に記載の製造方法。
A1
aA2
b[Fe(CN)6] (3)
(式(3)中、A1はNH4、LiおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、A2はMg、CaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、aは0~4であり、bは0~2であり、且つa+2bは4である。)
〔13〕Mnイオン供給源と式(3)で表される構造を有する錯体との接触をキレート剤の存在下に行う、〔12〕に記載の製造方法。
〔14〕キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、グリシン、及びそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一つを含む、〔13〕に記載の製造方法。
〔15〕Mnイオン供給源がマンガンのハロゲン化物である、〔12〕~〔14〕のいずれかひとつに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の正極材料により、初期放電容量及び初期効率に優れたカリウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1で得られたプルシアンブルー類似体のX線回折パターンを示す図である。
【
図2】実施例1で得られたプルシアンブルー類似体のSEM像を示す図である。
【
図3】実施例2で得られたプルシアンブルー類似体のX線回折パターンを示す図である。
【
図4】実施例2で得られたプルシアンブルー類似体のSEM像を示す図である。
【
図5】実施例3で得られたプルシアンブルー類似体のX線回折パターンを示す図である。
【
図6】実施例3で得られたプルシアンブルー類似体のSEM像を示す図である。
【
図7】実施例4で得られたプルシアンブルー類似体のX線回折パターンを示す図である。
【
図8】実施例4で得られたプルシアンブルー類似体のSEM像を示す図である。
【
図9】実施例5で得られたプルシアンブルー類似体のX線回折パターンを示す図である。
【
図10】実施例5で得られたプルシアンブルー類似体のSEM像を示す図である。
【
図11】比較例1で得られたプルシアンブルー型錯体のX線回折パターンを示す図である。
【
図12】比較例1で得られたプルシアンブルー型錯体のSEM像を示す図である。
【
図13】比較例2で得られたプルシアンブルー型錯体のX線回折パターンを示す図である。
【
図14】比較例2で得られたプルシアンブルー型錯体のSEM像を示す図である。
【
図15】比較例3で得られたプルシアンブルー型錯体のX線回折パターンを示す図である。
【
図16】比較例3で得られたプルシアンブルー型錯体のSEM像を示す図である。
【
図17】比較例4で得られたプルシアンブルー型錯体のX線回折パターンを示す図である。
【
図18】比較例4で得られたプルシアンブルー型錯体のSEM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の正極材料は、カリウムイオン二次電池用である。本発明の正極材料は、プルシアンブルー類似体の粉末を含む。本発明の正極材料に含まれるプルシアンブルー類似体の粉末の量は、正極材料の総量に対して、好ましくは60~99質量%、より好ましくは70~98質量%である。プルシアンブルー類似体の粉末はカリウムイオン二次電池用の正極活物質として機能する。
【0020】
本発明の正極材料に含まれるプルシアンブルー類似体は、式(1)で表されるK、MnおよびFeを少なくとも含む化合物である。該化合物は、カリウムイオンの挿入及び脱離が可能である。
(A1
zA2
wK1-(z+2w))xMn[Fe(CN)6]y・nH2O (1)
式(1)中、A1はNH4、LiおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、A2はMg、CaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも一つである。
式(1)中、xは、1~2、好ましくは1.4~1.95、より好ましくは1.4~1.85である。
式(1)中、yは、0.8~1、好ましくは0.82~1である。
式(1)中、z+2wは、0.2以下、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.1以下である。z+2wは0であってもよいが、好ましくは0より大きい。
式(1)中、zは、0~0.2、好ましくは0~0.1、より好ましくは0~0.08である。A1がNaである場合、zは0であることが好ましい。
式(1)中、wは、0~0.1、好ましくは0である。
式(1)中、nは、充放電時のガス発生量を抑制する観点から、0~3、好ましくは0~2、より好ましくは0~1である。
【0021】
プルシアンブルー類似体は、粉末X線回折によって測定される(211)面のピーク強度I211に対する(200)面のピーク強度I200の比I200/I211が、通常、0.85以上、好ましくは0.87以上、さらに好ましくは0.89以上である。ピーク強度の比I200/I211の上限は特に制限されないが、好ましくは1.7である。ピーク強度の比I200/I211が上記範囲である場合、カリウムイオン二次電池の初期放電容量及び初期効率(初期クーロン効率)に優れる。ピーク強度の比I200/I211が上記範囲である場合のプルシアンブルー類似体の構造の詳細は未解析であるが、カリウムイオンの挿入及び脱離が容易な構造となっていると推定できる。なお、(200)面のピークは16.5°≦2θ≦18.5°の範囲に出現し、(211)面のピークは24°≦2θ≦26°の範囲に出現する。
【0022】
プルシアンブルー類似体の粉末は、D50の下限が、好ましくは2μmであり、D50の上限が、好ましくは50μm、より好ましくは25μmである。この程度の大きさの粉末を用いると、高初期効率および高初期放電容量のカリウムイオン二次電池用の正極シートの製造効率が高い。なお、D50は、体積基準累積粒度分布における50%粒子径である。体積基準累積粒度分布は、レーザ回折・散乱法によって求めることができる。
【0023】
