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特許7341411フッ素置換基を有する多環芳香族複素環式化合物の製法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】フッ素置換基を有する多環芳香族複素環式化合物の製法
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/04 20060101AFI20230904BHJP
【FI】
C07D471/04 111
C07D471/04 CSP
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019206329
(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公開番号】P2021080179
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100173473
【弁理士】
【氏名又は名称】高井良 克己
(72)【発明者】
【氏名】吾郷 友宏
(72)【発明者】
【氏名】福元 博基
(72)【発明者】
【氏名】久保田 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】杉本 達也
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-521955(JP,A)
【文献】特開2016-060722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 471/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式(I)で示される、含フッ素ジキノリノアントラセン化合物。
【化1】
【請求項2】
構造式(II)で示される、含フッ素ジキノリノアントラセン化合物。
【化2】
【請求項3】
構造式(III)で示される、含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物。
【化3】
【請求項4】
ヨウ素及びヨウ化水素捕捉剤の存在下で、構造式(IV)で示される含フッ素含窒素ジスチルベン化合物に対して光照射を行い、環化させる工程を含む、
請求項1に記載の含フッ素ジキノリノアントラセン化合物の製造方法。
【化4】
【請求項5】
ヨウ素及びヨウ化水素捕捉剤の存在下で、構造式(V)で示される含フッ素含窒素ジスチルベン化合物に対して光照射を行い、環化させる工程を含む、
請求項2に記載の含フッ素ジキノリノアントラセン化合物の製造方法。
【化5】
【請求項6】
ヨウ素及びヨウ化水素捕捉剤の存在下で、構造式(VI)で示される含フッ素含窒素ジスチルベン化合物に対して光照射を行い、環化させる工程を含む、
請求項3に記載の含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物の製造方法。
【化6】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ジキノリノアントラセン化合物、含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物等の、複数の含フッ素環状構造ユニットが導入された多環芳香族複素環式化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、窒素原子を含有する多環芳香族化合物が多種存在しており、キノリン、イソキノリンなどの2環式化合物、ベンゾイソキノリン、フェナントロリン、アクリジン、フェナントリジン、アンチリジンなどの3環式化合物などがよく知られている。これらの化合物に置換基の導入を試みたり、芳香環を増大させるなどの手を加えた化合物が有機半導体素子や光学素子の材料として展開が図られている。
【0003】
ヘテロ原子として、窒素原子を含有する多環芳香族化合物としては、特許文献1及び2には、以下のカルバゾール骨格を有する構造の化合物が開示されており、有機薄膜トランジスター、有機太陽電池、有機エレクトロルミネセンス素子、光センサーなどへの用途が有望な旨の記載がなされている。
【化1】
【化2】
また、分子中にフッ素原子を導入した多環芳香族化合物としては、特許文献3に、以下の含フッ素フルオレン骨格を基本構造に持つ化合物が記載されている。
【化3】
【0004】
特許文献4及び5、並びに非特許文献1には、含フッ素の5員環構造を有する窒素複素環化合物、含フッ素縮合多環芳香族化合物として、フェナントロリン化合物、フェナントレン化合物を、マロリー反応を利用して合成したことが記載されている。窒素複素環化合物においては、含フッ素の5員環構造を有する、1,10-フェナントロリン、1,8-フェナントロリン、3,8-フェナントロリン類が合成されている。具体的には、1,2-ジ(2-ブロモピリジル)ヘキサフルオロシクロペンテン、1,2-ジ(3-ブロモフェニル)ヘキサフルオロシクロペンテン及び1,2-ジ(4-ブロモフェニル)ヘキサフルオロシクロペンテン等のビアリール化合物を有機溶媒に溶解し、得られた溶液に酸化剤を添加した後、溶液に光を照射することにより、ビアリール化合物の芳香環同士を結合させて、フェナントロリン化合物、フェナントレン化合物に変換することが記載されている。これらの文献には、上記化合物をポリマー合成に応用し、有機発光素子の発光材料、電気化学素子の電極材料等への展開を図ることも記載されている。また、これらの含フッ素芳香族化合物は、π電子共役性を十分に発現し、有機溶媒に対する溶解性が高いので、成膜性に優れることも言及されている。
【0005】
