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特許7339096窒化物半導体基板の製造方法および窒化物半導体基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】窒化物半導体基板の製造方法および窒化物半導体基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20230829BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C30B29/38
C30B25/18
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019174018
(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公開番号】P2021050115
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 丈洋
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-102307(JP,A)
【文献】特開2011-256082(JP,A)
【文献】特開2007-331973(JP,A)
【文献】特開2019-147726(JP,A)
【文献】特開2019-112266(JP,A)
【文献】特開2005-209803(JP,A)
【文献】特開2013-241331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長法を用いた窒化物半導体基板の製造方法であって、
下地基板を準備する工程と、
前記下地基板上にIII族窒化物半導体からなる第1下地層を形成する工程と、
前記第1下地層上に金属層を形成する工程と、
熱処理を行い、前記第1下地層中にボイドを形成する工程と、
III族窒化物半導体の単結晶からなり、最も近い低指数の結晶面が(0001)面である主面を有する第2下地層を、前記第1下地層の上方にエピタキシャル成長させ、該第2下地層の前記主面を鏡面化させる工程と、
(0001)面が露出した頂面を有するIII族窒化物半導体の単結晶を前記第2下地層の前記主面上に直接的にエピタキシャル成長させ、前記(0001)面以外の傾斜界面で構成される複数の凹部を前記頂面に生じさせ、前記第2下地層の前記主面よりも上方に行くにしたがって該傾斜界面を徐々に拡大させ、前記(0001)面を前記頂面から少なくとも一度消失させ、3次元成長層を成長させる工程と、
前記3次元成長層をスライスし、前記窒化物半導体基板を形成する工程と、
を有する
窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記3次元成長層を成長させる工程では、
前記3次元成長層において前記傾斜界面を成長面として成長させた傾斜界面成長領域を形成し、
前記3次元成長層を前記主面に沿って切った沿面断面において前記傾斜界面成長領域が占める面積割合を、80%以上とする
請求項1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記3次元成長層を形成する工程は、
前記(0001)面を前記頂面から消失させた後に、前記傾斜界面成長領域が前記沿面断面の80%以上の面積を占める状態を維持しつつ、所定の厚さに亘って前記単結晶の成長を継続させ、傾斜界面維持層を形成する工程を有する
請求項2に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記3次元成長層を形成する工程では、
前記傾斜界面成長領域中に取り込まれる酸素の濃度以上の濃度で、導電型不純物を添加する
請求項2又は3に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記3次元成長層を形成する工程では、
前記(0001)面を成長面として所定の厚さで前記単結晶を成長させた後に、該単結晶の前記頂面に前記複数の凹部を生じさせる
請求項1~4のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記3次元成長層を形成する工程では、
前記傾斜界面として、m≧3である{11-2m}面を生じさせる
請求項1~5のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記3次元成長層を形成する工程では、
前記単結晶の前記頂面に前記複数の凹部を生じさせ、前記(0001)面を消失させることで、前記3次元成長層の表面に、複数の谷部および複数の頂部を形成し、
前記主面に垂直な任意の断面を見たときに、前記複数の谷部のうちの1つを挟んで前記複数の頂部のうちで最も接近する一対の頂部同士が前記主面に沿った方向に離間した平均距離を、100μm超とする
請求項1~6のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項8】
前記窒化物半導体基板をスライスする工程では、
前記窒化物半導体基板の前記(0001)面の曲率半径を、前記第2下地層を前記3次元成長層と同じ厚さで成長させ、前記3次元成長層を形成する工程を行わずに前記第2下地層をスライスした場合の窒化物半導体基板の前記(0001)面の曲率半径よりも大きくする
請求項1~7のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項9】
2インチ以上の直径を有し、III族窒化物半導体の単結晶からなり、最も近い低指数の結晶面が(0001)面である主面を有する窒化物半導体基板であって、
9×1017cm-3以上の酸素濃度を有する高酸素濃度領域を有し、
前記主面において前記高酸素濃度領域が占める面積割合は、80%以上であり、
前記主面は、重ならない50μm角の無転位領域を100個/cm 以上の密度で有し、
前記主面内の異なる複数点で、500nm以上700nm以下の波長範囲の光の透過率を測定したときに、
500nm以上700nm以下の波長範囲内のそれぞれの波長における前記透過率の、前記主面内のばらつきは、±0.5%以内である
窒化物半導体基板。
【請求項10】
前記主面内の異なる複数点で、500nm以上700nm以下の波長範囲の光の反射率を測定したときに、
500nm以上700nm以下の波長範囲内のそれぞれの波長における前記反射率の、前記主面内のばらつきは、±0.5%以内である
請求項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項11】
2インチ以上の直径を有し、III族窒化物半導体の単結晶からなり、最も近い低指数の結晶面が(0001)面である主面を有する窒化物半導体基板であって、
9×10 17 cm -3 以上の酸素濃度を有する高酸素濃度領域を有し、
前記主面において前記高酸素濃度領域が占める面積割合は、80%以上であり、
前記主面は、重ならない50μm角の無転位領域を100個/cm 以上の密度で有し、
前記主面内の異なる複数点で、500nm以上700nm以下の波長範囲の光の反射率を測定したときに、
500nm以上700nm以下の波長範囲内のそれぞれの波長における前記反射率の、前記主面内のばらつきは、±0.5%以内である
窒化物半導体基板。
【請求項12】
5×1016cm-3以下の酸素濃度を有する低酸素濃度領域を有する
請求項9~11のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項13】
前記主面における前記低酸素濃度領域は、小さくとも50μm角の無転位領域を含む
請求項12に記載の窒化物半導体基板。
【請求項14】
平面視での前記低酸素濃度領域の大きさは、前記主面と反対の裏面から前記主面に向けて変化している
請求項12又は13に記載の窒化物半導体基板。
【請求項15】
前記低酸素濃度領域は、前記主面と反対の裏面から前記主面に向けて連続的に繋がっていない
請求項1214のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項16】
5×1016cm-3以下の酸素濃度を有する低酸素濃度領域を有しない
請求項9に記載の窒化物半導体基板。
【請求項17】
500nm以上700nm以下の波長範囲における吸収係数は、0.15cm-1以下である
請求項9~16のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項18】
波長をλ(μm)、27℃における前記窒化物半導体基板の吸収係数をα(cm-1)、前記窒化物半導体基板中の自由電子濃度をn(cm-3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、
少なくとも1μm以上2.5μm以下の波長範囲における前記吸収係数αは、最小二乗法で以下の式(3)により近似され、
波長2μmにおいて、前記式(3)から求められる前記吸収係数αに対する、実測される前記吸収係数の誤差は、±0.1α以内である
請求項9~17のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板。
α=nKλ ・・・(3)
(ただし、1.5×10-19≦K≦6.0×10-19、a=3)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体基板の製造方法、窒化物半導体基板および積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体の単結晶からなる自立基板(以下、「窒化物半導体基板」ともいう)を得るために、様々な方法が開示されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-178984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、結晶品質が良好な窒化物半導体基板を容易かつ安定的に得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
気相成長法を用いた窒化物半導体基板の製造方法であって、
下地基板を準備する工程と、
前記下地基板上にIII族窒化物半導体からなる第1下地層を形成する工程と、
前記第1下地層上に金属層を形成する工程と、
熱処理を行い、前記第1下地層中にボイドを形成する工程と、
III族窒化物半導体の単結晶からなり、最も近い低指数の結晶面が(0001)面である主面を有する第2下地層を、前記第1下地層の上方にエピタキシャル成長させ、該第2下地層の前記主面を鏡面化させる工程と、
(0001)面が露出した頂面を有するIII族窒化物半導体の単結晶を前記第2下地層の前記主面上に直接的にエピタキシャル成長させ、前記(0001)面以外の傾斜界面で構成される複数の凹部を前記頂面に生じさせ、前記第2下地層の前記主面よりも上方に行くにしたがって該傾斜界面を徐々に拡大させ、前記(0001)面を前記頂面から少なくとも一度消失させ、3次元成長層を成長させる工程と、
前記3次元成長層をスライスし、前記窒化物半導体基板を形成する工程と、
を有する
窒化物半導体基板の製造方法が提供される。
【0006】
本発明の他の態様によれば、
2インチ以上の直径を有し、III族窒化物半導体の単結晶からなり、最も近い低指数の結晶面が(0001)面である主面を有する窒化物半導体基板であって、
9×1017cm-3以上の酸素濃度を有する高酸素濃度領域を有し、
前記主面において前記高酸素濃度領域が占める面積割合は、80%以上である
窒化物半導体基板が提供される。
【0007】
本発明の更に他の態様によれば、
III族窒化物半導体の単結晶からなり、鏡面化された主面を有し、前記主面に対して最も近い低指数の結晶面が(0001)面である下地層と、
前記下地層上に設けられ、III族窒化物半導体の単結晶からなり、(0001)面以外の傾斜界面で構成される複数の凹部を表面に有する3次元成長層と、
を有し、
前記3次元成長層は、9×1017cm-3以上の酸素濃度を有するIII族窒化物半導体の単結晶からなる高酸素濃度領域を有し、
前記3次元成長層は、前記主面に沿って切った沿面断面であって、前記高酸素濃度領域が占める面積割合が80%以上である断面を有する
積層構造体が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、結晶品質が良好な窒化物半導体基板を容易かつ安定的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体基板の製造方法を示すフローチャートである。
図2】下地構造体作製工程を示すフローチャートである。
図3】(a)~(e)は、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体基板の製造方法の一部を示す概略断面図である。
図4】(a)~(c)は、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体基板の製造方法の一部を示す概略断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体基板の製造方法の一部を示す概略斜視図である。
図6】(a)~(b)は、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体基板の製造方法の一部を示す概略断面図である。
図7】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体基板の製造方法の一部を示す概略断面図である。
図8】(a)は、傾斜界面およびc面のそれぞれが拡大も縮小もしない基準成長条件下での成長過程を示す概略断面図であり、(b)は、傾斜界面が拡大しc面が縮小する第1成長条件下での成長過程を示す概略断面図である。
図9】(a)は、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体基板を示す概略上面図であり、(b)は、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体基板のm軸に沿った概略断面図であり、(c)は、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体基板のa軸に沿った概略断面図である。
図10】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体基板の主面を走査型電子顕微鏡により観察したカソードルミネッセンス像を示す模式図である。
図11】実施例の積層構造体の表面を光学顕微鏡により観察した観察像を示す図である。
図12】実施例の積層構造体の断面を蛍光顕微鏡により観察した観察像を示す図である。
図13】(a)および(b)は、実施例の積層構造体の他の部分における断面を蛍光顕微鏡により観察した観察像を示す図である。
図14】実施例の窒化物半導体基板の主面を多光子励起顕微鏡により観察した観察像を示す図である。
図15図14の点線四角部分を拡大した観察像を示す図である。
図16】実施例の窒化物半導体基板において、厚さ方向に焦点を変化させたときの、多光子励起顕微鏡により観察した観察像を示す図である。
図17】(a)は、実施例の窒化物半導体基板のm軸に沿った方向に対してX線回折のロッキングカーブ測定を行った結果を示す図であり、(b)は、実施例の窒化物半導体基板のm軸に直交するa軸に沿った方向に対してX線回折のロッキングカーブ測定を行った結果を示す図である。
図18】(a)は、サンプル1および2の吸収スペクトルを示す図であり、(b)は、(a)に理論式を追加した図である。
図19】(a)は、サンプル1の透過スペクトルを示す図であり、(b)は、サンプル1の反射スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<発明者等の得た知見>
まず、発明者等の得た知見について説明する。
【0011】
上述の特許文献1における方法は、VAS法(Void-assisted Separation Method)と呼ばれる。VAS法は、例えば、以下のようにして行われる。
【0012】
まず、所定の下地基板上に、III族窒化物半導体からなる第1結晶層を形成する。第1結晶層を形成したら、第1結晶層上に金属層を形成する。金属層を形成したら、所定のガスを含む雰囲気中で熱処理を行うことで、金属層中に微細な穴を形成するとともに、金属層の網目(ナノネット)を介して第1結晶層中にボイドを形成する。第1結晶層中にボイドを形成したら、第1結晶層の上方に、III族窒化物半導体からなる第2結晶層を形成する。このとき、上述のボイドの一部が残存する。第2結晶層を形成したら、第2結晶層の成長温度から降温する際に、上述の残存したボイドを起因として、第2結晶層を下地基板から剥離させる。第2結晶層を剥離させたら、第2結晶層をスライスおよび研磨することで、高い結晶品質を有する窒化物半導体基板が得られる。
【0013】
ここで、III族窒化物半導体の単結晶からなる結晶層を、c面を成長面として厚く成長させると、結晶層の表面における転位密度は、当該結晶層の厚さに対して反比例する傾向がある。
【0014】
そこで、上述のVAS法において、第2結晶層の転位密度を低減させるため、第1結晶層の上方に第2結晶層を厚く成長させることが考えられる。
【0015】
しかしながら、上述のVAS法では、第2結晶層の下地基板側には、結晶の初期核が引き合うことで生じた引張応力が蓄積している。一方で、第2結晶層に生じた引張応力によって、第2結晶層のc面は、凹の球面状に湾曲している。凹に湾曲したc面上に第2結晶層を厚く成長させると、第2結晶層が厚くなるにしたがって、第2結晶層に加わる応力が徐々に圧縮応力に変化していく。このため、第2結晶層のうちの下地基板側と表面側との応力差が徐々に大きくなる。応力差が過大となると、第2結晶層にクラックが生じてしまう可能性がある。
【0016】
このように、VAS法において、c面を成長面として第2結晶層を厚く成長させることは困難となる。
【0017】
本発明は、発明者が見出した上記知見に基づくものである。
【0018】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
(1)窒化物半導体基板の製造方法
