(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】硬化性組成物、ドライフィルム、硬化物および電子部品
(51)【国際特許分類】
C08L 71/12 20060101AFI20230830BHJP
C08K 5/49 20060101ALI20230830BHJP
C08G 65/44 20060101ALI20230830BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230830BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20230830BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C08L71/12
C08K5/49
C08G65/44
C08J5/18 CEZ
C08J5/24
B32B27/00 103
(21)【出願番号】P 2019132321
(22)【出願日】2019-07-17
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2019036183
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)公益社団法人 高分子学会 高分子学会予稿集 68巻1号[2019]令和1年5月14日発行 (2)学会の開催日:令和1年5月30日 第68回高分子学会年次大会
(73)【特許権者】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】能坂 麻美
(72)【発明者】
【氏名】松村 聡子
(72)【発明者】
【氏名】石川 信広
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/143196(WO,A1)
【文献】特開2006-057079(JP,A)
【文献】特開2015-086330(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0252214(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L71
C08J5
B32B27
C08G65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも条件1を満たすフェノール類を含む原料フェノール類からなるポリフェニレンエーテルと、
前記ポリフェニレンエーテルと相溶しないリン化合物と、
を含有
し、
前記ポリフェニレンエーテルの一部または全部が、
少なくとも下記条件1および下記条件2をいずれも満たすフェノール類(A)、または、少なくとも下記条件1を満たし下記条件2を満たさないフェノール類(B)と下記条件1を満たさず下記条件2を満たすフェノール類(C)の混合物を含む原料フェノール類からなるポリフェニレンエーテルである
ことを特徴とする硬化性組成物。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
(条件2)
パラ位に水素原子を有し、不飽和炭素結合を含む炭化水素基を有する
【請求項2】
請求項
1に記載の硬化性組成物を基材に塗布して得られることを特徴とするドライフィルムまたはプリプレグ。
【請求項3】
請求項
1に記載の硬化性組成物を硬化して得られることを特徴とする硬化物。
【請求項4】
請求項
3に記載の硬化物を含むことを特徴とする積層板。
【請求項5】
請求項
3に記載の硬化物を有することを特徴とする電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテルを含む硬化性組成物、ドライフィルム、プリプレグ、硬化物、積層板、および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
第5世代通信システム(5G)に代表される大容量高速通信や自動車のADAS(先進運転システム)向けミリ波レーダー等などの普及により通信機器の信号の高周波化が進んできた。
【0003】
しかし、配線板材料として従来のエポキシ樹脂などの使用では比誘電率(Dk)や誘電正接(Df)が十分に低くないために、周波数が高くなるほど誘電損失に由来する伝送損失の増大が起こり、信号の減衰や発熱などの問題が生じていた。そのため、低誘電特性にすぐれたポリフェニレンエーテルが使用されてきたが、ポリフェニレンエーテルは熱可塑性樹脂であるために耐熱性の問題があった。
【0004】
その問題を解決するための手段として非特許文献1には、ポリフェニレンエーテルの分子内にアリル基を導入させて、熱硬化性樹脂とすることが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】J. Nunoshige, H. Akahoshi, Y. Shibasaki, M. Ueda, J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 2008, 46, 5278-5282.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリフェニレンエーテルは可溶する溶媒が限られており、非特許文献1の手法で得られたポリフェニレンエーテルも、クロロホルムやトルエン等の非常に毒性が高い溶媒にしか溶解しない。そのため、樹脂ワニスの取り扱いや、配線板用途のような塗膜化して硬化させる工程における溶媒暴露の管理が難しいという問題があった。
【0007】
さらに、配線板材料においては、高周波への対応のための低誘電正接化と、難燃性の向上が求められている。
【0008】
そこで本発明は、種々の溶媒(毒性の高い有機溶媒以外の有機溶媒、例えばシクロヘキサノン)にも可溶なポリフェニレンエーテルを含む硬化性組成物であって、低誘電正接化を実現し難燃性を有する硬化物を得るのに好適な硬化性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的の実現に向け鋭意検討した結果、特定のフェノール類を原料としたポリフェニレンエーテルと、特定リン化合物とを含む硬化性組成物を使用することにより、上記課題を解決可能なことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、少なくとも条件1を満たすフェノール類を含む原料フェノール類からなるポリフェニレンエーテルと、
前記ポリフェニレンエーテルと相溶しないリン化合物と、
を含有することを特徴とする硬化性組成物を提供する。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
【0011】
本発明は、好ましくは、少なくとも条件1を満たすフェノール類を含む原料フェノール類からなり、コンフォメーションプロットで算出された傾きが0.6未満であるポリフェニレンエーテルと、
前記ポリフェニレンエーテルと相溶しないリン化合物と、
を含有することを特徴とする硬化性組成物を提供するものである。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
