IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オリエンタル酵母工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-骨質の評価方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】骨質の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230904BHJP
【FI】
G01N33/53 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019140363
(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公開番号】P2021021715
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保田 尚孝
(72)【発明者】
【氏名】是金 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】新里 達也
(72)【発明者】
【氏名】紀平 安則
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-503533(JP,A)
【文献】特開2017-096837(JP,A)
【文献】特表平09-509736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取した血清中の、
メチルグリオキサール-ハイドロイミダゾロン(MG-H1)化したI型コラーゲン又は該I型コラーゲンの断片を測定することを含むことを特徴とする、骨質の評価方法。
【請求項2】
測定方法が、モノクローナル抗MG-H1抗体及び抗I型コラーゲン抗体を使用するサンドイッチELISA法であり、
モノクローナル抗MG-H1抗体が、MG-H1化したI型コラーゲン又は該I型コラーゲンの断片に対するモノクローナル抗体であり、
抗I型コラーゲン抗体が、ヒトI型コラーゲンに対するポリクロ―ナル抗体である、請求項1に記載の骨質の評価方法。
【請求項3】
モノクローナル抗MG-H1抗体が、NITE P-1898(OYC111)、NITE P-1899(OYC112)又はNITE P-2064(OYC113)として寄託されたハイブリドーマが産生する抗体である、請求項2に記載の骨質の評価方法。
【請求項4】
被験者から採取した血清中の、MG-H1化したI型コラーゲン又は該I型コラーゲンの断片の量が、健常者から採取した血清中の、MG-H1化したI型コラーゲン又は該I型コラーゲンの断片の量と比較して、有意に高い場合に、前記被験者は骨質が低下していると評価する、請求項1~3の何れか1項に記載の骨質の評価方法。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の骨質の評価方法により、骨粗鬆症の罹患又はそのリスクを予測するために用いられる、被験者の骨質の評価を得る、骨質の評価の取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨質の評価方法に関し、より詳細には、最終糖化産物(AGEs)の1種であるメチルグリオキサール-ハイドロイミダゾロン(MG-H1)化したI型コラーゲン又は該I型コラーゲンの断片を測定することを含む骨質の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の顕在化に伴い骨粗鬆症患者が急増し、その予防と治療は喫緊の課題となっている。NIHにおける2000年の合意文書では、「骨粗鬆症は骨強度が低下し骨折リスクが上昇する疾患であり、また、骨強度には骨密度と骨質が関連する(骨強度=骨密度×骨質)」と定義された。従来、骨粗鬆症の日常診断の現場では、骨折リスクの評価方法として、骨密度の測定が汎用されてきたが、骨密度が高いにも関わらず骨折する症例が少なからず存在する等、骨密度以外の骨強度規定因子である骨質への関心が急速に高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-96837号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】NIH consensus development panel on osteoporosis prevention, diagnosis, and therapy、 JAMA (2001) 285(6): 785-795
