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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】分割導体セグメントおよび電動機
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/04 20060101AFI20230829BHJP
   H02K 3/34 20060101ALI20230829BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20230829BHJP
   H01F 5/04 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
H02K3/04 J
H02K3/34 D
H01F5/00 D
H01F5/00 F
H01F5/04 L
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020074583
(22)【出願日】2020-04-20
(65)【公開番号】P2021175204
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】折内 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】飯貝 勝也
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-140796(JP,A)
【文献】実開昭59-28255(JP,U)
【文献】国際公開第2019/176500(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/176254(WO,A1)
【文献】特開2017-130330(JP,A)
【文献】米国特許第4321426(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/04
H02K 3/34
H01B 7/02
H01B 3/20
H01F 5/00
H01F 5/04
H01F 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
延在する分割導体セグメントであって、
複数の素線部を有する導電部と、
前記導電部の外周を覆う導電体から成るスリーブと、
前記スリーブの外周を覆う絶縁層と、
延在方向の端部から順に位置する第1部分および第2部分と、
を有し、
複数の前記素線部のそれぞれは、導電体から成る素線と、前記素線の外周に形成された絶縁被膜とを有し、
前記第1部分では、前記素線が露出し、
前記第1部分と隣接する前記第2部分では、前記スリーブが露出している、分割導体セグメント。
【請求項2】
延在方向の端部に電気的に接続された接続材を備えた分割導体セグメントであって、
複数の素線部を有する導電部と、
前記導電部の外周を覆う導電体から成るスリーブと、
前記スリーブの外周を覆う絶縁層と、
前記延在方向の前記端部から順に位置する第1部分および第2部分と、
を有し、
複数の前記素線部のそれぞれは、導電体から成る素線と、前記素線の外周に形成された絶縁被膜とを有し、
前記第1部分では、前記素線が露出し、
前記第1部分と隣接する前記第2部分では、前記スリーブが露出し、
前記第1部分と前記第2部分との間の前記スリーブおよび前記絶縁被膜から成る積層部の、前記延在方向における端部は、第1段差を構成し、
前記接続材は、前記第1部分の前記素線の側面と、前記第2部分の前記スリーブの側面とに接続された第1導体により構成され、
前記接続材は、前記第1段差に対応する第2段差を有する、分割導体セグメント。
【請求項3】
請求項1または2に記載の分割導体セグメントにおいて、
前記第1部分では、互いに隣り合う前記素線同士の間に前記絶縁被膜が設けられている、分割導体セグメント。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の分割導体セグメントにおいて、
横断面において、前記素線の断面積は、前記スリーブの断面積より大きく、
前記延在方向において、前記第1部分の長さは、前記第2部分の長さより長い、分割導体セグメント。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の分割導体セグメントにおいて、
前記絶縁被膜は、有機シラン膜から成る、分割導体セグメント。
【請求項6】
請求項2に記載の分割導体セグメントにおいて、
前記分割導体セグメントの短手方向において、前記第1部分に接する前記接続材の厚さは、前記第2部分に接する前記接続材の厚さより厚い、分割導体セグメント。
【請求項7】
請求項2または6に記載の分割導体セグメントにおいて、
前記接続材の一部は、前記延在方向において、前記素線の外側に位置している、分割導体セグメント。
【請求項8】
請求項2、6または7のいずれか1項に記載の分割導体セグメントにおいて、
前記接続材は、
前記第2部分の前記スリーブの側面に接続された第2導体と、
前記第2導体と前記素線との間に設けられ、前記第1部分の前記素線の側面に接続された第3導体と、
を有する、分割導体セグメント。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の分割導体セグメントを複数備えた固定子を有する、電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割導体セグメントおよび電動機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用モーターに使用される固定子コイルの構成部材として、導体から成る素線にエナメルによる絶縁層を被覆した絶縁電線が用いられている。そして、この絶縁電線においては、占積率を大きくするため丸型の線から平角の線(略矩形状の断面の絶縁電線)が用いられている。
