(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】荷電粒子装置で調査するための生体試料を調製する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2258 20180101AFI20230828BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20230828BHJP
G01N 23/2251 20180101ALI20230828BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230828BHJP
【FI】
G01N23/2258
G01N1/28 J
G01N1/28 F
G01N23/2251
G01N27/62 V
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019194889
(22)【出願日】2019-10-28
【審査請求日】2022-10-11
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】アルベルト コニユネンベルク
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-156823(JP,A)
【文献】特表2018-527925(JP,A)
【文献】特開2015-068832(JP,A)
【文献】特表2012-525687(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0063145(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0181495(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0278400(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0325423(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G01N 1/00 - G01N 1/44
G01N 33/48 - G01N 33/98
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 21/00 - G01N 21/958
A61B 6/00 - A61B 6/14
H01J 37/00 - H01J 37/36
H01J 49/00 - H01J 49/48
G01B 15/00 - G01B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子装置で調査するための生体試料を調製する方法であって、前記方法は、
調査対象の生体物質を提供する工程と、
前記荷電粒子装置に配置されるように構成された試料ホルダーを提供する工程と、
前記生体試料を調製するために、前記生体物質を前記試料ホルダー上に移す工程とを含み、
前記試料ホルダー上に提供された前記生体物質の標本を取得し、前記標本に対して周囲イオン化質量分析を実行する工程
と、
前記周囲イオン化質量分析によって得られた結果に基づいて前記生体試料を評価する工程に特徴付けられる、方法。
【請求項2】
調査される前記生体物質が溶液で供給され、前記溶液が前記試料ホルダーに移される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料ホルダーに移された前記生体物質の標本を取得する前記工程に、吸収技術を使用して前記標本を取得する工程を含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記吸収技術が、吸取紙などの吸取材料を使用する吸い取りを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記吸取材料が、周囲イオン化質量分析を実行する前記工程において少なくとも部分的に使用される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記評価
する工程が、前記生体試料の品質等級を
確認する工程を含む、請求項
1~請求項5いずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記試料ホルダーを前記生体試料と共に前記荷電粒子装置に移し、前記生体試料を分析する工程を含む、請求項1~請求項
6いずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記荷電粒子装置を使用して前記生体試料を移動及び分析する前記工程が、前記生体試料に対して特定の最低品質等級が
確認されている場合にのみ実行される、請求項7
