IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポリプラスチックス株式会社の特許一覧

特許7340422難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性向上方法
<>
  • 特許-難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性向上方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性向上方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20230831BHJP
   C08L 101/04 20060101ALI20230831BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230831BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L101/04
C08K3/22
C08K5/29
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019204410
(22)【出願日】2019-11-12
(65)【公開番号】P2021075653
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 樹
(72)【発明者】
【氏名】浅井 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2004-0001572(KR,A)
【文献】特表2006-515035(JP,A)
【文献】特開2007-70615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)臭素系芳香族難燃剤と、(C)アンチモン化合物を含む難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に、(D)カルボジイミド化合物を配合することにより、熱可塑性樹脂のIEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数を向上させる、方法であって、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して(D)カルボジイミド化合物を0.01質量部以上且つ5質量部以下の割合で配合し、
(D)カルボジイミド化合物が、芳香族カルボジイミド化合物又は脂肪族カルボジイミド化合物を含有し、
(B)臭素系芳香族難燃剤が、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法(180℃、1時間加熱)により測定される、プロトン性化合物を10~1000ppm含有することを特徴とする、方法。
【請求項2】
(D)カルボジイミド化合物の数平均分子量が300以上であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(B)臭素系芳香族難燃剤が、一般式(I)で表される臭素化アクリレート重合体、臭素化エポキシ化合物、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリスチレン、臭素化フタルイミド、臭素化ポリフェニレンエーテルから選択される一種以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【化1】
(式中、少なくとも1つ以上のXは臭素であり、mは10~2000の数である。)
【請求項4】
プロトン性化合物が、(B)臭素系芳香族難燃剤の重合溶媒に由来するものであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
プロトン性化合物が、アルコキシアルコールおよび/またはジアルコキシアルコールであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
プロトン性化合物が、メトキシエタノールおよび/または3,3-ジエトキシプロパノールであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が、線状低分子量体を50~1000ppm含有するものであることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
(B)臭素系芳香族難燃剤中の、トルエン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトンからなる群から選択される非プロトン性有機溶媒の含有量の合計が、50ppm以下であり、かつ、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体におけるエポキシ基の総含有量が0.0155mol/kg以下であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(B)臭素系芳香族難燃剤が、ポリペンタブロモベンジルアクリレートであることを特徴とする、請求項3から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(B)臭素系芳香族難燃剤が、エポキシ当量が30,000g/eq以上の臭素化エポキシ化合物であることを特徴とする、請求項3から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)臭素系芳香族難燃剤と、(C)アンチモン化合物を含む難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のIEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数を向上させるための、(D)カルボジイミド化合物の使用であって、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して(D)カルボジイミド化合物を0.01質量部以上且つ5質量部以下の割合で配合し、
(D)カルボジイミド化合物が、芳香族カルボジイミド化合物又は脂肪族カルボジイミド化合物を含有し、
(B)臭素系芳香族難燃剤が、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法(180℃、1時間加熱)により測定される、プロトン性化合物を10~1000ppm含有することを特徴とする、使用。
【請求項12】
(D)カルボジイミド化合物の数平均分子量が300以上である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
(D)カルボジイミド化合物を含有し、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)臭素系芳香族難燃剤と、(C)アンチモン化合物とを含む難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のIEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数を向上させるための、耐トラッキング性向上剤であって
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して(D)カルボジイミド化合物を0.01質量部以上且つ5質量部以下の割合で配合し、
(D)カルボジイミド化合物が、芳香族カルボジイミド化合物又は脂肪族カルボジイミド化合物を含有し、
(B)臭素系芳香族難燃剤が、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法(180℃、1時間加熱)により測定される、プロトン性化合物を10~1000ppm含有することを特徴とする、耐トラッキング性向上剤。
【請求項14】
(D)カルボジイミド化合物の数平均分子量が300以上である、請求項13に記載の耐トラッキング性向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リレー、スイッチ、コネクタ等の、電気電子部品の電源近傍で使用される樹脂製の部品は、使用される過程で表面に水分や埃等が付着して微小放電が繰り返されると、表面に導電性の経路が生成され絶縁破壊現象(トラッキング)が発生し電極間を短絡してしまうことがある。そのため、電気電子部品の近傍で使用される部品を構成する樹脂は、耐トラッキング性を有することが求められている。そのような部品に用いられる材料として、樹脂自体が耐トラッキング性に優れるポリブチレンテレフタレート樹脂が挙げられ、その耐トラッキング性の向上についても種々検討されてきている。例えば、特許文献1には、ガラス繊維により強化されたポリブチレンテレフタレート樹脂にエチレンエチルアクリレート共重合体及びエポキシ化合物を配合した樹脂組成物が耐トラッキング性に優れることが記載されている。ここで電気電子部品においては、発火事故防止のため、使用される樹脂材料には難燃性も要求される。
