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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/92 20060101AFI20230901BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20230901BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230901BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20230901BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230901BHJP
【FI】
H01M4/92
H01M4/90 M
H01M4/90 X
H01M4/86 B
H01M4/86 M
B01J23/46 M
H01M8/10 101
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018218916
(22)【出願日】2018-11-22
(65)【公開番号】P2020087644
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五百蔵 勉
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-004453(JP,A)
【文献】特表2003-508877(JP,A)
【文献】特表2016-514346(JP,A)
【文献】特表2014-505330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/92
H01M 4/90
H01M 4/86
B01J 23/46
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒であって、酸素発生触媒、導電性チタン酸化物及び前記酸素発生触媒以外の貴金属材料を含有し、
前記酸素発生触媒以外の貴金属材料は触媒金属であり、
前記酸素発生触媒の含有量が、前記アノード触媒の総量を100質量%として0.1~30質量%であり、
前記酸素発生触媒中の貴金属の量が、前記アノード触媒の貴金属総量を100質量%として5~70質量%であり、
前記導電性チタン酸化物の含有量が、前記アノード触媒の総量を100質量%として、60~90質量%であり、
前記酸素発生触媒以外の貴金属材料の含有量が、前記アノード触媒の総量を100質量%として、5~30質量%である、触媒。
【請求項2】
前記酸素発生触媒が、イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属、合金並びにその酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記導電性チタン酸化物上に前記酸素発生触媒以外の貴金属材料が担持された貴金属材料担持導電性チタン酸化物と、前記酸素発生触媒を含むナノ粒子とを含有する、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
前記酸素発生触媒以外の貴金属材料が、白金を含むナノ粒子を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項5】
水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒であって、イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、導電性チタン酸化物とを含有し、
前記イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金の含有量が、前記アノード触媒の総量を100質量%として0.1~30質量%であり
記導電性チタン酸化物の含有量が、前記アノード触媒の総量を100質量%として60~90質量%であり、
する、触媒。
【請求項6】
前記導電性チタン酸化物上に酸素発生触媒以外の貴金属材料が担持された貴金属材料担持導電性チタン酸化物と、前記イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属並びに合金よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むナノ粒子とを含有し、
前記酸素発生触媒以外の貴金属材料は触媒金属であり、
前記イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金中の貴金属の量が、前記イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金と前記酸素発生触媒以外の貴金属材料中の貴金属との総量を100質量%として5~70質量%であり、
前記酸素発生触媒以外の貴金属材料の含有量が、前記アノード触媒の総量を100質量%として5~30質量%である、請求項5に記載の触媒。
【請求項7】
前記酸素発生触媒以外の貴金属材料が、白金を含むナノ粒子を含有する、請求項6に記載の触媒。
【請求項8】
前記導電性チタン酸化物の上に、前記イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属並びに合金よりなる群から選ばれる少なくとも1種のみからなるナノ粒子が担持されている、請求項5に記載の触媒。
【請求項9】
前記導電性チタン酸化物が、TinO2n-1(nは4~10の整数を示す)で表される化合物である、請求項1~8のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の触媒を用いた燃料電池用アノード。
【請求項11】
請求項10に記載のアノードを負極として用いた、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、通常、燃料電池セルを複数枚直列につないでスタック化している。各セルにはマニホールドやセパレータの流路によって個々のセルのアノードに水素ガスを供給する構造となっており、アノード(燃料極)では下記反応(1):
H2 → 2H+ + 2e- (1)
により水素の酸化反応が進行する。
【0003】
例えば、特定の1枚のセルにつながるマニホールドや流路の一部で、フラッディング時の水詰まりや氷点下時の生成水氷結等により水素供給流路が閉塞すると、そのセルには水素が供給されないため「燃料欠乏」状態に陥り、そのセルは発電の継続が不可能になる。しかし、スタックのうち、燃料欠乏になった当該セル以外のセルには水素が供給されており、発電が継続されうる。上記のようにすべてのセルは直列につながっているため、すべてのセルを流れる電流値は同一である必要があり、発電不能になった「燃料欠乏」セルにも外部のセルから強制的に電流が流し込まれる。その結果、発電時と同方向に電流が流れ続けるため「燃料欠乏」セルのアノードでは反応(1)に代わって水素イオンを供給可能な下記電気化学反応のいずれか:
