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特許7338639光学フィルム、位相差フィルム、及びそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】光学フィルム、位相差フィルム、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230829BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20230829BHJP
   B29C 48/00 20190101ALI20230829BHJP
   C08F 212/32 20060101ALI20230829BHJP
   C08F 236/04 20060101ALI20230829BHJP
   C08F 8/04 20060101ALI20230829BHJP
   C08F 297/04 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C48/08
B29C48/00
C08F212/32
C08F236/04
C08F8/04
C08F297/04
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020558279
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2019044016
(87)【国際公開番号】W WO2020110673
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2018225551
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 一輝
(72)【発明者】
【氏名】摺出寺 浩成
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-164920(JP,A)
【文献】特開2013-139541(JP,A)
【文献】特開2018-017967(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152871(WO,A1)
【文献】特開2006-111650(JP,A)
【文献】特開2011-013378(JP,A)
【文献】特開2007-226109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29C 48/08
B29C 48/00
C08F 212/32
C08F 236/04
C08F 8/04
C08F 297/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合単位Aと重合単位Bとを含む共重合体Pを含む樹脂Cからなる、光学フィルムであり、
構造性複屈折を発現する相分離構造を含み、前記相分離構造は、前記重合単位Aを主成分とする相と、前記重合単位Bを主成分とする相とを含み、厚み方向レターデーションRth(nm)及び厚みd(nm)から算出されるRth/dの値が、2.5×10-3以上である、光学フィルム。
【請求項2】
前記Rth/dの値が、3.0×10-3以上8.0×10-3以下である、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記厚みdが、150μm以下である、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記相分離構造が、ラメラ、シリンダ、及びスフェロイドのいずれかの形態を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記相分離構造における相間距離が200nm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記共重合体Pが、前記重合単位Aを主成分とするブロック(A)及び前記重合単位Bを主成分とするブロック(B)を有するブロック共重合体である、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記重合単位Aが一般式(A)で表される単位である、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学フィルム:
【化1】
式中Rは、フェニル基、ビフェニルイル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ナフタセニル基、ペンタセニル基、及びターフェニルイル基からなる群より選択される基であり、
~Rのそれぞれは独立に、水素原子及び炭素数1~12のアルキル基からなる群より選択される一つである。
【請求項8】
前記共重合体Pにおける、前記重合単位Aを水素化して得られる重合単位HAの前記重合単位Aに対するモル比率が、0/100以上10/90以下である、請求項7に記載の光学フィルム。
【請求項9】
前記重合単位Bが一般式(B-1)で表される単位又は一般式(B-2)で表される単位である、請求項1~8のいずれか1項に記載の光学フィルム:
【化2】
式中R~Rのそれぞれは独立に、水素原子及び炭素数1~6のアルキル基からなる群より選択される一つである。
【請求項10】
前記共重合体Pにおける、下記一般式(B’-1)で表される単位及び下記一般式(B’-2)で表される単位の、前記重合単位Bに対する合計モル比率が、0/100以上10/90以下である、請求項9に記載の光学フィルム:
【化3】
式中R~Rは、前記と同義である。
【請求項11】
前記重合単位Aが、ビニルナフタレン単位、ビニルナフタレン誘導体単位、スチレン単位、又はスチレン誘導体単位であり、
前記重合単位Bが、イソプレン単位を水素化して得られる単位、ブタジエン単位を水素化して得られる単位、1,3-ペンタジエン単位を水素化して得られる単位、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン単位を水素化して得られる単位、1,3-ヘキサジエン単位を水素化して得られる単位、2-メチル-1,3-ペンタジエン単位を水素化して得られる単位、3-メチル-1,3-ペンタジエン単位を水素化して得られる単位、又は2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン単位を水素化して得られる単位である、請求項1~10のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項12】
前記共重合体Pが、トリブロック共重合体P’を含み、
前記トリブロック共重合体P’は、前記重合単位Aを主成分とするブロック(A)、及び前記重合単位Bを主成分とするブロック(B)を有する、(A)-(B)-(A)トリブロック共重合体である、請求項1~11のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項13】
前記共重合体Pが、負の固有複屈折値を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項14】
前記重合単位Aが負の固有複屈折値を有し、前記重合単位Bが正の固有複屈折値を有する、請求項1~13のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項15】
前記共重合体Pにおける前記重合単位Aの重量分率が、55重量%以上75重量%以下である、請求項1~14のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項16】
未延伸フィルムである、請求項1~15のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の光学フィルムを製造する方法であって、
前記樹脂Cを150℃以上に加熱して、前記樹脂Cからなる単層の膜を形成する工程、及び
前記膜において、前記樹脂Cを相分離させる工程
を含む、光学フィルムの製造方法。
【請求項18】
前記膜を形成する工程が、前記樹脂Cをプレス成形する工程を含む、請求項17に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項19】
前記膜を形成する工程が、前記樹脂Cを単層で溶融押出することを含む、請求項17に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項20】
請求項1~16のいずれか1項に記載の光学フィルムを延伸して、面内方向におけるレターデーションRe(E)(nm)及び厚みd(E)(nm)から算出されるRe(E)/d(E)の値が、1.5×10-3以上である位相差フィルムを得る工程を含む、位相差フィルムの製造方法。
【請求項21】
前記光学フィルムが、請求項17~19のいずれか1項に記載の製造方法により製造される、請求項20に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項22】
前記位相差フィルムのNZ係数が、0より大きく1より小さい、請求項20又は21に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項23】
延伸してNZ係数が0より大きく1より小さい位相差フィルムを得るための、請求項1~16のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項24】
請求項1~16のいずれか1項に記載の光学フィルムの延伸フィルムであって、NZ係数が、0より大きく1より小さい延伸フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、位相差フィルム、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置などの表示装置において、その表示品質の向上のために、様々な特性を有する光学フィルムが設けられることがあり、各種光学フィルムの開発が進められている。例えば、光学的異方性を有する光学フィルム(特許文献1、3-5)、光学的等方性を有する光学フィルム(特許文献2)が、開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-111650号公報
【文献】特開2006-142561号公報
【文献】特開2006-143799号公報
【文献】国際公開第2008/146924号(対応外国公報:米国特許出願公開第2010/283949号明細書)
【文献】特開平05-164920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、表示装置において、視野角補償、反射抑制などの視野角特性の向上目的で設けられる位相差フィルムは、NZ係数が、0より大きくかつ1より小さいことが求められる。更には、NZ係数は0.5又はそれに近い値であることが好ましい。このようなNZ係数を有する位相差フィルムを製造する方法として、多数の層を組み合わせる方法(特許文献4)が挙げられる。しかし、この方法により得られる位相差フィルムは、構造が複雑であり、そのためフィルムの製造コストが高く生産性が低くなる。
【0005】
また、特許文献1-3に記載の原反フィルムを延伸して得られる位相差フィルム、特許文献5に記載の位相差フィルムでは、視野角特性の向上効果が十分ではない。
【0006】
