(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】試料像観察装置、及びその方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/22 20060101AFI20230904BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/28 B
(21)【出願番号】P 2022536021
(86)(22)【出願日】2020-07-14
(86)【国際出願番号】 JP2020027381
(87)【国際公開番号】W WO2022013945
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】今井 悠太
(72)【発明者】
【氏名】片根 純一
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-525408(JP,A)
【文献】特開2016-004785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料像観察装置であって、
試料の観察領域を複数の区画に分割し、前記区画内で疎な電子線を照射して取得した画像を、前記区画内の走査特性に基づき復元処理する、
ことを特徴とする試料像観察装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試料像観察装置であって、
走査電子顕微鏡(以下、SEM)と、前記SEMを制御する制御システムと、を備える、
ことを特徴とする試料像観察装置。
【請求項3】
請求項2に記載の試料像観察装置であって、
前記制御システムは、前記区画の大きさを、照射される前記電子線のドーズ量に基づき決定する、
ことを特徴とする試料像観察装置。
【請求項4】
請求項2に記載の試料像観察装置であって、
前記制御システムは、前記区画の大きさを、照射される前記電子線の焦点位置の空間的な分布に基づき決定する、
ことを特徴とする試料像観察装置。
【請求項5】
請求項2に記載の試料像観察装置であって、
前記制御システムは、前記区画の大きさを、照射される前記電子線の1画素あたりの滞在時間に基づき決定する、
ことを特徴とする試料像観察装置。
【請求項6】
SEMを使った試料像観察方法であって、
試料の観察領域を複数の区画に分割し、前記区画各々内で疎な電子線を照射して取得した画像を、前記区画各々内の走査特性に基づき復元処理する、
ことを特徴とする試料像観察方法。
【請求項7】
請求項6に記載の試料像観察方法であって、
前記区画の大きさを、照射する前記電子線の照射条件に基づき決定する、
ことを特徴とする試料像観察方法。
【請求項8】
請求項7に記載の試料像観察方法であって、
前記区画の大きさを、照射される前記電子線のドーズ量に基づき決定する、
ことを特徴とする試料像観察方法。
【請求項9】
請求項7に記載の試料像観察方法であって、
前記区画の大きさを、照射される前記電子線の焦点位置の空間的な分布に基づき決定する、
ことを特徴とする試料像観察方法。
【請求項10】
請求項7に記載の試料像観察方法であって、
前記区画の大きさを、照射される前記電子線の1画素あたりの滞在時間に基づき決定する、
ことを特徴とする試料像観察方法。
【請求項11】
請求項3、4、5の何れか一項に記載の試料像観察装置であって、
前記区画内に照射される前記電子線の照射位置および照射経路が、区画ごとに異なる、
ことを特徴とする試料像観察装置。
【請求項12】
請求項3、4、5の何れか一項に記載の試料像観察装置であって、
前記区画内に照射される前記電子線の照射位置および照射経路が、区画ごとに同一である、
ことを特徴とする試料像観察装置。
【請求項13】
請求項8、9、10の何れか一項に記載の試料像観察方法であって、
前記区画内に照射される前記電子線の照射位置および照射経路が、区画ごとに異なる、
ことを特徴とする試料像観察方法。
【請求項14】
請求項8、9、10の何れか一項に記載の試料像観察方法であって、
前記区画内に照射される前記電子線の照射位置および照射経路が、区画ごとに同一である、