図1図8を用い、本実施形態に係る窒化物半導体基板の製造方法について説明する。図1は、本実施形態に係る窒化物半導体基板の製造方法を示すフローチャートである。図2は、下地構造体作製工程を示すフローチャートである。図3(a)~(e)、図4(a)~(c)、図6(a)~図7は、本実施形態に係る窒化物半導体基板の製造方法の一部を示す概略断面図である。図5は、本実施形態に係る窒化物半導体基板の製造方法の一部を示す概略斜視図である。なお、図3(a)~(e)では、下地基板1の下側を省略している。また、図5は、図4(b)の時点での斜視図に相当し、下地構造体10上に成長する3次元成長層30の一部を示している。また、図4(c)、図6(a)~図7において、点線は、転位を示している。
【0020】
なお、以下では、ウルツ鉱構造を有するIII族窒化物半導体の結晶において、<0001>軸(例えば[0001]軸)を「c軸」といい、(0001)面を「c面」という。なお、(0001)面を「+c面(III族元素極性面)」といい、(000-1)面を「-c面(窒素(N)極性面)」ということがある。また、<1-100>軸(例えば[1-100]軸)を「m軸」といい、{1-100}面を「m面」という。なお、m軸は<10-10>軸と表記してもよい。また、<11-20>軸(例えば[11-20]軸)を「a軸」といい、{11-20}面を「a面」という。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係る窒化物半導体基板の製造方法は、例えば、下地構造体作製工程S100と、3次元成長工程S200と、剥離工程S300と、スライス工程S400と、研磨工程S500と、を有している。
【0022】
(S100:下地構造体作製工程)
まず、例えば、上述のVAS法により下地構造体10を作製する。
【0023】
具体的には、下地構造体作製工程S100は、例えば、下地基板準備工程S110と、第1下地層形成工程S120と、金属層形成工程S130と、ボイド形成工程S140と、第2下地層形成工程S150と、を有している。
【0024】
(S110:下地基板準備工程)
まず、図3(a)に示すように、下地基板1を準備する。下地基板1は、例えば、III族窒化物半導体と異なる材料からなっている。具体的には、下地基板1は、例えば、サファイア基板である。なお、下地基板1は、例えば、Si基板またはガリウム砒素(GaAs)基板であってもよい。
【0025】
下地基板1の直径は、例えば、2インチ(50.8mm)以上である。また、下地基板1の厚さは、例えば、300μm以上1mm以下である。
【0026】
下地基板1は、例えば、エピタキシャル成長面となる主面1sを有している。主面1sに対して最も近い低指数の結晶面は、例えば、c面である。
【0027】
本実施形態では、下地基板1のc面が、主面1sに対して傾斜している。下地基板1のc軸は、主面1sの法線に対して所定のオフ角で傾斜している。下地基板1の主面1s内でのオフ角は、主面1s全体に亘って均一である。下地基板1の主面1sの中心におけるオフ角の大きさを、例えば、0°超1°以下とする。下地基板1の主面1s内でのオフ角は、後述する第2下地層6の主面6sの中心におけるオフ角に影響する。
【0028】
(S120:第1下地層形成工程)
次に、図3(b)に示すように、下地基板1の主面1s上に、III族窒化物からなる第1下地層(第1結晶層)2を形成する。
【0029】
具体的には、例えば、有機金属気相成長(MOVPE)法により、所定の成長温度に加熱された下地基板1に対して、III族原料ガスおよび窒素原料ガスを供給する。例えば、III族原料ガスとしてのトリメチルガリウム(TMG)ガスと、窒素原料ガスとしてのアンモニアガス(NH)と、を供給することで、第1下地層2として、低温成長GaNバッファ層と、GaN層と、を下地基板1の主面1s上にこの順で成長させる。なお、GaN層の成長時には、例えば、n型ドーパントガスとしてのモノシラン(SiH)ガスを供給することで、GaN層中にn型不純物をドーピングしてもよい。
【0030】
このとき、第1下地層2としての低温成長GaNバッファ層の成長条件を、GaN層の所望の結晶品質が得られるよう調整する。具体的には、低温成長GaNバッファ層の成長温度を、例えば、400℃以上600℃以下とする。
【0031】
また、このとき、第1下地層2としてのGaN層の成長条件を、後述のボイド形成工程S140において所望のボイドが形成されるよう調整する。具体的には、GaN層の成長温度を、例えば、1,000℃以上1,200℃以下とする。
【0032】
また、このとき、例えば、第1下地層2の表面を鏡面化させる。なお、ここでいう「鏡面」とは、表面における隣り合う凹凸の高低差の最大値が可視光の波長以下である面のことをいい、当該第1下地層2の表面には、c面以外のファセットが露出したヒロックが生じていてもよい。具体的には、第1下地層2の表面の二乗平均平方根粗さRMSを、例えば、10nm未満、好ましくは1nm未満とする。このように第1下地層2の表面を鏡面化させることで、後述のボイド形成工程S140においてボイドの出現具合を下地基板1の主面1s全体に亘って略均一にすることができる。
【0033】
(S130:金属層形成工程)
次に、図3(c)に示すように、第1下地層2上に金属層3を形成する。例えば、真空蒸着またはスパッタにより、金属層3を形成する。
【0034】
金属層3は、後述のボイド形成工程S140における熱処理により、自身の中に微細な穴を形成し、第1下地層2の分解を促進させ、第1下地層2にボイドを形成するよう構成される材料からなることが好ましい。具体的には、この条件を満たす金属層3としては、例えば、チタン(Ti)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、レニウム(Re)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、白金(Pt)または金(Au)などが挙げられる。本実施形態では、金属層3を、例えば、Ti層とする。
【0035】
このとき、金属層3の厚さを、例えば、1μm以下、好ましくは300nm以下、より好ましくは100nm以下とする。金属層3の厚さを1μm以下、好ましくは300nm以下、より好ましくは100nm以下とすることで、後述のボイド形成工程S140において金属層3(金属窒化層5)の平坦性の低下を抑制することができる。これにより、金属窒化層5上に形成する第2下地層6の結晶品質の低下を抑制することができる。なお、金属層3の厚さの下限値は、特に限定されない。ただし、後述のボイド形成工程S140において金属窒化層5を安定的に形成する観点では、金属層3の厚さは、例えば、0.5nm以上とすることが好ましい。
【0036】
(S140:ボイド形成工程)
金属層3を形成したら、所定の熱処理を行い、第1下地層2中にボイドを形成する。
【0037】
具体的には、上述の下地基板1を電気炉内に投入し、所定のヒータを有するサセプタ上に下地基板1を載置する。下地基板1をサセプタ上に載置したら、ヒータにより下地基板1を加熱し、所定のガスを含む雰囲気中で熱処理を行う。
【0038】
このとき、例えば、窒素(N)ガスおよび窒素含有ガスのうち少なくともいずれかを含む雰囲気中で熱処理を行う。窒素含有ガスとしては、例えば、NHガスおよびヒドラジン(N)ガスのうち少なくともいずれかが挙げられる。これにより、金属層3を凝集させつつ窒化し、表面に高密度の微細な穴(貫通孔)を有する網目状の金属窒化層5(金属窒化層5のナノネットともいう)を形成することができる。
【0039】
さらに、このとき、例えば、水素(H)ガスおよび水素含有ガスのうち少なくともいずれかを含む雰囲気中で熱処理を行う。水素含有ガスとしては、例えば、上述のNHガスおよびNガスのうち少なくともいずれかが挙げられる。これにより、金属窒化層5の網目を介して第1下地層2の一部をエッチングし、該第1下地層2中に高密度のボイドを形成することができる。
【0040】
なお、このとき、金属窒化層5のナノネットを形成する工程と、第1下地層2中にボイドを形成する工程とを、同時に行ってもよいし、或いは、異なる雰囲気で分けて行ってもよい。
【0041】
また、このとき、熱処理条件を、第1下地層2の所定のボイド率が得られるように調整する。具体的には、雰囲気中の水素化物ガスの分圧比率を、例えば、10%以上95%以下、好ましくは50%以下とする。また、熱処理温度を、例えば、1,000℃以上1,100℃以下とする。また、熱処理時間を、例えば、1分以上100分以下とする。
【0042】
以上のボイド形成工程S140より、図3(d)に示すように、ボイド含有第1下地層4を形成する。
【0043】
(S150:第2下地層形成工程)
ボイド含有第1下地層4を形成したら、図3(e)に示すように、ボイド含有第1下地層4の上方に、III族窒化物半導体の単結晶からなる第2下地層(第2結晶層)6をエピタキシャル成長させる。
【0044】
具体的には、例えば、下地基板1を所定の気相成長装置内に搬入する。次に、ハイドライド気相成長(HVPE)法により、所定の成長温度に加熱された下地基板1に対して、III族原料ガスおよび窒素原料ガスを供給する。例えば、塩化ガリウム(GaCl)ガスと、NHガスとを供給することで、第2下地層6としてのGaN層を、ボイド含有第1下地層4および金属窒化層5上にエピタキシャル成長させる。なお、第2下地層6としてのGaN層の成長時には、例えば、n型ドーパントガスとしてのジクロロシラン(SiHCl)ガスおよびテトラクロロゲルマン(GeCl)ガスの少なくともいずれかを供給することで、GaN層中にn型不純物をドーピングしてもよい。
【0045】
第2下地層6の成長初期では、島状結晶の初期核が生成する。このとき、第2下地層6の島状結晶の頻度は、金属窒化層5のナノネット上に成長する際の過飽和度と、当該ナノネットの開口幅のばらつきとに依存する。第2下地層6を成長させていくと、島状結晶の初期核が横方向成長する。その後、隣接する初期核との距離が近づいたときに、初期核の表面が2つ存在しているよりも、初期核の表面が1つに結合したほうが、エネルギー的に安定となる。このため、隣接する初期核同士は、強制的に引き合う(会合する)。第2下地層6の全体に亘って初期核同士が会合していくことで、第2下地層6の主面6sが形成される。
【0046】
このとき、例えば、第2下地層6の主面6sを鏡面化させる。なお、ここでいう「鏡面」は、上述と同様に、表面における隣り合う凹凸の高低差の最大値が可視光の波長以下である面のことをいい、当該第2下地層6の主面6sには、c面以外のファセットが露出したヒロックが生じていてもよい。具体的には、第2下地層6の主面6sの二乗平均平方根粗さRMSを、例えば、10nm未満、好ましくは1nm未満とする。詳細は(4)において後述するが、第2下地層6の主面6sを鏡面化させることで、後述の3次元成長層30の成長形態を、第2下地層6の成長初期に生じた島状結晶の成長形態から変化させることができる。これにより、後述の3次元成長層30の最近接頂部間平均距離を3次元成長工程S200での第1成長条件に基づいて制御し、最近接頂部間距離を長くすることができる。
【0047】
なお、このとき、下地基板1の主面1sに最も近い低指数の結晶面をc面としたことで、第2下地層6の鏡面化した主面6sに最も近い低指数の結晶面もc面となる。
【0048】
また、このとき、第2下地層6の成長条件を、島状成長する結晶の初期核を所定の頻度で生成させるよう調整する。具体的には、第2下地層6の成長温度を、例えば、1,000℃以上1,100℃以下とする。また、第2下地層6の成長時におけるIII族原料ガスとしてのGaClガスの分圧に対する窒素原料ガスとしてのNHガスの流量の分圧の比率(以下、「V/III比」ともいう)を、例えば、1以上50以下とする。
【0049】
また、このとき、第2下地層6の厚さを、例えば、100μm以上1.5mm以下、好ましくは200μm以上500μm以下とする。
【0050】
第2下地層6の厚さが100μm未満であると、第2下地層6の主面6sを鏡面化することが困難となる。また、第2下地層6の厚さが100μm未満であると、第2下地層6が堅牢となっていないため、後述の3次元成長工程S200において、第2下地層6と3次元成長層30との間における近距離の応力差に起因して、第2下地層6にクラックが生じてしまう可能性がある。これに対し、第2下地層6の厚さを100μm以上とすることで、第2下地層6の主面6sを容易に鏡面化することができる。これにより、3次元成長層30の成長形態を、第2下地層6の成長初期に生じた島状結晶の成長形態から確実に変化させ、後述の3次元成長工程S200において3次元成長する3次元成長層30の最近接頂部間距離を容易に長くすることができる。また、第2下地層6の厚さを100μm以上とすることで、第2下地層6の所定の堅牢性を得ることができる。これにより、後述の3次元成長工程S200において、第2下地層6と3次元成長層30との間における近距離の応力差に起因した第2下地層6のクラックの発生を抑制することができる。さらに第2下地層6の厚さを200μm以上とすることで、第2下地層6の主面6sを安定的に鏡面化することができる。また、第2下地層6の厚さを200μm以上とすることで、第2下地層6のクラックの発生を安定的に抑制することができる。
【0051】
一方で、第2下地層6の厚さが1.5mm超であると、第2下地層6自体の厚膜化に起因して、第2下地層6にクラックが生じてしまう可能性がある。これに対し、第2下地層6の厚さを1.5mm以下とすることで、第2下地層6自体の厚膜化に起因した第2下地層6のクラックの発生を抑制することができる。さらに第2下地層6の厚さを500μm以下とすることで、第2下地層6のクラックの発生を安定的に抑制することができる。
【0052】
また、このとき、第2下地層6は、ボイド含有第1下地層4から金属窒化層5の穴を介してボイド含有第1下地層4および金属窒化層5上に成長する。ボイド含有第1下地層4中のボイドの一部は、第2下地層6によって埋め込まれるが、ボイド含有第1下地層4中のボイドの他部は、残存する。第2下地層6と金属窒化層5との間には、当該ボイド含有第1下地層4中に残存したボイドを起因として、平らな空隙が形成される。この空隙が後述の第2下地層6の剥離を生じさせることとなる。
【0053】
また、このとき、第2下地層6には、その成長過程で生じる初期核同士が引き合うことによって、引張応力が導入されている。このため、第2下地層6中に生じた引張応力に起因して、第2下地層6のc面が凹むように内部応力が働く。また、第2下地層6の主面6s側の転位密度が低く、一方で、第2下地層6の下地基板1側の転位密度が高くなっている。このため、第2下地層6の厚さ方向の転位密度差に起因しても、第2下地層6のc面が凹むように内部応力が働く。このため、第2下地層6のc面は、主面6sに対して凹の球面状に湾曲する。ここでいう「球面状」とは、球面近似される曲面状のことを意味している。また、ここでいう「球面近似」とは、真円球面または楕円球面に対して所定の誤差の範囲内で近似されることを意味している。上述のようにc面が湾曲することで、第2下地層6の主面6sの中心の法線に対してc軸がなすオフ角は、所定の分布を有する。
【0054】
また、このとき、詳細を図示していないが、第2下地層6の全体が、上述のc面の湾曲に倣って若干反る。具体的には、第2下地層6の主面6sは、(主面6s側から見て)c面の湾曲に倣って若干凹に湾曲する。一方で、第2下地層6の裏面(下地基板1側の面)は、上述の引張応力に起因して外周側から剥離する。これらのため、第2下地層6の裏面は、(裏面側から見て)若干凸に湾曲する。
【0055】
以上の下地構造体作製工程S100により、下地構造体10が得られる。
【0056】
(S200:3次元成長工程)
その後、図4(b)、図4(c)、および図5に示すように、c面30cが露出した頂面30uを有するIII族窒化物半導体の単結晶を、第2下地層6の主面6s上に直接的にエピタキシャル成長させる。これにより、3次元成長層30を成長させる。
【0057】
このとき、c面以外の傾斜界面30iで囲まれて構成される複数の凹部30pを単結晶の頂面30uに生じさせ、第2下地層6の上方に行くにしたがって、該傾斜界面30iを徐々に拡大させ、c面30cを徐々に縮小させる。これにより、c面30cを頂面30uから少なくとも一度消失させる。その結果、表面が傾斜界面30iのみで構成される3次元成長層30を成長させる。
【0058】
また、このとき、3次元成長層30において、c面以外の傾斜界面30iを成長面として成長させた傾斜界面成長領域70(図中灰色部)を形成する。また、後述するように、3次元成長層30のうち第2下地層6の主面6sに沿った沿面断面において傾斜界面成長領域70が占める面積を、例えば、80%以上とする。
【0059】
このように、3次元成長工程S200では、鏡面化した第2下地層6の主面6sをあえて荒らすように、3次元成長層30を3次元成長させる。なお、3次元成長層30は、このような成長形態を形成したとしても、上述のように、単結晶で成長させる。この点において、3次元成長層30は、サファイアなどの異種基板上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させる前に該異種基板上にアモルファスまたは多結晶として形成されるいわゆる低温成長バッファ層とは異なるものである。
【0060】
本実施形態では、3次元成長層30として、例えば、第2下地層6を構成するIII族窒化物半導体と同じIII族窒化物半導体からなる層をエピタキシャル成長させる。具体的には、例えば、HVPE法により、下地構造体10を加熱し、当該加熱された下地構造体10に対してGaClガスおよびNHガスを供給することで、3次元成長層30としてGaN層をエピタキシャル成長させる。
【0061】
ここで、3次元成長工程S200では、上述の成長過程を発現させるために、例えば、所定の第1成長条件下で、3次元成長層30を成長させる。
【0062】
まず、図8(a)を用い、傾斜界面30iおよびc面30cのそれぞれが拡大も縮小もしない基準成長条件について説明する。図8(a)は、傾斜界面およびc面のそれぞれが拡大も縮小もしない基準成長条件下での成長過程を示す概略断面図である。
【0063】
図8(a)において、太い実線は、単位時間ごとの3次元成長層30の表面を示している。図8(a)で示されている傾斜界面30iは、c面30cに対して最も傾斜した傾斜界面とする。また、図8(a)において、3次元成長層30のうちのc面30cの成長レートをGc0とし、3次元成長層30のうちの傾斜界面30iの成長レートをGとし、3次元成長層30においてc面30cと傾斜界面30iとのなす角度をγとする。また、図8(a)において、c面30cと傾斜界面30iとのなす角度γを維持したまま、3次元成長層30が成長するものとする。なお、3次元成長層30のc面30cのオフ角が、c面30cと傾斜界面30iとのなす角度γに比べて無視できるものとする。
【0064】
