(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】ペリクル用粘着剤、粘着剤層付ペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版、露光方法、半導体の製造方法及び液晶表示板の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/62 20120101AFI20230904BHJP
C09J 133/06 20060101ALI20230904BHJP
C09J 133/14 20060101ALI20230904BHJP
C09J 133/02 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
G03F1/62
C09J133/06
C09J133/14
C09J133/02
(21)【出願番号】P 2020173103
(22)【出願日】2020-10-14
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】濱田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】西村 晃範
【審査官】三好 貴大
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-184508(JP,A)
【文献】特開2016-018008(JP,A)
【文献】特開2013-134482(JP,A)
【文献】国際公開第2012/157759(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0170535(US,A1)
【文献】国際公開第2020/213659(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
C09J 133/06
C09J 133/14
C09J 133/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルキル基の炭素数が4以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び
(B)エーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステル
を単量体成分とするアクリル系重合体を母材とするペリクル用粘着剤。
【請求項2】
さらに、単量体成分として、(C)カルボキシル基又はヒドロキシル基を有する不飽和モノマーを含む請求項1記載のペリクル用粘着剤。
【請求項3】
全単量体成分中、前記(A)成分の割合は20~59質量%である請求項1又は2記載のペリクル用粘着剤。
【請求項4】
全単量体成分中、前記(B)成分の割合は40~79質量%である請求項1~3のいずれか一項記載のペリクル用粘着剤。
【請求項5】
全単量体成分中、前記(C)成分の割合は1~15質量%である請求項2~4のいずれか一項記載のペリクル用粘着剤。
【請求項6】
前記(A)アルキル基の炭素数が4以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、アルキル基の炭素数が4の(メタ)アクリル酸アルキルエステルである請求項1~5のいずれか一項記載のペリクル用粘着剤。
【請求項7】
前記(B)エーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステルが、エチレンオキサイド基を有する(メタ)アクリル酸エステルである請求項1~6のいずれか一項記載のペリクル用粘着剤。
【請求項8】
アルキル基の炭素数が4の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、
エチレンオキサイド基を有する(メタ)アクリル酸エステル、及び、
(C)カルボキシル基又はヒドロキシル基を有する不飽和モノマー
を単量体成分とするアクリル系重合体を母材とするペリクル用粘着剤。
【請求項9】
ArF用ペリクルの製造に用いられる請求項1~8のいずれか一項記載のペリクル用粘着剤。
【請求項10】
ペリクルフレームと、該ペリクルフレームの一方の端面に設けられた請求項1~9のいずれか一項記載のペリクル用粘着剤から得られる粘着剤層と、を有する粘着剤層付ペリクルフレーム。
【請求項11】
ペリクル膜と、該ペリクル膜が一方の端面に設けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面に設けられた請求項1~9のいずれか一項記載のペリクル用粘着剤から得られる粘着剤層と、を有するペリクル。
【請求項12】
露光原版に請求項11記載のペリクルが装着されているペリクル付露光原版。
【請求項13】
請求項12記載のペリクル付露光原版を用いて露光することを特徴とする露光方法。
【請求項14】
露光光源がArFである請求項13記載の露光方法。
【請求項15】
請求項12記載のペリクル付露光原版を用いて露光する工程を備える半導体の製造方法。
【請求項16】
露光光源がArFである請求項15記載の半導体の製造方法。
【請求項17】
請求項12記載のペリクル付露光原版を用いて露光する工程を備える液晶表示板の製造方法。
【請求項18】