しかし、ポリブチレンテレフタレート樹脂に難燃性を付与するために広く用いられている臭素系芳香族難燃剤は、それ自体が炭化しやすいことから、難燃性付与のためにこれを添加するとポリブチレンテレフタレート樹脂の耐トラッキング性が低下してしまい、この改善が求められていた。
一方、カルボジイミド化合物は、エラストマーとともに樹脂に配合されることで、ポリブチレンテレフタレート樹脂の冷熱サイクル環境での高度な耐久性と耐加水分解性を向上させることが知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/010337号パンフレット
【文献】国際公開第2009/150831号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させる方法、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させるためのカルボジイミド化合物の使用、及び難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物用耐トラッキング性向上剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に関するものである。
[1](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)臭素系芳香族難燃剤と、(C)アンチモン化合物を含む難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に、(D)カルボジイミド化合物を配合することにより、熱可塑性樹脂のIEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数を向上させる、方法。
[2](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して(D)カルボジイミド化合物を0.01質量部以上の割合で配合する、[1]に記載の方法。
[3](D)カルボジイミド化合物が、芳香族カルボジイミド化合物を含有することを特徴とする、[1]又は[2]に記載の方法。
[4](D)カルボジイミド化合物の数平均分子量が300以上であることを特徴とする、[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
[5](B)臭素系芳香族難燃剤が、一般式(I)で表される臭素化アクリレート系重合体、臭素化エポキシ化合物、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリスチレン、臭素化フタルイミド、臭素化ポリフェニレンエーテルから選択される一種以上であることを特徴とする、[1]から[4]のいずれかに記載の方法。
【化1】
(式中、少なくとも1つ以上のXは臭素であり、mは10~2000の数である。)
[6](B)臭素系芳香族難燃剤が、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法(180℃、1時間加熱)により測定される、プロトン性化合物を10~1000ppm含有することを特徴とする、[1]から[5]のいずれかに記載の方法。
[7]プロトン性化合物が、(B)臭素系芳香族難燃剤の重合溶媒に由来するものであることを特徴とする、[6]に記載の方法。
[8]プロトン性化合物が、アルコキシアルコールおよび/またはジアルコキシアルコールであることを特徴とする、[6]又は[7]に記載の方法。
[9]プロトン性化合物が、メトキシエタノールおよび/または3,3-ジエトキシプロパノールであることを特徴とする、[6]から[8]のいずれかに記載の方法。
[10](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が、線状低分子量体を50~1000ppm含有するものであることを特徴とする、[6]から[9]のいずれかに記載の方法。
[11](B)臭素系芳香族難燃剤中の、トルエン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトンからなる群から選択される非プロトン性有機溶媒の含有量の合計が、50ppm以下であり、かつ、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体におけるエポキシ基の総含有量が0.0155mol/kg以下であることを特徴とする、[1]から[10]のいずれかに記載の方法。
[12](B)臭素系芳香族難燃剤が、ポリペンタブロモベンジルアクリレートであることを特徴とする、[5]から[11]のいずれかに記載の方法。
[13](B)臭素系芳香族難燃剤が、エポキシ当量が30,000g/eq以上の臭素化エポキシ化合物であることを特徴とする、[5]から[11]のいずれかに記載の方法。
[14](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)臭素系芳香族難燃剤と、(C)アンチモン化合物を含む難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のIEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数を向上させるための、(D)カルボジイミド化合物の使用。
[15](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して(D)カルボジイミド化合物を0.01質量部以上の割合で用いる、[14]に記載の使用。
[16](D)カルボジイミド化合物が、芳香族カルボジイミド化合物を含有する、[14]又は[15]に記載の使用。
[17](D)カルボジイミド化合物の数平均分子量が300以上である、[14]から[16]のいずれかに記載の使用。
[18](D)カルボジイミド化合物を含有し、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)臭素系芳香族難燃剤と、(C)アンチモン化合物とを含む難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のIEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数を向上させるための、耐トラッキング性向上剤。
[19](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して(D)カルボジイミド化合物が0.01質量部以上となる量で用いられるための、[18]に記載の耐トラッキング性向上剤。
[20](D)カルボジイミド化合物が、芳香族カルボジイミド化合物を含有する、[18]又は[19]に記載の耐トラッキング性向上剤。
[21](D)カルボジイミド化合物の数平均分子量が300以上である、[18]から[20]のいずれかに記載の耐トラッキング性向上剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させる方法、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させるためのカルボジイミド化合物の使用、及び難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物用耐トラッキング性向上剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明において溶融流動性を測定する際に用いた成形品の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している場合がある。
【0009】
[耐トラッキング性向上方法]
本実施形態に係る耐トラッキング性向上方法は、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物にカルボジイミド化合物を配合することにより、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させる方法である。従来、特許文献2に記載されているように、カルボジイミド化合物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐ヒートショック性や耐加水分解性を向上させることができることは知られていた。しかし、本発明者の研究により、驚くべきことに、カルボジイミド化合物は難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させることができることが分かった。特許文献2で検討されている「耐ヒートショック性」は冷熱サイクル環境下での高度な耐久性のことであり、「耐加水分解性」は湿熱環境下(高温多湿)における加水分解による強度低下を抑制する性質のことである。これに対して、本発明者が新たに見出した「耐トラッキング性」は、樹脂の表面に埃や水が付着して微小放電が繰り返された場合でも樹脂の表面に導電性の経路が形成されにくい性質であり、耐ヒートショック性や耐加水分解性とは全く異なる性質である。
