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特許7340809ナノカーボン複合セラミックス及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】ナノカーボン複合セラミックス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/01 20060101AFI20230901BHJP
   C04B 41/86 20060101ALI20230901BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20230901BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20230901BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230901BHJP
【FI】
C04B35/01 300
C04B41/86 B
C04B41/87 L
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019069803
(22)【出願日】2019-04-01
(65)【公開番号】P2020169102
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、生物系特定産業技術研究支援センター 「知」の集積と活用の場による革新的技術創造促進事業(異分野融合発展研究) 産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】591033364
【氏名又は名称】ヤマキ電器株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000116622
【氏名又は名称】愛知県
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】坂田 一郎
(72)【発明者】
【氏名】古月 文志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一
(72)【発明者】
【氏名】小野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】小松山 沙織
(72)【発明者】
【氏名】内田 貴光
(72)【発明者】
【氏名】木村 和幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直哉
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/040065(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/120803(WO,A1)
【文献】特開2013-166682(JP,A)
【文献】特開2009-203102(JP,A)
【文献】特開2012-172903(JP,A)
【文献】特開2013-147542(JP,A)
【文献】特開2011-184285(JP,A)
【文献】特開2018-125412(JP,A)
【文献】特表2010-513175(JP,A)
【文献】特開2003-321554(JP,A)
【文献】特許第5147101(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-41/91
C01B 32/00-32/991
B32B 1/00-43/00
B82Y 30/00
B82Y 40/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粒子中にナノカーボン材料の50%以上が凝集体を構成することなく均一に分散し、
前記セラミックス粒子は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、コーディエライト、又は、これらの配合物を90重量%以上含有してなり、
前記ナノカーボン材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、又は、これらの配合物であり、
前記セラミックス粒子に対する前記ナノカーボン材料の添加量が、0.5重量%~5.0重量%の範囲内であり、
25℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線の放射率が80%以上であることを特徴とするナノカーボン複合セラミックス。
【請求項2】
セラミックス粒子中にナノカーボン材料の50%以上が凝集体を構成することなく均一に分散し、
前記セラミックス粒子は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、コーディエライト、又は、これらの配合物を90重量%以上含有してなり、
前記ナノカーボン材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、又は、これらの配合物であり、
前記セラミックス粒子に対する前記ナノカーボン材料の添加量が、0.5重量%~5.0重量%の範囲内であり、
300℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線の全放射率が85%以上であることを特徴とするナノカーボン複合セラミックス。
【請求項3】
前記ナノカーボン材料は、粒度分布がD90<50nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のナノカーボン複合セラミックス。
【請求項4】
前記ナノカーボン材料に加え、セルロースナノファイバーを含有してなることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載のナノカーボン複合セラミックス。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1つに記載のナノカーボン複合セラミックスを製造する方法であって、
前記セラミックス粒子からなるセラミックススラリーを調整する工程と、
前記ナノカーボン材料を含有し、粒度分布がD90<50nmであるナノカーボン‐水系分散液を調整する工程と、
前記セラミックススラリーに前記ナノカーボン‐水系分散液を混合して混合スラリーを調整する工程と、
前記混合スラリーから成形用材料を調整する工程と、
調整した成形用材料を所定の容器に収容して予備成形体を準備する工程と、
前記予備成形体をアルカリ固化反応、加熱硬化、又は、焼成する固化工程とを有することを特徴とするナノカーボン複合セラミックスの製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載のナノカーボン複合セラミックスを製造する方法であって、
前記セラミックス粒子からなるセラミックススラリーを調整する工程と、
前記ナノカーボン材料を含有し、粒度分布がD90<50nmであるナノカーボン‐水系分散液を調整する工程と、
前記セラミックススラリーに前記ナノカーボン‐水系分散液を混合して混合スラリーを調整する工程と、
前記混合スラリーから成形用材料を調整する工程と、
調整した成形用材料を所定の容器に収容して予備成形体を準備する工程と、
前記予備成形体をアルカリ固化反応、又は、加熱硬化する固化工程とを有することを特徴とするナノカーボン複合セラミックスの製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1つに記載のナノカーボン複合セラミックスを製造する方法であって、
前記セラミックス粒子からなるセラミックススラリーを調整する工程と、
前記ナノカーボン材料を含有し、粒度分布がD90<50nmであるナノカーボン‐水系分散液を調整する工程と、
前記セラミックススラリーに前記ナノカーボン‐水系分散液を混合して混合スラリーを調整する工程と、
前記混合スラリーを釉薬として別途成形したセラミックス予備成形体に施釉する工程と、