【0003】
また、近年、ハイブリッド車等の電気自動車用のモーターは、高出力とするためにモーターに流す電流の大電流化が進むと共に、インバータで発生させた高周波の交流によって駆動することが多くなっている。
【0004】
しかしながら、大電流化により渦電流損が増大すると共に、導体に流れる電流が表皮効果によって導体素線の表面付近に集中して交流抵抗が大きくなるという問題があった。
【0005】
そこで、渦電流損を抑え表皮効果による交流抵抗を低くするために、分割導体構造体を用いた絶縁電線が検討されている。
【0006】
例えば、特許文献1(特開2007-227265号公報)には、樹脂により被覆された導体素線を複数本一体化した集合導体が開示されている。
【0007】
また、特許文献2(特開昭59-96605号公報)には、酸化銅被膜が形成された導体から成る素線を複数本あわせた集合体の上に絶縁層を設けた絶縁電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-227265号公報
【文献】特開昭59-96605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
分割導体構造を有する絶縁電線を短冊状に切断し、U字形状に折り曲げることにより分割導体セグメントが形成される。ステータコアのスロット内に複数の分割導体セグメントが嵌め込まれ、各分割導体セグメントの端部において、隣り合った分割導体セグメント同士が電気的に接続されることにより固定子コイルが形成される。所望のモーター性能を得るためには、分割導体セグメントの接続を良好なものとする必要がある。
【0010】
本発明の目的は、分割導体セグメントの接続信頼性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0012】
一実施の形態である分割導体セグメントは、延在する分割導体セグメントであって、複数の素線部を有する導電部と、前記導電部の外周を覆う導電体から成るスリーブと、前記スリーブの外周を覆う絶縁層と、延在方向の端部から順に位置する第1部分および第2部分と、を有し、複数の前記素線部のそれぞれは、導電体から成る素線と、前記素線の外周に形成された絶縁被膜とを有し、前記第1部分では、前記素線が露出し、前記第1部分と隣接する前記第2部分では、前記スリーブが露出しているものである。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によれば、分割導体セグメントの接続信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1である分割導体セグメントを備えた固定子の斜視図である。
図2】実施の形態1である分割導体セグメントを備えた固定子の一部を示す断面図である。
図3】実施の形態1である分割導体セグメントの斜視図である。
図4】実施の形態1である分割導体セグメントの拡大斜視図である。
図5】実施の形態1である分割導体セグメントの横断面図である。
図6】実施の形態1である分割導体セグメントの斜視図である。
図7】実施の形態1である分割導体セグメントの端部を示す断面図である。
図8】実施の形態1である分割導体セグメントの端部を示す斜視図である。
図9】実施の形態1の変形例1である分割導体セグメントの端部を示す断面図である。
図10】実施の形態1の変形例2である分割導体セグメントの端部を示す断面図である。
図11】実施の形態1の変形例3である分割導体セグメントの端部を示す断面図である。
図12】実施の形態1の変形例4である分割導体セグメントの端部を示す斜視図である。
図13】実施の形態2である電動機を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0016】
(実施の形態1)
本実施の形態の分割導体セグメントは、例えば電動機の固定子コイルを構成するものである。以下では、分割導体構造を有する分割導体セグメントの端部を他の導体に電気的に接続する際、分割導体セグメントの導電部の側面に設けられた段差に合わせた段差を有する接続材を用いることで、分割導体セグメントの接続信頼性を向上させることについて説明する。
【0017】
なお、以下の説明において、「軸方向」は円筒形の固定子の中心軸に沿った方向を指す。「周方向」は、当該中心軸を中心とする円周方向を指す。「径方向」は、円筒形の固定子の径に沿う方向を指す。
【0018】
<分割導体セグメントの構造>
以下に、図1図8を用いて、本実施の形態の分割導体セグメントの態様について説明する。図1は、本実施の形態の分割導体セグメントを備えた固定子の斜視図である。図2は、本実施の形態の分割導体セグメントを備えた固定子の一部を示す断面図である。図3は、本実施の形態の分割導体セグメントの斜視図である。図4は、本実施の形態の分割導体セグメントの拡大斜視図である。図5は、本実施の形態の分割導体セグメントの横断面図である。図6は、本実施の形態の分割導体セグメントの斜視図である。図7は、本実施の形態の分割導体セグメントの端部を示す断面図である。図8は、本実施の形態の分割導体セグメントの端部を示す斜視図である。
【0019】
図1および図2に示すように、本実施の形態の分割導体セグメント5は、例えば、電動機を構成するステータコア12のスロット12bに複数嵌め込まれて使用される。
