(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】アンチモン吸着材並びにアンチモン含有液の処理装置及び処理方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/06 20060101AFI20230901BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20230901BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20230901BHJP
【FI】
B01J20/06 A
G21F9/12 501D
G21F9/12 501K
G21F9/12 501J
C02F1/28 F
(21)【出願番号】P 2019234303
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000109255
【氏名又は名称】チタン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(72)【発明者】
【氏名】出水 丈志
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 貴志
(72)【発明者】
【氏名】田中 尚文
(72)【発明者】
【氏名】石岡 英憲
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 徹
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-012091(JP,A)
【文献】特開2014-195787(JP,A)
【文献】特開2016-123902(JP,A)
【文献】特表2005-517521(JP,A)
【文献】特開昭54-149261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28;20/30-20/34
C02F 1/28
G21F 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン化合物と結着材とを含むチタン化合物の造粒体からなり、
チタン化合物を750g/kg以上899g/kg以下の量で含有しており、ゆるめかさ密度が380kg/m
3以上
580kg/m
3以下であり、結着材を用いて造粒する前のチタン化合物の
BET比表面積が200m
2/g以上400m
2/g以下であ
り、チタン化合物がオキシ水酸化チタンであり、結着材がポリビニルアルコールである、アンチモン吸着材。
【請求項2】
前記結着材を用いて造粒する前のチタン化合物の含水率が50g/kg以上150g/kg以下である、請求項1に記載のアンチモン吸着材。
【請求項3】
粒径が300μm以上600μm以下の範囲である、請求項1又は2
に記載のアンチモン吸着材。
【請求項4】
ポリビニルアルコールの含有量が20g/kg以上100g/kg以下である、請求項
1~3のいずれか1項に記載のアンチモン吸着材。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のアンチモン吸着材を容器に充填してなる、アンチモン含有液の処理装置。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のアンチモン吸着材を容器に充填してなる、放射性アンチモンの除染装置。
【請求項7】
請求項
5に記載のアンチモン含有液の処理装置に、アンチモン含有液を通水することを含む、アンチモン含有液の処理方法。
【請求項8】
請求項
6に記載の放射性アンチモンの除染装置に放射性アンチモン含有液を通水することを含む、放射性アンチモンの除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性アンチモンを含有する水溶液中から放射性アンチモンを除去する際に用いることができる、アンチモン吸着材と、アンチモン吸着材を用いたアンチモン含有液の処理装置及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、福島第一原子力発電所の事故に伴い、放射性物質を含んだ汚染水の処理が課題となっている。放射性物質は化学的に無効化することは不可能であるため、放射性物質を含んだ汚染水を処理するには、イオン吸着材を用いて放射性物質を吸着し、回収する方法が効果的である。
