(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】クラッディング用組成物、及び金属/樹脂接合部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/16 20060101AFI20230904BHJP
B23K 26/342 20140101ALI20230904BHJP
【FI】
B29C65/16
B23K26/342
(21)【出願番号】P 2020513220
(86)(22)【出願日】2019-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2019014797
(87)【国際公開番号】W WO2019198591
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2018077976
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514173744
【氏名又は名称】輝創株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】細谷 守
(72)【発明者】
【氏名】岩井 武
(72)【発明者】
【氏名】藤本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】前田 知宏
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-087244(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0287165(US,A1)
【文献】特開2017-190521(JP,A)
【文献】特開2016-130003(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104962909(CN,A)
【文献】特開2016-172893(JP,A)
【文献】特開平09-082133(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064567(WO,A1)
【文献】特開2013-083003(JP,A)
【文献】特開2016-175389(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第01163766(GB,A)
【文献】中国特許出願公開第106676520(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104846368(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
B23K 26/342
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末と、バインダと、有機溶媒と
、カーボンの粉末とを含有する、
金属基材と樹脂部材を接合するためのクラッディング用組成物
であって、
前記金属粉末は、2種以上の金属を含み、かつ、少なくともチタンを含み、
金属粉末の含有量が、クラッディング用組成物の総量(100質量%)に対して50~70質量%であり、
前記バインダの含有量が、クラッディング用組成物の総量(100質量%)に対して0.000001~10質量%であり、
前記有機溶媒の含有量が、クラッディング用組成物の総量(100質量%)に対して25~70質量%であり、
カーボンの粉末の含有量が、クラッディング用組成物の総量(100質量%)に対して0.1~15質量%である、クラッディング用組成物。
【請求項2】
前記バインダと前記有機溶媒との混合液に、前記金属粉末が分散している、請求項1に記載のクラッディング用組成物。
【請求項3】
前記バインダは、セルロース化合物を含む、請求項1
又は2に記載のクラッディング用組成物。
【請求項4】
前記有機溶媒は、アルコールを含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載のクラッディング用組成物。
【請求項5】
金属基材と樹脂部材とが接合した金属/樹脂接合部材の製造方法であって、
前記金属基材の少なくとも一部に、請求項1~
4のいずれか一項に記載のクラッディング用組成物を塗布する工程(i)と、
前記金属基材における前記クラッディング用組成物の塗布部に、レーザを照射する工程(ii)と、
前記金属基材におけるレーザ照射部上に、前記樹脂部材を配置する工程(iii)と、
前記レーザ照射部と前記樹脂部材との界面を加熱して、前記金属基材と前記樹脂部材とを接合する工程(iv)と、
を有する、金属/樹脂接合部材の製造方法。
【請求項6】
前記工程(iv)において、前記レーザ照射部と前記樹脂部材との界面を、レーザを照射することにより加熱して、前記金属基材と前記樹脂部材とを接合する、請求項
5に記載の金属/樹脂接合部材の製造方法。
【請求項7】