【0012】
前記ポリフェニレンエーテルの一部または全部が、
少なくとも下記条件1および下記条件2をいずれも満たすフェノール類(A)、または、少なくとも下記条件1を満たし下記条件2を満たさないフェノール類(B)と下記条件1を満たさず下記条件2を満たすフェノール類(C)の混合物を含む原料フェノール類からなるポリフェニレンエーテルであってもよい。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
(条件2)
パラ位に水素原子を有し、不飽和炭素結合を含む官能基を有する
【0013】
また、本発明は、前記硬化性組成物を基材に塗布して得られることを特徴とするドライフィルムまたはプリプレグを提供する。
【0014】
また、本発明は、前記硬化性組成物を硬化して得られることを特徴とする硬化物を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記硬化物を含むことを特徴とする積層板を提供する。
【0016】
また、本発明は、前記硬化物を有することを特徴とする電子部品を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低誘電特性を維持しつつも、種々の溶媒(毒性の高い有機溶媒以外の有機溶媒、例えばシクロヘキサノン)にも可溶であり、低誘電正接化を実現し難燃性を有する硬化物を得るのに好適な硬化性組成物を提供することが可能となる。
【0018】
更に、本発明によれば、低吸水性を有する硬化物を得るのに好適な硬化性組成物を提供することも可能である。水は物質の中でも誘電特性が高いため、吸水量に応じて硬化物の誘電特性が大きく悪化してしまう。低吸水性を備えると高湿度環境でも安定した誘電特性を示す。
更に、本発明によれば、高温高湿環境下における絶縁信頼性に優れる硬化物を得るのに好適な硬化性組成物を提供することも可能である。温度や湿度の変化により絶縁不良などの不具合を発生しない材料であるため、自動車に搭載したり、屋外など環境の変化が激しい場所で使用したりする際に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
なお、説明した化合物に異性体が存在する場合、特に断らない限り、存在し得る全ての異性体が本発明において使用可能である。
【0021】
また、本発明において、「不飽和炭素結合」は、特に断らない限り、エチレン性またはアセチレン性の炭素間多重結合(二重結合または三重結合)を示す。
【0022】
本発明において、原料フェノール類の説明を行う際に「オルト位」や「パラ位」等と表現した場合、特に断りがない限り、フェノール性水酸基の位置を基準(イプソ位)とする。
【0023】
本発明において、単に「オルト位」等と表現した場合、「オルト位の少なくとも一方」等を示す。従って、特に矛盾が生じない限り、単に「オルト位」とした場合、オルト位のどちらか一方を示すと解釈してもよいし、オルト位の両方を示すと解釈してもよい。
【0024】
本発明において、ポリフェニレンエーテル(PPE)の原料として用いられ、ポリフェニレンエーテルの構成単位になり得るフェノール類を総称して、「原料フェノール類」とする。
【0025】
以下、本発明の硬化性組成物(単に組成物とも表現する)について説明する。
【0026】
(ポリフェニレンエーテル)
本発明の硬化性組成物は、所定ポリフェニレンエーテルを含有する。後述する通り、所定ポリフェニレンエーテルは分岐構造を有するポリフェニレンエーテルである。そのため、所定ポリフェニレンエーテルを分岐ポリフェニレンエーテルと表現する場合がある。
【0027】
所定ポリフェニレンエーテルは、下記条件1を満たすフェノール類を必須成分として含む原料フェノール類を酸化重合させて得られるものである。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する。
【0028】
条件1を満たすフェノール類{例えば、後述するフェノール類(A)およびフェノール類(B)}は、オルト位に水素原子を有するため、フェノール類と酸化重合される際に、イプソ位、パラ位のみならず、オルト位においてもエーテル結合が形成され得るため、分岐鎖状の構造を形成することが可能となる。
【0029】
条件1を満たさないフェノール類{例えば、後述するフェノール類(C)およびフェノール類(D)}は、酸化重合される際には、イプソ位およびパラ位においてエーテル結合が形成され、直鎖状に重合されていく。
【0030】
このように、所定ポリフェニレンエーテルは、その構造の一部が、少なくともイプソ位、オルト位、パラ位の3か所がエーテル結合されたベンゼン環により分岐することとなる。ポリフェニレンエーテルは、例えば、骨格中に少なくとも式(i)で示されるような分岐構造を有するポリフェニレンエーテルである化合物と考えられる。
【0031】
【0032】
式(i)中、Ra~Rkは、水素原子、または炭素数1~15(好ましくは、炭素数1~12)の炭化水素基である。
【0033】
本発明の効果を阻害しない範囲内で、原料フェノール類は、条件1を満たさないその他のフェノール類を含んでいてもよい。
【0034】
その他のフェノール類としては、例えば、後述するフェノール類(C)およびフェノール類(D)、パラ位に水素原子を有しないフェノール類が挙げられる。ポリフェニレンエーテルの高分子量化のために、原料フェノール類として、フェノール類(C)およびフェノール類(D)をさらに含むことが好ましい。
【0035】
特に好ましい所定ポリフェニレンエーテルは、少なくとも下記条件1および下記条件2をいずれも満たすフェノール類(A)、または、少なくとも下記条件1を満たし下記条件2を満たさないフェノール類(B)と下記条件1を満たさず下記条件2を満たすフェノール類(C)の混合物を含む原料フェノール類からなるポリフェニレンエーテルである。下記する通り、好ましいポリフェニレンエーテルは側鎖に不飽和炭素結合を有する。硬化する際に、この不飽和炭素結合によって3次元的な架橋が可能となる。その結果、耐熱性や耐溶剤性に非常に優れる。
【0036】
具体的には、前記ポリフェニレンエーテルは、
(形態1)少なくとも、下記条件1および下記条件2をいずれも満たすフェノール類(A)必須成分として含む原料フェノール類、または、
(形態2)少なくとも、下記条件1を満たし下記条件2を満たさないフェノール類(B)と下記条件1を満たさず下記条件2を満たすフェノール類(C)との混合物を必須成分として含む原料フェノール類、
を酸化重合させて得られるものである。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
(条件2)
パラ位に水素原子を有し、不飽和炭素結合を含む官能基を有する
【0037】
条件2を満たすフェノール類{例えば、フェノール類(A)およびフェノール類(C)}は、少なくとも不飽和炭素結合を含む炭化水素基を有する。従って、条件2を満たすフェノール類を原料として合成されるポリフェニレンエーテルは、不飽和炭素結合を含む炭化水素基を官能基として有することで、架橋性を有することとなる。