ことを特徴とする試料像観察方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料像観察装置に係り、特に低ダメージ観察を実現する試料像観察技術に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡(SEM)において、低ダメージ観察を実現する方法の一つに、圧縮センシング(CS)を応用し、試料の限られた点のみに電子線照射して得られる疎サンプリング像から、計算機処理で元の情報を復元する手法がある。この手法においては、試料像を高精度・高スループットに復元するために、適切な疎サンプリングを実現する必要があった。このようなSEMにおける疎サンプリング手法として、スキャンコイルによる移動速度変調が利用できるが、ブランカやコイルの応答性によるビーム照射位置ずれのため、復元像の解像度低下、スキャンパターン起因アーチファクトが発生するという課題があった。
【0003】
このような試料像観察技術に関する先行技術文献としては、例えば、特許文献1があり、ライン上にランダムホッピングする疎サンプリング手法により、サンプリングを隣接ピクセルのみにすることで応答遅れの影響の緩和を図ることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の技術においては、サンプリングが1次元的に集約されるため、復元解像度低下や、アーチファクトが顕在化する可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、上述した試料像観察技術における課題を解決し、高精度、高スループットな復元が可能な疎サンプリングを実現する試料像観察装置、及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明においては、試料像観察装置であって、試料の観察領域を複数の区画に分割し、各区画内で疎な電子線を照射して取得した画像を、区画内の走査特性に基づき復元処理する構成の試料像観察装置を提供する。
【0008】
また、上記の目的を達成するため、本発明においては、走査電子顕微鏡を使った試料像観察方法であって、試料の観察領域を複数の区画に分割し、各区画内で疎な電子線を照射して取得した画像を、区画内の走査特性に基づき復元処理する試料像観察方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
スキャン応答起因のビーム照射位置ずれによる復元像質低下を防止し、試料ダメージを抑制した条件での高精度・高スループットな復元を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1に係る、試料像観察装置の一構成例を示す図。
【
図2】実施例1に係る、試料像観察装置の制御システムの要部を示す図。
【
図3】実施例1に係る、区画内の電子線照射経路の一例を示す図。
【
図4】実施例1に係る、区画内の電子線照射経路の他の例を示す図。
【
図5】実施例1に係る、試料像観察装置の試料観察フローの一例を示す図。
【
図6】実施例1に係る、試料像観察装置の疎サンプリングおよび復元処理フローの一例を示す図。
【
図7】実施例1に係る、試料像観察装置のスキャン設定画面例を示す図。
【
図8】実施例1に係る、試料像観察装置の像復元調整画面例を示す図。
【
図9】実施例1に係る、試料像観察装置の復元条件調整処理フローの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に従い、本発明を実施するための形態を説明する。
【実施例1】
【0012】
実施例1は、試料の観察領域を複数の区画に分割し、各区画内で疎な電子線を照射して取得した画像を、区画内の走査特性に基づき復元処理する構成の試料像観察装置の実施例である。
【0013】
図1に、実施例1に係る試料像観察装置の一構成例を示す。同図において、走査電子顕微鏡鏡体(SEMカラム)10の内部に設置された電子銃11からの1次電子線(プローブ電子線)は、コンデンサレンズ12、絞り13を通過し、スキャン偏向器14で偏向され、対物レンズ15を通過し、ステージ17上の試料18表面を走査する。試料18から発生した2次電子(信号電子)は検出器19で検出され、その検出信号は制御システム21に送られ、試料18の表面の画像が復元される。
【0014】
図2は実施例1に係る、試料像観察装置の制御システムの機能構成の要部を示す図である。この制御システムはパーソナルコンピュータ(PC)等で各種のプログラムを実行することで実現可能である。
【0015】
同図に示す通り、制御システム21は、バス240に接続された制御装置210、演算装置220、描画装置230などで構成される。制御装置210は、SEMの制御を行う、主制御部211、ビーム制御部212、スキャン制御部213、ステージ制御部214からなる。
