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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】SPRセンサチップおよびSPRセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20230830BHJP
【FI】
G01N21/41 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019177950
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021056048
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代人工知能・ロボット中核技術開発/ロボットに実装可能なMEMS味覚センサ」事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下山 勲
(72)【発明者】
【氏名】野田 堅太郎
(72)【発明者】
【氏名】塚越 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】森藤 陸太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼畑 智之
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-189523(JP,A)
【文献】特開2005-147891(JP,A)
【文献】特開2009-168469(JP,A)
【文献】特開2005-156415(JP,A)
【文献】特開2008-089495(JP,A)
【文献】特開2008-057980(JP,A)
【文献】特開2013-113764(JP,A)
【文献】特表2014-522977(JP,A)
【文献】特開2012-26839(JP,A)
【文献】特表2013-527456(JP,A)
【文献】都甲 潔,味と匂いを感じるセンサの開発,醤油の研究と技術 ,Vol.43, No.5, 2017,一般財団法人 日本醤油技術センター,2017年09月,Pages 305-313
【文献】都甲 潔,味とにおいを数値化するセンサの開発,日本醸造協会誌,2016年,111巻、2号,p.86-94
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
G01N 27/00 - G01N 27/92
G01N 33/00 - G01N 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過する誘電体と、
前記誘電体の表面に設けられ、前記光が前記誘電体との第1の界面に入射することにより表面プラズモン共鳴を誘起する第1の金属膜と、
前記誘電体の前記表面のうち、前記第1の金属膜とは異なる位置に設けられ、前記光が前記誘電体との第2の界面に入射することにより表面プラズモン共鳴を誘起する第2の金属膜と、
前記第1の金属膜上に設けられ、複数の検出対象物質を特異的に吸着する第1の感応膜と、
前記第2の金属膜上に設けられ、前記第1の感応膜とは異なる吸着速度で、前記複数の検出対象物質を特異的に吸着する第2の感応膜と
を備えるSPRセンサチップ。
【請求項2】
請求項1に記載のSPRセンサチップと、
前記SPRセンサチップに入射させる前記光を発する光源と、
前記表面プラズモン共鳴の応答を検出するSPR応答検出部と、
前記SPR応答検出部の検出結果に基づき、主成分分析を行うことによって、前記第1の感応膜と前記第2の感応膜とに吸着した前記複数の検出対象物質の種類と濃度との分析を行う分析部と
を備えるSPRセンサ。
【請求項3】
前記SPRセンサチップの前記誘電体はシリコンで形成されており、
前記光源が発する前記光は赤外光であり、
前記SPR応答検出部は、前記第1の金属膜と前記誘電体との間に流れる第1の電流の第1の電流値と、前記第2の金属膜と前記誘電体との間に流れる第2の電流の第2の電流値とを検出し、
前記分析部は、前記第1の電流値と前記第2の電流値とに基づき前記主成分分析を行う請求項2に記載のSPRセンサ。
【請求項4】
前記SPRセンサチップの前記誘電体はガラスで形成されており、
前記光源が発する前記光は可視光から近赤外光の波長範囲の光であり、
前記SPR応答検出部は、前記第1の界面で全反射した前記光の第1の反射光量と、前記第2の界面で全反射した前記光の第2の反射光量とを検出し、
前記分析部は、前記第1の反射光量と前記第2の反射光量とに基づき前記主成分分析を行う請求項2に記載のSPRセンサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SPRセンサチップおよびSPRセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面プラズモン共鳴(SPR;Surface Plasmon Resonance)法を利用するセンサ(SPRセンサ)の動作原理は、以下の通りである。例えば、プリズムの表面に金属膜が設けられたSPRセンサの場合、プリズムを介して金属膜に光を入射させ、当該金属膜の近傍においてエバネッセント波を発生させる。金属膜の表面には、光が入射することにより表面プラズモンが発生する。所定の共鳴条件に合致すると、エバネッセント波と表面プラズモンとが共鳴し(すなわち表面プラズモン共鳴が発生し)、プリズムと金属膜との界面での光の反射光量が減少する。光の反射光量が最小値となるときのプリズムと金属膜との界面における入射角を共鳴角という。表面プラズモン共鳴における共鳴条件には、例えば、光の入射角、光の波長、金属膜周囲の媒質の誘電率などの条件が含まれる。