したがって、視野角特性の向上効果が十分に得られる位相差フィルムを低いコストで製造しうる、光学フィルム;そのような光学フィルムを製造する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するべく、鋭意検討した。その結果、特定の相分離構造を含み、所定のRth/dの値を有する光学フィルムが、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。ここで、Rthはフィルムの厚み方向におけるレターデーション(nm)を意味し、dはフィルムの厚み(nm)を意味する。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0008】
[1] 重合単位Aと重合単位Bとを含む共重合体Pを含む樹脂Cからなる、光学フィルムであり、
構造性複屈折を発現する相分離構造を含み、前記相分離構造は、前記重合単位Aを主成分とする相と、前記重合単位Bを主成分とする相とを含み、厚み方向レターデーションRth(nm)及び厚みd(nm)から算出されるRth/dの値が、2.5×10-3以上である、光学フィルム。
[2] 前記Rth/dの値が、3.0×10-3以上8.0×10-3以下である、[1]に記載の光学フィルム。
[3] 前記厚みdが、150μm以下である、[1]又は[2]に記載の光学フィルム。
[4] 前記相分離構造が、ラメラ、シリンダ、及びスフェロイドのいずれかの形態を有する、[1]~[3]のいずれか1項に記載の光学フィルム。
[5] 前記相分離構造における相間距離が200nm以下である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の光学フィルム。
[6] 前記共重合体Pが、前記重合単位Aを主成分とするブロック(A)及び前記重合単位Bを主成分とするブロック(B)を有するブロック共重合体である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の光学フィルム。
[7] 前記重合単位Aが一般式(A)で表される単位である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の光学フィルム:
【化1】
式中Rは、フェニル基、ビフェニルイル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ナフタセニル基、ペンタセニル基、及びターフェニルイル基からなる群より選択される基であり、
~Rのそれぞれは独立に、水素原子及び炭素数1~12のアルキル基からなる群より選択される一つである。
[8] 前記共重合体Pにおける、前記重合単位Aを水素化して得られる重合単位HAの前記重合単位Aに対するモル比率が、0/100以上10/90以下である、[7]に記載の光学フィルム。
[9] 前記重合単位Bが一般式(B-1)で表される単位又は一般式(B-2)で表される単位である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の光学フィルム:
【化2】
式中R~Rのそれぞれは独立に、水素原子及び炭素数1~6のアルキル基からなる群より選択される一つである。
[10] 前記共重合体Pにおける、下記一般式(B’-1)で表される単位及び下記一般式(B’-2)で表される単位の、前記重合単位Bに対する合計モル比率が、0/100以上10/90以下である、[9]に記載の光学フィルム:
【化3】
式中R~Rは、前記と同義である。
[11] 前記重合単位Aが、ビニルナフタレン単位、ビニルナフタレン誘導体単位、スチレン単位、又はスチレン誘導体単位であり、
前記重合単位Bが、イソプレン単位を水素化して得られる単位、ブタジエン単位を水素化して得られる単位、1,3-ペンタジエン単位を水素化して得られる単位、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン単位を水素化して得られる単位、1,3-ヘキサジエン単位を水素化して得られる単位、2-メチル-1,3-ペンタジエン単位を水素化して得られる単位、3-メチル-1,3-ペンタジエン単位を水素化して得られる単位、又は2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン単位を水素化して得られる単位である、[1]~[10]のいずれか1項に記載の光学フィルム。
[12] 前記共重合体Pが、トリブロック共重合体P’を含み、
前記トリブロック共重合体P’は、前記重合単位Aを主成分とするブロック(A)、及び前記重合単位Bを主成分とするブロック(B)を有する、(A)-(B)-(A)トリブロック共重合体である、[1]~[11]のいずれか1項に記載の光学フィルム。
[13] 前記共重合体Pが、負の固有複屈折値を有する、[1]~[12]のいずれか1項に記載の光学フィルム。
[14] 前記重合単位Aが負の固有複屈折値を有し、前記重合単位Bが正の固有複屈折値を有する、[1]~[13]のいずれか1項に記載の光学フィルム。
[15] 前記共重合体Pにおける前記重合単位Aの重量分率が、55重量%以上75重量%以下である、[1]~[14]のいずれか1項に記載の光学フィルム。
[16] [1]~[15]のいずれか1項に記載の光学フィルムを製造する方法であって、
前記樹脂Cを150℃以上に加熱して、前記樹脂Cからなる単層の膜を形成する工程、及び
前記膜において、前記樹脂Cを相分離させる工程
を含む、光学フィルムの製造方法。
[17] 前記膜を形成する工程が、前記樹脂Cをプレス成形する工程を含む、[16]に記載の光学フィルムの製造方法。
[18] 前記膜を形成する工程が、前記樹脂Cを単層で溶融押出することを含む、[16]に記載の光学フィルムの製造方法。
[19] [1]~[15]のいずれか1項に記載の光学フィルムを延伸して、面内方向におけるレターデーションRe(E)(nm)及び厚みd(E)(nm)から算出されるRe(E)/d(E)の値が、1.5×10-3以上である位相差フィルムを得る工程を含む、位相差フィルムの製造方法。
[20] 前記光学フィルムが、[16]~[18]のいずれか1項に記載の製造方法により製造される、[19]に記載の位相差フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、視野角補償の効果が十分に得られる位相差フィルムを低いコストで製造しうる、光学フィルム;そのような光学フィルムを製造する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0011】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0012】
以下の説明において、「板」とは、剛直な部材だけでなく、例えば樹脂製のフィルムのように可撓性を有する部材も含む。
【0013】
以下の説明において、フィルム又は層の遅相軸とは、別に断らない限り、当該フィルム又は層の面内における遅相軸を表す。
【0014】
以下の説明において、複数の層を備える部材における各層の光学軸(遅相軸、透過軸、吸収軸等)がなす角度は、別に断らない限り、前記の層を厚み方向から見たときの角度を表す。
【0015】
以下の説明において、あるフィルムの正面方向とは、別に断らない限り、当該フィルムの主面の法線方向を意味し、具体的には前記主面の極角0°且つ方位角0°の方向を指す。
【0016】
以下の説明において、あるフィルムの傾斜方向とは、別に断らない限り、当該フィルムの主面に平行でも垂直でもない方向を意味し、具体的には前記主面の極角が0°より大きく90°より小さい範囲の方向を指す。
【0017】
以下の説明において、層の面内方向のレターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。また、層の厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dで表される値である。更に、層のNZ係数は、別に断らない限り、(nx-nz)/(nx-ny)で表される値である。ここで、nxは、層の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、層の前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは層の厚み方向の屈折率を表す。dは、層の厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0018】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±3°、±2°又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0019】
重合体の固有複屈折値の正負は、重合体の成形物を延伸した場合における、かかる成形物の屈折率の挙動によって規定される。即ち、正の固有複屈折値を有する重合体とは、延伸方向における当該成形物の屈折率が、延伸前に比べて大きくなる重合体である。また、負の固有複屈折値を有する重合体とは、延伸方向における当該成形物の屈折率が、延伸前に比べて小さくなる重合体である。固有複屈折値は、誘電率分布から計算しうる。
【0020】
更に、ある特定の重合単位が正の固有複屈折値を有するとは、当該重合単位のみからなる重合体が、正の固有複屈折値を有することをいい、ある特定の重合単位が負の固有複屈折値を有するとは、当該重合単位のみからなる重合体が、負の固有複屈折値を有することをいう。したがって、重合単位の固有複屈折値の正負は、当該重合単位のみからなる単独重合体を調製し、当該重合体を任意の形状の成形物とし、当該成形物を延伸し、その光学特性を測定することにより容易に判定しうる。一般に、アルケン、ジエン等の炭化水素の重合単位の多くは正の固有複屈折値を有することが知られている一方、スチレン、ビニルナフタレン等の側鎖に芳香環を有する炭化水素の重合体の多くは負の固有複屈折値を有することが知られている。
【0021】
以下の説明において、ある単量体の重合により生じた重合単位により構成される、重合体中のブロックを、当該単量体の名称を用いて表現する場合がある。例えば、2-ビニルナフタレンの重合により生じた重合単位により構成されるブロックを「2-ビニルナフタレンブロック」、イソプレンの重合により生じた重合単位により構成されるブロックを「イソプレンブロック」と表現する場合がある。
【0022】
[1.位相差フィルム]
本実施形態の位相差フィルムは、樹脂Cからなる。
【0023】
[1.1.樹脂C]
樹脂Cは、特定の共重合体Pを含有する。共重合体Pは、重合単位Aと重合単位Bとを含む。共重合体Pは、好ましくは、重合単位Aを主成分とするブロック(A)、及び重合単位Bを主成分とするブロック(B)を有するブロック共重合体である。一般に、ブロック共重合体とは、複数種類のブロックが連結された分子構造を有する重合体であり、それぞれのブロックは、重合単位が連結することにより構成される鎖である。本発明の一実施形態における特定のブロック共重合体は、特定のブロック(A)及びブロック(B)を有する。以下の説明においては、かかる特定のブロック共重合体を、単に「ブロック共重合体」という場合がある。ここで、あるブロックにおいて主成分である重合単位とは、当該ブロックを構成する重合単位の全重量に対して、50重量%以上である重合単位をいう。
【0024】
重合単位Aは、負の固有複屈折値を有するものとしうる。一方、重合単位Bは、正の固有複屈折値を有するものとしうる。
【0025】
重合単位Aの例としては、下記一般式(A)で表される単位が挙げられる。
【0026】
【化4】
【0027】
は、フェニル基、ビフェニルイル基(例、4-ビフェニルイル基、2-ビフェニルイル基、3-ビフェニルイル基)、ナフチル基(例、1-ナフチル基、2-ナフチル基)、アントラセニル基(例、アントラセン-1-イル基、アントラセン-2-イル基、アントラセン-9-イル基)、フェナントレニル基(例、フェナントレン-1-イル基、フェナントレン-2-イル基、フェナントレン-3-イル基、フェナントレン-4-イル基、フェナントレン-9-イル基)、ナフタセニル基(例、ナフタセン-1-イル基、ナフタセン-2-イル基、ナフタセン-5-イル基)、ペンタセニル基(例、ペンタセン-1-イル基、ペンタセン-2-イル基、ペンタセン-5-イル基、ペンタセン-6-イル基)、及びターフェニルイル基からなる群より選択される基である。
