(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】非水系二次電池用バインダー組成物、非水系二次電池機能層用スラリー組成物、非水系二次電池用機能層、非水系二次電池用電池部材および非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20230829BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230829BHJP
C08F 287/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
C08F287/00
(21)【出願番号】P 2019557173
(86)(22)【出願日】2018-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2018042893
(87)【国際公開番号】W WO2019107229
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2017230493
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】山本 徳一
(72)【発明者】
【氏名】相原 俊仁
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/056404(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/084364(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/115089(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/013604(WO,A1)
【文献】特表2015-504234(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104448158(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M10/05-10/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域と、脂肪族共役ジエン単量体単位およびアルキレン構造単位の少なくとも一方と、酸性基含有単量体単位とを有する重合体からなる粒子状重合体と、水とを含み、
前記重合体のテトラヒドロフラン不溶分量が
0質量%以上45質量%以下であり、
前記粒子状重合体の表面酸量が0.05mmol/g以上0.9mmol/g以下である、非水系二次電池用バインダー組成物。
【請求項2】
前記重合体が、更に、カップリング部位を含む、請求項1に記載の非水系二次電池用バインダー組成物。
【請求項3】
前記重合体のテトラヒドロフラン不溶分量が5質量%以上である、請求項1または2に記載の非水系二次電池用バインダー組成物。
【請求項4】
前記重合体は、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域と、脂肪族共役ジエン単量体単位とを含むブロック重合体を架橋してなる、請求項3に記載の非水系二次電池用バインダー組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の非水系二次電池用バインダー組成物を含む、非水系二次電池機能層用スラリー組成物。
【請求項6】
更に電極活物質粒子を含む、請求項5に記載の非水系二次電池機能層用スラリー組成物。
【請求項7】
更に非導電性粒子を含む、請求項5に記載の非水系二次電池機能層用スラリー組成物。
【請求項8】
請求項5~7の何れかに記載の非水系二次電池機能層用スラリー組成物を用いて形成される、非水系二次電池用機能層。
【請求項9】
請求項8に記載の非水系二次電池用機能層を備える、非水系二次電池用電池部材。
【請求項10】
請求項9に記載の非水系二次電池用電池部材を備える、非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用バインダー組成物、非水系二次電池機能層用スラリー組成物、非水系二次電池用機能層、非水系二次電池用電池部材、および、非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池(以下、単に「二次電池」と略記する場合がある。)は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、更に繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そして、二次電池は、一般に、電極(正極および負極)、並びに、正極と負極とを隔離するセパレータなどの電池部材を備えている。
【0003】
ここで、二次電池の電池部材としては、結着材を含み、任意に、電池部材に所望の機能を発揮させるために配合されている粒子(以下、「機能性粒子」という。)を含んでなる機能層を備える部材が使用されている。
具体的には、二次電池のセパレータとしては、セパレータ基材の上に、結着材を含む接着層や、結着材と機能性粒子としての非導電性粒子とを含む多孔膜層を備えるセパレータが使用されている。また、二次電池の電極としては、集電体の上に、結着材と機能性粒子としての電極活物質粒子とを含む電極合材層を備える電極や、集電体上に電極合材層を備える電極基材の上に、更に上述した接着層や多孔膜層を備える電極が使用されている。
そして、これらの機能層を備える電池部材は、例えば、機能性粒子と、結着材を含むバインダー組成物などとを含むスラリー組成物を、セパレータ基材、集電体または電極基材の上に塗布し、塗布したスラリー組成物を乾燥させることにより形成されている。
【0004】
そこで、近年では、二次電池の更なる性能の向上を達成すべく、機能層の形成に用いられるバインダー組成物の改良が試みられている。
具体的には、例えば特許文献1では、バインダー組成物として、結着樹脂と、スルホン酸(塩)基を有する重合体よりなる改質用重合体とを含む電極形成用組成物を用いることにより、電極形成用スラリーの塗工性およびレベリング性を向上させ、集電体に対する電極合材層の密着性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、機能層としての電極合材層を備える電極は、電極合材層の高密度化等を目的としてロールプレスにより加圧処理を施されることがある。また、機能層としての多孔膜層および/または接着層を備える電池部材は、接着性の向上を目的として、機能層を介して接着される電池部材と積層した状態でプレスされることがある。
そのため、バインダー組成物を用いて形成した機能層には、プレス時に適度に変形すること、即ちプレス性に優れることが求められている。
【0007】
しかし、上記従来のバインダー組成物を用いて形成した機能層では、十分なプレス性が得られなかった。
【0008】
また、上記従来のバインダー組成物を用いたスラリー組成物には、スラリー組成物の粘度安定性を向上させるという点においても改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明は、粘度安定性に優れる非水系二次電池機能層用スラリー組成物およびプレス性に優れる非水系二次電池用機能層を形成可能な非水系二次電池用バインダー組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、粘度安定性に優れており、且つ、プレス性に優れる非水系二次電池用機能層を形成可能な非水系二次電池機能層用スラリー組成物を提供することを目的とする。
更に、本発明は、プレス性に優れる非水系二次電池用機能層、当該非水系二次電池用機能層を備える非水系二次電池用電池部材、並びに、当該非水系二次電池用電池部材を備える非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域を有する重合体からなり、表面酸量が所定の範囲内にある粒子状重合体と、水とを含むバインダー組成物を用いれば、粘度安定性に優れる非水系二次電池機能層用スラリー組成物およびプレス性に優れる非水系二次電池用機能層が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用バインダー組成物は、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域を有する重合体からなる粒子状重合体と、水とを含み、前記粒子状重合体の表面酸量が0.05mmol/g以上0.9mmol/g以下であることを特徴とする。このように、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域を有する重合体からなり、且つ、表面酸量が0.05mmol/g以上0.9mmol/g以下である粒子状重合体を含有する水系のバインダー組成物を使用すれば、粘度安定性に優れる非水系二次電池機能層用スラリー組成物およびプレス性に優れる非水系二次電池用機能層が得られる。
なお、本発明において、重合体の「単量体単位」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に含まれる、当該単量体由来の繰り返し単位」を意味する。
また、本発明において、重合体が「単量体単位からなるブロック領域を有する」とは、「その重合体中に、繰り返し単位として、その単量体単位のみが連なって結合した部分が存在する」ことを意味する。
そして、本発明において、粒子状重合体の「表面酸量」は、粒子状重合体の固形分1g当たりの表面酸量を指し、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
【0012】
ここで、本発明の非水系二次電池用バインダー組成物は、前記重合体が、更に、カップリング部位を含んでいてもよい。
なお、本発明において、重合体中の「カップリング部位」とは、「カップリング剤を用いたカップリング反応を経て得られる重合体中に含まれる、当該カップリング剤由来の部位」を意味する。
【0013】
また、本発明の非水系二次電池用バインダー組成物は、前記重合体が、更に、脂肪族共役ジエン単量体単位およびアルキレン構造単位の少なくとも一方を含むことが好ましい。粒子状重合体を形成する重合体が脂肪族共役ジエン単量体単位および/またはアルキレン構造単位を含めば、機能層を備える電池部材の接着性を向上させることができる。
【0014】
更に、本発明の非水系二次電池用バインダー組成物は、前記重合体のテトラヒドロフラン不溶分量が5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。粒子状重合体を形成する重合体のテトラヒドロフラン不溶分量が上記範囲内であれば、機能層に対する電解液の注液性を高めることができると共に、電解液への浸漬前であっても機能層を備える電池部材に優れた接着性を発揮させることができる。
なお、本発明において、重合体の「テトラヒドロフラン不溶分量」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0015】
そして、本発明の非水系二次電池用バインダー組成物は、前記重合体が、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域と、脂肪族共役ジエン単量体単位とを含むブロック重合体を架橋してなることが好ましい。芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域および脂肪族共役ジエン単量体単位を含有するブロック重合体を架橋してなる重合体からなる粒子状重合体を使用すれば、機能層の電解液注液性を更に向上させることができる。
【0016】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、上述した非水系二次電池用バインダー組成物の何れかを含むことを特徴とする。このように、上述した非水系二次電池用バインダー組成物の何れかを含有させれば、粘度安定性が向上すると共に、非水系二次電池機能層用スラリー組成物を用いて形成した機能層のプレス性を高めることができる。
【0017】
ここで、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、更に電極活物質粒子を含むことが好ましい。機能性粒子として電極活物質粒子を含む非水系二次電池機能層用スラリー組成物を用いて電極合材層を形成すれば、プレス性に優れる電極を作製することができる。
【0018】
また、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、更に非導電性粒子を含むことが好ましい。機能性粒子として非導電性粒子を含む非水系二次電池機能層用スラリー組成物を用いて多孔膜層を形成すれば、プレス性に優れる多孔膜層付き電池部材(セパレータおよび電極)を作製することができる。
【0019】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用機能層は、上述した非水系二次電池機能層用スラリー組成物の何れかを用いて形成されることを特徴とする。上述したスラリー組成物の何れかを使用して形成した機能層は、プレス性に優れている。
【0020】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用電池部材は、上述した非水系二次電池用機能層を備えることを特徴とする。上述した機能層を備えるセパレータや電極などの電池部材は、プレス性に優れている。
【0021】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池は、上述した非水系二次電池用電池部材を備えることを特徴とする。上述した電池部材を使用すれば、優れた性能を発揮し得る非水系二次電池が得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の非水系二次電池用バインダー組成物によれば、粘度安定性に優れる非水系二次電池機能層用スラリー組成物およびプレス性に優れる非水系二次電池用機能層を得ることができる。