【文献】総説 骨粗鬆症の新たな治療戦略―骨質評価の重要性― 慈恵医大誌 (2014)129:107-118
【文献】12th International Symposium of Maillard Reaction 抄録集 P48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
骨質規定因子については諸説あるが、骨体積の50%を占めるコラーゲン繊維の分子間を繋ぐ「架橋構造」が骨強度を規定する重要因子の一つであることが知られている。コラーゲン繊維の架橋構造には、骨芽細胞由来の酵素によって秩序正しく分子を繋ぎ止め、適度な弾力を保ちつつ骨をしなやか且つ強くする「善玉架橋」と、老化に伴い骨内で過形成された最終糖化産物(AGEs)により無秩序に分子が繋ぎ止められ、骨が硬くもろくなる「悪玉架橋」の大きく二種類が存在することが知られている(非特許文献2参照)。また、骨内総AGEs(悪玉架橋量)のサロゲートマーカーとして、血/尿中ペントシジン並びにホモシステインが知られている(非特許文献2参照)。ペントシジンはAGEsの一種である。ホモシステインは、酵素阻害を介して善玉架橋形成を抑制することが知られている。
【0006】
従来、骨粗鬆症の診断と治療においては、骨密度の測定とその改善に焦点が当てられてきたが、前述の様に骨質についても重要な骨強度規定因子の一つであり、骨密度と同時に骨質を評価し、病型に応じた適切な治療介入を実施していくことが望ましい。しかし骨質マーカーについては前述のペントシジン及びホモシステインについても研究段階にあり、現時点で実用化されたものがない。骨質評価の早期の実現化が大きな課題の一つである。
【0007】
上述のように、AGEsの過形成と骨質劣化には関連性のあることが示唆されている。事実、原発性骨粗鬆症や糖尿病、腎不全といった糖化が充進する病態では骨コラーゲン線維の善玉架橋率が低下し、代わってAGEs過形成を介した悪玉架橋率が増加し、骨強度の低下をきたすことが報告されている。また、骨内AGEs蓄積量は加齢とともに増大し、骨強度が低下することも明らかにされている。さらに摘出した骨ブロックに対しin vitroにてAGEs形成を誘導すると骨ブロックの強度が低下することが見い出されており、AGEs過形成(悪玉架橋形成)と骨質劣化との関連性が強く示唆されている。
【0008】
メチルグリオキサール-ハイドロイミダゾロン(MG-Hl)はAGEsの一種として知られ、糖尿病やその合併症、その他加齢性疾患との関連が示唆されている。とりわけ骨疾患に関しては、特許文献1において被験者より採取した血清中のMG-Hlが骨粗鬆症において高値を示すことが見い出されており、疾患の発症やリスク評価に利用し得る可能性が示唆された。また非特許文献3においては、ヒト骨内に存在するCML、CEL、MG-Hl及びCEAの4種類のAGEsが測定されており、これらの内、MG-H1が最も多量にヒト骨内に蓄積していることが見い出されている。
【0009】
本発明の課題は、骨質を簡便に評価できる骨質の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、被験者から採取した生体試料中の、メチルグリオキサール-ハイドロイミダゾロン(MG-H1)化したI型コラーゲン又は該I型コラーゲンの断片を測定することが、骨質の評価に有用であることを知見した。
【0011】
本発明は、上記の知見に基づきなされたもので、下記の(1)~(6)の骨質の評価方法、及び(7)の骨粗鬆症の罹患又はそのリスクを予測する方法を提供するものである。
(1)被験者から採取した生体試料中の、メチルグリオキサール-ハイドロイミダゾロン(MG-H1)化したI型コラーゲン又は該I型コラーゲンの断片を測定することを含むことを特徴とする、骨質の評価方法。
