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特許7341107耐熱コート部材包装体および耐熱コート部材の包装方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】耐熱コート部材包装体および耐熱コート部材の包装方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/87 20060101AFI20230901BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20230901BHJP
   C23C 16/26 20060101ALI20230901BHJP
   C23C 16/32 20060101ALI20230901BHJP
   B65D 81/20 20060101ALI20230901BHJP
   B65D 81/24 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
C04B41/87 M
C23C16/34
C23C16/26
C23C16/32
B65D81/20 C
B65D81/20 F
B65D81/24 F
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020146819
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041551
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】狩野 正樹
(72)【発明者】
【氏名】山村 和市
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-267797(JP,A)
【文献】特開2009-248976(JP,A)
【文献】国際公開第2011/062003(WO,A1)
【文献】特開2002-274594(JP,A)
【文献】特開2016-178857(JP,A)
【文献】中国実用新案第203715790(CN,U)
【文献】特開2005-112447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/80-41/91
C23C 16/00-16/56
B65D 67/00-79/02
B65D 81/18-81/30
B65D 81/38
B65D 85/88
B65D 30/00-33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性材料で基材を被覆してなる耐熱コート部材と、前記耐熱コート部材を収容する袋部材とを含み、
前記袋部材の水蒸気透過度が0.3g/m・day以下であり、
前記基材が、熱分解窒化硼素およびグラファイトからなる群から選択される少なくとも1種の材料から構成される耐熱コート部材包装体。
【請求項2】
前記耐熱コート部材が、前記耐熱性材料で前記基材を2回以上被覆してなる耐熱コート部材である請求項1に記載の耐熱コート部材包装体。
【請求項3】
前記耐熱性材料が、熱分解窒化硼素、炭素添加熱分解窒化硼素、熱分解炭素、硼素添加熱分解窒化硼素、SiCおよびTaCからなる群から選択される少なくとも1種の耐熱性材料である請求項1又は2に記載の耐熱コート部材包装体。
【請求項4】
前記袋部材が、アルミニウム、アルミナおよびシリカからなる群から選択される少なくとも1種をプラスチックフィルムに蒸着してなるガスバリアフィルムから構成される請求項1~のいずれか1項に記載の耐熱コート部材包装体。
【請求項5】
前記袋部材の内側の表面の平均粗さが13μm以下である請求項1~のいずれか1項に記載の耐熱コート部材包装体。
【請求項6】
耐熱性材料で基材を被覆してなる耐熱コート部材と、前記耐熱コート部材を収容する袋部材とを含み、
前記袋部材の水蒸気透過度が0.3g/m ・day以下であり、
前記耐熱性材料が、熱分解窒化硼素、炭素添加熱分解窒化硼素、熱分解炭素、硼素添加熱分解窒化硼素、SiCおよびTaCからなる群から選択される少なくとも1種の耐熱性材料である耐熱コート部材包装体。
【請求項7】
前記耐熱コート部材が、前記耐熱性材料で前記基材を2回以上被覆してなる耐熱コート部材である請求項6に記載の耐熱コート部材包装体。