プルシアンブルー類似体の粉末は、一次粒子の数平均粒径の下限が、好ましくは0.5μm、より好ましくは1μmであり、一次粒子の数平均粒径の上限が、好ましくは20μm、より好ましくは10μmである。一次粒子の数平均粒径は、電子顕微鏡等による観察像に基づいて決定することができる。
【0024】
本発明の正極材料は、それの製造方法によって、特に制限されない。本発明の正極材料は、例えば、液媒体中で、プルシアンブルー型錯体とKイオン供給源とを接触させて、式(1)で表されるプルシアンブルー類似体を得ることを含む、製造方法によって得られるものが好ましい。
【0025】
プルシアンブルー型錯体としては、式(2)で表される錯体が好ましく用いられる。
A1
αA2
βMn[Fe(CN)6]γ・mH2O (2)
式(2)中、A1はNH4、LiおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、A2はMg、CaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも一つである。
式(2)中、α+2βは、通常、1~2、好ましくは1.4~1.95、より好ましくは1.4~1.85である。
式(2)中、αは、通常、0~2、好ましくは0~1.95、より好ましくは1.4~1.85である。
式(2)中、βは、通常、0~1、好ましくは0~0.7、より好ましくは0である。
式(2)中、γは、通常、0.8~1、好ましくは0.82~1である。
式(2)中、mは、通常、0~3、好ましくは0~2、より好ましくは0~1である。
式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体は、既に市場等に存在するものを入手してもよいし、自ら製造して入手してもよい。
【0026】
式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体は、それの製造方法によって特に制限されない。式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体は、例えば、液媒体中で、Mnイオン供給源と式(3)で表される構造を有する錯体とを接触させることを含む、製造方法によって得られるものが好ましい。
A1
aA2
b[Fe(CN)6] (3)
式(3)中、A1はNH4、LiおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、A2はMg、CaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも一つである。
式(3)中、a+2bは、好ましくは3~4、より好ましくは3.4~4、さらに好ましくは4である。
式(3)中、aは、好ましくは0~4である。
式(3)中、bは、好ましくは0~2である。
式(3)で表される構造を有する錯体は、無水物であってもよいし、水和物であってもよい。式(3)で表される構造を有する錯体の代表例として、Na4[Fe(CN)6]・10H2Oを挙げることができる。
【0027】
式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体の製造において使用される液媒体は、特に制限されないが、例えば、水、または水を主成分とする混合溶媒が好ましく、水がより好ましい。液媒体は、生成物の酸化を抑制するために、溶存酸素が少ない方が好ましい。溶存酸素を減らすために、溶媒を使用する前に脱気等を行うことが好ましい。また、反応を阻害しない範囲で還元剤を溶媒に加えても良い。
【0028】
式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体の製造において使用されるMnイオン供給源は、式(3)で表される構造を有する錯体にMnを導入できるものまたは式(3)で表される構造を有する錯体中のA1またはA2をMnに交換できるものであれば特に限定されない。好ましく用いられるMnイオン供給源としては、マンガンのハロゲン化物を挙げることができる。マンガンのハロゲン化物のうち、マンガンの塩化物が好ましく、塩化マンガン(II)が特に好ましい。塩化マンガン(II)は、無水物、二水和物、四水和物などの形態で存在し得るが、いずれの形態のものであってもよい。
【0029】
Mnイオン供給源と式(3)で表される構造を有する錯体との接触においては、例えば、Mnイオン供給源を含む液(第一液)と、式(3)で表される構造を有する錯体を含む液(第二液)とを準備することができる。第一液としては、Mnイオン供給源を液媒体に溶解させてなる溶液が好ましく用いられる。第二液としては、式(3)で表される構造を有する錯体を液媒体に溶解させてなる溶液が好ましく用いられる。
【0030】
Mnイオン供給源と式(3)で表される構造を有する錯体との接触は、キレート剤の存在下に行うことが好ましい。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、グリシン、及びそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むものが好ましい。キレート剤は、第一液または第二液のいずれか一方に含有させてもよいし、第一液および第二液の両方に含有させてもよい。
【0031】
Mnイオン供給源と式(3)で表される構造を有する錯体との接触は、例えば、第一液と第二液とを混合することによって行うことができる。混合のさせ方は、第一液を第二液に添加して混ぜ合わせてもよいし、第二液を第一液に添加して混ぜ合わせてもよいし、第一液と第二液とを同時添加して混ぜ合わせてもよい。これらのうち、第一液を第二液に添加して混ぜ合わせるか、または第二液を第一液に添加して混ぜ合わせることが好ましい。添加は、ゆっくり行うことが好ましく、滴下によって行うことがより好ましい。添加にかける時間は、下限が、好ましくは1時間、より好ましくは2時間、さらに好ましくは3時間であり、上限が、好ましくは10時間、より好ましくは8時間、さらに好ましくは6時間である。添加中および添加後、混ぜ合わせを十分にするために、混合液を撹拌することができる。
【0032】
