(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】メタリック塗料用水分散体及び水性メタリック塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 135/00 20060101AFI20230829BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20230829BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20230829BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20230829BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20230829BHJP
C09D 5/29 20060101ALI20230829BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230829BHJP
【FI】
C09D135/00
C08F220/10
C09D5/02
C09D133/14
C09D133/04
C09D5/29
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2023504048
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 CN2021075220
(87)【国際公開番号】W WO2022165697
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-01-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】大水 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】三上 明音
(72)【発明者】
【氏名】シェ ファシャン
(72)【発明者】
【氏名】リャン クンディ
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-111693(JP,A)
【文献】特表2003-534437(JP,A)
【文献】特開2010-253384(JP,A)
【文献】特表2009-534540(JP,A)
【文献】特開平8-12925(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188074(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/181523(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C08F 220/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イタコン酸を必須原料とするアクリル重合体(A)が水性媒体(B)中に分散しているメタリック塗料用水分散体であって、
前記アクリル重合体(A)の不飽和単量体原料中のイタコン酸が4~12質量%であり、前記アクリル重合体(A)の酸価が40~100mgKOH/gであり、前記アクリル重合体(A)により形成される粒子の平均粒子径が35nm以下であることを特徴とするメタリック塗料用水分散体。
【請求項2】
前記アクリル重合体(A)が水酸基を有するものである請求項
1記載のメタリック塗料用水分散体。
【請求項3】
請求項1
又は2記載のメタリック塗料用水分散体、及びメタリック顔料を含有することを特徴とする水性メタリック塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタリック塗料用水分散体及び水性メタリック塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の高級化や高意匠化のため、メタリック塗料を塗装したメタリック塗膜が使用されている。このメタリック塗料は乾燥性に優れた溶剤系塗料が主流であったが、近年、環境への配慮から水性メタリック塗料が要望されている。しかし、水性メタリック塗料は水の乾燥が遅いためメタリック顔料の配向に問題が生じ、必要な高輝性が得られないという問題があった。
【0003】
このような状況下、アクリル樹脂と、硬化剤と、光輝性顔料と、溶剤とを特定の比率で含有する光輝性塗料組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、該光輝性塗料組成物は、耐リフティング性が不十分であるという問題があった。
【0004】
そこで、塗膜外観及び耐リフティング性に優れるメタリック塗料用水性材料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、塗膜外観及び耐リフティング性に優れる硬化塗膜が得られるメタリック塗料用水分散体、及びこれを含有する水性メタリック塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、イタコン酸を必須原料とする特定のアクリル重合体が水性媒体中に分散しているメタリック塗料用水分散体は、得られる硬化塗膜の外観及び耐リフティング性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、イタコン酸を必須原料とするアクリル重合体(A)が水性媒体(B)中に分散しているメタリック塗料用水分散体であって、前記アクリル重合体(A)の酸価が40~100mgKOH/gであり、前記アクリル重合体(A)により形成される粒子の平均粒子径が35nm以下であることを特徴とするメタリック塗料用水分散体に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のメタリック塗料用水分散体は、得られる塗膜の外観及び耐リフティング性に優れることから、車両、建築外装、橋梁、産業機械、ガスタンク、建設機械、船舶、プラスチックをはじめとする各種工業用水性塗料等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のメタリック塗料用水分散体は、イタコン酸を必須原料とするアクリル重合体(A)が水性媒体(B)中に分散しているメタリック塗料用水分散体であって、前記アクリル重合体(A)の酸価が40~100mgKOH/gであり、前記アクリル重合体(A)により形成される粒子の平均粒子径が35nm以下であるものである。
