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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】架橋性ゴム組成物およびゴム架橋物
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/00 20060101AFI20230829BHJP
   C08L 61/10 20060101ALI20230829BHJP
   C08K 5/3467 20060101ALI20230829BHJP
   C08K 5/205 20060101ALI20230829BHJP
   C08K 5/3465 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C08L15/00
C08L61/10
C08K5/3467
C08K5/205
C08K5/3465
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019201270
(22)【出願日】2019-11-06
(65)【公開番号】P2021075594
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】關本 崇文
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-184533(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122617(WO,A1)
【文献】特開2002-220490(JP,A)
【文献】特開2013-194234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位14~50重量%、共役ジエン単量体単位(飽和化ブタジエン単位も含む)40~80重量%、およびカルボキシル基含有単量体単位0.1~30重量%を含み、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)と、
ノボラック型フェノール樹脂(B)と、
メチレンドナー化合物(C)と、
ジアミン架橋剤(D)とを含有する架橋性ゴム組成物であって、
前記カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)100重量部に対する、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の含有量が、1~100重量部である架橋性ゴム組成物。
【請求項2】
前記ノボラック型フェノール樹脂(B)100重量部に対する、前記メチレンドナー化合物(C)の含有量が、1~10重量部である請求項1に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項3】
塩基性架橋促進剤(E)をさらに含有する請求項1または2に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性に優れ、かつ、高温における引張強度が高く、耐寒衝撃性に優れたゴム架橋物を与えることのできる架橋性ゴム組成物、および、このような架橋性ゴム組成物を用いて得られるゴム架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴムに代表される飽和化ニトリル基含有共重合体ゴムは、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴムなどの、主鎖構造に炭素-炭素間不飽和結合の多い、一般的なニトリル基含有共重合体ゴムに比べて、耐熱性、耐油性、耐オゾン性などに優れているため、自動車用のシール、ホース、チューブなどのゴム部品として好適に用いられている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、高圧シール用途に用いられるゴム組成物として、水素化二トリルゴム、または、二トリルゴム100重量部に対して、フェノール樹脂が1~60重量部配合されたゴム組成物が開示されている。この特許文献1に記載の技術によれば、引張強度等の機械的強度が、ある程度向上されたゴム架橋物を得ることができるものの、耐寒衝撃性(すなわち、低温条件下での耐衝撃性)が充分でなく、そのため、耐寒衝撃性の改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-167471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、加工性に優れ、かつ、高温における引張強度が高く、耐寒衝撃性に優れたゴム架橋物を与えることのできる架橋性ゴム組成物、および、このような架橋性ゴム組成物を用いて得られるゴム架橋物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、共役ジエン単量体単位、およびカルボキシル基含有単量体単位を特定の割合で含み、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)に対し、特定量のノボラック型フェノール樹脂(B)と、メチレンドナー化合物(C)およびジアミン架橋剤(D)とを配合してなる架橋性ゴム組成物によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位14~50重量%、共役ジエン単量体単位(飽和化ブタジエン単位も含む)40~80重量%、およびカルボキシル基含有単量体単位0.1~30重量%を含み、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)と、ノボラック型フェノール樹脂(B)と、メチレンドナー化合物(C)と、ジアミン架橋剤(D)とを含有する架橋性ゴム組成物であって、前記カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)100重量部に対する、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の含有量が、1~100重量部である架橋性ゴム組成物が提供される。
【0008】
本発明の架橋性ゴム組成物において、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)100重量部に対する、前記メチレンドナー化合物(C)の含有量が、1~10重量部であることが好ましい。
本発明の架橋性ゴム組成物は、塩基性架橋促進剤(E)をさらに含有することが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、上記の架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加工性に優れ、かつ、高温における引張強度が高く、耐寒衝撃性に優れたゴム架橋物を与えることのできる架橋性ゴム組成物、および、このような架橋性ゴム組成物を用いて得られ、高温における引張強度が高く、耐寒衝撃性に優れたゴム架橋物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の架橋性ゴム組成物は、
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位14~50重量%、共役ジエン単量体単位(飽和化ブタジエン単位も含む)40~80重量%、およびカルボキシル基含有単量体単位0.1~30重量%を含み、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)と、
ノボラック型フェノール樹脂(B)と、
メチレンドナー化合物(C)と、
ジアミン架橋剤(D)とを含有し、
前記カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)100重量部に対する、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の含有量が、1~100重量部の範囲にあるものである。
【0012】
<カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)>
本発明で用いるカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)は、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位14~50重量%、共役ジエン単量体単位(飽和化ブタジエン単位も含む)40~80重量%、およびカルボキシル基含有単量体単位0.1~30重量%を含み、ヨウ素価が120以下であるものである。
本発明で用いるカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)は、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体、共役ジエン単量体、カルボキシル基含有単量体、および必要に応じて用いられる共重合可能なその他の単量体を共重合することにより得られる。
【0013】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば限定されず、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルが特に好ましい。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0014】
