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特許7341725偏光フィルムおよびその製造方法、偏光板ならびに表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】偏光フィルムおよびその製造方法、偏光板ならびに表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230904BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20230904BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20230904BHJP
   H10K 50/86 20230101ALI20230904BHJP
【FI】
G02B5/30
C08F290/06
H10K59/10
H10K50/86
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019098416
(22)【出願日】2019-05-27
(65)【公開番号】P2019211770
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2018105990
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】太田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】幡中 伸行
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-083843(JP,A)
【文献】特開2006-284736(JP,A)
【文献】特開2016-139133(JP,A)
【文献】国際公開第2009/008240(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
C08F 290/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に陽電子を打ち込みエネルギー3kVで照射して測定される、陽電子寿命測定法から算出される平均自由体積半径を直径に変換した空孔サイズが0.45nm以上0.57nm以下である表面を有する、樹脂フィルムを含んで構成される基材の前記表面上に積層された、少なくとも1つの重合性基を有し、かつ、スメクチック液晶性を示す重合性液晶化合物および二色性色素を含む重合性液晶組成物の硬化物である偏光子を含んでなる、偏光フィルム。
【請求項2】
53℃の温水に30分間浸漬した際のヘイズ変化量が1.0以下である、請求項1に記載の偏光フィルム。
【請求項3】
前記二色性色素はアゾ色素である、請求項1または2に記載の偏光フィルム。
【請求項4】
前記偏光子はX線解析測定においてブラッグピークを示す、請求項1~のいずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項5】
偏光子が積層される前記基材表面は、ラジカル重合性モノマーを含む硬化性組成物の硬化物層から構成されている、請求項1~のいずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項6】
偏光子が積層される前記基材表面は、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性モノマーを含む硬化性組成物の硬化物層から構成されている、請求項1~のいずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項7】
偏光子が光配向膜を介して基材の表面上に積層される、請求項1~のいずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の偏光フィルムと位相差フィルムとを備えてなる偏光板であって、前記位相差フィルムが式(X):
100nm ≦ Re(550) ≦ 180nm (X)
〔式中、Re(550)は波長550nmにおける面内位相差値を表す〕
を満たし、前記位相差フィルムの遅相軸と前記偏光フィルムの吸収軸との成す角度が実質的に45°である、偏光板。
【請求項9】
位相差フィルムが式(Y):
Re(450)/Re(550) < 1 (Y)
〔式中、Re(450)およびRe(550)は、それぞれ、波長450nmおよび550nmにおける面内位相差値を表す〕
を満たす、請求項に記載の偏光板。
【請求項10】
位相差フィルムが、重合性液晶化合物の重合体から構成される、請求項またはに記載の偏光板。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載の偏光フィルム、または、請求項10のいずれかに記載の偏光板を備えてなる表示装置。
【請求項12】
表面に陽電子を打ち込みエネルギー3kVで照射して測定される、陽電子寿命測定法から算出される平均自由体積半径を直径に変換した空孔サイズが0.45nm以上0.57nm以下である表面を有する、樹脂フィルムを含んで構成される基材の前記表面上に、少なくとも1つの重合性基を有し、かつ、スメクチック液晶性を示す重合性液晶化合物および二色性色素を含む重合性液晶組成物の塗膜を形成すること、
前記塗膜から溶剤を除去すること、
重合性液晶化合物が液体相に相転移する温度以上まで昇温した後降温して、該重合性液晶化合物をスメクチック相に相転移させること、および、
前記スメクチック相を保持したまま重合性液晶化合物を重合させること
を含む、偏光フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルムおよびその製造方法、並びに、前記偏光フィルムを含む偏光板およびそれを備える表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、偏光板は、液晶表示パネルや有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)表示パネル等の各種画像表示パネルにおいて、液晶セルや有機EL表示素子等の画像表示素子に貼合されて用いられている。このような偏光板として、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素や二色性染料等の二色性を示す化合物を吸着配向させた偏光子の少なくとも一方の面に、接着層を介して、トリアセチルセルロースフィルム等の保護層を積層した構成を有する偏光板が知られている。
【0003】
近年、画像表示パネル等のディスプレイに対して薄型化の継続的な要求が存在しており、その構成要素の1つである偏光板や偏光子に対してもさらなる薄型化が要求されている。このような要求に対して、例えば、重合性液晶化合物と二色性を示す化合物とからなる薄型のホストゲスト型偏光子が提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2007-510946号公報
【文献】特開2013-37353号公報
【文献】特開2017-083843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されるようなホストゲスト型偏光子は、保護層などの高分子フィルムや画像表示素子等と貼合された際、偏光子が曝される外部環境条件によっては、偏光子に含まれる二色性色素が高分子フィルムや粘接着剤層中に拡散しやすくなり、異方性が乱されることにより経時的に偏光性能が低下するという課題が生じ得る。
【0006】
かかる課題を解決するために、特許文献2に記載の偏光フィルムにおいては、透明基材上に配向層、偏光層および保護層が形成された偏光フィルムを前面板(ガラス基材)に対して、インセル方式で配置している。しかしながら、特許文献2に記載の偏光フィルムを構成する前記保護層の形成には、溶剤乾燥工程が必須であり、保護層を形成するための組成物中に含まれる溶剤種や構築される保護層の種類によっては、前記乾燥工程中に偏光子中の二色性化合物が保護層内へと拡散しやすくなり、これにより経時的に偏光性能の低下を生じ得る。
【0007】
さらに、特許文献3には、偏光膜の両面を拡散防止層で封止することにより、二色性色素の偏光膜外への拡散を防止することができ、偏光板の光学性能の経時的な低下を抑制し得ることが示唆されている。しかしながら、特許文献3において前記拡散防止層として提案されるポリビニルアルコールなどの親水性化合物は、偏光板が水に浸漬するなどの環境にさらされた際にワレや剥がれ、浮きなどによりヘイズが上昇しやすい。また、ポリビニルアルコールは折り曲げた際の変形に対する許容度が低いため、細かな破断を生じやすく、これらの外観的な変化は高い透明性が要求される偏光フィルムにとって外観的な欠陥となるだけでなく、各種画像表示装置などのディスプレイに用いる場合には視認性を悪化させる原因となり得る。
【0008】
本発明は、良好な耐熱性能や耐水性能を示す偏光フィルム、好ましくは薄型の偏光フィルムを提供することを目的とする。また、本発明は該偏光フィルムを含む偏光板および表示装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
[1]表面に陽電子を打ち込みエネルギー3kVで照射して測定される、陽電子寿命測定法から算出される平均自由体積半径を直径に変換した空孔サイズが0.45nm以上0.57nm以下である表面を有する基材の前記表面上に積層された、少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物および二色性色素を含む重合性液晶組成物の硬化物である偏光子を含んでなる、偏光フィルム。
[2]53℃の温水に30分間浸漬した際のヘイズ変化量が1.0以下である、前記[1]に記載の偏光フィルム。
[3]前記二色性色素はアゾ色素である、前記[1]または[2]に記載の偏光フィルム。
[4]前記重合性液晶化合物はスメクチック液晶性を示す、前記[1]~[3]のいずれかに記載の偏光フィルム。
[5]前記偏光子はX線解析測定においてブラッグピークを示す、前記[1]~[4]のいずれかに記載の偏光フィルム。
[6]偏光子が積層される前記基材表面は、ラジカル重合性モノマーを含む硬化性組成物の硬化物層から構成されている、前記[1]~[5]のいずれかに記載の偏光フィルム。
[7]偏光子が積層される前記基材表面は、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性モノマーを含む硬化性組成物の硬化物層から構成されている、前記[1]~[6]のいずれかに記載の偏光フィルム。
[8]偏光子が光配向膜を介して基材の表面上に積層される、前記[1]~[7]のいずれかに記載の偏光フィルム。
[9]前記[1]~[8]のいずれかに記載の偏光フィルムと位相差フィルムとを備えてなる偏光板であって、前記位相差フィルムが式(X):
100nm ≦ Re(550) ≦ 180nm (X)
〔式中、Re(550)は波長550nmにおける面内位相差値を表す〕
を満たし、前記位相差フィルムの遅相軸と前記偏光フィルムの吸収軸との成す角度が実質的に45°である、偏光板。
[10]位相差フィルムが式(Y):
Re(450)/Re(550) < 1 (Y)
〔式中、Re(450)およびRe(550)は、それぞれ、波長450nmおよび550nmにおける面内位相差値を表す〕
を満たす、前記[9]に記載の偏光板。
[11]位相差フィルムが、重合性液晶化合物の重合体から構成される、前記[9]または[10]に記載の偏光板。
[12]前記[1]~[8]のいずれかに記載の偏光フィルム、または、前記[8]~[11]のいずれかに記載の偏光板を備えてなる表示装置。
[13]表面に陽電子を打ち込みエネルギー3kVで照射して測定される、陽電子寿命測定法から算出される平均自由体積半径を直径に変換した空孔サイズが0.45nm以上0.57nm以下である表面を有する基材の前記表面上に、少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物および二色性色素を含む重合性液晶組成物の塗膜を形成すること、
前記塗膜から溶剤を除去すること、
重合性液晶化合物が液体相に相転移する温度以上まで昇温した後降温して、該重合性液晶化合物をスメクチック相に相転移させること、および、
前記スメクチック相を保持したまま重合性液晶化合物を重合させること
を含む、偏光フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好な耐熱性能や耐水性能を示す偏光フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0012】
<偏光フィルム>
本発明の偏光フィルムは、基材と、前記基材に積層された偏光子とを含んでなる。本発明の偏光フィルムにおいて、前記偏光子は、少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物および二色性色素を含む重合性液晶組成物の硬化物であり、基材は、表面に陽電子を打ち込みエネルギー3kVで照射して測定される、陽電子寿命測定法から算出される平均自由体積半径を直径に変換した空孔サイズが0.45nm以上0.57nm以下である表面を有し、偏光子は基材の前記表面上に積層される。
【0013】
偏光子を積層する基材表面の前記空孔サイズは、基材の偏光子が積層される側の最外表面の空孔サイズを意味し、該表面に陽電子を打ち込みエネルギー3kVで照射して測定される陽電子寿命測定法により算出される平均自由体積半径R3を直径に変換した数値を示す。なお、本発明において、基材の偏光子が積層される側の最外表面とは、基材において偏光子が直接または配向膜を介して積層される面を意味する。本発明における上記空孔サイズの詳細な測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0014】
重合性液晶化合物と二色性色素とを含む重合性液晶組成物を硬化させることにより作製される偏光子においては、二色性色素が重合性液晶化合物に包摂され、重合性液晶化合物と二色性色素が配向した状態で重合し、硬化されるが、従来広く用いられているポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させた偏光子と比較して、二色性色素が高分子成分に保持されにくく、高温環境下等において二色性色素が偏光子から、該偏光子と積層される他の層へ熱拡散し、経時的に偏光性能の低下を生じやすい傾向にある。偏光子を積層する基材表面の上記空孔サイズが0.57nmを超えると、高温環境下等において偏光子中の二色性色素を遮蔽する機能が十分でないため、二色性色素が偏光子外へ拡散しやすくなり、偏光フィルムの経時的な偏光性能の低下を生じやすくなる。また、偏光子を積層する基材表面の上記空孔サイズが0.45nm未満であると、偏光フィルムを折り曲げた際の変形に対する許容度が下がり、細かな破断が生じることにより白化を生じ、偏光フィルムを各種画像表示装置などのディスプレイに用いた場合の視認性を低下させる原因となる。したがって、本発明において、偏光子が積層される基材の表面の空孔サイズは、0.57nm以下、好ましくは0.54nm以下、より好ましくは0.51nm以下であり、また、0.45nm以上、好ましくは0.48nm以上、より好ましくは0.50nm以上である。偏光子が積層される基材表面の空孔サイズが上記範囲であると、偏光子中の二色性色素の偏光子外への拡散抑制効果に優れるのみでなく、折り曲げた際の変形を生じ難く、偏光性能および視認性に優れる偏光フィルムとなる。また、基材表面が所定の空孔サイズを有することで偏光子との密着性を向上させることができ、偏光フィルムの加工性および生産性の観点からも有利である。
