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特許7338109カカオパルプジュース乾燥粉末および該粉末を配合した食品並びにこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】カカオパルプジュース乾燥粉末および該粉末を配合した食品並びにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/14 20060101AFI20230829BHJP
   A23L 2/39 20060101ALI20230829BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20230829BHJP
   A23G 1/48 20060101ALI20230829BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
A23L2/14
A23L2/00 Q
A23L2/52 101
A23G1/48
A23L2/02 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019016894
(22)【出願日】2019-02-01
(65)【公開番号】P2020124123
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(72)【発明者】
【氏名】水村 俊介
(72)【発明者】
【氏名】北島 正樹
【審査官】河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0289048(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03114939(EP,A1)
【文献】米国特許第04289790(US,A)
【文献】特表2014-503226(JP,A)
【文献】特表2021-506225(JP,A)
【文献】Wholesale Superfood Ingredients in the spotlight(アーカイブ2018年12月22日),[オンライン],[検索日2023年2月27日],http://web.archive.org/web/20181222230058/https://www.sfisuperfoods.com/superfood-ingredients-Cacao.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23G
Google
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともカカオパルプジュースと、ココアパウダーとを原料として含有してなる、カカオパルプジュース凍結乾燥粉末。
【請求項2】
カオ由来の食物繊維、デキストリンおよびリンゴ由来食物繊維からなる群から選択される1種または2種以上の食物繊維をさらに含む、請求項1に記載の凍結乾燥粉末。
【請求項3】
コアバター、植物性液状油脂、植物性固形油脂および動物性固形油脂からなる群から選択される1種または2種以上の油脂をさらに含む、請求項1または2に記載の凍結乾燥粉末。
【請求項4】
前記カカオパルプジュースが、澄明化カカオパルプジュースである、請求項1~3のいずれか一項に記載の凍結乾燥粉末。
【請求項5】
少なくともカカオパルプジュースと、ココアパウダーとを原料として含むカカオパルプジュースベースを凍結乾燥処理する工程を含む、カカオパルプジュース凍結乾燥粉末の製造方法。
【請求項6】
前記カカオパルプジュースベースが、カカオ由来の食物繊維、デキストリンおよびリンゴ由来食物繊維からなる群から選択される1種または2種以上の食物繊維をさらに含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記カカオパルプジュースベースが、さらに油脂を原料として含むものである、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記油脂が、ココアバター、植物性液状油脂、植物性固形油脂および動物性固形油脂からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記カカオパルプジュースが、澄明化カカオパルプジュースである、請求項5~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の凍結乾燥粉末を他の原料に配合する工程を含んでなる、カカオパルプジュース配合食品の製造方法。
【請求項11】
