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特許7340172スルホ基含有酸化グラフェン、固体高分子電解質膜、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池の製造方法
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  • 特許-スルホ基含有酸化グラフェン、固体高分子電解質膜、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】スルホ基含有酸化グラフェン、固体高分子電解質膜、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/198 20170101AFI20230831BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20230831BHJP
   H01M 8/1048 20160101ALI20230831BHJP
   H01M 8/1081 20160101ALI20230831BHJP
   H01M 8/1088 20160101ALI20230831BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C01B32/198
H01M8/10 101
H01M8/1048
H01M8/1081
H01M8/1088
H01B13/00 501Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018201253
(22)【出願日】2018-10-25
(65)【公開番号】P2020066557
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-10-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「燃料電池電解質膜薄膜化プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮島 大吾
(72)【発明者】
【氏名】相田 卓三
(72)【発明者】
【氏名】二本柳 敦子
(72)【発明者】
【氏名】寺園 真二
(72)【発明者】
【氏名】中西 智亮
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-079176(JP,A)
【文献】特開2018-106957(JP,A)
【文献】JI, Junyi et al.,Sulfonated graphene as water-tolerant solid acid catalyst,Chemical Science,The Royal Society of Chemistry,2011年,Vol.2,pp.484-487
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 8/10
H01M 8/1048
H01M 8/1081
H01M 8/1088
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホフェニル基を有するスルホン化剤を反応させるスルホ基導入処理を行って、酸化グラフェンの炭素原子にスルホフェニル基を導入する、スルホ基含有酸化グラフェンの製造方法であって、
酸化グラフェンに対して前記スルホ基導入処理の1回目を行った後、得られたスルホ基含有酸化グラフェンに対して前記スルホ基導入処理の2回目以降をさらに行い、
前記スルホ基導入処理の少なくとも1回において、使用するスルホン化剤におけるスルホ基の量が、酸化グラフェン又はスルホ基含有酸化グラフェンの炭素量に対して120~200モル%であり、
前記1回目のスルホ基導入処理を、酸化グラフェンを還元処理し、酸化グラフェンの全質量に対する酸素含有官能基の割合を40質量%以下とした後に行い、
前記スルホ基導入処理が1回終了する毎に、反応に供したスルホン化剤を除去することを特徴とするスルホ基含有酸化グラフェンの製造方法。
【請求項2】
前記スルホフェニル基が、4-スルホフェニル基及び2、4-ジスルホフェニル基の少なくとも一方である、請求項1に記載のスルホ基含有酸化グラフェンの製造方法。
【請求項3】
前記スルホン化剤が、4-ベンゼンジアゾニウムスルホネート及び2、4-ベンゼンジアゾニウムスルホネートの少なくとも一方である、請求項1又は2に記載のスルホ基含有酸化グラフェンの製造方法。
【請求項4】
前記2回目以降のスルホ基導入処理の少なくとも1回において、前記スルホ基導入処理を行う前に還元処理を行う、請求項1~のいずれか一項に記載のスルホ基含有酸化グラフェンの製造方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のスルホ基含有酸化グラフェンの製造方法によりスルホ基含有酸化グラフェンを得、
得られたスルホ基含有酸化グラフェンと電解質ポリマーとを液状媒体に分散させて混合分散液を得、
得られた混合分散液を製膜する固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項6】
触媒層を有するアノードと、
触媒層を有するカソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置された固体高分子電解質膜と
を備えた膜電極接合体を製造する方法であり、
請求項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法によって、前記固体高分子電解質膜を形成する、膜電極接合体の製造方法。
【請求項7】
膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池を製造する方法であり、
請求項に記載の膜電極接合体の製造方法によって、前記膜電極接合体を作製する、固体高分子形燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホ基含有酸化グラフェン、固体高分子電解質膜、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、例えば、2つのセパレータの間に膜電極接合体を挟んでセルを形成し、複数のセルをスタックしたものである。膜電極接合体は、触媒層を有するアノード及びカソードと、アノードとカソードとの間に配置された固体高分子電解質膜とを備えたものである。
固体高分子形燃料電池における反応は、燃料が水素ガスの場合、下式で表される。
アノード:H → 2H + 2e
カソード:2H + 1/2O + 2e → H
【0003】
固体高分子電解質膜には、アノード側に供給された燃料(水素ガス、メタノール等)がカソード側に移動を防ぐ役割を担っている。もし、アノード側に供給された燃料が固体高分子電解質膜を透過(クロスリーク)してカソード側に移動してしまうと、燃料電池における電気化学反応に寄与できず、燃料効率が低下する。燃料電池を燃料電池車に使用した場合は、燃費の低下に直結する。
固体高分子電解質膜には、また、アノード側で生成したプロトン(H)をカソード側に移動させるプロトン伝導性も求められる。プロトンを透過させにくいと、固体高分子電解質膜の抵抗が高くなり、固体高分子形燃料電池の発電性能が低下する。
【0004】
燃料のクロスリークを抑えるためには、無孔質のナノシートを固体高分子電解質膜に含ませることが考えられる。しかし、無孔質のナノシートは、燃料だけでなく、プロトンも透過させにくい。
そこで、プロトン伝導性を確保しつつ燃料のクロスリークを抑えるため、酸化グラフェン等のグラフェン誘導体を含ませた固体高分子電解質膜が提案されている(特許文献1、2)。
【0005】
特許文献1には、燃料電池用電解質膜として、酸化グラフェンの含有量を多くし、スルホ基量を少なくした電解質膜が開示されている。また、特許文献2には、酸化グラフェンや酸化グラファイトを硫酸でスルホン化することによってスルホ基が導入された固体酸及び固体酸を含むプロトン伝導膜が開示されている。
【0006】
特許文献1の酸化グラフェンは、炭素骨格のみで2次元状に構成されるグラフェンが、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基等の酸素含有官能基で修飾されたものである。
また、特許文献2のスルホ基が導入された酸化グラフェンは、炭素骨格のみで2次元状に構成されるグラフェンが、スルホ基で修飾されたものである。
【0007】
特許文献1、2のグラフェン誘導体では、酸化グラフェン表面に存在する酸素含有官能基やスルホ基にプロトンが作用し、ホッピング機能が発現し、面方向のプロトン伝導性が高まり、シート状の酸化グラフェン誘導体の間隙を縫って、プロトンがアノード(燃料極)側からカソード(空気極)側に移動することを容易にしていると考えられる。
【0008】
固体高分子形燃料電池の固体電解質膜には、また、アノードとカソードが短絡しないよう、両者を電気的に繋がらないように絶縁させる機能も求められる。
