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特許7339675カルボキシペプチダーゼ活性検出用蛍光プローブ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】カルボキシペプチダーゼ活性検出用蛍光プローブ
(51)【国際特許分類】
   C07D 493/10 20060101AFI20230830BHJP
   C07D 311/82 20060101ALI20230830BHJP
   C09B 29/01 20060101ALI20230830BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20230830BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C07D493/10 CSP
C07D311/82
C09B29/01
G01N33/573 A
G01N33/574 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020503671
(86)(22)【出願日】2019-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2019008403
(87)【国際公開番号】W WO2019168199
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2018037791
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 次世代がん医療創生研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】浦野 泰照
(72)【発明者】
【氏名】神谷 真子
(72)【発明者】
【氏名】河谷 稔
(72)【発明者】
【氏名】岩城 弘尚
(72)【発明者】
【氏名】山本 恭子
(72)【発明者】
【氏名】久米 春喜
(72)【発明者】
【氏名】山田 大介
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0003383(US,A1)
【文献】MOCK, William L. et al.,Arazoformyl peptide surrogates as spectrophotometric kinetic asay substrates for carboxypeptidase A,Analytical Biochemistry,1996年,vol.239, No.2,p.218-222,ISSN 0960-894X
【文献】MOCK, William L. et al.,Catalytic activity of carboxypeptidase B and of carboxypeptidase Y with anisylazoformyl substrates,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,1999年,Vol.9. No.2,p.187-192,ISSN 0960-894X
【文献】KURIKI, Yugo et al.,Establishment of molecular desigh strategy to obtain activatable fluorescent probes for carboxypepti,Journal of the American Chemical Society,2018年,Vol.140, No.5,p.1767-1773,ISSN 1520-5126
【文献】河谷稔 ほか,アゾホルミル基を活用した新規turn-on型カルボキシペプチダーゼ活性検出蛍光プローブの開発, 日本薬学会年会第138年会(金沢)発表要旨,[オンライン],2018年02月01日,[検索日 2019.05.22],26V-pm11S,インターネット:<URL:http://nenkai.pharm.or.jp/138/pc/isearch/asp>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C09B
G01N
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩。
(式中、
は、水素原子を示すか、又はベンゼン環上に存在する1ないし3個の同一又は異なる一価の置換基を示し
の一価の置換基は、炭素数1~6個のアルキル基、炭素数1~6個のアルケニル基、炭素数1~6個のアルキニル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、水酸基、カルボキシ基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アミノ基、アミド基、アルキルアミド基からなる群から選択され、
が示すアルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基が1個又は2個以上存在していてもよく、
が示すアミノ基には1個又は2個のアルキル基が存在していてもよく、
が示すアルコキシ基が置換基を有する場合は、当該アルコキシ基は、カルボキシ置換アルコキシ基又はアルコキシカルボニル置換アルコキシ基であってもよく
は、ベンゼン環上に存在する一価の置換基を示し
の一価の置換基は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアミノアルキル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基又は窒素上に置換基を有してもよいカルボキサミド基から選択され、
がアルキル基である場合は、該アルキル基にはハロゲン原子、スルホニル基、アルコキシ基が1個又は2個以上存在していてもよく
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
Lは、アミノ酸残基を示し
前記アミノ酸残基は、フェニルアラニン残基、グルタミン酸残基又はリジン残基であり、
当該アミノ酸残基のα-アミノ基がカルボニル基(C=O)の炭素と結合しており
Xは、酸素原子、Si(R)(R)、C(R)(R)、Ge(R)(R)、P(=O)R又はSeから選択され、
ここで、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基であり、Rは、炭素数1~6個のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基であり;
Y及びZは、(O、OH)、(NR、NR10)、又は(O、NR10)の組から選択され、
ここで、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3個のアルキル基を示し、
及びRは一緒になってR及びRが結合している窒素原子を含む4~7員のヘテロシクリルを形成していてもよく、
又はRは、或いは、R及びRの両方は、夫々、R及び/又はRと一緒になって、R及び/又はRが結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成していてもよく、環構成員として酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群から選択される1~3個の更なるヘテロ原子を含有していてもよく、更に該ヘテロシクリル又はヘテロアリールは、炭素数1~6個のアルキル、炭素数2~6個のアルケニル、又は炭素数2~6個のアルキニル、炭素数6~10個のアラルキル基、炭素数6~10個のアルキル置換アルケニル基で置換されていてもよく、
及びR10は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3個のアルキル基を示し、
及びR10は一緒になってR及びR10が結合している窒素原子を含む4~7員のヘテロシクリルを形成していてもよく、
又はR10は、或いは、R及びR10の両方は、夫々、R及び/又はRと一緒になって、R及び/又はR10が結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成していてもよく、環構成員として酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群から選択される1~3個の更なるヘテロ原子を含有していてもよく、更に該ヘテロシクリル又はヘテロアリールは、炭素数1~6個のアルキル、炭素数2~6個のアルケニル、又は炭素数2~6個のアルキニル、炭素数6~10個のアラルキル基、炭素数6~10個のアルキル置換アルケニル基で置換されていてもよく、
Y、Zが、夫々、O、OHである場合で、Rのベンゼン環上に存在する一価の置換基がカルボキシル基の場合は、Y及びZはアセチル化されていてもよい。)
【請求項2】
Lは以下の式で表される、請求項1に記載の化合物又はその塩。
(式中、R’は、フェニルアラニン、グルタミン酸又はリジンから選択されるアミノ酸の側鎖を表す。)
【請求項3】
Xは酸素原子である、請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
Y、Zが、夫々、O、OHであり、Rのベンゼン環上に存在する一価の置換基がカルボキシル基であり、Y及びZはアセチル化されており、以下の一般式(V)で表される、請求項1~のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
(式中、Acはアセチル基を表し、R 、R ~R は、一般式(I)で定義した通りである。)
【請求項5】
以下の式から選択される化合物又はその塩。
(Rは、CHCHCOOH又はCHCHCHCHNH
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を含むカルボキシペプチダーゼ活性検出用蛍光プローブ。
【請求項7】
細胞内のカルボキシペプチダーゼを生体外で検出する方法であって、(a)請求項に記載の蛍光プローブを細胞内に導入する工程、及び(b)当該蛍光プローブが細胞内で発する蛍光を測定することを含む方法。
【請求項8】
前立腺がんを検知する方法であって、(a)請求項に記載の蛍光プローブを前立腺の臨床検体に適用する工程、及び(b)前記蛍光プローブを適用した前立腺の手術検体の蛍光像を測定することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なカルボキシペプチダーゼ活性検出用蛍光プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
がんは日本人の死因の約3割を占める疾患であり、その外科的摘出は現状において最も効果的な治療法の一つである。しかしながら、目に見えないサイズのがんを発見し、確実に切除することは難しく再発の原因となっている。そこで、本発明者らの研究グループでは微小ながんを可視化するべく、がん特異的に高発現するアミノペプチダーゼの活性検出蛍光プローブを開発してきたが、一方でタンパク質のカルボキシ末端の加水分解酵素であるカルボキシペプチダーゼも一部ががんマーカーとして知られている。
【0003】
カルボキシペプチダーゼは、ペプチド鎖のC末端アミノ酸を認識し、加水分解により切断する酵素群の総称であり、これまでに様々な生命現象や疾患との関連性が報告されている(非特許文献1)。例えば、prostate specific membrane antigen(PSMA)は前立腺がんのバイオマーカー(非特許文献2)として、carboxypeptidase Bは膵疾患のバイオマーカーとして臨床的に重要な標的酵素群であることが報告されている(非特許文献3)。
【0004】
また、iPS細胞から肝前駆細胞への分化マーカーとしてcarboxypepitdase Mが報告されている(非特許文献4)。さらに、angiotensin converting enzyme(ACE)の阻害剤は、高血圧治療薬として汎用されており、創薬標的として重要である(非特許文献5)。このように、カルボキシペプチダーゼは生物学研究のみならず創薬や診断の観点からも重要な酵素群である。
【0005】
上記で記載したような重要性から、カルボキシペプチダーゼの酵素活性を検出する手法はこれまでに数多く開発されてきた。しかしながら、その大部分は、酵素反応生成物の蛍光誘導体化や抽出といった煩雑な操作や、放射性同位体等を用いる必要があったため、測定の簡便性などに課題があった。
一部のカルボキシペプチダーゼを標的として、基質が酵素によって代謝されることで蛍光が上昇するタイプの蛍光基質も報告されているものの、酵素認識部位が蛍光制御に用いられているため、基質の種類が著しく限られるだけでなく、紫外光による励起を必要とするため、生細胞やin vivoでの応用が難しいという課題を有していた。
【0006】
また、従来のカルボキシペプチダーゼ活性検出蛍光プローブは反応点を2つ持ち、検出に時間がかかるという課題があった。また、臨床的に重要ながんマーカーであるPSMAに基質として認識されず、検出することができないという課題も存在した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Rawlings, N. D. & Salvesen, G. Handbook of Proteolytic Enzymes 3rd Edition. elsevier (2013).
【文献】Silver, D. A., Pellicer, I., Fair, W. R., Heston, W. D. W. & Cordon-Cardo, C. Prostate-specific membrane antigen expression in normal and malignant human tissues. Clin. cancer Res. 3, 81-85 (1997).
【文献】Appelros, S., Thim, L. & Borgstrom, a. Activation peptide of carboxypeptidase B in serum and urine in acute pancreatitis. Gut 42, 97-102 (1998).
