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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】アンモニアボランの合成方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 35/14 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
C01B35/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020030348
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2020147491
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-01-04
(31)【優先権主張番号】P 2019039892
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】中川 鉄水
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-532469(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0243122(US,A1)
【文献】特表2013-526475(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0225863(US,A1)
【文献】ZHANG, J. et al.,A novel route to synthesize hydrogen storage material ammonia borane via copper (II)‐ammonia complex liquid phase oxidization,International Journal of Energy Research,2018年,42,4395-4401
【文献】SHAOSHUANG, Z. et al.,Preparation of Ammonia Borane with Ammonia Complex and the Study of Hydrogen Desorption Performance,Acta Chimica Sinica,2011年,69,2117-2122
【文献】PETIT, Jean-Fabien et al.,Ammonia borane H3N-BH3 for solid-state chemical hydrogen storage: Different samples with different thermal behaviors,International Journal of Hydrogen Energy,2016年,41, (34),1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 35/14
C01B 35/08
C01B 6/13
C01B 21/064
C07F 5/02
C01B 3/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アンミン錯体とボラン錯体とを混合することを特徴とするアンモニアボランの合成方法。
【請求項2】
金属アンミン錯体が、置換活性錯体であることを特徴とする請求項1記載のアンモニアボランの合成方法。
【請求項3】
金属アンミン錯体が、Mgアンミン錯体、Caアンミン錯体、Niアンミン錯体、Cuアンミン錯体、及びZnアンミン錯体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアンモニアボランの合成方法。
【請求項4】
ボラン錯体が、ボラン種(‐BH)を有する配位性化合物であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のアンモニアボランの合成方法。
【請求項5】
ボラン錯体が、テトラヒドロフランボラン、ジメチルスルフィドボラン、エチルエーテルボラン、ジエチルエーテルボラン、トリメチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン、ジイソプロピルアミンボラン、t-ブチルアミンボラン、及びピリジンボランから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のアンモニアボランの合成方法。
【請求項6】
ボラン錯体が、テトラヒドロフランボラン及びジメチルスルフィドボランから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載のアンモニアボランの合成方法。
【請求項7】
非加熱で混合することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のアンモニアボランの合成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵材料であるアンモニアボランを合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
市販されている燃料電池車の燃料タンクには高圧水素が採用されているが、未だにコストや水素密度に課題を有する。高密度な水素貯蔵方法として、水素貯蔵材料が期待されており、その中でもアンモニアボラン(NHBH)は、重量水素密度が非常に高く、注目されている。
【0003】