【0011】
前記イタコン酸を必須原料とするアクリル重合体(A)は、イタコン酸とその他の不飽和単量体とを共重合して得られる。
【0012】
前記その他の不飽和単量体としては、例えば、スチレン、tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレンおよび/またはスチレン誘導体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリルレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基を有するアクリル単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基を有するアクリル単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステル;(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メトキシブチルアクリルアミド等の窒素原子を有するアクリル単量体;(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸等のイタコン酸以外のエチレン性不飽和ジカルボン酸;さらに、マレイン酸、イタコン酸等の酸無水物、これら酸無水物のモノエステル化物などが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いることも、2種以上併用することもできる。
【0013】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸とアクリル酸の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリルアミド」とは、メタクリルアミドとアクリルアミドの一方又は両方をいう。
【0014】
前記アクリル重合体(A)の不飽和単量体原料中のイタコン酸は、塗膜外観及び耐リフティング性がより向上することから、4~12質量%が好ましく、7~12質量%がより好ましい。
【0015】
前記アクリル重合体(A)の必須原料としてイタコン酸を使用することで、外観及び耐リフティング性に優れる硬化塗膜が得られるが、耐リフティング性がより向上することから、不飽和単量体原料中にスチレンを含むことが好ましく、不飽和単量体原料中のスチレンは、20~50質量%が好ましい。
【0016】
前記アクリル重合体(A)の必須原料としてイタコン酸を使用することで、外観及び耐リフティング性に優れる硬化塗膜が得られるが、耐リフティング性がより向上することから、不飽和単量体原料中にアルキル(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、不飽和単量体原料中のアルキル(メタ)アクリレートは、20~70質量%が好ましい。
【0017】
また、前記アクリル重合体(A)をイソシアネート等の硬化成分と反応させて硬化させる場合は、水酸基を有するアクリル単量体を用いることが好ましい。
【0018】
前記アクリル重合体(A)の不飽和単量体原料中の水酸基を有するアクリル単量体は、塗膜外観及び耐リフティング性がより向上することから、2~10質量%が好ましく、4~8質量%がより好ましい。
【0019】
前記アクリル重合体(A)の酸価は、40~100mgKOH/gであるが、水分散体の貯蔵安定性、得られる塗膜の外観及び耐リフティング性がより向上することから、60~100mgKOH/gが好ましい。
【0020】
前記アクリル重合体(A)の水酸基価は、得られる塗膜の外観及び耐リフティング性がより向上することから、10~50mgKOH/gが好ましく、20~40mgKOH/gがより好ましい。
【0021】
前記アクリル重合体(A)の重量平均分子量は、塗膜外観及ぶ耐リフティング性がより向上することから、5,000~100,000が好ましく、10,000~50,000がより好ましい。
【0022】
本発明の平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略記する。)測定に基づきポリスチレン換算した値である。
【0023】
前記アクリル重合体(A)の製造方法としては、種々の方法を用いることができるが、例えば、不飽和単量体原料を有機溶剤中で、重合開始剤を使用して重合させる方法等が挙げられる。
【0024】
前記有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素化合物;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル化合物;n-ブタノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール等のアルコール化合物;エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコール化合物;ヘプタン、ヘキサン、オクタン、ミネラルターペン等の脂肪族炭化水素化合物などが挙げられる。これらの中でも、前記水性媒体(B)としてそのまま利用できることから、水混和性有機溶剤を使用することが好ましい。なお、これらの有機溶剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0025】