【0020】
固定子9は、ステータコア(固定子鉄心)12と、複数の分割導体セグメント5から成る固定子巻線とを有している。図2に示すように、ステータコア12は、環状に形成された薄板鋼板が複数枚積層された構造を有し、円筒形のステータコア12の内周側には、当該円筒の中心軸側に突出した複数の歯部12aと、隣り合う歯部12a同士の間のスロット12bとが設けられている。径方向において、スロット12bの外側には、各歯部12aを支持するコアバック12cが形成されている。各スロット12bに、各相の分割導体セグメント5が装着されている。固定子9の相数は3相のY結線であり、ステータコア12のスロット12bの数は48である。スロット12b内の分割導体セグメント5の数は4本であり、分割導体セグメント5は、径方向において、各スロット12b内に4層整列している。
【0021】
なお、ここでは図示していないが、スロット12b内に挿通される分割導体セグメント5の周囲には、スロットライナーが配設されていてもよい。スロットライナーを設けることにより、分割導体セグメント5の相互間および分割導体セグメント5とスロット12bの内面との間の絶縁耐圧が向上する。
【0022】
複数の分割導体セグメント5の両端のそれぞれは、ステータコア12の軸方向上部の外側で他の分割導体セグメント5に電気的に接続されている。分割導体セグメント5の端部同士は、接続材(中間材、中間部材、継手材)10により互いに接続されている。また、図示はしていないが、一部の分割導体セグメント5の端部は、回転電機を駆動するインバータ制御部等を備えたECU(Electronic Control Unit)に接続される引き出し線として用いられ、外部端子(交流端子)に接続されている。
【0023】
ステータコアにエナメル線を例えば手巻きで巻き付けて製造されたコイルに比べ、ステータコアに平角エナメル線(絶縁電線)を嵌め込んで製造された固定子コイルは、コイルの高効率化による高性能化が可能である。これは、コイルの配線密度を高め、コイルに対して大電流を流すことを可能としているためである。このような固定子コイルを用いることで、モーターの小型化および高出力化を実現できる。
【0024】
図3に示すように、本実施の形態の分割導体セグメント5は、略U字形に折り曲げられている。分割導体セグメント5は、断面形状が略矩形状で、外周が絶縁層で覆われた導体である。なお、図2では、図を分かり易くするため、分割導体セグメント5のハッチングを省略している。分割導体セグメント5は、図2に示すスロット12b内に装着される部位にあたる第1直線部5aと、他のスロット12b内に装着される部位にあたる第2直線部5bと、第1直線部5aと第2直線部5bとを繋ぐ山形部5cとを連続的に形成している。分割導体セグメント5の第1直線部5aと第2直線部5bとの径方向の位置は、互いにずれている。すなわち、第1直線部5aは径方向中心側に配置され、第2直線部5bは第1直線部5aより径方向外周側にずれて配置される。図2に示すスロット12bの配置で説明すると、第1直線部5aは1層目または3層目の奇数層の位置に、第2直線部5bは2層目または4層目の偶数層の位置となる。
【0025】
また、分割導体セグメント5は、第1直線部5aの軸方向の端部であって、山形部5cとは反対側の端部に接続された第1接続部5dを有する。また、分割導体セグメント5は、第2直線部5bの軸方向の端部であって、山形部5cとは反対側の端部に接続された第2接続部5eを有する。第1接続部5dおよび第2接続部5eのそれぞれは、周方向において、山形部5cとは反対側に延在している。また、第1接続部5dおよび第2接続部5eのそれぞれの端部であって、第1直線部5aおよび第2直線部5bとは反対側の端部は、接続材10(図1参照)に対する接続部であり、1本の分割導体セグメント5の両端を構成している。
【0026】
上記のような分割導体セグメント5を複数接続することで、図1に示す固定子コイルが形成される。例えば、図1に示すステータコア12の複数のスロット12bにそれぞれ分割導体セグメント5を装着する。ここでは、図1に示すように、山形部(湾曲部)5cが軸方向下部となるようにステータのスロット12bに分割導体セグメント5を挿入する。そして、軸方向上部でステータコア12から突出した各分割導体セグメント5(第1接続部5dおよび第2接続部5e)の端部を、隣の分割導体セグメント5と接続するように溶接することで、円筒状のステータコア12の外周に沿ってコイルが形成される。
【0027】
図4および図5に示すように、本実施の形態に係る分割導体セグメント5は、導電部7と、導電部7の外周に順に被覆された、スリーブ3および絶縁層4とを有する。そして、導電部(分割導電部、コア部とも言う)7は、複数の素線部6から成る。素線部6は、素線1と、素線を被覆する被膜(絶縁被膜)2とを有する。ここでは、平角型の2本の素線部6がその厚さ方向に積層されている。
【0028】
素線1の材料としては、絶縁電線に使用されるものであれば特に限定されることはないが、金属材料などの導電性材料(導電体)、具体的には、例えば、銅線、銅合金線、アルミニウム線、またはアルミニウム合金線を用いることができる。また、このような金属材料の表面にニッケル等の金属めっきを施したものを用いてもよい。また、ここでは、素線1として横断面形状が略矩形状の平角線を用いたが、他の形状の線、例えば、丸線、異形状の線を用いてもよい。ただし、分割導体セグメント5の占積率を大きくするため、平角線を用いることが好ましい。素線1は、例えば、厚さ1mm~2mm程度、幅3mm~5mm程度である。なお、本明細書において、A~Bは、原則としてA以上B以下を示す。具体的には、銅平角線である素線1の横断面における寸法は、1.9×3.45mmである。