に記載の方法。
【請求項9】
前記評価する工程が、前記生体試料の分析において得られた情報の精度を高めるために使用される、請求項
1~請求項7いずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記周囲イオン化質量分析が、ペーパースプレーイオン化、液体抽出表面分析、又は脱離エレクトロスプレーイオン化からなるグループから選択される一つ又は複数の技術を含む、請求項1~請求項
9いずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記試料ホルダーがグリッドを含む、請求項1~請求項
10いずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記生体試料を調製するために、前記試料ホルダー上の前記生体物質を寒剤を使用して急速冷却する工程をさらに含む、請求項1~請求項
11いずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子装置で調査するための生体試料を調製する方法に関する。
【0002】
生物学は、物理構造、化学プロセス、分子相互作用、生理学的メカニズム、開発若しくは進化を含む、生命及び生物を研究又は調査する自然科学である。
【背景技術】
【0003】
細胞生物学は、生命の基本単位である細胞の構造及び機能を研究又は調査する生物学の分野である。細胞生物学は、生理学的特性、代謝プロセス、シグナル伝達経路、ライフサイクル、化学組成、又は細胞と環境との相互作用に関係している。細胞生物学において、高分子間分子認識は、細胞の中で最も洗練されたプロセスの全てを支配する。最も一般的な高分子には、生体高分子(核酸、タンパク質、炭水化物、脂質)と、大きな非高分子(脂質、大環状分子など)が含まれる。
【0004】
多くの研究者は、構造力学と相互作用を明らかにするために、自然環境の高分子複合体を高解像度で調査することに関心を持っている。この目的のために、荷電粒子顕微鏡を使用することができる。荷電粒子顕微鏡法は、特に電子顕微鏡の形態で顕微鏡物体を画像化するためによく知られており、かつより重要な技術である。歴史的に、電子顕微鏡の基本的な属は、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)、及び走査透過電子顕微鏡(STEM)のような、多くのよく知られたの装置種に進化し、又、例えば、イオンビームミリング又はイオンビーム誘起堆積(IBID)などの補助としての「機械」集束イオンビーム(FIB)を採用するいわゆる「デュアルビーム」ツール(例えば、FIB-SEM)などのさまざまな亜種にも使用される。
【0005】
EMは、生体試料調査に多くの方法を提供し、従来のTEMは、生体試料の全体的な形態調査に使用され、電子結晶学あるいは単一粒子分析は、タンパク質及び高分子複合体の調査に専念され、(クライオ)電子断層撮影あるいは硝子体切片(CEMOVIS)のCryo-EMは、細胞小器官及び分子構造を目指している。Cryo-EM及びCEMOVISにおいて、試料は、ガラス化技術を使用した急速凍結により保存され、cryo-TEMで観察される。CEMOVISは、試料の低温切断(cryo-sectioning)が追加され、これは、cryo-FIB技術を使用して実行することができる。
【0006】
分析装置における調査のために生体試料を調製することは、多くの場合、時間がかかり、多くの人手を要する。これらの調査に関連する欠点の一つは、ユーザーが生体試料の調製が成功したかどうかを、生体試料が分析装置で調製及び調査された後にのみ知るということである。
【0007】
Cryo-EM標本の調製は、例えば、生体物質(通常は精製タンパク質複合体)の水性試料を採取し、それを支持組織(グリッド)に適用し、それを可能な限り薄い(生体分子のサイズに応じて100~800Å)の層に縮小し、そして、水が結晶化するのを防ぐのに十分な速さでこの層を凍結する。生体試料を調製するこのプロセスの多くの側面には問題がある。
【0008】
課題の一つは、支持構造上の試料の薄い層を取得することである。
【0009】
米国公開第2010/181495A1号において、低温電子顕微鏡用の標本を調製するための方法及び装置が記載されている。ここでは、担体がホルダーに固定され、試料液が担体に適用され、吸収媒体によって担体から過剰な試料液を除去するための吸取装置が適用されている。吸収媒体に光が照射され、吸収媒体の光学特性の変化が光センサー装置によって検出される。検出された光学特性の変化に応じて、コントロールが担体から吸い取りを離す(blotting away)。これにより、薄層を得る工程の再現性が向上する。
【0010】