【0038】
このように、好ましい所定ポリフェニレンエーテルは、その構造の一部が、少なくともイプソ位、オルト位、パラ位の3か所がエーテル結合されたベンゼン環により分岐することとなる。ポリフェニレンエーテルは、例えば、骨格中に少なくとも式(i)で示されるような分岐構造を有するポリフェニレンエーテルであり、少なくとも一つの不飽和炭素結合を含む炭化水素基を官能基として有する化合物と考えられる。すなわち、上記式(i)中のRa~Rkの少なくとも一つが、不飽和炭素結合を有する炭化水素基である。
【0039】
次に、上記形態1は、原料フェノール類として、さらにフェノール類(B)および/またはフェノール類(C)を含む形態であってもよい。また、上記形態2は、原料フェノール類として、さらにフェノール類(A)を含む形態であってもよい。
【0040】
所定ポリフェニレンエーテルは、上記形態2であることか、上記形態1においてフェノール類(B)および/またはフェノール類(C)を更なる必須成分として含む形態であることが好ましい。
【0041】
また、本発明の効果を阻害しない範囲内で、原料フェノール類は、その他のフェノール類を含んでいてもよい。
【0042】
その他のフェノール類としては、例えば、パラ位に水素原子を有し、オルト位に水素原子を有せず、不飽和炭素結合を含む官能基を有しないフェノール類であるフェノール類(D)が挙げられる。
【0043】
上記形態1および上記形態2のいずれにおいても、ポリフェニレンエーテルの高分子量化のために、原料フェノール類として、フェノール類(D)をさらに含むことが好ましい。
【0044】
ポリフェニレンエーテルは、上記形態2において、原料フェノール類として、フェノール類(D)をさらに含む形態であることがもっとも好ましい。
【0045】
さらに、上記形態2においては、工業的・経済的な観点から、フェノール類(B)が、o-クレゾール、2-フェニルフェノール、2-ドデシルフェノールおよびフェノールの少なくともいずれか1種であり、フェノール類(C)が、2-アリル-6-メチルフェノールであることが好ましい。
【0046】
以下、フェノール類(A)~(D)に関してより詳細に説明する。
【0047】
フェノール類(A)は、上述のように、条件1および条件2のいずれも満たすフェノール類、即ち、オルト位およびパラ位に水素原子を有し、不飽和炭素結合を含む官能基を有するフェノール類であり、好ましくは下記式(1)で示されるフェノール類(a)である。
【0048】
【0049】
式(1)中、R1~R3は、水素原子、または炭素数1~15の炭化水素基である。ただし、R1~R3の少なくとも一つが、不飽和炭素結合を有する炭化水素基である。なお、酸化重合時に高分子化することが容易になるという観点から、炭化水素基は、炭素数1~12であることが好ましい。
【0050】
式(1)で示されるフェノール類(a)としては、o-ビニルフェノール、m-ビニルフェノール、o-アリルフェノール、m-アリルフェノール、3-ビニル-6-メチルフェノール、3-ビニル-6-エチルフェノール、3-ビニル-5-メチルフェノール、3-ビニル-5-エチルフェノール、3-アリル-6-メチルフェノール、3-アリル-6-エチルフェノール、3-アリル-5-メチルフェノール、3-アリル-5-エチルフェノール等が例示できる。式(1)で示されるフェノール類は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0051】
フェノール類(B)は、上述のように、条件1を満たし、条件2を満たさないフェノール類、即ち、オルト位およびパラ位に水素原子を有し、不飽和炭素結合を含む官能基を有しないフェノール類であり、好ましくは下記式(2)で示されるフェノール類(b)である。
【0052】
【0053】
式(2)中、R4~R6は、水素原子、または炭素数1~15の炭化水素基である。ただし、R4~R6は、不飽和炭素結合を有しない。なお、酸化重合時に高分子化することが容易になるという観点から、炭化水素基は、炭素数1~12であることが好ましい。
【0054】
式(2)で示されるフェノール類(b)としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、o-エチルフェノール、m-エチルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、3,5-キシレノール、o-tert-ブチルフェノール、m-tert-ブチルフェノール、o-フェニルフェノール、m-フェニルフェノール、2-ドデシルフェノール、等が例示できる。式(2)で示されるフェノール類は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0055】
フェノール類(C)は、上述のように、条件1を満たさず、条件2を満たすフェノール類、即ち、パラ位に水素原子を有し、オルト位に水素原子を有せず、不飽和炭素結合を含む官能基を有するフェノール類であり、好ましくは下記式(3)で示されるフェノール類(c)である。
【0056】
【0057】
式(3)中、R7およびR10は、炭素数1~15の炭化水素基であり、R8およびR9は、水素原子、または炭素数1~15の炭化水素基である。ただし、R7~R10の少なくとも一つが、不飽和炭素結合を有する炭化水素基である。なお、酸化重合時に高分子化することが容易になるという観点から、炭化水素基は、炭素数1~12であることが好ましい。
【0058】
式(3)で示されるフェノール類(c)としては、2-アリル-6-メチルフェノール、2-アリル-6-エチルフェノール、2-アリル-6-フェニルフェノール、2-アリル-6-スチリルフェノール、2,6-ジビニルフェノール、2,6-ジアリルフェノール、2,6-ジイソプロペニルフェノール、2,6-ジブテニルフェノール、2,6-ジイソブテニルフェノール、2,6-ジイソペンテニルフェノール、2-メチル-6-スチリルフェノール、2-ビニル-6-メチルフェノール、2-ビニル-6-エチルフェノール等が例示できる。式(3)で示されるフェノール類は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0059】
フェノール類(D)は、上述のように、パラ位に水素原子を有し、オルト位に水素原子を有せず、不飽和炭素結合を含む官能基を有しないフェノール類であり、好ましくは下記式(4)で示されるフェノール類(d)である。
【0060】
【0061】
式(4)中、R11およびR14は、不飽和炭素結合を有しない炭素数1~15の炭化水素基であり、R12およびR13は、水素原子、または不飽和炭素結合を有しない炭素数1~15の炭化水素基である。なお、酸化重合時に高分子化することが容易になるという観点から、炭化水素基は、炭素数1~12であることが好ましい。
【0062】
式(4)で示されるフェノール類(d)としては、2,6-ジメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2-メチル-6-エチルフェノール、2-エチル-6-n-プロピルフェノール、2-メチル-6-n-ブチルフェノール、2-メチル-6-フェニルフェノール、2,6-ジフェニルフェノール、2,6-ジトリルフェノール等が例示できる。式(4)で示されるフェノール類は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0063】