Mnイオン供給源と式(3)で表される構造を有する錯体との接触は、生成物の酸化を抑制するために、非酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気としては窒素またはアルゴンの雰囲気などを挙げることができる。接触時の圧力および温度は、特に制限されないが、例えば、大気圧および5~80℃である。
【0033】
上記の接触によって、生成物として式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体が析出し、液媒体中に分散する。得られたプルシアンブルー型錯体分散液は、そのまま次の工程で使用してもよいし、必要に応じてデカンテーション、遠心分離、ろ過などの固液分離によって固形分の濃縮若しくは回収をしてもよい。固形分は、不要な塩などが残存していることがあるので、水やアルコールで洗浄した後に乾燥することが好ましい。洗浄液も液媒体と同様に予め脱気等を行い、溶存酸素を低減しておくことが好ましい。また、回収された固形分を乾燥させて、プルシアンブルー型錯体の粉末としてもよい。乾燥方法は、特に限定されないが、加熱乾燥または真空乾燥は短い時間で乾燥させることができるので好ましい。乾燥時の温度は50~200℃が好ましい。プルシアンブルー型錯体の粉末は、そのまま次の工程で使用することもできるが、粗粒を減らすなどの目的で、解砕または粉砕、ふるい分けなどを適宜行い、粒径や粒度分布を調整してもよい。上述の固液分離、乾燥、粒度調整などの各工程は、プルシアンブルー型錯体の酸化を抑制するために、非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気としては窒素またはアルゴンの雰囲気などが挙げられる。
【0034】
式(1)で表されるプルシアンブルー類似体の製造において使用されるKイオン供給源は、式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体にKを導入できるものまたは式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体中のA1またはA2をKに交換できるものであれば特に限定されない。好ましく用いられるKイオン供給源としては、カリウムのハロゲン化物を挙げることができる。カリウムのハロゲン化物のうち、塩化カリウムが好ましい。
【0035】
式(1)で表されるプルシアンブルー類似体の製造において使用される液媒体は、特に制限されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、またはそれらの2種類以上の混合溶媒等を使用することができる。これらのうち、水、または水を主成分とする混合溶媒が好ましく、水がより好ましい。液媒体は、生成物の酸化を抑制するために、溶存酸素が少ない方が好ましい。溶存酸素を減らすために、溶媒を使用する前に脱気等を行うことが好ましい。また、反応を阻害しない範囲で還元剤を溶媒に加えても良い。式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体の製造で得られる分散液を用いる場合には、その分散液に含まれている液媒体をそのまま使用することもできる。
【0036】
Kイオン供給源と式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体との接触においては、例えば、Kイオン供給源を含む液(第四液)と、式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体を含む液(第三液)とを準備することができる。第四液としては、Kイオン供給源を液媒体に溶解させてなる溶液が好ましく用いられる。第三液としては、式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体を液媒体に溶解若しくは分散させてなる液が好ましく用いられる。
【0037】
Kイオン供給源と式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体との接触は、例えば、第三液と第四液とを混合することによって行うことができる。混合のさせ方は、第三液を第四液に添加して混ぜ合わせてもよいし、第四液を第三液に添加して混ぜ合わせてもよいし、第三液と第四液とを同時添加して混ぜ合わせてもよい。これらのうち、第三液を第四液に添加して混ぜ合わせるかまたは第四液を第三液に添加して混ぜ合わせることが好ましく、第四液を第三液に添加して混ぜ合わせることがより好ましい。添加にかける時間は、特に限定されない。また、添加を複数回に分けておこなってもよい。添加中および添加後、混ぜ合わせを十分にするために、混合液を撹拌することができる。
【0038】
Kイオン供給源と式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体との接触は、生成物の酸化を抑制するために、非酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気としては窒素またはアルゴンの雰囲気などを挙げることができる。接触時の圧力および温度は、特に制限されないが、例えば、大気圧および5~80℃である。
【0039】
Kイオン供給源と式(2)で表されるプルシアンブルー型錯体との接触は、反応系中に存在するA1およびA2の合計量1モルに対して、反応系中に存在するK(カリウム)の量が、好ましくは1モル以上、より好ましくは1.3モル以上、さらに好ましくは1.5モル以上となる条件で行う。反応系中に存在するA1およびA2の合計量1モルに対する反応系中に存在するKの量の上限は、特に制限されないが、好ましくは100モル、より好ましくは50モル、さらに好ましくは30モルである。なお、反応系中に存在するA1およびA2の合計量は化合物に含まれている当該元素の量と単体またはイオンの形態を成している当該元素の量との合計であり、反応系中に存在するKの量は化合物に含まれているKの量と単体またはイオンの形態を成しているKの量との合計である。
【0040】