本発明で用いるカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)中における、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、14~50重量%であり、好ましくは18~45重量%、より好ましくは20~40重量%、さらに好ましくは20~30重量%である。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物が耐油性に劣るものとなるおそれがあり、多すぎると、得られるゴム架橋物が耐寒衝撃性に劣るものとなるおそれがある。
【0015】
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4~6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3-ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3-ブタジエンが特に好ましい。共役ジエン単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0016】
本発明で用いるカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)中における、共役ジエン単量体単位(水素化されている部分も含む)の含有量は、全単量体単位に対して、40~80重量%であり、好ましくは40~70重量%、より好ましくは40~60重量%、さらに好ましくは40~50重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物がゴム弾性に劣るものとなるおそれがあり、多すぎると、得られるゴム架橋物が耐熱性や耐化学的安定性に劣るものとなるおそれがある。
【0017】
カルボキシル基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体、共役ジエン単量体、およびα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体と共重合可能であり、かつ、エステル化等されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を1個以上有する単量体であれば特に限定されない。カルボキシル基含有単量体を用いることにより、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)に、カルボキシル基を導入することができる。
【0018】
カルボキシル基含有単量体としては、たとえば、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、およびα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体などが挙げられる。また、カルボキシル基含有単量体には、これらの単量体のカルボキシル基がカルボン酸塩を形成している単量体も含まれる。さらに、α,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸の無水物も、共重合後に酸無水物基を開裂させてカルボキシル基を形成するので、カルボキシル基含有単量体として用いることができる。
【0019】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。
【0020】
α,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体としては、フマル酸やマレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アリルマロン酸、テラコン酸などが挙げられる。また、α,β-不飽和多価カルボン酸の無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられる。
【0021】
α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn-ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチルなどのマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシルなどのマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn-ブチルなどのフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチルなどのフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシルなどのフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn-ブチルなどのシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn-ブチルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチルなどのイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;などが挙げられる。
【0022】
カルボキシル基含有単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。これらの中でも、本発明の効果がより一層顕著になることから、α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体が好ましく、α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステル単量体がより好ましく、マレイン酸モノアルキルエステルがさらに好ましく、マレイン酸モノn-ブチルが特に好ましい。なお、上記アルキルエステルのアルキル基の炭素数は、2~8が好ましい。
【0023】
カルボキシル基含有単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、0.1~30重量%であり、好ましくは1~20重量%、より好ましくは1~10重量%、さらに好ましくは1.5~8重量%である。カルボキシル基含有単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の引張強度が低下してしまう。一方、カルボキシル基含有単量体単位の含有量が多すぎると、架橋性ゴム組成物の加工性が低下してしまう。
【0024】
本発明で用いるカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)は、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、共役ジエン単量体単位、およびカルボキシル基含有単量体単位に加えて、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位をさらに含有するものであってもよい。α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位をさらに含有することにより、得られるゴム架橋物の、高温における引張強度および耐寒衝撃性をより高めることができる。
【0025】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位を形成するためのα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体としては、特に限定されないが、たとえば、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル単量体、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルコキシアルキルエステル単量体、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アミノアルキルエステル単量体、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシアルキルエステル単量体、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸フルオロアルキルエステル単量体などが挙げられる。
これらのなかでも、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル単量体、またはα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルコキシアルキルエステル単量体が好ましく、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル単量体がより好ましい。
【0026】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸のアルキルエステル単量体としては、アルキル基として、炭素数が3~10であるアルキル基を有するものが好ましく、炭素数が3~8であるアルキル基を有するものがより好ましく、炭素数が4~6であるアルキル基を有するものがさらに好ましい。