ここで、本発明において、炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられ、好ましくはアルキル基、アリール基、アルケニル基である。不飽和炭素結合を有する炭化水素基としては、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられる。なお、これらの炭化水素基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。
【0064】
さらに、その他のフェノール類として、パラ位に水素原子を有しないフェノール類等を含んでいてもよい。
【0065】
原料フェノール類の合計に対する条件1を満たすフェノール類の割合が、1~50mol%であることが好ましい。
【0066】
条件2を満たすフェノール類を使用しなくてもよいが、使用する場合、原料フェノール類の合計に対する条件2を満たすフェノール類の割合が0.5~99mol%であることが好ましく、1~99mol%であることがより好ましい。
【0067】
以上説明したような原料フェノール類を公知慣用の方法にて酸化重合させて得られるポリフェニレンエーテルは、数平均分子量が2,000~30,000であることが好ましい。5,000~30,000であることがより好ましく、8,000~30,000であることが更に好ましく、8,000~25,000であることが特に好ましい。さらに、ポリフェニレンエーテルは、多分散指数(PDI:重量平均分子量/数平均分子量)が、1.5~20であることが好ましい。
【0068】
本発明において、数平均分子量および重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定を行い、標準ポリスチレンを用いて作成した検量線により換算したものである。
【0069】
所定ポリフェニレンエーテル1gは、25℃で、好ましくは100gのシクロヘキサノンに対して(より好ましくは、100gの、シクロヘキサノン、DMFおよびPMAに対して)可溶である。なお、ポリフェニレンエーテル1gが100gの溶剤(例えば、シクロヘキサノン)に対して可溶とは、ポリフェニレンエーテル1gと溶剤100gとを混合したときに、濁りおよび沈殿が目視で確認できないことを示す。所定ポリフェニレンエーテルは、25℃で、100gのシクロヘキサノンに対して、1g以上可溶であることがより好ましい。
【0070】
所定ポリフェニレンエーテルは、原料フェノール類として特定のものを使用すること以外は、従来公知のポリフェニレンエーテルの合成方法(重合条件、触媒の有無および触媒の種類等)を適用して製造することが可能である。
【0071】
所定ポリフェニレンエーテルの含有量は、後述する他の成分を除いた残部である。これら他の成分の含有量に依存するが、典型的には、組成物の固形分全量基準で、20~60質量%である。
【0072】
なお、組成物の固形分とは、溶媒(特に有機溶媒)以外の組成物を構成する成分、またはその質量や体積を意味する。
【0073】
所定ポリフェニレンエーテルは、分岐構造を有することで種々の溶剤への溶解性が向上する。
【0074】
ここで、ポリフェニレンエーテルの分岐構造(分岐の度合い)は、以下の分析手順に基づいて確認することができる。
【0075】
<分析手順>
ポリフェニレンエーテルのクロロホルム溶液を、0.1、0.15、0.2、0.25mg/mLの間隔で調製後、0.5mL/minで送液しながら屈折率差と濃度のグラフを作成し、傾きから屈折率増分dn/dcを計算する。次に、下記装置運転条件にて、絶対分子量を測定する。RI検出器のクロマトグラムとMALS検出器のクロマトグラムを参考に、分子量と回転半径の対数グラフ(コンフォメーションプロット)から、最小二乗法による回帰直線を求め、その傾きを算出する。
【0076】
<測定条件>
装置名 :HLC8320GPC
移動相 :クロロホルム
カラム :TOSOH TSKguardcolumnHHR-H
+TSKgelGMHHR-H(2本)
+TSKgelG2500HHR
流速 :0.6mL/min.
検出器 :DAWN HELEOS(MALS検出器)
+Optilab rEX(RI検出器、波長254nm)
試料濃度 :0.5mg/mL
試料溶媒 :移動相と同じ。試料5mgを移動相10mLで溶解
注入量 :200μL
フィルター :0.45μm
STD試薬 :標準ポリスチレン Mw 37,900
STD濃度 :1.5mg/mL
STD溶媒 :移動相と同じ。試料15mgを移動相10mLで溶解
分析時間 :100min
【0077】
絶対分子量が同じ樹脂において、高分子鎖の分岐が進行しているものほど重心から各セグメントまでの距離(回転半径)は小さくなる。そのため、GPC-MALSにより得られる絶対分子量と回転半径の対数プロットの傾きは、分岐の程度を示し、傾きが小さいほど分岐が進行していることを意味する。本発明においては、上記コンフォメーションプロットで算出された傾きが小さいほどポリフェニレンエーテルの分岐が多いことを示し、この傾きが大きいほどポリフェニレンエーテルの分岐が少ないことを示す。
【0078】
ポリフェニレンエーテルにおいて、上記傾きは、例えば、0.6未満であり、0.55以下、0.50以下、0.45以下、又は、0.40以下であることが好ましい。上記傾きがこの範囲である場合、ポリフェニレンエーテルが十分な分岐を有していると考えられる。なお、上記傾きの下限としては特に限定されないが、例えば、0.05以上、0.10以上、0.15以上、又は、0.20以上である。
【0079】
なお、コンフォメーションプロットの傾きは、ポリフェニレンエーテルの合成の際の、温度、触媒量、攪拌速度、反応時間、酸素供給量、溶媒量を変更することで調整可能である。より具体的には、温度を高める、触媒量を増やす、攪拌速度を速める、反応時間を長くする、酸素供給量を増やす、及び/又は、溶媒量を少なくすることで、コンフォメーションプロットの傾きが低くなる(ポリフェニレンエーテルがより分岐し易くなる)傾向となる。
【0080】
(リン化合物)
本発明の硬化性組成物は、所定のリン化合物を含む。当該リン化合物を含有することで組成物を硬化して得られる硬化物の難燃性を効率よく向上させることができる。
【0081】
所定のリン化合物とは、分子構造内に1又は複数のリン元素を含む化合物であって、上述した分岐ポリフェニレンエーテルと相溶しない性質を有する化合物を意味する。
【0082】
リン化合物としては、例えば、リン酸エステル化合物、ホスフィン酸化合物、リン含有フェノール化合物が挙げられる。
【0083】
リン酸エステル化合物としては、下記式(6)で表される化合物である。
【0084】
【0085】