【0016】
また、演算装置220は、1次電子線の経路を決定する経路決定部221、走査特性推定部222、復元像推定部223からなる。走査特性推定部222で各区画内の走査特性を推定し、復元像推定部223で、この走査特性を考慮した計算機処理により復元像を推定する。描画装置230は、復元像出力部231、スキャン像出力部232からなり、復元像推定部223が推定した復元像を使って、スキャン像を得、区画ごとの逐次描画を行う。スキャン像出力部232の出力は入出力端末20の表示部に送られる。
【0017】
なお、本実施例においては、上記の区画の大きさは、照射する電子線の照射条件に基づき決定する。すなわち、区画の大きさは、1次電子線のドーズ量に基づき決定する。あるいは、区画の大きさは、1次電子線の焦点位置であるサンプリング点の空間的な分布、すなわち、照射割合や照射密度に基づき決定する。あるいは、区画の大きさは、照射される1次電子線の1画素あたりの滞在時間、滞留時間(dwell time)に基づき決定する。よって、区画の大きさは、ドーズ量や照射割合や滞留時間等の照射条件を決めると、処理速度の観点から上限が、復元精度の観点から下限が決まることになる。
【0018】
区画の大きさの上限値は例えば、区画内のサンプリングに必要となる総時間と、区画内のサンプリングデータから画像復元するための処理時間との比較によって決定される。サンプリングの総時間よりも画像復元の処理時間が短くなるよう区画の大きさを決定することで、リアルタイム描画を実現することが可能となる。このとき画像復元のための処理時間には、区画内の照射経路決定および走査特性推定にかかる時間も含まれる。区画内に含まれるサンプリング点数が多いほど、照射経路決定および走査特性推定に必要な処理時間も増大する。
【0019】
区画の大きさの下限値は例えば、区画内のサンプリング点数の統計的なばらつきを考慮した閾値を設けて決定する。例えば閾値tとした時、照射割合pの照射条件の場合の区画の大きさは、区画内の全画素数Nが次式1を満たすように決定する。この時閾値tは1以上の値であり、例えば好適には10以上である。
【0020】
【0021】
SEMにおいて、疎サンプリング像からの復元を行う場合、サンプリング時の走査応答特性の取り扱いが必要となる。分割した区画ごとのサンプリング点、経路から走査特性関数を求め、復元時に重畳することで、高精度の復元を逐次描画可能なスループットで実現することが可能となる。走査特性推定部222と復元像推定部223では、例えばスキャン偏向器14のスキャンコイルの過渡応答を模擬したサンプリング行列で復元像を推定することにより、アーチファクトの低減を図ることができる。式2に過渡応答計算に利用した式の一例を示した。
【0022】
【0023】
図3、
図4に、試料の区画、すなわちブロック内の電子線照射経路の一例を示す。
図3、
図4に示す観察領域30、40は複数のブロック31、41で構成され、観察領域30、40の各ブロック31、41は、サンプリング経路33、43に沿ったサンプリング点32、42を順次スキャンされる。
【0024】
図3、
図4の場合、各ブロック31、41はそれぞれ一本のサンプリング経路33、43を持つ。そして、検出器19により検出された信号電子により、疎サンプリング像が形成される。これらのサンプリング点位置およびサンプリング経路は、各ブロック内で異なっていても同一であっても良い。
【0025】
図3では各ブロックでのサンプリング点位置およびサンプリング経路が異なる例を示している。すなわち、区画内に照射される電子線の照射位置および照射経路が、区画ごとに異なる。この場合、サンプリングのランダム性が向上し復元像質の向上が期待できる。
【0026】
図4では各ブロックでのサンプリング位置およびサンプリング経路を同一とした例を示している。すなわち、区画内に照射される電子線の照射位置および照射経路が、区画ごとに同一である。この場合、各ブロックでの走査特性は同一とみなせるため、走査特性を導出するための演算を一度のみにとすることができ、復元時の処理速度の向上につながる。
【0027】
図5に本実施例の試料像観察装置による試料観察フローの一例を示した。同図において、試料観察が開始されると(S501)、ステージ17に試料の設置(S502)と、照射条件の設定(S503)がなされる。そして、低ドーズ条件か否かのチェック(S504)により、低ドーズ条件の場合(YES)、疎な1次電子線照射がなされ(S505)、検出信号による画像復元処理が実行される(S506)。ここで、低ドーズ条件の場合は、密な場合に比較し、1~2割位の照射量となる。
