IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 昭和産業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】抗糖化組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20230901BHJP
   A61K 36/31 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20230901BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230901BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230901BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20230901BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/31
A61K36/48
A61P3/10
A61P43/00
A61Q19/08
A61K8/9789
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019116487
(22)【出願日】2019-06-24
(65)【公開番号】P2021000049
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】山本 恭介
(72)【発明者】
【氏名】林 有未
(72)【発明者】
【氏名】江口 陽子
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-162721(JP,A)
【文献】Int. J. Mol. Sci.,2011年,12(10),pp.7048-7058
【文献】Food Chemistry,2008年,106(2),pp.475-481
【文献】Turk. J. Biochem.,pp.699-705,2019年05月,44(5),https://www.degruyter.com/document/doi/10.1515/tjb-2018-0294/html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A61K,A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆の種子から取り出した大豆皮の抽出物を含んでなる抗糖化組成物。
【請求項2】
蛍光性AGEs生成阻害活性を有する、請求項1に記載の抗糖化組成物。
【請求項3】
前記抽出物が、水またはエタノール水溶液による抽出物である、請求項1または2に記載の抗糖化組成物。
【請求項4】
大豆皮抽出物の総ポリフェノール含有量が没食子酸換算で50μg/mg以下である、請求項1~3のいずれかに記載の抗糖化用組成物。
【請求項5】
大豆の種子から取り出した大豆皮から抽出物を得る工程を含む、大豆皮抽出物を含む抗糖化用組成物の製造方法。
【請求項6】
水またはエタノール水溶液を用いて大豆皮から抽出物を得る、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物素材を原料とする抗糖化組成物およびその製造方法に関する。特に本発明は、タンパク質の糖化によって生じる最終糖化産物(AGEs)の生成を抑制可能な抗糖化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢に伴って生じるタンパク質の機能不全は身体各部の組織や器官の異常を引き起こす。その原因の一つにタンパク質の糖化によって生じるAGEsの蓄積が指摘されている。そこで、蓄積を防ぐため、AGEsの生成を抑制する方法、AGEsを分解する方法の研究が進められている。
【0003】
AGEsの生成を抑制する薬剤として、糖尿病性腎症治療薬アミノグアニジンが知られているが、副作用が報告されている(非特許文献1)。
副作用のない安全な抗糖化素材の開発が期待されている中、これまで、抗糖化機能を持つ食品素材が提案されている。例えば、特許文献1には各種ハーブ類、特許文献2にはクロモジ属に属する植物の抽出物について抗糖化活性が評価されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-006036号公報
【文献】特開2018-065769号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Diabetes Care. 1992. 15; 1835-1843