特許文献1及び2に記載の含窒素多環芳香族化合物は、中間体を公知の方法で合成し、最後の工程で、含窒素化合物のホウ素、あるいは、ハロゲン原子含有化合物を、パラジウム触媒下に、カップリング反応を行うことにより合成されており、多段階の工程を必要としている。特許文献3に記載の含フッ素多環芳香族化合物においては、フルオレン骨格を基本構造としており、フルオレンの9位にフッ素原子が導入されている。この含フッ素フルオレン体は、例えば、インデノフルオレン-6,2-ジオンを出発原料に用い、カルボニル基をエタンジチオールで保護し、その後、フッ化水素ピリジンにてフッ素化して合成されており、フッ素の導入に手間とコストがかかっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/035275号
【文献】特開2012-140367号公報
【文献】国際公開第2008/111461号
【文献】特開2016-60722号公報
【文献】特開2016-84448号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】H.Fukumoto et.al、“Efficient Synthesis of Fluorinated Phenanthrene Monomers Using Mallory Reaction and Their Copolymerization”、2017年、Macromolecules、Vol.50、No.3、p.865-871
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の背景によりなされたものであり、含フッ素ジキノリノアントラセン化合物、含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物等の、複数の含フッ素5員環ユニットが導入された新規な含フッ素芳香族複素環式化合物、及びそれらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、含フッ素5員環化合物にスチルベン骨格を有する官能基を結合した化合物(以下「含フッ素ジスチルベン化合物」ともいう。)を原料にして、光反応による環化反応を検討したところ、分子内に新しい芳香環が3つ一挙に構築され、[7]ヘリセン構造を有する新規な含フッ素化合物に変換できることをすでに見出し、報告をしている。
ここで、原料である含フッ素ジスチルベン化合物は、フッ素原子を有する5員環構造を骨格に持つ化合物であるため、フッ素原子の強い電子求引性により、スチルベン骨格上の電子密度が低下し、環化反応に供する原料としては非常に不利であるようにも考えられる。しかしながら、本発明者らが詳細な検討を行ったところ、斯かる含フッ素ジスチルベン化合物であっても、非常に円滑に環化反応を進行させることが可能なことを見出した(特願2019-46369号)。
【0010】
本発明は、上記の含フッ素5員環ユニットを1つ含む[7]ヘリセン構造化合物で培った技術をさらに発展させたものであり、複数の含フッ素5員環ユニットを含む含窒素スチルベン骨格を有していても、同様にして、複数の含フッ素5員環ユニットを含む新規な芳香族複素環式化合物が簡便に製造可能なことを見出した。本発明によれば、構造式(I)、(II)で示される含フッ素ジキノリノアントラセン化合物及び構造式(III)で示される含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物等の含フッ素芳香族複素環式化合物が提供される。
【化4】
【化5】
【化6】
【0011】
さらに、本発明によれば、ヨウ素及びヨウ化水素捕捉剤の存在下で、構造式(IV)、(V)、又は(VI)で示される含フッ素含窒素ジスチルベン化合物に対して光照射を行い、環化させる工程を含む、上記の構造式(I)、(II)、又は(III)で示される含フッ素芳香族複素環式化合物の製造方法が提供される。
【化7】
【化8】
【化9】
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の含フッ素5員環ユニットを含む新規な含フッ素含窒素芳香族複素環式化合物(含フッ素ジキノリノアントラセン化合物、含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物)が提供される。本発明に係る複数の含フッ素5員環ユニットを含む含フッ素含窒素芳香族複素環式化合物は、多数のフッ素を含むため、フッ素非含有の含窒素芳香族複素環式化合物(フェナントロリン類)に対して、溶媒への溶解性、特に、非極性溶媒への溶解度が向上していることが推測される。この化合物はまた、耐酸化性が高く、劣化し難いことが推測されると共に、撥水性が高くなっており、さらには、π共役系が拡大していることから、耐久性の高い材料として、特に、発光材料、n型半導体材料等への応用が期待される。本発明によれば、これらの新規な含フッ素芳香族複素環式化合物を簡便な方法で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔含フッ素含窒素芳香族複素環式化合物〕
本発明によれば、上記構造式(I)、(II)で示される含フッ素ジキノリノアントラセン化合物及び上記構造式(III)で示される含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物(以上をまとめて「複数の含フッ素5員環ユニットを含む含フッ素含窒素芳香族複素環式化合物」ともいう。)が提供される。以下、上記構造式(I)、(II)で示される化合物及び上記構造式(III)で示される化合物は、それぞれ、「含フッ素ジキノリノアントラセン化合物(I)、(II)」及び「含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物(III)」ということもある。
【0014】
〔含フッ素含窒素芳香族複素環式化合物の製造方法〕
<原料(前駆体化合物)の製造>