請求項5~9のいずれか一項に記載の製造方法を実施してカカオパルプジュース凍結乾燥粉末を製造し、次いで、得られた該凍結乾燥粉末を他の原料に配合する工程を含んでなる、カカオパルプジュース配合食品の製造方法。
【請求項12】
前記食品が油脂性菓子である、請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
凍結乾燥前のカカオパルプジュースにココアパウダーを含有させる工程を含む、カカオパルプジュース凍結乾燥粉末の物性を改善する方法であって、前記物性が流動性、吸湿性または粉砕加工性である、方法
【請求項14】
前記カカオパルプジュースが、澄明化カカオパルプジュースである、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカカオパルプジュースの凍結乾燥粉末および該粉末を配合した食品と、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カカオの実(カカオポッド)は長さ20cmほどのラグビーボールのような形状をしており、厚さ1cm以上の堅い殻で覆われている。カカオポッドの中にはカカオパルプと呼ばれる甘く白い果肉に包まれた30~40粒の種子、すなわちカカオ豆が含まれている。このカカオ豆は自然発酵・乾燥工程を経てカカオマスに加工され、チョコレートやココア等の原料として利用されている。
【0003】
カカオパルプはカカオ豆と一緒に自然発酵され、カカオ豆の風味付けに利用されているが、近年はカカオ豆とは別に取り出したカカオパルプの搾汁液(カカオパルプジュース)が果実ジュースの一種として注目されている。カカオパルプジュースは爽やかな酸味とほのかな甘さに加え、フルーティな香味を有している。
【0004】
これまでにカカオパルプを配合した食品組成物が知られているが(特許文献1)、カカオパルプジュースを粉末に加工し、食品に配合した例は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2017/062603号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らはカカオパルプジュースを食品原料として利用するためその乾燥粉末化を試みたところ、乾燥粉末化が困難であることが判明した。本発明者らは、乾燥粉末化について鋭意検討した結果、食物繊維と油脂を含有するカカオパルプジュースを用いることで乾燥粉末化が可能となり、得られた乾燥粉末が粉末特性に優れ、低吸湿性であることを見出した。本発明者らはまた、得られたカカオパルプジュース粉末を配合した加工食品がカカオパルプジュース由来の風味および香味に優れ、低吸湿性であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0007】
すなわち、本発明はカカオパルプジュースの凍結乾燥粉末および該粉末を配合した食品を提供することを目的とする。本発明はまた、前記凍結乾燥粉末の製造方法と、カカオパルプジュース配合食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]食物繊維成分と油脂成分とを含有してなる、カカオパルプジュース凍結乾燥粉末。
[2]食物繊維成分が、カカオ由来の食物繊維、デキストリンおよびリンゴ由来食物繊維からなる群から選択される1種または2種以上である、上記[1]に記載の凍結乾燥粉末。
[3]油脂成分が、ココアパウダー由来油脂成分、ココアバター、植物性液状油脂、植物性固形油脂および動物性固形油脂からなる群から選択される1種または2種以上である、上記[1]または[2]に記載の凍結乾燥粉末。
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載の凍結乾燥粉末を含有してなる、食品。
[5]油脂性菓子である、上記[4]に記載の食品。
[6]食物繊維成分と油脂成分とを含有するカカオパルプジュースベースを凍結乾燥処理する工程を含む、カカオパルプジュース凍結乾燥粉末の製造方法。
[7]食物繊維成分が、カカオ由来の食物繊維、デキストリンおよびリンゴ由来食物繊維からなる群から選択される1種または2種以上である、上記[6]に記載の製造方法。
[8]油脂成分が、ココアパウダー由来油脂成分、ココアバター、植物性液状油脂、植物性固形油脂および動物性固形油脂からなる群から選択される1種または2種以上である、上記[6]または[7]に記載の製造方法。