【0015】
本発明において、基材は、偏光子が積層される側に上記空孔サイズを満たす表面を有するものであれば特に限定されず、単層構造であっても多層構造であってもよい。本発明において基材は、通常、樹脂フィルムを含んで構成され、単独の樹脂フィルムからなる単層構造であってもよく、樹脂フィルムに上記空孔サイズを満たす層を設けた多層構造であってもよい。樹脂フィルムを基材として用いることにより屈曲性を有する偏光フィルムを得ることができ、例えば、フレキシブルディスプレイ等の屈曲性が要求される用途においても広く利用し得る偏光フィルムを提供することができる。なお、本発明においては、偏光フィルムが基材となる樹脂フィルムと偏光子との間に1以上の層を含む場合、前記1以上の層のうち、配向膜(層)以外の基材側に位置する層は全て基材とみなす。したがって、上記陽電子寿命測定法により算出される空孔サイズに関して、基材となる樹脂フィルムと偏光子との間に1以上の層が設けられた偏光フィルムにおける基材の最外表面とは、前記1以上の層のうち、配向膜(層)以外の層で最も偏光子側に位置する層の表面を意味する。
【0016】
樹脂フィルムを構成する樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ノルボルネン系ポリマーなどの環状オレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート;ポリメタクリル酸エステル;ポリアクリル酸エステル;トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースエステル;ポリエチレンナフタレート;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン;ポリフェニレンスルフィド;ポリフェニレンオキシド;ポリアミドおよびポリアミドイミド等が挙げられる。入手のしやすさの観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸エステル、セルロースエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、環状オレフィン系樹脂またはポリカーボネートが好ましい。セルロースエステルは、セルロースに含まれる水酸基の一部または全部が、エステル化されたものであり、市場から容易に入手することができる。また、セルロースエステル基材も市場から容易に入手することができる。市販のセルロースエステル基材としては、例えば、“フジタックフィルム”(富士写真フィルム(株));“KC8UX2M”、“KC8UY”および“KC4UY”(コニカミノルタ(株))などが挙げられる。基材に求められる特性は、偏光フィルムの構成によって異なるが、通常、位相差性ができるだけ小さい基材が好ましい。位相差性ができるだけ小さい基材としては、ゼロタック(コニカミノルタオプト株式会社)、Zタック(富士フィルム株式会社)等の位相差を有しないセルロースエステルフィルム等が挙げられる。樹脂フィルムは、延伸および未延伸のいずれであってもよく、偏光子が積層されない基材の面には、ハードコート処理、反射防止処理、帯電防止処理等がなされてもよい。
【0017】
上述したような樹脂から形成される樹脂フィルムを、例えば、延伸条件として張力、温度あるいは速度などを制御しながら延伸し、延伸倍率を適宜調整することにより、表面の陽電子寿命測定法により算出される上記空孔サイズを調整することができる。一般に、延伸倍率が高まるほど樹脂フィルムの結晶化が進み、空孔サイズを小さくすることができる。本発明の偏光フィルムを構成する基材として、陽電子寿命測定法により算出される上記空孔サイズが0.45nm以上0.57nm以下である樹脂フィルムを単独で用いることができる。
【0018】
本発明の基材は、上述したような樹脂から形成される延伸または未延伸の樹脂フィルムに、陽電子寿命測定法により算出される上記空孔サイズが0.45nm以上0.57nm以下の範囲にある層(以下、「硬化物層」ともいう)を設けた多層構造であってもよい。樹脂フィルムの表面に上記空孔サイズを有する硬化物層を設けることにより、樹脂フィルム自体が有する空孔サイズによる制限を受けることなく、偏光フィルムを構成する基材として種々の樹脂フィルムを用いることができる。したがって、本発明の一実施態様において、偏光フィルムを構成する基材は、樹脂フィルムと、前記樹脂フィルム上に設けられた陽電子寿命測定法により算出される上記空孔サイズが0.45nm以上0.57nm以下の範囲にあり、基材の最外層に配置される硬化物層とを有する。
【0019】
本発明において、前記硬化物層は、例えば、重合性モノマーを含む硬化性組成物の硬化物層であってよい。硬化物層を形成する硬化性組成物は、反応速度が高く、均一な空孔サイズを有する硬化物層が得られやすく、偏光子中の二色性色素の拡散を効果的に抑制する観点から、活性ラジカル等により重合して硬化する特性を有するラジカル重合性モノマーを必須成分として含むものが好ましい。
【0020】
本発明において、前記硬化物層の形成に適するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、多官能(メタ)アクリレート化合物などの(メタ)アクリレート化合物;多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物などのウレタン(メタ)アクリレート化合物;多官能エポキシ(メタ)アクリレート化合物などのエポキシ(メタ)アクリレート化合物;カルボキシル基変性エポキシ(メタ)アクリレート化合物、ポリエステル(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、重合性モノマーとしては、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性モノマーが好ましく、多官能(メタ)アクリレート化合物がより好ましく、多官能アクリレート化合物が特に好ましい。(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を重合性モノマーとして用いることにより、所望の空孔サイズを有する硬化物層を調製しやすく、偏光子中の二色性色素に対する優れた遮蔽機能を基材となる樹脂フィルムに付与することができる。
【0021】
多官能(メタ)アクリレート化合物は、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基、好ましくは(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を意味し、その例としては、分子内に(メタ)アクリロイルオキシ基を2個有する2官能(メタ)アクリレートモノマー、分子内に(メタ)アクリロイルオキシ基を3個以上有する3官能以上の(メタ)アクリレートモノマー等が挙げられる。なお、本明細書において、用語「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」または「メタクリレート」を意味し、用語「(メタ)アクリロイル」も同様に、「アクリロイル」または「メタクリロイル」を意味する。
【0022】
多官能(メタ)アクリレート化合物として、1種類または2種類以上の多官能(メタ)アクリレート化合物を含んでいてもよい。また、2種類以上の多官能(メタ)アクリレート化合物を含む場合、それぞれの多官能(メタ)アクリレート化合物間で、(メタ)アクリロイルオキシ基の数が同一であっても、異なっていてもよい。
【0023】
2官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート及びネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;テトラフルオロエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のハロゲン置換アルキレングリコールのジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート等の脂肪族ポリオールのジ(メタ)アクリレート;水添ジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等の水添ジシクロペンタジエン又はトリシクロデカンジアルカノールのジ(メタ)アクリレート;1,3-ジオキサン-2,5-ジイルジ(メタ)アクリレート〔別名:ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート〕等のジオキサングリコール又はジオキサンジアルカノールのジ(メタ)アクリレート;ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジアクリレート物、ビスフェノールFエチレンオキサイド付加物ジアクリレート物等のビスフェノールA又はビスフェノールFのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート;ビスフェノールAジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物、ビスフェノールFジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物等のビスフェノールA又はビスフェノールFのエポキシジ(メタ)アクリレート;シリコーンジ(メタ)アクリレート;ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルのジ(メタ)アクリレート;2,2-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン;2,2-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシシクロヘキシル]プロパン;2-(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-5-エチル-5-ヒドロキシメチル-1,3-ジオキサン〕のジ(メタ)アクリレート;トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
3官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子内に3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマーが挙げられ、その例としては、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートと酸無水物の反応物、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物、プロピレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物などが挙げられる。
【0025】
4官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子内に4個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマーが挙げられ、その例としては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0026】
5官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物、プロピレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物などが挙げられる。
【0027】
6官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0028】
7官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物、カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物、エチレンオキサイド変性トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物、プロピレンオキサイド変性トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物などが挙げられる。
【0029】
8官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子内に8個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマーが挙げられ、その例としては、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0030】
得られる硬化物層の架橋密度を高めやすく、所望の空孔サイズを得やすいことから、4~8官能アクリレートモノマーが好ましく、6~8官能アクリレートモノマーがより好ましい。これらの中でも、積層体の耐久性および屈曲性等の観点から、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよびトリペンタエリスリトールオクタアクリレートがさらに好ましい。
【0031】
本発明において、多官能(メタ)アクリレート化合物の架橋点間分子量および架橋点数を制御することにより、得られる硬化物層の空孔サイズを所望の範囲に調整することができる。具体的には、架橋点間分子量が大きくなるほど架橋密度が下がり、得られる硬化物層の空孔サイズが大きくなる傾向にあり、一方、架橋点数が多くなるほど架橋密度が密になり、得られる硬化物層の空孔サイズが小さくなる傾向にある。
【0032】
基材表面における硬化物層を構成する硬化性組成物において、ラジカル重合性モノマー、好ましくは多官能(メタ)アクリレート化合物の含有量は、硬化性組成物の固形分100質量部に対して、好ましくは50質量部以上であり、より好ましくは60質量部以上である。多官能(メタ)アクリレートモノマーの含有量が上記の範囲であると、所望の空孔サイズを有する硬化物層を調製しやすく、基材に優れた二色性色素の遮蔽機能を付与することができる。なお、本明細書において、硬化性組成物の固形分とは、硬化性組成物に溶剤が含まれる場合、硬化性組成物から溶剤を除いた成分の合計量を意味する。
