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  • 特許-燃料電池用の電極触媒材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】燃料電池用の電極触媒材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20230831BHJP
   B01J 23/72 20060101ALI20230831BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20230831BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20230831BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230831BHJP
【FI】
H01M4/86 M
B01J23/72 M
H01M4/90 X
H01M4/96 M
H01M8/10 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019201189
(22)【出願日】2019-11-06
(65)【公開番号】P2021077470
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】都築 秀和
(72)【発明者】
【氏名】山崎 悟志
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-066612(JP,A)
【文献】特開2013-058429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86-4/98
B01J 23/72
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物と、導電性構造体と、を有する燃料電池用の電極触媒材料であって、
前記金属酸化物が、特定の結晶面が表出している主表面および端面をもつ薄片状であるナノ結晶片が相互に連結された連結集合体であり、
複数の前記ナノ結晶片が、前記主表面間に、前記連結集合体の外側に開口して配置された間隙を有し、
前記連結集合体が、花びらに相当する前記ナノ結晶片が連結して集合した花のような形状を有し、
前記導電性構造体が、前記ナノ結晶片の主表面に沿って、複数の導電性線状物質が相互に接触して面方向に分布した面状部位を有し、該面状部位の面方向の導電性が該面方向に対して直交方向の導電性よりも大きく、
前記ナノ結晶片と前記面状部位とが、接触している電極触媒材料。
【請求項2】
前記ナノ結晶片の平均厚さが、10nm未満である請求項1に記載の電極触媒材料。
【請求項3】
前記金属酸化物が、酸化銅である請求項1または2に記載の電極触媒材料。
【請求項4】
前記特定の結晶面が、(001)結晶面である請求項3に記載の電極触媒材料。
【請求項5】
前記面状部位の前記面方向に対して直交方向の平均寸法が、10nm未満である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電極触媒材料。
【請求項6】
前記導電性構造体が、複数の前記導電性線状物質のうち、少なくとも1つの前記導電性線状物質が前記ナノ結晶片と電気的に接触した金属酸化物接触部と、少なくとも1つの前記導電性線状物質が電極基材と電気的に接触した電極基材接触部と、を有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電極触媒材料。
【請求項7】
前記導電性構造体が、さらに、ガス透過性を有するガス拡散部を有する請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電極触媒材料。
【請求項8】
前記導電性線状物質が、カーボンナノチューブである請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電極触媒材料。
【請求項9】
電極上に形成した前記電極触媒材料の電気伝導度が、該電極上に前記導電性構造体により形成した層の電気伝導度に対して5.0%以上である請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電極触媒材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒材料に関し、特に、燃料電池の空気極触媒材料として高い触媒活性を有する電極触媒材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー化の観点から、発電装置や電池性能の改善要求がさらに高まっている。また、発電装置や電池に搭載する電極について、環境負荷や生産コストの低減の観点から、従来の性能を維持、向上しつつ、新たな材料を開発することが要求されている。また、排ガスや温室効果ガスの削減の観点から、燃料電池等の発電装置を用いて自動車等の輸送機器を駆動させることも提案されている。
【0003】
燃料電池に用いられる空気極触媒材料として、従来、炭素粒子表面に白金(Pt)の微粒子を担持させた触媒材料が使用されている。白金は酸素還元反応(以下、「ORR」ということがある。)の触媒として優れ、炭素粒子は導電性に優れていることから、炭素粒子表面に白金微粒子を担持させた触媒材料が、燃料電池の空気極触媒材料として、一般的に使用されている。しかし、白金は、埋蔵量の少ない希少金属であり、高価でもあることから、炭素粒子表面に白金微粒子を担持させた触媒材料に代わる、新たな触媒材料が必要である。