【文献】Kido, T., Koui, Y., Suzuki, K., Kobayashi, A., Miura, Y., Chern, E. Y., Tanaka, M. & Miyajima, A. CPM is a useful cell surface marker to isolate expandable bi-potential liver progenitor cells derived from human iPS cells. Stem Cell Reports 5, 508-515 (2015).
【文献】Hooper, N. M. Angiotensin converting enzyme: Implications from molecular biology for its physiological functions. Int. J. Biochem. 23, 641-647 (1991).
【文献】Kuriki, Y., Kamiya, M., Kubo, H., Komatsu, T., Ueno, T., Tachibana, R., Hayashi, K., Hanaoka, K., Yamashita, S., Ishizawa, T., Kokudo, N. & Urano, Y. Establishment of molecular design strategy to obtain activatable fluorescent probes for carboxypeptidases. submitted
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、可視光領域で機能する蛍光骨格を母核として、カルボキシペプチダーゼの活性を高感度に可視化することができる蛍光プローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、フルオレセイン等の蛍光色素の骨格に対して基質アミノ酸の加水分解に伴い自発的な脱炭酸・脱窒素反応を示すアゾアミド基を導入することで、反応点を1つに抑えつつ高感度な検出が可能なカルボキシペプチダーゼ活性全般に適用可能な蛍光プローブ設計法の確立に成功し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
[1] 以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩。
(式中、
は、水素原子を示すか、又はベンゼン環上に存在する1ないし3個の同一又は異なる一価の置換基を示し:
は、ベンゼン環上に存在する一価の置換基を示し;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
Lは、アミノ酸残基を示し;
Xは、酸素原子、Si(R)(R)、C(R)(R)、Ge(R)(R)、P(=O)R又はSeから選択され、
ここで、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基であり、Rは、炭素数1~6個のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基であり;
Y及びZは、(O、OH)、(NR、NR10)、又は(O、NR10)の組から選択され、
ここで、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3個のアルキル基を示し、
及びRは一緒になってR及びRが結合している窒素原子を含む4~7員のヘテロシクリルを形成していてもよく、
又はRは、或いは、R及びRの両方は、夫々、R及び/又はRと一緒になって、R及び/又はRが結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成していてもよく、環構成員として酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群から選択される1~3個の更なるヘテロ原子を含有していてもよく、更に該ヘテロシクリル又はヘテロアリールは、炭素数1~6個のアルキル、炭素数2~6個のアルケニル、又は炭素数2~6個のアルキニル、炭素数6~10個のアラルキル基、炭素数6~10個のアルキル置換アルケニル基で置換されていてもよく、
及びR10は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3個のアルキル基を示し、
及びR10は一緒になってR及びR10が結合している窒素原子を含む4~7員のヘテロシクリルを形成していてもよく、
又はR10は、或いは、R及びR10の両方は、夫々、R及び/又はRと一緒になって、R及び/又はR10が結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成していてもよく、環構成員として酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群から選択される1~3個の更なるヘテロ原子を含有していてもよく、更に該ヘテロシクリル又はヘテロアリールは、炭素数1~6個のアルキル、炭素数2~6個のアルケニル、又は炭素数2~6個のアルキニル、炭素数6~10個のアラルキル基、炭素数6~10個のアルキル置換アルケニル基で置換されていてもよく、
Y、Zが、夫々、O、OHである場合で、Rのベンゼン環上に存在する一価の置換基がカルボキシル基の場合は、Y及びZはアセチル化されていてもよい。)
[2]Lは以下の式で表される、[1]に記載の化合物又はその塩。
(式中、R’は、アミノ酸の側鎖を表す。)
[3]Rの一価の置換基が、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアミノアルキル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基又は窒素上に置換基を有してもよいカルボキサミド基から選択される、[1]又は[2]に記載の化合物又はその塩。
[4]Xは酸素原子である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
[5]Y、Zが、夫々、O、OHであり、Rのベンゼン環上に存在する一価の置換基がカルボキシル基であり、Y及びZはアセチル化されており、以下の一般式(V)で表される、[1]~[4]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
(式中、Acはアセチル基を表す。)
[6]以下の式から選択される化合物又はその塩。
(Rは、CHCHCOOH又はCHCHCHCHNH
[7][1]~[6]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を含むカルボキシペプチダーゼ活性検出用蛍光プローブ。
[8]細胞内のカルボキシペプチダーゼを検出する方法であって、(a)[7]に記載の蛍光プローブを細胞内に導入する工程、及び(b)当該蛍光プローブが細胞内で発する蛍光を測定することを含む方法。
[9]前立腺がんを検知する方法であって、(a)[7]に記載の蛍光プローブを前立腺の臨床検体に適用する工程、及び(b)前記蛍光プローブを適用した前立腺の手術検体の蛍光像を測定することを含む、方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明による蛍光プローブは、ターゲットとするカルボキシペプチダーゼによって認識されるアミノ酸を有し、標的カルボキシペプチダーゼとの反応前はほぼ無蛍光だが、酵素との反応により、可視光領域の蛍光が回復することができることから、カルボキシペプチダーゼの活性を高感度に可視化することが可能である。
また、本発明の蛍光プローブをin vitro酵素系、培養細胞系に適用すると、標的カルボキシペプチダーゼ活性を迅速に蛍光検出できることができる。
本発明の蛍光プローブを適用することにより、臨床検体内のがんの可視化が可能となると考えられ、特に前立腺がんの可視化に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】PSMA、阻害剤(2-PMPA、10μM)を添加した後の5-fluAFGlu、6-fluAFGluの蛍光スペクトルを示す。
図2】CPM、阻害剤(MGTA、10μM)を添加した後の6-fluAFLysの蛍光スペクトルを示す。
図3】CPA1、阻害剤(ジャガイモカルボキシペプチダーゼ阻害剤、10μM)を添加した後の6-fluAFPheの蛍光スペクトルを示す。
図4】細胞ライセート、阻害剤(2-PMPA、10μM)を添加した後の6-fluAFGluの相対蛍光強度を示す。
図5】培養細胞、阻害剤(2-PMPA、10μM)を添加した後の6-fluAFGluの相対蛍光強度を示す。
図6】6-fluAFLys(化合物26)とMDCK細胞のライセートのPBS溶液を反応させて、経時的な蛍光強度変化を測定した結果。
図7】MDCK細胞を用いた6-FDAAFLys(化合物24)の生細胞イメージングの結果を示す。
図8】MDCK細胞を用いた6-FDAAFLys(化合物24)の生細胞イメージングの結果を示す。
図9】2Me5GluAF-TG(化合物32)の吸収スペクトルを示す。
図10】2Me5GluAF-TG(化合物32)の蛍光スペクトルを示す。
図11】2Me5GluAF-TGの酵素反応に伴う蛍光強度の変化を示す。
図12】様々な濃度の2Me5GluAF-TG(化合物32)溶液にPSMAを添加した際の、反応初期における蛍光増加率をプロットした図。
図13】Recombinant human PSMAと2Me5GluAF-TG(化合物32)を10時間反応させた後の溶液及び、2Me5GluAF-TG、2MeTGのLC-UV/MS分析を行った結果を示す。
図14】Recombinant human PSMAと2Me5GluAF-TG(化合物32)を10時間反応させた後の溶液及び、2Me5GluAF-TG、2MeTGのLC-UV/MS分析を行った結果を示す。
図15】2Me5GluAF-TG(化合物32)の細胞ライセートとの反応性を調べた結果を示す。
図16】LNCaP細胞を用いた2Me5GluAF-TGの生細胞イメージングの結果を示す。
図17】PC3細胞を用いた2Me5GluAF-TGの生細胞イメージングの結果を示す。
図18a】阻害剤(2-PMPA)を添加した場合のMe5GluAF-TGの生細胞イメージングの結果を示す。
図18b】阻害剤(2-PMPA)を添加した場合のMe5GluAF-TGの生細胞イメージングの結果を示す。
図19】2Me5GluAF-TGを用いてLNCaP細胞のイメージングを行った後、回収した細胞外液及び、2Me5GluAF-TG、2MeTGのLC-MS分析を行った結果を示す。
図20】2Me5GluAF-TGを用いてLNCaP細胞のイメージングを行った後、回収した細胞外液及び、2Me5GluAF-TG、2MeTGのLC-MS分析を行った結果を示す。
図21】2Me5GluAF-TGのヒト前立腺がん手術検体を用いた検討結果を示す。
図22】2Me5GluAF-TGのヒト前立腺がん手術検体を用いた検討結果を示す。
図23】2Me5GluAF-TGのヒト前立腺がん手術検体を用いた検討結果を示す。
図24】2Me5GluAF-TGのヒト前立腺がん手術検体を用いた検討結果を示す。
図25】2Me5GluAF-TGのヒト前立腺がん手術検体を用いた検討結果を示す。
図26】検体イメージングを行った各部位の蛍光強度の30分後、60分後、240分後での蛍光強度の増加率をまとめた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「アルキル基」又はアルキル部分を含む置換基(例えばアルコキシ基など)のアルキル部分は、特に言及しない場合には例えば炭素数1~6個、好ましくは炭素数1~4個、更に好ましくは炭素数1~3個程度の直鎖、分枝鎖、環状、又はそれらの組み合わせからなるアルキル基を意味している。より具体的には、アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロプロピルメチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などを挙げることができる。
【0014】
本明細書において「ハロゲン原子」という場合には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれでもよく、好ましくはフッ素原子、塩素原子、又は臭素原子である。
【0015】