上記の接触によって、生成物として式(1)で表されるプルシアンブルー類似体が液媒体中に生成する。得られたプルシアンブルー類似体分散液から、デカンテーション、遠心分離、ろ過などの固液分離によって固形分を回収する。固形分には不要な塩などが残存していることがあるので、水やアルコールなどで洗浄することが好ましい。洗浄液も液媒体と同様に予め脱気等を行い、溶存酸素を低減しておくことが好ましい。回収、洗浄された固形分を乾燥させて、プルシアンブルー類似体の粉末にする。乾燥方法は特に限定されないが、加熱乾燥または真空乾燥は短い時間で乾燥させることができるので好ましい。乾燥時の温度は50~200℃が好ましい。
プルシアンブルー型錯体の粉末は、そのままで正極材料に含有させることもできるが、上記のような粒径や粒度分布に調整する目的で、解砕または粉砕、ふるい分けなどを適宜施すことが好ましい。上述の固液分離、乾燥、粒度調整の各工程は、プルシアンブルー型錯体の酸化を抑制するために、非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気としては窒素またはアルゴンの雰囲気などが挙げられる。
【0041】
本発明の正極材料は、導電助剤をさらに含んでいてもよい。導電助剤は、電極層に対し導電性または安定性を付与する役目を果たすものであれば特に限定されない。ここで、安定性とは、カリウムイオンの挿入・脱離における体積変化に対する緩衝作用を意味する。導電助剤としては、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ(CNT)、気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標))等の炭素材料を挙げることができる。カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック等を挙げることができる。導電助剤は1種単独でまたは2種以上を組合せて使用してもよい。
本発明の正極材料に含ませ得る導電助剤の量は、好ましくは0.5~30質量%、より好ましくは0.5~25質量%である。前述のプルシアンブルー類似体の粉末と導電助剤とを含有する正極材料の調製の際に使用する導電助剤は、粉末、ペーストなどの状態のものが好ましく用いられる。
【0042】
本発明の正極材料は、バインダをさらに含んでいてもよい。バインダとして用いられる材料には、特に制限はなく、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアセテート、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、スチレン-ブタジエンラバー、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。ペースト状正極材料に含ませ得るバインダの量は、好ましくは0.5~30質量%、より好ましくは0.5~20質量%、さらに好ましくは0.5~10質量%である。前述のプルシアンブルー類似体の粉末とバインダとを含有する正極材料の調製の際に使用するバインダは、粉末、溶液、エマルジョンまたはディスパージョンの状態のものが好ましく用いられる。
【0043】
本発明の正極材料は、液媒体をさらに含んでペーストに成っていてもよい。本発明のペーストは、カリウムイオン二次電池の製造に用いられる。液媒体は、ペースト状態の導電助剤;溶液、エマルジョンまたはディスパージョンの状態のバインダなどに由来するものであってもよい。液媒体は、正極材料を均一に溶解または分散できるものであれば特に制限はない。液媒体としては、例えば、水、アルコール、N-メチル-2-ピロリドン等が使用できる。液媒体の量は、ペーストを集電体に塗工しやすいような粘度となるように適宜調整すればよい。本発明のペーストは、必要に応じて、増粘剤、レベリング剤等を含んでいてもよい。増粘剤としては、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸塩、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩などを挙げることができる。
【0044】
本発明に係る正極材料は、例えば、プルシアンブルー類似体の粉末と必要に応じてバインダ、導電助剤および/または他の成分などとを同時に若しくは順不同に混練装置に供給し混練することによって得られる。混練においては、例えば、自転公転ミキサーやプラネタリミキサー等の混練装置を用いることができる。導電助剤を用いる場合は、プルシアンブルー類似体の粉末と導電助剤とを混ぜ合わせて混合粉を得、該混合粉と必要に応じてバインダおよび/または他の成分とを同時に若しくは順不同に混練装置に供給し混練することができる。
【0045】
本発明の一実施形態に係るカリウムイオン二次電池用正極シート(以下、単に正極シートと呼ぶことがある。)は、集電体と、該集電体を被覆する電極層とを有する。電極層は本発明の正極材料を含む。電極層に含まれる本発明の正極材料は、通常、圧粉体の状態に成っている。
【0046】
正極シートにおける集電体は、電子伝導体で、正極層を保持できるものであれば特に限定はされないが、金属箔が好ましく、アルミニウム箔がより好ましい。集電体は、金属箔に導電性層などの機能性層が積層若しくは複合化されたものなどであってもよい。
【0047】
電極層は、例えば、ペースト状の正極材料を集電体上に塗布し、乾燥させることによって得ることができる。集電体にペーストを塗布・乾燥する際には、ドクターブレード等などの塗布装置、及び乾燥装置を用いることができる。
また、電極層は、例えば、顆粒または粉末状の正極材料を集電体とともに加圧成形することによっても、得ることができる。
【0048】
正極シートにおける電極層の厚さは、好ましくは50~200μmである。電極層の厚さが200μm以下であれば、規格化された電池容器に正極シートを収容することができる。電極層の厚さは、ペーストの塗布量などによって調整できる。また、ペーストを乾燥させた後、圧延することによっても調整することができる。加圧成形または圧延においては、加圧ロール式、加圧プレート式などのプレス機を用いることができる。加圧プレート式において加える圧力は、好ましくは100~500MPaである。
【0049】
本発明の一実施形態に係るカリウムイオン二次電池は、負極シート、電解質、及び上記正極シートを含む。正極シートと負極シートはセパレータを挟んで対向して配置してもよい。