【請求項8】
前記袋部材が、アルミニウム、アルミナおよびシリカからなる群から選択される少なくとも1種をプラスチックフィルムに蒸着してなるガスバリアフィルムから構成される請求項6又は7に記載の耐熱コート部材包装体。
【請求項9】
前記袋部材の内側の表面の平均粗さが13μm以下である請求項6~8のいずれか1項に記載の耐熱コート部材包装体。
【請求項10】
耐熱性材料で基材を被覆してなる耐熱コート部材と、前記耐熱コート部材を収容する袋部材とを含み、
前記袋部材の水蒸気透過度が0.3g/m ・day以下であり、
前記袋部材の内側の表面の平均粗さが13μm以下である耐熱コート部材包装体。
【請求項11】
前記耐熱コート部材が、前記耐熱性材料で前記基材を2回以上被覆してなる耐熱コート部材である請求項10に記載の耐熱コート部材包装体。
【請求項12】
前記袋部材が、アルミニウム、アルミナおよびシリカからなる群から選択される少なくとも1種をプラスチックフィルムに蒸着してなるガスバリアフィルムから構成される請求項10又は11に記載の耐熱コート部材包装体。
【請求項13】
耐熱性材料で基材を被覆してなる耐熱コート部材を、水蒸気透過度が0.3g/m・day以下である袋部材で包装し、
前記基材が、熱分解窒化硼素およびグラファイトからなる群から選択される少なくとも1種の材料から構成される耐熱コート部材の包装方法。
【請求項14】
耐熱性材料で基材を被覆してなる耐熱コート部材を、水蒸気透過度が0.3g/m ・day以下である袋部材で包装し、
前記耐熱性材料が、熱分解窒化硼素、炭素添加熱分解窒化硼素、熱分解炭素、硼素添加熱分解窒化硼素、SiCおよびTaCからなる群から選択される少なくとも1種の耐熱性材料である耐熱コート部材の包装方法。
【請求項15】
耐熱性材料で基材を被覆してなる耐熱コート部材を、水蒸気透過度が0.3g/m ・day以下である袋部材で包装し、
前記袋部材の内側の表面の平均粗さが13μm以下である耐熱コート部材の包装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性材料で基材を被覆してなる耐熱コート部材と耐熱コート部材を収容する袋部材とを含む耐熱コート部材包装体およびその耐熱コート部材の包装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱分解窒化硼素、炭素添加熱分解窒化硼素、熱分解炭素、硼素添加熱分解窒化硼素、SiC、TaCなどの耐熱性材料で炭素基材を被覆してなる被覆炭素材料が従来技術として知られている(例えば、特許文献1~3参照)。被覆炭素材料は、耐熱性および化学的安定性に優れており、特に還元性ガスや反応性ガスにより炭素の消耗が激しいプロセスに用いる耐熱治具として好適に使用される。被覆炭素材料を用いることにより、自由な形状の治具を得ることができるため、被覆炭素材料の適応範囲は広く、被覆炭素材料を用いた治具は多種多用にわたる。例えば、被覆炭素材料は、半導体製造プロセスに用いられるウエハトレー、原料溶融ルツボ、加熱源、反応容器、熱シールド部材、単結晶引上げ用ルツボなどに使用される。
【0003】
被覆炭素材料を得るために炭素基材を耐熱性材料で被覆する一般的方法として、アークイオンプレーティング(AIP)式反応性蒸着法、反応性PVD法、化学気相蒸着(CVD)法などが知られている。耐熱性材料で炭素基材を被覆する際に基材支持部に接触する部分が未被覆部分となるため、通常は耐熱性材料で炭素基材を1回被覆した後に取出し、炭素基材が支持部に接触する部分を変更し、耐熱性材料で炭素基材を、さらに1回以上被覆することが好ましい。例えば、平らな炭素基材の場合は、耐熱性材料で炭素基材を1回被覆した後に炭素基材を取出して裏返しにして再セットし、さらに耐熱性材料で炭素基材を1回被覆する。
このように耐熱性材料で炭素基材を被覆して得られた被覆炭素材料は、通常は、汚れが付着しないようにポリエチレン袋に包装されてユーザーに向けて出荷される。そして、ポリエチレン袋に包装された被覆炭素材料は、出荷後、通常、比較的短期間(例えば、数日~数ヶ月程度経過後)で開封されて使用される。なお、ポリエチレン袋は、(1)原料ペレットから安価に容易に製造可能である、(2)透明性、強度、防湿、ガス透過性、耐薬品性等の物性面で比較的汎用性を有している、(3)ヒートシール性が優れている、(4)温度による硬軟の差が少ない、などの優れた特性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-89776号公報