含フッ素含窒素芳香族複素環式化合物は、含フッ素含窒素ジスチルベン化合物を原料(前駆体化合物)とした光環化反応により製造することができる。本明細書中「含フッ素含窒素ジスチルベン化合物」とは、2個の含窒素スチルベン骨格構造(少なくとも1つの芳香族環中に窒素原子を含む芳香族環-エテン-芳香族環構造)及びフッ素原子を含む化合物をいう。含窒素スチルベン骨格構造における芳香族環のうち一方は、含窒素6員芳香族複素環(例、ピリジン環)又は6員芳香族環縮合型含窒素芳香族複素環(例、キノリン環)であってもよい。含窒素スチルベン骨格構造における芳香族環のうち他方は、ベンゼン環又はベンゼン環縮合型芳香族炭化水素環(例、フェナントレン環)であってもよい。含窒素スチルベン骨格構造は、含フッ素環状構造ユニット(例えば、フルオロシクロペンテン環)を含んでいてもよい。2個の含窒素スチルベン骨格構造同士で、同じ芳香族環を共有していてもよい。含窒素スチルベン骨格構造におけるエテンは、炭素間二重結合を含む環構造(例えば、フルオロシクロペンテン環等の含フッ素環状構造ユニット)を形成してもよい。以下、本発明の化合物の製造における原料(前駆体化合物)としての含フッ素含窒素ジスチルベン化合物の製造、および、当該含フッ素含窒素ジスチルベン化合物を用いた含フッ素含窒素芳香族複素環式化合物の製造について説明する。
【0015】
〔含フッ素ジキノリノアントラセン化合物(I)の製造方法〕
<原料(前駆体化合物(IV))の製造>
構造式(I)で示される含フッ素ジキノリノアントラセン化合物の製造における原料としては、構造式(IV)で示されるキノリル基を有する含フッ素含窒素ジスチルベン化合物を用いることができる。この含フッ素含窒素ジスチルベン化合物の含窒素スチルベン骨格は、2段階の反応を経た合成により構築することができる。第1工程では、1,4-ジブロモベンゼンの臭素原子をt-ブチルリチウムでリチオ化し、そこへ、オクタフルオロシクロペンテン(C58)を反応させて、下記の構造式(1)で示させる1,4-ビス(ヘプタフルオロシクロペンテニル)ベンゼン(化合物(1))を得る。この反応で同時に得られる構造式(2)で示される化合物(化合物(2))は、後述する含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物(III)の製造方法で用いることができる。次いで、第2工程で、6-ブロモキノリンの臭素原子を、n-ブチルリチウムにより、リチオ化してキノリルリチウムを調製し、そこへ、第1段階の反応で得られた、1,4-ビス(ヘプタフルオロシクロペンテニル)ベンゼン(化合物(1))を反応させて、光環化反応の原料(化合物(I)の前駆体化合物)となる、含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(IV)を得ることができる。
【化10】
【0016】
<環化反応工程による最終生成物(I)の製造>
上記で得られた前駆体化合物である含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(IV)を光環化反応させて、最終生成物である含フッ素ジキノリノアントラセン化合物(I)を得ることができる。光環化反応は、マロリー反応を用いて、例えば下記に示される反応式で行うことができる。光環化反応の条件としては、例えば、後述のものを用いることができる。
【化11】
【0017】
〔含フッ素ジキノリノアントラセン化合物(II)の製造方法〕
<原料(前駆体化合物(V))の製造>
構造式(II)で示される含フッ素ジキノリノアントラセン化合物の製造における原料としては、構造式(V)で示されるキノリル基を有する含フッ素含窒素ジスチルベン化合物を用いることができる。この含フッ素含窒素ジスチルベン化合物の含窒素スチルベン骨格は、2段階の反応を経た合成により構築することができる。第1工程では、先の前駆体化合物(IV)の製造と同様に、1,4-ジブロモベンゼンの臭素原子をt-ブチルリチウムでリチオ化し、そこへ、オクタフルオロシクロペンテン(C58)を反応させて、下記の構造式(1)で示される1,4-ビス(ヘプタフルオロシクロペンテニル)ベンゼン(化合物(1))を得る。この反応で同時に得られる構造式(2)で示される化合物(化合物(2))は、後述する含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物(III)の製造方法で用いることができる。次いで、第2工程で、3-ブロモキノリンの臭素原子を、n-ブチルリチウムにより、リチオ化してキノリルリチウムを調製し、そこへ、第1段階の反応で得られた1,4-ビス(ヘプタフルオロシクロペンテニル)ベンゼン(化合物(1))を反応させて、光環化反応の原料(化合物(II)の前駆体化合物)となる、含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(V)を得ることができる。
【化12】
【0018】
<環化反応工程による最終生成物(II)の製造>
上記で得られた前駆体化合物である含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(V)を光環化反応させて、最終生成物である含フッ素ジキノリノアントラセン化合物(II)を得ることができる。光環化反応は、マロリー反応を用いて、例えば下記に示される反応式で行うことができる。光環化反応の条件としては、例えば、後述のものを用いることができる。
【化13】
【0019】
〔含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物(III)の製造方法〕
<原料(前駆体化合物(VI))の製造>