施釉したセラミックス予備成形体を焼成する固化工程とを有することを特徴とするナノカーボン複合セラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボン複合セラミックス及びその製造方法に関するものである。特に、広い波長域に亘って赤外線の放射率が高いナノカーボン複合セラミックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外線は、輻射により中間に介在する空気層を温めることなく対象物を直接加熱することができるので、エネルギー効率に優れた加熱法である。そのため、赤外線輻射による加熱方法は、暖房や乾燥など広い用途に使用されている。一方、物質から放射される赤外線の量は、物質固有のものであって赤外線の放射率で表される。また、物質の種類だけでなく、その表面状態、表面温度、波長によっても大きく変化する。
【0003】
また、近年においては、低温赤外線による加熱、暖房、乾燥にも関心が高まっている。例えば、野菜、椎茸、お茶、コメなどの農作物の乾燥に利用されるようになり、食物の風味を損なわない乾燥方法として着目されている。
【0004】
赤外線を放射する材料としては、炭素材料が知られており広く使用されてきた。しかし、炭素材料は、赤外線の放射率には優れるものの物性の点で使用し辛い場合も多い。そこで、物性に優れ赤外線の放射率が高くエネルギー効率に優れた材料として、セラミックス材料が広く使用されるようになってきた。例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニアなどの材料が多く使われている。
【0005】
しかし、広く使用されている従来のセラミックス材料においては、波長によって放射率の弱い領域がある。例えば、5μm以下の波長域、8~12μmの波長域、更には19μm以上の波長域で放射率が低下するものが多い。
【0006】
一方、物質が吸収する赤外線の波長域は、その物質固有のものである。例えば、赤外線照射による農作物の乾燥の場合、乾燥される農作物の種類により赤外線の吸収波長域が異なるので、同じ赤外線放射体を使用しても乾燥の程度に差が生じるという問題があった。
また、複数種類の農作物が混合された対象物を乾燥する場合、均一な乾燥ができないという問題があった。
【0007】
そのため、乾燥用の赤外線放射体として使用する際には、波長域の異なる赤外線放射体を使い分けたり、或いは、複数種類の赤外線放射体を組み合わせたりする必要が生じる。特に、エネルギーの低い低温赤外線乾燥においては、特に重要である。
【0008】
そこで、広い波長域に亘って赤外線の放射率が高い赤外線放射体が望まれている。例えば、下記特許文献1においては、セラミックス粒子の周りを覆うカーボン微粒子を有する赤外線放射用複合セラミックス材料が提案されている。この材料の赤外線放射率を低温赤外線ともいえる140℃で測定し、良好であると報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5147101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記特許文献1においては、セラミックス粒子の周りをカーボン微粒子で覆う操作に特殊な製造方法が必要である。また、セラミックス粒子の周りを覆うカーボン微粒子の粒径によって放射率が異なり、粒径を小さくしなければ5μm以下の波長域、及び8~10μmの波長域での放射率が低下するというデータが出ており、更に複雑な操作が必要である。
【0011】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、従来から赤外線放射体として利用されている汎用のセラミックス粒子にナノカーボンを複合して、従来の製造工程とほぼ同様の操作で製造することができ、広い波長域に亘って赤外線の放射率の高いナノカーボン複合セラミックス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、均質なナノカーボン‐水系分散液を利用することで、セラミックス粒子中にナノカーボン材料を均一に分散させることができ、上記目的を達成できることを見出し本発明の完成に至った。
【0013】
即ち、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスは、請求項1の記載によれば、
セラミックス粒子中にナノカーボン材料の50%以上が凝集体を構成することなく均一に分散し、
前記セラミックス粒子は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、コーディエライト、又は、これらの配合物を90重量%以上含有してなり、
前記ナノカーボン材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、又は、これらの配合物であり、
前記セラミックス粒子に対する前記ナノカーボン材料の添加量が、0.5重量%~5.0重量%の範囲内であり、
25℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線の放射率が80%以上であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスは、請求項2の記載によれば、
セラミックス粒子中にナノカーボン材料の50%以上が凝集体を構成することなく均一に分散し、
前記セラミックス粒子は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、コーディエライト、又は、これらの配合物を90重量%以上含有してなり、
前記ナノカーボン材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、又は、これらの配合物であり、
前記セラミックス粒子に対する前記ナノカーボン材料の添加量が、0.5重量%~5.0重量%の範囲内であり、
300℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線の全放射率が85%以上であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1又は2に記載のナノカーボン複合セラミックスであって、
前記ナノカーボン材料は、粒度分布がD90<50nmであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、請求項の記載によれば、請求項1~3のいずれか1つに記載のナノカーボン複合セラミックスであって、
前記ナノカーボン材料に加え、セルロースナノファイバーを含有してなることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスの製造方法は、請求項の記載によれば、
請求項1~3のいずれか1つに記載のナノカーボン複合セラミックスを製造する方法であって、
前記セラミックス粒子からなるセラミックススラリーを調整する工程と、
前記ナノカーボン材料を含有し、粒度分布がD90<50nmであるナノカーボン‐水系分散液を調整する工程と、
前記セラミックススラリーに前記ナノカーボン‐水系分散液を混合して混合スラリーを調整する工程と、
前記混合スラリーから成形用材料を調整する工程と、
調整した成形用材料を所定の容器に収容して予備成形体を準備する工程と、
前記予備成形体をアルカリ固化反応、加熱硬化、又は、焼成する固化工程とを有することを特徴とする。
また、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスの製造方法は、請求項6の記載によれば、
請求項4に記載のナノカーボン複合セラミックスを製造する方法であって、
前記セラミックス粒子からなるセラミックススラリーを調整する工程と、
前記ナノカーボン材料を含有し、粒度分布がD90<50nmであるナノカーボン‐水系分散液を調整する工程と、
前記セラミックススラリーに前記ナノカーボン‐水系分散液を混合して混合スラリーを調整する工程と、
前記混合スラリーから成形用材料を調整する工程と、
調整した成形用材料を所定の容器に収容して予備成形体を準備する工程と、
前記予備成形体をアルカリ固化反応、又は、加熱硬化する固化工程とを有することを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスの製造方法は、請求項の記載によれば、
請求項1~3のいずれか1つに記載のナノカーボン複合セラミックスを製造する方法であって、
前記セラミックス粒子からなるセラミックススラリーを調整する工程と、