このようなアンモニアボランの合成方法としては、ボロハイドライド(M(BH)n:M=金属)とアンモニウム塩とを有機溶媒中で撹拌して合成する方法が提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Petit, J.F., Miele, P., Demirci, U.B., (2016) Ammonia borane H3N-BH3 for solid-state chemical hydrogen storage: Different samples with different thermal behaviors International Journal of Hydrogen Energy. 41, 15462-15470.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、アンモニアボランは水素貯蔵材料として注目されているが、上記非特許文献1の方法には、工程数やコスト、製造時間等の問題の他、例えば自然界などから回収したアンモニアから直接合成できないなどの問題があり、実用化に向けた新たなアンモニアボランの合成方法が求められている。
【0006】
本発明の課題は、水素貯蔵材料であるアンモニアボランを合成する新規な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、これまで水素貯蓄材料としてのアンモニアボランの有用性に注目し、研究してきた。そして、このアンモニアボランの新たな合成方法を探求する中で、金属アンミン錯体とボラン錯体を用いることにより、配位子の交換反応が起こり、アンモニアボランを合成できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]金属アンミン錯体とボラン錯体とを混合することを特徴とするアンモニアボランの合成方法。
[2]金属アンミン錯体が、置換活性錯体であることを特徴とする上記[1]記載のアンモニアボランの合成方法。
[3]金属アンミン錯体が、Mgアンミン錯体、Caアンミン錯体、Niアンミン錯体、Cuアンミン錯体、及びZnアンミン錯体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のアンモニアボランの合成方法。
【0009】
[4]ボラン錯体が、ボラン種(‐BH)を有する配位性化合物であることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか記載のアンモニアボランの合成方法。
[5]ボラン錯体が、テトラヒドロフランボラン、ジメチルスルフィドボラン、エチルエーテルボラン、ジエチルエーテルボラン、トリメチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン、ジイソプロピルアミンボラン、t-ブチルアミンボラン、及びピリジンボランから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記[1]~[4]のいずれか記載のアンモニアボランの合成方法。
[6]ボラン錯体が、テトラヒドロフランボラン及びジメチルスルフィドボランから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記[5]記載のアンモニアボランの合成方法。
[7]非加熱で混合することを特徴とする上記[1]~[6]のいずれか記載のアンモニアボランの合成方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアンモニアボランの合成方法によれば、水素貯蔵材料であるアンモニアボランを簡易な操作で効率的に合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例1における11B-NMR測定の結果を示す図である。
図2】本発明の実施例2における11B-NMR測定の結果を示す図である。
図3】本発明の実施例3におけるXRD測定の結果を示す図である。
図4】本発明の実施例4における11B-NMR測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のアンモニアボランの合成方法は、金属アンミン錯体とボラン錯体とを混合することを特徴とする。すなわち、本発明の方法は、金属アンミン錯体及びボラン錯体の少なくとも2種を原料として用い、これを混合することによってアンモニアボランを合成する方法である。
【0013】
本発明の合成方法では、以下の式で表わされる等量反応により、効率的にアンモニアボランが合成されると考えられる。具体的に、本発明の反応は、BHがNHを引き抜く配位子の交換反応により進行していると考えられる(実施例3参照)。なお、このメカニズムは、現段階で本発明者らが推測しているものであり、本発明の権利範囲をなんら制限するものではない。
【0014】
M(NH+nBHL→nNHBH+MX+L
(Mは金属、Xはハロゲン、SO、NO等、Lは配位子を表す)
【0015】
本発明のアンモニアボランの合成方法では、効率的にアンモニアボランを合成することができる。また、本発明の方法は、金属アンミン錯体から直接的に、混合という簡易な操作でアンモニアボランを合成することができる。さらに、原料である金属アンミン錯体が、常温で固体であることから、原料の取扱いや保存が容易である。
【0016】
本発明の方法で用いる金属アンミン錯体としては、アンモニアを配位子とする金属錯体であれば特に制限されるものではないが、配位子置換の起こりやすい置換活性錯体が好ましい。金属アンミン錯体中の金属としては、例えば、Mg、Ca、Ni、Cu、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Zn、Al、Ag等を挙げることができ、これらの中でも、Mg、Ca、Ni、Cu、Znが好ましく、Mg、Caが特に好ましい。