【0027】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル単量体の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-ペンチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-ドデシルなどのアクリル酸アルキルエステル単量体;アクリル酸シクロペンチル、アクリル酸シクロヘキシルなどのアクリル酸シクロアルキルエステル単量体;アクリル酸メチルシクロペンチル、アクリル酸エチルシクロペンチル、アクリル酸メチルシクロヘキシルなどのアクリル酸アルキルシクロアルキルエステル単量体;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ペンチル、メタクリル酸n-オクチルなどのメタクリル酸アルキルエステル単量体;メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロペンチルなどのメタクリル酸シクロアルキルエステル単量体;メタクリル酸メチルシクロペンチル、メタクリル酸エチルシクロペンチル、メタクリル酸メチルシクロヘキシルなどのメタクリル酸アルキルシクロアルキルエステル単量体;クロトン酸プロピル、クロトン酸n-ブチル、クロトン酸2-エチルヘキシルなどのクロトン酸アルキルエステル単量体;クロトン酸シクロペンチル、クロトン酸シクロヘキシル、クロトン酸シクロオクチルなどのクロトン酸シクロアルキルエステル単量体;クロトン酸メチルシクロペンチル、クロトン酸メチルシクロヘキシルなどのクロトン酸アルキルシクロアルキルエステル単量体;などが挙げられる。
【0028】
また、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルコキシアルキルエステル単量体としては、アルコキシアルキル基として、炭素数が2~8であるアルコキシアルキル基を有するものが好ましく、炭素数が2~6であるアルコキシアルキル基を有するものがより好ましく、炭素数が2~4であるアルコキシアルキル基を有するものがさらに好ましい。
【0029】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルコキシアルキルエステル単量体の具体例としては、アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸メトキシブチル、アクリル酸エトキシメチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸エトキシプロピル、アクリル酸エトキシドデシル、アクリル酸n-プロポキシエチル、アクリル酸i-プロポキシエチル、アクリル酸n-ブトキシエチル、アクリル酸i-ブトキシエチル、アクリル酸t-ブトキシエチル、アクリル酸メトキシプロピル、アクリル酸メトキシブチルなどのアクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体;メタクリル酸メトキシメチル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸エトキシメチル、メタクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸エトキシペンチル、メタクリル酸n-プロポキシエチル、メタクリル酸i-プロポキシエチル、メタクリル酸n-ブトキシエチル、メタクリル酸i-ブトキシエチル、メタクリル酸t-ブトキシエチル、メタクリル酸メトキシプロピル、メタクリル酸メトキシブチルなどのメタクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体;などが挙げられる。
【0030】
これらα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体のなかでも、高温における引張強度および耐寒衝撃性をより高めることができるという点より、アクリル酸アルキルエステル単量体、アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体が好ましく、アクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸メトキシエチルがより好ましく、アクリル酸n-ブチルが特に好ましい。また、これらα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0031】
本発明で用いるカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)中における、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは10~40重量%であり、より好ましくは15~38重量%、さらに好ましくは20~36重量%である。α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物の高温における引張強度および耐寒衝撃性をより適切に高めることができる。
【0032】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)は、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、共役ジエン単量体単位、および、カルボキシル基含有単量体単位、ならびに必用に応じて用いられるα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位に加えて、これらを形成する単量体と共重合可能なその他の単量体の単位を含有するものであってもよい。このようなその他の単量体としては、エチレン、α-オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤などが例示される。
【0033】
α-オレフィン単量体としては、炭素数が3~12のものが好ましく、たとえば、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどが挙げられる。
【0034】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0035】
フッ素含有ビニル単量体としては、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o-トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0036】
共重合性老化防止剤としては、N-(4-アニリノフェニル)アクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)メタクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)シンナムアミド、N-(4-アニリノフェニル)クロトンアミド、 N-フェニル-4-(3-ビニルベンジルオキシ)アニリン、N-フェニル-4-(4-ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
【0037】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。その他の単量体の単位の含有量は、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)を構成する全単量体単位に対して、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0038】
本発明で用いるカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)のヨウ素価は、120以下であり、好ましくは80以下、より好ましくは50以下、特に好ましくは30以下である。カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)のヨウ素価が高すぎると、得られるゴム架橋物の耐熱性および耐オゾン性が低下するおそれがある。
【0039】
本発明で用いるカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)のポリマー・ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは10~200、より好ましくは15~150、さらに好ましくは15~100、特に好ましくは30~70である。カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)のポリマー・ムーニー粘度を上記範囲とすることにより、架橋性ゴム組成物としての加工性を優れたものとしながら、得られるゴム架橋物の機械特性をより高めることができる。
【0040】
本発明で用いるカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)の製造方法は、特に限定されないが、上述した単量体を共重合し、必要に応じて、得られる共重合体中の炭素-炭素二重結合を水素化することによって製造することができる。重合方法は、特に限定されず公知の乳化重合法や溶液重合法によればよいが、工業的生産性の観点から乳化重合法が好ましい。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤に加えて、通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0041】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸およびリノレン酸等の脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;α,β-不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β-不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤;などが挙げられる。乳化剤の使用量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.5~5重量部である。
