(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】レーダ装置、対象物検出方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/58 20060101AFI20230831BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20230831BHJP
G01S 13/42 20060101ALI20230831BHJP
G01S 13/931 20200101ALN20230831BHJP
【FI】
G01S13/58 200
G01S13/34
G01S13/42
G01S13/931
(21)【出願番号】P 2020032750
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】眞子 凌
(72)【発明者】
【氏名】山村 隆介
(72)【発明者】
【氏名】大谷 栄介
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-158797(JP,A)
【文献】特開2018-115930(JP,A)
【文献】特開2018-115931(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0120593(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数帯の送信信号を送信する送信部と、
前記送信部によって送信され、1または複数の対象物によって反射された前記送信信号を受信信号として受信する受信部と、
前記受信信号に基づいて、1または複数の対象物に対する物理情報に対応する振幅値を算出する演算部と、
前記物理情報に含まれる相対速度情報の中から、所定以上の前記振幅値を含んでいる相対速度を検出する第1検出部と、
前記第1検出部により検出された相対速度において、前記物理情報に含まれる距離情報の前記振幅値が極大値となっている位置を検出する第2検出部と、
前記第2検出部により検出された前記極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する設定部と、
前記設定部により設定された前記抽出範囲について、物標からの到来角度の演算を行う角度演算部とを備えるレーダ装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記第2検出部により検出された極大値が複数あった場合、レーダ装置から他の所定の範囲内の距離にある極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記設定部は、前記第2検出部により検出された極大値が複数あった場合、レーダ装置に最も近い距離にある極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する請求項1または2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記設定部は、前記送信部により送信された送信信号の帯域幅に基づいて、前記抽出範囲を設定する請求項1または2に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記設定部は、前記極大値の振幅値に基づいて、設定した前記抽出範囲を変化させる請求項1から4のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記受信信号に基づいてノイズフロアの前記振幅値を算出する算出部を備え、
前記設定部は、前記極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して前記ノイズフロアの前記振幅値に達する距離までの範囲を候補範囲とし、前記極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して所定の距離までの範囲よりも前記候補範囲が狭い場合、当該候補範囲を前記抽出範囲として設定する請求項1から5のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記第1検出部により検出された相対速度において、前記振幅値の変化率を求める変化率算出部を備え、
前記設定部は、前記第2検出部により検出された極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して、前記変化率に基づいて決定される所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する請求項1または2に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記受信信号に基づいてノイズフロアの前記振幅値を算出する算出部を備え、
前記設定部は、前記極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して前記ノイズフロアの前記振幅値に達する距離までの範囲を候補範囲とし、前記極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して、前記変化率に基づいて決定される所定の距離までの範囲よりも前記候補範囲が狭い場合、当該候補範囲を前記抽出範囲として設定する請求項7に記載のレーダ装置。
【請求項9】
所定の周波数帯の送信信号を送信する送信工程と、
前記送信工程によって送信され、1または複数の対象物によって反射された前記送信信号を受信信号として受信する受信工程と、
前記受信信号に基づいて、1または複数の対象物に対する物理情報に対応する振幅値を算出する演算工程と、
前記物理情報に含まれる相対速度情報の中から、所定以上の前記振幅値を含んでいる相対速度を検出する第1検出工程と、
前記第1検出工程により検出された相対速度において、前記物理情報に含まれる距離情報の前記振幅値が極大値となっている位置を検出する第2検出工程と、
前記第2検出工程により検出された前記極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する設定工程と、
前記設定工程により設定された前記抽出範囲について、物標からの到来角度の演算を行う角度演算工程とを備える対象物検出方法。
【請求項10】
コンピュータに、
所定の周波数帯の送信信号を送信する送信工程と、
前記送信工程によって送信され、1または複数の対象物によって反射された前記送信信号を受信信号として受信する受信工程と、
前記受信信号に基づいて、1または複数の対象物に対する物理情報に対応する振幅値を算出する演算工程と、
前記物理情報に含まれる相対速度情報の中から、所定以上の前記振幅値を含んでいる相対速度を検出する第1検出工程と、
前記第1検出工程により検出された相対速度において、前記物理情報に含まれる距離情報の前記振幅値が極大値となっている位置を検出する第2検出工程と、
前記第2検出工程により検出された前記極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する設定工程と、