本発明の1つの実施態様は、以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩である。
【0016】
一般式(I)において、Rは、水素原子を示すか、又はベンゼン環上に存在する1ないし3個の同一又は異なる一価の置換基を示す。
【0017】
が示す一価の置換基の種類は特に限定されないが、例えば、炭素数1~6個のアルキル基、炭素数1~6個のアルケニル基、炭素数1~6個のアルキニル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、水酸基、カルボキシ基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アミノ基、アミド基、アルキルアミド基からなる群から選ばれることが好ましい。
これらの一価の置換基は更に任意の置換基を1個又は2個以上有していてもよい。例えば、Rが示すアルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよく、例えばRが示すアルキル基はハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、又はアミノアルキル基などであってもよい。また、例えばRが示すアミノ基には1個又は2個のアルキル基が存在していてもよく、Rが示すアミノ基はモノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基であってもよい。更に、Rが示すアルコキシ基が置換基を有する場合としては、例えば、カルボキシ置換アルコキシ基又はアルコキシカルボニル置換アルコキシ基などが挙げられ、より具体的には4-カルボキシブトキシ基又は4-アセトキシメチルオキシカルボニルブトキシ基などを挙げることができる。
【0018】
本発明の好ましい側面においては、Rは何れも水素原子である。
【0019】
一般式(I)において、Rは、ベンゼン環上に存在する一価の置換基を示す。
の一価の置換基としては、好ましくは、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアミノアルキル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基又は窒素上に置換基を有してもよいカルボキサミド基から選択され、より好ましくは、炭素数1~6のアルキル又は炭素数1~6のアルコキシ基から選択される。理論に拘束されることを意図するものではないが、Rが疎水性の基である炭素数1~6のアルキル又は炭素数1~6のアルコキシ基の場合は、本発明の化合物が細胞膜上で蛍光性物質に変化した後に、細胞膜透過性が上がるため細胞内に取り込まれ易くなり、生細胞イメージングに好適に使用することが可能である。
また、Rがアルキル基を示す場合には、該アルキル基にはハロゲン原子、スルホニル基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよい。
【0020】
一般式(I)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示す。
又はRがアルキル基を示す場合には、該アルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよく、例えばR又はRが示すアルキル基はハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基などであってもよい。R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子であることが好ましく、R及びRがともに水素原子である場合、又はR及びRがともにフッ素原子又は塩素原子である場合がより好ましい。
【0021】
一般式(I)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示す。R及びRの詳細については、R及びRについて説明したものと同様である。R及びRが共に水素原子であるか、共に塩素原子であるか、又は共にフッ素原子であることが好ましい。
【0022】
一般式(I)において、Xは、酸素原子、Si(R)(R)、C(R)(R)、Ge(R)(R)、P(=O)R又はSeから選択される。
本発明の1つの好ましい側面においては、Xは、酸素原子である。
【0023】
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である。R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~3個のアルキル基であることが好ましく、R及びRがともにメチル基であることがより好ましい。
及びRが示すアルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよく、例えばR及びRが示すアルキル基はハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基などであってもよい。
及びRがアリール基を示す場合には、アリール基は単環の芳香族基又は縮合芳香族基のいずれであってもよく、アリール環は1個又は2個以上の環構成ヘテロ原子(例えば窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子など)を含んでいてもよい。アリール基としてはフェニル基が好ましい。アリール環上には1個又は2個以上の置換基が存在していてもよい。置換基としては、例えばハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよい。
【0024】
は、炭素数1~6個のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基である。フェニル基の置換基としては、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基などが挙げられる。
合成上の導入のし易さの点から、Rは、好ましくはメチル基又はフェニル基である。また、Rがメチル基である方が水溶性は高いため、より好ましい。
【0025】
一般式(I)において、Y及びZは、(O、OH)、(NR、NR10)、又は(O、NR10)の組から選択される。
【0026】
Y、Zが、夫々、O、OHである場合は、一般式(I)は以下のように表すことができる。
【0027】
Y、Zが、夫々、NR、NR10である場合は、一般式(I)は以下のように表すことができる。
【0028】
Y、Zが、夫々、O、NR10である場合は、一般式(I)は以下のように表すことができる。
【0029】
ここで、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3個のアルキル基を示す。
及びRは一緒になってR及びRが結合している窒素原子を含む4~7員のヘテロシクリルを形成していてもよい。
また、R又はRは、或いは、R及びRの両方は、夫々、R及び/又はRと一緒になって、R及び/又はRが結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成していてもよい。環構成員として酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群から選択される1~3個の更なるヘテロ原子を含有していてもよく、更に該ヘテロシクリル又はヘテロアリールは、炭素数1~6個のアルキル、炭素数2~6個のアルケニル、又は炭素数2~6個のアルキニル、炭素数6~10個のアラルキル基、炭素数6~10個のアルキル置換アルケニル基で置換されていてもよい。
【0030】
及びR10は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3個のアルキル基を示す。
及びR10は一緒になってR及びR10が結合している窒素原子を含む4~7員のヘテロシクリルを形成していてもよい。
また、R又はR10は、或いは、R及びR10の両方は、夫々、R及び/又はRと一緒になって、R及び/又はR10が結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成していてもよい。環構成員として酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群から選択される1~3個の更なるヘテロ原子を含有していてもよく、更に該ヘテロシクリル又はヘテロアリールは、炭素数1~6個のアルキル、炭素数2~6個のアルケニル、又は炭素数2~6個のアルキニル、炭素数6~10個のアラルキル基、炭素数6~10個のアルキル置換アルケニル基で置換されていてもよい。
【0031】
また、Y、Zが、夫々、O、OHである場合で、Rのベンゼン環上に存在する一価の置換基がカルボキシル基の場合は、Y及びZはアセチル化されていてもよい。即ち、Rのベンゼン環上に存在する一価の置換基がカルボキシル基の場合は、Y、Zは、(AcO、AcO)であってもよい(Acは、アセチル基を表す)。この場合、一般式(I)は以下のように表すことができる。
【0032】
一般式(I)において、Lはアミノ酸残基を示す。
【0033】
一般式(I)のLは以下の式で表すことができる。
【0034】
式(1)において、R’は、アミノ酸の側鎖を表す。
【0035】
また、この場合、一般式(I)の化合物は以下の一般式(Ia)で表すことができる。
R’はアミノ酸の側鎖を表す。
【0036】
Lのアミノ酸残基としては、任意のアミノ酸の残基から選択される。アミノ酸としては、例えば、ロイシン、イソロイシン、バリン、リジン、スレオニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、セリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、アラニン、グリシン、トリプトファン、チロシン、システイン、ヒスチジン、メチオニン、プロリン、オルニチン、N-メチルロイシン、2,3-ジアミノプロパン酸、2,4-ジアミノ酪酸、オルニチン、α-ヒドロキシロイシンなどが挙げられる。
本発明において、Lのアミノ酸残基は、好ましくは、フェニルアラニン残基、ロイシン残基、グルタミン酸残基、グルタミン残基、アルギニン残基又はリジン残基である。
【0037】
本発明においては、フルオレセインやローダミン等の蛍光色素の骨格に対して基質アミノ酸の加水分解に伴い自発的な脱炭酸・脱窒素反応を示すアゾアミド基を導入することを1つの特徴としている。これにより、カルボキシペプチダーゼとの反応点を1つに抑え、かつ高感度な検出が可能なカルボキシペプチダーゼ活性全般に適用可能な蛍光プローブを提供することができる。
【0038】
理論に拘束されることを意図するものではないが、各カルボキシぺプチダーゼが基質とするアミノ酸をアゾアミド基と縮合させた一般式(I)の化合物から、酵素反応によってアミノ酸が切り出され、続く脱炭酸・脱窒素反応が自発的に生じることにより、フルオレセイン等の蛍光色素が生成する。反応前の蛍光プローブは光誘起電子移動によって弱蛍光状態で存在する一方、反応生成物のフルオレセイン等の蛍光色素は強蛍光性であるため、酵素反応によって蛍光の上昇が観測できる。
【0039】
理論に拘束されることを意図するものではないが、本発明の化合物(一般式(Ia)による)とカルボキシペプチダーゼとの反応の一般式を以下に示す。
【0040】
一般式(I)における以下の式で表されるアミノ酸と縮合させたアゾアミド基は、ベンゼン環の任意の位置に導入することができるが、カルボキシペプチダーゼの種類によっては、アミノ酸と縮合させたアゾアミド基のベンゼン環への導入位置によって反応しやすくなることから、Rに対してメタ位又はパラ位に導入することが好ましい。ここで、一般式(I)において、Rとしてカルボキシ基を有する場合は、メタ位を5位、パラ位を6位と呼び、Rとしてカルボキシ基以外の置換基を有する場合は、メタ位を4位、パラ位を5位と呼ぶ。
【0041】
以下に本発明の一般式(I)の化合物の非限定的例を示す。
【0042】
本発明の範囲を限定することを意図するものではないが、後述する実施例で示すように、6-fluAFGlu(化合物25)は、グルタミン酸を基質とする前立腺特異的膜抗原(PSMA)に対するプローブとして機能することができ、6-fluAFLys(化合物26)は、塩基性アミノ酸を基質とするカルボキシペプチダーゼM(CPM)に対するプローブとして機能することができ、6-fluAFPhe(化合物27)は、嵩高いアミノ酸を基質とするカルボキシぺプチダーゼA(CPA)に対するプローブとして機能することができる。
【0043】