【0010】
なお、「耐トラッキング性」は、IEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数(CTI)により表すことができる。CTIの測定方法については後述する。CTIが250V以上であると、PLC(Performance Level Classes)等級が2以内となるため好ましく、300V以上であることがより好ましく、350V以上であることがさらに好ましい。
【0011】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。本実施形態において、ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上含有する共重合体であってもよい。
【0012】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0013】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されないが、0.60dL/g以上1.2dL/g以下であるのが好ましく、0.65dL/g以上0.9dL/g以下であるのがより好ましい。このような範囲の固有粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合には、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が特に成形性に優れたものとなる。また、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0014】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分としてテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を用いる場合、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)を用いることができ、これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0015】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分として1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分を用いる場合、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を用いることができ、これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0016】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0017】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、樹脂組成物の全質量の30~90質量%であることが好ましく、40~80質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることがさらに好ましい。
【0018】
なお、後述する(B)臭素系芳香族難燃剤としてプロトン性化合物を含有するものを用いる場合、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂は、線状低分子量体を含有することが好ましい。これは、当該プロトン性化合物が、ポリブチレンテレフタレート樹脂の線状低分子量体(オリゴマー)と反応して線状化合物を生成し、これが可塑剤と同様の効果をもたらし、ポリブチレンテレフタレート樹脂の流動性を改善させるためと推測される。ポリブチレンテレフタレート樹脂に含有される線状低分子量体の量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂中、50~1000ppmであることが好ましく、70~700ppmであることがより好ましく、100~200ppmであることがさらに好ましい。線状低分子量体の量が50ppm未満であると、ポリブチレンテレフタレート樹脂の流動性の改善効果が得にくく、1000ppmを超えると、成形時にMold Deposit(金型付着物)が発生しやすくなるため、好ましくない。
【0019】
(B)臭素系芳香族難燃剤
本発明の臭素系芳香族難燃剤としては、ベンゼン環の水素原子の1つ以上が臭素で置換された構造を含む臭素系芳香族化合物であり、具体的には臭素化アクリレート系重合体、臭素化エポキシ化合物、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリスチレン、臭素化フタルイミド、臭素化ポリフェニレンエーテル等が挙げられるが、臭素化アクリレート系重合体及び/又は臭素化エポキシ化合物が好ましい。
【0020】
臭素化アクリレート系重合体としては、下記一般式(I)で表されるものが挙げられる。
【化2】
式中のXは少なくとも1つ以上が臭素である。Xの数は、一構成単位中1~5であるが、難燃化の効果から3~5であることが好ましい。平均重合度mは10~2000であり、好ましくは15~1000の範囲である。平均重合度が低いものは、熱安定性が悪化し、2000を超えると、これを添加した難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形加工性を悪化させる。また、上記臭素化アクリレート系重合体は1種又は2種以上混合使用してもよい。
【0021】
一般式(I)で表される臭素化アクリレート系重合体は臭素を含有するベンジルアクリレートを単独で重合することによって得られるが、類似構造のベンジルメタクリレート等を共重合させてもよい。臭素含有ベンジルアクリレートとしては、ペンタブロモベンジルアクリレート、テトラブロモベンジルアクリレート、トリブロモベンジルアクリレート、又はその混合物が挙げられる。中でも、ペンタブロモベンジルアクリレートが好ましい。また、共重合可能な成分であるベンジルメタクリレートとしては、上記したアクリレートに対応するメタクリレートが挙げられる。さらにはビニル系モノマーとの共重合も可能であり、アクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレートのようなアクリル酸エステル類、メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートのようなメタクリル酸エステル類、スチレン、アクリロニトリル、フマル酸、マレイン酸のような不飽和カルボン酸又はその無水物、酢酸ビニル、塩化ビニルなどが挙げられる。また、架橋性のビニル系モノマー、キシリレンジアクリレート、キシリレンジメタクリレート、テトラブロムキシリレンジアクリレート、テトラブロムキシリレンジメタクリレート、ブタジエン、イソプレン、ジビニルベンゼンも使用できる。これらはベンジルアクリレートやベンジルメタクリレートに対し等モル量以下、好ましくは0.5倍モル量以下が使用される。
【0022】
上記の臭素化アクリレート系重合体の製造法の一例を示すと、臭素化アクリルのモノマーを溶液重合あるいは、塊状重合にて所定の重合度に反応させる方法が挙げられる。溶液重合の場合、溶媒としてクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族化合物を用いないことが好ましい。また、溶液重合の際の溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテルや、メチルエチルケトン、エチレングリコールジメチルエーテルおよびジオキサンなどの非プロトン性溶媒が好ましい。ただし、本発明においては後述の通り、樹脂組成物としてプロトン性化合物を含む場合があるため、重合溶媒としてプロトン性化合物を含むものを用いることもできる。
【0023】