前記金属粉末として、前記金属基材を構成する金属と同一の金属1種以上と、これ以外の金属との混合金属粉末を用いる、請求項
5又は
6に記載の金属/樹脂接合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッディング用組成物、及び金属/樹脂接合部材の製造方法に関する。本願は、2018年4月13日に日本に出願された、特願2018-077976号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の点から、自動車においては、二酸化炭素(CO2)排出量の削減が当然に要求されている。
これに対し、燃料であるガソリンの消費を抑えたハイブリッド車や電気自動車が生産されている。また、燃費の向上を図るため、車体の軽量化が注目され、より軽量で丈夫な新材料を車体に適用する検討が進んでいる。
【0003】
前記の新材料としては、異種の材料同士を接合したものが挙げられる。
異種の材料同士を接合する際、接着剤が一般に用いられる。しかしながら、接着剤の使用は、環境負荷が大きく、接着剤自体が経年劣化を生じ、また、接合強度の点でも問題となる。
【0004】
かかる問題を解決する技術として、接着剤を用いないで異種の材料同士を接合する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、金属基材の一方の面に、金属粉末を付着させ、レーザを照射して当該金属基材と合金化した重畳的微細粒子構造を形成し、当該重畳的微細粒子構造に樹脂部材を押圧し、その界面にレーザを照射して加熱することにより、金属基材と樹脂部材とを接合する接合方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の接合方法においては、金属基材に粉末状の金属を塗布することになるため、金属基材が傾斜面に配置されている場合、金属基材と樹脂部材とを安定に接合することが難しかった。また、接合を行う場所が振動するなど、粉末の使用に適さない環境では、従来、金属基材と樹脂部材との接合が難しいという問題もある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、接着剤を用いずに、金属基材と樹脂部材との接合強度がより高められた金属/樹脂接合部材の製造方法、及び金属基材と樹脂部材とを安定に接合できるクラッディング用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の第1の態様は、金属粉末と、バインダと、有機溶媒とを含有することを特徴とする、クラッディング用組成物である。
【0008】
本発明の第2の態様は、金属基材と樹脂部材とが接合した金属/樹脂接合部材の製造方法であって、前記金属基材の少なくとも一部に、本発明の第1の態様のクラッディング用組成物を塗布する工程と、前記金属基材における前記クラッディング用組成物の塗布部に、レーザを照射する工程と、前記金属基材におけるレーザ照射部上に、前記樹脂部材を配置する工程と、前記レーザ照射部と前記樹脂部材との界面を加熱して、前記金属基材と前記樹脂部材とを接合する工程と、を有することを特徴とする、金属/樹脂接合部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の金属/樹脂接合部材の製造方法によれば、接着剤を用いずに、金属基材と樹脂部材との接合強度がより高められた金属/樹脂接合部材を製造することができる。
また、本発明のクラッディング用組成物によれば、金属基材と樹脂部材とを安定に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例4のクラッディング用組成物を用いて形成されたビードの状態を示す光学顕微鏡像(5倍)である。
【
図2】比較例4のクラッディング用組成物を用いて形成されたビードの状態を示す光学顕微鏡像(5倍)である。
【
図3】比較例9のクラッディング用組成物を用いて形成されたビードの状態を示す光学顕微鏡像(5倍)である。
【
図4】比較例11のクラッディング用組成物を用いて形成されたビードの状態を示す光学顕微鏡像(5倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(クラッディング用組成物)
本実施形態のクラッディング用組成物は、金属粉末と、バインダと、有機溶媒とを含有する。
本発明における「クラッディング用組成物」とは、母材である金属基材面で溶融凝固してビード(合金の突起物)を形成する材料をいう。
【0012】
<金属粉末>
本実施形態における金属粉末を構成する金属としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、鉄、銅、チタン、シリコン、ステライト、バナジウム又はこれらの複数を合金化したものなどが挙げられる。
金属粉末は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の金属を組み合わせることで、ビード表面に多孔質構造が形成しやすくなり、例えば金属基材と樹脂部材との接合強度が高められやすくなる。