式(6)中、R61~R63は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~15(好ましくは1~12)の直鎖状または分枝状の飽和または不飽和の炭化水素基を表す。炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、無置換のアリール基または置換基としてアルキル基、アルケニル基を有するアリール基が好ましい。このような炭化水素基としては、典型的には、メチル基、エチル基、オクチル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、ベンジル基、トリル基、ビニルフェニル基が挙げられる。
【0086】
リン酸エステル化合物としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート、1,3-フェニレン-テスラキス(2,6-ジメチルフェニルホスフェート)、1,4-フェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニルホスフェート)、4,4’-ビフェニレン-テスラキス(2,6-ジメチルフェニルホスフェート)が挙げられる。
【0087】
ホスフィン酸化合物としては、下記式(8)で表されるホスフィン酸金属塩化合物が好ましい。
【0088】
【0089】
式(8)中、R81およびR82は、独立して、水素原子または直鎖状または分枝状の飽和または不飽和の炭化水素基である。炭化水素基は、炭素数1~6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、炭素数1~6の直鎖状もしくは分枝状のアルケニル基、炭素数3~6のシクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基またはトリル基が好ましい。炭化水素基は、炭素数1~4のアルキル基が特に好ましい。
【0090】
式(8)中、Mはn価の金属イオンを表す。金属イオンMは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、NaおよびKからなる群の少なくとも1種の金属のイオンであり、その少なくとも一部がAlイオンであることが好ましい。
【0091】
ホスフィン酸金属塩化合物としては、例えば、ジエチルホスフィン酸アルミニウムが挙げられる。
【0092】
ホスフィン酸金属塩化合物はカップリング剤により有機基を有するように表面処理が施されていてもよい。表面をシランカップリング剤で処理することで、有機溶媒との親和性も向上させることができる。またビニル基などの不飽和炭素結合やエポキシ基などの環状エーテル結合を有すれば、硬化の際に他の成分と架橋することが可能となり、耐熱性の向上やブリードアウトの防止などに繋がる。
【0093】
シランカップリング剤としては、例えば、エポキシシランカップリング剤、メルカプトシランカップリング剤、ビニルシランカップリング剤などを用いることができる。エポキシシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどを用いることができる。メルカプトシランカップリング剤としては、例えば、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシランなどを用いることができる。ビニルシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシランなどを用いることができる。
【0094】
リン含有フェノール化合物としては、例えば、ジフェニルホスフィニルヒドロキノン、ジフェニルホスフェニル-1,4-ジオキシナフタリン、1,4-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール、1,5-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオールが挙げられる。
【0095】
所定のリン化合物としては、分子内あたりのリン含有率が高いことから、分岐ポリフェニレンエーテルに対して相溶性を有しないホスフィン酸金属塩化合物が特に好ましい。
【0096】
本発明において、リン化合物が分岐ポリフェニレンエーテルと相溶するか否かは以下の試験に基づいて判定する。
【0097】
分岐ポリフェニレンエーテルは、通常、シクロヘキサノンに可溶である。つまり、リン化合物もシクロヘキサノンに可溶であれば、分岐ポリフェニレンエーテルおよびリン化合物の混合物が均一に相溶するといえる。これに基づき、シクロヘキサノンに対するリン化合物の溶解度を確認することで、リン化合物が分岐ポリフェニレンエーテルと相溶するか否かを判断する。
【0098】
具体的には、200mLのサンプル瓶にリン化合物10gとシクロヘキサノン100gを入れ、撹拌子を入れて25℃で10分間撹拌した後、25℃で10分間放置する。溶解度が0.1(10g/100g)未満のリン化合物については、分岐ポリフェニレンエーテルと非相溶であると判断し、溶解度が0.1(10g/100g)以上のリン化合物については、分岐ポリフェニレンエーテルと相溶すると判断する。
【0099】
なお、リン化合物の上記溶解度は、0.08(8g/100g)未満または0.06(6g/100g)未満としてもよい。
【0100】
分岐ポリフェニレンエーテルと、分岐ポリフェニレンエーテルと相溶する難燃剤と、を併用した場合、分岐ポリフェニレンエーテルと難燃剤とが相溶しすぎる結果、得られる硬化物の耐熱性が低下してしまう場合がある、という問題が見出された。分岐ポリフェニレンエーテルと相溶しない難燃剤を使用することで、このような問題を解決することが可能である。
【0101】
リン化合物の含有量は、組成物の固形分全量基準で1~10質量%、2~8質量%、3~6質量%としてもよい。前記範囲内であれば、組成物を硬化して得られる硬化物の難燃性、耐熱性、誘電特性を高いレベルでバランスよく達成できる。
【0102】
(シリカ)
本発明の硬化性組成物は、シリカを含んでもよい。組成物にシリカを配合することで、組成物の製膜性を向上させることができる。さらには得られる硬化物に難燃性を付与することができる。
【0103】
シリカの平均粒径は、好ましくは0.02~10μm、より好ましくは0.02~3μmである。ここで平均粒径は、市販のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折・散乱法による粒度分布の測定値から、累積分布によるメディアン径(d50、体積基準)として求めることができる。
【0104】
異なる平均粒径のシリカを併用することも可能である。シリカの高充填化を図る観点から、例えば平均粒径1μm以上のシリカとともに、平均粒径1μm未満のナノオーダーの微小のシリカを併用してもよい。
【0105】
シリカはカップリング剤により表面処理が施されていてもよい。表面をシランカップリング剤で処理することで、ポリフェニレンエーテルとの分散性を向上させることができる。また有機溶媒との親和性も向上させることができる。
【0106】