【0029】
被膜2の材料は、例えば有機シラン(有機ケイ素化合物)である。すなわち、被膜2は、有機シラン膜である。このような被膜(有機シラン膜、シランコート)は、シランカップリング剤を用いて形成することができる。被膜2の材料として有機シラン膜を用いることにより、被膜2の薄膜化が可能であり、分割導体セグメント5の占積率を向上させることができ、スロット内に装着されるコイルの電流密度を高くすることができる。また、このような有機シラン膜は、導体との結合性が高く、柔軟性、可撓性を有し、分割導体セグメント5の伸びおよび加工に対し容易に追従し、分割導体セグメント5の伸びおよび加工の際の被膜の剥離を抑制することができる。したがって、分割導体セグメント5の絶縁特性の長期信頼性を向上させることができる。
【0030】
有機シラン膜の膜厚は、例えば、0.1μm~10μm程度である。シランカップリング剤を作用させる方法としては、シランカップリング剤を含有する液体を塗布する方法がある。塗布方法としては、例えば、ディップコーティング法またはスプレーコーティング法などを用いることができる。
【0031】
また、被膜2は、有機シランではなく、素線1の酸化物から成る酸化膜であってもよい。この酸化膜は、素線1を酸化雰囲気に連続的に通過させることにより形成できる。
【0032】
スリーブ3の材料としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金などの金属材料を用いることができる。例えば、薄膜状(テープ状)の金属材料を素線の束(導電部7)の外周に1/2ラップによる横巻で巻きつけ、素線の束(導電部7)の延在方向に巻きピッチの1/2の間隔でスポット溶接することにより、スリーブ3を形成することができる。また、薄膜状の金属材料を素線の束(導電部7)の延在方向に沿って配置(縦添え)し、巻いた後、隣り合った金属材料の端部の突合せ部分を溶接することにより、スリーブ3を形成してもよい。また、金属材料を、素線の束(導電部7)の外周に筒状に押し出すことでスリーブ3を形成することができる。スリーブ3の厚さは、例えば、0.1mm~0.2mm程度である。このようなスリーブ3を設けることで、素線1のずれを防止することができるため、分割導体セグメント5を略U字状に加工する際の、曲げ加工に対する分割導体セグメント5の強度を向上させることができる。分割導体セグメント5の横断面(延在方向に対して垂直な面での断面)において、2つの素線1のそれぞれの断面積は、スリーブ3の断面積よりも大きい。
【0033】
絶縁層4としては、ポリイミド系、ポリアミドイミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリビニルホルマール系、ポリフェニレンスルファイド(PPS)系の樹脂を用いることができる。すなわち、絶縁層4は、例えばエナメル樹脂である。例えば、スリーブ3の周囲に上記樹脂を被覆することにより、絶縁層4を形成することができる。例えば、複数の素線部6を束ねたコアの周囲に上記樹脂材料(前駆体)を塗布した後、加熱することで絶縁層4を形成することができる。また、押出機などにより溶融した樹脂を導電部(コア部)7の外周に押出すことにより絶縁層4を形成することができる。絶縁層4の膜厚は、例えば、5μm~50μm程度であり、例えば30μmである。塗布方法としては、ディップコーティング法またはスプレーコーティング法などを用いることができる。
【0034】
コイルを構成する絶縁電線としては、円形の断面を有する1本の素線およびエナメル被覆から成るエナメル線を用いることが考えられる。これに対し、本実施の形態によれば、表皮効果の低減、および、渦電流損の低減を実現することができる。表皮効果とは、交流電流が導体(電線)を流れるとき、電流密度が導体表面で高く、導体内部は低くなる現象である。この現象により、導体の電気抵抗が増大し、電力の損失が生じる。分割導体セグメント5は分割導体であるため、2本の素線1と1本のスリーブ3との計3つの経路を電流が流れる。この3つの電流経路を並列に接続し、各電流経路に別々に電流を流すことで、上記各損失の発生を防ぐことができる。分割導体から成るエナメル線(分割導体エナメル線)は、特に、モーターの高速回転時の渦電流損低減に有用である。
【0035】
分割導体エナメル線の構造としては、スリーブを有さず、複数の素線にエナメル被膜を塗布したものを用いることも考えられる。しかし、その場合、分割導体を折り曲げた場合などに、素線同士の位置がずれ易いという問題がある。このようなずれが生じると、エナメル被覆に割れが生じること、および、素線がばらけることが考えられる。したがって、分割導体エナメル線の品質安定性を保つため、スリーブを用いることが望ましい。
【0036】
次に、図6図8を用いて、分割導体セグメントの端部同士の接続態様について説明する。
【0037】
図6に示すように、ステータコア12(図1参照)の軸方向上部で、径方向において互いに隣り合う2つの分割導体セグメント5の端部同士は、互いに溶接され、電気的に接続されている。この溶接は、例えばTIG(Tungsten Inert Gas)溶接により行われている。径方向に並ぶ4つの分割導体セグメント5のそれぞれの端部のうち、径方向内側の2つの端部同士が互いに接続され、径方向外側の2つの端部同士が互いに接続されている。ここでは、2本の分割導体セグメント5のそれぞれの端部を覆うキャップ状の接続材10を2つの当該端部に被せた上で、溶接を行って端部同士を接続している(図8参照)。
【0038】