【文献】特開2019-99453号公報
【文献】国際公開2011/043428号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
被覆炭素材料は、出荷後、比較的短期間で開封して使用されれば、特に問題はなかった。しかし、被覆炭素材料が、出荷後、長期間(半年~数年間)保管された場合、被覆炭素材料を加熱すると1回目の被覆により形成されたコート層もしくは2回目の被覆により形成されたコート層が剥離することがあった。
そこで、本発明は、長期間保管された後に加熱しても、基材を被覆している耐熱性材料の剥離を抑制できる耐熱コート部材を得ることができる耐熱コート部材包装体および耐熱コート部材の包装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ポリエチレン袋に包装された耐熱コート部材を長期間保管している間にポリエチレン袋を透過した水分が基材に吸着し、耐熱コート部材を加熱すると、基材に吸着した水分がガス化することにより耐熱性材料の剥離が起こりえることを見出し、本発明を完成させた。本発明の要旨は、以下のとおりである。なお、ポリエチレンは非極性であることから脂肪族炭化水素のような非極性物質の気体はよく透過するが、極性をもつ水蒸気に対しては優れた遮蔽性を有している。このため、従来は、耐熱性材料の剥離の原因がポリエチレン袋を透過した水分であるとは考えられていなかった。
[1]耐熱性材料で基材を被覆してなる耐熱コート部材と、耐熱コート部材を収容する袋部材とを含み、袋部材の水蒸気透過度が0.3g/m・day以下である耐熱コート部材包装体。
[2]耐熱コート部材が、耐熱性材料で基材を2回以上被覆してなる耐熱コート部材である上記[1]に記載の耐熱コート部材包装体。
[3]基材が、熱分解窒化硼素およびグラファイトからなる群から選択される少なくとも1種の材料から構成される上記[1]または[2]に記載の耐熱コート部材包装体。
[4]耐熱性材料が、熱分解窒化硼素、炭素添加熱分解窒化硼素、熱分解炭素、硼素添加熱分解窒化硼素、SiCおよびTaCからなる群から選択される少なくとも1種の耐熱性材料である上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の耐熱コート部材包装体。
[5]袋部材が、アルミニウム、アルミナおよびシリカからなる群から選択される少なくとも1種をプラスチックフィルムに蒸着してなるガスバリアフィルムから構成される上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の耐熱コート部材包装体。
[6]袋部材の内側の表面の平均粗さが13μm以下である上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の耐熱コート部材包装体。
[7]耐熱性材料で基材を被覆してなる耐熱コート部材を、水蒸気透過度が0.3g/m・day以下である袋部材で包装する耐熱コート部材の包装方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、長期間保管された後に加熱しても、基材を被覆している耐熱性材料の剥離を抑制できる耐熱コート部材を得ることができる耐熱コート部材包装体および耐熱コート部材の包装方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[耐熱コート部材包装体]
本発明の耐熱コート部材包装体は耐熱コート部材および袋部材を含む。
【0009】
(耐熱コート部材)
本発明の耐熱コート部材包装体における耐熱コート部材は、耐熱性材料で基材を被覆してなるものである。耐熱性材料は、優れた耐熱性を有していれば特に限定されないが、耐熱性材料には、例えば、熱分解窒化硼素、炭素添加熱分解窒化硼素、熱分解炭素、硼素添加熱分解窒化硼素、SiC、TaCなどが挙げられる。これらの耐熱性材料は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの耐熱性材料は、例えば、化学気相蒸着(CVD)法によって基材を被覆することができる。CVD法によって、複雑な形状をした基材であっても、均一な膜厚の耐熱性材料で基材を被覆することができる。CVD法には、例えば、熱CVD法、プラズマCVD法、レーザーCVD法などが挙げられる。これらの中で、量産性の観点から熱CVD法が好ましい。また、熱CVD法には、例えば、大気圧法、減圧法などが挙げられる。これらの中で、膜厚の均一性の観点から減圧法が好ましい。