【0033】
前記硬化物層を形成する硬化性組成物は、ラジカル重合性モノマー、好ましくは多官能(メタ)アクリレート化合物に加えて、さらに多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物を含むことが好ましい。
【0034】
多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物は、一般に、イソシアネート化合物とポリオール化合物と(メタ)アクリレート化合物の反応物であり、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を意味する。多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物は、架橋剤として機能し、架橋点数が多いため得られる硬化物層の架橋構造を密にすることができるとともに、適度な靭性を付与し得るため、屈曲性に優れ、折り曲げ等による変形に対する耐性を向上させることができる。
多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物としては、耐久性と屈曲性等の観点から官能基数が2~5であることが好ましく、分子量が400~8000の範囲にあることが好ましい。
【0035】
硬化性組成物がウレタン(メタ)アクリレート化合物を含む場合、その含有量は、用いる多官能(メタ)アクリレート化合物の種類によって適宜決定すればよい。本発明の一実施態様において、硬化物層を形成する硬化性組成物は、多官能(メタ)アクリレートとウレタン(メタ)アクリレート化合物とを、好ましくは95:5~50:50、より好ましくは90:10~70:30の比率(多官能(メタ)アクリレート:ウレタン(メタ)アクリレート化合物、質量比)で含む。多官能(メタ)アクリレートとウレタン(メタ)アクリレート化合物とを上記配合比率で含むことにより、基材に二色性色素に対する高い遮蔽機能および優れた屈曲性を付与することができる。
【0036】
前記硬化物層を形成する硬化性組成物は、光重合開始剤を含んでよい。光重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、電子線等の活性エネルギー線の照射により、硬化性化合物の硬化を開始できるものであれば特に限定されず、その具体例としては、アセトフェノン、3-メチルアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オンおよび2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等のアセトフェノン系開始剤;ベンゾフェノン、4-クロロベンゾフェノンおよび4,4’-ジアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン系開始剤;2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン等のアルキルフェノン系開始剤;ベンゾインプロピルエーテルおよびベンゾインエチルエーテル等のベンゾインエーテル系開始剤;4-イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系開始剤;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド系開始剤;その他、キサントン、フルオレノン、カンファーキノン、ベンズアルデヒド、アントラキノン等が挙げられる。これらの光重合開始剤は単独または二種以上組合せて使用できる。
【0037】
硬化性組成物が光重合開始剤を含む場合、光重合開始剤の含有量は、硬化性化合物の総量100質量部に対して、好ましくは1~10質量部、より好ましくは2~6質量部である。光重合開始剤の含有量が、上記の下限値以上であると、重合開始能が十分に発現され、硬化性が向上される。一方、重合開始剤の含有量が上記の上限値以下であると、光重合開始剤が残存しにくくなり、可視光線透過率の低下等を抑制しやすくなる。
【0038】
基材表面における硬化物層を形成する硬化性組成物は、必要に応じて、紫外線吸収剤、帯電防止剤、安定化剤、酸化防止剤、着色剤、表面調整剤などの添加剤を含んでよい。添加剤は単独または二種以上組み合わせて使用できる。添加剤の含有量は、硬化性組成物の固形分の質量に対して、好ましくは0.1~10質量%程度である。
【0039】
硬化物層は、例えば、硬化性組成物を構成する各成分を溶剤に溶解して調製した溶液(以下、「硬化物層形成用組成物」ともいう)を、基材を構成する樹脂フィルムに塗布した後、溶剤を乾燥除去し、重合性成分を硬化させることで得られる。
【0040】
前記溶剤としては、硬化性組成物を構成する成分を溶解し得るものであればよく、例えば、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル化グリコールエーテル類などから適宜選択して用いることができる。これらの溶剤は、単独または二種以上組合せて使用できる。溶剤の種類および含有量は、硬化性組成物に含まれる成分の種類や含有量、樹脂フィルムの材質、形状、塗布方法、硬化物層の厚みなどに応じて適宜選択されるが、例えば、溶剤の含有量は、硬化性組成物に含まれる成分の総量100質量部に対して、10~10000質量部、好ましくは20~1000質量部、より好ましくは20~100質量部程度であってよい。
【0041】
硬化物層形成用組成物を樹脂フィルム等に塗布する方法としては、スピンコーティング法、エクストルージョン法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法およびアプリケータ法等の塗布方法や、フレキソ法等の印刷法等の公知の方法が挙げられる。
【0042】
硬化物層形成用組成物に含まれる溶剤を除去する方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥法および減圧乾燥法等が挙げられる。
【0043】
基材が表面に硬化物層を含む場合、その硬化物層の厚みは、好ましくは0.1~20μm、より好ましくは1~10μm、さらに好ましくは2~5μmである。硬化物層の厚みが前記下限値以上であると、二色性色素に対する十分な拡散抑制効果を発揮することができ、前記上限値以下であると、薄型の偏光フィルムを得ることができる。
【0044】
本発明の偏光フィルムを構成する基材は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、樹脂フィルムおよび上記硬化物層以外の層を含んでいてもよい。そのような他の層としては、例えば、帯電防止層、基材の偏光子が積層される側とは反対側の面に設けられるハードコート層、反射防止層、ガスバリア層等が挙げられる。
【0045】
基材の厚みは、偏光フィルムの薄型化の観点から、好ましくは5~300μm、より好ましくは10~200μm、さらに好ましくは20~100μmである。なお、基材が上記硬化物層等を含む多層構造である場合、前記基材の厚みは、基材を構成する多層構造全体の厚みを意味する。
【0046】
本発明の偏光フィルムを構成する偏光子は、少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物および二色性色素を含んでなる重合性液晶組成物の硬化物である。
本発明の偏光フィルムにおいて、偏光子を形成する重合性液晶組成物(以下、「重合性液晶組成物(A)」ともいう)に含まれる重合性液晶化合物(以下、「重合性液晶化合物(A)」ともいう)は、少なくとも1つの重合性基を有する液晶化合物である。ここで、重合性基とは、重合開始剤から発生する活性ラジカルや酸などによって重合反応に関与し得る基のことをいう。重合性液晶化合物(A)が有する重合性基としては、例えば、ビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基等が挙げられる。中でも、ラジカル重合性基が好ましく、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基、ビニルオキシ基がより好ましく、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が好ましい。
【0047】
本発明において、重合性液晶化合物(A)はスメクチック液晶性を示す化合物であることが好ましい。スメクチック液晶性を示す重合性液晶化合物を用いることにより、配向秩序度の高い偏光子を形成することができる。重合性液晶化合物(A)の示す液晶状態はスメクチック相(スメクチック液晶状態)であり、より高い配向秩序度を実現し得る観点から、高次スメクチック相(高次スメクチック液晶状態)であることがより好ましい。ここで、高次スメクチック相とは、スメクチックB相、スメクチックD相、スメクチックE相、スメクチックF相、スメクチックG相、スメクチックH相、スメクチックI相、スメクチックJ相、スメクチックK相およびスメクチックL相を意味し、これらの中でも、スメクチックB相、スメクチックF相およびスメクチックI相がより好ましい。液晶性はサーモトロピック性液晶でもリオトロピック性液晶でもよいが、緻密な膜厚制御が可能な点でサーモトロピック性液晶が好ましい。また、重合性液晶化合物(A)はモノマーであってもよいが、重合性基が重合したオリゴマーであってもポリマーであってもよい。
【0048】
重合性液晶化合物(A)としては、少なくとも1つの重合性基を有する液晶化合物であれば特に限定されず、公知の重合性液晶化合物を用いることができるが、スメクチック液晶性を示す化合物が好ましい。そのような重合性液晶化合物としては、例えば、下記式(A1)で表される化合物(以下、「重合性液晶化合物(A1)」ともいう)が挙げられる。
-V-W-(X-Y-)-X-W-V-U (A1)
[式(A1)中、
およびXは、互いに独立して、2価の芳香族基または2価の脂環式炭化水素基を表し、ここで、該2価の芳香族基または2価の脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフルオロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、シアノ基またはニトロ基に置換されていてもよく、該2価の芳香族基または2価の脂環式炭化水素基を構成する炭素原子が、酸素原子または硫黄原子または窒素原子に置換されていてもよい。ただし、XおよびXのうち少なくとも1つは、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基または置換基を有していてもよいシクロヘキサン-1,4-ジイル基である。
は、単結合または二価の連結基である。
nは1~3であり、nが2以上の場合、複数のXは互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。Xは、複数のXのうちのいずれかまたは全てと同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、nが2以上の場合、複数のYは互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。液晶性の観点からnは2以上が好ましい。
は、水素原子または重合性基を表わす。
は、重合性基を表わす。
およびWは、互いに独立して、単結合または二価の連結基である。
およびVは、互いに独立して、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルカンジイル基を表し、該アルカンジイル基を構成する-CH-は、-O-、-CO-、-S-またはNH-に置き換わっていてもよい。]
【0049】
重合性液晶化合物(A1)において、XおよびXは、互いに独立して、好ましくは、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基、または、置換基を有していてもよいシクロヘキサン-1,4-ジイル基であり、XおよびXのうちの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基、または、置換基を有していてもよいシクロヘキサン-1,4-ジイル基であり、トランス-シクロへキサン-1,4-ジイル基であることが好ましい。置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基、または、置換基を有していてもよいシクロへキサン-1,4-ジイル基が任意に有する置換基としては、メチル基、エチル基およびブチル基などの炭素数1~4のアルキル基、シアノ基および塩素原子、フッ素原子などのハロゲン原子が挙げられる。好ましくは無置換である。
【0050】
また、重合性液晶化合物(A1)は、式(A1)中、式(A1-1):
-(X-Y-)-X- (A1-1)
〔式中、X、Y、Xおよびnはそれぞれ上記と同じ意味を示す。〕
で示される部分〔以下、部分構造(A1-1)と称する。〕が非対称構造であることが、スメクチック液晶性を発現し易い点で、好ましい。
部分構造(A1-1)が非対称構造である重合性液晶化合物(A1)としては、例えば、
nが1であり、1つのXとXとが互いに異なる構造である重合性液晶化合物(A1)が挙げられる。また、
nが2であり、2つのYが互いに同じ構造である化合物であって、
2つのXが互いに同じ構造であり、1つのXはこれら2つのXとは異なる構造である重合性液晶化合物(A1)、
2つのXのうちのWに結合するXが、他方のXおよびXとは異なる構造であり、他方のXとXとは互いに同じ構造である重合性液晶化合物(A1)も挙げられる。さらに、
nが3であり、3つのYが互いに同じ構造である化合物であって、
3つのXおよび1つのXのうちのいずれか1つが他の3つの全てと異なる構造である重合性液晶化合物(A1)が挙げられる。
【0051】
は、-CHCH-、-CHO-、-CHCHO-、-COO-、-OCOO-、単結合、-N=N-、-CR=CR-、-C≡C-、-CR=N-または-CO-NR-が好ましい。RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表わす。Yは、-CHCH-、-COO-または単結合であることがより好ましく、複数のYが存在する場合、Xと結合するYは、-CHCH-または-CHO-であることがより好ましい。XおよびXが全て同一構造である場合、互いに異なる結合方式である2以上のYが存在することが好ましい。互いに異なる結合方式である複数のYが存在する場合には、非対称構造となるため、スメクチック液晶性が発現しやすい傾向にある。
【0052】