吸取工程を再現可能な方法で確立することは困難なため、米国公開第2017/350798A1号は、試料の体積をマイクロリットルスケールからピコリットルスケールへ減らすことにより、過剰な流体の吸い取り(blotting)の要件を最小限に抑える、又は排除できる方法及び装置を提案している。
【0011】
吸取工程は、難題をもたらすが、生体試料を調製する上記の工程の他の多くの側面も同様に挑戦的(challenging)であり、予測不可能である。精製された複合体は、その精製された複合体を変化させる微視的な表面、材料、又は活性化に直面する可能性がある。多くの場合、これらの変更は、グリッド上の試料がCryo-EMで検査された後にのみ表示される。したがって、科学者の調製時間や高価なEMの使用時間などの貴重な資源が無駄になる可能性がある。
【0012】
これを考慮して、本発明の目的は、荷電粒子装置で調査するための生体試料の調製に関連する改善された方法、特に上述の貴重な資源の浪費を防ぐ方法を提供することである。
【0013】
この目的のために、本発明は、請求項1で定義される分析装置で調査するための生体試料を調製する方法を提供する。本明細書で定義される前記分析装置は、電子顕微鏡の形態の荷電粒子顕微鏡などの荷電粒子装置である。しかしながら、前記分析装置は、一般的に、生体試料を分析するために多くの資源、特に時間と費用を必要とする分析装置であり得ることに留意されたい。
【0014】
具体的に言うと、分析装置は、cryo-TEMなどのEM装置であり得る。これらは比較的高価であり、試料の分析に多くの時間が必要である。光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、走査プローブ顕微鏡など、他の顕微鏡も比較的高価である。例えば、X線回折装置も同様である。
【0015】
本発明による方法は、前記分析装置で調査される生体物質を提供する工程を含む。前記生体物質は、細胞、細胞成分、単細胞生物、タンパク質複合体などの高分子などであり得る。前記生体物質は、水性液体の塊で保存及び調査される必要があると考えられる。前記液体は、水、電解質、細胞液、血漿などであり得る。水性液体は、一つ以上の緩衝液を含み得る。
【0016】
この方法は、分析装置に配置されるように構成された試料ホルダーを提供する工程をさらに含む。試料ホルダーは、いくつかの実施形態では、分析装置で使用できる任意の適切な容器であり得る。他の実施形態では、例えば試料ホルダーは、前記分析装置の特定の凹部と嵌合するように構成されているという事実により、試料ホルダーは分析装置に配置されるように特別に構成される。特定の実施形態では、試料ホルダーはEMグリッドである。
【0017】
生体物質及び試料ホルダーが提供されると、前記生体物質は、前記生体試料を調製するために前記試料ホルダーに移される。移動した後、試料ホルダーは分析装置で完全に調査できる状態にあると考えられる。あるいは、生体試料の調製と競合するために、cryo-EMの場合におけるガラス化工程など、一つ以上の追加工程を要する場合がある。したがって、一実施形態では、この方法は、前記生体試料を調製するために、前記試料ホルダー上の前記生体物質を寒剤を使用して急速冷却する工程をさらに含むことができる。
【0018】
効果的な方法で資源を使用することに貢献するために、本明細書で定義される方法は、前記生体物質の標本を取得し、スクリーニング装置で前記標本をスクリーニングする追加工程を提供する。次いで、前記スクリーニングの結果を使用して、前記生体試料を評価することができる。前記評価は、前記生体試料の品質等級を定義する工程を含んでもよい。例えば、前記スクリーニング装置により得られた結果に基づいて、生体試料が分析装置で調査されるのに十分に調製されていないと決定され得る。したがって、貴重な資源を節約するために、分析装置での調査を続行しないことが決定される場合がある。
【0019】
このように、試料ホルダーにすでに提供されている試料の一部が、標本として取得され、この標本が順番にスクリーニングされる。そうすることにより、試料調製中における、試料と環境との相互作用がすでに説明され、信頼性があり代表的なスクリーニングの結果を可能にする。特に、標本は、実際の試料が分析装置で調査される前にスクリーニングされる可能性があり、したがって、結果の評価には、この特定の生体試料が分析装置で調査されるかどうかを決定することが含まれる。その場合、上記方法により、資源は有用に使用される。これにより、本発明の目的が達成される。
【0020】
方法は、一実施形態において、前記試料ホルダーを前記生体試料とともに前記分析装置に移し、前記生体試料を分析する工程を含むことができる。この工程は、例えばスクリーニング装置の結果の評価に基づいて、条件付きで実行されてもよい。一実施形態では、前記生体試料の移動及び分析の前記工程は、前記生体試料に対して特定の最低品質等級が定義されている場合にのみ実行される。
【0021】