図8(a)に示すように、傾斜界面30iおよびc面30cのそれぞれが拡大も縮小もしないとき、傾斜界面30iとc面30cとの交点の軌跡は、c面30cに対して垂直となる。このことから、傾斜界面30iおよびc面30cのそれぞれが拡大も縮小もしない基準成長条件は、以下の式(a)を満たす。
c0=G/cosγ ・・・(a)
【0065】
次に、図8(b)を用い、傾斜界面30iが拡大しc面30cが縮小する第1成長条件について説明する。図8(b)は、傾斜界面が拡大しc面が縮小する第1成長条件下での成長過程を示す概略断面図である。
【0066】
図8(b)においても、図8(a)と同様に、太い実線は、単位時間ごとの3次元成長層30の表面を示している。また、図8(b)で示されている傾斜界面30iも、c面30cに対して最も傾斜した傾斜界面とする。また、図8(b)において、3次元成長層30のうちのc面30cの成長レートをGc1とし、3次元成長層30のうちの傾斜界面30iとc面30cとの交点の軌跡の進行レートをRとする。また、傾斜界面30iとc面30cとの交点の軌跡と、c面30cとのなす角度のうち、狭いほうの角度をγR1とする。R方向とG方向とのなす角度をγ’としたとき、γ’=γ+90-γR1である。なお、3次元成長層30のc面30cのオフ角が、c面30cと傾斜界面30iとのなす角度γに比べて無視できるものとする。
【0067】
図8(b)に示すように、傾斜界面30iとc面30cとの交点の軌跡の進行レートRは、以下の式(b)で表される。
=G/cosγ’ ・・・(b)
【0068】
また、3次元成長層30のうちのc面30cの成長レートGc1は、以下の式(c)で表される。
c1=RsinγR1 ・・・(c)
【0069】
式(c)に式(b)を代入することで、Gc1は、Gを用いて、以下の式(d)で表される。
c1=GsinγR1/cos(γ+90-γR1) ・・・(d)
【0070】
傾斜界面30iが拡大しc面30cが縮小するためには、γR1<90°となることが好ましい。したがって、傾斜界面30iが拡大しc面30cが縮小する第1成長条件は、式(d)とγR1<90°とにより、以下の式(1)を満たすことが好ましい。
c1>G/cosγ ・・・(1)
ただし、上述のように、Gは、c面30cに対して最も傾斜した傾斜界面30iの成長レートであり、γは、c面30cに対して最も傾斜した傾斜界面30iと、c面30cとのなす角度である。
【0071】
または、第1成長条件下でのGc1が、基準成長条件下でのGc0よりも大きいことが好ましいと考えることもできる。このことからも、Gc1>Gc0に式(a)を代入することにより、式(1)が導出されうる。
【0072】
なお、c面30cに対して最も傾斜した傾斜界面30iを拡大させる成長条件が最も厳しい条件となることから、第1成長条件が式(1)を満たせば、他の傾斜界面30iも拡大させることが可能となる。
【0073】
具体的には、例えば、c面30cに対して最も傾斜した傾斜界面30iが{10-11}面であるとき、γ=61.95°である。したがって、第1成長条件は、例えば、以下の式(1’)を満たすことが好ましい。
c1>2.13G ・・・(1’)
【0074】
または、後述するように、例えば、傾斜界面30iがm≧3の{11-2m}面である場合には、c面30cに対して最も傾斜した傾斜界面30iが{11-23}面であるため、γ=47.3°である。したがって、第1成長条件は、例えば、以下の式(1”)を満たすことが好ましい。
c1>1.47G ・・・(1”)
【0075】
本実施形態の第1成長条件としては、例えば、3次元成長工程S200での成長温度を、典型的にc面を成長面としてIII族窒化物層を成長させる場合での成長温度よりも低くする。具体的には、3次元成長工程S200での成長温度を、例えば、980℃以上1,020℃以下、好ましくは1,000℃以上1,020℃以下とする。
【0076】
また、本実施形態の第1成長条件として、例えば、3次元成長工程S200でのV/III比を、典型的にc面を成長面としてIII族窒化物層を成長させる場合でのV/III比よりも大きくしてもよい。具体的には、3次元成長工程S200でのV/III比を、例えば、2以上20以下、好ましくは、2以上15以下とする。
【0077】
実際には、第1成長条件として、式(1)を満たすように、成長温度およびV/III比のうち少なくともいずれかをそれぞれ上記範囲のなかで調整する。
【0078】
なお、本実施形態の第1成長条件のうちの他の条件は、例えば、以下のとおりである。
成長圧力:90~105kPa、好ましくは、90~95kPa
GaClガスの分圧:1.5~15kPa
ガスの流量/Hガスの流量:0~1
【0079】
ここで、本実施形態の3次元成長工程S200は、例えば、3次元成長層30の成長中の形態に基づいて、2つの工程に分類される。具体的には、本実施形態の3次元成長工程S200は、例えば、傾斜界面拡大工程S220と、傾斜界面維持工程S240と、を有している。これらの工程により、3次元成長層30は、例えば、傾斜界面拡大層32と、傾斜界面維持層34と、を有することとなる。
【0080】
(S220:傾斜界面拡大工程)
まず、図4(b)、図4(c)および図5に示すように、III族窒化物半導体の単結晶からなる3次元成長層30の傾斜界面拡大層32を、上述の第1成長条件下で、第2下地層6上にエピタキシャル成長させる。
【0081】
傾斜界面拡大層32が成長する初期段階では、第2下地層6の主面6sの法線方向(c軸に沿った方向)に、c面30cを成長面として所定の厚さで傾斜界面拡大層32をステップフロー成長(2次元成長)させる。すなわち、鏡面化された表面を有する傾斜界面拡大層32を、第2下地層6の主面6sに沿った方向に連続的に(該主面6s全体に亘って)所定の厚さで形成する。このとき、該c面30cを成長面として成長した傾斜界面拡大層32の一部(「初期層」ともいう)の厚さを、例えば、1μm以上100μm以下、好ましくは1μm以上20μm以下とする。
【0082】
その後、第1成長条件下で傾斜界面拡大層32を徐々に成長させることで、図4(c)および図5に示すように、傾斜界面拡大層32のうちc面30cを露出させた頂面30uに、c面以外の傾斜界面30iで構成される複数の凹部30pを生じさせる。c面以外の傾斜界面30iで構成される複数の凹部30pは、当該頂面30uにランダムに形成される。これにより、c面30cとc面以外の傾斜界面30iとが表面に混在する傾斜界面拡大層32が形成される。
【0083】
なお、ここでいう「傾斜界面30i」とは、c面30cに対して傾斜した成長界面のことを意味し、c面以外の低指数のファセット、c面以外の高指数のファセット、または面指数で表すことができない傾斜面を含んでいる。なお、c面以外のファセットは、例えば、{11-2m}、{1-10n}などである。ただし、mおよびnは0以外の整数である。
【0084】
本実施形態では、上述の鏡面化した第2下地層6上に傾斜界面拡大層32を成長させ、且つ、式(1)を満たすように第1成長条件を調整したことで、傾斜界面30iとして、例えば、m≧3である{11-2m}面を生じさせることができる。これにより、c面30cに対する{11-2m}面の傾斜角度を緩やかにすることができる。具体的には、該傾斜角度を47.3°以下とすることができる。
【0085】
第1成長条件下で傾斜界面拡大層32をさらに成長させることで、図4(c)に示すように、第2下地層6の主面6sよりも上方に行くにしたがって、傾斜界面拡大層32において、c面以外の傾斜界面30iを徐々に拡大させ、c面30cを徐々に縮小させる。なお、このとき、第2下地層6の上方に行くにしたがって、該第2下地層6の主面6sに対する、傾斜界面30iがなす傾斜角度が徐々に小さくなっていく。これにより、最終的に、傾斜界面30iのほとんどが、上述したm≧3の{11-2m}面となる。
【0086】
さらに傾斜界面拡大層32を成長させていくと、傾斜界面拡大層32のc面30cは頂面30uから少なくとも一度消失し、傾斜界面拡大層32の最表面(最上面)は傾斜界面30iのみで構成される。
【0087】
このように、傾斜界面拡大層32の頂面30uにc面以外の傾斜界面30iで構成される複数の凹部30pを生じさせ、c面30cを消失させることで、図4(c)に示すように、該傾斜界面拡大層32の表面に、複数の谷部30vおよび複数の頂部30tを形成する。複数の谷部30vのそれぞれは、傾斜界面拡大層32の表面のうち下に凸の変曲点であって、c面以外の傾斜界面30iのそれぞれが発生した位置の上方に形成される。一方で、複数の頂部30tのそれぞれは、傾斜界面拡大層320の表面のうち上に凸の変曲点であって、互いに相反する方向を向いて拡大した一対の傾斜界面30iを挟んでc面30cが(最後に)消失した位置またはその上方に形成される。谷部30vおよび頂部30tは、第2下地層6の主面6sに沿った方向に交互に形成される。
【0088】
本実施形態では、上述のように、第2下地層形成工程S150において、下地基板1の主面1s上に、鏡面化した主面6sを有する第2下地層6を成長させた。さらに、上述のように、傾斜界面拡大層32が成長する初期段階において、第2下地層6の主面6s上に、傾斜界面30iを生じさせずにc面30cを成長面として傾斜界面拡大層32を所定の厚さで成長させた。その後、当該傾斜界面拡大工程S220において、傾斜界面拡大層32の表面に、c面以外の傾斜界面30iを生じさせる。これにより、複数の谷部30vは、第2下地層6の主面6sから上方に離れた位置に形成されることとなる。
【0089】
以上のような傾斜界面拡大層32の成長過程により、転位は、以下のように屈曲して伝播する。具体的には、図4(c)に示すように、第2下地層6内においてc軸に沿った方向に延在していた複数の転位は、第2下地層6から傾斜界面拡大層32のc軸に沿った方向に向けて伝播する。傾斜界面拡大層32のうちc面30cを成長面として成長した領域では、傾斜界面拡大層32のc軸に沿った方向に向けて転位が伝播する。しかしながら、傾斜界面拡大層32において、転位が露出した成長界面がc面30cから傾斜界面30iに変化すると、当該転位は、傾斜界面30iに対して略垂直な方向に向けて屈曲して伝播する。すなわち、転位は、c軸に対して傾斜した方向に屈曲して伝播する。これにより、傾斜界面拡大工程S220以降の工程において、一対の頂部30t間での略中央の上方において、局所的に転位が集められることとなる。その結果、後述の傾斜界面維持層34の表面における転位密度を低減させることができる。
【0090】
このとき、本実施形態では、第2下地層6の主面6sに垂直な任意の断面を見たときに、複数の谷部30vのうちの1つを挟んで複数の頂部30tのうちで最も接近する一対の頂部30t同士が、第2下地層6の主面6sに沿った方向に離間した平均距離(「最近接頂部間平均距離」ともいう)Lを、例えば、100μm超とする。傾斜界面拡大工程S220の初期段階から第2下地層6上に微細な六角錐状の結晶核を生じさせる場合などのように、最近接頂部間平均距離Lが100μm以下であると、傾斜界面拡大工程S220以降の工程において、転位が屈曲して伝播する距離が短くなる。このため、傾斜界面拡大層32のうち一対の頂部30t間の略中央の上方で充分に転位が集められない。その結果、後述の傾斜界面維持層34の表面における転位密度が充分に低減されない可能性がある。これに対し、本実施形態では、最近接頂部間平均距離Lを100μm超とすることで、傾斜界面拡大工程S220以降の工程において、転位が屈曲して伝播する距離を、少なくとも50μm超、確保することができる。これにより、傾斜界面拡大層32のうち一対の頂部30t間の略中央の上方に、充分に転位を集めることができる。その結果、後述の傾斜界面維持層34の表面における転位密度を充分に低減させることができる。
【0091】
本実施形態では、例えば、3次元成長層30において、最近接頂部間平均距離が100μm以下となる部分が無いことが好ましい。言い換えれば、第2下地層6の主面6sに垂直な任意の断面を見たときに、3次元成長層30の表面全体に亘って、最近接頂部間平均距離が100μm超となっていることが好ましい。これにより、後述の傾斜界面維持層34の表面全体に亘って、転位密度を略均一に低減させることができる。
【0092】
一方で、本実施形態では、最近接頂部間平均距離Lを800μm未満とする。最近接頂部間平均距離Lが800μm以上であると、面内全体に亘って転位を集めるために、c面30cを面内全体に亘って消失させるのに時間がかかる。このため、基板50の生産性が低下する。また、最近接頂部間平均距離Lが800μm以上であると、傾斜界面拡大層32の谷部30vから頂部30tまでの高さが過剰に高くなることがある。結晶表面の谷部30vは、埋め込み成長等の対策を施さない限り、基板50をスライスしたときの貫通ピットの原因となる。このため、基板50の取得歩留まりが低下する可能性がある。これに対し、本実施形態では、最近接頂部間平均距離Lを800μm未満とすることで、c面30cを面内全体に亘って消失させる時間を短くすることができる。これにより、基板50の生産性を向上させることができる。また、最近接頂部間平均距離Lを800μm未満とすることで、傾斜界面拡大層32の谷部30vから頂部30tまでの高さを低くすることができる。これにより、基板50をスライスしたときに谷部30vに起因した貫通ピットが発生して良品基板が取得できなくなる領域を極力少なくすることができる。その結果、基板50の取得歩留まりを向上させることができる。
【0093】
また、このとき、傾斜界面拡大層320には、成長過程での成長面の違いに基づいて、c面30cを成長面として成長したc面成長領域(第1c面成長領域)60と、c面以外の傾斜界面30iを成長面として成長した傾斜界面成長領域70(図中灰色部)とが形成される。
【0094】
また、このとき、c面成長領域60では、傾斜界面30iが発生した位置に谷部60aを形成し、c面30cが消失した位置に山部60bを形成する。また、c面成長領域60では、山部60bを挟んだ両側に、c面30cと傾斜界面30iとの交点の軌跡として、一対の傾斜部60iを形成する。
【0095】
また、このとき、第1成長条件が式(1)を満たすことで、隣接する2つの谷部60aのそれぞれの中心を通る断面を見たときの一対の傾斜部60iのなす角度βを、例えば、70°以下とする。
【0096】
これらの領域については、詳細を後述する。
【0097】
(S240:傾斜界面維持工程)
傾斜界面拡大層32の表面からc面30cを消失させた後、傾斜界面維持工程S240での成長条件を、傾斜界面拡大工程S220と同様に、上述の第1成長条件で維持する。
【0098】
これにより、図6(a)に示すように、傾斜界面成長領域70が沿面断面の80%以上の面積を占める状態を維持しつつ、所定の厚さに亘って3次元成長層30の成長を継続させる。その結果、傾斜界面拡大層32上に傾斜界面維持層34が形成される。
【0099】
ここで、3次元成長工程S200において、上述のように転位の伝播方向を確実に曲げて転位密度を低減させるためには、3次元成長層30の任意の位置で成長界面の履歴を見たときに、少なくとも一度はc面30cが消失していることが重要となる。このため、3次元成長工程S200の早い段階(例えば上述の傾斜界面拡大工程S220)で、少なくとも一度はc面30cが消失することが望ましい。
【0100】
しかしながら、傾斜界面維持工程S240では、c面30cを少なくとも一度消失させた後であれば、傾斜界面維持層34の表面の一部においてc面30cが再度出現してもよい。ただし、第2下地層6の主面6sに沿った沿面断面(以下、単に「沿面断面」ともいう)において傾斜界面成長領域70の占める面積割合が80%以上となるように、傾斜界面維持層34の表面において、主に傾斜界面30iを露出させることが好ましい。沿面断面において傾斜界面成長領域70の占める面積割合が80%未満となると、成長中にクラックが発生する可能性がある。また、スライスおよび研磨などの加工を施すことが困難となる可能性がある。これに対し、本実施形態では、沿面断面において傾斜界面成長領域70の占める面積割合を80%以上とすることで、成長中のクラックの発生を抑制することができ、また、スライスおよび研磨などの加工を容易に施すことができる。
【0101】
なお、沿面断面において傾斜界面成長領域70の占める面積割合は、高ければ高いほどよく、100%であることが好ましい。
【0102】
しかしながら、上述のように、3次元成長工程200では、例えば、傾斜界面維持層34の表面の一部においてc面30cが再度出現し、沿面断面において傾斜界面成長領域70の占める面積割合が100%未満となることがある。この場合、3次元成長層30の一部に、傾斜界面成長領域70とc面成長領域(第2c面成長領域)80とが混在する。傾斜界面成長領域70では、n型不純物としての酸素を相対的に取り込みやすいのに対して、混在したc面成長領域80では、酸素の取り込みが相対的に抑制される。このため、c面成長領域80中における酸素濃度が傾斜界面成長領域70中の酸素濃度よりも低くなり、c面成長領域80中のキャリア濃度が傾斜界面成長領域70中のキャリア濃度よりも低くなる。その結果、傾斜界面成長領域70とc面成長領域80とが混在した領域からスライスした基板50では、キャリア濃度の面内ばらつきが生じてしまう可能性がある。
【0103】
そこで、本実施形態の3次元成長工程S200では、例えば、傾斜界面成長領域70中に取り込まれる酸素の濃度以上の濃度で、導電型不純物を添加することが好ましい。導電型不純物としては、例えば、n型不純物としてのSiまたはGeのうち少なくともいずれかである。例えば、3次元成長工程S200のうちの少なくとも傾斜界面維持工程S240において基板50のスライス予定位置に傾斜界面維持層34を成長しているときに、上述の濃度で導電型不純物を添加すればよい。なお、3次元成長層30の全体に、上述の濃度で導電型不純物を添加してもよい。このような導電型不純物の添加により、c面成長領域中のキャリア濃度が相対的に低くなることを抑制することができる。その結果、基板50において、キャリア濃度の面内ばらつきを抑制することができる。
【0104】