(2)測定方法が、モノクローナル抗MG-H1抗体及び抗I型コラーゲン抗体を使用するサンドイッチELISA法である、(1)に記載の方法。
(3)生体試料が血清又は血漿である、(2)に記載の骨質の評価方法。
(4)モノクローナル抗MG-H1抗体が、NITE P-1898(OYC111)、NITE P-1899(OYC112)又はNITE P-2064(OYC113)として寄託されたハイブリドーマが産生する抗体である、(2)又は(3)のいずれかに記載の骨質の評価方法。
(5)抗I型コラーゲン抗体が、ポリクロ―ナル抗体である、(2)~(4)のいずれかに記載の骨質の評価方法。
(6)被験者から採取した生体試料中の、MG-H1化したI型コラーゲン又は該I型コラーゲンの断片の量が、健常者から採取した生体試料中の、MG-H1化したI型コラーゲン又は該I型コラーゲンの断片の量と比較して、有意に高い場合に、前記被験者は骨質が低下していると評価する、(1)~(5)に記載の骨質の評価方法。
(7)(1)~(6)に記載の骨質の評価方法による評価に基づき、骨粗鬆症の罹患又はそのリスクを予測する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の骨質の評価方法によれば、骨質の評価を、人体等から採取した生体試料を用いて簡便に、且つ被験者の負担やダメージが極めて低い侵襲性の低い方法として行うことができる。また、本発明は、該評価方法の骨質の評価に基づき、骨粗鬆症の罹患又はそのリスクを予測することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】モノクローナル抗MG-H1抗体及びポリクロ―ナル抗I型コラーゲン抗体を用いたサンドイッチELISA法による健常者及び骨粗鬆症患者の血清中のMG-H1化したI型コラーゲン量のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好ましい実施形態(態様)に基づいて説明する。
本発明の骨質の評価方法は、被験者から採取した生体試料中の、メチルグリオキサール-ハイドロイミダゾロン(以下、MG-H1とも言う。)化したI型コラーゲン又は該I型コラーゲンの断片を測定することを含む。MG-H1は、AGEsの前駆体であるメチルグリオキサール(MG)が、タンパク質中のアルギニン残基側鎖と反応して生じ、生体中ではタンパク質と結合した非遊離体又はタンパク質と結合しない遊離体として存在する。本発明の骨質の評価方法における測定対象であるMG-H1化したI型コラーゲン(以下、MG-H1化I型コラーゲンとも言う。)においては、MG-H1は非遊離体となっている。I型コラーゲンは、コラーゲンの1種である。コラーゲンは、骨の体積の約50%を占めており、該コラーゲンを構成するポリペプチド鎖の組み合わせにより複数の型に分類されている。I型コラーゲンは、2本のα1鎖と1本のα2鎖とからなる。骨に含まれるコラーゲンの大部分は、I型コラーゲンであり、本発明では、MG-H1化I型コラーゲンを測定する。
【0015】
「MG-H1化I型コラーゲン」は、I型コラーゲンのタンパク質中のアルギニンがMGと非酵素的に反応して、そのアルギニンがメチルグリオキサール-ハイドロイミダゾロン(MG-H1)となったI型コラーゲンを意味する。「I型コラーゲンの断片」とは、I型コラーゲンのペプチド鎖が切断され、断片化・低分子量化したものである。I型コラーゲンは、前述のように骨中に多く含まれているが、骨から漏れ出て血液等の骨外に存在するI型コラーゲンは、切断され断片となったI型コラーゲンである可能性がある。実際、骨代謝マーカーとして知られるCTx-I及びNTx-Iは骨を形成するI型コラーゲンのC末端及びN末端の小断片であり、骨代謝の過程で血中に漏れ出ることが知られている。そのため、本発明の骨質の評価方法においては、断片化されていないI型コラーゲン又はI型コラーゲンの断片を検出する。本発明においては、I型コラーゲンのみを測定してもよいし、I型コラーゲンの断片のみを測定してもよいし、I型コラーゲンとI型コラーゲンの断片との両者を区別し又は区別することなく測定してもよい。I型コラーゲンの断片は、例えば、I型コラーゲンが酵素等により分解されたものであってもよい。
【0016】