【0003】
特許文献1には、誘電体で形成されたプリズムと、プリズムの表面上に設けられた金属膜と、金属膜のプリズムと接触している面とは反対側の面に設けられ、試料に含まれる検出対象物質を特異的に吸着する感応膜とを備える計測装置が開示されている。この計測装置は、プリズムと金属膜との界面に入射させる光の入射角度を変えながら、金属膜で反射した反射光の光量を計測することによって、試料の分析を行う。金属膜周囲の媒質としての感応膜は、検出対象物質を吸着すると誘電率が変化する。感応膜の誘電率が変化すると共鳴角が変化する。この共鳴角の変化を検出することによって、検出対象物質の検出が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-180110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載される計測装置では、誘電率の変化により検出対象物を検出するので、誘電率の差が小さい複数の検出対象物質を判別することが困難であった。例えば、食品の味を客観的に評価する場合、食品に含まれるナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、カルシウムイオン(Ca2+)を定量する必要性が高いが、これらのイオンは誘電率の差が小さい。したがって、誘電率の差が小さい検出対象物質を、SPR法を用いて判別可能とするセンサの実現が望まれていた。
【0006】
本発明は、試料に含まれる複数の検出対象物質の種類と濃度とを判別することができるSPRセンサチップおよびSPRセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るSPRセンサチップは、光を透過する誘電体と、前記誘電体の表面に設けられ、前記光が前記誘電体との第1の界面に入射することにより表面プラズモン共鳴を誘起する第1の金属膜と、前記誘電体の前記表面のうち、前記第1の金属膜とは異なる位置に設けられ、前記光が前記誘電体との第2の界面に入射することにより表面プラズモン共鳴を誘起する第2の金属膜と、前記第1の金属膜上に設けられ、複数の検出対象物質を特異的に吸着する第1の感応膜と、前記第2の金属膜上に設けられ、前記第1の感応膜とは異なる吸着速度で、前記複数の検出対象物質を特異的に吸着する第2の感応膜とを備える。
【0008】
本発明に係るSPRセンサは、上記のSPRセンサチップと、前記SPRセンサチップに入射させる前記光を発する光源と、前記表面プラズモン共鳴の応答を検出するSPR応答検出部と、前記SPR応答検出部の検出結果に基づき、主成分分析を行うことによって、前記第1の感応膜と前記第2の感応膜とに吸着した前記複数の検出対象物質の種類と濃度との分析を行う分析部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試料に含まれる複数の検出対象物質の種類と濃度とを判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明を実施したSPRセンサチップを示す説明図である。
図2】本発明を実施したSPRセンサの一例を示す説明図である。
図3】反射光量と入射角との関係を説明するための説明図である。
図4】光の入射角を共鳴角に固定した場合の反射光量と時間との関係を説明するための説明図である。
図5】第2実施形態のSPRセンサチップを示す説明図である。
図6】第2実施形態のSPRセンサの一例を示す説明図である。
図7】ナフィオンを用いて水における共鳴角を測定した結果を示すグラフである。
図8】フレミオンを用いて水における共鳴角を測定した結果を示すグラフである。
図9】ナフィオンを用いて各種濃度の試料における反射光量の測定結果を示すグラフであり、(a)はNaCl水溶液の測定結果、(b)はKCl水溶液の測定結果、(c)はCaCl水溶液の測定結果を示す。
図10】フレミオンを用いて各種濃度の試料における反射光量の測定結果を示すグラフであり、(a)はNaCl水溶液の測定結果、(b)はKCl水溶液の測定結果、(c)はCaCl水溶液の測定結果を示す。
図11】ナフィオンを用いた場合の実験値をフィッティングした結果を示すグラフであり、(a)はNaCl水溶液の測定結果、(b)はKCl水溶液の測定結果、(c)はCaCl水溶液の測定結果を示す。
図12】フレミオンを用いた場合の実験値をフィッティングした結果を示すグラフであり、(a)はNaCl水溶液の測定結果、(b)はKCl水溶液の測定結果、(c)はCaCl水溶液の測定結果を示す。
図13】主成分分析を行った分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
図1において、本発明を実施したSPR(Surface Plasmon Resonance;表面プラズモン共鳴)センサチップ10は、SPR法を利用して複数の検出対象物質の種類と濃度とを検出するSPRセンサに用いられる。複数の検出対象物質は、後述する第1の感応膜14と第2の感応膜15とに対する吸着速度が互いに異なる。検出対象物質は、例えばイオンまたは糖類である。イオンは、陽イオンと陰イオンとを含む。陽イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)などが挙げられる。陰イオンとしては、例えば、塩化物イオン(Cl)などが挙げられる。Na、K、Ca2+などは、味物質を構成するイオンである。味物質は、ヒトや動物が味覚として認識できる化学物質をいい、塩味、酸味、甘味、苦味、旨味などの種類がある。糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトースなどが挙げられる。図1は、図中XYZ方向(X,Y,Zの各方向は互いに直交)のうち、Y方向と直交するXZ平面に沿ったSPRセンサチップ10の断面図である。