前記重合開始剤としては、例えば、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド化合物;1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ビス(4,4-ジtert-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジtert-アミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジtert-ヘキシルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジtert-オクチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジクミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等のパーオキシケタール化合物;クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド化合物;1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジtert-ブチルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド化合物;デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド化合物;ビス(tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等のパーオキシカーボネート化合物;tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等のパーオキシエステル化合物などの有機過酸化物と、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチル)ブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)等のアゾ化合物とが挙げられる。なお、これらの重合開始剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0026】
前記水性媒体(B)としては、水、親水性有機溶剤、及びこれらの混合物が挙げられる。該親水性有機溶剤としては水と分離することなく混和する水混和性有機溶剤が好ましく、中でも水に対する溶解度(水100gに溶解する有機溶剤のグラム数)が25℃において3g以上の有機溶剤が好ましい。これら水混和性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル(一般名:3-メトキシブタノール)、3-メチル-3-メトキシブタノール(製品名:ソルフィット、株式会社クラレ製)等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。なお、これらの水性媒体(B)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0027】
本発明のメタリック塗料用水分散体は、前記アクリル重合体(A)が前記水性媒体(B)中に分散しているものであるが、前記アクリル重合体(A)を前記水性媒体(B)中に分散する方法としては、例えば、転相乳化法が挙げられる。
【0028】
前記転相乳化法としては、例えば、前記アクリル重合体(A)に塩基性化合物を添加することで、前記アクリル重合体(A)中の酸基の一部又は全部を中和し、さらにその後に水を添加することで水に分散する方法が挙げられる。
【0029】
前記塩基性化合物としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、2-アミノエタノール等のモノアルカノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン等の有機アミン;アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基性化合物;テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラ-n-ブチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムハイドロオキサイドの四級アンモニウムハイドロオキサイドなどが挙げられる。これらの中でも有機アミンおよびアンモニア(アンモニア水でもよい。)を使用することが好ましい。なお、これらの塩基性化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0030】
また、前記塩基性化合物の使用量としては、水分散体の分散性及び貯蔵安定性がより向上することから、前記アクリル重合体(A)の有する酸基の中和率が、50~100%の範囲となる量であることが好ましい。なお、前記中和率を高く設定することで、前記アクリル重合体(A)により形成される粒子の平均粒子径を小さく制御できる。
【0031】
本発明のメタリック塗料用水分散体中のアクリル重合体(A)により形成される粒子の平均粒子径は35nm以下であるが、塗膜外観及びリフティング性がより向上することから、30nm以下が好ましい。ここで、本発明における平均粒子径とは、粒子の動的散乱光を検出する測定原理で粒度分布を求める方法で測定した値をいう。