骨質は、上述のように、I型コラーゲンの架橋構造と関連しており、AGEsの過形成によりI型コラーゲンの悪玉架橋が形成されることが、骨質の低下と関連している。骨中に存在するAGEsの中では、MG-H1が最も多く存在することから、骨質が低下している場合、MG-H1を介して形成されたI型コラーゲンの悪玉架橋が多く存在していると考えられる。したがって、MG-H1化I型コラーゲンを骨質の評価の指標として用いることができると考えられる。
【0017】
本発明の骨質の評価方法によれば、MG-H1化I型コラーゲンを骨質の評価の指標とすることで、骨質の評価を、人体等から分離された生体試料を用いて簡便に且つ侵襲性の低い方法として行うことができる。またそれにより、例えば、骨質の良否や骨質の低下の程度、骨質が大きく影響する骨強度等、骨質に関連する評価を簡便に且つ被験者にダメージや負担を与えることなく行うこともできる。また、本発明は、該評価方法の骨質の評価に基づき、骨粗鬆症の罹患又はそのリスクを予測することができる。
【0018】
本発明の骨質の評価方法において、MG-H1化I型コラーゲン又はMG-H1化I型コラーゲンの断片を測定する方法としては、MG-H1化I型コラーゲン又はMG-H1化I型コラーゲンの断片を検出できる各種の方法を特に制限なく採用できる。検出は、定性的であってもよいし、定量的であってもよいが、定量的であることが好ましい。MG-H1化I型コラーゲン又はMG-H1化I型コラーゲンの断片を検出する方法としては、例えば、酵素免疫測定法(ELISA法)、放射免疫アッセイ法(RIA)、発光免疫測定法、沈降法、凝集法、ウエスタンブロット分析、フローサイトメトリー等が挙げられる。これらの中でも、簡便且つハイスループットな検体測定を行う観点から、ELISA法が好ましく、サンドイッチELISA法がより好ましい。ELISA法において用いる二次抗体、標識等は、常法に従って適宜選択すればよい。
【0019】
サンドイッチELISA法においては、モノクローナル抗MG-H1抗体及び抗I型コラーゲン抗体を使用して、MG-H1化I型コラーゲン又はMG-H1化I型コラーゲンの断片を測定することが好ましい。そのサンドイッチELISA法は、好ましくは下記工程(1)~(3)を具備するとともに、サンドイッチELISA法において常法である下記工程(4)を具備する。モノクローナル抗MG-H1抗体は、いわゆる捕捉抗体であり、遊離又は非遊離のMG-H1に特異的に結合する。抗I型コラーゲン抗体は、いわゆる検出抗体であり、捕捉抗体に補足されたMG-H1化I型コラーゲンを検出する。
(1)モノクローナル抗MG-H1抗体を固相化する工程
(2)固相化されたモノクローナル抗MG-H1抗体に、抗原を結合させる工程
(3)モノクローナル抗MG-H1抗体に結合した抗原に、抗I型コラーゲン抗体を結合させる工程
(4)抗原に結合した抗I型コラーゲンを検出する工程
【0020】
以下、上記の工程(1)~(4)について説明する。
〔工程(1):捕捉抗体の固相化工程〕
前記工程(1)は、捕捉抗体であるモノクローナル抗MG-H1抗体の固相化工程であり、モノクローナル抗MG-H1抗体をマイクロプレートのウェル等に吸着させ固相化する。モノクローナル抗MG-H1抗体をマイクロプレートのウェル等に吸着させる手段としては、疎水的相互作用、共有結合、静電相互作用、水素結合、その他電荷移動等が挙げられる。
【0021】
〔工程(2):抗原を捕捉抗体に結合させる工程〕
前記工程(2)は、抗原を、捕捉抗体である固相化されたモノクローナル抗MG-H1抗体に結合させる工程である。前記工程(2)における抗原は、被験者から採取した生体試料に含まれる抗原である。
【0022】
前記工程(2)において使用するモノクローナル抗MG-H1抗体は、タンパク質に結合している非遊離体のMG-H1に対する結合能を有する抗体である。またモノクローナル抗MG-H1抗体は、タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1に対する結合能を有していてもよい。
タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1に対する結合能を有し、固相化されたモノクローナル抗MG-H1抗体に、遊離体のMG-H1及びタンパク質に結合した非遊離のMG-H1を有するMG-H1化I型コラーゲン又はその断片が結合した場合であっても、後述する工程(3)において、抗I型コラーゲン抗体を用いて、モノクローナル抗MG-H1抗体に結合したMG-H1化I型コラーゲン又はその断片のみが検出されることにより、モノクローナル抗MG-H1抗体を用いた高感度のMG-H1化I型コラーゲン又はその断片の検出が可能となる。
【0023】
前記工程(2)において使用するモノクローナル抗MG-H1抗体としては、下記のハイブリドーマが産生する抗体1~3が挙げられる。抗体1及び2を産生するハイブリドーマは、2014年7月15日付け、抗体3を産生するハイブリドーマは、2015年6月5日付けで、独立行政法人 製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに寄託されており、それぞれの受託番号は下記の通りである。
抗体1を産生するハイブリドーマ(OYC111):受託番号NITE P-1898
抗体2を産生するハイブリドーマ(OYC112):受託番号NITE P-1899
抗体3を産生するハイブリドーマ(OYC113):受託番号NITE P-2064
【0024】
〔工程(3):検出抗体を抗原に結合させる工程〕
前記工程(3)は、検出抗体である抗I型コラーゲン抗体を抗原に結合させる工程である。より具体的には、前記工程(2)においてモノクローナル抗MG-H1抗体に結合した抗原に、抗I型コラーゲン抗体を結合させる。
【0025】
前記工程(3)において使用する抗I型コラーゲン抗体は、断片化されていないI型コラーゲンのみならず、I型コラーゲンの断片に対する結合能を有する抗体であることが好ましい。また、前記工程(3)において使用する抗I型コラーゲン抗体は、モノクローナル抗体であってもよいし、ポリクロ―ナル抗体であってもよいが、MG-H1化I型コラーゲンの断片を検出できるようにする観点から、ポリクロ―ナル抗体であることが好ましい。
【0026】
〔工程(4):検出抗体を検出する工程〕
前記工程(4)は、検出抗体を検出する工程である。検出抗体である抗I型コラーゲン抗体を検出する方法としては、各種公知の方法を用いることができる。例えば、前記工程(3)において検出抗体として酵素標識済みの抗I型コラーゲン抗体を用い、前記工程(4)にて該抗I型コラーゲン抗体を直接検出してもよい。また、抗I型コラーゲン抗体と結合する二次抗体により該I型コラーゲン抗体を検出してもよい。
【0027】
また、本発明において、生体試料としては、生体から採取されたあらゆる細胞、組織、及び体液等が挙げられ、例えば、皮膚、筋肉、骨、脂肪組織、脳神経系、心臓及び血管等の循環器系、肺、肝臓、脾臓、膵臓、腎臓、消化器系、胸腺、リンパ、血液、全血、血清、血漿、リンパ液、唾液、尿、腹水、喀痰等、並びにそれらの培養液物が挙げられるが、採取のし易さ等の理由から、血清又は血漿が好ましい。生体試料は、必要に応じて、生理食塩水や水等の液体による希釈、濾過処理、ホモジネート処理、化学処理等の任意の処理を行ったものを用いる。
【0028】
本発明の骨質の評価方法においては、被験者から採取した生体試料中の、MG-H1化I型コラーゲン又はMG-H1化I型コラーゲンの断片の量が、健常者から採取した生体試料等の標準試料中の、MG-H1化I型コラーゲン又はMG-H1化I型コラーゲンの断片の量と比較して、有意に高い場合に、被験者は骨質が低下していると評価することが、被験者の骨質を簡便に評価する観点から好ましい。より具体的には、被験者及び健常者から採取した生体試料中のMG-H1化I型コラーゲン又はMG-H1化I型コラーゲンの断片の量を、例えば上述のサンドイッチELISA法によって測定する。そして、測定された測定値を比較し、被験者の生体試料から測定された測定値が、健常者の生体試料から測定された測定値よりも有意に高い場合に、被験者は骨質が低下していると評価する。健常者としては、骨質又は骨強度を示す指標が所定値以上の者や集団等、骨質の評価の目的等に応じて任意に適宜に設定することができる。また、被験者から採取した生体試料と比較する対象は、健常者から採取した生体試料に代えて、MG-H1化I型コラーゲンを既知の濃度で含有する標準試料であっても良い。MG-H1化I型コラーゲンを既知の濃度で含有する標準試料は、例えば、MGをI型コラーゲンに反応させて得られた人工のMG-H1化I型コラーゲン(断片に相当するものでも良い)であっても良い。