本発明の一般式(I)の化合物は、酸付加塩又は塩基付加塩として存在することができる。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、又はメタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩などを挙げることができ、塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、又はトリエチルアミン塩などの有機アミン塩などを挙げることができる。これらのほか、グリシンなどのアミノ酸との塩を形成する場合もある。本発明の一般式(I)の化合物又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが、これらの物質も本発明の範囲内である。
【0044】
本発明の一般式(I)の化合物は、置換基の種類により、1個又は2個以上の不斉炭素を有する場合があるが、1個又は2個以上の不斉炭素に基づく光学活性体や2個以上の不斉炭素に基づくジアステレオ異性体などの立体異性体のほか、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などは、いずれも本発明の範囲に包含される。
【0045】
本発明の一般式(I)の化合物の代表的化合物の製造方法を本明細書の実施例に具体的に示した。従って、当業者は、これらの説明をもとにして、反応原料、反応条件、反応試薬などを適宜選択して、必要に応じてこれらの方法に修飾や改変を加えることにより、一般式(I)で表される化合物を製造することができる。
【0046】
本発明のもう1つの実施態様は、一般式(I)の化合物又はその塩を含むカルボキシペプチダーゼ活性検出用蛍光プローブである。
【0047】
本発明のカルボキシペプチダーゼ活性検出用蛍光プローブは、幅広いカルボキシペプチダーゼの検出に適用することが可能である。例えば、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼM、グルタミン酸を基質とする前立腺特異的膜抗原(PSMA)等に適用することができる。
【0048】
本発明のもう1つの実施態様は、細胞内のカルボキシペプチダーゼを検出する方法であって、(a)本発明の蛍光プローブを細胞内に導入する工程、及び(b)当該蛍光プローブが細胞内で発する蛍光を測定することを含む方法である。
【0049】
また、本発明のもう1つの実施態様は、前立腺がんを検知する方法であって、(a)本発明の蛍光プローブを前立腺の臨床検体に適用する工程、及び(b)前記蛍光プローブを適用した前立腺の手術検体の蛍光像を測定することを含む、方法である。
(a)の工程の本発明の蛍光プローブを前立腺の臨床検体に適用するには、例えば、本発明の蛍光プローブの溶液(例えば、1xTBSバッファーで希釈して、濃度が50μM程度)を検体全体が浸るように滴下することが挙げられる。また、本発明の蛍光プローブを適用する前に、臨床検体を1xTBSバッファー等で洗浄することが好ましい。
臨床検体としては、前立腺がんの手術検体等が挙げられる。
本発明の蛍光プローブを適用した前立腺の臨床検体の蛍光像を測定して、明るい蛍光を示す部位ががんの割合が高いと判断することができる。この場合、蛍光強度自体が高いことでがんの割合が高いと判断してもよいが、好ましくは、本発明の蛍光プローブを適用して一定時間(例えば、30分、60分等)経過後の蛍光強度の増加率を指標として、増加率が高い部位ががんの割合が高いと判断することができる。
【0050】
本発明の前立腺がんを検知する方法においては、本発明の蛍光プローブの中でも、Rが炭素数1~6のアルキル又は炭素数1~6のアルコキシ基である化合物を用いると、細胞内にプローブがより取り込まれ易くなり、前立腺がんをより効果的に検知することができ好ましい。
【0051】
本発明の蛍光プローブの使用方法は特に限定されず、従来公知の蛍光プローブと同様に用いることが可能である。通常は、生理食塩水や緩衝液などの水性媒体、又はエタノール、アセトン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの水混合性の有機溶媒と水性媒体との混合物などに一般式(I)で表される化合物又はそれらの塩を溶解し、細胞や組織を含む適切な緩衝液中にこの溶液を添加して、蛍光スペクトルを測定すればよい。本発明の蛍光プローブを適切な添加物と組み合わせて組成物の形態で用いてもよい。例えば、緩衝剤、溶解補助剤、pH調節剤などの添加物と組み合わせることができる。
【実施例
【0052】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
[合成実施例1]
以下のスキーム1により、本発明のカルボキシペプチダーゼ活性検出蛍光プローブである5-fluAFGlu(化合物13)、6-fluAFGlu(化合物25)、6-fluAFLys(化合物26)、6-fluAFPhe(化合物27)を合成した。
【0054】
スキーム1:カルボキシペプチダーゼ活性検出蛍光プローブの合成(1)
【0055】
(1)化合物4の合成
H-Glu(OtBu)-OtBu塩酸塩(化合物1)(1.3g、4.4mmol、1eq)およびピリジン(250μL)のジクロロメタン溶液(45mL)を、-10℃に冷却し、トリホスゲン(860mg、3mmol、0.67eq)のジクロロメタン溶液(5mL)を加え、アルゴン雰囲気下で、-10℃で2hr撹拌した.0.1N塩酸水溶液を加え、ジクロロメタンで抽出を行い、飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧除去し、目的化合物(化合物4)を透明液体として得た。目的物はさらなる精製を行わず、そのまま次反応に使用した。
HRMS after derivatization by methanol (ESI+) m/z calcd. for [M+Na]+, 340.1737; found, 347.1731 (-0.6 mmu).
【0056】
(2)化合物5の合成
H-Lys(Boc)-OtBu塩酸塩(化合物2)(691mg、2.0mmol、1eq)およびピリジン(400μL)のジクロロメタン溶液(15mL)を、-10℃に冷却し、トリホスゲン(395mg、1.3mmol、0.67eq)のジクロロメタン溶液(2mL)を加え、アルゴン雰囲気下で、-10℃で30分撹拌した。0.1N塩酸水溶液を加え、ジクロロメタンで抽出を行い、飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧除去し、目的化合物(化合物5)を透明液体として得た。目的物はさらなる精製を行わず、そのまま次反応に使用した。
【0057】
(3)化合物6の合成
H-Phe-OtBu塩酸塩(化合物3)(155mg、0.6mmol、1eq)およびピリジン(100μL)のジクロロメタン溶液(10mL)を、-10℃に冷却し、トリホスゲン(120mg、0.4mmol、0.67eq)を加え、アルゴン雰囲気下で、-10℃で約1h撹拌した。0.1N塩酸水溶液を加え、ジクロロメタンで抽出を行い、飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧除去し、目的化合物(化合物6)を透明液体として得た。目的物はさらなる精製を行わず、そのまま次反応に使用した。
【0058】
(4)化合物8の合成
5-アミノフルオレセイン(化合物7)(1.92g、5.5mmol、1eq)および炭酸セシウム(3.97g、12.1mmol、2.2eq)を10mLDMF溶液に溶解し、無水酢酸(1.14mL、12.1mmol、2.2eq)を滴下し、室温で1時間撹拌した。溶媒を減圧除去した後、水を加えジクロロメタンで抽出を行い、飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧除去することで、目的の粗生成物を黄色の油状物質として得た。続けて、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル)で精製を行い、目的化合物(化合物8)(1.94g、81%)を白色固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.20 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.07 (d, J = 2.3 Hz, 2H), 6.92-6.89 (m, 3H), 6.85 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 6.81 (d, J = 2.3, 8.7 Hz, 2H), 2.29 (s, 6H); 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ 169.6, 168.9, 151.8, 151.5, 149.0, 141.6, 129.0, 127.4, 124.4, 122.4, 117.5, 117.1, 110.1, 108.2, 81.6, 20.9; HRMS (ESI+) m/z calcd. for [M+Na]+, 454.0897; found, 454.0888 (-0.9 mmu).
【0059】
(5)化合物10の合成
化合物8(400mg、0.9mmol、1eq)を4℃に冷却した濃塩酸(12N HClaq)(2mL)に溶解し、そこに、亜硝酸ナトリウム(NaNO)(96mg、1.4mmol、1.5eq)溶液(2mL)を氷浴下でゆっくり滴下し、30分間氷浴下で撹拌した。原料の消費を確認した後に、塩化スズII(SnCl)(265mg、1.4mmol、1.5eq)の希塩酸(1N HClaq)溶液(2mL)を氷浴下でゆっくり滴下し、さらに15分間氷浴下で撹拌を行った。その後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液をゆっくり滴下し中和を行った後に、酢酸エチルで抽出を行い、飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧除去することで、黄色油状の合成中間体(化合物9)を粗生成物として得た。続いて、合成中間体をアセトニトリル(CHCN)に溶解した後に、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(314μL、1.8mmol、2eq)および化合物4の粗生成物(1.1mmol、1.2eq)を加えて、室温で1時間撹拌を行った。反応液に0.1N塩酸水溶液を加え、ジクロロメタンで抽出を行い、飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧除去し、目的物の粗生成物を黄色液体として得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル)で粗精製を行った後に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で再精製を行い、凍結乾燥で溶媒を除去することで目的化合物(化合物10)(25.7mg、4%)を黄色固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ 7.38 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.26 (dd, J = 2.2 Hz, 8.4 Hz, 1H), 7.16 (dd, J = 0.7 Hz, 2.0 Hz, 2H), 7.05 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 6.89-6.88 (m (br), 4H), 4.31-4.28 (dd, J = 4.8 Hz, 9.6 Hz, 1H), 2.38-2.29 (m, 8H), 2.16-2.07 (m, 1H), 1.94-1.84 (m, 1H), 1.46 (s, 9H), 1.43 (s, 9H); 13C NMR (101 MHz, CD3OD): δ 173.9, 173.1, 171.2, 170.5, 153.8, 152.9, 130.0, 128.5, 125.6, 122.2, 119.2, 118.1, 111.5, 107.4, 83.1, 83.0, 81.8, 54.2, 32.6, 28.4, 28.3, 28.2, 20.9; HRMS (ESI+) m/z calcd. for [M+Na]+, 754.2582; found, 754.2595 (1.3 mmu).