【0028】
一方、低ドーズ条件で無い場合(NO)、密な1次電子線照射がなされ(S507)、視野探し(S508)、保存画像取得(S509)が繰り返され、全データ取得か否かをチェックし(S510)、全データ取得されると(YES)、1次電子線照射が停止され(S511)、試料の取り出し(S512)で、試料観察が終了する(S513)。
【0029】
図6に本実施例の疎サンプリングおよび復元処理フローの一例を示した。同図において、疎サンプリングおよび復元処理が開始されると(S601)、照射条件読み込み(S602)後、
図3、
図4で説明した観察領域30、40をブロック分割し(S603)、各ブロック31、41内に複数のサンプリング点32、42を配置し(S604)、各ブロックのサンプリング経路33、43を決定し(S605)、このサンプリング経路に基づき各ブロックの走査特性関数を演算する(S606)。その後、ブロックをサンプリングし(S607)、特性関数に基づき画像復元を行い(S608)、ブロックの復元像を表示し(S609)、観察領域全体をサンプリング完了か否かを判断し(S610)、サンプリング完了の場合(YES)、疎サンプリングおよび復元処理を終了し(S611)、サンプリング完了していない場合(NO)、次のブロックに移る(S612)。
【0030】
図7は本実施例における試料像観察装置のスキャン設定画面の一例を示す図である。同図に示すように入出力端末20の表示部に表示されるスキャン設定画面70を用いて、ユーザはスキャン方法として蜜なスキャンであるラスター、あるいは疎なスキャンであるスパースの何れかを選択できる。
【0031】
図8、
図9は本実施例における復元条件調整処理を説明するための図であり、
図8は像復元調整画面の一例を、
図9は復元条件調整処理フローの一例を示している。
【0032】
図8の像復元調整画面80においては、調整パラメータである照射電圧、プローブ電流、フレームレート、ドーズ量を設定可能である。また、像復元調整画面には、サンプリング像と復元像を表示することができる。更に、推奨するブロックサイズや復元係数を示す推奨領域81が示される。
【0033】
図9に示す復元条件調整処理フローにおいて、復元条件調整処理が開始されると(S901)、制御システム21に接続された入出力端末20の表示部に像復元調整画面80が表示され(S902)、調整が開始される(S903)。そして、画面を使ってユーザが選択したパラメータが適用され(S904)、疎サンプリング実行(S905)、復元処理実行(S906)がなされ復元結果が描画される(S907)。
【0034】
ユーザは、描画された復元像を見て復元処理パラメータ更新が必要か否かを判断し(S908)、不必要(NO)の場合、復元条件調整処理が終了し(S909)、必要(YES)の場合、パラメータが変更され(S910)、復元処理が再度実行される。なお、像復元調整画面80には、ユーザによる像復元調整のため、[Live]、[Auto]、[Reset]、[Apply]等の各種の機能ボタンが表示される。
【0035】
以上説明した本実施例の試料像観察装置、及び試料像観察方法によれば、試料ダメージを抑制した条件での高精度観察、分析が可能となる。
【0036】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0037】
更に、上述した各構成、機能、制御システム等は、それらの一部又は全部を実現するプログラムを作成する例を中心に説明したが、それらの一部又は全部を例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良いことは言うまでもない。すなわち、処理部の全部または一部の機能は、プログラムに代え、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路などにより実現してもよい。
【符号の説明】
【0038】
10 SEMカラム、11 電子源、12 コンデンサレンズ、13 絞り、14 スキャン偏向器、15 対物レンズ、16 試料室、17 ステージ、18 試料、19 検出器、20 入出力端末、21 制御システム、210 制御装置、220 演算装置、230 描画装置、240 バス、30、40 観察領域、31、41 ブロック、32、42 サンプリング点、33、43 サンプリング経路、70 スキャン設定画面、80 像復元調整画面、81 推奨領域