【0032】
本発明のメタリック塗料用水分散体には、塗料配合時に、硬化剤を配合できる。該硬化剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、アミノ樹脂、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられるが、得られる塗膜の外観がより向上することから、ポリイソシアネート化合物が好ましい。なお、これらの硬化剤は単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0033】
前記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、m-フェニレンビス(ジメチルメチレン)ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、2-メチル-1,3-ジイソシアナトシクロヘキサン、2-メチル-1,5-ジイソシアナトシクロヘキサン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式ジイソシアネート化合物などが挙げられる。
【0034】
また、前記ポリイソシアネート化合物として、上記のジイソシアネート化合物を多価アルコールと付加反応させて得られるイソシアネート基を有するプレポリマー;上記のジイソシアネート化合物を環化三量化させて得られるイソシアヌレート環を有する化合物;上記のジイソシアネート化合物を水と反応させて得られる尿素結合やビュレット結合を有するポリイソシアネート化合物;2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、3-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート等のイソシアネート基を有するアクリル単量体の単独重合体;前記イソシアネート基を有するアクリル単量体と、その他のアクリル単量体、ビニルエステル化合物、ビニルエーテル化合物、芳香族ビニル単量体、フルオロオレフィン等の単量体と共重合することによって得られるイソシアネート基を有する共重合体なども用いることができる。
【0035】
前記ポリイソシアネート化合物は、本発明のメタリック塗料用水分散体と配合した際に、安定性、硬化性に優れ、可使時間の自由度が高い点から、上記したポリイソシアネート化合物を変性した水分散性ポリイソシアネートが好ましい。
【0036】
前記ポリイソシアネート化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0037】
前記ポリイソシアネート化合物の配合量としては、高強度の塗膜が得られることから、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基と、前記アクリル重合体(A)中の水酸基との当量比(イソシアネート基/水酸基)で、0.5~2.0となる範囲が好ましく、0.8~1.5となる範囲がより好ましい。
【0038】
なお、上記のウレタン化反応は、反応の進行を促進させるため、ウレタン化触媒の存在下で行うこともできる。前記ウレタン化触媒としては、例えば、トリエチルアミン等のアミン化合物、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、オクチル錫トリラウレート、ジオクチル錫ジネオデカネート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル酸錫等の有機錫化合物、オクチル酸亜鉛(2-エチルヘキサン酸亜鉛)等の有機金属化合物などが挙げられる。
【0039】
本発明の水性メタリック塗料は、メタリック塗料用水分散体及びメタリック顔料を含有するものであるが、前記メタリック顔料としては、例えば、鱗片状アルミニウム、蒸着アルミニウム、酸化アルミニウム、雲母、酸化チタン被膜雲母、酸化鉄被膜雲母、雲母状酸化鉄等が挙げられる。
【0040】
前記水性メタリック塗料の固形分中の前記メタリック顔料の含有量は、塗膜外観がより向上することから、1~30質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましい。
【0041】
本発明の水性メタリック塗料は、上述した以外のその他の配合物として、消泡剤、粘度調整剤、耐光安定剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、顔料分散剤、増粘剤等の添加剤を使用することができる。また、前記メタリック顔料以外の顔料を使用することもできる。
【0042】
本発明の水性メタリック塗料の塗装方法としては、例えば、スプレー、アプリケーター、バーコーター、グラビアコーター、ロールコーター、コンマコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、キスコーター、シャワーコーター、ホイーラーコーター、スピンコーター、ディッピング、スクリーン印刷等の方法が挙げられる。また、塗装後、塗膜とする方法としては、常温~120℃の範囲で乾燥させる方法が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。なお、アクリル重合体の酸価及び水酸基価は、JIS試験方法K 0070-1992に準拠して測定したものである。平均粒子径は、日機装株式会社製のナノトラックUPA-EX150を用いて測定したものである。また、平均分子量は、下記のGPC測定条件で測定したものである。
【0044】
[GPC測定条件]