上記の臭素化アクリレート系重合体は、残留ポリアクリル酸ナトリウム等の反応副生成物を除去するために、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液にて洗浄されることが好ましい。アルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液はアルカリ(土類)金属塩を水に投入することで容易に得られるが、塩化物イオン、リン酸イオン等を含まないアルカリ(土類)金属である水酸化物(例えば水酸化カルシウム)が最適である。アルカリ(土類)金属塩として、例えば水酸化カルシウムを用いる場合、水酸化カルシウムは一般に20℃において100gの水中に0.126g程度可溶であり、水溶液濃度は溶解度までであれば特に規定はない。また、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液による洗浄の手法も特に限定されず、臭素化アクリレート系重合体を適当な時間、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液に浸漬させる等の手法で良い。上記、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液による洗浄処理を終えた臭素化アクリレート系重合体は、一般的に温水抽出分中の乾固分が100ppm以下のものとなり、このような臭素化アクリレート系重合体を用いる場合、その成形品表面に異物を発生させることが殆どなくなる。
【0024】
臭素化エポキシ化合物としては、エポキシ化合物として1分子中にエポキシ基を1つ以上含有する芳香族エポキシ化合物(ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物など)を用い、数平均分子量が1000以上20000以下であるものを好ましく用いることができる。難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形性の観点からは、数平均分子量は2000以上15000以下であることがより好ましく、3000以上10000以下であることがさらに好ましい。
【0025】
上記のエポキシ化合物のエポキシ当量は30,000g/当量(g/eq)以上であることが好ましく、32,000g/eq以上であることがより好ましく、34,000g/eq以上であることがさらに好ましく、36,000g/eq以上であることがよりさらに好ましく、36,500g/eq以上であることが特に好ましい。エポキシ当量をこの範囲にすることにより、本発明における難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形時に、当該組成物が押出機や成形機のスクリューに付着することを抑制できる。これによりスクリュー付着物の成形品への混入を低減できるため、得られる成形品の外観を良好なものとすることができる。
【0026】
また、上記の臭素化エポキシ化合物として、末端をブロモフェノール(トリブロモフェノール等)などで封止したものを使用すれば、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性の低下を抑制できるため好ましい。
【0027】
臭素化ポリカーボネートとしては、具体的には例えば、臭素化ビスフェノールA、特にテトラブロモビスフェノールAから得られる、臭素化ポリカーボネートであることが好ましい。その末端構造は、フェニル基、4-t-ブチルフェニル基や2,4,6-トリブロモフェニル基等が挙げられ、特に、末端基構造に2,4,6-トリブロモフェニル基を有するものが好ましい。
【0028】
臭素化ポリカーボネートにおける、カーボネート繰り返し単位数の平均は適宜選択して決定すればよいが、通常、2~30である。カーボネート繰り返し単位数の平均が小さいと、溶融時に(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の分子量低下を引き起こす場合がある。逆に大きすぎても溶融粘度が高くなり、成形性が悪化する場合がある。よってこの繰り返し単位数の平均は、中でも3~15、特に3~10であることが好ましい。
【0029】
臭素化ポリカーボネートの分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、好ましくは、粘度平均分子量で1,000~20,000、中でも2,000~10,000であることが好ましい。
【0030】
上記臭素化ビスフェノールAから得られる臭素化ポリカーボネートは、例えば、臭素化ビスフェノールAとホスゲンとを反応させる通常の方法で得ることができる。末端封鎖剤としては芳香族モノヒドロキシ化合物が挙げられ、これはハロゲン又は有機基で置換されていてもよい。
【0031】
臭素化ポリスチレンは、ポリスチレンを臭素化するか、または、臭素化スチレンモノマーを重合することによって製造するかのいずれであってもよいが、臭素化スチレンを重合したものは遊離の臭素(原子)の量が少ないので好ましい。なお、臭素化ベンゼンが結合するビニル基の水素原子はメチル基で置換されていてもよい。また、臭素化ポリスチレンは、他のビニルモノマーが共重合された共重合体であってもよい。この場合のビニルモノマーとしてはスチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、ブタジエンおよび酢酸ビニル等が挙げられる。また、臭素化ポリスチレンは単一物あるいは構造の異なる2種以上の混合物として用いてもよく、単一分子鎖中に臭素数の異なるスチレンモノマー由来の単位を含有していてもよい。
【0032】
臭素化ポリスチレンの具体例としては、例えば、ポリ(4-ブロモスチレン)、ポリ(2-ブロモスチレン)、ポリ(3-ブロモスチレン)、ポリ(2,4-ジブロモスチレン)、ポリ(2,6-ジブロモスチレン)、ポリ(2,5-ジブロモスチレン)、ポリ(3,5-ジブロモスチレン)、ポリ(2,4,6-トリブロモスチレン)、ポリ(2,4,5-トリブロモスチレン)、ポリ(2,3,5-トリブロモスチレン)、ポリ(4-ブロモ-α-メチルスチレン)、ポリ(2,4-ジブロモ-α-メチルスチレン)、ポリ(2,5-ジブロモ-α-メチルスチレン)、ポリ(2,4,6-トリブロモ-α-メチルスチレン)およびポリ(2,4,5-トリブロモ-α-メチルスチレン)等が挙げられ、ポリ(2,4,6-トリブロモスチレン)、ポリ(2,4,5-トリブロモスチレン)および平均2~3個の臭素基をベンゼン環中に含有するポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレンが特に好ましく用いられる。
【0033】
臭素化フタルイミドとしては、例えばN,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)エタン、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)プロパン、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ブタン、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジエチルエーテル、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジプロピルエーテル、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジブチルエーテル、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジフェニルスルフォン、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジフェニルケトン、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジフェニルエーテル等が挙げられる。中でも、N,N’-エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)が好ましい。
【0034】
本発明に用いられる(B)臭素系芳香族難燃剤は、当該難燃剤自体である上記の臭素系芳香族化合物以外に、不純物として、重合時の溶媒や臭素系芳香族化合物の分解物に由来するハロゲン化芳香族化合物を含有しうるが、そのような不純物である、難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量は、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量は、例えば、臭素系芳香族難燃剤を粉砕した試料を、ヘッドスペース中で加熱処理した際の発生ガスを、ガスクロマトグラフにより測定し、ハロゲン化芳香族化合物に由来するガス発生量から求めることができる。
【0035】
