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  • 特許-転舵制御装置、転舵制御プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】転舵制御装置、転舵制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230904BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20230904BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D113:00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019185654
(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公開番号】P2021059267
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】北原 圭
(72)【発明者】
【氏名】毛利 宏
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-052834(JP,A)
【文献】特開2007-216834(JP,A)
【文献】特開2007-038928(JP,A)
【文献】再公表特許第2007/074713(JP,A1)
【文献】特開平7-2127(JP,A)
【文献】国際公開第2010/144049(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作部材の操作による操作量に基づき転舵輪の転舵を制御する転舵制御装置であって、
操作量を示す操作量情報から車両の目標動特性を示す動特性情報を非線形な演算に基づき生成する動特性情報生成部と、
車両モデルを備えた最適サーボシステムであって、目標転舵角を出力する転舵角演算部と、
前記目標転舵角と実転舵角とが一致するように駆動装置を制御する転舵角制御部と、を備え
前記車両モデルは、前記目標転舵角に基づき、前記車両の動特性推定値を出力し、
前記転舵角演算部は、前記動特性情報生成部において生成した動特性情報に基づき基礎目標転舵角を演算し、前記基礎目標転舵角を前記動特性推定値により補正して前記目標転舵角を算出す
転舵制御装置。
【請求項2】
前記転舵角演算部は、
制御対象の車両に基づきシステム同定された伝達関数を備える
請求項2に記載の転舵制御装置。
【請求項3】
操作部材の操作による操舵量に基づき転舵輪の転舵を制御する転舵制御装置に用いられる転舵制御プログラムであって、
操作量を示す操作量情報から車両の目標動特性を示す動特性情報を非線形な演算に基づき生成する動特性情報生成部と、
車両モデルを備えた最適サーボシステムであって、目標転舵角を出力する転舵角演算部と、
前記目標転舵角と実転舵角とが一致するように駆動装置を制御する転舵角制御部と、をコンピュータに機能させ
前記車両モデルは、前記目標転舵角に基づき、前記車両の動特性推定値を出力し、
前記転舵角演算部は、前記動特性情報生成部において生成した動特性情報に基づき基礎目標転舵角を演算し、前記基礎目標転舵角を前記動特性推定値により補正して前記目標転舵角を算出す
転舵制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御における転向制御に関し、転舵輪の転舵を制御する転舵輪制御装置、および転舵輪制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、操舵部材と転舵輪とが機械的に接続されず、電気信号に基づき転舵輪を転舵するステアバイワイヤシステムが登場している。このステアバイワイヤシステムは、操舵者が操舵部材を操舵した操舵角を示す操舵角情報に微分値を加算したり、ローパスフィルタを通すことによって車両の動特性を変更することができる。
【0003】
特許文献1には、車速が速いほど操舵角に対するヨーレイトの定常ゲインを小さくするとともに、時定数を小さくすることにより、高速走行時の車両運動の大きさを小さくしつつ、制御の遅れを低減する技術が記載されている。
【0004】
非特許文献1は、ヨーレイトのゲインと位相とを独立に表現する手法を提案しており、具体的には、高周波ゲインが増大しなければ位相遅れは小さいほど良いと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-6952号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】円谷悠ほか:NARXモデルを用いた、車両動特性と運転しやすさに関する一考察、日本機械学会論文集、Vol.83、No.854、p.1-12(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1のような線形系の制御系では車両運動の大きさを抑制しようと時定数を小さくすることによって、そのトレードオフとして高周波ゲインが上昇する。これにより操舵者が速い操舵を行った場合、車両運動が大きくなるとい問題がある。
【0008】