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、植物素材を原料とする新たな抗糖化組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題について鋭意検討したところ、大豆皮などの特定の植物素材から得た抽出物が抗糖化組成物として特に優れていることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、これに限定されるものではないが、下記の発明を包含する。
(1) 大豆皮、脱脂菜種、花豆、小豆および赤えんどう豆からなる群より選択される1以上の抽出物を含んでなる抗糖化組成物。
(2) 蛍光性AGEs生成阻害活性を有する、(1)に記載の抗糖化組成物。
(3) 前記抽出物が、水またはエタノール水溶液による抽出物である、(1)または(2)に記載の抗糖化組成物。
(4) 前記抽出物が、大豆皮の抽出物を含む、(1)~(3)のいずれかに記載の抗糖化組成物。
(5) 前記抽出物が、脱脂菜種の抽出物を含む、(1)~(3)のいずれかに記載の抗糖化組成物。
(6) 前記抽出物が、花豆、小豆、赤えんどう豆からなる群より選択される1以上の抽出物を含む、(1)~(3)のいずれかに記載の抗糖化組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、植物素材を原料として得られる抽出物を含む優れた抗糖化組成物が提供される。本発明の組成物によれば、AGEsの生成抑制が可能である。したがって、本発明に係る抗糖化組成物によれば、例えば、生体内に生成したAGEsが原因となる疾病、組織の老化および機能低下の予防ならびに治療が可能である。さらに、本発明は、植物素材の抽出物を利用するため、安全性に優れ、また、前記植物および、その抽出物は大量に入手可能なため、生産性にも優れる。
【0010】
一般に、ハーブ類などの既存の素材は苦みや独特のにおいがあるのに比べて、本発明に係る抗糖化組成物は、味質の面で既存素材より有利であり、幅広い食品形態に使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(抗糖化組成物)
本発明の抗糖化組成物は、大豆皮、脱脂菜種、花豆、小豆および赤えんどう豆からなる群より選択される1以上の抽出物を含有する。本発明の抗糖化組成物は、前述の植物抽出物のうち、1種類の抽出物を含んでもよいし、2種類以上の抽出物を含んでいてもよい。本発明の抗糖化組成物は、AGEs生成抑制能を有しており、AGEs生成抑制能は、例えば、蛍光性AGEs生成阻害活性によって評価することができる。
【0012】
本発明に係る抗糖化組成物は、例えば、AGEs生成抑制能の他、AGEs分解能を有していてもよく、AGEs分解能は、例えば、AGEs架橋切断活性によって評価することができる。本発明の抗糖化組成物が、例えば、AGEs生成抑制能とAGEs分解能を有すれば、AGEsの蓄積をより少なくすることができる。本発明の抗糖化組成物が、AGEs分解能について、前述の植物抽出物とAGEs分解剤を組み合わせてもよく、また、前述の植物抽出物のうちAGEs分解能を兼ね備える脱脂菜種、花豆、小豆および赤えんどう豆からなる群より選択される植物の抽出物を含有してもよい。
【0013】
(植物素材)
本発明に係る抗糖化組成物は、大豆皮、脱脂菜種、花豆、小豆および赤えんどう豆からなる群より選択される1以上の抽出物を含む。一般に豆類は、古くから食用栽培した植物で、食経験が長く安全性の高い食品素材である。また、豆類は世界中で生産されているため容易に入手でき、その抽出物も安価に提供できる可能性がある。
【0014】
大豆(Glycine max)は、マメ科ダイズ属の植物である。産地は特に限定されず、品種についても従来公知の品種が利用でき、例えば種子の皮が黄白色から黄色の黄大豆、淡黄緑色から濃緑色の青大豆、黒色の黒大豆等を用いることができる。好ましくは黄大豆、青大豆を利用し、より好ましくは黄大豆を使用する。大豆皮は種子の皮の部分であり、総イソフラボン含有量が低く、少量しか含まないことが好ましい。例えば、固形分当たりの総イソフラボン含有量がアグリコン換算で好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.01%以下である。前記大豆皮の抽出物は、大豆の種子から皮を取り出した上で抽出することができる。前記大豆皮の抽出物は、固形分当たりの総ポリフェノール含有量が没食子酸換算で好ましくは50μg/mg以下、より好ましくは40μg/mg以下、さらに好ましくは30μg/mg以下である。大豆は、生産量や搾油量が多い油糧種子で、大豆皮は、製油工程で発生する副産物のため、安価に提供できる。また、副産物の利用で環境負荷を低減できる。
【0015】
菜種は、特に限定されるものではなく、従来、植物油の製造に用いられている各種の品種が利用できる。菜種としては、例えば、Brassica campestris(和種)、Brassica napus(西洋種)、さらには、品種改良によって作り出された、エルカ酸およびグルコシノレート双方の含量の低いキャノーラ種などを好適に使用できる。脱脂菜種は種子を脱脂したもので、脱脂菜種の抽出物は、菜種の種子を脱脂した上で抽出することができる。前記脱脂菜種の抽出物は、固形分当たりの総ポリフェノール含有量が没食子酸換算で好ましくは150μg/mg以下、より好ましくは30~150μg/mg、さらに好ましくは30~120μg/mgである。菜種は、生産量、搾油量が多い油糧種子で、脱脂菜種は、製油工程で発生する副産物のため、安価に提供できる。また、副産物の利用で環境負荷を低減できる。