2H2O → O2 + 4H+ + 4e- (2)
C + 2H2O → CO2 + 4H+ + 4e- (3)
が進行することになる。
【0004】
ここで、反応(2)は水の電気分解反応のアノード反応、反応(3)はカーボンの電気化学的腐食反応のアノード反応である。これらの反応を一般的なアノード触媒材料である白金担持カーボン(Pt/C)触媒上で進行させようとすると、アノード電位がカソード(空気極)の電位を大幅に超えてしまうため、アノード電位とカソード電位が逆転するセル電位反転(転極)が生じる。すなわち、「燃料欠乏」セルでは、スタック内の正常なセルで発電した電力を消費しながら強制的に通電される状態になる。
【0005】
特に反応(3)は、アノード触媒の構成材料であるカーボンを消費しながら進行する反応であることから深刻であり、劣化が急速に進行して燃料電池を瞬時に使用不可能としてしまう危険性が高い。また、主として反応(2)が進行する場合でも、アノード電位は1.5 V vs RHE以上と想定されるため、反応(3)の進行を完全に抑制することはできず、アノードの劣化は避けられない。
【0006】
このような水素欠乏時のアノードの劣化に対応するため、アノード電位が上がらないようにスタックを構成する各燃料電池セルについて、個々のセル電圧モニターが行われている。つまり、水素欠乏の兆候が見られた場合には、出力の抑制や水素流量の増加等の動作を行うことにより流路の閉塞状況を改善し、転極が生じないようにコントロールされる。この手法では電圧をモニターすることが必須であるが、モニターシステムが高価であることから、燃料電池システムのコストアップ要因となっている。このため、セル電圧をモニターせずとも水素欠乏状態におけるアノードの劣化を抑制できる方法が求められている。
【0007】
そこで、例えば特許文献1~3では、水素欠乏時のアノード電位の上昇を抑制するため、酸素発生(水の電気分解)を促進する手法が採用されている。具体的には、酸素発生活性の高いイリジウムやルテニウム等をアノード触媒である白金担持カーボンと混合することが知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2003-508877号公報
【文献】特開2011-040177号公報
【文献】特開2009-152143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~3の手法によれば、酸素発生触媒を用いることで、アノード電位の上昇抑制に一定の効果がある。水素欠乏時に反応(3)ではなく反応(2)を優先的に行わせることによって劣化を抑制する点において一定の効果はあるものの、水素欠乏時における転極が長時間又は多数回に及ぶとアノード触媒層中の炭素材料の劣化を本質的に避けることはできず、燃料電池の性能劣化は避けられない。実際、特許文献2においても、触媒の工夫以外にもセルの電圧を監視し、異常の検知と対策を行う装置をあわせて装備することが望ましいとされており、やはりセル電圧のモニターは避けられない。
【0010】
以上から、本発明は、セル電圧をモニターせずとも、水素欠乏時における燃料電池性能の劣化を抑制することができる触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を重ねてきた。その結果、酸素発生触媒及び導電性チタン酸化物を含有することで、上記課題を解決した触媒が得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づきさらに研究を重ね完成されたものである。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒であって、酸素発生触媒、導電性チタン酸化物及び前記酸素発生触媒以外の貴金属材料を含有する、触媒。
項2.前記酸素発生触媒が、イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属、合金並びにその酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1に記載の触媒。
項3.前記導電性チタン酸化物上に前記酸素発生触媒以外の貴金属材料が担持された貴金属材料担持導電性チタン酸化物と、前記酸素発生触媒を含むナノ粒子とを含有する、項1又は2に記載の触媒。
項4.前記酸素発生触媒以外の貴金属材料が、白金を含むナノ粒子を含有する、項1~3のいずれか1項に記載の触媒。
項5.水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒であって、イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、導電性チタン酸化物とを含有する、触媒。
項6.前記導電性チタン酸化物上に酸素発生触媒以外の貴金属材料が担持された貴金属材料担持導電性チタン酸化物と、前記イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属並びに合金よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むナノ粒子とを含有する、項5に記載の触媒。
項7.前記酸素発生触媒以外の貴金属材料が、白金を含むナノ粒子を含有する、項6に記載の触媒。
項8.前記導電性チタン酸化物の上に、前記イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属並びに合金よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むナノ粒子が担持されている、項5に記載の触媒。
項9.前記導電性チタン酸化物が、TinO2n-1(nは4~10の整数を示す)で表される化合物である、項1~8のいずれか1項に記載の触媒。
項10.項1~9のいずれか1項に記載の触媒を用いた燃料電池用アノード。
項11.項10に記載のアノードを負極として用いた、燃料電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明の触媒によれば、セル電圧をモニターせずとも、水素欠乏時における燃料電池性能の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1及び比較例1の触媒を使用した電気化学セルの水素欠乏試験におけるセル電圧の変化を示す。
図2】実施例1の触媒を使用した電気化学セルの水素欠乏試験前後の発電及び抵抗特性を示す。
図3】比較例1の触媒を使用した電気化学セルの水素欠乏試験前後の発電及び抵抗特性を示す。
図4】実施例1の触媒を使用した電気化学セルの水素欠乏試験前後のサイクリックボルタモグラム(CV)の変化を示す。
図5】比較例1の触媒を使用した電気化学セルの水素欠乏試験前後のサイクリックボルタモグラム(CV)の変化を示す。
図6】実施例1~7及び比較例2~3の触媒を使用した電気化学セルの水素欠乏試験におけるセル電位の変化を示す。
図7】実施例3の触媒を使用した電気化学セルの水素欠乏試験前後の発電及び抵抗特性を示す。