また、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、粘度安定性に優れており、且つ、プレス性に優れる非水系二次電池用機能層を形成することができる。
更に、本発明によれば、プレス性に優れる非水系二次電池用機能層、当該非水系二次電池用機能層を備える非水系二次電池用電池部材、並びに、当該非水系二次電池用電池部材を備える非水系二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】粒子状重合体の表面酸量の算出にあたり、添加した塩酸の累計量に対して電気伝導度をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の非水系二次電池用バインダー組成物は、非水系二次電池の製造用途に用いられるものであり、例えば、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物の調製に用いることができる。そして、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、非水系二次電池内において電子の授受、または補強若しくは接着などの機能を担う、任意の機能層(例えば、電極合材層、多孔膜層、接着層)の形成に用いることができる。また、本発明の非水系二次電池用機能層は、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物から形成される。さらに、本発明の非水系二次電池用電池部材は、例えば電極やセパレータであり、本発明の非水系二次電池用機能層を備える。そして、本発明の非水系二次電池は、本発明の非水系二次電池用電池部材を備える。
【0025】
(非水系二次電池用バインダー組成物)
本発明のバインダー組成物は、粒子状重合体および水系媒体を含有し、任意に、水溶性重合体、および、バインダー組成物に配合され得るその他の成分を更に含有する。
そして、本発明のバインダー組成物は、粒子状重合体が、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域を有する重合体からなり、且つ、表面酸量が0.05mmol/g以上0.9mmol/g以下であるので、粘度安定性に優れる非水系二次電池機能層用スラリー組成物の調製およびプレス性に優れる非水系二次電池用機能層の形成が可能である。
【0026】
なお、粘度安定性に優れるスラリー組成物およびプレス性に優れる機能層が得られる理由は、明らかではないが、以下の通りであると推察される。即ち、本発明のバインダー組成物は、表面酸量が所定値以上の粒子状重合体を含有しているので、水系媒体中で良好に分散することができる。従って、本発明のバインダー組成物を使用すれば、スラリー組成物の凝集が抑制されて、粘度安定性に優れるスラリー組成物を得ることができる。また、本発明のバインダー組成物に含まれる粒子状重合体は、表面酸量が所定値以下であり、且つ、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域を有する重合体からなるので、プレス時に適度に潰れて変形し易い。従って、本発明のバインダー組成物を使用すれば、プレス性に優れる機能層を形成することができる。
【0027】
<粒子状重合体>
粒子状重合体は、結着材として機能する成分であり、バインダー組成物を含むスラリー組成物を使用して基材上に形成した機能層において、機能性粒子などの成分が機能層から脱離しないように保持すると共に、機能層を介した電池部材同士の接着を可能にする。
そして、粒子状重合体は、所定の重合体により形成される非水溶性の粒子である。なお、本発明において、粒子が「非水溶性」であるとは、温度25℃において重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90質量%以上となることをいう。
【0028】
[重合体]
粒子状重合体を形成する重合体は、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域(以下、「芳香族ビニルブロック領域」と略記する場合がある。)と、芳香族ビニル単量体単位以外の繰り返し単位が連なった高分子鎖部分(以下、「その他の領域」と略記する場合がある。)とを有する共重合体である。重合体において、芳香族ビニルブロック領域とその他の領域は互いに隣接して存在する。また、重合体は、芳香族ビニルブロック領域を1つのみ有していてもよく、複数有していてもよい。同様に、重合体は、その他の領域を1つのみ有していてもよく、複数有していてもよい。
そして、粒子状重合体を形成する重合体は、テトラヒドロフラン不溶分量が5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0029】
-芳香族ビニルブロック領域-
芳香族ビニルブロック領域は、上述したように、繰り返し単位として、芳香族ビニル単量体単位のみを含む領域である。
ここで、1つの芳香族ビニルブロック領域は、1種の芳香族ビニル単量体単位のみで構成されていてもよいし、複数種の芳香族ビニル単量体単位で構成されていてもよいが、1種の芳香族ビニル単量体単位のみで構成されていることが好ましい。
また、1つの芳香族ビニルブロック領域には、カップリング部位が含まれていてもよい(すなわち、1つの芳香族ビニルブロック領域を構成する芳香族ビニル単量体単位は、カップリング部位が介在して連なっていてもよい)。
そして、重合体が複数の芳香族ビニルブロック領域を有する場合、それら複数の芳香族ビニルブロック領域を構成する芳香族ビニル単量体単位の種類および割合は、同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0030】
重合体の芳香族ビニルブロック領域を構成する芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、スチレンスルホン酸およびその塩、α-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、ブトキシスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、並びに、ビニルナフタレンなどの芳香族モノビニル化合物が挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。これらは1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができるが、1種を単独で用いることが好ましい。
【0031】
そして、重合体中の芳香族ビニル単量体単位の割合は、重合体中の全繰り返し単位(単量体単位および構造単位)の量を100質量%とした場合に、2質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。重合体中に占める芳香族ビニル単量体単位の割合が2質量%以上であれば、重合体のタック性発現を十分に抑制することができる。従って、電極合材層等の機能層をロールプレスにより加圧処理した場合であっても、機能層がロールに付着することによる不良の発生および生産性の低下が生じるのを抑制することができる。一方、重合体中に占める芳香族ビニル単量体単位の割合が50質量%以下であれば、重合体の柔軟性が確保され、機能層のプレス性を更に向上させることができる。
なお、芳香族ビニル単量体単位が重合体中に占める割合は、通常、芳香族ビニルブロック領域が重合体中に占める割合と一致する。
【0032】
-その他の領域-
その他の領域は、上述したように、繰り返し単位として、芳香族ビニル単量体単位以外の繰り返し単位(以下、「その他の繰り返し単位」と略記する場合がある。)のみを含む領域である。
ここで、1つのその他の領域は、1種のその他の繰り返し単位で構成されていてもよいし、複数種のその他の繰り返し単位で構成されていてもよい。
また、1つのその他の領域には、カップリング部位が含まれていてもよい(すなわち、1つのその他の領域を構成するその他の繰り返し単位は、カップリング部位が介在して連なっていてもよい)。
更に、その他の領域は、グラフト部分および/または架橋構造を有していてもよい。
そして、重合体が複数のその他の領域を有する場合、それら複数のその他の領域を構成するその他の繰り返し単位の種類および割合は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0033】
重合体のその他の領域を構成するその他の繰り返し単位としては、特に限定されないが、例えば、電池部材の接着性を向上させる観点からは、脂肪族共役ジエン単量体単位および/またはアルキレン構造単位が好ましい。
【0034】
ここで、脂肪族共役ジエン単量体単位を形成し得る脂肪族共役ジエン単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどの炭素数4以上の共役ジエン化合物が挙げられる。これらは1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。そしてこれらの中でも、電池部材の接着性を更に向上させる観点から、1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0035】
また、アルキレン構造単位は、一般式:-CnH2n-[但し、nは2以上の整数]で表わされるアルキレン構造のみで構成される繰り返し単位である。
ここで、アルキレン構造単位は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、アルキレン構造単位は直鎖状、すなわち直鎖アルキレン構造単位であることが好ましい。また、アルキレン構造単位の炭素数は4以上である(即ち、上記一般式のnが4以上の整数である)ことが好ましい。
【0036】
なお、重合体へのアルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされない。例えば、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域と、脂肪族共役ジエン単量体単位とを含むブロック重合体に水素添加することで、脂肪族共役ジエン単量体単位をアルキレン構造単位に変換して重合体を得る方法が、重合体の製造が容易であり好ましい。
【0037】
上記の方法で用いる脂肪族共役ジエン単量体としては、脂肪族共役ジエン単量体単位を形成し得る脂肪族共役ジエン単量体として上述した炭素数4以上の共役ジエン化合物が挙げられ、中でも、イソプレンが好ましい。すなわち、アルキレン構造単位は、脂肪族共役ジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(脂肪族共役ジエン水素化物単位)であることが好ましく、イソプレン単位を水素化して得られる構造単位(イソプレン水素化物単位)であることがより好ましい。そして、脂肪族共役ジエン単量体単位の選択的な水素化は、油層水素化法や水層水素化法などの公知の方法を用いて行なうことができる。
【0038】
また、重合体のその他の領域を構成するその他の繰り返し単位としては、特に限定されないが、例えば、機能層への電解液の注液性を向上させる観点からは、脂肪族共役ジエン単量体単位を架橋してなる構造単位を含むことが好ましい。即ち、粒子状重合体を形成する重合体は、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域と、脂肪族共役ジエン単量体単位とを含むブロック重合体を架橋してなる重合体であることが好ましい。
【0039】
そして、脂肪族共役ジエン単量体単位を架橋してなる構造単位は、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域と、脂肪族共役ジエン単量体単位とを含むブロック重合体を架橋することにより、重合体に導入することができる。
ここで、架橋は、特に限定されることなく、例えば酸化剤と還元剤とを組み合わせてなるレドックス開始剤などのラジカル開始剤を用いて行うことができる。そして、酸化剤としては、例えば、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物を用いることができる。また、還元剤としては、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物;などを用いることができる。これらの有機過酸化物および還元剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、架橋は、ジビニルベンゼン等のポリビニル化合物;ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート等のポリアリル化合物;エチレングリコールジアクリレート等の各種グリコール;などの架橋剤の存在下で行ってもよい。また、架橋は、γ線などの活性エネルギー線の照射を用いて行うこともできる。
【0040】
ここで、粒子状重合体を形成する重合体中における脂肪族共役ジエン単量体単位、脂肪族共役ジエン単量体単位を架橋してなる構造単位およびアルキレン構造単位の合計量は、重合体中の全繰り返し単位の量を100質量%とした場合に、50質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。そして、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域と、脂肪族共役ジエン単量体単位とを含むブロック重合体(水素添加および/または架橋されるブロック重合体)中における脂肪族共役ジエン単量体単位の割合は、ブロック重合体中の全繰り返し単位の量を100質量%とした場合に、50質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