【0042】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。還元剤としては、特に限定されないが、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムなどのスルフィン酸塩;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アルデヒド亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムの亜硫酸塩;などが挙げられる。重合開始剤の使用量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.01~2重量部である。
【0043】
乳化重合の媒体には、通常、水が使用される。水の量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは80~500重量部、より好ましくは80~300重量部である。
【0044】
乳化重合に際しては、さらに、必要に応じて安定剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができる。これらを用いる場合においては、その種類、使用量とも特に限定されない。
【0045】
また、本発明においては、得られた共重合体について、必要に応じて、共重合体の水素化(水素添加反応)を行ってもよい。水素添加は公知の方法によればよく、乳化重合で得られた共重合体のラテックスを凝固した後、油層で水素添加する油層水素添加法や、得られた共重合体のラテックスをそのまま水素添加する水層水素添加法などが挙げられる。
【0046】
水素添加を油層水素添加法で行う場合、好適には上記乳化重合により調製した共重合体のラテックスを塩析やアルコールによる凝固、濾別および乾燥を経て、有機溶媒に溶解する。次いで水素添加反応(油層水素添加法)を行い、得られた水素化物を大量の水中に注いで凝固、濾別および乾燥を行うことによりカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)を得ることができる。
【0047】
ラテックスの塩析による凝固には、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸アルミニウムなど公知の凝固剤を使用することができる。また、塩析による凝固に代えて、メタノールなどのアルコールを用いて凝固を行ってもよい。油層水素添加法の溶媒としては、乳化重合により得られた共重合体を溶解する液状有機化合物であれば特に限定されないが、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、シクロヘキサノンおよびアセトンなどが好ましく使用される。
【0048】
油層水素添加法の触媒としては、公知の選択的水素化触媒であれば限定なく使用でき、パラジウム系触媒およびロジウム系触媒が好ましく、パラジウム系触媒(酢酸パラジウム、塩化パラジウムおよび水酸化パラジウムなど)がより好ましい。これらは2種以上併用してもよいが、その場合はパラジウム系触媒を主たる活性成分とすることが好ましい。これらの触媒は、通常、担体に担持させて使用される。担体としては、シリカ、シリカ-アルミナ、アルミナ、珪藻土、活性炭などが例示される。触媒使用量は、共重合体に対して好ましくは10~5000重量ppm、より好ましくは100~3000重量ppmである。
【0049】
あるいは、水素添加を水層水素添加法で行う場合、好適には上記乳化重合により調製した共重合体のラテックスに、必要に応じて水を加えて希釈し、水素添加反応を行う。水層水素添加法は、水素化触媒存在下の反応系に水素を供給して水素化する水層直接水素添加法と、酸化剤、還元剤および活性剤の存在下で還元して水素化する水層間接水素添加法とが挙げられるが、これらの中でも、水層直接水素添加法が好ましい。
【0050】
水層直接水素添加法において、水層における共重合体の濃度(ラテックス状態での濃度)は、凝集を防止するため40重量%以下であることが好ましい。水素化触媒は、水で分解しにくい化合物であれば特に限定されない。その具体例として、パラジウム触媒では、ギ酸、プロピオン酸、ラウリン酸、コハク酸、オレイン酸、フタル酸などのカルボン酸のパラジウム塩;塩化パラジウム、ジクロロ(シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウムなどのパラジウム塩素化物;ヨウ化パラジウムなどのヨウ素化物;硫酸パラジウム・二水和物などが挙げられる。これらの中でもカルボン酸のパラジウム塩、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウムおよびヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウムが特に好ましい。水素化触媒の使用量は、適宜定めればよいが、重合により得られた共重合体に対し、好ましくは5~6000重量ppm、より好ましくは10~4000重量ppmである。
【0051】
水層直接水素添加法においては、水素添加反応終了後、ラテックス中の水素化触媒を除去する。その方法として、たとえば、活性炭、イオン交換樹脂などの吸着剤を添加して攪拌下で水素化触媒を吸着させ、次いでラテックスを濾過または遠心分離する方法を採ることができる。水素化触媒を除去せずにラテックス中に残存させることも可能である。
【0052】
そして、水層直接水素添加法においては、このようにして得られた水素添加反応後のラテックスについて、塩析による凝固、濾別および乾燥などを行なうことにより、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)を得ることができる。この場合における、凝固に続く濾別および乾燥の工程はそれぞれ公知の方法によって行なうことができる。
【0053】
<ノボラック型フェノール樹脂(B)>
ノボラック型フェノール樹脂(B)としては、熱可塑性のフェノール樹脂であり、それ自身単独では、熱硬化性を示さないものであればよく、特に限定されない。ノボラック型フェノール樹脂(B)は、たとえば、フェノール類とアルデヒド類を酸性触媒下で反応させることにより製造することができる。
【0054】
フェノール類としては、たとえば、フェノール;o-クレゾゾール、m-クレゾール、p-クレゾール等のクレゾール類;2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール等のキシレノール類;o-エチルフェノール、m-エチルフェノール、p-エチルフェノール等のエチルフェノール類;イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p-tert-ブチルフェノール等のブチルフェノール類;p-tert-アミルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール、p-クミルフェノール等のアルキルフェノール類;フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール類;p-フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等のフェノール置換体;1-ナフトール、2-ナフトール等の1官能のフェノール類;レゾルシン、アルキルレゾルシノール、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多官能のフェノール類;などが挙げられる。これらは一種単独でも、複数種を併用してもよい。 これらのフェノール類の中でも、フェノール、クレゾール類から選ばれるものが好ましい。
【0055】
アルデヒド類としては、たとえば、ホルムアルデヒド水溶液、パラホルムアルデヒド等、アルデヒドを発生させる物質が挙げられる。
【0056】
酸性触媒としては、たとえば、蓚酸、塩酸、硫酸、ジエチル硫酸、パラトルエンスルホン酸等の酸類、酢酸亜鉛等の金属塩類などが挙げられ、これらは一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0057】
本発明の架橋性ゴム組成物中におけるノボラック型フェノール樹脂(B)の含有量は、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)100重量部に対して、1~100重量部であり、好ましくは5~75重量部、より好ましくは10~50重量部である。本発明によれば、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)に、ノボラック型フェノール樹脂(B)を上記含有量にて配合することで、架橋性ゴム組成物としての加工性に優れたものとしながら、後述するメチレンドナー化合物(C)およびジアミン架橋剤(D)の作用によって、ゴム架橋物とした際に、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)と、ノボラック型フェノール樹脂(B)との間に架橋構造を良好に形成させることができ、これにより、得られるゴム架橋物を、優れた耐寒衝撃性を有するものとしつつ、高温における引張強度が向上されたものとすることができるものである。ノボラック型フェノール樹脂(B)の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物は、高温における引張強度に劣るものとなってしまい、一方、多すぎると、架橋性ゴム組成物としての加工性に劣るものとなってしまう。
【0058】
<メチレンドナー化合物(C)>
メチレンドナー化合物(C)としては、メチレン供与性の化合物であればよく、特に限定されない。メチレンドナー化合物(C)は、通常、ノボラック型フェノール樹脂(B)の硬化剤として作用する。
【0059】