金属粉末は、チタンを含むものが好ましく、例えばチタンとアルミニウムとを含むものが好適に挙げられる。
【0013】
金属粉末の平均粒子径は、例えば10μm以上100μm以下程度である。
本発明における「粉末の平均粒子径」は、公知の粒度分布測定装置により測定される粉末の体積平均粒子径の値をいう。
【0014】
金属粉末の含有量は、クラッディング用組成物の総量(100質量%)に対して25~70質量%であることが好ましく、30~65質量%がより好ましく、40~60質量%がさらに好ましく、50~60質量%が特に好ましい。
金属粉末の含有量が、前記の好ましい範囲の下限値以上であれば、例えば金属基材と樹脂部材との接合強度がより高められやすくなり、一方、前記の好ましい範囲の上限値以下であれば、組成物として取り扱いやすくなる。
【0015】
<バインダ>
本実施形態におけるバインダは、クラッディング用組成物において、金属粉末の分散剤として作用し、また、粘度調整剤としても作用する。
前記バインダには、有機化合物を用いることもできるし、無機化合物を用いることもできる。
【0016】
前記バインダにおける有機化合物としては、例えば、セルロース化合物、ポリアクリル酸その他のアクリル化合物、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、エポキシ化合物等が挙げられる。
セルロース化合物として具体的には、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースが挙げられる。
【0017】
前記バインダにおける無機化合物としては、例えば粘土鉱物が挙げられる。粘土鉱物として具体的には、ベントナイト、スメクタイト、モンモリロナイトが挙げられる。
【0018】
バインダは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
バインダは、有機化合物が好ましく、この中でも組成物の粘度を調整しやすいことから、セルロース化合物を含むものがより好ましい。セルロース化合物としては、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
ヒドロキシプロピルセルロースの中でも、例えば金属基材と樹脂部材との接合強度が高められやすいことから、質量平均分子量(Mw)が100000~800000のものが好ましく、Mwが110000~700000のものがより好ましく、Mwが120000~650000のものがさらに好ましい。
また、バインダは、金属との接着性が強く、また、金属粉との分散性が良好なことから、ポリビニルアセタールを含むものが好ましく、その中でもポリビニルブチラールを含むものが特に好ましい。ポリビニルブチラールの中でも、例えば金属基材と樹脂部材との接合強度が高められやすいことから、Mwが10000~80000のものが好ましく、Mwが30000~80000のものがより好ましく、Mwが50000~70000のものがさらに好ましい。
【0019】
バインダの含有量は、クラッディング用組成物の総量(100質量%)に対して0.000001~10質量%であることが好ましく、0.00001~5質量%がより好ましい。
バインダとしてヒドロキシプロピルセルロースを用いる場合、ヒドロキシプロピルセルロースの含有量は、クラッディング用組成物の総量(100質量%)に対して0.00001~5質量%が好ましく、0.0001~2質量%がさらに好ましく、0.001~2質量%が特に好ましい。
バインダとしてポリビニルブチラールを用いる場合、ポリビニルブチラールの含有量は、クラッディング用組成物の総量(100質量%)に対して0.1~10質量%が好ましく、0.2~7質量%がさらに好ましく、0.5~5質量%が特に好ましい。
バインダの含有量が、前記の好ましい範囲の下限値以上であれば、例えば金属基材と樹脂部材との接合強度がより高められやすくなり、また、金属基材への当該組成物の塗布性がより向上する。一方、前記の好ましい範囲の上限値以下であれば、組成物として取り扱いやすくなる。
【0020】
<有機溶媒>
本実施形態における有機溶媒は、例えば、上記の金属粉末及びバインダの分散媒となるものが挙げられる。