前記設定工程により設定された前記抽出範囲について、物標からの到来角度の演算を行う角度演算工程と、を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置、対象物検出方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、抽出部によって抽出されたピークに対応する物標が静止物に相当すると推定される場合に、信号レベルが閾値以上である所定幅を有するならば、当該ピークに低速の移動物に対応するピークが埋もれている可能性があると判定するレーダ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に係るレーダ装置では、信号レベルが閾値以上の所定幅を有するか否かによって、低速の移動物に対応するピークが埋もれている可能性の判定を行うものである。例えば、反射信号が微弱なターゲット(対象物)の近傍に反射信号が強力な物標が存在している場合、この物標の反射信号の裾の部分(信号レベルが閾値以下の部分)に対象物の反射信号が埋もれている可能性がある。このような場合において、特許文献1に係るレーダ装置では、対象物の反射信号を捉えることができず、対象物の検出が困難となる。
【0005】
本願発明では、強反射物が対象物近傍に存在した場合でも、精度よく、効率的に対象物を検出することができるレーダ装置、対象物検出方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るレーダ装置は、所定の周波数帯の送信信号を送信する送信部と、前記送信部によって送信され、1または複数の対象物によって反射された前記送信信号を受信信号として受信する受信部と、前記受信信号に基づいて、1または複数の対象物に対する物理情報に対応する振幅値を算出する演算部と、前記物理情報に含まれる相対速度情報の中から、所定以上の前記振幅値を含んでいる相対速度を検出する第1検出部と、前記第1検出部により検出された相対速度において、前記物理情報に含まれる距離情報の前記振幅値が極大値となっている位置を検出する第2検出部と、前記第2検出部により検出された前記極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する設定部と、前記設定部により設定された前記抽出範囲について、物標からの到来角度の演算を行う角度演算部とを備える構成である。
【0007】
本開示に係るレーダ装置は、上記開示において、前記設定部は、前記第2検出部により検出された極大値が複数あった場合、レーダ装置から他の所定の範囲内の距離にある極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する構成である。
【0008】
本開示に係るレーダ装置は、上記開示において、前記設定部は、前記第2検出部により検出された極大値が複数あった場合、レーダ装置に最も近い距離にある極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する構成である。
【0009】
本開示に係るレーダ装置は、上記開示において、前記設定部は、前記送信部により送信された送信信号の帯域幅に基づいて、前記抽出範囲を設定する構成である。
【0010】
本開示に係るレーダ装置は、上記開示において、前記設定部は、前記極大値の振幅値に基づいて、設定した前記抽出範囲を変化させる構成である。
【0011】
本開示に係るレーダ装置は、上記開示において、前記受信信号に基づいてノイズフロアの前記振幅値を算出する算出部を備え、前記設定部は、前記極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して前記ノイズフロアの前記振幅値に達する距離までの範囲を候補範囲とし、前記極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して所定の距離までの範囲よりも前記候補範囲が狭い場合、当該候補範囲を前記抽出範囲として設定する構成である。
【0012】
本開示に係るレーダ装置は、上記開示において、前記第1検出部により検出された相対速度において、前記振幅値の変化率を求める変化率算出部を備え、前記設定部は、前記第2検出部により検出された極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して、前記変化率に基づいて決定される所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する構成である。
【0013】
本開示に係るレーダ装置は、上記開示において、前記受信信号に基づいてノイズフロアの前記振幅値を算出する算出部を備え、前記設定部は、前記極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して前記ノイズフロアの前記振幅値に達する距離までの範囲を候補範囲とし、前記極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して、前記変化率に基づいて決定される所定の距離までの範囲よりも前記候補範囲が狭い場合、当該候補範囲を前記抽出範囲として設定する構成である。
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る対象物検出方法は、所定の周波数帯の送信信号を送信する送信工程と、前記送信工程によって送信され、1または複数の対象物によって反射された前記送信信号を受信信号として受信する受信工程と、前記受信信号に基づいて、1または複数の対象物に対する物理情報に対応する振幅値を算出する演算工程と、前記物理情報に含まれる相対速度情報の中から、所定以上の前記振幅値を含んでいる相対速度を検出する第1検出工程と、前記第1検出工程により検出された相対速度において、前記物理情報に含まれる距離情報の前記振幅値が極大値となっている位置を検出する第2検出工程と、前記第2検出工程により検出された前記極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する設定工程と、前記設定工程により設定された前記抽出範囲について、物標からの到来角度の演算を行う角度演算工程とを備える。
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るプログラムは、コンピュータに、所定の周波数帯の送信信号を送信する送信工程と、前記送信工程によって送信され、1または複数の対象物によって反射された前記送信信号を受信信号として受信する受信工程と、前記受信信号に基づいて、1または複数の対象物に対する物理情報に対応する振幅値を算出する演算工程と、前記物理情報に含まれる相対速度情報の中から、所定以上の前記振幅値を含んでいる相対速度を検出する第1検出工程と、前記第1検出工程により検出された相対速度において、前記物理情報に含まれる距離情報の前記振幅値が極大値となっている位置を検出する第2検出工程と、前記第2検出工程により検出された前記極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する設定工程と、前記設定工程により設定された前記抽出範囲について、物標からの到来角度の演算を行う角度演算工程と、を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、強反射物が対象物近傍に存在した場合でも、精度よく、効率的に対象物を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、第1実施例に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、抽出範囲の設定についての説明に供する図である。