露光光源がArFである請求項17記載の液晶表示板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペリクル用粘着剤、粘着剤層付ペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版、露光方法、半導体の製造方法及び液晶表示板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSIなどの半導体又は液晶表示板などの製造においては、半導体ウエハ又は液晶用原版に光を照射してパターンを作製するが、この場合に用いる露光原版にゴミが付着していると、このゴミが光を吸収したり、光を曲げてしまうために、転写したパターンが変形したり、エッジががさついたものとなるほか、下地が黒く汚れたりして、寸法、品質、外観などが損なわれるという問題があった。なお、本発明において、「露光原版」とは、リソグラフィ用マスク及びレチクルの総称である。
【0003】
これらの作業は通常クリーンルームで行われているが、このクリーンルーム内でも露光原版を常に清浄に保つことが難しいので、露光原版の表面にゴミ除けのために、露光用の光をよく通過させるペリクルを貼着する方法が取られている。
この場合、ゴミは露光原版の表面上には直接付着せず、ペリクル膜上に付着するため、リソグラフィ時に焦点を露光原版のパターン上に合わせておけば、ペリクル膜上のゴミは転写に無関係となる。
【0004】
ペリクルの基本的な構成は、ペリクルフレーム及びこれに張設したペリクル膜からなる。ペリクル膜は、露光に用いる光(436nm、365nm、248nm、193nm、157nm等)をよく透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース、フッ素系ポリマーなどからなる。ペリクルフレームは、黒色アルマイト処理等を施したA7075、A6061、A5052などのアルミニウム合金、ステンレス、ポリエチレンなどからなる。ペリクルフレームの上部にペリクル膜の良溶媒を塗布し、ペリクル膜を風乾して接着するか、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等の接着剤で接着する。さらに、ペリクルフレームの下部には露光原版が装着されるために、ポリブテン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等から得られる粘着剤層、及び粘着剤層の保護を目的とした保護用ライナーを設ける。
【0005】
ペリクルは、露光原版の表面に形成されたパターン領域を囲むように設置される。ペリクルは、露光原版上にゴミが付着することを防止するために設けられるものであるから、このパターン領域とペリクル外部とはペリクル外部の塵埃がパターン面に付着しないように隔離されている。
【0006】
近年、LSIのデザインルールはサブクオーターミクロンへと微細化が進んでおり、それに伴い、露光光源の短波長化が進んでいる、即ち、これまで主流であった、水銀ランプによるg線(436nm)、i線(365nm)から、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)、F2レーザー(157nm)などに移行しつつある。微細化が進んだ結果、ペリクルを貼り付けた露光原版であるマスク基板パターン面に発生する可能性がある異物やヘイズ(Haze)の許容される大きさがどんどん厳しくなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5638693号公報
【文献】特開2016-18008号公報
【文献】特開2006-146085号公報
【文献】特開2008-21182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年使用されているマスク基板の膜は、デザインルールの微細化に対応するため位相シフト膜が一般的に採用されるようになってきている。しかし、位相シフト膜は非常にデリケートで、過度な条件でのマスク基板洗浄で位相シフト膜に腐食や削れなどのダメージを受けてしまう可能性があり、そのため近年マスク基板洗浄に使用する薬液を再検討したり、洗浄条件を弱くしたりする傾向がある。
【0009】
さらに、先端品のマスク基板ではこれまで主流だったポジタイプ(positive type)のマスクパターンからネガタイプ(negative type)のマスクパターンに推移してきており、これに伴いペリクルを貼り付けた部分に遮光層が無い状況が多々ある。遮光層が無いと、ペリクル粘着剤に露光光線がマスク基板越しに照射されてしまう可能性がある。そうすると、ペリクルを剥離した際にマスク基板上に粘着剤層の残渣がより多く残る恐れがある。
【0010】
ペリクルはマスク基板に貼り付けて使用される際、異物やヘイズが発生したり、ペリクル膜にダメージを受けたりした場合、該ペリクルを剥離してマスク基板を再生洗浄し、新しいペリクルに貼り換える必要がある(これを以後、「リペリクル」と呼ぶ)。リペリクルで最も重要になるのが、マスク基板を清浄度の高い状態になるように再生洗浄することであるが、近年の弱い洗浄条件でマスク基板の再生洗浄を実施するためには、ペリクルを剥離した際にマスク基板上に残る残渣をいかに少なくするかが重要である。