【0010】
基材は特に限定されないが、基材には、例えば、熱分解窒化硼素、グラファイトなどが挙げられる。
熱分解窒化硼素の基材は、例えば、以下のようにして作製することができる。5~6ナインの高純度原料ガスを2000℃の減圧雰囲気中でカーボン治具の上に蒸着および反応させ、熱分解窒化硼素の膜を形成する。そして、層状に反応・積層させながら熱分解窒化硼素の膜を厚くして、熱分解窒化硼素の基材を作製する。熱分解窒化硼素とカーボンとでは熱膨張係数が異なるので、これを利用すると作製した熱分解窒化硼素の基材をカーボン治具から取り外すことができる。熱分解窒化硼素の基材には、強度、電気絶縁性が高く、金属不純物が1ppm以下と純度が高いという特徴がある。
グラファイトの基材は、例えば、フェノール樹脂、フルフリルアルコール樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂を所定の形状に成形してから重合および熱硬化を行い、型から成形体を取りだした後、さらに機械加工し、炭素化および黒鉛化して作製することができる。黒鉛化した後に機械加工してもよい。グラファイトの基材には、高純度、緻密構造および優れた化学耐食性という特徴がある。
【0011】
具体的には、例えば、耐熱性材料が熱分解窒化硼素であり、基材がグラファイトである場合、耐熱コート部材は、以下のようにして作製することができる。
まず、所望の形状をしたグラファイト製基材を準備して、CVD装置の基材支持部にグラファイト製基材を設置する。そして、CVD法により、アンモニア(NH)と三塩化硼素(BCl)とを1900℃の高温下で反応させ、熱分解窒化硼素でグラファイト製基材の表面を被覆する。次に、グラファイト製基材における基材支持部との接触部分を変えて、CVD装置の基材支持部にグラファイト製基材を再度設置する。再びCVD法により熱分解窒化硼素でグラファイト製基材を被覆する。
【0012】
基材を被覆する耐熱性材料の厚さは、好ましくは0.01mm以上1.0mm以下であり、より好ましくは0.03mm以上0.2mm以下である。耐熱性材料の厚さが0.01mm以上であると、基材の耐熱性をより改善することができる。耐熱性材料の厚さが1mm以下であると、特に角部などで成膜速度が高くなり膜厚分布が大きくなることを抑制することができる。また、耐熱性材料の厚さが1mm以下であると、基材および耐熱性材料の間の熱膨張係数の差により基材から耐熱性材料が剥がれることを抑制できる。
【0013】
耐熱コート部材は、耐熱性材料で基材を2回以上被覆してなるものであることが好ましい。上述したように、耐熱性材料で基材を被覆する際に基材支持部に接触する部分が未被覆部分となる。したがって、耐熱性材料で基材を2回以上被覆することにより、耐熱性材料の未被覆部分の発生を防ぐことができる。
【0014】
(袋部材)
袋部材は耐熱コート部材を収容する。袋部材の水蒸気透過度は、0.3g/m・day以下である。袋部材の水蒸気透過度が0.3g/m・dayよりも大きいと、袋部材に収容して長期間保管した耐熱コート部材を加熱したとき、耐熱性材料が剥離する場合がある。なお、袋部材の水蒸気透過度は、JIS K 7129の規格において測定されたものであり、40℃、湿度90%の条件で試験された値である。また、耐熱コート部材を収容する袋部材として従来から使用されてきたポリエチレンの水蒸気透過度は、0.4~5g/m・day程度である。袋部材の中への水蒸気の侵入を防止するという観点から、耐熱コート部材を収容した袋部材を、熱融着シーラーなどの装置を用いて密閉することが好ましい。
【0015】
袋部材は、生産性の観点から、アルミニウム、アルミナおよびシリカからなる群から選択される少なくとも1種の材料をプラスチックフィルムに蒸着してなるガスバリアフィルムから構成されることが好ましい。このようなガスバリアフィルムは、例えば、以下のようにして作製することができる。アルミニウム、アルミナおよびシリカからなる群から選択される少なくとも1種のバリア材料を、真空中で、高周波加熱や電子銃(EBガン)で溶かし、溶けたバリア材料の蒸気によって連続して流れるプラスチックフィルム上にバリア材料を成膜する。プラスチックフィルムには、例えば、ナイロンフィルム、ポリエステルフィルムなどが挙げられる。なお、ガスバリアフィルムの水蒸気透過度をさらに低減させるために、バリア材料の蒸気にプラズマやイオンなどのエネルギーをアシストしながら成膜してもよい(プラズマアシスト蒸着)。ガスバリア性の観点から、アルミニウム、アルミナおよびシリカ中でアルミニウムがより好ましい。一方、光の透過性が良好であるという観点から、これらの材料の中でアルミナおよびシリカがより好ましい。