【
図3】
図3は、抽出範囲を設定する手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、振幅値に基づいて、抽出範囲を変化させる処理についての説明に供する図である。
【
図5】
図5は、振幅値に基づいて、抽出範囲を設定する手順を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、振幅値に対する抽出係数が規定されているテーブルt1の一例を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、第2実施例に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、ノイズフロアの振幅値を考慮して抽出範囲を設定する手順を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、ノイズフロアの振幅値(N)に対する抽出範囲(dn)が規定されているテーブルt2の一例を模式的に示す図である。
【
図10】
図10は、ノイズフロアの振幅値(N)を考慮して抽出範囲を設定する場合の処理についての説明に供する図である。
【
図11】
図11は、第3実施例に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、合成信号の振幅値の変化率に基づいて抽出範囲を設定する場合の処理についての説明に供する図である。
【
図13】
図13は、合成信号の振幅値の変化率に基づいて抽出範囲を設定する手順を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、第4実施例に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【
図15】
図15は、合成信号の振幅値の変化率に基づいて求めた範囲と、ノイズフロアの振幅値を考慮して求めた範囲のいずれかを抽出範囲に設定する手順を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、対象物検出方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
(第1実施例について)
図1は、第1実施例に係るレーダ装置1の構成を示すブロック図である。なお、レーダ装置1は、周波数が連続的に増加または減少するチャープ波を送信して対象物T1に関する物理量(例えば、距離および相対速度)を検出するFCM(Fast Chirp Modulation)方式として説明するが、FCM方式に限定されず、パルス方式でもよい。
【0020】
レーダ装置1は、
図1に示すように、送信部2と、受信部3と、演算部4と、第1検出部5と、第2検出部6と、設定部7と、角度演算部8と、記録部9と、ADC(Analog to Digital Converter)10とを備える。レーダ装置1は、例えば、自動車等の車両に搭載され、車両の周囲に存在する他の車両、歩行者、障害物等の対象物を検出する。具体的には、レーダ装置1は、自動車のリアバンパの内側に配置される。レーダ装置1がリアバンパの内側に配置された場合には、レーダ装置1によって検出された対象物の情報は、後方駐車支援および後方衝突予測になどに利用される。なお、レーダ装置1が配置される場所は、リアバンパの内側に限定されず、フロントバンパの内側でもよいし、リアバンパの内側とフロントバンパの内側の双方に配置されてもよい。
【0021】
送信部2は、所定の周波数帯の送信信号を送信する。具体的には、送信部2は、送信アンテナ21と、送信制御部22と、信号生成部23と、発振器24とを備える。なお、送信部2は、異なる周波数帯の送信信号を2種類以上送信する構成でもよい。
【0022】
送信制御部22は、信号生成部23を制御する。信号生成部23は、送信制御部22の制御に基づいて所定の周波数の送信信号(例えば、チャープ信号)を生成する。発振器24は、送信信号を所定の高周波信号に変調する。送信アンテナ21は、高周波信号に変調された送信信号を空間に放射する。なお、送信アンテナ21は、少なくとも1つ以上で構成される。
【0023】
受信部3は、送信部2によって送信され、1または複数の対象物によって反射された送信信号を受信信号として受信する。具体的には、受信部3は、受信アンテナ31と、ミキサ32とを備える。受信アンテナ31は、対象物T1で反射された信号を受信する。なお、受信アンテナ31は、少なくとも1つ以上で構成される。ミキサ32は、受信信号と送信信号をミキシングし、レーダ装置1と対象物T1との距離に比例したビート周波数をもつビート信号を生成する。
【0024】
ADC10は、受信部3(ミキサ32)から供給されたアナログ信号のビート信号をデジタル信号に変換する。
【0025】
演算部4は、受信信号に基づいて、1または複数の対象物に対する物理情報に対応する振幅値(信号強度)を算出する。具体的には、演算部4は、距離演算部41と、速度演算部42とにより構成される。
【0026】
距離演算部41は、受信信号R1に基づいて、1または複数の対象物T1との距離情報を算出する。FCM方式の場合には、距離演算部41は、送信信号S1と受信信号R1から生成したビート信号の周波数に基づいて、1または複数の対象物との距離情報を算出する。距離演算部41は、算出した距離情報を記録部9に記録する。
【0027】
ここで、距離情報を算出する処理手順について説明する。ADC10は、ミキサ32から供給されたアナログ信号のビート信号を、予め定められているサンプリング数Nに基づいて、デジタル信号に変換する。
【0028】
また、ビート信号のビート周波数は、距離に比例する。距離演算部41は、ADC10でデジタル信号に変換されたビート信号を、例えば、FFT(Fast Fourier Transform)解析する。FFT解析により、周波数情報frが得られる。距離演算部41は、得られた周波数情報frを距離情報に相当する距離インデックスに変換する。なお、所定の範囲の距離情報がひとつの距離インデックスに変換されている。このとき、各距離インデックスに対応する振幅情報を合わせて得ることができる。
【0029】
ここで、振幅情報は複素信号である。実際には、ミキサ32から出力される信号は、I成分信号(実信号)とQ成分信号(複素信号)に復調されている。ビート信号は、実信号と複素信号のいずれでもよい。ビート信号が実信号の場合は、FFT解析を行うことで複素信号(振幅情報)を得ることができる。
【0030】