図8】実施例6の触媒を使用した電気化学セルの水素欠乏試験前後の発電及び抵抗特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲をA~Bで表記する場合、A以上B以下を示す。
【0015】
また、本明細書において、「イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属並びにその酸化物」には、イリジウム、ルテニウム、酸化イリジウム及び酸化ルテニウムの他、ルテニウム及びイリジウムを含む合金や、ルテニウム及びイリジウムを含む複合酸化物等も包含する概念である。
【0016】
1.水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒(その1)
本発明の第1の態様における水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒は、燃料電池アノードにおいて電気化学的に水素を酸化するために用いられる触媒であり、酸素発生触媒、導電性チタン酸化物及び酸素発生触媒以外の貴金属材料を含有する。
【0017】
(1-1)酸素発生触媒
本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒は、酸素発生触媒を含有することで、水素欠乏時に反応(3)ではなく反応(2)を優先的に行わせつつ、極めて少量の酸素発生触媒量で酸化劣化を抑制することができ、水素欠乏による燃料電池の特性劣化を防ぐことが可能である。一方、酸素発生触媒を使用しない、例えば、導電性チタン酸化物と白金触媒のみを使用する(導電性チタン酸化物及び酸素発生触媒以外の貴金属材料のみを使用する場合に該当)場合、燃料電池アノードの水素欠乏時には水の電気分解(反応(2))による水素イオン生成反応を優先的に行わせることが困難となり、アノード電位が急激に上昇して反応(3)によるカーボン酸化を伴う水素イオン生成反応も同時に進行するため、燃料電池アノード及び燃料電池の性能劣化を抑制することができない。
【0018】
酸素発生触媒としては、例えばイリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属、合金並びにその酸化物が挙げられる。これらの中には、イリジウム、ルテニウム、酸化イリジウム及び酸化ルテニウムの他、ルテニウム及びイリジウムを含む合金や、ルテニウム及びイリジウムを含む複合酸化物等も含まれる。特に、高電位においても安定であるイリジウムを含む触媒(つまり、イリジウム、酸化イリジウム、イリジウム及びルテニウムを含む合金、イリジウム及びルテニウムを含む複合酸化物)が好ましい。なお、水素欠乏時においては必ずしも必要ではないが、平常時のアノード触媒として水素酸化能に特に優れる観点からは、イリジウム及びルテニウムや、ルテニウム及びイリジウムを含む合金等が好ましい。
【0019】
上記の酸素発生触媒の平均粒子径は、水素欠乏時におけるセル電位を長時間維持し燃料電池の性能劣化を抑制しやすい観点から、1~50nmが好ましく、2~25nmがより好ましい。酸素発生触媒の平均粒子径は、電子顕微鏡観察(SEM又はTEM)により測定する。
【0020】
上記の酸素発生触媒の比表面積は、水素欠乏時におけるセル電位を長時間維持し燃料電池の性能劣化を抑制しやすい観点から、5~260m2/gが好ましく、10~130m2/gがより好ましい。酸素発生触媒の比表面積は、ガス吸着法(BET法)により測定する。
【0021】
上記の酸素発生触媒の含有量は、水素欠乏時におけるセル電位を長時間維持し燃料電池の性能劣化を抑制しやすい観点から、本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒の総量を100質量%として、0.1~40質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましい。また、本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒の貴金属総量(酸素発生触媒中に含まれる貴金属と後述の貴金属材料中に含まれる貴金属の総量)を100質量%として、水素欠乏時におけるセル電位を長時間維持し燃料電池の性能劣化を抑制しやすい観点から、酸素発生触媒中に含まれる貴金属の量が、5~70質量%が好ましく、8~50質量%がより好ましい。
【0022】
上記のように、本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒においては、酸素発生触媒と、導電性チタン酸化物と、酸素発生触媒以外の貴金属材料を含有することにより、セル電位をモニターせずとも、炭素材料の使用量を低減しても水素欠乏時における燃料電池性能の劣化を抑制することができる。
【0023】
(1-2)導電性チタン酸化物
導電性チタン酸化物は酸性かつ高電位条件のような環境でも安定な耐食性の酸化物であり、燃料電池アノードの水素欠乏時の高い電位環境下でもほとんど劣化しないため、燃料電池の性能劣化を抑制することができる。本発明において、導電性チタン酸化物は、担体として使用される。つまり、従来の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒において、担体且つ導電助剤として使用されていた炭素材料の代替品として使用する。
【0024】
このような導電性チタン酸化物としては、アノード触媒層の抵抗をできるだけ低く抑える観点から、TinO2n-1(nは4~10、特に4~6の整数を示す)で表される化合物、つまり、マグネリ相チタン酸化物が好ましい。このようなチタン酸化物としては、マグネリ相チタン酸化物として、Ti4O7、Ti5O9、Ti6O11等が好ましい。これらの導電性チタン酸化物は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。このような導電性チタン酸化物は、公知又は市販品を使用することができる。
【0025】
導電性チタン酸化物の平均粒子径は、アノード触媒層のガス・水蒸気の拡散を阻害しにくく、触媒を微細に担持しやすくするとともに、アノード触媒層の電気抵抗を低減しやすいことから、10nm~1μmが好ましく、20~500nmがより好ましい。導電性チタン酸化物の平均粒子径は、電子顕微鏡観察(SEM又はTEM)により測定する。
【0026】
導電性チタン酸化物の比表面積は、アノード触媒層のガス・水蒸気の拡散を阻害しにくく、触媒を微細に担持しやすくするとともに、アノード触媒層の電気抵抗を低減しやすいことから、1.5~140m2/gが好ましく、3~70m2/gがより好ましい。導電性チタン酸化物の比表面積は、BET法により測定する。
【0027】
本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒において、導電性チタン酸化物の含有量は、本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒の総量を100質量%として、アノード触媒層のガス・水蒸気の拡散を阻害しにくく、触媒を微細に担持しやすくするとともに、アノード触媒層の電気抵抗を低減しやすいことから、60~95質量%が好ましく、70~90質量%がより好ましい。