は、重合性基である。Uは、水素原子または重合性基であり、好ましくは重合性基である。UおよびUがともに重合性基であることが好ましく、ともにラジカル重合性基であることが好ましい。重合性基としては、重合性液晶化合物(A)が有する重合性基として先に例示した基と同様のものが挙げられる。Uで示される重合性基とUで示される重合性基とは、互いに異なっていてもよいが、同じ種類の基であることが好ましい。また、重合性基は重合している状態であってもよいし、未重合の状態であってもよいが、好ましくは未重合の状態である。
【0053】
およびVで表されるアルカンジイル基としては、メチレン基、エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、ヘプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、デカン-1,10-ジイル基、テトラデカン-1,14-ジイル基およびイコサン-1,20-ジイル基等が挙げられる。VおよびVは、好ましくは炭素数2~12のアルカンジイル基であり、より好ましくは炭素数6~12のアルカンジイル基である。
【0054】
該アルカンジイル基が任意に有する置換基としては、シアノ基およびハロゲン原子等が挙げられるが、該アルカンジイル基は、無置換であることが好ましく、無置換の直鎖状アルカンジイル基であることがより好ましい。
【0055】
およびWは、互いに独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-または-OCOO-が好ましく、単結合または-O-がより好ましい。
【0056】
重合性液晶化合物(A)としては、少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物であれば特に限定されず、公知の重合性液晶化合物を用いることができるが、スメクチック液晶性を示すことが好ましく、スメクチック液晶性を示しやすい構造としては、分子構造中に非対称性の分子構造を有することが好ましく、具体的には以下(A-a)~(A-i)の部分構造を有する重合性液晶化合物であってスメクチック液晶性を示す重合性液晶化合物であることがより好ましい。高次スメクチック液晶性を示しやすいという観点から(A-a)、(A-b)または(A-c)の部分構造を有することがより好ましい。なお、下記(A-a)~(A-i)において、*は結合手(単結合)を表す。
【0057】
【化1】
【0058】
重合性液晶化合物(A)としては、具体的には例えば、式(A-1)~式(A-25)で表される化合物が挙げられる。重合性液晶化合物(A)がシクロヘキサン-1,4-ジイル基を有する場合、そのシクロヘキサン-1,4-ジイル基は、トランス体であることが好ましい。
【0059】
【化2】
【0060】
【化3】
【0061】
【化4】
【0062】
【化5】
【0063】
【化6】
【0064】
これらの中でも、式(A-2)、式(A-3)、式(A-4)、式(A-5)、式(A-6)、式(A-7)、式(A-8)、式(A-13)、式(A-14)、式(A-15)、式(A-16)および式(A-17)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。重合性液晶化合物(A)として、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
重合性液晶化合物(A)は、例えば、Lub等、Recl.Trav.Chim.Pays-Bas、115、321-328(1996)、または特許第4719156号などに記載の公知の方法で製造できる。
【0066】
本発明において、重合性液晶組成物(A)は、重合性液晶化合物(A)以外の他の重合性液晶化合物を含んでいてもよいが、配向秩序度の高い偏光膜を得る観点から、重合性液晶組成物(A)に含まれる全重合性液晶化合物の総質量に対する重合性液晶化合物(A)の割合は、好ましくは51質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0067】
また、重合性液晶組成物(A)が2種以上の重合性液晶化合物(A)を含む場合、そのうちの少なくとも1種が重合性液晶化合物(A1)であってもよく、その全てが重合性液晶化合物(A1)であってもよい。複数の重合性液晶化合物を組み合わせることにより、液晶-結晶相転移温度以下の温度でも一時的に液晶性を保持することができる場合がある。
【0068】
重合性液晶組成物(A)における重合性液晶化合物の含有量は、重合性液晶組成物(A)の固形分に対して、好ましくは40~99.9質量%であり、より好ましくは60~99質量%であり、さらに好ましくは70~99質量%である。重合性液晶化合物の含有量が上記範囲内であると、重合性液晶化合物の配向性が高くなる傾向がある。なお、本明細書において、固形分とは、重合性液晶組成物(A)から溶剤を除いた成分の合計量をいう。
【0069】
本発明において、偏光子を形成する重合性液晶組成物(A)は二色性色素を含んでなる。ここで、二色性色素とは、分子の長軸方向における吸光度と、短軸方向における吸光度とが異なる性質を有する色素を意味する。本発明において用い得る二色性色素は、上記性質を有するものであれば特に制限されず、染料であっても、顔料であってもよい。また、2種以上の染料または顔料をそれぞれ組み合わせて用いてもよいし、染料と顔料とを組み合わせて用いてもよい。
【0070】
二色性色素としては、300~700nmの範囲に極大吸収波長(λMAX)を有するものが好ましい。このような二色性色素としては、例えば、アクリジン色素、オキサジン色素、シアニン色素、ナフタレン色素、アゾ色素およびアントラキノン色素等が挙げられる。
【0071】
アゾ色素としては、モノアゾ色素、ビスアゾ色素、トリスアゾ色素、テトラキスアゾ色素およびスチルベンアゾ色素等が挙げられ、ビスアゾ色素およびトリスアゾ色素が好ましく、例えば、式(I)で表される化合物(以下、「化合物(I)」ともいう。)が挙げられる。
(-N=N-K-N=N-K (I)
[式(I)中、KおよびKは、互いに独立に、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基または置換基を有していてもよい1価の複素環基を表わす。Kは、置換基を有していてもよいp-フェニレン基、置換基を有していてもよいナフタレン-1,4-ジイル基または置換基を有していてもよい2価の複素環基を表わす。pは1~4の整数を表わす。pが2以上の整数である場合、複数のKは互いに同一でも異なっていてもよい。可視域に吸収を示す範囲で-N=N-結合が-C=C-、-COO-、-NHCO-、-N=CH-結合に置き換わっていてもよい。]
【0072】
1価の複素環基としては、例えば、キノリン、チアゾール、ベンゾチアゾール、チエノチアゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、オキサゾール、ベンゾオキサゾールなどの複素環化合物から1個の水素原子を除いた基が挙げられる。2価の複素環基としては、前記複素環化合物から2個の水素原子を除いた基が挙げられる。
【0073】
およびKにおけるフェニル基、ナフチル基および1価の複素環基、並びにKにおけるp-フェニレン基、ナフタレン-1,4-ジイル基および2価の複素環基が任意に有する置換基としては、炭素数1~4のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などの炭素数1~4のアルコキシ基;トリフルオロメチル基などの炭素数1~4のフッ化アルキル基;シアノ基;ニトロ基;ハロゲン原子;アミノ基、ジエチルアミノ基、ピロリジノ基などの置換または無置換アミノ基(置換アミノ基とは、炭素数1~6のアルキル基を1つまたは2つ有するアミノ基、あるいは2つの置換アルキル基が互いに結合して炭素数2~8のアルカンジイル基を形成しているアミノ基を意味する。無置換アミノ基は-NHである。)等が挙げられる。
【0074】
化合物(I)の中でも、以下の式(I-1)~式(I-8)のいずれかで表される化合物が好ましい。
【化7】

[式(I-1)~(I-8)中、
~B30は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、置換または無置換のアミノ基(置換アミノ基および無置換アミノ基の定義は前記のとおり)、塩素原子またはトリフルオロメチル基を表わす。
n1~n4は、互いに独立に0~3の整数を表わす。
n1が2以上である場合、複数のBは互いに同一でも異なっていてもよく、
n2が2以上である場合、複数のBは互いに同一でも異なっていてもよく、
n3が2以上である場合、複数のBは互いに同一でも異なっていてもよく、
n4が2以上である場合、複数のB14は互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0075】
前記アントラキノン色素としては、式(I-9)で表される化合物が好ましい。
【化8】
[式(I-9)中、
~Rは、互いに独立して、水素原子、-R、-NH、-NHR、-NR 、-SRまたはハロゲン原子を表わす。
は、炭素数1~4のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表わす。]
【0076】
前記オキサゾン色素としては、式(I-10)で表される化合物が好ましい。
【化9】
[式(I-10)中、
~R15は、互いに独立して、水素原子、-R、-NH、-NHR、-NR 、-SRまたはハロゲン原子を表わす。
は、炭素数1~4のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表わす。]
【0077】
前記アクリジン色素としては、式(I-11)で表される化合物が好ましい。
【化10】
[式(I-11)中、
16~R23は、互いに独立して、水素原子、-R、-NH、-NHR、-NR 、-SRまたはハロゲン原子を表わす。
は、炭素数1~4のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表わす。]
式(I-9)、式(I-10)および式(I-11)において、Rの炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基およびヘキシル基等が挙げられ、炭素数6~12のアリール基としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基およびナフチル基等が挙げられる。
【0078】
前記シアニン色素としては、式(I-12)で表される化合物および式(I-13)で表される化合物が好ましい。
【化11】
[式(I-12)中、
およびDは、互いに独立に、式(I-12a)~式(I-12d)のいずれかで表される基を表わす。
【化12】
n5は1~3の整数を表わす。]
【化13】
[式(I-13)中、
およびDは、互いに独立に、式(I-13a)~式(1-13h)のいずれかで表される基を表わす。
【化14】
n6は1~3の整数を表わす。]
【0079】
これらの二色性色素の中でも、アゾ色素は直線性が高いため偏光性能に優れる偏光子の作製に好適であるが、高性能の偏光子を含む偏光フィルムにおいてはごく少量の色素の偏光子外への拡散であってもその光学特性に対する影響が大きくなる。このような偏光子においても、上記特定の空孔サイズを有する基材表面上に偏光子を積層させる本発明の偏光フィルムの構成であると、二色性色素の拡散(特に熱拡散)を効果的に抑制することができ、本発明の効果を顕著に発揮し得る。したがって、本発明の一実施態様において、偏光子を形成する重合性液晶組成物に含まれる二色性色素は、好ましくはアゾ色素である。
【0080】
本発明において、二色性色素の重量平均分子量は、通常、300~2000であり、好ましくは400~1000である。二色性色素の重量平均分子量が上記上限値以下であると、偏光子において重合性液晶化合物に包摂された状態で存在する二色性色素が動きやすく、高温環境下等により偏光子外へと拡散しやすくなる。このような場合においても、上記特定の空孔サイズを有する基材表面上に偏光子を積層させる本発明の偏光フィルムの構成であると、二色性色素の拡散(特に熱拡散)を効果的に抑制することができ、本発明の効果を顕著に発揮し得る。
【0081】
さらに、本発明の一実施態様において、偏光子を形成する重合性液晶組成物(A)に含まれる二色性色素と、該偏光子が積層される上記特定の空孔サイズを有する基材表面(硬化物層)とがともに疎水性であることが好ましく、重合性液晶組成物(A)に含まれる二色性色素と、該偏光子が積層される上記特定の空孔サイズを有する表面を含む基材全体が疎水性であることがより好ましい。二色性色素と基材表面がともに疎水性であると、基材表面と二色性色素との相溶性が高くなるため二色性色素が偏光子外へ拡散しやすくなる。本発明の偏光フィルムにおいては、偏光子が積層される基材表面の空孔サイズを上記特定の範囲に制御し、かつ、二色性色素と基材表面または基材全体をともに疎水性にすることにより、二色性色素に対する高い遮蔽機能を確保したまま耐水性の向上も実現できる。
【0082】
なお、本発明において、疎水性の二色性色素とは、25℃、100gの水に対する溶解度が1g以下である色素を意味する。また、疎水性の基材表面(硬化物層)とは、水に対する接触角が50°以上である基材表面(硬化物層)を意味し、基材全体が疎水性であるとは、基材となる樹脂フィルム、および、基材が多層構造である場合には基材を構成する各層の表面における水に対する接触角がそれぞれ50°以上であることを意味する。
【0083】
重合性液晶組成物(A)における二色性色素の含有量は、用いる二色性色素の種類などに応じて適宜決定し得るが、重合性液晶化合物100質量部に対して、好ましくは0.1~50質量部であり、より好ましくは0.1~20質量部であり、さらに好ましくは0.1~12質量部である。二色性色素の含有量が、上記範囲内であると、重合性液晶化合物の配向を乱し難く、高い配向秩序度を有する偏光子を得ることができる。
【0084】
本発明において、偏光子を形成するための重合性液晶組成物(A)は、重合開始剤を含有していてもよい。重合開始剤は、重合性液晶化合物の重合反応を開始し得る化合物であり、より低温条件下で、重合反応を開始できる点で、光重合開始剤が好ましい。具体的には、光の作用により活性ラジカルまたは酸を発生できる光重合開始剤が挙げられ、中でも、光の作用によりラジカルを発生する光重合開始剤が好ましい。重合開始剤は単独または二種以上組み合わせて使用できる。
【0085】
光重合開始剤としては、公知の光重合開始剤を用いることができ、例えば、活性ラジカルを発生する光重合開始剤としては、自己開裂型の光重合開始剤、水素引き抜き型の光重合開始剤がある。