メチレンドナー化合物(C)としては、たとえば、メチレン供与性のアミン化合物、ニトロソ化合物、トリオキサンやパラホルムなどのホルムアルデヒド類、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)、メチロール基を有するレゾール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、ジビニルベンゼン化合物などが挙げられる。これらは、一種単独でも、複数種を併用してもよい。これらの中でも、本発明の作用効果をより高めることができるという点より、メチレン供与性のアミン化合物が好適である。
【0060】
メチレン供与性のアミン化合物の具体例としては、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン、ペンタメトキシメチロールメラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ペンタメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、N,N’,N’’-トリメチル-N,N’,N’’-トリメチロールメラミン、N,N’,N’’-トリメチロールメラミン、N-メチロールメラミン、N,N’-(メトキシメチル)メラミン、N,N’,N’’-トリブチル-N,N’,N’’-トリメチロールメラミン等が挙げられる。これらメチレン供与性のアミン化合物の中でも、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミンが好ましく、ヘキサメチレンテトラミンがより好ましい。
【0061】
本発明の架橋性ゴム組成物中におけるメチレンドナー化合物(C)の含有量は、特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂(B)100重量部に対して、好ましくは1~10重量部であり、より好ましくは2~10重量部、さらに好ましくは5~10重量部である。メチレンドナー化合物(C)の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物の高温における引張強度および耐寒衝撃性をより高めることができる。
【0062】
<ジアミン架橋剤(D)>
ジアミン架橋剤(D)は、アミノ基を二つ有し、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)の架橋剤として作用する化合物である。
【0063】
ジアミン架橋剤(D)の具体例としては、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、N,N-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミン、ヘキサメチレンジアミンシンナムアルデヒド付加物などの脂肪族ジアミン化合物;4,4-メチレンジアニリン、m-フェニレンジアミン、4,4-ジアミノジフェニルエーテル、3,4-ジアミノジフェニルエーテル、4,4-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミンなどのフェニル基を有するジアミン化合物;などが挙げられる。これらのなかでも、得られるゴム架橋物の耐寒衝撃性をより高めることができるという観点より、ヘキサメチレンジアミンカルバメートおよび2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンが好ましく、ヘキサメチレンジアミンカルバメートが特に好ましい。
【0064】
本発明の架橋性ゴム組成物中におけるジアミン架橋剤(D)の含有量は、特に限定されないが、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは1~10重量部であり、より好ましくは1~5重量部、さらに好ましくは1~3重量部である。ジアミン架橋剤(D)の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物の耐寒衝撃性をより高めることができる。
【0065】
<塩基性架橋促進剤(E)>
また、本発明の架橋性ゴム組成物は、上述したカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)、ノボラック型フェノール樹脂(B)、メチレンドナー化合物(C)、およびジアミン架橋剤(D)に加えて、塩基性架橋促進剤(E)を含有していることが好ましい。塩基性架橋促進剤(E)としては、ジアミン架橋剤(D)の架橋促進剤として作用する塩基性の化合物であればよく、特に限定されない。
【0066】
塩基性架橋促進剤(E)の具体例としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5、1-メチルイミダゾール、1-エチルイミダゾール、1-フェニルイミダゾール、1-ベンジルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-エチル-2-メチルイミダゾール、1-メトキシエチルイミダゾール、1-フェニル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-メチル-2-フェニルイミダゾール、1-メチル-2-ベンジルイミダゾール、1,4-ジメチルイミダゾール、1,5-ジメチルイミダゾール、1,2,4-トリメチルイミダゾール、1,4-ジメチル-2-エチルイミダゾール、1-メチル-2-メトキシイミダゾール、1-メチル-2-エトキシイミダゾール、1-メチル-4-メトキシイミダゾール、1-メチル-2-メトキシイミダゾール、1-エトキシメチル-2-メチルイミダゾール、1-メチル-4-ニトロイミダゾール、1,2-ジメチル-5-ニトロイミダゾール、1,2-ジメチル-5-アミノイミダゾール、1-メチル-4-(2-アミノエチル)イミダゾール、1-メチルベンゾイミダゾール、1-メチル-2-ベンジルベンゾイミダゾール、1-メチル-5-ニトロベンゾイミダゾール、1-メチルイミダゾリン、1,2-ジメチルイミダゾリン、1,2,4-トリメチルイミダゾリン、1,4-ジメチル-2-エチルイミダゾリン、1-メチル-フェニルイミダゾリン、1-メチル-2-ベンジルイミダゾリン、1-メチル-2-エトキシイミダゾリン、1-メチル-2-ヘプチルイミダゾリン、1-メチル-2-ウンデシルイミダゾリン、1-メチル-2-ヘプタデシルイミダゾリン、1-メチル-2-エトキシメチルイミダゾリン、1-エトキシメチル-2-メチルイミダゾリンなどの環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤;テトラメチルグアニジン、テトラエチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、1,3-ジ-オルト-トリルグアニジン、オルトトリルビグアニドなどのグアニジン系塩基性架橋促進剤;n-ブチルアルデヒドアニリン、アセトアルデヒドアンモニアなどのアルデヒドアミン系塩基性架橋促進剤;ジシクロペンチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジシクロヘプチルアミンなどのジシクロアルキルアミン;N-メチルシクロペンチルアミン、N-ブチルシクロペンチルアミン、N-ヘプチルシクロペンチルアミン、N-オクチルシクロペンチルアミン、N-エチルシクロヘキシルアミン、N-ブチルシクロヘキシルアミン、N-ヘプチルシクロヘキシルアミン、N-オクチルシクロオクチルアミン、N-ヒドロキシメチルシクロペンチルアミン、N-ヒドロキシブチルシクロヘキシルアミン、N-メトキシエチルシクロペンチルアミン、N-エトキシブチルシクロヘキシルアミン、N-メトキシカルボニルブチルシクロペンチルアミン、N-メトキシカルボニルヘプチルシクロヘキシルアミン、N-アミノプロピルシクロペンチルアミン、N-アミノヘプチルシクロヘキシルアミン、ジ(2-クロロシクロペンチル)アミン、ジ(3-クロロシクロペンチル)アミンなどの二級アミン系塩基性架橋促進剤;などが挙げられる。これらのなかでも、グアニジン系塩基性架橋促進剤および環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤が好ましく、1,3-ジ-オルト-トリルグアニジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7および1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5がさらに好ましく、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7および1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5がより好ましく、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7が特に好ましい。なお、上記環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤は、有機カルボン酸やアルキルリン酸などと塩を形成していてもよい。また、上記二級アミン系塩基性架橋促進剤は、アルキレングリコールや炭素数5~20のアルキルアルコールなどのアルコール類が混合されたものであってもよく、さらに無機酸および/または有機酸を含んでいてもよい。さらには、上記二級アミン系塩基性架橋促進剤は、無機酸および/または有機酸と塩を形成し、かつ、アルキレングリコールと複合体を形成していてもよい。
【0067】
本発明の架橋性ゴム組成物中における塩基性架橋促進剤(E)の含有量は、特に限定されないが、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは1~10重量部であり、より好ましくは1~8重量部、さらに好ましくは1~5重量部である。塩基性架橋促進剤(E)の含有量を上記範囲とすることにより、架橋速度の増大によるスコーチの発生を有効に抑制しながら、得られるゴム架橋物の架橋密度を適切に高めることができる。