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度4mg/mLのテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0045】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【0046】
(実施例1:メタリック塗料用水分散体(1)の製造)
スチレン(以下St)180質量部、ブチルアクリレート(以下BA)150質量部、n-ブチルメタクリレート(以下n-BMA)100質量部、ヒドロキシエチルアクリレート(以下HEA)30質量部、およびプロピレングリコールメチルエーテル(以下PGM)75質量部を混合し、モノマー混合液を得た。また、パーブチルO(以下P-O)17.5質量部とPGM 17.5質量部を混合し、開始剤溶液を得た。撹拌機、温度計および冷却器を取り付けた2リットルの反応容器中に、イタコン酸(以下ITA)13質量部とPGM150質量部を仕込み、窒素ガスを送入しつつ撹拌しながら反応容器内を100℃に昇温した。昇温後、モノマー混合液の33質量%と、開始剤溶液の33質量%を80分間かけて反応容器内に滴下した。次いで、ITA 13質量部を容器内に仕込んだ後、モノマー混合液の33質量%と、開始剤溶液の33質量%を80分間かけて反応容器内に滴下した。次いで、ITA 13質量部を反応容器内に加えた後、残りのモノマー混合液と開始剤溶液を80分間かけて反応容器内に滴下した。滴下反応中、反応容器内温度は100℃を保持しつつ攪拌を続け、滴下終了後も30分間攪拌を続けた後70℃まで冷却した。冷却後攪拌しながら2-ジメチルアミノエタノール(以下DMEA)44質量部を反応容器中に加え、イオン交換水750質量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後30分間攪拌を続け、メタリック塗料用水分散体(1)を得た。
【0047】
(実施例2:メタリック塗料用水分散体(2)の製造)
St 180質量部、BA 163質量部、n-BMA 70質量部、HEA 30質量部、およびPGM 75質量部を混合し、モノマー混合液を得た。また、P-O 17.5質量部とPGM 17.5質量部を混合し、開始剤溶液を得た。撹拌機、温度計および冷却器を取り付けた2リットルの反応容器中に、ITA 19質量部とPGM150質量部を仕込み、窒素ガスを送入しつつ撹拌しながら反応容器内を100℃に昇温した。昇温後、モノマー混合液の33質量%と、開始剤溶液の33質量%を80分間かけて反応容器内に滴下した。次いで、ITA 19質量部を容器内に仕込んだ後、モノマー混合液の33質量%と、開始剤溶液の33質量%を80分間かけて反応容器内に滴下した。次いで、ITA 20質量部を反応容器内に加えた後、残りのモノマー混合液と開始剤溶液を80分間かけて反応容器内に滴下した。滴下反応中、反応容器内温度は100℃を保持しつつ攪拌を続け、滴下終了後も30分間攪拌を続けた後70℃まで冷却した。冷却後攪拌しながらDMEA 63質量部を反応容器中に加え、イオン交換水750質量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後30分間攪拌を続け、メタリック塗料用水分散体(2)を得た。
【0048】
(実施例3:メタリック塗料用水分散体(3)の製造)
St 180質量部、BA 150質量部、n-BMA 100質量部、HEA 30質量部、メタクリル酸(以下MAA)6質量部、およびPGM 75質量部を混合し、モノマー混合液を得た。また、P-O 17.5質量部とPGM 17.5質量部を混合し、開始剤溶液を得た。撹拌機、温度計および冷却器を取り付けた2リットルの反応容器中に、ITA 12質量部、及びPGM150質量部を仕込み、窒素ガスを送入しつつ撹拌しながら反応容器内を100℃に昇温した。昇温後、モノマー混合液の33質量%と、開始剤溶液の33質量%を80分間かけて反応容器内に滴下した。次いで、ITA 12質量部を容器内に仕込んだ後、モノマー混合液の33質量%と、開始剤溶液の33質量%を80分間かけて反応容器内に滴下した。次いで、ITA 12質量部を反応容器内に加えた後、残りのモノマー混合液と開始剤溶液を80分間かけて反応容器内に滴下した。滴下反応中、反応容器内温度は100℃を保持しつつ攪拌を続け、滴下終了後も30分間攪拌を続けた後70℃まで冷却した。冷却後攪拌しながらDMEA 44質量部を反応容器中に加え、イオン交換水750質量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後30分間攪拌を続け、メタリック塗料用水分散体(3)を得た。
【0049】
(比較例1:メタリック塗料用水分散体(R1)の製造)
St 180質量部、BA 145質量部、n-BMA 101質量部、HEA 30質量部、アクリル酸(以下AA)45質量部、およびPGM 75質量部を混合し、モノマー混合液を得た。また、P-O 17.5質量部とPGM 17.5質量部を混合し、開始剤溶液を得た。撹拌機、温度計および冷却器を取り付けた2リットルの反応容器中に、とPGM150質量部を仕込み、窒素ガスを送入しつつ撹拌しながら反応容器内を100℃に昇温した。昇温後、モノマー混合液と、開始剤溶液を4時間かけて反応容器内に滴下した。滴下反応中、反応容器内温度は100℃を保持しつつ攪拌を続け、滴下終了後も30分間攪拌を続けた後70℃まで冷却した。冷却後攪拌しながらDMEA 44質量部を反応容器中に加え、イオン交換水750質量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後30分間攪拌を続け、メタリック塗料用水分散体(R1)を得た。
【0050】
(比較例2:メタリック塗料用水分散体(R2)の製造)
