(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】セラミックスからの金属回収方法
(51)【国際特許分類】
C01F 17/218 20200101AFI20230828BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20230828BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20230828BHJP
C22B 3/10 20060101ALI20230828BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20230828BHJP
C01F 7/30 20220101ALI20230828BHJP
C01B 33/18 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
C01F17/218
C22B3/06
C22B3/08
C22B3/10
C22B3/44 101Z
C01F7/30
C01B33/18 E
(21)【出願番号】P 2019161491
(22)【出願日】2019-09-04
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【氏名又は名称】原 拓実
(72)【発明者】
【氏名】近藤 弘康
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-510541(JP,A)
【文献】特開2002-088494(JP,A)
【文献】特開2004-033910(JP,A)
【文献】特開2012-188724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01
C22
JSTPlus(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上の金属元素から構成されるセラミックスから金属酸化物として回収する方法であって、前記セラミック
スを
20~100℃の温度で飽和蒸気圧より高い圧力環境下で酸性水溶液溶解させて酸性混合液とした後、前記酸性混合液を亜臨界水状態にして加水分解し生成した酸と金属酸化物または金属水酸化物を含む混合液から固液分離手段により酸性液と金属酸化物を分離して回収する方法。
【請求項2】
請求項1に示すセラミックスを酸性水溶液に溶解させて酸性混合液はリン酸、硫酸、塩酸、硝酸、シュウ酸、フッ酸、酢酸をいずれかひとつを
含むことを特徴とするセラミックスからの金属酸化物の回収方法。
【請求項3】
請求項1の前記亜臨界水状態は、100℃~300℃で飽和蒸気圧より圧力を高くすることを特徴としたセラミックスからの金属酸化物の回収方法。
【請求項4】
請求項1の前記固液分離手段は、
沈降分離または膜分離にて酸性水溶液と金属酸化物スラリーとに分離したのち、蒸留法により分離する手段であることを特徴とするセラミックスからの金属酸化物の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、セラミックスから金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは、その優れた特性を活かし、種々の構造材料・電子材料等に使用されてい
る。しかしながら、使用済みのセラミックス製品を金属製品やプラスチック製品のように
回収して新たな製品としてリサイクルされる方法はごく限られている。
【0003】
特開2001-19534号公報(特許文献1)には、セラミックス廃棄物を粉砕し、適
量の粘土をつなぎとして使用してセラミックス廃棄物を原料に再使用する方法が示されて
いる。
しかしながら、これらの方法は製品とした完成したセラミックスを新たな製品の部材とし
て使用することはできても、セラミックスに含まれている原料を再利用するまでには至ら
なかった。セラミックスのうち、産業用途として使用されるファインセラミックスには高
い性能が必要となるため、精選された原料および助剤が使用されている。この原料および
助剤原料にはレアアースが多く使用されており、新たな原料として再利用されないままの
状態である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セラミックスは、一般的に共有結合性やイオン結合性が高いため、硬度や靭性が高く、廃
棄物処理の際に粉砕等が困難である。また、セラミックスはレアアースを含んでいるケー
スが多く、必要に応じて分離・回収する技術を確立することが必要である。
例えば、酸硫化ガドリニウム(GOS:Gd2O2S)は、高感度・短残光、感度の温度
特性が小さい、X線阻止能が高いなどの特徴からシンチレータとして、X線CT装置、手
荷物検査装置、食品検査装置他として放射線を用いた非破壊検査装置、分析機器等に使用
されている。しかしながら、主成分であるガドリニウム(Gd)は、貴重なレアアースで
ありながら、酸硫化ガドリニウムの廃棄物から回収することができなかった。
【0006】
また、窒化珪素(Si3N4)は、高強度・高剛性・高耐熱性、金属と比較して軽量、電
食・腐食・錆が発生しないなどの特徴からベアリングボールや産業用機械部品などの構造
部材として使用されている。これらの製品として特性を引き出すには高純度に精錬した窒
化珪素原料が必要であるため原料自体が高価であった。また、窒化珪素自体が強固である
ため、廃材としては粉砕して舗装材料等に利用されており、窒化珪素原料や助剤として添