【0004】
燃料電池の電極にも使用可能な新たな電極として、電極基材の表面に、多孔質酸化物及びカーボンナノチューブを含む表面層を有するカーボンナノチューブ複合電極であって、前記カーボンナノチューブが、前記多孔質酸化物から生成してなり、かつ、該カーボンナノチューブのうち、少なくとも一部のカーボンナノチューブが、電極基材と電気的に接続してなるカーボンナノチューブ複合電極が提案されている(特許文献1)。
【0005】
特許文献1では、多孔質酸化物から生成したカーボンナノチューブが電極基材に強固に固定されることで、電極基材と電子授受をおこなうカーボンナノチューブが電極基材から脱落することを防止できる電極である。また、特許文献1では、電極基材に固定されたカーボンナノチューブの壁面に、白金微粒子等、電極に搭載する触媒として汎用されている金属微粒子を担持させることが提案されている。
【0006】
このように、特許文献1では、カーボンナノチューブに担持される金属触媒微粒子として、従来と同じく、白金微粒子等の金属微粒子が使用されており、白金微粒子を担持させた触媒材料に代わる、新たな触媒材料は提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2012/157506号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、炭素粒子表面に白金微粒子を担持させた電極触媒材料と同等程度の酸素還元反応活性と触媒活性を有しつつ、触媒成分として白金を用いない燃料電池用の電極触媒材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題に対して鋭意検討を行った結果、触媒活性を有する金属酸化物
が、特定の結晶面が表出している主表面および端面をもつ薄片状であるナノ結晶片が相互に連結され、複数の前記ナノ結晶片が、前記主表面間に、前記連結集合体の外側に開口して配置された間隙を有する連結集合体であり、導電材料が、ナノ結晶片の主表面に沿って、複数の導電性線状物質が相互に接触して面方向に分布した面状部位を有し、該面状部位の面方向の導電性が該面方向に対して直交方向の導電性よりも大きい導電性構造体であり、前記ナノ結晶片の主表面と前記面状部位とが、電気的に接触していることで、触媒成分として白金を用いなくても、同等程度の酸素還元反応活性と触媒活性を得ることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]金属酸化物と、導電性構造体と、を有する燃料電池用の電極触媒材料であって、前記金属酸化物が、特定の結晶面が表出している主表面および端面をもつ薄片状であるナノ結晶片が相互に連結された連結集合体であり、
複数の前記ナノ結晶片が、前記主表面間に、前記連結集合体の外側に開口して配置された間隙を有し、
前記導電性構造体が、前記ナノ結晶片の主表面に沿って、複数の導電性線状物質が相互に接触して面方向に分布した面状部位を有し、該面状部位の面方向の導電性が該面方向に対して直交方向の導電性よりも大きく、
前記ナノ結晶片と前記面状部位とが、接触している電極触媒材料。
[2]前記ナノ結晶片の平均厚さが、10nm未満である[1]に記載の電極触媒材料。
[3]前記金属酸化物が、酸化銅である[1]または[2]に記載の電極触媒材料。
[4]前記特定の結晶面が、(001)結晶面である[3]に記載の電極触媒材料。
[5]前記面状部位の前記面方向に対して直交方向の平均寸法が、10nm未満である[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の電極触媒材料。
[6]前記導電性構造体が、複数の前記導電性線状物質のうち、少なくとも1つの前記導電性線状物質が前記ナノ結晶片と電気的に接触した金属酸化物接触部と、少なくとも1つの前記導電性線状物質が電極基材と電気的に接触した電極基材接触部と、を有する[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の電極触媒材料。
[7]前記導電性構造体が、さらに、ガス透過性を有するガス拡散部を有する[1]乃至[6]のいずれか1つに記載の電極触媒材料。
[8]前記導電性線状物質が、カーボンナノチューブである[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の電極触媒材料。
[9]電極上に形成した前記電極触媒材料の電気伝導度が、該電極上に前記導電性構造体により形成した層の電気伝導度に対して5.0%以上である[1]乃至[8]のいずれか1つに記載の電極触媒材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、触媒活性を有する金属酸化物の、特定の結晶面が表出している主表面をもつ薄片状のナノ結晶片の少なくとも一部が、導電性構造体の、ナノ結晶片(例えば、ナノ結晶片の主表面)に沿って形成された面方向の導電性に優れる面状部位と、接触していることにより、炭素粒子表面に白金微粒子を担持させた電極触媒材料と同等程度の酸素還元反応活性と触媒活性を有する燃料電池用の電極触媒材料とすることができる。
【0012】
本発明の態様によれば、金属酸化物が酸化銅であり、特定の結晶面が、(001)結晶面であることにより、炭素粒子表面に白金微粒子を担持させた電極触媒材料と同等程度の酸素還元反応活性と触媒活性を、確実に得ることができる。