図7に、1本の分割導体セグメント5の端部および当該端部に接続された接続材10の断面図を示す。図7は、図軸方向および周方向に沿う断面であって、径方向に対して垂直な面における断面である。
【0039】
図7に示すように、分割導体セグメント5の導電部材を接続材10に電気的に接続するため、素線1およびスリーブ3は、絶縁層4から露出している。具体的には、分割導体セグメント5の端部から、分割導体セグメント5側に向かって順に、素線1が絶縁層4、スリーブ3および被膜2から露出している第1部分1Aと、スリーブ3が絶縁層4から露出している第2部分1Bとが、互いに隣接して存在している。
【0040】
第1部分1Aでは、隣り合う素線1同士の間には被膜2が設けられているが、第1部分1Aでのそれ以外の領域において、素線1の外周の被膜2は除去され、素線1が被膜2から露出している。
【0041】
第2部分1Bにおいて、各素線1の外周全体は、被膜2およびスリーブ3により覆われている。このため、互いに接する第1部分1Aと第2部分1Bとの間(境界)には、素線1の側面と、被膜2およびスリーブ3から成る積層部(積層構造)との間の段差11aが存在している。
【0042】
接続材10は、例えば銅、銅合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金から成る導体であり、スリーブ3および素線1の側面に溶接されている。ここでは、キャップ状の接続材10により、2本の分割導体セグメント5の端部をまとめて覆い、分割導体セグメント5の短手方向から接続材10により当該端部を挟み込むように接続する場合について説明する(図8参照)。ただし、分割導体セグメント5の延在方向において接続材10の上部が解放されていてもよい。言い換えれば、接続材10はリング状であってもよい。接続材10がリング状である場合には、2本の分割導体セグメント5の端部を束ねるように、接続材10の孔部に当該2つの端部を嵌め込んで接続を行う。接続材10がキャップ状である場合およびリング状である場合のいずれの場合でも、2本の分割導体セグメント5の端部は接続材10の開口部に嵌合して溶接される。
【0043】
本実施の形態の主な特徴として、接続材10は、分割導体セグメント5の側面の段差11aに対応するように、分割導体セグメント5に対向する面(内壁)に段差を有している。すなわち、接続材10の開口部は、分割導体セグメント5の延在方向において隣接する第3部分と開口端の第4部分とを有し、第3部分よりも分割導体セグメント5側に位置する第4部分の開口幅は、第3部分の開口幅よりも大きい。接続材10と分割導体セグメント5とを接続する際には、接続材10の第3部分に分割導体セグメント5の第1部分1A(素線1)が嵌合し、接続材10の第4部分に分割導体セグメント5の第2部分1B(スリーブ3)が嵌合する。つまり、接続材10の内壁のうち、第3部分の内壁は第1部分1Aの素線1の側面に接続され、第4部分の内壁は第2部分1Bのスリーブ3の側面に接続される。このとき、絶縁層4の終端部は、分割導体セグメント5の短手方向において接続材10と接しておらず、例えば、絶縁層4の終端部と接続材10とは互いに離間している。接続材10の内壁の段差は、スリーブ3の終端部を含む段差11aに嵌合している。
【0044】
分割導体セグメント5の延在方向において、接続材10と素線1とが接する距離(第1部分1Aの距離)x1は、接続材10とスリーブ3とが接する距離(第2部分1Bの距離)x2よりも大きい。これは、接続材10に接続される対象の電流量に比例して、接触面積を大きくすることが望ましいためである。すなわち、分割導体セグメント5の横断面(延在方向に対して垂直な面での断面)において、2つの素線1のそれぞれの断面積は、スリーブ3の断面積よりも大きい。このため、距離x1およびx2の比は、素線の断面積と、スリーブの断面積との比と同じとすることが望ましい。
【0045】
ここで、1本の分割導体セグメント5を構成する2本の素線1同士が隣り合う方向、つまり、素線1の厚さ方向において分割導体セグメント5を挟み込む接続材10のうち、素線1の側面から、素線1の当該側面を覆う接続材10の外側の表面(当該素線1側と反対側の表面)までの厚さをaとする。また、当該方向において分割導体セグメント5を挟み込む接続材10のうち、第1部分1Aにおいて素線1の一方の側面に接する接続材10の厚さをa1とする。また、当該方向において分割導体セグメント5を挟み込む接続材10のうち、第2部分1Bにおいてスリーブ3の一方の側面に接する接続材10の厚さをa2とする。また、当該方向において1つの素線1の一方の側面を覆う被膜2およびスリーブ3から成る積層部の厚さをbとする。当該方向において1つの素線1の一方の側面を覆うスリーブ3の厚さをcとする。
【0046】
この場合、第3部分(第1部分1A)の厚さa1は、第4部分(第2部分1B)の厚さa2よりも厚い。また、厚さa1、bおよびcの関係は、a1>b>cで表される。また、厚さaの最大値と最小値との差は、厚さcよりも小さい。ここでいう厚さaの最大値とは、厚さa2およびbの合計の値であり、厚さaの最小値とは、厚さa1の値である。
【0047】
このような分割導体セグメント5の端部の構造は、次のようにして作成することができる。すなわち、第1部分1Aおよび第2部分1Bの絶縁層4は、例えば、薬品処理、研磨若しくは切削またはそれらの組み合わせの方法などにより除去することができる。第1部分1Aのスリーブ3は、例えば、切削などにより除去することができる。第1部分1Aの被膜2は、例えば、薬品処理、研磨若しくは切削またはそれらの組み合わせの方法などにより除去することができる。
【0048】