あるいは、又はさらに、前記評価する工程は、前記生体試料の分析で得られた情報の精度を高めるために使用される。したがって、スクリーニングは、分析装置内の生体試料の調査の結果を解明するために使用されてもよい。したがって、生体標本の評価は、生体試料の調査の了解度を高めるために使用され得る。例えば、スクリーニングは分析物のオリゴマー組成を明らかにするか、翻訳後修飾の証拠を提供する可能性があり、そうでなければ、試料分析で検知されない可能性がある。
【0022】
本発明によれば、荷電粒子装置で調査するための生体試料を調製する方法が提供され、前記方法は以下の工程を含む。
【0023】
調査対象の生体物質を提供する工程。
【0024】
前記荷電粒子装置に配置されるために構成された試料ホルダーを提供する工程。
【0025】
前記生体試料を調製するために、前記生体物質を前記試料ホルダーへ移動する工程。そして、
【0026】
前記試料ホルダーに提供された前記生体物質の標本を取得し、前記標本に対して周囲イオン化質量分析を実行する工程。
【0027】
この方法は、荷電粒子装置、特にCryo-EMなどの電子顕微鏡での調査のために、生体試料、特にタンパク質複合体を調製する工程を含んでもよい。前記生体試料は、EMグリッドなどの適切な支持構造上に提供されてもよい。次に、生体試料が支持構造上に提供されると、その試料の一部が標本として採取され、前記標本の直交解析(すなわちスクリーニング)のために周囲イオン化質量分析が実行される。したがって、実際には、本明細書で定義されるスクリーニング装置には質量分析計が含まれる。
【0028】
ネイティブ質量分析による試料のスクリーニングは、生体試料、特にタンパク質複合体の一つ又は複数の態様に関連する情報を生成する。これらの態様には、例えば、生体試料の試料純度、完全性、又は均質性が含まれる。タンパク質複合体の化学量論、タンパク質の同一性と配列情報、翻訳後修飾、低分子結合。この情報に基づき、調製した試料が荷電粒子顕微鏡を使用して正常に調査できるかどうかを評価することができる。例えば、質量分析で得られた構造情報をユーザーに直接報告し、見込みのない試料を排除することができる。情報は、分析前に試料担体をさらに処理せずにタンパク質中心法を介して取得することができ、(構造)情報は無傷の生体分子から取得され、試料担体は、ボトムアッププロテオミクスアプローチとして技術者に知られているものの分析前に処理される。したがって、質量分析を使用した生体標本のスクリーニングは、荷電粒子顕微鏡法によって得られた結果の精度向上又は解明するために使用できる。
【0029】
周囲イオン化質量分析は、ペーパースプレーイオン化、液体抽出表面分析、脱離エレクトロスプレーイオン化からなるグループから選択される一つ又は複数の技術を含んでもよい。他の技術も考えられ得る。
【0030】
上記から、荷電粒子顕微鏡で調査するための生体試料調製と質量分析を組み合わせることにより、低温電子顕微鏡法の前にグリッド上の試料を迅速にスクリーニングするための完全なワークフローが提供される。
【0031】
一実施形態では、本方法は、溶液中で調査される前記生体物質を提供する工程を含む。例えば、調査される生体物質が提供されてもよく、方法は前記生体物質で溶液を調製する工程を含んでもよい。次いで、一つ又は複数の緩衝液を含む水性液体で提供されるタンパク質複合体などの溶液を、前記試料ホルダーに移してもよい。
【0032】
一実施形態では、前記試料ホルダーに移された前記生体物質の標本を取得する前記工程は、吸収技術を使用して前記標本を取得する工程を含む。このような技術は、試料ホルダーに用意されている生体物質の容易で、信頼性が高く、迅速な取得に適している。この点に関して、本明細書で定義される吸収技術は、両方の吸収現象、すなわち蓄積が担体のバルクで起こる吸収減少、及び、すなわち蓄積が担体の表面で起こる吸収減少、を含むことに留意されたい。
【0033】
例として、特にCryo-EM標本を調製するために、試料ホルダー上に設けられる層ができるだけ薄いことが重要であることに留意されたい。このため、生体物質の水性試料が支持構造(グリッド)に適用されると、通常、吸取紙を使用して余分な試料を除去し、生体試料層をできるだけ薄くなるようにする。この吸収の一般的な技術は、スクリーニング装置で使用するための生体標本を取得するために効果的に使用され得る。
【0034】
一実施形態では、吸収技法としての前記吸い取りは、本明細書に記載される方法において効果的に使用され得、特に、吸取紙のような吸取材料に使用され、前記吸取材料は、周囲イオン化質量分析を実行する前記工程で少なくとも部分的に使用される。周囲イオン化質量分析法は、生体試料に特に有用であることが判明している。さらに、EMとMSの実行に必要な試料濃度はほぼ同じである。この実施形態では、EM試料の調製で既に使用されている(通常廃棄される)吸取材料は、EM試料をEMで調査できるかどうかを評価するスクリーニング方法で効果的に使用される。ここで、吸取材料内(あるいは吸取材料上)に存在する標本は、EMグリッド上に存在する試料と高い類似性を有し、信頼性があり、予測可能なスクリーニング装置の結果につながる。さらに、方法のこの実施形態は、制御された試料調製及びスクリーニングが可能であるように、容易に自動化され得ることが想定される。