【0013】
本発明の態様によれば、導電性構造体が金属酸化物接触部と電極基材接触部とを有することにより、金属酸化物と電極基材間の電子授受が円滑化される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の電極触媒材料の実施態様を説明する概略図である。
図2】触媒活性の測定における電位と電流密度の関係を示すグラフである。
図3】実施例3における電極触媒材料のSEM画像である。
【0015】
以下、図面を用いながら、本発明の実施形態である電極触媒材料について説明する。図1は、本発明の電極触媒材料の実施態様を説明する概略図である。
【0016】
<電極触媒材料>
図1に示すように、本発明の実施形態の電極触媒材料1は、触媒活性を有する金属酸化物と、金属酸化物に担持された導電性構造体31と、を有する。金属酸化物は、特定の結晶面が表出している主表面22および端面23をもつ薄片状である複数のナノ結晶片21が相互に連結された連結集合体20である。連結集合体20は、特定の結晶面が表出している主表面22をもつ薄片状のナノ結晶片21から構成されていることで、優れた触媒活性を発揮する。また、連結集合体20は、複数のナノ結晶片21が主表面22間に、連結集合体20の外側に開口して配置された間隙Gを有している。
【0017】
薄片状であるナノ結晶片21が集合した連結集合体20には、導電性構造体31が担持されている。導電性構造体31は、ナノ結晶片21の主表面22に沿って、複数の導電性線状物質30が相互に接触して面方向に分布することで面状部位32が形成されている。面状部位32の面方向の導電性は、面方向に対して直交方向の導電性よりも大きい特性を有している。また、ナノ結晶片21の主表面22と面状部位32とは、電気的に接触している。導電性構造体31の面状部位32は、面方向の導電性が面方向に対して直交方向の導電性よりも大きい特性を有していることから、連結集合体20と導電性構造体31間の電子授受が円滑化される。
【0018】
<金属酸化物>
図1に示すように、金属酸化物は、主表面22と端面23をもつ複数のナノ結晶片21が相互に連結された連結集合体20であり、花のような形状を示す。複数のナノ結晶片21の連結状態は、特に限定されず、複数のナノ結晶片21が連結して集合体を形成していればよい。
【0019】
また、ナノ結晶片21の形状は、主表面22の大きさに対し、端面23の厚さが薄い、薄片状である。連結集合体20の外面において、隣接する複数のナノ結晶片21の主表面22の間には間隙Gが形成されており、この間隙Gは、連結集合体20の外側に開口して配置されている。
【0020】
ここで、ナノ結晶片21の主表面22とは、薄片状のナノ結晶片21を構成する外面のうち、表面積が広い面のことであって、表面積が狭い端面23の上下端縁を区画形成する両表面を意味する。触媒反応に使用される電極触媒材料1では、主表面22に特定の結晶面が表出している。特定の結晶面が表出している主表面22が、高い触媒活性を示す触媒活性面となる。そのため、主表面22の表面積が大きいほど、触媒反応をより効率的に行うことができる。
【0021】
ナノ結晶片21の主表面22の最小寸法は、特に限定はされないが、10nm以上1.0μm未満であることが好ましく、ナノ結晶片21の平均厚さtは、特に限定はされないが、主表面22の最小寸法の1/10以下であることが好ましい。これにより、ナノ結晶片21の主表面22の面積が端面23の面積に比べて約10倍以上広くなり、連結集合体20の単位量当たりの触媒活性が、ナノ粒子の単位量当たりの触媒活性と比べて向上する
。例えば、ナノ結晶片の平均厚さは10nm未満であることが好ましい。主表面22の最小寸法が1.0μm以上であると、ナノ結晶片21を高密度で連結させることが困難となる傾向があり、最小寸法が10nm未満であると、隣接する複数のナノ結晶片21の主表面22の間で十分な間隙Gを形成することができなくなる傾向がある。また、ナノ結晶片21の厚さ方向の剛性の低下を抑制するため、ナノ結晶片21の平均厚さtは1.0nm以上であることが好ましい。なお、ナノ結晶片21の主表面22の寸法は、ナノ結晶片21の形状を損なわないように連結集合体20から分離したナノ結晶片21を、個別のナノ結晶片として測定することにより求めることができる。測定法の具体例としては、ナノ結晶片21の主表面22に対し、外接する最小面積の長方形を描き、長方形の短辺および長辺を、ナノ結晶片21の最小寸法および最大寸法として、それぞれ測定する。
【0022】
連結集合体20を構成するナノ結晶片21は、金属酸化物で構成されている。金属酸化物としては、例えば、貴金属の酸化物、遷移金属の酸化物、それらの合金の酸化物、複合酸化物等が挙げられる。貴金属及びその合金としては、例えば、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、銀(Ag)及び金(Au)の群から選択される1種の成分からなる金属、又はこれらの群から選択される1種以上の成分を含む合金が挙げられる。また、遷移金属及びその合金としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及び亜鉛(Zn)の群から選択される1種の成分からなる金属またはこれらの群から選択される1種以上の成分を含む合金が挙げられる。
【0023】