かかる有機溶媒として具体的には、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ペンチルアルコール、s-ペンチルアルコール、t-ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、2-メチル-1-プロパノール、2-エチルブタノール、ネオペンチルアルコール、n-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、n-ヘキサノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、4-メチル-2-ペンタノール、1-ブトキシ-2-プロパノール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、5-メチル-1-ヘキサノール、6-メチル-2-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、3-オクタノール、4-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール等の鎖状構造のアルコール;シクロペンタンメタノール、1-シクロペンチルエタノール、シクロヘキサノール、シクロヘキサンメタノール、シクロヘキサンエタノール、1,2,3,6-テトラヒドロベンジルアルコール、exo-ノルボルネオール、2-メチルシクロヘキサノール、シクロヘプタノール、3,5-ジメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ターピオネール等の環状構造を有するアルコール;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチル-n-ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2-ヘプタノンなどのケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、またはジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類または前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテルまたはモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体[これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい];ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン等の芳香族系有機溶剤、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。
【0021】
有機溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機溶媒は、アルコールを含むものが好ましい。アルコールとしては、前記の鎖状構造のアルコール、多価アルコールが好ましく、具体的にはエタノール、グリセリンが挙げられる。
また、有機溶媒は、多価アルコール類の誘導体を含むものが好ましい。多価アルコール類の誘導体として、具体的にはPGMEA、PGMEが挙げられる。
【0022】
有機溶媒の含有量は、クラッディング用組成物の総量(100質量%)に対して25~70質量%であることが好ましく、30~60質量%がより好ましく、35~50質量%がさらに好ましい。
【0023】
<その他成分>
本実施形態のクラッディング用組成物は、上述した金属粉末、バインダ及び有機溶媒以外のその他成分をさらに含有してもよい。
その他成分としては、例えば、カーボンの粉末、界面活性剤等が挙げられる。
【0024】
本実施形態のクラッディング用組成物は、さらに、カーボンの粉末を含有することが好ましい。カーボンの粉末を併有することで、母材である金属基材面で溶融凝固してビードが容易に形成する。
カーボンの粉末の平均粒子径は、例えば10nm以上100μm以下程度である。
カーボンの粉末の含有量は、クラッディング用組成物の総量(100質量%)に対して0.1~15質量%であることが好ましく、0.5~10質量%がより好ましく、1~8質量%がさらに好ましい。
カーボンの粉末の含有量が、前記の好ましい範囲の下限値以上であれば、例えば金属基材と樹脂部材との接合強度がより高められやすくなり、一方、前記の好ましい範囲の上限値以下であれば、組成物の流動性がより良好となる。
【0025】
本実施形態のクラッディング用組成物中、前記のカーボンの粉末と、前記金属粉末との混合比率(質量比)は、金属粉末/カーボンの粉末=3~30が好ましく、4~20がより好ましく、5~15がさらに好ましい。
両者の混合比率(質量比)が、前記の好ましい範囲の下限値以上であれば、例えば金属基材と樹脂部材との接合強度がより高められやすくなり、一方、前記の好ましい範囲の上限値以下であれば、組成物の流動性がより良好となる。
【0026】
クラッディング用組成物の製造方法:
本実施形態のクラッディング用組成物は、例えば、バインダと有機溶媒との混合液を調製する工程、及び前記混合液と金属粉末とを混合する工程を有する製造方法により製造することができる。
【0027】
バインダと有機溶媒との混合液中、バインダ濃度は、当該混合液(100質量%)に対して0.00001~10質量%が好ましく、0.0001~5質量%がより好ましく、0.001~1質量%がさらに好ましい。
バインダ濃度が、前記の好ましい範囲の下限値以上であれば、金属基材への当該組成物の塗布性がより向上し、一方、前記の好ましい範囲の上限値以下であれば、組成物を適度な粘度に調整しやすくなる。