距離演算部41は、受信アンテナ31ごと(アンテナ番号ごと)に各チャープ単位でFFT解析を行い、得られた周波数情報frを距離インデックスに変換する。距離演算部41は、アンテナ番号、チャープ番号、距離インデックスごとに、得られた振幅情報Irを記録部9に記録する。
【0031】
速度演算部42は、受信信号R1に基づいて、1または複数の対象物との相対速度情報を算出する。FCM方式の場合には、速度演算部42は、送信信号S1と受信信号R1から生成したビート信号の位相変化に基づいて、1または複数の対象物との相対速度情報を算出する。速度演算部42は、算出した相対速度情報を記録部9に記録する。なお、本実施例では、速度演算部42は、距離演算部41により算出され、記録部9に記録されている1または複数の対象物との距離情報に基づいて、1または複数の対象物との相対速度情報を算出する構成であるとして説明する。
【0032】
ここで、速度演算部42により相対速度情報を算出する処理手順について説明する。レーダ装置1と対象物T1との間に相対速度がある場合は、ドップラー効果によりチャープ信号間で周波数がシフトする。速度演算部42は、記録部9から、各アンテナ番号について、距離インデックスごとにチャープ番号の数だけ振幅情報を取り出し、取り出した振幅情報を、例えば、FFT解析する。FFT解析により、周波数情報fsが得られる。速度演算部42は、得られた周波数情報fsを相対速度情報に相当する速度インデックスに変換する。なお、所定の範囲の相対速度情報がひとつの速度インデックスに変換されている。このとき、各速度インデックス対応する振幅情報Isを合わせて得ることができる。
【0033】
速度演算部42は、アンテナ番号ごとに各距離インデックス単位でFFT解析を行い、得られた周波数情報fsを速度インデックスに変換する。速度演算部42は、アンテナ番号、距離インデックス、速度インデックスごとに、得られた振幅情報を記録部9に記録する。
【0034】
第1検出部5は、物理情報に含まれる相対速度情報の中から、所定以上の振幅値を含んでいる相対速度を検出する。具体的には、第1検出部5は、速度インデックス対振幅情報に対してノイズ判定を行う。ノイズ判定は、例えば、CFAR(Constant False Alarm Rate)などの所定の方式を用いて行われる。第1検出部5は、この判定によってノイズを除去し、所定以上の振幅値となる速度インデックスを抽出する。
【0035】
第2検出部6は、第1検出部5により検出された相対速度において、物理情報に含まれる距離情報の振幅値が極大値となっている位置を検出する。具体的には、第2検出部6は、第1検出部5で抽出された速度インデックスごとに、距離対振幅情報の極大値を探索する。
【0036】
設定部7は、第2検出部6により検出された極大値の位置からレーダ装置1に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する。なお、このように当該極大値の位置を含む抽出範囲であれば、当該極大値の位置からを抽出範囲としてもよいし、当該極大値より遠方(レーダ装置1から遠のく方向)を含む範囲を抽出範囲としてもよい。
【0037】
また、設定部7は、第2検出部6により検出された極大値が複数あった場合、レーダ装置1から他の所定の範囲内の距離にある極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する構成でもよい。
【0038】
例えば、レーダ装置1から他の所定の範囲内の距離を、レーダ装置1から近距離(2〔m〕など)にした場合、レーダ装置1は、車両から近距離の範囲内に存在する対象物を検出することができる。なお、他の所定の範囲は、設定部7が設定する抽出範囲以上の範囲とすることができる。
【0039】
また、設定部7は、第2検出部6により検出された極大値が複数あった場合、レーダ装置に最も近い距離にある極大値の位置からレーダ装置に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する構成でもよい。
【0040】
よって、検出された複数の極大値の中からレーダ装置1に最も近い距離、つまり、車両に最も近い距離にある対象物(例えば、縁石や他の車両)を検知することができる。
【0041】
角度演算部8は、設定部7により設定された抽出範囲について、物標からの到来角度の演算を行う。角度演算部8は、例えば、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、DBF(Digital Beam Forming)、または、MUSIC(Multiple Signal Classification)などの所定の方式を用いて到来角度の演算を行う。
【0042】
ここで、設定部7による抽出範囲の設定について説明する。
図2は、抽出範囲の設定についての説明に供する図である。
図2では、「P11」は、第1対象物に関する信号S11の極大値を示し、「P12」は、第2対象物に関する信号の極大値を示し、「P13」は、合成信号の極大値を示し、「dw」は、抽出範囲(合成信号S13の極大値P13からレーダ装置に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲)を示す。
【0043】
設定部7は、第2検出部6によって得られた極大値の位置に基づいて、物標が埋もれている蓋然性のある範囲を抽出する。ここで、2つの対象物が存在した場合には、レーダ装置1に近い方の対象物を第1対象物とし、遠い方を第2対象物と定める。第1対象物と第2対象物がレーダ装置1の距離分解能未満の距離を隔てて存在する場合や、どちらかの反射信号のレベルが高い場合には、それぞれの対象物を区別することができず、これらは
図2の実線で示すような合成信号として検出される。
【0044】
合成信号からそれぞれの対象物を距離方向において分離する方法のひとつに、送信信号の周波数の帯域幅を広げ距離分解能を向上させる方法がある。しかし、送信信号の帯域幅を広げることは、他の受信機器のノイズ源となってしまう場合や、受信部3において広帯域で複雑な信号処理が必要となる場合があるため、送信信号の周波数の帯域幅を大きく拡大せず、距離方向において物標に相当する信号を分離することが好ましい。
【0045】
そこで、本発明では、複数の対象物が存在した場合において、効率的にレーダ装置に距離が近い対象物を検出するための処理を行うために、角度演算部8で用いる抽出範囲(dw)の設定を設定部7で行う。角度演算部8は、設定された抽出範囲に基づいて、角度の演算処理を行うことで、距離方向において物標に相当する信号を分離する。
【0046】
(第1の設定手順について)
ここで、第1の抽出範囲を設定する手順について説明する。
図3は、抽出範囲を設定する手順を示すフローチャートである。
【0047】
ステップST11において、送信部2は、所定の周波数の送信信号S1を生成し、送信信号S1を空間に放射する送信処理を行う。
【0048】
ステップST12において、受信部3は、送信部2によって送信され、1または複数の対象物によって反射された信号を受信信号R1として受信する受信処理を行う。
【0049】
ステップST13において、演算部4は、距離演算を行う。具体的には、距離演算部41は、受信信号R1に基づいて、1または複数の対象物T1との距離情報を算出する。