構造式(III)で示される含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物の製造における原料としては、構造式(VI)で示されるフェナトレン及びキノリン骨格を有する含フッ素含窒素ジスチルベン化合物を用いることができる。この含フッ素含窒素ジスチルベン化合物の含窒素スチルベン骨格は、3段階の反応を経た合成により構築することができる。第1工程では、先の前駆体化合物(IV)の製造又は前駆体化合物(V)の製造と同様に、1,4-ジブロモベンゼンの臭素原子をt-ブチルリチウムでリチオ化し、そこへ、オクタフルオロシクロペンテン(C58)を反応させて、下記の構造式(1)で示される1,4-ビス(ヘプタフルオロシクロペンテニル)ベンゼン(化合物(1)、上述した、含フッ素ジキノリノアントラセン化合物(I)の製造方法又は含フッ素ジキノリノアントラセン化合物(II)の製造方法で用いることができる)と、下記の構造式(2)で示される含フッ素5員環化合物を3つ含む含窒素スチルベン骨格化合物(化合物(2))とを得る。第2工程では、ヨウ素及びヨウ化水素捕捉剤存在下に、光照射を行って光環化反応(マロリー反応)を行うことにより、下記の構造式(3)で示される含フッ素フェナントレン骨格構造を有する化合物(化合物(3))を得る。次いで、第3工程では、第2工程で得られた含フッ素フェナントレン骨格構造を有する化合物(3)に、2当量のキノリルリチウム(6-ブロモキノリンでn-ブチルリチウムを反応させることにより調製することができる)を反応させることにより、光環化反応の原料(化合物(III)の前駆体化合物)となる、含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(VI)を得ることできる。
【化14】
【0020】
<環化反応工程による最終生成物(III)の製造>
上記で得られた前駆体化合物である含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(VI)を光環化反応させて、最終生成物である含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物(III)を得ることができる。光環化反応は、マロリー反応を用いて、例えば下記に示される反応式で行うことができる。光環化反応の条件としては、例えば、後述のものを用いることができる。
【化15】
【0021】
<環化反応の各条件>
環化反応工程では、構造式(IV)、(V)、又は(VI)で示される含フッ素含窒素ジスチルベン化合物を光環化反応させて、構造式(I)、(II)、又は(III)で示される複数の含フッ素環状構造ユニットが導入された芳香族複素環式化合物を得ることができる。環化反応工程には、マロリー反応を用いることができる。
【0022】
マロリー反応を伴う環化反応工程では、ヨウ素及びヨウ化水素捕捉剤の存在下で、構造式(IV)、(V)、又は(VI)で示される含フッ素含窒素ジスチルベン化合物に対して光照射を行い、分子内で環化させて、構造式(I)、(II)、又は(III)で示される化合物を得ることができる。環化は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。
【0023】
(1)酸化剤としてのヨウ素
ヨウ素(I2)は、マロリー反応を伴う環化反応工程において酸化剤として作用する。より詳細には、まず、光照射により、含フッ素含窒素ジスチルベン化合物に含まれる、芳香環同士の間で閉環反応が起こり、閉環体が形成される。ヨウ素は、これらの閉環体を酸化する酸化剤として作用し、芳香環の2位又は3位の水素原子と反応してヨウ化水素を生成させる。生成したヨウ化水素は、環化反応物から遊離する。反応系中に存在する遊離ヨウ化水素は、光照射により分解されるなどして、副反応を併発するおそれがある。そのため、反応系中にヨウ化水素捕捉剤を配合して、ヨウ化水素を捕捉してもよい。
【0024】
(2)ヨウ化水素捕捉剤
ヨウ化水素捕捉剤としては、エポキシ化合物等の酸素含有化合物を用いることができる。エポキシ化合物としては、マロリー反応を伴う環化反応工程において、生成するヨウ化水素を効率的に捕捉可能なエポキシ化合物であれば、特に限定されない。エポキシ化合物としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、2,3-ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1,3-ブタジエンジオキシド、1,2-ヘキシレンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、シクロペンタデセンオキシド、1,4-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-1-メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系エポキシ化合物、塩化アリルオキシド、臭化アリルオキシド、2-(クロロメチル)-1,2-プロピレンオキシド等のハロゲン含有エポキシ化合物、2-フェニルプロピレンオキシド、2,3-ジフェニルエチレンオキシド、1-ベンジルオキシ-2,3-エポキシプロパン等の芳香族系エポキシ化合物、2,3-エポキシプロピルイソプロピルエーテル、イソホロンオキシド等のエポキシ化合物を挙げることができる。
【0025】
これらの中でも、脂肪族炭化水素系エポキシ化合物が好ましく、中でも、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、2,3-ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1,2-ヘキシレンオキシド、シクロペンテンオキシド及びシクロヘキセンオキシドが、取扱い易さ及び経済性の観点でより好ましい。
【0026】
(3)溶媒
マロリー反応を伴う環化反応工程は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒としては、原料としての含フッ素含窒素ジスチルベン化合物を溶解可能であるとともに、照射される光に対して透明(光透過率が80%以上)であり、反応に対して不活性な溶媒であれば、特に限定されない。溶媒としては、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、これら3種の異性体(o-キシレン、m-キシレン及びp-キシレン)の混合物、1,3,5-トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、ベンゾトリフルオリド、ヘキサフルオロ-m-キシレン、クロロベンゼン及び1,2-ジクロロベンゼン等の芳香族化合物が挙げられる。これらの中でも、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、これら3異性体の混合物、1,3,5-トリメチルベンゼンが取扱い易さの点でより好ましい。