これらの金属酸化物のうち、遷移金属の群から選択される1種または2種以上の金属を含む金属酸化物が好ましい。遷移金属の金属酸化物は、金属資源として地球上に豊富に存在しており、貴金属に比べて安価であることから、生産コストを低減することができる。遷移金属のうち、Cu、Ni、CoおよびZnの群から選択される1種または2種以上の金属を含む金属酸化物であることがより好ましく、このような金属酸化物は少なくとも銅を含むことがさらに好ましい。また、銅を含む金属酸化物としては、例えば、酸化銅、Ni-Cu酸化物、Cu-Pd酸化物等が挙げられ、酸化銅(CuO)が特に好ましい。
【0024】
<主表面の結晶方位>
本発明の電極触媒材料1が燃料電池用の電極に搭載される場合、ナノ結晶片21の主表面22が触媒活性面となるために、ナノ結晶片21の主表面22が特定の結晶方位を有するように構成される。
【0025】
ナノ結晶片21の主表面22が還元性の触媒活性面となるように構成するには、ナノ結晶片21を構成する金属酸化物において、触媒活性を発揮する金属原子の面を、主表面22に位置するように配向させて、主表面22を金属原子面で構成すればよく、具体的には、主表面22に存在する金属酸化物を構成する、金属原子及び酸素原子に占める金属原子の個数割合を80%以上とすることが好ましい。
【0026】
一方、ナノ結晶片21の主表面22が酸化性の触媒活性面となるように構成するには、ナノ結晶片21を構成する金属酸化物において、触媒活性を発揮する酸素原子の面を、主表面22に位置するように配向させて、主表面22を酸素原子面で構成すればよく、具体的には、主表面22に存在する金属酸化物を構成する、金属原子及び酸素原子に占める酸素原子の個数割合を80%以上とすることが好ましい。
【0027】
触媒活性面の役割に応じて、ナノ結晶片21の主表面22に存在する金属酸化物を構成する、金属原子及び酸素原子に占める金属原子もしくは酸素原子の個数割合を調整することにより、主表面22の触媒活性機能を高めることができ、ナノ結晶片21、ひいては、電極触媒材料1として、十分な触媒活性を発揮できる。
【0028】
また、ナノ結晶片21の主表面22が特定の結晶方位を有するとしたのは、ナノ結晶片21を構成する金属酸化物の種類に応じて、主表面22に多く存在する結晶方位が異なるためである。そのため、主表面22の結晶方位は具体的には記載はしないが、例えば、金属酸化物が酸化銅(CuO)の場合には、主表面22を構成する単結晶の主な結晶方位、すなわち、触媒活性面は、(001)結晶面であることが好ましい。
【0029】
また、主表面22を金属原子面とする構成としては、金属酸化物の結晶構造を、金属原子面と酸素原子面が規則的に交互に積層され、原子の並び方に規則性を有する規則構造として、主表面22に金属原子面が位置するように構成することが好ましい。具体的には、主表面22が、同じ配向をもつ単結晶の集合体で構成された構造の場合だけではなく、異なる結晶構造や異なる配向をもつ単結晶の集合体や、結晶粒界や多結晶を含んだ集合体で構成された構造であっても、主表面22に金属原子面が存在する場合が含まれる。
【0030】
導電性構造体31を構成する導電性線状物質30としては、例えば、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ということがある。)を挙げることができる。CNTは、単層構造又は複層構造を有する筒状体であり、それぞれ、SWNT(single-walled nanotube)、MWNT(multi-walled nanotube)と呼ばれる。CNTの外径は、数nm以下、長手
方向の長さは、例えば、500nm~20μmである。2層構造を有するCNTでは、六角形格子の網目構造を有する2つの筒状体が略同軸で配された3次元網目構造体となっており、DWNT(double-walled nanotube)と呼ばれる。構成単位である六角形格子は、その頂点に炭素原子が配された六員環であり、他の六員環と隣接してこれらが連続的に結合している。CNTの性質は、上記筒状体のカイラリティ(chirality)と関連する。カ
イラリティは、アームチェア型、ジグザグ型、及びカイラル型に大別され、アームチェア型は金属性、ジグザグ型は半導体性および半金属性、カイラル型は半導体性および半金属性の挙動を示す。従って、CNTの導電性は、筒状体がいずれのカイラリティを有するかによって相違する。電極触媒材料1では、導電性線状物質30の導電性をさらに向上させる点から、金属性の挙動を示すアームチェア型のCNTの割合を増大させることが好ましい。
【0031】
一方で、半導体性の挙動を示すカイラル型のCNTに電子供与性もしくは電子受容性を持つ物質(異種元素)をドープすることにより、カイラル型のCNTが金属性の挙動を示す。また、一般的な金属では、異種元素をドープすることによって金属内部での伝導電子の散乱が起こって導電性が低下するが、これと同様に、金属性の挙動を示すCNTに異種元素をドープした場合には、導電性の低下を引き起こす。このように、金属性の挙動を示すCNT及び半導体性の挙動を示すCNTへのドーピング効果は、導電性の観点からはトレードオフの関係にあることから、理論的には金属性の挙動を示すCNTと半導体性の挙動を示すCNTとを別個に作製し、半導体性の挙動を示すCNTにのみドーピング処理を施した後、これらを組み合わせることが望ましい。金属性の挙動を示すCNTと半導体性の挙動を示すCNTが混在した状態で作製される場合には、異種元素又は分子によるドーピング処理が効果的となるCNTの層構造を選択することが好ましい。これにより、金属性の挙動を示すCNTと半導体性の挙動を示すCNTの混合物からなる導電性構造体31の導電性をさらに向上させることができる。