特許文献1、2のグラフェン誘導体は、電子伝導性の高いグラフェンと比較すると、電子伝導性が低下したものである。
しかし、特許文献1、2のグラフェン誘導体を含む固体高分子電解質膜は、固体高分子形燃料電池において、充分な絶縁性を発揮することが困難であった。
【0009】
一方、非特許文献1では、スルホフェニル基を有するスルホン化剤を反応させてスルホ基を導入している。
スルホフェニル基を有するスルホン化剤を反応させると、固体高分子形燃料電池において、絶縁性を発揮しやすい。
しかし、非特許文献1のようにスルホフェニル基を有するスルホン化剤を用いる場合、プロトン伝導性を高めるために必要な充分な量のスルホ基の導入が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2013-258129号公報
【文献】特許第5482110号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】ケミカルサイエンス(Chemical Science)、(英国)、2011年2月、p.484-487
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、酸化グラフェンの骨格に、スルホフェニル基を充分な量で導入可能なスルホ基含有酸化グラフェンの製造方法、及びこの製造方法により得られたスルホ基含有酸化グラフェンを用いた固体高分子電解質膜、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
<1>スルホフェニル基を有するスルホン化剤を反応させるスルホ基導入処理を行って、酸化グラフェンの炭素原子にスルホフェニル基を導入する、スルホ基含有酸化グラフェンの製造方法であって、酸化グラフェンに対して前記スルホ基導入処理の1回目を行った後、得られたスルホ基含有酸化グラフェンに対して前記スルホ基導入処理の2回目以降をさらに行い、スルホ基導入処理が1回終了する毎に、反応に供したスルホン化剤を除去することを特徴とするスルホ基含有酸化グラフェンの製造方法。
<2>前記スルホフェニル基が、4-スルホフェニル基及び2、4-ジスルホフェニル基の少なくとも一方である、<1>のスルホ基含有酸化グラフェンの製造方法。
<3>前記スルホン化剤が、4-ベンゼンジアゾニウムスルホネート及び2、4-ベンゼンジアゾニウムスルホネートの少なくとも一方である、<1>又は<2>のスルホ基含有酸化グラフェンの製造方法。
<4>前記スルホ基導入処理の少なくとも1回において、使用するスルホン化剤におけるスルホ基の量が、酸化グラフェン又はスルホ基含有酸化グラフェンの炭素量に対して120モル%以上である、<1>~<3>のいずれかのスルホ基含有酸化グラフェンの製造方法。
<5>酸化グラフェンを還元処理し、酸化グラフェンの全質量に対する酸素含有官能基の割合を40質量%以下とした後に前記1回目のスルホ基導入処理を行う、<1>~<4>のいずれかのスルホ基含有酸化グラフェンの製造方法。
<6>前記2回目以降のスルホ基導入処理の少なくとも1回において、前記スルホ基導入処理を行う前に還元処理を行う、<1>~<5>のいずれかのスルホ基含有酸化グラフェンの製造方法。
<7>、<1>~<6>のいずれかのスルホ基含有酸化グラフェンの製造方法によりスルホ基含有酸化グラフェンを得;得られたスルホ基含有酸化グラフェンと電解質ポリマーとを液状媒体に分散させて混合分散液を得;得られた混合分散液を製膜する固体高分子電解質膜の製造方法。
<8>触媒層を有するアノードと;触媒層を有するカソードと;前記アノードと前記カソードとの間に配置された固体高分子電解質膜とを備えた膜電極接合体を製造する方法であり;<7>の固体高分子電解質膜の製造方法によって、前記固体高分子電解質膜を形成する、膜電極接合体の製造方法。
<9>膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池を製造する方法であり;<8>の膜電極接合体の製造方法によって、前記膜電極接合体を作製する、固体高分子形燃料電池の製造方法。
<10>スルホフェニル基を有するスルホ基含有酸化グラフェンであって、硫黄原子数と炭素原子数の比率(硫黄原子数/炭素原子数)が0.03~0.4であるスルホ基含有酸化グラフェン。
<11>前記スルホフェニル基が、4-スルホフェニル基及び2,4-ジスルホフェニル基の少なくとも一方である<10>のスルホ基含有酸化グラフェン。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸化グラフェンの骨格に、スルホフェニル基が充分な量で導入されたスルホ基含有酸化グラフェンを得られる。
また、本発明によれば、良好なプロトン伝導性を確保しつつ、燃料のクロスリークが抑えられ、かつ絶縁性に優れた固体高分子電解質膜及び膜電極接合体を得られる。
また、本発明によれば、燃料効率と発電性能が共に優れる固体高分子形燃料電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】膜電極接合体の一例を示す模式断面図である。
図2】膜電極接合体の他の例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書においては、式u1で表される単位を、単位u1と記す。他の式で表される単位も同様に記す。
本明細書においては、式m1で表される化合物を、化合物m1と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
本明細書及び特許請求の範囲において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0017】
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
「酸素含有官能基」とは、水酸基、カルボキシ基、カルボニル基、エポキシ基、及びラクトン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を意味する。
「スルホフェニル基」とは、フェニル基における水素原子の一以上がスルホ基に置換された基を意味する。
「酸化グラフェン」とは、グラフェンを構成する炭素原子の一部がsp状態からsp状態に変化し、これらの変化した炭素原子に酸素含有官能基が結合した分子又はその集合体(ただし、厚さ10nm以下のものに限る。)である。
「スルホ基含有酸化グラフェン」とは、酸化グラフェンの内、酸化グラフェンの骨格を形成する炭素にスルホ基が導入された分子もしくはその集合体(ただし、厚さ10nm以下のものに限る。)である。
「グラフェン」とは、炭素原子がsp状態で結合した六員環で敷き詰められた構造の分子又はその集合体(ただし、厚さ10nm以下のものに限る。)である。
「酸化グラファィト」とは、グラファィトを構成する炭素原子の一部がsp状態からsp状態に変化し、これらの変化した炭素原子に酸素含有官能基が結合した分子の集合体であって、厚さが10nmを超えるものである。
「グラファイト」とは、炭素原子がsp状態で結合した六員環で敷き詰められた構造の分子の集合体であって、厚さが10nmを超えるものである。
「電解質ポリマー」とは、イオン交換基を有するポリマーを意味する。
「イオン交換基」とは、該基に含まれる陽イオンの一部が、他の陽イオンに交換しうる基を意味する。イオン交換基としては、H、一価の金属カチオン、アンモニウムイオン等を有する基が挙げられる。
「スルホ基」とは、-SO 及びSO (ただし、Mは、一価の金属イオン、又は1以上の水素原子が炭化水素基と置換されていてもよいアンモニウムイオンである。)を包含する。
「単位」とは、モノマーが重合することによって形成された該モノマーに由来する単位を意味する。単位は、モノマーの重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
「燃料」とは、燃料電池における燃料となる物質のことであり、固体高分子形燃料電池における水素ガス、直接メタノール燃料電池におけるメタノール等のことである。本発明における「燃料」には、特に断りのない限り、水素ガス、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル等の有機物が含まれる。
【0018】
<スルホ基含有酸化グラフェン>
本発明で得られるスルホ基含有酸化グラフェンは、酸化グラフェンの骨格を形成する炭素にベンゼン環を介してスルホ基が結合した分子もしくはその集合体(ただし、厚さ10nm以下のものに限る。)である。すなわち、酸化グラフェンの骨格を形成する炭素にスルホフェニル基が結合した分子もしくはその集合体(ただし、厚さ10nm以下のものに限る。)である。
【0019】
スルホ基含有酸化グラフェンの面方向の円相当径は、1~15μmが好ましく、2~9μmがより好ましく、3~8μmがさらに好ましい。円相当径が1μm以上であれば、面方向に充分な広がりを持ち、燃料のクロスリークを抑制しやすい。
また、面方向の円相当径が15μm以下であれば、良好なプロトン伝導性を確保しやすい。なお、円相当径とは、原子間力顕微鏡でスルホ基含有酸化グラフェンの面方向の面積と同じ面積の円を見積もった場合の円の直径を意味する。