【0027】
(4)各成分の添加(使用)量
ヨウ素(I2)の量は、原料である含フッ素含窒素ジスチルベン化合物1モルに対して、1.5モル以上が好ましく、1.8モル以上がより好ましく、6.0モル以下が好ましく、4.5モル以下がより好ましい。上記下限値以上であれば、上述したような閉環体の酸化反応を十分に進行させることができ、結果的に、環化反応物の収率を高めることができる。また、上記上限値以下であれば、光照射による芳香族骨格のヨウ素化反応等の副反応が生じ難い。
【0028】
ヨウ素は、ヨウ素の添加(使用)量の全部の量(以下、「全ヨウ素添加量」ともいう。)を、反応開始時点の前に、一括で反応器内に添加してもよいし、反応開始時点を挟んで、複数回に分割して反応器内に添加してもよいし、反応開始時点より前の時点から、反応開始時点の後の時点までの所定の期間にわたって少量ずつ連続的に添加してもよい。ここで、反応開始時点とは、原料、酸化剤、光照射等、反応に必要な全ての要素がそろった時点をいうこととする。
【0029】
ヨウ素は、全ヨウ素添加量の少なくとも一部を反応開始時点の後に添加することが好ましい。これにより、光照射により励起されたヨウ素が、含フッ素含窒素ジスチルベン化合物等に含まれる芳香環をヨウ素化する等の副反応を効果的に抑制することができる。また、反応開始時点の前に、反応器内にヨウ素を一括添加した場合のように、反応器内におけるヨウ素濃度が一時的に高まり、ヨウ素によって照射された光の大部分が吸収され、マロリー反応の効率が低下することを回避できる。反応開始時点の後に添加するヨウ素の量は、全ヨウ素添加量を100質量%として、30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。具体的には、反応開始時点の前に、全ヨウ素添加量の一部(例えば、30質量%以上70質量%以下)を反応器に添加し、反応開始時点から所定時間(例えば、0.5時間又は全反応時間の1/5相当の時間)経過後に、全ヨウ素添加量の残部を添加してもよい。
【0030】
ヨウ化水素捕捉剤の量は、ヨウ素(I2)1モルに対して、2モル以上が好ましく、8モル以上がより好ましく、50モル以下が好ましく、35モル以下がより好ましい。上記下限値以上であれば、副生成物であるヨウ化水素を充分に捕捉することができ、副反応を効果的に抑制することができる。また、上記上限値以下であれば、光照射及びヨウ化水素等の作用により、過剰量のヨウ化水素捕捉剤が重合反応するといった望ましくない反応を十分抑制することができる。
【0031】
溶媒の量は、原料である含フッ素含窒素ジスチルベン化合物1gに対して、500mL以上5000mL以下であることが好ましい。上記下限値以上であれば、反応系内の反応性成分の濃度が過度に高くならず、副生成物であるヨウ化水素とその他の成分との接触頻度が過度に高まることが回避でき、副反応の発生を十分に低減又は抑制することができる。また、上記上限値以下であれば、反応系が過度に希薄にならず、反応完了までの時間が過度に長くなることを回避することができる。
【0032】
(5)光照射
ヨウ素及びヨウ化水素捕捉剤の存在下で、原料である含フッ素含窒素ジスチルベン化合物に光照射する。ここで、照射される光は、環化反応させるために十分な光エネルギーを与えることができる波長の活性エネルギー線であれば、特に限定されない。365nmの波長を含む活性エネルギー線が好ましく、例えば、紫外線が挙げられる。紫外線の照射源としては、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を用いることができ、中でも高圧水銀ランプが好ましい。照射源より発せられる紫外線は、そのまま照射してもよいし、フィルタ等の波長選択能を有する部材等を用いて、365nmの以外の波長域の光をカットして、照射してもよい。カットする波長域は、例えば、波長365nm未満の短波長領域であり得る。照射する光の強度は、特に限定されないが、例えば、1000lx以上5000lx以下とすることができる。
【0033】
照射時間は、反応規模、基質(原料)の濃度にもより、変動させることができ、0.5時間以上とすることができ、2時間以上が好ましく、20時間以下とすることができ、10時間以下が好ましい。照射時間が上記下限値以上であれば、反応を充分に進行させることができ、原料を環化反応物に充分に変換することができる。また、上記上限値以下であれば、過剰照射に起因する副反応が充分に抑制できる。
【0034】
(6)反応条件
反応は、0℃以上30℃以下の温度範囲で実施することができる。上記下限値以上であれば、環化反応が完結するまでに要する時間が過度に長くなることを回避できる。また、上記上限値以下であれば、好ましくない副反応の併発を抑制できる。
【0035】
反応時間は、例えば、反応系から環化反応物を含む反応液を採取して、液体クロマトグラフィーにて分析し、反応液中に原料が確認されなくなった時点を反応終了時点とし、反応開始時点からの時間を求めることで決定できる。例えば、反応時間は、反応の規模や使用する反応装置にもよるが、0.5時間以上20時間以下であり得る。
【0036】
(7)反応の手順の一例
本工程を実施する際の手順の一例は、以下のとおりである。
光照射源(例えば、高圧水銀ランプ)及び撹拌機(撹拌子)を付した反応器(例えば、パイレックス(登録商標)硝子製反応容器)に原料、ヨウ化水素捕捉剤、及び溶媒を仕込む。
次いで、反応器内の温度を任意の反応温度(例えば、0℃以上30℃以下)に設定して、撹拌を開始する。
高圧水銀ランプによる光照射を開始し、ヨウ素を複数回にわたり分割添加しながら反応を継続させる。
所定の反応時間経過後(例えば、0.5~2時間経過後)に光照射を停止し、反応液を静置する。