【0050】
ステップST14において、演算部4は、速度演算を行う。具体的には、速度演算部42は、受信信号R1に基づいて、1または複数の対象物との相対速度情報を算出する。
【0051】
ステップST15において、第1検出部5は、速度のノイズ判定処理を行う。具体的には、第1検出部5は、CFARなどの所定の方式を用いて、速度インデックス対振幅情報に対してノイズ判定を行う。
【0052】
ステップST16において、第2検出部6は、第1検出部5による検出結果に基づいて、ピーク速度を記録する。
【0053】
ステップST17において、第2検出部6は、ピーク速度ごとに距離ピークの探索を行う。具体的には、第2検出部6は、第1検出部5で抽出された速度インデックスに対して、距離対振幅情報のピーク(極大値)を探索する。
【0054】
ステップST18において、設定部7は、送信信号の帯域幅から抽出範囲(dw)を決定(設定)する。
【0055】
ここで、設定部7の具体的な動作について説明する。設定部7は、送信部2により送信された送信信号の帯域幅に基づいて、抽出範囲(dw)を設定する。
【0056】
図2では、第2対象物である強反射物(例えば、ガードレールなど)からの反射信号(
図2中の信号S12)によって、第2対象物よりもレーダ装置1に近い側にある第1対象物(例えば、縁石など)からの反射信号(
図2中の信号S11)が埋もれた場合に、送信信号の帯域幅に基づいて抽出範囲(dw)を設定する例を模式的に示している。
【0057】
図2の横軸は、距離を示す。また、
図2の縦軸は、対象物によって反射される反射強度を振幅値で示している。
【0058】
また、cを光速、Bを送信信号の帯域幅とすると、距離分解能d_Resは、(1)式で示すことができる。
d_Res=c/2B ・・・(1)
【0059】
(1)式に示すように、距離分解能は、帯域幅Bによって規定することができる。なお、抽出範囲(dw)の下限値は、帯域幅Bによって定められる分解能に基づいて規定される。また、抽出範囲(dw)の上限値は、第2対象物に関する信号のピークP12に限定されず、検出対象である第1対象物の信号レベルや計算負荷など任意の条件で変動させることができる。
【0060】
ステップST19において、角度演算部8は、設定部7により設定された抽出範囲(dw)について、角度演算処理を行う。
【0061】
ステップST20において、第2検出部6は、他にピーク速度が存在するかどうかを判断する。他にピーク速度が存在する場合(Yes)には、ステップST17に戻る。物標に相当すると判定された速度インデックスが複数存在する場合には、ステップST17からステップST19までの工程を繰り行い、すべての速度インデックスに対して処理を行う。また、他にピーク速度が存在しない場合(No)には、処理を終了する。
【0062】
このようにして、レーダ装置1は、所定の距離にある対象物を包含する抽出範囲を送信信号の帯域幅に基づいて設定し、この抽出範囲に基づいて角度演算処理を行うので、強反射物が対象物近傍に存在した場合でも、精度よく、効率的に対象物を検出することができる。また、レーダ装置1は、合成信号の全範囲を角度演算の対象にしないため、角度演算部8の処理負担を軽減することができ、効率的に所定の距離にある対象物を検出することができる。
【0063】
また、設定部7は、極大値の振幅値に基づいて、設定した抽出範囲を変化させる構成でもよい。
図4は、振幅値(信号強度)に基づいて、抽出範囲を変化させる処理についての説明に供する図である。
【0064】
図4に示すように、設定部7は、振幅値の大きい合成信号S21の抽出範囲(dm11)よりも、振幅値の小さい合成信号S22の抽出範囲(dm12)が小さくなる様に設定する。
【0065】
(第2の設定手順について)
つぎに、振幅値(信号強度)に基づいて、抽出範囲を設定する第2の設定手順について説明する。
図5は、振幅値に基づいて、抽出範囲を設定する手順を示すフローチャートである。なお、
図3に示す第1の設定手順と同一の工程については同一のステップ番号を付し、詳細な説明は省略する。
【0066】
ステップST11~ステップST18は、第1の設定手順と同様である。
【0067】
ステップST21において、設定部7は、振幅値から抽出係数(k)を決定する。設定部7は、合成信号の振幅値に比例した抽出係数(k)を決定する。抽出係数(k)は、振幅値が大きいほど大きな値とすることができる。
【0068】
図6は、振幅値に対する抽出係数が規定されているテーブルt1の一例を模式的に示す図である。このテーブルt1は、例えば、記録部9に記録されている。設定部7は、テーブルt1を参照し、合成信号の極大値の振幅値に対応する抽出係数(k)を決定する。なお、テーブルt1を参照して抽出係数(k)を決定する構成ではなく、所定の演算式に合成信号の極大値の振幅値を入力して抽出係数(k)を算出する構成でもよい。
【0069】
ステップST22において、設定部7は、ステップST18の工程で決定された抽出範囲(dw)と、ステップST21の工程で決定された抽出係数(k)から抽出範囲(dm)を算出する。設定部7は、例えば、(2)式により抽出範囲(dm)を算出する。
dm=dw×k ・・・(2)
【0070】
ステップST19とステップST20とは、第1の設定手順と同様である。
【0071】
このようにして、レーダ装置1は、送信信号の帯域幅と、合成信号の極大値の振幅値から決定される抽出係数(k)とに基づいて、所定の距離にある対象物を包含する抽出範囲を設定し、この設定した抽出範囲に基づいて角度演算処理を行うので、強反射物が対象物近傍に存在した場合でも、精度よく、効率的に対象物を検出することができる。また、レーダ装置1は、合成信号の全範囲を角度演算の対象にしないため、角度演算部8の処理負担を軽減することができ、効率的に所定の距離にある対象物を検出することができる。
【0072】
なお、より効果的に距離方向において物標に相当する信号を分離するために、上述のように、第2検出部6が探索した距離対振幅情報のピーク(極大値)が大きいほど、抽出範囲が大きくなる様に設定することが好ましい。
【0073】
また、抽出範囲(dm)は、(2)式に示すように抽出範囲(dw)と比例関係にある構成を示したが、比例関係に限らず、抽出範囲(dw)が大きくなるごとに、抽出範囲(dm)が大きくなる様に規定されたテーブルや関係式を用いるようにしてもよい。
【0074】
(第2実施例について)
演算部4で処理する信号にはノイズが重畳されていることがある。このような場合に、ノイズフロアの振幅値を考慮して抽出範囲を設定する構成でもよい。以下に、ノイズフロアの振幅値を考慮して抽出範囲を設定する第2実施例に係るレーダ装置100の構成と動作について説明する。
【0075】
図7は、第2実施例に係るレーダ装置100の構成を示すブロック図である。なお、以下では、上述したレーダ装置1と同様の構成要素には同一の番号を付し、詳細な説明を省略する。
【0076】
レーダ装置100は、送信部2と、受信部3と、ADC10と、演算部4と、第1検出部5と、第2検出部6と、設定部7と、角度演算部8と、記録部9と、算出部11とを備える。
【0077】