この再生洗浄は一般的に硫酸過水、アンモニア過水等の薬剤による洗浄や、ブラシ、スポンジ等の物理的な洗浄が使用されている。しかしながら、マスク基板へのダメージや硫酸イオンのマスク基板への残存を抑制するために、機能水による再生洗浄が検討されている。
【0011】
機能水とは、一般的に、人為的な処理によって再現性のある有用な機能を付与された水溶液の中で、処理と機能に関して科学的根拠が明らかにされたもの、及び明らかにされようとしているもの、と日本機能水学会により定義されている。具体的には、オゾン水、水素水、マイクロバブル水、ナノバブル水等のファインバブル水、電解水、超臨界水、亜臨界水などが挙げられ、マスク基板を洗浄するためにはオゾン水及び水素水が多く使用されている。また、少量のアンモニアを添加することにより洗浄力を向上させることができる。
【0012】
しかしながら、機能水は硫酸過水等の薬剤と比較して洗浄力が弱いため、ペリクル剥離後のマスク基板の再生洗浄では、ペリクルとマスク基板を固定していた粘着剤層の残渣が機能水洗浄だけでは除去しにくいという知見を本発明者らは得た。特に位相シフトフォトマスクでは位相シフト膜へのダメージが透過率や位相差の変化に繋がるため、機能水洗浄に加えて物理的な洗浄を追加することも困難である。
【0013】
また、ペリクルフレームの上端面にペリクル膜貼り付け用接着剤層を介してペリクル膜を張設し、他端面に粘着剤層を設けたリソグラフィ用ペリクルで、ArFエキシマレーザー(193nm)などの露光光線を用いてリソグラフィを行うと、ペリクルフレームの下端面に形成した粘着剤層が露光光線によって変質し、露光原版から剥離する際に、露光原版上に粘着剤層の変質した部分が剥離残渣となって多く残ることも問題である。
【0014】
これまでに残渣を低減する技術として、粘着剤中に表面改質剤等を添加するといった試み(前記特許文献1、前記特許文献2)がなされている。また、残渣を低減する技術として、凝集破断強度が20g/mm2以上である粘着剤層を有する大型ペリクル(前記特許文献3)、剥離強度と引張強度の比が、0.10以上で0.33以下であるペリクル用粘着剤を備えるペリクルが開示されている(前記特許文献4)。
【0015】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、露光後、特にArFを露光光源とした露光後の露光原版からペリクルを剥離した際に、該露光原版上にこびりつく残渣を少なくすることができるペリクル用粘着剤、粘着剤層付ペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版及び露光方法を提供することを目的とする。これにより、生産効率を向上させることができる半導体及び液晶表示板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の上記課題は、以下の手段によって解決された。
[1] (A)アルキル基の炭素数が4以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び(B)エーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステルを単量体成分とするアクリル系重合体を母材とするペリクル用粘着剤。
[2] さらに、単量体成分として、(C)カルボキシル基又はヒドロキシル基を有する不飽和モノマーを含む前記[1]記載のペリクル用粘着剤。
[3] 全単量体成分中、前記(A)成分の割合は20~59質量%である前記[1]又は[2]記載のペリクル用粘着剤。
[4] 全単量体成分中、前記(B)成分の割合は40~79質量%である前記[1]~[3]のいずれか記載のペリクル用粘着剤。
[5] 全単量体成分中、前記(C)成分の割合は1~15質量%である前記[2]~[4]のいずれか記載のペリクル用粘着剤。
[6] 前記(A)アルキル基の炭素数が4以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、アルキル基の炭素数が4の(メタ)アクリル酸アルキルエステルである前記[1]~[5]のいずれか記載のペリクル用粘着剤。
[7] 前記(B)エーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステルが、エチレンオキサイド基を有する(メタ)アクリル酸エステルである前記[1]~[6]のいずれか記載のペリクル用粘着剤。
[8] アルキル基の炭素数が4の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エチレンオキサイド基を有する(メタ)アクリル酸エステル、及び、(C)カルボキシル基又はヒドロキシル基を有する不飽和モノマーを単量体成分とするアクリル系重合体を母材とするペリクル用粘着剤。
[9] ArF用ペリクルの製造に用いられる前記[1]~[8]のいずれか記載のペリクル用粘着剤。
[10] ペリクルフレームと、該ペリクルフレームの一方の端面に設けられた前記[1]~[9]のいずれか記載のペリクル用粘着剤から得られる粘着剤層と、を有する粘着剤層付ペリクルフレーム。
[11] ペリクル膜と、該ペリクル膜が一方の端面に設けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面に設けられた前記[1]~[9]のいずれか記載のペリクル用粘着剤から得られる粘着剤層と、を有するペリクル。