【0050】
負極シートは、集電体と、該集電体を被覆する電極層とを有するものである。負極シートにおける電極層はカリウムイオンを挿入及び脱離することが可能な負極活物質とバインダと必要に応じて導電助剤などとを含む。負極シートにおける集電体としては、例えば、銅箔等が用いられる。負極活物質には、カリウムイオンを挿入及び脱離することが可能な炭素材料が好ましく用いられ、黒鉛がより好ましく用いられる。
【0051】
電解質は、カリウム塩を含有するものであれば特に限定されない。電解質は、溶液、溶融体、固体のいずれの形態であってもよい。溶液としての電解質として、カリウム塩と非水系溶媒とを含む溶液が好ましく用いられる。
【0052】
カリウム塩としては、例えば、N,N-ビス(フルオロスルホニル)イミドカリウム(KFSI)、N,N-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(KTFSI)、六フッ化リン酸カリウム(KPF6)、フルオロホウ酸カリウム(KBF4)、過塩素酸カリウム(KClO4)、KCF3SO3、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドカリウム(KBETI)等を挙げることができる。これらのうち、KFSI、KPF6が好ましい。カリウム塩は、1種単独でまたは2種以上を組合せて使用してもよい。カリウム塩を溶解させて用いる場合、カリウム塩は非水系溶媒に可溶な過酸化物でない安全性の高いものであることが好ましい。カリウム塩溶液におけるカリウム塩の濃度は、下限値が、好ましくは0.4mol/L、より好ましくは0.6mol/Lであり、上限値が、好ましくは5mol/L、より好ましくは2mol/L、さらに好ましくは1.5mol/Lである。
【0053】
カリウム塩溶液に用いられる非水系溶媒としては、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、他のエステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類等及びこれらの組合せからなるものを挙げることができる。
【0054】
環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等、及びこれら化合物を構成する水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されたもの、例えば、トリフルオロプロピレンカーボネート、フルオロエチルカーボネート等を挙げることができる。
【0055】
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等、及びこれら化合物を構成する水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されたものを挙げることができる。
【0056】
他のエステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等を挙げることができる。
【0057】
環状エーテル類としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1、3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等を挙げることができる。
【0058】
鎖状エーテル類としては、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチル等を挙げることができる。
【0059】
ニトリル類としては、アセトニトリル等を挙げることができ、アミド類としては、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
【0060】
これら非水系溶媒は、1種単独または2種以上を組合せて使用してもよい。これら非水系溶媒のうち、環状炭酸エステルまたは鎖状炭酸エステルの使用が好ましく、環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルとの併用がより好ましい。環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルとの併用においては、環状炭酸エステル:鎖状炭酸エステルの体積比を、例えば、好ましくは10:90~80:20、より好ましくは40:60~70:30に設定することができる。
【0061】
セパレータは、正極シートと負極シートとを物理的に隔絶して、内部短絡を防止する役割を果たす。セパレータとしては、例えば、多孔質材料、不織布等を用いるものが挙げられ、その空隙には電解質が含浸され、電池反応を確保するために、イオン透過性を有する。セパレータは、多孔膜の層または不織布の層だけで形成されたものであってもよいし、組成や形態の異なる複数の層の積層体で形成されたものであってもよい。積層体としては、組成の異なる複数の樹脂多孔層を有する積層体、多孔膜の層と不織布の層とを有する積層体などが例示できる。
【0062】
セパレータを構成する多孔膜または不織布の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などのポリオレフィン樹脂;ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンサルファイドケトンなどのポリフェニレンサルファイド樹脂;芳香族ポリアミド樹脂(アラミド樹脂など)などのポリアミド樹脂;ポリイミド樹 脂などが挙げることができる。これらの樹脂は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて使用してもよい。また、不織布の材料として、ガラス繊維などの無機繊維を用いることもできる。
【0063】
セパレータは、無機フィラーを含んでいてもよい。無機フィラーとしては、セラミックス(シリカ、アルミナ、ゼオライト、チタニアなど)、タルク、マイカ、ウォラストナイトなどを挙げることができる。無機フィラーは、粒子状または繊維状が好ましい。セパレータに含まれる無機フィラーの量は、セパレータの質量に対して、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~80質量%である。