【0060】
(6)化合物12の合成
化合物10(25mg、0.034mmol、1eq)をジクロロメタンに溶解し、そこに二酸化マンガン(MnO)(250mg、2.87mmol、84eq)を加えて、10分間室温で撹拌した。反応懸濁液を濾過し、黄色の合成中間体(化合物11)のジクロロメタン溶液を得た。続いて、ろ液にトリフルオロ酢酸(TFA)を加えて、6時間室温で撹拌した。溶媒を減圧除去することで、目的物の粗生成物を黄色固体として得た。粗生成物は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で再精製を行い、凍結乾燥で溶媒を除去することで目的化合物(化合物12)(6mg、29%)を黄色固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ 9.26 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 8.55 (d, J = 1.3 Hz, 1H), 8.31 (dd, J = 1.6 Hz, 8.0 Hz, 1H), 7.47 (dd, J = 0.5 Hz, 8.2 Hz, 1H), 7.22 (d, J = 2.1 Hz, 2H), 6.98 (d, J = 8.7 Hz, 2H), 6.93 (dd, J = 2.2 Hz, 8.7 Hz, 2H), 4.64-4.60 (m, 1H), 2.55-2.51 (m, 2H), 2.38-2.35 (m, 1H), 2.23 (s, 6H), 2.16-2.12 (m, 1H); 13C NMR (101 MHz, CD3OD): δ 176.1, 174.0, 170.5, 169.6, 163.6, 157.9, 154.3, 154.1, 152.8, 131.7, 130.1, 128.9, 126.7, 121.2, 119.5, 117.0, 111.7, 83.3, 54.4, 31.2, 27.8, 20.9; HRMS (ESI+) m/z calcd. for [M+Na]+, 640.1174; found, 640.1172 (-0.2 mmu).
【0061】
(7)5-fluAFGlu(化合物13)の合成
化合物12(1.8mg、0.003mmol)をDMSOに溶解し、そこに0.01N水酸化ナトリウム水溶液(NaOHaq)を加えて、30分間室温で撹拌した。反応液を希塩酸(1N HClaq)で酸性化した後に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製を行い、凍結乾燥で溶媒を除去することで目的化合物5-fluAFGlu(化合物13)(1.7mg、quant)を黄色固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ 8.58 (d, J = 1.2 Hz, 1H), 8.33 (dd, J = 1.8 Hz, 8.2 Hz , 1H), 7.48 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 6.83 (br, 4H), 6.69 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 4.62 (dd, J = 4.9 Hz, 9.2 Hz, 1H), 2.56-2.52 (m, 2H), 2.42-2.33 (m, 1H), 2.19-2.11 (m, 1H); HRMS (ESI+) m/z calcd. for [M+Na]+, 556.0963; found, 556.0965 (0.2 mmu).
【0062】
(8)化合物15の合成
6-アミノフルオレセイン(化合物14)(1.05g、3mmol、1eq)を出発物質に、化合物8の合成と同様のプロトコルで合成を行い、目的化合物(15)(1.38g、qunat.)を黄色固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.74 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.04 (d, J = 2.3 Hz, 2H), 6.95 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 6.81 (dd, J = 2.3 Hz, 8.6 Hz, 2H), 6.75 (dd, J = 2.0, 8.3 Hz, 1H), 6.22 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 2.31 (s, 6H); 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ 169.6, 169.1, 156.4, 153.3, 151.9, 151.4, 129.2, 126.9, 117.8, 117.2, 116.6, 115.0, 110.3, 107.6, 80.3, 21.3; HRMS (ESI+) m/z calcd. for [M+Na]+, 454.0897; found, 454.0888 (-0.9 mmu).
【0063】
(9)化合物17の合成
化合物15(470mg、1.1mmol、1eq)を4℃に冷却した濃塩酸(12N HClaq)(2mL)に溶解し、そこに、亜硝酸ナトリウム(NaNO)(110mg、1.6mmol、1.5eq)溶液(2mL)を氷浴下でゆっくり滴下し、30分間氷浴下で撹拌した。原料の消費を確認した後に、塩化スズII(SnCl)(300mg、1.6mmol、1.5eq)の希塩酸(1N HClaq)溶液(2mL)を氷浴下でゆっくり滴下し、さらに15分間氷浴下で撹拌を行った。その後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液をゆっくり滴下し中和を行った後に、酢酸エチルで抽出を行い、飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧除去することで、黄色油状の合成中間体(化合物16)を粗生成物として得た。続いて、合成中間体を10mLのアセトニトリル(CHCN)に溶解した後に,N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(380μL、1.8mmol、2.2eq)および化合物4の粗生成物(1.5mmol、1.4eq)を加えて、室温で1時間撹拌を行った。反応液を直接シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル)で粗精製を行った後に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で再精製を行い、凍結乾燥で溶媒を除去することで目的化合物(化合物17)(97.6mg、12%)を黄色固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.83 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 7.06-7.03 (m, 3H), 6.90 (d, J = 6.4 Hz, 1H), 6.88 (d, J = 6.4 Hz, 1H), 6.80 (ddd, J = 1.3 Hz, 3.2 Hz, 8.6 Hz, 2H), 6.67 (s, 1H), 6.62 (s, 1H), 6.49 (d, J = 1.7 Hz, 1H), 6.16 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 4.27-4.24 (dd, J = 4.8 Hz, 8.4 Hz, 1H), 2.29 (s, 6H), 2.22-2.15 (m, 2H), 2.03-2.00 (m, 1H), 1.81-1.35 (m, 1H), 1.36 (s, 9H), 1.35 (s, 9H); 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ 172.4, 171.6, 169.1, 169.0, 158.4, 155.7, 154.4, 152.0, 151.5, 129.1, 127.0, 118.3, 117.8, 116.8, 114.9, 110.4, 106.7, 82.4, 81.0, 80.8, 52.9, 31.6, 28.1, 28.0, 27.7, 21.2; HRMS (ESI+) m/z calcd. for [M+Na]+, 754.2582; found, 754.2585 (0.3 mmu).
【0064】
(10)化合物18の合成
化合物15(199mg、0.45mmol)を出発物質に、化合物10の合成と同様のプロトコルで合成を行い、目的化合物(化合物18)(33mg、0.043mmol、9.6%)を黄色固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.85 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.06-7.04 (m, 3H), 6.90 (dd, J = 1.2 Hz, 8.8 Hz, 2H), 6.81 (dd, J = 2.3Hz, 8.4 Hz, 2H), 6.73 (s, 1H), 6.57 (s, 1H), 6.50 (d, J = 1.7, 1H), 6.01 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 4.67 (s, 1H), 4.30-4.25 (m, 1H), 3.00-2.95 (m, 2H), 2.30 (s, 6H), 1.98 (s, 2H), 1.78-1.71 (m, 1H), 1.59-1.50 (m, 1H), 1.39 (s, 9H), 1.37 (s, 9H), 1.25-1.21 (m,2H); 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ 173.0, 170.1, 170.1, 170.0, 156.9, 155.4, 153.0, 153.0, 152.4, 152.4, 129.9, 127.8, 119.0, 118.6, 118.6, 117.6, 117.5, 115.7, 111.0, 107.3, 82.8, 81.2, 53.5, 40.6, 32.4, 29.7, 28.7, 28.2, 22.6, 21.4; HRMS (ESI+) m/z calcd. for [M+H]+, 775.31850; found, 775.31915 (0.7 mmu).
【0065】
(11)化合物19の合成
化合物15(358mg、0.83mmol、1eq)を4℃に冷却した濃塩酸(12N HClaq)(2mL)に溶解し、そこに、亜硝酸ナトリウム(NaNO)(57mg、0.83mmol、1eq)溶液(1.5mL)を氷浴下でゆっくり滴下し、30分間氷浴下で撹拌した。原料の消費を確認した後に、塩化スズII(SnCl)(237mg、1.24mmol、1.5eq)の希塩酸(1N HClaq)溶液(2mL)を氷浴下でゆっくり滴下し、さらに10分間氷浴下で撹拌を行った。その後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液をゆっくり滴下し中和を行った後に、酢酸エチルで抽出を行い、飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧除去することで、黄色油状の合成中間体(16)を粗生成物として得た。そのうち1/3量を次反応に用いた。合成中間体(化合物16)(0.27mmol、1eq)を化合物4の粗生成物(0.5mmol、1.9eq)のジクロロメタン溶液(5mL)に溶解し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(130μL、0.75mmol、2.8eq)を加えて1時間室温で撹拌した。反応液は直接シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル)で精製を行うことで、目的化合物(化合物19)の粗生成物(113mg、化合物15から59%)を黄色固体として得た。化合物19はさらなる精製を行わず、次反応に用いた。
HRMS (ESI+) m/z calcd. for [M+Na]+, 716.2215; found, 716.2213 (-0.2 mmu).