自己開裂型の光重合開始剤として、自己開裂型のベンゾイン系化合物、アセトフェノン系化合物、ヒドロキシアセトフェノン系化合物、α-アミノアセトフェノン系化合物、オキシムエステル系化合物、アシルホスフィンオキサイド系化合物、アゾ系化合物等を使用できる。また、水素引き抜き型光重合開始剤として、水素引き抜き型のベンゾフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ベンジルケタール系化合物、ジベンゾスベロン系化合物、アントラキノン系化合物、キサントン系化合物、チオキサントン系化合物、ハロゲノアセトフェノン系化合物、ジアルコキシアセトフェノン系化合物、ハロゲノビスイミダゾール系化合物、ハロゲノトリアジン系化合物、トリアジン系化合物等を使用できる。
【0086】
酸を発生する光重合開始剤としては、ヨードニウム塩およびスルホニウム塩等を使用できる。
【0087】
この中でも、色素の溶解を防ぐ観点から低温での反応が好ましく、低温での反応効率の観点から自己開裂型の光重合開始剤が好ましく、特にアセトフェノン系化合物、ヒドロキシアセトフェノン系化合物、α-アミノアセトフェノン系化合物、オキシムエステル系化合物が好ましい。
【0088】
光重合開始剤としては、具体的には例えば、以下のものが挙げられる。
ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルおよびベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系化合物;
2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1,2-ジフェニル-2,2-ジメトキシエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕プロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンおよび2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(1-メチルビニル)フェニル〕プロパン-1-オンのオリゴマー等のヒドロキシアセトフェノン系化合物;
2-メチル-2-モルホリノ-1-(4-メチルチオフェニル)プロパン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-ベンジル-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン等のα-アミノアセトフェノン系化合物;
1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)等のオキシムエステル系化合物;
2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドおよびビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド系化合物;
ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’-テトラ(tert-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノンおよび2,4,6-トリメチルベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物;
ジエトキシアセトフェノンなどのジアルコキシアセトフェノン系化合物;
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシナフチル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシスチリル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチ_ル)-6-〔2-(5-メチルフラン-2-イル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(フラン-2-イル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)エテニル〕-1,3,5-トリアジンおよび2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(3,4-ジメトキシフェニル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン等のトリアジン系化合物。
光重合開始剤は、例えば上記の光重合開始剤から重合性液晶組成物(A)に含まれる重合性液晶化合物との関係において適宜選択すればよい。
【0089】
また、市販の光重合開始剤を用いてもよい。市販の重合開始剤としては、イルガキュア(Irgacure)(登録商標)907、184、651、819、250、および369、379、127、754、OXE01、OXE02、OXE03(BASF社製);Omnirad BCIM、Esacure 1001M、Esacure KIP160(IDM Resins B.V.社製);セイクオール(登録商標)BZ、Z、およびBEE(精工化学株式会社製);カヤキュアー(kayacure)(登録商標)BP100、およびUVI-6992(ダウ・ケミカル株式会社製);アデカオプトマーSP-152、N-1717、N-1919、SP-170、アデカアークルズNCI-831、アデカアークルズNCI-930(株式会社ADEKA製);TAZ-A、およびTAZ-PP(日本シイベルヘグナー株式会社製);並びに、TAZ-104(株式会社三和ケミカル製);等が挙げられる。
【0090】
偏光子を形成するための重合性液晶組成物(A)における重合開始剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して好ましくは1~10質量部であり、より好ましくは1~8質量部、さらに好ましくは2~8質量部、特に好ましくは4~8質量部である。重合開始剤の含有量が上記上限下限値内であると、重合性液晶化合物の配向を大きく乱すことなく、重合性液晶化合物の重合反応を行うことができる。
【0091】
本発明中の重合性液晶化合物の重合率は、製造時のライン汚染や取扱いの観点から、60%以上であることが好ましく、65%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。
【0092】
重合性液晶組成物(A)は光増感剤をさらに含有していてもよい。光増感剤を用いることにより重合性液晶化合物の重合反応をより促進させることができる。光増感剤としては、キサントン、チオキサントンなどのキサントン化合物(例えば、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントンなど);アントラセン、アルコキシ基含有アントラセン(例えば、ジブトキシアントラセンなど)などのアントラセン化合物;フェノチアジンおよびルブレン等が挙げられる。光増感剤は単独または2種以上組み合わせて使用できる。
【0093】
重合性液晶組成物(A)が光増感剤を含む場合、その含有量は、重合開始剤および重合性液晶化合物の種類およびその量に応じて適宜決定すればよいが、重合性液晶化合物100質量部に対して、0.1~30質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましく、0.5~8質量部がさらに好ましい。
【0094】
重合性液晶組成物(A)はレベリング剤を含んでいてもよい。レベリング剤は、重合性液晶組成物の流動性を調整し、該重合性液晶組成物を塗布することにより得られる塗膜をより平坦にする機能を有し、具体的には、界面活性剤が挙げられる。レベリング剤としては、ポリアクリレート化合物を主成分とするレベリング剤およびフッ素原子含有化合物を主成分とするレベリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。レベリング剤は単独または2種以上組み合わせて使用できる。
【0095】
ポリアクリレート化合物を主成分とするレベリング剤としては、例えば、“BYK-350”、“BYK-352”、“BYK-353”、“BYK-354”、“BYK-355”、“BYK-358N”、“BYK-361N”、“BYK-380”、“BYK-381”および“BYK-392”(BYK Chemie社)が挙げられる。
【0096】
フッ素原子含有化合物を主成分とするレベリング剤としては、例えば、“メガファック(登録商標)R-08”、同“R-30”、同“R-90”、同“F-410”、同“F-411”、同“F-443”、同“F-445”、同“F-470”、同“F-471”、同“F-477”、同“F-479”、同“F-482”および同“F-483”(DIC(株));“サーフロン(登録商標)S-381”、同“S-382”、同“S-383”、同“S-393”、同“SC-101”、同“SC-105”、“KH-40”および“SA-100”(AGCセイミケミカル(株));“E1830”、“E5844”((株)ダイキンファインケミカル研究所);“エフトップEF301”、“エフトップEF303”、“エフトップEF351”および“エフトップEF352”(三菱マテリアル電子化成(株))が挙げられる。
【0097】
重合性液晶組成物(A)がレベリング剤を含有する場合、その含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、0.05~5質量部が好ましく、0.05~3質量部がより好ましい。レベリング剤の含有量が前記範囲内であると、重合性液晶化合物を水平配向させやすく、かつ、ムラが生じ難く、より平滑な偏光子を得られる傾向がある。
【0098】
重合性液晶組成物(A)は、光増感剤およびレベリング剤以外の他の添加剤を含有してよい。他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、離型剤、安定剤、ブルーイング剤等の着色剤、難燃剤および滑剤などが挙げられる。重合性液晶組成物(A)が他の添加剤を含有する場合、他の添加剤の含有量は、重合性液晶組成物(A)の固形分に対して、0%を超えて20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0%を超えて10質量%以下である。
【0099】
重合性液晶組成物(A)は、従来公知の調製方法により製造することができ、通常、重合性液晶化合物および二色性色素、並びに、必要に応じて重合開始剤および上述の添加剤等を混合、撹拌することにより調製することができる。
【0100】
本発明の偏光フィルムにおいて、偏光子は配向秩序度の高い偏光子であることが好ましい。配向秩序度の高い偏光子は、X線回折測定においてヘキサチック相やクリスタル相といった高次構造由来のブラッグピークが得られる。ブラッグピークとは、分子配向の面周期構造に由来するピークを意味する。したがって、本発明の偏光フィルムを構成する偏光子はX線回折測定においてブラッグピークを示すことが好ましい。すなわち、本発明の偏光フィルムを構成する偏光子においては、重合性液晶化合物またはその重合体が、X線回折測定において該偏光子がブラッグピークを示すように配向していることが好ましく、光を吸収する方向に重合性液晶化合物の分子が配向する「水平配向」であることがより好ましい。本発明においては分子配向の面周期間隔が3.0~6.0Åである偏光子が好ましい。ブラッグピークを示すような高い配向秩序度は、用いる重合性液晶化合物の種類、二色性色素の種類やその量、および重合開始剤の種類やその量等を制御することにより実現し得る。
【0101】
本発明の偏光フィルムにおいて、偏光子は光配向膜を介して上記特定の空孔サイズを有する基材表面に積層されていてもよい。光配向膜を含む場合、光配向膜の厚みは、好ましくは10~5000nmであり、より好ましくは10~1000nmであり、さらに好ましくは30~100nmである。光配向膜の厚みが上記範囲である場合、本発明の偏光フィルムにおける偏光子中の二色性色素の拡散抑制効果に影響を及ぼすことなく、配向規制力を発揮することができ、高い配向秩序で偏光子を形成することができる。
【0102】
本発明の偏光フィルムにおいて、偏光子の基材とは反対側の面は、接着剤層あるいはオーバーコート層および粘着剤層をこの順に介して、位相差板が積層されていてもよい。偏光子と位相差板が積層される場合、位相差板の遅相軸(光軸)と偏光子の吸収軸とを実質的に45°となるように積層することが好ましい。位相差板の遅相軸(光軸)と偏光子の吸収軸とを実質的に45°となるように積層することによって、楕円偏光板としての機能を得ることができる。なお、実質的に45°とは通常45±5°の範囲である。
【0103】
本発明の偏光フィルムは、上記重合性液晶組成物(A)から形成される偏光子が、表面に陽電子を打ち込みエネルギー3kVで照射して測定される、陽電子寿命測定法から算出される平均自由体積半径を直径に変換した空孔サイズが0.45nm以上0.57nm以下である表面を有する基材の前記表面上に積層された構成を有するため、偏光子中の二色性色素の拡散抑制効果が高く、かつ、屈曲性に優れており、経時的な偏光性能の低下が少ない高性能な偏光フィルムとなる。
【0104】
本発明の偏光フィルムは耐水性にも優れており、偏光フィルムを53℃の温水に30分間浸漬した際のヘイズの変化量が1.0以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.7以下であることがさらに好ましい。ヘイズの変化量が上記上限以下であると、耐水性に優れ、高湿環境下や水への浸漬時にもワレや剥がれ、浮きなどが生じ難く、高い視認性を確保し得る。ヘイズの変化量の下限値は特に限定されず、通常、0.02以上である。なお、上記ヘイズの変化量の測定方法は、後述の実施例に記載の通りである。
【0105】
本発明の偏光フィルムは、例えば、
表面に陽電子を打ち込みエネルギー3kVで照射して測定される、陽電子寿命測定法から算出される平均自由体積半径を直径に変換した空孔サイズが0.45nm以上0.57nm以下である表面を有する基材の前記表面上に、少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物および二色性色素を含む重合性液晶組成物の塗膜を形成すること、
前記塗膜から溶剤を除去すること、
重合性液晶化合物が液体相に相転移する温度以上まで昇温した後降温して、該重合性液晶化合物をスメクチック相に相転移させること、および、
前記スメクチック相を保持したまま重合性液晶化合物を重合させること
を含む方法により製造することができる。
【0106】
上述したように、上記特定の空孔サイズを有する基材表面上に偏光子を積層することにより、偏光子中の二色性色素の拡散抑制効果が高く、かつ、屈曲性および耐水性に優れた偏光フィルムを得ることができる。したがって、本発明は、
表面に陽電子を打ち込みエネルギー3kVで照射して測定される、陽電子寿命測定法から算出される平均自由体積半径を直径に変換した空孔サイズが0.45nm以上0.57nm以下である表面を有する基材の前記表面上に、少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物および二色性色素を含む重合性液晶組成物(以下、「重合性組成物(A)」ともいう)の塗膜を形成すること、