重合体中に占める脂肪族共役ジエン単量体単位、脂肪族共役ジエン単量体単位を架橋してなる構造単位およびアルキレン構造単位の割合が50質量%以上であれば、電池部材の接着性を向上させることができる。一方、重合体中に占める脂肪族共役ジエン単量体単位、脂肪族共役ジエン単量体単位を架橋してなる構造単位およびアルキレン構造単位の割合が98質量%以下であれば、重合体の柔軟性を確保して機能層のプレス性を更に向上させることができると共に、重合体のタック性発現を十分に抑制することができる。
【0041】
また、重合体のその他の領域は、脂肪族共役ジエン単量体単位、脂肪族共役ジエン単量体単位を架橋してなる構造単位およびアルキレン構造単位以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。具体的には、重合体のその他の領域は、カルボキシル基含有単量体単位、スルホン酸基含有単量体単位およびリン酸基含有単量体単位等の酸性基含有単量体単位;アクリロニトリル単位およびメタクリロニトリル単位等のニトリル基含有単量体単位;並びに、アクリル酸アルキルエステル単位およびメタクリル酸アルキルエステル単位等の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位;などの他の単量体単位を含んでいてもよい。ここで、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
【0042】
中でも、粒子状重合体の表面酸量を適度な大きさとしてスラリー組成物の粘度安定性を向上させる観点からは、重合体のその他の領域は、酸性基含有単量体単位を含むことが好ましい。
なお、酸性基含有単量体単位が有する酸性基は、アルカリ金属やアンモニア等と塩を形成していてもよい。
【0043】
ここで、カルボキシル基含有単量体単位を形成し得るカルボキシル基含有単量体としては、モノカルボン酸およびその誘導体や、ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E-メトキシアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸ブチル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸モノエステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸、無水シトラコン酸などが挙げられる。
また、カルボキシル基含有単量体としては、加水分解によりカルボキシル基を生成する酸無水物も使用できる。
更に、カルボキシル基含有単量体としては、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸や、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノ2-ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステルなども用いることができる。
【0044】
また、スルホン酸基含有単量体単位を形成し得るスルホン酸基含有単量体としては、例えば、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸(エチレンスルホン酸)、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸が挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味する。
【0045】
更に、リン酸基含有単量体単位を形成し得るリン酸基含有単量体としては、例えば、リン酸-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル-(メタ)アクリロイルオキシエチルが挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0046】
ここで、上述した単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。そして、酸性基含有単量体単位を形成し得る酸性基含有単量体としては、メタクリル酸、イタコン酸、アクリル酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
【0047】
なお、重合体が酸性基含有単量体単位を有する場合、重合体中の酸性基含有単量体単位の割合は、重合体中の全繰り返し単位の量を100質量%とした場合に、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。
【0048】
そして、上述した、酸性基含有単量体単位、ニトリル基含有単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位などの他の単量体単位は、特に限定されることなく、グラフト重合などの任意の重合方法を用いて重合体に導入することができる。なお、グラフト重合により他の単量体単位を導入した場合、重合体は、グラフト部分を含むこととなり、幹部分となる重合体に対してグラフト部分となる重合体が結合した構造を有することになる。
【0049】
ここで、グラフト重合は、特に限定されることなく、既知のグラフト重合方法を用いて行うことができる。具体的には、グラフト重合は、例えば酸化剤と還元剤とを組み合わせてなるレドックス開始剤などのラジカル開始剤を用いて行うことができる。そして、酸化剤および還元剤としては、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域と、脂肪族共役ジエン単量体単位とを含むブロック重合体の架橋に使用し得るものとして上述した酸化剤および還元剤と同様のものを用いることができる。
そして、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域と、脂肪族共役ジエン単量体単位とを含むブロック重合体に対してレドックス開始剤を用いてグラフト重合を行う場合には、グラフト重合による他の単量体単位の導入と、脂肪族共役ジエン単量体単位の架橋とを同時に進行させることができる。なお、グラフト重合と架橋は同時に進行させなくてもよく、ラジカル開始剤の種類や反応条件を調整してグラフト重合のみを進行させてもよい。
【0050】
-テトラヒドロフラン不溶分量-
そして、粒子状重合体を形成する重合体は、テトラヒドロフラン不溶分量が5質量%以上であることが好ましく、6質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、48質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることが更に好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。重合体のテトラヒドロフラン不溶分量が上記下限値以上であれば、機能層の電解液注液性を十分に高めることができる。また、重合体のテトラヒドロフラン不溶分量が上記上限値以下であれば、電解液への浸漬前であっても機能層に優れた接着力を発揮させることができると共に、スラリー組成物の塗工性も向上させることができる。
なお、重合体のテトラヒドロフラン不溶分量は、重合体の組成を変更することにより調整することができ、例えば重合体に架橋構造を導入すれば、重合体のテトラヒドロフラン不溶分量を増加させることができる。
【0051】
[表面酸量]
そして、粒子状重合体は、表面酸量が、0.05mmol/g以上0.9mmol/g以下であることが必要であり、粒子状重合体の表面酸量は、0.08mmol/g以上であることが好ましく、0.10mmol/g以上であることがより好ましく、0.70mmol/g以下であることが好ましく、0.50mmol/g以下であることがより好ましく、0.45mmol/g以下であることが更に好ましい。粒子状重合体の表面酸量が0.05mmol/g未満の場合には、バインダー組成物を用いて調製したスラリー組成物の粘度安定性が低下する。一方、粒子状重合体の表面酸量が上記下限値以上であれば、スラリー組成物の粘度安定性を十分に高めることができる。また、粒子状重合体の表面酸量が0.9mmol/g超の場合には、バインダー組成物を用いて形成した機能層のプレス性が低下する。一方、粒子状重合体の表面酸量が上記上限値以下であれば、機能層のプレス性を十分に高めることができる。更に、粒子状重合体の表面酸量が上記範囲内であれば、スラリー組成物の塗工性も向上させることができる。
【0052】
そして、粒子状重合体の表面酸量は、粒子状重合体として用いる重合体の製造に使用する単量体の種類および量や、製造条件を変更することにより調整することができる。具体的には、例えば、カルボン酸基を含有する単量体などの酸性基含有単量体の使用量を増加することにより表面酸量を増大させることができる。
【0053】
[粒子状重合体の調製方法]
上述した重合体よりなる粒子状重合体は、例えば、有機溶媒中で上述した芳香族ビニル単量体や脂肪族共役ジエン単量体などの単量体をブロック重合して芳香族ビニルブロック領域を有するブロック重合体の溶液を得る工程(ブロック重合体溶液調製工程)と、得られたブロック重合体の溶液に水を添加して乳化することでブロック重合体を粒子化する工程(乳化工程)と、粒子化したブロック重合体に対してグラフト重合を行って所定の重合体よりなる粒子状重合体の水分散液を得る工程(グラフト工程)と、を経て調製することができる。
なお、粒子状重合体の調製において、グラフト工程は、乳化工程の前に行ってもよい。即ち、粒子状重合体は、ブロック重合体溶液調製工程の後に、得られたブロック重合体の溶液に含まれているブロック重合体に対してグラフト重合を行って所定の重合体の溶液を得る工程(グラフト工程)を行い、その後、得られた所定の重合体の溶液に水を添加して乳化することで所定の重合体を粒子化する工程(乳化工程)を行うことにより、調製してもよい。
【0054】
-ブロック重合体溶液調製工程-
ブロック重合体溶液調製工程におけるブロック重合の方法は、特に限定されない。例えば、第一の単量体成分を重合させた溶液に、第一の単量体成分とは異なる第二の単量体成分を加えて重合を行い、必要に応じて、単量体成分の添加と重合とを更に繰り返すことより、ブロック重合体を調製することができる。なお、反応溶媒として使用される有機溶媒も特に限定されず、単量体の種類等に応じて適宜選択することができる。
ここで、上記のようにブロック重合して得られたブロック重合体を、後述する乳化工程に先んじて、カップリング剤を用いたカップリング反応に供することが好ましい。カップリング反応を行えば、例えば、ブロック重合体中に含まれるジブロック構造体同士の末端をカップリング剤により結合させて、トリブロック構造体に変換することができる(すなわち、ジブロック量を低減することができる)。
【0055】
上記カップリング反応に使用し得るカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、2官能のカップリング剤、3官能のカップリング剤、4官能のカップリング剤、5官能以上のカップリング剤が挙げられる。
2官能のカップリング剤としては、例えば、ジクロロシラン、モノメチルジクロロシラン、ジクロロジメチルシラン等の2官能性ハロゲン化シラン;ジクロロエタン、ジブロモエタン、メチレンクロライド、ジブロモメタン等の2官能性ハロゲン化アルカン;ジクロロスズ、モノメチルジクロロスズ、ジメチルジクロロスズ、モノエチルジクロロスズ、ジエチルジクロロスズ、モノブチルジクロロスズ、ジブチルジクロロスズ等の2官能性ハロゲン化スズ;が挙げられる。
3官能のカップリング剤としては、例えば、トリクロロエタン、トリクロロプロパンなどの3官能性ハロゲン化アルカン;メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシランなどの3官能性ハロゲン化シラン;メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどの3官能性アルコキシシラン;が挙げられる。
4官能のカップリング剤としては、例えば、四塩化炭素、四臭化炭素、テトラクロロエタンなどの4官能性ハロゲン化アルカン;テトラクロロシラン、テトラブロモシランなどの4官能性ハロゲン化シラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどの4官能性アルコキシシラン;テトラクロロスズ、テトラブロモスズなどの4官能性ハロゲン化スズ;が挙げられる。
5官能以上のカップリング剤としては、例えば、1,1,1,2,2-ペンタクロロエタン、パークロロエタン、ペンタクロロベンゼン、パークロロベンゼン、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテルなどが挙げられる。
これらは1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
上述した中でも、カップリング剤としては、ジクロロジメチルシランが好ましい。なお、カップリング剤を用いたカップリング反応によれば、当該カップリング剤に由来するカップリング部位が、ブロック重合体を構成する高分子鎖(例えば、トリブロック構造体)に導入される。
【0057】
なお、上述したブロック重合および任意に行われるカップリング反応後に得られるブロック重合体の溶液は、そのまま後述する乳化工程に供してもよいが、必要に応じて、ブロック重合体に対し上述した水素添加を行った後に、乳化工程に供することもできる。
【0058】
-乳化工程-