シランカップリング剤としては、例えば、エポキシシランカップリング剤、メルカプトシランカップリング剤、ビニルシランカップリング剤などを用いることができる。エポキシシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどを用いることができる。メルカプトシランカップリング剤としては、例えば、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシランなどを用いることができる。ビニルシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシランなどを用いることができる。
【0107】
シランカップリング剤の使用量は、例えば、シリカ100質量部に対して0.1~5質量部、0.5~3質量部としてもよい。
【0108】
シリカの配合量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して50~100質量部としてもよい。あるいは、シリカの配合量は、組成物の固形分全量基準で、10~30質量%としてもよい。
【0109】
硬化性組成物は、過酸化物を含んでもよい。また硬化性組成物は、架橋型硬化剤を含んでもよい。また、硬化性組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、その他の成分を含んでいてもよい。
【0110】
過酸化物は、好ましいポリフェニレンエーテルに含まれる不飽和炭素結合を開き、架橋反応を促進する作用を有する。
【0111】
過酸化物としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルハイドロパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ブテン、アセチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、m-トルイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチレンパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、等があげられる。過酸化物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0112】
過酸化物としては、これらの中でも、取り扱いの容易さと反応性の観点から、1分間半減期温度が130℃から180℃のものが望ましい。このような過酸化物は、反応開始温度が比較的に高いため、乾燥時など硬化が必要でない時点での硬化を促進し難く、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物の保存性を貶めず、また、揮発性が低いため乾燥時や保存時に揮発せず、安定性が良好である。
【0113】
過酸化物の添加量は、過酸化物の総量で、硬化性組成物の固形分100質量部に対し、0.01~20質量部とするのが好ましく、0.05~10質量部とするのがより好ましく、0.1~10質量部とするのが特に好ましい。過酸化物の総量をこの範囲とすることで、低温での効果を十分なものとしつつ、塗膜化した際の膜質の劣化を防止することができる。
【0114】
また、必要に応じてアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ化合物やジクミル、2,3-ジフェニルブタン等のラジカル開始剤を含有してもよい。
【0115】
架橋型硬化剤は、好ましいポリフェニレンエーテルに含まれる不飽和炭素結合と反応し、3次元架橋を形成するものである。
【0116】
架橋型硬化剤としては、ポリフェニレンエーテルとの相溶性が良好なものが用いられるが、ジビニルベンゼンやジビニルナフタレンやジビニルビフェニルなどの多官能ビニル化合物;フェノールとビニルベンジルクロライドの反応から合成されるビニルベンジルエーテル系化合物;スチレンモノマー,フェノールとアリルクロライドの反応から合成されるアリルエーテル系化合物;さらにトリアルケニルイソシアヌレートなどが良好である。架橋型硬化剤としては、ポリフェニレンエーテルとの相溶性が特に良好なトリアルケニルイソシアヌレートが好ましく、なかでも具体的にはトリアリルイソシアヌレート(以下、TAIC(登録商標))やトリアリルシアヌレート(以下TAC)が好ましい。これらは、低誘電特性を示し、かつ耐熱性を高めることができる。特にTAIC(登録商標)は、ポリフェニレンエーテルとの相溶性に優れるので好ましい。
【0117】
また、架橋型硬化剤としては、(メタ)アクリレート化合物(メタクリレート化合物およびアクリレート化合物)を用いてもよい。特に、3~5官能の(メタ)アクリレート化合物を使用するのが好ましい。3~5官能のメタクリレート化合物としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート等を用いることができ、一方、3~5官能のアクリレート化合物としては、トリメチロールプロパントリアクリレート等を用いることができる。これらの架橋剤を用いると耐熱性を高めることができる。架橋型硬化剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0118】
好ましい所定ポリフェニレンエーテルは不飽和炭素結合を有する炭化水素基を含むので、特に架橋型硬化剤と硬化させることにより誘電特性に優れた硬化物を得ることができる。
【0119】
ポリフェニレンエーテルと架橋型硬化剤の配合比率は、質量部で20:80~90:10で含有することが好ましく、30:70~90:10で含有することがより好ましい。ポリフェニレンエーテルの配合量が20質量部以上であると適度な強靭性が得られ、90質量部以下であると耐熱性に優れる。
【0120】
本発明の組成物は、熱硬化触媒を含んでもよい。
【0121】
熱硬化触媒としては、
イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、4-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-(2-シアノエチル)-2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体;
ジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4-(ジメチルアミノ)-N,N-ジメチルベンジルアミン、4-メトキシ-N,N-ジメチルベンジルアミン、4-メチル-N,N-ジメチルベンジルアミン等のアミン化合物、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等のヒドラジン化合物;
グアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、メラミン、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-S-トリアジン、2-ビニル-2,4-ジアミノ-S-トリアジン、2-ビニル-4,6-ジアミノ-S-トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-S-トリアジン・イソシアヌル酸付加物等のS-トリアジン誘導体;