【0020】
スルホ基含有酸化グラフェンが集合体である場合、厚み方向の積層数は、2~10層が好ましい。また、集合体であっても厚さは5nm以下が好ましく、厚さ5nm以下であるものの割合は90%以上が好ましい。スルホ基含有酸化グラフェンは集合体ではない単独の分子が特に好ましい。スルホ基含有酸化グラフェンの積層数が少なく薄い程、良好なプロトン伝導性を得やすい。
スルホ基含有酸化グラフェンの厚さは、原子間力顕微鏡(AFM)によって求めることができる。
【0021】
スルホ基含有酸化グラフェンは酸素含有官能基を有していてもよい。
スルホ基含有酸化グラフェンにおけるスルホフェニル基は、フェニル基における水素原子の1つ又は2つがスルホ基に置換された基が好ましく、4-スルホフェニル基及び2、4-ジスルホフェニル基の少なくとも一方が好ましい。
【0022】
スルホ基含有酸化グラフェンにおける硫黄原子数と炭素原子数の比率(硫黄原子数/炭素原子数)は、0.03~0.4が好ましく、0.04~0.3がより好ましい。
前記比率が0.03以上であれば、プロトン伝導性が向上しやすい。また、前記比率が、0.4以下であれば、グラフェン骨格の構造を安定に維持して、クロスリーク抑制の効果を得やすい。また、水との親和性が高すぎず、スルホ基含有酸化グラフェンが固体高分子電解質膜から溶出する問題が生じにくい。
硫黄原子数と炭素原子数の比率は、燃焼法による元素分析を行うことで求められる値である。なお、便宜的に、X線光電子分光分析法(XPS)で炭素原子の結合由来のピークを、スルホ基由来のピークと分離することによっても求められる。
【0023】
本発明で得られるスルホ基含有酸化グラフェンは、充分な量のスルホ基が導入されるため、プロトン伝導性を確保しつつ燃料のクロスリークを抑えることができる。
また、本発明で得られるスルホ基含有酸化グラフェンを含む固体高分子電解質膜は、特許文献1、2のグラフェン誘導体と比較して優れた絶縁性を発揮しやすい。その理由は、以下のように考えられる。
【0024】
すなわち、特許文献1のスルホ基が導入されていない酸化グラフェンや、特許文献2の酸化グラフェンの骨格を形成する炭素に直接スルホ基が結合したスルホ基含有酸化グラフェンであっても、電子伝導性の高いグラフェンを構成するsp状態の炭素に酸素含有官能基等が結合し、sp状態に変化するので、電子伝導性が低下する。
しかし、酸素含有官能基や、酸化グラフェンの骨格を形成する炭素に直接結合したスルホ基は熱安定性が低い。そのため、膜電極接合体製造時や燃料電池発電時の熱履歴により熱分解しやすく、sp状態の炭素が電子伝導性の高いsp状態の炭素に戻ってしまい、絶縁性が維持できないものと考えられる。
【0025】
これに対して、本発明で得られるスルホ基含有酸化グラフェンは、スルホフェニル基の一部分としてスルホ基が導入されており、膜電極接合体製造時や燃料電池発電時の熱履歴を経ても絶縁性を維持しやすい。これは、スルホフェニル基はスルホ基が熱的安定性に優れたベンゼン環を介してグラフェン骨格の炭素原子に結合しているのでラジカルに対する安定性が高く、スルホフェニル基が水へ溶出してしまうことが抑制されており、sp状態の炭素が電子伝導性の高いsp状態の炭素に戻ってしまうことを抑制できるためであると考えられる。
【0026】
<スルホ基含有酸化グラフェンの製造方法>
スルホ基含有酸化グラフェンは、酸化グラフェンに対してスルホフェニル基を有するスルホン化剤を反応させるスルホ基導入処理を行うことにより得られる。
酸化グラフェンは、グラフェンを構成する炭素原子の一部がsp状態からsp状態に変化し、これらの変化した炭素原子に酸素含有官能基が結合した分子又はその集合体である。
【0027】
酸化グラファイトは、例えば、グラファイトを濃硫酸中に浸し、過マンガン酸カリウムを加えて反応させた後、反応物を硫酸中に浸し、過酸化水素を加えて反応させることにより調製される。グラファイトを濃硫酸中で過マンガン酸カリウムを加えて反応させることで、グラファイトの炭素原子は、sp状態からsp状態に変化し、いわゆるベンゼン環を形成している炭素原子のような状態から飽和の脂肪族の炭素原子の状態に変化する。そして、その後硫酸中で過酸化水素を加えて反応させることにより、これらの変化した炭素原子に酸素原子や水素原子などが結合し、層間に酸素原子が導入されて酸化グラファイトが得られる。
【0028】
グラファイトの酸化は、得られる酸化グラファイトの酸化度が0.2~1.0となるように行うことが好ましく、酸化度は0.5~1.0がより好ましい。酸化度が0.2未満であると、剥離工程で酸化グラファイトを充分に剥離できないことがあり、厚さが10nmを超える酸化グラファイトの割合が多くなり、酸化グラフェンの収率が損なわれる。また、酸化度が1.0を超えると面内における炭素原子同士の結合が弱くなり、剥離工程において分解するため、酸化グラフェンの収率が損なわれる。なお、酸化度とは、燃焼法による元素分析を行うことで求められる酸素原子数と炭素原子数の比率(酸素原子数/炭素原子数)である。
【0029】
酸化グラファイトの剥離は、酸化グラファイトに超音波を照射して行うことが好ましい。酸化グラファイトに超音波を照射することで、面内での破壊が起こらず、層方向にのみ剥離させることができ、面方向のサイズが大きい酸化グラフェンを高い収率で回収できる。
超音波の照射条件は、酸化グラファイトを、溶媒中に浸し、20~60kHの超音波を5~120分照射して行うことが好ましい。溶媒としては、特に限定はないが極性溶媒が好ましい。例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノールから選ばれる1種の溶媒又は2種以上の溶媒の混合液が挙げられる。
【0030】
剥離後に得られた酸化グラフェンの厚さは、原子間力顕微鏡(AFM)によって求めることができる。剥離後に得られた酸化グラフェン中に含まれる厚さが10nmを超える酸化グラファイトの量は、酸化グラフェンと酸化グラファイトの合計量に対して10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、酸化グラファイトが含まれないことが特に好ましい。
【0031】
得られた酸化グラフェンは、1回目のスルホ基導入処理を行う前に還元処理し、酸化グラフェンの全質量に対する酸素含有官能基の割合を40質量%以下としておくことが好ましい。酸素含有官能基の割合は、10~40質量%としておくことがより好ましく、20~30質量%としておくことがさらに好ましい。
還元処理により酸素含有官能基の割合を40質量%以下とすれば、酸素含有官能基が結合しておらず、スルホフェニル基を導入可能な炭素原子の割合が増加するので好ましい。また、熱安定性の低い酸素含有官能基を減少させ、熱安定性の高いスルホフェニル基の導入量を増やすことにより、高い絶縁性を維持しやすくなる。
また、還元処理後の酸素含有官能基の割合を10質量%以上としておけば、酸化グラフェンの水分散性を損なわず、厚さが10nmを超える酸化グラファイトに戻りにくいので好ましい。
【0032】
酸化グラフェンの還元処理は、非特許文献1の方法に従い行うことができる。
すなわち、酸化グラフェンの水分散液に、ヒドラジン水和物を加えて100℃にて24時間反応させ、その後水洗、透析を行うことにより、還元された酸化グラフェンを得ることができる。
なお、還元処理に代えて熱処理を行い、酸素含有官能基を熱分解させて減少させてもよい。
酸化グラフェンの全質量に対する酸素含有官能基の割合は、燃焼法による元素分析により求めることができる。
【0033】
スルホン化剤としては、スルホフェニル基を有するスルホン化剤を用いる。スルホフェニル基は、フェニル基における水素原子の1つ又は2つがスルホ基に置換された基が好ましく、4-スルホフェニル基及び2、4-ジスルホフェニル基の少なくとも一方がより好ましい。
スルホン化剤は、また、ジアゾ基を有するジアゾニウム化合物であることが好ましい。ジアゾ基を有することにより、ジアゾカップリング反応によって、スルホフェニル基を酸化グラフェンに導入できる。
具体的には、4-ベンゼンジアゾニウムスルホネート及び2、4-ベンゼンジアゾニウムスルホネートの少なくとも一方が好ましい。
例えば、4-ベンゼンジアゾニウムスルホネートは、スルファニル酸に亜硝酸ナトリウムを反応させることにより得られる。ジアゾニウム化合物は分解しやすいため、酸化グラフェンと反応させる直前に調製することが好ましい。
【0034】
ジアゾカップリング反応によってスルホ基導入処理を行う場合の反応溶媒としては、水、又は水とアルコールの混合溶媒を使用することが好ましい。
アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが挙げられる。
スルホ基導入処理において、反応溶媒に対する酸化グラフェンの量は、反応溶媒1Lあたり、0.5~3gが好ましく、1~2gがより好ましい。
【0035】
また、スルホ基導入処理時の温度は、0~10℃が好ましく、0~5℃がより好ましい。5℃以下で反応させることにより、不安定で失活しやすいスルホ化剤を安定に保持し所望の反応性が得られる。また、0℃以上で反応させることにより、水が氷ることを抑制することができる。