接続材10は、例えば、鋳造、プレス加工、またはそれらの組み合わせにより製造することができる。あるいは、接続材10の製造方法として、穴を有するキャップ状の金属材を用意し、当該穴の入り口(開口端)付近の内壁の削ることで、内壁の段差を形成することが考えられる。
【0049】
図8に示すように、1つの分割導体セグメント5の端部と、相手材であるもう1つの分割導体セグメント5の端部とを覆うように接続材10を被せ、各分割導体セグメント5の露出している素線1およびスリーブ3のそれぞれの側面に、接続材10を溶接する。これにより、隣り合う分割導体セグメント5同士を接続し、分割導体セグメントから成る固定子コイルを製造することができる。この溶接は、U字型の複数の分割導体セグメント5をステータコア12(図1参照)に挿入し、各分割導体セグメント5を折り曲げて、図3に示す第1接続部5dおよび第2接続部5eを作成した後に行う。
【0050】
上記のように、本実施の形態の延在する分割導体セグメントは、複数の素線部6を有する導電部7(図5参照)と、導電部7の外周を覆う導電体から成るスリーブ3と、スリーブ3の外周を覆う絶縁層4と、延在方向の端部から順に位置する第1部分1Aおよび第2部分1Bと、を有する。複数の素線部6のそれぞれは、導電体から成る素線1と、素線1の外周に形成された絶縁被膜(被膜2)とを有している。第1部分1Aでは、素線1が絶縁層4、スリーブ3および絶縁被膜から露出し、第1部分1Aと隣接する第2部分1Bでは、スリーブ3が絶縁層4から露出している。また、第1部分1Aと第2部分1Bとの間のスリーブ3および絶縁被膜から成る積層部の、当該延在方向における端部は、第1段差(段差11a)を構成している。接続材10は、第1部分1Aの素線1の側面と、第2部分1Bのスリーブ3の側面とに接続された第1導体により構成され、接続材10は、第1段差に対応する第2段差を有する。
【0051】
<本実施の形態の効果>
分割導体セグメントを他の導体(相手材)に接続する際には、導体から成る接続材を分割導体セグメントに溶接などにより接続することが考えられる。分割導体セグメントが、複数の素線と、それらを囲んで束ねる導体であるスリーブとにより構成される場合、スリーブと、スリーブから露出させた各素線とのそれぞれを、相手材に電気的に接続する必要がある。これは、スリーブおよび各素線を相手材に電気的に接続しなければ、固定子コイルを構成する絶縁電線に分割導体構造を採用した利点を得られなくなるためである。すなわち、固定子コイルを利用する際、分割導体セグメントを構成する各導体に電流を流すことで、表皮効果の低減、および、渦電流損の低減を実現することができる。
【0052】
分割導体セグメントと相手材とを接続する方法として、分割導体セグメントの延在方向における端部において、分割導体セグメントの最外層を構成する絶縁層(例えばエナメル被覆)を除去し、露出した導体を相手材に接続することが考えられる。しかし、その場合、複数の素線を束ねて覆うスリーブの側面(外周面)は露出するが、各素線の側面は露出しないため、素線を相手材に接続することは困難である。よって、素線と相手材との接続信頼性が低下する虞がある。
【0053】
これに対し、本実施の形態では、図7に示す第2部分1Bにおいてスリーブ3の側面を絶縁層4から露出させ、第2部分1Bよりも分割導体セグメント5の先端側の第1部分1Aにおいて、複数の素線1の側面を被膜2、スリーブ3および絶縁層4から露出させている。このように、分割導体セグメント5の先端側に向かって段階的に内部導体を露出させることで、分割導体セグメント5を構成する全ての導体を露出させることができる。したがって、スリーブ3および各素線1を、相手材に容易に接続することができる。これにより、分割導体セグメントの接続信頼性を向上させることができる。
【0054】
また、分割導体セグメント5の端部のスリーブ3を除去して複数の素線1を露出させると、スリーブ3に厚みがあるため、素線1の側面とスリーブ3の側面との間に段差11aが生じる。
【0055】
この場合、接続材をスリーブ3および素線1の両方に接続させるため、例えば、接続材を素線1の側面に対して傾斜した状態で溶接することも考えられるが、このような方法では、接続の作業難易度が高くなる。また、この場合、接続材とスリーブ3および素線1との接触面積が減少することが考えられる。よって、分割導体セグメント5の品質にばらつきが生じる虞がある。また、固定子コイルの使用時などの振動、エンジンの高熱、または、溶接時の熱による金属の膨張・収縮などに起因して、接続材と分割導体セグメント5との間で剥離が起き、不良発生率が高くなる。このような剥離は、接触不良による電動機の出力低下、または、短絡による発火などを引き起こす虞がある。したがって、分割導体セグメントの端部同士の接続状態を長期に保ち、分割導体セグメントの接続信頼性の低下を防ぐ必要がある。
【0056】
これに対し、本実施の形態では、図7に示すように、分割導体セグメント5の端部で露出するスリーブ3と素線1との間の段差11aに対応する段差を、接続材10の内壁に設けている。すなわち、接続材10の溶接部分に、被膜2およびスリーブ3を除去することにより生じた段差11aの高さに応じた段差を設けている。よって、接続材10の内壁の段差を段差11aに嵌合させて接続材10と分割導体セグメント5とを溶接することができる。
【0057】
また、接続材10に対し曲げ加工を行わずとも、第1部分1Aで接続材10を素線1に接続し、かつ、第2部分1Bで接続材10をスリーブ3に接続できる。したがって、分割導体セグメントの製造工程における工数を減らし、分割導体セグメントの製造コストを低減することができる。ここでは、接続材10の内壁に段差を設けているため、第1部分1Aおよび第2部分1Bに亘って、接続材10の外側の表面は平坦である。よって、厚さaの最大値と最小値との差は0であり、厚さcよりも小さい。