【0012】
SPRセンサチップ10は、誘電体11と、第1の金属膜12と、第2の金属膜13と、第1の感応膜14と、第2の感応膜15とを備える。図1に示すSPRセンサチップ10の構成は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。第1の金属膜12、第2の金属膜13、第1の感応膜14、および第2の感応膜15の数は、本実施形態ではそれぞれ1つずつであるが、これに限られず適宜変更することができる。
【0013】
本実施形態では、SPRセンサチップ10は、複数の検出対象物質を含む試料18が配置される試料配置部19をさらに備える。試料配置部19は誘電体11の表面11aに設けられている。試料配置部19は枠状に形成されている。試料配置部19の材料は特に限定されないが例えば、ABS樹脂、光硬化性の樹脂、シリコン(Si)などが用いられる。試料配置部19の内部には液体の試料18が充填される。試料配置部19の内部における誘電体11の表面11aには、第1の金属膜12、第2の金属膜13、第1の感応膜14、および第2の感応膜15が設けられている。なお、試料配置部19は、第1の感応膜14および第2の感応膜15の表面を覆うように試料が配置できれば必ずしも設ける必要はなく、例えば第1の感応膜14および第2の感応膜15の表面に試料を液滴状に配置することにより省略できる。例えば、第1の感応膜14の周囲および第2の感応膜15の周囲に疎水性膜を配置することにより、液体の表面張力を利用して試料を液滴の状態に保持することができる。
【0014】
誘電体11は、表面11aおよび裏面11bを有する。表面11aには、複数の検出対象物質を含む試料18が接触する。裏面11bには、後述する光源31が発する光Lが入射する。誘電体11は光Lを透過させる材料により形成される。光Lとしては、種々の光を用いることができ、例えば可視光から赤外光の波長範囲の光を適用することができる。光Lが赤外光(波長範囲が概ね1μm以上10μm以下の領域)である場合は、誘電体11の材料としてシリコンを用いることができる。光Lが可視光から近赤外光の波長範囲の光(波長範囲が概ね380nm以上2.5μm以下の領域)である場合は、誘電体11の材料として、ガラス、光透過性の樹脂などを用いることができる。ガラスとしては、BK7などの光学ガラスを用いることができる。光透過性の樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリカーボネートなどを用いることができる。本実施形態では、誘電体11はシリコンで形成され、光Lとして赤外光が用いられる。
【0015】
誘電体11は、プレート22とプリズム23とを有する。プレート22の表面は誘電体11の表面11aを構成する。本実施形態では、プレート22は、第1の金属膜12との界面、および、第2の金属膜13との界面において、ショットキー障壁を形成する材料により形成される。例えば、プレート22はP(リン)がドープされたn型シリコンにより形成される。プリズム23は、プレート22の裏面に設けられている。すなわち、プリズム23の表面はプレート22の裏面と接しており、プリズム23の裏面は誘電体11の裏面11bを構成する。プリズム23は柱状に形成されている。プリズム23のXZ平面に沿った断面形状は、例えば、三角形、台形、半円形、楕円形とされる。図1では、プリズム23の断面形状は直角三角形である。
【0016】
第1の金属膜12は、誘電体11の表面11aに設けられる。第1の金属膜12は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)などで形成される。第1の金属膜12は、例えば蒸着法により形成される。第1の金属膜12の厚みは、特に限定されないが、例えば、50nm~200nmとされる。第1の金属膜12の厚み方向は、図1におけるZ方向と一致する。本実施形態では、第1の金属膜12は、シリコンで形成された誘電体11とショットキー接合されている。第1の金属膜12と誘電体11との界面である第1の界面24でショットキー障壁が形成される。
【0017】
第2の金属膜13は、誘電体11の表面11aのうち、第1の金属膜12とは異なる位置に設けられる。図1において、第2の金属膜13は、第1の金属膜12に対し、X方向へ離して配置されている。すなわち、第1の金属膜12と第2の金属膜13とは、互いに所定の間隔を設けて配置されている。第2の金属膜13は、Au、Ag、Cuなどで形成される。第2の金属膜13は、例えば蒸着法により形成される。第2の金属膜13の厚みは、特に限定されないが、例えば、50nm~200nmとされる。第2の金属膜13の厚み方向は、図1におけるZ方向と一致する。本実施形態では、第2の金属膜13は、シリコンで形成された誘電体11とショットキー接合されている。第2の金属膜13と誘電体11との界面である第2の界面25でショットキー障壁が形成される。
【0018】
本実施形態では、誘電体11における第1の金属膜12と第2の金属膜13との間に、第1の金属膜12と第2の金属膜13とを電気的に絶縁するための絶縁部(図示なし)が設けられている。絶縁部は、例えばシリコンのpn接合においてドーピング濃度をコントロールすることにより形成することができる。
【0019】