【0016】
脱脂菜種の製法は特に制限されず、一般的な方法によって菜種から油分を除去して脱脂すればよい。脱脂菜種を製造する際、加工助剤を用いて菜種から油分を抽出したり、菜種を圧搾した後の圧搾粕から加工助剤を用いて油分を抽出したりすることができる。本発明の脱脂菜種は、特に制限されないが、油分を3%以下とすることができ、2%以下や1%以下としてもよい。ここで、油分とは、試料からジエチルエーテルを用いて抽出される物質の(試料に対する)百分率をいい、基準油脂分析試験法(1.5-2013、日本油化学会)に基づいて測定することができる。また、本発明に係る脱脂菜種は、種々の形態であってよく、例えば、粒状やフレーク状、粉末状、繊維状、ペースト状やカード状などの形態でもよい。
【0017】
花豆(Phaseolus coccineus)は、マメ科インゲンマメ属の植物であり、ベニバナインゲンともいう。花豆の抽出物は、例えば、花、花穂、穂、果皮、果実、茎、枝、葉、根茎、根皮、根、種子および葉柄等のいずれの抽出物であってもよく、1つの部位の抽出物でもよく、2つ以上の部位の抽出物でもよい。前記抽出物は、植物体全体の抽出物であってもよい。花豆の抽出物は、好ましい態様において、種子またはサヤの抽出物を含み、より好ましい態様は、花豆皮の抽出物を含む。前記花豆皮は、種子の皮の部分であり、花豆皮の抽出物は、花豆の種子から皮を取り出した上で抽出することができる。前記花豆皮の抽出物は、固形分当たりの総ポリフェノール含有量が没食子酸換算で好ましくは300μg/mg以上、より好ましくは300~700μg/mg、さらに好ましくは400~700μg/mg、よりさらに好ましくは400~600μg/mgである。
【0018】
小豆(Vigna angularis)は、マメ科ササゲ属の植物である。小豆の抽出物は、例えば、花、花穂、穂、果皮、果実、茎、枝、葉、根茎、根皮、根、種子および葉柄等のいずれの抽出物であってもよく、1つの部位の抽出物でもよく、2つ以上の部位の抽出物でもよい。前記抽出物は、植物体全体の抽出物であってもよい。小豆の抽出物は、好ましい態様において、種子またはサヤの抽出物を含み、より好ましい態様は、小豆の種子の抽出物を含む。前記小豆の種子の抽出物は、固形分当たりの総ポリフェノール含有量が没食子酸換算で好ましくは50μg/mg以下、より好ましくは20~40μg/mgである。
【0019】
赤えんどう豆(Pisum sativum)は、マメ科エンドウ属の植物である。赤えんどう豆の抽出物は、例えば、花、花穂、穂、果皮、果実、茎、枝、葉、根茎、根皮、根、種子および葉柄等のいずれの抽出物であってもよく、1つの部位の抽出物でもよく、2つ以上の部位の抽出物でもよい。前記抽出物は、植物体全体の抽出物であってもよい。赤えんどう豆の抽出物は、好ましい態様において、種子またはサヤの抽出物を含み、より好ましい態様は、赤えんどう豆の種子の抽出物を含む。前記赤えんどう豆の種子の抽出物は、固形分当たりの総ポリフェノール含有量が没食子酸換算で好ましくは100μg/mg以下、より好ましくは50~100μg/mgである。
【0020】
本発明に係る抗糖化組成物は、大豆皮、脱脂菜種、花豆、小豆および赤えんどう豆からなる群より選択される1以上の抽出物に加えて、別の植物の抽出物を含有していてもよい。例えば、抗酸化活性を有する抗酸化剤を含んでもよく、本発明に係る抗糖化組成物は、例えば、レモンバーム、スペアミント、セイボリー、ハイビスカス、ローズマリー、タイム、クローブ、バジル、ペパーミント、マジョラム、オレガノ、タラゴン、ベイリーフ、スターアニス、パプリカ、オールスパイス、ガーリック、カルダモン、オニオン、シナモン、ブルーマロウ、山椒、アニス、レモングラス、レッドチリおよびグリーンチリ等のトウガラシ、ジュニパーベリー、アジョワン、キャラウェイ、ターメリック、フェンネル、ディル、ブラッククミン、セロリ、フェヌグリーク、コリアンダー、ペッパー(例えば、ブラックペッパー、ホワイトペッパーおよびレッドペッパー等)、クミン、ジンジャー等の抽出物などの抗酸化剤を含んでいてよい。前記抗酸化剤は、例えば、前記抽出物のうち、いずれか1種類の抽出物を含んでもよいし、2種類以上の抽出物を含んでもよい。
【0021】
(抽出方法)
本発明に係る抗糖化組成物は、植物素材の抽出物を含んでなるが、抽出物の抽出方法は、特に制限されず、例えば、溶媒抽出法、圧搾法等の公知の方法があげられる。
【0022】