算出部11は、受信信号に基づいてノイズフロアの振幅値を算出する。例えば、算出部11は、物標が存在しないときの信号強度の平均からノイズフロアの振幅値を求めてもよい。なお、
図7に示す例では、算出部11は、受信部3から出力される受信信号に基づいてノイズフロアの振幅値を算出しているが、この構成に限定されない。
【0078】
設定部7は、極大値の位置からレーダ装置100に近づく方向に対してノイズフロアの振幅値に達する距離までの範囲を候補範囲とし、極大値の位置からレーダ装置100に近づく方向に対して所定の距離までの範囲よりも候補範囲が狭い場合、当該候補範囲を抽出範囲として設定する。
【0079】
(第3の設定手順について)
ここで、ノイズフロアの振幅値を考慮して抽出範囲を設定する第3の設定手順について説明する。
図8は、ノイズフロアの振幅値を考慮して抽出範囲を設定する手順を示すフローチャートである。なお、
図3に示す第1の設定手順および
図5に示す第2の設定手順と同一の工程については同一のステップ番号を付し、詳細な説明は省略する。
【0080】
ステップST11~ステップST18は、第1の設定手順と同様である。
【0081】
ステップST31において、算出部11は、受信信号に基づいてノイズフロアの振幅値を算出する。
【0082】
ステップST32において、設定部7は、ノイズフロアから抽出範囲(dn)を決定する。
【0083】
図9は、ノイズフロアの振幅値(N)に対する抽出範囲(dn)が規定されているテーブルt2の一例を模式的に示す図である。このテーブルt2は、例えば、記録部9に記録されている。設定部7は、テーブルt2を参照し、ノイズフロアの振幅値(N)に対応する抽出範囲(dn)を決定する。なお、テーブルt2を参照して抽出範囲(dn)を決定する構成ではなく、所定の演算式にノイズフロアの振幅値(N)を入力して抽出範囲(dn)を算出する構成でもよい。
【0084】
ステップST21とステップST22は、第2の設定手順と同様である。
【0085】
ステップST33において、設定部7は、ステップST32の工程で決定された抽出範囲(dn)と、ステップST22の工程で決定された抽出範囲(dm)とを比較し、「dm<dn」であるかどうかを判断する。「dm<dn」である場合(Yes)には、ステップST34に進み、「dm<dn」でない場合(No)、つまり、「dm>dn」の場合には、ステップST35に進む。
【0086】
ステップST34において、設定部7は、「dm」を抽出範囲に決定する。
【0087】
ステップST35において、設定部7は、「dn」を抽出範囲に決定する。
【0088】
ここで、ステップST33の工程からステップST35の工程について詳述する。合成信号S31の極大値の位置からノイズフロアの振幅値(N)に達するまでの距離を含む範囲を「dn」とする。送信信号の帯域幅から算出した抽出範囲(dw)と抽出係数(k)から算出された範囲を「dm」とする。「dm>dn」の場合には、設定部7は、「dn」を抽出範囲に決定し、「dm<dn」の場合には、「dm」を抽出範囲に決定する。
【0089】
なお、抽出係数(k)に基づいて抽出範囲を決定しない構成でもよい。
図10は、ノイズフロアの振幅値(N)を考慮して抽出範囲を設定する場合の処理についての説明に供する図である。
【0090】
この構成の場合、送信信号の帯域幅から算出した範囲である「dw」と、合成信号S31の極大値の位置からノイズフロアの振幅値(N)に達するまでの距離を含む範囲である「dn」との関係が、「dw>dn」の場合には、設定部7は、「dn」を抽出範囲に決定し(
図10(a))、「dw<dn」の場合には、「dw」を抽出範囲に決定する(
図10(b))。
【0091】
ステップST19およびステップST20は、第1の設定手順と同様である。
【0092】
このようにして、レーダ装置100は、送信信号の帯域幅から算出した範囲「dw」、または、「dw」と抽出係数(k)から算出した範囲「dm」よりも、合成信号S31の極大値の位置からノイズフロアの振幅値(N)に達するまでの距離を含む範囲「dn」が小さければ、「dn」を所定の距離にある対象物を包含する抽出範囲に設定し、この抽出範囲に基づいて角度演算処理を行う。よって、レーダ装置100は、ノイズフロアの影響を抑制し、強反射物が対象物近傍に存在した場合でも、精度よく、効率的に対象物を検出することができる。また、レーダ装置1は、合成信号の全範囲を角度演算の対象にしないため、角度演算部8の処理負担を軽減することができ、効率的に所定の距離にある対象物を検出することができる。
【0093】
(第3実施例について)
また、合成信号の振幅値の変化率に基づいて抽出範囲を設定する構成でもよい。以下に、合成信号の振幅値の変化率に基づいて抽出範囲を設定する第3実施例に係るレーダ装置200の構成と動作について説明する。
【0094】
図11は、第3実施例に係るレーダ装置200の構成を示すブロック図である。なお、以下では、上述したレーダ装置1およびレーダ装置100と同様の構成要素には同一の番号を付し、詳細な説明を省略する。
【0095】
レーダ装置200は、送信部2と、受信部3と、ADC10と、演算部4と、第1検出部5と、第2検出部6と、設定部7と、角度演算部8と、記録部9と、変化率算出部12とを備える。
【0096】
変化率算出部12は、第1検出部5により検出された相対速度において、合成信号の振幅値の変化率を算出する。設定部7は、第2検出部6により検出された極大値の位置からレーダ装置200に近づく方向に対して、変化率算出部12で算出した変化率に基づいて決定される所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する。
【0097】
図12は、合成信号の振幅値の変化率に基づいて抽出範囲を設定する場合の処理についての説明に供する図である。合成信号S43は、第1対象物に関する信号S41と第2対象物に関する信号S42とを合成した信号である。また、合成信号S43の波形は、レーダ装置200に近い位置であって、急峻に立ち上がった後、緩やかに変化し、再び、急峻に立ち上がっている。ここで、レーダ装置200に近い位置であって、急峻に立ち上がって、緩やかに変化し始める地点(以下、立ち上がり地点という)に物標が存在している可能性がある。
【0098】
そこで、設定部7は、レーダ装置200に最も近い立ち上がり地点を所定の変化率を満たした地点とし、この地点からレーダ装置200側に所定距離だけ近づいた位置から合成信号S43の極大値の位置までの範囲を抽出範囲(ds)として設定する。
【0099】
(第4の設定手順について)
ここで、合成信号の振幅値の変化率に基づいて抽出範囲を設定する第4の設定手順について説明する。
図13は、合成信号の振幅値の変化率に基づいて抽出範囲を設定する手順を示すフローチャートである。なお、
図3に示す第1の設定手順と同一の工程については同一のステップ番号を付し、詳細な説明は省略する。
【0100】
ステップST11~ステップST17は、第1の設定手順と同様である。
【0101】
ステップST41において、変化率算出部12は、第1検出部5により検出された相対速度において、合成信号の振幅値の変化率を求める。
【0102】