第1の感応膜14は、第1の金属膜12上に設けられる。第1の感応膜14は、試料18に含まれる複数の検出対象物質を特異的に吸着する。第1の感応膜14は、検出対象物質が吸着することにより誘電率が変化する。第1の感応膜14の厚みは、用いる光Lの波長によって適宜設定される。第1の感応膜14の厚みの上限は、光Lの波長とほぼ同じであることが望ましい。第1の感応膜14の一例としては、イオンを吸着するイオン交換膜、糖類を吸着するフェニルボロン酸化合物を有するボロン酸膜が挙げられる。
【0020】
イオン交換膜としては、例えば、下記化学式(1)で示すナフィオン(登録商標:デュポン社製)、下記化学式(2)で示すフレミオン(登録商標:旭硝子社製)が挙げられる。ナフィオンとフレミオンは、陽イオンを吸着する陽イオン交換膜の一種である。
【0021】
【化1】
【0022】
【化2】
【0023】
ボロン酸膜としては、ポリマーなどで形成された基体の表面が、下記化学式(3)または下記化学式(4)で示すフェニルボロン酸化合物で被覆された膜が用いられる。
【0024】
【化3】
【0025】
【化4】
【0026】
第2の感応膜15は、第2の金属膜13上に設けられる。図1において、第2の感応膜15は、第1の感応膜14に対し、X方向へ離して配置されている。すなわち、第1の感応膜14と第2の感応膜15とは、互いに所定の間隔を設けて配置されている。第2の感応膜15は、第1の感応膜14とは異なる吸着速度で、試料18に含まれる複数の検出対象物質を特異的に吸着する。第2の感応膜15は、検出対象物質が吸着することにより誘電率が変化する。第2の感応膜15の厚みは、用いる光Lの波長によって適宜設定される。第2の感応膜15の厚みの上限は、光Lの波長とほぼ同じであることが望ましい。第2の感応膜15の一例としては、第1の感応膜14とは異なるイオン交換膜またはボロン酸膜が挙げられる。例えば、第1の感応膜14としてフレミオンを用いる場合は、第2の感応膜15としてナフィオンを用いる。
【0027】
本実施形態では、SPRセンサチップ10は、第1の金属膜12および第2の金属膜13とそれぞれ電気的に接続した2つの電極27をさらに備える。各電極27は、本実施形態では誘電体11の表面11a、すなわちプレート22の表面に設けられているが、プレート22の裏面や側面に設けてもよい。図1では、2つの電極27のうち、一方の電極のみを図示しており、他方の電極については、Y方向側に隠れている。各電極27は、例えばアルミニウム(Al)で形成される。各電極27は、誘電体11とオーミック接触している。第1の金属膜12、第2の金属膜13、および2つの電極27は、図示しない配線を介して接続されている。この配線には後述する電流検出部33が接続している。
【0028】
SPRセンサチップ10では、誘電体11の裏面11bに入射した光L(赤外光)が、シリコンで形成された誘電体11の内部を透過して臨界角を超える角度で誘電体11の表面11aに入射することで、第1の界面24で全反射し、かつ、第2の界面25で全反射する。これにより第1の界面24と第2の界面25とにエバネッセント波が発生し、このエバネッセント波から第1の金属膜12および第2の金属膜13の金属の自由電子がエネルギーを得ることによって、電子の粗密波であるSPRが誘起される。第1の金属膜12および第2の金属膜13の金属の自由電子は、光Lのエネルギーにより励起され、ショットキー障壁を乗り越えて誘電体11の内部に拡散する。自由電子の拡散に応じて誘電体11の内部の正孔が第1の金属膜12および第2の金属膜13の内部に拡散する。この結果、第1の金属膜12と誘電体11との間に第1の電流が流れ、かつ、第2の金属膜13と誘電体11との間に第2の電流が流れる。第1の電流と第2の電流とは、後述する電流検出部33によって検出される。また、光LのエネルギーがSPRの誘起により奪われるので、第1の界面24で全反射する光Lの第1の反射光量が減少し、第2の界面25で反射する光Lの第2の反射光量が減少する。
【0029】
第1の感応膜14と第2の感応膜15とに試料18が接触し、試料18に含まれる複数の検出対象物質が第1の感応膜14と第2の感応膜15とに吸着すると、第1の感応膜14と第2の感応膜15との各誘電率が変化し、SPRにおける共鳴条件が変化する。この結果、第1の金属膜12および第2の金属膜13の金属の自由電子は、光Lから受け取るエネルギーが減少するので、動きが変化する。本実施形態では、SPRセンサチップ10は、後述するSPRセンサとしての味覚センサ30において、自由電子の動きの変化を電流値の変化として検出可能とする。また、SPRにおける共鳴条件が変化することにより、第1の金属膜12と誘電体11との第1の界面24で全反射した光Lの第1の反射光量と、第2の金属膜13と誘電体11との第2の界面25で全反射した光Lの第2の反射光量とが変化する。
【0030】
図2において、SPRセンサの一例としての味覚センサ30は、SPRセンサチップ10を用いて、検出対象物質としての味物質を検出する。図2に示す味覚センサ30の構成は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。本実施形態において、味覚センサ30は、SPRセンサチップ10の第1の感応膜14としてフレミオンを用い、第2の感応膜15としてナフィオンを用いることにより、試料18に含まれる検出対象物質としてのイオンがNa、K、Ca2+のいずれであるかを識別し、かつ、各イオンの濃度を検出する。この味覚センサ30は、食品の味を客観的に評価するために利用可能である。
【0031】
味覚センサ30は、SPRセンサチップ10に加え、光源31と、入射角調整機構32と、電流検出部33と、制御部34とをさらに備える。
【0032】