前記溶媒抽出法に用いる抽出溶媒は、特に制限されず、例えば、水性溶媒、有機溶媒等があげられる。前記水性溶媒は、特に制限されず、例えば、水等があげられる。前記有機溶媒は、特に制限されず、例えば、低級アルコール、多価アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ニトリル、芳香族化合物および塩化アルキル等があげられる。前記低級アルコールは、特に制限されず、例えば、メタノール、エタノールおよび無水エタノール等があげられる。前記多価アルコールは、特に制限されず、例えば、プロピレングリコールおよび1,3-ブチレングリコール等があげられる。前記ケトンは、特に制限されず、例えば、アセトンおよびギ酸等があげられる。前記エステルは、特に制限されず、例えば、酢酸エチル等があげられる。前記エーテルは、特に制限されず、例えば、ジエチルエーテルおよびジオキサン等があげられる。前記ニトリルは、特に制限されず、例えば、アセトニトリル等があげられる。前記芳香族化合物は、特に制限されず、例えば、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等があげられる。前記塩化アルキルは、特に制限されず、例えば、クロロホルム等があげられる。
【0023】
前記抽出溶媒は、例えば、1種類の溶媒であってもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。また、前記抽出溶媒は、例えば、前記水性溶媒と前記有機溶媒との混合溶媒であってもよい。前記混合溶媒は、特に制限されないが、例えば、エタノール水溶液等の低級アルコール水溶液等があげられる。前記混合溶媒における前記有機溶媒の割合は、特に制限されないが、例えば、1~99v/v%である。
【0024】
前記溶媒抽出法は、例えば、前述の抽出部位または植物体全体を原料とし、これを前記抽出溶媒に浸漬して実施できる。前記原料は、例えば、前記浸漬前に、洗浄、乾燥および粉砕等の処理を行ってもよい。前記原料が2種類以上の場合、各原料をそれぞれ抽出処理してもよいし、2種類以上の原料の混合物を抽出処理してもよい。前者の場合、例えば、得られた各抽出物を混合し、混合抽出物としてもよい。前記混合抽出物における各抽出物の混合割合は、特に制限されず、例えば、等量(重量)であってもよい。後者の場合、例えば、前記混合物中の各原料の割合は、特に制限されず、例えば、等量(重量)であってもよい。
【0025】
抽出に用いる前記原料と前記抽出溶媒との割合は、特に制限されず、前記原料100g(乾燥重量)に対して、例えば、前記抽出溶媒0.1~100Lであり、好ましくは、0.1~10Lである。前記浸漬時間は、例えば、前記原料および前記抽出溶媒の種類および量等に応じて適宜設定でき、特に制限されない。具体的には、前記原料100gを前記抽出溶媒10Lに浸漬する場合、前記浸漬時間は、例えば、0.1時間以上が好ましく、より好ましくは、0.1~24時間である。
【0026】
また、前記抽出時の前記抽出溶媒の温度は、室温であってもよいし、室温以上または室温以下であってもよく、特に制限されない。前記抽出溶媒が水性溶媒の場合、前記抽出処理は、特に制限されないが、温度が低くなると抽出効率が低くなるため、例えば、30℃以上であり、30~55℃、45~70℃、60~100℃である。また、前記抽出溶媒が水性溶媒の場合、温度が高くなると抽出時に菌の繁殖が生じにくいため、前記水性溶媒の温度は50℃以上が好ましく、より好ましくは50~100℃であり、さらに好ましくは55~100℃、よりさらに好ましくは60~100℃である。また、前記熱水抽出の処理時間は、例えば、前記原料の種類および量、ならびに前記水性溶媒の量等に応じて適宜設定でき、特に制限されない。具体的には、前記原料100g(乾燥重量)を前記水性溶媒10Lで抽出する場合、前記処理時間は、0.5時間以上が好ましく、より好ましくは0.5~24時間である。
【0027】
前記抽出物は、前記抽出処理後、例えば、精製処理等を施してもよい。前記精製処理は、特に制限されないが、例えば、蒸留処理、ろ過処理、濃縮処理、クロマトグラフィー処理および乾燥処理等の公知の方法があげられる。
【0028】
ここで、上記の抽出方法で得られた抗糖化組成物には、他の植物の抽出物と同様に、有効成分以外の非常に多くの成分が含まれる。つまり、炭水化物、タンパク質、アミノ酸、脂肪、色素、ビタミン、香気成分など種々の成分が複雑な状態や配合比で含まれている組成物の状態で目的の抗糖化効果を発揮する。従って、本発明の抗糖化組成物を、構造や特定により直接特定するためには、構成成分の同定、定量が必須となるが、全ての構成成分を同定および定量することは、技術常識からみて到底不可能であるか、又はおおよそ実際的ではない。すなわち、本発明の抗糖化組成物は、抽出製造方法で特定せざると得ない発明といえる。
【0029】
(抗糖化組成物の形態)
本発明に係る抗糖化組成物は、大豆皮、脱脂菜種、花豆、小豆および赤えんどう豆からなる群より選択される1以上の抽出物を含有するが、組成物の形態は特に制限されず、例えば、液状、ペースト状および粉末状などであってよく、用途に応じて適宜選択できる。
【0030】