【0003】
これまでにストロンチウムやセシウムについては多くのイオン吸着材が発明されている。アンチモン125(125Sb)は、半減期が10日弱のヨウ素131(131I)を除けば、汚染水中にセシウム、ストロンチウムの次に多く含まれている放射性物質である。アンチモン125は酸化数が変化し易いため、他の放射性物質と比較して吸着させて除去することが難しい。
【0004】
特許文献1には、汚染水中のアンチモンのオキソ酸イオンを吸着する酸化セリウム担持活性炭が記載されている。
【0005】
特許文献1では、酸化セリウム担持活性炭を用いることで、汚染水中のアンチモンを回収できると記載されている。しかし酸化セリウムと活性炭の結合は弱く、放射性アンチモンを吸着した酸化セリウムが環境中に流出する危険があった。
【0006】
一方で特許文献2では、酸化セリウムと強固に結合する、イオン交換基を有する高分子グラフト重合体を用いた陰イオン吸着材が記載されている。
【0007】
特許文献2に記載された陰イオン吸着材は、酸化セリウムが流出することなく、放射性アンチモンを吸着する。一方、イオン交換基を有する高分子グラフト重合体は高価であり、特許文献2には吸着材を再生して繰り返し使用することが記載されている。しかし汚染水処理の現場では、再生工程で新たに汚染水が発生すること、また陰イオン吸着材を再生する作業に伴う作業者の被爆リスクから、再生作業を行うことは難しい。放射性物質の除去という目的に対しては、より安価な材料を用いた、使い捨て型の吸着材の方が適している。また、使い捨てで使用することを考慮すると、線量が減少した後の最終処分の際に、重金属類が環境中に漏洩しないような材料で構成されることが好ましい。
【0008】
特許文献3では、還元鉄粉を用いてアンチモンを吸着する吸着剤を用いたアンチモン含有水処理方法及びアンチモン含有水処理装置が記載されている。
【0009】
特許文献3に記載されたアンチモン含有水処理方法は安価で有害物質を発生しない鉄及び水酸化鉄を用いている。しかしこのアンチモン含有水処理方法は処理水のpH調整や緩衝剤、大量のアルカリ剤の添加が必要であり、大きく複雑な設備と高い運用コストが必要となる。水質のばらつきが大きく水量が莫大な汚染水の処理には、より工程数と運用コストを抑えた技術が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2014-213233号公報
【文献】特開2018-158327号公報
【文献】特許6571891号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、水中に分散したアンチモンを吸着する安価なアンチモン吸着材と、アンチモン含有液を簡便に処理する方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、比表面積が200m2/g以上400m2/g以下であるチタン化合物を結着材を用いて造粒することで得られる造粒体が、アンチモン吸着材として適していることを見出した。更に、アンチモン吸着材のゆるめかさ密度が380kg/m3以上650kg/m3以下であることが、吸着材のアンチモンの吸着性能を十分に大きくするために必要であることを明らかにした。得られたアンチモン吸着材は、カラムなどの容器に充填し、通水して使用することで、水中のアンチモンを除去することができ、また、放射性アンチモンを含む汚染水を通水すれば、放射性アンチモンの除染を行うことができる。本発明は、これらに限定されないが、以下を含む。