また、本発明において上記の(B)臭素系芳香族難燃剤を含む難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、前述の不純物である、難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量が、0.5ppm未満であることが好ましく、0.3ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以下であることがさらに好ましい。難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の、難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量が上記範囲であることにより、当該難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いたインサート成形品において、金属端子の腐蝕を抑制することができる。このような難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量は、例えば、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を粉砕した試料を、ヘッドスペース中で加熱処理した際の発生ガスを、ガスクロマトグラフにより測定し、ハロゲン化芳香族化合物に由来するガス発生量から求めることができる。
【0036】
本発明に用いられる(B)臭素系芳香族難燃剤は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法(180℃、1時間加熱)により測定される、プロトン性化合物を10~1000ppm含有することが好ましい。
【0037】
本発明においてプロトン性化合物とは、プロトン(水素イオン)供与性を有する化合物のことをいう。このプロトン性化合物は、(B)臭素系芳香族難燃剤の重合溶媒に由来するものが一例として挙げられ、中でもアルコキシアルコールが好ましく、C1~C20アルコキシC1~C20アルコール及び/又はC1~C20ジアルコキシC1~C20アルコールがより好ましい。C1~C20アルコキシC1~C20アルコールとしては、メトキシC1~C20アルコールや、C1~C20アルコキシエタノールがさらに好ましく、メトキシエタノールが特に好ましい。C1~C20ジアルコキシC1~C20アルコールとしては、3,3-ジエトキシプロパノールが好ましい。
【0038】
また本発明においてプロトン性化合物としては、(B)臭素系芳香族難燃剤の原料に由来するものも挙げられる。なお、本発明においてプロトン性化合物としては、(B)臭素系芳香族難燃剤の原料に由来するものよりも、重合溶媒に由来するものの方が好ましい。
【0039】
本発明において(B)臭素系芳香族難燃剤に含有されるプロトン性化合物の量は、上述の通り(B)臭素系芳香族難燃剤中、10~1000ppmであることが好ましいが、100~800ppmであることがより好ましく、300~500ppmであることがさらに好ましい。(B)臭素系芳香族難燃剤に含有されるプロトン性化合物の量が10ppm未満であると、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性の改善効果が得にくくなる。また、(B)臭素系芳香族難燃剤に含有されるプロトン性化合物の量が1000ppmを超えると、コンパウンド時にガスの発生量が増加し、ペレット化の際にストランド切れが発生しやすくなる。
【0040】
また、本発明の(B)臭素系芳香族難燃剤中のトルエン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトンからなる群から選択される有機溶媒の含有量の合計は50ppm以下であることが好ましい。当該有機溶媒の含有量の合計は40ppm以下であることがより好ましく、30ppm以下であることがさらに好ましく、20ppm以下であることがよりさらに好ましく、10ppm以下であることが特に好ましく、8ppm以下であることが最も好ましい。(B)臭素系芳香族難燃剤中の有機溶媒の含有量をこの範囲にすることにより、本発明において難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形する際に、押出機や成形機のスクリューへの付着物の発生を低減することができ、その混入による成形品の外観の悪化を抑制することができる。
【0041】
(C)アンチモン化合物
本発明における難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、難燃助剤として(C)アンチモン化合物を含む。難燃助剤としての(C)アンチモン化合物の代表的なものとしては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、ピロアンチモン酸ナトリウム等が挙げられる。さらに、燃焼した樹脂が滴下することによる延焼を防ぐ目的で、ポリテトラフルオロエチレン等の滴下防止剤をあわせて使用することも好ましい。
【0042】
上記の(B)臭素系芳香族難燃剤及び(C)アンチモン化合物の(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に対する添加の範囲は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して前記(B)臭素系芳香族難燃剤3~50質量部、(C)アンチモン化合物1~30質量部の範囲が好ましい。(B)臭素系芳香族難燃剤及び(C)アンチモン化合物の添加量が過少であると十分な難燃性を付与することができず、過大であると成形品としての物性を悪化させることがある。
【0043】
(D)カルボジイミド化合物
カルボジイミド化合物は、分子中にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する化合物である。カルボジイミド化合物としては、主鎖が脂肪族の脂肪族カルボジイミド化合物、主鎖が脂環族の脂環族カルボジイミド化合物、主鎖が芳香族の芳香族カルボジイミド化合物を挙げることができ、これらから選択される1以上を用いることができる。中でも、耐トラッキング性をより向上できる点で、芳香族カルボジイミド化合物を含有することが好ましい。
【0044】
脂肪族カルボジイミド化合物としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド等を挙げることができる。脂環族カルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド等を挙げることができる。これらは2種以上を併用することもできる。
【0045】
芳香族カルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N’-フェニルカルボジイミド、ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-p-メトキシフェニルカルボジイミド、ジ-3,4-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-2,5-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-o-クロルフェニルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-o-トリイルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミド等のモノ又はジカルボジイミド化合物;及びポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,5’-ジメチル-4,4’-ビフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(3,5’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1-メチル-3,5-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリエチルフェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド化合物;を挙げることができる。これらは2種以上を併用することもできる。
【0046】
これらの中でも特にジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(フェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)から選択される1以上を好適に用いることができる。
【0047】
(D)カルボジイミド化合物の数平均分子量は、300以上であることが好ましい。数平均分子量を上記範囲にすることで、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の溶融混練時や成形時に滞留時間が長い場合において、ガスや臭気が発生することを防ぐことができる。
【0048】