本発明に係る抗糖化組成物は、前述の抽出物のみを含んでもよいし、前述の抽出物に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。本発明に係る抗糖化組成物は、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、吸収促進剤、乳化剤、安定化剤および防腐剤等の各種添加剤を含んでもよい。各種添加剤の配合量は、特に制限されず、適宜設定できる。
【0031】
本発明に係る抗糖化組成物の形態は、特に制限されないが、例えば、固形状、ゲル状および液状等があげられる。前記形態の具体例としては、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、トローチ剤、点眼剤、液剤、貼付剤、ローション剤および軟膏剤等があげられる。
【0032】
(抗糖化組成物の用途)
本発明の抗糖化組成物は、大豆皮、脱脂菜種、花豆、小豆および赤えんどう豆からなる群より選択される1以上の抽出物をそのまま、あるいは公知の担体と組合せ、製剤化することにより調製される。この抗糖化組成物は、飲食品はもちろん、化粧品や医薬品として使用できる。
【0033】
本発明の抗糖化組成物は、例えば、飲食品に配合することにより、組織障害予防・治療効果を有する飲食品とすることもできる。本発明の抗糖化組成物を飲食品原料等に有効量添加すること以外は通常の飲食品を製造するのと同様に製造される。これら飲食品の例としては、小麦粉製品、農産加工品、水産加工品、畜産加工品、乳製品、調味料、菓子類、飲料等が挙げられる。食品としての分類は特に制限されないが、通常の食品はもちろん、食品添加物として使用することも可能であり、特定保健用食品や機能性表示食品として使用してもよい。
【0034】
また、本発明の抗糖化組成物を含有する組織障害予防・治療剤等の医薬品や医薬部外品を調製する場合、例えば、本発明の抗糖化組成物と通常の医薬品や医薬部外品に使用される分散補助剤、賦形剤等の担体や添加剤と混合する。
【0035】
上記担体としては、マンニトール、乳糖、デキストラン等の水溶性の単糖類、オリゴ糖類又は多糖類;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース等のゲル形成性又は水溶性のセルロース類;結晶性セルロース、α―セルロース、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびそれらの誘導体等の水吸収性でかつ水難溶性のセルロース類;ヒドロキシプロピル澱粉、カルボキシメチル澱粉、架橋澱粉、アミロース、アミロペクチン、ペクチンおよびそれらの誘導体等の水吸収性でかつ水難溶性の多糖類;アラビアガム、トラガントガム、グリコマンナンおよびそれらの誘導体等の水吸収性でかつ水難溶性のガム類;ポリビニルピロリドン、架橋ポリアクリル酸およびその塩、架橋ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチルメタクリレートおよびそれらの誘導体等の架橋ビニル重合体類;リン脂質、コレステロール等のリポソーム等分子集合体を形成する脂質類糖を挙げることができる。
【0036】
また、添加剤としては微生物培養代謝物、紫外線吸収/遮断剤、美白剤、メラニン色素還元/分解剤、ターンオーバーの促進作用/細胞賦活剤、収斂剤、活性酸素消去剤、抗酸化剤、過酸化脂質生成抑制剤、抗炎症剤、殺菌・消毒薬、保湿剤、頭髪用剤、酸化剤、染料剤、栄養強化剤、保湿剤、ホルモン類、pH調整剤、キレート剤、防腐・防バイ剤、清涼剤、安定化剤、乳化剤、動・植物性蛋白質又はその分解物、動・植物性多糖類又はその分解物、動・植物性糖蛋白質又はその分解物、血流促進剤、消炎剤・抗アレルギー剤、細胞賦活剤、角質溶解剤、創傷治療剤、増泡剤、増粘剤、口腔用剤、消臭・脱臭剤、苦味料、調味料、酵素等を挙げることができる。
【0037】
これら医薬品や医薬部外品の例としては、液剤(シロップ等を含む)等の液状製剤や、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)等の固形製剤形態の経口製剤;液剤、点滴剤、注射剤、点眼剤等の液状製剤や、錠剤、丸剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)等の固形製剤形態の非経口製剤を挙げることができる。
【0038】
本発明の抗糖化組成物は、AGEsの生成を抑制するものであり、これを含有する組織障害予防・治療剤は、AGEsの生成により生じる動脈硬化症、白内障、アルツハイマー症、腎不全、透析製アミロイドーシス、結合組織硬化に伴う各種疾患、日光弾力線維症、皮膚の肥厚等の各種組織障害の予防および治療・改善効果を有するものである。
さらに、本発明の抗糖化組成物は、化粧品に配合して使用することもできる。例えば、本発明の抗糖化組成物を外用剤に配合することにより、組織障害予防・治療効果を有する外用剤とすることもできる。本発明の抗糖化組成物を化粧品原料等に有効量添加する以外は通常の化粧品等の外用剤を製造するのと同様に製造される。使用される化粧品原料は上記の組織障害予防・治療剤において、担体および添加剤として例示した物のうち、化粧品等の外用剤に使用が認められるものを使用することができる。