また、このとき、傾斜界面維持工程S240において、第1成長条件下で、主に傾斜界面30iを成長面として傾斜界面維持層34を成長させることで、上述のように、傾斜界面拡大層32において傾斜界面30iが露出した位置で、c軸に対して傾斜した方向に向けて屈曲して伝播した転位は、傾斜界面維持層34においても同じ方向に伝播し続ける。これにより、傾斜界面維持層34のうち、隣接する傾斜界面30iの会合部で、局所的に転位が集められる。傾斜界面維持層34において隣接する傾斜界面30iの会合部に集められた複数の転位のうち、互いに相反するバーガースベクトルを有する転位同士は、会合時に消失する。また、隣接する傾斜界面30iの会合部に集められた複数の転位の一部は、ループを形成し、c軸に沿った方向(すなわち、傾斜界面維持層34の表面側)に伝播することが抑制される。なお、傾斜界面維持層34において隣接する傾斜界面30iの会合部に集められた複数の転位のうちの他部は、その伝播方向をc軸に対して傾斜した方向からc軸に沿った方向に再度変化させ、傾斜界面維持層34の表面側まで伝播する。このように複数の転位の一部を消失させたり、複数の転位の一部をc面拡大層42の表面側に伝播することを抑制したりすることで、傾斜界面維持層34の表面における転位密度を低減することができる。また、転位を局所的に集めることで、傾斜界面維持層34のうち、転位がc軸に対して傾斜した方向に向けて伝播した部分の上方に、低転位密度領域を形成することができる。
【0105】
また、このとき、3次元成長工程S200において、下地構造体10上に、傾斜界面拡大層32および傾斜界面維持層34を有する3次元成長層30を3次元成長させることで、下地構造体10の第2下地層6に蓄積した引張応力を3次元成長層30により相殺する応力相殺効果(応力緩和効果)を得ることができる。
【0106】
3次元成長層30による応力相殺効果が得られる理由の1つとして、例えば、以下のような理由が考えられる。
【0107】
3次元成長工程S200において形成される傾斜界面成長領域70では、c面成長領域60と比較して、酸素を取り込みやすい。このため、傾斜界面成長領域70中の酸素濃度は、上述のc面成長領域60中の酸素濃度よりも高くなる。つまり、傾斜界面成長領域70は、高酸素濃度領域として考えることができる。
【0108】
このように、高酸素濃度領域中に酸素を取り込むことで、高酸素濃度領域の格子定数を、高酸素濃度領域以外の他の領域の格子定数よりも大きくすることができる(参考:Chris G. Van de Walle, Physical Review B vol.68, 165209 (2003))。第2下地層6、または3次元成長層30のうちc面30cを成長面として成長したc面成長領域60には、第2下地層6のc面の湾曲によって、c面の曲率中心に向かって集中する応力が加わっている。これに対して、高酸素濃度領域の格子定数を相対的に大きくすることで、高酸素濃度領域には、c面30cを沿面方向の外側に広げる応力を生じさせることができる。これにより、高酸素濃度領域よりも下側でc面30cの曲率中心に向かって集中する応力と、高酸素濃度領域のc面30cを沿面方向の外側に広げる応力とを相殺させることができる。
【0109】
このように3次元成長層30による応力相殺効果を得ることで、第2下地層6中に引張応力が蓄積した状態で3次元成長層30を厚く成長させたとしても、3次元成長層30のうちの下地構造体10側と表面側とで応力差が生じることを抑制することができる。これにより、3次元成長層30にクラック等が発生することを抑制することができる。
【0110】
また、このとき、上述の応力相殺効果を得ることにより、クラックを発生させることなく、傾斜界面維持層34の厚さを厚くすることができる。具体的には、傾斜界面維持層34の厚さを、例えば、傾斜界面拡大層32の谷部30vから頂部30tまでの凹凸高さ分に、300μm以上10mm以下を加算した厚さとする。凹凸高さ分に加算する傾斜界面維持層34の厚さを300μm以上とすることで、後述のスライス工程S400において、傾斜界面維持層34から少なくとも1枚以上の基板50をスライスすることができる。一方で、凹凸高さ分に加算する傾斜界面維持層34の厚さを10mmとすることで、最終的な厚さを650μmとし、700μm厚の基板50を傾斜界面維持層34からスライスする場合に、カーフロス200μm程度を考慮しても、少なくとも10枚の基板50を得ることができる。
【0111】
また、このとき、上述の応力相殺効果を得ることにより、傾斜界面維持層34の厚さを厚くするにつれて、凹の球面状に湾曲した傾斜界面維持層34のc面を、徐々に平坦にしていくことができる。すなわち、傾斜界面維持層34のc面の曲率半径を徐々に大きくすることができる。
【0112】
また、このとき、3次元成長層30の高酸素濃度領域の格子定数を相対的に大きくし、c面30cを徐々に平坦にしていきながら、3次元成長層30を成長させることで、3次元成長層30のc面30cの平坦化に伴って、3次元成長層30の下の第2下地層6に対してc面を平坦とする応力を与えることができる。これにより、as-grownの状態で主面6s側に凹に湾曲していた第2下地層6全体を、徐々に平坦に矯正していくことができる。
【0113】
また、このとき、傾斜界面維持層34の成長の最後において、主に傾斜界面30iを成長面とした成長が維持されていれば、傾斜界面維持層34の表面において、第2下地層6の主面6sに対する傾斜界面30iがなす傾斜角度を必ずしも維持しなくてもよい。例えば、傾斜界面維持層34の成長の最後において、傾斜界面維持層34の凹部30pの少なくとも一部を埋め込んでもよい。この場合、傾斜界面30iの傾斜角度を徐々に緩やかにし、{11-2m}面の指数mを徐々に大きくしていってもよい。
【0114】
以上の3次元成長工程S200により、傾斜界面拡大層32および傾斜界面維持層34を有する3次元成長層30が形成される。
【0115】
(S300:剥離工程)
3次元成長層30の成長が終了した後、図6(b)に示すように、第2下地層6および3次元成長層30を有する積層構造体90を、下地基板1から剥離させる。
【0116】
具体的には、気相成長装置のチャンバ内を冷却する過程において、上述の積層構造体90と下地基板1との間に、これらの線膨張係数差によって、応力を発生させる。例えば、サファイアからなる下地基板1は、主にGaNからなる積層構造体90よりも大きい線膨張係数を有するため、下地基板1を積層構造体90に対して収縮させる応力を発生させる。
【0117】
これにより、金属窒化層5と第2下地層6との間に形成された平らな空隙を起因として、上述の積層構造体90を下地基板1から自然に剥離させる。その結果、積層構造体90にクラックを生じさせることなく、積層構造体90を下地基板1から剥離させることができる。
【0118】
このとき、上述のように、3次元成長層30の成長過程で、3次元成長層30のc面30cの平坦化に倣って、第2下地層6全体を徐々に平坦にしたことで、下地基板1から剥離した積層構造体90において、第2下地層6の裏面を平坦にすることができる。
【0119】
以上の工程により、本実施形態の積層構造体90が得られる。
【0120】
なお、以上の第2下地層形成工程S150から剥離工程S300までの工程を、下地基板1を大気暴露することなく、同一の気相成長装置内で連続的に行う。これにより、第2下地層6と3次元成長層30との間の界面に、意図しない高酸素濃度領域(傾斜界面成長領域70よりも過剰に高い酸素濃度を有する領域)が形成されることを抑制することができる。
【0121】
(S400:スライス工程)
次に、図7に示すように、例えば、第2下地層6の主面6sと略平行な切断面に沿ってワイヤーソーにより3次元成長層30をスライスする。これにより、アズスライス基板としての窒化物半導体基板50(基板50ともいう)を少なくとも1つ形成する。このとき、基板50の厚さを、例えば、300μm以上700μm以下とする。
【0122】
このとき、例えば、傾斜界面維持層34をスライスすることで、基板50を形成する。また、例えば、第2下地層6から継続するc面成長領域60が最後に消失した位置(すなわちc面成長領域60の山部60b)から上方に離れた位置で、傾斜界面維持層34をスライスする。これにより、転位が低減された基板50を安定的に得ることができる。
【0123】
(S500:研磨工程)
次に、研磨装置により基板50の両面を研磨する。なお、このとき、最終的な基板50の厚さを、例えば、250μm以上650μm以下とする。
【0124】
以上の工程S100~S500により、本実施形態に係る基板50が製造される。
【0125】
(半導体積層物の作製工程および半導体装置の作製工程)
基板50が製造されたら、例えば、基板50上にIII族窒化物半導体からなる半導体機能層をエピタキシャル成長させ、半導体積層物を作製する。半導体積層物を作製したら、半導体積層物を用いて電極等を形成し、半導体積層物をダイシングし、所定の大きさのチップを切り出す。これにより、半導体装置を作製する。
【0126】
(2)積層構造体
次に、図6(b)を用い、本実施形態に係る積層構造体90について説明する。
【0127】
本実施形態の積層構造体90は、例えば、第2下地層6と、3次元成長層30と、を有している。なお、第2下地層6は、単に「下地層」と言い換えることができる。
【0128】
第2下地層6は、例えば、III族窒化物の単結晶からなっている。第2下地層6は、例えば、鏡面化された主面6s(の痕跡)を有している。第2下地層6の主面6sに対して最も近い低指数の結晶面は、例えば、c面である。
【0129】
第2下地層6は、例えば、第2下地層形成工程S150での成長面の違いに基づいて、主面6sと反対の裏面側に、下地側傾斜界面成長領域(下地側高酸素濃度領域)(不図示)を有している。下地側傾斜界面成長領域は、第2下地層6の初期核が横方向成長したときに、傾斜界面を成長面として成長した領域である。下地側傾斜界面成長領域は、例えば、後述の傾斜界面成長領域70の酸素濃度と同等の酸素濃度を有している。
【0130】
3次元成長層30は、例えば、第2下地層6上に成長している。
【0131】
3次元成長層30は、例えば、III族窒化物半導体の単結晶の頂面30uに、c面以外の傾斜界面30iで構成される複数の凹部30pを生じさせ、c面30cを消失させることで形成される複数の谷部30vおよび複数の頂部30tを有している。第2下地層6の主面6sに垂直な任意の断面を見たときに、最近接頂部間平均距離は、例えば、100μm超である。
【0132】
また、3次元成長層30は、例えば、成長過程での成長面の違いに基づいて、c面成長領域(第1低酸素濃度領域)60と、傾斜界面成長領域(高酸素濃度領域)70と、を有している。
【0133】
c面成長領域60は、c面30cを成長面として成長した領域である。c面成長領域60では、上述のように、傾斜界面成長領域70と比較して、酸素の取り込みが抑制される。このため、c面成長領域60中の酸素濃度は、傾斜界面成長領域70中の酸素濃度よりも低くなる。具体的には、c面成長領域60中の酸素濃度は、例えば、5×1016cm-3以下、好ましくは3×1016cm-3以下である。
【0134】
c面成長領域60は、第2下地層6の主面6s上に設けられている。
【0135】
c面成長領域60は、例えば、断面視で、複数の谷部60aおよび複数の山部60bを有する。なお、ここでいう谷部60aおよび山部60bのそれぞれは、積層構造体90の断面を蛍光顕微鏡等で観察したときに発光強度差に基づいて観察される形状の一部分を意味し、3次元成長層30の成長途中で生じる最表面の形状の一部分を意味するものではない。複数の谷部60aのそれぞれは、断面視で、c面成長領域60のうち下に凸の変曲点であって、傾斜界面30iが発生した位置に形成される。複数の谷部60aのうち少なくとも1つは、第2下地層6の主面6sから上方に離れた位置に設けられている。一方で、複数の山部60bのそれぞれは、断面視で、c面成長領域60のうち上に凸の変曲点であって、互いに相反する方向を向いて拡大した一対の傾斜界面30iを挟んでc面30cが(最後に)消失した位置に形成される。谷部60aおよび山部60bは、第2下地層6の主面6sに沿った方向に交互に形成される。
【0136】
第2下地層6の主面6sに垂直な任意の断面を見たときに、3次元成長層30の成長過程での最近接頂部間平均距離は、c面成長領域60の山部60b間の平均距離に相当する。c面成長領域60の山部60b間の平均距離は、例えば、100μm超である。
【0137】
c面成長領域60は、断面視で、複数の山部60bのうちの1つを挟んだ両側に、c面30cと傾斜界面30iとの交点の軌跡として設けられる一対の傾斜部60iを有している。なお、ここでいう傾斜部60iは、積層構造体90の断面を蛍光顕微鏡等で観察したときに発光強度差に基づいて観察される形状の一部分を意味し、3次元成長層30の成長途中で生じる最表面の傾斜界面30iを意味するものではない。
【0138】
隣接する2つの谷部60aのそれぞれの中心を通る断面を見たときの一対の傾斜部60iのなす角度βは、例えば、70°以下、好ましくは、20°以上65°以下である。一対の傾斜部60iのなす角度βが70°以下であることは、第1成長条件において、3次元成長層30のうちのc面30cに対して最も傾斜した傾斜界面30iの成長レートGに対する、3次元成長層30のうちのc面30cの成長レートGc1の比率Gc1/Gが高かったことを意味する。これにより、c面以外の傾斜界面30iを容易に生じさせることができる。その結果、傾斜界面30iが露出した位置で、転位を容易に屈曲させることが可能となる。また、一対の傾斜部60iのなす角度βを70°以下とすることで、第2下地層6の上方に、複数の谷部30vおよび複数の頂部30tを容易に生じさせることができる。さらに、一対の傾斜部60iのなす角度βを65°以下とすることで、c面以外の傾斜界面30iをさらに容易に生じさせることができ、第2下地層6の上方に、複数の谷部30vおよび複数の頂部30tをさらに容易に生じさせることができる。なお、一対の傾斜部60iのなす角度βを20°以上とすることで、3次元成長層30の谷部30vから頂部30tまでの高さが高くなることを抑制することができる。これにより、基板50をスライスしたときに谷部30vに起因した貫通ピットが発生して良品基板が取得できなくなる領域を極力少なくすることができる。
【0139】
一方で、傾斜界面成長領域70は、c面以外の傾斜界面30iを成長面として成長した領域である。傾斜界面成長領域70では、c面成長領域60と比較して、酸素を取り込みやすい。このため、傾斜界面成長領域70中の酸素濃度は、c面成長領域60中の酸素濃度よりも高くなる。なお、傾斜界面成長領域70中に取り込まれる酸素は、例えば、気相成長装置内に意図せずに混入する酸素、または気相成長装置を構成する部材(石英部材等)から放出される酸素等である。具体的には、傾斜界面成長領域70中の酸素濃度は、例えば、9×1017cm-3以上5×1019cm-3以下である。
【0140】
傾斜界面成長領域70は、c面成長領域60の上に設けられている。傾斜界面成長領域70の下面は、例えば、c面成長領域60の形状に倣って形成される。
【0141】
傾斜界面成長領域70の少なくとも一部は、第2下地層6の主面6sに沿って連続して設けられている。すなわち、3次元成長層30を第2下地層6の主面6sに沿って切った沿面断面を複数見たときに、c面30cを成長面として成長したc面成長領域を含まない断面が、3次元成長層30の厚さ方向の少なくとも一部に存在していることが望ましい。
【0142】
主に傾斜界面30iを成長面として傾斜界面維持層34を継続的に成長させたことで、3次元成長層30を第2下地層6の主面6sに沿って切った沿面断面において傾斜界面成長領域70の占める面積割合は、例えば、80%以上である。
【0143】
なお、上述のように、所定の沿面断面において、傾斜界面成長領域70の占める面積割合が100%未満となることがある。すなわち、傾斜界面成長領域70とc面成長領域(第2低酸素濃度領域)80とが混在した沿面断面が生じることがある。c面成長領域80は、例えば、上述のc面成長領域60の酸素濃度と同等の酸素濃度を有している。
【0144】
3次元成長層30の成長過程で、c面成長領域80が発生したり消失したりしているため、平面視でのc面成長領域80の大きさは、第2下地層6から3次元成長層30の表面に向けてランダムに変化している。
【0145】
また、3次元成長層30の成長過程で、c面30cが少なくとも一度消失しているため、c面成長領域80は、第2下地層6から3次元成長層30の表面(最上面)まで連続していない。
【0146】
また、本実施形態では、3次元成長層30の成長過程で、c面以外の傾斜界面30iが露出した位置で、該傾斜界面30iに対して略垂直な方向に向けて、転位が屈曲して伝播することで、傾斜界面維持層34では、複数の転位の一部が消失したり、複数の転位の一部が傾斜界面維持層34の表面側に伝播することが抑制されたりしている。これにより、傾斜界面維持層34の表面における転位密度は、第2下地層6の主面6sにおける転位密度よりも低減されている。
【0147】
その他、本実施形態では、3次元成長層30の表面全体は+c面に配向して構成されており、3次元成長層30は、極性反転区(インバージョンドメイン)を含んでいない。この点において、本実施形態の積層構造体90は、いわゆるDEEP(Dislocation Elimination by the Epitaxial-growth with inverse-pyramidal Pits)法により形成された積層構造体とは異なり、すなわち、ピットの中心に位置するコアに極性反転区を含む積層構造体とは異なっている。
【0148】
(3)窒化物半導体基板(窒化物半導体自立基板、窒化物結晶基板)
次に、図9および10を用い、本実施形態に係る窒化物半導体基板50について説明する。図9(a)は、本実施形態に係る窒化物半導体基板を示す概略上面図であり、(b)は、本実施形態に係る窒化物半導体基板のm軸に沿った概略断面図であり、(c)は、本実施形態に係る窒化物半導体基板のa軸に沿った概略断面図である。図10は、本実施形態に係る窒化物半導体基板の主面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したカソードルミネッセンス像を示す模式図である。
【0149】
本実施形態において、上述の製造方法によって得られる基板50は、例えば、III族窒化物半導体の単結晶からなる自立基板である。本実施形態では、基板50は、例えば、GaN自立基板である。
【0150】
基板50の直径は、例えば、2インチ以上である。また、基板50の厚さは、例えば、300μm以上1mm以下である。
【0151】
基板50は、例えば、エピタキシャル成長面となる主面50sを有している。本実施形態において、主面50sに対して最も近い低指数の結晶面は、例えば、c面50cである。
【0152】
なお、基板50の主面50sは、例えば、鏡面化されており、基板50の主面50sの二乗平均粗さRMSは、例えば、1nm未満である。
【0153】
また、本実施形態では、基板50は、例えば、上述のように、極性反転区(インバージョンドメイン)を含んでいない。
【0154】
(不純物濃度)
次に、図10を用い、基板50の主面50s中の不純物濃度に関する特徴について説明する。
【0155】