【0028】
~Rのそれぞれは独立に、水素原子及び炭素数1~12のアルキル基からなる群より選択される一つである。かかるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びヘキシル基が挙げられる。
式(A)においては、
好ましくは、Rが水素原子又はメチル基であり、より好ましくは水素原子である。
好ましくは、R及びRが水素原子である。
好ましくは、Rがナフチル基又はフェニル基であり、より好ましくはナフチル基である。
より好ましくは、R及びRが水素原子であり且つRがナフチル基又はフェニル基であるか、又は、R及びRが水素原子であり且つRが水素原子である。更に好ましくは、R及びRが水素原子であり、Rがナフチル基であり、且つRが水素原子であるか(ビニルナフタレン単位)、R、R及びRが水素原子であり、Rがフェニル基であり(スチレン単位)、最も好ましくは、R及びRが水素原子であり、Rがナフチル基であり、且つRが水素原子である。
【0029】
重合単位Aは、重合単位Aを与える単量体(a)を重合させることにより得うる。単量体(a)の例としては、ビニルナフタレン及びその誘導体、並びにスチレン及びその誘導体が挙げられる。重合単位Aを与える単量体(a)としては、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、スチレン、及びスチレン誘導体が好ましい。したがって、一実施形態では、重合単位Aは、好ましくは、ビニルナフタレン単位、ビニルナフタレン誘導体単位、スチレン単位、又はスチレン誘導体単位である。
【0030】
ビニルナフタレンの例としては、1-ビニルナフタレン、及び2-ビニルナフタレンが挙げられる。ビニルナフタレンの誘導体の例としては、α-アルキルビニルナフタレン(例、α-メチル-1-ビニルナフタレン、α-エチル-1-ビニルナフタレン、α-プロピル-1-ビニルナフタレン、α-ヘキシル-1-ビニルナフタレン、α-メチル-2-ビニルナフタレン、α-エチル-2-ビニルナフタレン、α-プロピル-2-ビニルナフタレン、及びα-ヘキシル-2-ビニルナフタレン)が挙げられる。ビニルナフタレン及びその誘導体としては、工業的な入手の容易性の観点から、2-ビニルナフタレンが好ましい。
【0031】
スチレンの誘導体としては、α-アルキルスチレン(例、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン)が挙げられる。スチレン及びその誘導体としては、工業的な入手の容易性の観点から、スチレンが好ましい。
【0032】
共重合体Pは、重合単位Aとして1種のみを単独で有していてもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて有していてもよい。したがって、重合単位Aを形成するための単量体(a)としては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて用いてもよい。
【0033】
共重合体Pは、重合単位Aを水素化して得られる重合単位を含んでいてもよい。重合単位Aを水素化して得られる重合単位は、重合単位Aが水素化された構造を有する重合単位である。以下、重合単位Aを水素化して得られる重合単位を重合単位HAともいう。重合単位HAは、任意の方法により製造された単位であってよい。
重合単位HAの例としては、一般式(A)で表される単位において、Rで表される基が有する不飽和結合の一部又は全部に、水素原子が付加して得られる単位が挙げられる。
共重合体Pにおける、重合単位HAの重合単位Aに対するモル比率(HA/A)は、好ましくは10/90以下、より好ましくは5/95以下、更に好ましくは2/98以下、最も好ましくは1/99以下であり、0/100以上としうるが、理想的には0/100である。共重合体Pにおける、モル比率(HA/A)は、共重合体PのH-NMRを測定することにより決定しうる。
共重合体Pに、重合単位HAが複数種含まれている場合、モル比率(HA/A)は、複数種の重合単位HAのそれぞれのモル比率の合計を意味する。共重合体Pに、重合単位Aが複数種含まれている場合、モル比率(HA/A)は、複数種の重合単位Aの合計モル数に対する重合単位HAのモル比率を意味する。
【0034】
重合単位Bの例としては、下記一般式(B-1)で表される単位及び(B-2)で表される単位が挙げられる。
【0035】
【化5】
【0036】
~Rのそれぞれは独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基からなる群より選択される一つである。かかるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びヘキシル基が挙げられる。R~Rのそれぞれは独立に、水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0037】
重合単位Bは、重合単位Bを与えうる単量体(b)を重合させて重合単位とし、更に当該重合単位中に二重結合が存在する場合はそれを水素化することにより得うる。単量体(b)の例としては、下記一般式(bm)で表される化合物が挙げられる。
【0038】
【化6】
【0039】
前記一般式(bm)中、R~Rの定義は、一般式(B-1)及び一般式(B-2)における定義と同じである。
【0040】
単量体(b)の好ましい例としては、ブタジエン(式(bm)におけるR~Rの全てが水素原子)、イソプレン(式(bm)におけるR~RのうちR又はRがメチル基で他が水素原子)、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、及び2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエンが挙げられる。その中でも、透明性、耐熱性、及び加工性に優れた樹脂Cを得る観点から、ブタジエン及びイソプレンがより好ましい。重合単位Bの好ましい例としては、R~Rとして、単量体(b)の好ましい例におけるR~Rと同じものを有するものが挙げられ、重合単位Bは、イソプレン単位を水素化して得られる単位、ブタジエン単位を水素化して得られる単位、1,3-ペンタジエン単位を水素化して得られる単位、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン単位を水素化して得られる単位、1,3-ヘキサジエン単位を水素化して得られる単位、2-メチル-1,3-ペンタジエン単位を水素化して得られる単位、3-メチル-1,3-ペンタジエン単位を水素化して得られる単位、及び2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン単位を水素化して得られる単位がより好ましい。
ここで、ある単位を水素化して得られる単位は、当該ある単位が水素化された構造を有する単位である。ある単位を水素化して得られる単位は、任意の方法により製造された単位であってよい。
共重合体Pは、重合単位Bとして1種のみを単独で有していてもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて有していてもよい。したがって、重合単位Bを形成するための単量体(b)としては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて用いてもよい。
【0041】
共重合体Pは、水素化すると重合単位Bが得られる重合単位を含んでいてもよい。水素化すると重合単位Bが得られる重合単位は、重合単位Bが脱水素化された構造を有する重合単位である。以下、水素化すると重合単位Bが得られる重合単位を重合単位B’ともいう。重合単位B’は、任意の方法により製造された単位であってよい。
重合単位B’の例としては、下記一般式(B’-1)で表される単位及び下記一般式(B’-2)で表される単位が挙げられる。
【0042】
【化7】
【0043】
前記一般式(B’-1)及び一般式(B’-2)中、R~Rの定義は、一般式(B-1)及び一般式(B-2)における定義と同じである。
【0044】
共重合体Pにおける、重合単位B’の重合単位Bに対するモル比率(B’/B)は、好ましくは10/90以下、より好ましくは5/95以下、更に好ましくは2/98以下、最も好ましくは1/99以下であり、0/100以上としうるが、理想的には0/100である。共重合体Pにおける、モル比率(B’/B)は、共重合体PのNMRを測定することにより決定しうる。
【0045】
共重合体Pに、重合単位B’が複数種含まれている場合、モル比率(B’/B)は、複数種の重合単位B’のそれぞれのモル比率の合計を意味する。共重合体Pに、重合単位Bが複数種含まれている場合、モル比率(B’/B)は、複数種の重合単位Bの合計モル数に対する重合単位B’のモル比率を意味する。
したがって、重合単位Bが、一般式(B-1)で表される単位又は一般式(B-2)で表される単位であり、重合単位B’が、一般式(B’-1)で表される単位又は一般式(B’-2)で表される単位である場合、共重合体Pにおけるモル比率(B’/B)は、一般式(B-1)で表される単位と一般式(B-2)で表される単位との合計モル数に対する、一般式(B’-1)で表される単位と下記一般式(B’-2)で表される単位との合計モル比率であり、すなわち、一般式(B’-1)で表される単位のモル比率及び下記一般式(B’-2)で表される単位のモル比率の合計を意味する。
【0046】
共重合体Pがブロック(A)を有する場合、ブロック(A)は、重合単位A以外に任意の重合単位を有しうる。かかる任意の重合単位の例としては、単量体(a)と共重合可能な任意の単量体の重合により形成される単位、及び当該単位の水素化により形成される単位が挙げられる。
共重合体Pがブロック(B)を有する場合、ブロック(B)は、重合単位B以外に任意の重合単位を有しうる。かかる任意の重合単位の例としては、単量体(b)が重合してなる重合単位であって水素化されていない二重結合が残存するもの、並びに単量体(b)と共重合可能な任意の単量体の重合により形成される単位及び当該単位の水素化により形成される単位が挙げられる。
ただし、樹脂Cの光学的特性及び機械的特性の発現の観点から、ブロック(A)における重合単位Aの割合及びブロック(B)における重合単位Bの割合はいずれも高いことが好ましい。ブロック(A)における重合単位Aの割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは75重量%以上、更に好ましくは95重量%以上であり、特に好ましくは、ブロック(A)は重合単位Aのみからなる。ブロック(B)における重合単位Bの割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは75重量%以上、更に好ましくは95重量%以上であり、特に好ましくは、ブロック(B)は重合単位Bのみからなる。
【0047】
ブロック(A)及びブロック(B)は、非相溶性であることが好ましい。これらが非相溶性であることにより、位相差フィルムにおいて相分離構造をより容易に得ることができる。ブロック(A)及びブロック(B)が非相溶性であるか否かは、ブロック共重合体におけるこれらのブロックの大きさと同程度の分子量を有する、重合単位Aからなる単独重合体及び重合単位Bからなる単独重合体の相溶性の有無に基づいて判定しうる。かかる単独重合体の相溶性の有無は、これらの単独重合体を混合して混合物とし、これらが溶融する温度においた場合に、これらが相分離するか否かにより判定しうる。
【0048】