乳化工程における乳化の方法は、特に限定されないが、例えば、上述したブロック重合体溶液調製工程で得られたブロック重合体の溶液と、乳化剤の水溶液との予備混合物を転相乳化する方法が好ましい。ここで、転相乳化には、例えば既知の乳化剤および乳化分散機を用いることができる。具体的には、乳化分散機としては、特に限定されることなく、例えば、商品名「ホモジナイザー」(IKA社製)、商品名「ポリトロン」(キネマティカ社製)、商品名「TKオートホモミキサー」(特殊機化工業社製)等のバッチ式乳化分散機;商品名「TKパイプラインホモミキサー」(特殊機化工業社製)、商品名「コロイドミル」(神鋼パンテック社製)、商品名「スラッシャー」(日本コークス工業社製)、商品名「トリゴナル湿式微粉砕機」(三井三池化工機社製)、商品名「キャビトロン」(ユーロテック社製)、商品名「マイルダー」(太平洋機工社製)、商品名「ファインフローミル」(太平洋機工社製)等の連続式乳化分散機;商品名「マイクロフルイダイザー」(みずほ工業社製)、商品名「ナノマイザー」(ナノマイザー社製)、商品名「APVガウリン」(ガウリン社製)等の高圧乳化分散機;商品名「膜乳化機」(冷化工業社製)等の膜乳化分散機;商品名「バイブロミキサー」(冷化工業社製)等の振動式乳化分散機;商品名「超音波ホモジナイザー」(ブランソン社製)等の超音波乳化分散機;などを用いることができる。なお、乳化分散機による乳化操作の条件(例えば、処理温度、処理時間など)は、特に限定されず、所望の分散状態になるように適宜選定すればよい。
そして、転相乳化後に得られる乳化液から、必要に応じて、既知の方法により有機溶媒を除去する等して、粒子化したブロック重合体の水分散液を得ることができる。
【0059】
-グラフト工程-
グラフト工程におけるグラフト重合の方法は、特に限定されないが、例えば、グラフト重合させる単量体の存在下において、レドックス開始剤などのラジカル開始剤を用いてブロック重合体のグラフト重合および架橋を同時に進行させる方法が好ましい。
ここで、反応条件は、ブロック重合体の組成、並びに、所望のテトラヒドロフラン不溶分量および表面酸量の大きさ等に応じて調整することができる。
そして、グラフト工程では、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域を有する重合体よりなり、且つ、表面酸量が0.05mmol/g以上0.9mmol/g以下である粒子状重合体の水分散液を得ることができる。なお、乳化工程の後にグラフト工程を行った場合、即ち、粒子化したブロック重合体に対してグラフト重合を行った場合には、酸性基含有単量体単位などのグラフト重合により導入された単量体単位は、粒子状重合体の中心部よりも表面側に多く存在し、表層部に偏在することとなる。
【0060】
<水溶性重合体>
水溶性重合体は、水系媒体中で、上述した粒子状重合体などの配合成分を良好に分散させうる成分である。
ここで、水溶性重合体としては、親水性基を有し、且つ、重量平均分子量が15,000以上500,000以下である水溶性重合体が好ましい。そして、水溶性重合体は、特に限定されないが、合成高分子であることが好ましく、付加重合を経て製造される付加重合体であることがより好ましい。
なお、水溶性重合体は、塩の形態(水溶性重合体の塩)であってもよい。すなわち、本発明において、「水溶性重合体」には、当該水溶性重合体の塩も含まれる。また、本発明において、重合体が「水溶性」であるとは、温度25℃において重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が1.0質量%未満となることをいう。
【0061】
[親水性基]
水溶性重合体が有し得る親水性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシル基が挙げられる。水溶性重合体は、これらの親水性基を1種類のみ有していてもよく、2種類以上有していてもよい。そしてこれらの中でも、スラリー組成物の粘度安定性を高めて塗布密度を向上させると共に当該スラリー組成物塗布時における粒子状重合体等の凝集を抑制し、更には機能層を備える電池部材のハンドリング性を向上させる観点から、親水性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基が好ましく、カルボキシル基がより好ましい。
【0062】
ここで、水溶性重合体に親水性基を導入する方法は特に限定されず、上述した親水性基を含有する単量体(親水性基含有単量体)を付加重合して重合体を調製し、親水性基含有単量体単位を含む水溶性重合体を得てもよいし、任意の重合体を変性(例えば、末端変性)することにより、上述した親水性基を有する水溶性重合体を得てもよいが、前者が好ましい。
【0063】
-親水性基含有単量体単位-
そして、水溶性重合体は、スラリー組成物の安定性を高めて塗布密度を向上させると共に当該スラリー組成物塗布時における粒子状重合体等の凝集を抑制し、更には、機能層を備える電池部材のハンドリング性を向上させる観点から、親水性基含有単量体単位として、カルボキシル基含有単量体単位、スルホン酸基含有単量体単位、リン酸基含有単量体単位、および、ヒドロキシル基含有単量体単位からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、カルボキシル基含有単量体単位とスルホン酸基含有単量体単位との少なくとも一方を含むことがより好ましく、カルボキシル基含有単量体単位を含むことが更に好ましい。なお、水溶性重合体は、上述した親水性基含有単量体単位を1種類のみ含んでいてもよく、2種類以上含んでいてもよい。
【0064】
ここで、カルボキシル基含有単量体単位を形成しうるカルボキシル基含有単量体、スルホン酸基含有単量体単位を形成しうるスルホン酸基含有単量体、および、リン酸基含有単量体単位を形成しうるリン酸基含有単量体としては、例えば、粒子状重合体を形成する重合体に使用し得るものと同様のものを用いることができる。
【0065】
また、ヒドロキシル基含有単量体単位を形成しうるヒドロキシル基含有単量体としては、(メタ)アリルアルコール、3-ブテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ-2-ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ-4-ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ-2-ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式:CH2=CRa-COO-(CqH2qO)p-H(式中、pは2~9の整数、qは2~4の整数、Raは水素原子またはメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-4-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-6-ヒドロキシヘキシルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル-2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシ-3-クロロプロピルエーテルなどの、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲンおよびヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノールなどの多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテルおよびそのハロゲン置換体;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;N-ヒドロキシメチルアクリルアミド(N-メチロールアクリルアミド)、N-ヒドロキシメチルメタクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルメタクリルアミドなどのヒドロキシル基を有するアミド類などが挙げられる。
【0066】
そして、水溶性重合体中の親水性基含有単量体単位の割合は、水溶性重合体中の全繰り返し単位の量を100質量%とした場合に、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、35質量%以上であることが特に好ましい。水溶性重合体中に占める親水性基含有単量体単位の割合が10質量%以上であれば、スラリー組成物の安定性を高めて塗布密度を向上させると共に当該スラリー組成物塗布時における粒子状重合体等の凝集を抑制し、加えて、機能層を備える電池部材のハンドリング性を更に向上させることができる。なお、水溶性重合体中の親水性基含有単量体単位の割合の上限は、特に限定されず、100質量%以下とすることができる。
【0067】
-その他の単量体単位-
水溶性重合体は、上述した親水性基含有単量体単位以外の単量体単位(その他の単量体単位)を含んでいてもよい。水溶性重合体に含まれるその他の単量体単位を形成しうるその他の単量体は、上述した親水性基含有単量体と共重合可能であれば特に限定されない。その他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体、架橋性単量体が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステル単量体、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体、架橋性単量体としては、例えば、特開2015-70245号公報で例示されたものを用いることができる。
なお、その他の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
[水溶性重合体の調製方法]
水溶性重合体は、上述した単量体を含む単量体組成物を、例えば水などの水系溶媒中で重合することにより、製造し得る。この際、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、水溶性重合体中の各単量体単位の含有割合に準じて定めることができる。
そして、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。
また、重合に使用される乳化剤、分散剤、重合開始剤、重合助剤、分子量調整剤などの添加剤は、一般に用いられるものを使用しうる。これらの添加剤の使用量も、一般に使用される量としうる。重合条件は、重合方法及び重合開始剤の種類などに応じて適宜調整しうる。
【0069】
[重量平均分子量]
ここで、水溶性重合体の重量平均分子量は、15,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましく、25,000以上であることが更に好ましく、500,000以下であることが好ましく、400,000以下であることが好ましく、350,000以下であることがより好ましい。水溶性重合体の重量平均分子量が15,000以上であれば、スラリー組成物の安定性を高めて塗布密度を向上させることができる。また、水溶性重合体の重量平均分子量が500,000以下であれば、スラリー組成物塗布時における粒子状重合体等の凝集を抑制し、機能層の電解液注液性および接着性を更に高めることができる。
なお、本発明において、水溶性重合体の「重量平均分子量」は、標準試料としてポリエチレンオキシドを用いたゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる。そして、水溶性重合体の重量平均分子量は、重合開始剤および分子量調整剤の量や種類を変更することにより調整することができる。
【0070】
<水系媒体>
本発明のバインダー組成物が含有する水系媒体は、水を含んでいれば特に限定されず、水溶液や、水と少量の有機溶媒との混合溶液であってもよい。
【0071】
<その他の成分>
本発明のバインダー組成物は、上記成分以外の成分(その他の成分)を含有することができる。例えば、バインダー組成物は、上述した粒子状重合体以外の、既知の粒子状結着材(スチレンブタジエンランダム共重合体、アクリル重合体など)を含んでいてもよい。また、バインダー組成物は、既知の添加剤を含んでいてもよい。このような既知の添加剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールなどの酸化防止剤、消泡剤、分散剤(上述した水溶性重合体に該当するものを除く。)が挙げられる。なお、その他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0072】
<バインダー組成物の調製方法>
そして、本発明のバインダー組成物は、特に限定されることなく、粒子状重合体と、任意に用いられる水溶性重合体および/またはその他の成分とを水系媒体の存在下で混合して調製することができる。なお、粒子状重合体の分散液および/または水溶性重合体の水溶液を用いてバインダー組成物を調製する場合には、分散液および/または水溶液が含有している液分をそのままバインダー組成物の水系媒体として利用してもよい。
【0073】
(非水系二次電池機能層用スラリー組成物)
本発明のスラリー組成物は、機能層の形成用途に用いられる組成物であり、上述したバインダー組成物を含み、任意に、機能性粒子を更に含有する。すなわち、本発明のスラリー組成物は、上述した粒子状重合体および水系媒体を含有し、任意に、水溶性重合体、機能性粒子およびその他の成分からなる群より選択される1種以上を更に含有し得る。そして、本発明のスラリー組成物は、上述したバインダー組成物を含んでいるので、粘度安定性に優れていると共に、当該スラリー組成物から形成される機能層はプレス性に優れる。
【0074】
<バインダー組成物>
バインダー組成物としては、所定の粒子状重合体を水系媒体中に含む、上述した本発明のバインダー組成物を用いる。
なお、スラリー組成物中のバインダー組成物の配合量は、特に限定されない。例えばスラリー組成物が電極合材層用スラリー組成物である場合、バインダー組成物の配合量は、電極活物質粒子100質量部当たり、固形分換算で、粒子状重合体の量が0.5質量部以上15質量部以下となる量とすることができる。また例えばスラリー組成物が多孔膜層用スラリー組成物である場合、バインダー組成物の配合量は、非導電性粒子100質量部当たり、固形分換算で、粒子状重合体の量が0.2質量部以上30質量部以下となる量とすることができる。