ステップST42において、変化率算出部12は、ステップST41の工程で求めた変化率に基づいて、立ち上がり地点を算出する。
【0103】
ステップST43において、設定部7は、ステップST42の工程で算出した立ち上がり地点からレーダ装置200側に所定距離だけ近づいた位置から合成信号S43の極大値の位置までの範囲を抽出範囲(ds)として設定する。
【0104】
ステップST19とステップST20とは、第1の設定手順と同様である。
【0105】
このようにして、レーダ装置200は、合成信号の振幅値の変化率に基づいて、所定の距離にある対象物を包含する抽出範囲を設定し、この抽出範囲に基づいて角度演算処理を行うので、強反射物が対象物近傍に存在した場合でも、精度よく、効率的に対象物を検出することができる。また、レーダ装置1は、合成信号の全範囲を角度演算の対象にしないため、角度演算部8の処理負担を軽減することができ、効率的に所定の距離にある対象物を検出することができる。
【0106】
(第4実施例について)
合成信号の振幅値の変化率に基づいて求めた範囲と、ノイズフロアの振幅値を考慮して求めた範囲のいずれかを抽出範囲に設定する構成でもよい。以下に、合成信号の振幅値の変化率に基づいて求めた範囲と、ノイズフロアの振幅値を考慮して求めた範囲のいずれかを抽出範囲に設定する第4実施例に係るレーダ装置300の構成と動作について説明する。なお、第4実施例は、第2実施例と第3実施例を組み合わせた実施例である。
【0107】
図14は、第4実施例に係るレーダ装置300の構成を示すブロック図である。なお、以下では、第1実施例に係るレーダ装置1、第2実施例に係るレーダ装置100および第3実施例に係るレーダ装置200と同様の構成要素には同一の番号を付し、詳細な説明を省略する。
【0108】
レーダ装置300は、送信部2と、受信部3と、ADC10と、演算部4と、第1検出部5と、第2検出部6と、設定部7と、角度演算部8と、記録部9と、算出部11と、変化率算出部12とを備える。
【0109】
算出部11は、受信信号に基づいてノイズフロアの振幅値を算出する。例えば、算出部11は、物標が存在しないときの信号強度の平均からノイズフロアの振幅値を算出してもよい。また、変化率算出部12は、第1検出部5により検出された相対速度において、合成信号の振幅値の変化率を算出する。
【0110】
設定部7は、極大値の位置からレーダ装置300に近づく方向に対してノイズフロアの振幅値に達する距離までの範囲を候補範囲(後述する「dn」に相当する範囲)とし、極大値の位置からレーダ装置300に近づく方向に対して、変化率に基づいて決定される所定の距離までの範囲(後述する「ds」に相当する範囲)よりも候補範囲が狭い場合、当該候補範囲を抽出範囲として設定する。
【0111】
つまり、設定部7は、合成信号の極大値の位置からノイズフロアに達するまでの距離を「dn」とし、合成信号の振幅値の変化率に応じて定めた抽出範囲を「ds」としたとき、「ds>dn」の場合には、抽出範囲を「dn」に設定し、「ds<dn」の場合には、抽出範囲を「ds」に設定する。
【0112】
(第5の設定手順について)
ここで、合成信号の振幅値の変化率に基づいて求めた範囲と、ノイズフロアの振幅値を考慮して求めた範囲のいずれかを抽出範囲に設定する第5の設定手順について説明する。
図15は、合成信号の振幅値の変化率に基づいて求めた範囲と、ノイズフロアの振幅値を考慮して求めた範囲のいずれかを抽出範囲に設定する手順を示すフローチャートである。なお、
図3に示す第1の設定手順、
図8に示す第3の設定手順、
図13に示す第4の設定手順と同一の工程については同一のステップ番号を付し、詳細な説明は省略する。
【0113】
ステップST11~ステップST17は、第1の設定手順と同様である。ステップST31は、第3の設定手順と同様である。ステップST41~ステップST43は、第4の設定手順と同様である。ステップST32は、第3の設定手順と同様である。
【0114】
ステップST51において、設定部7は、ステップST32の工程で決定された抽出範囲(dn)と、ステップST43の工程で決定された抽出範囲(ds)とを比較し、「ds<dn」であるかどうかを判断する。「ds<dn」である場合(Yes)には、ステップST52に進み、「ds<dn」でない場合(No)、つまり、「ds>dn」の場合には、ステップST53に進む。
【0115】
ステップST52において、設定部7は、「ds」を抽出範囲に決定する。
【0116】
ステップST53において、設定部7は、「dn」を抽出範囲に決定する。
【0117】
ステップST19およびステップST20は、第1の設定手順と同様である。
【0118】
このようにして、レーダ装置300は、合成信号の極大値の位置からノイズフロアに達するまでの距離「dn」と、合成信号の振幅値の変化率に応じて定めた抽出範囲「ds」との関係が、「ds>dn」の場合には、抽出範囲を「dn」に設定し、「ds<dn」の場合には、抽出範囲を「ds」に設定し、この設定した抽出範囲に基づいて角度演算処理を行う。よって、レーダ装置300は、ノイズフロアの影響を抑制した抽出範囲と、合成信号の振幅値の変化率に応じて定めた抽出範囲のいずれかを用いて角度演算処理を行うので、強反射物が対象物近傍に存在した場合でも、精度よく、効率的に対象物を検出することができる。また、レーダ装置1は、合成信号の全範囲を角度演算の対象にしないため、角度演算部8の処理負担を軽減することができ、効率的に所定の距離にある対象物を検出することができる。
【0119】
(対象物検出方法について)
つぎに、強反射物が対象物近傍に存在した場合でも、精度よく、効率的に対象物を検出するレーダ装置1の対象物検出方法について説明する。
図16は、強反射物が対象物近傍に存在した場合でも、精度よく、効率的に対象物を検出する対象物検出方法の手順を示すフローチャートである。
【0120】
ステップST61において、送信部2は、所定の周波数帯の送信信号を送信する(送信工程)。
【0121】
ステップST62において、受信部3は、送信工程によって送信され、1または複数の対象物によって反射された送信信号を受信信号として受信する(受信工程)。
【0122】
ステップST63において、演算部4は、受信信号に基づいて、1または複数の対象物に対する物理情報に対応する振幅値を算出する(演算工程)。
【0123】
ステップST64において、第1検出部5は、物理情報に含まれる相対速度情報の中から、所定以上の振幅値を含んでいる相対速度を検出する(第1検出工程)。
【0124】
ステップST65において、第2検出部6は、第1検出工程により検出された相対速度において、物理情報に含まれる距離情報の振幅値が極大値となっている位置を検出する(第2検出工程)。
【0125】
ステップST66において、設定部7は、第2検出工程により検出された極大値の位置からレーダ装置1に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する(設定工程)。
【0126】
ステップST67において、角度演算部8は、設定工程により設定された抽出範囲について、物標からの到来角度の演算を行う(角度演算工程)。
【0127】