図10に示すように、基板50は、例えば、高酸素濃度領域70を有している。高酸素濃度領域70は、例えば、図6(a)で示したような傾斜界面30iを成長面として成長した傾斜界面成長領域70である。なお、これらについて同じ符号を用いる。高酸素濃度領域70中の酸素濃度は、上述のように、例えば、9×1017cm-3以上5×1019cm-3以下である。
【0156】
高酸素濃度領域70は上述のように高濃度の酸素を含んでいるため、少なくともIII族窒化物半導体のバンドギャップエネルギー付近における発光の少なくとも一部の波長を含む波長範囲で撮像したときのカソードルミネッセンス像(CL像)(または多光子励起顕微鏡像(2PPL像))では、高酸素濃度領域70は相対的に明るく観察される。
【0157】
高酸素濃度領域70の平面視での形状は、例えば、3次元成長層30の成長過程で生じた凹部30pの平面視での形状を反映し、略六角形の少なくとも一部を有している。高酸素濃度領域70の平面視での形状のうち、1つの略六角形は、他の略六角形と交差していてもよい。なお、2PPL像では、3次元成長層30の成長過程で生じた凹部30pの稜線の痕跡が、高酸素濃度領域70内に見えることがある。
【0158】
本実施形態では、主面50sにおいて高酸素濃度領域70が占める面積割合は、例えば、80%以上である。言い換えれば、主面50sにおいて、20%以下の面積割合で、低酸素濃度領域80が存在していてもよい。
【0159】
低酸素濃度領域80は、例えば、図6(a)で示した傾斜界面維持層34においてc面30cが再度出現したc面成長領域80である。なお、これらについて同じ符号を用いる。低酸素濃度領域80中の酸素濃度は、上述のように、例えば、5×1016cm-3以下、好ましくは3×1016cm-3以下である。
【0160】
平面視での低酸素濃度領域80の大きさは、例えば、基板50の主面50sの反対側の裏面から主面50sに向けてランダムに変化している。
【0161】
低酸素濃度領域80は、例えば、基板50の主面50sの反対側の裏面から主面50sに向けて連続的に繋がっていない。
【0162】
一方で、主面50sにおいて高酸素濃度領域70が占める面積割合は、100%であってもよく、すなわち、基板50は低酸素濃度領域80を有していなくてもよい。
【0163】
なお、主面50sにおいて高酸素濃度領域70が占める面積割合に基づいて、基板50の主面50s全体を平均した酸素濃度は、例えば、7×1017cm-3以上5×1019cm-3以下である。
【0164】
本実施形態において、上述の製造方法によって得られる基板50は、例えば、n型である。本実施形態の基板50は、n型不純物として、例えば、上述の酸素(O)だけでなく、SiおよびGeの少なくともいずれかも含んでいる。基板50中の合計のn型不純物濃度は、例えば、1.0×1018cm-3以上1.0×1020cm-3以下である。
【0165】
本実施形態の基板50では、SiおよびGeの少なくともいずれかだけでなく、Oも活性化している。このため、基板50中の自由電子濃度は、例えば、基板50中のO、SiおよびGeの合計の濃度と同等となっている。
【0166】
なお、本実施形態において、上述の製造方法によって得られる基板50中のn型不純物(導電型不純物)以外の不純物の濃度は低くなっている。
【0167】
例えば、上述の製造方法によって得られる基板50中の水素濃度は、フラックス法またはアモノサーマル法などによって得られる基板よりも低くなっている。
【0168】
具体的には、基板50中の水素濃度は、例えば、1×1017cm-3未満、好ましくは5×1016cm-3以下である。
【0169】
(光学特性)
次に、基板50の光学特性について説明する。
【0170】
本実施形態の基板50は上述のように高酸素濃度領域70を有している。しかしながら、可視光域における基板50の吸収係数は、例えば、VAS法で得られる高品質な窒化物半導体基板のそれと同等となっている。
【0171】
具体的には、本実施形態の基板50では、500nm以上700nm以下の波長範囲における吸収係数は、例えば、0.15cm-1以下である。なお、当該波長範囲における基板50の吸収係数は、例えば、従来のVAS法で得られる窒化物半導体基板の吸収係数よりも低くなることがある。
【0172】
また、本実施形態で製造される基板50は、結晶歪みが小さく、また、導電型不純物以外の不純物(例えば、n型不純物を補償する不純物等)をほとんど含んでいない状態となっている。これにより、本実施形態の基板50では、以下のように、自由キャリア吸収に基づく赤外域の吸収係数を、自由キャリア濃度および波長の関数として近似することができる。
【0173】
具体的には、波長をλ(μm)、27℃における基板50の吸収係数をα(cm-1)、基板50中の自由電子濃度をn(cm-3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、本実施形態の基板50では、少なくとも1μm以上2.5μm以下の波長範囲における吸収係数αが、最小二乗法で以下の式(3)により近似される。
α=nKλ ・・・(3)
(ただし、1.5×10-19≦K≦6.0×10-19、a=3)
【0174】
なお、波長2μmにおいて、式(3)から求められる吸収係数αに対する、実測される吸収係数の誤差は、例えば、±0.1α以内、好ましくは±0.01α以内である。
【0175】
本実施形態の基板50では、上述のように、高酸素濃度領域70と低酸素濃度領域80とが混在することがある。しかしながら、この場合であっても、高酸素濃度領域70と低酸素濃度領域80とは、基板50の主面50s内で均等にランダムに分散している。低酸素濃度領域80の平面視での大きさは、厚さ方向にランダムに変化している。また、低酸素濃度領域80は、厚さ方向に連続していない。このため、分光測定装置において、低酸素濃度領域80の平面視での大きさよりも充分に大きい所定の光照射サイズで、基板50の光学特性を測定したときには、基板50中における酸素濃度の面内分布の影響および酸素濃度の厚さ方向分布の影響を平均化した情報が得られる。したがって、本実施形態の基板50では、透過率および反射率の面内ばらつきは小さくなる。
【0176】
具体的には、基板50の主面50s内の異なる複数点で、500nm以上700nm以下の波長範囲の光の透過率を測定したときに、500nm以上700nm以下の波長範囲内のそれぞれの波長における透過率の、主面50s内のばらつきは、例えば、±0.5%以内、好ましくは±0.3%以内である。
【0177】
ただし、透過率測定の条件としては、光照射サイズは、例えば、3mm×3mmとする。また、主面50sの法線に対する光の入射角は、0°とする。また、透過率測定におけるリファレンスは無しとし、すなわち、光が全透過する場合に、透過率が100%とする。測定点は、例えば、3点以上とし、5点以上とすることが好ましい。
【0178】
また、基板50の主面50s内の異なる複数点で、500nm以上700nm以下の波長範囲の光の反射率を測定したときに、500nm以上700nm以下の波長範囲内のそれぞれの波長における反射率の、主面50s内のばらつきは、例えば、±0.5%以内、好ましくは±0.3%以内である。
【0179】
ただし、反射率測定の条件としては、光照射サイズは、例えば、10mm×5mmとする。また、主面50sの法線に対する光の入射角は、8°とする。また、反射率測定におけるリファレンスはAlミラーとする。測定点は、例えば、3点以上とし、5点以上とすることが好ましい。
【0180】
なお、上述の吸収係数、透過率および反射率については、実施例において詳細を後述する。
【0181】
(暗点)
次に、図10を用い、本実施形態の基板50の主面50sにおける暗点について説明する。なお、ここでいう「暗点」とは、多光子励起顕微鏡における主面50sの観察像や、主面50sのカソードルミネッセンス像などにおいて観察される発光強度が低い点のことを意味し、転位だけでなく、異物または点欠陥を起因とした非発光中心も含んでいる。なお、「多光子励起顕微鏡」とは、二光子励起蛍光顕微鏡と呼ばれることもある。
【0182】
本実施形態では、高純度のGaN単結晶が得られるVAS法により作製された下地構造体10を用いて基板50が製造されているため、基板50中に、異物または点欠陥を起因とした非発光中心が少ない。
【0183】
したがって、図10に示した基板50の主面50sのCL像(または2PPL像)において、暗点の95%以上、好ましくは99%以上は、異物または点欠陥を起因とした非発光中心ではなく、転位(貫通転位)dとなる。
【0184】
また、本実施形態では、上述の製造方法により、傾斜界面維持層34において転位が局所的に集められ、傾斜界面維持層34の表面における転位密度が、第2下地層6の主面6sにおける転位密度よりも低減されている。これにより、傾斜界面維持層34をスライスして形成される基板50の主面50sにおいても、転位密度が低減されている。
【0185】
また、本実施形態では、図10に示すように、上述の製造方法により、高酸素濃度領域70の略六角形の中心には、局所的に転位dが集中している。以下、高酸素濃度領域70内で転位dが相対的に集中した領域を「転位集中領域dca」ともいう。転位集中領域dcaの外側には、低転位密度領域が広く形成されている。
【0186】
また、本実施形態では、上述の製造方法により、パターン加工を施さない状態の下地構造体10を用いて、3次元成長工程S200を行ったことで、3次元成長層30をスライスして形成される基板50の主面50sにおいて、下地構造体10のパターン加工に起因して規則的に発生する高転位密度領域が形成されていない。言い換えれば、本実施形態の基板50では、転位集中領域dcaが存在したとしても、転位集中領域dcaはランダムに配置される。また、本実施形態の基板50の転位集中領域dcaでの転位密度は、下地構造体10にパターン加工を施した場合のそれよりも低くなっている。
【0187】
具体的には、本実施形態では、多光子励起顕微鏡により視野250μm角で基板50の主面50sを観察して暗点密度から転位密度を求めたときに、転位密度が3×10cm-2を超える領域が存在しない。また、転位密度が1×10cm-2未満である領域が主面50sの80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上存在する。なお、カソードルミネッセンス像の観察によっても、多光子励起顕微鏡と同様の結果が得られる。
【0188】
なお、本実施形態の製造方法を用いた場合では、転位密度が1×10cm-2未満である領域の割合の上限値は、例えば、主面50sの99%となることがある。
【0189】
言い換えれば、本実施形態では、基板50の主面50s全体を平均した転位密度は、例えば、1×10cm-2未満であり、好ましくは、5.5×10cm-2未満であり、より好ましくは3×10cm-2以下である。
【0190】
また、本実施形態の基板50の主面50sは、例えば、上述の3次元成長工程S200での最近接頂部間平均距離Lに基づいて、小さくとも50μm角の無転位領域を含んでいる。また、50μm角の無転位領域は、例えば、上述の転位集中領域dcaを除く基板50の主面50s全体に亘って散在している。また、本実施形態の基板50の主面50sは、例えば、重ならない50μm角の無転位領域を100個/cm以上、好ましくは800個/cm以上、より好ましくは1600個/cm以上の密度で有している。重ならない50μm角の無転位領域の密度が1600個/cm以上である場合は、例えば、主面50sが250μm角の任意の視野内に少なくとも1つの50μm角の無転位領域を有する場合に相当する。
【0191】
なお、重ならない50μm角の無転位領域の密度の上限値は、例えば、30000個/cm程度である。
【0192】
参考までに、転位を集める特段の工程を行わない従来の製造方法で得られる基板では、無転位領域の大きさが50μm角よりも小さいか、或いは、50μm角の無転位領域の密度は100個/cmよりも低くなる。また、従来のELO法により得られる基板においても、無転位領域の大きさが50μm角よりも小さいか、或いは、50μm角の無転位領域の密度が100個/cmよりも低くなる。
【0193】
また、本実施形態では、上述のように基板50が低酸素濃度領域80を有する場合であっても、3次元成長層30の成長過程でc面30cが少なくとも一度消失しているため、主面50s側の低酸素濃度領域80の下方において、転位が屈曲されている。これにより、例えば、主面50sにおける低酸素濃度領域80が、上述の小さくとも50μm角の無転位領域を含んでいる場合がある。
【0194】
また、本実施形態では、上述のように転位集中領域dcaでの転位密度が低くなっていることで、多光子励起顕微鏡により転位集中領域dcaを含む50μm角の視野で主面50sを観察して暗点密度から転位密度を求めたときに、転位密度は、例えば、3×10cm-2未満である。なお、転位集中領域dcaを含む50μm角の視野では少なくとも1つの暗点が存在すると考えられることから、転位集中領域dcaを含む50μm角の視野での、転位密度の下限値は、例えば、4×10cm-2である。
【0195】
(基底面転位)
次に、図10を用い、本実施形態の基板50の主面50sにおける基底面転位bpdについて説明する。
【0196】
本実施形態では、後述の傾斜界面成長領域70の応力相殺効果に起因して、3次元成長層30には、結晶歪みが加わり、基底面転位が生じうる。このため、図10に示すように、3次元成長層30をスライスして形成される基板50の主面50sのCL像では、基底面転位bpdが観察されることがある。
【0197】
しかしながら、本実施形態では、マスク層を用いたELO法などで得られる基板と比較して、基板50の主面50sにおける基底面転位bpdが少ない。
【0198】
具体的には、主面50sのCL像において、長さ200μmの任意の仮想的な線分lsを引いたときに、該線分lsと基底面転位bpdとの交点の数は、例えば、10点以下、好ましくは5点以下である。なお、線分lsと基底面転位bpdとの交点の数の最小値は、例えば、0点である。
【0199】
(バーガースベクトル)
次に、本実施形態の基板50における転位のバーガースベクトルについて説明する。
【0200】
本実施形態では、上述の製造方法で用いられる第2下地層6の主面6sにおける転位密度が低いため、第2下地層6上に3次元成長層30を成長させる際に、複数の転位が結合(混合)することが少ない。これにより、3次元成長層30から得られる基板50内において、大きいバーガースベクトルを有する転位の生成を抑制することができる。
【0201】
具体的には、本実施形態の基板50では、例えば、バーガースベクトルが<11-20>/3、<0001>、または<11-23>/3のうちいずれかである転位が多い。なお、ここでの「バーガースベクトル」は、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)を用いた大角度収束電子回折法(LACBED法)により測定可能である。また、バーガースベクトルが<11-20>/3である転位は、刃状転位であり、バーガースベクトルが<0001>である転位は、螺旋転位であり、バーガースベクトルが<11-23>/3である転位は、刃状転位と螺旋転位とが混合した混合転位である。
【0202】
本実施形態では、基板50の主面50sにおける転位を無作為に100個抽出したときに、バーガースベクトルが<11-20>/3、<0001>または<11-23>/3のうちいずれかである転位の数の割合は、例えば、50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上である。なお、基板50の主面50s内の少なくとも一部において、バーガースベクトルが2<11-20>/3または<11-20>などである転位が存在していてもよい。
【0203】
(c面の曲率半径)
次に、図9を用い、本実施形態の基板50におけるc面50cの曲率半径について説明する。
【0204】
図9(b)および(c)に示すように、本実施形態では、基板50の主面50sに対して最も近い低指数の結晶面としてのc面50cは、例えば、上述した基板50の製造方法に起因して、平坦となっているか、或いは、球面状に湾曲している。なお、基板50のc面50cは、例えば、主面50sに対して凹の球面状に湾曲していてもよいし、或いは、凸の球面状に湾曲していてもよい。または、基板50のc面50cは、例えば、略平坦となっていれば、主面50sに対して凹の球面状に湾曲した部分と、主面50sに対して凸の球面状に湾曲した部分と、を有していてもよい。
【0205】
本実施形態では、基板50のc面50cは、例えば、m軸に沿った断面およびa軸に沿った断面のそれぞれにおいて、平坦となっているか、或いは、球面近似される曲面状となっている。
【0206】
ここで、基板50の主面50s内での位置のうち、m軸に沿った方向の座標を「x」とする。一方で、基板50の主面50s内での位置のうち、a軸に沿った方向の座標を「y」とする。なお、基板50の主面50sの中心の座標(x,y)を(0,0)とする。また、主面50sの法線に対するc軸50caのオフ角θのうち、m軸に沿った方向成分を「θ」とし、a軸に沿った方向成分を「θ」とする。なお、θ=θ +θ である。
【0207】
本実施形態では、基板50のc面50cが上述のように平坦となっているか、或いは、球面状に湾曲していることから、オフ角m軸成分θおよびオフ角a軸成分θは、それぞれ、xの1次関数およびyの1次関数で近似的に表すことができる。
【0208】
具体的には、例えば、主面50s内で中心を通る直線上の各位置において(0002)面のX線ロッキングカーブ測定を行い、主面50sへ入射したX線と主面50sとがなすピーク角度ωを、直線上の位置に対してプロットしたときに、ピーク角度ωを位置の1次関数で近似することができる。なお、ここでいう「ピーク角度ω」とは、主面50sへ入射したX線と主面50sとがなす角度であって、回折強度が最大となる角度のことをいう。上述のように近似された1次関数の傾きの逆数により、c面50cの曲率半径を求めることができる。
【0209】
本実施形態では、基板50のc面50cの曲率半径は、例えば、従来のVAS法で得られる窒化物半導体基板のc面の曲率半径よりも大きくなっている。
【0210】
具体的には、c面50cのX線ロッキングカーブ測定においてピーク角度ωを位置の1次関数で近似したときに、当該1次関数の傾きの逆数により求められるc面50cの曲率半径は、例えば、15m以上、好ましくは20m以上、より好ましくは30m以上、さらに好ましくは40m以上である。
【0211】
本実施形態では、基板50のc面50cの曲率半径の上限値は、大きければ大きいほどよいため、特に限定されるものではない。基板50のc面50cが略平坦となる場合は、該c面50cの曲率半径が無限大であると考えればよい。