【0035】
吸取紙などの吸取材料の操作が考えられる。例えば、周囲イオン化質量分析の前記工程を実行する前に、吸取材料の一部が取り除かれる又は切断されることが考えられる。一実施形態では、吸取材料は、異なる試料ごとに複数回使用され、周囲イオン化質量分析を使用して個々の試料を試験するために、吸取材料は対応する断片に切断される。これは、試料調製の自動化に有用である。
【0036】
本発明は、ここで、例示的な実施形態及び添付の概略図面に基づいてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の第1の実施形態による、荷電粒子顕微鏡の縦断面図を示す。
【
図2】荷電粒子顕微鏡で調査するための試料として調製されている生体試料をスクリーニングする方法の第1の実施形態を示す。
【
図3】荷電粒子顕微鏡での調査のための試料として調製されている生体試料をスクリーニングする方法の第2の実施形態を示す。
【
図4】荷電粒子顕微鏡での調査のための試料として調製されている生体試料をスクリーニングする方法の第3の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1(縮尺通りではない)は、本発明による方法の実施形態において分析装置として使用できる荷電粒子顕微鏡Mの実施形態の非常に概略的な描写である。より具体的には、透過型顕微鏡Mの実施形態を示しており、この場合、これはTEM/STEMである(ただし、本発明の文脈では、有効にSEM(
図2参照)、又は例えばイオンベースの顕微鏡とすることができる)。
図1では、真空筐体2内において電子源4は、電子光学軸B’に沿って伝搬し、電子光学イルミネータ6を横断する電子のビームBを生成し、生体試料S(例えば、(局所的に)薄くされ/平坦化されてもよい)の選択された部分に電子を向ける/集束する働きをする。また、偏向器8も図示されており、これは(とりわけ)、ビームBの走査運動のために使用することができる。
【0039】
生体試料Sは、試料ホルダーH、この場合、グリッドの形態の支持構造(図示せず)に固定されており、この試料ホルダーHは、ホルダーHが(取り外し可能に)取り付けられているクレードルA′を移動する位置決め装置/ステージAによって多自由度に位置することができる。例えば、標本ホルダーHは、XY平面内で(とりわけ)移動できる指(finger)を含むことができる(図示されているデカルト座標系を参照。通常、Zに平行、又はX/Yの傾斜な動きも可能)。このような動きにより、試料Sの異なる部分が、軸線B’(Z方向)に沿って進む電子ビームBによって照明/撮像/検査されることを可能にする(及び/又は、走査する動きがビーム走査の代替として実行されることを可能にする)。所望に応じて、冷却装置(図示されていないが、当業者に知られている)を試料ホルダーHと密接に熱接触させ、例えば、試料ホルダーH(及びその上の試料S)を極低温に保持することができる。
【0040】
電子ビームBは、試料Sと相互作用して、(例えば)二次電子、後方散乱電子、X線、及び光学的放射(陰極線発光)を含む様々な種類の「誘導(stimulated)」放射線が試料Sから放出されるようになる。所望に応じて、例えば、シンチレータ/光電子増倍管、又はEDX(エネルギー分散型X線分光)モジュールを組み合わせた検出装置22の補助により、これらの放射線の種類のうちの一つ以上を検出することができ、このような場合には、SEMと基本的に同じ原理を使用して画像を構築することができる。しかし、試料Sを横断(通過)し、試料から放射/放出され軸線B’に沿って(実質的には、一般的に、ある程度偏向/散乱しながら)伝搬し続ける電子を代替的に、又は補足的に調査することができる。このような透過電子束は、撮像システム(投影レンズ)24に入射し、撮像システム24は一般的に、多種多様な静電レンズ/磁気レンズ、偏向器、補正器(例えばスティグメータのような)などを備えている。通常の(非走査)TEMモードでは、この撮像システム24は、透過電子束を蛍光スクリーン26に集束させることができ、蛍光スクリーン26は、所望に応じて、それを軸B’の邪魔にならないように後退/回収する(矢印26’で概略に示すように)ことができる。試料Sの(一部の)画像(又は、フーリエ変換図形)は、撮像システム24によりスクリーン26上に形成され、この画像は、筐体2の壁の好適な部分に位置する視認ポート28を介して視認することができる。スクリーン26の後退機構は、例えば、本質的に機械的及び/又は電気的な機構であり得、ここには図示されていない。
【0041】