このような構成によれば、対象物検出方法は、所定の距離にある対象物を包含する抽出範囲を送信信号の帯域幅に基づいて設定し、この抽出範囲に基づいて角度演算処理を行うので、強反射物が対象物近傍に存在した場合でも、精度よく、効率的に対象物を検出することができる。また、対象物検出方法は、合成信号の全範囲を角度演算の対象にしないため、角度演算工程の処理負担を軽減することができ、効率的に所定の距離にある対象物を検出することができる。
【0128】
(プログラムについて)
強反射物が対象物近傍に存在した場合でも、精度よく、効率的に対象物を検出するためのプログラムは、主に以下の工程で構成されており、コンピュータ500(ハードウェア)によって実行される。
【0129】
工程1(送信工程):所定の周波数帯の送信信号を送信する工程。
【0130】
工程2(受信工程):送信工程によって送信され、1または複数の対象物によって反射された送信信号を受信信号として受信する工程。
【0131】
工程3(演算工程):受信信号に基づいて、1または複数の対象物に対する物理情報に対応する振幅値を算出する工程。
【0132】
工程4(第1検出工程):物理情報に含まれる相対速度情報の中から、所定以上の振幅値を含んでいる相対速度を検出する工程。
【0133】
工程5(第2検出工程):第1検出工程により検出された相対速度において、物理情報に含まれる距離情報の振幅値が極大値となっている位置を検出する工程。
【0134】
工程6(設定工程):第2検出工程により検出された極大値の位置からレーダ装置1に近づく方向に対して所定の距離までを含む範囲を抽出範囲として設定する工程。
【0135】
工程7(角度演算工程):設定工程により設定された抽出範囲について、物標からの到来角度の演算を行う工程。
【0136】
ここで、コンピュータ500の構成と動作について
図17を用いて説明する。
図17は、コンピュータ500の構成を示す図である。コンピュータ500は、
図17に示すように、プロセッサ501と、メモリ502と、ストレージ503と、入出力I/F504と、通信I/F505とがバスA上に接続されて構成されている。これらの各構成要素の協働により、本開示に記載される機能、および/または、方法を実現する。
【0137】
メモリ502は、RAM(Random Access Memory)で構成される。RAMは、揮発メモリまたは不揮発性メモリで構成されている。
【0138】
ストレージ503は、ROM(Read Only Memory)で構成される。ROMは、不揮発性メモリで構成されており、例えば、HDD(Hard Disc Drive)やSSD(Solid State Drive)、Flash Memoryにより実現される。ストレージ503は、上述した記録部9に相当する。ストレージ503には、上述した工程1~工程7で実現されるプログラムなどの各種のプログラムが格納されている。
【0139】
入出力I/F504には、RF回路600が接続されている。RF回路600には、1または複数の送信アンテナ21と、1または複数の受信アンテナ31とが接続されている。RF回路600は、所定の周波数の送信信号を生成する信号生成部23と、送信信号を所定の高周波信号に変調する発振器24と、受信信号と送信信号とをミキシングするミキサ32などの機能を有する。
【0140】
プロセッサ501は、コンピュータ500全体の動作を制御する。プロセッサ501は、ストレージ503からオペレーティングシステムや多様な機能を実現する様々なプログラムをメモリ502にロードし、ロードしたプログラムに含まれる命令を実行する演算装置である。
【0141】
具体的には、プロセッサ501は、ユーザの操作を受け付けた場合、ストレージ503に格納されているプログラム(例えば、本発明に係るプログラム)を読み出し、読み出したプログラムをメモリ502に展開し、プログラムを実行する。また、プロセッサ501が処理プログラムを実行することにより、送信制御部22と、ADC10と、演算部4(距離演算部41および速度演算部42)と、第1検出部5と、第2検出部6と、設定部7と、角度演算部8と、算出部11と、変化率算出部12の各機能が実現される。
【0142】
ここで、プロセッサ501の構成について説明する。プロセッサ501は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、これら以外の各種演算装置、またはこれらの組み合わせにより実現される。
【0143】
また、本開示に記載される機能、および/または、方法を実現するために、プロセッサ501、メモリ502およびストレージ503などの機能の一部または全部は、専用のハードウェアであるコンピュータ(以下、処理回路という)700で構成されてもよい。
図18は、処理回路700の構成を示す図である。処理回路700は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はこれらを組み合わせたものである。処理回路700には、RF回路600が接続されている。RF回路600には、1または複数の送信アンテナ21と、1または複数の受信アンテナ31とが接続されている。
【0144】
また、プロセッサ501は、単一の構成要素として説明したが、これに限られず、複数の物理的に別体のプロセッサの集合により構成されてもよい。本明細書において、プロセッサ501によって実行されるとして説明されるプログラムまたは当該プログラムに含まれる命令は、単一のプロセッサ501で実行されてもよいし、複数のプロセッサにより分散して実行されてもよい。また、プロセッサ501によって実行されるプログラムまたは当該プログラムに含まれる命令は、複数の仮想プロセッサにより実行されてもよい。
【0145】
通信I/F505は、所定の通信規格(例えば、CAN(Controller Area Network))に準拠したインターフェースであり、有線または無線により外部の上位装置(例えば、ECU(Electronic Control Unit)など)と通信を行う。
【0146】
このようにして、プログラムは、コンピュータ500,700で実行されることにより、所定の距離にある対象物を包含する抽出範囲を送信信号の帯域幅に基づいて設定し、この抽出範囲に基づいて角度演算処理を行うので、強反射物が対象物近傍に存在した場合でも、精度よく、効率的に対象物を検出することができる。また、プログラムは、合成信号の全範囲を角度演算の対象にしないため、角度演算工程の処理負担を軽減することができ、効率的に所定の距離にある対象物を検出することができる。
【0147】
以上、本願の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、本発明の開示の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0148】
1,100,200,300 レーダ装置
2 送信部
3 受信部
4 演算部
5 第1検出部
6 第2検出部
7 設定部
8 角度演算部
9 記録部
10 ADC
11 算出部
12 変化率算出部
21 送信アンテナ
22 送信制御部
23 信号生成部
24 発振器
31 受信アンテナ
32 ミキサ
41 距離演算部
42 速度演算部