【実施例
【0029】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0030】
1.MG-H1化I型コラーゲンスタンダードの作製
以下のようにして調製したMG-H1化I型コラーゲンを、検量線を作成するためのスタンダードとして用いた。
〔MG-H1化I型コラーゲンの調製〕
2mg/mLCOlIウシ真皮由来と20mM又は2mMに希釈したMGリン酸緩衝溶液を当量混合し、37℃で16時間インキュベートした。反応後の試料を透析バックに充填し、試料容量に対して300倍量以上のPBSを用いて4℃で6時間以上透析した後、外液を新鮮PBSに交換し、更に4℃で16時間以上透析を継続した。透析後の試料を回収し、該試料をMG-H1化I型コラーゲンスタンダードとした。MG-H1化I型コラーゲンスタンダードは、以下の〔タンパク質定量法〕によりタンパク質量を定量し、以下の〔SDS-PAGE〕及び〔ウェスタンブロッティング〕により、MG-H1化I型コラーゲンスタンダード中にMG-H1化I型コラーゲンが含まれることを確認した。MG-H1化I型コラーゲンスタンダードは、一20℃にて保存した。
【0031】
〔タンパク質定量法〕
ウシ血清アルブミン(BSA)をスタンダードとし、ビシコニン酸(BCA)法キット(PIERCE、サーモサイエンティフィック社)を用いて実施した。
【0032】
〔SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)〕
試料蛋白質(1ug相当)をLaemmli法に従って還元条件下にてSDS-PAGEした。分離された蛋白質はクーマシーブリリアントブルー(CBB)染色法を用いて検出した。SDS-PAGEの結果、上記のように調製した試料は、未処理のコラーゲンと比較して、処理したMGの濃度依存的に、高分子量側へのバンドシフトが観察され、試料蛋白質中に、MG-H1化I型コラーゲンが存在することが確認された。
【0033】
〔ウェスタンブロッティング〕
試料蛋白質(1ug相当)を還元条件下にてSDS-PAGEした後、PVDF膜上に定電圧15V、1時間にて転写した(セミドライブロッティング)。試料転写後のPVDF膜を市販ブロッキング溶液を用いて室温、1時間ブロッキングした後、TBS-Tによる室温5分間の洗浄を2回繰り返した。マウスモノクローナル抗MG-H1抗体を10%(v/v)ブロッキング溶液を用いて5ug/mLに希釈した後、洗浄後のPVDF膜に加え、室温1時間インキュベートした。TBS-Tによる室温5分間の洗浄を2回繰り返した後、免疫反応促進剤(Can Get Signal 溶液2)を用いて1万倍希釈したHRP標識抗マウスIgG1抗体を加え、室温1時間インキュベートした。TBS-Tによる室温7分間の洗浄を3回繰り返した後、更にTBSによる室温5分間の洗浄を2回繰り返した。PVDF膜上に化学発光検出試薬を加え、免疫反応性蛋白質を検出した。
【0034】
2.骨質の評価方法
以下のサンドイッチELISA法により、健常女性及び骨粗鬆症患者女性から採取した生体試料中のMG-H1化I型コラーゲン又はMG-H1化I型コラーゲンの断片を測定した。生体試料は、PROMEDDX社より購入したヒト血清検体を用いた。
〔サンドイッチELISA法〕
(1)固相化バッファーを用いて5ug/mLに希釈したマウスモノクローナル抗MG-H1抗体を50uL/wellでマイクロタイタープレートに加え、室温で2時間インキュベートした。
(2)マイクロタイタープレート内の液を除去し、PBS-Tを0.2mL/well加え、そのまま液を除去する工程を3回実施した。
(3)10%(v/v)ブロッキング溶液を0.2mL/well加え、室温で1時間インキュベートした。
(4)上記(2)の操作を行った。
(5)2%(v/v)ブロッキング溶液を用いてMG-H1化I型コラーゲンスタンダード、健常女性由来のヒト血清検体、又は骨粗鬆症患者女性由来のヒト血清検体を適度に希釈し、50uL/wellで上記マイクロタイタープレートに添加した後、4℃で一晩インキュベートした。健常女性由来のヒト血清検体、及び骨粗鬆症患者女性由来のヒト血清検体はそれぞれ、10個のウェルに添加した。