【0036】
本発明では、スルホフェニル基を有するスルホン化剤を反応させるスルホ基導入処理を2回以上行うことを特徴とする。すなわち、ある程度スルホフェニル基が導入されたスルホ基含有酸化グラフェンを回収し、その回収したスルホ基含有酸化グラフェンに対してさらに、スルホ基導入処理を繰り返す。
すなわち、酸化グラフェンに対する1回目のスルホ基導入処理も含めたスルホ基導入処理の回数は2回以上である。1回目のスルホ基導入処理も含めたスルホ基導入処理の回数は、2~8回が好ましく、3~6回がより好ましく、4~5回がさらに好ましい。
【0037】
反応に供したスルホン化剤は、スルホ基導入処理が1回終了する毎に除去し、次回のスルホ基導入処理を行う際には、新たに調製したスルホン化剤を使用する。
反応に供したスルホン化剤は、分解して水溶性となるため、遠心分離により、酸化グラフェンから除去することができる。
【0038】
また、スルホ基導入処理を1回終了するごとに、ある程度スルホフェニル基が導入されたスルホ基含有酸化グラフェンを還元処理し、スルホ基含有酸化グラフェンの全質量に対する酸素含有官能基の割合をさらに低下させておくことが好ましい。
すなわち、2回目以降のスルホ基導入処理を行う前にも、還元処理を行うことが好ましい。
スルホ基導入処理を1回以上終了した後は、導入されたスルホ基により水分散性が得られるため、酸素含有官能基の割合を、原料段階よりもさらに減らすことができる。
スルホ基導入処理前の還元処理は、2回目以降のスルホ基導入処理の少なくとも1回において行うことが好ましく、2回目以降のスルホ基導入処理を複数回行う場合は2回以上において行うことがより好ましく、総ての回において行うことが特に好ましい。
【0039】
スルホ基導入処理を1回終了するごと(2回目以降のスルホ基導入処理を行う前)の還元処理は、スルホ基含有酸化グラフェンの全質量に対する酸素含有官能基の割合を40質量%以下としておくことが好ましい。酸素含有官能基の割合は、10~40質量%としておくことがより好ましく、20~30質量%としておくことがさらに好ましい。
スルホ基導入処理を1回終了するごとに酸素含有官能基の割合を減少させれば、その都度、酸素含有官能基が結合しておらず、スルホフェニル基を導入可能な炭素原子の割合を確保できるので好ましい。また、熱安定性の低い酸素含有官能基をさらに減少させ、熱安定性の高いスルホフェニル基の導入量を増やすことにより、高い絶縁性を維持しやすくなる。
また、還元処理後の酸素含有官能基の割合を10質量%以上としておけば、スルホ基含有酸化グラフェンの水分散性を損なわず、厚さが10nmを超える酸化グラファイトに戻りにくいので好ましい。
【0040】
スルホ基導入処理の少なくとも1回において、使用するスルホン化剤におけるスルホ基の量は、酸化グラフェン又はスルホ基含有酸化グラフェンの炭素量に対して120モル%以上が好ましく、120~200モル%がより好ましい。120モル%以上であることにより、スルホフェニル基の導入が効率よく行われる。200モル%以下であることにより、スルホン化剤の高濃度状態における自己失活を抑制できる。
【0041】
前記した酸化グラフェン又はスルホ基含有酸化グラフェンの炭素量に対する、使用するスルホン化剤におけるスルホ基の好ましい量は、スルホ基導入処理の2回以上において満たしていることが好ましい。スルホ基導入処理を3回以上行う場合は、スルホ基導入処理の3回以上において満たしていることが好ましい。総てのスルホ基導入処理において、満たしていることが特に好ましい。
【0042】
なお、酸化グラフェンが有する酸素含有官能基は炭素原子を含む場合もあるが、本発明における酸化グラフェンの炭素量には、酸素含有官能基における炭素原子を含む。また、スルホ基含有酸化グラフェンの炭素量には、酸素含有官能基における炭素原子は含むが、スルホフェニル基に含まれる炭素原子は含まない。
【0043】
1回あたりのスルホ基導入処理の時間は、5~20時間が好ましく、8~18時間がより好ましい。8時間以上であることにより、スルホン化剤によるスルホフェニル基の導入反応が充分に進む。18時間以下であることにより、スルホン化剤の失活を抑制できる。
最後のスルホ基導入処理を行う際は、反応終了後に酸処理をすることが好ましい。これにより、スルホン化剤に由来するナトリウムイオンを酸型に変換できる。
【0044】
本発明では、酸化グラフェン又はスルホ基含有酸化グラフェンとスルホン化剤とを反応させるスルホ基導入処理を2回以上行うことにより、酸化グラフェンの骨格に、スルホフェニル基が充分な量で導入されたスルホ基含有酸化グラフェンを得られる。
一度の導入処理で充分なスルホ基が導入できないのは、スルホ基を導入する前の酸化グラフェンが凝集しやすいため、スルホン化剤が酸化グラフェンの凝集体の表面にだけ作用した段階で、失活してしまうためであると考えられる。
本発明によれば、分解しやすいスルホン化剤を、毎回新たに調製して使用できることにより、充分な反応が可能となるためと思われる。また、毎回のスルホ基導入処理終了時に、古いスルホン化剤を除去することにより、スルホン化剤の反応活性を維持できると考えられる。
また、導入されたスルホ基により酸化グラフェンの水分散性が高まるため、スルホ基導入処理を1回行うごとに、その後のスルホ基導入の効率が向上するためであると考えられる。
【0045】
<電解質ポリマー>
電解質ポリマーは、イオン交換基を有する。
イオン交換基としては、陽イオンがプロトンである酸型と、陽イオンが金属イオン、アンモニウムイオン等である塩型とが挙げられる。固体高分子形燃料電池用の固体高分子電解質膜の場合、通常、酸型のイオン交換基を有する電解質ポリマーが用いられる。酸型のイオン交換基を有する電解質ポリマーにおいては、イオン交換基のプロトンの一部は、セリウムイオン、マンガンイオン等にイオン交換されていてもよい。
【0046】
酸型のイオン交換基としては、スルホ基、スルホンイミド基、スルホンメチド基、ホスホン酸基、カルボン酸基、ケトイミド基等が挙げられ、酸性度が強く、化学的安定性の高い点から、スルホ基、スルホンイミド基、スルホンメチド基が好ましく、スルホ基、スルホンイミド基がより好ましく、スルホ基がさらに好ましい。
【0047】
電解質ポリマーとしては、フッ素原子を含まない電解質ポリマー(イオン交換基を有する炭化水素ポリマー等)、含フッ素電解質ポリマー(イオン交換基を有するペルフルオロカーボンポリマー等)等が挙げられ、耐久性の点から、含フッ素電解質ポリマーが好ましく、エーテル性酸素原子を含んでいてもよいイオン交換基を有するペルフルオロカーボンポリマーがより好ましい。
【0048】
ペルフルオロカーボンポリマーとしては、燃料電池を運転する際に求められる化学的な安定性、プロトン伝導性、耐熱水性、機械的特性の点から、単位u1及び単位u2のいずれか一方又は両方を有するポリマーHが好ましい。
ポリマーHは、ポリマーHの機械的特性及び化学的耐久性に優れる点から、テトラフルオロエチレン(以下、TFEと記す。)に基づく単位(以下、TFE単位と記す。)をさらに有することが好ましい。
ポリマーHは、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて単位u1、単位u2及びTFE単位以外の、他のモノマーに基づく構成単位(以下、他の単位と記す。)をさらに有していてもよい。
単位u1は、下式で表される。
【0049】
【化1】
【0050】
ただし、Qは、単結合、又はエーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、Rf1は、エーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキル基であり、Xは、酸素原子、窒素原子又は炭素原子であり、aは、Xが酸素原子の場合0であり、Xが窒素原子の場合1であり、Xが炭素原子の場合2であり、Zは、フッ素原子又は1価のペルフルオロ有機基であり、sは、0又は1である。単結合は、CFZの炭素原子と、SOのイオウ原子とが直接結合していることを意味する。有機基は、炭素原子を1以上含む基を意味する。
【0051】
のペルフルオロアルキレン基がエーテル性酸素原子を有する場合、エーテル性酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、エーテル性酸素原子は、ペルフルオロアルキレン基の炭素原子-炭素原子結合間に挿入されていてもよく、炭素原子結合末端に挿入されていてもよい。エーテル性酸素原子は、ペルフルオロアルキレン基の炭素原子結合末端のうち、硫黄と結合する炭素原子結合末端には挿入されない。
ペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。ペルフルオロアルキレン基の炭素数は、1~6が好ましく、2~4がより好ましい。炭素数が6以下であれば、ポリマーHのイオン交換容量の低下が抑えられ、プロトン伝導性の低下が抑えられる。
【0052】
f1のペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。ペルフルオロアルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、2~4がより好ましい。ペルフルオロアルキル基としては、ペルフルオロメチル基、ペルフルオロエチル基等が好ましい。