[1]チタン化合物と結着材とを含むチタン化合物の造粒体からなり、ゆるめかさ密度が380kg/m3以上650kg/m3以下であり、結着材を用いて造粒する前のチタン化合物の比表面積が200m2/g以上400m2/g以下である、アンチモン吸着材。[2]前記結着材を用いて造粒する前のチタン化合物の含水率が50g/kg以上150g/kg以下である、[1]に記載のアンチモン吸着材。
[3]粒径が300μm以上600μm以下の範囲である、[1]又は[2]のいずれか1項に記載のアンチモン吸着材。
[4]チタン化合物を750g/kg以上含有する、[1]~[3]のいずれか1項に記載のアンチモン吸着材。
[5]チタン化合物がオキシ水酸化チタンである、[1]~[4]のいずれか1項に記載のアンチモン吸着材。
[6]前記結着材がポリビニルアルコールである、[1]~[5]いずれか1項に記載のアンチモン吸着材。
[7]ポリビニルアルコールの含有量が20g/kg以上100g/kg以下である、[6]に記載のアンチモン吸着材。
[8][1]~[7]のいずれか1項に記載のアンチモン吸着材を容器に充填してなる、アンチモン含有液の処理装置。
[9][1]~[7]のいずれか1項に記載のアンチモン吸着材を容器に充填してなる、放射性アンチモンの除染装置。
[10][8]に記載のアンチモン含有液の処理装置に、アンチモン含有液を通水することを含む、アンチモン含有液の処理方法。
[11][9]に記載の放射性アンチモンの除染装置に放射性アンチモン含有液を通水することを含む、放射性アンチモンの除染方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明で得られるアンチモン吸着材は高い吸着容量を有するため、交換頻度を減少させることができる。また、安価な材料により構成されているために再生工程を省略して使い捨てで使用することができ、作業員の被曝量を低減することができる。更に特許文献3に記載されるようなpH調整や沈殿作業も不要であり、低いランニングコストでアンチモンの除去を行うことができる。また本発明のアンチモン吸着材は、チタン化合物と結着材との造粒体であるため、チタン化合物単体の場合に比べて機械的強度が大きく、充填時や使
用時の粉砕による微粉の発生が抑制され、放射性物質を含有した微粉が充填容器から外環境へ漏洩することが抑制される。また本発明で得られるアンチモン吸着材は吸着性能が大きいため放射性廃棄物として保管する際に大きな保管スペースを必要としない。更に線量が減少した後に最終処分する際、重金属類が環境中に流出する恐れがない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであって、何ら本発明を限定するものではなく、本発明はその要旨を超えない範囲において、以下の実施形態に開示される各要素を種々変更して実施することができる。
【0015】
本発明のアンチモン吸着材は、チタン化合物を結着材を用いて造粒して得たチタン化合物の造粒体であることを特徴とする。
【0016】
チタン化合物の種類は特に制限はなく、酸化チタン、チタン酸アルカリ土類金属塩、水酸化チタンなどを用いることができる。一般的に化学式がTiO2-n/2(OH)n(nは0よりも大きく、4よりも小さい)で表されるオキシ水酸化チタンは、比表面積が大きく、かつ製造コストが小さく、取り扱いが容易であるため、本発明で用いるチタン化合物として好適である。チタン化合物は、本発明のアンチモン吸着材において、アンチモン吸着の役割を果たす主剤である。
【0017】
本発明で用いるチタン化合物は、結着材を用いて造粒する前の比表面積(BET比表面積)が、200m2/g以上400m2/g以下である。本発明者らの検討によれば、アンチモンはチタン化合物の表面に吸着していると考えられる。チタン化合物の比表面積が小さい場合、チタン化合物の単位質量あたりの吸着量が小さくなる。一方、チタン化合物の比表面積が大きい場合、単位質量あたりのアンチモン吸着量が大きくなる反面、チタン化合物同士が凝集することで造粒体であるアンチモン吸着材中にチタン化合物が均一に分布しなくなる。アンチモン吸着材におけるチタン化合物の分布が不均一であると、チタン化合物の密度が小さい領域を通過した処理水からはアンチモンが吸着除去されない可能性がある。チタン化合物の比表面積が200m2/g以上400m2/g以下であれば、アンチモン吸着性能が十分大きく、またチタン化合物同士の凝集が抑制されると考えられる。比表面積はさらに好ましくは、250m2/g以上400m2/g以下である。なお、結着材を用いて造粒する前のチタン化合物の比表面積と、結着材を用いて造粒した後の造粒体であるアンチモン吸着材の比表面積とには、相関がある。