共重合体Pの分子構造は、重合単位A及び重合単位Bを有する限りにおいて特に限定されず、任意の構成を有する分子構造としうる。例えば、共重合体Pがブロック共重合体である場合、当該ブロック共重合体は、直線型ブロック共重合体であってもよく、グラフト型ブロック共重合体であってもよい。
直線型ブロック共重合体の例としては、ブロック(A)及びブロック(B)が連結した(A)-(B)のブロック構成を有するジブロック共重合体;ブロック(A)、ブロック(B)及びもう一つのブロック(A)がこの順に連結した(A)-(B)-(A)のブロック構成を有するトリブロック共重合体(本願において、「トリブロック共重合体P’」という場合がある);3つのブロック(A)及び2つのブロック(B)が、(A)-(B)-(A)-(B)-(A)の順に連結したブロック構成を有する、ペンタブロック共重合体;並びにそれより多数のブロックが連結したブロック構成を有する直線型ブロック共重合体が挙げられる。多数のブロックが連結したブロック構成の例としては、(A)-((B)-(A))n-(B)-(A)、及び(B)-((A)-(B))n-(A)-(B)(nは1以上の整数)のブロック構成が挙げられる。
グラフト型ブロック共重合体の例としては、ブロック(A)に、側鎖としてブロック(B)が連結した(A)-g-(B)のブロック構成を有するブロック共重合体が挙げられる。
【0049】
樹脂Cに所望の光学的特性を発現させる観点から、好ましくは、共重合体Pは、1分子あたり2個以上の重合体ブロック(A)及び1個以上の重合体ブロック(B)を有する分子構造を有するブロック共重合体としうる。より好ましくは、ブロック共重合体は、(A)-(B)-(A)のブロック構成を有するトリブロック共重合体としうる。
【0050】
共重合体Pにおいては、重合単位Aの重量分率を、所望の光学的特性を発現させるよう調整しうる。重合単位Aの重量分率とは、共重合体Pを構成する重合単位の合計の重量に対する、重合単位Aの重量をいう。樹脂Cが、複数種類の共重合体Pを含有する場合、ここでいう重合単位Aの重量分率は、含まれる複数種類の共重合体P全体における重合単位の合計の重量に対する、重合単位Aの重量である。共重合体Pにおける重合単位Aの重量分率は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは55重量%以上、更に好ましくは60重量%以上であり、好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下、更に好ましくは75重量%以下、最も好ましくは70重量%未満であり、好ましくは55重量%以上75重量%以下であり、より好ましくは55重量%以上70重量%未満である。
共重合体Pの分子量は、特に限定されず、好ましい光学的特性及び機械的特性が得られる範囲に適宜調整しうる。共重合体Pの分子量は、例えば50000~400000の範囲としうる。また、共重合体Pのガラス転移温度Tgは、例えば110℃~150℃の範囲としうる。共重合体Pのガラス転移温度Tgは、熱機械的分析(TMA)により測定しうる。
【0051】
共重合体Pは、負の固有複屈折値を有することが好ましい。そのような負の固有複屈折値は、共重合体Pにおける重合単位の割合を調整することにより付与しうる。具体的には、重合単位Aを負の固有複屈折値を有する単位とし、重合単位Aの重量分率を、上に述べた下限以上の範囲内において調整することにより、負の固有複屈折値を有する共重合体としうる。共重合体Pが負の固有複屈折値を有することにより、位相差フィルムに所望の光学的特性を付与することができる。
【0052】
樹脂Cは、共重合体Pのみからなってもよく、共重合体Pに加えて任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分の例としては、染料、顔料、酸化防止剤等の添加剤が挙げられる。かかる任意の成分の割合は、本発明の効果を損ねない範囲の割合としうる。具体的には、樹脂Cにおける共重合体Pの割合は、好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上であり、通常100重量%以下であり、更に好ましくは、樹脂Cは共重合体Pのみからなる。
【0053】
[1.2.光学フィルムの特性及び形状等]
本実施形態の光学フィルムは、構造性複屈折を発現する相分離構造を含む。相分離構造は、光学フィルムを構成する樹脂Cの層内に形成される。樹脂Cの相分離構造とは、樹脂Cにおける共重合体Pの重合単位Aで構成される部分(例えばブロック(A))と重合単位Bで構成される部分(例えばブロック(B))の自己組織化により、層内において、重合単位Aを主成分とする相(相(A)ともいう。)と、重合単位Bを主成分とする相(相(B)ともいう。)とが、区別しうる別々の相に分離することをいう。以下の説明においては、これらの相を単に「重合単位Aの相」及び「重合単位Bの相」ということがある。このような相分離構造を呈した配向層は、構造が光の波長よりも十分に小さい場合に構造性複屈折を発現しうる。
【0054】
共重合体Pが、重合単位Aを主成分とするブロック(A)と、重合単位Bを主成分とするブロック(B)とを有するブロック共重合体である場合、相(A)は通常ブロック(A)により構成され、相(B)は通常ブロック(B)により構成される。
【0055】
構造性複屈折とは、かかる相分離構造のように、異なる屈折率を有する複数種類の相を含む構造において生じる複屈折である。例えば、ある構造において、ある屈折率n1を持つ相中に、n1とは異なる屈折率n2を持つ相が存在する場合、当該構造は、構造性複屈折を発現しうる。構造性複屈折は、各相が等方的な媒質で形成されていても複屈折が生じるという点で、延伸による分子配向で生じる配向性複屈折とは明確に異なるものである。
【0056】
構造性複屈折が実際に生じていることは、フィルムの光学特性を測定することによって確認されうる。押出成形、プレス加工、溶剤キャスト等の常法で製膜した未延伸フィルムは通常、分子配向がランダムであるためRe及びRthがほぼゼロに近い値をとる。一方、構造性複屈折が発現している未延伸フィルムでは、常法で製膜した通常の未延伸フィルムで観察される値よりも大きな値のRe及びRthが観察される。したがって、かかる値の測定により、構造性複屈折の発現の確認を行いうる。ただし、電子顕微鏡や小角X線散乱による構造観察を併せて行うことにより、より確実な構造性複屈折の発現の確認を行いうる。
【0057】
相分離構造の具体的な例としては、ラメラ構造、スフェロイド構造、及びシリンダ構造等が挙げられる。これらの相分離構造のうちどれが発現するかは、様々な要因に影響される。構造の発現に影響する主な要因としては、重合単位Aを主成分とする相及び重合単位Bを主成分とする相の体積比が挙げられる。これらの相の体積比は、ブロック共重合体におけるブロック(A)及び(B)の割合を変化させることによって調整することが出来る。相分離構造は、シリンダ構造又はラメラ構造であることが好ましい。
【0058】
相分離構造において、構造の大きさは、光学フィルムが所望の光学的特性を与えうる範囲内において適宜調整しうる。例えば相間の距離は、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、更に好ましくは100nm以下であり、相分離した各相の大きさは、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、更に好ましくは60nm以下である。相間の距離とは、例えばラメラ状相分離の場合にはラメラとラメラとの間隔(即ちラメラの層の繰り返し単位のピッチ)、シリンダ状の相分離構造の場合にはシリンダとシリンダとの間隔、スフェロイド状の相分離構造の場合は、スフェロイドとスフェロイドとの間隔を指す。相分離した相の大きさとは、ラメラ状相分離の場合にはラメラの厚みを指し、シリンダ状相分離の場合にはシリンダ半径を指し、スフェロイド状の相分離構造の場合にはスフェロイド半径を指す。相間の距離としては、小角X線散乱の測定で得られた散乱パターンを理論曲線とフィッティングして求められた値を採用しうる。
【0059】
相間の距離、及び相分離した相の大きさがこのように可視光よりも十分に短いことにより、構造性複屈折が発現し、かつフィルムの着色及び光線透過率の低下を抑制することができる。相間距離の下限は特に限定されないが例えば10nm以上としうる。相分離した相の大きさの下限は特に限定されないが例えば10nm以上としうる。相間距離の調整は、共重合体Pの分子構造を調整することにより行いうる。例えば共重合体Pとしてブロック共重合体を採用し、ブロック(A)及び(B)の長さ等の要素を適宜調整することにより行いうる。
【0060】
重合単位Aからなる重合体(A)の屈折率n(A)と、重合単位Bからなる重合体(B)の屈折率n(B)との差の絶対値|n(A)-n(B)|は大きければ大きいほど構造性複屈折を効率良く発現することが可能であり、得られる光学フィルムから製造される位相差フィルムの視野角特性が良好となる。
|n(A)-n(B)|は好ましくは0.12以上であり、大きいほど好ましいが、0.25以下としうる。屈折率は、例えばプリズムカプラ法により測定しうる。
【0061】
重合体(A)のガラス転移温度Tg(A)(℃)と、重合体(B)のガラス転移温度(Tg(B)(℃)との差の絶対値|Tg(A)-Tg(B)|(℃)は大きければ大きいほど、得られる光学フィルムから製造される位相差フィルムの視野角特性と耐熱性とがバランスする。
|Tg(A)-Tg(B)|は好ましくは180℃以上であり、大きいほど好ましいが、275℃以下としうる。重合体(A)及び重合体(B)のガラス転移温度は、例えば示差走査熱量分析法により測定しうる。測定条件としては、JIS K 6911に基づき、昇温速度10℃/分としうる。
【0062】
重合単位Aからなる重合体(A)は、重合単位Aに対応する単量体を重合させ、更に必要に応じて水素添加などの反応を行うことにより得られうる。重合単位Bからなる重合体(B)は、重合単位Bに対応する単量体を重合させ、更に必要に応じて水素添加などの反応を行うことにより得られうる。共重合体Pがブロック(A)及びブロック(B)を有する場合、重合体(A)及び重合体(B)はそれぞれ、ブロック(A)及びブロック(B)の製造方法と同様にして得られうる。
【0063】
重合単位Aを主成分とする相における重合単位Aの含有割合、及び重合単位Bを主成分とする相における重合単位Bの含有割合は、共重合体Pの製造のための材料及び製造の操作を適宜調整することにより調整しうる。当該含有割合は、高い値であることが、効果発現の上で好ましい。重合単位Aを主成分とする相における重合単位Aの含有割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは75重量%以上であり、通常100重量%以下であり、更に好ましくは、100重量%である。重合単位Bを主成分とする相における重合単位Bの含有割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは75重量%以上であり、通常100重量%以下であり、更に好ましくは、100重量%である。
【0064】
光学フィルムは、フィルムの厚み方向レターデーションRth(nm)及びフィルム厚み(nm)から算出されるRth/dの値が、通常2.5×10-3以上であり、好ましくは3.0×10-3以上であり、より好ましくは3.5×10-3以上であり、好ましくは8.0×10-3以下であり、より好ましくは7.0×10-3以下であり、更に好ましくは6.0×10-3以下であり、好ましくは2.5×10-3以上8.0×10-3以下であり、より好ましくは3.0×10-3以上8.0×10-3以下である。Rth/dの値を、前記範囲に収めることにより、視野角特性に優れた位相差フィルムを製造できる光学フィルムとしうる。
【0065】
光学フィルムの厚みは、その後の延伸工程における延伸条件、使用目的などに応じて適宜設定できるが、好ましくは150μm以下であり、より好ましくは100μm以下であり、0μmより大きく、15μm以上としうる。