【0032】
例えば、2層構造又は3層構造のような層数が少ないCNTは、それより層数の多いCNTよりも比較的導電性が高く、ドーピング処理を施した際には、2層構造又は3層構造を有するCNTでのドーピング効果が最も高い。従って、導電性構造体31の導電性をさらに向上させる点から、2層構造又は3層構造を有するCNTの割合を増大させることが好ましい。具体的には、CNT全体に対する2層構造又は3層構造をもつCNTの割合は50個数%以上が好ましく、75個数%以上が特に好ましい。
【0033】
CNTは、上記構造から、径方向の導電性と比較して長手方向の導電性に優れている特性を有している、すなわち、CNTは、導電性に異方性を有している。このことから、導電性構造体31の面状部位32の面方向の導電性は、面方向に対して直交方向(厚さ方向)の導電性よりも大きい特性を有している。
【0034】
<導電性構造体>
図1に示すように、本発明の実施形態の電極触媒材料1では、連結集合体20に担持された導電性構造体31を有している。導電性構造体31は、上記した複数の導電性線状物質30を含み、複数の導電性線状物質30が分散して連結集合体20に担持されていることで、導電性構造体31が連結集合体20に担持されている。導電性線状物質30は、間隙G内に担持されている。また、複数の導電性線状物質30が、ナノ結晶片21の主表面22に沿って、相互に接触しながらナノ結晶片21の主表面22に担持されている。また、導電性線状物質30の長手方向が、ナノ結晶片21の主表面22に沿った状態で担持されている。従って、導電性構造体31は、複数の導電性線状物質30がナノ結晶片21の主表面22の面方向に沿って面状に分布した部位である面状部位32を有する。面状部位32における複数の導電性線状物質30の長手方向は、それぞれ、ランダムに配置されている。導電性構造体31は、面状部位32以外の部分では、複数の導電性線状物質30が面状に分布していなくてもよく、複数の導電性線状物質30の長手方向は、それぞれ、ランダムに配置されている。なお、図1では、説明の便宜上、連結集合体20の一部領域に導電性構造体31(複数の導電性線状物質30)が担持されているが、連結集合体20の全領域にわたって導電性構造体31(複数の導電性線状物質30)が担持されていてもよい。
【0035】
導電性構造体31の面状部位32の面方向に対して直交方向(すなわち、面状部位32の厚さ方向)の平均寸法は、金属酸化物である連結集合体20の触媒活性が阻害されるのを防止する点から、10nm未満が好ましい。面状部位32の厚さ方向の平均寸法が10nm未満であることにより、触媒活性面であるナノ結晶片21の主表面22が導電性構造体31の面状部位32で完全に被覆されることが防止され、結果、主表面22が優れた触媒機能を発揮できる。また、導電性構造体31の面状部位32の面方向の寸法は、面状部位32はナノ結晶片21の主表面22の面方向に沿って面状に分布した部位であることから、例えば、ナノ結晶片21の主表面22の寸法と略同等である。
【0036】
導電性構造体31の面状部位32は、複数のCNT(導電性線状物質30)がナノ結晶片21の主表面22の面方向に沿って面状に分布した部位なので、導電性構造体31を構成するCNTは、該CNTで形成された面状部位32にてナノ結晶片21の主表面22と電気的に面接触している。従って、CNTの面状部位32からナノ結晶片21の主表面22へ電子授受が円滑化される。燃料電池の空気極における酸素還元反応であるO+4H+4e→2HOの触媒である、電極触媒材料1の金属酸化物が、CNTの面状部位32から円滑に電子授受されるので、酸素還元反応の効率が向上する。
【0037】
導電性線状物質30が連結集合体20に確実に担持され、またナノ結晶片21の主表面22が触媒活性を効率的に発揮するためには、連結集合体20に対する導電性線状物質30の担持量を適切に制御する。例えば、電極触媒材料1の導電性と触媒活性のバランスの点から、100質量部の連結集合体20に対して導電性線状物質30が0.1質量部以上20質量部以下担持されるのが好ましく、0.2質量部以上10質量部以下担持されるのが特に好ましい。
【0038】
<電極触媒材料の用途>
本発明の実施形態である電極触媒材料1は、燃料電池用の空気極触媒材料として使用することができる。
【0039】
本発明の実施形態である電極触媒材料1が燃料電池用の電極触媒材料として用いられるにあたり、導電性構造体31は、複数の導電性線状物質30のうち、少なくとも1つの導電性線状物質30がナノ結晶片21と電気的に接触した金属酸化物接触部と、少なくとも1つの導電性線状物質30が電極基材と電気的に接触した電極基材接触部と、を有する態様としてもよい。導電性構造体31の面状部位32は、金属酸化物接触部に対応する。導電性構造体31が金属酸化物接触部と電極基材接触部とを有することにより、連結集合体20のナノ結晶片21と電極基材間の電子授受をさらに円滑化することができる。
【0040】
燃料電池用の電極には、電極に供給されるガスを均一に分散させるために、ガス拡散層が搭載される。一方で、導電性構造体31は、複数の導電性線状物質30を含むことから、優れたガス透過性を有している。従って、導電性構造体31は、ガス透過性を有するガス拡散部をさらに備えることができる。上記から、本発明の実施形態である電極触媒材料1が燃料電池用の電極触媒材料として用いられるにあたり、導電性構造体31が、さらに、ガス透過性を有するガス拡散部を有していることにより、導電性構造体31のガス拡散部をガス拡散層の代替とすることができ、結果、別途、ガス拡散層を設ける必要がないので、部品点数を減らすことができる。