トリフェニルホスフィン等のリン化合物等;が挙げられる。
【0122】
この中でも、硬化物が200℃以上の温度に晒されても黄変を防止することができるためトリフェニルホスフィンが好ましい。
【0123】
硬化性組成物は、通常、ポリフェニレンエーテルが溶媒(溶剤)に溶解した状態で提供または使用される。本発明のポリフェニレンエーテルは、従来のポリフェニレンエーテルに比べて溶剤に対する溶解性が高いため、硬化性組成物の用途に応じて、使用する溶剤の選択肢を幅広いものとすることができる。
【0124】
本発明の硬化性組成物に使用可能な溶剤の一例としては、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン等の従来使用可能な溶媒の他、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(CA)、メチルエチルケトン、酢酸エチル、等の比較的安全性の高い溶媒等が挙げられる。溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0125】
硬化性組成物中の溶媒の含有量は特に限定されず、硬化性組成物の用途に応じて適宜調整可能である。
【0126】
硬化性組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、本発明のポリフェニレンエーテル以外の樹脂やその他の添加剤等の公知慣用の原料を含んでいてもよい。例えば、シリカ以外の無機フィラーや、リン原子を含まない難燃剤などを含んでいてもよい。
【0127】
なお、このような硬化性組成物は、各原料を混合および分散することにより得られる。本発明の組成物は、種々の溶媒にも可溶なポリフェニレンエーテルを含む組成物であって、低誘電正接化を実現し自己消火性を有する硬化物を得るのに好適なため、様々な用途に適用することができる。
【0128】
<硬化物>
硬化物は、上述した硬化性組成物を硬化することで得られる。
【0129】
硬化性組成物から硬化物を得るための方法は、特に限定されるものではなく、硬化性組成物の組成に応じて適宜変更可能である。一例として、上述したような基材上に硬化性組成物の塗工(例えば、アプリケーター等による塗工)を行う工程を実施した後、必要に応じて硬化性組成物を乾燥させる乾燥工程を実施し、加熱(例えば、イナートガスオーブン、ホットプレート、真空オーブン、真空プレス機等による加熱)によりポリフェニレンエーテルを熱架橋させる熱硬化工程を実施すればよい。なお、各工程における実施の条件(例えば、塗工厚、乾燥温度および時間、加熱温度および時間等)は、硬化性組成物の組成や用途等に応じて適宜変更すればよい。
【0130】
<ドライフィルム、プリプレグ>
本発明のドライフィルムまたはプリプレグは、上述した硬化性組成物を基材に塗布して得られるものである。
【0131】
ここで基材とは、銅箔等の金属箔、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等のフィルム、ガラスクロス、アラミド繊維等の繊維が挙げられる。
【0132】
ドライフィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に硬化性組成物を塗布乾燥させ、必要に応じてポリプロピレンフィルムを積層することにより得られる。
【0133】
プリプレグは、例えば、ガラスクロスに硬化性組成物を含浸乾燥させることにより得られる。
【0134】
<積層板>
本発明においては、上述のプリプレグを用いて積層板を作製することができる。
【0135】
詳しく説明すると、本発明のプリプレグを一枚または複数枚重ね、さらにその上下の両面または片面に銅箔等の金属箔を重ねて、その積層体を加熱加圧成形することにより、積層一体化された両面に金属箔または片面に金属箔を有する積層板を作製することができる。
【0136】
<電子部品>
このような硬化物は、優れた誘電特性や耐熱性を有するため、電子部品用等に使用可能である。
【0137】
硬化物を有する電子部品としては、特に限定されないが、好ましくは、第5世代通信システム(5G)に代表される大容量高速通信や自動車のADAS(先進運転システム)向けミリ波レーダー等が挙げられる。
【実施例】
【0138】
実施例および比較例により、本発明の硬化性組成物についてより詳細に説明するが、本発明はこれらには何ら限定されない。
【0139】
(合成例A:分岐PPE)
<実施例用の分岐ポリフェニレンエーテルの合成例Aの説明>
3Lの二つ口ナスフラスコに、ジ-μ-ヒドロキソ-ビス[(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]クロリド(Cu/TMEDA)5.3gと、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)5.7mLを加えて十分に溶解させ、10ml/minにて酸素を供給した。原料フェノール類であるо-クレゾール10.1g、2-アリル-6-メチルフェノール13.8g、2,6-ジメチルフェノール91.1gをトルエン1.5Lに溶解させ原料溶液を調製した。この原料溶液をフラスコに滴下し、600rpmの回転速度で攪拌しながら40℃で6時間反応させた。反応終了後、メタノール20L:濃塩酸22mLの混合液で再沈殿させてろ過にて取り出し、80℃で24時間乾燥させ分岐PPE樹脂を得た。また、コンフォメーションプロットの傾きは0.34であった。
【0140】
合成例AのPPE樹脂は、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)等の種々の有機溶媒に可溶であった。合成例AのPPE樹脂の数平均分子量は12,700、重量平均分子量は77,470であった。
【0141】
(合成例B:非分岐PPE)
<比較例用のポリフェニレンエーテルの合成例Bの説明>
原料フェノール類である2-アリル-6-メチルフェノール13.8g、2,6-ジメチルフェノール103gをトルエン0.38Lに溶解させた原料溶液を使用した以外は3元共重合PPE樹脂と同様の合成方法で非分岐PPE樹脂を得た。また、コンフォメーションプロットの傾きは0.61であった。
【0142】
合成例BのPPE樹脂は、シクロヘキサノンに可溶ではなく、クロロホルムには可溶であった。合成例BのPPE樹脂の数平均分子量は19,000、重量平均分子量は39,900であった。
【0143】
<ホスフィン酸塩化合物>
ホスフィン酸塩化合物として、クラリアントケミカルズ株式会社製「EXOLIT ОP935」を使用した。使用したОP935は、平均粒径2.5μmの粉末であった。
【0144】
(ビニル基修飾ホスフィン酸塩化合物(ОP935)の調製)
ОP935にシクロヘキサノン(シクロヘキサノン中、固形分70質量%)を添加し、ОP935に対し4wt%のビニルシランを添加し、ビーズミルで10分処理し、ビニル基修飾ОP935の溶液(固形分70質量%)を得た。なお、上記ビニルシランとしては、信越シリコーン社のKBM-1003を使用した。
【0145】
(アミノ基修飾ホスフィン酸塩化合物(ОP935)の調製)