【0066】
光学フィルムの厚み方向レターデーションRthは、構造性複屈折の大きさ及び向きを制御することにより調整できる。構造性複屈折の大きさ及び向きは、例えば、相分離構造を呈する各相の形状、配列及び体積分率、並びに相間の屈折率の差などを調整することにより制御できる。詳細は、例えばForm birefringence of macromolecules(W.L.Bragg et al. 1953)に記載されている。また、例えば、プレス成形法のように、構造性複屈折が発現しやすい成形方法により樹脂Cを成形することで、光学フィルムの厚み方向レターデーションRthの値を大きくすることができる。
【0067】
[2.光学フィルムの製造方法]
前記の光学フィルムは、樹脂Cの、単層の膜を形成する工程、及びかかる膜において樹脂Cを相分離させる工程を含む製造方法により製造しうる。
【0068】
樹脂Cの膜を形成する工程を行うための具体的な製膜法の例としては、溶液流延法、溶融押出法、カレンダー法、及び圧縮成形法(プレス成形法)が挙げられる。大量の光学フィルムを効率的に製造する場合は、溶融押出法が特に好ましい。また別の実施形態では、構造性複屈折を安定的に発現させる観点から、プレス成形法が特に好ましい。
【0069】
溶融押出法で膜を形成する場合、通常押出機で溶融された樹脂をダイから押し出した後、押し出された樹脂を冷却ロールにキャストする工程を行う。
ダイからの樹脂の押出速度は、押出機のスクリュー回転数を調節することにより調整しうる。押出機のスクリュー回転数は、好ましくは10rpm以上、より好ましくは20rpm以上であり、好ましくは80rpm以下、より好ましくは60rpm以下である。押出機のスクリュー回転数を、前記範囲に収めることで、樹脂Cの相分離構造を容易に形成しうる。
冷却ロールの温度は、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、好ましくは150℃以下、更に好ましくは145℃以下である。
【0070】
いずれの方法においても、樹脂Cの膜を形成する工程は、通常樹脂Cを加熱しながら行う。樹脂Cの膜を形成する工程において、樹脂Cを加熱する温度は、通常150℃以上、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上であり、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下、更に好ましくは290℃以下である。
【0071】
膜において樹脂Cを相分離させる工程は、膜を形成する工程の後に行ってもよく、膜を形成する工程と同時に行ってもよい。
相分離の工程は、例えば、溶融した樹脂Cを徐冷することにより行いうる。具体的には、膜を形成する工程として、溶融押出法及びその他の方法を採用した場合においては、溶融した状態の樹脂を成形し、その後緩慢な冷却条件で冷却する操作を行いうる。具体的な作用機序は不明だが、かかる徐冷を行うことにより、構造性複屈折を発現する樹脂Cの相分離構造を容易に形成することができ、所望の光学的特性を有する光学フィルムを容易に得ることができる。
【0072】
相分離の工程としては、上に述べた徐冷に加えて又はそれに代えて、膜を加圧する工程を行いうる。樹脂Cの膜に対して圧力を加えることにより構造性複屈折を発現する相分離構造を容易に形成することができ、所望の光学的特性を有する光学フィルムを容易に得ることができる。
【0073】
加圧の工程は、具体的には、枚葉状の樹脂Cに、その厚み方向に圧力を加えることにより行いうる。そのような操作には、金型等の、膜の表面に圧力を加える加圧器具を用いうる。樹脂Cの膜をプレス成形法により成形する場合、加圧の工程は、成形の工程の一部として成形と同時に行ってもよく、成形の後に行ってもよい。加圧の圧力は、好ましくは1MPa以上、より好ましくは5MPa以上、更に好ましくは10MPa以上であり、好ましくは50MPa以下、より好ましくは45MPa以下、更に好ましくは40MPa以下である。加圧時間は、好ましくは10秒以上、より好ましくは20秒以上、更に好ましくは30秒以上であり、好ましくは1000秒以下、より好ましくは500秒以下、更により好ましくは300秒以下である。加圧の条件を上に述べた範囲内とすることにより、厚み及び相分離構造が均一な膜を得ることができる。
【0074】
加圧の工程はまた、長尺の樹脂Cに圧力を加える操作を連続的に行う装置によっても行いうる。そのような操作には、加圧ロール等の加圧器具を用いうる。樹脂Cの膜を溶融押出法により成形する場合、加圧の工程は、ダイから押し出された樹脂Cを2本の加圧ロールの間に通し、これらにより樹脂Cに圧力を加えることにより行いうる。加圧に際しての条件、例えば、加圧の線圧や加圧の温度などの条件を、適宜調整することにより、厚み及び相分離構造が均一な膜を得ることができる。
【0075】
[3.光学フィルムの用途]
[3.1.光学フィルムから製造されうる位相差フィルムの特性]
前記光学フィルムは、そのままで各種光学的用途に用いることができるが、光学フィルムを延伸することにより、視野角特性に優れた位相差フィルムを製造しうる。
【0076】
前記光学フィルムから製造されうる位相差フィルムは、面内方向におけるレターデーションRe(E)(nm)及び厚みd(E)(nm)から算出されるRe(E)/d(E)の値が、通常1.5×10-3以上、好ましくは1.8×10-3以上、より好ましくは2.0×10-3以上であり、好ましくは7.0×10-3以下、より好ましくは6.0×10-3以下、更に好ましくは5.0×10-3以下である。Re(E)/d(E)の値が前記範囲に収まることで、効果的に位相差フィルムの視野角特性を向上させうる。
【0077】
また、前記光学フィルムから製造されうる位相差フィルムのNZ係数は、通常0より大きく、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上であり、通常1より小さく、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下である。NZ係数の値が前記範囲に収まることで、効果的に位相差フィルムの視野角特性を向上させうる。
【0078】
[3.2.位相差フィルムの製造方法]
前記光学フィルムを延伸することで、視野角特性が向上した位相差フィルムを製造しうる。延伸の工程は、樹脂Cの膜の成形を行う製造ラインと連続したライン上で行いうる。又は、製造した樹脂Cの膜を一旦巻き取りフィルムロールとし、その後当該フィルムロールから膜を巻出し、これを延伸の工程に供してもよい。延伸の工程は、通常は、膜をその面内方向に延伸するフラット法延伸により行う。フラット法延伸の例としては、一軸延伸法及び二軸延伸法が挙げられる。一軸延伸法は、膜をその面内の一方向に延伸する延伸であり、その例としては、自由幅一軸延伸法及び一定幅一軸延伸法が挙げられる。二軸延伸法は、膜をその面内の一方向に延伸する延伸である。二軸延伸法の例としては、逐次二軸延伸法、及び同時二軸延伸法が挙げられる。それぞれの方向への延伸は、自由幅延伸であってもよく、一定幅延伸であってもよい。逐次二軸延伸法のより具体的な例としては、全テンター方式及びロールテンター方式が挙げられる。本実施形態の製造方法における延伸の工程のための延伸方法は、これらの方法のいずれであってもよく、所望の位相差フィルムを得るために適した方法を選択しうる。
【実施例
【0079】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0080】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0081】
[評価方法]
(フィルムのレターデーション、NZ係数、Rth/d、Re/d)
AXOMETRICS社製のAxoScanを用い、波長590nmでの、フィルムの厚み方向のレターデーションRth、面内方向のレターデーションRe、及びNZ係数を求めた。
得られたRth(nm)及びフィルムの厚みd(nm)から、Rth/dを求めた。得られたRe(nm)及びフィルムの厚みd(nm)から、Re/dを求めた。NZ係数を、次式によりRth及びReから求めた。
NZ係数=Rth/Re+0.5
【0082】
(相分離構造)
フィルムを2mm×4mmの大きさにカットし、複数のフィルム片を得た。それらを厚み方向に30枚重ねてフォルダに固定し、小角X線散乱測定施設(あいちSR、ビームライン8S3)にて小角X線散乱測定を行い、散乱パターンを得た。測定条件は、カメラ長4m、X線エネルギー8.2KeV、測定qレンジ:約0.06~3nm-1、1試料あたりの露光時間60秒とした。得られた散乱パターンを理論曲線とフィッティングして相分離構造と相間距離を算出した。
【0083】
X線の照射面は、フィルムの断面とし、積分範囲は厚み方向及び厚み方向に垂直な方向についてそれぞれ20°とした。それぞれの積分から得られたデータから相間距離を算出し、厚み方向及び厚み方向に垂直な方向の相間距離の平均値を測定値とした。
【0084】
(屈折率)
屈折率膜厚測定装置(Metricon社製「プリズムカプラ」)にて波長407nm、波長532nm、及び波長633nmの3波長で測定した値を元にコーシーフィッティングを行い、試料の波長532nmでの屈折率を求めた。
【0085】
(熱機械的分析(TMA)によるガラス転移温度の測定)
測定対象のフィルムから、5mm×20mmの矩形の試料を切り出した。試料を、熱機械的分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製「TMA/SS7100」)に取り付け、試料の長手方向に50mNの張力を加えた状態で温度を変化させ、線膨張の変曲点の温度をTg(℃)とした。
(示差走査熱量分析(DSC)によるガラス転移温度の測定)
試料のガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量分析計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、製品名:DSC6220)を用いて、JIS K 6911に基づき、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0086】
(共重合体の固有複屈折値の正負)
共重合体について、固有複屈折値の正負を、共重合体からフィルムを製造し、該フィルムを延伸した場合における屈折率の挙動によって規定した。延伸方向における延伸後フィルムの屈折率が、延伸前に比べて大きくなる場合に、共重合体の固有複屈折率が正であるとした。延伸方向における延伸後フィルムの屈折率が、延伸前に比べて小さくなる場合に、共重合体の固有複屈折率が負であるとした。
【0087】
(視野角特性の評価)
(表示特性(λ/4板))
偏光板として、透過軸が幅方向にある長尺の偏光板(サンリッツ社製、商品名「HLC2-5618S」、厚さ180μm)を用意した。偏光板の一方の面側の保護フィルムを除去し、当該面に、評価対象であるλ/4板としての位相差フィルムを貼合した。貼合は、位相差フィルムの遅相軸方向と偏光板の透過軸方向とが45°の角度をなすよう行った。この操作により、両面の保護フィルムのうちの一方として、評価対象の位相差フィルムを備える偏光板を得た。得られた偏光板を、市販の有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置(LG電子製、OLED55EG9600)の視認側にもともと備えられていた偏光板と置き換え、評価対象の位相差フィルムを備える有機EL表示装置を得た。置き換えに際し、偏光板の配置は、評価対象の位相差フィルムを備える側が有機EL素子側となる配置とした。また、偏光子の透過軸は、有機EL表示装置にもともと備えられていた偏光板における偏光子と同じ方向とした。
【0088】