反応系から環化反応物を含む反応液を採取して、液体クロマトグラフィーにて分析し、反応液中に原料が確認されなくなって時点をもって反応終了とする。
【0037】
(8)後処理
環化反応後の反応液に、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム水溶液等の還元剤を添加して、未反応のヨウ素を中和することができる。さらに、中和後の反応液を、飽和塩化ナトリウム水溶液等の洗浄液で洗浄した後、有機層を分液し、得られた有機層を、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウム等の乾燥剤で乾燥させて、構造式(I)で示される環状化合物を得ることができる。さらに、カラムクロマトグラフィーによる精製を加え、純度を高めることができる。得られる化合物はラセミ体である。
【実施例
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によってその範囲を限定されるものではない。
なお、各実施例で得られた物質についての各種の測定及び分析は、以下の方法に従って行った。
【0039】
<NMR測定>
ブルカー・バイオスピン社製の核磁気共鳴装置「Bruker Avance III 400型」を用いて測定を行った。
【0040】
[製造例1]1,4-ビス(ヘプタフルオロシクロペンテニル)ベンゼン(化合物(1))及び1,2-ビス(ヘプタフルオロシクロペンテニルフェニル)-ヘキサフルオロシクロペンテン(化合物(2))の合成
【化16】
窒素雰囲気下、1,4-ジブロモベンゼン(0.71g、3mmol)とテトラヒドロフラン(12mL)を入れた二口フラスコを-78℃に冷却した。次に、1.7mol/L濃度のt-ブチルリチウム-ペンタン溶液(7.5mL、12mmol)をガラス製シリンジで滴下し、-78℃で1時間撹拌した。この溶液を窒素雰囲気下、オクタフルオロシクロペンテン(3.9mL、30mmol)をテトラヒドロフラン(10mL)に溶解させた溶液をカニュラーを介して加え、-78℃で1時間、25℃で20時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を(40mL)を加えて反応を停止させ、酢酸エチルを用いて3回水層を抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ロータリーエバポレーターにより溶媒を減圧留去した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)により精製し、無色の固体として化合物(1)及び(2)がそれぞれ、0.82g(収率59%)及び0.19g(収率17%)得られた。
【0041】
化合物(1)及び(2)について、NMR測定を実施した。
化合物(1):1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.87 (s, 4H); 19F NMR (376 MHz, CDCl3) δ -107.71 (d, J = 9.1 Hz, 4F), -118.44 (d, J = 14.3 Hz, 4F), -127.63--127.80 (m, 2F), -130.12 (quint, J = 3.0 Hz, 4F).
化合物(2):1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.75 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.47 (d, J = 8.4 Hz, 2H); 19F NMR (376 MHz, CDCl3) δ -107.68 (d, J = 10.9 Hz, 4F), -110.36 (t, J = 4.9 Hz, 4F) -118.44 (d, J = 14.4 Hz, 4F), -127.75-127.84 (m, 2F), -130.19 (quint, J = 3.2 Hz, 4F), -131.52 (quint, J = 4.0 Hz, 4F).
[製造例2]含フッ素フェナトレン化合物(化合物(3))の合成
【化17】
窒素雰囲気下、製造例1で得られた化合物(2)(0.19g、0.26mmol)、ヨウ素(20mg、0.08mmol)を入れたシュレンク管に、ガラス製シリンジでトルエン(100mL)を加え、原料及びヨウ素が溶解するまで撹拌を継続した。次に、1,2-エポキシブタン(0.76mL、8.8mmol)をガラス製シリンジで加え、25℃で超高圧水銀ランプ(500W、ウシオ製)により光照射を行った。反応開始後30分後及び1時間後にそれぞれヨウ素(25mg、0.1mmol)を加えて、合計で2時間光照射を行った。反応混合物を飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液、蒸留水、飽和塩化ナトリウム水溶液でそれぞれ1回ずつ洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた混合物をヘキサンから再結晶することで黄色の固体として化合物(3)が0.17g(収率93%)得られた。
【0042】
化合物(3)について、NMR測定を実施した。
化合物(3):1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 9.10 (s, 1H), 8.57 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 8.17 (d, J = 8.7 Hz, 1H); 19F NMR (376 MHz, CDCl3) δ -105.85 (t, J = 4.2 Hz, 4F), -107.33 (d, J = 11.5 Hz, 4F) -118.34 (d, J = 16.2 Hz, 4F), -127.15-127.23 (m, 2F), -128.89 (quint, J = 4.1 Hz, 2F), -129.94 (quint, J = 4.1 Hz, 4F).