前記ナノカーボン材料を含有し、粒度分布がD90<50nmであるナノカーボン‐水系分散液を調整する工程と、
前記セラミックススラリーに前記ナノカーボン‐水系分散液を混合して混合スラリーを調整する工程と、
前記混合スラリーを釉薬として別途成形したセラミックス予備成形体に施釉する工程と、
施釉したセラミックス予備成形体を焼成する固化工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
上記構成によれば、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスは、セラミックス粒子中にナノカーボン材料の50%以上が凝集体を構成することなく均一に分散している。このことにより、25℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線の放射率が80%以上である。このように、従来から赤外線放射体として利用されている汎用のセラミックス粒子にナノカーボンを複合して、広い波長域に亘って赤外線の放射率の高いナノカーボン複合セラミックスを提供することができる。
【0025】
また、上記構成によれば、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスは、セラミックス粒子中にナノカーボン材料の50%以上が凝集体を構成することなく均一に分散している。このことにより、300℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線の全放射率が85%以上である。このように、従来から赤外線放射体として利用されている汎用のセラミックス粒子にナノカーボンを複合して、広い波長域に亘って赤外線の放射率の高いナノカーボン複合セラミックスを提供することができる。
【0026】
また、上記構成によれば、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスは、セラミックス粒子に対するナノカーボン材料の添加量を0.5重量%~5.0重量%の範囲内としてもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0027】
また、上記構成によれば、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスは、ナノカーボン材料として、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、又は、これらの配合物としてもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0028】
また、上記構成によれば、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスは、ナノカーボン材料に加え、セルロースナノファイバーを含有してもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0029】
また、上記構成によれば、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスは、セラミックス粒子として、アルミナ、シリカ、ジルコニア、コーディエライト、又は、これらの配合物を90重量%以上含有してもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0030】
また、上記構成によれば、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスは、ナノカーボン材料の粒度分布がD90<50nmであってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0031】
また、上記構成によれば、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスの製造方法は、まず、セラミックス粒子からなるセラミックススラリーを調整する工程を行う。次に、又はこれと並行して、ナノカーボン材料を含有し、粒度分布がD90<50nmであるナノカーボン‐水系分散液を調整する工程を行う。次に、セラミックススラリーにナノカーボン‐水系分散液を混合して混合スラリーを調整する工程を行う。次に、混合スラリーから成形用材料を調整する工程を行う。次に、成形用材料を所定の容器に収容して予備成形体を準備する工程を行う。最後に、予備成形体をアルカリ固化反応、加熱硬化、又は、焼成する固化工程を行う。これらの工程によって、従来の製造工程とほぼ同様の操作で製造することができ、広い波長域に亘って赤外線の放射率の高いナノカーボン複合セラミックスの製造方法を提供することができる。
【0032】
また、上記構成によれば、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスの製造方法は、まず、セラミックス粒子からなるセラミックススラリーを調整する工程を行う。次に、又はこれと並行して、ナノカーボン材料を含有し、粒度分布がD90<50nmであるナノカーボン‐水系分散液を調整する工程を行う。次に、セラミックススラリーにナノカーボン‐水系分散液を混合して混合スラリーを調整する工程を行う。次に、混合スラリーを釉薬として別途成形したセラミックス予備成形体に施釉する工程を行う。最後に、施釉したセラミックス予備成形体を焼成する固化工程を行う。これらの工程によって、従来の製造工程とほぼ同様の操作で製造することができ、広い波長域に亘って赤外線の放射率の高いナノカーボン複合セラミックスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施例2のナノカーボン複合セラミックスの25℃における赤外線スペクトルである。
図2】実施例3のナノカーボン複合セラミックスの25℃における赤外線スペクトルである。
図3】実施例4のナノカーボン複合セラミックスの25℃における赤外線スペクトルである。
図4】赤外線ヒーターの性能試験における加熱対象であるアクリル板の昇温曲線を示すグラフである。
図5】実施例6の乾燥した椎茸の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスをその製造方法の各実施形態により説明する。なお、本発明は、下記の各実施形態にのみ限定されるものではない。
【0035】
(1)第1実施形態
本第1実施形態は、焼成固化により製造したナノカーボン複合セラミックスに関するものである。
【0036】
<セラミックススラリーを調整する工程>
本第1実施形態においては、この工程で、セラミックス粒子からなるセラミックススラリーを調整する。ナノカーボン複合セラミックスに使用するセラミックス粒子は、特に限定するものではない。例えば、アルミナ、ムライト、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどであってもよく、これらの配合物であってもよい。
【0037】
なお、本発明においては、従来から赤外線放射体に使用されているセラミックス粒子を使用することが好ましい。例えば、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、ジルコニア(ZrO)、コーディエライト(2MgO・2Al・5SiO)、又は、これらの配合物を使用することができる。更に、本発明においては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、コーディエライト、又は、これらの配合物に加え、従来の赤外線放射体のように他の金属酸化物などの添加剤を多く含むことを要しない。具体的には、ナノカーボン複合セラミックスの成分としてこれらのセラミックス粒子を90重量%以上含有することが好ましい。このことにより、赤外線の放射率を高くできると共に、ナノカーボン複合セラミックスの物性を維持することができる。
【0038】
この工程におけるセラミックススラリーの調整法は、特に限定するものではなく、一般にセラミックススラリーの調整に使用される装置及び方法で行うことができる。例えば、ナイロンポットミルなどのボールミルを使用して、分散剤によってセラミックス粒子を水中に分散するようにすればよい。
【0039】
<ナノカーボン‐水系分散液を調整する工程>