得られた有機EL表示装置の表示の状態を、表示面に対して傾斜方向(法線方向に対して45°)から、様々な方位角において観察し、下記基準により表示状態を評価した。
最良:置き換え前と比較し、延伸倍率2倍の位相差フィルム、延伸倍率3倍の位相フィルム、及び延伸倍率4倍の位相差フィルムのうち、3種の位相差フィルムについて反射率が抑制されていた。
良:置き換え前と比較し、延伸倍率2倍の位相差フィルム、延伸倍率3倍の位相フィルム、及び延伸倍率4倍の位相差フィルムのうち、2種の位相差フィルムについて反射率が抑制されていた。
不良:置き換え前と比較し、延伸倍率2倍の位相差フィルム、延伸倍率3倍の位相フィルム、及び延伸倍率4倍の位相差フィルムのうち、1種の位相差フィルムのみについて反射率が抑制されていたか、全種の位相差フィルムについて、反射率が抑制されていなかった。
【0089】
[実施例1]
(1-1.トリブロック共重合体)
(一段階目)
乾燥し、窒素ガスで置換された耐圧反応器に、溶媒としてトルエン500部、重合触媒としてn-ブチルリチウム0.03部を入れた後、単量体(a)として2-ビニルナフタレン12.1部を添加して25℃で1時間反応させ、一段階目の重合反応を行った。
【0090】
(二段階目)
一段階目の重合反応終了後、単量体(b)としてブタジエン11.9部を添加し更に25℃で1時間反応させ、二段階目の重合反応を行った。その結果、反応混合物中に、(2-ビニルナフタレンブロック)-(ブタジエンブロック)のブロック構成を有するジブロック共重合体を得た。
【0091】
(三段階目)
その後、反応混合物中に更に、単量体(a)として2-ビニルナフタレン12.1部を添加して25℃で1時間反応させ、三段階目の重合反応を行った。その結果、反応混合物中に、(2-ビニルナフタレンブロック)-(ブタジエンブロック)-(2-ビニルナフタレンブロック)のブロック構成を有するトリブロック共重合体を得た。反応混合物を大量の2-プロパノールに注いで、トリブロック共重合体を沈殿させ分取した。
【0092】
得られたトリブロック共重合体をp-キシレン700部に溶解して溶液とした。溶液に、p-トルエンスルホニルヒドラジド7.6部を添加し、温度130℃で8時間反応させた。この反応により、ブタジエン単位の二重結合へ水素を添加した。水素添加終了後、大量の2-プロパノールに反応溶液を注ぎ、(ブロック(A))-(ブロック(B))-(ブロック(A))のブロック構成を有するトリブロック共重合体P1を、塊状の生成物として得た。トリブロック共重合体P1において、ブロック(A)は2-ビニルナフタレンブロックであり、ブロック(B)は水添ブタジエンブロックであった。
【0093】
得られたトリブロック共重合体P1をH-NMRにて分析した。その結果、トリブロック共重合体における重合単位Aとしての2-ビニルナフタレン単位と重合単位Bとしての水添ブタジエン単位との重量比は67:33であり、従って重合単位Aの重量分率は67%であった。また2-ビニルナフタレン単位に対する水素添加率は0%であり、ブタジエン単位に対する水素添加率は99%であった。すなわち、重合単位HA(水添2-ビニルナフタレン単位)の重合単位A(2-ビニルナフタレン単位)に対するモル比率は、0であり、重合単位B’(B’-1及びB’-2)(ブタジエン単位)の重合単位B(水添ブタジエン単位)に対するモル比率は、1/99であった。ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定したトリブロック共重合体P1の重量平均分子量は110000であった。TMAにより測定したトリブロック共重合体P1のガラス転移温度は137℃であった。トリブロック共重合体P1の固有複屈折値は、負である。
【0094】
(1-2.延伸前フィルム)
前記(1-1)で得られたトリブロック共重合体P1を、樹脂Cとして用いた。樹脂Cを、粉砕機により粉砕し粉体とした。得られた粉体を一対のポリイミドフィルム(各厚み100μm)の間に挟み積層体とし、積層体を加圧した。加圧は、電熱加圧装置を用いて行った。加圧の条件は、温度270℃、圧力40MPa、加圧時間5分間とした。加圧終了後、圧を解放して空気中で室温まで冷却し、ポリイミドフィルムを除去した。この操作により、80~120μmの厚みを持つ光学フィルムとしての延伸前フィルム1を複数作製した。
【0095】
得られた延伸前フィルム1について、前記の条件の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて相構造を観察したところ、シリンダ構造が観察された。また、相間距離は、40nmであった。また、厚み方向に平行な断面の切片を作成してTEMで観察したところ、シリンダ状の相分離構造が確認された。
【0096】
得られた延伸前フィルム1のRth/dを測定したところ、Rth/d=6.0×10-3であった。
【0097】
(1-3.位相差フィルム(λ/4板))
前記(1-2)で得られた延伸前フィルム1を切断し、80mm×80mmの大きさの矩形のフィルムとした。矩形のフィルムに、自由幅一軸延伸を施した。延伸は、東洋精機(株)製のバッチ式延伸装置を用いて行った。延伸の条件は、延伸温度147℃、延伸速度33%毎分、延伸倍率2.0倍、3.0倍、4.0倍(3水準)とした。異なる厚みを持つ延伸前フィルム1を用いることで、λ/4板として機能する厚み50~65μmの3種の位相差フィルム1Qを得た。得られたλ/4板として機能する3種の位相差フィルム1Qを用いて、前記の方法により視野角特性を評価した。また、位相差フィルム1QのRe/dの値及びNZ係数を測定した。
【0098】
[実施例2]
(2-1.トリブロック共重合体)
下記事項以外は、実施例1(1-1.トリブロック共重合体)と同様にして、トリブロック共重合体P2を、塊状の生成物として得た。
・単量体(b)として、ブタジエンの代わりにイソプレンを用いた。
トリブロック共重合体P2は、(ブロック(A))-(ブロック(B))-(ブロック(A))のブロック構成を有する。トリブロック共重合体P2において、ブロック(A)は2-ビニルナフタレンブロックであり、ブロック(B)は水添イソプレンブロックであった。
【0099】
得られたトリブロック共重合体P2をH-NMRにて分析した。その結果、トリブロック共重合体における重合単位Aとしての2-ビニルナフタレン単位と重合単位Bとしての水添イソプレン単位との重量比は67:33であり、従って重合単位Aの重量分率は67%であった。また2-ビニルナフタレン単位に対する水素添加率は0%であり、イソプレン単位に対する水素添加率は99%であった。すなわち、重合単位HA(水添2-ビニルナフタレン単位)の重合単位A(2-ビニルナフタレン単位)に対するモル比率は、0であり、重合単位B’(B’-1及びB’-2)(イソプレン単位)の重合単位B(水添イソプレン単位)に対するモル比率は、1/99であった。GPCにより測定したトリブロック共重合体P2の重量平均分子量は100000であった。TMAにより測定したトリブロック共重合体P2のガラス転移温度は138℃であった。トリブロック共重合体P2の固有複屈折値は、負である。
【0100】
(2-2.延伸前フィルム)
(2-1)で得られたトリブロック共重合体P2を、樹脂Cとして用いた。樹脂Cを、粉砕機により粉砕し粉体とした。得られた粉体を押出機に供給し、樹脂温270℃として押出機内で溶融させ、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを通過させ、Tダイからキャスティングドラム上にシート状に押出し、冷却して、厚み90μmの延伸前フィルム1を得た。冷却ロール温度は、138℃に設定した。また、押出機のスクリュー回転数は、20~40rpmに設定した。製造された延伸前フィルム1は、ロール状に巻き取って回収した。
得られた延伸前フィルム2について、前記の条件の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて相構造を観察したところ、シリンダ構造が観察された。また、厚み方向に平行な断面の切片を作成してTEMで観察したところ、シリンダ状の相分離構造が確認された。また、相間距離は、40nmであった。
【0101】
得られた延伸前フィルム2のRth/dを測定したところ、Rth/d=4.6×10-3であった。
【0102】
(2-3.位相差フィルム(λ/4板))
下記の事項以外は、実施例1(1-3.位相差フィルム(λ/4板))と同様にして、厚み50~70μmの位相差フィルム2Qを3種得た。
・延伸前フィルム1の代わりに延伸前フィルム2を用いた。
・延伸温度を変更し、148℃とした。
得られた3種の位相差フィルム2Qを用いて、前記の方法により視野角特性を評価した。また、位相差フィルム2QのRe/dの値及びNZ係数を測定した。
【0103】
[実施例3]
(3-1.トリブロック共重合体)
実施例2(2-1.トリブロック共重合体)において製造されたトリブロック共重合体P2を用意した。
【0104】
(3-2.延伸前フィルム)
下記の事項以外は実施例1(1-2.延伸前フィルム)と同様にして、延伸前フィルム3を作製した。
・トリブロック共重合体P1に代わりにトリブロック共重合体P2を樹脂Cとして用いた。
【0105】
得られた延伸前フィルム3について、前記の条件の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて相構造を観察したところ、シリンダ構造が観察された。また、相間距離は、45nmであった。また、厚み方向に平行な断面の切片を作成してTEMで観察したところ、シリンダ状の相分離構造が確認された。
【0106】
得られた延伸前フィルム3のRth/dを測定したところ、Rth/d=3.7×10-3であった。
【0107】
(3-3.位相差フィルム(λ/4板))
下記の事項以外は、実施例1(1-3.位相差フィルム(λ/4板))と同様にして、厚み50~65μmの位相差フィルム3Qを3種得た。
・延伸前フィルム1の代わりに延伸前フィルム3を用いた。
・延伸温度を変更し、148℃とした。
得られた3種の位相差フィルム3Qを用いて、前記の方法により視野角特性を評価した。また、位相差フィルム3QのRe/dの値及びNZ係数を測定した。
【0108】
[実施例4]
(4-1.トリブロック共重合体)
下記事項以外は、実施例1(1-1.トリブロック共重合体)と同様にして、トリブロック共重合体P4を、塊状の生成物として得た。
・(一段階目)の反応において、単量体(a)として2-ビニルナフタレン13.5部を添加した。
・(二段階目)の反応において、単量体(b)として、ブタジエン11.9部の代わりにイソプレン9.0部を添加した。
・(三段階目)の反応において、単量体(a)として2-ビニルナフタレン13.5部を添加した。
トリブロック共重合体P4は、(ブロック(A))-(ブロック(B))-(ブロック(A))のブロック構成を有する。トリブロック共重合体P4において、ブロック(A)は2-ビニルナフタレンブロックであり、ブロック(B)は水添イソプレンブロックであった。
【0109】
得られたトリブロック共重合体P4をH-NMRにて分析した。その結果、トリブロック共重合体における重合単位Aとしての2-ビニルナフタレン単位と重合単位Bとしての水添イソプレン単位との重量比は75:25であり、従って重合単位Aの重量分率は75%であった。また2-ビニルナフタレン単位に対する水素添加率は0%であり、イソプレン単位に対する水素添加率は99%であった。すなわち、重合単位HA(水添2-ビニルナフタレン単位)の重合単位A(2-ビニルナフタレン単位)に対するモル比率は、0であり、重合単位B’(B’-1及びB’-2)(イソプレン単位)の重合単位B(水添イソプレン単位)に対するモル比率は、1/99であった。GPCにより測定したトリブロック共重合体P4の重量平均分子量は120000であった。TMAにより測定したトリブロック共重合体P4のガラス転移温度は142℃であった。トリブロック共重合体P4の固有複屈折値は、負である。