【0053】
-(SO(SOf1基は、イオン交換基である。-(SO(SOf1基としては、スルホ基(-SO 基)、スルホンイミド基(-SON(SOf1基)、又はスルホンメチド基(-SOC(SOf1基)が挙げられる。
としては、フッ素原子又はトリフルオロメチル基が好ましい。
【0054】
単位u1としては、ポリマーHの製造が容易であり、工業的実施が容易である点から、単位u1-1~単位u1-4が好ましい。
【0055】
【化2】
【0056】
単位u2は下式で表される。
【0057】
【化3】
【0058】
ただし、Q21は、エーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、Q22は、単結合、又はエーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、Rf2は、エーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキル基であり、Xは、酸素原子、窒素原子又は炭素原子であり、bは、Xが酸素原子の場合0であり、Xが窒素原子の場合1であり、Xが炭素原子の場合2であり、Zは、フッ素原子又は1価のペルフルオロ有機基であり、tは、0又は1であり、uは、0又は1である。単結合は、CZの炭素原子と、SOのイオウ原子とが直接結合していることを意味する。有機基は、炭素原子を1以上含む基を意味する。
【0059】
21、Q22のペルフルオロアルキレン基がエーテル性酸素原子を有する場合、エーテル性酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、エーテル性酸素原子は、ペルフルオロアルキレン基の炭素原子-炭素原子結合間に挿入されていてもよく、炭素原子結合末端に挿入されていてもよい。エーテル性酸素原子は、ペルフルオロアルキレン基の炭素原子結合末端の内、硫黄と結合する炭素原子末端には挿入されない。
ペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
ペルフルオロアルキレン基の炭素数は、1~6が好ましく、2~4がより好ましい。炭素数が6以下であれば、原料のモノマーの沸点が低くなり、蒸留精製が容易となる。また、炭素数が6以下であれば、ポリマーHのイオン交換容量の低下が抑えられ、プロトン伝導性の低下が抑えられる。
【0060】
22は、エーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。Q22がエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であれば、Q22が単結合である場合に比べ、長期にわたって固体高分子形燃料電池を運転した際に、発電性能の安定性に優れる。
21、Q22の少なくとも一方は、エーテル性の酸素原子を有する炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。エーテル性の酸素原子を有する炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基を有するモノマーは、フッ素ガスによるフッ素化反応を経ずに合成できるため、収率が良好で、製造が容易である。
【0061】
f2のペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。ペルフルオロアルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、2~4がより好ましい。ペルフルオロアルキル基としては、ペルフルオロメチル基、ペルフルオロエチル基等が好ましい。
単位u2が2つ以上のRf2を有する場合、Rf2は、それぞれ同じ基であってもよく、それぞれ異なる基であってもよい。
【0062】
-(SO(SOf2基は、イオン交換基である。-(SO(SOf2基としては、スルホ基(-SO 基)、スルホンイミド基(-SON(SOf2基)、又はスルホンメチド基(-SOC(SOf2基)が挙げられる。
としては、フッ素原子、又はエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1~6の直鎖のペルフルオロアルキル基が好ましい。
【0063】
単位u2としては、ポリマーHの製造が容易であり、工業的実施が容易である点から、単位u2-1~単位u2-3が好ましい。得られるポリマーHが柔軟であり、固体高分子電解質膜としたときに、湿潤状態における膨潤と乾燥状態における収縮とを繰り返しても破損しにくい点から、単位u2-2又は単位u2-3がより好ましい。
【0064】
【化4】
【0065】
他の単位は、単位u1、単位u2及びTFE単位以外の、他のモノマーに基づく単位である。
他のモノマーとしては、例えば、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、エチレン、プロピレン、ペルフルオロα-オレフィン(ヘキサフルオロプロピレン等)、(ペルフルオロアルキル)エチレン((ペルフルオロブチル)エチレン等)、(ペルフルオロアルキル)プロペン(3-ペルフルオロオクチル-1-プロペン等)、ペルフルオロビニルエーテル(ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ペルフルオロ(エーテル性酸素原子含有アルキルビニルエーテル)等)、国際公開第2011/013578号に記載された5員環を有するペルフルオロモノマーが挙げられる。
【0066】
ポリマーHは、単位u1、単位u2及び他の単位を、それぞれ1種ずつ有していてもよく、それぞれ2種以上有していてもよい。
ポリマーHにおける各単位の割合は、電解質ポリマーに要求されるイオン交換容量、プロトン伝導性、水素ガス透過性、耐熱水性、機械的特性等に応じて、適宜調整すればよい。
【0067】
電解質ポリマーのイオン交換容量は、0.7~2.5ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましく、0.9~2.0ミリ当量/g乾燥樹脂がより好ましい。イオン交換容量が前記範囲の下限値以上であれば、プロトン伝導性が高くなるため、充分な電池出力を得ることできる。イオン交換容量が前記範囲の上限値以下であれば、分子量の高いポリマーの合成が容易であり、また、電解質ポリマーが過度に水で膨潤しないため、機械的強度を保持できる。
【0068】
ポリマーHは、前駆体であるポリマーFの-SOF基をイオン交換基に変換することによって製造される。すなわち、ポリマーFは、ポリマーHの単位u1における-SO(SOf1 基が-SOF基に置換された構造、及びポリマーHの単位u2における-SO(SOf1 基に置換された構造のいずれか一方又は両方を有する。
【0069】
ポリマーFは、化合物m1及び化合物m2のいずれか一方又は両方と、必要に応じてTFE、他のモノマーとを重合することによって製造される。
化合物m1は、下式m1で表される。
CF=CF-(CFOCF-CFZ-Q-SOF 式m1
【0070】
、Z、sは、単位u1におけるQ、Z、sと同様であり、好ましい形態も同様である。
化合物m1は、例えば、D.J.Vaugham著,”Du Pont Inovation”,第43巻、第3号,1973年、p.10に記載の方法、米国特許第4358412号明細書の実施例に記載の方法等、公知の合成方法によって製造できる。
重合法としては、特に限定なく、従来公知の方法が挙げられる。
【0071】
化合物m2は、下式m2で表される。
【0072】
【化5】
【0073】
21、Q22、Z、t、uは、単位u2におけるQ21、Q22、Z、t、uと同様であり、好ましい形態も同様である。
化合物m2は、例えば、国際公開第2007/013533号に記載の方法等、公知の合成方法によって製造できる。
【0074】
ポリマーFの-SOF基をイオン交換基に変換する方法としては、国際公開第2011/013578号に記載の方法が挙げられる。例えば、-SOF基を酸型のスルホ基(-SO 基)に変換する方法としては、ポリマーFの-SOF基を塩基と接触させて加水分解して塩型のスルホ基とし、塩型のスルホ基を酸と接触させて酸型化して酸型のスルホ基に変換する方法が挙げられる。
【0075】
イオン交換基を有する炭化水素ポリマーとしては、スルホン化ポリアリーレン、スルホン化ポリベンゾオキサゾール、スルホン化ポリベンゾチアゾール、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリフェニレンスルホン、スルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリフェニレンスルホキシド、スルホン化ポリフェニレンサルファイド、スルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホン、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルケトンケトン、スルホン化ポリイミド等が挙げられる。