【0028】
(1-3)酸素発生触媒以外の貴金属材料
本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒は、酸素発生触媒以外の貴金属材料を含むことにより、水素が供給されている正常な動作状況時に効率よく水素を酸化することができ、よって燃料電池アノードの機能を効率的に発揮することができる。特に、酸素発生触媒として、酸化イリジウム、酸化ルテニウムや、ルテニウム及びイリジウムを含む複合酸化物等の酸化物を使用する場合は、平常時のアノード触媒として水素酸化能を向上させることも可能である。
【0029】
酸素発生触媒以外の貴金属材料としては、酸性雰囲気で安定であり水素酸化触媒能に優れていれば特に制限されないが、白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム等の触媒金属等が挙げられ、白金、パラジウム、ロジウム等が好ましく、白金がより好ましい。つまり、白金を含むナノ粒子を使用することが好ましい。
【0030】
酸素発生触媒以外の貴金属材料として白金を含むナノ粒子を使用する場合、従来から燃料電池用空気極に用いられる触媒を使用することができる。例えば、白金ナノ粒子、白金合金ナノ粒子、白金を含むコアシェル型ナノ粒子等が挙げられる。
【0031】
白金合金ナノ粒子を使用する場合、例えば、ニッケル、マンガン、コバルト、クロム、チタン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、金等の少なくとも1種と白金との合金が好ましい。この場合、白金合金中の白金の含有量は過電圧をより低減する観点から50~95質量%が好ましい。
【0032】
白金を含むコアシェル型ナノ粒子を使用する場合、過電圧をより低減する観点及び白金使用量を低減する観点から、コア部は白金以外の金属を含む合金からなり、シェル部が白金からなることが好ましい。コア部の白金合金としては、上記した白金合金を採用することができる。
【0033】
以上のような酸素発生触媒以外の貴金属材料の平均粒子径は特に制限されない。貴金属材料の平均粒子径は、2nm~40nmが好ましく、2.4nm~30nmがより好ましい。なお、白金を含むコアシェル型ナノ粒子を使用する場合は、シェル部の平均厚みは1~3原子層が好ましい。貴金属材料の平均粒子径は、電子顕微鏡観察(SEM又はTEM)により測定する。
【0034】
上記説明したような酸素発生触媒以外の貴金属材料の含有量は、本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒の総量を100質量%として、水素欠乏時における燃料電池の性能劣化を抑制しやすく平常時における燃料電池の性能を向上させやすい観点から、5~40質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましい。
【0035】
(1-4)水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒
本発明の第1の態様における電気化学的水素発生用触媒は、上記のとおり、酸素発生触媒、導電性チタン酸化物及び酸素発生触媒以外の貴金属材料を含有している。
【0036】
この本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒の実施形態としては特に制限されるわけではないが、例えば、導電性チタン酸化物上に酸素発生触媒以外の貴金属材料が担持された貴金属材料担持導電性チタン酸化物と、酸素発生触媒とを含有する触媒とすることができる。
【0037】
この場合、酸素発生触媒以外の貴金属材料を導電性チタン酸化物に担持する際の担持量は特に制限はない。燃料電池用のアノード触媒層として形成した際の触媒担持量は、アノードにおける水素酸化反応活性の維持及び材料コストの観点から、0.01~0.3mg/cm2が好ましく、0.03~0.2mg/cm2がより好ましい。
【0038】
また、酸素発生触媒についても、導電性チタン酸化物上に担持させてもよい。酸素発生触媒の担持量は、水素欠乏時のアノード電位上昇による燃料電池性能劣化の防止及びコストの観点から、0.005~0.2mg/cm2が好ましく、0.01~0.1mg/cm2がより好ましい。
【0039】
この場合、貴金属材料担持導電性チタン酸化物の製造方法は特に制限はないが、例えば、紫外レーザー還元法により作製した導電性チタン酸化物に貴金属材料を含浸還元法により担持させることができる。この後、貴金属材料担持導電性チタン酸化物と酸素発生触媒とを常法で混合することにより、本発明の電気化学的水素発生用触媒を得ることができる。
【0040】
このような本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒は、セル電圧をモニターせずとも、水素欠乏時において燃料電池性能の劣化を抑制することができる。本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒は、固体高分子形燃料電池のアノード触媒として好適に使用され得る。
【0041】
2.水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒(その2)
本発明の第2の態様における水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒は、燃料電池アノードにおいて電気化学的に水素を酸化するために用いられる触媒であり、イリジウム、ルテニウム、並びにルテニウム及びイリジウムを含む合金よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、導電性チタン酸化物とを含有する。
【0042】
(2-1)イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金
本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒は、酸素発生触媒を含有することで、水素欠乏時に反応(3)ではなく反応(2)を優先的に行わせつつ、極めて少量の酸素発生触媒量で酸化劣化を抑制することができ、水素欠乏による燃料電池の特性劣化を防ぐことが可能である。一方、酸素発生触媒を使用しない(例えば、白金触媒と導電性チタン酸化物のみを使用する)場合、燃料電池アノードの水素欠乏時には水の電気分解(反応(2))による水素イオン生成反応を優先的に行わせることが困難となり、アノード電位が急激に上昇して反応(3)によるカーボン酸化を伴う水素イオン生成反応も同時に進行するため、燃料電池アノード及び燃料電池の性能劣化を抑制することができない。
【0043】