【0016】
袋部材の内側の表面の平均粗さは、好ましくは13μm以下である。袋部材の内側の表面の平均粗さが13μm以下であると、耐熱コート部材の表面が袋部材に接触して、耐熱コート部材の表面にキズが発生することを抑制できる。このような観点から、袋部材の内側の表面の平均粗さは、より好ましくは10μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下であり、よりさらに好ましくは2μm以下である。なお、袋部材の内側の表面の平均粗さは、JIS B 0601の規格において測定された算術平均粗さ(Ra)である。また、袋部材の内側の表面の平均粗さを13μm以下とすると、袋部材を構成するフィルムの表面同士がくっついて剥がしにくくなるため、通常、袋部材の内側の表面の平均粗さを13μm以下とすることはない。
【0017】
長期間保管中の基材への水分の吸着をさらに抑制するために、耐熱コート部材を袋部材に収納し、袋部材の中を真空引きして袋部材の中から空気を除去した後、熱融着シーラーなどの装置を用いて袋部材を密閉することが好ましい。また、袋部材の中を真空引きした後、袋部材の中に露点-40℃以下の乾燥した空気または窒素を充填してから熱融着シーラーなどの装置を用いて袋部材を密閉してもよい。さらに、袋部材の中を真空引きした後、袋部材の中に露点-40℃以下の乾燥した空気または窒素を充填し、さらに袋部材の中を真空引きしてから熱融着シーラーなどの装置を用いて袋部材を密閉してもよい。
【0018】
別の態様としては、最初にポリエチレン袋の中に耐熱コート部材を入れ、次に、耐熱コート部材を収容したポリエチレン袋を袋部材の中に入れてもよい。また、最初にポリエチレン袋の中に耐熱コート部材を入れ、熱融着シーラーなどの装置を用いて密閉でした後に、耐熱コート部材を収容したポリエチレン袋を袋部材の中に入れて袋部材を密閉してもよい。さらに、最初にポリエチレン袋の中に耐熱コート部材を入れて袋の中を真空引きして袋の中から空気を排除してから熱融着シーラーなどの装置を用いて密閉でした後に、耐熱コート部材を収容したポリエチレン袋を袋部材の中に入れて、袋部材の中を真空引きした後、袋部材を密閉してもよい。さらに、この場合も、ポリエチレン袋および袋部材の中を真空引きした後、露点-40℃以下の乾燥した空気または窒素を充填してから熱融着シーラーなどの装置を用いてポリエチレン袋および袋部材を密閉してもよいし、ポリエチレン袋および袋部材の中を真空引きし、露点-40℃以下の乾燥した空気または窒素を充填してから、さらにポリエチレン袋および袋部材の中を真空引きしてから密閉してもよい。
【0019】
さらに別の態様としては、耐熱コート部材が袋部材と密着しないようにする場合は、硬質ケースに耐熱コート部材を収容し、耐熱コート部材を入れた硬質ケースを袋部材の中に収容してもよい。また、硬質ケースに耐熱コート部材を入れ、耐熱コート部材を入れた硬質ケースを袋部材の中に入れてから熱融着シーラーなどの装置を用いて密閉してもよい。さらに、硬質ケースに耐熱コート部材を入れ、耐熱コート部材を入れた硬質ケースを袋部材の中に入れてから、袋部材の中を真空引きして袋の中の空気を排除し、熱融着シーラーなどの装置を用いて密閉してもよい。また、上述の態様と同様に、耐熱コート部材を入れた硬質ケースをポリエチレン袋に入れてもよいし、真空引きした後、露点-40℃以下の乾燥した空気または窒素を充填してもよいし、真空引きし、露点-40℃以下の乾燥した空気または窒素を充填した後、さらに真空引きしてもよい。
【0020】