【0212】
本実施形態では、基板50のc面50cの曲率半径が大きいことにより、基板50の主面50sの法線に対するc軸50caのオフ角θのばらつきを、従来のVAS法で得られる窒化物半導体基板のc軸のオフ角のばらつきよりも小さくすることができる。
【0213】
また、本実施形態では、c面50cのX線ロッキングカーブ測定においてピーク角度ωを位置の1次関数で近似したときに、マスク層を用いたELO法などで得られる基板と比較して、1次関数に対するωの誤差が小さい。
【0214】
具体的には、上述のように近似した1次関数に対する、測定されたピーク角度ωの誤差は、例えば、0.05°以下、好ましくは0.02°以下、より好ましくは0.01°以下である。なお、少なくとも一部のピーク角度ωが1次関数と一致することがあるため、当該誤差の最小値は、0°である。
【0215】
(半導体積層物におけるフォトルミネッセンス特性)
次に、基板50を用いて半導体積層物を作製したときの、半導体層のフォトルミネッセンス特性について説明する。
【0216】
本実施形態では、上述のように基板50が高酸素濃度領域70を有しているが、基板50を用いて半導体積層物を作製したときに、基板50上に成長させた半導体層に対して、基板50を起因とした結晶歪みが生じることがほとんどない。このため、基板50上に成長させた半導体層のフォトルミネッセンスにおいて、半導体層の結晶歪みに起因したピークシフトが小さいか、或いは無い。
【0217】
具体的には、以下の特性が得られる。まず、基板50と、所定のIII族窒化物半導体のノンドープの単結晶を基板50の主面50s上にエピタキシャル成長させた半導体層と、を有する積層物を作製する。一方で、基板50と同一のIII族窒化物半導体で高酸素濃度領域70よりも低い酸素濃度を面内均一に有する単結晶からなる基準基板と、上述の半導体層と同一の単結晶を基準基板上にエピタキシャル成長させた基準半導体層と、を有する基準積層物を作製する。なお、ここでいう「ノンドープ」とは、半導体が意図的に添加した不純物を含まないことを意味し、半導体が不可避不純物を含む場合を含んでいる。次に、本実施形態の積層物の半導体層および基準積層物の基準半導体層のそれぞれにおけるフォトルミネッセンスを温度差1℃未満で(例えば27℃で)測定する。この場合に、本実施形態の積層物の半導体層における最大ピーク波長と、基準積層物の半導体層における最大ピーク波長との差は、例えば、1nm以下である。
【0218】
(4)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0219】
(a)3次元成長工程S200において、3次元成長層30を構成する単結晶の表面にc面以外の傾斜界面30iを生じさせることで、傾斜界面30iが露出した位置で、該傾斜界面30iに対して略垂直な方向に向けて、転位を屈曲させて伝播させることができる。これにより、転位を局所的に集めることができる。転位を局所的に集めることで、互いに相反するバーガースベクトルを有する転位同士を消失させることができる。または、局所的に集められた転位がループを形成することで、転位が3次元成長層30の表面側に伝播することを抑制することができる。このようにして、3次元成長層30の表面における転位密度を低減することができる。その結果、第2下地層6の主面6sにおける転位密度よりも転位密度を低減させた基板50を得ることができる。
【0220】
(b)3次元成長工程S200では、3次元成長層30の頂面30uから少なくとも一度c面30cを消失させる。これにより、第2下地層6から伝播する転位を、3次元成長層30における傾斜界面30iが露出した位置で、確実に屈曲させることができる。
【0221】
ここで、3次元成長工程において、c面が残存した場合について考える。この場合、c面が残存した部分では、第2下地層から伝播した転位が、屈曲されずに略鉛直上方向に伝播し、3次元成長層の表面にまで到達する。このため、c面が残存した部分の上方では、転位が低減されず、高転位密度領域が形成されてしまう。
【0222】
これに対し、本実施形態によれば、3次元成長工程S200において、3次元成長層30の頂面30uから少なくとも一度c面30cを消失させることで、少なくとも一度、3次元成長層30の表面をc面以外の傾斜界面30iのみにより構成することができる。これにより、第2下地層6から伝播する転位を、3次元成長層30の表面全体に亘って、確実に屈曲させることができる。転位を確実に屈曲させることで、複数の転位の一部を消失させ易くし、または、複数の転位の一部を3次元成長層30の表面側に伝播し難くすることができる。その結果、3次元成長層30から得られる基板50の主面50s全体に亘って転位密度を低減することが可能となる。
【0223】
(c)下地構造体10上に3次元成長層30を3次元成長させることで、上述のように、下地構造体10の第2下地層6に蓄積した引張応力を3次元成長層30により相殺する応力相殺効果(応力緩和効果)を得ることができる。
【0224】
このように3次元成長層30による応力相殺効果を得ることで、第2下地層6中に引張応力が蓄積した状態で3次元成長層30を厚く成長させたとしても、3次元成長層30のうちの下地構造体10側と表面側とで応力差が生じることを抑制することができる。これにより、3次元成長層30にクラック等が発生することを抑制することができる。
【0225】
(d)本実施形態では、上述した3次元成長層30による応力相殺効果を得ることで、3次元成長層30から得られる基板50のc面50cの曲率半径を容易に制御することができる。例えば、基板50のc面50cの曲率半径を、第2下地層を3次元成長層30と同じ厚さで成長させ3次元成長工程を行わずに第2下地層をスライスした場合の窒化物半導体基板、すなわち従来のVAS法で得られる窒化物半導体基板の曲率半径よりも大きくすることができる。これにより、基板50の主面50sの法線に対するc軸50caのオフ角θのばらつきを、従来のVAS法で得られる窒化物半導体基板のc軸のオフ角のばらつきよりも小さくすることができる。
【0226】
以上の(a)~(d)のように、本実施形態では、結晶品質が良好な基板50を容易かつ安定的に得ることができる。
【0227】
(e)本実施形態では、ボイド形成工程S140と3次元成長工程S200との間に第2下地層形成工程S150を行い、第2下地層6の主面6sを鏡面化させる。これにより、3次元成長層30の成長形態を、第2下地層6の成長初期に生じた島状結晶の成長形態から変化させることができる。
【0228】
ここで、ボイド形成工程S140直後に第2下地層形成工程S150を行わずに3次元成長工程S200を行うと、3次元成長層の成長初期から、ボイド含有第1下地層の上方に金属窒化層を介して、3次元成長層が島状結晶として成長する。この場合、3次元成長層の島状結晶の頻度は、上述のように、金属窒化層のナノネット上に成長する際の過飽和度と、当該ナノネットの開口幅のばらつきとに依存する。このため、3次元成長層の頂部が密に形成され、3次元成長層の最近接頂部間平均距離が短くなる。3次元成長層の最近接頂部間平均距離が短くなると、転位が充分に集められない。その結果、3次元成長層の表面における転位密度を充分に低減することができない可能性がある。
【0229】
これに対し、本実施形態では、ボイド形成工程S140後に、第2下地層6の主面6sを鏡面化させることで、上述のように、3次元成長層30の成長形態を、第2下地層6の成長初期に生じた島状結晶の成長形態から変化させることができる。
【0230】
すなわち、鏡面化した第2下地層6上に成長する3次元成長層30を、成長初期から島状結晶として成長させるのではなく、3次元成長工程S200での上述の第1成長条件に依存して3次元成長させることができる。このとき、3次元成長層30の最近接頂部間平均距離は、上述の第1成長条件としての、c面30cのc軸方向の成長レートGc0と傾斜界面30iの傾斜方向の成長レートGとの違いに依存する。これにより、3次元成長層30の最近接頂部間平均距離を第1成長条件に基づいて制御し、最近接頂部間距離を長くすることができる。
【0231】
また、本実施形態では、ボイド形成工程S140後に、第2下地層6の主面6sを鏡面化させることで、ボイド含有第1下地層4および金属窒化層5の状態にかかわらず、第2下地層6の主面6sのモフォロジを全体に亘って略均一にすることができる。第2下地層6の主面6sのモフォロジを略均一にすることで、3次元成長工程S200において傾斜界面30iの発生状態を、3次元成長層30の表面全体に亘って略均一にすることができる。これにより、3次元成長層30の表面の一部に、最近接頂部間距離が短い領域が形成されることを抑制し、3次元成長層30の表面全体に亘って、最近接頂部間距離を略均一に長くすることができる。
【0232】
これらの結果、本実施形態では、3次元成長層30の表面の一部に、転位密度が過度に高い領域が形成されることを抑制し、3次元成長層30の表面全体に亘って、転位密度を低くすることができる。
【0233】
(f)本実施形態では、第2下地層6の主面6sの平坦化、第2下地層6の主面6s上へのマスク層の形成、および主面6sへの凹凸パターンの形成のうち、いずれのパターン加工も施さないas-grownの状態の下地構造体10に対して、3次元成長工程S200を行う。
【0234】
ここでいう「マスク層」とは、例えば、いわゆるELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)法において用いられ、酸化シリコンなどからなり所定の開口を有するマスク層のことを意味する。また、ここでいう「凹凸パターン」は、例えば、いわゆるペンデオエピタキシー法において用いられ、主面を直接パターニングしたトレンチおよびリッジのうち少なくともいずれかのことを意味する。ここでいう凹凸パターンの高低差は、例えば、100nm以上である。
【0235】
上述のELO法やペンデオエピタキシー法では、マスク層または凹凸パターンの形成のため、基板の主面上にフォトレジストをパターニングする工程を行う。このとき、基板がas-grownの状態であって、主面に凹凸が生じていると、露光ギャップにばらつきが生じ、面内でパターンばらつきが生じてしまう可能性がある。このため、上述のフォトレジストのパターニング工程を行う前に、基板の主面を平坦化しなければならない。その結果、ELO法やペンデオエピタキシー法では、多くの工程が必要となる。
【0236】
これに対し、本実施形態では、上述の製造方法により、パターン加工を施さないas-grownの状態の下地構造体10上に直接的に、3次元成長層30を3次元成長させることができる。これにより、所定の加工工程(スライス工程、平坦化(研磨)工程、フォトリソグラフィ工程、マスク層形成工程、凹凸パターン加工工程など)を不要とすることができ、本実施形態の工程数を削減することができる。その結果、本実施形態の歩留まりを向上しつつ、製造コストを低減することができる。
【0237】
また、本実施形態では、上述の製造方法により、パターン加工を施さないas-grownの状態の下地構造体10を用いて、3次元成長工程S200を行うことで、3次元成長層30をスライスして形成される基板50の主面50sにおいて、下地構造体10のパターン加工に起因して規則的に発生する高転位密度領域が形成されていない。言い換えれば、本実施形態の基板50では、転位集中領域dcaが存在したとしても、転位集中領域dcaをランダムに配置し、転位集中領域dcaでの転位密度を低くすることができる。
【0238】
(g)3次元成長工程S200のうち、傾斜界面拡大層32が成長する初期段階では、c面30cを成長面として所定の厚さで傾斜界面拡大層32を2次元成長させた後に、該傾斜界面拡大層32の頂面30uに複数の凹部30pを生じさせる。言い換えれば、傾斜界面拡大層32が3次元成長し始める前に、鏡面化された表面を有する傾斜界面拡大層32(初期層)を所定の厚さで形成する。これにより、3次元成長工程S200において、3次元成長層30における傾斜界面30iの出現具合を、安定的に面内で均一にすることができる。
【0239】
(h)3次元成長工程S200では、3次元成長層30の表面からc面30cを消失させた後に、傾斜界面成長領域70が沿面断面の80%以上の面積を占める状態を維持しつつ、所定の厚さに亘って3次元成長層30の成長を継続させる。これにより、傾斜界面30iが露出した位置で転位を屈曲させる時間を充分に確保することができる。ここで、c面が消失してから直ぐにc面成長をさせると、転位が充分に屈曲されずに、3次元成長層の表面に向けて略鉛直方向に伝播してしまう可能性がある。これに対し、本実施形態では、c面以外の傾斜界面30iが露出した位置で転位を屈曲させる時間を充分に確保することで、第2下地層6側から3次元成長層30の表面に向けて略鉛直方向に転位が伝播することを抑制することができる。これにより、3次元成長層30における転位の集中を抑制することができる。
【0240】
(i)3次元成長工程S200では、沿面断面において傾斜界面成長領域70の占める面積割合を80%以上とすることで、上述のように3次元成長層30の応力相殺効果を安定的に発現させることができる。これにより、3次元成長層30の成長中におけるクラックの発生を抑制することができる。その結果、3次元成長層30を容易に厚く成長させることが可能となる。
【0241】
(j)3次元成長工程S200では、沿面断面において傾斜界面成長領域70の占める面積割合を80%以上とすることで、c面成長領域が広く占める場合と比較して、3次元成長層30に対してスライスおよび研磨などの加工を容易に施すことができる。
【0242】
(k)本実施形態では、上述の鏡面化した第2下地層6上に3次元成長層30を成長させ、且つ、3次元成長工程S200において式(1)を満たすように第1成長条件を調整することで、3次元成長工程S200において、傾斜界面30iとして、m≧3である{11-2m}面を生じさせることができる。これにより、c面30cに対する{11-2m}面の傾斜角度を緩やかにすることができる。具体的には、該傾斜角度を47.3°以下とすることができる。c面30cに対する{11-2m}面の傾斜角度を緩やかにすることとで、複数の頂部30tの周期を長くすることができる。具体的には、下地基板1の主面1sに垂直な任意の断面を見たときに、最近接頂部間平均距離Lを100μm超とすることができる。
【0243】
なお、参考までに、通常、所定のエッチャントを用い窒化物半導体基板にエッチピットを生じさせると、該基板の表面に、{1-10n}面により構成されるエッチピットが形成される。これに対し、本実施形態において所定の条件で成長させた3次元成長層30の表面では、m≧3である{11-2m}面を生じさせることができる。したがって、通常のエッチピットに比較して、本実施形態では、製法特有の傾斜界面30iが形成されると考えられる。
【0244】
(l)本実施形態では、下地基板1の主面1sに垂直な任意の断面を見たときに、最近接頂部間平均距離Lを100μm超とすることで、転位が屈曲して伝播する距離を、少なくとも50μm超、確保することができる。これにより、3次元成長層30のうち一対の頂部30t間の略中央の上方に、充分に転位を集めることができる。その結果、3次元成長層30の表面における転位密度を充分に低減させることができる。
【0245】
(m)本実施形態では、剥離工程S300において、下地基板1から剥離した積層構造体90の反りを抑制することができる。
【0246】
ここで、従来のVAS法で得られる基板を用い、3次元成長工程を行った場合について考える。従来のVAS法では、基板の主面は研磨されて平坦にされるが、基板のc面は、上述のように、凹の球面状に湾曲している。当該基板の平坦な主面上に、c面を徐々に平坦にしていきながら3次元成長層を成長させると、3次元成長層のc面の平坦化に伴って、3次元成長層の下の基板に対してc面を平坦とする応力が働く。このため、3次元成長層の成長前では平坦であった基板が、3次元成長層の成長過程で主面側に凸に反っていくことがある。基板が主面側に凸に反ると、積層構造体の裏面が凹に反ってしまう。裏面が凹に反ると、スライス工程において、スライス用の治具に対して積層構造体を安定的に固定することができない。その結果、スライスなどの加工の歩留まりが低下してしまうおそれがある。
【0247】
これに対し、本実施形態では、3次元成長層30の高酸素濃度領域の格子定数を相対的に大きくし、c面30cを徐々に平坦にしていきながら、3次元成長層30を成長させることで、3次元成長層30のc面30cの平坦化に伴って、3次元成長層30の下の第2下地層6に対してc面を平坦とする応力を与えることができる。これにより、as-grownの状態で主面6s側に凹に湾曲していた第2下地層6全体を、徐々に平坦に矯正していくことができる。第2下地層6全体を徐々に平坦することで、剥離工程S300で下地基板1から剥離した積層構造体90において、第2下地層6の裏面を平坦にすることができる。第2下地層6の裏面を平坦にすることで、スライス工程において、スライス用の治具に対して積層構造体を安定的に固定することができる。その結果、スライスなどの加工の歩留まりを向上させることが可能となる。
【0248】
(n)スライス工程S400では、傾斜界面維持層34をスライスすることで、基板50を形成する。また、第2下地層6から継続するc面成長領域60が最後に消失した位置から上方に離れた位置で、傾斜界面維持層34をスライスする。これにより、3次元成長層30において転位が集められる過程の部分を避けることができる。その結果、転位が低減された基板50を安定的に得ることができる。
【0249】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0250】
上述の実施形態では、基板50がGaN自立基板である場合について説明したが、基板50は、GaN自立基板に限らず、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウム(InN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等のIII族窒化物半導体、すなわち、AlInGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物半導体からなる自立基板であってもよい。
【0251】
上述の実施形態では、基板50がn型である場合について説明したが、基板50はp型であったり、または半絶縁性を有していたりしてもよい。例えば、基板50を用いて高電子移動度トランジスタ(HEMT)としての半導体装置を製造する場合には、基板50は、半絶縁性を有していることが好ましい。
【0252】