【0068】
また、本発明の架橋性ゴム組成物には、上記以外に、ゴム分野において通常使用される配合剤、たとえば、カーボンブラックやシリカなどの補強剤、炭酸カルシウム、タルクやクレイなどの充填材、酸化亜鉛や酸化マグネシウムなどの金属酸化物、メタクリル酸亜鉛やアクリル酸亜鉛などのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸金属塩、共架橋剤、架橋助剤、架橋遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、一級アミンなどのスコーチ防止剤、ジエチレングリコールなどの活性剤、カップリング剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、受酸剤、帯電防止剤、顔料、発泡剤などを配合することができる。これらの配合剤の配合量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を配合することができる。
【0069】
カーボンブラックとしては、たとえば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、オースチンブラック、グラファイトなどが挙げられる。これらは1種または複数種併せて用いることができる。
【0070】
シリカとしては、石英粉末、珪石粉末等の天然シリカ;無水珪酸(シリカゲル、アエロジル等)、含水珪酸等の合成シリカ;等が挙げられ、これらの中でも、合成シリカが好ましい。またこれらシリカはカップリング剤等で表面処理されたものであってもよい。
【0071】
可塑剤としては、特に限定されないが、トリメリット酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、エーテルエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、セバシン酸エステル系可塑剤、アルキルスルホン酸エステル化合物類可塑剤、エポキシ化植物油系可塑剤などを用いることができる。具体例としては、トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル、トリメリット酸イソノニルエステル、トリメリット酸混合直鎖アルキルエステル、ジペンタエリスリトールエステル、ピロメリット酸2-エチルヘキシルエステル、ポリエーテルエステル(分子量300~5000程度)、アジピン酸ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸系のポリエステル(分子量300~5000程度)、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジブチル、リン酸トリクレシル、セバシン酸ジブチル、アルキルスルホン酸フェニルエステル、エポキシ化大豆油、ジヘプタノエート、ジ-2-エチルヘキサノエート、ジデカノエートなどが挙げられる。これらは1種または複数種併せて用いることができる。
【0072】
さらに、本発明の架橋性ゴム組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、上述したカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)以外のゴムを配合してもよい。
このようなゴムとしては、アクリルゴム、エチレン-アクリル酸共重合体ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴムなどが挙げられる。
【0073】
カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)以外のゴムを配合する場合における、架橋性ゴム組成物中の配合量は、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下である。
【0074】
また、本発明の架橋性ゴム組成物は、上記各成分を好ましくは非水系で混合することで調製される。本発明の架橋性ゴム組成物を調製する方法に限定はないが、通常、ノボラック型フェノール樹脂(B)、メチレンドナー化合物(C)、ジアミン架橋剤(D)、および必要に応じて用いられる塩基性架橋促進剤(E)、ならびに熱に不安定なその他の成分(これらの成分を後添加成分とする)を除いた成分を、バンバリーミキサ、インターミキサ、ニーダなどの混合機で一次混練した後、オープンロールなどに移して、上記後添加成分を加えて二次混練することにより調製できる。なお、一次混練は、通常、10~200℃、好ましくは30~180℃の温度で、1分間~1時間、好ましくは1分間~30分間行い、二次混練は、ノボラック型フェノール樹脂(B)が溶融する温度が好ましく、通常、10~110℃、好ましくは20~90℃の温度で、1分間~1時間、好ましくは1分間~30分間行う。
【0075】
<ゴム架橋物>
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性ゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明のゴム架橋物は、本発明の架橋性ゴム組成物を用い、所望の形状に対応した成形機、たとえば、押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10~200℃、好ましくは25~120℃である。架橋温度は、通常、100~200℃、好ましくは130~190℃であり、架橋時間は、通常、1分~24時間、好ましくは2分~1時間である。
【0076】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
【0077】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性ゴム組成物を用いて得られるものであり、高温における引張強度が高く、耐寒衝撃性に優れるものである。
このため、本発明のゴム架橋物は、このような特性を活かし、O-リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、ウェルヘッドシール、ショックアブソーバシール、空気圧機器用シール、エアコンディショナの冷却装置や空調装置の冷凍機用コンプレッサに使用されるフロン若しくはフルオロ炭化水素または二酸化炭素の密封用シール、精密洗浄の洗浄媒体に使用される超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素の密封用シール、転動装置(転がり軸受、自動車用ハブユニット、自動車用ウォーターポンプ、リニアガイド装置およびボールねじ等)用のシール、バルブおよびバルブシート、BOP(Blow Out Preventer)、プラターなどの各種シール材;インテークマニホールドとシリンダヘッドとの連接部に装着されるインテークマニホールドガスケット、シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板および負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;印刷用ロール、製鉄用ロール、製紙用ロール、工業用ロール、事務機用ロールなどの各種ロール;平ベルト(フィルムコア平ベルト、コード平ベルト、積層式平ベルト、単体式平ベルト等)、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト等)、Vリブドベルト(シングルVリブドベルト、ダブルVリブドベルト、ラップドVリブドベルト、背面ゴムVリブドベルト、上コグVリブドベルト等)、CVT用ベルト、タイミングベルト、歯付ベルト、コンベアーベルト、などの各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジェターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材、クラッチフェーシング材などの減衰材ゴム部品;冷却用配管、ダストカバー、自動車内装部材、摩擦材、タイヤ、被覆ケーブル、靴底、電磁波シールド、フレキシブルプリント基板用接着剤等の接着剤、燃料電池セパレーターの他、エレクトロニクス分野など幅広い用途に使用することができる。とりわけ、本発明のゴム架橋物は、高温における引張強度が高く、耐寒衝撃性に優れるものであるため、冷却用配管などの、高温下で使用され、かつ、低温条件下における耐衝撃性をも必要とされる用途に特に好適に用いることができる。
【実施例
【0078】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限られるものではない。以下において、特記しない限り、「部」は重量基準である。物性および特性の試験または評価方法は以下のとおりである。
【0079】
<ゴム組成>
カルボキシル基含有水素化ニトリルゴムを構成する各単量体単位の含有割合は、以下の方法により測定した。
すなわち、マレイン酸モノn-ブチル単位の含有割合は、2mm角のカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム0.2gに、2-ブタノン100mLを加えて16時間攪拌した後、エタノール20mLおよび水10mLを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数を求め、求めたモル数をマレイン酸モノn-ブチル単位の量に換算することにより算出した。
1,3-ブタジエン単位および飽和化ブタジエン単位の含有割合は、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴムを用いて、水素添加反応前と水素添加反応後のヨウ素価(JIS K 6235による)を測定することにより算出した。