【0018】
本発明で用いるチタン化合物は、結着材を用いて造粒する前に測定した含水率が50g/kg以上150g/kg以下であることが好ましい。チタン化合物が含有する水分それ自体はアンチモンの吸着性能に影響しない。しかし、比表面積が200m2/g以上で含水率が50g/kgを下回る場合、チタン化合物に水以外の物質が被着している可能性が大きい。そのような場合、最終的に得られる造粒体中のチタン化合物へのアンチモン含有液の接触が阻害されるおそれがある。一方で比表面積が400m2/g以下であるにも関わらず含水率が150g/kgより大きい場合、最終的に得られる造粒体が吸水性を持つことが考えられる。造粒体が過度に吸水して膨張する場合、造粒体であるアンチモン吸着材を充填したカラムの閉塞に繋がるため好ましくない。
チタン化合物の含水率は、実施例の欄に記載した方法を用いて測定することができる。
【0019】
上述のような特性を有するチタン化合物は、市販のものを用いてもよいし、公知の方法を用いて製造してもよい。例えば、チタン化合物を製造する際には、二酸化チタン、亜酸化チタン、オルトチタン酸又はその塩、メタチタン酸又はその塩、水酸化チタンなどのチタン源を、単独あるいは2種類以上を組合せて用いることができる。また、オキシ水酸化
チタンは、これに限定されるわけではないが、酸化チタンを硫酸に溶解させて、脱硫し、ろ過及び洗浄することにより製造することができる。チタン化合物はこのように簡便な工程で安価に製造することができる。
【0020】
本発明のアンチモン吸着材は、チタン化合物に結着材を添加して造粒することにより得ることができる。なお、本明細書において、「アンチモン吸着材」の語と「造粒体」の語とは、同じものを指す意味で使用していることがある。
造粒の際に用いる結着材の種類は特に限定されず、チタン化合物同士を結着でき、かつ、使用時の通水に耐える機械的強度を造粒体に与えることができるものであればよい。例えば、ポリビニルアルコール(以下「PVA」と記す)、ポリビニルブチラール、ポリオレフィン、ベントナイト等が挙げられる。これらの中では、チタン化合物の結着性に優れ、また、安価である点から、PVAは好ましい。結着材としてPVAを用いる場合のPVAの特性は制限されない。PVAには、けん化度が70~100mol%のものがあるが、いずれのPVAも用いることができる。
造粒体に使用した結着材の種類は、元素分析、炭素含有量測定、FT-IR測定、X線回折測定及び熱分析などを組み合わせることにより同定することができる。例えば、結着材としてPVAを用いていることは、簡易的には空気中で110℃で加熱すると黄色に変色することで、より詳細にはFT-IR測定、炭素含有量測定、元素分析、X線回折測定、示差走査熱量計を用いた測定結果を組み合わせることにより同定することができる。
【0021】
PVAなどの結着材を用いてチタン化合物を造粒する方法は、特に限定されない。転動造粒,押し出し造粒等様々な方法を用いることができる。但し、チタン化合物に強い圧力をかける方法は、チタン化合物の粒子が変形して吸着性能を損なうおそれがあるため、望ましくない。
【0022】
造粒を行った後、造粒体の乾燥を行う。造粒体を乾燥する方法は、特に限定されず、常法を用いて乾燥することができる。必要以上に高温に晒すと結着材の変色やコストの増加につながり、また減圧して乾燥すると造粒体が崩れる危険があるため、空気中で、常圧下で、60℃以上150℃以下の温度で乾燥するのが望ましい。
【0023】
得られた造粒体間の粒径の差が大きい場合は詰まりや崩壊の原因になるので、分級するのが望ましい。分級する際に、大きな造粒体は弱い力で解砕して混合することができる。造粒体は、分級により、300μm以上600μm以下の範囲の粒径となるように整粒することが好ましい。粒径が300μm以上600μm以下の範囲であれば、通水時に吸着材を充填したカラムが閉塞するリスクが十分小さくなり、また、通過するアンチモンを吸着するのに十分な密度で吸着材をカラム内に充填することが可能となる。