【0028】
前記混合液と前記金属粉末との混合比率(質量比)は、例えば、混合液/金属粉末=3/7~5/5程度である。
【0029】
前記混合液と金属粉末とを混合する際、予め、金属粉末とカーボンの粉末とを混合した混合粉末を配合してもよい。
【0030】
上述した実施形態のクラッディング用組成物は、好ましくは、前記バインダと前記有機溶媒との混合液に、前記金属粉末が分散している。
実施形態のクラッディング用組成物は、例えば、ペースト、スラリー、懸濁液などの形態が挙げられ、好ましくはペーストである。
ここでいう「ペースト」とは、流動性が有り、高い粘性を有する状態であり、粘度が1000cps(1Pa・s)以上20万cps(200Pa・s)以下の範囲内にあるものとする。ペーストの粘度は、E型粘度計を用いて25℃で測定される値を示す。
【0031】
(金属/樹脂接合部材の製造方法)
第1の実施形態の製造方法は、金属基材と樹脂部材とが接合した金属/樹脂接合部材を製造する方法であって、前記金属基材の少なくとも一部に、上述のクラッディング用組成物を塗布する工程(以下「工程(i)」という。)と、前記金属基材における前記クラッディング用組成物の塗布部に、レーザを照射する工程(以下「工程(ii)」という。)と、前記金属基材におけるレーザ照射部上に、前記樹脂部材を配置する工程(以下「工程(iii)」という。)と、前記レーザ照射部と前記樹脂部材との界面を加熱して、前記金属基材と前記樹脂部材とを接合する工程(以下「工程(iv)」という。)とを有する。
【0032】
本実施形態において、母材である金属基材としては、例えば、アルミニウム合金、アルミダイキャスト、ステンレススチール、SPCC(冷間圧延鋼板)等が挙げられる。
本実施形態において、樹脂部材としては、例えば、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6,6等)、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド等が挙げられる。
【0033】
[工程(i)]
工程(i)では、金属基材の少なくとも一部に、上述のクラッディング用組成物を塗布する。
クラッディング用組成物の塗布方法は、特に限定されず、例えば、スクリーン塗布、ディスペンサー、吹き付け等による方法が挙げられる。
金属基材に塗布されるクラッディング用組成物の塗布膜の厚さは、当該組成物の配合成分等に応じて適宜設定すればよく、例えば50~200μm程度である。
【0034】
[工程(ii)]
工程(ii)では、金属基材における前記クラッディング用組成物の塗布部に、レーザを照射する。
前記塗布部を照射するレーザとしては、金属粉末を加熱できるものであればよく、例えば、半導体レーザ、ファイバーレーザ、Nd:YAGレーザ、炭酸ガスレーザ等が挙げられる。
【0035】
前記塗布部にレーザが照射されて、金属粉末が溶融する。この溶融状態の金属は、金属基材と合金化し、金属基材面でビード(合金の突起物、いわゆる肉盛り部位)を形成する。また、レーザ照射による加熱で、バインダ等が焼失する。
【0036】
このビードは、金属基材と樹脂部材との接合強度の点から、大きさ(金属基材面に対する高さ)が1μm以上200μm以下であることが好ましい。また、このビードは、重畳的微細粒子構造を有している。
【0037】
本発明において、「重畳的微細粒子構造」とは、微細凹凸形状面に対し、さらに、微細凹凸形状の構造が重畳的に重なっている微細構造をいう。金属基材面に、重畳的微細粒子構造をもつビードが形成されることでアンカー効果を発揮する。
尚、当該重畳的微細粒子構造には、共晶、固溶体又は金属間化合物のいずれによる合金層を形成している場合も包含する。
【0038】
[工程(iii)]
工程(iii)では、前記金属基材におけるレーザ照射部上に、前記樹脂部材を配置する。
レーザ照射部上に樹脂部材を配置する方法としては、例えば、樹脂部材の材料である樹脂組成物をレーザ照射部上に塗布して成膜する方法、又は当該樹脂組成物の成形体をレーザ照射部上に配置する方法が挙げられる。
また、レーザ照射部上に樹脂部材を配置する際、前記樹脂部材を前記金属基材に当接し、かつ、押圧することが好ましい。
【0039】
前記金属基材に前記樹脂部材を押圧する際の押圧の程度は、一般的に、0.1~3MPaの圧力範囲で最適な条件を選択すればよい。これにより、両者の接合強度が充分に高められる。
【0040】
[工程(iv)]
工程(iv)では、前記レーザ照射部と前記樹脂部材との界面を加熱して、前記金属基材と前記樹脂部材とを接合することにより金属/樹脂接合部材を得る。
界面を加熱する方法は、特に限定されず、例えば、ヒータによる加熱、レーザ照射による加熱が挙げられる。
【0041】
金属基材面に形成された重畳的微細粒子構造を持つビードは、前記レーザの波長に対して透過性を有しない。このため、レーザ照射による加熱の場合、ビード面に照射された当該レーザは熱に変換される。変換された熱は、当接し押圧された樹脂部材面に伝搬し、樹脂部材を溶融する。溶融した樹脂部材は、前記重畳的微細粒子構造の内部に浸透し、その結果、金属基材と樹脂部材とが強固に接合する。