酸素発生触媒としては、例えばイリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金が挙げられる。これらの中には、イリジウム及びルテニウムの他、ルテニウム及びイリジウムを含む合金等も含まれる。特に、高電位においても安定であるイリジウムを含む触媒(つまり、イリジウム、イリジウム及びルテニウムを含む合金)が好ましい。これらは、水素欠乏時のみならず、平常時のアノード触媒として水素酸化能に特に優れるため、後述の酸素発生触媒以外の貴金属材料を含まない構成とすることもできる。当然ながら、後述の酸素発生触媒以外の貴金属材料を含む構成とすることもできる。
【0044】
上記のイリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金の平均粒子径は、水素欠乏時におけるセル電位を長時間維持し燃料電池の性能劣化を抑制しやすいとともに、平常時における燃料電池の性能も向上させやすい観点から、1~50nmが好ましく、2~25nmがより好ましい。イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金の平均粒子径は、電子顕微鏡観察(SEM又はTEM)により測定する。
【0045】
上記のイリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金の比表面積は、水素欠乏時におけるセル電位を長時間維持し燃料電池の性能劣化を抑制しやすいとともに、平常時における燃料電池の性能も向上させやすい観点から、5~260m2/gが好ましく、10~130m2/gがより好ましい。イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金の比表面積は、ガス吸着法(BET法)により測定する。
【0046】
上記のイリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金の含有量は、水素欠乏時におけるセル電位を長時間維持し燃料電池の性能劣化を抑制しやすいとともに、平常時における燃料電池の性能も向上させやすい観点から、本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒の総量を100質量%として、0.1~40質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましい。また、後述の酸素発生触媒以外の貴金属材料を含む構成とする場合は、本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒の貴金属総量(酸素発生触媒中に含まれる貴金属と後述の貴金属材料中に含まれる貴金属の総量)を100質量%として、水素欠乏時におけるセル電位を長時間維持し燃料電池の性能劣化を抑制しやすいとともに、平常時における燃料電池の性能も向上させやすい観点から、酸素発生触媒中に含まれる貴金属の量が、5~70質量%が好ましく、8~50質量%がより好ましい。
【0047】
上記のように、本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒においては、イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、導電性チタン酸化物とを含有することにより、セル電位をモニターせずとも、炭素材料の使用量を低減しても水素欠乏時における燃料電池性能の劣化を抑制することができる。
【0048】
(2-2)導電性チタン酸化物
導電性チタン酸化物としては、上記(1-2)で説明したものを採用することができる。好ましい種類、含有量等も同様である。
【0049】
(2-3)酸素発生触媒以外の貴金属材料
本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒は、上記した、イリジウム、ルテニウム、並びにルテニウム及びイリジウムを含む合金よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、導電性チタン酸化物とを含んでいるが、さらに、他の成分として、酸素発生触媒以外の貴金属材料が含まれていてもよい。これにより、水素が供給されている正常な動作状況時にさらに効率よく水素を酸化することができ、よって燃料電池アノードの機能をさらに効率的に発揮することができる。
【0050】
酸素発生触媒以外の貴金属材料としては、上記(1-3)で説明したものを採用することができる。好ましい種類、含有量等も同様である。
【0051】
(2-4)水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒
本発明の第2の態様における電気化学的水素発生用触媒は、上記のとおり、イリジウム、ルテニウム、並びにルテニウム及びイリジウムを含む合金よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、導電性チタン酸化物とを含有しており、必要に応じて他の成分(酸素発生触媒以外の貴金属材料等)を含むこともできる。
【0052】
この本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒の実施形態としては特に制限されるわけではないが、酸素発生触媒以外の貴金属材料を含む場合には、例えば、導電性チタン酸化物上に酸素発生触媒以外の貴金属材料が担持された貴金属材料担持導電性チタン酸化物と、イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金とを含有する触媒とすることができる。
【0053】
この場合、酸素発生触媒以外の貴金属材料を導電性チタン酸化物に担持する際の担持量は特に制限はない。燃料電池用のアノード触媒層として形成した際の触媒担持量は、アノードにおける水素酸化反応活性の維持及び材料コストの観点から、0.01~0.3mg/cm2が好ましく、0.03~0.2mg/cm2がより好ましい。
【0054】
また、イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金についても、導電性チタン酸化物上に担持させてもよい。イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金の担持量は、水素欠乏時のアノード電位上昇による燃料電池性能劣化の防止及びコストの観点から、0.005~0.2mg/cm2が好ましく、0.01~0.1mg/cm2がより好ましい。
【0055】
この場合、貴金属材料担持導電性チタン酸化物の製造方法は特に制限はないが、例えば、紫外レーザー還元法により作製した導電性チタン酸化物に貴金属材料を含浸還元法により担持させることができる。この後、貴金属材料担持導電性チタン酸化物とイリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金とを常法で混合することにより、本発明の電気化学的水素発生用触媒を得ることができる。
【0056】
次に、酸素発生触媒以外の貴金属材料を含まない場合は、例えば、イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金を導電性チタン酸化物に担持させて本発明の電気化学的水素発生用触媒とすることができる。
【0057】