【0017】
具体的に、本発明の金属アンミン錯体としては、Mgアンミン錯体(Mg(NHCl)、Caアンミン錯体(Ca(NH8Cl)、Niアンミン錯体(Ni(NHCl)、Cuアンミン錯体(Cu(NHCl、Cu(NHSO)、Znアンミン錯体(Zn(NHCl)等を例示することができる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0018】
本発明の方法で用いるボラン錯体は、ボラン種(‐BH)を有する配位性化合物であり、具体的には、テトラヒドロフランボラン、ジメチルスルフィドボラン、エチルエーテルボラン、ジエチルエーテルボラン、トリメチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン、ジイソプロピルアミンボラン、t-ブチルアミンボラン、ピリジンボラン等を挙げることができ、入手容易性、取扱い容易性、反応性等の点から、テトラヒドロフランボラン、ジメチルスルフィドボランが好ましく、反応性の点から、ジメチルスルフィドボランが特に好ましい。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0019】
本発明のアンモニアボランの合成方法における原料の混合は非加熱で行うことができ、常温であることが好ましいが、必要に応じて冷却して行ってもよい。なお、常温とは、特別な加熱や冷却をしていない状況での温度をいう。また、反応を促進させるために、原料の混合は加熱下で行ってもよい。
本発明の合成方法は、非加熱(常温)の条件下で、金属アンミン錯体からアンモニアボランを直接的に合成することができ、非常に簡易かつ実用的な方法である。
【0020】
金属アンミン錯体とボラン錯体のとの配合割合としては、アンモニアボランが生成できれば特に制限されるものではないが、NHとBHとのモル比率として、0.5~3.0:1であることが好ましく、0.9~2.7:1であることがより好ましく、1.0~2.5:1であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明の合成方法においては、溶媒の存在下又は不存在下で反応を行うことができる。溶媒を用いる場合、溶媒としては、THF、エーテル、ジメチルスルフィド等を用いることができる。
【実施例
【0022】
[試料の準備]
(アンミン錯体)
アンミン錯体として、Mg(NHCl、Ca(NH8Cl、Ni(NHCl、Cu(NHCl、Cu(NHSO、及びZn(NHClを用いた。
【0023】
(ボラン錯体)
ボラン錯体として、市販のBH-THFを用いた。
【0024】
[実施例1]
各種アンミン錯体とBH-THFを混合して、アンモニアボランを合成した。具体的な操作は、以下のとおりである。
【0025】
アンミン錯体とBH-THF(NH:BH=1:1)を、バイアル内において、室温で2~6時間混合攪拌した。得られた反応溶液をろ過し、ろ液と残渣に分離した。
【0026】
得られたろ液について、核磁気共鳴装置を用いて11B-NMR測定を行った。その結果を図1に示す。
【0027】
図1に示すように、各合成例において、-20~23ppmカルテットが出現していた。すなわち、すべての合成例においてアンモニアボラン(AB)が生成していることが明らかとなった。
【0028】
[実施例2]
続いて、実施例1と同様にして、Ni(NHCl、及びCa(NH8Clについて、NH:BHの比率を変更してアンモニアボランの合成を行った。NH:BHの比率は、2:1、1:1、1:2とした。
【0029】
得られた反応溶液をろ過し、得られたろ液について、核磁気共鳴装置を用いて11B-NMR測定を行った。その結果を図2に示す。
【0030】
図2に示すように、NH:BH=2:1及び1:1の場合、アンモニアボランと同値の-20~23ppmにピーク間隔(カップリング定数)約95Hzをもつカルテットが顕著に現れ、効率的にアンモニアボランを生成できた。したがって、金属アンミン錯体をボラン錯体と同等又はそれ以上で配合することが好ましいと考えられる。
【0031】
[実施例3]
続いて、アンモニアボランの合成反応のメカニズムを解明すべく、Ni(NHCl及びBH-THFを用いて、NH:BHの比率を、NH>BHとして、実施例1と同様に、アンモニアボランの合成を行った。得られた反応溶液をろ過し、ろ液と残渣に分離した。残渣について、洗浄し乾燥を行い、XRD測定を行った。その結果を図3に示す。
【0032】
図3に示すように、Niは生成されておらず、Ni(NHClが生成されていた。すなわち、この結果より、BHがNHを引き抜く逐次反応が進行しているものと考えられ、配位子の交換反応によりアンモニアボランが生じていると推察される。
【0033】
[実施例4]
アンミン錯体としてNi(NHCl又はCa(NHClを用い、ボラン錯体としてジメチルスルフィドボラン(MeSBH)を用いて、アンモニアボランを合成した。
液体アンモニア中で、Ni(NHClとMeSBH(NH:BH=1:1)を室温で1時間混合攪拌した。得られた反応溶液をろ過し、ろ液と残渣に分離した。Ca(NHClについても同様の操作を行った。
【0034】
得られたろ液について、核磁気共鳴装置を用いて11B-NMR測定を行った。その結果を図4に示す。
【0035】
図4に示すように、ボラン錯体としてMeSBHを用いることにより、液体アンモニア中でアンモニアボラン(AB)を得られた。MeSBHは、配位力(結合力)がNHより小さく、より好ましいボラン錯体であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のアンモニアボランの合成方法は、簡易な操作で効率的に水素貯蔵材料であるアンモニアボランを合成することができることから、産業上有用である。

図1
図2
図3
図4