【0076】
<固体高分子電解質膜>
固体電高分子解質膜は、本発明のスルホ基含有酸化グラフェンと電解質ポリマーとを含む膜である。
固体高分子電解質膜におけるスルホ基含有酸化グラフェンの含有量は、スルホ基含有酸化グラフェンと電解質ポリマーとの合計の質量に対して、0.1~15質量%が好ましく、0.2~9質量%がより好ましく、0.3~8質量%がさらに好ましい。スルホ基含有酸化グラフェンの含有量が前記範囲の下限値以上であれば、固体高分子電解質膜における燃料のクロスリークが充分に抑えられる。スルホ基含有酸化グラフェンの含有量が前記範囲の上限値以下であれば、固体高分子電解質膜のプロトン導電性の低下が充分に抑えられる。
【0077】
固体高分子電解質膜は、補強材で補強されていてもよい。補強材としては、多孔体、繊維、織布、不織布等が挙げられる。補強材の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。
【0078】
固体高分子電解質膜の厚さは、1~25μmが好ましく、2~18μmがより好ましく、3~15μmがさらに好ましい。固体高分子電解質膜の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、固体高分子電解質膜における燃料のクロスリークが充分に抑えられる。また、固体高分子電解質膜にシワが発生しにくくなり、破断しにくい。固体高分子電解質膜の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、固体高分子電解質膜の抵抗が充分に低くなるため、発電性能がさらに優れる膜電極接合体が得られる。
【0079】
本発明の固体高分子電解質膜にあっては、スルホ基含有酸化グラフェンを含むため、プロトン伝導性の低下を抑えつつ、燃料のクロスリークが抑えられる。
すなわち、スルホ基含有酸化グラフェンの遮蔽効果によって、水素ガスやメタノールが固体高分子電解質膜を透過しにくくなり、燃料のクロスリークが抑えられる。また、スルホ基含有酸化グラフェンがスルホ基を含むため、プロトン伝導性の低下が抑制される。
また、スルホフェニル基の熱安定性が優れるため、高い絶縁性を維持しやすい。
【0080】
<固体高分子電解質膜の製造方法>
固体高分子電解質膜は、本発明のスルホ基含有酸化グラフェンの製造方法により得られたスルホ基含有酸化グラフェンと電解質ポリマーとを液状媒体に分散させて混合分散液を得、この混合分散液を製膜することによって形成することが好ましい。これにより、薄膜でありながら機械的強度が高い固体高分子電解質膜が得られる。
混合分散液は、本発明の効果を損なわない範囲内において、必要に応じてスルホ基含有酸化グラフェン、電解質ポリマー及び液状媒体以外の他の成分を含んでいてもよい。
混合分散液を用いて固体高分子電解質膜を形成する方法としては、具体的には、混合分散液を基材フィルム又は触媒層の表面に塗布し、乾燥させる方法(キャスト法)が挙げられる。
【0081】
スルホ基含有酸化グラフェンは、スルホ基を有するので、酸化グラフェンと比べて、水、エタノールに対する分散性が高い。また、イオン交換ポリマーとの相溶性も高い。そのため、水又は水及びエタノールを含む液状媒体にスルホ基含有酸化グラフェンと電解質ポリマーとを分散させた混合分散液を、直ちに、基材フィルム等に塗布することもできる。
【0082】
水又は水及びエタノールを含む液状媒体にスルホ基含有酸化グラフェンと電解質ポリマーとを分散させた混合分散液を得る際には、スルホ基含有酸化グラフェンを水又は水及びエタノールを含む液状媒体に分散した分散液と、電解質ポリマーを水又は水及びエタノールを含む液状媒体に分散した分散液とを、各々用意し、これらを混合することが好ましい。これにより、分散性の高い固体高分子電解質膜を得ることができる。
【0083】
また、さらに分散性の高い固体高分子電解質膜を得るために、下記の手順にて固体高分子電解質膜を形成してもよい。
すなわち、スルホ基含有酸化グラフェンと電解質ポリマーと第1の液状媒体とを含む第1の混合液を調製し、得られた第1の混合液を乾燥して乾燥物を得て、この乾燥物と第2の液状媒体とを混合して第2の混合液を調製して、この第2の混合液を混合分散液として固体高分子電解質膜を形成する方法である。
【0084】
まず、スルホ基含有酸化グラフェンと電解質ポリマーと第1の液状媒体とを混合して、第1の液状媒体中にスルホ基含有酸化グラフェンが分散し、電解質ポリマーが分散又は溶解した第1の混合液を調製する。
第1の液状媒体としては、スルホ基含有酸化グラフェンの分散性が良好である点から、非プロトン性極性溶媒を含む溶媒が好ましく、水と非プロトン性極性溶媒とを含む混合溶媒が好ましい。
【0085】
非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。非プロトン性溶媒としては、スルホ基含有酸化グラフェンの分散性が良好である点から、ジメチルスルホキシドが好ましい。ジメチルスルホキシドは、分子内で分極しており、極性が大きいため、スルホ基含有酸化グラフェンを分散させやすい。また、沸点が高いため、多孔質ナノシートを加熱溶解させる場合にも好適に用いることができる。
【0086】
第1の液状媒体は、電解質ポリマーの分散性が良好である点から、必要に応じて水酸基を有する有機溶媒を含んでいてもよい。水酸基を有する有機溶媒を含む場合、第1の液状媒体に占める割合は、1~50質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましい。
【0087】
水酸基を有する有機溶媒としては、アルコールが好ましく、炭素数1~12の分岐又は直鎖のアルキル基、又は炭素数1~12の分岐又は直鎖のポリフルオロアルキル基を有するアルコールがより好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール、4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-1-ペンタノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、3,3,3-トリフルオロ-1-プロパノール、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキサノール、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-オクタノール等が挙げられる。水酸基を有する有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。水酸基を有する有機溶媒としては、スルホ基含有酸化グラフェンの分散性が良好である点から、メタノール又はエタノールが好ましい。メタノール及びエタノールは、極性溶媒であり、安価で取扱いやすい溶媒であるので好ましく利用できる。
【0088】
第1の液状媒体が水を含む場合、水と非プロトン性極性溶媒との質量比(水/非プロトン性極性溶媒)は、10/90~90/10が好ましく、30/70~70/30がより好ましい。水/非プロトン性極性溶媒が前記範囲内であれば、スルホ基含有酸化グラフェンが分散又は溶解しやすい。
第1の混合液におけるスルホ基含有酸化グラフェンと電解質ポリマーとの合計の割合は、第1の混合液全質量に対して、0.1~30質量%が好ましく、1~25質量%がより好ましい。
【0089】
第1の混合液を得る際には、スルホ基含有酸化グラフェンを非プロトン性極性溶媒に分散させたスルホ基含有酸化グラフェンを含む分散液と、電解質ポリマーを水とアルコールを含む混合溶媒に分散させた電解質ポリマーを含む分散液とを準備して、これらの分散液を混合することが好ましい。
【0090】
第1の混合液を得た後は、得られた第1の混合液を乾燥して乾燥物を得る。この乾燥物は、スルホ基含有酸化グラフェンと電解質ポリマーとで形成された複合化物を含む。前記複合化物は、スルホ基含有酸化グラフェンと電解質ポリマーが、静電的相互作用、水素結合、ファンデルワールス結合等により、複合化したものと推定される。
【0091】
乾燥は、第1の混合液におけるスルホ基含有酸化グラフェンの分散性を損なわない方法で行う。具体的には、凍結乾燥法又はスプレー乾燥法で乾燥することが好ましい。
スルホ基含有酸化グラフェンの分散性が損なわれにくく、また、第1の液状媒体として用いた非プロトン性極性溶媒を除去しやすい点から、凍結乾燥法が特に好ましい。
凍結乾燥法は、例えば、第1の混合液を液体窒素等で凍結した後、減圧下に第1の液状媒体を、乾燥させて除去する方法である。この方法によれば、スルホ基含有酸化グラフェンと電解質ポリマーの相互作用を保持したまま、第1の液状媒体を除去でき、スルホ基含有酸化グラフェンと電解質ポリマーが良好に分散した状態で複合化した複合化物の乾燥物を得ることができる。
【0092】
その後、得られた乾燥物を第2の液状媒体と混合して、第2の混合液を調製する。