前記塗膜から溶剤を除去すること、
重合性液晶化合物が液体相に相転移する温度以上まで昇温した後降温して、該重合性液晶化合物をスメクチック相に相転移させること、および、
前記スメクチック相を保持したまま重合性液晶化合物を重合させること
を含む、偏光フィルムの製造方法も対象とする。
【0107】
本発明の偏光フィルムの製造方法において、用い得る重合性液晶化合物および二色性色素を含む重合性液晶組成物(A)や、特定の空孔サイズを有する表面を有する基材等の偏光フィルムを構成する材料等については、本発明の偏光フィルムに用い得るものとして先に記載したものと同様のものを用いることができる。
【0108】
重合性液晶組成物(A)の塗膜の形成は、例えば、上記特定の空孔サイズを有する基材上に直接または後述する配向膜を介して重合性液晶組成物(A)を塗布することにより行うことができる。一般にスメクチック液晶性を示す化合物は粘度が高いため、重合性液晶組成物(A)の塗布性を向上させて偏光子の形成を容易にする観点から、重合性液晶組成物(A)に溶剤を加えることにより粘度調整を行ってもよい(以下、重合性液晶組成物に溶剤を加えた組成物を「偏光子形成用組成物」ともいう)。
【0109】
偏光子形成用組成物に用いる溶剤は、用いる重合性液晶化合物および二色性色素の溶解性等に応じて適宜選択することができる。具体的には例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル等のエステル溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶剤、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、アセトニトリル等のニトリル溶剤、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル溶剤、および、クロロホルム、クロロベンゼン等の塩素化炭化水素溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は、単独または2種以上組み合わせて使用できる。溶剤の含有量は、重合性液晶組成物(A)を構成する固形成分100質量部に対して、好ましくは100~1900質量部であり、より好ましくは150~900質量部であり、さらに好ましくは180~600質量部である。
【0110】
偏光子形成用組成物を基材等に塗布する方法としては、スピンコーティング法、エクストルージョン法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法、アプリケータ法などの塗布法、フレキソ法などの印刷法などの公知の方法が挙げられる。
【0111】
次いで、偏光子形成用組成物から得られた塗膜中に含まれる重合性液晶化合物が重合しない条件で、溶剤を乾燥等により除去することにより、乾燥塗膜が形成される。乾燥方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥および減圧乾燥法等が挙げられる。
【0112】
さらに、重合性液晶化合物を液体相に相転移させるため、重合性液晶化合物が液体相に相転移する温度以上まで昇温した後降温し、該重合性液晶化合物をスメクチック相(スメクチック液晶状態)に相転移させる。かかる相転移は、前記塗膜中の溶剤除去後に行ってもよいし、溶剤の除去と同時に行ってもよい。
【0113】
重合性液晶化合物のスメクチック液晶状態を保持したまま、重合性液晶化合物を重合させることにより、重合性液晶組成物の硬化物層として偏光子が形成される。重合方法としては光重合法が好ましい。光重合において、乾燥塗膜に照射する光としては、当該乾燥塗膜に含まれる重合性液晶化合物の種類(特に、該重合性液晶化合物が有する重合性基の種類)、重合開始剤の種類およびそれらの量等に応じて適宜選択される。その具体例としては、可視光、紫外光、赤外光、X線、α線、β線およびγ線からなる群より選択される1種以上の活性エネルギー線や活性電子線が挙げられる。中でも、重合反応の進行を制御し易い点や、光重合装置として当分野で広範に用いられているものが使用できるという点で、紫外光が好ましく、紫外光によって、光重合可能なように、重合性液晶組成物に含有される重合性液晶化合物や重合開始剤の種類を選択しておくことが好ましい。また、重合時に、適切な冷却手段により乾燥塗膜を冷却しながら、光照射することで、重合温度を制御することもできる。このような冷却手段の採用により、より低温で重合性液晶化合物の重合を実施すれば、比較的耐熱性が低い基材を用いたとしても、適切に偏光子を形成できる。光重合の際、マスキングや現像を行うなどによって、パターニングされた偏光子を得ることもできる。
【0114】
前記活性エネルギー線の光源としては、例えば、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、エキシマレーザー、波長範囲380~440nmを発光するLED光源、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等が挙げられる。
【0115】
紫外線照射強度は、通常、10~3,000mW/cmである。紫外線照射強度は、好ましくは重合開始剤の活性化に有効な波長領域における強度である。光を照射する時間は、通常0.1秒~10分であり、好ましくは1秒~5分、より好ましくは5秒~3分、さらに好ましくは10秒~1分である。このような紫外線照射強度で1回または複数回照射すると、その積算光量は、10~3,000mJ/cm、好ましくは50~2,000mJ/cm、より好ましくは100~1,000mJ/cmである。
【0116】
光重合を行うことにより、重合性液晶化合物は、スメクチック相、好ましくは高次のスメクチック相の液晶状態を保持したまま重合し、偏光子が形成される。重合性液晶化合物がスメクチック相の液晶状態を保持したまま重合して得られる偏光子は、前記二色性色素の作用にも伴い、従来のホストゲスト型偏光フィルム、すなわち、ネマチック相の液晶状態からなる偏光子と比較して、偏光性能が高いという利点がある。さらに、二色性色素やリオトロピック液晶のみを塗布したものと比較して、強度に優れるという利点もある。
【0117】
偏光子の厚みは、適用される表示装置に応じて適宜選択でき、好ましくは0.1μm以上5μm以下の膜であり、より好ましくは0.3μm以上4μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以上3μm以下である。膜厚がこの範囲よりも薄くなると、必要な光吸収が得られない場合があり、かつ、膜厚がこの範囲よりも厚くなると、配向膜による配向規制力が低下し、配向欠陥を生じやすい傾向にある。
【0118】
本発明において偏光子は、配向膜を介して上記特定の空孔サイズを有する基材表面に積層(形成)されてもよい。該配向膜は、重合性液晶化合物を所望の方向に液晶配向させる、配向規制力を有するものである。配向膜としては、重合性液晶化合物を含有する組成物の塗布等により溶解しない溶剤耐性を有し、また、溶剤の除去や重合性液晶化合物の配向のための加熱処理における耐熱性を有するものが好ましい。本発明において、配向膜としては、配向角の精度および品質、並びに、配向膜を含む偏光フィルムの耐水性および屈曲性等の観点から光配向膜が好ましい。光配向膜は、照射する偏光の偏光方向を選択することにより、配向規制力の方向を任意に制御できる点でも有利である。
【0119】
光配向膜は、通常、光反応性基を有するポリマーまたはモノマーと溶剤とを含む組成物(以下、「光配向膜形成用組成物」ともいう)を基材に塗布し、偏光(好ましくは、偏光UV)を照射することで得られる。
【0120】
光反応性基とは、光照射することにより液晶配向能を生じる基をいう。具体的には、光照射により生じる分子の配向誘起または異性化反応、二量化反応、光架橋反応もしくは光分解反応等の液晶配向能の起源となる光反応に関与する基が挙げられる。中でも、二量化反応または光架橋反応に関与する基が、配向性に優れる点で好ましい。光反応性基として、不飽和結合、特に二重結合を有する基が好ましく、炭素-炭素二重結合(C=C結合)、炭素-窒素二重結合(C=N結合)、窒素-窒素二重結合(N=N結合)および炭素-酸素二重結合(C=O結合)からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する基が特に好ましい。
【0121】
C=C結合を有する光反応性基としては、ビニル基、ポリエン基、スチルベン基、スチルバゾール基、スチルバゾリウム基、カルコン基およびシンナモイル基等が挙げられる。C=N結合を有する光反応性基としては、芳香族シッフ塩基、芳香族ヒドラゾンなどの構造を有する基が挙げられる。N=N結合を有する光反応性基としては、アゾベンゼン基、アゾナフタレン基、芳香族複素環アゾ基、ビスアゾ基、ホルマザン基、および、アゾキシベンゼン構造を有する基等が挙げられる。C=O結合を有する光反応性基としては、ベンゾフェノン基、クマリン基、アントラキノン基およびマレイミド基等が挙げられる。これらの基は、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリルオキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、ハロゲン化アルキル基などの置換基を有していてもよい。
【0122】
中でも、光二量化反応に関与する光反応性基が好ましく、光配向に必要な偏光照射量が比較的少なく、かつ、熱安定性や経時安定性に優れる光配向膜が得られやすいという点で、シンナモイル基およびカルコン基が好ましい。光反応性基を有するポリマーとしては、当該ポリマー側鎖の末端部が桂皮酸構造となるようなシンナモイル基を有するものが特に好ましい。
【0123】
光配向膜形成用組成物を基材上に塗布することにより、基材上に光配向誘起層を形成することができる。該組成物に含まれる溶剤としては、偏光子を形成する際に用い得る溶剤として先に例示した溶剤と同様のものが挙げられ、光反応性基を有するポリマーあるいはモノマーの溶解性に応じて適宜選択することができる。
【0124】
光配向膜形成用組成物中の光反応性基を有するポリマーまたはモノマーの含有量は、ポリマーまたはモノマーの種類や目的とする光配向膜の厚みによって適宜調節できるが、光配向膜形成用組成物の質量に対して、少なくとも0.2質量%とすることが好ましく、0.3~10質量%の範囲がより好ましい。光配向膜の特性が著しく損なわれない範囲で、光配向膜形成用組成物は、ポリビニルアルコールやポリイミドなどの高分子材料や光増感剤を含んでいてもよい。
【0125】
光配向膜形成用組成物を基材上に塗布する方法、および、塗布された光配向膜形成用組成物から溶剤を除去する方法としては、偏光子形成用組成物を基材に塗布する方法および溶剤を除去する方法と同様の方法が挙げられる。
【0126】
偏光の照射は、基板上に塗布された光配向膜形成用組成物から溶剤を除去したものに直接偏光UVを照射する形式でも、基材側から偏光を照射し、偏光を透過させて照射する形式でもよい。また、当該偏光は、実質的に平行光であると特に好ましい。照射する偏光の波長は、光反応性基を有するポリマーまたはモノマーの光反応性基が、光エネルギーを吸収し得る波長領域のものがよい。具体的には、波長250~400nmの範囲のUV(紫外線)が特に好ましい。当該偏光照射に用いる光源としては、キセノンランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、KrF、ArFなどの紫外光レーザーなどが挙げられ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプおよびメタルハライドランプがより好ましい。これらの中でも、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプおよびメタルハライドランプが、波長313nmの紫外線の発光強度が大きいため好ましい。前記光源からの光を、適当な偏光子を通過して照射することにより、偏光UVを照射することができる。かかる偏光子としては、偏光フィルターやグラントムソン、グランテーラーなどの偏光プリズムやワイヤーグリッドタイプの偏光子を用いることができる。
【0127】
なお、ラビングまたは偏光照射を行う時に、マスキングを行えば、液晶配向の方向が異なる複数の領域(パターン)を形成することもできる。
【0128】
<偏光板>
本発明は、本発明の偏光フィルムと、位相差フィルムとを備えてなる偏光板(楕円偏光板)を包含する。本発明の偏光板において位相差フィルムは、下記式(X):
100nm ≦ Re(550) ≦180nm (X)
〔式中、Re(550)は波長550nmにおける面内位相差値を表す〕
を満たすことが好ましい。位相差フィルムが上記(X)で表される面内位相差値を有すると、いわゆるλ/4板として機能する。前記式(X)は、さらに好ましくは120nm≦Re(550)≦160nmである。
【0129】
本発明の偏光板において、位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの吸収軸との成す角度は、好ましくは実質的に45°である。なお、本発明において「実質的に45°」とは、45°±5°を意味する。
【0130】
さらに、位相差フィルムが下記式(Y):
Re(450)/Re(550) < 1 (Y)
〔式中、Re(450)およびRe(550)はそれぞれ波長450nmおよび550nmにおける面内位相差値を表す〕
を満たすことが好ましい。上記式(Y)を満たす位相差フィルムは、いわゆる逆波長分散性を有し、優れた偏光性能を示す。Re(450)/Re(550)の値は、好ましくは0.93以下であり、より好ましくは0.88以下、さらに好ましくは0.86以下、好ましくは0.80以上、より好ましくは0.82以上である。
【0131】
前記位相差フィルムは、ポリマーを延伸することによって位相差を与える延伸フィルムであってもよいが、偏光板の薄層化の観点から、重合性液晶化合物の重合体を含む重合性液晶組成物(以下、「重合性液晶組成物(B)」ともいう)から構成されることが好ましい。前記位相差フィルムにおいて重合性液晶化合物は、通常、配向した状態において重合している。位相差フィルムを形成する重合性液晶化合物(以下、「重合性液晶化合物(B)」ともいう)は、重合性官能基、特に光重合性官能基を有する液晶化合物を意味する。
光重合性官能基とは、光重合開始剤から発生した活性ラジカルや酸などによって重合反応に関与し得る基のことをいう。光重合性官能基としては、ビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基等が挙げられる。中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルオキシ基、オキシラニル基およびオキセタニル基が好ましく、アクリロイルオキシ基がより好ましい。液晶性はサーモトロピック性液晶でもリオトロピック性液晶でもよく、相秩序構造としてはネマチック液晶でもスメクチック液晶でもよい。重合性液晶化合物として、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0132】