【0075】
<機能性粒子>
ここで、機能層に所期の機能を発揮させるための機能性粒子としては、例えば、機能層が電極合材層である場合には電極活物質粒子が挙げられ、機能層が多孔膜層である場合には非導電性粒子が挙げられる。
【0076】
[電極活物質粒子]
そして、電極活物質粒子としては、特に限定されることなく、二次電池に用いられる既知の電極活物質よりなる粒子を挙げることができる。具体的には、例えば、二次電池の一例としてのリチウムイオン二次電池の電極合材層において使用し得る電極活物質粒子としては、特に限定されることなく、以下の電極活物質よりなる粒子を用いることができる。
【0077】
[正極活物質]
リチウムイオン二次電池の正極の正極合材層に配合される正極活物質としては、例えば、遷移金属を含有する化合物、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属との複合金属酸化物などを用いることができる。なお、遷移金属としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が挙げられる。
具体的には、正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni-Mn-Alのリチウム含有複合酸化物、Ni-Co-Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、Li1+xMn2-xO4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2、LiNi0.5Mn1.5O4等が挙げられる。
なお、上述した正極活物質は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
[負極活物質]
リチウムイオン二次電池の負極の負極合材層に配合される負極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、および、これらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいう。そして、炭素系負極活物質としては、具体的には、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)およびハードカーボンなどの炭素質材料、並びに、天然黒鉛および人造黒鉛などの黒鉛質材料が挙げられる。
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。そして、金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびそれらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが挙げられる。さらに、チタン酸リチウムなどの酸化物を挙げることができる。
なお、上述した負極活物質は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
[非導電性粒子]
また、多孔膜層に配合される非導電性粒子としては、特に限定されることなく、二次電池に用いられる既知の非導電性粒子を挙げることができる。
具体的には、非導電性粒子としては、無機微粒子と有機微粒子(上述した粒子状重合体などの結着材に該当するものを除く。)との双方を用いることができるが、通常は無機微粒子が用いられる。なかでも、非導電性粒子の材料としては、二次電池の使用環境下で安定に存在し、電気化学的に安定である材料が好ましい。このような観点から非導電性粒子の材料の好ましい例を挙げると、酸化アルミニウム(アルミナ)、水和アルミニウム酸化物(ベーマイト)、酸化ケイ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化カルシウム、酸化チタン(チタニア)、BaTiO3、ZrO、アルミナ-シリカ複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;タルク、モンモリロナイト等の粘土微粒子;などが挙げられる。また、これらの粒子は必要に応じて元素置換、表面処理、固溶体化等が施されていてもよい。
なお、上述した非導電性粒子は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
<その他の成分>
スラリー組成物に配合し得るその他の成分としては、特に限定することなく、本発明のバインダー組成物に配合し得るその他の成分と同様のものの他、スラリー組成物が電極合材層用スラリー組成物である場合には、電極合材層に配合され得る導電材などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0081】
<スラリー組成物の調製>
スラリー組成物の調製方法は、特に限定はされない。
例えば、スラリー組成物が電極合材層用スラリー組成物である場合は、バインダー組成物と、電極活物質粒子と、必要に応じて用いられるその他の成分とを、水系媒体の存在下で混合してスラリー組成物を調製することができる。
また、スラリー組成物が多孔膜層用スラリー組成物である場合は、バインダー組成物と、非導電性粒子と、必要に応じて用いられるその他の成分とを、水系媒体の存在下で混合してスラリー組成物を調製することができる。
そして、スラリー組成物が接着層用スラリー組成物である場合は、バインダー組成物をそのまま、または水系媒体で希釈してスラリー組成物として使用することもできるし、バインダー組成物と、必要に応じて用いられるその他の成分とを、水系媒体の存在下で混合してスラリー組成物を調製することもできる。
なお、スラリー組成物の調製の際に用いる水系媒体は、バインダー組成物に含まれていたものも含まれる。また、混合方法は特に制限されないが、通常用いられうる撹拌機や、分散機を用いて混合を行う。
【0082】
(非水系二次電池用機能層)
本発明の機能層は、二次電池内において電子の授受または補強若しくは接着などの機能を担う層であり、機能層としては、例えば、電気化学反応を介して電子の授受を行う電極合材層や、電池部材の耐熱性や強度を向上させる多孔膜層や、電池部材の接着性を向上させる接着層などが挙げられる。
そして、本発明の機能層は、上述した本発明のスラリー組成物から形成されたものであり、例えば、上述したスラリー組成物を適切な基材の表面に塗布して塗膜を形成した後、形成した塗膜を乾燥することにより、形成することができる。即ち、本発明の機能層は、上述したスラリー組成物の乾燥物よりなり、通常、少なくとも、上述した粒子状重合体に由来する成分を含有し、任意に、水溶性重合体、機能性粒子およびその他の成分からなる群より選択される1種以上を更に含有し得る。なお、機能層中に含まれている各成分は、上記スラリー組成物中に含まれていたものであるため、それら各成分の好適な存在比は、スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。また、粒子状重合体は、スラリー組成物中では粒子形状で存在するが、スラリー組成物を用いて形成された機能層中では、粒子形状であってもよいし、その他の任意の形状であってもよい。
【0083】
そして、本発明の機能層は、本発明のバインダー組成物を含む本発明のスラリー組成物から形成されているので、優れたプレス性を発揮することができる。
【0084】
<基材>
ここで、スラリー組成物を塗布する基材に制限は無く、例えば、離型基材の表面にスラリー組成物の塗膜を形成し、その塗膜を乾燥して機能層を形成し、機能層から離型基材を剥がすようにしてもよい。このように、離型基材から剥がされた機能層を、自立膜として二次電池の電池部材の形成に用いることもできる。
しかし、機能層を剥がす工程を省略して電池部材の製造効率を高める観点からは、基材として、集電体、セパレータ基材または電極基材を用いることが好ましい。具体的には、電極合材層の調製の際には、スラリー組成物を、基材としての集電体上に塗布することが好ましい。また、多孔膜層や接着層を調製する際には、スラリー組成物を、セパレータ基材または電極基材上に塗布することが好ましい。
【0085】
[集電体]
集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。中でも、負極に用いる集電体としては銅箔が特に好ましい。また、正極に用いる集電体としては、アルミニウム箔が特に好ましい。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0086】
[セパレータ基材]
セパレータ基材としては、特に限定されないが、有機セパレータ基材などの既知のセパレータ基材が挙げられる。有機セパレータ基材は、有機材料からなる多孔性部材であり、有機セパレータ基材の例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを含む微多孔膜または不織布などが挙げられ、強度に優れることからポリエチレン製の微多孔膜や不織布が好ましい。
【0087】
[電極基材]
電極基材(正極基材および負極基材)としては、特に限定されないが、上述した集電体上に、電極活物質粒子および結着材を含む電極合材層が形成された電極基材が挙げられる。
電極基材中の電極合材層に含まれる電極活物質粒子および結着材としては、特に限定されず、既知のものを用いることができる。また、電極基材中の電極合材層として、本発明の機能層(電極活物質粒子、並びに、所定の粒子状重合体および水系媒体を含むスラリー組成物から形成される電極合材層)を使用することもできる。
【0088】
<機能層の形成方法>
上述した集電体、セパレータ基材、電極基材などの基材上に機能層を形成する方法としては、以下の方法が挙げられる。
1)本発明のスラリー組成物を基材の表面(電極基材の場合は電極合材層側の表面、以下同じ)に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)本発明のスラリー組成物に基材を浸漬後、これを乾燥する方法;および
3)本発明のスラリー組成物を離型基材上に塗布し、乾燥して機能層を製造し、得られた機能層を基材の表面に転写する方法。
これらの中でも、前記1)の方法が、機能層の層厚制御をしやすいことから特に好ましい。前記1)の方法は、詳細には、スラリー組成物を基材上に塗布する工程(塗布工程)と、基材上に塗布されたスラリー組成物を乾燥させて機能層を形成する工程(機能層形成工程)を含む。
【0089】
[塗布工程]
そして、塗布工程において、スラリー組成物を基材上に塗布する方法としては、特に制限は無く、例えば、ドクターブレード法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0090】
[機能層形成工程]
また、機能層形成工程において、基材上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。乾燥法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥が挙げられる。
なお、機能層が電極合材層である場合、乾燥後に、ロールプレス等を用いてプレス処理を行うことが好ましい。プレス処理を行うことで、得られる電極合材層をより一層高密度化することができる。
【0091】
(非水系二次電池用電池部材)
本発明の電池部材は、例えば、セパレータや電極であり、通常、上述した本発明の機能層を、上述した集電体、セパレータ基材または電極基材上に備える。本発明の電池部材は、本発明の機能層を備えるため、プレス性に優れる。従って、電池部材が電極である場合には、プレスにより機能層としての電極合材層を良好に高密度化することができる。また、電池部材が機能層として多孔膜層および/または接着層を備える電極或いはセパレータである場合には、多孔膜層および/または接着層を介して接着される電池部材と積層した状態でプレスすることにより、電池部材同士を良好に接着させることができる。そして、本発明の電池部材を用いれば、電池特性に優れる二次電池を良好に製造することができる。
【0092】
ここで、本発明の電池部材は、本発明の機能層が電池部材に配置されている限り、上述した本発明の機能層と、基材以外の構成要素を備えていてもよい。このような構成要素としては、特に限定されることなく、本発明の機能層に該当しない電極合材層、多孔膜層および接着層などが挙げられる。
また、電池部材は、本発明の機能層を複数種類備えていてもよい。例えば、電極は、集電体上に本発明の電極合材層用スラリー組成物から形成される電極合材層を備え、且つ、当該電極合材層上に本発明の多孔膜層用スラリー組成物および/または接着層用スラリー組成物から形成される多孔膜層および/または接着層を備えていてもよい。また例えば、セパレータは、セパレータ基材上に本発明の多孔膜層用スラリー組成物から形成される多孔膜層を備え、且つ、当該多孔膜層上に本発明の接着層用スラリー組成物から形成される接着層を備えていてもよい。
【0093】
(非水系二次電池)
本発明の二次電池は、上述した本発明の電池部材を備えるものである。より具体的には、本発明の二次電池は、正極、負極、セパレータ、および電解液を備え、電池部材である正極、負極およびセパレータの少なくとも一つに、本発明の機能層が含まれる。本発明の二次電池は、本発明の電池部材を用いているため、優れた電池特性を発揮し得る。
【0094】
<正極、負極およびセパレータ>
本発明の二次電池に用いる正極、負極およびセパレータは、少なくとも一つが、上述した本発明の電池部材である。なお、本発明の電池部材以外の(すなわち、本発明の機能層を備えない)正極、負極およびセパレータとしては、特に限定されることなく、既知の正極、負極およびセパレータを用いることができる。