光源31は、SPRセンサチップ10の誘電体11の裏面11bに入射させる光Lを発する。光源31は、図示しないが、例えば、発光素子、レンズ、ミラーなどにより構成されている。発光素子としては、例えば、LD(Laser Diode)またはLED(Light Emitting Diode)が用いられる。光源31が発する光Lの波長範囲は、誘電体11を透過する波長範囲とされる。本実施形態では、光源31が発する光Lは赤外光である。
【0033】
入射角調整機構32は、SPRセンサチップ10に入射させる光Lの入射角を調整する。入射角は、誘電体11の表面11aと垂直な方向に対する角度である。入射角調整機構32は、例えば、図示しないレンズやミラーを回転移動させることにより、入射角を調整可能に構成することができる。なお、入射角調整機構32は、SPRセンサチップ10や光源31を回転させる回転ステージ(図示なし)を用いて、入射角を調整可能に構成してもよい。
【0034】
電流検出部33は、第1の金属膜12と誘電体11との間に流れる第1の電流の電流値である第1の電流値と、第2の金属膜13と誘電体11との間に流れる第2の電流の電流値である第2の電流値とを検出する。電流検出部33は、制御部34と電気的に接続しており、検出した第1の電流値および第2の電流値に対応した検出信号を生成して制御部34へ出力する。第1の感応膜14と第2の感応膜15とに検出対象物質が特異的に結合し、第1の感応膜14と第2の感応膜15との誘電率が変化すると、第1の金属膜12および第2の金属膜13の金属の自由電子は、光Lから受け取るエネルギーが変化することによって、動きが変化する。電流検出部33は、自由電子の動きの変化を電流値の変化として検出する。例えば、光Lの入射角が、第1の反射光量が最小となる共鳴角からずれた場合は、第1の金属膜12の金属の自由電子が光Lから受け取るエネルギーが減少し、自由電子の動きが小さくなるので、電流検出部33で検出される第1の電流値が減少する。光Lの入射角が、第2の反射光量が最小となる共鳴角からずれた場合は、電流検出部33で検出される第2の電流値が減少する。このように、自由電子の動きの変化が電流値の変化として表れるので、電流値を表面プラズモン共鳴の応答(以下、SPR応答と称する)として用いることができる。すなわち、電流検出部33は、SPR応答として電流値を検出するものであり、SPR応答を電気的に検出するSPR応答検出部として機能する。
【0035】
また、光Lの入射角が共鳴角からずれた場合は、上記のように第1の電流値および第2の電流値が減少する一方で、第1の反射光量および第2の反射光量は増加する。このように、電流値と反射光量との間には、光Lの入射角が共鳴角からずれた場合に、電流値が減少し、反射光量が増加するといった一定の相関関係を有する。例えば上記の相関関係を定義したテーブルを制御部34に予め記憶しておき、制御部34に記憶されたテーブルの相関関係と電流検出部33で検出された電流値とに基づき、反射光量を求めることができる。すなわち、電流値を上記の相関関係を用いて反射光量に変換することができる。本実施形態では、電流値を反射光量に変換し、変換した反射光量をパラメータとして用いて後述する主成分分析を行う。なお、電流値を反射光量に変換せずに、電流値をパラメータとして主成分分析を行ってもよい。
【0036】
制御部34は、SPRセンサチップ10、光源31、入射角調整機構32、電流検出部33などと電気的に接続しており、味覚センサ30の各部の制御を行う。例えば、制御部34は、光源31の点灯、消灯、および光Lの発光量の制御を行う。制御部34は、入射角調整機構32を駆動し、SPRセンサチップ10に対する光Lの入射角の調整を行う。
【0037】
制御部34は、SPR応答検出部で検出したSPR応答の検出結果に基づき、主成分分析を行うことによって、第1の感応膜14と第2の感応膜15とに吸着した検出対象物質の種類と濃度との分析を行う分析部35を有する。本実施形態では、分析部35は、SPR応答検出部としての電流検出部33で検出された第1の電流値と第2の電流値とに基づき、第1の反射光量と第2の反射光量とを求め、求めた第1の反射光量と第2の反射光量とをパラメータとして用いて主成分分析を行う。
【0038】
以下、分析部の分析方法の一例について説明する。以下の説明では、第1の感応膜の分析と第2の感応膜の分析とを区別せずに説明するが、各々の分析方法は同じである。
【0039】
分析部は、SPR応答検出部で検出したSPR応答の検出結果に基づき、反射光量が最小となる入射角、すなわち共鳴角を検出する。具体的には、分析部は、誘電体の表面に水が接触している状態における共鳴角θSPRと、誘電体の表面に試料が接触している状態における共鳴角θSPR+Δθ(t)とを検出する。
【0040】
図3は、反射光量と入射角との関係を説明するための説明図である。図3において、横軸が入射角であり、縦軸が反射光量である。図3は、本発明を実施したSPRセンサチップに対する入射角を変えて、各入射角での反射光量を検出した結果をプロットしたグラフである。誘電体の表面に水が接触している状態での応答曲線を符号37で示し、誘電体の表面に試料が接触している状態での応答曲線を符号38で示している。図3より、応答曲線38は、応答曲線37に対し、紙面右方向へ移動することが確認できる。
【0041】
共鳴角θSPRよりも0.1°程度小さい角度θにおいて、水における反射光量に対する試料における反射光量の変化を、反射光量の変化量I(t)とする。図3では、反射光量の変化量I(t)を矢印で示している。図3より、角度θにおける反射光量は、水の場合よりも試料の場合の方が大きいことが確認できる。すなわち、試料の場合は、水の場合よりも反射光量が増加する。
【0042】