[12] 露光原版に前記[11]記載のペリクルが装着されているペリクル付露光原版。
[13] 前記[12]記載のペリクル付露光原版を用いて露光することを特徴とする露光方法。
[14] 露光光源がArFである前記[13]記載の露光方法。
[15] 前記[12]記載のペリクル付露光原版を用いて露光する工程を備える半導体の製造方法。
[16] 露光光源がArFである前記[15]記載の半導体の製造方法。
[17] 前記[12]記載のペリクル付露光原版を用いて露光する工程を備える液晶表示板の製造方法。
[18] 露光光源がArFである前記[17]記載の液晶表示板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、露光後、特にArFを露光光源とした露光後の露光原版からペリクルを剥離した際、該露光原版上に残る該ペリクルの粘着剤層の剥離残渣を少なくすることができるペリクル用粘着剤、粘着剤層付ペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版及び露光方法を提供することができる。本発明のペリクル用粘着剤、粘着剤層付ペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版及び露光方法は、露光光線が露光原版越しに照射されても、該ペリクルを露光原版から剥離する際に粘着剤の剥離残渣が少ない状態で剥離することができる。その結果、ペリクルを剥離した露光原版の再生洗浄を良好に進行させることができ、さらには洗浄条件を緩和することが可能になるため、洗浄時の露光原版表面へのダメージ低減の点においても優位性がある。また、半導体及び液晶表示板の製造において生産効率を向上することができる。
本発明のペリクルは、粘着剤の母材として、特定のアクリル系重合体(アクリル樹脂ともいう)を用いたことにより、粘着剤内部の分子間力が向上し、かつ適正な粘着力を保つことができ、露光原版からの剥離時に大きな残渣はもとより、粒子状の残渣も減少したものと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明のペリクルを露光原版に装着したペリクル付露光原版の基本的構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のペリクルの基本的構成を、まず
図1を参照しながら説明する。
【0020】
図1に示したように、本発明のペリクル10は、ペリクルフレーム11の上端面にペリクル膜貼り付け用接着剤層13を介してペリクル膜12を張設したもので、この場合、ペリクル10を露光原版(マスク基板又はレチクル)1に粘着させるための粘着剤層14が通常ペリクルフレーム11の下端面に形成され、必要に応じて、該粘着剤層14の下端面に保護用ライナー(不図示)を剥離可能に貼着してなるものである。この保護用ライナーが存在する場合には、保護用ライナーを剥離した後にペリクル10を露光原版1に装着する。また、ペリクルフレーム11に気圧調整用穴(通気口)15が設置されていてもよく、さらにパーティクル除去の目的で除塵用フィルター16が設けられていてもよい。
【0021】
この場合、これらペリクル構成部材の大きさは、通常のペリクル、例えば半導体リソグラフィ用ペリクル、大型液晶表示板製造リソグラフィ工程用ペリクル等と同様であり、また、その材質も上述したような公知の材質とすることができる。
【0022】
ペリクル膜12の種類については特に制限はなく、例えば、従来エキシマレーザー用に使用されている、非晶質フッ素ポリマー等が用いられる。非晶質フッ素ポリマーの例としては、サイトップ(旭硝子社製商品名)、テフロン(登録商標)AF(デュポン社製商品名)等が挙げられる。これらのポリマーは、そのペリクル膜作製時に必要に応じて溶媒に溶解して使用してもよく、例えば、フッ素系溶媒などで適宜溶解することができる。
【0023】
ペリクルフレーム11の母材に関しては、例えば、従来使用されているアルミニウム合金材、好ましくは、JIS A7075、JIS A6061、JIS A5052材等のアルミニウム合金材が用いられるが、ペリクルフレームとしての強度が確保される限り特に制限はない。ペリクルフレーム表面は、サンドブラストや化学研磨によって粗化することが好ましく、粗化後にポリマー被膜を設けてもよい。本発明において、このフレーム表面の粗化の方法は、従来公知の方法を採用できる。アルミニウム合金材に対して、ステンレス、カーボランダム、ガラスビーズ等によって表面をブラスト処理し、さらにNaOH等によって化学研磨を行って表面を粗化する方法が好ましい。
【0024】
本発明者らは、本発明の前記課題を解決するために多くの考察と実験とを重ね、特に粘着剤層を形成する粘着剤の特徴に着目し、実験結果を比較分析したところ、以下の手段が有効であることを知見した。
【0025】
本発明のペリクル用粘着剤の第一の側面は、エーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステルを単量体成分とするアクリル系重合体を母材とすることである。アクリル系重合体の単量体成分としてエーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステルを含有させることで、露光原版からペリクルを剥離した際、該露光原版上に残る粘着剤層の剥離残渣を少なくすることができる。アクリル系重合体へのエーテル結合の導入により、アクリル系重合体の親水性の制御が容易になる。また、アクリル系重合体の側鎖にエーテル結合を導入したことにより、そのエーテル結合が主鎖の光劣化を抑制させていると推察される。