(6)上記(2)の操作を行った。
(7)免疫反応促進剤(Can Get Signal 溶液1)を用いて0.5ug/mLに希釈したウサギポリクローナル抗ヒトColI抗体を50uL/wellで添加し、室温で2時間インキュベートした。
(8)上記(2)の操作を行った。
(9)免疫反応促進剤(Can Get Signal 溶液2)を用いて4,000倍に希釈したHRP標識抗ウサギIgG抗体を50uL/wellで添加し、室温で1時間インキュベートした。
(10)上記(2)の操作を行った。
(11)TMB試薬を50uL/well加え、室温で30分間インキュベートした。
(12)反応停止液を50uL/well加え、450nmで吸光度を測定した。
【0035】
3.試薬・備品
使用した試薬・備品は以下の通りである。
・コラーゲンI型(ColI)ウシ真皮由来:ペプシン可溶化、5 mM 酢酸溶液、3mg/mL、ニッピ(株)
・2mg/mLCoI1酢酸溶液:3 mg/mLCol1ウシ真皮由来を5mM酢酸を用いて2mg/mLに希釈した。
・メチルグリオキサール(MG)水溶液:40%、シグマ(株)
・20mM及び2mM MGリン酸緩衝溶液:40%(6.5M)MG水溶液を、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(Na-PO、pH7.5)を用いて目的濃度に希釈した。
・10-20%ポリアクリルアミドグラジエントゲル:スーパーセップTM エース、和光純薬(株)
・6XSDS-PAGE試料緩衝液:還元剤含有、ナカライテスク(株):終濃度1Xとなるよう蛋白質試料に加え使用した。
・ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜:Immobilon P、メルクミリポア社
・ブロッキング溶液:牛乳由来蛋白質、塩化ナトリウムを含むトリス緩衝塩類溶液(TBS)、pH7.2、ナカライテスク(株)
・10%(v/v)及び2%(v/v)ブロッキング溶液:上記ブロッキング溶液を100%としてTBS又はPBSを用いて目的濃度に希釈した。
・免疫反応促進剤:Can Get Signal(登録商標) 溶液1及び溶液2、東洋紡(株)
・化学発光検出基質試薬:Luminata Forte(登録商標)、メルクミリポア社
・マウスモノクローナル抗MG-H1抗体:クローン#OYC113、オリエンタル酵母工業(株)
・西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgG1 ヤギポリクローナル抗体:サザンバイオテック社
・ウサギポリクローナル抗ヒトColI抗体:アクリスアンチボディーズ社
・96ウェルマイクロタイタープレート:F96MAXISORP、NUNC、サーモサイエンティフィック社
・3,3’,5,5’テトラメチルベンジジンTMB基質試薬;BD OptEIATM、BDバイオサイエンス社
・リン酸緩衝塩類溶液(PBS)
・TBS-T:0.05%(v/v)Tween-20含有TBS
・PBS-T:0.05%(v/v)Tween-20含有PBS
・固相化バッファー:50mM炭酸ナトリウムバッファー(NaCO),pH9.6
・反応停止液:1NHSO
・その他一般試薬についてはナカライテスク(株)又は和光純薬(株)より購入した。
【0036】
4.結果
図1に、健常女性及び骨粗鬆症患者女性の血清中のMG-H1化I型コラーゲン量(平均値)を示した。MG-H1化I型コラーゲンスタンダードの測定については、0.046μg/mL~0.225μg/mLの検量範囲で良好な直線性が得られ、これを測定可能範囲として設定した。図1に示すように、健常女性と比べ、骨粗鬆症患者女性において、血清中におけるMG-H1化I型コラーゲンのレベルが明らかに高値傾向であることが分かった。したがって、本発明の骨質の評価方法による評価に基づき、骨粗鬆症の罹患又はリスクを予測することができることが分かる。また、MG-H1化I型コラーゲンは、骨質の評価の指標として用いることができることから、図1に示す骨粗鬆症患者女性は、骨質が低下していると考えられる。
図1