なお、水蒸気の透過をより低減できるという観点から、ポリエチレン袋に耐熱コート部材を収容した後、耐熱コート部材を収容したポリエチレン袋を袋部材に収容することが好ましい。この場合は、耐熱コート部材はポリエチレン袋と接触するので、ポリエチレン袋の内側の表面の平均粗さは、好ましくは13μm以下であり、より好ましくは10μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下であり、よりさらに好ましくは2μm以下である。ポリエチレン袋は、包装用途に使用されているポリエチレンの袋であれば特に限定されず、ポリエチレン袋には、例えば、高圧法低密度ポリエチレン袋、線状低密度ポリエチレン袋などが挙げられる。
【0021】
耐熱コート部材をポリエチレン袋に収容し、耐熱コート部材を収容したポリエチレン袋を袋部材に収容する場合も、耐熱コート部材を硬質ケースに収容し、耐熱コート部材を収容した硬質ケースを袋部材に収容する場合も、結果的には、耐熱コート部材は袋部材に収容されているので、耐熱コート部材は袋部材に収容されているといえる。
【0022】
ポリエチレン袋のみに収容して長期間保管した耐熱コート部材も、非常にゆっくりとしたベーキング処理を行うことにより、耐熱性材料の剥離を抑制することができる。しかし、水蒸気透過度が0.3g/m・day以下である袋部材に耐熱コート部材を収容することにより、上述のベーキング処理の手間が省け、ベーキング処理した場合に比べて、耐熱性材料の剥離をさらに抑制することができる。
【0023】
なお、ポリエチレン袋包装のみで耐熱コート部材を包装した場合、長期間大気中に保管されると、大気中の水蒸気がポリエチレン袋を透過し、水蒸気が耐熱コート部材の基材に浸透すると考えられる。特に、耐熱コート部材に耐熱性材料が被覆していない部分があれば、そこから基材に水蒸気が浸透すると考えられる。このような観点からも、耐熱コート部材は、耐熱性材料で基材を2回以上被覆してなるものであることが好ましい。長期間かけて基材に水分が浸透すると、基材の水分濃度は高まる。そして、基材の水分濃度の高い耐熱コート部材が高温中にさらされると、基材に浸透し蓄積した水分が気化膨張して耐熱性材料と基材との間の圧力が急激に高まり、耐熱性材料の剥離が発生すると考えられる。このため、ゆっくりとしたベーキング処理によって、耐熱性材料の剥離が抑制できたものと考えられる。
【0024】
本発明の耐熱コート部材包装体における耐熱コート部材は、半導体製造装置内で高温下の環境でHClドライエッチング処理をするようなプロセスに対しても耐えうる優れた耐熱耐食部材として使用することができる。特に、ウエハトレー、原料溶融ルツボ、抵抗加熱ヒーターなどの加熱源、反応容器、熱シールド部材、単結晶引上げ用ルツボなどの耐熱耐食性を要する部材として使用できる。本発明の耐熱コート部材包装体により、長期間保管後も、このような部材を安心して使用できるようになる。すなわち、本発明の耐熱コート部材包装体によれば、耐熱コート部材が長期間保管された場合においても、装置取り付け後、すみやかに高温で使用することが可能となり、事前の加熱乾燥処理工程や真空乾燥処理工程が不要となる。
【0025】
[耐熱コート部材の包装方法]
本発明の耐熱コート部材の包装方法は、耐熱性材料で基材を被覆してなる耐熱コート部材を、水蒸気透過度が0.3g/m・day以下である袋部材で包装することを特徴とする。なお、本発明の耐熱コート部材の包装方法の詳細は、本発明の耐熱コート部材包装体の項目ですでに説明しているので、本発明の耐熱コート部材の包装方法の詳細な説明は省略する。
【実施例
【0026】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
等方性グラファイトを機械研削加工によって外寸φ100mm×10mmに形成したウエハトレー基材を10個準備した。これらのウエハトレー基材を高温蒸着炉に入れて、それぞれ3点の支持棒の上に載せてセットし、真空ポンプにて炉内を排気し、真空状態のまま1900℃まで加熱して、三塩化硼素とアンモニアとを反応させ、0.3mm厚の熱分解窒化硼素膜を成膜し、耐熱コート部材を作製した。高温蒸着炉から取出した耐熱コート部材を、それぞれ水蒸気透過度が0.3g/m・dayのアルミ蒸着ラミネート袋(ナイロン製フィルム、ポリエチレン製フィルム、ポリエステル製フィルムのこれら2種類、または3種類を複層に重ねたもので、その複層の間にアルミニウムを蒸着されたもの)に入れて、アルミ蒸着ラミネート袋の中を真空引きしながら熱融着シーラーにて熱封着して密閉包装して、実施例1の耐熱コート部材包装体を作製した。なお、アルミ蒸着ラミネート袋の内面の表面粗さは10μmであった。
【0028】