【0095】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0096】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えばリチウムイオン二次電池においては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。また、これらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いので、カーボネート類が好ましい。通常、用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができる。また、電解液には、既知の添加剤を添加してもよい。
【0097】
<非水系二次電池の製造方法>
上述した本発明の二次電池は、例えば、正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、任意にプレスした後、これを必要に応じて、巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することで製造することができる。なお、正極、負極、セパレータのうち、少なくとも一つの電池部材を、本発明の機能層を備える本発明の電池部材とする。また、電池容器には、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0098】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される単量体単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。
そして、実施例および比較例において、粒子状重合体を形成する重合体のテトラヒドロフラン不溶分量、粒子状重合体の表面酸量、スラリー組成物の塗布性および粘度安定性、並びに、電池部材のプレス性は、以下の方法で評価した。
【0099】
<重合体のテトラヒドロフラン(THF)不溶分量>
得られた粒子状重合体の水分散液を、50%湿度、23~25℃の環境下で乾燥させて、厚み約0.3mmに成膜した。成膜したフィルムを3mm角に裁断し、精秤した。
裁断により得られたフィルム片の質量をw0とする。このフィルム片を、100gのテトラヒドロフラン(THF)に24時間、25℃にて浸漬した。その後、THFから引き揚げたフィルム片を105℃で3時間真空乾燥して、不溶分の質量w1を計測した。
そして、下記式にしたがってTHF不溶分量(質量%)を算出した。
THF不溶分量(質量%)=(w1/w0)×100
<粒子状重合体の表面酸量>
得られた粒子状重合体の水分散液を0.3%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液にて希釈し、固形分濃度10%に調整する。その後、7000Gで30分間遠心分離し、軽液を分取する。得られた軽液を0.3%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液にて希釈し、固形分濃度10%に調整する。その後、7000Gで30分間遠心分離し、軽液を分取する。得られた軽液を0.3%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液にて希釈し、固形分濃度10%に調整する。その後、調整したサンプルを7000Gで30分間遠心分離し、軽液を分取する。得られた軽液を5%水酸化ナトリウム水溶液でpH12.0に調整する。pHを調整したサンプルを100mLビーカーに固形分換算で3.0g分取し、花王製エマルゲン120を0.2%に希釈した水溶液3gおよび東レ・ダウコーニング社製SM5512を1%に希釈した水溶液1gを添加する。スターラーで均一に撹拌しながら0.1N塩酸水溶液を0.5mL/30秒の速度で添加し、30秒毎の電気電導度を測定する。
得られた電気伝導度データを、電気伝導度を縦軸(Y座標軸)、添加した塩酸の累計量を横軸(X座標軸)としたグラフ上にプロットする。これにより、
図1のように3つの変曲点を有する塩酸量-電気伝導度曲線が得られる。3つの変曲点のX座標を、値が小さい方から順にそれぞれP1、P2およびP3とする。X座標が、零から座標P1まで、座標P1から座標P2まで、および、座標P2から座標P3まで、の3つの区分内のデータについて、それぞれ、最小二乗法により近似直線L1、L2、およびL3を求める。近似直線L1と近似直線L2との交点のX座標をA1、近似直線L2と近似直線L3との交点のX座標をA2とする。
そして、粒子状重合体1g当たりの表面酸量を、下記の式(a)から、塩酸換算した値(mmol/g)として求める。
(a) 粒子状重合体1g当たりの表面酸量=(A2-A1)/3.0g
<スラリー組成物の塗布性>
[負極用スラリー組成物の塗布性]
得られた負極用スラリー組成物を、ダイコーターを用いて50m/分の条件で銅箔上に目付が12mg/cm
2となるように塗布した。そして、インライン画像解析装置にて、1m
2当りの欠陥数の測定を行い、以下の基準に従って塗布性を評価した。欠陥数が少ないほど、負極用スラリー組成物が塗布性に優れていることを示す。
A:欠陥数が2個/m
2未満
B:欠陥数が2個/m
2以上4個/m
2未満
C:欠陥数が4個/m
2以上
[多孔膜層用スラリー組成物の塗布性]
得られた多孔膜層用スラリー組成物を、ダイコーターを用いて50m/分の条件でセパレータ基材上に目付が3mg/cm
2となるように塗布した。そして、インライン画像解析装置にて、1m
2当りの欠陥数の測定を行い、以下の基準に従って塗布性を評価した。欠陥数が少ないほど、多孔膜層用スラリー組成物が塗布性に優れていることを示す。
A:欠陥数が2個/m
2未満
B:欠陥数が2個/m
2以上4個/m
2未満
C:欠陥数が4個/m
2以上
<スラリー組成物の粘度安定性>
スラリー組成物の調製時に、バインダー組成物を添加する前の溶液を分取し、B型粘度計(東機産業社製、製品名「TV-25」)を用い、測定温度25℃、測定ローターNo.4、ローター回転数60rpmの条件下で粘度M0(mPa・s)を測定した。
また、バインダー組成物を添加して得たスラリー組成物を分取し、直径5.5cm、高さ8.0cmの容器に入れて、TKホモディスパー(プライミクス(株)製、ディスパー直径:40mm)を使用して回転数3000rpmで10分間撹拌した。そして、撹拌後のスラリー組成物の粘度M1(mPa・s)を、バインダー組成物を添加する前の溶液の粘度M0と同様にして測定した。
そして、粘度変化率ΔM(={(M1-M0)/M0}×100%)を算出し、以下の基準に従って評価した。粘度変化率ΔMが小さいほど、スラリー組成物の粘度安定性が高いことを示す。
A:粘度変化率ΔMが10%未満
B:粘度変化率ΔMが10%以上30%未満
C:粘度変化率ΔMが30%以上
<電池部材のプレス性>
[電極(負極)のプレス性]
ロールプレスで圧延する前の負極原反を直径12mmに打ち抜き、試験片とした。試験片を平板の上に設置し、機能層としての負極合材層を圧力5MPaにて加圧した。そして、加圧後の試験片の質量および厚みを測定し、負極合材層の密度を算出した。加圧試験を10回行い、算出された密度の平均値を求めてプレス密度(g/cm
3)とし、以下の基準に従ってプレス性を評価した。プレス密度が高いほど、プレス性に優れることを示す。
A:プレス密度が1.70g/cm
3以上
B:プレス密度が1.60g/cm
3以上1.70g/cm
3未満
C:プレス密度が1.60g/cm
3未満
[セパレータのプレス性]
作製した正極、負極およびセパレータを、それぞれ幅10mm、長さ50mmに切り出した。そして、正極とセパレータとの積層体、および、負極とセパレータとの積層体を準備し、平板プレスを用いて温度40℃で積層体をプレスして試験片とした。
得られた試験片を、電極(正極または負極)の集電体側の面を下にして、集電体の表面にセロハンテープを貼り付けた。この際、セロハンテープとしてはJIS Z1522に規定されるものを用いた。なお、セロハンテープは水平な試験台に固定しておいた。
そして、セパレータの一端を鉛直上方に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した。この測定を、正極とセパレータとの積層体、並びに、負極とセパレータとの積層体についてそれぞれ3回(合計6回)行い、応力の平均値を求め、ピール強度とした。
上述したピール強度の測定を、平板プレスで積層体をプレスする際のプレス荷重を変化させつつ行い、ピール強度が4N/m以上になるプレス荷重を求め、以下の基準に従ってプレス性を評価した。ピール強度が4N/m以上になるプレス荷重が低いほど、過度なプレスによりセパレータ基材にダメージを与えることなく接着力を発現させることができ、プレス性に優れることを示す。
A:ピール強度が4N/m以上になるプレス荷重が4MPa未満
B:ピール強度が4N/m以上になるプレス荷重が4MPa以上5MPa未満
C:ピール強度が4N/m以上になるプレス荷重が5MPa以上
【0100】
(実施例1)
<非水系二次電池負極用バインダー組成物の調製>
[ブロック重合体のシクロヘキサン溶液の調製]
耐圧反応器に、シクロヘキサン233.3kg、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)54.2mmol、および芳香族ビニル単量体としてのスチレン25.0kgを添加した。そしてこれらを40℃で攪拌しているところに、重合開始剤としてのn-ブチルリチウム1806.5mmolを添加し、50℃に昇温しながら1時間重合した。スチレンの重合転化率は100%であった。引き続き、50~60℃を保つように温度制御しながら、耐圧反応器に、脂肪族共役ジエン単量体としてのイソプレン75.0kgを1時間にわたり連続的に添加した。イソプレンの添加を完了後、重合反応を更に1時間継続した。イソプレンの重合転化率は100%であった。次いで、耐圧反応器に、カップリング剤としてのジクロロジメチルシラン740.6mmolを添加して2時間カップリング反応を行った。その後、活性末端を失活させるべく、反応液にメタノール3612.9mmolを添加してよく混合した。次いで、この反応液100部(重合体成分を30.0部含有)に、酸化防止剤として、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール0.3部を加えて混合した。得られた混合溶液を、85~95℃の温水中に少しずつ滴下することで溶媒を揮発させて、析出物を得た。そして、この析出物を粉砕し、85℃で熱風乾燥することにより、ブロック重合体を含む乾燥物を回収した。
そして、回収した乾燥物をシクロヘキサンに溶解し、ブロック重合体の濃度が25%であるブロック重合体溶液を調製した。
[転相乳化]
アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムを1:1:1(質量基準)で混合した混合物をイオン交換水に溶解し、5%の水溶液を調製した。
そして、得られたブロック重合体溶液500gと得られた水溶液500gとをタンク内に投入し撹拌させることで予備混合を行った。続いて、タンク内から、予備混合物を、定量ポンプを用いて100g/分の速度で連続式高能率乳化分散機(太平洋機工社製、製品名「マイルダー MDN303V」)へ移送し、回転数15000rpmで撹拌することにより、予備混合物を転相乳化した乳化液を得た。
次に、得られた乳化液中のシクロヘキサンをロータリーエバポレータにて減圧留去した。その後、留去した乳化液をコック付きのクロマトカラム中で1日静置分離させ、分離後の下層部分を除去することで濃縮を行った。
最後に、上層部分を100メッシュの金網で濾過し、粒子状のブロック重合体を含有する水分散液(ブロック重合体ラテックス)を得た。
[グラフト重合および架橋]
得られたブロック重合体ラテックスを固形分換算で100部に対し、蒸留水850部を添加して希釈した。そして、希釈されたブロック重合体ラテックスを窒素置換された撹拌機付き重合反応容器に投入し、撹拌しながら温度を30℃にまで加温した。
また、別の容器を用い、酸性基含有単量体としてのメタクリル酸10部と蒸留水16部とを混合してメタクリル酸希釈液を調製した。このメタクリル酸希釈液を、30℃にまで加温した重合反応容器内に、30分間かけて添加した。
更に、別の容器を用い、蒸留水7部および還元剤としての硫酸第一鉄(中部キレスト社製、商品名「フロストFe」)0.01部を含む溶液を調製した。得られた溶液を重合反応容器内に添加した後、酸化剤としての1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(日本油脂社製、商品名「パーオクタH」)0.5部を添加し、30℃で1時間反応させた後、更に70℃で2時間反応させた。なお、重合転化率は99%であった。
そして、ブロック重合体をグラフト重合および架橋してなる重合体よりなる粒子状重合体の水分散液(バインダー組成物)を得た。
得られた粒子状重合体の水分散液を用いて、粒子状重合体を形成する重合体のTHF不溶分量および粒子状重合体の表面酸量を測定した。結果を表1に示す。
<非水系二次電池負極用スラリー組成物の調製>
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質としての人造黒鉛(容量:360mAh/g)100部、導電材としてのカーボンブラック(TIMCAL社製、製品名「Super C65」)1部、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル社製、製品名「MAC-350HC」)の2%水溶液を固形分相当で1.2部加えて混合物を得た。得られた混合物をイオン交換水で固形分濃度60%に調整した後、25℃で60分間混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した後、さらに25℃で15分間混合し混合液を得た。得られた混合液に、上述で調製された水分散液からなるバインダー組成物を固形分相当量で2.0部、およびイオン交換水を入れ、最終固形分濃度が48%となるように調整した。さらに10分間混合した後、減圧下で脱泡処理することにより、流動性の良い負極用スラリー組成物を得た。
負極用スラリー組成物の調製時にスラリー組成物の粘度安定性を評価すると共に、得られた負極用スラリー組成物を用いて塗布性を評価した。結果を表1に示す。