図3において、水の応答曲線37に対し、試料の応答曲線38が紙面左右方向に平行移動すると仮定すると、試料における角度θで測定される反射光量は、水における角度θ-Δθ(t)で測定される反射光量と等しい。よって、ディップの部分(すなわち、共鳴角の部分)の式をR(θ)、共鳴角の移動量をΔθ(t)とすると、反射光量の変化量I(t)は、下記数式(1)で表される。反射光量の変化量I(t)は、後述するフィッティングに用いられる。
【0043】
【数1】
【0044】
R(θ)は、誤差関数を用いて下記数式(2)で表される。
【0045】
【数2】
【0046】
数式(2)において、aは、十分に時間が経過した後の共鳴角であり、bは、任意の定数であり、cは、反射光量の時間変化量である。数式(2)における上記のa、b、およびcの値は、感応膜の種類、感応膜の厚み、試料の濃度によって異なる。
【0047】
図4は、光Lの入射角を共鳴角に固定した場合の反射光量と時間との関係を説明するための説明図である。図4において、横軸が時間であり、縦軸が反射光量である。図4は、所定時間が経過する毎に検出された反射光量をプロットしたグラフである。
【0048】
分析部は、水における共鳴角θSPRと試料における共鳴角θSPR+Δθ(t)とに基づき、反射光量の変化量I(t)を求める。共鳴角の移動量Δθ(t)は、検出対象物質の濃度によって、その振る舞いが異なると考えられる。共鳴角の移動量Δθ(t)は、ゴンペルツの式に基づき、下記数式(3)で表すことができる。数式(3)において、R´(θ)は、ディップの部分の式における角度θでの傾きを示す。
【0049】
【数3】
【0050】
数式(3)におけるAは下記数式(4)によって与えられる。数式(3)におけるcは下記数式(5)によって与えられる。
【0051】
【数4】
【0052】
【数5】
【0053】
そして、数式(1)に示す反射光量の変化量I(t)でフィッティングすることにより、主成分分析に用いるパラメータとして、Aの値とcの値を求める。Aは、十分に時間が経過したときの共鳴角の移動量を示す。cは、反射光量の変化を示すグラフ(図4参照)においてt=0での傾きを示す。なお、傾きは、その大小によって差があるので、cの対数である-log10cとして求める。求めたAの値と-log10cの値とをパラメータとして用いて主成分分析を行う。
【0054】
以上のように、SPRセンサとしての味覚センサ30は、SPR応答検出部(電流検出部33)で検出したSPR応答の検出結果(電流値)に基づき、主成分分析を行うことによって、複数の検出対象物質の種類と濃度との分析を行うことができる。
【0055】
[第2実施形態]
第2実施形態は、誘電体がガラスで形成され、この誘電体と金属膜との界面で全反射した可視光の反射光量を検出し、検出した反射光量に基づき、主成分分析を行うものである。上記第1実施形態と同じ部品を用いるものについては、同符号を付して説明を省略する。
【0056】
図5において、SPRセンサチップ50は、誘電体51と、第1の金属膜12と、第2の金属膜13と、第1の感応膜14と、第2の感応膜15とを備える。図5に示すSPRセンサチップ50の構成は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。
【0057】
誘電体51は、表面51aおよび裏面51bを有する。表面51aには、複数の検出対象物質を含む試料18が接触する。裏面51bには、後述する光源61が発する光Lとしての可視光が入射する。誘電体51の材料は、ガラス、光透過性の樹脂などであり、本実施形態ではBK7が用いられる。
【0058】
誘電体51は、プレート52とプリズム53とを有する。プレート52の表面は誘電体51の表面51aを構成する。プリズム53は、プレート52の裏面に設けられている。すなわち、プリズム53の表面はプレート52の裏面と接しており、プリズム53の裏面は誘電体51の裏面51bを構成する。プリズム53は柱状に形成されている。図5では、XZ平面に沿ったプリズム53の断面形状は直角二等辺三角形である。
【0059】
SPRセンサチップ50では、誘電体51の裏面51bに入射した光L(可視光)が、BK7で形成された誘電体51の内部を透過して臨界角を超える角度で誘電体51の表面51aに入射することで、第1の金属膜12と誘電体51との界面である第1の界面54で全反射し、かつ、第2の金属膜13と誘電体51との界面である第2の界面55で全反射する。これにより第1の界面54と第2の界面55とにエバネッセント波が発生し、このエバネッセント波から第1の金属膜12および第2の金属膜13の金属の自由電子がエネルギーを得ることによって、電子の粗密波であるSPRが誘起される。光LのエネルギーがSPRの誘起により奪われるので、第1の界面54で全反射する光Lの第1の反射光量が減少し、第2の界面55で反射する光Lの第2の反射光量が減少する。
【0060】
第1の感応膜14と第2の感応膜15とに試料18が接触し、試料18に含まれる複数の検出対象物質が第1の感応膜14と第2の感応膜15とに吸着すると、第1の感応膜14と第2の感応膜15との各誘電率が変化し、SPRにおける共鳴条件が変化する。この結果、第1の金属膜12と誘電体51との第1の界面54で全反射した光Lの第1の反射光量と、第2の金属膜13と誘電体51との第2の界面55で全反射した光Lの第2の反射光量とが変化する。本実施形態では、SPRセンサチップ50は、後述するSPRセンサとしての味覚センサ60において、第1の反射光量と第2の反射光量とを検出可能とする。
【0061】