【0041】
<電極触媒材料の製造方法>
次に、本発明の電極触媒材料の製造方法例について説明する。電極触媒材料の製造方法例としては、薄片状であるナノ結晶片が相互に連結された連結集合体である金属酸化物を調製する金属酸化物調製工程Saと、調製された金属酸化物に導電性線状物質を担持させる導電性線状物質担持工程Sbと、を有する。
【0042】
金属酸化物調製工程Saは、混合工程Sa1と、温度と圧力を印加する水熱合成工程Sa2と、を有する。
【0043】
(混合工程Sa1)
混合工程は、金属酸化物の原料となる、貴金属、遷移金属またはそれらの合金を含む化合物の水和物、特に金属ハロゲン化物の水和物と、金属酸化物の前駆体である金属錯体の配位子を構成する炭酸ジアミド骨格を有する有機化合物とを、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ポリエチレングリコール等の有機溶媒、水、又はその両方を含む溶媒に溶かす工程である。金属ハロゲン化物の水和物として、例えば、塩化銅(II)二水和物、炭酸ジアミド骨格を有する有機化合物として、例えば、尿素が挙げられる。
【0044】
(水熱合成工程Sa2)
水熱合成工程は、得られた混合溶液に所定の熱、圧力を加えて、所定時間、放置する工程である。混合溶液は、100℃以上300℃以下で加熱することが好ましい。加熱温度が100℃未満では、尿素と金属ハロゲン化物との反応を完了させることができず、300℃超では、発生する高蒸気圧に反応容器が耐えられない。加熱時間は、10時間以上であることが好ましい。加熱時間が10時間未満では、未反応の材料が残留する場合がある。所定の熱、圧力を加えるため、例えば、耐圧容器、密閉容器を用いて加熱、加圧する方法が挙げられる。混合溶液を加熱、加圧した後、室温に冷却して一定時間保持した後、生成した沈殿物を回収する。回収した沈殿物を、メタノール、純水等で洗浄し、所定時間乾燥させる。これにより、所望とする金属酸化物が得られる。
【0045】
金属酸化物調製工程Saの後に、導電性線状物質担持工程Sbを実施する。導電性線状物質担持工程Sbは、導電性線状物質の分散液を作製する導電性線状物質分散工程Sb1と、調製した金属酸化物の分散液を作製する金属酸化物分散工程Sb2と、導電性線状物質の分散液と金属酸化物の分散液を混合する分散液混合工程Sb3と、を有する。
【0046】
(導電性線状物質分散工程Sb1)
導電性線状物質分散工程は、分散媒(例えば、水)に有機溶媒と分散剤を添加、混合した混合液に、導電性線状物質を添加後、超音波分散機等で分散処理をして導電性線状物質の分散液を作製する工程である。有機溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールが挙げられる。分散剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ドデシル硫酸ナトリウム、 水溶性キシラン等が挙げられる。導電性線状物質
の分散液に含まれる導電性線状物質の含有量は、導電性線状物質の分散性と製造効率のバランスの点から、0.05質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上2.0質量%以下が特に好ましい。なお、必要に応じて、さらに、導電性線状物質の分散液に燃料電池に使用する電解質を添加、分散させてもよい。電解質としては、例えば、Nafion(登録商標)等の高分子電解質が挙げられる。
【0047】
(金属酸化物分散工程Sb2)
金属酸化物分散工程は、分散媒(例えば、水)に有機溶媒を添加、混合した混合液に、金属酸化物調製工程で調製した金属酸化物を添加後、超音波分散機等で分散処理をして金属酸化物の分散液を作製する工程である。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のモノアルコールが挙げられる。金属酸化物の分散液に含まれる金属酸化物の含有量は、金属酸化物の分散性と製造効率のバランスの点から、0.05質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上2.0質量%以下が特に好ましい。なお、必要に応じて、さらに、金属酸化物の分散液に燃料電池に使用する電解質を添加、分散させてもよい。電解質としては、例えば、Nafion(登録商標)等の高分子電解質が挙げられる。
【0048】
(分散液混合工程Sb3)
分散液混合工程は、導電性線状物質の分散液と金属酸化物の分散液とを超音波分散機等で分散処理をして混合する工程である。分散液混合工程では、電極触媒材料の導電性と触媒活性のバランスの点から、電極触媒材料の構成において金属酸化物の触媒活性面を導電性線状物質が被覆する面積が50%以下であるのが好ましいため、金属酸化物と導電性線状物質の含有量を調整する。金属酸化物として酸化銅のナノ結晶片、導電性線状物質としてCNTが用いられる場合、金属酸化物と導電性線状物質を等質量で含有することにより、好ましい被覆面積が得られる。このような工程を経て、電極触媒材料1が作製される。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例
【0050】
次に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
金属酸化物の作製