<負極の形成>
得られた負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ15μmの銅箔の上に、乾燥後の目付が11mg/cm2になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、負極原反を得た。
そして、負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層の密度が1.75g/cm3の負極を得た。
また、負極のプレス性を評価した。結果を表1に示す。
<正極の形成>
正極活物質としての体積平均粒子径12μmのLiCoO2を100部と、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、製品名「HS-100」)を2部と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ社製、製品名「#7208」)を固形分相当で2部と、溶媒としてのN-メチルピロリドンとを混合して全固形分濃度を70%とした。これらをプラネタリーミキサーにより混合し、正極用スラリー組成物を得た。
得られた正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミ箔の上に、乾燥後の目付が23mg/cm2になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、アルミ箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、正極原反を得た。
そして、正極原反をロールプレスで圧延して、正極合材層の密度が4.0g/cm3の正極を得た。
<セパレータの準備>
セパレータ基材よりなるセパレータとして、単層のポリプロピレン製セパレータ(セルガード社製、製品名「セルガード2500」)を準備した。
<リチウムイオン二次電池の作製>
得られた正極を49cm×5cmの長方形に切り出して正極合材層側の表面が上側になるように置き、その正極合材層上に120cm×5.5cmに切り出したセパレータを、正極がセパレータの長手方向左側に位置するように配置した。更に、得られた負極を50×5.2cmの長方形に切り出し、セパレータ上に、負極合材層側の表面がセパレータに向かい合うように、かつ、負極がセパレータの長手方向右側に位置するように配置した。そして、得られた積層体を捲回機により捲回し、捲回体を得た。この捲回体を電池の外装としてのアルミ包材外装で包み、電解液(溶媒:エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ビニレンカーボネート=68.5/30/1.5(体積比)、電解質:濃度1MのLiPF6)を空気が残らないように注入し、更にアルミ包材外装の開口を150℃のヒートシールで閉口して、容量800mAhの捲回型リチウムイオン二次電池を製造した。そして、このリチウムイオン二次電池が良好に動作することを確認した。
【0101】
(実施例2)
以下のようにして調製した負極用バインダー組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物、負極用スラリー組成物、負極、正極、セパレータおよびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<非水系二次電池負極用バインダー組成物の調製>
実施例1と同様にして、ブロック重合体をグラフト重合および架橋してなる重合体よりなる粒子状重合体の水分散液を調製した。
また、反応器に、イオン交換水150部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(濃度10%)25部、芳香族ビニル単量体としてのスチレン63部、カルボン酸基を有する単量体としてのイタコン酸3.5部、水酸基を有する単量体としての2-ヒドロキシエチルアクリレート1部、および、分子量調整剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.5部を、この順に投入した。次いで、反応器内部の気体を窒素で3回置換した後、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン32.5部を投入した。60℃に保った反応器に、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を投入して重合反応を開始し、撹拌しながら重合反応を継続した。重合転化率が96%になった時点で冷却し、重合停止剤としてのハイドロキノン水溶液(濃度10%)0.1部を加えて重合反応を停止した。その後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去し、粒子状結着材(スチレンブタジエンランダム共重合体)の水分散液を得た。
そして、粒子状重合体の水分散液と、粒子状結着材の水分散液とを、固形分換算の質量比が粒子状重合体:粒子状結着材=70:30となるように容器へ投入して混合物を得た。得られた混合物を撹拌機(新東科学社製、製品名「スリーワンモータ」)を用いて1時間撹拌することにより、負極用バインダー組成物を得た。
【0102】
(実施例3)
非水系二次電池負極用バインダー組成物の調製時に、メタクリル酸の量を15部に変更してグラフト重合および架橋を行った以外は実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物、負極用スラリー組成物、負極、正極、セパレータおよびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
(実施例4)
非水系二次電池負極用バインダー組成物の調製時に、メタクリル酸の量を30部に変更し、酸化剤として1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(日本油脂社製、商品名「パーオクタH」)に替えてターシャリーメチルブチルハイドロパーオキサイド(日本油脂社製、商品名「パーブチルH」)0.5部を使用してグラフト重合および架橋を行った以外は実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物、負極用スラリー組成物、負極、正極、セパレータおよびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
(実施例5)
非水系二次電池負極用バインダー組成物の調製時に、ブロック重合体のシクロヘキサン溶液の調製、並びに、グラフト重合および架橋を以下のようにして行った以外は実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物、負極用スラリー組成物、負極、正極、セパレータおよびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
[ブロック重合体のシクロヘキサン溶液の調製]
耐圧反応器に、シクロヘキサン233.3kg、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)54.2mmol、および芳香族ビニル単量体としてのスチレン25.0kgを添加した。そしてこれらを40℃で攪拌しているところに、重合開始剤としてのn-ブチルリチウム1806.5mmolを添加し、50℃に昇温しながら1時間重合した。スチレンの重合転化率は100%であった。引き続き、50~60℃を保つように温度制御しながら、耐圧反応器に、脂肪族共役ジエン単量体としてのイソプレン75.0kgを1時間にわたり連続的に添加した。イソプレンの添加を完了後、重合反応を更に1時間継続した。イソプレンの重合転化率は100%であった。次いで、耐圧反応器に、カップリング剤としてのジクロロジメチルシラン740.6mmolを添加して2時間カップリング反応を行った。その後、活性末端を失活させるべく、反応液にメタノール3612.9mmolを添加してよく混合した。
次に、得られた混合溶液を、撹拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、水素化触媒としてのシリカ-アルミナ担持型ニッケル触媒(日揮化学工業社製、E22U、ニッケル担持量60%)2.0部および脱水シクロヘキサン100部を添加して混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、さらに溶液を撹拌しながら水素を供給し、温度170℃、圧力4.5MPaにて4時間水素化反応を行った。
水素化反応終了後、反応溶液をろ過して水素化触媒を除去した後、ゼータプラス(登録商標)フィルター30H(キュノー社製、孔径0.5~1μm)および金属ファイバー製フィルター(ニチダイ社製、孔径0.4μm)にて順次濾過して、微小な固形分を除去した。その後、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所社製、コントロ)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で、溶液から溶媒であるシクロヘキサンおよびその他の揮発成分を除去し、円筒型濃縮乾燥器に直結したダイから水素化ブロック重合体を溶融状態でストランド状に押出した。冷却後、ペレタイザーでカットして、水素化ブロック重合体を得た。
そして、水素化ブロック重合体をシクロヘキサンに溶解し、次いで、得られた溶液(重合体成分を30.0部含有)に、酸化防止剤として、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール0.3部を加えて混合し、水素化ブロック重合体の濃度が25%であるブロック重合体溶液を調製した。
なお、水素化反応前後に1H-NMRスペクトルを測定し、水素化反応前後での主鎖・側鎖部分の不飽和結合および芳香環の不飽和結合に対応するシグナルの積分値の減少量を元に水素化率を算出したところ、得られた水素化ブロック重合体の水素化率は65%であった。
[グラフト重合および架橋]
実施例1と同様にして転相乳化することにより得られたブロック重合体ラテックスを固形分換算で100部に対し、蒸留水850部を添加して希釈した。そして、希釈されたブロック重合体ラテックスを窒素置換された撹拌機付き重合反応容器に投入し、撹拌しながら温度を30℃にまで加温した。
また、別の容器を用い、酸性基含有単量体としてのメタクリル酸15部と蒸留水16部とを混合してメタクリル酸希釈液を調製した。このメタクリル酸希釈液を、30℃にまで加温した重合反応容器内に、30分間かけて添加した。
更に、別の容器を用い、蒸留水7部および還元剤としての硫酸第一鉄(中部キレスト社製、商品名「フロストFe」)0.01部を含む溶液を調製した。得られた溶液を重合反応容器内に添加した後、酸化剤としての1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(日本油脂社製、商品名「パーオクタH」)0.6部を添加し、30℃で1時間反応させた。なお、重合転化率は95%であった。
そして、ブロック重合体をグラフト重合および架橋してなる重合体よりなる粒子状重合体の水分散液(バインダー組成物)を得た。
【0105】
(実施例6)
非水系二次電池負極用バインダー組成物を以下のようにして調製した以外は実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物、負極用スラリー組成物、負極、正極、セパレータおよびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<非水系二次電池負極用バインダー組成物の調製>
[ブロック重合体のシクロヘキサン溶液の調製]
耐圧反応器に、シクロヘキサン233.3kg、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)54.2mmol、および芳香族ビニル単量体としてのスチレン25.0kgを添加した。そしてこれらを40℃で攪拌しているところに、重合開始剤としてのn-ブチルリチウム1806.5mmolを添加し、50℃に昇温しながら1時間重合した。スチレンの重合転化率は100%であった。引き続き、50~60℃を保つように温度制御しながら、耐圧反応器に、脂肪族共役ジエン単量体としてのイソプレン75.0kgを1時間にわたり連続的に添加した。イソプレンの添加を完了後、重合反応を更に1時間継続した。イソプレンの重合転化率は100%であった。次いで、耐圧反応器に、カップリング剤としてのジクロロジメチルシラン740.6mmolを添加して2時間カップリング反応を行った。その後、活性末端を失活させるべく、反応液にメタノール3612.9mmolを添加してよく混合した。得られた混合溶液を、85~95℃の温水中に少しずつ滴下することで溶媒を揮発させて、析出物を得た。そして、この析出物を粉砕し、85℃で熱風乾燥することにより、ブロック重合体を含む乾燥物を回収した。
そして、回収した乾燥物をシクロヘキサンに溶解し、ブロック重合体の濃度が10%であるブロック重合体溶液を調製した。
[グラフト重合]
得られたブロック重合体溶液10kgに対し、酸性基含有単量体としてのメタクリル酸30gを添加し、30℃にて撹拌した。更に、重合開始剤としてのジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)8gを加え、80℃に昇温して2時間保持し、ブロック重合体をグラフト重合してなる重合体を含む反応液を得た。
そして、得られた反応液100部(重合体成分を10.0部含有)に、酸化防止剤として、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール0.1部を加えて混合し、得られた混合溶液を85~95℃に加熱された温水中に少量ずつ滴下して溶媒を揮発させて析出物を得て、この析出物を粉砕し、85℃で熱風乾燥することにより、重合体を含む乾燥物を回収した。