図6において、SPRセンサの一例としての味覚センサ60は、SPRセンサチップ50を用いて、検出対象物質としての味物質を検出する。図6に示す味覚センサ60の構成は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。本実施形態において、味覚センサ60は、SPRセンサチップ50の第1の感応膜14としてフレミオンを用い、第2の感応膜15としてナフィオンを用いることにより、試料18に含まれる検出対象物質としてのイオンがNa、K、Ca2+のいずれであるかを識別し、かつ、各イオンの濃度を検出する。この味覚センサ60は、食品の味を客観的に評価するために利用可能である。
【0062】
味覚センサ60は、SPRセンサチップ50に加え、光源61と、入射角調整機構32と、光検出部63と、制御部64とをさらに備える。光源61は、光Lが可視光であること以外は、上記第1実施形態の光源31と同じ構成を有する。
【0063】
光検出部63は、第1の金属膜12と誘電体51との界面である第1の界面54で反射した光Lの光量(第1の反射光量)を検出し、かつ、第2の金属膜13と誘電体51との界面である第2の界面55で反射した光Lの光量(第2の反射光量)を検出する。光検出部63は、SPR応答として第1の反射光と第2の反射光量とを検出するものであり、SPR応答を光学的に検出するSPR応答検出部として機能する。
【0064】
光検出部63は、第1の反射光量を検出する第1の光センサ67と、第2の反射光量を検出する第2の光センサ68とを有する。第1の光センサ67と第2の光センサ68とは、例えばPD(Photo Diode)が用いられる。第1の光センサ67と第2の光センサ68は、PDに限られず、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)イメージセンサなどを用いてもよい。第1の光センサ67と第2の光センサ68とは、図示しない配線を用いて、後述する制御部64と電気的に接続している。第1の光センサ67は第1の反射光量に対応する反射光検出信号を制御部64に出力する。第2の光センサ68は第2の反射光量に対応する反射光検出信号を制御部64に出力する。
【0065】
第1の光センサ67と第2の光センサ68とは、本実施形態ではSPRセンサチップ50の外部に配置されているが、SPRセンサチップ50の内部に配置してもよい。第1の光センサ67は第1の反射光量を検出可能な位置に適宜配置され、第2の光センサ68は第2の反射光量を検出可能な位置に適宜配置される。
【0066】
第1の光センサ67と第2の光センサ68とは、所定の時間が経過する毎に各反射光検出信号を制御部64に出力する。これにより、味覚センサ60は、第1の反射光量および第2の反射光量の経時変化を測定可能とする。
【0067】
制御部64は、SPRセンサチップ50、光源61、入射角調整機構32、光検出部63などと電気的に接続しており、味覚センサ60の各部の制御を行う。例えば、制御部64は、光源61の点灯、消灯、および光Lの発光量の制御を行う。制御部64は、入射角調整機構32を駆動し、SPRセンサチップ50に対する光Lの入射角の調整を行う。
【0068】
制御部64は、SPR応答検出部で検出したSPR応答の検出結果に基づき、主成分分析を行うことによって、第1の感応膜14と第2の感応膜15とに吸着した検出対象物質の種類と濃度との分析を行う分析部65を有する。本実施形態では、分析部65は、SPR応答検出部としての光検出部63で検出された第1の反射光量と第2の反射光量とをパラメータとして用いて主成分分析を行う。分析部65の分析方法については、上記第1実施形態の分析部35の分析方法と同様であるので説明を省略する。
【0069】
以上のように、SPRセンサとしての味覚センサ60は、SPR応答検出部(光検出部63)で検出したSPR応答の検出結果(第1の反射光量および第2の反射光量)に基づき、主成分分析を行うことによって、複数の検出対象物質の種類と濃度との分析を行うことができる。
【0070】
実際にサンプルを作製し、検出対象物質の種類と濃度との分析ができることを検証した。第1の感応膜14としてフレミオンを用いた。第2の感応膜15としてナフィオンを用いた。フレミオンの厚みとナフィオンの厚みは、0.6μmとした。試料18として、NaCl水溶液、KCl水溶液、CaCl水溶液を用いた。試料18の濃度は、1.7mM、3.4mM、8.5mM、17mM、34mMとした。M=mol/Lである。上記数式(2)におけるa,b,およびcの値は、ナフィオンの場合は、a=0.100、b=-2.73、c=75.4、d=0.310であり、フレミオンの場合、a=0.157、b=-2.22、c=75.4、d=0.238である。
【0071】
検証実験で用いるSPRセンサは、BK7で形成された誘電体の表面に金で形成された金属膜が設けられており、この金属膜上に感応膜としてフレミオンまたはナフィオンが設けられる。金属膜上にフレミオンを設けたSPRセンサと、金属膜上にナフィオンを設けたSPRセンサとを用いて、別々に検証実験を行った。誘電体は、プレートと、断面形状が直角二等辺三角形であるプリズムとから構成されている。金属膜の厚みは50nmとした。誘電体の裏面に入射させる光の入射角を68.75°から106.05°まで変化させて、各入射角での反射光量を測定した。入射角は、誘電体の表面と垂直な方向に対する角度である。入射角の変化量は、約2.5×10-4°とした。反射光量は、サンプリング周波数20kHzのオシロスコープで測定した。
【0072】
図7は、ナフィオンを用いて水における共鳴角を測定した測定結果を示すグラフである。図8は、フレミオンを用いて水における共鳴角を測定した測定結果を示すグラフである。図7および図8において、横軸が入射角であり、縦軸が反射光量である。図7および図8では、試料18の濃度の違いを線種の違いで表している。図7では入射角が75.80°で反射光量が最小となることが確認できた。図8では入射角が75.92°で反射光量が最小となることが確認できた。