この場合、イリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金の担持量は、水素欠乏時における長時間セル電位を維持し燃料電池の性能劣化を抑制しやすいとともに、平常時における燃料電池の性能も向上させやすい観点から、0.02~0.3mg/cm2が好ましく、0.05~0.2mg/cm2がより好ましい。
【0058】
この場合、本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒の製造方法は特に制限はないが、例えば、紫外レーザー還元法により作製した導電性チタン酸化物にイリジウム及びルテニウムの少なくとも1種を含む金属及び合金を含浸還元法により担持させることができる。
【0059】
このような本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒は、セル電圧をモニターせずとも、水素欠乏時において燃料電池性能の劣化を抑制することができる。本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒は、固体高分子形燃料電池のアノード触媒として好適に使用され得る。
【0060】
3.アノード及び燃料電池
本発明のアノード(燃料極)は、上記した本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒を用いた燃料電池用アノードである。
【0061】
このようなアノードは、触媒として本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒を用いること以外は従来のアノードと同様とすることができるが、例えば、本発明のアノードは、アノード触媒層を有し得る。
【0062】
アノード触媒層の厚さについては特に限定的ではないが、通常、0.5~5μm程度とすることができる。
【0063】
このようなアノード触媒層の形成方法としては、特に制限されないが、ガス拡散層、集電体等に、本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒と樹脂溶液とを混合して作製した触媒インクを塗布及び乾燥する方法等によってアノード触媒層を作製し得る。
【0064】
その他のアノードの構成については公知のアノードと同様にし得る。例えば、アノードの触媒層側にカーボンペーパー、カーボンクロス、金属メッシュ、金属焼結体、発泡金属板、金属多孔体等の集電材を配置し、撥水性膜、拡散膜、空気分配層等を配置した構造ともし得る。
【0065】
電解質としては、例えば、本発明の電気化学的水素発生用触媒と高分子電解質膜とを公知の方法により一体化させて使用することができる。本発明の水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒と電解質材料等を水や溶剤等で分散させたものを、電解質膜に塗布したり、基材に塗布した触媒層を電解質膜に転写させたり等により電解質膜に触媒層を形成したりすることもできる。
【0066】
高分子電解質膜としては、パーフルオロカーボン系、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体系、ポリベンズイミダゾール系をはじめとする各種イオン交換樹脂膜、無機高分子イオン交換膜、有機-無機複合体高分子イオン交換膜等を使用することができる。
【0067】
カソード(空気極)の構造についても特に限定はなく、公知の燃料電池(特に固体高分子形燃料電池)の構造と同様とすることができる。カソード用の触媒としても、従来から知られている種々の金属、金属合金、金属錯体等を使用することができる。使用できる金属種としては、従来の固体高分子形燃料電池(PEFC)で使用される白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム等の貴金属等が挙げられる。これらの金属のなかから選ばれた単一の金属触媒、二種以上の金属の任意の組合せからなる合金を使用し得る。また、上記から選ばれる金属触媒と別の金属酸化物との複合触媒、触媒微粒子をカーボン、金属酸化物等の担体上に分散させた担持触媒として使用することもできる。
【0068】
得られた膜-電極接合体の両面をカーボンペーパー、カーボンクロス等の集電体で挟んでセルに組み込むことによって、固体高分子形燃料電池セルを作製することも可能である。
【0069】
上記した構造の燃料電池(特に固体高分子形燃料電池)では、カソード側には酸素又は空気を供給又は自然拡散させ得る。また、アノード側に燃料となる物質を供給し得る。燃料物質としては、水素ガスを使用し得る。
【0070】
本発明の燃料電池(特に固体高分子形燃料電池)の作動温度は、使用する電解質膜によって異なるが、通常0~100℃程度であり、好ましくは10~80℃程度である。
【実施例
【0071】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
実施例1:Pt/Ti 4 O 7 触媒 + Ir触媒(Pt: 0.106mg/cm 2 、Ir: 0.043mg/cm 2
紫外レーザー還元法により作製したマグネリ相Ti4O7に白金を含侵還元法により担持することでPt/Ti4O7を得た。
【0073】
導電性チタン酸化物としてマグネリ相Ti4O7粉末2.0gを、0.05Mジニトロジアンミン白金エタノール溶液50mLに加え(酸素発生触媒以外の貴金属材料としてのPtの担持量が20質量%となるように調整し)、超音波分散機によりよく分散させた。分散液はホットスターラーを用いて攪拌しながら、エタノールを蒸発させ白金錯体がマグネリ相Ti4O7上に担持された触媒前駆体を作製した。触媒前駆体を管状電気炉にセットし、水素気流中900℃で1時間還元熱処理を行った。還元処理した触媒を0.5M硫酸水溶液に超音波分散し、80℃で2時間攪拌後、純水でよく洗浄して乾燥することによりPt/Ti4O7触媒を得た。
【0074】
得られたPt/Ti4O7触媒0.2gと、酸素発生触媒であるIr触媒(Alpha Aesar社製、Iridium black、99.95%)16mg、5質量% Nafion(登録商標、以下同様)溶液(Aldrich社製Nafion Perfluorinated resin solution、EW= 1100)0.2 g、2-プロパノール0.08 gを室温・窒素雰囲気中で混合後、室温及び大気中で超音波分散機により分散処理を行い、さらにスターラーで約2時間攪拌することで、触媒スラリー溶液を調製した。PTFE製シートを塗工機定盤に固定し、所望のギャップに調整したアプリケーターにより触媒層を塗工した。触媒担持量は、白金が約0.106mg/cm2、イリジウムが約0.043mg/cm2となるようにギャップ幅を調整することによって調製した。塗工したシートを真空中、80℃で1時間乾燥させることにより、実施例1のアノード触媒層を得た。これにより、Pt/Ti4O7触媒とIr触媒とを含む触媒を、水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒として得た。
【0075】