本第1実施形態においては、この工程で、先の工程で準備したセラミックススラリーに混合するナノカーボン‐水系分散液を調整する。本発明において使用するナノカーボン材料とは、ナノサイズ又はマイクロサイズの微小炭素系物質である。通常のカーボン材料であるカーボンブラック(CB)やカーボンファイバー(CF)を使用して赤外線の放射率を上げようとすると、セラミックス放射体に対して15重量%程度の添加が必要となり、物性に優れたセラミックス放射体を成形することができない。
【0040】
本発明においては、セラミックス粒子に少量のナノカーボン材料を添加する事により、且つ、少量のナノカーボン材料の大部分が凝集体を構成することなくセラミックス粒子中に均一に分散することにより、広い波長域に亘って赤外線の放射率を高くすることができる。ここで、ナノカーボン材料の大部分とは、特に数値限定をするものではない。しかし、好ましくはナノカーボン材料の50%以上、更に好ましくはナノカーボン材料の80%以上が凝集体を構成することなく均一に分散している状態をいう。
【0041】
本第1実施形態で使用するナノカーボン材料とは、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー、グラフェン(GP)、又は、これらの配合物などをいう。なお、カーボンナノチューブは、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)であってもよく、或いはシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)であってもよい。また、それぞれのナノカーボン材料の大きさ(直径や長さなど)は、一般的に定義される範囲であって特に限定するものではない。例えば、CNTの直径は、0.4~100nm(単層~多層)、GPの厚さ2~10nm、エリアサイズ5~30μm、CNFの直径は、4~100nmといわれている。
【0042】
この工程におけるナノカーボン‐水系分散液の調整法は、特に限定するものではないが、水中にナノカーボン材料が単分散状態になることが好ましい。例えば、ナノカーボンの分散方法としては、親水性及び疎水性を有する界面活性剤(例えば、特開2007-039623号公報を参照)からなる単一組成ミセル又は混合ミセル水溶液を準備し、これにカーボンナノチューブを添加して分散処理する方法などが挙げられる。また、オリフィスを用いた分散方法(特開2015-013772号公報を参照)も提案されている。本実施形態においては、まず、ボールミルなどを使用して疎水性のナノカーボンに水親和性をもたせる湿潤処理を行った。次に、ビーズミルなどを使用して湿潤処理したナノカーボンに界面活性剤等を配合して分散処理を行った。なお、ナノカーボン‐水系分散液におけるナノカーボン材料の比率は、後工程でセラミックススラリーに混合する際の操作性と、最終成形したナノカーボン複合セラミックスに対するナノカーボン材料の比率を考慮して調整する。
【0043】
<混合スラリーを調整する工程>
本第1実施形態においては、この工程で、先の工程で調整したセラミックススラリーとナノカーボン‐水系分散液とを混合して混合スラリーを調整する。まず、撹拌容器にセラミックススラリーを投入して撹拌する。次に、撹拌しながらナノカーボン‐水系分散液を加える。更に、所定時間撹拌を継続して混合スラリーを調整する。なお、撹拌装置、及び、撹拌のトルクと撹拌時間は、セラミックススラリーの粘度やナノカーボン‐水系分散液の混合量などにより適宜選定すればよい。
【0044】
なお、この工程において、最終成形したナノカーボン複合セラミックスにおけるセラミックス粒子とナノカーボン材料との比率を考慮しておく必要がある。本第1実施形態においては、セラミックス粒子に対するナノカーボン材料の添加量が、0.5重量%~5.0重量%の範囲内にあることが好ましい。ナノカーボン材料の添加量が0.5重量%よりも少ない場合には、広い波長域に亘って赤外線の放射率を高くすることができない。一方、ナノカーボン材料の添加量が5.0重量%よりも多い場合には、セラミックス粒子中のナノカーボン材料が凝集して均一に分散できない。そのため、物性に優れたナノカーボン複合セラミックスを成形することができない。
【0045】
<成形用材料を調整する工程>
本第1実施形態においては、この工程で、先の工程で調整した混合スラリーから成形用材料を調整する。まず、混合スラリーの水分量や粘度を調整して成形を容易にするためのバインダーとよばれる補助成分を混合して成形用材料を調整する。バインダー成分としては、後工程の焼成などで消滅する有機高分子などが使用される。例えば、ワックスエマルション、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリエーテル樹脂などである。
【0046】
次に、水分量や粘度を調整してバインダーを配合した混合スラリーを回転ディスク式スプレードライヤーなどに投入して造粒する。但し、造粒などの成形用材料の調整法は、これに限定されるものではない。なお、回転ディスク式スプレードライヤーを使用した場合の、ディスク回転数や、入口温度、出口温度などは適宜選定すればよい。
【0047】
<予備成形体を準備する工程>
本第1実施形態においては、この工程で、先の工程で調整した成形用材料を所定の容器に収容して予備成形体を準備する。具体的には、造粒などで調整した成形用材料を乾式金型プレス装置などで予備成形体に成形する。なお、成形用材料の成形装置や成形方法は、特に限定するものではなく、セラミックス用の成形機を使用すればよい。
【0048】
<予備成形体の固化工程>
本第1実施形態においては、この工程で、先の工程で準備した予備成形体の固化を完結する。本第1実施形態においては、焼成による固化を行う。なお、本第1実施形態に係る予備成形体は、ナノカーボン材料を含有しているので、大気中焼成ではなく窒素雰囲気下又はアルゴン雰囲気下で焼成する。焼成温度や昇温時間などの条件は、特に限定するものではないが、例えば、100℃~250℃/h前後の温度で昇温し、1000℃~1400℃前後の温度で0.5時間~2時間程度焼成すればよい。
【0049】
(2)第2実施形態
本第2実施形態は、焼成することなくアルカリ固化反応又は加熱硬化により製造したナノカーボン複合セラミックスに関するものである。
【0050】
<セラミックススラリーを調整する工程>
本第2実施形態においては、上記第1実施形態と同様にセラミックス粒子からなるセラミックススラリーを調整する。また、セラミックススラリーの調整には、上記第1実施形態と同様の操作を行えばよい。なお、本第2実施形態においては、アルカリ水和反応やいわゆるセラミックス接着剤を利用することができる。アルカリ水和反応は、低温でも固化するがセラミックス接着剤の固化には100℃~200℃程度の加熱硬化が必要である。
【0051】
セラミックス接着剤の場合には、例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、酸化カルシウム(CaO)を所定量配合し、ナイロンポットミルなどのボールミルを使用して、分散剤によってセラミックス粒子を水中に分散するようにすればよい。
【0052】
<ナノカーボン‐水系分散液を調整する工程>
本第2実施形態においては、上記第1実施形態と同様にセラミックススラリーに混合するナノカーボン‐水系分散液を調整する。なお、使用するナノカーボン材料は、上記第1実施形態と同様である。なお、本第2実施形態においては、焼成を行わないのでナノカーボン‐水系分散液に他の有機物を混合することができる。
【0053】
ここでは、ナノカーボン‐水系分散液中のナノカーボン材料の分散状態を良好にして、ナノカーボン複合セラミックスにおけるセラミックス粒子中のナノカーボン材料の分散を均一にする目的で、セルロースナノファイバー(CNF)を配合することが好ましい。ここで、セルロースナノファイバーとは、主に植物の細胞壁に由来するセルロースから成る、直径数nm~100nm、長さが直径の100倍以上の繊維物質をいう。
【0054】
本第2実施形態におけるナノカーボン‐水系分散液の調整法は、上記第1実施形態と同様の方法を利用することができる。例えば、オリフィスを用いた分散方法(特開2015-013772号公報を参照)を採用して、カーボンナノチューブとセルロースナノファイバー、必要によりグラフェンとを均一分散したナノカーボン‐水系分散液を調整することができる。
【0055】
<混合スラリーを調整する工程>