そして、回収した乾燥物をシクロヘキサンに溶解し、重合体の濃度が25%である重合体溶液を調製した。
[転相乳化]
アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムを1:1:1(質量基準)で混合した混合物をイオン交換水に溶解し、5%の水溶液を調製した。
そして、得られた重合体溶液500gと得られた水溶液500gとをタンク内に投入し撹拌させることで予備混合を行った。続いて、タンク内から、予備混合物を、定量ポンプを用いて100g/分の速度で連続式高能率乳化分散機(太平洋機工社製、製品名「マイルダー MDN303V」)へ移送し、回転数15000rpmで撹拌することにより、予備混合物を転相乳化した乳化液を得た。
次に、得られた乳化液中のシクロヘキサンをロータリーエバポレータにて減圧留去した。その後、留去した乳化液をコック付きのクロマトカラム中で1日静置分離させ、分離後の下層部分を除去することで濃縮を行った。
最後に、上層部分を100メッシュの金網で濾過し、粒子状重合体を含有する水分散液(バインダー組成物)を得た。
【0106】
(実施例7)
<非水系二次電池多孔膜層用バインダー組成物の調製>
[ブロック重合体のシクロヘキサン溶液の調製]
実施例1と同様にしてブロック重合体溶液を調製した。
[転相乳化]
実施例1と同様にして粒子状のブロック重合体を含有する水分散液(ブロック重合体ラテックス)を得た。
[グラフト重合および架橋]
実施例1と同様にして粒子状重合体の水分散液(バインダー組成物)を得た。
そして、得られた粒子状重合体の水分散液を用いて、粒子状重合体を形成する重合体のTHF不溶分量および粒子状重合体の表面酸量を測定した。結果を表1に示す。
<非水系二次電池多孔膜層用スラリー組成物の調製>
非導電性粒子としてのアルミナ(住友化学社製、製品名「AKP3000」)100部と、カルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム社製、品番「1380」)0.5部とを含む水分散液を準備した。そして、上述で得られた多孔膜層用バインダー組成物を固形分相当で10部添加し、ボールミルを用いて混合することにより、非水系二次電池多孔膜層用スラリー組成物を調製した。
そして、多孔膜層用スラリー組成物の調製時にスラリー組成物の粘度安定性を評価すると共に、得られた多孔膜層用スラリー組成物を用いて塗布性を評価した。結果を表1に示す。
<多孔膜層付きセパレータの形成>
セパレータ基材としての単層のポリプロピレン製セパレータ(セルガード社製、製品名「セルガード2500」)の一方の面に、上述で得られた多孔膜層用スラリー組成物を塗布し、50℃で3分間乾燥させた。その後、上記セパレータの他方の面にも上述で得られた多孔膜層用スラリー組成物を塗布し、50℃で3分間乾燥させて、両面に多孔膜層(厚みはそれぞれ2μm)を備える多孔膜層付きセパレータを得た。
この多孔膜層付きセパレータを用いて、セパレータのプレス性を評価した。結果を表1に示す。
<正極の形成>
実施例1と同様にして、正極合材層を備える正極を得た。
<負極の形成>
以下のようにして調製した負極用バインダー組成物を使用した以外は実施例1と同様にして、負極合材層を備える負極を得た。
[非水系二次電池負極用バインダー組成物の調製]
反応器に、イオン交換水150部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(濃度10%)25部、芳香族ビニル単量体としてのスチレン63部、カルボキシル基含有単量体としてのイタコン酸3.5部、ヒドロキシル基含有単量体としての2-ヒドロキシエチルアクリレート1部、および、分子量調整剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.5部を、この順に投入した。次いで、反応器内部の気体を窒素で3回置換した後、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン32.5部を投入した。60℃に保った反応器に、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を投入して重合反応を開始し、撹拌しながら重合反応を継続した。重合転化率が96%になった時点で冷却し、重合停止剤としてのハイドロキノン水溶液(濃度10%)0.1部を加えて重合反応を停止した。その後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去し、負極用の粒子状結着材としてのスチレンブタジエンランダム共重合体の水分散液を得た。この水分散液を、負極用バインダー組成物として使用した。
<リチウムイオン二次電池の作製>
得られた正極を49cm×5cmの長方形に切り出して正極合材層側の表面が上側になるように置き、その正極合材層上に120cm×5.5cmに切り出した多孔膜層付きセパレータを、正極が多孔膜層付きセパレータの長手方向左側に位置するように配置した。更に、得られた負極を50×5.2cmの長方形に切り出し、多孔膜層付きセパレータ上に、負極合材層側の表面が多孔膜層に向かい合うように、かつ、負極が多孔膜層付きセパレータの長手方向右側に位置するように配置した。そして、得られた積層体を捲回機により捲回し、捲回体を得た。この捲回体を電池の外装としてのアルミ包材外装で包み、電解液(溶媒:エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ビニレンカーボネート=68.5/30/1.5(体積比)、電解質:濃度1MのLiPF6)を空気が残らないように注入し、更にアルミ包材外装の開口を150℃のヒートシールで閉口して、容量800mAhの捲回型リチウムイオン二次電池を製造した。そして、このリチウムイオン二次電池が良好に動作することを確認した。
【0107】
(実施例8)
非水系二次電池多孔膜層用バインダー組成物の調製時に、グラフト重合および架橋を実施例4と同様にして行った以外は実施例7と同様にして、多孔膜層用バインダー組成物、多孔膜層用スラリー組成物、多孔膜層付きセパレータ、負極、正極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例7と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0108】
(実施例9)
非水系二次電池多孔膜層用バインダー組成物の調製時に、ブロック重合体のシクロヘキサン溶液の調製、並びに、グラフト重合および架橋を実施例5と同様にして行った以外は実施例7と同様にして、多孔膜層用バインダー組成物、多孔膜層用スラリー組成物、多孔膜層付きセパレータ、負極、正極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例7と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
(比較例1)
非水系二次電池負極用バインダー組成物を以下のようにして調製した以外は実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物、負極用スラリー組成物、負極、正極、セパレータおよびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<非水系二次電池負極用バインダー組成物の調製>
反応器に、イオン交換水150部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(濃度10%)25部、芳香族ビニル単量体としてのスチレン25部、酸性基含有単量体としてのメタクリル酸5部、および、分子量調整剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.5部を、この順に投入した。次いで、反応器内部の気体を窒素で3回置換した後、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン75部を投入した。60℃に保った反応器に、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を投入して重合反応を開始し、撹拌しながら重合反応を継続した。重合転化率が96%になった時点で冷却し、重合停止剤としてのハイドロキノン水溶液(濃度10%)0.1部を加えて重合反応を停止した。
その後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去し、粒子状のランダム重合体(粒子状重合体)の水分散液(バインダー組成物)を得た。
【0110】
(比較例2)
非水系二次電池負極用バインダー組成物の調製時に、グラフト重合および架橋を以下のようにして行った以外は実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物、負極用スラリー組成物、負極、正極、セパレータおよびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
[グラフト重合および架橋]
得られたブロック重合体ラテックスを固形分換算で100部に対し、蒸留水750部を添加して希釈した。そして、希釈されたブロック重合体ラテックスを窒素置換された撹拌機付き重合反応容器に投入し、撹拌しながら温度を30℃にまで加温した。
また、別の容器を用い、酸性基含有単量体としてのメタクリル酸22部と蒸留水16部とを混合してメタクリル酸希釈液を調製した。このメタクリル酸希釈液を、30℃にまで加温した重合反応容器内に、30分間かけて添加した。
更に、別の容器を用い、蒸留水7部および還元剤としての硫酸第一鉄(中部キレスト社製、商品名「フロストFe」)0.01部を含む溶液を調製した。得られた溶液を重合反応容器内に添加した後、酸化剤としてのターシャリーメチルブチルハイドロパーオキサイド(日本油脂社製、商品名「パーブチルH」)0.8部を添加し、30℃で1時間反応させた。なお、重合転化率は99%であった。
【0111】
(比較例3)
非水系二次電池負極用バインダー組成物の調製時に、グラフト重合および架橋を以下のようにして行った以外は実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物、負極用スラリー組成物、負極、正極、セパレータおよびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
[グラフト重合および架橋]
得られたブロック重合体ラテックスを固形分換算で100部に対し、蒸留水850部を添加して希釈した。そして、希釈されたブロック重合体ラテックスを窒素置換された撹拌機付き重合反応容器に投入し、撹拌しながら温度を30℃にまで加温した。
また、別の容器を用い、酸性基含有単量体としてのメタクリル酸2部と蒸留水16部とを混合してメタクリル酸希釈液を調製した。このメタクリル酸希釈液を、30℃にまで加温した重合反応容器内に、30分間かけて添加した。
更に、別の容器を用い、蒸留水7部および還元剤としての硫酸第一鉄(中部キレスト社製、商品名「フロストFe」)0.01部を含む溶液を調製した。得られた溶液を重合反応容器内に添加した後、酸化剤としての1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(日本油脂社製、商品名「パーオクタH」)0.6部を添加し、30℃で1時間反応させた。なお、重合転化率は99%であった。
【0112】
(比較例4)
非水系二次電池多孔膜層用バインダー組成物の調製を比較例1の負極用バインダー組成物の調製と同様にして行った以外は実施例7と同様にして、多孔膜層用バインダー組成物、多孔膜層用スラリー組成物、多孔膜層付きセパレータ、負極、正極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例7と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
(比較例5)
非水系二次電池多孔膜層用バインダー組成物の調製時に、グラフト重合および架橋を比較例2と同様にして行った以外は実施例7と同様にして、多孔膜層用バインダー組成物、多孔膜層用スラリー組成物、多孔膜層付きセパレータ、負極、正極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例7と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0114】
【0115】
表1より、実施例1~6では、粘度安定性に優れる負極用スラリー組成物およびプレス性に優れる負極合材層が得られることが分かる。一方、表1より、ランダム重合体を用いた比較例1では負極用スラリー組成物の粘度安定性が低下し、表面酸量の多い粒子状重合体を用いた比較例2では負極合材層のプレス性が低下し、表面酸量の少ない粒子状重合体を用いた比較例3では負極用スラリー組成物の粘度安定性が低下することが分かる。
また、表1より、実施例7~9では、粘度安定性に優れる多孔膜層用スラリー組成物およびプレス性に優れる多孔膜層が得られることが分かる。一方、表1より、ランダム重合体を用いた比較例4では多孔膜層用スラリー組成物の粘度安定性が低下し、表面酸量の多い粒子状重合体を用いた比較例5では多孔膜層のプレス性が低下することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の非水系二次電池用バインダー組成物によれば、粘度安定性に優れる非水系二次電池機能層用スラリー組成物およびプレス性に優れる非水系二次電池用機能層を得ることができる。
また、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、粘度安定性に優れており、且つ、プレス性に優れる非水系二次電池用機能層を形成することができる。
更に、本発明によれば、プレス性に優れる非水系二次電池用機能層、当該非水系二次電池用機能層を備える非水系二次電池用電池部材、並びに、当該非水系二次電池用電池部材を備える非水系二次電池を得ることができる。