アクリロニトリル単位の含有割合は、JIS K6451-2に従い、ケルダール法により、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム中の窒素含量を測定することにより算出した。
アクリル酸n-ブチル単位の含有割合は、上記で求めたマレイン酸モノn-ブチル単位、1,3-ブタジエン単位、飽和化ブタジエン単位、および、アクリロニトリル単位の含有割合から、計算により求めた。
【0080】
<ヨウ素価>
カルボキシル基含有水素化ニトリルゴムのヨウ素価は、JIS K 6235に準じて測定した。
【0081】
<ムーニー粘度>
カルボキシル基含有水素化ニトリルゴムのムーニー粘度は、JIS K6300-1に従って測定した(単位は〔ML1+4、100℃〕)。
【0082】
<ロール加工性>
架橋性ゴム組成物を、90℃に加熱したロールで調製する際における加工性(ロール加工性)を、下記の基準で評価した。
○:架橋性ゴム組成物のロールへの粘着が発生せず、ロールによる加工を良好に行うことができた。
△:架橋性ゴム組成物のロールへの粘着が若干発生したが、問題無く加工を行うことができた。
×:架橋性ゴム組成物のロールへの粘着が顕著であり、架橋性ゴム組成物をロールから取り出すためには、ロールの回転を停止する必要があり、ロールでの加工が困難であった。
【0083】
<高温下における引張強度>
架橋性ゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレス成形してシート状のゴム架橋物を得た。次いで、得られたゴム架橋物をギヤー式オーブンに移して170℃で4時間二次架橋し、得られた二次架橋後のゴム架橋物をJIS3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。そして、得られた試験片を用いて、JIS K6251:2017に従い、温度120℃の環境下において、ゴム架橋物の引張強度を測定した。
【0084】
<耐寒衝撃性>
上記した高温下における引張強度の測定と同様にして、二次架橋後のゴム架橋物を得て、得られた二次架橋後のゴム架橋物から、縦4cm、横0.6cm、厚み0.2cmの試験片を作製し、作製した試験片を用いて、耐寒衝撃試験を行った。具体的には、JIS K6261-2:2017に従い、低温衝撃脆化試験のC法に準拠して、0℃において10個の試験片に対し打撃を行い、打撃により破壊した試験片の数を測定した。打撃により破壊した試験片の数が少ないほど、耐寒衝撃性に優れると判断できる。
【0085】
<製造例1>
(カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-1)の製造)
反応器内に、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル37部、マレイン酸モノn-ブチル6部、およびt-ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.75部を、この順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3-ブタジエン57部を仕込んだ。そして、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部、還元剤、およびキレート剤適量を仕込み、攪拌しながら16時間重合反応を行った。その後、濃度5重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.2部を加えて重合反応を停止し、引き続いて、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去することで、共重合体ゴムのラテックス(固形分濃度:約30重量%)を得た。
【0086】
次に、上記にて得られたラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対するパラジウム含有量が3000重量ppmとなるように、オートクレーブ中に、上記にて得られたラテックスおよびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行うことで、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-1)のラテックスを得た。
【0087】
そして、得られたカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-1)のラテックスに2倍容量のメタノールを加えて凝固した後、濾過して固形物(クラム)を取り出し、これを60℃で12時間真空乾燥することにより、固形状のカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-1)を得た。得られたカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-1)は、ヨウ素価が10、ポリマー・ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が45であった。また、得られたカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-1)の単量体組成は、アクリロニトリル単位35.6重量% 、1,3-ブタジエン単位(飽和化ブタジエン単位も含む)58.8重量% 、マレイン酸モノn-ブチル単位5.6重量%であった。
【0088】
<製造例2>
(カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-2)の製造)
反応器内に、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル20.4部、マレイン酸モノn-ブチル5部、アクリル酸n-ブチル35.2部、t-ドデシルメルカプタン0.35部、および2,2,4,6,6-ペンタメチル-4-ヘプタンチオール0.03部を、この順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3-ブタジエン39.4部を仕込んだ。そして、反応器内を10℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部、還元剤、およびキレート剤適量を仕込み、攪拌しながら重合反応を継続した。そして、重合転化率が90%になった時点で、濃度5重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.2部を加えて重合反応を停止し、引き続いて、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去することで、共重合体ゴムのラテックス(固形分濃度:約30重量%)を得た。
【0089】
次に、上記にて得られたラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対するパラジウム含有量が3000重量ppmとなるように、オートクレーブ中に、上記にて得られたラテックスおよびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行うことで、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-2)のラテックスを得た。
【0090】
そして、得られたカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-2)のラテックスに2倍容量のメタノールを加えて凝固した後、濾過して固形物(クラム)を取り出し、これを60℃で12時間真空乾燥することにより、固形状のカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-2)を得た。得られたカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-2)は、ヨウ素価が10、ポリマー・ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が48であった。また、得られたカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-2)の単量体組成は、アクリロニトリル単位20.8重量% 、1,3-ブタジエン単位(飽和化ブタジエン単位も含む)44.2重量% 、マレイン酸モノn-ブチル単位4.5重量%、アクリル酸n-ブチル単位30.5重量%であった。
【0091】
<製造例3>
(水素化ニトリルゴム(A-3)の製造)
反応器内に、イオン交換水200部、脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加して石鹸水溶液を調製した。そして、この石鹸水溶液に、アクリロニトリル37部、およびt-ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.49部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3-ブタジエン63部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部、還元剤、およびキレート剤適量を仕込み、攪拌しながら16時間重合反応を行なった。次いで、濃度5%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.2部を加えて重合反応を停止し、水温60℃のロータリーエバポレ-タを用いて残留単量体を除去して、共重合体ゴムのラテックス(固形分濃度:約25重量%)を得た。
【0092】