[9]前記カカオパルプジュースベースが、少なくともカカオパルプジュースと、ココアパウダーとを原料として含むものである、上記[6]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]前記カカオパルプジュースベースが、少なくともカカオパルプジュースと、ココアパウダーと、油脂とを原料として含むものである、上記[6]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]前記油脂が、ココアバター、植物性液状油脂、植物性固形油脂および動物性固形油脂からなる群から選択される1種または2種以上である、上記[10]に記載の製造方法。
[12]上記[1]~[5]のいずれかに記載の凍結乾燥粉末または上記[6]~[11]のいずれかに記載の製造方法により製造したカカオパルプジュース凍結乾燥粉末を他の原料に配合する工程を含んでなる、カカオパルプジュース配合食品の製造方法。
[12-1]上記[6]~[11]のいずれかに記載の製造方法を実施してカカオパルプジュース凍結乾燥粉末を製造し、得られた粉末を他の原料に配合する工程を含んでなる、カカオパルプジュース配合食品の製造方法。
[13]前記食品が油脂性菓子である、上記[12]または[12-1]の製造方法。
[14]凍結乾燥前のカカオパルプジュースに食物繊維および油脂を含有させる工程を含む、カカオパルプジュース凍結乾燥粉末の物性を改善する方法。
[15]食物繊維および油脂としてココアパウダーを添加する、上記[14]に記載の方法。
【0009】
本発明によれば、これまで製造が困難であったカカオパルプジュースの乾燥粉末と、該粉末を利用した食品が提供される。
【発明の具体的説明】
【0010】
凍結乾燥粉末およびその製造方法
本発明の凍結乾燥粉末は、カカオパルプジュースをベースとするものであり、少なくとも食物繊維成分と油脂成分とを含有することを特徴とする。
【0011】
本発明において食物繊維成分は、食品として許容される食物繊維成分であれば特に限定されず、例えば、カカオ由来の食物繊維、デキストリンおよびリンゴ由来食物繊維が挙げられ、好ましくはカカオ由来の食物繊維(より好ましくはココアパウダー由来食物繊維およびカカオパルプ由来食物繊維)である。本発明においては、上記成分のうち1種または2種以上を食物繊維成分として凍結乾燥粉末に含有させることができる。
【0012】
本発明において油脂成分は、食品として許容される油脂成分であれば特に限定されず、例えば、ココアパウダー由来油脂成分、ココアバター、植物性液状油脂、植物性固形油脂および動物性固形油脂が挙げられ、好ましくはココアパウダー由来油脂成分、ココアバター、植物性液状油脂および植物性固形油脂であり、より好ましくはココアパウダー由来油脂成分、ココアバターおよび植物性液状油脂であり、さらに好ましくはココアパウダー由来油脂成分およびココアバターである。本発明においては、上記成分のうち1種または2種以上を油脂成分として凍結乾燥粉末に含有させることができる。
【0013】
本発明の凍結乾燥粉末は食物繊維成分および油脂成分に加えて、乳化剤、糖類、粉乳、水あめ、果肉、香料、甘味料、酸味料等を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の凍結乾燥粉末は、少なくとも食物繊維成分と油脂成分とを含有するカカオパルプジュースベースを凍結乾燥処理に供することで製造することができる。
【0015】
本発明においてカカオパルプジュースベースは凍結乾燥処理に供される原料であり、カカオパルプジュースを主原料として含む組成物である。ここで、カカオパルプジュースとは、カカオポッド(カカオの果実体)から取り出したカカオパルプ(果肉)の搾汁液をいい、澄明化カカオパルプジュースと、非澄明化カカオパルプジュースを含む意味で用いられる。なお、「澄明化カカオパルプジュース」は遠心分離、ろ過、膜処理等のような澄明化処理を行ったものを意味する。非澄明化カカオパルプジュースは上記のような澄明化処理を行わないものを意味し、カカオパルプのピューレも含むものとする。
【0016】
本発明において原料として用いるカカオパルプジュースは濃縮や希釈を行わずに使用することができる。濃縮されたカカオパルプジュースであっても凍結乾燥処理が可能な程度に希釈して使用することができる。
【0017】
カカオパルプジュースベース全体に対する食物繊維成分の含有量は、カカオパルプジュースの粉末化が可能である限り特に限定されるものではないが、その下限値を0.8質量%、1.1質量%または1.6質量%とすることができ、その上限値を50質量%または30質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、0.8~50質量%(好ましくは1.1~30質量%または1.6~30質量%)とすることができる。
【0018】