(D)カルボジイミド化合物の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。(D)カルボジイミド化合物を(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0.01質量部以上配合することで、より確実に難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させることができる。上限値は、耐トラッキング性を向上させる点及び加工時のガスや臭気を防ぐ点から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下、さらにより好ましくは8質量部以下、特に5.5質量部以下、最も好ましくは5質量部以下とすることができる。
【0049】
(D)カルボジイミド化合物は、取り扱いを容易にするため、マトリックス樹脂中に(D)カルボジイミド化合物が分散しているマスターバッチとして用いることもできる。マスターバッチとして用いる場合、(D)カルボジイミド化合物の配合量が、耐トラッキング性を向上させる対象の(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂とマトリックス樹脂との総量100質量部に対して上記した配合量となるように用いる。マトリックス樹脂の種類は、特に限定されず、例えば上記した熱可塑性樹脂から選択することができ、耐トラッキング性を向上させる対象の(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と同じであってもよく異なる種類の樹脂であってもよいが、溶融混練時の分散性の観点からは、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と相溶性のある樹脂が好ましく、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂であることがより好ましい。
【0050】
マスターバッチの調整方法は、特に限定されず、マトリックス樹脂と(D)カルボジイミド化合物とを、通常の方法で混練して製造することができる。例えば、マトリックス樹脂及び(D)カルボジイミド化合物を攪拌機に投入して均一に混ぜ合わせた後、押出機で溶融及び混練することにより製造することができる。
【0051】
(その他の配合剤)
本実施形態に係る耐トラッキング性向上方法において、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に、無機充填剤、可塑剤、酸化防止剤、耐候安定剤、耐加水分解性向上剤、流動性向上剤、分子量調整剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤(染料、顔料)、潤滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤、近赤外線吸収剤、有機充填剤等の添加剤をさらに配合することができる。
【0052】
無機充填剤としては、ガラス繊維等の繊維状無機充填剤;シリカ、石英粉末、ガラスビーズ等の粉粒状無機充填剤;マイカ、ガラスフレーク等の板状充填剤等を挙げることができる。無機充填剤の配合量は、成形品の強度を高める点で、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、5~200質量部であることが好ましく、20~100質量部であることがより好ましい。
【0053】
無機充填剤、難燃剤以外のその他の配合剤としては、従来公知のものを用いることができる。その他の配合剤の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.01~20質量部であることが好ましく、0.1~10質量部であることがより好ましい。
【0054】
さらに、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐トラッキング性をより向上させるため、及び/又は他の特性(耐ヒートショック性、低反り性等)を付与するために、必要に応じて、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂にアロイ材を配合することもできる。アロイ材としては、熱可塑性エラストマー、コアシェルエラストマー、フッ素系樹脂、ポリオレフィン、ポリアミド等を挙げることができ、これらから選択される1以上を用いることができる。
【0055】
熱可塑性エラストマーとしては、グラフト化されていてもよい、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等を挙げることができる。熱可塑性エラストマーの具体例としては、例えば、プロピレン-エチレン共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンエチルアクリレートとブチルアクリレート-メチルメタクリレートのグラフト共重合体(EEA-g-BAMMA共重合体)、無水マレイン酸(MAH)変性ポリオレフィン等を挙げることができる。
コアシェルエラストマーとしては、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート共重合体等を挙げることができる。コアシェルエラストマーはシェルにグリシジル基等の官能基を有するものであってもよい。
フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、これらの共重合体等を挙げることができる。
ポリアミドとしては、ナイロン6(PA6)、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66等を挙げることができる。
【0056】
アロイ材の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、3~50質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましい。
【0057】
さらに、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性をより向上させるために、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に、(B)臭素系芳香族難燃剤としての臭素化エポキシ化合物以外のエポキシ化合物を配合することもできる。エポキシ化合物としては、例えば、ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等の芳香族エポキシ化合物を挙げることができる。エポキシ化合物は、2種以上の化合物を任意に組み合わせて使用してもよい。エポキシ当量は、600~1500g/当量(g/eq)であることが好ましい。
【0058】
ここで、本発明における難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体におけるエポキシ基の総含有量は、0.0155mol/kg以下とすることが好ましい。また、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体におけるエポキシ基の総含有量は、0.0152mol/kg以下であることがより好ましく、0.0150mol/kg以下であることがさらに好ましく、0.0149mol/kg以下であることが特に好ましく、0.0148mol/kg以下であることが最も好ましい。難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体におけるエポキシ基の総含有量をこの範囲にすることにより、本発明における難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形する際に、押出機や成形機のスクリューへの付着物の発生を低減することができ、その混入による成形品の外観の悪化を抑制することができる。
【0059】
(配合方法)
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に、(B)臭素系芳香族難燃剤、(C)アンチモン化合物、(D)カルボジイミド化合物及び必要に応じて添加する配合剤を配合する方法は、特に限定されず、従来の樹脂組成物調製方法や成形方法として一般に用いられる設備と方法を用いて容易に調製できる。例えば、1)樹脂成分及び他の各成分を混合した後、1軸又は2軸の押出機により練り混み押出してペレットを調製し、しかる後成形する方法、2)一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し成形後に目的組成の成形品を得る方法、3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法等、何れも使用できる。また、樹脂成分の一部を細かい粉体として、これ以外の成分と混合して添加する方法は、これらの成分の均一配合を図る上で好ましい方法である。
【0060】