St 180質量部、BA 150質量部、n-BMA 100質量部、HEA 30質量部、およびPGM 75質量部を混合し、モノマー混合液を得た。撹拌機、温度計および冷却器を取り付けた2リットルの反応容器中に、ITA 40質量部とPGM 150質量部を仕込み、窒素ガスを送入しつつ撹拌しながら反応容器内を100℃に昇温した。昇温後、モノマー混合液と、P-O 17.5質量部とPGM 17.5質量部を混合したものを4時間かけて反応容器内に滴下した。滴下反応中、反応容器内温度は100℃を保持しつつ攪拌を続け、滴下終了後も30分間攪拌を続けた後70℃まで冷却した。冷却後攪拌しながらDMEA 33質量部を反応容器中に加え、イオン交換水750質量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後30分間攪拌を続け、メタリック塗料用水分散体(R2)を得た。
【0051】
(比較例3:メタリック塗料用水分散体(R3)の製造)
St 180質量部、BA 140質量部、n-BMA 130質量部、HEA 30質量部、およびPGM 75質量部を混合し、モノマー混合液を得た。撹拌機、温度計および冷却器を取り付けた2リットルの反応容器中に、ITA 21質量部とPGM 150質量部を仕込み、窒素ガスを送入しつつ撹拌しながら反応容器内を100℃に昇温した。昇温後、モノマー混合液と、P-O 17.5質量部とPGM 17.5質量部を混合したものを4時間かけて反応容器内に滴下した。滴下反応中、反応容器内温度は100℃を保持しつつ攪拌を続け、滴下終了後も30分間攪拌を続けた後70℃まで冷却した。冷却後攪拌しながらDMEA 22質量部を反応容器中に加え、イオン交換水750質量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後30分間攪拌を続け、メタリック塗料用水分散体(R3)を得た。
【0052】
[水性メタリック塗料の調製]
ブチルセロソルブ20質量部と50質量%アルミペースト(東洋アルミニウム株式会社製「アルペーストWXM-5660」;鱗片状アルミニウム顔料)20質量部とを混合してアルミペーストのブチルセロソルブ混合液40質量部を得た。
次に、上記で得たメタリック塗料用水分散体100質量部をディスパーで撹拌した状態で、ジエチレングリコールジブチルエーテル9質量部を添加し、更に表面調整剤(ビックケミー株式会社製「BYK-346」)1質量部、表面調整剤(Evonik株式会社製「サーフィノール104BC」)2質量部を添加後、前記アルミペーストのブチルセロソルブ混合液31.5質量部、増粘剤(BASF株式会社製「Rheovis AS-1130」をあらかじめ水で濃度3質量%に希釈したもの)27質量部を添加して15分間撹拌し、水性メタリック塗料の主剤を得た。
次に、上記で得た水性メタリック塗料の主剤100質量部と、イソシアネート硬化剤(DIC株式会社製「バーノックDNW-5500」)4質量部とを配合し、脱イオン水で粘度を40秒(フォードカップ#4/20℃)として、水性メタリック塗料を得た。当量比(イソシアネート基/水酸基)は1とした。
【0053】
[1コート塗膜試験板の作製]
プラスチック素材ABS板に、上記で得た水性メタリック塗料を、スプレーにて膜厚が15μmになるように塗装し、5分間セッティングした後、熱風乾燥機を用いて80℃で30分間乾燥を行い、乾燥塗膜の形成された1コート塗膜試験板を得た。
【0054】
[2コート用クリア塗料の調整]
キシレン50質量部、酢酸ブチル30質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10質量部、エチル-3-エトキシプロピオネート10質量部を混合し希釈シンナーを得た。アクリル樹脂(DIC株式会社製「アクリディックA-859-B」)30質量部、イソシアネート硬化剤(Covestro製「Desmodur N-3300」)13質量部、表面調整剤(ビックケミー株式会社製「BYK-331」)に前記希釈シンナー23質量部を混合し、2コート用クリア塗料を得た。
【0055】
[2コート塗膜試験板の作製]
プラスチック素材ABS板に、上記で得た水性メタリック塗料を、スプレーにて膜厚が15μmになるように塗装し、5分間セッティングした後、上記で得た2コート用クリア塗料を30μmになるように塗装し、5分間セッティングした後、熱風乾燥機を用いて80℃で30分間乾燥を行い、乾燥塗膜の形成された2コート塗膜試験板を得た。
【0056】
[塗膜外観の評価]
上記で得た1コート塗膜試験板の塗膜表面を目視で観察し、下記の基準により、塗膜外観を評価した。
〇:メタリックムラが全くなく、輝度感良好。
△:メタリックムラが少しあり、輝度感若干低下。
×:メタリックムラが顕著にあり、輝度感なし。
【0057】
[耐リフティング性の評価]
上記で得た1コート塗膜試験板の表面と2コート塗膜試験板の表面とを目視で比較観察し、下記の基準により耐リフティング性を評価した。
〇:塗膜の色や外観に差なく、耐リフティング性良好。
△:塗膜の色や外観に差が見られ、耐リフティング性が若干悪い。
×:塗膜の色や外観に顕著な差が見られ、耐リフティング性が悪い。
【0058】
上記で得られたメタリック塗料用水分散体(1)~(3)及び(R1)~(R3)の組成及び評価結果を表1に示す。
【0059】
【0060】
実施例1~3のメタリック塗料用水分散体から得られる塗膜は、塗膜外観及び耐リフティング性に優れることが確認された。
【0061】
比較例1は、必須原料であるイタコン酸を用いなかった例であるが、耐リフティング性が不十分であることが確認された。
【0062】
比較例2は、平均粒子径が本発明の上限よりも大きい例であるが、塗膜外観が不十分であることが確認された。
【0063】
比較例3は、アクリル重合体の酸価が本発明の下限よりも小さく、平均粒子径が本発明の上限よりも大きい例であるが、塗膜外観が不十分であることが確認された。