重合性液晶化合物(B)としては、成膜の容易性および前記式(Y)で表される位相差性を付与するという観点から、下記(ア)~(エ)を全て満たす化合物が挙げられる。
【0133】
(ア)サーモトロピック液晶性を有する化合物である;
(イ)該重合性液晶化合物の長軸方向(a)上にπ電子を有する。
(ウ)長軸方向(a)に対して交差する方向〔交差方向(b)〕上にπ電子を有する。
(エ)長軸方向(a)に存在するπ電子の合計をN(πa)、長軸方向に存在する分子量の合計をN(Aa)として下記式(i)で定義される重合性液晶化合物の長軸方向(a)のπ電子密度:
D(πa)=N(πa)/N(Aa) (i)
と、交差方向(b)に存在するπ電子の合計をN(πb)、交差方向(b)に存在する分子量の合計をN(Ab)として下記式(ii)で定義される重合性液晶化合物の交差方向(b)のπ電子密度:
D(πb)=N(πb)/N(Ab) (ii)
とが、
0≦〔D(πa)/D(πb)〕≦1
の関係にある〔すなわち、交差方向(b)のπ電子密度が、長軸方向(a)のπ電子密度よりも大きい〕。
なお、上記(ア)~(エ)を全て満たす重合性液晶化合物(B)は、例えば、ラビング処理により形成した配向膜上に塗布し、相転移温度以上に加熱することにより、ネマチック相を形成することが可能である。この重合性液晶化合物(B)が配向して形成されたネマチック相では通常、重合性液晶化合物の長軸方向が互いに平行になるように配向しており、この長軸方向がネマチック相の配向方向となる。
【0134】
上記特性を有する重合性液晶化合物(B)は、一般に逆波長分散性を示すものであることが多い。上記(ア)~(エ)の特性を満たす化合物として、具体的には、例えば、下記式(II):
【化15】
で表される化合物が挙げられる。前記式(II)で表される化合物は単独または2種以上組み合わせて使用できる。
【0135】
式(II)中、Arは置換基を有していてもよい二価の芳香族基を表す。ここでいう芳香族基とは、平面性を有する環状構造の基であり、該環状構造が有するπ電子数がヒュッケル則に従い[4n+2]個であるものをいう。ここで、nは整数を表す。-N=や-S-等のヘテロ原子を含んで環構造を形成している場合、これらヘテロ原子上の非共有結合電子対を含めてヒュッケル則を満たし、芳香族性を有する場合も含む。該二価の芳香族基中には窒素原子、酸素原子、硫黄原子のうち少なくとも1つ以上が含まれることが好ましい。
【0136】
式(II)中、GおよびGはそれぞれ独立に、二価の芳香族基または二価の脂環式炭化水素基を表す。ここで、該二価の芳香族基または二価の脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフルオロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、シアノ基またはニトロ基に置換されていてもよく、該二価の芳香族基または二価の脂環式炭化水素基を構成する炭素原子が、酸素原子、硫黄原子または窒素原子に置換されていてもよい。
【0137】
式(II)中、L、L、BおよびBはそれぞれ独立に、単結合または二価の連結基である。
【0138】
式(II)中、k、lは、それぞれ独立に0~3の整数を表し、1≦k+lの関係を満たす。ここで、2≦k+lである場合、BおよびB、GおよびGは、それぞれ互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0139】
式(II)中、EおよびEはそれぞれ独立に、炭素数1~17のアルカンジイル基を表し、ここで、アルカンジイル基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、該アルカンジイル基に含まれる-CH-は、-O-、-S-、-Si-で置換されていてもよい。PおよびPは互いに独立に、重合性基または水素原子を表し、少なくとも1つは重合性基である。
【0140】
式(II)中、GおよびGは、それぞれ独立に、好ましくは、ハロゲン原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい1,4-フェニレンジイル基、ハロゲン原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい1,4-シクロヘキサンジイル基であり、より好ましくはメチル基で置換された1,4-フェニレンジイル基、無置換の1,4-フェニレンジイル基、または無置換の1,4-trans-シクロヘキサンジイル基であり、特に好ましくは無置換の1,4-フェニレンジイル基、または無置換の1,4-trans-シクロへキサンジイル基である。また、複数存在するGおよびGのうち少なくとも1つは二価の脂環式炭化水素基であることが好ましく、また、LまたはLに結合するGおよびGのうち少なくとも1つは二価の脂環式炭化水素基であることがより好ましい。
【0141】
式(II)中、LおよびLはそれぞれ独立に、好ましくは、単結合、炭素数1~4のアルキレン基、-O-、-S-、-Ra1ORa2-、-Ra3COORa4-、-Ra5OCORa6-、-Ra7OC=OORa8-、-N=N-、-CR=CR-、または-C≡C-である。ここで、Ra1~Ra8はそれぞれ独立に単結合、または炭素数1~4のアルキレン基を表し、RおよびRは炭素数1~4のアルキル基または水素原子を表す。LおよびLはそれぞれ独立に、より好ましくは単結合、-ORa2-1-、-CH-、-CHCH-、-COORa4-1-、または-OCORa6-1-である。ここで、Ra2-1、Ra4-1、Ra6-1はそれぞれ独立に単結合、-CH-、-CHCH-のいずれかを表す。LおよびLはそれぞれ独立に、さらに好ましくは単結合、-O-、-CHCH-、-COO-、-COOCHCH-、または-OCO-である。
【0142】
本発明の好適な一実施態様において、式(II)中のGおよびGのうち少なくとも1つは二価の脂環式炭化水素基であり、該二価の脂環式炭化水素基が、置換基を有していてもよい二価の芳香族基Arと-COO-であるLおよび/またはLにより結合している重合性液晶化合物が用いられる。
【0143】
式(II)中、BおよびBはそれぞれ独立に、好ましくは、単結合、炭素数1~4のアルキレン基、-O-、-S-、-Ra9ORa10-、-Ra11COORa12-、-Ra13OCORa14-、または-Ra15OC=OORa16-である。ここで、Ra9~Ra16はそれぞれ独立に単結合、または炭素数1~4のアルキレン基を表す。
およびBはそれぞれ独立に、より好ましくは単結合、-ORa10-1-、-CH-、-CHCH-、-COORa12-1-、または-OCORa14-1-である。ここで、Ra10-1、Ra12-1、Ra14-1はそれぞれ独立に単結合、-CH-、-CHCH-のいずれかを表す。BおよびBはそれぞれ独立に、さらに好ましくは単結合、-O-、-CHCH-、-COO-、-COOCHCH-、-OCO-、または-OCOCHCH-である。
【0144】
式(II)中、kおよびlは、逆波長分散性発現の観点から2≦k+l≦6の範囲が好ましく、k+l=4であることが好ましく、k=2かつl=2であることがより好ましい。k=2かつl=2であると対称構造となるためさらに好ましい。
【0145】
式(II)中、EおよびEはそれぞれ独立に、炭素数1~17のアルカンジイル基が好ましく、炭素数4~12のアルカンジイル基がより好ましい。
【0146】
式(II)中、PまたはPで表される重合性基としては、例えばエポキシ基、ビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、およびオキセタニル基等が挙げられる。これらの中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルオキシ基、オキシラニル基およびオキセタニル基が好ましく、アクリロイルオキシ基がより好ましい。
【0147】
式(II)中、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、置換基を有していてもよい芳香族複素環、および電子吸引性基から選ばれる少なくとも1つを有することが好ましい。当該芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられ、ベンゼン環、ナフタレン環が好ましい。当該芳香族複素環としては、フラン環、ベンゾフラン環、ピロール環、インドール環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアゾール環、トリアジン環、ピロリン環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、チエノチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、およびフェナンスロリン環等が挙げられる。これらの中でも、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、またはベンゾフラン環を有することが好ましく、ベンゾチアゾール基を有することがさらに好ましい。また、Arに窒素原子が含まれる場合、当該窒素原子はπ電子を有することが好ましい。
【0148】
式(II)中、Arで表される2価の芳香族基に含まれるπ電子の合計数Nπは8以上が好ましく、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは14以上であり、特に好ましくは16以上である。また、好ましくは30以下であり、より好ましくは26以下であり、さらに好ましくは24以下である。
【0149】
Arで表される芳香族基としては、例えば以下の式(Ar-1)~式(Ar-23)の基が挙げられる。
【0150】
【化16】
【0151】
式(Ar-1)~式(Ar-23)中、*印は連結部を表し、Z、ZおよびZは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~12のアルキルスルフィニル基、炭素数1~12のアルキルスルホニル基、カルボキシル基、炭素数1~12のフルオロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~12のアルキルチオ基、炭素数1~12のN-アルキルアミノ基、炭素数2~12のN,N-ジアルキルアミノ基、炭素数1~12のN-アルキルスルファモイル基または炭素数2~12のN,N-ジアルキルスルファモイル基を表す。
【0152】
式(Ar-1)~式(Ar-23)中、QおよびQは、それぞれ独立に、-CR2’3’-、-S-、-NH-、-NR2’-、-CO-またはO-を表し、R2’およびR3’は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0153】
式(Ar-1)~式(Ar-23)中、JおよびJは、それぞれ独立に、炭素原子、または窒素原子を表す。
【0154】
式(Ar-1)~式(Ar-23)中、Y、YおよびYは、それぞれ独立に、置換されていてもよい芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
【0155】
式(Ar-1)~式(Ar-23)中、WおよびWは、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、メチル基またはハロゲン原子を表し、mは0~6の整数を表す。
【0156】
、YおよびYにおける芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ビフェニル基等の炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられ、フェニル基、ナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。芳香族複素環基としては、フリル基、ピロリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基等の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を少なくとも1つ含む炭素数4~20の芳香族複素環基が挙げられ、フリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基が好ましい。
【0157】
およびYは、それぞれ独立に、置換されていてもよい多環系芳香族炭化水素基または多環系芳香族複素環基であってもよい。多環系芳香族炭化水素基は、縮合多環系芳香族炭化水素基、または芳香環集合に由来する基をいう。多環系芳香族複素環基は、縮合多環系芳香族複素環基、または芳香環集合に由来する基をいう。
【0158】
式(Ar-1)~式(Ar-23)中、Z、ZおよびZは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~12のアルコキシ基であることが好ましく、Zは、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基がさらに好ましく、ZおよびZは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、メチル基、シアノ基がさらに好ましい。
【0159】
式(Ar-1)~式(Ar-23)中、QおよびQは、-NH-、-S-、-NR2’-、-O-が好ましく、R2’は水素原子が好ましい。中でも-S-、-O-、-NH-が特に好ましい。
【0160】
式(Ar-1)~(Ar-23)の中でも、式(Ar-6)および式(Ar-7)が分子の安定性の観点から好ましい。
【0161】
式(Ar-17)~(Ar-23)において、Yは、これが結合する窒素原子およびZと共に、芳香族複素環基を形成していてもよい。芳香族複素環基としては、Arが有していてもよい芳香族複素環として前記したものが挙げられるが、例えば、ピロール環、イミダゾール環、ピロリン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、インドール環、キノリン環、イソキノリン環、プリン環、ピロリジン環等が挙げられる。この芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。また、Yは、これが結合する窒素原子およびZと共に、前述した置換されていてもよい多環系芳香族炭化水素基または多環系芳香族複素環基であってもよい。例えば、ベンゾフラン環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環等が挙げられる。なお、前記式(II)で表される化合物は、例えば、特開2010-31223号公報に記載の方法に準じて製造することができる。