【0066】
(12)化合物23の合成
化合物17(20mg、0.027mmol、1eq)を出発物質として化合物12と同様のプロトコルで目的化合物(化合物23)(4.6mg、27%)を黄色固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ 9.16 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 8.27-8.26 (m (br), 2H), 7.68 (dd, J = 1.0 Hz, 1.0 Hz, 1H), 7.21 (d, J = 2.2 Hz, 2H), 6.97 (d, J = 8.7 Hz, 2H), 6.91 (dd, J = 2.2 Hz, 8.7 Hz, 2H), 4.56-4.51 (m, 1H), 2.46-2.43 (m, 2H), 2.03-2.00 (m, 7H), 2.07-2.01 (m, 1H); 13C NMR (101 MHz, CD3OD): δ 176.1, 173.9, 170.5, 169.6, 163.4, 157.6, 155.6, 154.1, 152.9, 130.5, 130.1, 127.9, 127.8, 119.5, 118.5, 117.1, 111.7, 83.3, 54.4, 31.1, 27.8, 20.9; HRMS (ESI+) m/z calcd. for [M+Na]+, 640.1174; found, 640.1146 (-2.8 mmu).
【0067】
(13)化合物24の合成
化合物18(33mg、0.043mmol)を出発物質に、化合物12の合成と同様のプロトコルで合成を行い、合成中間体(化合物21)を経て目的化合物(化合物24)(11.5mg、0.019mmol、44%)を得た。
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) : δ 8.27-8.26 (m, 2H), 7.65 (s, 1H), 7.21 (d, J = 2.2 , 2H), 6.97 (d, J = 8.7 ,2H), 6.91 (dd, J = 2.2 Hz, 8.7 Hz, 2H), 4.48 (s, 1H), 2.90 (t, J = 7.1 Hz, 2H), 2.29 (s, 6H), 2.03-2.01(m, 1H), 1.86-1.83 (m, 1H), 1.71-1.65 (m, 2H), 1.52-1.46 (m, 2H); HRMS (ESI+) Calcd for [M+H] +,533.16669 ; Found, 533.16743 (0.7 mmu)
【0068】
(14)6-fluAFGlu(化合物25)の合成
化合物23(1.5mg、0.003mmol)を出発物質として化合物13と同様のプロトコルで目的化合物6-fluAFGlu(化合物25)(1.4mg、quant)を黄色固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ 8.2-8.25 (m, 2H), 7.70 (s, 1H), 6.80-6.78 (m, 4H), 6.65 (dd, J = 2.0 Hz, 10.8 Hz, 2H), 4.55 (dd, J = 4.9 Hz, 9.2 Hz, 1H), 2.48-2.44 (m, 2H), 2.35-2.27 (m, 1H), 2.10-2.03 (m, 1H); 13C NMR (101 MHz, CD3OD): δ176.2, 174.0,169.9, 163.4, 162.5, 157.1, 154.7, 154.0, 131.9, 130.6, 128.1, 127.1, 119.7, 114.5, 111.4, 103.6, 71.4, 54.4, 31.1, 27.8; HRMS (ESI+) m/z calcd. for [M+Na]+, 556.0963; found, 556.0957 (-0.6 mmu).
【0069】
(15)6-fluAFLys(化合物26)の合成
化合物18(33mg、0.043mmol)を出発物質として、合成中間体(化合物24)を経由して、化合物12、化合物13と同様のプロトコルで目的化合物6-fluAFLys(化合物26)(4.0mg、0.0075mmol、化合物18から18%)を黄色固体として得た。
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) : δ 12.85 (s, 1H), 10.20 (s, 2H), 8.98 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 8.25 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 8.20 (dd, J = 1.6 Hz, 8.0 Hz, 1H), 7.62 (s, 2H), 7.49 (d, J = 2.8 Hz, 1H), 6.69 (d, J = 2.4 Hz, 2H), 6.67 (d, J = 8.7 Hz, 2H), 6.56(dd, J = 2.1 Hz, 8.8 Hz, 2H), 4.24-4.18 (m, 1H), 2.77-2.72 (m, 2H), 1.86-1.77 (m, 1H), 1.71-1.62 (m, 1H), 1.56-1.46 (m, 2H), 1.41-1.33 (m, 2H); HRMS (ESI+) Calcd for [M+H] +, 617.18782 ; Found, 617.18867 (0.9mmu)
【0070】
(16)6-fluAFPhe(化合物27)の合成
化合物19の粗生成物(113mg、0.034mmol、1eq)を5mLのジクロロメタンに溶解し、少量の二酸化マンガン(MnO)を加えて10分間室温で撹拌した。反応懸濁液を濾過し、黄色の合成中間体(化合物22)のジクロロメタン溶液を得た。続いて、ろ液にトリフルオロ酢酸(TFA)を加えて,24時間室温で撹拌した。溶媒を減圧除去することで、目的物の粗生成物を黄色固体として得た。粗生成物は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で再精製を行い、凍結乾燥で溶媒を除去することで目的化合物(化合物27)(23mg、化合物19から27%)を黄色固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.11 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 8.23 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 8.17 (dd, J = 1.6, 8.4 Hz, 1H), 7.50 (dd, J = 0.4, 1.6 Hz, 1H), 7.27-7.20 (m, 4H), 7.19-7.17 (m, 1H), 6.70 (d, J = 2.4 Hz, 2H), 6.67 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 6.57 (dd, J = 2.4, 8.8 Hz, 2H), 4.51-4.45 (m, 1H), 3.20-3.15 (m, 1H), 2.97-2.91 (m, 1H); 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ 172.0, 167.8, 162.0, 159.8, 158.2, 155.7, 153.8, 152.0, 137.3, 129.3, 129.2, 129.1, 128.4, 126.8, 126.6, 115.8, 112.8, 109.0, 102.3, 83.6, 55.0, 36.5; HRMS (ESI+) m/z calcd. for [M+H]+, 552.1399; found, 552.1401 (0.2 mmu).
【0071】
[実施例1]
フルオレセイン、5-fluAFGlu(化合物13)、6-fluAFGlu(化合物25)、6-fluAFLys(化合物26)、6-fluAFPhe(化合物27)の吸収・蛍光スペクトル測定
吸収・蛍光スペクトル測定の結果から、5-fluAFGlu(化合物13),6-fluAFGlu(化合物25)、6-fluAFLys(化合物26)および6-fluAFPhe(化合物27)は、強蛍光性のフルオレセインと比較して生理的条件下においてほとんど蛍光性を有しないことが明らかとなった。尚、吸収スペクトルの測定はUV-2450(SIMADZU)、蛍光スペクトルの測定はF-7000(HITACHI)を用いて行った。
【0072】
表1にフルオレセイン、5-fluAFGlu(化合物13)、6-fluAFGlu(化合物25)、6-fluAFLys(化合物26)、6-fluAFPhe(化合物27)の分光学的性質を記載した。
【0073】
【表1】
【0074】
[実施例2]
酵素アッセイ
5-fluAFGlu(化合物13)、6-fluAFGlu(化合物25)に対してPSMAを適用したところ、6-fluAFGluのみ酵素反応による蛍光上昇が観測された。尚、酵素反応に伴う蛍光スペクトルの変化は以下のように測定した。また、6-fluAFGluのPSMAに対する反応性をミカエリスメンテンプロットを作成することで評価した。
【0075】
(1)10μMプローブを200μLの各アッセイバッファーに溶解した溶液を2本用意した。
(アッセイバッファー:50mM HEPES、100mM NaCl、pH 7.5)
(2)それぞれ0.44μgのPSMAを添加し、37℃で15時間インキュベートした。そのうち1本は、PSMA特異的阻害剤2-(Phosphonomethyl)-pentandioic acid(2-PMPA)(終濃度10μM)も同時に添加し、37℃で15時間インキュベーションした。
(3)(2)のインキュベート後の溶液はそれぞれ200mM Na-Pi緩衝液で2800μLに希釈し、蛍光スペクトルを測定した。
【0076】
PSMA、阻害剤(2-PMPA、10μM)を添加した後の5-fluAFGlu、6-fluAFGluの蛍光スペクトルを図1に示す(516nmでのS/N~417)。また、PSMAを添加した6-fluAFGlu(化合物25)の見掛けの動的パラメータを表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
また同様に、6-fluAFLys(化合物26)に対してカルボキシぺプチダーゼM(CPM)、6-fluAFPhe(化合物27)に対してカルボキシペプチダーゼA(CPA)を適用したところ、酵素反応による蛍光上昇が観測された。
【0079】
<CPM>
(1)10μMプローブを200μLのアッセイバッファーに溶解した溶液を3本用意した。
(アッセイバッファー:50mM MES、0.2%Triton X-100、5mM CaCl、pH6.0)
(2)(1)の溶液の1本目にはCPM 0.83μgを添加し、2本目にはCPM 0.83μgとCPM特異的阻害剤3-(2-guanidinoethylthio)-2-(mercaptometyl)propanoic acid(MGTA)終濃度10μMを添加し、3本目にはこれらを添加せずに37℃で2.5時間インキュベートした。