実施例1の耐熱コート部材包装体を温度40℃、湿度90%の環境試験機内に1ヶ月間放置する加速試験を行った。その後、アルミ蒸着ラミネート袋を開封して、耐熱コート部材を蒸着装置に入れて20℃/分の昇温速度で200℃まで加熱した。その結果、耐熱コート部材は10個とも熱分解窒化硼素膜の剥離は生じなかった。また、耐熱コート部材の表面にアルミ蒸着ラミネート袋と擦れた跡はなかった。
【0029】
(実施例2)
ウエハトレー基材を高温蒸着炉に入れて、それぞれ3点の支持棒の上に載せてセットし、真空ポンプにて炉内を排気し、真空状態のまま1900℃まで加熱して、三塩化硼素とアンモニアを反応させ、0.3mm厚の熱分解窒化硼素膜を成膜した。その後に、熱分解窒化硼素で被覆したウエハトレー基材を反転させて、3点支持棒の上に載せてセットし、真空ポンプにて炉内を排気し、真空状態のまま1900℃まで加熱して、三塩化硼素とアンモニアを反応させ、0.3mm厚の熱分解窒化硼素膜を成膜した。また、アルミ蒸着ラミネート袋の内面の表面粗さが2μmであった。それ以外は、実施例1の耐熱コート部材包装体と同様な方法で実施例2の耐熱コート部材包装体を作製した。
【0030】
実施例2の耐熱コート部材包装体を温度40℃、湿度90%の環境試験機内に1ヶ月間放置する加速試験を行った。その後、アルミ蒸着ラミネート袋を開封して、耐熱コート部材を蒸着装置に入れて20℃/分の昇温速度で200℃まで加熱した。その結果、耐熱コート部材は10個とも熱分解窒化硼素膜の剥離は生じなかった。また、耐熱コート部材の表面にアルミ蒸着ラミネート袋と擦れた跡はなかった。
【0031】
(実施例3)
等方性グラファイトを機械研削加工して渦巻き形状のヒーター基材を10個準備した。これらのヒーター基材を高温蒸着炉に入れて、それぞれ10点の支持棒の上に載せてセットし、真空ポンプにて炉内を排気し、真空状態のまま1900℃まで加熱して、三塩化硼素とアンモニアを反応させ、0.3mm厚の熱分解窒化硼素膜を成膜した。その後、熱分解窒化硼素で被覆したヒーター基材を反転させて、10点の支持棒の上に載せてセットして同様の成膜を行い、耐熱コート部材を作製した。なお、ヒーターの給電端子の部分が成膜されないようにするために、ヒーターの給電端子の部分に予めしたマスクを取り付けた。耐熱コート部材を水蒸気透過度が0.3g/m・dayのアルミ蒸着ラミネート袋に入れて、シーラーにて熱封着して密閉包装し、実施例3の耐熱コート部材包装体を作製した。
【0032】
実施例3の耐熱コート部材包装体を温度40℃、湿度90%の環境試験機内に1ヶ月間放置する加速試験を行った。その後、アルミ蒸着ラミネート袋を開封して、耐熱コート部材を成膜装置にセットして20℃/分の昇温速度で1000℃まで通電加熱した。その結果、耐熱コート部材は10個とも熱分解窒化硼素膜の剥離は生じなかった。
【0033】
(比較例1及び2並びに参考例1)
実施例1と同様の方法で、熱分解窒化硼素膜でウエハトレー基材を被覆し、耐熱コート部材を30個作製した。これらの耐熱コート部材のうち、10個の耐熱コート部材を、それぞれ水蒸気透過度が0.4g/m・dayのポリエチレン袋に入れて、ポリエチレン袋の中を真空引きしながら熱融着シーラーにて熱封着して密閉包装して、比較例1の耐熱コート部材包装体を作製した。なお、ポリエチレン袋の内面の表面粗さは15μmであった。
また、30個の耐熱コート部材のうち、他の10個の耐熱コート部材を、それぞれ水蒸気透過度が1g/m・dayのポリエチレン袋に入れて、ポリエチレン袋の中を真空引きしながら熱融着シーラーにて熱封着して密閉包装して、比較例2の耐熱コート部材包装体を作製した。なお、ポリエチレン袋の内面の表面粗さは15μmであった。
比較例1および比較例2の耐熱コート部材を温度40℃、湿度90%の環境試験機内に1ヶ月間放置する加速試験を行った。
30個の耐熱コート部材のうち、残りの10個の耐熱コート部材については、袋に収容せず、そのまま度40℃、湿度90%の環境試験機内に1ヶ月間放置する加速試験を行った(参考例1の耐熱コート部材)。
【0034】
比較例1および比較例2の耐熱コート部材包装体については、ポリエチレン袋を開封して、耐熱コート部材を蒸着装置に入れて20℃/分の昇温速度で200℃まで加熱した。その結果、比較例1の耐熱コート部材包装体については、耐熱コート部材は10個中1個で熱分解窒化硼素膜の剥離が生じた。また、耐熱コート部材の表面にポリエチレン袋と擦れた跡が目視で確認できた。一方、比較例2の耐熱コート部材包装体については、耐熱コート部材は10個中3個で熱分解窒化硼素膜の剥離が生じた。また、耐熱コート部材の表面にポリエチレン袋と擦れた跡が目視で確認できた。