【0110】
(4-2.延伸前フィルム)
下記の事項以外は実施例1(1-2.延伸前フィルム)と同様にして、延伸前フィルム4を作製した。
・トリブロック共重合体P1の代わりにトリブロック共重合体P4を樹脂Cとして用いた。
【0111】
得られた延伸前フィルム4について、前記の条件の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて相構造を観察したところ、シリンダ構造が観察された。また、相間距離は、50nmであった。また、厚み方向に平行な断面の切片を作成してTEMで観察したところ、ラメラ状の相分離構造が確認された。
【0112】
得られた延伸前フィルム4のRth/dを測定したところ、Rth/d=3.2×10-3であった。
【0113】
(4-3.位相差フィルム(λ/4板))
下記の事項以外は、実施例1(1-3.位相差フィルム(λ/4板))と同様にして、厚み60~80μmの位相差フィルム4Q3種を得た。
・延伸前フィルム1の代わりに延伸前フィルム4を用いた。
・延伸温度を変更し、152℃とした。
得られた3種の位相差フィルム4Qを用いて、前記の方法により視野角特性を評価した。また、位相差フィルム4QのRe/dの値及びNZ係数を測定した。
【0114】
[実施例5]
(5-1.トリブロック共重合体)
下記事項以外は、実施例1(1-1.トリブロック共重合体)と同様にして、トリブロック共重合体P5を、塊状の生成物として得た。
・(一段階目)の反応において、単量体(a)として2-ビニルナフタレン10.3部を添加した。
・n-ブチルリチウムの量を、0.03部から0.04部へ変更した。
・(二段階目)の反応において、単量体(b)として、ブタジエン15.4部を添加した。
・(三段階目)の反応において、単量体(a)として2-ビニルナフタレン10.3部を添加した。
トリブロック共重合体P5は、(ブロック(A))-(ブロック(B))-(ブロック(A))のブロック構成を有する。トリブロック共重合体P5において、ブロック(A)は2-ビニルナフタレンブロックであり、ブロック(B)は水添ブタジエンブロックであった。
【0115】
得られたトリブロック共重合体P5をH-NMRにて分析した。その結果、トリブロック共重合体における重合単位Aとしての2-ビニルナフタレン単位と重合単位Bとしての水添ブタジエン単位との重量比は57:43であり、従って重合単位Aの重量分率は57%であった。また2-ビニルナフタレン単位に対する水素添加率は0%であり、ブタジエン単位に対する水素添加率は99%であった。すなわち、重合単位HA(水添2-ビニルナフタレン単位)の重合単位A(2-ビニルナフタレン単位)に対するモル比率は、0であり、重合単位B’(B’-1及びB’-2)(ブタジエン単位)の重合単位B(水添ブタジエン単位)に対するモル比率は、1/99であった。GPCにより測定したトリブロック共重合体P5の重量平均分子量は80000であった。TMAにより測定したトリブロック共重合体P5のガラス転移温度は125℃であった。トリブロック共重合体P5の固有複屈折値は、負である。
【0116】
(5-2.延伸前フィルム)
下記の事項以外は実施例1(1-2.延伸前フィルム)と同様にして、延伸前フィルム5を作製した。
・トリブロック共重合体P1に代わりにトリブロック共重合体P5を樹脂Cとして用いた。
【0117】
得られた延伸前フィルム5について、前記の条件の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて相構造を観察したところ、ラメラ構造が観察された。また、相間距離は、40nmであった。また、厚み方向に平行な断面の切片を作成してTEMで観察したところ、ラメラ状の相分離構造が確認された。
【0118】
得られた延伸前フィルム5のRth/dを測定したところ、Rth/d=7.1×10-3であった。
【0119】
(5-3.位相差フィルム(λ/4板))
下記の事項以外は、実施例1(1-3.位相差フィルム(λ/4板))と同様にして、厚み55~70μmの位相差フィルム5Qを3種得た。
・延伸前フィルム1の代わりに延伸前フィルム5を用いた。
・延伸温度を変更し、135℃とした。
得られた3種の位相差フィルム5Qを用いて、前記の方法により視野角特性を評価した。また、位相差フィルム5QのRe/dの値及びNZ係数を測定した。
【0120】
[実施例6]
(6-1.トリブロック共重合体)
下記事項以外は、実施例1(1-1.トリブロック共重合体)と同様にして、トリブロック共重合体P6を、塊状の生成物として得た。
・(一段階目)の反応において、単量体(a)として2-ビニルナフタレン14.4部を添加した。
・n-ブチルリチウムの量を、0.03部から0.04部へ変更した。
・(二段階目)の反応において、単量体(b)として、ブタジエン11.9部の代わりにイソプレン7.2部を添加した。
・(三段階目)の反応において、単量体(a)として2-ビニルナフタレン14.4部を添加した。
トリブロック共重合体P6は、(ブロック(A))-(ブロック(B))-(ブロック(A))のブロック構成を有する。トリブロック共重合体P6において、ブロック(A)は2-ビニルナフタレンブロックであり、ブロック(B)は水添イソプレンブロックであった。
【0121】
得られたトリブロック共重合体P6をH-NMRにて分析した。その結果、トリブロック共重合体における重合単位Aとしての2-ビニルナフタレン単位と重合単位Bとしての水添イソプレン単位との重量比は80:20であり、従って重合単位Aの重量分率は80%であった。また2-ビニルナフタレン単位に対する水素添加率は0%であり、イソプレン単位に対する水素添加率は99%であった。すなわち、重合単位HA(水添2-ビニルナフタレン単位)の重合単位A(2-ビニルナフタレン単位)に対するモル比率は、0であり、重合単位B’(B’-1及びB’-2)(イソプレン単位)の重合単位B(水添イソプレン単位)に対するモル比率は、1/99であった。GPCにより測定したトリブロック共重合体P6の重量平均分子量は70000であった。TMAにより測定したトリブロック共重合体P6のガラス転移温度は143℃であった。トリブロック共重合体P6の固有複屈折値は、負である。
【0122】
(6-2.延伸前フィルム)
下記の事項以外は実施例1(1-2.延伸前フィルム)と同様にして、延伸前フィルム6を作製した。
・トリブロック共重合体P1に代わりにトリブロック共重合体P6を樹脂Cとして用いた。
【0123】
得られた延伸前フィルム6について、前記の条件の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて相構造を観察したところ、シリンダ構造が観察された。また、相間距離は、40nmであった。また、厚み方向に平行な断面の切片を作成してTEMで観察したところ、シリンダ状の相分離構造が確認された。
【0124】
得られた延伸前フィルム6のRth/dを測定したところ、Rth/d=2.5×10-3であった。
【0125】
(6-3.位相差フィルム(λ/4板))
下記の事項以外は、実施例1(1-3.位相差フィルム(λ/4板))と同様にして、厚み60~80μmの位相差フィルム6Qを3種得た。
・延伸前フィルム1の代わりに延伸前フィルム6を用いた。
・延伸温度を変更し、153℃とした。
得られた3種の位相差フィルム6Qを用いて、前記の方法により視野角特性を評価した。また、位相差フィルム6QのRe/dの値及びNZ係数を測定した。
【0126】
[実施例7]
(7-1.トリブロック共重合体)
下記事項以外は、実施例1(1-1.トリブロック共重合体)と同様にして、トリブロック共重合体P7を、塊状の生成物として得た。
・(一段階目)の反応において、単量体(a)として2-ビニルナフタレン10.3部を添加した。
・n-ブチルリチウムの量を、0.03部から0.04部へ変更した。
・(二段階目)の反応において、単量体(b)として、ブタジエン11.9部の代わりにイソプレン15.4部を添加した。
・(三段階目)の反応において、単量体(a)として2-ビニルナフタレン10.3部を添加した。
トリブロック共重合体P7は、(ブロック(A))-(ブロック(B))-(ブロック(A))のブロック構成を有する。トリブロック共重合体P7において、ブロック(A)は2-ビニルナフタレンブロックであり、ブロック(B)は水添イソプレンブロックであった。
【0127】
得られたトリブロック共重合体P7をH-NMRにて分析した。その結果、トリブロック共重合体における重合単位Aとしての2-ビニルナフタレン単位と重合単位Bとしての水添イソプレン単位との重量比は57:43であり、従って重合単位Aの重量分率は57%であった。また2-ビニルナフタレン単位に対する水素添加率は0%であり、イソプレン単位に対する水素添加率は99%であった。すなわち、重合単位HA(水添2-ビニルナフタレン単位)の重合単位A(2-ビニルナフタレン単位)に対するモル比率は、0であり、重合単位B’(B’-1及びB’-2)(イソプレン単位)の重合単位B(水添イソプレン単位)に対するモル比率は、1/99であった。GPCにより測定したトリブロック共重合体P7の重量平均分子量は85000であった。TMAにより測定したトリブロック共重合体P7のガラス転移温度は125℃であった。トリブロック共重合体P7の固有複屈折値は、負である。
【0128】
(7-2.延伸前フィルム)
下記の事項以外は実施例1(1-2.延伸前フィルム)と同様にして、延伸前フィルム7を作製した。
・トリブロック共重合体P1に代わりにトリブロック共重合体P7を樹脂Cとして用いた。
【0129】
得られた延伸前フィルム7について、前記の条件の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて相構造を観察したところ、ラメラ構造が観察された。また、相間距離は、45nmであった。また、厚み方向に平行な断面の切片を作成してTEMで観察したところ、ラメラ状の相分離構造が確認された。
【0130】
得られた延伸前フィルム7のRth/dを測定したところ、Rth/d=8.1×10-3であった。
【0131】
(7-3.位相差フィルム(λ/4板))
下記の事項以外は、実施例1(1-3.位相差フィルム(λ/4板))と同様にして、厚み55~70μmの位相差フィルム7Qを3種得た。
・延伸前フィルム1の代わりに延伸前フィルム7を用いた。
・延伸温度を変更し、135℃とした。
得られた3種の位相差フィルム7Qを用いて、前記の方法により視野角特性を評価した。また、位相差フィルム7QのRe/dの値及びNZ係数を測定した。
【0132】
[比較例1]
(C1-1.トリブロック共重合体)
下記事項以外は、実施例1(1-1.トリブロック共重合体)と同様にして、トリブロック共重合体CP1を、塊状の生成物として得た。
・(一段階目)の反応において、単量体(a)として2-ビニルナフタレン13.0部を添加した。
・(二段階目)の反応において、単量体(b)として、ブタジエン11.9部の代わりにイソプレン10.1部を添加した。
・(三段階目)の反応において、単量体(a)として2-ビニルナフタレン13.0部を添加した。
トリブロック共重合体CP1は、((ブロック(A))-(ブロック(B))-(ブロック(A))のブロック構成を有する。トリブロック共重合体CP1において、ブロック(A)は2-ビニルナフタレンブロックであり、ブロック(B)は水添イソプレンブロックであった。
【0133】