本第2実施形態においては、上記第1実施形態と同様にセラミックススラリーとナノカーボン‐水系分散液とを混合して混合スラリーを調整する。本第2実施形態における混合スラリーの調整法は、上記第1実施形態と同様の方法を利用することができる。
【0056】
<成形用材料を調整する工程>
本第2実施形態においては、上記第1実施形態と同様に混合スラリーから成形用材料を調整する。なお、アルカリ固化反応又は加熱硬化を利用する場合には、成形用材料はスラリー状(増粘したスラリー)で使用するので造粒の必要はない。また、アルカリ固化反応を行う場合には、この工程において混合スラリーに所定量のアルカリ水溶液などを混合して、成形用材料(スラリー状)を調整する。
【0057】
ここで、アルカリ水溶液とは、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、アルミン酸ナトリウム及びアルミン酸カリウムなどの水溶液を挙げることができる。また、混合するアルカリ水溶液の量(濃度)は、混合スラリーに含まれるシリカ(SiO)、アルミナ(Al)、カルシウム化合物などからアルカリ水溶液に溶出して硬化反応を生じさせる量であって適宜選定するようにする。
【0058】
<予備成形体を準備する工程>
本第2実施形態においては、上記第1実施形態と同様に成形用材料を所定の容器に収容して予備成形体を準備する。本第2実施形態においては、成形用材料はスラリー状であり乾式金型プレス装置などは使用しない。ここでは、シリコン型などの所定形状の容器を使用する。この時使用する容器の形状と大きさは、使用目的によって適宜選定すればよい。なお、本第2実施形態においては、予備成形体を準備する代わりに、既存のセラミックス成形体の表面に、スラリー状の成形用材料を塗布するようにしてもよい。
【0059】
<予備成形体の固化工程>
本第2実施形態においては、上記第1実施形態と同様に予備成形体の固化を完結する。本第2実施形態においては、アルカリ固化反応又は加熱硬化による固化を行う。アルカリ固化反応の場合には、セラミックス材料とアルカリ水溶液との反応が完結するまで硬化反応を行う。硬化反応は、室温から高温までどのような温度範囲で行ってもよい。例えば、室温~130℃の温度の常圧下で行うことができる。一方、セラミックス接着剤などの場合には、加熱硬化による固化を行う。加熱固化は、例えば、100℃~200℃前後の温度で1時間~2時間程度加熱すればよい。
【0060】
(3)第3実施形態
本第3実施形態は、調整した混合スラリーを釉薬として使用したナノカーボン複合セラミックスに関するものである。
【0061】
<セラミックススラリーを調整する工程>
本第3実施形態においては、上記第1実施形態と同様にセラミックス粒子からなるセラミックススラリーを調整する。また、セラミックススラリーの調整には、上記第1実施形態と同様の操作を行えばよい。なお、本第3実施形態においては、混合スラリーを釉薬として使用するので、釉薬に使用されるセラミックス粉体を使用する。例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、酸化カルシウム(CaO)、ジルコニア(ZrO)、一酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ナトリウム(NaO)を所定量配合して透明釉を調整する。
【0062】
<ナノカーボン‐水系分散液を調整する工程>
本第3実施形態においては、上記第1実施形態及び第2実施形態と同様にしてナノカーボン‐水系分散液を調整する。
【0063】
<混合スラリーを調整する工程>
本第3実施形態においては、セラミックススラリーとして調整した透明釉とナノカーボン‐水系分散液とを混合して混合スラリー(ナノカーボン配合釉薬)を調整する。本第3実施形態における混合スラリーの調整法は、上記第1実施形態と同様の方法を利用することができる。
【0064】
<セラミックス予備成形体に施釉する工程>
本第3実施形態においては、別途成形したセラミックス予備成形体に混合スラリー(ナノカーボン配合釉薬)を施釉する。この操作は、通常の施釉と同様にして行う。
【0065】
<予備成形体の固化工程>
本第3実施形態においては、上記第1実施形態と同様にして焼成による固化を行う。なお、焼成に関する操作及び条件は、上記第1実施形態と同様である。
【0066】
次に、上述のように説明したナノカーボン複合セラミックスについて、各実施例により具体的に説明する。なお、本発明は、以下の各実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0067】
本実施例1は、上記第1実施形態に関するものであって、ナノカーボン複合セラミックスを焼成固化により製造するものである。具体的には、セラミックス粒子として、高純度アルミナ(タイミクロンTM-DAR、大明化学工業製)を使用した。また、ナノカーボン材料として、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)を使用した。以下、セラミックス粒子を「アルミナ粒子」で表し、ナノカーボン材料を「CNT」で表す。
【0068】
また、本実施例1においては、アルミナ粒子に対するCNTの添加量を0.5重量%、3重量%、及び、4重量%の3水準としたナノカーボン複合セラミックスを作製した。なお、比較例1として、CNTを添加しないアルミナ粒子(以下「ナノカーボンなし」で表す)を使用した。また、通常のカーボン材料であるカーボンブラック(以下「CB」で表す)とカーボンファイバー(以下「CF」で表す)を添加量3重量%で使用した。
【0069】
<セラミックススラリーを調整する工程>
アルミナ粒子2kgと分散剤を含有した略同量の純水を容量10Lのナイロンポットミル(ボール重量3.2kg)に投入して62時間混練して、セラミックス粒子が水中に分散したセラミックススラリーを調整した。アルミナ粒子に対する水の量は、次の工程で混合するナノカーボン‐水系分散液の量との関係で個々に調節した。
【0070】
<ナノカーボン‐水系分散液を調整する工程>
まず、所定量の脱イオン水とDMSO(Dimethyl Sulfoxide)を含む湿潤液に所定量のCNT(MWCNT:Nanocyl社製、NC7000、直径9.5nm、長さ1.5μm)を添加し、ボールミル(直径20mmのジルコニアビーズを50%充填)を使用して所定時間の湿潤処理を行った。次に、湿潤処理したCNTスラリーを取り出し、これに所定量の界面活性剤等を添加し、ビーズミル(直径0.3mmのジルコニアビーズを70%充填)を使用して、粒度分布がD90<50nmになるまで分散処理を行い、所定濃度のナノカーボン‐水系分散液を調整した。ここで、所定濃度とは、アルミナ粒子に対するCNTの3水準の添加量を考慮して調整した。なお、比較例1のナノカーボンなし、CB3重量%及びCF3重量%についても同様にして調整した。
【0071】
<混合スラリーを調整する工程>
上記各工程で調整したセラミックススラリーとナノカーボン‐水系分散液とを混合して混合スラリーを調整した。攪拌機にセラミックススラリーを投入し、約400rpmで撹拌しながら各水準のナノカーボン‐水系分散液を投入した。投入後2時間撹拌を行い、均一に混合されたCNTの3水準の混合スラリーを調整した。なお、比較例1のCB3重量%及びCF3重量%についても同様にして混合スラリーを調整した。
【0072】
<成形用材料を調整する工程>
得られた各水準の混合スラリーにバインダーを添加した。各混合スラリーに対して、ワックスエマルション(セルナWF-610、中京油脂製)1.5重量%、水溶性アクリル樹脂(セランダーAP-5、ユケン工業製)1.0重量%、水溶性ポリエーテル樹脂(メルポールF-220、三洋化成工業製)0.5重量%、及び、アンモニア水と消泡剤を添加して混合した。
【0073】
次に、バインダーを添加した各混合スラリーの水分量を調整した。水分調整後の各混合スラリーを回転ディスク式スプレードライヤーに投入して造粒した。装置条件は、ディスク回転数20000rpm、入口温度200℃、出口温度110℃に設定した。このようにして、CNTの3水準の成形用材料を調整した。なお、比較例1のナノカーボンなし、CB3重量%及びCF3重量%についても同様にして成形用材料を調整した。
【0074】
<予備成形体を準備する工程>