【0026】
また、本発明のペリクル用粘着剤の第二の側面は、(A)アルキル基の炭素数が4以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び(B)エーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステルを単量体成分とするアクリル系重合体を母材とすることである。これにより、粘着剤の柔らかさと千切れにくさのバランスを良好に保つことができる。その結果、ペリクルを露光原版から剥離する際に露光原版上に粘着剤の残渣が残りにくくなり、本発明の効果が得られるものと本発明者らは考える。
【0027】
なお、本発明において、「アクリル系重合体を母材とする粘着剤」とは、アクリル系重合体それ自体を含む粘着剤、又はアクリル系重合体と硬化剤等との反応生成物を含む粘着剤を意味する。
【0028】
本発明者らは、このような粘着剤から得られる粘着剤層を設けたペリクルでは、粘着剤層が露光光線による変質を抑制し、変質したとしても、マスク基板(露光原版)から剥離する際に剥離残渣を生じにくいことを見出した。
【0029】
本発明において、アクリル系重合体は、(A)アルキル基の炭素数が4以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び(B)エーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステルを単量体成分とする重合体であり、必要に応じて(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体成分を共重合することができる。
【0030】
アルキル基の炭素数が4以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステル((A)成分)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート等のプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート等のブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、粘着剤の柔らかさと千切れにくさのバランスの観点からアルキル基の炭素数が4であるブチル(メタ)アクリレートであることが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
エーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステル((B)成分)としては、例えば、エチレンオキサイド基、プロピレンオキサイド基、ブチレンオキサイド基等のアルキレンオキサイド基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。これらの中でもエチレンオキサイド基を有する(メタ)アクリル酸エステル(エチレンオキサイド基含有(メタ)アクリレートともいう)が好ましく、例えば、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のエトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
カルボキシル基又はヒドロキシル基を有する不飽和モノマー((C)成分)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸等のα,β-不飽和カルボン酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、必要に応じて、アルキル基の炭素数が5以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の他の単量体を単量体成分に含ませてもよく、例えば、アルキル基の炭素数が8である2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0033】
アクリル系重合体において、(A)成分が用いられる割合は、全単量体成分中、20~59質量%であることが好ましく、30~50質量%であることが特に好ましい。(A)成分の割合を前記範囲にすることにより粘着剤の柔らかさと千切れにくさのバランスと、剥離残渣の制御が容易となる。
【0034】
アクリル系重合体において、(B)成分が用いられる割合は、全単量体成分中、40~79質量%であることが好ましく、40~60質量%であることがより好ましい。(B)成分の割合を前記範囲にすることにより粘着性及び耐光性の制御容易となる。
【0035】
アクリル系重合体において、(C)成分が用いられる割合は、全単量体成分中、1~15質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。(C)成分の割合を前記範囲にすることにより剥離残渣及び硬化剤との反応による架橋度の制御が容易となる。