【0043】
[製造例3]含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(IV)の合成
【化18】
窒素雰囲気下、6-ブロモキノリン(0.14g、0.66mmol)と乾燥テトラヒドロフラン(10mL)を入れた二口フラスコを-78℃に冷却した。次に、1.6mol/L濃度のn-ブチルリチウム-ヘキサン溶液(0.46mL、0.73mmol)をガラス製シリンジで滴下し、-78℃で1時間撹拌した。カニュラーを用いてこの溶液を、窒素雰囲気下、製造例1で得られた化合物1(0.14g、0.3mmol)を乾燥テトラヒドロフラン(10mL)に溶解させた溶液の入った二口フラスコに加え、-78℃で1時間、室温で20時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を(40mL)を加えて反応を停止させ、酢酸エチルを用いて3回水層を抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた混合物をヘキサンから再結晶することで黄色の固体として含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(IV)が61mg(収率30%)得られた。
【0044】
含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(IV)について、NMR測定を実施した。
化合物(IV):1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.98 (dd, J = 4.3 Hz, 1.6 Hz, 1H), 8.09 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 8.03 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.89 (s, 1H), 7.48-7.43 (m, 2H), 7.23 (s, 2H); 19F NMR (376 MHz, CDCl3) δ -110.16 (s, 4F), -110.41 (s, 4F), -13158 (quint, J = 5.4 Hz, 4F).
【0045】
[製造例4]含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(V)の合成
【化19】
窒素雰囲気下、3-ブロモキノリン(0.092mL、0.66mmol)と乾燥ジエチルエーテル(20mL)を入れた二口フラスコを-78℃に冷却した。次に、1.6mol/L濃度のn-ブチルリチウム-ヘキサン溶液(0.46mL、0.73mmol)をガラス製シリンジで滴下し、-78℃で1時間撹拌した後、乾燥ジエルエーテル(15mL)に溶解させた化合物1(0.14g、0.3mmol)を加え、-78℃で1時間、室温で20時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を(40mL)を加えて反応を停止させ、酢酸エチルを用いて3回水層を抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、ロータリーエバポレーターにより溶媒を減圧留去した。得られた混合物をヘキサンから再結晶したところ、黄色の固体として含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(V)が67mg(収率33%)得られた。
【0046】
含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(V)について、NMR測定を実施した。
化合物(V):1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.63 (s, 2H), 8.27 (s, 2H), 8.09 (d, J = 8.5 Hz, 4H), 7.86-7.78 (m, 4H), 7.35 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 7.38 (s, 4H); 19F NMR (376 MHz, CDCl3) δ -110.02 (s, 4F), -110.27 (s, 4F), -13152 (quint, J = 4.6 Hz, 4F).
【0047】
[製造例5]含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(VI)の合成
【化20】
窒素雰囲気下、6-ブロモキノリン(0.091g、0.44mmol)と乾燥テトラヒドロフラン(20mL)を入れた二口フラスコを-78℃に冷却した。次に、1.6mol/L濃度のn-ブチルリチウム-ヘキサン溶液(0.33mL、0.53mmol)をガラス製シリンジで滴下し、-78℃で1時間撹拌した。カニュラーを用いてこの溶液を、窒素雰囲気下、製造例2で得られた化合物3(0.14g、0.2mmol)と乾燥テトラヒドロフラン(20mL)が入った二口フラスコに加え、-78℃で1時間、25℃で20時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を(40mL)を加えて反応を停止させ、酢酸エチルを用いて3回水層を抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、ロータリーエバポレーターにより溶媒を減圧留去した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒/ヘキサン:酢酸エチル= 50:50)により精製し、黄色の固体として含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(VI)が20mg(収率22%)得られた。
【0048】
含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(VI)について、NMR測定を実施した。
化合物(VI):1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.96 (d, J = 1.7 Hz, 2H), 8.48 (s, 2H), 8.30-8.12 (m, 6H), 7.64 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.58 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 7.48-7.43 (m, 4H), 1.24 (s, 6H), 0.60 (s, 6H); 19F NMR (376 MHz, CDCl3) δ -105.90 (t, J = 3.7 Hz, 4F), -109.76 (s, 4F), -110.27 (s, 4F), -128.99 (quint, J = 4.1 Hz, 2F), -131.11 (quint, J = 4.3 Hz, 4F).