【0064】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は以下に示す実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において「室温」とは、特に断りがなければ25℃である。
【0065】
<カリウムイオン二次電池用正極材料の評価方法>
〔元素組成の測定〕
試料粉末を塩酸に完全に溶解させ、イオン交換水で希釈して、試料溶液を得た。カリウム及びナトリウムのための内部標準元素として1質量ppmのリチウムを使用し、且つマンガン及び鉄のための内部標準元素として1質量ppmのイットリウムを使用して、ICP発光分光分析装置(SPECTRO Analytical Instruments社製 SPECTRO ARCOS MV130)を用いて、試料粉末のICP-AES分析を行って、式(1)および(2)中のα及びβ、ならびにx、yおよびzの値を算出した。
【0066】
アルミナ製の容器に3~5mgの試料粉末を入れ、その容器を示差熱‐熱重量同時測定装置(島津製作所製 DTG-60)にセットし、アルゴン雰囲気下、100℃まで温度を上げて、試料粉末に含まれる表面付着水を除去した。次いで、100℃から400℃までを、昇温速度5℃/minの条件で熱重量分析を行った。100℃から230℃までの間の質量減少分を結晶水の質量と見なして、式(1)および(2)中のmおよびnの値を算出した。
【0067】
〔ピーク強度の比I200/I211及び結晶構造の測定〕
X線回折スペクトルの測定は、試料粉末を、縦20mm、横20mm 及び深さ0.2mmのガラス製試料ホルダーに詰めて大気曝露防止ホルダーを取り付け、X線源にCu管球、NiフィルターでKβ線を減衰させ、管電圧40kV、管電流45mA、検出器には株式会社リガク製高速一次元検出器D/teX Ultra250を用い、測定範囲10°~80°、ステップ幅0.02°の条件で、粉末X線回折装置(株式会社リガク製粉末X線回折装置SmartLab(登録商標))を用いて行った。得られたX線回折スペクトルの解析はXRD解析ソフトウェア(株式会社リガク製PDXL2)によって行った。
【0068】
〔一次粒子の数平均粒径〕
アルミニウム製の試料台に貼ったカーボンテープ上に、試料粉末を載せ、エアダスターで余分な試料粉末を吹き飛ばし、Pt-Pd粒子をスパッタした。その後、それを卓上走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JCM-6000)にセットし、加速電圧15kVで観察した。観察像からランダムに選ばれた一次粒子50個の粒子径の数平均値[μm]を算出した。
【0069】
〔50%粒子径の測定〕
試料粉末をイオン交換水に添加し、出力30mWで超音波処理を2分間行って分散液を得た。この分散液について、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製 Partica mini LA-350)を用いて、体積基準粒度分布の測定を行った。なお、試料粉末の屈折率を1.56、イオン交換水の屈折率を1.333とした。
【0070】
〔電池評価〕
プルシアンブルー類似体の粉末70質量部、導電助剤(カーボンECP;ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社)20質量部、及びバインダ(ポリフッ化ビニリデン;株式会社クレハ製、#1100)10質量部を混ぜ合わせ、これにN-メチル-2-ピロリドンを加えて混練し、正極用ペーストを得た。
得られた正極用ペーストを、集電体(アルミニウム箔;宝泉株式会社製、厚さ0.017mm)にドクターブレードを用いて塗布し、減圧下80℃で乾燥させて、正極シートを得た。正極シートの目付量は約0.6mg/cm2であった。正極シートを打ち抜き機で直径1cmの円形に打ち抜いて、正極を得た。
【0071】
得られた正極、厚さ300μm、直径1.8cmの円形のガラス濾紙(アドバンテック東洋株式会社製、GB-100R)からなるセパレータ、及び厚さ300μm、直径1cmの円形のカリウム金属(アルドリッチ社製)からなる負極を、この順序で、重ね合わせた。これをSUS-Alクラッド電池ケースに入れ、セパレータが十分満たされる量(0.2mL~0.3mL)の電解液を注入し、ポリプロピレン製ガスケット(宝泉株式会社製CR2032)、スペーサー(材質:SUS、直径16mm×高さ0.5mm、宝泉株式会社製)、及び板ばね(材質:SUS、内径10mm、高さ2.0mm、厚さ0.25mm、宝泉株式会社製ワッシャー)を用いて封をしてコインセルを得た。電解液の溶媒(キシダ化学株式会社製)はエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとを体積比1:1で混合したものである。電解液の溶質はKPF6(東京化成工業株式会社製)で、上記溶媒中に1.0mol/Lの濃度で溶解している。
【0072】
得られたコインセルを24時間放置し、その後、次のようにして充放電を行った。まず、コインセルに、室温(25℃)にて、4.5Vに達するまで、電流密度16mA/gで定電流充電を行った。この充電の際の電流密度×充電時間を初期充電容量とした。充電完了後、5分間休止した。次に、電圧2.5Vに達するまで、電流密度16mA/gで定電流放電を行った。この放電の際の電流密度×放電時間を初期放電容量とした。初期充電容量に対する初期放電容量の百分率を初期効率とした。ここで、電流密度[mA/g]は、(充放電における電流値[mA])/(正極に含まれるプルシアンブルー類似体の質量[g])である。
【0073】
〔実施例1〕
酸素除去のために窒素パージをイオン交換水に施して、脱気水を得た。
塩化マンガン(II)四水和物0.79g、及びクエン酸三ナトリウム二水和物5.88gを脱気水100mLに溶解させて第一液を得た。
フェロシアン化ナトリウム十水和物(Na4[Fe(CN)6]・10H2O、別名:ヘキサシアニド鉄(II)酸ナトリウム十水和物)1.94g、及びクエン酸三ナトリウム二水和物5.88gを脱気水100mLに溶解させて第二液を得た。