【0024】
チタン化合物と結着材との造粒体である本発明のアンチモン吸着材は、ゆるめかさ密度が380kg/m3以上650kg/m3以下であることが重要である。ゆるめかさ密度は、好ましくは、420kg/m3以上580kg/m3以下である。ゆるめかさ密度は、実施例の欄に記載した方法を用いて測定することができる。
【0025】
吸着材のゆるめかさ密度がアンチモン吸着性能に影響する理由は明らかになっていないが、以下のような理由であると考えている:
アンチモンが本発明のアンチモン吸着材に吸着されるためには、アンチモンが吸着材中のチタン化合物の表面に接触する必要がある。吸着材のゆるめかさ密度が大きい場合は、吸着材の一つ一つの粒子の密度が大きいため、アンチモンが吸着材の内部に深く侵入することが難しい。この結果、ゆるめかさ密度が大きい吸着材の内側に位置するチタン化合物の吸着性能が十分に活かされず、吸着性能が低下することがある。一方で、ゆるめかさ密度が小さい吸着材は水中で崩壊し易いため、汚染水の処理という用途での使用に適してい
ない。吸着材のゆるめかさ密度の範囲を380kg/m3以上650kg/m3以下、より好ましくは420kg/m3以上580kg/m3以下とすることにより、吸着材が水中で崩壊しにくい一方で、吸着材の内部にアンチモンが深く侵入して吸着性能が向上するという効果が得られたと考えられる。
【0026】
アンチモン吸着材は、チタン化合物を750g/kg以上含有していることが好ましく、チタン化合物を800g/kg以上含有することがさらに好ましい。アンチモン吸着材におけるチタン化合物の含有量は、実施例に記載した通り、結着材の種類が明らかであれば、吸着材全体の質量から結着材の量と、後述する方法で求めたアンチモン吸着材の水分量とを除くことにより算出することができる。また、他の方法として、アンチモン吸着材を加熱して結着材及び水分を除去し、残量を計量することによっても測定することができる。また、アンチモン吸着材における結着材の量は、後述する実施例に記載の方法の他に、結着材を溶媒に溶解させることにより除去して減量分を計量する方法などによっても測定することができる。
【0027】
アンチモン吸着材の製造において結着材としてPVAを用いた場合、得られたアンチモン吸着材(造粒体)は、PVAを20g/kg以上100g/kg以下含有することが好ましい。PVAの含有量は、40g/kg以上80g/kg以下が更に好ましい。PVAの含有量が上記の範囲内であれば、アンチモン吸着材は水中で使用するのに十分な強度を保持することができる。また、チタン化合物表面に付着するPVA量をアンチモンの吸着を妨げない程度に抑えることができる。アンチモン吸着材におけるPVAの含有量は、実施例に記載の方法や、加熱した際の減量分を測定する方法を用いて測定することができる。
【0028】
上記により得られたアンチモン吸着材を、吸着用容器、例えば吸着塔やカラム等に充填して、本発明のアンチモン含有液の処理装置及び放射性アンチモンの除染装置を製造することができる。上記装置は、その上部又は下部にストレーナー構造を有していてもよい。
アンチモンを含有する液を上記の処理装置に通水することにより、液中のアンチモンを除去することができる。また、放射性アンチモンを含有する液を上記の除染装置に通水することにより、液中の放射性アンチモンを捕捉し、除染することができる。
本発明の装置及び方法で処理又は除染するアンチモン含有液又は放射性アンチモン含有液におけるアンチモン(放射性、非放射性含む)の濃度は、特に限定されない。例えば、放射性アンチモンであれば数100~1000Bq程度、例えば、900Bq程度が想定される。本発明の装置及び方法を用いることにより、液中のアンチモンの濃度を低減させることができる。