【0049】
[実施例1]含フッ素ジキノリノアントラセン化合物(I)の合成
【化21】
窒素雰囲気下、製造例3で得られた含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(IV)(73mg、0.11mmol)とヨウ素(14mg、0.055mmol)を入れたシュレンク管に、ガラス製シリンジでトルエン(100mL)加え、原料及びヨウ素が溶解するまで撹拌を継続した。次に、1,2-エポキシブタン(0.23mL、3.7mmol)をガラス製シリンジで加え、25℃で、超高圧水銀ランプ(500W、ウシオ製)より光照射を行った。反応開始後30分後及び1時間後にそれぞれヨウ素(20mg、0.08mmol)を加えて、合計で2時間光照射を行った。反応混合物を飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液、蒸留水、飽和塩化ナトリウム水溶液でそれぞれ1回ずつ洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、ロータリーエバポレーターにより溶媒を減圧留去した。得られた混合物をヘキサンから再結晶したところ、黄色の固体として化合物(I)が71mg(収率95%)得られた。
【0050】
含フッ素ジキノリノアントラセン化合物(I)について、NMR測定を実施した。
化合物(I):1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 10.02 (s, 1H), 9.43 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 9.26 (dd, J = 2.1 Hz, 1.4 Hz, 1H), 8.66 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 8.54 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 7.84 (dd, J = 4.3 Hz, 4.2 Hz, 1H); 19F NMR (376 MHz, CDCl3) δ -104.68 (s, 4F), -105.44 (s, 4F), -128.44 (quint, J = 4.1 Hz, 4F).
【0051】
[実施例2]含フッ素ジキノリノアントラセン化合物(II)の合成
【化22】
窒素雰囲気下、製造例4で得られた含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(V)(0.14g、0.2mmol)、ヨウ素(40mg、0.16mmol)を入れたシュレンク管に、ガラス製シリンジでトルエン(100mL)加え、基質及びヨウ素が溶解するまで撹拌した。次に、1,2-エポキシブタン(0.59mL、6.8mmol)をガラス製シリンジで加え、25℃で、超高圧水銀ランプ(500W、ウシオ製)より光照射を行った。反応開始後30分後及び1時間後にそれぞれヨウ素(35mg、0.14mmol)を加えて、合計で2時間光照射を行った。反応混合物を飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液、蒸留水、飽和塩化ナトリウム水溶液でそれぞれ1回ずつ洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、ロータリーエバポレーターにより溶媒を減圧留去した。得られた混合物をヘキサンから再結晶したところ、黄色の固体として化合物(II)が0.11g(収率80%)得られた。
【0052】
含フッ素ジキノリノアントラセン化合物(II)について、NMR測定を実施した。
化合物(II):1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 10.33 (s, 1H), 9.91 (s, 1H), 9.12 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 8.54 (dd, J = 8.4 Hz, 1.4 Hz, 1H), 8.11-8.00 (m, 2H); 19F NMR (376 MHz, CDCl3) δ -103.35 (s, 4F), -105.49 (s, 4F), -128.40 (quint, J = 3.9 Hz, 4F).
【0053】
[実施例3]含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物(III)の合成
【化23】
窒素雰囲気下、製造例5で得られた含フッ素含窒素ジスチルベン化合物(VI)(20mg、0.022mmol)、ヨウ素(10mg、0.04mmol)を入れたシュレンク管に、ガラス製シリンジでトルエン(100mL)を加え、原料及びヨウ素が溶解するまで攪拌を継続した。次に、1,2-エポキシブタン(0.047mL、0.75mmol)をガラス製シリンジで加え、25℃で、超高圧水銀ランプ(500W、ウシオ製)より光照射を行った。反応開始後30分後、1時間後、及び2時間後にそれぞれヨウ素(12mg、0.048mmol)を加えて、合計で4時間光照射を行った。反応混合物を飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液、蒸留水、飽和塩化ナトリウム水溶液でそれぞれ1回ずつ洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、ロータリーエバポレーターにより溶媒を減圧留去した。得られた混合物をヘキサンから再結晶したところ、黄色の固体として化合物(III)が19mg(収率95%)得られた。
【0054】
含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物(III)について、NMR測定を実施した。
化合物(III):1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 10.07 (s, 2H), 10.03 (s, 2H), 9.41 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 9.26 (dd, J = 4.2 Hz, 1.3 Hz, 2H), 8.67 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 8.55 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 7.84 (dd, J = 8.6 Hz, 4.1 Hz, 1H); 19F NMR (376 MHz, CDCl3) δ -104.73 (s, 4F), -105.14 (s, 4F), -106.31 (t, J = 4.2 Hz, 4F), -128.28 (quint, J = 3.5 Hz, 2F), -128.63 (quint, J = 4.1 Hz, 4F).
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る新規な含フッ素ジキノリノアントラセン化合物、含フッ素ジキノリノジベンゾフェナントレン化合物等の、含フッ素芳香族複素環式化合物は、多数のフッ素を含むため、フッ素非含有の芳香族複素環式化合物に対して、溶媒への溶解性、特に、非極性溶媒に対する溶解度が向上していることが推測される。また、耐酸化性が高く、劣化し難いことが推測されると共に、撥水性が高くなっているので、耐久性の高い材料として、特に、偏光材料、n型半導体材料等への応用が期待される。本発明によれば、これらの新規な含フッ素芳香族複素環式化合物を簡便な方法により高収率で製造することができる。