スクリーン26上の画像を視認することの代替として、撮像システム24から出ていく電子束の焦点深度が一般的に、極めて深い(例えば、約1メートル)という事実を代わりに利用することができる。その結果、以下のような様々な他の種類の分析装置をスクリーン26の下流で使用することができる。
【0042】
TEMカメラ30。カメラ30の位置に、電子束は、静止画像(又は、フーリエ変換図形)を形成することができ、静止画像は、コントローラ/又はプロセッサ20により処理することができ、例えばフラットパネルディスプレイのような表示装置(図示せず)に表示することができる。必要ではない場合、カメラ30は、後退/回収(矢印30’で概略に示すように)されて、カメラを軸線B’から外れるようにすることができる。
【0043】
STEMカメラ32。カメラ32からの出力は、試料S上のビームBの(X、Y)走査位置の関数として記録することができ、X、Yの関数としてのカメラ32からの出力の「マップ(map)」である画像を構築することができる。カメラ32は、カメラ30に特徴的に存在する画素行列とは異なり、例えば直径が20mmの1個の画素を含むことができる。さらに、カメラ32は、一般的に、カメラ30(例えば、102画像/秒)よりも非常に高い取得速度(例えば、106ポイント/秒)を有することになる。この場合も同じく、必要でない場合、カメラ32は、(矢印32’で概略に示すように)後退/回収されて、カメラを軸線B’から外れるようにすることができる(このような後退は、例えばドーナツ形の環状暗視野カメラ32の場合には必要とされないが、このようなカメラでは、中心孔により、カメラが使用されていなかった場合に電子束を通過させることができる)。
【0044】
カメラ30又は32を使用して撮像を行うことの代替として、例えば、EELSモジュールとすることができる分光装置34を呼び出すこともできる。
【0045】
部品30、32、及び34の順序/位置は厳密ではなく、多くの可能な変形が考えられることに留意されたい。例えば、分光装置34は、撮像システム24と一体化することもできる。
【0046】
示される実施形態では、顕微鏡Mは、符号40で概して示される、後退可能なX線コンピュータ断層撮影(CT)モジュールをさらに備える。コンピュータ断層撮影(断層撮像とも称される)では、源及び(互いに対向する)検出器が、様々な視点から試料の透過観察を取得するように、異なる視線に沿って試料を調べるために使用される。
【0047】
コントローラ(コンピュータプロセッサ)20は、図示される様々な構成要素に、制御線(バス)20’を介して接続されることに留意されたい。このコントローラ20は、作用を同期させる、設定値を提供する、信号を処理する、計算を実行する、及びメッセージ/情報を表示装置(図示せず)に表示するといった様々な機能を提供することができる。言うまでもなく、(模式的に描かれる)コントローラ20は、筐体2の内側又は外側に(部分的に)位置させることができ、所望に応じて、単体構造又は複合構造を有することができる。
【0048】
当業者であれば、筐体2の内部が気密な真空状態に保持される必要はないことを理解できるであろう。例えば、いわゆる「環境制御型TEM/STEM」では、所与のガスの背景雰囲気が、筐体2内に意図的に導入/維持される。当業者はまた、実際には、筐体2の容積を閉じ込めて、可能であれば、筐体2が、軸線B’を本質的に包み込むようになって、採用する電子ビームが小径管内を通過し、しかも広がって源4、標本ホルダーH、スクリーン26、カメラ30、カメラ32、分光装置34などのような構造を収容する小径管(例えば、直径約1cm)の形態を採ると有利となり得ることを理解するであろう。
【0049】
ここで、
図2~4を参照すると、分析装置、例えば
図1に示された荷電粒子顕微鏡での調査のために生体試料を調整する異なる実施形態が示されている。
【0050】
一般的に、これらの
図2~4に示されている方法は、次のサブステップから構成されている。(1)精製タンパク質複合体などの生体物質52の水性試料を提供し、試料ホルダー51(ここではEMグリッドなどの支持構造)に適用する。(2)吸取紙60、61などの吸収材料61を使用する吸収技術によって示される実施形態において、前記試料ホルダー51に既に提供されている前記試料の生体標本52’を取得する。そして、(3)~(5)前記生体標本52’を処理し(
図3及び4)、スクリーニング装置でスクリーニングするために前記生体標本52’を調製する。示された実施形態では、異なる種類の周囲イオン化質量分析法が、前記生体標本のスクリーニングに使用される。これらの種類の周囲イオン化質量分析法については、以下で詳細に説明する。
【0051】