比較例1:Pt/C触媒 + Ir触媒(Pt: 0.103mg/cm 2 、Ir: 0.044mg/cm 2
白金担持カーボン触媒(市販Pt/C、酸素発生触媒以外の貴金属材料としてのPt 37.9質量%)0.1g 、酸素発生触媒であるIr触媒16mg、5質量% Nafion溶液0.6 gを室温中で混合後、超音波分散機で分散処理を行い、さらにスターラーで約2時間攪拌することで、触媒スラリー溶液を調製した。PTFE製シートを塗工機定盤に固定し、所望のギャップに調整したアプリケーターにより触媒層を塗工した。触媒担持量は、白金が約0.103mg/cm2、イリジウムが約0.044mg/cm2となるようにギャップ幅を調整することによって調製した。塗工したシートを真空中、80℃で1時間乾燥させることにより、比較例1のアノード触媒層を得た。
【0076】
実施例2:Pt/Ti 4 O 7 触媒 + Ir触媒(Pt: 0.116mg/cm 2 、Ir: 0.027mg/cm 2
実施例1と同様にして得られたPt/Ti4O7触媒0.1gを、酸素発生触媒であるIr触媒5mg、5質量% Nafion溶液0.1g、2-プロパノール0.08gを混合後、白金が約0.116mg/cm2、イリジウムが約0.027mg/cm2となるようにアプリケーターのギャップ幅を調整したこと以外は、実施例1と同様の工程により実施例2のアノード触媒層を得た。これにより、Pt/Ti4O7触媒とIr触媒とを含む触媒を、水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒として得た。
【0077】
実施例3:Pt/Ti 4 O 7 触媒 + Ir触媒(Pt: 0.098mg/cm 2 、Ir: 0.014mg/cm 2
実施例1と同様にして得られたPt/Ti4O7触媒0.1gを、酸素発生触媒であるIr触媒3mg、5質量% Nafion溶液0.1g、2-プロパノール0.08gを混合後、白金が約0.098mg/cm2、イリジウムが約0.014mg/cm2となるようにアプリケーターのギャップ幅を調整したこと以外は、実施例1と同様の工程により実施例3のアノード触媒層を得た。これにより、Pt/Ti4O7触媒とIr触媒とを含む触媒を、水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒として得た。
【0078】
実施例4:Pt/Ti 4 O 7 触媒 + Ir触媒(Pt: 0.079mg/cm 2 、Ir: 0.0092mg/cm 2
実施例1と同様にして得られたPt/Ti4O7触媒0.1gを、酸素発生触媒であるIr触媒2.5mg、5質量% Nafion溶液0.1g、2-プロパノール0.08gを混合後、白金が約0.079mg/cm2、イリジウムが約0.0092mg/cm2となるようにアプリケーターのギャップ幅を調整したこと以外は、実施例1と同様の工程により実施例4のアノード触媒層を得た。これにより、Pt/Ti4O7触媒とIr触媒とを含む触媒を、水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒として得た。
【0079】
実施例5:Pt/Ti 4 O 7 触媒 + Ir触媒(Pt: 0.079mg/cm 2 、Ir: 0.0076mg/cm 2
実施例1と同様にして得られたPt/Ti4O7触媒0.1gを、酸素発生触媒であるIr触媒2mg、5質量% Nafion溶液0.1g、2-プロパノール0.08gを混合後、白金が約0.079mg/cm2、イリジウムが約0.0076mg/cm2となるようにアプリケーターのギャップ幅を調整したこと以外は、実施例1と同様の工程により実施例5のアノード触媒層を得た。これにより、Pt/Ti4O7触媒とIr触媒とを含む触媒を、水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒として得た。
【0080】
実施例6:Ir/Ti 4 O 7 触媒(Ir: 0.108mg/cm 2
紫外レーザー還元法により作製した導電性チタン酸化物であるマグネリ相Ti4O7に酸素発生触媒であるイリジウムを含侵還元法により担持することでIr/Ti4O7を得た。
【0081】
マグネリ相Ti4O7粉末1.8gを 0.015M塩化イリジウム酸エタノール溶液200mLに加え(Irの担持量が20質量%となるように調整し)、超音波分散機によりよく分散させた。分散液を窒素流通下80℃で3時間加熱還流することにより、イリジウム錯体がTi4O7上に担持された触媒前駆体を作製した。触媒前駆体を管状電気炉にセットし、水素気流中900℃で1時間還元熱処理を行った。還元処理した触媒を0.5M硫酸水溶液に超音波分散し、80℃で2時間攪拌後、純水でよく洗浄して乾燥することによりIr/Ti4O7触媒を得た。このIr/Ti4O7触媒を実施例6の触媒とした。これにより、Ir/Ti4O7触媒を、水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒として得た。
【0082】
得られたIr/Ti4O7触媒0.1g、5質量% Nafion溶液0.1 g、プロピレングリコール0.1 gを室温・窒素雰囲気中で混合後、室温及び大気中で超音波分散機により分散処理を行い、さらにスターラーで約2時間攪拌することで、触媒スラリー溶液を調製した。PTFE製シートを塗工機定盤に固定し、所望のギャップに調整したアプリケーターにより触媒層を塗工した。触媒担持量は、イリジウムが約0.1 mg/cm2となるようにギャップ幅を調整することによって調製した。塗工したシートを真空中、80℃で1時間乾燥させることにより、実施例6のアノード触媒層を得た。
【0083】
実施例7:Pt/Ti 4 O 7 触媒 + Ir酸化物触媒(Pt: 0.093mg/cm 2 、IrO x : 0.014mg/cm 2
実施例1と同様にして得られたPt/Ti4O7触媒0.1gを、酸素発生触媒であるIr酸化物触媒(市販IrOx、Ir 76.7重量%)3mg、5質量% Nafion溶液0.1g、2-プロパノール0.08gを混合後、白金が約0.093mg/cm2、イリジウムが約0.011mg/cm2(IrOxが約0.014mg/cm2)となるようにアプリケーターのギャップ幅を調整したこと以外は、実施例1と同様の工程により実施例7のアノード触媒層を得た。これにより、Pt/Ti4O7触媒とIrOx触媒とを含む触媒を、水素欠乏耐性燃料電池用アノード触媒として得た。
【0084】
比較例2:Pt/Ti 4 O 7 触媒(Pt: 0.11mg/cm 2
実施例1と同様にして得られたPt/Ti4O7触媒0.1gを5質量% Nafion溶液0.1g、2-プロパノール0.08gを混合後、白金が約0.11mg/cm2となるようにアプリケーターのギャップ幅を調整したこと以外は、実施例1と同様の工程により比較例2のアノード触媒層を得た。
【0085】
比較例3:Pt/C触媒(Pt: 0.12mg/cm 2
Pt/C触媒0.1gを5質量% Nafion溶液0.6gと混合後、白金が約0.12mg/cm2となるようにアプリケーターのギャップ幅を調整したこと以外は、比較例1と同様の工程により比較例2のアノード触媒層を得た。