(3)(2)のインキュベート後の溶液200μLをそれぞれ200mM Na-Pi緩衝液2800μLで希釈し、蛍光スペクトルを測定した。
【0080】
CPM、阻害剤(MGTA、10μM)を添加した後の6-fluAFLysの蛍光スペクトルを図2に示す(514nmでのS/N~72)。
【0081】
<CPA>
(1)10μMプローブを600μLの各アッセイバッファーに溶解した溶液を3本用意した。
(アッセイバッファー:Tris-buffered saline(TBS))(2)2μgのCPAを18μLの5ng/mL trypsine溶液で1時間活性化させた
(3)(1)の溶液に(2)の溶液9μLを添加し、37℃で5時間インキュベートした。そのうち1本は、CPA特異的阻害剤ジャガイモカルボキシペプチダーゼ阻害剤(終濃度10μg/mL)も同時に添加し、37℃で5時間インキュベーションした。
(4)(3)のインキュベート後の溶液のうち200μLをそれぞれ200mM Na-Pi阻害剤で2800μLに希釈し、蛍光スペクトルを測定した。
【0082】
CPA1、阻害剤(ジャガイモカルボキシペプチダーゼ阻害剤、10μM)を添加した後の6-fluAFPheの蛍光スペクトルを図3に示す(517nmでのS/N~13)。図中のwoCPAはCPA1を添加しない場合の結果である。
【0083】
[実施例3]
細胞ライセートアッセイ
PSMA発現前立腺がん細胞であるLNCaPおよびPSMA非発現前立腺がん細胞であるPC3の細胞ライセートを作成し、それぞれに対して6-fluAFGlu(化合物25)を添加したところ、LNCaP細胞ライセートでは大幅な蛍光増大が観察された一方で、PC3細胞ライセートやPSMA特異的阻害剤2-PMPAを添加したLNCaP細胞ライセートではほとんど蛍光増大が観察されなかった。
【0084】
(1)タンパク質濃度を0.2mg/mLに調整した各細胞ライセートに対して、終濃度10μMの6-fluAFGluをそれぞれ加え、37℃でインキュベーションを行いながら、経時的に蛍光強度をプレートリーダーを用いて測定した。また、LNCaP細胞ライセートのサンプルのうち、1本は、PSMA特異的阻害剤2-PMPA(10μM)も同時に添加し、測定を行った。
(2)得られた各ライセートの蛍光強度を0分を1として規格化した上で、インキュベーション時間を横軸にしてプロットを行った。
【0085】
細胞ライセート、阻害剤(2-PMPA、10μM)を添加した後の6-fluAFGluの相対蛍光強度を図4に示す。
【0086】
[実施例4]
生細胞アッセイ
PSMA発現細胞であるLNCaPおよびPSMA非発現細胞であるPC3を96ウェルプレート上に培養し、そこに6-fluAFGlu(化合物25)の10μM水溶液を添加し、経時的に観察を行った。その結果、LNCaPではPC3と比較して、有意な蛍光強度の上昇が観察された。またLNCaPにおける蛍光上昇は、PSMA特異的阻害剤2-PMPAによって、有意に抑制された。
【0087】
(1)ポリ-L-lysineでコートした96 well plate上に、LNCaPおよびPC3を培養し、細胞密度が約90%コンフルエントになった時点で実験を行った。
(2)各ウェルの溶液を、10μMの6-fluAFGluのTBS溶液に交換し、ウェルの蛍光強度を経時的にプレートリーダーを用いて測定した。
(3)得られた各ウェルの蛍光強度値を0分を1として規格化した上で、インキュベーション時間を横軸にしてプロットを行った。
【0088】
培養細胞、阻害剤(2-PMPA、10μM)を添加した後の6-fluAFGluの相対蛍光強度を図5に示す。図中、*はp<0.05を、**はp<0.01を、***はp<0.001を表す。
【0089】
[実施例5]
CPM発現培養細胞(MDCK細胞)を用いた検討
(1)細胞ライセートとの反応性
6-fluAFLys(化合物26)とCPM発現培養細胞であるMDCK細胞のライセート(0.2mg/mL)のPBS溶液200μLを37℃にて反応させ、経時的な蛍光強度変化を測定した。一方にはCPM阻害剤であるMGTAを加えた。
Ex/em:485/535nm、n=3、6-fluAFLys終濃度:10μM、阻害剤(MGTA)終濃度:10μM
結果を図6に示す。MDCK細胞ライセートでは大幅な蛍光増大が観察された一方で、MGTAを添加したMDCK細胞ライセートではほとんど蛍光増大が観察されなかった。
【0090】
(2)生細胞イメージング
MDCK細胞にHBSS(+)で希釈した6-FDAAFLys(化合物24)の溶液(終濃度:10μM)を添加し、37℃、5%COの条件下で培養しながら以下の条件で共焦点顕微鏡にて蛍光像を撮影した。結果を図7及び8に示す。
Ex/em:488/500-550nm、Scale bar:50μm
CPMを高発現するMDCK細胞を用いた生細胞イメージングを行い、6-FDAAFLysを加えることで時間経過とともに細胞内の蛍光強度増大が観察された。一方CPM阻害剤のMGTAを加えたMDCK細胞の場合は、蛍光強度の増大が抑制された。
【0091】
[合成実施例2]
以下のスキーム2により、本発明のカルボキシペプチダーゼ活性検出蛍光プローブである2Me5GluAF-TG(化合物32)を合成した。
【0092】
スキーム2:カルボキシペプチダーゼ活性検出蛍光プローブ(2Me5GluAF-TG)の合成(2)
【0093】
【0094】
(1)N,N-ジアリル-3-ブロモ-4-メチルアニリン(26)の合成
3-ブロモ-4-メチルアニリン(25)(3.04g、0.016mol、1eq)、炭酸カリウム(3.38g、0.024mol、1.5eq)をアセトニトリル15mLに溶解し、臭化アリル(5.65mL、0.065mol、4eq)を加えて80℃アルゴン雰囲気下で23時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、残渣をジクロロメタンに溶解し、水及び飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。粗精製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=100/0-85/15)によって精製し、化合物26(3.41g、79%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ. 7.07 (d, 1H, J = 8.4 Hz), 6.94 (m, 1H), 6.61 (m, 1H), 5.91-5.84 (m, 2H), 5.24-5.20 (m, 4H), 3.92 (m, 4H), 2.33 (m, 4H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ. 148.0, 133.6, 130.9, 125.6, 124.9, 116.3, 116.0, 111.7, 52.9, 21.6.
【0095】
(2)2Me5AllylN-TG(28)の合成
N,N-ジアリル-3-ブロモ-4-メチルアニリン(26)(1.06g、3.99mmol、1eq)をテトラヒドロフラン8mLに溶解し、-78℃アルゴン雰囲気下で10分間撹拌し、1M sec-ブチルリチウム シクロヘキサン、ノルマルヘキサン溶液(4mL、4mmol、1eq)をゆっくり滴下した。15分後、テトラヒドロフラン11mLに溶解したdiTBS-キサンテン(27)(Shieh, P., Hangauer, M. J. & Bertozzi, C. R. Fluorogenic Azidofluoresceins for Biological Imaging. J. Am. Chem. Soc. 134, 17428-17431 (2012)に従って合成)(1.82g、3.99mmol、1eq)を加え、室温に戻しながらアルゴン雰囲気下で1時間撹拌した。2N塩酸 2mLを加え、室温で20分間撹拌した後、ろ過により化合物28(1.58g)をクルードとして得た。
HRMS-ESI (m/z): [M+H]+ calcd for 398.17507 (C26H24NO3), found 398.17548 (- 0.4 mmu).
【0096】
(3)2Me5AllylN-TG-MOM(29)の合成
2Me5AllylN-TG(28)(500.8mg、1.26mmol、1eq)、炭酸カリウム(209.6mg、1.52mmol、1.2eq)をN,N-ジメチルホルムアミド10mLに溶解し、クロロメチルメチルエーテル(143μL、1.88mmol,1.5eq)を加え、室温で15時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、残渣をジクロロメタンに溶解し、水及び飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=80/20-50/50)によって粗精製を行い、2Me5AllylN-TG-MOM(29)(153.3mg)をクルードとして得た。
【0097】
(4)2Me5NH-TG-MOM(30)の合成
2Me5AllylN-TG-MOM(29)(269.7mg、0.61mmol、1eq)、1,3-ジメチルバルビツール酸(764.3mg、4.89mmol、8eq)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(143.4mg、0.12mmol、0.2eq)を脱酸素ジクロロメタン10mLに溶解し、室温で19時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ジクロロメタン/メタノール=100/0-90/10)によって粗精製を行った。さらに、分取TLC(溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)によって精製を行い、2Me5NH-TG-MOM(30)(154.8mg、70%)を得た。
1H NMR (400MHz, CD3OD): δ. 7.31 (d, 1H, J = 2.4 Hz), 7.25 (d, 1H, J = 9.0 Hz), 7.21 (d, 1H, J = 9.6 Hz), 7.18 (d, 1H, J = 8.3 Hz), 7.06 (dd, 1H, J = 9.0 Hz, 2.4 Hz), 6.87 (dd, 1H, J = 8.3 Hz, 2.4 Hz), 6.62 (dd, 1H, J = 9.6 Hz, 2.0 Hz), 6.59 (d, 1H, J = 2.4 Hz), 6.49 (d, 1H, J = 2.0 Hz), 5.37 (s, 2H), 3.50 (s, 3H), 1.9 (s, 3H); 13C NMR (101MHz, CD3OD): δ. 187.5, 164.5, 161.6, 156.3, 155.8, 147.3, 133.8, 133.2, 132.4, 131.5, 129.6, 125.6, 118.8, 118.0, 116.6, 116.5, 116.3, 105.6, 104.0, 95.8, 56.9, 18.5. HRMS-ESI (m/z): [M+H]+ calcd for 362.13868 (C22H20NO4), found 362.13958 (- 0.9 mmu).