ОP935にシクロヘキサノン(シクロヘキサノン中、固形分70質量%)を添加し、ОP935に対し4wt%のアミノシランを添加し、ビーズミルで10分処理し、アミノ基修飾ОP935の溶液(固形分70質量%)を得た。なお、上記アミノシランとしては、信越シリコーン社のKBM-573を使用した。
【0146】
実施例、比較例に示す種々の成分と共に表1に示す割合(質量部)にて配合し、攪拌機にて15分間攪拌し予備混合し、次いで3本ロールミルにて混錬し、熱硬化性樹脂組成物ワニスを調製した。使用したリン化合物はいずれもシクロヘキサノンに対する溶解度が小さいので、合成例Aの分岐PPEとは相溶しないことがわかる。
【0147】
【0148】
<実施例1の樹脂組成物ワニスの作製>
分岐PPE樹脂17.4質量部およびエラストマー(旭化成株式会社:商品名「H1051」)11.4質量部に、溶剤としてシクロヘキサノンを100質量部加えて40℃にて30分混合、攪拌して完全に溶解させた。これによって得たPPE樹脂溶液に、架橋型硬化剤としてTAIC(三菱ケミカル株式会社製)を11.6質量部、球状シリカ(アドマテックス株式会社製:商品名「SC2500-SVJ」)を94.4質量部、難燃剤としてOP935(クラリアントケミカルズ社製)を11.1g添加してこれを混合した後、三本ロールミルで分散させた。最後に、硬化触媒であるα,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン(日本油脂株式会社製:商品名「パーブチルP」)を0.58質量部配合し、マグネチックスターラーにて攪拌した。こうして実施例1の樹脂組成物のワニスを得た。
【0149】
<実施例2の樹脂組成物ワニスの作製>
PPEの量およびTAICの量を14.5質量部に変更したこと以外は実施例1と同じ操作を行い、実施例2の樹脂組成物のワニスを得た。
【0150】
<実施例3の樹脂組成物ワニスの作製>
ホスフィン酸塩化合物を、15.9質量部のビニル基修飾ホスフィン酸塩化合物溶液(固形分70%)に変更したこと以外は実施例2と同じ操作を行い、実施例3の樹脂組成物のワニスを得た。
【0151】
<実施例4の樹脂組成物ワニスの作製>
ホスフィン酸塩化合物を、15.9質量部のアミノ基修飾ホスフィン酸塩化合物溶液(固形分70%)に変更したこと以外は実施例2と同じ操作を行い、実施例4の樹脂組成物のワニスを得た。
【0152】
<実施例5の樹脂組成物ワニスの作製>
リン化合物を、大八化学工業株式会社製「PX-202」に変更したこと以外は実施例2と同じ操作を行い、実施例5の樹脂組成物のワニスを得た。
【0153】
<実施例6の樹脂組成物ワニスの作製>
リン化合物を、帝人株式会社製「FCX-210」に変更したこと以外は実施例2と同じ操作を行い、実施例6の樹脂組成物のワニスを得た。
【0154】
<比較例1の樹脂組成物ワニスの作製>
分岐PPEを従来のPPE(非分岐PPE)に変更したこと以外は実施例2と同じ操作を行い、比較例1の樹脂組成物のワニスを得た。
【0155】
以下の評価方法によって各組成物ワニスおよびそれから得られた硬化膜を評価した。その結果を併せて表1に示す。
【0156】
<環境対応>
溶剤としてシクロヘキサノンが用いられた組成物を「〇」、溶剤としてクロロホルムが用いられた組成物を「×」と評価した。上述の通り、従来のPPE樹脂(非分岐PPE樹脂)はシクロヘキサノンに溶解しないが、本発明に係るPPE樹脂(分岐PPE樹脂)はシクロヘキサノンに可溶である。
【0157】
(硬化膜の作製)
厚さ18μm銅箔のシャイン面に、得られた樹脂組成物のワニスを、硬化物の厚みが所望の厚みになるようにアプリケーターで塗布した。次に、熱風式循環式乾燥炉で90℃30分乾燥させた。その後、イナートオーブンを用いて窒素を完全に充満させて200℃まで昇温後、60分硬化させた。その後、銅箔をエッチング除去して硬化膜を得た。
【0158】
<誘電特性>
誘電特性である比誘電率Dkおよび誘電正接Dfは、以下の方法に従って測定した。
上述の方法に従い、厚みが50μmとなるように硬化膜を作製した。硬化膜を長さ80mm、幅45mm、厚み50μmに切断し、これを試験片としてSPDR(Split Post Dielectric Resonator)共振器法により測定した。測定器には、キーサイトテクノロジー合同会社製のベクトル型ネットワークアナライザE5071C、SPDR共振器、計算プログラムはQWED社製のものを用いた。条件は、周波数10GHz、測定温度25℃とした。
【0159】
誘電特性評価としてDkが3.0未満、かつ、Dfが0.002未満のものを「〇」、これに該当しないものを「×」と評価した。
【0160】
<耐熱性>
上述の方法に従い、厚みが50μmとなるように硬化膜を作製した。硬化膜を長さ30mm、幅5mm、厚み50μmに切り出し、DMA7100(株式会社日立ハイテクサイエンス製)にてガラス転移温度(Tg)の測定を行った。温度範囲は30~280℃、昇温速度は5℃/min、周波数は1Hz、歪振幅7μm、最小張力50mN、つかみ具間距離は10mmで行った。ガラス転移温度(Tg)はtanδが極大を示す温度とした。
【0161】
ガラス転移温度(Tg)が200℃以上のものを「◎」、170℃以上200℃未満のものを「〇」、170℃未満のものを「×」と評価した。
【0162】
<吸水性>
IPC-TM-650 2.6.2.1に準じて行った。上述の方法に従い、厚みが200μmとなるように硬化膜を作製し、硬化膜を長さ50mm、幅50mm、厚み200μmに切断したものを試験片とし3枚用意した。試験片を23.5℃に設定したウォーターバスに24時間浸漬させ、吸水前後の塗膜の重量変化より吸水率(%)を算出した。
【0163】
吸水率が0.07%未満のものを「〇」、0.07%以上のものを「×」と評価した。
【0164】
<難燃性>
Underwriters LaboratoriesのTest for Flammability of Plastic Materials-UL94に準じて行った。上述の方法に従い、厚みが200μmとなるように硬化膜を作製し、硬化膜を長さ125mm、幅12.5mm、厚み200μmに切断したものを試験片とし10枚用意した。5枚の試験片をそれぞれ2回ずつ(計10回)燃焼試験し評価した。
【0165】
燃焼性分類がV-0のものを「◎」、V-1のものを「〇」、これらに該当しないものを「×」と評価した。
【0166】
<BHAST耐性>
クシ型電極(ライン/スペース=20μm/15μm)が形成されたBT基板を化学研磨した後に、前記樹脂ワニスを硬化物の厚みが40μmになるようにリップコーターを用いて塗布した。次に、熱風式循環式乾燥炉で90℃30分乾燥させた。その後、イナートオーブンを用いて窒素を完全に充満させて200℃まで昇温後、60分硬化し評価基板を作成した。評価基板を、温度130℃、湿度85%の雰囲気下の高温高湿槽に入れ、電圧5.5Vを荷電し、槽内HAST試験を行った。樹脂層の硬化膜の300時間経過時の槽内絶縁抵抗値を下記の判断基準に従い評価した。
【0167】
300時間経過時の槽内絶縁抵抗値が107Ω以上のものを「〇」、107Ω未満のものを「×」と評価した。