第2の液状媒体としては、スルホ基含有酸化グラフェンの分散性が良好である点から、非プロトン性極性溶媒を含む溶媒が好ましく、水と非プロトン性極性溶媒とを含む混合溶媒が好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、第1の液状媒体として例示した非プロトン性極性溶媒と同様のものが挙げられる。
【0093】
第2の液状媒体における水と非プロトン性極性溶媒との質量比(水/非プロトン性極性溶媒)は、10/90~90/10が好ましく、30/70~70/30がより好ましい。水/非プロトン性極性溶媒が前記範囲内であれば、前記複合化物が分散又は溶解しやすい。
【0094】
また、第2の液状媒体は、複合化物の分散性が良好である点から、必要に応じて水酸基を有する有機溶媒を含んでいてもよい。水酸基を有する有機溶媒を含む場合、第2の液状媒体に占める割合は、1~50質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましい。水酸基を有する有機溶媒としては、第1の液状媒体として例示した水酸基を有する有機溶媒と同様のものが挙げられる。
【0095】
第2の混合液におけるスルホ基含有酸化グラフェンと電解質ポリマーとの合計の割合は、第2の混合液全質量に対して、0.1~30質量%が好ましく、0.5~25質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
複合化物は第2の液状媒体で凝集しにくいため、スルホ基含有酸化グラフェンが電解質ポリマー中に均一に分散した固体高分子電解質膜を得やすくなる。
【0096】
次いで、得られた第2の混合液を、混合分散液として、基材フィルム又は触媒層の表面に塗布し、乾燥させて固体高分子電解質膜を形成する。
固体高分子電解質膜は、安定化させるために、アニール処理されていることが好ましい。アニール処理の温度は、120~200℃が好ましい。アニール処理の温度が120℃以上であれば、電解質ポリマーが過度に含水しなくなる。アニール処理の温度が200℃以下であれば、イオン交換基の熱分解が抑えられる。
【0097】
<膜電極接合体とその製造方法>
図1は、膜電極接合体の一例を示す模式断面図である。膜電極接合体10は、触媒層11及びガス拡散層12を有するアノード13と、触媒層11及びガス拡散層12を有するカソード14と、アノード13とカソード14との間に、触媒層11に接した状態で配置された固体高分子電解質膜15とを具備する。
【0098】
触媒層は、触媒と、電解質ポリマーとを含む層である。
触媒としては、カーボン担体に白金又は白金合金を担持した担持触媒が挙げられる。
カーボン担体としては、カーボンブラック粉末、グラファイト化カーボン、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
電解質ポリマーとしては、触媒層に用いられる公知の電解質ポリマーが挙げられ、クラックが入りにくい触媒層を形成できる点から、TFE単位と単位u1とを有するポリマーが好ましい。
【0099】
ガス拡散層は、触媒層に均一にガスを拡散させる機能及び集電体としての機能を有する。ガス拡散層としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等が挙げられる。ガス拡散層は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEとも記す。)等によって撥水化処理されていることが好ましい。
固体高分子電解質膜は、本発明の固体高分子電解質膜である。
【0100】
図2に示すように、膜電極接合体10は、触媒層11とガス拡散層12との間にカーボン層16を有してもよい。
カーボン層を配置することによって、触媒層の表面のガス拡散性及び発電により生成した水の排水性が向上し、固体高分子形燃料電池の発電性能が大きく向上する。カーボン層は、アノード及びカソードのいずれか一方の触媒層とガス拡散層との間に配置されていてもよく、アノード及びカソードの両方の触媒層とガス拡散層との間に配置されていてもよい。
【0101】
カーボン層は、カーボンと非イオン性含フッ素ポリマーとを含む層である。
カーボンとしては、カーボン粒子、カーボンファイバー等が挙げられ、繊維径1~1,000nm、繊維長1,000μm以下のカーボンナノファイバーが好ましい。
非イオン性含フッ素ポリマーとしては、PTFE等が挙げられる。
【0102】
膜電極接合体10は、触媒層11とガス拡散層12との間に中間層を有していてもよい。中間層は、触媒層11とカーボン層16の間に配置されてもよい。
中間層を配置することによって、触媒層と、ガス拡散層又はカーボン層との接着強度が高まり、膜電極接合体としての機械的強度が向上するとともに、湿潤環境下での触媒層からの排水及び乾燥下での保湿により固体高分子形燃料電池の発電性能が大きく向上する。
中間層は、電解質ポリマーと炭素材料とを含む。
電解質ポリマーとしては、触媒層や固体高分子電解質膜に含まれる電解質ポリマーと同様のものが挙げられ、工業的実施が容易な点から、TFE単位と単位u1とを有するポリマーが好ましい。
【0103】
炭素材料としては、炭素繊維が好ましい。微細でかつ電子伝導性を有する点から、カーボンナノファイバーが好ましい。カーボンナノファイバーとしては、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ(シングルウォール、ダブルウォール、マルチウォール、カップ積層型等)等が挙げられる。
【0104】
膜電極接合体は、本発明の固体高分子電解質膜を用いて、例えば、国際公開第2008/090990号、国際公開第2009/116630号等に記載される従来公知の方法により製造できる。中間層についても、例えば、国際公開第2009/116630号に記載の従来公知のものを用いて、従来公知の方法により、ガス拡散層上に形成できる。
【0105】
本発明で得られる膜電極接合体は、熱的安定性に優れたスルホフェニル基が導入されていることにより、絶縁性が高く、アノードとカソードとの短絡を防止できる。また、充分な量のスルホフェニル基により面方向におけるプロトンの伝導性が大幅に高まるので、プロトン伝導性を確保しながら、燃料のクロスリークを抑制することができる。
【0106】
<固体高分子形燃料電池とその製造方法>
膜電極接合体の両面に、ガスの流路となる溝又は多数の孔が形成されたセパレータを配置することにより、固体高分子形燃料電池が得られる。
セパレータとしては、金属製セパレータ、カーボン製セパレータ、黒鉛と樹脂を混合した材料からなるセパレータ等、各種導電性材料からなるセパレータが挙げられる。
この固体高分子形燃料電池においては、カソードに酸素を含むガス、アノードに水素を含むガスを供給することにより、発電が行われる。また、アノードにメタノールを供給して発電を行うメタノール燃料電池にも、膜電極接合体を適用できる。
本発明の製造方法により得られる固体高分子形燃料電池は、発電性能と、燃料効率に優れる。
【実施例
【0107】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、例1は実施例であり、例2、3、4は比較例である。
以下の説明においては、下記の略号を使用する。
PFA:テトラフルオロエチレン-ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体
ETFE:エチレンテトラフルオロエチレン
【0108】
<測定方法>
(酸素含有官能基量)
評価対象の酸化グラフェンを、燃焼法により元素分析して、酸化グラフェンの全質量に対する酸素含有官能基量を求めた。
【0109】
(厚さ)
評価対象のスルホ基含有酸化グラフェン又は酸化グラフェンを、AFMで高さ測定をして厚さを求めた。
【0110】
(円相当径)
評価対象のスルホ基含有酸化グラフェン又は酸化グラフェンを、シリコン基板上に塗布して、キーエンス社製光学顕微鏡(マイクロスコープ)で観察して20個のスルホ基含有酸化グラフェン又は酸化グラフェンの面積を求め、それらを平均した平均面積と同じ面積の円の直径を円相当径とした。
【0111】
(硫黄原子数/炭素原子数)
評価対象のスルホ基含有酸化グラフェンを、燃焼法によって元素分析して、硫黄原子数と炭素原子数の比(硫黄原子数/炭素原子数)を求めた。
【0112】
(固体高分子電解質膜の膜厚)
デジマチックインジケータ(Mitsutoyo社製、型番:543-250、フラット測定端子:φ5mm)を用いて評価対象の固体高分子電解質膜の9箇所の厚さを測定し、これらを平均して固体高分子電解質膜の厚さとした。
【0113】
(膜厚方向プロトン伝導率)
固体高分子電解質膜の厚さ方向のプロトン伝導率は、固体高分子電解質膜の厚さ方向に外部から交流電圧を印加し、その高周波応答特性を解析して求めた。
セラミック製鋏を用いて評価対象の固体高分子電解質膜から2cm角のサンプルを切り出した。サンプルを、金めっきを施した10mmφの電極を備えた専用治具(東陽テクニカ社製、サンプルホルダ SH2-Z)に複数枚重ねて設置し、電極間に2N・mのトルクで固定化した。高精度インピーダンス装置(英国ウィンカー社製、6440B)を用いて、50mVの交流電圧を印加し、3MHzから20Hzまでの測定周波数領域で周波数応答測定を行い、X軸は実数のインピーダンス(Z’)、Y軸は虚数のインピーダンス(Z”)で表されるCole-Coleプロットを取得した。Cole-ColeプロットのX軸との交点位置は、近似直線を引く手法を用いて求めた。具体的には、近似直線は、縦軸のImZが1~2Ωの間で引き、X軸との交点から抵抗値を求めた。