造粒した各水準の成形用材料を乾式金型プレス装置で予備成形体に成形した。プレス条件は、180N(200kg/cm)で2分間保持した。このようにして、CNTの3水準の予備成形体を準備した。なお、比較例1のナノカーボンなし、CB3重量%及びCF3重量%についても同様にして予備成形体を準備した。
【0075】
<予備成形体の固化工程>
本実施例1においては、焼成固化により各水準の予備成形体の固化を完結した。焼成条件は、窒素雰囲気下で200℃/hで昇温し、1350℃の温度で1時間焼成した。このようにして、アルミナ粒子に対するCNTの添加量を0.5重量%、3重量%、及び、4重量%の3水準としたナノカーボン複合セラミックスを作製した。また、比較例1として、アルミナ粒子に対してナノカーボンを添加しないセラミックス、アルミナ粒子に対してCB3重量%又はCF3重量%を添加したカーボン複合セラミックスを作製した。
【0076】
<赤外線の放射率の測定>
本実施例1においては、赤外線の放射率の測定を一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCC)の方法(以下「JFCC法」という)で測定した。この方法は、従来の黒体と試料との放射率の比を取る方法に比べ、ノイズが少なく分解能に優れたフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を使用し、室温での測定を可能にした。赤外線の波長域の光を試料に照射して、その反射エネルギーを積分級で捉える。吸収エネルギーと放射エネルギーは反比例の等価であるという理論に基づく。室温のスペクトルから指定温度の全放射率をJIS R 1693-2に準拠して計算する。なお、JFCC法は公知であるので、ここでは測定法の詳細は省略する。
【0077】
なお、ここに示していないが、本実施例1の3水準のナノカーボン複合セラミックスに対して、曲げ強度などの物性を確認したところ、いずれも赤外線放射体としての実用的な物性を示していた。
【0078】
上記のJFCC法によって、実施例1のナノカーボン複合セラミックス、並びに、比較例1のナノカーボンなしのセラミックス及びカーボン複合セラミックスに対して、室温のスペクトルから指定温度(ここでは100℃、200℃、300℃)における波長域1.67μm~25μm(波数域400~6000cm-1)の赤外線の全放射率を測定した。測定した赤外線の全放射率の値を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1において、本実施例1の3水準のナノカーボン複合セラミックスは、測定した温度域(100℃、200℃、300℃)において、いずれも比較例1に比べ高い値を示した。特に、300℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線の全放射率の値が85%を超える高い値を示した。一方、比較例1においては、ナノカーボンなしのセラミックスに対して、2種類のカーボン複合セラミックスは、赤外線の全放射率を向上させる効果が認められなかった。
【実施例2】
【0081】
本実施例2は、上記実施例1と同様に上記第1実施形態に関するものであって、ナノカーボン複合セラミックスを焼成固化により製造するものである。具体的には、セラミックス粒子として、コーディエライト(2MgO・2Al・5SiO)と他の無機材料とを配合したコーディエライト配合粒子を使用した。また、ナノカーボン材料として、上記実施例1と同様のマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)を使用した。以下、セラミックス粒子を「コーディエライト配合粒子」で表し、ナノカーボン材料を「CNT」で表す。
【0082】
また、本実施例2においては、コーディエライト配合粒子に対するCNTの添加量を2.4重量%としたナノカーボン複合セラミックスを作製した。なお、比較例2として、CNTを添加しないコーディエライト配合粒子を使用した。
【0083】
<セラミックススラリーを調整する工程>
本実施例2においては、セラミックススラリーを調整する前にコーディエライト配合粒子を調整した。まず、コーディエライト(2MgO・2Al・5SiO)15重量%、溶融シリカ55重量%、蛙目粘土24重量%及びカオリン6重量%を配合して、乾粉を調整した。次に、この乾粉2kgに対して40重量%の水を配合して湿式調合により粉砕混合を行った。その後、脱水して原料ケーキ(水分量19%)とし、50℃で乾燥してコーディエライト配合粒子を得た。
【0084】
得られたコーディエライト配合粒子2kgと分散剤を含有した600gの純水を容量10Lのナイロンポットミル(ボール重量3.2kg)に投入して62時間混練して、コーディエライト配合粒子が水中に分散したセラミックススラリーを調整した。
【0085】
<ナノカーボン‐水系分散液を調整する工程>
本実施例2においては、上記実施例1と同様にしてCNT(MWCNT:Nanocyl社製、NC7000、直径9.5nm、長さ1.5μm)を分散したナノカーボン‐水系分散液を調整した。ここで、ナノカーボン‐水系分散液の濃度は、コーディエライト配合粒子に対するCNTの添加量2.4重量%を考慮して調整した。
【0086】
<混合スラリーを調整する工程>
上記各工程で調整したセラミックススラリーとナノカーボン‐水系分散液とを混合して混合スラリーを調整した。上記実施例1と同様にして攪拌機にセラミックススラリーを投入し、約400rpmで撹拌しながら各水準のナノカーボン‐水系分散液を投入した。投入後2時間撹拌を行い、均一に混合されたCNTを添加した混合スラリーを調整した。なお、比較例2においては、ナノカーボン‐水系分散液を投入することなく、セラミックススラリーに純水を添加してコーディエライト配合粒子のみからなる混合スラリーを調整した。
【0087】
<成形用材料を調整する工程>
本実施例2においては、得られた混合スラリーにバインダーを添加して造粒することなく、水分量を調整して成形用材料を調整した。なお、比較例2についても同様にして成形用材料を調整した。
【0088】
<予備成形体を準備する工程>
石膏型を取付けた加圧成形機に成形用材料を投入し、1kg/cm3の加圧で予備成形体を準備した。なお、比較例2についても同様にして予備成形体を準備した。
【0089】
<予備成形体の固化工程>
本実施例2においては、上記実施例1と同様に焼成固化により予備成形体の固化を完結した。焼成条件は、窒素雰囲気下で6時間を要して1050℃まで昇温し、1050℃の温度で0.5時間焼成した。このようにして、コーディエライト配合粒子に対するCNTの添加量を2.4重量%としたナノカーボン複合セラミックスを作製した。また、比較例2として、CNTを添加しないコーディエライト配合粒子のみからなるセラミックスを作製した。
【0090】
<赤外線の放射率の測定>
本実施例2においては、上記実施例1と同様にしてJFCC法によって、ナノカーボン複合セラミックス、及び、比較例2のセラミックスに対して全放射率を測定した。なお、本実施例2においては、200℃と300℃における波長域1.67μm~25μm(波数域400~6000cm-1)の赤外線の全放射率を測定した。測定した赤外線の全放射率の値を表2に示す。なお、ここに示していないが、本実施例2のナノカーボン複合セラミックスに対して、曲げ強度などの物性を確認したところ、赤外線放射体としての実用的な物性を示していた。
【0091】
【表2】
【0092】
表2において、本実施例2のナノカーボン複合セラミックスは、200℃及び300℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線の全放射率において、いずれも比較例2に比べ高い値を示した。なお、本実施例2においては、200℃及び300℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線の全放射率の値が85%を超える高い値を示した。
【0093】
また、本実施例2に係るナノカーボン複合セラミックスに対して、実際に測定した25℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線スペクトルを図1に示す。図1から分かるように、本実施例2のナノカーボン複合セラミックスは、波長域1.67μm~25μmの範囲において、25℃における赤外線の放射率が広い波長域において85%以上の高い値を示していることが分かる。これに対して、比較例2のセラミックスは、5μm以下の波長域及び19μm以上の波長域で放射率が大きく低下した。