【0036】
アクリル系重合体は、例えば、溶液重合、塊状重合、乳化重合、ラジカル重合等の公知の製造方法を適宜選択して製造することができる。また、得られるアクリル系重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等いずれでもよい。
アクリル系重合体の分子量は、重量平均分子量として70万~250万の範囲内にあると、粘着剤層の凝集力、接着力が適度な大きさになり、糊残りしにくく、且つ、十分な接着力、耐荷重性を持つ粘着剤となり、好ましい。
【0037】
上記の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析によって測定される値であって、標準ポリスチレン換算値のことを意味する。GPC分析は、テトラヒドロフラン(THF)を溶解液として用いて行うことができる。
なお、本実施形態において、粘着剤層の粘着剤としては、アクリル系重合体と硬化剤との反応生成物を含むことが好ましいが、柔らかさを考慮して、硬化剤と反応させないアクリル系重合体を含んでもよい。
また、粘着剤に含有されるアクリル系重合体は2種以上の組合せであってもよい。その場合、少なくとも一種のアクリル系重合体の単量体成分が、(A)アルキル基の炭素数が4以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び(B)エーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステルを含有すればよい。
【0038】
硬化剤としては、通常の粘着剤として使用される硬化材であれば特に制限されないが、例えば、金属塩、金属アルコキシド、アルデヒド系化合物、非アミノ樹脂系アミノ化合物、尿素系化合物、イソシアネート系化合物、多官能性エポキシ化合物、金属キレート系化合物、メラミン系化合物、アジリジン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基又はヒドロキシル基との反応性の観点から、イソシアネート系化合物及びエポキシ化合物が好ましい。
【0039】
イソシアネート系化合物としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、これらの多量体、誘導体、重合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
エポキシ化合物としては、例えば、分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物が挙げられ、具体的には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジアミングリシジルアミン、N,N,N',N'-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1,3-ビス(N,N'-ジアミングリシジルアミノメチル)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
また、前記ペリクルの粘着剤層を形成する粘着剤には、目的に応じ、本発明の効果を利用できる範囲で、架橋剤、粘着付与剤、可塑剤、安定剤、粘度調節剤、帯電防止剤、滑剤、導電性付与剤、難燃性付与剤、熱伝導性向上剤、耐熱性向上剤、耐候性向上剤、チキソ性付与剤、酸化防止剤、抗菌剤、防カビ剤、着色剤などの他の成分を配合してもよい。
【0042】
粘着剤層14の形成手段としては、ペリクルフレーム11の下端面に未硬化状態の液状又はペースト状の粘着剤を塗布した後、硬化処理を行い、粘着剤層とする。粘着剤の塗布は1回でもよいし、所定の粘着剤層の厚さを得るために、数回重ねて塗布してもよい。この場合、塗布後の粘着剤の形状が安定するまで、それぞれの回の間に適宜静置することが好ましい。また、粘着剤の粘度が高くて塗布が困難な場合には、必要に応じて適宜、有機溶剤、水等によって希釈し、粘着剤の粘度を下げて塗布してもよい。なお、粘着剤の塗布は、例えば、ディップ、スプレー、刷毛塗り、ディスペンサー等による塗布装置などにて行うことができるが、ディスペンサーによる塗布装置を使用した塗布が、安定性、作業性、歩留り等の点から好ましい。
【0043】
ペリクル10の製作は、通常は、粘着剤層14の塗布・形成を先に行い、次に、ペリクル膜12の張設を行うが、順序を逆にしてもよい。ペリクル膜12の張設は、例えば、ペリクルフレーム11の上端面に接着剤を塗布し、その後ペリクルフレーム11の加熱を行い、接着剤を硬化させ、最後にペリクルフレーム11よりも大きなアルミニウム枠にとったペリクル膜にペリクルフレーム11のペリクル膜貼り付け用接着剤層13が形成された上端面を貼り付け、ペリクル膜のペリクルフレーム11よりも外側にはみ出した余分を除去してペリクルを完成させる。なお、ペリクル膜単独での取り扱いが難しい場合は、シリコン等の枠に支えられたペリクル膜を用いることができる。その場合、例えば、枠の領域とペリクルフレームを接着することにより、ペリクルを容易に製造することができる。
【0044】
以上説明した構成の本発明のペリクルを用いることで、露光後に露光原版からペリクルを剥離した際の粘着剤残渣量を低減することができる。したがって、本発明のペリクルは、前述したデリケートな位相シフト膜を有する位相シフトフォトマスクや、石英等の酸化ケイ素を主成分とする面に貼り付けられるペリクルとして有用である。