【0039】
これら化粧品等の外用剤の例としては、クレンジング剤、皮膚洗浄料、マッサージ剤、軟膏、クリーム、ローション、オイル、パック、洗顔料、化粧水、乳液、ゼリー等の基礎化粧品;ファンデーション、おしろい、口紅、頬紅、アイシャドー、アイライナー、マスカラ、眉墨等のメークアップ化粧品等が挙げることができる。
【0040】
本発明の抗糖化組成物は、動物用医薬や飼料に配合することにより、組織障害予防・治療効果を有する動物用医薬や飼料とすることもできる。本発明の抗糖化組成物を動物用医薬原料等に有効量添加すること以外は通常の動物用医薬を製造するのと同様に製造される。また、本発明の抗糖化組成物を動物用飼料原料等に有効量添加すること以外は通常の動物用飼料を製造するのと同様に製造される。これら動物用飼料の例としては、家畜・競走馬・鑑賞動物等のための飼料、ペットフード等が挙げられる。
【0041】
(糖化阻害方法)
本発明の抗糖化組成物の使用として、糖とアミノ酸類を含有するものに配合して、糖のカルボニル基とアミノ酸類のアミノ基が結合し、これらの糖化産物が形成される反応を阻害する方法がある。糖とアミノ酸類を含有するものとして、例えば、細胞や組織が挙げられ、本発明の抗糖化組成物をin vitroで使用してもよい。ここで、糖とは還元糖のことを指し、塩基性溶液中でアルデヒド基またはケトン基を形成する糖を意味する。アミノ酸類とは、アミノ酸やこれを構成成分とするペプチドもしくはタンパク質およびこれらの塩を意味する。
【0042】
また、本発明の抗糖化組成物の使用として、生体に投与して、生体内のAGEsが原因となる疾病や組織の老化および機能低下を予防または治療する方法もある。前記生体の例としては、ヒトまたはサル、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ等の非ヒト哺乳類、鳥類、魚介類等が挙げられる。前記疾病や組織の老化および機能低下は、動脈硬化症、白内障、アルツハイマー症、腎不全、透析製アミロイドーシス、結合組織硬化に伴う各種疾患、日光弾力線維症、皮膚の肥厚等の各種組織障害が挙げられる。
【実施例
【0043】
以下、具体的な実験に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。また、特に記載しない限り、本明細書において、濃度などは質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0044】
抽出方法
(1)植物素材
下記の植物素材を原料として使用した。
・大豆(丸大豆): 大豆の種子(アメリカ産、非遺伝子組換)
・大豆皮: 大豆の種子(アメリカ産、非遺伝子組換)から取得した皮部分
・大豆胚軸: 大豆の種子(アメリカ産、非遺伝子組換)から取得した胚軸部分
・脱脂大豆: 大豆の種子(アメリカ産、非遺伝子組換)から皮部分と胚軸部分を除去した後、フレーク状に圧篇し、約5倍量のノルマルヘキサンを用いてソックスレー抽出にて6時間脱脂したもの
・脱脂菜種: 菜種の種子(カナダ産、キャノーラ種)をフレーク状に圧篇し、約5倍量のノルマルヘキサンを用いてソックスレー抽出にて6時間脱脂したもの
・花豆皮: 花豆の種子(北海道産)から取得した皮部分
・小豆: 小豆の種子(北海道産)
・赤えんどう豆: 赤えんどうの種子(北海道産)
・米(緑米): 緑米の種子(日本産)
・小麦皮(小麦ふすま): 小麦の種子(日本産)から取得した皮部分
(2)水抽出
コーヒーミルにて細かく粉砕した各試料1gに超純水20mLを加え、80℃で1時間振とうした(振とう数:100min-1)。振とう後の混合物を、25℃、10分間、12000rpmで遠心分離し、上清をろ過して回収した。この遠心分離による沈澱を10mLの超純水で洗い、再度、同条件で遠心分離を行い、上清をろ過して回収した。得られた2つの上清を合わせて凍結乾燥し、この固形分を超純水で固形分濃度10mg/mLになるように再溶解して熱水抽出物溶液を調製した。また、凍結乾燥後の乾燥重量と抽出に用いた試料の乾燥重量から抽出効率を算出した。
(3)エタノール抽出
コーヒーミルにて細かく粉砕した各試料1gに70v/v%エタノール水溶液20mLを加え、50℃で4時間振とうした(振とう数:100min-1)。振とう後の混合物を、25℃、10分間、12000rpmで遠心分離し、上清をろ過して回収した。この遠心分離による沈澱を10mLの70v/v%エタノール水溶液で洗い、再度、同条件で遠心分離を行い、上清をろ過して回収した。得られた2つの上清を合わせて遠心濃縮し、この固形分を70v/v%エタノールで固形分濃度10mg/mLになるように再溶解してエタノール抽出物溶液を調製した。
【0045】
実験1
種々の植物素材から抽出物を調製し、抗糖化活性を評価した。本実験では、大豆皮、脱脂菜種、花豆皮、小豆、赤えんどう豆、緑米を植物素材として使用し、上記した手順で得られた水抽出物およびエタノール抽出物の蛍光性AGEs生成阻害活性を評価した。