【0074】
常圧の窒素雰囲気下、第二液を撹拌しながら、第一液を第二液に、室温で、200分間かけて滴下して、プルシアンブルー型錯体の分散液を得た。分散液から固形分を濾過により取り出し、脱気水で洗浄して、Na1.59Mn[Fe(CN)6]0.86・2.22H2Oで表されるプルシアンブルー型錯体を得た。表1にここまでの製造条件をまとめて示す。
【0075】
【0076】
このプルシアンブルー型錯体を、常圧の窒素雰囲気下、3mol/Lの塩化カリウム(Kイオン供給源)水溶液40mLに入れ、室温で48時間撹拌した。系中に存在するNaの濃度は0.159mol/Lであった。
【0077】
その後、常圧の窒素雰囲気下、室温で、生成物を濾過により取り出し、脱気水で洗浄した。次いで、圧力0.3~0.5kPaの窒素雰囲気下、100℃で15時間乾燥させた。これを室温まで冷まし、常圧の空気雰囲気中に取り出して、プルシアンブルー類似体の粉末を得た。表2にここまでの製造条件をまとめて示す。
【0078】
【0079】
得られたプルシアンブルー類似体の粉末は、粉末X線回折において
図1に示すパターンが観測された。(211)面のピーク強度I
211に対する(200)面のピーク強度I
200の比I
200/I
211は1.027であった。示性式はNa
0.10K
1.58Mn[Fe(CN)
6]
0.85・0.92H
2Oで表された。また、このプルシアンブルー類似体の粉末は、
図1に示すX線回折パターンからわかるように単斜晶構造であった。また、
図2に実施例1で得られたプルシアンブルー類似体のSEM像を示す。
さらに、このプルシアンブルー類似体の粉末を用いて得られたコインセルは、初期放電容量が114mAh/g、初期効率が65%であった。表3に生成物の物性およびコインセルの特性をまとめて示す。
【0080】
【0081】
〔実施例2〕
第一液を第二液に滴下する時間を400分間に変えた以外は実施例1と同じ方法で、プルシアンブルー型錯体の分散液を得た。次いでプルシアンブルー型錯体の分散液に、3mol/Lの塩化カリウム水溶液100mLを添加し、24時間攪拌した。系中に存在するNaの濃度は0.453mol/Lであった。
その後、実施例1と同じ方法でプルシアンブルー類似体の粉末を得た。
このプルシアンブルー類似体の粉末は、粉末X線回折において
図3に示すパターンが観測された。(211)面のピーク強度I
211に対する(200)面のピーク強度I
200の比I
200/I
211は0.995であった。示性式はNa
0.06K
1.70Mn[Fe(CN)
6]
0.90・0.59H
2Oで表された。また、このプルシアンブルー類似体の粉末は、
図3に示すX線回折パターンからわかるように単斜晶構造であった。また、
図4に実施例2で得られたプルシアンブルー類似体のSEM像を示す。
さらに、このプルシアンブルー類似体の粉末を用いて得られたコインセルは、初期放電容量が111mAh/g、初期効率が50%であった。
【0082】
〔実施例3〕
第一液を第二液に滴下する時間を200分間に変え、塩化カリウム水溶液を添加した後の撹拌時間を16時間に変えた以外は、実施例2と同じ方法でプルシアンブルー類似体の粉末を得た。
このプルシアンブルー類似体の粉末は、粉末X線回折において
図5に示すパターンが観測された。(211)面のピーク強度I
211に対する(200)面のピーク強度I
200の比I
200/I
211は1.039であった。示性式はNa
0.04K
1.66Mn[Fe(CN)
6]
0.94・0.95H
2Oで表された。また、このプルシアンブルー類似体の粉末は、
図5に示すX線回折パターンからわかるように単斜晶構造であった。また、
図6に実施例3で得られたプルシアンブルー類似体のSEM像を示す。
さらに、このプルシアンブルー類似体の粉末を用いて得られたコインセルは、初期放電容量が110mAh/g、初期効率が73%であった。
【0083】
〔実施例4〕
3mol/Lの塩化カリウム水溶液100mLを塩化カリウム粉末22.4gに変え、塩化カリウム粉末を添加した後の撹拌時間を7時間に変えたこと以外は、実施例2と同じ方法でプルシアンブルー類似体の粉末を得た。
このプルシアンブルー類似体の粉末は、粉末X線回折において
図7に示すパターンが観測された。(211)面のピーク強度I
211に対する(200)面のピーク強度I
200の比I
200/I
211は0.891であった。示性式はNa
0.05K
1.69Mn[Fe(CN)
6]
0.90・0.67H
2Oで表された。また、このプルシアンブルー類似体の粉末は、
図7に示すX線回折パターンからわかるように単斜晶構造であった。また、
図8に実施例4で得られたプルシアンブルー類似体のSEM像を示す。
さらに、このプルシアンブルー類似体の粉末を用いて得られたコインセルは、初期放電容量が106mAh/g、初期効率が60%であった。
【0084】
〔実施例5〕
酸素除去のために窒素パージをイオン交換水に施して、脱気水を得た。
塩化マンガン(II)四水和物7.9g、及びクエン酸三ナトリウム二水和物58.8gを脱気水1000mLに溶解させて第一液を得た。
フェロシアン化ナトリウム十水和物19.4g、及びクエン酸三ナトリウム二水和物58.8gを脱気水1000mLに溶解させて第二液を得た。
【0085】
常圧の窒素雰囲気下、第二液を撹拌しながら、第一液を第二液に、室温で、400分間かけて滴下して、プルシアンブルー型錯体の分散液を得た。
【0086】
このプルシアンブルー型錯体の分散液に、常圧の窒素雰囲気下、3mol/Lの塩化カリウム水溶液1000mLを添加し、室温で6時間撹拌した。系中に存在するNaの濃度は0.453mol/Lであった。
【0087】
その後、常圧の窒素雰囲気下、室温で、生成物を濾過により取り出し、脱気水で洗浄した。次いで、圧力0.3~0.5kPaの窒素雰囲気下、150℃で15時間乾燥させた。室温まで冷まし、常圧の空気雰囲気中に取り出して、プルシアンブルー類似体の粉末を得た。このプルシアンブルー類似体の粉末は、粉末X線回折において
図9に示すパターンが観測された。(211)面のピーク強度I
211に対する(200)面のピーク強度I