食物繊維含有量は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の合計量で示される。食物繊維含有量は酵素-重量法(プロスキー法)により測定することができる。具体的には、食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)別表第9の第3欄に掲げる方法の詳細に対応する「別添 栄養成分等の分析方法等」(http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/pdf/foods_index_18_180119_0003.pdf)の「8食物繊維(1)プロスキー法(酵素-重量法)」に記載された方法に従って測定することができる。
【0019】
カカオパルプジュースベース全体に対する油脂成分の含有量は、カカオパルプジュースの粉末化が可能である限り特に限定されるものではないが、その下限値を0.12質量%、0.26質量%、0.55質量%、1.10質量%、4.10質量%、4.60質量%、6.10質量%、8.10質量%とすることができ、その上限値を50質量%、20質量%または10質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、0.12~50質量%(好ましくは0.26~20質量%または1.10~10質量%)とすることができる。
【0020】
油脂成分含有量は、食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)別表第9の第3欄に掲げる方法の詳細に対応する「別添 栄養成分等の分析方法等」(http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/pdf/foods_index_18_180119_0003.pdf)の「2脂質(4)酸分解法」に記載された方法に従って測定することができる。
【0021】
カカオパルプジュースベースは食物繊維成分および油脂成分に加えて、乳化剤、糖類、粉乳、水あめ、果肉、香料、甘味料、酸味料等を含んでいてもよい。
【0022】
カカオパルプジュースベース全体に対する乳化剤の含有量は、カカオパルプジュースの粉末化が可能である限り特に限定されるものではないが、その下限値を0質量%、0.2質量%または0.5質量%とすることができ、その上限値を2質量%または3質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、0~3質量%(好ましくは0.2~2質量%または0.5~2質量%)とすることができる。
【0023】
本発明においてカカオパルプジュースベースは、カカオパルプジュースの他に、食物繊維成分と油脂成分とを含有している限りその配合原料は限定されない。例えば、ココアパウダーは食物繊維と油脂成分とを含有していることから、カカオパルプジュース(特に澄明化カカオパルプジュース)にココアパウダーを添加してカカオパルプジュースベースとすることができ、また、カカオパルプジュース(特に澄明化カカオパルプジュース)にココアパウダーおよび油脂を添加してカカオパルプジュースベースとすることもできる。あるいは、非澄明化カカオパルプジュースは食物繊維であるカカオパルプを含んでいることから、非澄明化カカオパルプジュースに油脂を添加してカカオパルプジュースベースとすることもできる。ここで、カカオパルプジュースに添加する油脂は、例えば、ココアバター、植物性液状油脂、植物性固形油脂および動物性固形油脂が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。なお、いずれの例もさらに乳化剤や、糖類、粉乳、水あめ、果肉、香料、甘味料、酸味料等の成分をカカオパルプジュースベースに添加してもよい。
【0024】
澄明化カカオパルプジュースにココアパウダーを原料として配合してカカオパルプジュースベースとする場合、カカオパルプジュースベース全体に対するココアパウダーの含有量は、カカオパルプジュースの粉末化が可能である限り特に限定されるものではないが、その下限値を1.2質量%、2.5質量%または5質量%とすることができ、その上限値を30質量%、15質量%または10質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、1.2~30質量%(好ましくは2.5~15質量%または5~10質量%)とすることができる。
【0025】
澄明化カカオパルプジュースにココアパウダーおよび油脂を原料として配合してカカオパルプジュースベースとする場合、カカオパルプジュースベース全体に対する油脂の含有量は、カカオパルプジュースの粉末化が可能である限り特に限定されるものではないが、その下限値を3質量%、5質量%または7質量%とすることができ、その上限値を50質量%または20質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、3~50質量%(好ましくは5~50質量%または7~20質量%)とすることができる。