金属酸化物として、酸化銅の(001)結晶面が表出している主表面をもつ薄片状であるナノ結晶片が相互に連結された連結集合体を作製した。具体的には、2.0gの塩化銅(II)二水和物(純正化学株式会社製)と、1.6gの尿素(純正化学株式会社製)とを混合した後、180mlのエチレングリコール(純正化学株式会社製)と120mlの水を添加してさらに混合した。得られた塩化銅と尿素の混合溶液を、内容積500mlの耐圧硝子容器に注入し、該容器内の密閉雰囲気下で180℃、24時間の熱処理を行った。その後、混合溶液を、室温に冷却して1日保持した後、さらに密閉容器から生成した薄
膜形状の沈殿物を回収し、この沈殿物を、メタノールおよび純水で洗浄して、真空下、70℃で10時間真空乾燥させ、酸化銅のナノ結晶片が相互に連結された連結集合体を得た。
【0052】
導電性線状物質の分散液の作製
導電性線状物質としてCNTを用いた。CNT分散液は、CNTの含有量が1.0質量%となるように、精製水(60質量%)、エタノール(20質量%)、イソプロピルアルコール(20質量%)を混合した分散媒で作製した。CNT分散液に用いる分散剤として、カルボキシメチルセルロース(CMC)をCNTに対して等質量を添加した。CNT分散液は、上記分散媒にCNTとカルボキシメチルセルロースを加えた後、超音波分散機で20~40℃にて1時間の分散処理を行うことで作製した。CNT分散液は、CNT分散液中でのCNTの動的光散乱粒子径が150~300nmであることで、安定して分散していることを確認した。
【0053】
金属酸化物の分散液の作製
上記のようにして得られた酸化銅の連結集合体4mgを精製水1700μLとイソプロピルアルコール800μLの混合液に添加し、さらに高分子電解質としてナフィオン5質量%溶液を15μL添加して、超音波分散機で20~40℃にて1時間の分散処理を行って酸化銅の連結集合体の分散液を作製した。
【0054】
分散液の混合
上記のようにして得られた酸化銅の連結集合体の分散液に、上記のようにして得られたCNT分散液20mgを添加して、超音波分散機で20~40℃にて10分の分散処理を行い、実施例1の酸化銅の連結集合体に複数のCNTで形成された導電性構造体が担持された電極触媒材料を製造した。
【0055】
(実施例2)
CNT分散液として、実施例1で作製したCNT分散液に代えて、ゼオンナノテクノロジー株式会社製のZERONANO SG101分散液(分散媒:水、CNT濃度0.5質量%)を用いた。実施例1と同様にして作製した酸化銅の連結集合体4mgを精製水1600μLとイソプロピルアルコール800μLの混合液に添加し、さらに高分子電解質としてナフィオン5質量%溶液を15μL添加して、超音波分散機で20~40℃にて1時間の分散処理を行って、酸化銅の連結集合体の分散液を作製した。上記のようにして得られた酸化銅の連結集合体の分散液に、上記CNT分散液16mgを添加して、超音波分散機で20~40℃にて10分の分散処理を行い、実施例2の酸化銅の連結集合体に複数のCNTで形成された導電性構造体が担持された電極触媒材料を製造した。
【0056】
(実施例3)
CNT分散液として、実施例1で作製したCNT分散液に代えて、株式会社名城ナノカーボン製の多層CNT分散液MW-I(分散媒:水,CNT濃度2質量%)を用いた。実施例1と同様にして作製した酸化銅の連結集合体4mgを精製水1600μLとイソプロピルアルコール800μLの混合液に添加し、さらに高分子電解質としてナフィオン5質量%溶液を15μL添加して、超音波分散機で20~40℃にて1時間の分散処理を行って、酸化銅の連結集合体の分散液を作製した。上記のようにして得られた酸化銅の連結集合体の分散液に、上記CNT分散液2mgを添加して、超音波分散機で20~40℃にて10分の分散処理を行い、実施例3の酸化銅の連結集合体に複数のCNTで形成された導電性構造体が担持された電極触媒材料を製造した。
【0057】
(比較例1)
実施例1と同様にして作製した酸化銅の連結集合体4mgを精製水1700μLとイソ
プロピルアルコール800μLの混合液に添加し、さらに高分子電解質としてナフィオン5質量%溶液を15μL添加して、超音波分散機で20~40℃にて1時間の分散処理を行って、酸化銅の連結集合体の分散液を作製した。上記のようにして得られた酸化銅の連結集合体の分散液に、カーボンブラック(キャボット社製、Vulcan Carbon)4mgを添加して、超音波分散機で20~40℃にて10分の分散処理を行い、比較例1の電極触媒材料を製造した。
【0058】
(比較例2)
実施例1の酸化銅の連結集合体に代えて、市販の酸化銅ナノ粒子(シグマ アルドリッ
チ ジャパン合同会社製 544868 Copper(II) oxide)を用いた
こと以外は、実施例1と同様にして比較例2の電極触媒材料を製造した。
【0059】
(比較例3)
市販の酸化銅ナノ粒子(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製 544868 Copper(II) oxide)4mgを精製水1700μLとイソプロピルアルコール800μLの混合液に添加し、さらに高分子電解質としてナフィオン5質量%溶液を15μL添加して、超音波分散機で20~40℃にて1時間の分散処理を行って、酸化銅ナノ粒子の分散液を作製した。上記のようにして得られた酸化銅ナノ粒子の分散液に、カーボンブラック(キャボット社製、Vulcan Carbon)4mgを添加して、超音波分散機で20~40℃にて10分の分散処理を行い、比較例3の電極触媒材料を製造した。
【0060】
(実施例4)