厚さ方向のプロトン伝導率の測定は、重ねる枚数を変えることにより、膜厚違いの3点で行い、膜厚と抵抗値のグラフの傾きから、膜厚方向のプロトン伝導率を算出した。測定は、50℃-50%の恒温・恒湿環境下で実施した。
【0114】
(水素ガス透過係数)
評価対象の固体高分子電解質膜をフレミオン膜(膜厚25μm)で挟んだ3層の積層膜をガス透過装置用セルに組み込み、80℃の条件下で、この積層膜の一方に湿度を調節した水素ガスを流し、積層膜の他方に湿度を調節したアルゴンガスを流し、セル有効ガス透過面積9.62cm、ガス流量30cm/minの条件にてアルゴンガス側に透過してくる水素ガスを、ガスクロマトグラフィで検出し、水素ガス透過量を測定した。得られた水素ガス透過量を用いて、膜面積1cm、透過ガスの圧力差1Paあたり、1秒間に透過するガスの流量を求め、厚さ1cmの膜に換算した値を積層膜の水素ガス透過係数Pとした。
【0115】
同様の方法で、フレミオン膜(登録商標)(膜厚25μm)の単独膜の水素ガス透過係数P1を算出した。
積層膜の厚さをL、フレミオン膜(膜厚25μm)の厚さをL1、評価対象の固体高分子電解質膜の厚さをL2とし、積層膜の水素ガス透過係数をP、フレミオン膜(膜厚25μm)の水素ガス透過係数をP1、評価対象の固体高分子電解質膜の水素ガス透過係数をP2としたとき、L/P=L1/P1×2+L2/P2が成り立つ。この式から、評価対象の固体高分子電解質膜の水素ガス透過係数P2を算出した。
【0116】
(短絡電流測定)
評価対象の固体高分子電解質膜を35mm角にセラミックス鋏を使ってカットし、30mm角(厚み100μm)のPt板で挟み込み、固定用治具SH-2Zにセットし、Pt板の電極間に直流電圧0.5Vを印加した。その後、100秒経過後に0.75V、さらに100秒経過後に1Vまで電圧を段階的に引き上げて、1V印加後100秒後に50℃-50%の恒温・恒湿環境として、300秒経過後に電極間に流れている電流値を短絡電流とした。
【0117】
<原料>
(酸化グラフェン1)
円相当径が5μm、厚さ1nm以下の仁科マテリアル社製の酸化グラフェンを還元処理して、酸化グラフェンの全質量に対する酸素含有官能基量を30質量%まで低減化した還元型酸化グラフェンを、酸化グラフェン1として用いた。
【0118】
(酸化グラフェン2)
円相当径が5μm、厚さ1nm以下の仁科マテリアル社製の酸化グラフェンに対して還元処理を行わずに酸化グラフェン2として用いた。酸化グラフェン2の全質量に対する酸素含有官能基量は、60質量%であった。
【0119】
<例1>
(1回目のスルホ基導入処理)
0℃に冷却した2MHCl溶液840mLにスルファニル酸30.5g(176mmol)を分散させた。ここに、亜硝酸ナトリウム(NaNO)の2M水溶液を0℃の状態で添加し、1.5時間攪拌した。攪拌後、素早くろ過し、4℃に冷却した水で洗浄して、4-ベンゼンジアゾニウムスルホネートを合成した。
【0120】
予め0℃に冷却しておいた水800mLに合成直後のスルホン化剤(4-ベンゼンジアゾニウムスルホネート)の全量を分散させ、さらに、酸化グラフェンの2gを添加した。
この分散液を0℃に保ったまま17時間攪拌して、スルホン化剤と酸化グラフェン1を反応させた。
17時間反応させた後攪拌を停止して4時間静置した後、上澄みを取り除いた。その後、4℃の水の500mLに分散させてから遠心加速度10,000Gで遠心分離して上澄みを取り除く作業を7回実施し、1回目のスルホ基導入処理後の酸化グラフェンを回収した。
【0121】
(2回目~4回目のスルホ基導入処理)
酸化グラフェン1に代えて、1回目のスルホ基導入処理後のスルホ基含有酸化グラフェンを用いた他は、1回目のスルホ基導入処理と同様にして、新たにスルホン化剤(4-ベンゼンジアゾニウムスルホネート)を合成し、2回目のスルホ基導入処理を行い、2回目のスルホ基導入処理後のスルホ基含有酸化グラフェンを回収した。
次いで、酸化グラフェン1に代えて、2回目のスルホ基導入処理後のスルホ基含有酸化グラフェンを用いた他は、1回目のスルホ基導入処理と同様にして、3回目のスルホ基導入処理を行い、3回目のスルホ基導入処理後のスルホ基含有酸化グラフェンを回収した。
次いで、酸化グラフェン1に代えて、3回目のスルホ基導入処理後のスルホ基含有酸化グラフェンを用い、遠心分離作業において用いる水を1MHCLに変更した他は、1回目のスルホ基導入処理と同様にして、4回目のスルホ基導入処理を行い、例1のスルホ基含有酸化グラフェンを得た。
得られたスルホ基含有酸化グラフェンの硫黄原子数と炭素原子数の比(硫黄原子数/炭素原子数)、厚さ及び円相当径を表1に示す。
【0122】
(固体高分子電解質膜の製造)
例1のスルホ基含有酸化グラフェンの97mgに、イオン交換水の5gを入れてよく混合した後、超音波分散装置(ASONE、ASUCLEANER、ASU-60 )で超音波分散処理(43kHz)を1時間行い、例1のスルホ基含有酸化グラフェンの剥離・分散処理を実施した。
得られた水分散液中のスルホ基含有酸化グラフェンの分散状態をマイクロスコープ(キーエンス社製VHX-5000)により観察したところ、一様に分散ができていることが確認できた。
【0123】
この分散液に、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー溶液23.5g(ポリマー固形分濃度13.3質量%、イオン交換容量1.3meq/mol、水/エタノール比=40/70質量比)を加え、1晩スターラー攪拌し、スルホ基含有酸化グラフェンとパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーの質量比が3:97の分散液を得た。
得られた分散液を口径53μmのSUSメッシュフィルターを通すことで、小さな埃を取り除き混合分散液を得た。
【0124】
得られた混合分散液をETFEフィルム上にキャスト製膜し、80℃で10分間乾燥後に、160℃で15分間の熱処理を行い、乾燥膜厚として10μmの固体高分子電解質膜を作製した。
得られた固体高分子電解質膜の評価結果を表2に示す。
【0125】
<例2>
(スルホ基導入処理)
遠心分離作業において用いる水を1MHCLに変更した他は、例1の1回目のスルホ基導入処理と同様にして1回のみのスルホ基導入処理を行い、例2のスルホ基含有酸化グラフェンを得た。
得られたスルホ基含有酸化グラフェンの硫黄原子数と炭素原子数の比(硫黄原子数/炭素原子数)、厚さ及び円相当径を表1に示す。
【0126】
(固体高分子電解質膜の製造)
例1のスルホ基含有酸化グラフェンに代えて、例2のスルホ基含有酸化グラフェンを用いた他は、例1と同様にして、固体高分子電解質膜を作製した。
得られた固体高分子電解質膜の評価結果を表2に示す。
【0127】
<例3>
(スルホ基導入処理)
酸化グラフェン1に代えて、酸化グラフェン2を用い、遠心分離作業において用いる水を1MHCLに変更した他は、例1の1回目のスルホ基導入処理と同様にして1回のみのスルホ基導入処理を行い、例2のスルホ基含有酸化グラフェンを得た。
得られたスルホ基含有酸化グラフェンの硫黄原子数と炭素原子数の比(硫黄原子数/炭素原子数)、厚さ及び円相当径を表1に示す。
【0128】
(固体高分子電解質膜の製造)
例1のスルホ基含有酸化グラフェンに代えて、例3のスルホ基含有酸化グラフェンを用いた他は、例1と同様にして、固体高分子電解質膜を作製した。
得られた固体高分子電解質膜の評価結果を表2に示す。
【0129】
<例4>
例1のスルホ基含有酸化グラフェンに代えて、酸化グラフェン2をそのまま用いた他は、例1と同様にして、固体高分子電解質膜を作製した。
得られた固体高分子電解質膜の評価結果を表2に示す。
【0130】
【表1】
【0131】
【表2】
【0132】
表1に示すように、例1のスルホ基含有グラフェンは、硫黄原子数と炭素原子数の比(硫黄原子数/炭素原子数)が大きく、スルホフェニル基が充分な量で導入されていることが確認できた。
また、表2に示すように、例1の固体高分子電解質膜は、良好なプロトン伝導性を確保しつつ、燃料のクロスリークが抑えられていた。また、絶縁性にも優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の製造方法で得られたスルホ基含有酸化グラフェンを用いた固体高分子電解質膜は、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体における固体高分子電解質膜;水電解、過酸化水素製造、オゾン製造、廃酸回収等に用いるプロトン選択透過膜;食塩電解用陽イオン交換膜;レドックスフロー電池の隔膜;脱塩又は製塩に用いる電気透析用陽イオン交換膜等として有用である。
【符号の説明】
【0134】
10 膜電極接合体、
11 触媒層、
12 ガス拡散層、
13 アノード、
14 カソード、
15 固体高分子電解質膜、
16 カーボン層。
図1
図2