【0046】
(蛍光性AGEs生成阻害活性の測定)
ペントシジン、クロスリン、ピロピリジンなどのAGEsは特徴的な蛍光性を有するため、蛍光性AGEsの生成阻害活性に基づいて抗糖化活性を評価することができる。
【0047】
100mMリン酸緩衝液(pH7.4)500μL、40mg/mLヒト血清アルブミン(HSA)水溶液200μL、2Mグルコース水溶液または超純水100μL、各種調製試料100μL、超純水100μLを混合した。
【0048】
60℃で48時間インキュベーションした後、この反応液の糖化反応生成物量を、マイクロプレートリーダーSYNERGY H1(BioTek)を用いて、蛍光強度として測定した(励起波長370nm、蛍光波長440nm)。蛍光性AGEs生成阻害活性は、下式により算出される蛍光性AGEs生成阻害率で評価した。
・蛍光性AGEs生成阻害率(%)={1-(A-B)/(C-D)}×100
A:グルコースを含む試料混合液の蛍光強度
B:グルコースを含まない試料混合液の蛍光強度
C:グルコースを含むブランク溶液混合液の蛍光強度
D:グルコースを含まないブランク溶液混合液の蛍光強度
【0049】
【表1】
【0050】
上記の表から明らかなように、大豆皮、脱脂菜種、花豆皮、小豆、赤えんどう豆から得られた抽出物は、優れた抗糖化活性を有していた。
実験2
種々の植物素材から抽出物を調製し、実験1とは別の方法によって抗糖化活性を評価した。本実験では、脱脂菜種、花豆皮、緑米、小麦ふすまを植物素材として使用し、上記した手順で得られた水抽出物のAGEs架橋切断活性を評価した。また、脱脂菜種、花豆皮、小豆、緑米、小麦ふすまを植物素材として使用し、上記した手順で得られたエタノール抽出物のAGEs架橋切断活性を評価した。
【0051】
(AGEs架橋切断活性の測定)
一般に、生体内のAGEsの蓄積は、α-ジケトン構造のC-C結合を切断分解することによって抑制されるため、架橋切断活性に基づいてAGEsおよびその中間体の体内蓄積を抑制する効果を評価できる。
【0052】
Vasansらの方法(Nature,Vol.382,275-278,1996)を参考に、AGEs架橋のモデル化合物である1-フェニル1,2-プロパンジオン(PPD)中のα-ジケトン構造のC-C結合を分解した時に生成する安息香酸濃度を測定し、AGEs架橋切断活性を評価した。
【0053】
200mMリン酸緩衝液(pH7.4)400μL、10mM PPD 100μL、試料500μLを混合し、37℃、8時間反応させた。その後、反応液に2MHClを200μL加えて反応を停止させ、遠心分離し(14500rpm、5分)、上清を0.45μmフィルターでろ過し、上清中の安息香酸濃度をHPLCによって測定した。
【0054】
AGEs架橋切断活性は、下式によって算出されるAGEs架橋切断率で評価した。
・AGEs架橋切断率(%)=(B-C)/A×100
A:反応液中のPPD濃度(0.83mM)
B:反応後の安息香酸濃度
C:試料をブランク溶液(超純水または70v/v%エタノール)に替えた反応液中の安息香酸濃度
なお、HPLC分析条件は、下記のとおりである。
・カラム:Cadenza CD-C18 ID4.6×125mm(Imtakt)
・溶離液:2mmol/L EDTA-2Naを含む0.2%酢酸:アセトニトリル=70:30(v:v)
・流速:0.7mL/min
・カラム温度:40℃
・検出波長:UV230nm
・インジェクション量:10μL
【0055】
【表2】
【0056】
上記の表から明らかなように、花豆皮から得られた水抽出物およびエタノール抽出物、脱脂菜種から得られた水抽出物およびエタノール抽出物、小豆から得られたエタノール抽出物は、蛍光性AGEs生成阻害活性のみならず、優れたAGEs架橋切断活性を有していた。
【0057】
実験3
種々の植物素材から抽出物を調製し、固形分当たりの総ポリフェノール含有量を測定した。本実験では、大豆皮、脱脂菜種、花豆皮、小豆、赤えんどう豆を植物素材として使用し、上記した手順で得られた水抽出物の固形分当たりの総ポリフェノール含有量を算出した。また、脱脂菜種、花豆皮を植物素材として使用し、上記した手順で得られたエタノール抽出物の固形分当たりの総ポリフェノール含有量を算出した。結果を表3に示した。
【0058】
(総ポリフェノール含有量の測定)
各植物抽出物の総ポリフェノール含有量は、総ポリフェノール濃度をISO14502-1:2005を参考に、フォーリン・チオカルト法にて、没食子酸換算して測定し、固形分当たりの総ポリフェノール含有量を算出した。
【0059】
総ポリフェノール濃度は、試料20μL、10v/v%フォーリン・チオカルト試薬(MP Biomedicals)100μLを混合し、室温にて5分間インキュベートした。その後、7.5w/v%炭酸ナトリウム水溶液80μLを混合し、室温にて60分間インキュベートした。反応終了後、水をブランクとして、マイクロプレートリーダーSYNERGY H1(BioTek)で765nmの吸光度を測定した。没食子酸溶液を用い、同様の反応液の吸光度から、検量線を作成し、各試料の総ポリフェノール濃度を没食子酸換算した。