【0042】
また、レーザ照射による加熱の場合、樹脂部材側からレーザを照射する方法が一般的である。しかしながら、レーザが樹脂部材を透過しない場合であって、他方の金属基材が当該レーザを吸収する場合は、一般的な場合と逆に金属基材側からレーザを照射することで、金属の伝熱により金属基材と樹脂部材との界面を加熱することができる。
【0043】
上述した第1の実施形態の製造方法においては、金属粉末と共にバインダを含有するクラッディング用組成物を用いて重畳的微細粒子構造を持つビードが金属基材面に形成されている。このため、第1の実施形態の製造方法によれば、接着剤を用いずに、金属基材と樹脂部材との接合強度がより高められた金属/樹脂接合部材を製造することができる。
第1の実施形態の製造方法により製造される金属/樹脂接合部材についての接合強度は、例えば35~50MPaである。
【0044】
また、採用しているクラッディング用組成物は、金属粉末と共にバインダ及び有機溶媒を含有することで適度な粘性を発現するため、金属基材が傾斜面に配置されている場合であっても、接合予定部位に当該組成物を確実に塗布することができる。
【0045】
また、採用しているクラッディング用組成物は、金属粉末に比べて、より少ない使用量で、かつ、金属をより均一な状態で接合予定部位に、塗布することができる。このため、特にレーザ照射時のクラッディング用組成物の利用効率が高められている。
【0046】
また、採用しているクラッディング用組成物は、金属粉末に比べて、金属基材が幅広なサイズであっても、一様に塗布することができる。このため、当該組成物は、幅広なサイズの部材同士の接合に有用である。
【0047】
採用しているクラッディング用組成物においては、金属粉末と共にバインダを含有するため、適度な粗密の分布を有し、凹凸の大きいビードが形成されやすい。このため、接合強度をより高めることができると共に、金属基材と樹脂部材とを安定に接合することができる。
【0048】
<その他実施形態>
本発明に係るクラッディング用組成物、及び金属/樹脂接合部材の製造方法は、上述した実施形態に限定されず、例えば、第1の実施形態の製造方法において、クラッディング用組成物に用いる金属粉末として、前記金属基材を構成する金属と同一の金属1種以上と、これ以外の金属と、の混合金属粉末を用いることが好ましい。かかる混合金属粉末を含有するクラッディング用組成物を適用することで、金属粉末と金属基材との相溶性が高められる。このため、適度な粗密の分布を有するビードが金属基材面に形成されやすくなる。これによって、金属基材と樹脂部材とをより強固で安定に接合することができる。
【0049】
上述した実施形態の製造方法によれば、接着剤を用いずに、金属基材と樹脂部材とを、より強固に接合できる。したがって、本発明を適用した製造方法は、車体の軽量化を実現する新材料を製造するための方法として有用である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0051】
<クラッディング用組成物の調製>
(実施例1~24、比較例1~11)
表1~6に示す各成分を混合して、各例のクラッディング用組成物を調製した。各例のクラッディング用組成物の形態を併記した。
なお、実施例1~3及び10~12は、参考例である。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
表1~6中、各略号はそれぞれ以下の意味を有する。[ ]内の数値は、組成物中の含有量(組成物の総量(100質量%)に対する割合(質量%))である。
(M)-1:アルミニウム粉末、体積平均粒子径40μm
(M)-2:チタン粉末、体積平均粒子径45μm
【0059】
(B)-1:ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-M)Mw620000
(B)-2:ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L)Mw140000
(B)-3:ポリアクリル酸
(B)-4:ポリビニルブチラール、Mw38000
(B)-5:ベントナイト
(B)-6:ポリビニルブチラール、Mw60000
(B)-7:ポリビニルブチラール、Mw14000
【0060】
(S)-1:グリセリン
(S)-2:エタノール
(S)-3:プロピレングリコールモノメチルエーテル
(C)-1:カーボン粉末、体積平均粒子径40nm
【0061】
<評価>
以下に示す金属基材及び樹脂部材を用いて、金属/樹脂接合部材の製造を行った。
金属基材:縦5cm×横2cm×厚さ1mmのA5052アルミ板
樹脂部材:縦5cm×横2cm×厚さ1mmのナイロン66からなるシート
【0062】
[金属基材面へのビード(合金の突起物)形成試験]
工程(i):
金属基材である前記アルミ板に、上記の実施例4、比較例4、比較例9、比較例11のクラッディング用組成物をそれぞれ、厚さ100μmで幅方向1.2mm×長さ方向1.5cmのパターン状に塗布した。