(D)カルボジイミド化合物をマスターバッチとして(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に配合する方法は、特に限定されず、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂を溶融混練する時に併せて投入し、均一ペレットとしてもよい。また、(D)カルボジイミド化合物以外の成分を予め溶融混練等により均一ペレットとしておき、(D)カルボジイミド化合物のマスターバッチペレットを成形時にドライブレンドしたペレットブレンド品を成形に用いてもよい。
【0061】
押出機により練り込みペレット化する場合、押出機中での樹脂温度(加工温度)は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の通常の加工温度を考慮して適宜設定すればよいが、(D)カルボジイミド化合物の分解による有害ガスや臭気の発生を防ぐ点から、剪断発熱を考慮した実温が350℃以下となるようにシリンダー温度を設定することが好ましい。シリンダー内での樹脂の実温は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(D)カルボジイミド化合物を十分に反応させて耐トラッキング性を発現させる点及び他の諸物性を発現させる点から、好ましくは200~330℃、さらに好ましくは230~300℃となるようにシリンダー温度を設定することができる。
【0062】
(比較トラッキング指数)
上記方法は、IEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数(CTI)のPLC等級(Performance Level Category)を、2以内に高める方法であることが好ましく、1以内に高める方法であることがより好ましい。PLC等級を2以内に高める方法であると、耐トラッキング性が優れた樹脂成形品を与える樹脂組成物を得ることができる。
【0063】
本明細書において、CTIは、IEC(International electrotechnical commission)60112第3版に規定される測定方法により求めることができる。具体的には、0.1質量%の塩化アンモニウム水溶液と白金電極を用いて測定される。より詳細には、この塩化アンモニウム水溶液を規定の滴下数(50滴)滴下し、試験片(n=5)の全てが破壊しない電圧を求め、これをCTIとする。
【0064】
(樹脂成形品)
上記方法によりカルボジイミド化合物が配合された難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、耐トラッキング性に優れているので、その成形品は、耐トラッキング性が求められる用途に広く用いることができる。例えば、リレー、スイッチ、コネクタ、アクチュエータ、センサー、トランスボビン、端子台、カバー、スイッチ、ソケット、コイル、プラグ等の電気・電子部品、特に電源周り部品として好ましく使用できる。樹脂成形品を得る方法としては、特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、上記方法によりカルボジイミド化合物が配合された各成分を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0065】
[カルボジイミドの使用]
本実施形態に係るカルボジイミドの使用は、IEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数(CTI)を向上させるための、カルボジイミド化合物の使用である。上記使用は、熱可塑性樹脂のCTIのPLC等級を2以内にするための使用であることが好ましく、1以内にするための方法であることがより好ましい。カルボジイミド化合物及び各成分の種類等については上記のとおりであるからここでは記載を省略する。カルボジイミド化合物の使用量についても、上記したカルボジイミド化合物の配合量と同じである。
【0066】
[耐トラッキング性向上剤]
本実施形態に係る耐トラッキング性向上剤は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に配合されることによりIEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数を向上させるためものであり、カルボジイミド化合物を含有する。
耐トラッキング性向上剤中のカルボジイミド化合物の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上、又は90質量%以上とすることができ、カルボジイミド化合物のみからなるように構成することもできる。耐トラッキング性向上剤は、上記したその他の配合剤を含有していてもよい。その他の配合剤を含有する場合、その配合量は、合計50質量%未満、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下にすることができる。耐トラッキング性向上剤は、マトリックス樹脂中にカルボジイミド化合物が分散しているマスターバッチの形状であってもよい。マスターバッチとする場合のマトリックス樹脂の種類やマスターバッチの作製方法については上記のとおりである。
【0067】
耐トラッキング性向上剤の使用量は、カルボジイミド化合物の量が上記した配合量になる量とすることができる。
上記耐トラッキング性向上剤は、IEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数(CTI)のPLC等級を2以内にすることができる耐トラッキング性向上剤であることが好ましく、1以内にすることができる耐トラッキング性向上剤であることがより好ましい。カルボジイミド化合物及び各成分については上記のとおりである。
【実施例
【0068】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0069】
各実施例及び比較例において、表1に示す各成分を、表1に示す量(質量部)でブレンドし、30mmφのスクリューを有する2軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX-30)を用いてシリンダー温度260℃、スクリュ回転数120rpm、押出量15kg/hrの条件で溶融混練し、ダイからストランド状に押し出した後、冷却・裁断してペレット状の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得た。使用した各成分の詳細は以下の通りである。なお、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂中の線状低分子量体の量はSEC(サイズ排除クロマトグラフィ)、難燃剤中の難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の量及び難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の量はヘッドスペースガスクロマトグラフ法(150℃、1時間加熱)、難燃剤中のプロトン性化合物の量はヘッドスペースガスクロマトグラフ法(180℃、1時間加熱)によりそれぞれ測定した。上記のヘッドスペースガスクロマトグラフ法は、各試料5gを、20mlのヘッドスペース中に150℃又は180℃で1時間放置した後、装置:横河ヒューレット・パッカード社製HP5890A、カラム:HR-1701(0.32mm径×30m)を用い、50℃で1分間保持後、5℃/minで昇温させ、ガスクロマトグラフによりガス発生量を測定した。
【0070】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
(A-1)PBT樹脂1:ポリプラスチックス株式会社製、PBT樹脂(固有粘度:0.77dL/g、線状低分子量体:50ppm)
(A-2)PBT樹脂2:ポリプラスチックス株式会社製、PBT樹脂(固有粘度:0.77dL/g、線状低分子量体:150ppm)
(A-3)PBT樹脂3:ポリプラスチックス株式会社製、PBT樹脂(固有粘度:0.77dL/g、線状低分子量体:30ppm)
(A-4)PBT樹脂4:ポリプラスチックス株式会社製、PBT樹脂(固有粘度:0.77dL/g、線状低分子量体:1200ppm)
(B)臭素系芳香族難燃剤
(B-1)臭素化アクリレート系重合体1:溶媒にエチレングリコールモノメチルエーテルを使用して重合したポリペンタブロモベンジルアクリレート(難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物含有量8ppm、プロトン性化合物としてメトキシエタノール20ppm含有)
(B-2)臭素化アクリレート系重合体2:溶媒にクロロベンゼンを使用して重合したポリペンタブロモベンジルアクリレート(難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物含有量150ppm、プロトン性化合物としてメトキシエタノール20ppm含有)