【0086】
試験例1:水素欠乏試験評価
(1)カソード触媒層の作製
白金担持カーボン触媒(市販Pt/C、Pt 37.9質量%)0.2gに対して、質量比で6倍量の5質量% Nafion溶液を加え、超音波分散機で分散処理後、スターラーで約2時間攪拌することで、触媒スラリー溶液を調製した。PTFE製シートを塗工機定盤に固定し、所望のギャップに調整したアプリケーターにより触媒層を塗工した。塗工したシートは真空中、80℃で1時間乾燥させた。触媒担持量は基本的に白金がおよそ0.5mg/cm2となるように調製した。
【0087】
(2)MEAの作製
固体高分子電解質膜として、DuPont社製Nafion NR-212膜を用いた。アノード触媒層及びカソード触媒層を1cm角に切り出し、Nafion膜の両側に重ね合わせた後、140℃で6分間ホットプレスし、PTFEシートを剥がしとることでMEAを作製した。
【0088】
(3)評価方法
ガス拡散層(GDL)として、マイクロポーラス層付きカーボンペーパー(SGL Carbon社製 GDL25BC)を1.35cm角に切り出し、MEAの両側の電極直上に配置した。1cm2の流路面積を有するカーボン流路板及び集電板、端板により両側からMEAを挟みこみ規定のトルクで締め付けることにより、評価セルを構成した。
【0089】
評価セルを燃料電池特性評価装置にセットし、セル温度80℃に昇温しながらカソードに加湿水素(80℃加湿)、アノードに加湿窒素(80℃加湿)を供給した。セルが定常状態となり温度及び電圧が安定した後、アノードの初期サイクリックボルタモグラム(CV)を電位範囲0.1V - 1.0V、走査速度100mV/sで測定した。アノード(燃料極)及びカソード(空気極)のガスをパージしながらセル温度を室温まで一旦下げ、セルを再び80℃に昇温しながらアノードに加湿水素(80℃加湿)、カソードに加湿窒素(80℃加湿)を供給した。セルが定常状態となり温度及び電圧が安定した後、カソードの初期サイクリックボルタモグラム(CV)を電位範囲0.1V - 1.0V、走査速度100mV/sで測定した。カソードガスを加湿酸素に切替えて規定の開回路電圧が得られた後、1A/cm2の電流密度で3時間発電状態を維持した。その後、1A/cm2側から初期電流-電圧(I-V)特性データを取得した。アノードガスを加湿水素から加湿窒素に切り替え、セル電圧が0.3V以下になるまで保持した。ポテンショスタットにより200mA/cm2の定電流を印加し、セルを転極状態として2時間又はセル電圧が-2Vに達するまで継続させ、その間のセル電圧をモニターした。アノードガスを加湿水素に切替え、0.3A/cm2又は0.5A/cm2の電流密度で1晩発電を継続させた。翌日1A/cm2の電流密度で一定電圧となった後、水素欠乏試験後の電流-電圧(I-V)特性評価を行った。カソードガスを加湿窒素に切替え、電圧安定後に水素欠乏試験後のカソードサイクリックボルタモグラム(CV)を測定した。アノード及びカソードのガスをパージしながらセル温度を室温まで一旦下げ、セルを再び80℃に昇温しながらアノードに加湿窒素、カソードに加湿水素を供給した。セルが定常状態となり温度及び電圧が安定した後、アノードの水素欠乏試験後のサイクリックボルタモグラム(CV)を測定した。以上の評価によって、水素欠乏試験に対するアノード触媒の耐性と発電特性の劣化状況を確認することが可能となる。
【0090】
評価結果1:Pt/Ti 4 O 7 触媒を用いたセルの水素欠乏時の電圧変化
燃料電池試験セル(電極面積1cm2)を用い、アノードには水素の代わりに窒素を、カソードには酸素を流して水素欠乏状態とした上で、外部電源を用いて電圧(アノード側を電源のプラス極、カソード側を電源のマイナス極に接続)を印加し0.2A/cm2の電流を流して水素欠乏運転(転極)状態を再現した。転極状態でのセル電位の時間変化を図1に示す。
【0091】
比較例1(Pt/C触媒)では電圧印加により-0.7V付近まで急低下(アノード電位は急上昇)した後もセル電圧が徐々に下がり、-0.9Vに達した付近から電圧低下が加速し始め、再び急速に電位が低下した(-2.0Vに達した所で実験打ち切り)。これに対して、実施例1(Pt/Ti4O7触媒)では白金担持量と酸素発生触媒であるイリジウム担持量は同等にもかかわらず、電圧印加直後に-0.7V付近まで低下後は7200秒後においてもわずかな電位低下が見られるのみで比較例1のような顕著な電圧低下が起こらなかった。
【0092】
評価結果2:Pt/Ti 4 O 7 触媒を用いたセルの水素欠乏試験前後の発電特性
水素欠乏試験前後のセルの発電及び抵抗特性を実施例1及び比較例1についてそれぞれ図2及び図3に示す(実施例1は約7200秒の水素欠乏運転後、比較例1は約7000秒の水素欠乏運転後)。実施例1では、7200秒と極めて長時間の水素欠乏運転を行った後にも関わらず、水素欠乏試験後にセル電圧の低下は認められなかった。また、セル抵抗も増加することなく安定であった。一方、比較例1では、実施例1よりも短い約7000秒の水素欠乏運転後であるにも関わらず水素欠乏試験後は大幅なセル電圧の低下とセル抵抗の増大が見られた。
【0093】
評価結果3:Pt/Ti 4 O 7 触媒を用いたセルの水素欠乏試験前後のCV変化
図4及び図5に、実施例1及び比較例1の水素欠乏試験前後におけるアノードのサイクリックボルタモグラム(CV)を示す。図4の実施例1では、水素欠乏試験後には二重層容量領域(0.3~0.6V付近)でわずかに電流値が増加しており、アノード触媒層に接するガス拡散層の一部の酸化が進んだことを示唆しているものの、初期のCV形状をほぼ保持しており、その影響は軽微であった。一方、比較例1では水素欠乏試験後に電流値が極端に増大し、CVの形状自体も変化していた。比較例1では、水素欠乏試験によりアノードが極めて高い電位に達したため、触媒層やガス拡散層等のカーボンが不可逆的且つ広範囲に酸化劣化したことを示唆している。
【0094】
評価結果4:Pt/Ti 4 O 7 触媒に混合する酸素発生触媒含量の影響
Pt/Ti4O7触媒に混合する酸素発生触媒含量を減らしていった時の水素欠乏運転時のセル電圧変化の様子を図6に示す。酸素発生触媒含量が減少しても、0.0076mg/cm2(実施例5)以上であればその影響は少なく、0.014mg/cm2(実施例3)以上であれば2時間以上水素欠乏状態が継続しても、発電特性の低下につながるセル電圧の急激な低下は全く見られず、発電特性も維持できた(図7)。
【0095】
また、金属状のイリジウムのみならず、酸化物を用いた場合も同等の効果が得られた(図6)。
【0096】
さらに、酸素発生触媒として金属状のイリジウム、ルテニウム等や、イリジウム及びルテニウムの合金を用いれば、白金触媒と同様に電気化学的な水素酸化触媒能を有している。従って、IrをTi4O7に担持したIr/Ti4O7触媒のみをアノード触媒として用いれば、実施例6のように高い水素酸化能と耐水素欠乏特性を両立することもできた(図6及び8)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8