【0026】
本発明においてカカオパルプジュースベースは、配合原料を混合し、乳化状態(O/W)にして調製することができる。例えば、カカオパルプジュース以外の配合原料を混合し、そこにカカオパルプジュースを添加し、次いで得られた混合物を乳化(O/W)させることでカカオパルプジュースベースを調製することができる。ここで乳化状態は、原料が混合されたカカオパルプジュースベースが、分離せずに均一に混ざりあった外観を示す状態をいう。
【0027】
本発明の製造方法においては、得られたカカオパルプジュースベースを凍結乾燥処理に供する。凍結乾燥処理は常法に従って実施することができる。カカオパルプジュースベースの凍結乾燥処理の条件は、例えば、25℃~50℃(棚温度)において20時間~40時間とすることができる。
【0028】
本発明によれば、カカオパルプジュースの凍結乾燥粉末が提供される。食品加工における使用原料は、液状品よりも粉末品の方が保存、運搬、計量、ハンドリング、配合自由度の確保等で有利な側面がある。このため、本発明はカカオパルプジュース配合食品の工業生産に資するものである。
【0029】
食品およびその製造方法
本発明によれば、本発明の凍結乾燥粉末を配合してなる、食品が提供される。本発明の食品における本発明の凍結乾燥粉末の含有量は、カカオパルプジュースの風味や香味をどの程度食品に付与するかに応じて適宜決定することができるが、食品全体に対して1~95質量%(好ましくは5~85質量%または5~50質量%)とすることができる。本発明の油脂性菓子における本発明の凍結乾燥粉末の含有量は、油脂性菓子全体に対して5~50質量%(好ましくは10~40質量%または15~40質量%)とすることができる。
【0030】
本発明によれば、カカオパルプジュース配合食品の製造方法が提供される。本発明の食品の調製は、本発明の凍結乾燥粉末を他の原料に添加すること以外は、常法に従って行うことができる。すなわち、本発明によれば、本発明の製造方法によりカカオパルプジュース粉末を製造し、次いで得られた粉末を他の原料に配合する工程を含んでなる、カカオパルプジュース配合食品の製造方法が提供される。
【0031】
本発明で提供される食品としては、チョコレートのようにカカオ豆を主原料とする食品等の油脂加工食品が挙げられる。ここで、油脂加工食品は、カカオマス、ココアパウダー、ココアバター、油脂等を使用して加工した油脂性菓子を含む意味で用いられる。本発明でいう油脂性菓子とは、日本国公正取引委員会認定のルールであるチョコレート類の表示に関する公正競争規約でいうチョコレート、準チョコレート、チョコレート製品に限定されるものでなく、前記ルールに該当しないテンパータイプ、ノンテンパータイプのファットクリームや、カカオ代用脂を使用したチョコレート等、あらゆる種類の油脂性菓子を含む意味で用いられる。本発明において油脂性菓子の調製は、本発明の凍結乾燥粉末を配合すること以外は、常法に従って行うことができる。例えば、本発明の凍結乾燥粉末と油脂性菓子の原料を混合した後、ロールミルによるレファイニング(微細化)工程、コンチング工程、必要に応じてテンパリング工程、成型工程、エージング工程等を経て本発明の油脂性菓子を製造することができる。
【0032】
本発明で提供される食品は、本発明の凍結乾燥粉末を含有させることができる食品であれば、油脂加工食品に特に限定されない。例えば、パン類、ビスケット類、麺類、クラッカー、栄養補給バー等の澱粉系食品;キャンディー類、ガム類、グミ、スナック等の各種菓子類;ケーキ生地等の水系菓子類;牛乳、加工乳、アイスクリーム類、発酵乳(ヨーグルト等)、乳飲料、チーズ類、バター類、クリーム類等の乳および乳製品;野菜飲料、果汁飲料、清涼飲料等の飲料類;プリン、ゼリー、ババロア、ムース等のデザート類;ジャム、ピューレ等の果実加工品;ルウ、ソース等の調味料類等が挙げられる。本発明の凍結乾燥粉末は、各食品の特性、目的に応じ、適当な製造工程の段階で適宜添加することができる。
【0033】
本発明の食品(特に油脂性菓子)は、カカオパルプジュース特有の爽やかな酸味とほどよい甘さに加え、フルーティな香味を有しており、これまでにない風味や香味を有する食品であった。特に本発明によりカカオパルプジュースの粉末化が可能となったことから、カカオパルプジュースを高含有量で含む食品の製造が可能となった。すなわち、本発明は、カカオパルプジュースの風味や香味が強調された食品を提供できる点で有利である。
【0034】
物性の改善方法