(B-3)臭素化アクリレート系重合体3:溶媒にエチレングリコールモノメチルエーテルを使用して重合したポリペンタブロモベンジルアクリレート(難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物含有量8ppm、プロトン性化合物としてメトキシエタノール300ppm含有)
(B-4)臭素化アクリレート系重合体4:溶媒にエチレングリコールモノメチルエーテルを使用して重合したポリペンタブロモベンジルアクリレート(難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物含有量8ppm、プロトン性化合物としてメトキシエタノール800ppm含有)
(B-5)臭素化アクリレート系重合体5:溶媒にエチレングリコールモノメチルエーテルを使用して重合したポリペンタブロモベンジルアクリレート(難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物含有量8ppm、プロトン性化合物として3,3-ジエトキシプロパノール100ppm含有)
(B-6)臭素化アクリレート系重合体6:溶媒にエチレングリコールモノメチルエーテルを使用して重合したポリペンタブロモベンジルアクリレート(難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物含有量8ppm、プロトン性化合物としてメトキシエタノール5ppm含有)
(B-7)臭素化アクリレート系重合体7:溶媒にエチレングリコールモノメチルエーテルを使用して重合したポリペンタブロモベンジルアクリレート(難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物含有量8ppm、プロトン性化合物としてメトキシエタノール1200ppm含有)
(B-8)臭素化エポキシ化合物1:エポキシ当量36800g/eq、有機溶媒量5ppm、重量平均分子量約18000の臭素化エポキシ化合物
(B-9)臭素化エポキシ化合物2:エポキシ当量43200g/eq、有機溶媒量0ppm、重量平均分子量約20000の臭素化エポキシ化合物
(B-10)臭素化エポキシ化合物3:エポキシ当量28600g/eq、有機溶媒量60ppm、重量平均分子量約9000の臭素化エポキシ化合物
(B-11)臭素化エポキシ化合物4:エポキシ当量19900g/eq、有機溶媒量4ppm、重量平均分子量約23000の臭素化エポキシ化合物
(B-12)臭素化ポリカーボネート:帝人株式会社製、ファイヤーガード7500
(B-13)臭素化ポリスチレン:フォロ社製、パイロチェック68PB
(B-14)臭素化フタルイミド:アルベマール日本社製エチレン・ビス・テトラブロモフタルイミド、SAYTEX BT-93W
(B’)リン系難燃剤:クラリアントジャパン株式会社製、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、エクソリットOP1240
(C)アンチモン化合物:三酸化アンチモン(日本精鉱株式会社製、PATOX-M)
(C’)窒素化合物:メラミンシアヌレート(BASF社製、Melapur MC50)
(D)カルボジイミド化合物
(D-1)芳香族カルボジイミド:ランクセス社製、スタバックゾールP-100
(D-2)脂肪族カルボジイミド:日清紡ケミカル社製、カルボジライトLA-1
充填剤:ガラス繊維(日本電気硝子株式会社製、ECS03T-127、繊維径13μm)
安定剤:エポキシ化合物(数平均分子量:1600、エポキシ当量:925g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂)
滴下防止剤:旭硝子株式会社製ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フルオンCD-076
【0071】
得られた難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを用いて、以下の各評価を行った。
【0072】
(1)難燃性
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、140℃で3時間乾燥させた後、シリンダ温度250℃、金型温度70℃にて射出成形し、UL94に準拠し、125mm×13mm×厚さ1/32インチの短冊状試験片を作製して燃焼性を評価した。結果を表1に示す。
【0073】
(2)耐トラッキング性
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥させた後、株式会社日本製鋼所製射出成形機J55AD 60H-USM(スクリュー径φ28mm)により、シリンダ温度260℃、金型温度80℃にて70×50×3mmの試験片を作製し、IEC60112第3版に準拠して、0.1質量%塩化アンモニウム水溶液と白金電極を用いて、試験片にトラッキングが生じる印加電圧(V:ボルト)を測定した。25Vごとに印加電圧を上げて試験した際にトラッキング破壊が生じなかった最大の電圧を評価した。結果を表1に示す。
【0074】
(3)金属腐食性
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレット50gを、1cm×1cmの銀板とともに300mlのガラス製共栓ビンに入れ栓をして、150℃のギアオーブン中で500時間静置した後、銀板の表面を目視にて確認し、腐蝕が発生していないものを○、腐蝕が発生していたものを×として評価した。結果を表1に示す。
【0075】
(4)ストランド切れ
上述の方法で各実施例・比較例の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得る際に、ストランド切れの発生状況を確認し、ストランド切れがほとんど発生しなかったものを○、度々発生したものを×として評価した。結果を表1に示す。
【0076】
(5)溶融流動性
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥させた後、図1に示す箱状成形品(四辺の壁および底の厚さはいずれも0.7mm)を樹脂温度260℃金型温度60℃、射出速度100mm/s、保圧力50MPaで射出成形し、完全に充填できたものを〇、流動性不足で末端まで充填できなかったものを×として評価した。結果を表1に示す。
【0077】
(6)金型付着物
上記(1)の評価に用いた短冊状試験片を連続で6000ショット成形した後、金型キャビティ表面を目視観察により評価した。金型付着物が見られなかったものを○、付着が見られたものを×として評価した。結果を表1に示す。
【0078】
(7)スクリュ付着物
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、140℃で3時間乾燥させた後、以下の手順で溶融混練し、黒色付着物の量を目視観察し、付着物の発生が著しいものを×、少ないものを○とした。結果を表1に示す。
手順1:東洋精機社製ラボプラストミルを用いて、シリンダー温度275℃、スクリュー回転数20rpmにて、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を10分間押し出す。
手順2:シリンダー温度275℃のままスクリューを停止し、シリンダー内のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を120分間滞留させる。
手順3:シリンダー温度275℃、スクリュー回転数21rpmとして、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物にて10分間パージする。
手順4:シリンダー温度275℃、スクリュー回転数60rpmとして、ポリエチレン樹脂にて5分間パージする。
手順5:シリンダー温度200℃、スクリュー回転数60rpmとして、トーヨーカラー社製パージ材「リオクリン-Z」にて5分間パージする。
手順6:スクリューを引き抜き、綿ネルで軽く拭き、パージ材を除去した後、スクリューの黒色付着物の量を観察する。
【0079】
【表1】
表中のN.D.は検出限界(0.1ppm)以下であることを示す。
含有量の単位は、質量部である。
【0080】
表1に示す通り、本発明の各実施例においては、臭素系芳香族難燃剤を含む難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性が向上することが確認された。また、通常、リン系難燃剤は臭素系芳香族難燃剤よりも耐トラッキング性が有利になると考えられているが、リン系難燃剤を添加した参考例では、カルボジイミド化合物を添加した場合に耐トラッキング性の悪化が見られており、本発明の方法は特に臭素系芳香族難燃剤を含む組成物において有用であることが確認された。なお、カルボジイミド化合物の配合量を10質量部とする以外は実施例1と同一組成にした場合、臭気発生による作業環境の悪化が確認された。
図1