【0058】
本実施の形態では、接続材10の表面と分割導体セグメント5の表面とが斜めの状態で溶接するのではなく、それらの対向する表面が互いに平行な状態で溶接を行うことができる。したがって、溶接作業が容易となる。
【0059】
また、分割導体セグメントの品質にばらつきが生じることを防ぎ、歩留まりを向上させることができる。また、接続材を素線1およびスリーブ3のそれぞれの側面に対して傾斜した状態で接続する場合に比べ、溶接による接続面積を増大させることができる。よって、より確実に接続できるため、分割導体セグメント5の端部と接続材10との接続状態を長期に保つことができる。よって、分割導体セグメントの接続信頼性を向上させることができる。
【0060】
ここでは、2本の分割導体セグメント5の端部に対して、1つの接続材10を被せることについて説明したが、1本の分割導体セグメント5の端部に対して、1つの接続材10を被せてもよい。また、1本の分割導体セグメント5の端部を、接続材10を介して接続する相手材は、分割導体でなくてもよい。
【0061】
図1では示していないが、分割導体セグメント5の端部を、固定子9の外部に電気的に接続するための外部端子(接続端子)に接続する際にも、本実施の形態を適用することができる。すなわち、分割導体セグメント5の端部の素線1およびスリーブ3を覆うように分割導体セグメント5に接続される外部端子の内壁に、接続材10の内壁と同様に段差を設けることで、分割導体セグメント5と外部端子との接続を維持し易くすることができる。
【0062】
<変形例1>
図7では、素線1の延在方向において、素線1の端部の外側に接続材10を示していなかったが、図9に示すように、分割導体セグメント5が嵌合する接続材10の開口部の内壁に、さらに段差11bを設けてもよい。図9は、本実施の形態の変形例1である分割導体セグメントの端部を示す断面図である。
【0063】
段差11bは、接続材10と分割導体セグメント5とが接続された状態で、素線1の延在方向において素線1の端部よりも外側に位置している。つまり、接続材10の開口部の内壁において、下側の開口端から、段差11aと嵌合する段差、および、段差11bとが順に並んでいる。
【0064】
ここで、接続材10は、下側の開口端から順に第4部分、第3部分および第5部分1Cを有している。第5部分1Cは、分割導体セグメント5の延在方向において、段差11bよりも第3部分の反対側に位置する部分である。接続材10の第5部分1Cは、分割導体セグメント5の延在方向において、素線1の端部の外側に位置している。接続材10の第5部分1C同士は互いに離間している。分割導体セグメント5の短手方向において、第5部分1Cの接続材10の厚さは、第3部分の接続材10の厚さa1より厚い。
【0065】
本変形例のように、素線1の延在方向において、素線1の外側に段差11bを設けて、接続材10の第3部分よりも厚さが厚い第5部分1Cを設けることで、接続材10の電気抵抗を低減することができる。したがって、分割導体セグメント5の短手方向における接続材10の厚さを小さくすることができる。これにより、接続材10が接続された複数の分割導体セグメント5をより高い密度で配置することができるため、分割導体セグメントを高効率化することができる。また、分割導体セグメント5の短手方向における接続材10の厚さを小さくすることで、分割導体セグメント5と接続材10との溶接をより容易にすることができる。
【0066】
<変形例2>
図7では、接続材10を1つの導体により構成することについて説明したが、図10に示すように、接続材10は2つの導体により構成されていてもよい。図10は、本実施の形態の変形例2である分割導体セグメントの端部を示す断面図である。
【0067】
図10に示すように、分割導体セグメント5に接続された接続材10が第1導体により構成されているとする。ここで、第1導体は、第2部分1Bのスリーブ3の側面に接続された第2導体10aと、第2導体10aと素線1との間に設けられ、第1部分1Aの素線1の側面に接続された第3導体10bとにより構成されている。ここで、接続材10の内壁に設けられ、段差11aに対応する段差は、第2導体10aのスリーブ3側の側面(内壁)と、分割導体セグメント5の延在方向における第3導体10bの端部とにより構成されている。
【0068】
このように、接続材10を2つの第2導体10aおよび第3導体10bにより構成することで、それらの導体の重なりにより、接続材10の内壁の段差を設けてもよい。これにより、接続材10の内壁の段差を形成するための切削工程などを省略することができる。
【0069】
第2導体10aと第3導体10bとは、接続材10を分割導体セグメント5の端部に溶接する前に互いに接続されていてもよい。また、接続材10の分割導体セグメント5の端部に第2導体10aと第3導体10bとをそれぞれ嵌合させた後に、溶接により分割導体セグメント5、第2導体10aおよび第3導体10bのそれぞれを相互に接続させてもよい。
【0070】
<変形例3>
図7図10では、内壁に段差を有する接続材を用いることについて説明したが、図11に示すように、接続材20は、分割導体セグメント5の端部の段差11aに合わせて、曲げ加工が施されていてもよい。図11は、本実施の形態の変形例3である分割導体セグメントの端部を示す断面図である。
【0071】