本発明によれば、凍結乾燥前のカカオパルプジュースに食物繊維および油脂を含有させる工程を含む、カカオパルプジュース凍結乾燥粉末の物性を改善する方法が提供される。本発明の方法により改善される物性は、乾燥粉末(特に食品原料用の乾燥粉末)として求められる特性が挙げられ、例えば、流動性、吸湿性、粉砕加工性が該当する。本発明の改善方法は、本発明の凍結乾燥粉末およびその製造方法に関する記載に従って実施することができる。
【実施例
【0035】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、実施例中「カカオパルプジュース」を「カカオジュース」と略記する。
【0036】
実施例1:カカオジュース粉末の製造
表1に記載の原料を用いてカカオジュースベースを調製した。具体的には、表1に記載の原料のうち澄明化カカオジュース以外の原料をミキサーにて混合した。得られた混合物に澄明化カカオジュースを添加して混合し、最終的に乳化状態(O/W)となるようにしてカカオジュースベースを調製した。調製したカカオジュースベースをそれぞれ透明袋に投入し、冷凍庫にて凍結させて一晩静置した後、凍結乾燥機にて真空凍結乾燥処理を行って凍結乾燥粉末を得た。真空凍結乾燥処理は40℃(棚温度)、25時間の条件で実施した。
【0037】
澄明化カカオジュースは、カカオジュースからバックフィルター濾過処理により繊維分を除去して調製した。澄明化カカオジュースのブリックス値は19.4であった。また、澄明化カカオジュースは食物繊維を0.5質量%含有していたが(酵素-重量法(プロスキー法)により測定)、油脂成分をほとんど含有していなかった(0.1質量%未満、酸分解法により測定)。
【0038】
【表1】
【0039】
得られた凍結乾燥粉末について、「乾燥粉末の可否」、「粉末物性」、「吸湿性」、「再粉砕性」および「総合評価」に関して、下記基準で品質評価を実施した。
【0040】
「乾燥粉末の可否」は、本実施例で凍結乾燥粉末化が可能か否かを評価した。乾燥粉末化が可能な場合には「可」とし、不可能な場合には「不可」とした。
【0041】
「粉末物性」(流動性)は、凍結乾燥粉末化直後の粉末としての性状を手指による接触により評価した。評価に当たっては、サラサラな粉末:5点、やや粗い粉末:4点、粗いが良好な粉末:3点、ややベタツキがある粉末:2点、ベタツキがある粉末:1点として点数化した。
【0042】
「吸湿性」は、凍結乾燥粉末化後、室温・常温で60分放置後の粉末の吸湿状態を目視により評価した。評価に当たっては、吸湿性が認められない粉末(潮解性なし):5点、やや吸湿性がある粉末:4点、吸湿性があるがなお良好な粉末:3点、吸湿性がありやや固結する粉末:2点、吸湿性があり完全に固結する粉末:1点として点数化した。
【0043】
「再粉砕性」(粉砕加工性)は、凍結乾燥粉末化後、さらに包材に封入した後、粉末が包材内部において自重や外部からの軽い衝撃により崩れるか否かを目視により評価した。評価に当たっては、再粉砕が極めて容易な粉末:5点、再粉砕が容易な粉末:4点、再粉砕が可能な粉末:3点、再粉砕がやや困難な粉末:2点、再粉砕が困難な粉末:1点として点数化した。
【0044】
「総合評価」は、食品加工原料として求められる品質の観点から、得られた乾燥粉末を評価した。評価に当たっては、極めて良好な粉末:5点、非常に良好な粉末:4点、概ね良好な粉末:3点、やや劣る粉末:2点、劣る粉末:1点として点数化した。
【0045】
品質評価結果は表2に示される通りであった。
【表2】
【0046】
表2の結果から明らかなように、カカオジュースのみでは乾燥粉末化は不可能であったが(対照区1)、ココアパウダーを配合することでカカオジュースの乾燥粉末化が可能となった(試験区1)。また、ココアパウダーに加えて油脂としてココアバターを配合したカカオジュースでは、「粉末物性」、「吸湿性」、「再粉砕性」および「総合評価」の評価項目が向上する傾向が観察され(試験区2~4および7)、この傾向はココアバター以外の油脂を用いた場合にも該当した(試験区5および6)。
【0047】
実施例2:カカオジュース粉末を配合したチョコレートの製造
実施例1で製造したカカオジュース粉末を用いて油脂性菓子(チョコレート)を製造した。まず、表3に記載の原料を用いて、常法によりチョコレート生地を調製した。次いで、得られたチョコレート生地を型に充填した後、冷却固化させ、脱型して油脂性菓子(チョコレート)を得た。
【0048】
【表3】
【0049】
得られた油性菓子(チョコレート)は良好な口どけ、食感、上質なカカオ感を有するだけでなく、砂糖を使用することなくてもカカオジュース特有の快い甘味と酸味を有していた。また、得られた油性菓子(チョコレート)は吸湿性が低いことが確認された。