【0063】
工程(ii):
次いで、前記アルミ板におけるクラッディング用組成物の塗布部に、レーザを照射して、前記アルミ板面にビード(合金の突起物)を形成した。
本実施例では、光学系を用いて直径1.2mmのスポットビームに整形した、波長970nmの半導体レーザを用いた。スポットビームの走査速度を20mm/sとした。スポットビームを幅16mmに渡って走査し、20mm2以上の領域を照射した。
【0064】
実施例4、比較例4、比較例9、比較例11のクラッディング用組成物をそれぞれ用いて形成したビードの状態を
図1~4に示した。
【0065】
図1は、実施例4のクラッディング用組成物を用いて形成されたビードの状態を示す光学顕微鏡像(5倍)である。
図2は、比較例4のクラッディング用組成物を用いて形成されたビードの状態を示す光学顕微鏡像(5倍)である。
図3は、比較例9のクラッディング用組成物を用いて形成されたビードの状態を示す光学顕微鏡像(5倍)である。
図4は、比較例11のクラッディング用組成物を用いて形成されたビードの状態を示す光学顕微鏡像(5倍)である。
【0066】
図1において、実施例4のクラッディング用組成物を用いた場合、金属粉末とカーボンの粉末との混合粉末の溶融凝固物が密集して突起物10を形成していることが確認できる。加えて、突起物10間には空隙12が存在し、空隙12と突起物10とが作る顕著な凹凸が金属基材面の全体に一様に存在していた。
【0067】
図2において、比較例4のクラッディング用組成物を用いた場合、金属粉末とカーボンの粉末との混合粉末の溶融凝固物が密集した突起物はほとんど認められず、突起物と空隙とが作る凹凸も認められなかった。
【0068】
図3において、比較例9のクラッディング用組成物を用いた場合、金属粉末とカーボンの粉末との混合粉末の溶融凝固物が密集した突起物30はわずかに認められるだけであり、突起物30と空隙32とが作る凹凸もほとんど認められなかった。
【0069】
図4において、比較例11のクラッディング用組成物を用いた場合、実施例4のクラッディング用組成物を用いた場合に比べて、金属粉末とカーボンの粉末との混合粉末の溶融凝固物が、より密集した大きな突起物40を形成していた。この突起物40は金属基材面に不均一に存在していた。
【0070】
[接合強度の評価]
工程(i):
金属基材である前記アルミ板に、上記の実施例6~17、実施例19~24及び比較例11の各クラッディング用組成物をそれぞれ、厚さ100μmで幅方向2mm×長さ方向1.5cmのパターン状に塗布した。
【0071】
工程(ii):
次いで、前記アルミ板におけるクラッディング用組成物の塗布部に、レーザを照射して、前記アルミ板面にビード(合金の突起物)を形成した。
ここでのレーザ照射は、光学系を用いて直径2mmのスポットビームに整形した、波長970nmの半導体レーザを用いた。スポットビームの走査速度を30mm/sとした。スポットビームを幅20mmに渡って走査し、40mm2以上の領域を照射した。
【0072】
工程(iii):
次いで、前記アルミ板面に形成されたビード上に、樹脂部材であるナイロン6,6からなるシートを配置して押圧した。押圧は、金属基材側から金属製の裏当てプレートにより裏当てし、樹脂部材をガラス板(テンパックス、厚さ5mm)で挟み込み、油圧ポンプにてその表示上で1.4MPaの圧力を加えた。
【0073】
工程(iv):
次いで、前記アルミ板面に形成されたビードと、前記のナイロン6,6からなるシートとの界面を、前記樹脂部材側から、スポット状に整形した半導体レーザのレーザスポットを照射して加熱し、アルミ板とナイロン6,6からなるシートとの接合部材を得た。
ここでのレーザスポットの照射条件は平均出力を150W、繰返し周波数を1000Hz、Dutyを50%、走査速度を10mm/sとした。
【0074】
得られたアルミ板とナイロン6,6からなるシートとの接合部材について、接合強度を、せん断引張強度試験を行うことにより測定した。その結果を表7~8に示した。
【0075】
【0076】
【0077】
表7~8の結果から、本発明を適用することにより、接着剤を用いずに、金属基材と樹脂部材との接合強度がより高められた金属/樹脂接合部材を製造できることが確認できた。
【0078】
実施例6と実施例19とは、有機溶媒が相違する。実施例19のクラッディング用組成物を用いた場合の方が、実施例6のクラッディング用組成物を用いた場合に比べて、接合強度がやや高いことが確認された。
実施例17と実施例20と実施例21とは、バインダとして用いたポリビニルブチラールのMwが相違する。ポリビニルブチラールのMwが大きいほど、接合強度が高くなる傾向があることが確認された。
【0079】
また、本発明のクラッディング用組成物によれば、接合強度をより高めることができると共に、金属基材と樹脂部材とを安定に接合することができる。
【符号の説明】
【0080】
10 突起物、12 空隙、30 突起物、32 空隙、40 突起物。