次に、上記にて得られたラテックスを、そのゴム分に対して3重量%となる量の硫酸アルミニウムの水溶液に加えて、撹拌することでラテックスの凝固を行い、水で洗浄しつつ濾別した後、60℃で12時間真空乾燥してニトリルゴムを得た。そして、得られた共重合体ゴムを、濃度12重量%となるようにアセトンに溶解し、これをオートクレーブに入れ、パラジウム・シリカ触媒を共重合体ゴムに対して500重量ppm加え、水素圧3MPa、温度50℃で水素添加反応を行なった。
【0093】
そして、水素添加反応終了後、得られた反応液を、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なうことで、水素化ニトリルゴム(A-3)を得た。得られた水素化ニトリルゴム(A-3)は、ヨウ素価が11、ポリマー・ムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕が58であり、カルボキシル基を実質的に含有しないものであった。また、水素化ニトリルゴム(A-3)の単量体組成は、アクリロニトリル単位36.2重量%、1,3-ブタジエン単位(飽和化ブタジエン単位も含む)63.8重量%であった。
【0094】
<実施例1>
バンバリーミキサを用いて、製造例1で得られたカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-1)100部に、カーボンブラックFEF (商品名「シーストSO」、東海カーボン社製)40部、トリメリット酸エステル(商品名「ADK Cizer C-8」、ADEKA社製、可塑剤)10部、ステアリン酸(加工助剤)1部、4 ,4 ’-ジ-(α,α’-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラックCD」、大内新興化学工業社製、老化防止剤)1.5部、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル(製品名「フォスファノールRL-210」、東邦化学工業社製、加工助剤;モノエステル41.6重量%、ジエステル38.4重量%、ポリオキシエチレンアルキルエーテル約20重量%の割合で含有)1部、ステアリルアミン(商品名「ファーミン80S」、花王社製)1部を添加して混合し、次いで、得られた混合物を90℃に加熱したロールに移して、硬化剤含有ノボラック型フェノール樹脂(商品名「スミライトレジン PR-12687」、住友ベークライト社製、「ノボラック型フェノール樹脂:ヘキサメチレンテトラミン」=92:8(重量比)にて含有)10部(すなわち、ノボラック型フェノール樹脂9.2部、ヘキサメチレンテトラミン0.8部)、ヘキサメチレンジアミンカルバメート(商品名「Diak#1」、デュポン・ダウ・エラストマー社製、ジアミン架橋剤(D))2.4部、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(商品名「XLA-60」、Rhein chemie製、塩基性架橋促進剤(E))4部を添加して混練し、架橋性ゴム組成物を調製した。
【0095】
そして、上記において架橋性ゴム組成物を調製する際における、90℃に加熱したロールでの加工時において、ロール加工性の評価を行うとともに、得られた架橋性ゴム組成物を用いて得られるゴム架橋物について、高温下における引張強度および耐寒衝撃性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0096】
<実施例2>
硬化剤含有ノボラック型フェノール樹脂(商品名「スミライトレジン PR-12687」)の配合量を10部から、25部(すなわち、ノボラック型フェノール樹脂23部、ヘキサメチレンテトラミン2部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価、測定を行った。結果を表1に示す。
【0097】
<実施例3>
硬化剤含有ノボラック型フェノール樹脂(商品名「スミライトレジン PR-12687」)の配合量を10部から、50部(すなわち、ノボラック型フェノール樹脂46部、ヘキサメチレンテトラミン4部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価、測定を行った。結果を表1に示す。
【0098】
<実施例4>
硬化剤含有ノボラック型フェノール樹脂(商品名「スミライトレジン PR-12687」)の配合量を10部から、75部(すなわち、ノボラック型フェノール樹脂69部、ヘキサメチレンテトラミン6部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価、測定を行った。結果を表1に示す。
【0099】
<実施例5>
製造例1で得られたカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-1)100部に代えて、製造例2で得られたカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-2)100部を使用するとともに、ヘキサメチレンジアミンカルバメートの配合量を2.4部から、1.9部に変更した以外は、実施例3と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価、測定を行った。結果を表1に示す。
【0100】
<比較例1>
硬化剤含有ノボラック型フェノール樹脂(商品名「スミライトレジン PR-12687」)の配合量を10部から、125部(すなわち、ノボラック型フェノール樹脂115部、ヘキサメチレンテトラミン10部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価、測定を行った。結果を表1に示す。
【0101】
<比較例2>
硬化剤含有ノボラック型フェノール樹脂(商品名「スミライトレジン PR-12687」)を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価、測定を行った。結果を表1に示す。
【0102】
<比較例3>
製造例1で得られたカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A-1)100部に代えて、製造例3で得られた水素化ニトリルゴム(A-3)100部を使用するとともに、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ステアリルアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、および1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7に代えて、酸化亜鉛(亜鉛華1号、正同化学社製)5部、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン40%品(商品名「VulCup 40KE」、アルケマ社製、有機過酸化物架橋剤)8部、およびトリアリルイソシアヌレート2部を使用した以外は、実施例3と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価、測定を行った。結果を表1に示す。
【0103】
<比較例4>
硬化剤含有ノボラック型フェノール樹脂(商品名「スミライトレジン PR-12687」)10部に代えて、塩化ビニル樹脂(商品名「TK1000S」、信越化学工業社製)25部を使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価、測定を行った。結果を表1に示す。
【0104】
<比較例5>
ヘキサメチレンジアミンカルバメートを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価、測定を行った。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
表1中、「低温衝撃脆化試験における破壊個数」の欄における、「0/10」は、打撃により破壊した試験片の数が10個中、0個であったことを意味し、「2/10」は、打撃により破壊した試験片の数が10個中、2個であったことを意味し、さらに、「4/10」は、打撃により破壊した試験片の数が10個中、4個であったことを意味する。
【0106】
表1に示すように、本発明所定のカルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)と、ノボラック型フェノール樹脂(B)と、メチレンドナー化合物(C)と、ジアミン架橋剤(D)とを含有し、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)100部に対する、ノボラック型フェノール樹脂(B)の含有量が、1~100部である架橋性ゴム組成物によれば、ロール加工性などの加工性に優れ、しかも、得られるゴム架橋物は、高温における引張強度が高く、耐寒衝撃性に優れる(低温衝撃脆化試験における破壊個数が少ない)ものであった(実施例1~5)。
【0107】
一方、ノボラック型フェノール樹脂(B)の含有量が多すぎる場合には、ロール加工性などの加工性に劣るものとなる結果となった(比較例1)。
ノボラック型フェノール樹脂(B)を含有しない場合や、ジアミン架橋剤(D)を含有しない場合には、高温における引張強度に劣るものとなる結果となった(比較例2,5)。
また、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム(A)の代わりに、カルボキシル基を含有しない水素化ニトリルゴムを使用した場合には、得られるゴム架橋物は、耐寒衝撃性に劣るものとなる結果となった(比較例3)。
さらに、ノボラック型フェノール樹脂(B)の代わりに塩化ビニル樹脂を使用した場合には、得られるゴム架橋物は、高温における引張強度および耐寒衝撃性に劣るものとなる結果となった(比較例4)。