200の比I
200/I
211は1.004であった。示性式はNa
0.02K
1.61Mn[Fe(CN)
6]
0.92・0.28H
2Oで表された。また、このプルシアンブルー類似体の粉末は、
図9に示すX線回折パターンからわかるように単斜晶構造であった。また、
図10に実施例5で得られたプルシアンブルー類似体のSEM像を示す。
さらに、このプルシアンブルー類似体の粉末を用いて得られたコインセルは、初期放電容量が112mAh/g、初期効率が69%であった。
【0088】
〔比較例1〕
酸素除去のために窒素パージをイオン交換水に施して、脱気水を得た。
塩化マンガン(II)四水和物0.79g、およびクエン酸三カリウム一水和物32.4gを脱気水100mlに溶解させて第一液を得た。
フェロシアン化カリウム三水和物(別名:ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム三水和物)1.69g、およびクエン酸三カリウム一水和物32.4gを脱気水100mlに溶解させて第五液を得た。
常温の窒素雰囲気下で、第五液を撹拌しながら、第一液を第五液に、室温で、200分間かけて滴下して、プルシアンブルー型錯体の分散液を得た。分散液から固形分を濾過にて取り出し、脱気水で洗浄した。次いで、圧力0.3~0.5kPaの窒素雰囲気下、100℃で15時間乾燥させた。室温まで冷まし、常圧の空気雰囲気中に取り出して、プルシアンブルー型錯体の粉末を得た。このプルシアンブルー型錯体の粉末は、粉末X線回折において
図11に示すパターンが観測された。(211)面のピーク強度I
211に対する(200)面のピーク強度I
200の比I
200/I
211は0.774であった。示性式はK
2.05Mn[Fe(CN)
6]
0.96・0.02H
2Oで表された。また、このプルシアンブルー型錯体の粉末は、
図11に示すX線回折パターンからわかるように単斜晶構造であった。また、
図12に比較例1で得られたプルシアンブルー型錯体のSEM像を示す。
さらに、このプルシアンブルー型錯体の粉末を用いて得られたコインセルは、初期放電容量が47mAh/g、初期効率が47%であった。
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
〔比較例2〕
第一液および第五液に使用されたクエン酸三カリウム一水和物の量をいずれも6.49gに変えた以外は比較例1と同じ方法で、プルシアンブルー型錯体の分散液を得た。分散液から固形分を遠心分離にて取り出し、脱気水で洗浄した。次いで、圧力0.3~0.5kPaの窒素雰囲気下、100℃で15時間乾燥させた。室温まで冷まし、常圧の空気雰囲気中に取り出して、プルシアンブルー型錯体の粉末を得た。このプルシアンブルー型錯体の粉末は、粉末X線回折において
図13に示すパターンが観測された。(211)面のピーク強度I
211に対する(200)面のピーク強度I
200の比I
200/I
211は0.741であった。示性式はK
1.87Mn[Fe(CN)
6]
0.92・0.18H
2Oで表された。また、このプルシアンブルー型錯体の粉末は、
図13に示すX線回折パターンからわかるように単斜晶構造であった。また、
図14に比較例2で得られたプルシアンブルー型錯体のSEM像を示す。
さらに、このプルシアンブルー型錯体の粉末を用いて得られたコインセルは、初期放電容量が121mAh/g、初期効率が36%であった。
【0093】
〔比較例3〕
酸素除去のために窒素パージをイオン交換水およびエタノールにそれぞれ施して、脱気水および脱気エタノールをそれぞれ得た。
塩化マンガン(II)四水和物0.76g、およびクエン酸三ナトリウム二水和物1.00gを脱気水200mlに溶解させて第一液を得た。
フェロシアン化カリウム三水和物(別名:ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム三水和物)1.69gを脱気水200mlに溶解させて第五液を得た。
常温の窒素雰囲気下で、第五液を撹拌しながら、第一液を第五液に、室温で、400分間かけて滴下して、プルシアンブルー型錯体の分散液を得た。分散液から固形分を遠心分離にて取り出し、脱気水で洗浄し、次いで脱気エタノールで洗浄した。次いで、圧力0.3~0.5kPaの窒素雰囲気下、80℃で15時間乾燥させた。室温まで冷まし、常圧の空気雰囲気中に取り出して、プルシアンブルー型錯体の粉末を得た。このプルシアンブルー型錯体の粉末は、粉末X線回折において
図15に示すパターンが観測された。(211)面のピーク強度I
211に対する(200)面のピーク強度I
200の比I
200/I
211は0.784であった。示性式はNa
0.13K
1.33Mn[Fe(CN)
6]
0.83・1.07H
2Oで表された。また、このプルシアンブルー型錯体の粉末は、
図15に示すX線回折パターンからわかるように単斜晶構造であった。また、
図16に比較例3で得られたプルシアンブルー型錯体のSEM像を示す。
さらに、このプルシアンブルー型錯体の粉末を用いて得られたコインセルは、初期放電容量が121mAh/g、初期効率が21%であった。
【0094】
〔比較例4〕
第一液に用いたクエン酸三ナトリウム二水和物の量を3.00gに変えた以外は、比較例3と同じ方法で、プルシアンブルー型錯体の粉末を得た。このプルシアンブルー型錯体の粉末は、粉末X線回折において
図17に示すパターンが観測された。(211)面のピーク強度I
211に対する(200)面のピーク強度I
200の比I
200/I
211は0.677であった。示性式はNa
0.23K
1.50Mn[Fe(CN)
6]
0.91・0.70H
2Oで表された。また、このプルシアンブルー型錯体の粉末は、
図17に示すX線回折パターンの解析から、単斜晶構造であった。また、
図18に比較例4で得られたプルシアンブルー型錯体のSEM像を示す。
さらに、このプルシアンブルー型錯体の粉末を用いて得られたコインセルは、初期放電容量が113mAh/g、初期効率が32%であった。
【0095】
以上の結果が示すように、本発明のカリウムイオン二次電池用正極材料を用いると、初期放電容量と初期効率とが高いレベルでバランスしたカリウムイオン二次電池を得ることができる。