一般に、車両応答の位相遅れには最適値があり、大きすぎても小さすぎても運転しにくくなると言われている。しかし、線形系においては上述のようにゲインと位相の特性にはトレードオフの関係があり、遅れを小さくしたことによる高周波ゲインの上昇が運転しにくさに繋がっている可能性がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、操舵角に対するヨーレイトなどの車両の動特性の周波数応答のゲインと位相とを独立に設定することができる転舵制御装置、および転舵制御プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の1つである転舵制御装置は、操作部材の操作による操作量に基づき転舵輪の転舵を制御する転舵制御装置であって、操作量を示す操作量情報から車両の非線形な目標動特性を示す動特性情報を非線形な演算に基づき生成する動特性情報生成部と、前記動特性情報生成部において生成した動特性情報に基づき目標転舵角を算出する転舵角演算部と、前記目標転舵角と実転舵角とが一致するように駆動装置を制御する転舵角制御部と、を備える。
【0011】
また、上記目的を達成するために、本発明の他の1つである転舵制御プログラムは、操作部材の操作による操作量に基づき転舵輪の転舵を制御する転舵制御装置であって、操作量を示す操作量情報から車両の非線形な目標動特性を示す動特性情報を非線形な演算に基づき生成する動特性情報生成部と、前記動特性情報生成部において生成した動特性情報に基づき目標転舵角を線形モデルに基づき算出する転舵角演算部と、前記目標転舵角と実転舵角とが一致するように駆動装置を制御する転舵角制御部と、をコンピュータに機能させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ゲインと位相を独立に設定することができ、幅広い状況で最適な非線形な車両目標動特性を表現することができ、サーボ系を用いた制御により目標動特性を転舵輪の転舵により実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、転舵制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図2図2は、動特性情報生成部の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は、転舵角演算部の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る転舵制御装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の位置関係、および接続状態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下では複数の発明を一つの実施の形態として説明する場合があるが、請求項に記載されていない構成要素については、その請求項に係る発明に関しては任意の構成要素であるとして説明している。また、図面は、本発明を説明するために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0015】
図1は、転舵制御装置の機能構成を示すブロック図である。転舵制御装置100は、乗用車などの車両に搭載される転舵輪210の転舵を制御する装置であり、ステアリングホイールなどの操舵部材200と転舵輪210とがリンクなどの機械要素により連結されず、左右の転舵輪210の制御を独立して行うことができる装置である。転舵制御装置100は、動特性情報生成部111と、転舵角演算部112と、転舵角制御部113と、実転舵角取得手段115と、を備えている。
【0016】
動特性情報生成部111は、操舵者が操舵部材200を操舵した際の操舵角を示す操舵角情報θを操舵角センサ201から取得し、操舵角情報θに基づき車両の非線形な目標動特性を示す動特性情報を非線形な演算に基づき生成する。目標動特性は、例えば目標ヨーレイト、目標横加速度、目標横滑り角などである。本実施の形態の場合、動特性情報生成部111は、目標ヨーレイトγを動特性情報として生成する。また、操舵角情報θが、操作部材としての操舵部材200を操作した際の操作量に相当する。
【0017】
目標動特性を生成する非線形な演算手法は、限定されるものではないが、例えばゲインと位相の特性を独立に設定することができる演算である。具体的に例えば、人工知能などに基づく演算や、伝達関数などの線形な演算のパラメータが、定数でなく関数となっている演算も非線形な演算に含まれる。
【0018】
本実施の形態の場合、動特性情報生成部111が動特性情報を生成するための非線形な演算には人工知能が用いられている。具体的に動特性情報生成部111は、ゲインと位相とが独立した周波数特性を表現することができるNARX(Non-linear Auto Regressivee Xogenous)モデルが採用されている。NARXモデルは、入力信号の現在値と過去値、出力信号の過去値によって出力信号の現在値を表現する非線形自己回帰型の時系列モデルである。また、NARXモデルは、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、ニューラルネットワークによりNARXモデルが作成されている。
【0019】
図2は、動特性情報生成部の機能構成を示すブロック図である。ここでWは重み、bはバイアス、操舵角情報θが入力、目標ヨーレイトγが出力である。Delayは入力、出力の遅れであり、何回前の値まで使うかを任意に設定することができる。
【0020】
NARXモデルは、ゲインと位相とが独立した特性になるように学習している。NARXモデルの学習方法は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合には、入力信号としては、サインスイープにランダムノイズを重畳した疑似操舵角を用い、教師信号としては、疑似操舵角を伝達関数に入力して得られる信号をゼロ位相フィルタに通し、ゲインと位相の特性を独立して設定した非線形な信号を用いた。ゼロ位相フィルタとは、入力データを順方向でフィルタ処理した後に、フィルタ処理したシーケンスを逆にして、逆方向にフィルタ処理を行うことによって、位相の変化がなく、ゲイン特性だけを減衰させることができる後処理用フィルタである。具体的には、バターワースフィルタにゼロ位相フィルタを適用しており、目標のゲイン特性になるように次数とカットオフ周波数が調整されている。教師信号とNARXモデルの出力の誤差が0に近づくように学習し重みとバイアスを決定している。なお、学習の方法は、通常のニューラルネットワークと同様に、誤差逆伝播法などでよい。