本発明の装置及び方法で処理又は除染するアンチモン含有液又は放射性アンチモン含有液には、アンチモンの他に、他の放射性又は非放射性元素が含まれていてもかまわない。また、海水等由来の塩類が含まれていてもかまわない。本発明の装置及び方法は、これに限定されないが、福島第一原子力発電所の事故により発生した放射性物質を含んだ汚染水の除染に使用することができる。
本発明の処理装置及び除染装置において、上述のアンチモン吸着材は、5cm以上300cm以下の層高、好ましくは10cm以上250cm以下の層高、さらに好ましくは10cm以上200cm以下の層高となるように吸着用容器又は塔に充填することが好ましい。上記範囲とすることで、吸着材層が均一となるように充填することができ、通水時のショートパスを引き起こさず、結果として処理水質が悪化することを防止することができる。一般には層高が高いほど処理水質が安定化し、処理水の総量も多くなるため好ましいが、層高が高すぎると通水差圧が高くなりすぎるため、層高は300cm以下とすることが好ましい。
本発明は、上記の装置にアンチモン含有液、又は放射性アンチモン含有液を通水することを含む、アンチモン含有液の処理方法ならびに放射性アンチモンの除染方法も提供する
。
通水線流速(LV)は、1m/h以上40m/h以下であることが好ましく、2m/h以上30m/h以下がさらに好ましい。通水線流速が40m/hを越えると通水差圧が大きくなり、一方、1m/h未満では処理水量が少ない。また、空間速度(SV)は、40h-1以下が好ましく、30h-1以下がさらに好ましく、20h-1以下がさらに好ましい。また、空間速度(SV)の下限は、5h-1以上が好ましく、10h-1以上がさらに好ましい。一般的な廃液処理で用いられる空間速度(SV)は20h-1以下又は10h-1程度であるが、本発明では20h-1程度の大きな空間速度(SV)でも本発明の吸着材の効果を得ることができ、吸着塔を大型化せずに通水線流速及び空間速度を大きくすることができる。
なお、通水線流速とは、吸着塔に通水する水量(m3/h)を吸着塔の断面積(m2)で除した値である。空間速度とは、吸着塔に通水する水量(m3/h)を吸着塔に充填した吸着材の体積(m3)で除した値である。
アンチモン吸着材を容器に充填したアンチモン含有液の処理装置及び放射性アンチモンの除染装置を長期間使用した後、吸着性能が小さくなったら、アンチモン吸着材を容器から取り出して廃棄し、新しいアンチモン吸着材を充填することができる。本発明のアンチモン吸着材は吸着性能が大きいため、放射性廃棄物として保管する際大きな保管スペースを必要としない。また線量が減少した後に最終処分する際、重金属類が環境中に漏洩する恐れがない。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。以下に挙げる例は、単に例示のために記すものであり、発明の範囲がこれによって何ら制限されるものではない。
【0030】
[評価方法]
[造粒体中のPVA含有量測定]
LECO製CS-230型炭素(C)・硫黄(S)分析装置を用いて造粒体の炭素(C)含有量を分析した。造粒体のPVA含有量を該炭素(C)測定値から算出した。
【0031】
[チタン化合物及びアンチモン吸着材の含水率測定]
HIRANUMA製AQ-2100を用いて、窒素流量0.25L/min、95℃でチタン化合物又はアンチモン吸着材を水分が検出されなくなるまで加熱し、カールフィッシャー法で検出された水分量がチタン化合物質量又はアンチモン吸着材質量に占める割合を、チタン化合物又はアンチモン吸着材の含水率とした。
【0032】
[アンチモン吸着材中のチタン化合物含有量]
アンチモン吸着材全体の質量から、上記PVA含有量と、上記アンチモン吸着材の含水率測定と同様の操作で測定したアンチモン吸着材の水分量とを除いた質量を、アンチモン吸着材中のチタン化合物の含有量とした。
【0033】
[アンチモン吸着材のゆるめかさ密度測定]
アンチモン吸着材を内径50mm、深さ50.9mm、内容積100.0mL(0.0001m3)の容器に過剰に入れて溢れさせ、垂直に立てたヘラを上縁に沿ってスライドさせ、上縁よりも高い位置の試料を除き、容器内に試料が均一に充填された状態にして充填物の重さを計量した。なお、上記の操作を行う際は、試料の撹拌、振盪及び圧縮は行わなかった。ゆるめかさ密度を以下の式で算出した:
ゆるめかさ密度(kg/m3)=x/0.0001
x:充填物の重さ(kg)。
【0034】
[チタン化合物の比表面積測定]
Micromeritics社製ジェミニVII2390を用いてBET法で評価した。
【0035】
[アンチモン吸着性能測定]
塩化ナトリウムを水道水に対して3g/kg溶かした水溶液に、塩化セシウム、塩化ストロンチウム、ヨウ化カリウム及びアンチモン酸ナトリウムをそれぞれが水道水に対して0.001g/kgの濃度になるように調整した液を原液とした。原液を密閉容器に50g取り分け、アンチモン吸着材50.0mg(0.05g)を加えて容器の蓋を閉め、30秒間手で容器を上下に振った。その後24時間瓶を静置し、再度30秒間手で容器を上下に振った。シリンジで容器中から液を1mL採取し、0.2μmのフィルタでろ過したものを試験液とした。試験液を20倍に希釈し、アンチモン濃度をAgilent社製ICP-MS 7700xで測定した。分配係数Kd値及び除去率を以下の式で算出した:Kd値=(C0-C1)/C1×50/0.05
除去率(%)=(C0-C1)/C0×100
C0:原液のアンチモン濃度
C1:試験液のアンチモン濃度。
【0036】
以下にチタン化合物の製造方法を示す。チタン化合物は一般的な酸化チタン若しくはオキシ水酸化チタンの製造方法に則って製造した。
【0037】
[合成例1:チタン化合物Aの合成]
オキシ水酸化チタン(TiO(OH)2)を水中に分散し、酸化チタン換算で150g/kgのスラリーにした。水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを9.8に調整し、2時間撹拌した。更に希硫酸を加えてpHを6.6に調整した。得られたスラリーを常法によりろ過、水洗し、空気中、150℃でケーキの水分が100g/kg以下になるまで乾燥し、目開き0.5mmのスクリーンを通過したものをチタン化合物Aとした。
【0038】
[合成例2:チタン化合物Bの合成]
オキシ水酸化チタン(TiO(OH)2)スラリーの濃度を300g/kgとしたことを除いては、合成例1と同様の方法でチタン化合物Bを得た。
【0039】
[合成例3:チタン化合物Cの合成]
オキシ水酸化チタン(TiO(OH)2)を水中に分散し、酸化チタン換算で300g/kgのスラリーにした。スラリーを常法によりろ過し、空気中、110℃で12時間乾燥し、乾燥品をロータリーキルンを用いて300℃で0.5時間加熱することでチタン化合物Cを得た。
【0040】
[合成例4:チタン化合物Dの合成]
二酸化チタンと三酸化二チタンを、水道水で洗浄水中の硫酸成分が10g/kg以下になるまで洗浄した後、水道水を加えて二酸化チタン濃度が250g/kg、三酸化二チタン濃度が5.0g/kgのスラリーにした。スラリーに、二酸化チタンと三酸化二チタンの合計量に対して60g/kgになるように五酸化二リンを添加し、ロータリーキルンを用いて1000℃で2時間加熱した。得られた白い塊を粉砕し、チタン化合物Dを得た。
【0041】
合成例1から合成例4で得られたチタン化合物を用いて、アンチモン吸着材を製造した。方法を以下に示す。
【0042】
[実施例1]
合成例1で得られたチタン化合物A100gを、内径200mm、深さ100mmの円
筒型パンに入れ、パンの底面を水平面から50°の角度に傾け、50rpmで回転しながら、キシダ化学製ポリビニルアルコール500(以下「PVA500」と記す)の100g/kg水溶液50gを霧吹きを用いてパンの底面に吹き付けた。その後パンの底面の角度及び回転数を維持しながら5分間回転した。回転を停止した後造粒体を取り出し、空気中で、ADVANTEC社製強制対流式オーブンFC-610(以下、「FC-610」と記す)を用いて110℃で12時間乾燥させた。乾燥後の造粒体は、目開き600μmの篩を通し、篩を通過した造粒体を更に目開き300μmの篩を通し、300μmの篩上に残った造粒体を回収し、アンチモン吸着材とした。
【0043】
[実施例2]