【0045】
また、ネガタイプの露光原版、粘着剤の貼り付け部分に遮光されていない領域又は半透明遮光領域を有する露光原版、粘着剤の貼り付け部分に透明領域を有する露光原版等の露光時に露光光線が粘着剤層に照射されるような露光原版に適用されるペリクルとしても有用である。このような露光原版に用いられるペリクルの粘着剤層は、露光原版のペリクルが設けられた面とは反対側の面から、露光原版を通して露光光線に晒される。
【0046】
本発明のペリクルは、露光装置内で、露光原版に異物が付着することを抑制するための保護部材としてだけでなく、露光原版の保管時や、露光原版の運搬時に露光原版を保護するための保護部材としてもよい。上記のペリクルをマスク基板等の露光原版に装着することでペリクル付露光原版を製造することができる。
【0047】
本実施形態に係る半導体又は液晶表示板の製造方法は、上記のペリクル付露光原版によって基板(半導体ウエハ又は液晶用原板)を露光する工程を備える。例えば、半導体又は液晶表示板の製造工程の一つであるリソグラフィ工程において、集積回路等に対応したフォトレジストパターンを基板上に形成するために、ステッパーに上記のペリクル付露光原版を設置して露光する。これにより、仮にリソグラフィ工程において異物がペリクル上に付着したとしても、フォトレジストが塗布されたウエハ上にこれらの異物は結像しないため、異物の像による集積回路等の短絡や断線等を防ぐことができる。よって、ペリクル付露光原版の使用により、リソグラフィ工程における歩留まりを向上させることができる。
【0048】
一般的に所望の回数のリソグラフィ工程を経た時、異物やヘイズが発生した時、ペリクル膜がダメージを受けた時に露光原版からペリクルを剥離して露光原版の再生洗浄を行う場合がある。本発明のペリクルを用いることにより、粘着剤層の剥離残渣が生じやすい酸化ケイ素を主成分とする面を有する露光原版や、従来よりも露光光線が粘着剤層に照射されるネガタイプの露光原版や、従来よりも露光光線が粘着剤層に照射される粘着剤の貼り付け部分に遮光されていない領域又は半透明遮光領域を有する露光原版や、従来よりも露光光線が粘着剤層に照射される粘着剤の貼り付け部分に透明領域を有する露光原版等の露光時に露光光線が粘着剤層に照射されるような露光原版であってもリペリクル時の剥離残渣を低減することができる。
また、本発明のペリクルを用いることにより、粘着剤層の剥離残渣が低減されることから機能水による洗浄が適用容易となり、位相シフトフォトマスクなどのデリケートな露光原版に対する洗浄性を向上することができる。また、機能水洗浄による環境負荷の低減に貢献できる。
【実施例】
【0049】
以下に、合成例、実施例及び比較例により具体的に本発明を例示して説明する。なお、実施例及び比較例における「マスク基板」は「露光原版」の例として記載したものであり、レチクルに対しても同様に適用できることはいうまでもない。
【0050】
(実施例1)
アルミニウム合金製のペリクルフレーム(外形サイズ149mm×115mm×3.5mm、肉厚2mm、粘着剤塗布端面側の平坦度:15um)を精密洗浄後、平坦度が15um側の端面に綜研化学社製のアクリル粘着剤(製品名:SKダイン SN-25B、エチレンオキサイド基含有(メタ)アクリレート及びブチルアクリレートを単量体成分として含み、単量体成分の約40質量%がエチレンオキサイド基含有(メタ)アクリレート、単量体成分の約40質量%がブチルアクリレートであるアクリル系重合体を母材として含む粘着剤)、を塗布し、60分間室温で静置した。その後、平坦度が5umのアルミ板上にセパレータを置き、粘着剤を塗布したペリクルフレームを粘着剤が下向きになるように置いた。これにより粘着剤は平坦なセパレータに接触して平坦加工された。
次に、アルミ板上のペリクルを60℃のオーブンに60分間入れて粘着剤を硬化させた。
そして、ペリクルフレームをアルミ板ごと取り出した後、セパレータを剥離した。
【0051】
その後、粘着剤が塗布された端面とは反対側の端面に旭硝子社製の接着剤(製品名:サイトップCTX-A)を塗布した。その後130℃でペリクルフレームの加熱を行い、接着剤を硬化させた。
最後に、上記ペリクルフレームよりも大きなアルミニウム枠にとったペリクル膜に上記ペリクルフレームの接着剤塗布端面側を貼り付け、ペリクルフレームよりも外側の部分を除去し、ペリクルを完成させた。
【0052】
次に、6025マスク基板(6インチ)と先ほど準備したペリクルを貼付装置にセットし、貼り付け荷重50N、荷重時間30秒間で加圧してペリクルをマスク基板に貼り付けた。
【0053】
ペリクルを貼り付けたマスク基板を24時間室温に放置した後、マスク基板裏面より、ペリクル粘着剤に光線が当たるように193nmの紫外線ランプを用いて紫外線を10mJ/cm2照射した。
紫外線照射後1時間室温で放置した後、ペリクルをマスク基板から0.1mm/秒のスピードで上方にゆっくり剥離した。
【0054】
剥離後のマスク基板を目視で観察したところ、ペリクルが貼り付いていた輪郭部分に粘着剤の溶質残渣と思われる薄い不透明な筋が僅かに見られる程度で、後述する比較例のものに比べ、マスク基板の表面は明らかに清浄であった。また、上記残渣は機能水(超純水に水素+アンモニアが添加されたもの)に超音波を併用した洗浄槽(機能水はオーバーフロー)に漬けて5分間で除去できた。