【0060】
【表3】
【0061】
実験4
植物素材として大豆を用いて、各部位の抽出物の抗糖化活性を評価した。また、イソフラボンが抗糖化活性を有することは一般的に知られているため、大豆皮、大豆(丸大豆)および大豆胚軸の固形分当たりの総イソフラボン含有量も併せて測定した。
【0062】
(蛍光性AGEs生成阻害活性の測定)
水抽出物について、実験1と同様にして蛍光性AGEs生成阻害活性を評価した。
(総イソフラボン含有量の測定)
固形分当たりの総イソフラボン含有量は、総イソフラボン濃度を食安発第0823001号「大豆イソフラボンを含む特定保健用食品等の取扱いに関する指針について」を参考に、アグリコン換算して測定し、固形分当たりの総イソフラボン含有量を算出した。
【0063】
総イソフラボン濃度は、コーヒーミルにて細かく粉砕した各試料1gに70v/v%エタノール水溶液25mLを加え、30分間振とうした(振とう数:110min-1)。振とう後の混合物を、25℃、10分間、2500rpmで遠心分離し、液層を回収した。この遠心分離による沈澱に70v/v%エタノール水溶液25mLを加え、同条件で振とう、遠心分離、液層回収を2回繰り返した。得られたすべての液層を合わせ、70v/v%エタノール水溶液で100mLに定容し、0.45μmフィルターでろ過後、上清中の総イソフラボン濃度をHPLCによって測定した。
【0064】
12種類の標準物質(ダイジン、ゲニスチン、グリシチン、ダイゼイン、ゲニステイン、グリシテイン、マロニルダイジン、マロニルゲニスチン、マロニルグリシチン、アセチルダイジン、アセチルゲニスチン、アセチルグリシチン)を用い、同様のリテンションタイムを有するイソフラボンのピークを同定した。また、定量用イソフラボン標準品(ダイジン、グリシチンおよびゲニスチン)のビーク面積を測定した。同定された試料溶液中のすべてのイソフラボンについて、試料溶液中の濃度をダイゼイン型イソフラボン、グリシテイン型イソフラボン、ゲニステイン型イソフラボンに分けアグリコン換算して求めた。さらにダイゼイン型イソフラボン、グリシテイン型イソフラボン、ゲニステイン型イソフラボンの濃度の和から総イソフラボン濃度を求めた。標準物質は、富士フイルム和光純薬工業から購入した。
【0065】
アグリコン換算のダイゼイン型イソフラボンの濃度(TDe)は下式によって算出した。
・TDe=TADe×C/A×0.611
De: ダイゼイン型イソフラボンの濃度(アグリコン当量)[mg/L]
TADe: ダイゼイン型イソフラボンのピーク面積の総和
: 定量用標準液中のダイジンの濃度[mg/L]
: 定量用標準液クロマトグラム上のダイジンのピーク面積
アグリコン換算のグリシテイン型イソフラボンの濃度(TGle)は下式によって算出した。
・TGle=TAGle×CGl/AGl×0.637
Gle: グリシテイン型イソフラボンの濃度(アグリコン当量)[mg/L]
TAGle: グリシテイン型イソフラボンのピーク面積の総和
Gl: 定量用標準液中のグリシテインの濃度[mg/L]
Gl: 定量用標準液クロマトグラム上のグリシテインのピーク面積
アグリコン換算のゲニステイン型イソフラボンの濃度(TGe)は下式によって算出した。
・TGe=TAGe×C/A×0.625
Ge: ゲニステイン型イソフラボンの濃度(アグリコン当量)[mg/L]
TAGe: ゲニステイン型イソフラボンのピーク面積の総和
: 定量用標準液中のゲニステインの濃度[mg/L]
: 定量用標準液クロマトグラム上のゲニステインのピーク面積
なお、HPLC分析条件は、下記のとおりである。
・カラム:YMC-Pack ODS-AM-303 ID4.6×250mm(YMC)
・溶離液:A液 アセトニトリル:水:酢酸=15:85:0.1(v:v:v)
B液 アセトニトリル:水:酢酸=35:65:0.1(v:v:v)
・グラジエント条件:A液からB液までの直線濃度勾配を50分間行う
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:35℃
・検出波長:UV254nm
・インジェクション量:10μL
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
結果を上記の表に示すが、大豆皮から得られた抽出物は、特に優れた蛍光性AGEs生成阻害活性を有していた。また、大豆皮は、他の部位に比べ固形分当たりの総イソフラボン含有量は低かった。
【0069】
実験5
植物素材として大豆皮を用いて、水を用いて抽出する際の抽出温度の影響を確認した。この実験においては、抽出温度を35~95℃と変えた以外は、実験3と同様にして大豆皮から抽出物を調製し、蛍光性AGEs生成阻害活性を評価した。
【0070】
【表6】
【0071】
上記の表に示したように、抽出温度を変えても、大豆の皮から得られた抽出物は、優れた抗糖化活性を有していた。