【0098】
(5)2Me5GluAF-TG(化合物32)の合成
2Me5NH-TG-MOM(30)(29.5mg、0.082mmol、1eq)を予め4℃に冷却しておいた6N塩酸 0.5mLに溶解し、反応液を0℃に冷却した。0.1mLの水に溶解した亜硝酸ナトリウム(5.07mg、0.073mmol、0.9eq)を滴下し、0℃で5分間撹拌した。0.1mLの1N塩酸に溶解した塩化スズ(II)(13.93mg、0.073mmol、0.9eq)を滴下し、直後に1mLのジクロロメタンに溶解したditBuGlu-NCO(58mg、0.20mmol、2.4eq)を加えた後、2N水酸化ナトリウム水溶液をpH11以上になるまで加え、0℃で40分間激しく撹拌した。2N塩酸をpH7になるまで加え、ジクロロメタンで3回抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過により無水硫酸ナトリウムを除いた。ろ液に二酸化マンガンを過剰量加え、室温で20分間撹拌した。セライトろ過により二酸化マンガンを除き、溶媒を減圧留去した。残渣をセミ分取HPLCにより精製し、中間体を得た。化合物にジクロロメタン0.5mL、トリフルオロ酢酸0.5mLを加えて、室温で1時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、残渣をセミ分取HPLCにより精製し、2Me5GluAF-TG(化合物32)(1.9mg、4.6%(2steps))を得た。
1H NMR (400MHz, CD3OD): δ. 8.20 (dd, 1H, J = 8.3 Hz, 2.0 Hz), 7.94 (d, 1H, J = 2.0 Hz), 7.79 (d, 1H, J = 8.3 Hz), 7.49 (d, 1H, J = 9.3 Hz), 7.23 (d, 1H, J = 2.2 Hz), 7.12 (dd, 1H, J = 9.3 Hz, 2.2 Hz), 4.60-4.56 (m, 1H), 2.51-2.47 (m, 2H), 2.38-2.29 (m, 1H), 2.17 (s, 3H), 2.13-2.03 (m, 1H); 13C NMR (101MHz, CD3OD): δ. 176.2, 174.4, 174.0, 163.8, 160.8, 150.9, 143.9, 134.2, 133.6, 133.5, 126.4, 125.6, 122.3, 117.6, 104.0, 54.4, 31.1, 27.8, 20.0. ※4級炭素のピークが一本不足 HRMS-ESI (m/z): [M+H]+ calcd for 504.14014 (C26H22N3O8), found 504.13930 (+ 0.8 mmu).
【0099】
[実施例5]
2Me5GluAF-TG(化合物32)の吸収・蛍光スペクトル測定
2Me5GluAF-TG(化合物32)の吸収・蛍光スペクトル測定の結果を図9及び図10に示す。2Me5GluAF-TG(化合物32)は、強蛍光性のフルオレセインと比較して生理的条件下においてほとんど蛍光性を有しないことが明らかとなった。尚、吸収スペクトルの測定はUV-2450(SIMADZU)、蛍光スペクトルの測定はF-7000(HITACHI)を用いて行った。
【0100】
表3に2Me5GluAF-TG(化合物32)の分光学的性質を記載した。
【0101】
【表3】
【0102】
[実施例6]酵素アッセイ
(1)PSMA精製酵素との反応性 2Me5GluAF-TG(化合物32)の溶液(10μM、200μL)とrecombinant human PSMA(0.44μg)を1xTBSバッファー中、37℃にて反応させ、30分おきに蛍光強度を測定した。阻害剤(2-PMPA)濃度:10μM、Ex/em:485/535nm.n=3.
、酵素反応に伴う蛍光強度変化は実施例2に記載の方法と同様に測定した。結果を図11に示す。
2Me5GluAF-TG(化合物32)に対してPSMAを適用したところ、酵素反応による蛍光上昇が観測された。また、阻害剤(2-PMPA)の存在下においては、蛍光上昇が観測されなかった。
【0103】
また、様々な濃度の2Me5GluAF-TG(化合物32)溶液にPSMAを添加した際の、反応初期における蛍光増加率をプロットしたものを図12に、2Me5GluAF-TGと6-fluAFGlu(化合物25)の見掛けの動的パラメータを表4に示す。
【0104】
【表4】
【0105】
(2)反応溶液のLC-UV/MS分析
Recombinant human PSMAと2Me5GluAF-TG(化合物32)を10時間反応させた後の溶液及び、標品として合成した2Me5GluAF-TG、2MeTGのLC-UV/MS分析を行った。
プローブ濃度:10μM(2Me5GluAF-TG、酵素反応溶液)、2μM(2MeTG).結果を図13及び図14に示す。
上記の結果から、PSMA存在下で蛍光性を示す2MeTG及び2Me5OH-TGの生成が確認された。阻害剤(2-PMPA)を添加した場合やPSMA非存在下では、2Me5GluAF-TGは安定であることが示された。
【0106】
[実施例7]
前立腺がん由来培養細胞を用いた検討
(1)細胞ライセートとの反応性
2Me5GluAF-TG(化合物32)の溶液(20μM、100μL)と細胞ライセート(0.36mg/mL、100μL)をTBS-Tバッファー中、37℃にて反応させ、30分おきに蛍光強度を測定した。測定の手順は実施例3に記載した通りである。
Ex/em:485/535nm、n=3、プローブ終濃度:10μM、阻害剤(2-PMPA)濃度:10μM
結果を図15に示す。LNCaP細胞ライセートでは大幅な蛍光増大が観察された一方で、PC3細胞ライセートやPSMA特異的阻害剤2-PMPAを添加したLNCaP細胞ライセートではほとんど蛍光増大が観察されなかった。
【0107】
(2)生細胞イメージング
LNCaP細胞(PSMA高発現)又はPC3細胞(PSMA非発現)にHBSS(+)で希釈した2Me5GluAF-TG(化合物32)の溶液(終濃度:10μM)を添加し、37℃、5%COの条件下で培養しながら1時間おきに以下の条件で共焦点顕微鏡にて蛍光像を撮影した。
Ex/em:490/500-600nm、Scale bar:50μm
結果を図16及び図17に示す。PSMAを高発現するLNCaP細胞を用いた場合は、時間の経過とともに蛍光像の蛍光強度が増大しているのに対して(図16)、PSMA非発現のPC3細胞を用いた場合は蛍光像に変化は見られなかった(図17)。
【0108】
(3)阻害剤実験
プローブ(2Me5GluAF-TG)及び阻害剤を添加し、37℃、5%COの条件下で15時間培養後、共焦点顕微鏡にて蛍光像を撮影した。プローブ濃度:10μM、阻害剤(2-PMPA)濃度:10μM、Ex/em:490/500-600nm、Scale bar:50μm.
細胞内外の領域をそれぞれ10ヶ所ずつROIで囲い、蛍光強度の平均値を求めた。図18aに撮影した蛍光像を、図18bに阻害剤を添加した場合と未添加の場合の蛍光強度の平均値を示す。
図18aから、阻害剤を添加した場合は、蛍光像の強度が上昇しないことが示される。また、図18bの左側のグラフ(阻害剤を添加しない場合)から、細胞内での蛍光強度の平均値が細胞外に比べて非常に高いことが示されている。このことから、2Me5GluAF-TGは、細胞内へより取り込まれやすい蛍光プローブであることが示唆される。
【0109】
(4)細胞外液のLC-UV/MS分析
2Me5GluAF-TGを用いてLNCaP細胞のイメージングを行った後、回収した細胞外液及び、標品として合成した2Me5GluAF-TG、2MeTGのLC-MS分析を以下の条件で行った。
プローブ濃度:10μM(2Me5GluAF-TG,細胞外液)、2μM(2MeTG).
結果を図19及び図20に示す。
上記の結果から、阻害剤(2-PMPA)非存在下において、蛍光性を示す2MeTGの生成が確認された。また、阻害剤を添加した場合は2MeTGは生成せず、2Me5GluAF-TGは安定であることが示された。
【0110】
[実施例8]
ヒト前立腺がん手術検体を用いた検討
2Me5GluAF-TGを用いて、以下のプロトコルによりヒト前立腺がん手術検体を用いた検討を行った。
【0111】
<プロトコル>
1.手術検体を1xTBSバッファーで洗浄
2.50μMの2Me5GluAF-TG溶液(1xTBSバッファーで希釈)を検体全体が浸るように滴下
3.ヒーターで40℃に加温しながら、Maestroにて4時間後まで蛍光像を撮影
4.4時間後の蛍光像から判断し、明るい蛍光を示す部位と蛍光を示さない部位をそれぞれ数ヶ所ずつ選んで切り出し、10%ホルマリン溶液で固定
5.病理医に依頼して各部位のHE染色・PSMA免疫染色を行い、がん部位の割合やPSMA発現を評価
【0112】
4種類の検体を用いて行った結果を図21図24に示す。また、上記プロトコルを変更(プローブ溶液に浸したガーゼで表面を覆う方法に変更し、一時的にガーゼを外して蛍光像を撮影)して行った結果を図25に示す。
各図の(a)は、手術検体をMe5GluAF-TG溶液に浸す前と、浸してから4時間後の写真を示し(右側は蛍光像である)、(b)の左側のグラフは、手術検体の選択部位におけるMe5GluAF-TG溶液に浸してから4時間後までの蛍光強度の変化を示し、(c)は、各部位におけるPSMA発現、がん部位の割合、GSを評価した結果を示す。ここで、GSとは悪性腫瘍を評価する指標で、値が高い程悪性度が高い。
また、検体イメージングを行った各部位の蛍光強度の30分後、60分後、240分後での蛍光強度の増加率を図26にまとめた。ここで、黒の棒グラフはがん部位を含むもの、白の棒グラフはがん部位を含まないものである。
【0113】
これらの結果から、蛍光強度の上昇とがん部位の有無やPSMAの発現量には大まかな相関があり、2Me5GluAF-TGを前立腺がんイメージングプローブとして利用できる可能性が示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18a
図18b
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26