合成例1で得られたチタン化合物Aを用い、乾燥までの工程は実施例1と同様の方法で実施した。乾燥後に目開き600μmの篩を通した後、篩上に残った造粒体を常法で解砕して再度目開き600μmの篩を通した。解砕後に600μmの篩を通過した造粒体のみ、更に目開き300μmの篩を通し、300μmの篩上に残った造粒体を回収し、アンチモン吸着材とした。
【0044】
[実施例3]
合成例1で得られたチタン化合物A100gを、内径220mm、深さ130mmの円筒型パンに入れ、パンの底面を水平面から60°の角度に傾け、100rpmで回転しながら、霧吹きを用いてPVA500の100g/kg水溶液50gをパンの底面に吹き付けた。その後パンの底面の角度及び回転数を維持しながら2分間回転した。回転を停止した後造粒体を取り出し、FC-610を用いて空気中、110℃で12時間乾燥させた。乾燥後の造粒体は、目開き600μmの篩を通し、篩上に残った造粒体は常法で解砕した後に再度目開き600μmの篩を通した。篩を通過した全ての造粒体を更に目開き300μmの篩に通し、篩を通過しなかった造粒体を回収し、アンチモン吸着材とした。
【0045】
[実施例4]
合成例2で得られたチタン化合物Bを用いたこと、また霧吹きで吹き付けるPVA500の水溶液の濃度を80g/kgとし、吹き付ける量を63gとしたことを除いては、実施例3と同様の方法でアンチモン吸着材を得た。
【0046】
[実施例5]
内径220mm、深さ130mmの円筒型パンを用い、回転数を100rpmとしてPVA500の水溶液を吹き付け、その後パンの底面の水平面からの角度を60°に変更して100rpmで180分間回転し、FC-610を用いて空気中、80℃で15時間乾燥したことを除いて、実施例2と同様の方法で、アンチモン吸着材を得た。
【0047】
[実施例6]
パンを水平面から45°に傾けて、70rpmでパンを回転しながら70g/kgのPVA500の水溶液を70g吹きつけ、その後100rpmで90分間回転し、FC-610を用いて空気中、80℃で15時間乾燥したことを除いて、実施例3と同様の方法で、アンチモン吸着材を得た。
【0048】
[比較例1]
内径220mm、深さ130mmの円筒型パンを用い、パンを水平面から45°に傾けて、70rpmでパンを回転しながらPVA500の70g/kg水溶液を70g吹きつけ、その後100rpmで180分間回転し、FC-610を用いて空気中、80℃で15h乾燥したことを除いて、実施例1と同様の方法で、アンチモン吸着材を得た。
【0049】
[比較例2]
合成例3で得られたチタン化合物Cを用いたこと、また霧吹きで吹き付けるPVA500の水溶液の量を40gとしたことを除いては、実施例3と同様の方法で、アンチモン吸着材を得た。
【0050】
[比較例3]
合成例4で得られたチタン化合物Dを用いたこと、また霧吹きで吹き付けるPVA500水溶液の量を26gとしたことを除いては、実施例3と同様の方法で、アンチモン吸着材を得た。
【0051】
表1は、チタン化合物の組成、比表面積及び含水率を示す。表2は、実施例1~6及び比較例1~3のアンチモン吸着材の構造特性及び吸着性能を示す。
【0052】
【0053】
上記の条件で測定したKd値が500より小さいと吸着材の交換頻度が増えて吸着装置の実効処理能力が低下し、交換作業時の被爆リスクが増大するため、実用には向かない。実施例1~6の結果より、比表面積が200m2/g以上400m2/g以下であるチタン化合物を含む、ゆるめかさ密度が380kg/m3以上650kg/m3以下のアンチモン吸着材は、Kd値が500を超え、アンチモン吸着性能が良好であることがわかる。
【0054】
比較例1は、ゆるめかさ密度が650kg/m3を超えており、アンチモンが吸着材内部に深く侵入しにくいため、吸着性能が小さくなったと考えられる。比較例2及び3はチタン化合物の比表面積が200m2/kgより小さいため、吸着性能が小さくなったと考
えられる。
【0055】
以上より、比表面積が200m2/g以上400m2/g以下であるチタン化合物を含む、ゆるめかさ密度が380kg/m3以上650kg/m3以下である造粒体は、吸着性能の良好なアンチモン吸着材となることがわかる。