参考例1の耐熱コート部材を蒸着装置に入れて2℃/分の昇温速度で200℃まで加熱した。その結果、参考例1の耐熱コート部材は10個とも熱分解窒化硼素膜の剥離は生じなかった。なお、この場合、200℃まで昇温するのに要する時間が、実施例1の200℃まで昇温するのに要する時間に比べて約10倍であった。
【0035】
(比較例3及び4並びに参考例2)
実施例2と同様の方法で、熱分解窒化硼素膜でウエハトレー基材を被覆し、耐熱コート部材を30個作製した。これらの耐熱コート部材のうち、10個の耐熱コート部材を、それぞれ水蒸気透過度が0.4g/m・dayのポリエチレン袋に入れて、ポリエチレン袋の中を真空引きしながら熱融着シーラーにて熱封着して密閉包装して、比較例3の耐熱コート部材包装体を作製した。なお、ポリエチレン袋の内面の表面粗さは50μmであった。
また、30個の耐熱コート部材のうち、他の10個の耐熱コート部材を、それぞれ水蒸気透過度が1g/m・dayのポリエチレン袋に入れて、ポリエチレン袋の中を真空引きしながら熱融着シーラーにて熱封着して密閉包装して、比較例4の耐熱コート部材包装体を作製した。なお、ポリエチレン袋の内面の表面粗さは50μmであった。
比較例3および比較例4の耐熱コート部材を温度40℃、湿度90%の環境試験機内に1ヶ月間放置する加速試験を行った。
30個の耐熱コート部材のうち、残りの10個の耐熱コート部材については、袋に収容せず、そのまま度40℃、湿度90%の環境試験機内に1ヶ月間放置する加速試験を行った(参考例2の耐熱コート部材)。
【0036】
比較例3および比較例4の耐熱コート部材包装体については、ポリエチレン袋を開封して、耐熱コート部材を蒸着装置に入れて20℃/分の昇温速度で200℃まで加熱した。その結果、比較例3の耐熱コート部材包装体については、耐熱コート部材は10個中2個で熱分解窒化硼素膜の剥離が生じた。また、耐熱コート部材の表面にポリエチレン袋と擦れた跡が目視で確認できた。一方、比較例4の耐熱コート部材包装体については、耐熱コート部材は10個中4個で熱分解窒化硼素膜の剥離が生じた。また、耐熱コート部材の表面にポリエチレン袋と擦れた跡が目視で確認できた。
参考例2の耐熱コート部材を蒸着装置に入れて2℃/分の昇温速度で200℃まで加熱した。その結果、参考例2の耐熱コート部材は10個とも熱分解窒化硼素膜の剥離は生じなかった。なお、この場合、200℃まで昇温するのに要する時間が、実施例2の200℃まで昇温するのに要する時間に比べて約10倍であった。
【0037】
(比較例5及び6)
実施例3と同様の方法で、熱分解窒化硼素膜でヒーター基材を被覆し、耐熱コート部材を20個作製した。これらの耐熱コート部材のうち、10個の耐熱コート部材を、それぞれ水蒸気透過度が0.4g/m・dayのポリエチレン袋に入れて、ポリエチレン袋の中を真空引きしながら熱融着シーラーにて熱封着して密閉包装して、比較例5の耐熱コート部材包装体を作製した。
また、20個の耐熱コート部材のうち、残りの10個の耐熱コート部材を、それぞれ水蒸気透過度が1g/m・dayのポリエチレン袋に入れて、ポリエチレン袋の中を真空引きしながら熱融着シーラーにて熱封着して密閉包装して、比較例6の耐熱コート部材包装体を作製した。
【0038】
比較例5および比較例6の耐熱コート部材包装体を温度40℃、湿度90%の環境試験機内に1ヶ月間放置する加速試験を行った。その後、ポリエチレン袋を開封して、耐熱コート部材を成膜装置にセットして20℃/分の昇温速度で1000℃まで通電加熱した。その結果、比較例5の耐熱コート部材包装体については、耐熱コート部材は10個中3個で熱分解窒化硼素膜の剥離が生じた。また、比較例6の耐熱コート部材包装体については、耐熱コート部材は10個中6個で熱分解窒化硼素膜の剥離が生じた。
【0039】
上記実施例および比較例では、基材としてウエハトレーおよびヒーターを使用した。しかし、これに限らず、原料溶融ルツボ、反応容器、熱シールド部材、単結晶引上げ用ルツボでも同様の傾向が見られた。また、上記実施例および比較例では、基材を被覆した耐熱性材料は熱分解窒化硼素であった。しかし、炭素添加熱分解窒化硼素、熱分解炭素、硼素添加熱分解窒化硼素、SiC、TaCでも同様の傾向が見られた。