得られたトリブロック共重合体CP1をH-NMRにて分析した。その結果、トリブロック共重合体における重合単位Aとしての2-ビニルナフタレン単位と重合単位Bとしての水添イソプレン単位との重量比は72:28であり、従って重合単位Aの重量分率は72%であった。また2-ビニルナフタレン単位に対する水素添加率は0%であり、イソプレン単位に対する水素添加率は99%であった。すなわち、重合単位HA(水添2-ビニルナフタレン単位)の重合単位A(2-ビニルナフタレン単位)に対するモル比率は、0であり、重合単位B’(B’-1及びB’-2)(イソプレン単位)の重合単位B(水添イソプレン単位)に対するモル比率は、1/99であった。GPCにより測定したトリブロック共重合体CP1の重量平均分子量は120000であった。TMAにより測定したトリブロック共重合体CP1のガラス転移温度は140℃であった。トリブロック共重合体CP1の固有複屈折値は、負である。
【0134】
(C1-2.延伸前フィルム)
下記の事項以外は実施例2(2-2.延伸前フィルム)と同様にして、延伸前フィルムC1を作製した。
・トリブロック共重合体CP1を、樹脂Cとして用いた。
・冷却ロールの温度を、110℃に設定した。
・押出機のスクリュー回転数を150~200rpmに設定した。
【0135】
得られた延伸前フィルムC1について、前記の条件の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて相構造を観察したところ、得られた散乱パターンは不明瞭であり理論曲線でのフィッティングはできなかった。また、厚み方向に平行な断面の切片を作成してTEMで観察したところ、サイズや大きさが疎らなシリンダ構造が観察された。
【0136】
得られた延伸前フィルムC1のRth/dを測定したところ、Rth/d=1.4×10-3であった。
【0137】
(C1-3.位相差フィルム(λ/4板))
下記の事項以外は、実施例1(1-3.位相差フィルム(λ/4板))と同様にして、厚み50~70μmの位相差フィルムC1Qを3種得た。
・延伸前フィルム1の代わりに延伸前フィルムC1を用いた。
・延伸温度を変更し、150℃とした。
得られた3種の位相差フィルムC1Qを用いて、前記の方法により視野角特性を評価した。また、位相差フィルムC1QのRe/dの値及びNZ係数を測定した。
【0138】
[比較例2]
(C2-1.単量体(a)の単独重合体)
乾燥し、窒素ガスで置換された耐圧反応器に、溶媒としてトルエン500部、重合触媒としてn-ブチルリチウム0.03部を入れた後、単量体(a)として2-ビニルナフタレン36部を添加して25℃で2時間反応させ、重合反応を行った。その結果、反応混合物中に、重合体HP(A)を得た。反応混合物を大量の2-プロパノールに注いで、重合体HP(A)を沈殿させ分取した。
【0139】
得られた重合体HP(A)をH-NMRにて分析した。その結果、重合体HP(A)は2-ビニルナフタレン単位のみからなるものであり、従って重合体HP(A)中の重合単位Aの重量分率は100%であった。GPCにより測定した重合体HP(A)の重量平均分子量は100000であった。TMAにより測定した重合体HP(A)のガラス転移温度は145℃であった。DSCにより測定した重合体HP(A)のガラス転移温度は150℃であった。また屈折率は、1.67であった。
【0140】
(C2-2.延伸前フィルム)
下記の事項以外は実施例1(1-2.延伸前フィルム)と同様にして、延伸前フィルムC2を作製した。
・トリブロック共重合体P1に代わりに重合体HP(A)を樹脂Cとして用いた。
・加圧温度を、200℃とした。
【0141】
得られた延伸前フィルムC2について、前記の条件の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて相構造を観察したところ、相分離構造は観察されなかった。また、厚み方向に平行な断面の切片を作成してTEMで観察したところ、相分離構造は確認されなかった。
【0142】
得られた延伸前フィルムC2のRth/dを測定したところ、Rth/d=0.1×10-3であった。
【0143】
(C2-3.位相差フィルム)
下記の事項以外は、実施例1(1-3.位相差フィルム(λ/4板))と同様にして、厚み80μmの位相差フィルムC2Qを得た。延伸倍率3.0倍、4.0倍のものは、延伸過程で破断し、作成できなかった。
・延伸前フィルム1の代わりに位相差フィルムC2を用いた。
・延伸温度を変更し、155℃とした。
得られた位相差フィルムC2Qを用いて、前記の方法により視野角特性を評価した。また、位相差フィルムC2QのRe/dの値及びNZ係数を測定した。
【0144】
[比較例3]
(C3-1.トリブロック共重合体)
(一段階目)
十分に窒素ガスで置換された、攪拌装置を備えた反応器に、脱水シクロヘキサン395部、脱水スチレン34.5部、n-ブチルエーテル0.65部を入れ、60℃で撹拌しながら、n-ブチルリチウム(15%n-ヘキサン溶液)0.87部を加えて重合を開始し、60分間重合反応させた。
【0145】
(二段階目)
次に、脱水イソプレン61.1部を加え、そのまま40分間撹拌を続けた。
【0146】
(三段階目)
その後、60℃で撹拌しながら、脱水スチレン34.5部を加え、60分間反応させた。この時点での重合転化率はほぼ100%であった。ここでメタノール0.2部を添加し反応を停止した。その結果、反応混合物中に、(スチレンブロック)-(イソプレンブロック)-(スチレンブロック)のブロック構成を有するトリブロック共重合体CP3を得た。
【0147】
得られたトリブロック共重合体CP3をH-NMRにて分析した。その結果、トリブロック共重合体における重合単位Aとしてのスチレン単位と重合単位B’としてのイソプレン単位との重量比は53:47であり、従って重合単位Aの重量分率は53%であった。GPCにより測定したトリブロック共重合体CP3の重量平均分子量は90000であった。TMAにより測定したトリブロック共重合体CP3のガラス転移温度は79℃であった。トリブロック共重合体CP3の固有複屈折値は、正である。
【0148】
(C3-2.延伸前フィルム)
下記の事項以外は実施例1(1-2.延伸前フィルム)と同様にして、延伸前フィルムC3を作製した。
・トリブロック共重合体P1の代わりにトリブロック共重合体CP3を樹脂Cとして用いた。
・加圧温度を、180℃とした。
【0149】
得られた延伸前フィルムC3について、前記の条件の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて相構造を観察したところ、ラメラ構造が観察された。また、相間距離は、45nmであった。また、厚み方向に平行な断面の切片を作成してTEMで観察したところ、ラメラ状の相分離構造が確認された。
【0150】
得られた延伸前フィルムC3のRth/dを測定したところ、Rth/d=2.3×10-3であった。
【0151】
(C3-3.位相差フィルム(λ/4板))
下記の事項以外は、実施例1(1-3.位相差フィルム(λ/4板))と同様にして、厚み50~70μmの位相差フィルムC3Qを3種得た。
・延伸前フィルム1の代わりに延伸前フィルムC3を用いた。
・延伸温度を変更し、89℃とした。
得られた3種の位相差フィルムC3Qを用いて、前記の方法により視野角特性を評価した。また、位相差フィルムC3QのRe/dの値及びNZ係数を測定した。
【0152】
[参考例1]
(イソプレン単独重合体の水素化物)
十分に窒素ガスで置換された、攪拌装置を備えた反応器に、脱水シクロヘキサン395部、脱水イソプレン120部、n-ブチルエーテル0.77部を入れ、50℃で撹拌しながら、n-ブチルリチウム(15%n-ヘキサン溶液)1.25部を加えて重合を開始し、60分間重合反応させた。この時点での重合転化率はほぼ100%であった。ここでメタノール0.2部を添加し反応を停止した。得られた重合体溶液の一部を抜き出して乾燥し、イソプレンの単独重合体を得た。得られたイソプレンの単独重合体は、分子量分布(Mw/Mn)が1.07であり、重量平均分子量(Mw)が76000であった。
【0153】
得られた重合体溶液を、攪拌装置を備えた耐圧反応容器に移送し、水素化触媒としてのシリカーアルミナ担持型ニッケル触媒(製品名:T-8400RL、クラリアント触媒(株)社製、ニッケル含有量33%)1.5部、及び、脱水シクロヘキサン100部を添加して混合した。常温状態にて反応内部を水素ガスにて置換しゲージ圧力で2MPa加圧した状態で170℃まで昇温した。耐圧反応容器の内部温度が170℃となったところで、水素圧を4.5MPaまで加圧し12時間水素化反応を行った(水素化率:99.9%)。得られた水素化後の溶液を乾燥し、イソプレンの単独重合体の水素化物HIpを得た。水素化物HIpのDSCによるガラス転移温度は、-60℃であった。また屈折率は、1.48であった。
【0154】
[参考例2]
(ブタジエン単独重合体の水素化物)
十分に窒素ガスで置換された、攪拌装置を備えた反応器に、脱水シクロヘキサン395部、ブタジエン120部、n-ブチルエーテル0.77部を入れ、20℃で撹拌しながら、n-ブチルリチウム(15%n-ヘキサン溶液)1.25部を加えて重合を開始し、60分間重合反応させた。この時点での重合転化率はほぼ100%であった。ここでメタノール0.2部を添加し反応を停止した。得られた重合体溶液の一部を抜き出して乾燥し、ブタジエンの単独重合体を得た。得られたブタジエンの単独重合体は、分子量分布(Mw/Mn)が1.27であり、重量平均分子量(Mw)が96000であった。
【0155】
得られた重合体溶液を、攪拌装置を備えた耐圧反応容器に移送し、水素化触媒としてのシリカーアルミナ担持型ニッケル触媒(製品名:T-8400RL、クラリアント触媒(株)社製、ニッケル含有量33%)1.5部、及び、脱水シクロヘキサン100部を添加して混合した。常温状態にて反応内部を水素ガスにて置換しゲージ圧力で2MPa加圧した状態で170℃まで昇温した。耐圧反応容器の内部温度が170℃となったところで、水素圧を4.5MPaまで加圧し12時間水素化反応を行った(水素化率:99.9%)。得られた水素化後の溶液を乾燥し、ブタジエンの単独重合体の水素化物HBtを得た。水素化物HBtのDSCによるガラス転移温度は、-50℃であった。また屈折率は、1.51であった。
【0156】
実施例及び比較例の結果を、下表に示す。
下表における略号の意味は、下記のとおりである。
VN:2-ビニルナフタレンブロック
St:スチレンブロック
B:水添ブタジエンブロック
Ip:水添イソプレンブロック
DIp:イソプレンブロック
NZ係数:位相差フィルムのNZ係数
重量分率(A):2-ビニルナフタレン単位又はスチレン単位の重量分率(%)
また、Rth/d*10-3の値は、延伸前フィルムについて測定された値であり、Re/d*10-3の値は、延伸倍率2.0倍、3.0倍、4.0倍で作成した位相差フィルムについて測定された値のうちの最小値である。NZ係数は、延伸倍率2.0倍、3.0倍、4.0倍で作成した位相差フィルムについて測定された値の平均値である。比較例2については、延伸倍率2.0倍で作成した位相差フィルムについて測定された値である。
【0157】
【表1】
【0158】
以上の結果から、以下の事項が分かる。
Rth/dの値が、2.5×10-3未満である、比較例1に係る光学フィルムからは、NZ係数の平均値が0であり、視野角特性が不良である位相差フィルムが製造されることが分かる。また、相分離構造が発現しておらず、Rth/dの値が、2.5×10-3未満である、比較例2に係る光学フィルムは、NZ係数が0であり、視野角特性が不良である位相差フィルムが製造されることが分かる。Rth/dの値が、2.5×10-3未満である、比較例3に係る光学フィルムからは、NZ係数の平均値が1.0以上であり、視野角特性が不良である位相差フィルムが製造されることが分かる。
【0159】
一方、相分離構造が発現しており、Rth/dの値が、2.5×10-3以上である、実施例に係る光学フィルムからは、NZ係数の平均値が0より大きく1未満であり、2~4倍という、広い範囲の延伸倍率において視野角特性が良好である位相差フィルムが製造されうることが分かる。
【0160】
以上の結果は、本発明の光学フィルムにより、視野角補償の効果が十分に得られる位相差フィルムを低いコストで製造しうることが分かる。