分割導体セグメント5の端部の被膜2およびスリーブ3を除去して複数の素線1を露出させると、スリーブ3に厚みがあるため、素線1の側面とスリーブ3の側面との間に段差11aが生じる。そこで、本変形例では、図11に示すように、接続材20を曲げることで、接続材20の表面を、スリーブ3と素線1との両方の側面に溶接により接続している。このように、接続材20に対して曲げ加工を行うことで、接続材20の表面と、スリーブ3および素線1のそれぞれの側面とを、互いに対向させた状態で溶接することができる。つまり、面同士を接続することで、接続材20とスリーブ3および素線1のそれぞれとの接続信頼性を高めることができる。よって、分割導体セグメントの接続信頼性を向上させることができる。
【0072】
また、接続材20を曲げることで、スリーブ3と素線1との両方に接続材20を電気的に接続しているため、固定子コイルを構成する絶縁電線に分割導体構造を採用した利点を得ることができる。すなわち、固定子コイルを利用する際、分割導体セグメントを構成する各導体に電流を流すことで、表皮効果の低減、および、渦電流損の低減を実現することができる。
【0073】
ここでは、接続材20に対して曲げ加工を行うことで、接続材20を段差11aに合わせて湾曲させている。この場合、第1部分1Aの接続材20の厚さa1と、第2部分1Bの接続材20の厚さa2とは、同じになる。また、第2部分1Bの厚さaは、第1部分1Aの厚さaの最小値に比べ、被膜2およびスリーブ3から成る積層部(積層構造)の厚さの分だけ厚い。つまり、厚さaの最大値と最小値との差は、厚さbと同等であり、少なくとも厚さcよりも厚い。
【0074】
<変形例4>
図7図11では、分割導体セグメントと相手材とを電気的に接続するために、接続材を用いることについて説明したが、図12に示すように、接続材を用いず、分割導体セグメント5の端部同士を直接接続させてもよい。図12は、本実施の形態の変形例3である分割導体セグメントの端部を示す斜視図である。
【0075】
本変形例では、径方向において並ぶ2本の分割導体セグメント5の端部同士を直接溶接することで、2本の分割導体セグメント5を電気的に接続している。各分割導体セグメント5の端部近傍では、第1部分1Aにおいて素線1を露出し、第2部分1Bにおいてスリーブ3を露出している。このため、2本の分割導体セグメント5の素線1同士の接続と、2本の分割導体セグメント5のスリーブ3同士の接続とを容易に実現することができる。このとき、素線1とスリーブ3とが電気的に接続されていてもよい。
【0076】
図12では、2本の分割導体セグメント5を、それらの短手方向において並べ、各分割導体セグメント5のスリーブ3および素線1を曲げることで、2本の分割導体セグメント5の端部同士を接触させている。また、スリーブ3および素線1のそれぞれを曲げずに当該端部同士を溶接してもよい。特に、絶縁層4は薄い層であるため、第2部分1Bでスリーブ3および素線1を曲げずとも、第2部分1Bのスリーブ3同士を溶接することができる。
【0077】
(実施の形態2)
図13は、本実施形態に係る電動機(回転電機)40の断面図である。電動機40は、固定子9と、固定子9を保持するハウジング50と、回転子31と、を備えている。
【0078】
回転子31が固定されるシャフト33は、軸受44および軸受45により回転自在に支持されている。
【0079】
ハウジング50の内周側には、固定子9が固定されている。固定子9の内周側には、回転子31が回転可能に支持されている。ハウジング50は、炭素鋼など鉄系材料の切削により、または、鋳鋼やアルミニウム合金の鋳造により、または、プレス加工によって円筒状に成形され、電動機40の外被を構成している。ハウジング50は、枠体またはフレームとも呼ばれる。ハウジング50は、厚さ2~5mm程度の鋼板(高張力鋼板など)を絞り加工により円筒形状に形成されている。
【0080】
回転子31は、回転子鉄心32と、シャフト33とから構成されている。回転子鉄心32は、珪素鋼板の薄板が積層されて作られている。シャフト33は、回転子鉄心32の中心に固定されている。シャフト33は、固定子9内の所定の位置で、固定子9に対向した位置で回転する。また、回転子31には、永久磁石38と、エンドリング(図示しない)とが設けられている。
【0081】
前記実施の形態1で説明したような固定子9を有する電動機40は、ハイブリット自動車または電気自動車などの電動車両(xEV)の駆動用などのモーターとして用いられる。
【0082】
このようなモーターは、円筒状の固定子9と、この固定子9に取り付けられたコイル(分割導体セグメントにより構成されるコイル)と、ステータの内周壁と一定の距離を離間して回転可能に配置されたシャフト33とを有している。そして、シャフト33に発生する磁界に基づいて、上記シャフト33を回転させることにより、駆動力を得ることができる。
【0083】
そして、このような電動車両のモーターは、高周波の交流によって駆動されることが多く、渦電流などによる損失が生じ易いため、前記実施の形態1で説明した分割導体セグメントを好適に用いることができる。本実施の形態では、前記実施の形態1で説明した分割導体セグメントにより構成される固定子コイルを用いることで、電動機の効率を高め、かつ、電動機の信頼性を向上させることができる。
【0084】
なお、ここでは車両用モーターを例に説明したが、前記実施の形態1で説明した分割導体セグメントは、他の電動機にも適用することができる。
【0085】
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0086】
1 素線
1A 第1部分
1B 第2部分
2 被膜
3 スリーブ
4 絶縁層
5 分割導体セグメント
6 素線部
7 導電部
9 固定子
10 接続材
12 ステータコア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13