【0162】
位相差フィルムを構成する重合性液晶組成物(B)中の重合性液晶化合物(B)の含有量は、重合性液晶組成物(B)の固形分100質量部に対して、例えば70~99.5質量部であり、好ましくは80~99質量部であり、より好ましくは90~98質量部である。含有量が上記範囲内であると、位相差フィルムの配向性が高くなる傾向がある。ここで、固形分とは、重合性液晶組成物(B)から溶剤等の揮発性成分を除いた成分の合計量のことをいう。
【0163】
重合性液晶組成物(B)は、重合性液晶化合物(B)の重合反応を開始するための重合開始剤を含んでいてもよい。重合開始剤としては、当該分野で従来用いられているものから適宜選択して用いることができ、熱重合開始剤であっても、光重合開始剤であってもよいが、より低温条件下で重合反応を開始できる点で、光重合開始剤が好ましい。好適には、重合性液晶組成物(A)において使用し得る光重合開始剤として先に例示したものと同様のものが挙げられる。また、重合性液晶組成物(B)は、必要に応じて、光増感剤、レベリング剤、および、重合性液晶組成物(A)に含まれる添加剤として例示した添加剤等を含有してもよい。光増感剤およびレベリング剤としては、重合性液晶組成物(A)において使用し得るものとして先に例示したものと同様のものが挙げられる。
【0164】
位相差フィルムは、例えば、重合性液晶化合物(B)および必要に応じて重合開始剤、添加剤等を含む重合性液晶組成物(B)に溶剤を加えて混合および撹拌することにより調製される組成物(以下、「位相差フィルム形成用組成物」ともいう)を、基材または配向膜上に塗布し、乾燥により溶剤を除去し、得られた塗膜中の重合性液晶化合物(B)を加熱および/または活性エネルギー線によって硬化させて得ることができる。位相差フィルムの作製に用いられる基材および/または配向膜としては、本発明の偏光子を作製する際に用い得るものとして先に例示したものと同様のものが挙げられる。
【0165】
位相差フィルム形成用組成物に用いる溶剤、位相差フィルム形成用組成物の塗布方法、活性エネルギー線による硬化条件等は、いずれも、本発明の偏光子の作製方法において採用し得るものと同様のものが挙げられる。
【0166】
位相差フィルムの厚みは、適用される表示装置に応じて適宜選択できるが、薄膜化および屈曲性等の観点から、0.1~10μmであることが好ましく、1~5μmであることがより好ましく、1~3μmであることがさらに好ましい。
【0167】
本発明の偏光板は本発明の偏光フィルムおよび位相差フィルムを備えてなる。また、さらにこれら以外の他の層(保護フィルム、粘接着剤層等)を含んでいてもよい。本発明の偏光板において、本発明の偏光フィルムと位相差フィルムとは接着剤層あるいはオーバーコート層および粘着剤層をこの順に介して貼合されていてもよい。
【0168】
本発明の偏光板の厚みは、表示装置の屈曲性や視認性の観点から、好ましくは10~300μm、より好ましくは20~200μm、さらに好ましくは25~100μmである。
【0169】
<表示装置>
本発明は、本発明の偏光フィルム、または、本発明の偏光板を備えてなる表示装置を包含する。本発明の表示装置は、例えば、粘接着剤層を介して本発明の偏光フィルムまたは偏光板を表示装置の表面に貼合することにより得ることができる。表示装置とは、表示機構を有する装置であり、発光源として発光素子または発光装置を含む。表示装置としては、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、無機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、タッチパネル表示装置、電子放出表示装置(電場放出表示装置(FED等)、表面電界放出表示装置(SED))、電子ペーパー(電子インクや電気泳動素子を用いた表示装置)、プラズマ表示装置、投射型表示装置(グレーティングライトバルブ(GLV)表示装置、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を有する表示装置等)および圧電セラミックディスプレイ等が挙げられる。液晶表示装置は、透過型液晶表示装置、半透過型液晶表示装置、反射型液晶表示装置、直視型液晶表示装置および投写型液晶表示装置等の何れをも含む。これら表示装置は、2次元画像を表示する表示装置であってもよいし、3次元画像を表示する立体表示装置であってもよい。特に、本発明の表示装置としては、有機EL表示装置およびタッチパネル表示装置が好ましく、特に有機EL表示装置が好ましい。
【実施例
【0170】
以下、実施例および比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。以下、使用量、含有量を表す部および%は、特に断りのない限り質量基準である。
【0171】
<硬化物層形成用組成物の調製>
下記の成分を混合し、50℃で4時間攪拌することで、硬化物層形成用組成物(A)を得た。
・アクリレートモノマー:
【化17】
(A-1) 70部
・ウレタンアクリレート樹脂:
エベクリル4858 30部
・重合開始剤:
イルガキュア 907 3部
・溶剤:
メチルエチルケトン 10部
【0172】
アクリレートモノマーを表1に示した量にて混合した以外は上記硬化物層形成用組成物(A)と同様にして、硬化物層形成用組成物(B)~(E)を得た。
【0173】
<アクリレートモノマーの構造>
実施例および比較例に用いたアクリレートモノマーの構造は以下の通りである。
【化18】
(A-2)
【化19】
(A-3)
【化20】
(A-4)
【0174】
【表1】
【0175】
<偏光膜形成用組成物の調製>
下記の成分を混合し、80℃で1時間攪拌することで、偏光膜形成用組成物を得た。二色性色素には、特開2013-101328号公報の実施例に記載のアゾ色素を用いた。
・重合性液晶化合物:
【化21】
(A-6) 90部
【化22】
(A-7) 10部
・二色性色素:
アゾ色素;
【化23】
(二色性色素 A) 2.5部
【化24】
(二色性色素 B) 2.5部
【化25】
(二色性色素 C) 2.5部
・重合開始剤:
2-ジメチルアミノ-2-ベンジル-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン(イルガキュア369;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製) 6部
・レベリング剤:
ポリアクリレート化合物(BYK-361N;BYK-Chemie社製) 1.2部
・溶剤:
o-キシレン 400部
【0176】
実施例1
(1)基材上への光配向膜の作製
(i)光配向膜形成用組成物の調製
特開2013-033249号公報記載の下記成分を混合し、得られた混合物を80℃で1時間攪拌することにより、光配向膜形成用組成物を得た。
・光配向性ポリマー:
【化26】
2部
・溶剤:
o-キシレン 98部
【0177】
(ii)基材樹脂フィルム表面への硬化物層の形成
基材樹脂フィルムとしてトリアセチルセルロースフィルム(KC4UY、コニカミノルタ(株)製)を用い、フィルム表面にコロナ処理を施した後に、上記硬化物層形成用組成物(A)をバーコート法(#2 30mm/s)により塗布し、80℃の乾燥オーブンにて1分間加熱乾燥することにより乾燥被膜を得た。次いで、UV照射装置(SPOT CURE SP-7;ウシオ電機株式会社製)を用いて、露光量500mJ/cm(365nm基準)の紫外線を、硬化物層形成用組成物の乾燥被膜層に照射することにより、基材樹脂フィルム表面に硬化物層(樹脂層)を形成した硬化物層付き基材フィルムを得た。
【0178】
(iii)光配向膜の形成
次いで、上記硬化物層付き基材フィルムの硬化物層の表面にコロナ処理を施した後に、上記光配向膜形成用組成物を塗布して、120℃で乾燥して乾燥被膜を得た。この乾燥被膜上に偏光UVを照射して光配向膜形成し、光配向膜付きフィルムを得た。偏光UV処理は、UV照射装置(SPOT CURE SP-7;ウシオ電機株式会社製)を用いて、波長365nmで測定した強度が100mJの条件で行った。
【0179】
(2)偏光膜の作製
前記のようにして得た光配向膜付き基材フィルム上に、上記の偏光膜形成用組成物をバーコート法(#9 30mm/s)により塗布し、120℃の乾燥オーブンにて1分間加熱乾燥することにより重合性液晶化合物を液体相に相転移させた後、室温まで冷却して該重合性液晶化合物をスメクチック液晶状態に相転移させた。次いで、UV照射装置(SPOT CURE SP-7;ウシオ電機株式会社製)を用いて、露光量1000mJ/cm(365nm基準)の紫外線を、偏光膜形成用組成物から形成された層に照射することにより、該乾燥被膜に含まれる重合性液晶化合物を、前記重合性液晶化合物のスメクチック液晶状態を保持したまま重合させ、該乾燥被膜から偏光膜を形成した。この際の偏光膜の膜厚をレーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製 OLS3000)により測定したところ、2.3μmであった。かくして得られたものは、偏光膜と基材とを含む偏光膜積層体である。この偏光膜に対して、X線回折装置X’Pert PRO MPD(スペクトリス株式会社製)を用いて同様にX線回折測定を行った結果、2θ=20.2°付近にピーク半価幅(FWHM)=約0.17°のシャープな回折ピーク(ブラッグピーク)が得られた。ピーク位置から求めた秩序周期(d)は約4.4Åであり、高次スメクチック相を反映した構造を形成することを確認した。
【0180】
<偏光度Py、単体透過率Tyの測定>
以下のようにして、実施例1の偏光膜積層体の偏光度Pyおよび単体透過率Tyを測定した。波長380nm~780nmの範囲で透過軸方向の透過率(Ta)および吸収軸方向の透過率(Tb)を、分光光度計(島津製作所株式会社製 UV-3150)に偏光子付フォルダーをセットした装置を用いてダブルビーム法で測定した。該フォルダーは、リファレンス側は光量を50%カットするメッシュを設置した。
下記式(式1)ならびに(式2)を用いて、各波長における単体透過率、偏光度を算出し、さらにJIS Z 8701の2度視野(C光源)により視感度補正を行い、視感度補正単体透過率(Ty)および視感度補正偏光度(Py)を算出した。
単体透過率Ty(%)= (Ta+Tb)/2 (式1)
偏光度Py(%) = (Ta-Tb)/(Ta+Tb)×100 (式2)
【0181】
実施例2および3並びに比較例1~3
硬化物層形成用組成物(A)の代わりに、表2に示した硬化物層形成用組成物(B)~(E)をそれぞれ用いた以外は同一の方法にて、実施例2および3並びに比較例2および3の偏光膜積層体を得た。また、硬化物層形成用組成物を使用しない以外は、実施例1と同様の方法にて比較例1の偏光膜積層体を得た。
【0182】
実施例4
硬化物層付き基材フィルムとして、厚さ40μmのトリアセチルセルロースフィルムに4μmのハードコート層を付与して得られた透明保護フィルム(「40CHC」、株式会社トッパンTOMOEGAWAオプティカルフィルム製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、実施例4の偏光膜積層体を得た。
【0183】
比較例4
トリアセチルセルロースフィルム(KC4UY、コニカミノルタ(株)製)を用い、膜表面にコロナ処理を施した後に、硬化物層形成用組成物(F):水100部にカルボキシル基変性ポリビニルアルコール〔(株)クラレ製「クラレポバール KL318」〕7部と、熱架橋剤として水溶性ポリアミドエポキシ樹脂〔住化ケムテックス(株)から入手した「スミレーズレジン650」(固形分濃度30質量%の水溶液)〕3.5部を添加した水溶液(粘度:92cP)をワイヤーバーコーター(#30)にて塗布し、80℃で5分間乾燥することで、前記水溶液を乾燥させて硬化物層付き基材フィルムを得た。得られた硬化物層付き基材フィルムを用いた以外は、実施例1と同一の方法にて、比較例4の偏光膜積層体を得た。
【0184】
<空孔サイズの測定>
実施例1~4および比較例1~4で使用した硬化物層付き基材フィルムについて、下記の条件にて陽電子消滅寿命と相対強度を測定した。陽電子線源:22Naベースの陽電子ビーム、ガンマ線検出器:フッ化バリウムシンチレーターおよび光電子倍増管、陽電子打ち込みエネルギー:3keV、装置分解能:230ps、測定温度:22℃ 、カウント数:15,000,000とした。上記測定条件に沿って陽電子寿命の測定を行い、非線形最小二乗法により3成分解析して、平均消滅寿命の小さいものから、τ1、τ2、τ3とし、それに応じた強度をI1、I2,I3(I1+I2+I3=100%)とした。最も長寿命のτ3と自由体積変化の関係は下記(式3)のようになり、平均自由体積半径(R3:単位nm)との関係が導かれる。空孔サイズは平均自由体積半径を直径に変換した数値とした。
τ3=(1/2)[1-(R3/(R3+0.166))+(1/2π)sin(2πR3/(R3+0.166))]-1 (式3)
ここでは解析値のτ3および、それに応じた強度I3を平均消滅寿命と相対強度のデータとした。結果を表2に示す。
【0185】
実施例1~4および比較例1~4の偏光膜積層体について、以下の方法に従い耐熱性を評価した。結果を表2に示す。
【0186】
<耐熱性の評価>
上記偏光膜積層体を105℃dryの条件で24時間加熱後、改めて偏光膜積層体の偏光度Py、単体透過率Tyを測定して耐熱試験前後における変化率量を算出した。
【0187】
【表2】
【0188】
実施例1~4および比較例1~4の積層体について、以下の方法に従い耐水性および屈曲性を評価した。結果を表3に示す。
【0189】
<耐水性の評価>
上記偏光膜積層体のヘイズ値をヘイズメーターで測定した。さらに、上記偏光膜積層体を加温機能付き水槽へ投入し、53℃の条件で30分投入後、改めて積層体のヘイズを測定して耐水試験前後における変化率量を算出した。
【0190】
<屈曲性の評価>
屈曲性の評価は JIS-K-5600-5-1に記載の塗料一般試験方法―耐屈曲性(円筒形マンドレル法)の方法を用いて、以下のように行った。
被試験フィルムを25mm×200mm角に切り取り、円筒型マンドレル法耐屈曲性試験機タイプII型(TP技研株式会社製)を用いてフィルムを温度25℃、相対湿度55%RHの条件下で直径Φが2mmのマンドレル棒に、硬化物形成用組成物の硬化物層を外側にして巻きつけて屈曲性試験行った。試験後のフィルムを用いて、暗室環境下にて照明透過光で目視確認し、クラックの発生状況を観察した。割れが視認できたものを「×」とし、割れが視認できなかったものを「○」と判定した。
【0191】
【表3】
【0192】
陽電子寿命測定法から算出される平均自由体積半径を直径に変換した空孔サイズが0.45nm以上0.57nm以下である表面を有する本発明の偏光フィルム(実施例1~4の偏光膜積層体)は、良好な耐熱性能、耐水性能および屈曲性を有することが確認された。