実施例1と同様にしてCNT分散液を作製し、実施例1と同様にして作製した酸化銅の連結集合体4mgを前記CNT分散液0.8mgに添加し、これを精製水1700μLとイソプロピルアルコール800μLの混合液に添加し、さらに高分子電解質としてナフィオン5質量%溶液を15μL添加して、超音波分散機で20~40℃にて1時間の分散処理を行い、実施例4の電極触媒材料を製造した。
【0061】
(電極作製とORR活性評価)
上記のようにして得られた電極触媒材料15μLをマイクロピペットで採取し、回転電極の5mmΦのグラッシーカーボンの上に滴下し、60℃の恒温槽内で30分加熱して乾燥させた。この滴下作業を3回繰り返した後、回転電極の表面を実体顕微鏡で観察し、グラッシーカーボン上に均質に電極触媒材料の触媒層が形成されているのを確認した後、ORR活性評価を行った。具体的には、対流ボルタンメトリー法により、ORR活性評価を行った。PINE INSTRUMENT社製の回転リングディスク電極装置、ポテンショスタット(HSV-110)、電解液に0.1MのKOH水溶液を用い、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定で安定性を確認した後、リニアスイープボルタンメトリ―(L
SV)で電極触媒材料の触媒活性を評価した。作用電極(WE)として5mmφのグラッシ
ーカーボン電極、対電極(CE)としてコイル状白金電極、参照電極(RE)として銀・塩化銀比較電極を用いた。
測定条件は以下の通りである。
(1)Arバブリング(30分)
(2)Oバブリング(30分)
(3)CV測定(O中) +0.2V~-1.0V、掃引速度:10mV/s、3サイクル
(4)LSV測定(O中) 0.0V~-0.8V、掃引速度:1mV/s、3サイクル
、回転数2000rpm
【0062】
以上のようにして得られたデータから、電位と電流密度の関係を図2に示すように図示
し、触媒活性を評価した。触媒活性は、以下の2種類の基準にて評価し、2種類の基準とも下記評価が[B]以上、且つ少なくとも一方の基準の下記評価が[A]で、触媒活性が良好と評価した。
(1)ORRの開始電位の評価:-5.0×10-5Aでの電位で、燃料電池での理論起電力(1.23V)に対しての損失量である絶対値で15%の0.19V以下を合格[B]、0.19V超を不合格[C]と評価した。合格の中でも、理論起電力(1.23V)に対しての損失量である絶対値で10%の0.12V以下を特に優れた特性[A]と評価した。(2)Pt-C触媒の電流値との比較:-0.7Vでの電流の絶対値で、同じ条件で測定したAlfaAesar社製Pt-C触媒(20質量%のPt)の電流値1.52mAに対して80%以上の電流値1.22mA以上を合格[B]、1.22mA未満を不合格[C]と評価した。合格の中でも、90%の1.37mA以上を特に優れた特性[A]と評価した。
【0063】
(電気伝導度の評価)
グラッシーカーボン上に形成された電極触媒材料の電気伝導度を日置電機株式会社製抵抗計RM3545の4探針プローブで測定した。なお、電極触媒材料の電気伝導度は次のように作成した基準電極の電気伝導度(100%とする)に対する割合で評価した。
【0064】
実施例1で作成したCNT分散液15μLをマイクロピペットで採取し、回転電極の5mmΦのグラッシーカーボンの上に滴下し、60℃の恒温槽内で30分加熱して乾燥させた。この滴下作業を1回行い、電気伝導度に対する基準電極とした。
【0065】
(組織観察)
電極触媒材料の結晶組織の観察は、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製)を用いて行った。図3は、実施例3における電極触媒材料を、倍率20000倍で観察した際のSEM画像である。細い線形状の一次元結晶体CNTが折り重なるように二次元の導電面を形成し、その上に酸化銅の連結集合体が載っているが、酸化銅の連結集合体の面にCNTが接触しており、設計通りの電極触媒材料が確認できた。
【0066】
実施例1~4、比較例1~3の評価結果を下記表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
上記表1から、酸化銅の連結集合体にCNTが担持された実施例1~3では、ORRの開始電位、Pt-C触媒の電流値との比較のいずれもA評価であり、優れた触媒活性を発揮した。酸化銅の連結集合体にCNTを担持させる処理を行っていない実施例4では、Pt-C触媒の電流値との比較はA評価だったが、ORRの開始電位はB評価であった。
【0069】
一方で、CNTに代えてカーボンブラックが酸化銅の連結集合体に担持された比較例1、酸化銅の連結集合体に代えて酸化銅ナノ粒子にCNTが担持された比較例2、酸化銅ナノ粒子にカーボンブラックが担持された比較例3では、ORRの開始電位、Pt-C触媒の電流値との比較で、A評価がなく、良好な触媒活性を得ることができなかった。
【0070】
また、実施例1~4での中でも、実施例1~3の電極触媒材料の電気伝導率が、基準電極(実施例1で作製したCNT分散液をグラッシーカーボン上に作製した薄膜)の電気伝導率に対して5.0%以上、実施例4の電極触媒材料の電気伝導率が、基準電極の電気伝導率に対して3.2%であることから、実施例1~3では、優れた触媒活性を発揮したことに対応して、電気的接触に優れた電極触媒材料が得られた。
【符号の説明】
【0071】
1 電極触媒材料
20 連結集合体
21 ナノ結晶片
22 主表面
23 端面
30 導電性線状物質
31 導電性構造体
32 面状部位
図1
図2
図3