上述の実施形態では、3次元成長工程S200において、傾斜界面成長領域70中に取り込まれる酸素の濃度以上の濃度で、n型不純物を添加する場合について説明したが、上述のようにp型の基板50を得る場合には、3次元成長工程S200において、傾斜界面成長領域70中に取り込まれる酸素の濃度以上の濃度で、p型不純物を添加してもよい。
【0253】
上述の実施形態では、3次元成長工程S200において、第1成長条件として主に成長温度を調整する場合について説明したが、第1成長条件が式(1)を満たせば、当該第1成長条件として、成長温度以外の成長条件を調整したり、成長温度と成長温度以外の成長条件とを組み合わせて調整したりしてもよい。
【0254】
上述の実施形態では、傾斜界面維持工程S240での成長条件を、傾斜界面拡大工程S220と同様に、上述の第1成長条件で維持する場合について説明したが、傾斜界面維持工程S240での成長条件が第1成長条件を満たせば、該傾斜界面維持工程S240での成長条件を、傾斜界面拡大工程S220での成長条件と異ならせてもよい。
【0255】
上述の実施形態では、スライス工程S400において、ワイヤーソーを用い、本成長層44をスライスする場合について説明したが、例えば、外周刃スライサー、内周刃スライサー、放電加工機等を用いてもよい。
【0256】
上述の実施形態では、積層構造体90のうちの傾斜界面維持層34をスライスすることで、基板50を得る場合について説明したが、この場合に限られない。例えば、積層構造体90をそのまま用いて、半導体装置を作製するための半導体積層物を製造してもよい。具体的には、積層構造体90を作製したら、半導体積層物作製工程において、積層構造体90上に半導体機能層をエピタキシャル成長させ、半導体積層物を作製する。半導体積層物を作製したら、積層構造体90の裏面側を研磨し、積層構造体90のうち、第2下地層6と、傾斜界面拡大層32と、を除去する。これにより、上述の実施形態と同様に、傾斜界面維持層34と、半導体機能層と、を有する半導体積層物が得られる。この場合によれば、基板50を得るためのスライス工程S400および研磨工程S500を省略することができる。
【実施例
【0257】
以下、本発明の効果を裏付ける各種実験結果について説明する。
【0258】
(1)実験1
(1-1)窒化物半導体基板の作製
以下のようにして、実施例および比較例の窒化物半導体基板を作製した。なお、実施例については、窒化物半導体基板をスライスする前の積層構造体も作製した。以下、「窒化物半導体基板」を「基板」と略すことがある。
【0259】
[実施例の窒化物半導体基板の作製条件]
(下地基板)
材質:サファイア
直径:2インチ
厚さ:400μm
主面に対して最も近い低指数の結晶面:c面
主面に対するマスク層等のパターン加工なし。
(第1下地層)
・低温成長バッファ層:
材質:GaN
成長温度:550℃
厚さ:50nm
・GaN層:
材質:アンドープ(アンインテンショナリドープ)GaN
成長温度:1,050℃
厚さ:350nm
なお、GaN層の表面を鏡面化させた。
(金属層)
材質:Ti
厚さ:20nm
(熱処理条件)
2段階の熱処理を行った。
第1熱処理:
雰囲気:Nガス80%、NHガス20%
温度:1,050℃
時間:10分
第2熱処理:
雰囲気:Hガス80%、NHガス20%
温度:1,050℃
時間:20分
(第2下地層)
材質:アンドープ(アンインテンショナリドープ)GaN
成長温度:1,050℃
厚さ:約1000μm
なお、第2下地層の主面を鏡面化させた。
主面に対するマスク層等のパターン加工なし。
(3次元成長層)
材質:GaN
成長方法:HVPE法
第1成長条件:
成長温度を980℃以上1,020℃以下とし、V/III比を2以上20以下とした。このとき、第1成長条件が式(1)を満たすように、成長温度およびV/III比のうち少なくともいずれかをそれぞれ上記範囲のなかで調整した。
3次元成長層の厚さ:約1.45mm
なお、傾斜界面維持層中に所定量のSiを添加した。
(スライス条件)
窒化物半導体基板の厚さ:約400μm
カーフロス:200μm
なお、実施例では、傾斜界面維持層から2枚の基板をスライスした。
(研磨条件)
研磨厚さ:200μm
【0260】
[比較例1の窒化物半導体基板の作製条件]
比較例1では、従来のVAS法と同様の条件で基板を作製した。
(下地基板)
実施例と同じ。
(第1結晶層、金属層、および熱処理条件)
実施例の第1下地層、金属層、および熱処理条件と同じ。
(第2結晶層)
実施例の第2下地層と同じ(厚さも同じ)。
(3次元成長層)
なし。
(剥離条件)
第2結晶層成長温度からの降温時に自然剥離。
(スライスおよび研磨条件)
第2結晶層から1枚の基板をスライスした点以外の条件は、実施例と同じ。
【0261】
[比較例2の窒化物半導体基板の作製条件]
(下地基板)
実施例と同じ。
(第1結晶層、金属層、および熱処理条件)
実施例の第1下地層、金属層、および熱処理条件と同じ。
(第2結晶層)
厚さを1700μmとした点以外の条件は、実施例の第2下地層と同じ。
(3次元成長層)
なし。
【0262】
(1-2)評価
(積層構造体の観察)
蛍光顕微鏡を用い、実施例の基板をスライスする前の積層構造体の断面を観察した。なお、光学顕微鏡を用い、積層構造体の表面も観察した。
【0263】
(多光子励起顕微鏡による窒化物半導体基板の観察)
多光子励起顕微鏡を用い、実施例および比較例1の基板のそれぞれの主面を観察した。このとき、視野250μmごとに主面全体に亘って暗点密度を測定することで、転位密度を測定した。なお、これらの基板における暗点の全てが貫通転位であることは、厚さ方向に焦点をずらして測定することにより確認している。また、このとき、視野250μmでの全測定領域数に対する、転位密度が1×10cm-2未満である領域(低転位密度領域)の数の割合を求めた。
【0264】
また、実施例の基板において、焦点を主面からずらした観察も行った。
【0265】
(X線ロッキングカーブ測定)
実施例および比較例1の基板のそれぞれの、(0002)面のX線ロッキングカーブ測定を行った。このとき、それぞれの基板の主面内のうち、中心を通りm軸方向に沿った直線上、および中心を通りm軸に直交するa軸方向に沿った直線上で、5mm間隔で設定した複数の測定点において、該測定を行った。このとき、基板の主面内の位置として正に定義している側からX線を入射させた。測定の結果、主面へ入射したX線と主面とがなすピーク角度ωを、直線上の位置に対してプロットし、ピーク角度ωを位置の1次関数で近似した。当該1次関数の傾きの逆数により、c面の曲率半径を求めた。なお、本実験で用いた装置における上述の配置では、1次関数の傾きが負となったときに、c面が凸であったことを意味する。
【0266】
(1-3)結果
<実施例の積層構造体の観察結果>
図11は、実施例の積層構造体の表面を光学顕微鏡により観察した観察像を示す図である。図12は、実施例の積層構造体の断面を蛍光顕微鏡により観察した観察像を示す図である。なお、図12は、<11-20>軸に沿った断面である。図13(a)および(b)は、実施例の積層構造体の他の部分における断面を蛍光顕微鏡により観察した観察像を示す図である。
【0267】
図12図13(a)および(b)に示すように、実施例の積層構造体では、3次元成長層は、成長過程での成長面の違い(すなわち、酸素濃度の違い)に基づいて、c面を成長面として成長したc面成長領域と、傾斜界面を成長面として成長した傾斜界面成長領域と、を有していた。
【0268】
傾斜界面成長領域の少なくとも一部は、第2下地層の主面に沿って連続して設けられていた。すなわち、3次元成長層を第2下地層の主面に沿って切った沿面断面を複数見たときに、c面を成長面として成長したc面成長領域を含まない断面が、3次元成長層の厚さ方向の少なくとも一部に存在していたことを確認した。
【0269】
第2下地層上のc面成長領域は、複数の谷部および複数の山部を有していた。c面成長領域のうち一対の傾斜部のなす角度の平均値は、およそ43°だった。また、最近接頂部間平均距離は、およそ145.6μmであった。
【0270】
図12図13(a)および(b)に示すように、断面視で傾斜界面成長領域と重なる位置にも、c面成長領域が存在していた。3次元成長層の成長過程で、c面成長領域が発生したり消失したりしたため、断面視でc面成長領域の幅(言い換えれば平面視でのc面成長領域の大きさ)は、第2下地層から3次元成長層の表面に向けてランダムに変化していた。
【0271】
また、c面が少なくとも一度消失したため、c面成長領域は、第2下地層から3次元成長層の表面(最上面)まで連続していなかった。
【0272】
図11に示すように、3次元成長層の表面には、c面以外の傾斜界面で構成される複数の凹部が生じていた。3次元成長層の表面に生じた凹部内には、光って見える面が6つ形成され、すなわち、凹部は6つの傾斜界面を有していた。
【0273】
剥離させた下地基板のオリエンテーションフラットの方向から考えて、凹部内の稜線は、<1-100>軸方向に沿っており、また、凹部を構成する傾斜界面は、<11-20>軸から傾斜した方向を法線方向とする面(すなわち{11-2m}面)であった。
【0274】
図12に示した<11-20>軸に沿った方向の断面において、3次元成長層における傾斜界面の、下地基板の主面に対する角度は、約43°以上47°以下であった。
【0275】
ここで、GaNの{0001}面に対する{11-2m}の角度は、以下のとおりである。
{11-21}面:72.9°
{11-22}面:58.4°
{11-23}面:47.3°
{11-24}面:39.1°
【0276】
以上のことから、3次元成長層の表面に生じた傾斜界面は、m≧3の{11-2m}面であることを確認した。また、傾斜界面の多くは、{11-23}面であることを確認した。
【0277】
<実施例、比較例1および2の比較>
[実施例と比較例2との比較]
まず、実施例と比較例2とを比較する。
【0278】
第2結晶層を厚く成長させた比較例2では、結晶層成長後に室温まで降温させた状態を確認したところ、第2結晶層が微細に割れていた。また、第2結晶層の割れた断面から、結晶が異常成長していた。このことから、第2結晶層の成長中に、第2結晶層が割れていたものと考えられる。比較例2では、充分な厚さおよび直径を有する第2結晶層を得ることが出来なかったため、窒化物半導体基板の作製を行わなかった。
【0279】
これに対し、実施例では、3次元成長層の成長が終了した後に室温まで降温させたところ、金属窒化層と第2下地層との間を境に、積層構造体が下地基板から剥離していた。剥離後の積層構造体には、割れ(クラック)が見られなかった。
【0280】
[実施例と比較例1との比較]
次に、実施例と比較例1とを比較する。実施例および比較例1の結果を表1に示す。
【0281】
【表1】
【0282】
(多光子励起顕微鏡による窒化物半導体基板の観察結果)
図14は、実施例の窒化物半導体基板の主面を多光子励起顕微鏡により観察した観察像を示す模式図である。なお、太線四角部は、50μ角の無転位領域を示している。図15は、図14の点線四角部分を拡大した観察像を示す図である。図16は、実施例の窒化物半導体基板において、厚さ方向に焦点を変化させたときの、多光子励起顕微鏡により観察した観察像を示す図である。
【0283】
図14に示すように、実施例の基板は、相対的に明るく観察される高酸素濃度領域を有していた。実施例の基板の主面において高酸素濃度領域が占める面積割合は、80%以上であった。
【0284】
表1に示すように、実施例の基板では、主面における平均転位密度が、比較例1の基板に比べて、大幅に低減され、5.5×10cm-2未満であった。
【0285】
また、実施例の基板では、転位密度が3×10cm-2を超える領域が存在しなかった。また、実施例の基板では、転位密度が1×10cm-2未満である領域(低転位密度領域)が主面の90%以上存在していた。
【0286】
また、図14に示すように、実施例の基板の主面は、小さくとも50μm角の無転位領域を含んでいた。また、実施例の基板の主面は、重ならない50μm角の無転位領域を100個/cm以上の密度で有していた。具体的には、実施例の基板の主面は、重ならない50μm角の無転位領域の密度は、5000個/cm程度であった。
【0287】
また、図15に示すように、暗く観察された低酸素濃度領域を拡大して確認したところ、当該低酸素濃度領域が、小さくとも50μm角の無転位領域を有していた。
【0288】
また、図14において、多光子励起顕微鏡により転位集中領域を含む50μm角の視野で実施例の基板の主面を観察して暗点密度から転位密度を求めたときに、転位密度は、3×10cm-2未満であった。
【0289】
図14に示すように、実施例の基板は、基底面転位(bpd)を有していた。実施例の基板のCL像を観察したところ、当該主面のCL像において、長さ200μmの任意の仮想的な線分を引いたときに、該線分と基底面転位との交点の数は、10点以下であった。
【0290】
図16に示すように、実施例の基板において、厚さ方向に焦点を変化させながら観察も行ったところ、領域Aは、表面(主面)側で出現し、表面よりも深い位置では、消失していた。また、領域Bは、厚さ方向の位置に応じて、出現したり消失したりしていた。また、領域Cは、表面近傍で消失していた。以上のことから、平面視での低酸素濃度領域の大きさは、基板の主面の反対側の裏面から主面に向けてランダムに変化していた。また、低酸素濃度領域は、消失した部分が存在したことから、基板の主面の反対側の裏面から主面に向けて連続的に繋がっていなかった。
【0291】
(c面の曲率半径)
次に、表1、図17(a)および(b)を用い、c面の曲率半径について説明する。
【0292】
図17(a)は、実施例の窒化物半導体基板のm軸に沿った方向に対してX線回折のロッキングカーブ測定を行った結果を示す図であり、(b)は、実施例の窒化物半導体基板のm軸に直交するa軸に沿った方向に対してX線回折のロッキングカーブ測定を行った結果を示す図である。なお、図中のRはc面の曲率半径を示し、負のRは、上述のように、c面が主面に対して凸に湾曲していたことを意味している。
【0293】
表1、図17(a)および(b)に示すように、実施例の基板におけるc面の曲率半径(の絶対値)は、比較例1の基板におけるc面の曲率半径に比べて大きく、22m以上であった。
【0294】
図17(a)および(b)に示した基板は、実施例の積層構造体のうち表面に近い側からスライスしたものである。当該基板では、c面が主面に対して凸の球面状に湾曲していた。
【0295】
一方で、図示していないが、実施例の積層構造体のうち第2下地層に近い側からスライスした基板では、c面が主面に対して若干凹となっていたが、c面の曲率半径が大きく、c面がほぼ平坦であった。第2下地層に近い側からスライスした基板におけるc面の曲率半径の絶対値は、表面に近い側からスライスした基板におけるc面の曲率半径の絶対値よりも大きかった。当該基板におけるc面の曲率半径は、1053mであった。
【0296】
実施例のこれらの基板では、c面のX線ロッキングカーブ測定においてピーク角度ωを位置の1次関数で近似したときに、1次関数に対する誤差が小さかった。具体的には、上述のように近似した1次関数に対する、測定されたピーク角度ωの誤差は、0.01°以下であった。
【0297】
(実験1のまとめ)
以上の実施例によれば、3次元成長工程において、式(1)を満たすように第1成長条件を調整した。これにより、3次元成長層の成長過程で、c面を少なくとも一度確実に消失させることができた。c面を少なくとも一度消失させたことで、3次元成長層における傾斜界面が露出した位置で、転位を確実に屈曲させることができた。その結果、基板の主面における転位密度を低減することができたことを確認した。
【0298】
また、実施例によれば、鏡面化した第2下地層上に3次元成長層を成長させ、かつ、式(1)を満たすように第1成長条件を調整したことで、傾斜界面として、m≧3である{11-2m}面を生じさせることができた。これにより、3次元成長層において、最近接頂部間平均距離を100μm超とすることができた。その結果、基板の主面における転位密度を充分に低減させることができたことを確認した。また、最近接頂部間平均距離を100μm超とすることで、小さくとも50μm角の無転位領域を形成することができたことを確認した。
【0299】
また、実施例によれば、傾斜界面成長領域の応力相殺効果によって、3次元成長層の成長中におけるクラックの発生を抑制することができたことを確認した。
【0300】
また、実施例によれば、傾斜界面成長領域の応力相殺効果によって、実施例の基板のc面の曲率半径を、比較例1のc面の曲率半径よりも大きくすることができた。これにより、実施例の基板におけるc軸のオフ角のばらつきを、比較例1におけるc軸のオフ角のばらつきを小さくすることができたことを確認した。
【0301】
なお、実施例では、傾斜界面成長領域の応力相殺効果によって、c面が、積層構造体の第2下地層側から表面側に向けて凹から凸へ変化していることを確認した。したがって、積層構造体からスライスする厚さ方向の位置を最適化すれば、c面が極めて平坦な基板を得ることができると考えられる。
【0302】
(2)実験2
(2-1)窒化物半導体基板の作製
以下のようにして、サンプル1および2の基板を作製した。
【0303】
[サンプル1の窒化物半導体基板の作製条件]
3次元成長工程においてSiを添加しなかった点を除いて、実験1の実施例と同様に基板を作製した。なお、基板の厚さは、323μmとした。
【0304】
[サンプル2の窒化物半導体基板の作製条件]
第2結晶層成長工程において1×1018cm-3のSiを添加した点を除いて、実験1の比較例1と同様に基板を作製した。
【0305】
(2-2)評価
(二次イオン質量分析法(SIMS))
SIMSにより、サンプル1の基板中の酸素濃度を測定した。
【0306】
(ホール測定)
ホール測定により、サンプル1の基板の移動度並びに比抵抗、サンプル1の基板中の自由電子濃度を測定した。
【0307】
(光学測定)
サンプル1および2の基板のそれぞれの、透過率および反射率を測定した。
【0308】
透過率および反射率の測定には、島津社製のSolidSpec-3700DUV紫外可視近赤外分光光度計を用いた。測定条件は以下の通りである。
スリット幅:8nm(波長720nm以下)、32nm(波長720nm以上)
測定速度:低速
光源:ハロゲンランプ(波長310nm以上)
検出器:
光電子増倍管(PMT)(波長870nm以下)
InGaAs(波長870nm~1650nm)
PbS(波長1650nm以上)
付属装置 大型試料室 積分球(60mmφ)スペクトラロン
入射角:(Ga面から入射)
透過率測定:0°
反射率測定:8°
光照射サイズ:
透過率測定:3mm×3mm
反射率測定:10mm×5mm
リファレンス:
透過率測定:なし
反射率測定:Alミラー
【0309】
サンプル1の基板では、主面の中心と、中心からm軸方向およびa軸方向のそれぞれに15mm離れた位置の4点とにおいて、透過率および反射率を測定した。その後、基板の主面の中心における透過率および反射率に基づいて、吸収係数を求めた。
【0310】
なお、サンプル2の基板では、主面の中心において、透過率および反射率を測定し、その結果に基づいて、吸収係数を求めた。
【0311】
(2-3)結果
<SIMS測定結果>
SIMS測定の結果、サンプル1の基板中の酸素濃度は、1×1018cm-3であった。
【0312】
<ホール測定結果>
ホール測定の結果、サンプル1の基板の移動度は254cm/V・sであった。サンプル1の基板の比抵抗は0.0232Ω・cmであった。
【0313】
また、サンプル1の基板中の自由電子濃度は、1.06×1018cm-3であった。サンプル1の基板中の自由電子濃度は、基板中の酸素濃度とほぼ同等であった。
【0314】
このことから、サンプル1の基板中の自由電子濃度は、サンプル2の基板中の自由電子濃度とほぼ同等であったと考えられる。
【0315】
<光学測定結果>
図18(a)および(b)を用い、サンプル1および2の基板のそれぞれにおける吸収係数について説明する。図18(a)は、サンプル1および2の吸収スペクトルを示す図であり、(b)は、(a)に理論式を追加した図である。なお、図18(b)における理論式は、K=2.2×10-19、a=3としたときの上述の式(3)である。
【0316】
図18(a)に示すように、可視光域では、サンプル1の基板の吸収係数は、サンプル2の基板の吸収係数と同等以下であった。具体的には、サンプル1の基板では、500nm以上700nm以下の波長範囲における吸収係数は、0.15cm-1以下であった。
【0317】
赤外域では、自由キャリア吸収によるサンプル1の基板の吸収係数は、サンプル2の基板の吸収係数とほぼ一致していた。このことから、サンプル1の基板の自由電子濃度がサンプル2の基板中の自由電子濃度とほぼ同等であったことが裏付けられた。
【0318】
さらに、図18(b)に示すように、サンプル1(および2)の基板では、K=2.2×10-19、a=3としたときに、少なくとも1μm以上2.5μm以下の波長範囲における吸収係数αが、最小二乗法で上述の式(3)により近似することができた。このとき、波長2μmにおいて、式(3)から求められる吸収係数αに対する、実測される吸収係数の誤差は、例えば、±0.1α以内であった。
【0319】
次に、図19(a)および(b)を用い、サンプル1の基板における透過率および反射率の面内分布について説明する。図19(a)は、サンプル1の透過スペクトルを示す図であり、(b)は、サンプル1の反射スペクトルを示す図である。なお、図19(a)は、サンプル1の5つの測定点のうち、最も透過率の差が大きかった2点の透過スペクトルを示している。図19(b)は、サンプル1の5つの測定点のうち、最も反射率の差が大きかった2点の反射スペクトル(実線および破線)を示している。
【0320】
図19(a)に示すように、サンプル1の透過率の面内ばらつきは小さかった。具体的には、サンプル1の基板では、500nm以上700nm以下の波長範囲内のそれぞれの波長における透過率の、主面内のばらつきは、±0.3%以内であった。
【0321】
また、図19(b)に示すように、サンプル1の反射率の面内ばらつきは小さかった。具体的には、サンプル1の基板では、500nm以上700nm以下の波長範囲内のそれぞれの波長における反射率の、主面内のばらつきは、±0.3%以内であった。
【0322】
(実験2のまとめ)
以上の実験2によれば、可視光域では、サンプル1の基板の吸収係数は、サンプル2の基板の吸収係数と同等以下であった。サンプル1の基板は高酸素濃度領域を有しているが、特異な吸収が生じておらず、サンプル1の基板は、サンプル2のようなVAS法で得られる基板と同等の高い結晶品質を有していたことを確認した。つまり、サンプル1の基板を、LED用基板として充分に適用可能であることを確認した。
【0323】
また、実験2によれば、自由キャリア吸収によるサンプル1の基板の吸収係数は、サンプル2の基板の吸収係数とほぼ一致していた。また、サンプル1の基板において、自由キャリア吸収に基づく赤外域の吸収係数を、自由キャリア濃度および波長の関数として近似することができた。これらのことからも、サンプル1の基板は、サンプル2のようなVAS法で得られる基板と同等の高い結晶品質を有していたことを確認した。また、サンプル1の基板では、赤外域における吸収係数が、ばらつくことなく、式(3)により近似可能であることで、赤外線照射によりサンプル1の基板を加熱したときに、該基板を精度良くかつ再現性良く加熱することが可能となることを確認した。
【0324】
上述の実験1の結果によれば、実施例の基板において、高酸素濃度領域と低酸素濃度領域とは、基板の主面内で均等にランダムに分散していた。低酸素濃度領域の平面視での大きさは、厚さ方向にランダムに変化していた。また、低酸素濃度領域は、厚さ方向に連続していなかった。実験2の結果は当該実験1の結果を支持し、サンプル1の基板では、透過率および反射率の面内ばらつきは小さかったことを確認した。
【0325】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0326】
(付記1)
気相成長法を用いた窒化物半導体基板の製造方法であって、
下地基板を準備する工程と、
前記下地基板上にIII族窒化物半導体からなる第1下地層を形成する工程と、
前記第1下地層上に金属層を形成する工程と、
熱処理を行い、前記第1下地層中にボイドを形成する工程と、
III族窒化物半導体の単結晶からなり、最も近い低指数の結晶面が(0001)面である主面を有する第2下地層を、前記第1下地層の上方にエピタキシャル成長させ、該第2下地層の前記主面を鏡面化させる工程と、
(0001)面が露出した頂面を有するIII族窒化物半導体の単結晶を前記第2下地層の前記主面上に直接的にエピタキシャル成長させ、前記(0001)面以外の傾斜界面で構成される複数の凹部を前記頂面に生じさせ、前記第2下地層の前記主面よりも上方に行くにしたがって該傾斜界面を徐々に拡大させ、前記(0001)面を前記頂面から少なくとも一度消失させ、3次元成長層を成長させる工程と、
前記3次元成長層をスライスし、前記窒化物半導体基板を形成する工程と、
を有する
窒化物半導体基板の製造方法。
【0327】
(付記2)
前記3次元成長層を成長させる工程では、
前記3次元成長層において前記傾斜界面を成長面として成長させた傾斜界面成長領域を形成し、
前記3次元成長層を前記主面に沿って切った沿面断面において前記傾斜界面成長領域が占める面積割合を、80%以上とする
付記1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【0328】
(付記3)
前記3次元成長層を形成する工程は、
前記(0001)面を前記頂面から消失させた後に、前記傾斜界面成長領域が前記沿面断面の80%以上の面積を占める状態を維持しつつ、所定の厚さに亘って前記単結晶の成長を継続させ、傾斜界面維持層を形成する工程を有する
付記2に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【0329】
(付記4)
前記3次元成長層をスライスする工程では、
前記傾斜界面維持層をスライスする
付記3に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【0330】
(付記5)
前記3次元成長層を形成する工程では、
前記傾斜界面成長領域中に取り込まれる酸素の濃度以上の濃度で、導電型不純物を添加する
付記2~4のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【0331】
(付記6)
前記3次元成長層を形成する工程では、
前記(0001)面を成長面として所定の厚さで前記単結晶を成長させた後に、該単結晶の前記頂面に前記複数の凹部を生じさせる
付記1~5のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【0332】
(付記7)
前記3次元成長層を形成する工程では、
前記傾斜界面として、m≧3である{11-2m}面を生じさせる
付記1~6のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【0333】
(付記8)
前記3次元成長層を形成する工程では、
前記単結晶の前記頂面に前記複数の凹部を生じさせ、前記(0001)面を消失させることで、前記3次元成長層の表面に、複数の谷部および複数の頂部を形成し、
前記主面に垂直な任意の断面を見たときに、前記複数の谷部のうちの1つを挟んで前記複数の頂部のうちで最も接近する一対の頂部同士が前記主面に沿った方向に離間した平均距離を、100μm超とする
付記1~7のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【0334】
(付記9)
前記3次元成長層を形成する工程では、
最も接近する前記一対の頂部同士の前記平均距離を、800μm未満とする
付記8に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【0335】
(付記10)
前記窒化物半導体基板をスライスする工程では、
前記窒化物半導体基板の前記(0001)面の曲率半径を、前記第2下地層を前記3次元成長層と同じ厚さで成長させ、前記3次元成長層を形成する工程を行わずに前記第2下地層をスライスした場合の窒化物半導体基板の前記(0001)面の曲率半径よりも大きくする
付記1~9のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【0336】
(付記11)
前記窒化物半導体基板の前記(0001)面の曲率半径を、15m以上とする
付記10に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【0337】
(付記12)
2インチ以上の直径を有し、III族窒化物半導体の単結晶からなり、最も近い低指数の結晶面が(0001)面である主面を有する窒化物半導体基板であって、
9×1017cm-3以上の酸素濃度を有する高酸素濃度領域を有し、
前記主面において前記高酸素濃度領域が占める面積割合は、80%以上である
窒化物半導体基板。
【0338】
(付記13)
5×1016cm-3以下の酸素濃度を有する低酸素濃度領域を有する
付記12に記載の窒化物半導体基板。
【0339】
(付記14)
前記主面における前記低酸素濃度領域は、小さくとも50μm角の無転位領域を含む
付記13に記載の窒化物半導体基板。
【0340】
(付記15)
平面視での前記低酸素濃度領域の大きさは、前記主面と反対の裏面から前記主面に向けて変化している
付記13又は14に記載の窒化物半導体基板。
【0341】
(付記16)
前記低酸素濃度領域は、前記主面と反対の裏面から前記主面に向けて連続的に繋がっていない
付記13~15のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板。
【0342】
(付記17)
5×1016cm-3以下の酸素濃度を有する低酸素濃度領域を有しない
付記13~16のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板。
【0343】
(付記18)
500nm以上700nm以下の波長範囲における吸収係数は、0.15cm-1以下である
付記12~17のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板。
【0344】
(付記19)
波長をλ(μm)、27℃における前記窒化物半導体基板の吸収係数をα(cm-1)、前記窒化物半導体基板中の自由電子濃度をn(cm-3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、
少なくとも1μm以上2.5μm以下の波長範囲における前記吸収係数αは、最小二乗法で以下の式(3)により近似され、
波長2μmにおいて、前記式(3)から求められる前記吸収係数αに対する、実測される前記吸収係数の誤差は、±0.1α以内である
付記12~18のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板。
α=nKλ ・・・(3)
(ただし、1.5×10-19≦K≦6.0×10-19、a=3)
【0345】
(付記20)
前記主面内の異なる複数点で、500nm以上700nm以下の波長範囲の光の透過率を測定したときに、
500nm以上700nm以下の波長範囲内のそれぞれの波長における前記透過率の、前記主面内のばらつきは、±0.5%以内である
付記12~19のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板。
【0346】
(付記21)
前記主面内の異なる複数点で、500nm以上700nm以下の波長範囲の光の反射率を測定したときに、
500nm以上700nm以下の波長範囲内のそれぞれの波長における前記反射率の、前記主面内のばらつきは、±0.5%以内である
付記12~20のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板。
【0347】
(付記22)
前記主面内で中心を通る直線上の各位置において(0002)面のX線ロッキングカーブ測定を行い、前記主面へ入射したX線と前記主面とがなすピーク角度ωを、前記直線上の位置に対してプロットし、前記ピーク角度ωを前記位置の1次関数で近似したときに、
前記1次関数の傾きの逆数により求められる前記(0001)面の曲率半径は、15m以上であり、
前記1次関数に対する、測定された前記ピーク角度ωの誤差は、0.05°以下である
付記12~21のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板。
【0348】
(付記23)
多光子励起顕微鏡により視野250μm角で前記主面を観察して暗点密度から転位密度を求めたときに、転位密度が3×10cm-2を超える領域が前記主面に存在せず、転位密度が1×10cm-2未満である領域が前記主面の80%以上存在する
付記12~22のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板。
【0349】
(付記24)
前記主面は、重ならない50μm角の無転位領域を100個/cm以上の密度で有する
付記12~23のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板。
【0350】
(付記25)
前記主面は、転位が相対的に集中した転位集中領域を有し、
多光子励起顕微鏡により前記転位集中領域を含む50μm角の視野で前記主面を観察して暗点密度から転位密度を求めたときに、転位密度は、3×10cm-2未満である
付記12~24のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板。
【0351】
(付記26)
前記主面のカソードルミネッセンス像において長さ200μmの任意の仮想的な線分を引いたときに、該線分と基底面転位との交点の数は、10点以下である
付記12~25のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板。
【0352】
(付記27)
前記窒化物半導体基板と、所定のIII族窒化物半導体のノンドープの単結晶を前記主面上にエピタキシャル成長させた半導体層と、を有する積層物を作製し、
前記窒化物半導体基板と同一のIII族窒化物半導体で前記高酸素濃度領域よりも低い酸素濃度を有する単結晶からなる基準基板と、前記半導体層と同一の単結晶を前記基準基板上にエピタキシャル成長させた基準半導体層と、を有する基準積層物を作製し、
前記積層物の前記半導体層と前記基準積層物の前記基準半導体層とのそれぞれにおけるフォトルミネッセンスを温度差1℃未満で測定した場合に、
前記積層物の前記半導体層における最大ピーク波長と、前記基準積層物の前記基準半導体層における最大ピーク波長との差は、1nm以下である
付記12~26のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板。
【0353】
(付記28)
III族窒化物半導体の単結晶からなり、鏡面化された主面を有し、前記主面に対して最も近い低指数の結晶面が(0001)面である下地層と、
前記下地層上に設けられ、III族窒化物半導体の単結晶からなり、(0001)面以外の傾斜界面で構成される複数の凹部を表面に有する3次元成長層と、
を有し、
前記3次元成長層は、9×1017cm-3以上の酸素濃度を有するIII族窒化物半導体の単結晶からなる高酸素濃度領域を有し、
前記3次元成長層は、前記主面に沿って切った沿面断面であって、前記高酸素濃度領域が占める面積割合が80%以上である断面を有する
積層構造体。
【0354】
(付記29)
前記3次元成長層は、前記下地層の前記主面上に設けられ、5×1016cm-3以下の酸素濃度を有するIII族窒化物半導体の単結晶からなる低酸素濃度領域を有し、
前記低酸素濃度領域は、前記下地層から前記3次元成長層の前記表面まで連続していない
付記28に記載の積層構造体。
【0355】
(付記30)
前記沿面断面を複数見たときに、前記低酸素濃度領域を含まない断面が、前記3次元成長層の厚さ方向の少なくとも一部に存在する
付記29に記載の積層構造体。
【0356】
(付記31)
前記主面に垂直な任意の断面を見たときに、
前記低酸素濃度領域の上面は、複数の谷部および複数の山部を有し、
前記複数の谷部のうちの1つを挟んで前記複数の山部のうちで最も接近する一対の山部同士が前記主面に沿った方向に離間した平均距離は、100μm超である
付記29又は30に記載の積層構造体。
【0357】
(付記32)
前記下地層は、前記主面と反対側に、9×1017cm-3以上の酸素濃度を有するIII族窒化物半導体の単結晶からなる高酸素濃度領域を有する
付記28~30のいずれか1つに記載の積層構造体。
【符号の説明】
【0358】
1 下地基板
2 第1下地層
3 金属層
4 ボイド含有第1下地層
5 金属窒化層
6 第2下地層
10 下地構造体
30 3次元成長層
50 窒化物半導体基板(基板)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19