【実施例3】
【0094】
本実施例3は、上記第2実施形態に関するものであって、ナノカーボン複合セラミックスを焼成することなく加熱硬化により製造するものである。具体的には、セラミックス粒子として、いわゆるセラミックス接着剤(BX-83、朝日化学工業製)を使用した。また、ナノカーボン材料として、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)とグラフェン(GP)に加え、セルロースナノファイバー(CNF)を均一に分散したナノカーボン‐水系分散液(以下「GTF分散液」で表す)を使用した。以下、セラミックス粒子を「セラミックス接着剤」で表し、ナノカーボン材料を「GTF」で表す。
【0095】
また、本実施例3においては、セラミックス接着剤に対するGTFの添加量を1重量%としたナノカーボン複合セラミックスを作製した。なお、比較例3として、GTFを添加しないセラミックス接着剤を使用した。
【0096】
<セラミックススラリーを調整する工程>
本実施例3に使用したセラミックス接着剤は、固形分比率でシリカ(SiO)80重量%、アルミナ(Al)11重量%、ジルコニア(ZrO)4.8重量%、酸化カルシウム(CaO)4.2重量%のものを使用した。これらの固形分83重量%に対して、水分17重量%からなるセラミックススラリーを調整した。
【0097】
<ナノカーボン‐水系分散液を調整する工程>
本実施例3においては、上記実施例1と同様にしてGTF(MWCNT 1.5重量%、GP 0.5重量%、CNF 0.12重量%)を純水中に分散したナノカーボン‐水系分散液(GTF分散液)を調整した。ここで、GTF分散液の濃度は、セラミックス接着剤(固形分)に対するGTFの添加量1重量%を考慮して調整した。なお、使用した材料は、CNT(MWCNT:Nanocyl社製、NC7000、直径9.5nm、長さ1.5μm)、GP(伊藤黒鉛工業株式会社製、膨張黒鉛を分散して使用、厚さ2~5nm、GP3~8枚、幅1~5μmのサイズにして使用)、CNF(第一工業製薬株式会社製、レオクリスタ、直径3nm、長さ5μm以上)であった。
【0098】
<混合スラリーを調整する工程>
上記各工程で調整したセラミックススラリーとナノカーボン‐水系分散液とを混合して混合スラリーを調整した。本実施例3においては、セラミックス接着剤の粘度が高く攪拌機を使用できないので、乳鉢を用いて混合スラリーを調整した。なお、比較例3においては、GTF分散液を投入することなく、セラミックススラリーに純水を添加してセラミックス接着剤のみからなる混合スラリーを調整した。
【0099】
<成形用材料を調整する工程>
本実施例3においては、得られた混合スラリーを造粒することなく、水分量を調整して成形用材料を調整した。なお、比較例3についても同様にして成形用材料を調整した。
【0100】
<予備成形体を準備する工程>
本実施例3においては、調整した成形用材料をシリコン型に入れて予備成形体を準備した。なお、比較例3についても同様にして予備成形体を準備した。
【0101】
<予備成形体の固化工程>
本実施例3においては、焼成することなく加熱硬化により予備成形体の固化を完結した。加熱条件は、200℃の温度で1時間加熱した。
【0102】
<赤外線の放射率の測定>
本実施例3においては、上記実施例1と同様にしてJFCC法によって、ナノカーボン複合セラミックス、及び、比較例3のセラミックスに対して全放射率を測定した。なお、本実施例2においては、100℃と300℃における波長域1.67μm~25μm(波数域400~6000cm-1)の赤外線の全放射率を測定した。測定した赤外線の全放射率の値を表3に示す。なお、ここに示していないが、本実施例3のナノカーボン複合セラミックスに対して、曲げ強度などの物性を確認したところ、赤外線放射体としての実用的な物性を示していた。
【0103】
【表3】
【0104】
表3において、本実施例3のナノカーボン複合セラミックスは、100℃及び300℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線の全放射率において、いずれも比較例2に比べ高い値を示した。なお、本実施例3においては、100℃及び300℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線の全放射率の値が85%を超える高い値を示した。
【0105】
また、本実施例3に係るナノカーボン複合セラミックスに対して、実際に測定した25℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線スペクトルを図2に示す。図2から分かるように、本実施例3のナノカーボン複合セラミックスは、波長域1.67μm~25μmの全範囲において、25℃における赤外線の放射率が広い波長域において80%以上の高い値を示していることが分かる。これに対して、比較例3のセラミックスは、5μm以下の波長域及び19μm以上の波長域で放射率が大きく低下した。
【実施例4】
【0106】
本実施例4は、上記第3実施形態に関するものであって、調整した混合スラリーを釉薬として使用したナノカーボン複合セラミックスに関するものである。具体的には、セラミックス粒子として、一般的な釉薬と同じ配合のセラミックス粒子を使用した。また、ナノカーボン材料として、上記実施例1と同様のマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)を使用した。以下、セラミックス粒子を「釉薬粒子」で表し、ナノカーボン材料を「CNT」で表す。
【0107】
また、本実施例4においては、釉薬粒子に対するCNTの添加量を1重量%と5重量%の2水準したナノカーボン複合セラミックスを作製した。なお、比較例4として、CNTを添加しない釉薬を使用した。
【0108】
<セラミックススラリーを調整する工程>
本実施例4においては、セラミックススラリーとして釉薬を調整した。まず、シリカ(SiO)53.2重量%、アルミナ(Al)16.9重量%、酸化カルシウム(CaO)14.2重量%、ジルコニア(ZrO)9.3重量%、一酸化ジルコニウム(ZrO)5.6重量%、酸化ナトリウム(NaO)0.8重量%を水中に分散したセラミックススラリーを調整した。
【0109】
<ナノカーボン‐水系分散液を調整する工程>
本実施例4においては、上記実施例1と同様にしてCNT(MWCNT:Nanocyl社製、NC7000、直径9.5nm、長さ1.5μm)を分散したナノカーボン‐水系分散液を調整した。ここで、ナノカーボン‐水系分散液の濃度は、釉薬粒子に対するCNTの添加量を考慮して調整した。
【0110】
<混合スラリーを調整する工程>
上記各工程で調整したセラミックススラリーとナノカーボン‐水系分散液とを混合して混合スラリーを調整した。上記実施例1と同様にして攪拌機によりCNTを添加した混合スラリー(CNT釉薬)を調整した。なお、比較例4においては、ナノカーボン‐水系分散液を投入することなく、セラミックススラリーに純水を添加して釉薬粒子のみからなる混合スラリー(透明釉)を調整した。
【0111】
<セラミックス予備成形体に施釉する工程>
本実施例4においては、別途成形したセラミックス予備成形体に対して施釉した。具体的には、上記実施例2において比較例として準備したCNTを添加しないコーディエライト配合粒子のみからなる予備成形体と同じものを使用した。このセラミックス予備成形体に対して、本実施例4のCNT1重量%釉薬、CNT5重量%釉薬、及び、比較例4の透明釉をそれぞれ施釉した。
【0112】
<予備成形体の固化工程>
本実施例4においては、上記実施例2と同様に焼成固化により予備成形体の固化を完結した。焼成条件は、窒素雰囲気下で6時間を要して1050℃まで昇温し、1050℃の温度で0.5時間焼成した。このようにして、釉薬粒子に対するCNTの添加量を1重量%と5重量%の2水準としたナノカーボン複合セラミックスを作製した。また、比較例4として、CNTを添加しない透明釉からなるセラミックスを作製した。
【0113】
<赤外線の放射率の測定>
本実施例4においては、上記実施例1と同様にしてJFCC法によって、ナノカーボン複合セラミックス、及び、比較例4のセラミックスに対して全放射率を測定した。なお、本実施例4においては、200℃と300℃における波長域1.67μm~25μm(波数域400~6000cm-1)の赤外線の全放射率を測定した。測定した赤外線の全放射率の値を表4に示す。