図2は、吸取紙のいわゆるペーパースプレーイオン化を示す。工程1では、供給ノズル53により生体試料52が試料ホルダー51上に提供される。工程2では、吸取紙61を使用して、余分な試料52を除去し、試料52の寸法を可能な限り薄い層に減らして、次の工程(図示せず)で試料をガラス化する。これらの試料をガラス化するプロセスの詳細は、例えば、米国登録第9,865,428B2号から入手でき、これらのプロセスはそれ自体が当業者に知られている。工程2に示すこの吸い取り(blotting)は、複数の同一又は異なる試料に対して実行できる。工程3に示すように、吸取紙60は、複数のパイ片61を含むことができ、これは試料ホルダー51上の対応する試料52を代表する複数の同じ又は異なるスクリーニング標本52’を含むことができる。次に、吸取材料60は、様々な吸取スクリーニング試料52’を分離するために吸取紙から三角形を穿刺するホルダー70に移される。次いで、これらの三角形61は、質量分析計の段階に移される。質量分析による分析のための試料を抽出及びイオン化するために、互換性のある抽出緩衝液71が吸取紙61で吸引され、高電圧(1~5kV)が分析のために質量分析計の小滴74の噴出を発生源に供給される。
【0052】
図3において、吸取材料の液体抽出エレクトロスプレーイオン化は、スクリーニングの補助として使用される。このプロセスは、
図2のプロセスと類似しているが、ここでは、吸取材料61上の標本52’を取得するための吸取装置80が使用されている。次いで、吸取装置80は、その全体が液体抽出表面分析(LESA)ステージホルダーに移され得る。ここで、工程3に示されるように、質量分析適合性緩衝液で満たされたピペット91は、生体標本52’を含む吸取材料61の表面に液滴を適用している。液滴は、そこに数秒間保持され、表面からの分析物分子の拡散が、液体の微小接合の形態を通じて起こることを可能にする。ここで、ピペット91は、標本52’の一部を含み(工程4)、質量分析計のソースに持ち込むことができ(工程5)、電圧72が印加され、分析用の質量分析計の小滴74の噴出を発生源に供給される。エミッターを使用して、溶液を再吸引し、従来の(ナノ)ESIを介して質量分析計に導入することもできる。
【0053】
図4は、吸取材料の脱着エレクトロスプレーイオン化を示す。このプロセスは、
図2及び
図3に関して説明したものと同様である。ここでは、
図3と同様に、脱着ESIステージホルダーとして機能するように移動される吸取装置80が使用される。ここで、導電性エミッター91は、電圧72が印加される質量分析適合性バッファ71で満たされ、吸取材料を濡らす帯電液滴71の流れを生成する。吸い取られた標本52’との相互作用により、標本を含むいくつかの液滴が再び電荷液滴74として放出される。次に、これらの液滴74を分析のために質量分析計の真空に導入することができる。
【0054】
上記では、本発明をいくつかの実施例によって説明してきた。本発明は、上記の実施例に限定されない。
【0055】
一般的に、本明細書に記載の方法は、分析装置で分析用の生体試料を調製する際に、例えば、実際の調製には多くの時間を要し、前記生体試料を首尾よく調製するプロセスは不確かであり、及び/又は、分析装置の時間単位あたりの費用が比較的高い、という事実と比べ、多くの資源を使用する場合に特に優れている。これは、荷電粒子装置での生体試料の調査に特に当てはまる。これらの場合、生体試料の標本を採取し、分析装置で生体試料を正常に分析できるかどうかを評価又は査定するために、直交スクリーニング装置を使用することにより、生体試料の分析プロセスで少なくとも信頼性が向上する。
【0056】
本明細書に記載の方法は、EM試料調製での使用に特に適している。EM試料の調製において、現在の制限では、試料の消費、低い処理能力、試料の消耗が含まれる。本明細書で説明される方法を用いて、これらの制限の少なくとも一つ又は複数が対処される。現在、Cyro-EMのグリッドを調製すると、吸取紙などの吸取材料に吸収され、タンパク質の99.9%が失われる。この吸取紙は、現在のところ何の役にも立たず、廃棄されている。本明細書に記載される方法の実施形態によれば、吸取材料は、特に質量分析を使用して、グリッド上の生体試料をスクリーニングするために有用に使用される。この技術は、比較的安価で、早い(紙試料あたり数秒から数分)ため、生体試料の調査の初期段階で貴重な情報(valuable information)を提供する。さらに、大量の試料セットのハイスループットスクリーニングにも使用できる。このようにして、電子顕微鏡での調査のために、生体試料を首尾よく調製するために必要な、例えば、適切な緩衝液、又は他の条件を選択することが可能である。
【0057】
さらに、試料を電子顕微鏡に取り込む前に生物学的にスクリーニングすることにより、ユーザーは、例えば、ネガティブ染色EM、ハイスループット分析の制限による電子顕微鏡での不必要な時間、資源、又は試料消費の事前スクリーニング手順を省くことにより、より高い処理能力を得ることができる。
【0058】
所望される保護は、添付の特許請求の範囲によって定義される。