加されているレアアースを原材料として再利用されていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態にかかるセラミックス回収方法は、このような問題を解決するためのものであり
、セラミックスを酸性水溶液に溶解させ、セラミックスに含まれる複数の金属または半金
属成分を溶解した酸性混合液から酸性水溶液と金属酸化物を分離する回収方法である。
前記酸性混合液を亜臨界水状態にして加水分解した後、加水分解により生成した酸性水溶
液と金属酸化物を含む混合液から固液分離手段により金属酸化物を分離して回収すること
を特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
実施形態にかかるセラミックス回収方法では、酸性溶液を亜臨界水状態にすることにより
、廃液中の金属塩の加水分解が効率よく進行する。その結果、金属塩は、特に薬品を添加
しなくとも酸と金属酸化物とに変換され、固液分離手段により容易に分離でき、それぞれ
を回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】セラミックスから金属酸化物と酸の分離方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態にかかるセラミックスから金属酸化物と酸の分離方法を
図1に示す。まず、セラ
ミックスを溶解する酸水溶液を準備する。酸水溶液中には、酸の構成要素である水素イオ
ンH+とマイナスイオンX-が存在する。また、水の水素イオンH+と水酸基イオンOH
-が存在する。回収するセラミックスの例としては、金属MのプラスイオンM3+と、窒
化物のマイナスイオンN-、酸化物のマイナスイオンO2-、硫化物のマイナスイオンS
2-などが構成元素として存在する。
【0011】
セラミックスを酸に溶解することにより、水の水素イオンH+と水酸基イオンOH-と酸
の水素イオンH+、金属Mの金属塩であるMX3が存在する状態になる。
【0012】
セラミックスを溶融した酸性混合溶液を亜臨界状態にすることにより、金属塩は加水分解
され、金属イオンM3+と酸イオンX-に、また水は水素イオンH+と水酸基イオンOH
-の状態になる。その後、それぞれ金属Mの水酸化物M(OH)3と遊離酸HXになる。
【0013】
固液分離により、金属酸化物または金属水酸化物を遊離酸HXから分離をする。
図1中で
は水酸化物M(OH)3を分離している。
【0014】
次に実際の処理方法について説明する。実施形態にかかる処理方法は上記構成を有すれば
特に限定されるものではないが、効率的に得るための方法として次のものが挙げられる。
【0015】
実施形態にかかるセラミックスからの金属回収処理方法のフローを
図2に示す。
まず、廃材等のセラミックスを酸に溶解させる。効率よく溶解させるためにはセラミック
スを破砕しておく必要があるが、破砕する際に器具や装置などから不純物が入らないよう
に注意する。助剤成分を含まない、あるいはほとんど含まないセラミックスは、そのまま
の状態で粉砕して溶解することにより、本セラミックスを構成する単一の金属成分を回収
することが可能である。
【0016】
しかしながら、一定以上の助剤成分を含んだセラミックスの場合は、助剤成分を含んだま
まで溶解を行う場合と助剤成分を可能な限り除去して溶解を行う場合に分けられる。前者
であれば、溶解前の処理はないが、使用する酸や温度によっては、助剤が含まれたままセ
ラミックスが回収されるため、得られた原料を再利用する場合には、再度精製を行うこと
や助剤成分が含まれたままの状態での再利用を行うことになる。後者の場合は、例えばエ
ッチング処理により粒界にある錠剤成分を除去した後に溶解する。この場合は、エッチン
グ処理をするのに適した大きさで処理を行った後で、溶解しやすい大きさまで破砕する。
このように前処理の手間はかかるが純度の高いセラミックスを回収することが可能である
。
【0017】
セラミックスを溶解させる酸は、リン酸、硫酸、塩酸、硝酸、シュウ酸、フッ酸、酢酸か
ら選ばれる1種以上の酸による酸性水溶液を使用する。酸の濃度は、セラミックスの種類
や粉砕後の粒径によって溶解状況が変わってくるため、状況に合わせて調整を行う。
一般には酸の濃度を上げると溶解が進むが、急速な反応により機器の破損等がないように
注意を行う。
【0018】
セラミックスの酸への溶解は100℃未満の温度で行う。望ましくは20℃から100℃
までの温度、かつ飽和蒸気圧以上の環境で溶解させる。これは温度が高いほど、一般的に
酸への金属の溶解量が増えることと、飽和蒸気圧下にすることで水の蒸発抑制による濃度
変化の低減や酸の揮発による環境への悪影響を抑制することができるためである。
【0019】
次にセラミックスを溶解した酸性混合液を100~300℃で飽和蒸気圧以上の環境下で
昇温することにより、亜臨界状態にする。これにより、酸中の金属塩は加水分解され、金
属水酸化物または金属酸化物と遊離酸に変換する。この場合、100℃より低ければ加水
分解が困難になり、300℃より高くなれば酸が分解するため、再利用効率が悪化する。
金属酸化物と酸の再利用効率を両立するには100~200℃が好ましい。
【0020】
遊離酸と固体となった金属酸化物または金属水酸化物を固液分離して、それぞれを回収す
る。固液分離手段は、蒸留法などがある。亜臨界処理後の混合液は、揮発成分としての硝
酸と、不揮発成分としての酸化金属や金属水酸化物からなるものであるために、単純な蒸
留装置により分離でき、しかも、高価な消耗品を必要とせず低コストでセラミックスから
金属酸化物を回収し、かつ溶媒として利用した酸を回収できる。
【0021】
混合液中の金属からなる酸性塩は、加水分解により生成される金属酸化物となるため、固