【0114】
【表4】
【0115】
表4において、本実施例4のナノカーボン複合セラミックスは、200℃及び300℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線の全放射率において、いずれも比較例4に比べ高い値を示した。なお、本実施例4においては、200℃及び300℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線の全放射率の値が85%を超える高い値を示した。
【0116】
また、本実施例4に係るナノカーボン複合セラミックスのうちCNTの添加量を1重量%とした試料において、実際に測定した25℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線スペクトルを図3に示す。図3から分かるように、本実施例3のナノカーボン複合セラミックス(CNT1重量%)は、波長域1.67μm~25μmの全範囲において、25℃における赤外線の放射率が広い波長域において80%以上の高い値を示していることが分かる。これに対して、比較例4のセラミックスは、比較例4のセラミックスは、5μm以下の波長域、8~12μmの波長域及び19μm以上の波長域で放射率が大きく低下した。
【実施例5】
【0117】
本実施例5は、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスの赤外線ヒーターとしての利用に関するものである。ナノカーボン複合セラミックスとしては、実施例4で作製したナノカーボン複合セラミックス(釉薬粒子に対するCNTの添加量:5重量%)を使用した。
【0118】
<赤外線ヒーター>
縦120mm、横120mm、厚さ10mmの赤外線ヒーターを実施例4と同様にして作製した。なお、赤外線ヒーターの内部には、予め加熱用ニクロム線を内蔵しておいた。ニクロム線に通電することにより、赤外線ヒーターが加熱され赤外線が放射される。なお、比較例5として、同一サイズの既存の遠赤外線セラミックスヒーターを使用した。
【0119】
<試 験>
加熱対象として厚さ3mmのアクリル板を用意して、その裏面3か所に温度センサーを取り付けた。断熱室の内部に赤外線ヒーターとアクリル板を120mmの間隔で対抗するように配置した。なお、赤外線ヒーターの出力は、100V‐400Wとした。赤外線ヒーターへの通電を開始し、経過時間と共にアクリル板の加熱温度(3点の平均値)を記録した。なお、比較例5に対しても同様にして測定した。図4は、赤外線ヒーターの性能試験における加熱対象であるアクリル板の昇温曲線を示すグラフである。
【0120】
図4において、赤外線ヒーターへの通電を開始して100秒ほどで、実施例5と比較例5のアクリル板の温度に差が認められる。通電時間の経過と共にアクリル板の温度の差が大きくなり、約1500秒(25分)経過後において実施例5のアクリル板は、約98℃に昇温した。これに対して、比較例5のアクリル板は、約88℃に昇温し、その差は10℃程度認められた。このことにより、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスの赤外線ヒーターとしての性能の良さが確認できた。
【実施例6】
【0121】
本実施例6は、本発明に係るナノカーボン複合セラミックスの赤外線ヒーター乾燥機としての利用に関するものである。ナノカーボン複合セラミックスとしては、実施例3で作製したナノカーボン複合セラミックス(GTF:1重量%)を使用した。
【0122】
<赤外線ヒーター乾燥機>
乾燥機に内蔵する赤外線ヒーターには、縦120mm、横120mm、厚さ10mmの赤外線ヒーターを実施例3と同様にして4台作製した。なお、赤外線ヒーターの内部には、予め加熱用ニクロム線を内蔵しておいた。ニクロム線に通電することにより、赤外線ヒーターが加熱され赤外線が放射される。この4台の赤外線ヒーターを容量90L(幅450mm、奥行450mm、高さ450mm)の熱風乾燥機の内部に配置した。赤外線ヒーターの位置は、試料台の上部100mmの位置に2台、試料台の下部100mmの位置に2台配置した。なお、赤外線ヒーターの出力は、100V‐300Wとした。一方、熱風乾燥機は、熱風用ヒーター(1.2kW)と送付機(ファンモーターシロッコファン1個、コンデンサ形モータ10W)を内蔵している。
【0123】
<試 験>
乾燥対象として同一ロット内の椎茸を使用し、各乾燥条件に対して、それぞれ約2gを乾燥した。本実施例6として、条件1及び条件2の2水準で実施した。また、比較例6として、条件3及び条件4の2水準で実施した。温度の制御は、室温から38℃まで0.5時間かけて昇温した。その後、38℃から60℃まで15時間又は18時間かけて昇温した。更に、60℃に達してから1時間維持した。冷却は、自然冷却とした。なお、温度制御は、椎茸の傘の部分に差し込んだJIS規格熱電対Kで測温し制御した。
【0124】
各条件の内容は、
条件1:赤外線ヒーターと送風(熱風とせず)・昇温15時間・温度維持1時間
条件2:赤外線ヒーターのみ・昇温18時間・温度維持1時間
条件3:熱風乾燥のみ・昇温15時間・温度維持1時間
条件4:熱風乾燥のみ・昇温18時間・温度維持1時間
であった。
【0125】
本実施例6及び比較例6の乾燥性能の比較は、乾燥椎茸の色調変化及びうまみ成分の分析により行った。乾燥椎茸の色調変化は、乾燥後の椎茸のヒダ部分の色調を分光測色系(D65光源、視野角2°)により測色し、表色系(L)で示した。ここで、表色系(L)とは、国際照明委員会(CIE)で規格化され、我が国においてもJIS Z8729で採用されている表色系であって、物体の色を表すのに適している。表5に測色結果を示す。また、図5は、乾燥した椎茸の状態を示す写真である。
【0126】
一方、乾燥椎茸のうまみ成分は、主にグルタミン酸とグアニル酸とされており、これらを定量分析した。具体的には、試料椎茸のヘタをカットして傘部のみとし、試料の20倍重量の水を加え、5℃で一晩静置した。翌朝、沸騰させて1時間加熱し、自然冷却して椎茸抽出液を得た。この椎茸抽出液から高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてグルタミン酸及びグアニル酸を定量分析した。椎茸抽出液の分析結果を乾燥椎茸あたりのアミノ酸濃度(mg/乾物100g)に換算した。分析したグルタミン酸とグアニル酸の量を表5に示す。
【0127】
【表5】
【0128】
品質の良い乾燥椎茸は、傘の片影やヒダのねじれがなく、元の生椎茸に近い大きさと形を留め、ヒダの色が黄金色で傘の色つやがよい状態にあるものとされている。そこで、表5及び図5において、条件1(赤外照射+送風)では、比較例の条件3及び4に比べ、明度(L値)が大きく、色度においても赤味(+a値)と黄味(+b値)もあり、鮮やかな色調であった、このことから、条件1で品質(見た目)のよい乾燥椎茸を得ることができた。しかし、条件2(赤外照射のみ)では、比較例の条件3及び4と変わらぬ値となった。
【0129】
一方、うまみ成分においては、条件2(赤外照射のみ)では、比較例の条件3及び4に比べ、グルタミン酸とグアニル酸の量がいずれも大きく、うまみ成分が増していることが分かる。このことから、条件2で品質(うまみ)のよい乾燥椎茸を得ることができた。しかし、条件1(赤外照射+送風)では、グルタミン酸の量は多いがグアニル酸の量が比較例の条件3及び4よりも少ない結果となった。
【0130】
本実施例6においては、未だ見た目がよく且つうまみ成分の多い乾燥椎茸を得ることができていない。しかし、従来の熱風乾燥した乾燥椎茸に比べ商品価値の高いものが得られており、更に高品質の乾燥椎茸を得る可能性を示すことができた。今後、赤外線照射量と送風量及びこれらの時間制御により、品質の高い乾燥椎茸を得ることができるという示唆を得た。
【0131】
これまで説明したように、上記各実施形態によれば、従来から赤外線放射体として利用されている汎用のセラミックス粒子にナノカーボンを複合して、従来の製造工程とほぼ同様の操作で製造することができ、広い波長域に亘って赤外線の放射率の高いナノカーボン複合セラミックス及びその製造方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5