【0055】
(比較例1)
粘着剤として、綜研化学社製のアクリル粘着剤(製品名:SKダイン SK-1425S、ブチルアクリレートを単量体成分として含むが、エーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステルを単量体成分として含まないアクリル系重合体を母材として含む粘着剤)を使用した以外は実施例1と同じ方法と材料でペリクルを完成した。さらに実施例1と同様の条件でペリクルをマスク基板に貼り付け、かつ剥離した。
【0056】
剥離後のマスク基板を目視で観察したところ、ペリクルが貼り付いていた部分に薄い粘着剤の溶質残渣が見られた。剥離残渣の除去は実施例1と同様の設備を使って5分間の洗浄を2回行ったが完全に除去することが出来なかったため、前記洗浄前にポリビニルアルコールの発泡体で軽く擦る必要があった。
【0057】
(比較例2)
粘着剤として、綜研化学社製のアクリル粘着剤(製品名:SKダイン SK-1495S、エーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステル及びブチルアクリレートを単量体成分として含まないアクリル系重合体を母材として含む粘着剤)を使用した以外は実施例1と同じ方法と材料でペリクルを完成した。さらに実施例1と同様の条件でペリクルをマスク基板に貼り付け、かつ剥離した。
【0058】
剥離後のマスク基板を目視で観察したところ、ペリクルが貼り付いていた部分に薄い粘着剤の溶質残渣が見られた。剥離残渣の除去は比較例1と同様に機能水による超音波洗浄だけでは除去できず、前記洗浄前にポリビニルアルコール発泡体の擦り洗浄を併用することで除去できた。
【0059】
(合成例1)
撹拌機、還流冷却器、温度計及びガス吹き込み口が取り付けられた5L容フラスコに、ブチルアクリレート 350g、2-メトキシエチルアクリレート 550g、アクリル酸 40g、2-ヒドロキシエチルアクリレート 25g、酢酸エチル 1400g及び重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル 2gを仕込み、窒素ガス気流中、68℃で8時間溶液重合を行った。 反応終了後、これに酢酸エチル 830gを加え、固形分30質量%のアクリル系重合体の溶液を得た。得られたアクリル系重合体溶液にポリイソシアネートの溶液を添加し、撹拌混合して粘着剤を得た。
【0060】
(合成例2)
撹拌機、還流冷却器、温度計及びガス吹き込み口が取り付けられた5L容フラスコに、プロピルアクリレート 360g、2-エトキシエチルアクリレート 500g、アクリル酸 50g、酢酸エチル 1300g及び重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル 2gを仕込み、窒素ガス気流中、68℃で8時間溶液重合を行った。 反応終了後、これに酢酸エチル 1130gを加え、固形分30質量%のアクリル系重合体の溶液を得た。得られたアクリル系重合体溶液にポリイソシアネートの溶液を添加し、撹拌混合して粘着剤を得た。
【0061】
(実施例2及び3)
粘着剤として合成例1及び2で得られた粘着剤を各々使用した以外は実施例1と同様にしてペリクルを作製し、実施例1と同様に剥離試験を行った。その結果、いずれの粘着剤を使用したペリクルでも剥離残渣は少なく、洗浄除去性が良好であった。
【0062】
(アウトガス試験)
実施例1、比較例1及び比較例2において、粘着剤を硬化し、セパレータを剥離した状態のペリクルフレームを数本に切断した。切断したペリクルフレームをガラス瓶に入れ、ヘッドスペースサンプラー(パーキン エルマー ジャパン社製 Turbo Matrix HS)50℃30分間の条件でサンプリング、GC-MS装置(島津製作所社製 QP-5050A)、カラムHP-5(膜厚0.25μm 内径0.25mm 長さ30m)でGC-MS分析を行った。その結果、実施例1のアウトガス量は比較例1及び比較例2のアウトガス量よりも少なかった。
【0063】
また、実施例1及び比較例1で作製したペリクルをマスク基板に貼り付け、ArFエキシマレーザー照射中のアウトガス量を評価した。その結果、実施例1のアウトガス量は比較例1のアウトガス量よりも少なかった。
【0064】
(溶出イオン試験)
本発明のペリクル用粘着剤は原料由来の不純物を減らすことが比較的容易であり、その結果、粘着剤の溶出イオンの量を低減することが可能となる。
実施例1及び比較例2において、粘着剤を硬化したペリクルフレームを、セパレータを付けた状態で数本に切断した。切断したペリクルフレームをポリエチレン製容器に入れ純水100mlを加えて密栓し90℃で3時間浸漬した。次いで溶出成分を抽出した抽出水を、イオンクロマトグラフ分析装置(ダイオネックス社製2050i型)を用いて分析した。結果を表1及び表2に示す。表1及び表2の結果より、本発明のペリクル用粘着剤では溶出イオンの低減が達成できていることが確認できた。
【0065】
【0066】
【符号の説明】
【0067】
1 露光原版
10 ペリクル
11 ペリクルフレーム
12 ペリクル膜
13 ペリクル膜貼り付け用接着剤層
14 粘着剤層
15 気圧調整用穴(通気口)
16 除塵用フィルター