【0073】
図9は、ナフィオンを用いて各種濃度の試料18における反射光量を測定した測定結果を示すグラフである。図9において、(a)はNaCl水溶液の測定結果であり、(b)はKCl水溶液の測定結果であり、(c)はCaCl水溶液の測定結果である。図10は、フレミオンを用いて各種濃度の試料18における反射光量を測定した測定結果を示すグラフである。図10において、(a)はNaCl水溶液の測定結果であり、(b)はKCl水溶液の測定結果であり、(c)はCaCl水溶液の測定結果である。図9および図10において、横軸が時間であり、縦軸が反射光量である。図9および図10では、試料18の濃度の違いを線種の違いで表している。
【0074】
図11は、ナフィオンを用いて得られた測定値を数式(1)に示す反射光量の変化量I(t)でフィッティングした結果を示すグラフである。図11において、(a)はNaCl水溶液の測定結果であり、(b)はKCl水溶液の測定結果であり、(c)はCaCl水溶液の測定結果である。図12は、フレミオンを用いて得られた測定値を数式(1)でフィッティングした結果を示すグラフである。図12において、(a)はNaCl水溶液の測定結果であり、(b)はKCl水溶液の測定結果であり、(c)はCaCl水溶液の測定結果である。図11および図12では、試料18の濃度の違いを線種の違いで表している。
【0075】
上記のフィッティングにより、主成分分析に用いるパラメータとして、Aの値と-log10cの値を求めた。パラメータは下記表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
図13は、表1で示した各パラメータに基づき主成分分析を行った分析結果を示すグラフである。図13において、横軸は第一主成分であり、縦軸は第二主成分である。図13では、試料18の濃度の違いをマーカーの違いで表している。図13より、ナトリウムイオン(Naと表記する)、カリウムイオン(Kと表記する)、カルシウムイオン(Caと表記する)を判別できた。また、各イオンの濃度の違いも判別できた。
【0078】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0079】
SPRセンサチップ10、50は、第1の感応膜14と第2の感応膜15とを各1つずつ備えているが、複数の第1の感応膜14と複数の第2の感応膜15とを備えることとしてもよい。複数の第1の感応膜14と複数の第2の感応膜15とは、図1または図5においてXY平面上に配置することができる。複数の第1の感応膜14と複数の第2の感応膜15とは、交互に配置してもよい。複数の第1の感応膜14を配置するエリアと、複数の第2の感応膜15を配置するエリアとを区分して設けてもよい。
【0080】
複数の第1の感応膜14と複数の第2の感応膜15とを備えるSPRセンサチップ10では、SPR応答として、複数の第1の感応膜14に対応する複数の第1の電流値と、複数の第2の感応膜15に対応する複数の第2の電流値とが検出される。このため、例えば、複数の第1の電流値の平均値と、複数の第2の電流値の平均値とを求め、各平均値に基づいて主成分分析を行うことにより、検出対象物質の分析精度の向上が図れる。
【0081】
複数の第1の感応膜14と複数の第2の感応膜15とを備えるSPRセンサチップ50では、SPR応答として、複数の第1の感応膜14に対応する複数の第1の反射光量と、複数の第2の感応膜15に対応する複数の第2の反射光量とが検出される。このため、例えば、複数の第1の反射光量の平均値と、複数の第2の反射光量の平均値とを求め、各平均値に基づいて主成分分析を行うことにより、検出対象物質の分析精度の向上が図れる。
【0082】
SPRセンサチップ10、50は、第1の感応膜14と第2の感応膜15との2種の感応膜を備えているが、3種以上の感応膜を備えることとしてもよい。例えば、第1の感応膜14と第2の感応膜15とに加え、第1の感応膜14および第2の感応膜15とは異なる検出対象物質を吸着する第3の感応膜を用いてSPRセンサチップ10、50を構成してもよい。例えば、第1の感応膜14としてフレミオンを用い、第2の感応膜15としてナフィオンを用いる場合は、第3の感応膜としてボロン酸膜を用いることができる。異なる検出対象物質を吸着する複数の感応膜を用いることにより、分析できる検出対象物質の種類を増やすことができる。
【0083】
SPRセンサとしての味覚センサ60は、光源61とSPRセンサチップ50との間にビームスプリッタをさらに備えるものでもよい。ビームスプリッタは、光源61から入射した光Lのうち、一部の光をSPRセンサチップ50へ案内し、残りの一部の光を図示しないPDなどの受光素子へ案内する。受光素子は、制御部64と電気的に接続しており、ビームスプリッタから入射した光の光量に応じた検出信号を制御部64に出力する。制御部64は、受光素子から入力された検出信号に基づき、光源31の発光量を制御する。
【符号の説明】
【0084】
10,50 SPRセンサチップ
11,51 誘電体
11a,51a 表面
11b,51b 裏面
12 第1の金属膜
13 第2の金属膜
14 第1の感応膜
15 第2の感応膜
18 試料
24,54 第1の界面
25,55 第2の界面
30,60 味覚センサ(SPRセンサ)
31,61 光源
32 入射角調整機構
34,64 制御部
35,65 分析部
L 光(赤外光、可視光)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13