液分離手段により、酸と金属酸化物との分離が容易になる。固液分離手段としては、沈殿
分離、膜分離、蒸留等が可能で、それらを単独で行ったり、または、組み合わせたりして
も良い。たとえば、組み合わせにより沈殿分離や膜分離で大まかに酸性水溶液と金属酸化
物のスラリーとに分離した後、水溶液を蒸留して酸を優先的に気化させて分離回収すると
、効率的に行える場合がある。高価な消耗品を必要とせず低コストで酸を回収できる。
【0022】
分離回収する揮発成分には水分が含まれるために、水分との分離効率を上げるには、多段
蒸留が望ましい。また、膜分離法では蒸留に比べて低エネルギーで硝酸溶液を回収できる
が分離膜が高価になる可能性がある。特に、逆浸透膜では、金属と硝酸の分離が難しく、
不純物による劣化により高価な分離膜の交換が必要となるため亜臨界水処理生成物の分離
法としては不適当であると考えられる。
【0023】
固液分離した遊離酸はセラミックスからの金属酸化物回収に再利用する。金属酸化物およ
び金属水酸化物は工業用原材料として再利用する。
【0024】
(実施例1)
予め粗く砕いておいたガドリニウム酸硫化物(Gd2O2S)の廃材をパウダーミルによ
り粉砕した。粉砕したガドリニウム酸硫化物粉末を通篩して30μm以下のガドリニウム
酸硫化物の粉末を得た。得られたガドリニウム酸硫化物の粉末を硝酸(HNO3)35w
t%水溶液中で溶解して、ガドリニウム酸硫化物の硝酸溶液を作製した。ガドリニウム酸
硫化物の加水分解を行うために、硝酸溶液を250℃1時間の亜臨界状態にした。
亜臨界状態で発生した沈殿物を沈殿分離法により溶液と分離した。得られた沈殿物を分析
したところ水酸化ガドリニウムが検出された。
亜臨界状態でのガドリニウム酸硫化物の反応式は以下のとおりである。
Gd2O2S+4H2O→2Gd(OH)2+H2S
【0025】
(実施例2)
焼結助剤としてアルミナ(Al2O3)、イットリア(Y2O3)、チタニア(TiO2
)を添加した窒化珪素製品の廃材を粉砕し、メッシュにより0.5~1.0mmの大きさ
に分級した。得られた窒化珪素を30wt%水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液にて煮
沸して粒界中のガラス成分をエッチング除去した。エッチング後の窒化珪素を水洗乾燥し
てファインパウダーミルにて20μm以下に粉砕した。粉砕した窒化珪素粉末を有機溶剤
中ボールミルにて湿式粉砕を行ってスラリーを得た。スラリーを乾燥して得られた窒化珪
素粉末を硝酸(HNO3)60wt%水溶液中で溶解して、窒化珪素の塩酸溶液を作製し
た。窒化珪素の加水分解を行うために、塩酸溶液を150℃1時間の亜臨界状態にした。
亜臨界状態で発生した沈殿物を沈殿分離法により溶液と分離した。得られた沈殿物を分析
したところ二酸化珪素(SiO2)が検出された。
亜臨界状態での窒化珪素の反応式は以下のとおりである。
Si3N4+6H2O→3SiO2+4HN3
【0026】
(実施例3)
焼結助剤としてイットリア(Y2O3)を添加した窒化アルミニウム(AlN)製品の廃
材を粉砕し、メッシュにより0.5~1.0mmの大きさに分級した。窒化アルミニウム
を30wt%水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液にて煮沸して粒界中のガラス成分をエ
ッチング除去した。エッチング後の窒化アルミニウムを水洗乾燥してファインパウダーミ
ルにて20μm以下に粉砕した。粉砕した窒化アルミニウム粉末を有機溶剤中ボールミル
にて湿式粉砕を行ってスラリーを得た。スラリーを乾燥して得られた窒化アルミニウム粉
末を塩化水素35wt%水溶液中で溶解して、窒化アルミニウムの塩酸溶液を作製した。
窒化アルミニウムの加水分解を行うために、塩酸溶液を150℃1時間の亜臨界状態にし
た。
亜臨界状態で発生した沈殿物を沈殿分離法により溶液と分離した。得られた沈殿物を分析
したところ水酸化アルミニウム(Al(OH)3)が検出された。
この水酸化アルミニウムを加熱することによりアルミナ(酸化アルミニウム:Al2O3
)を生成した。
亜臨界状態での窒化珪素の反応式は以下のとおりである。
AlN+3H2O→Al(OH)3+HN3
【0027】
(比較例1)
実施例1において、ガドリニウム酸硫化物の加水分解を行うための硝酸溶液の温度を80
℃にした以外はプロセスを同じとした。本比較例では、水溶液中の加水分解が困難になり
、水溶液中に沈殿物が得られなかった。
【0028】
(比較例2)
実施例1において、ガドリニウム酸硫化物の加水分解を行うための硝酸溶液の温度を35
0℃にした以外はプロセスを同じとした。本比較例では、塩酸溶液の分解が起こったこと
による加水分解が低下するとともに塩酸の分離回収が困難になった。
これらの実験結果により、実施例はセラミックス回収において非常に優れていると言える
。
【0029】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示し
たものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、
その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種
々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発
明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲
に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。