【0021】
転舵角演算部112は、動特性情報生成部111が生成した動特性情報を取得し、実際の車両が目標動特性に追従するための目標転舵角δ1を算出する。
【0022】
本実施の形態の場合、目標動特性である目標ヨーレイトγを車両で実現するために、転舵角演算部112としては最適サーボシステムを用いている。図3は、転舵角演算部の機能構成を示すブロック図である。ここで、eはエラー、Kはゲイン、γはヨーレイト、βは車体の横滑り角である。同図に示すように、転舵角演算部112は、最適サーボシステム内に車両モデル116を備えている。車両モデル116は、特に限定されるものではないが、2輪モデルなどの車両モデル、制御対象の車両を1次系の伝達関数、または多次系の伝達関数でシステム同定したものなどを用いることができる。車両モデル116は、転舵角を入力として、ヨーレイトγrefと車体の横滑り角βrefとを出力するように構成されている。車両モデル116から出力されたヨーレイトγrefは入力にフィードバックされる。入力であるヨーレイトγから車両モデル116の出力γrefが引き算され、エラーeが生成される。エラーeは積分器(1/s)で積分され、所定のゲインKeが乗算器(Ke)で乗算される。車両モデル116から出力されたヨーレイトγrefと車体の横滑り角βrefにはそれぞれ乗算器(Kβ)及び(Kγ)で所定のゲインKβとKγが乗算される。乗算器(Ke)、(Kβ)及び(Kγ)の出力は加減算器に入力され、乗算器(Ke)-乗算器(Kβ)-乗算器(Kγ)が演算され、この演算結果は線形モデルへと入力されるとともに、目標転舵角δ1として出力される。本実施の形態では、このように車両モデル116から出力される推定ヨーレイトを入力にフィードバックして制御系を構成することで、非線形なヨーレイトγの入力に対して安定して目標転舵角を演算することができる。
【0023】
転舵角制御部113は、モータなどの駆動装置211、および転舵輪210の少なくとも一方に基づき実転舵角取得手段115がセンシングした転舵輪210の実際の輪舵角を示す実転舵角δ2を用いたフィードバック制御により、目標輪舵角δ1に転舵輪210の実際の転舵角を合致させるように駆動装置211の制御を行う。
【0024】
具体的には、駆動装置211がモータの場合、転舵角制御部113は、電流指令値Iなどを駆動装置211に出力する。転舵角制御部113におけるフィードバック制御は、例えばPID制御などを例示することができる。
【0025】
実転舵角取得手段115は、実転舵角δ2を取得する装置である。実転舵角取得手段115が実転舵角δ2を取得する手法は、特に限定されるものではないが、例えば、駆動装置211の出力側に取り付けられたエンコーダやレゾルバなどを例示することができる。
【0026】
上記実施の形態で説明した転舵制御プログラムが実行される転舵制御装置100によれば、ゲインと位相とが独立に設定された非線形な演算により動特性情報が生成される。これにより、種々の状況などに応じた目標動特性が得られる。車両モデルを備えた最適サーボ系用いて転舵輪210を転舵させて車両を操向させることにより、非線形に得られる目標動特性に車両の挙動を追従させることができる。
【0027】
例えば、位相遅れを小さくしつつ、高周波ゲインの上昇を抑えた目標動特性が生成されるため、より操縦性に優れた車両を実現することができる。また、位相遅れを増大させずに、高周波ゲインを低減した特性も実現できるため、操舵部材200の操舵角に対する転舵輪210の転舵角のギヤ比を小さくした際の、車両の過敏な反応を低減することができる。
【0028】
また、ゲインと位相を独立に設定できるため、チューニング自由度が拡大し、パラメータ変更のみで目標動特性を任意にチューニングすることができる。これにより、例えば性能の低いタイヤ、性能の低いシャシなどを備えた車両であっても、チューニングにより高い運動性能を実現することができる。
【0029】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0030】
例えば、本実施の形態では操舵部材200と転舵輪210とが機械的に接続されていないステアバイワイヤシステムをステアリングシステムとして例示したが、ステアリングシステムは、例えば可変ギヤ比ステアリングシステムのような操舵角と転舵角とを独立して制御できるシステムであれば、機械的に接続されるか否かはいずれでもかまわない。
【0031】
また、転舵輪210は、車両の前方の左右に取り付けられる車輪ばかりでなく、後方に取り付けられた車輪の転舵に本発明を適用してもかまわない。
【0032】
また、実施の形態では、操作部材としてハンドルを用いて説明したが、ハンドルに限定されず、ジョイスティックなどの前後左右に移動させて操作する部材でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、自動車などの車両、建設機械、農業機械など車輪を転舵することにより操向する車両の制御に利用可能である。
【符号の説明】
【0034】
100…転舵制御装置、111…動特性情報生成部、112…転舵角演算部、113…転舵角制御部、115…実転舵角取得手段、116…車両モデル、200…操舵部材、201…操舵角センサ、210…転舵輪、211…駆動装置
図1
図2
図3